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特許7610328シートパッド補強布の製造方法及び製造装置並びに成形型
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】シートパッド補強布の製造方法及び製造装置並びに成形型
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/34 20060101AFI20241225BHJP
   B29C 43/36 20060101ALI20241225BHJP
   B29C 43/50 20060101ALI20241225BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241225BHJP
   A47C 27/16 20060101ALI20241225BHJP
   B60N 2/90 20180101ALI20241225BHJP
【FI】
B29C43/34
B29C43/36
B29C43/50
B33Y80/00
A47C27/16
B60N2/90
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2024520261
(86)(22)【出願日】2023-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2023005969
(87)【国際公開番号】W WO2023218722
(87)【国際公開日】2023-11-16
【審査請求日】2024-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2022078067
(32)【優先日】2022-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506356025
【氏名又は名称】株式会社型技術事務所モート
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】脇 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 英二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 太
(72)【発明者】
【氏名】岩沢 良
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-016036(JP,A)
【文献】特開2007-001298(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108638924(CN,A)
【文献】特開2006-281768(JP,A)
【文献】特開2016-132202(JP,A)
【文献】特開2005-288785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 27/16
B29C 43/00 - 43/58
B33Y 80/00
B60N 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートのシートパッド補強布の製造方法であり、
前記シートパッド補強布を成形する成形型に、前記成形型にジャストフィットする形状に設計されたシートパッド補強布素材を被せる工程と、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材のシート上部稜線部の上端部を、上端部加熱押圧成形デバイスで上方から加熱押圧成形し、前記シートパッド補強布素材の前記上方からの加熱押圧成形箇所の後部周辺に皺を発生させる上端部加熱押圧成形工程と、
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材のシート上部稜線部のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイスで押圧成形されなかった後部を後部加熱押圧成形デバイスにより、前記上端部加熱押圧成形工程によって発生した皺ごと加熱押圧成形する後部加熱押圧成形工程と、
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材のシート上部稜線部のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイスで加熱押圧成形されなかった前部を前部加熱押圧成形デバイスにより、加熱押圧成形する前部加熱押圧成形工程と、
を有するシートパッド補強布のシート上部稜線部の成形工程を含み、
前記成形型が、3Dプリンタで造形され、異材樹脂によるハイブリッドな型構造の樹脂製成形型であり、
前記異材樹脂が、耐熱性樹脂及び非耐熱性樹脂であり、
前記成形型のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイス、前記後部加熱押圧成形デバイス及び前記前部加熱押圧成形デバイスにより熱が掛かる部分は、前記耐熱性樹脂で構成され、前記上端部加熱押圧成形デバイス、前記後部加熱押圧成形デバイス及び前記前部加熱押圧成形デバイスにより熱が掛からない部分は、前記非耐熱性樹脂で構成されてなる、
シートパッド補強布の製造方法。
【請求項2】
前記シート上部稜線部の成形工程の後、
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の一側面を加熱押圧成形する工程と、
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の他側面を加熱押圧成形する工程と、
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材を、脱型機構により自動で脱型する工程と、
を含む、請求項1記載のシートパッド補強布の製造方法。
【請求項3】
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の一側面及び/又は他側面を加熱押圧成形する工程が、前記成形型のエアバッグ部に被せられたシートパッド補強布素材の一側面及び/又は他側面を挟み込んで加熱押圧成形する挟み込み加熱押圧成形である、請求項2記載のシートパッド補強布の製造方法。
【請求項4】
前記脱型機構により自動で脱型する工程の前に、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の一側面又は他側面の一部に、前記一側面又は他側面の稜線に合わせて切り込み線を入れる切り込み線形成工程を含む、請求項2記載のシートパッド補強布の製造方法。
【請求項5】
車両用シートのシートパッド補強布の製造装置であり、
前記シートパッド補強布を成形するため、成形型にジャストフィットする形状に設計されたシートパッド補強布素材が被せられる成形型と、
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材のシート上部稜線部のうち、前記成形型の上端部を、上方から加熱押圧成形し、前記シートパッド補強布素材の前記上方からの加熱押圧成形箇所の後部周辺に皺を発生させる上端部加熱押圧成形デバイスと、
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材のシート上部稜線部のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイスで押圧成形されなかった後部を前記上端部加熱押圧成形デバイスによる押圧成形で発生した皺ごと押圧成形する後部加熱押圧成形デバイスと、
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材のシート上部稜線部のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイスで加熱押圧成形されなかった前部を加熱押圧成形する前部加熱押圧成形デバイスと、
を含み、
前記成形型が、3Dプリンタで造形され、異材樹脂によるハイブリッドな型構造の樹脂製成形型であり、
前記異材樹脂が、耐熱性樹脂及び非耐熱性樹脂であり、
前記成形型のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイス、前記後部加熱押圧成形デバイス及び前記前部加熱押圧成形デバイスにより熱が掛かる部分は、前記耐熱性樹脂で構成され、
前記上端部加熱押圧成形デバイス、前記後部加熱押圧成形デバイス及び前記前部加熱押圧成形デバイスにより熱が掛からない部分は、前記非耐熱性樹脂で構成されてなる、
シートパッド補強布の製造装置。
【請求項6】
前記上端部加熱押圧成形デバイスの加熱押圧部の形状が前記成形型の上端部の形状、前記後部加熱押圧成形デバイスの加熱押圧部の形状が前記成形型の後部の形状、及び前記前部加熱押圧成形デバイスの加熱押圧部の形状が前記成形型の前部の形状、のそれぞれに沿った押圧部の形状を有する、請求項5記載のシートパッド補強布の製造装置。
【請求項7】
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材のシート上部稜線部が、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の半分よりも上側に存在する、請求項5記載のシートパッド補強布の製造装置。
【請求項8】
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の一側面を加熱押圧成形する一側面加熱押圧成形デバイスと、
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の他側面を加熱押圧成形する他側面加熱押圧成形デバイスと、
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材を自動で脱型する脱型機構と、
をさらに含む、請求項5記載のシートパッド補強布の製造装置。
【請求項9】
前記一側面加熱押圧成形デバイス及び/又は他側面加熱押圧成形デバイスが、前記成形型のエアバッグ部に被せられたシートパッド補強布素材の一側面及び/又は他側面を挟み込んで加熱押圧成形する挟み込み加熱押圧成形デバイスである、請求項8記載のシートパッド補強布の製造装置。
【請求項10】
前記脱型機構が、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材をピックアンドプレースする機構を備える、請求項8記載のシートパッド補強布の製造装置。
【請求項11】
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の一側面又は他側面の一部に、前記一側面又は他側面の稜線に合わせて切り込み線を入れる切り込み線形成デバイスをさらに含む、請求項8記載のシートパッド補強布の製造装置。
【請求項12】
前記切り込み線形成デバイスが、COレーザーマーカーである、請求項11記載のシートパッド補強布の製造装置。
【請求項13】
請求項5~12いずれか1項記載のシートパッド補強布の製造装置に用いられる成形型であり、
3Dプリンタで造形され、異材樹脂によるハイブリッドな型構造の樹脂製の中空状型本体と、前記中空状型本体に設けられた吸引口と、前記中空状型本体に設けられたピック用掛かり止めと、
を含み、
前記異材樹脂が、耐熱性樹脂及び非耐熱性樹脂であり、
前記成形型のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイス、前記後部加熱押圧成形デバイス及び前記前部加熱押圧成形デバイスにより熱が掛かる部分は、前記耐熱性樹脂で構成され、前記上端部加熱押圧成形デバイス、前記後部加熱押圧成形デバイス及び前記前部加熱押圧成形デバイスにより熱が掛からない部分は、前記非耐熱性樹脂で構成されてなる、
前記成形型にジャストフィットする形状に設計されたシートパッド補強布素材が被せられる、成形型。
【請求項15】
前記シートパッド補強布素材を被せる工程の後、
前記シートパッド補強布素材を磁石によって前記成形型に固定する工程を含む、請求項1記載のシートパッド補強布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートのウレタンシートパッドに用いられるシートパッド補強布の製造方法及び製造装置並びに成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートである自動車シートに用いられるウレタンシートパッドを図23及び図24に示す。図23及び図24に示される如く、自動車シートのシートバック部(背もたれ部)100には、ウレタンシートパッド102が用いられている。このウレタンシートパッドには、シートパッド補強布(不織布バネ受け材とも呼ばれる)104がその裏面に付着せしめられている。このシートパッド補強布104は、図25に示すような形状を有するシートパッド補強布素材105を成形又は立体縫製することで作製される。
【0003】
このウレタンシートパッド102は、図26図23のA‐A線の縦断面方向)及び図27図24のB‐B線の一部横断面方向)に示すように、専用の発泡型106(下型),108(中型),110(上型)が型開き状態のときにシートパッド補強布104を取付セットし、ウレタン原液112を注入し、その後、型閉じされ型内でフォーミング(発泡成長、樹脂固化)し、型加熱され、一定時間経過後に型開き、離型されて、製造される。符号113は、発泡成長の過程で発生した二酸化炭素である。
【0004】
昨今、自動車シートも安全性、快適性の高まりから、エアバッグ内蔵、センシング機器の搭載など高機能化が進み、自ずとウレタンシートパッドの形状の複雑化(肉薄化、袋状形状等)が急速に始まり、それに伴い成形難易度も高くなってきた。
【0005】
多くの場合、ウレタンシートパッド102のウレタン発泡成形時には、成形時の補強目的(薄い部分の保護)や、発泡成形時に発生する発泡型内発生ガスの吸収、且つその発泡型内発生ガスを前記発泡型外へと放出する目的で、図26及び図27に示されるような繊維系不織布のシートパッド補強布104がインサート成形されている。図26に示すように、発泡型内発生ガスGは、専用の発泡型106(下型),108(中型),110(上型)の間の狭い隙間を通って前記発泡型外へと放出されるので、ウレタン原液112が均一にフォーミングしないと発泡型内発生ガスGが前記発泡型外へと放出されずに残存してしまい、ウレタンシートパッド102の製品不良の原因となる。なお、図27における矢印はウレタン原液112のフォーミングの成長方向を示している。
【0006】
自動車シートの製品形状の複雑化と同時に、このシートパッド補強布への要求も高度化し、高い品質が求められてきた。
【0007】
近年では、前記ウレタンシートパッド102は、その構造上、図28図23のA‐A線の縦断面方向)及び図29図24のB‐B線の横断面方向)に示すように、特に、座る人の頭部付近やエアバッグが収納されている部分などを含め、シートのおよそ上半分に位置するシート上部稜線部に特に肉薄の部分Pが存在する。この肉薄の部分Pの厚さは、略10mmである。このため、図26及び図27に示す前記発泡型内で前記頭部付近やエアバッグが収納されている部分などを含めた、特にシートの上半分に位置するシート上部稜線部などが前記発泡型106,108,110内で綺麗に均一に発泡しないと、ウレタンシートパッド102全体として均一な仕上がりのウレタンシートパッドが出来ないという製造上の難しさがある。
【0008】
そして、前記シートパッド補強布104を前記発泡型106,108,110にセットして前記ウレタン発泡材料を発泡させるため、前記ウレタン発泡材料が隅から隅まで綺麗に均一に発泡するためには、バリや皺が存在しない、前記発泡型に精度よく取り付けられるシートパッド補強布を前記発泡型に取付セットする必要がある。そのためには、バリや皺が存在せず、そして前記発泡型に精度よくフィットする精度のよいシートパッド補強布が求められていた。
【0009】
従来、シートパッド補強布の製造にあたっては、主に、以下のような方法があった。
【0010】
第一の方法としては、補強布素材を必要部材毎に裁断し、裁断された各部材をミシン等で立体縫製することで、シートパッド補強布を製造する方法がある。この方法では、縫製の工程は全て手作り作業(ミシン縫製作業)であるため、品質にバラつきが出てしまい、コストにも課題が多い。特に、単純な縫製では、精度が悪くなり、顧客先の発泡型にフィットせず、自ずと縫製のやり直しも多くなり、生産準備期間が増加し、結果的に複雑な形の立体縫製となり、コスト高になっている。
【0011】
第二の方法としては、コールドプレス成形と呼ばれる方法であり、雄雌の成形型を用意し、予め予備加熱された素材を、冷温プレスして型付け成形して、シートパッド補強布を製造する方法がある。このような方法の場合、金型による成形のため、形状品質については改善されているが、プレス式な金型となるため、型製作納期(生産準備期間)や複雑形状に課題がある。また、プレス成形時には、耳と呼ばれるバリのカットが必要であり、ハサミを使った人力による仕上げ作業や、もしくは専用のバリ抜き型(カッティングするための治具)などによる機械切断加工が必要となる。そのため、人力による仕上げ作業やバリ抜き型を作成したりするのにも時間がかかるため、生産準備期間が長くなってしまい、期間短縮を阻害する要因となっていた。
また、近年、難しい形状の袋状形状を成形するためには特殊な型構造の型が必要となり、さらに生産準備が長くなるという問題もあった。
【0012】
第三の方法としては、特許文献1に示される、通気孔を備えた専用成形型(一般的にはアルミ鋳造型)を用意し、略同一の外形を有する粗断ちされた不織布シートを、その専用成形型に固定し、固定された不織布シートを、別途用意するカバー材(袋状)によって覆い、カバー袋内を加熱溶融した後、吸引し、保型して、型の外形に沿った形状に不織布シートを立体成形して、シートパッド補強布を製造する方法がある。
【0013】
上記した第三の方法では、成形後のシートパッド補強布の形状品質はほぼ満足レベルにある。但し、シートパッド補強布の素材となる被せた不織布シートは、成形時の熱で収縮発生があり、形状精度は満足するが、次に重要とされる製品端末位置(精度)が安定せず、そのために大きめの形状の素材としての不織布シートを用意する必要がある。しかし、そうすることで、所望する形状端末部は、素材がはみ出してしまう箇所が発生し、結局、出てしまったバリ(耳部とも呼ばれる)は、後工程でハサミによる人力による仕上げ加工が必要であり、製造コストの押上げ要因となっていた。
【0014】
また、成形の際の素材としての不織布シートの加熱溶融工程、その後の吸引工程には、それぞれ熱源とするボイラーや吸引のための真空ポンプ等、大掛かりな動力装置を必要としており、高いエネルギーコストが必要であった。それらは工数増、製造原価高という負のコスト要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特許第4503538号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたもので、ウレタンシートパッドの最薄肉部にも均一にウレタンフォームが成長し、シートパッド補強布が複雑な形状であっても、大きめの素材を準備する必要が無く、成形後のバリ取り作業が不要となり、人的作業を極力排すことができるようにした、シートパッド補強布の製造方法及び製造装置並びに成形型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明のシートパッド補強布の製造方法は、車両用シートのシートパッド補強布の製造方法であり、前記シートパッド補強布を成形する成形型に、シートパッド補強布素材を被せる工程と、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材のシート上部稜線部の上端部を、上端部加熱押圧成形デバイスで上方から加熱押圧成形し、前記シートパッド補強布素材の前記上方からの加熱押圧成形箇所の後部周辺に皺を発生させる上端部加熱押圧成形工程と、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材のシート上部稜線部のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイスで押圧成形されなかった後部を後部加熱押圧成形デバイスにより、前記上端部加熱押圧成形工程によって発生した皺ごと加熱押圧成形する後部加熱押圧成形工程と、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材のシート上部稜線部のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイスで加熱押圧成形されなかった前部を前部加熱押圧成形デバイスにより、加熱押圧成形する前部加熱押圧成形工程と、を有するシートパッド補強布のシート上部稜線部の成形工程を含む、シートパッド補強布の製造方法である。
【0018】
前記シート上部稜線部の成形工程の後、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の一側面を加熱押圧成形する工程と、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の他側面を加熱押圧成形する工程と、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材を、脱型機構により自動で脱型する工程と、を含むのが好適である。
【0019】
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の一側面及び/又は他側面を加熱押圧成形する工程が、前記成形型のエアバッグ部に被せられたシートパッド補強布素材の一側面及び/又は他側面を挟み込んで加熱押圧成形する挟み込み加熱押圧成形であるのが好適である。
【0020】
前記脱型機構により自動で脱型する工程の前に、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の一側面又は他側面の一部に、前記一側面又は他側面の稜線に合わせて切り込み線を入れる切り込み線形成工程を含む、のが好適である。
【0021】
本発明のシートパッド補強布の製造装置は、車両用シートのシートパッド補強布の製造装置であり、前記シートパッド補強布を成形するため、シートパッド補強布素材が被せられる成形型と、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材のシート上部稜線部のうち、前記成形型の上端部を、上方から加熱押圧成形し、前記シートパッド補強布素材の前記上方からの加熱押圧成形箇所の後部周辺に皺を発生させる上端部加熱押圧成形デバイスと、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材のシート上部稜線部のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイスで押圧成形されなかった後部を前記上端部加熱押圧成形デバイスによる押圧成形で発生した皺ごと押圧成形する後部加熱押圧成形デバイスと、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材のシート上部稜線部のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイスで加熱押圧成形されなかった前部を加熱押圧成形する前部加熱押圧成形デバイスと、を含む、シートパッド補強布の製造装置である。
【0022】
前記上端部加熱押圧成形デバイスの加熱押圧部の形状が前記成形型の上端部の形状、前記後部加熱押圧成形デバイスの加熱押圧部の形状が前記成形型の後部の形状、及び前記前部加熱押圧成形デバイスの加熱押圧部の形状が前記成形型の前部の形状、のそれぞれに沿った押圧部の形状を有する、のが好適である。
【0023】
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材のシート上部稜線部が、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の半分よりも上側に存在するのが好適である。
【0024】
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の一側面を加熱押圧成形する一側面加熱押圧成形デバイスと、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の他側面を加熱押圧成形する他側面加熱押圧成形デバイスと、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材を自動で脱型する脱型機構と、をさらに含むのが好適である。
【0025】
前記一側面加熱押圧成形デバイス及び/又は他側面加熱押圧成形デバイスが、前記成形型のエアバッグ部に被せられたシートパッド補強布素材の一側面及び/又は他側面を挟み込んで加熱押圧成形する挟み込み加熱押圧成形デバイスであるのが好適である。
【0026】
前記脱型機構が、前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材をピックアンドプレースする機構を備えるのが好適である。
【0027】
前記成形型に被せられたシートパッド補強布素材の一側面又は他側面の一部に、前記一側面又は他側面の稜線に合わせて切り込み線を入れる切り込み線形成デバイスをさらに含む、のが好適である。
【0028】
前記切り込み線形成デバイスが、COレーザーマーカーであるのが好適である。
【0029】
本発明の成形型は、前記シートパッド補強布の製造装置に用いられる成形型であり、3Dプリンタで造形された樹脂製の中空状型本体と、前記中空状型本体に設けられた吸引口と、前記中空状型本体に設けられたピック用掛かり止めと、を含む、成形型である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、ウレタンシートパッドの最薄肉部にも均一にウレタンフォームが成長し、シートパッド補強布が複雑な形状であっても、大きめの素材を準備する必要が無く、成形後のバリ取り作業が不要となり、人的作業を極力排すことができるようにした、シートパッド補強布の製造方法及び製造装置並びに成形型を提供することができるという著大な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明のシートパッド補強布の製造装置の一つの実施の形態を示す全体図である。
図2】シート上部稜線部を成形する前の状態を示す図1の要部拡大図である。
図3図2の状態を模式的に示す模式図である。
図4図3の状態からシートパッド補強布素材を被せた状態を示す模式図である。
図5】上端部加熱押圧成形デバイスで上方から加熱押圧成形している状態を示す要部拡大図である。
図6図5の状態を模式的に示す模式図である。
図7図6の拡大模式図である。
図8】後部加熱押圧成形デバイスで後部を加熱押圧成形している状態を示す要部拡大図である。
図9図8の状態を模式的に示す模式図である。
図10】前部加熱押圧成形デバイスで前部を加熱押圧成形している状態を示す要部拡大図である。
図11図10の状態を模式的に示す模式図である。
図12】後部加熱押圧成形デバイスで後部を加熱押圧成形した後に、上端部加熱押圧成形デバイスで上方から加熱押圧成形している状態を示す比較模式図である。
図13】一側面加熱押圧成形デバイスで一側面を加熱押圧成形している状態を示す要部拡大図である。
図14】挟み込み加熱押圧成形デバイス一側面加熱押圧成形デバイスで他側面を挟み込んで加熱押圧成形している状態であって、他側面の外側を加熱押圧成形している状態を示す要部拡大図である。
図15】挟み込み加熱押圧成形デバイス一側面加熱押圧成形デバイスで他側面を挟み込んで加熱押圧成形している状態であって、他側面の内側を加熱押圧成形している状態を示す要部拡大図である。
図16】切り込み線形成デバイスを設けた実施の形態を示す要部拡大図である。
図17】切り込み線が入ったウレタンシートパッドを示す要部拡大図である。
図18】切り込み線が入ったウレタンシートパッドを示し、(a)が横断面図、(b)が(a)の要部拡大図である。
図19】成形後に脱型機構によりシートパッド補強布素材を成形型から剥がす様子を示す要部拡大図である。
図20】成形後に脱型機構によりシートパッド補強布素材を成形型からピックアッププレースする様子を示す要部拡大図である。
図21図19の成形型から剥がす様子を別の角度からみた要部拡大図である。
図22】成形後に脱型機構によりシートパッド補強布素材を成形型からピックアッププレースする様子を模式的に示す要部拡大図である。
図23】自動車シートに用いられるウレタンシートパッドを正面からみた斜視図である。
図24】自動車シートに用いられるウレタンシートパッドを裏面からみた斜視図である。
図25】シートパッド補強布素材の形状の一例を示す図である。
図26】ウレタンシートパッドが専用型でウレタン発泡成形される様子を示す縦断面図である。
図27】ウレタンシートパッドが専用型でウレタン発泡成形される様子を示す横断面の一部拡大図である。
図28】ウレタンシートパッドの縦断面図である。
図29】ウレタンシートパッドの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これら実施の形態は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。図示において、同一部材は同一符号であらわされる。
【0033】
図1図22において、符号10は、本発明のシートパッド補強布の製造装置である。シートパッド補強布の製造装置10は、車両用シートのシートパッド補強布104の製造装置であり、前記シートパッド補強布104を成形するため、シートパッド補強布素材12が被せられる成形型14と、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12のシート上部稜線部16のうち、前記成形型14の上端部18を、上方から加熱押圧成形し、前記シートパッド補強布素材12の前記上方からの加熱押圧成形箇所の後部周辺に皺19を発生させる上端部加熱押圧成形デバイス20と、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12のシート上部稜線部16のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイス20で押圧成形されなかった後部22を前記上端部加熱押圧成形デバイス20による押圧成形で発生した皺19ごと押圧成形する後部加熱押圧成形デバイス24と、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12のシート上部稜線部16のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイス20で加熱押圧成形されなかった前部26を加熱押圧成形する前部加熱押圧成形デバイス28と、を含む、シートパッド補強布の製造装置である。
【0034】
図示例では、成形型14は、シートバック部の成形型の例を示した。本発明のシートパッド補強布の製造装置及び製造方法は、シートバック部のシートパッド補強布に好適に用いることができる。また、後述する本発明の成形型についても、シートバック部の成形型であるのが好適である。
【0035】
シートパッド補強布素材12としては、空気に対する通気性を有する材料であれば、特に限定されないが、例えば不織布やフェルトを用いることができる。また、特許文献1に開示されたシートパッド補強布の成型に用いられるシート、例えば、不織布に粒状の熱可塑性樹脂を含有させたシート、又は低融点繊維と高融点繊維とを混合させた不織布シート、綿状のフェルト又は縮絨フェルトに粒状の熱可塑性樹脂を含有させたシート、低融点繊維と高融点繊維とを混合させた綿状のフェルト又は縮絨フェルト等を好適に用いることができる。シートパッド補強布素材12は、図25に示すような形状のシートパッド補強布素材105を使用できるが、本発明の場合には、従来のように大きめの形状にする必要がないので、成形型14に合わせて、より最適な形状に設計されたシートパッド補強布素材12を使用する。なお、シートパッド補強布素材12は、図では便宜上透明に描かれることがある(例えば図1)。
【0036】
また、上端部加熱押圧成形デバイス20、後部加熱押圧成形デバイス24及び前部加熱押圧成形デバイス28は、それぞれの部分を加熱押圧するための加熱アタッチメント(加熱押し具)であるのが好適であり、例えば、電気アイロンのように電気で加熱せしめられる構造の電熱の加熱アタッチメントを適用できる。このように、上端部加熱押圧成形デバイス20、後部加熱押圧成形デバイス24及び前部加熱押圧成形デバイス28という加熱アタッチメントを用いることで、局所的な加熱押圧ができるので、素材の縮みも無く、大きめの素材を用いることもないため工数減、材料減、成形時のエネルギー減が図られ、原価低減に繋がるという利点がある。
【0037】
また、シートパッド補強布素材12に予め水分(水ミスト)を含ませておくことで、後部加熱押圧成形デバイス24及び前部加熱押圧成形デバイス28で加熱押圧した時点で、含ませた水分が気化し瞬時に、シートパッド補強布素材12内を巡り、より好適に、型押し成形ができる。従って、後述する本発明のシートパッド補強布の製造方法では、シートパッド補強布素材12に予め水分を含ませておく工程を含めるのが好適である。
【0038】
また、図2~11などによく示される如く、前記上端部加熱押圧成形デバイス20の加熱押圧部30の形状が前記成形型14の上端部18の形状、前記後部加熱押圧成形デバイス24の加熱押圧部32の形状が前記成形型14の前記後部22の形状、及び前記前部加熱押圧成形デバイス28の加熱押圧部34の形状が前記成形型14の前記前部26の形状、のそれぞれに沿った押圧部の形状を有している。
【0039】
なお、図示例では、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12のシート上部稜線部16は、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12の半分よりも上側に存在する。即ち、図24に示すウレタンシートパッド102のB-B線の上半分に相当する部分の成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12がシート上部稜線部16に相当することとなる。
【0040】
また、図1図13図15によく示されるように、シートパッド補強布の製造装置10は、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12の一側面36を加熱押圧成形する一側面加熱押圧成形デバイス38と、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12の他側面40を加熱押圧成形する他側面加熱押圧成形デバイス42と、を備えている。前記一側面加熱押圧成形デバイス38及び他側面加熱押圧成形デバイス42共に、図13図15の矢印で示したように、接離自在にスライド可能とされている。
【0041】
前記一側面加熱押圧成形デバイス38及び/又は他側面加熱押圧成形デバイス42は、前記成形型14のエアバッグ部44に被せられたシートパッド補強布素材12の一側面36及び/又は他側面40を挟み込んで加熱押圧成形する挟み込み加熱押圧成形デバイス46であるのが好適である。図示例では、他側面加熱押圧成形デバイス42が前記成形型14のエアバッグ部44に被せられたシートパッド補強布素材12の他側面40を挟み込んで加熱押圧成形する挟み込み加熱押圧成形デバイス46とした例を示した。前記他側面40はエアバッグ部44があるので、前記一側面36よりも盛り上がっており、そのため、挟み込んで加熱押圧成形する必要がある。
【0042】
なお、自動車シートによっては、シートバック部の両側(即ち、一側面及び他側面)にエアバッグが備えられているものがあり、その場合には、前記一側面加熱押圧成形デバイス38及び他側面加熱押圧成形デバイス42は、成形型のエアバッグ部に被せられたシートパッド補強布素材12の一側面及び他側面の両側にあるエアバッグ部を挟み込んで加熱押圧成形する挟み込み加熱押圧成形デバイスとするのが好適である。シートバック部の両側共にエアバッグが備えられていない自動車シートの場合には、前記一側面加熱押圧成形デバイス38及び/又は他側面加熱押圧成形デバイス42は、一側面及び/又は他側面を挟み込んで加熱押圧成形する挟み込み加熱押圧成形デバイスである必要はない。
【0043】
図16に、シートパッド補強布の製造装置10に、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12の一側面36又は他側面40の一部に、前記一側面36又は他側面40の稜線に合わせて切り込み線を入れるための、切り込み線形成デバイス62を設けた実施の形態を示す。切り込み線形成デバイス62は、シートパッド補強布の製造装置10の脱型機構47に備え付けられている。図示例では、前記切り込み線形成デバイス62として、COレーザーマーカーを設置した例を示した。図16において、符号64はレーザ光である。COレーザーマーカーとしては、市販のものが使用できる。
【0044】
切り込み線形成デバイス62は、図17及び図18に示すように、切り込み線68を形成することで、エアバッグ部44からエアバッグが飛び出しやすくする効果がある。このため、切り込み線形成デバイス62による切り込み線68の形成は、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12のエアバッグ部44が存在する側の一側面36又は他側面40(図示例では他側面40)の一部に、前記一側面36又は他側面40(図示例では他側面40)の稜線に合わせて行われる。切り込み線68は、点線状切り込み線とされており、エアバッグが飛び出しやすいように加工されている。このように、シートパッド補強布素材12はエアバッグが飛び出しやすいように加工された易開封部分を有する。
【0045】
図18(a)が、切り込み線68が入ったウレタンシートパッド66の横断面図、図18(b)が図18(a)の要部拡大図である。このように、図18(a)及び図18(b)によく示されるように、切り込み線68は、点線状切り込み線とされているので、ウレタンシートパッド66は、切り込み線68がエアバッグが飛び出しやすいように加工された易開封部分とされている。
【0046】
さらに、シートパッド補強布の製造装置10は、図19図22によく示されるように、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12を自動で脱型する脱型機構47を備えている。
【0047】
前記脱型機構47は、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12をピックアンドプレースする機構を備えている。より具体的には、前記脱型機構47は、シートパッド補強布素材12を前記成形型14から剥がすための剥がしアーム部48を備えており、前記成形型14から剥がされた前記シートパッド補強布素材12をピックアップし、移送するピックアップ部50を備えている(図20参照)。
【0048】
成形型14は本発明の成形型の一つの実施の形態である。前記成形型14は、3Dプリンタで造形された樹脂製の中空状型本体52と、前記中空状型本体52に設けられた吸引口54と、前記中空状型本体に設けられたピック用掛かり止め部60と、を含む、成形型である。中空状型本体52には複数の孔が設けられており、吸引口54から例えば図5に示すように空気が吸引されて、前記シートパッド補強布素材12が、加熱直後に冷却される。また、加熱押圧成形デバイスである加熱アタッチメント(加熱押し治具)により熱が掛かる部分は、耐熱性樹脂を使用し、熱の掛からない一般的部分は汎用の廉価樹脂(耐熱性ではない樹脂)とするのが好適である。
【0049】
次に、シートパッド補強布の製造装置10を用いた、本発明のシートパッド補強布の製造方法について説明する。
【0050】
本発明のシートパッド補強布の製造方法は、シートパッド補強布を成形する成形型14に、シートパッド補強布素材12を被せる工程と、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12のシート上部稜線部16の上端部18を、上端部加熱押圧成形デバイス20で上方から加熱押圧成形し、前記シートパッド補強布素材12の前記上方からの加熱押圧成形箇所の後部22周辺に皺19を発生させる上端部加熱押圧成形工程(図6の(1))と、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12のシート上部稜線部16のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイス20で押圧成形されなかった後部22を後部加熱押圧成形デバイス24により、前記上端部加熱押圧成形工程によって発生した皺19ごと加熱押圧成形する後部加熱押圧成形工程(図9の(2))と、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12のシート上部稜線部16のうち、前記上端部加熱押圧成形デバイス20で加熱押圧成形されなかった前部26を前部加熱押圧成形デバイス28により、加熱押圧成形する前部加熱押圧成形工程(図11の(3))と、を有するシートパッド補強布素材12のシート上部稜線部16の成形工程を含む、シートパッド補強布の製造方法である。
【0051】
なお、前記シートパッド補強布を成形する成形型14に、シートパッド補強布素材12を被せた後は、水ミストをシートパッド補強布素材12に塗布しておく。
【0052】
ウレタンシートパッドと略同一の形状とした成形型14に、最も適合するジャストサイズのシートパッド補強布素材12を被せ、成形が必要とされる箇所のみを加熱アタッチメントである加熱押圧成形デバイスで、局所加熱成形する。そうする事でシートパッド補強布素材12は大きな熱収縮もなく、また成形したシートパッド補強布に耳部は発生せず、成形後の切除は不要となり大きなコスト削減が可能となる。シートパッド補強布素材12の材料のロスも少なくできる。シートパッド補強布素材12として上述のように特許文献1に開示された不織布に熱可塑性樹脂を含有させたシート、または低融点繊維と高融点繊維とを混合させた不織布シートであることが好ましい。このようなシートを用いる事で、シートパッド補強布の成形が容易になるだけでなく、成形後の合成が適度に有され、形状が良好に保持される。
【0053】
また、シートパッド補強布を成形する成形型14に、シートパッド補強布素材12を被せてシートパッド補強布素材12を固定する際に、シートパッド補強布素材12を磁石によって成形型14に固定することが好ましい。さらに、吸引口54から吸引しながらシートパッド補強布素材12を成形型14に固定する方法を合わせて行うことで位置ズレなく好ましい状態での固定が可能である。
【0054】
比較のために、図12に後部加熱押圧成形デバイス24で後部22を最初に加熱押圧成形(図12の(1))した後に、上端部加熱押圧成形デバイス20で上方からシートパッド補強布素材12のシート上部稜線部16の上端部18を、加熱押圧成形している状態を示す。このように、最初に後部加熱押圧成形デバイス24で後部22を最初に加熱押圧成形した後に、上端部加熱押圧成形デバイス20で上方からシートパッド補強布素材12のシート上部稜線部16の上端部18を、加熱押圧成形すると、シートパッド補強布素材12の潰れ箇所58が発生してしまう。このような潰れ箇所58は、バリの原因となるので、不良品となる。従って、上記のように、上端部加熱押圧成形工程(図6の(1))の後、後部加熱押圧成形工程(図9の(2))を行い、その後、前部加熱押圧成形工程(図11の(3))を行うことが重要である。
【0055】
また、好ましくは、本発明のシートパッド補強布の製造方法は、前記シート上部稜線部16の成形工程の後、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12の一側面36を加熱押圧成形する工程と、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12の他側面40を加熱押圧成形する工程と、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12を、脱型機構47により自動で脱型する工程と、を含む。
【0056】
また、前記脱型機構47により自動で脱型する工程の前に、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12の一側面36又は他側面40(図示例では他側面40)の一部に、前記一側面36又は他側面40(図示例では他側面40)の稜線に合わせて、前記切り込み線形成デバイス62で切り込み線68を入れる切り込み線形成工程を含む、のが好適である。図17及び図18に示すように、切り込み線68を形成することで、エアバッグ部44からエアバッグが飛び出しやすくする効果がある。
【0057】
成形された製品(シートパッド補強布)を成形型14から脱型する際には、図19に示されるように、予め成形型14に設置したピック用掛かり止め部60を脱型機構47の剥がしアーム部48の爪で掴んで成形された製品を剥がし、次に成形型14の肩部に設置されている掛かり止め部56にピックアップ部50の爪を下しさらに掴み上げる事でこれまで人力で行っていた製品の脱型の自動化が図れる。なお、掛かり止め部56もピック用の掛かり止めであるので、本発明の成形型14に設けられたピック用掛かり止めという概念には、ピック用掛かり止め部60及び掛かり止め部56のいずれも含まれる。
【0058】
また、前記成形型14に被せられたシートパッド補強布素材12の一側面36及び/又は他側面40を加熱押圧成形する工程は、前記成形型14のエアバッグ部44に被せられたシートパッド補強布素材12の一側面36及び/又は他側面40を挟み込んで加熱押圧成形する挟み込み加熱押圧成形である。
【0059】
図示例では、他側面加熱押圧成形デバイス42が前記成形型14のエアバッグ部44に被せられたシートパッド補強布素材12の他側面40を挟み込んで加熱押圧成形する挟み込み加熱押圧成形デバイス46とした例を示した。前記他側面40はエアバッグ部44があるので、前記一側面36よりも盛り上がっており、そのため、挟み込んで加熱押圧成形する必要がある。
【0060】
本発明のシートパッド補強布の製造方法は、次のような特徴がある。
【0061】
1.シートパッド補強布の成形時にシートパッド補強布素材全面に熱を掛けない方法とした。
特許文献1に記載の方法のように、成形時にシートパッド補強布素材に全面的に熱を掛けて成形すると、シートパッド補強布素材が「熱縮み」を起こしてしまう。そのため、従来は、熱縮み分を見越して、シートパッド補強布素材はあらかじめ必要寸法以上に大きく粗裁ちし、用意することになるが、そのシートパッド補強布素材を成形型に被せてセットする時、被せるセット作業のバラツキや成形条件のバラツキなどによっては、正規の形状範囲外のところまで食み出しが発生し、成形後はそれが耳部(バリ)となる。
従って、その不要部分(耳部、バリ)は成形後に「バリ切り」をする必要が出てくる。
【0062】
そのことから、本発明では、成形時に「熱」を全面には掛けないこととし、使用上必要とされる箇所のみを加熱押圧成形デバイスである加熱アタッチメント(加熱押し具)を用いて部分型付け(成形)を行い、それ以外は成形しないことにした。
【0063】
また、本発明によれば大掛かりな動力源(熱源ボイラー)や吸引のための動力(真空ポンプ等)も不要となり、省エネが達成される。
さらに、成形時間短縮のために 予めシートパッド補強布素材(特許文献1に記載されたシートパッド補強布素材が好適)の加熱押圧の対象部分に水分(水ミスト)を含ませておく事で前記加熱アタッチメント(加熱押し具)により加圧した時点で、含ませた水分が気化し瞬時に、素材内を巡り、型押し成形出来る。
【0064】
そうする事でシートパッド補強布素材の縮みも無く、大きめの素材を用いることもないため工数減及び材料減を図ることができ、そして、成形時のエネルギー減が図られ原価低減に繋がる。
【0065】
2.シートパッド補強布の成形前のシートパッド補強布素材形状のミニマイズ化を達成した。
シートパッド補強布素材素材への全面的な熱成形を無くす事で、従来行っていた、予め熱縮みを各部分に見込むなどの経験則によるシートパッド補強布素材の形状設計が不要となった。このため、本発明では、設計した成形後の製品形状に対し、ジャストフィットするシートパッド補強布素材の形状で良くなった。
この事で製品3Dデータからダイレクトに市販のCAD(Computer Aided Design)でシートパッド補強布の素材型紙展開設計を行うことが可能となった。
【0066】
3.シートパッド補強布を成形する成形型に金属型を用いずとも、樹脂型(3Dプリンタ造形型)を用いることが可能となった。
成形時の熱を排する事で、成形型に用いられる型の材料も耐熱のための従来の金属型(アルミ鋳造型)ではなく、樹脂製に変更できた。その為、型製作方法についても、型CADデータからダイレクトで型の製作が可能な3Dプリンタ造形樹脂型に代替できた。これより、大幅なリードタイム短縮と型の軽量化に繋がった。なお、加熱押圧成形デバイスである加熱アタッチメント(加熱押し治具)により熱が掛かる部分は、耐熱性樹脂を使用し、熱の掛からない一般的部分は汎用の廉価樹脂(耐熱性ではない樹脂)とし、異材種樹脂による材質使い分けたハイブリッドな型構造にした。
【0067】
4. 3Dプリンタ造形にしたことで、成形型を中空化し、それによりサイクル率が向上した。
さらに、3Dプリンタ造形型にしたことで、中空構造の型が容易に出来、成形中の熱を中空部を排熱流路として、予め設置した吸引口を通じ、型外に排出(排熱)することが出来る。
この事は成形中に蓄熱されたワーク熱が素早く排出できるので、成形サイクルの大幅な短縮化が図れた。
【0068】
また、3Dプリンタ造形技術のメリットでもある、幾つかの部品が組み合って動く構造の造形物であっても、一体成型できるため、この成形型に必要とするいくつかの機構構造を組込み、一体造形することができる。このため、最終的な型の組立て作業不要で、直ちに動作確認できるため、試作のスピードアップにつなげる事が可能となった。例えば、排熱用の流路や吸引口の一体化、自動脱型のための型機構部品一体化などを造形し、直ちに動作確認できる。
【0069】
5.シートパッド補強布を成形する成形型で成形された製品(シートパッド補強布)は、専用の脱型機構により自動でピックアンドプレースされる。成形型にはピック用の掛かり止めが設置されているので、まず製品が成形型から剥がされた後、次いでピックアッププレースが行われるように、シートパッド補強布(バネ受け材)の自動脱型の手法を開発した。
【0070】
上記のようにしてシートパッド補強布を製造することで、ウレタンシートパッドの最薄肉部にも均一にウレタンフォームが成長し、シートパッド補強布が複雑な形状であっても、大きめの素材を準備する必要が無く、成形後のバリ取り作業が不要となり、人的作業を極力排すことができる。
【符号の説明】
【0071】
10:シートパッド補強布の製造装置、12:シートパッド補強布素材、14:成形型、16:シート上部稜線部、18:上端部、19:皺、20:上端部加熱押圧成形デバイス、22:後部、24:後部加熱押圧成形デバイス、26:前部、28:前部加熱押圧成形デバイス、30,32,34:加熱押圧部、36:一側面、38:一側面加熱押圧成形デバイス、40:他側面、42:他側面加熱押圧成形デバイス、44:エアバッグ部、46:挟み込み加熱押圧成形デバイス、47:脱型機構、48:アーム部、50:ピックアップ部、52:中空状型本体、54:吸引口、56:掛かり止め部、58:潰れ箇所、60:ピック用掛かり止め部、62:切り込み線形成デバイス、64:レーザ光、68:切り込み線、100:シートバック部、66,102:ウレタンシートパッド、104:シートパッド補強布、105:シートパッド補強布素材、106:発泡型(下型)、108:発泡型(中型)、110:発泡型(上型)、112:ウレタン原液、113:二酸化炭素、G:発泡型内発生ガス、P:肉薄の部分。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
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図28
図29