IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トッパンフォトマスクの特許一覧

特許7610346反射型マスク及び反射型マスクの製造方法
<>
  • 特許-反射型マスク及び反射型マスクの製造方法 図1
  • 特許-反射型マスク及び反射型マスクの製造方法 図2
  • 特許-反射型マスク及び反射型マスクの製造方法 図3
  • 特許-反射型マスク及び反射型マスクの製造方法 図4
  • 特許-反射型マスク及び反射型マスクの製造方法 図5
  • 特許-反射型マスク及び反射型マスクの製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】反射型マスク及び反射型マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20241225BHJP
   G03F 1/82 20120101ALI20241225BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20241225BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20241225BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20241225BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/82
C23C16/40
C23C16/34
C23C16/30
C23C16/42
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019199941
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021071685
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】テクセンドフォトマスク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】市川 顯二郎
(72)【発明者】
【氏名】合田 歩美
(72)【発明者】
【氏名】中野 秀亮
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0141923(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0232256(US,A1)
【文献】特開2014-192312(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009211(WO,A1)
【文献】特開2003-243292(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131506(WO,A1)
【文献】特開2003-318104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/24、1/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成されて入射した光を反射する反射部と、
前記反射部上に形成されたキャッピング層と、
前記キャッピング層上の少なくとも一部に、前記キャッピング層と接するように形成されて前記入射した光を吸収する吸収部と、
前記キャッピング層上及び前記吸収部上に形成されて前記入射した光を透過する被覆膜と、を備え、
前記キャッピング層は、ルテニウムで形成されており、
前記被覆膜は、EUV(Extreme UltraViolet:波長13.5nm)光に対して消衰係数kが0.04以下であり、洗浄薬液による洗浄に対して耐性を有しており、前記吸収部の最表面及び側面に均一な膜厚で形成されており、
前記被覆膜は、クムを少なくとも含む化合物で形成されていることを特徴とする反射型マスク。
【請求項2】
前記吸収部は、タンタル、錫、インジウム、ニッケル、オスミウム、ハフニウム、タングステン、白金、テルル、コバルト、及びパラジウムを少なくとも1種類含む化合物で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の反射型マスク。
【請求項3】
前記吸収部は、インジウム、ニッケル、オスミウム、ハフニウム、テルル、コバルト、及びパラジウムを少なくとも1種類含む化合物で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の反射型マスク。
【請求項4】
前記吸収部は、タングステンを少なくとも含む化合物で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の反射型マスク。
【請求項5】
前記被覆膜の膜厚は、5nm以上10nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の反射型マスク。
【請求項6】
前記吸収部は、単層であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の反射型マスク。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の反射型マスクの製造方法であって、
原子層堆積法によって前記被覆膜を形成する工程を含むことを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【請求項8】
前記被覆膜を形成する工程において、材料ガスとして金属水素化物、金属ハロゲン化物、または有機金属化合物を用いて、原子層堆積法によって前記被覆膜を形成することを特徴とする請求項に記載の反射型マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型マスク及び反射型マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、半導体デバイスの微細化に伴い、フォトリソグラフィ技術の微細化に対する要求が高まっている。フォトリソグラフィにおいては、転写パターンの最小解像寸法は、露光光源の波長に大きく依存し、波長が短いほど最小解像寸法を小さくできる。このため、半導体デバイスの製造プロセスにおいて、従来の波長193nmのArFエキシマレーザー光を用いた露光光源から、波長13.5nmのEUV(Extreme UltraViolet)露光光源に置き換わってきている。
【0003】
EUV光は波長が短いので、ほとんどの物質が高い光吸収性を持つ。このため、EUV用のフォトマスク(EUVマスク)は、従来の透過型マスクと異なり、反射型マスクである。反射型マスクの元となる反射型マスクブランクは、低熱膨張基板の上に、露光光源波長に対して高い反射率を示す多層反射層と、露光光源波長の吸収層とが順次形成されており、更に基板の裏面には露光機内における静電チャックのための裏面導電膜が形成されている。また、多層反射層と吸収層との間に緩衝層を有する構造を持つEUVマスクもある。
【0004】
反射型マスクブランクから反射型マスクへ加工する際には、EB(Electron Beam)リソグラフィとエッチング技術とにより吸収層を部分的に除去し、緩衝層を有する構造の場合はこれも同じく部分的に除去し、吸収部と反射部とからなる回路パターンを形成することがある。このようにして作製された反射型マスクによって反射された光像が反射光学系を経て半導体基板上に転写される。
また、EUVリソグラフィは、上述の通り光の透過を利用する屈折光学系が使用できないことから、露光機の光学系部材はレンズではなく、ミラーとなる。このため、EUVマスクへの入射光とEUVマスクでの反射光とが同軸上に設計できない問題があり、通常、EUVリソグラフィでは光軸をEUVマスクの垂直方向から6度傾けてEUV光を入射し、マイナス6度の角度で反射する反射光を半導体基板に照射する手法が採用されている。
【0005】
このように、EUVリソグラフィは、光軸を傾斜させることから、EUVマスクに入射するEUV光がEUVマスクの回路パターンの影を作ることにより、転写性能が悪化する、いわゆる「射影効果」と呼ばれる問題が発生することがある。なお、上述したEUVマスクに形成された回路パターンは、転写パターン、あるいは吸収層パターンとも呼ばれるパターンである。
この問題に対し、特許文献1では、従来のTaが主成分の吸収層もしくは位相シフト膜に対してEUV光に対する吸収性(消衰係数)が高い化合物材料を採用することで、膜厚を薄くし、射影効果を低減する方法が開示されている。
【0006】
また、フォトマスクは酸性またはアルカリ性の洗浄薬液に対して反応性が高いと、くり返しの洗浄に耐えられず、フォトマスクの寿命が短くなってしまう。そのため、フォトマスクは、酸・アルカリ洗浄耐性(以下、単に「洗浄耐性」とも称する)の高い化合物材料で形成される必要がある。
しかし、特許文献1の方法ではTaを主成分とした2種類以上の異なる組成を持つ吸収層を使用しているが、洗浄耐性について記載されていない。
【0007】
また、特許文献2の方法ではTa、Cr、Pdを主成分とした吸収層上にTaとOを含有する成分からなる最表面保護層を形成することで吸収層の洗浄耐性を向上させる方法が開示されている。しかし、特許文献2には、転写パターン形成時における吸収層側壁の保護については記載されておらず、側壁を含めた洗浄耐性が明らかになっていない。さらに、吸収層が上記以外の物質が主成分の場合、吸収層と最表面部とで洗浄耐性は当然異なる。そのため、フォトマスクの洗浄を繰り返すと、吸収層側壁が保護されていないためにダメージが生じ、パターン転写性に悪影響を及ぼす問題が発生することがある。
【0008】
なお、EUVマスクではなく光マスクの技術分野においては、特許文献3の方法で、光マスクをステッパーにて密着露光する際に物理的な保護を目的として、転写パターン上に保護膜を形成している。これと同様に、転写パターン上に保護膜を形成することで洗浄耐性を向上させることができるとも考えられるが、EUVマスクの分野では多層膜上に保護膜を形成する場合、保護膜によるEUV光の吸収によりパターン転写性が低下する問題が発生することがある。従って、保護膜としてはEUV光に対する透過率が高い材料を選択する必要がある。さらにパターン毎に保護膜の膜厚が異なると、転写性に悪影響を及ぼす可能性が考えられるため、転写パターンの表面及び側面に沿って保護膜を均一に形成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-273678号公報
【文献】特開2014-45075号公報
【文献】特開昭60-87327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、EUVマスクを繰り返し使用するためにはEUVマスクにおける最表層の洗浄耐性が必要である。これに対し、EUVマスクに形成された転写パターンの最表層及び側面に保護膜を形成することが有効であるが、EUV光透過率が低い保護膜材料で保護膜が形成されている場合には、射影効果によりパターン転写性に悪影響を及ぼすことがある。さらに、転写パターンの最表層及び側面に保護膜が均一にされていない場合には、パターン転写性が悪化する可能性が考えられる。つまり、従来のEUVマスクの保護膜には、高いEUV透過率と高い洗浄耐性の両方を備えたものが少なかった。
【0011】
そこで本発明は、転写パターンの最表面及び側面に沿って均一に形成され、且つEUV透過率が高く、洗浄耐性が高い被覆膜を有する反射型マスク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る反射型マスクは、基板と、前記基板上に形成されて入射した光を反射する反射部と、前記反射部上の少なくとも一部に形成されて前記入射した光を吸収する吸収部と、前記反射部上及び前記吸収部上に形成されて前記入射した光を透過する被覆膜と、を備え、前記被覆膜は、EUV(Extreme UltraViolet:波長13.5nm)光に対して消衰係数kが0.04以下であり、洗浄薬液による洗浄に対して耐性を有しており、前記吸収部の最表面及び側面に均一な膜厚で形成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、EUV透過率が高く、且つ洗浄耐性が高い材料で吸収部の最表層及び側面を均一に被覆することで、ウェハ上へ転写されるパターンの寸法精度や形状精度を維持し、長期間マスクを使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る反射型マスクの構造を示す概略断面図である。
図2】本発明の実施例に係る反射型マスクブランクの構造を示す概略断面図である。
図3】本発明の実施例に係る反射型マスクの製造工程を示す概略断面図である。
図4】本発明の実施例に係る反射型マスクの製造工程を示す概略断面図である。
図5】本発明の実施例に係る反射型マスクの設計パターンの形状を示す概略平面図である。
図6】本発明の実施例に係る反射型マスクの構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る反射型マスクの構造について説明する。
(全体構造)
図1は、被覆膜付き反射型フォトマスク(以下、単に「反射型マスク」とも称する)10の構成を示す概略断面図である。
反射型マスク10は、基板1と多層反射膜(反射部)2とキャッピング層3と吸収層(吸収部)4と被覆膜5とを備えている。反射型マスク10は、吸収層4によって形成された微細パターンである吸収層パターン(転写パターン)を備えている。
本実施形態に係る基板1は、例えば、低熱膨張性の基板である。具体的には、基板1として、平坦なSi基板や合成石英基板等を用いることができる。また、基板1として、チタンを添加した低熱膨張ガラスを用いることができる。このように、基板1は、熱膨張率の小さい材料であればよく、これらの材料に限定されるものではない。
【0016】
(多層反射膜)
本実施形態に係る多層反射膜2は、基板1上に形成された膜(層)である。この多層反射膜2は、露光光であるEUV光(極端紫外光)を反射するための膜であり、例えば、EUV光に対する屈折率が互いに大きく異なる材料を組み合わせて構成した多層反射膜である。多層反射膜2としては、例えば、Mo(モリブデン)を含む層とSi(シリコン)を含む層が積層した積層膜、またはMo(モリブデン)を含む層とBe(ベリリウム)を含む層とが積層した積層膜を40周期程度繰り返し積層することにより形成された膜が好ましい。
【0017】
(キャッピング層)
本実施形態に係るキャッピング層3は、多層反射膜2上に形成された層である。キャッピング層3は、吸収層4を形成する際に行われるドライエッチングに対して耐性を有する材質で形成されている。つまり、キャッピング層3は、吸収層4をエッチングして、転写パターン(低反射部パターン)を形成する際に、多層反射膜2へのダメージを防ぐエッチングストッパとして機能するものである。ここで、多層反射膜2の材質やエッチング条件によっては、キャッピング層3は設けなくてもかまわない。
【0018】
(吸収層)
本実施形態に係る吸収層4は、例えば、タンタル、錫、インジウム、ニッケル、オスミウム、ハフニウム、タングステン、白金、テルル、コバルト、またはパラジウム等の単体材料、もしくは上記元素を少なくとも1種類含む、酸化物や窒化物等の化合物材料で形成されていることが好ましい。また、吸収層4を構成する材料自身は、上述した元素を原子数比で50%以上含んでいることが好ましい。
また、吸収層4は、上述した元素を含む化合物材料を吸収層4全体の質量に対して50質量%以上含んでいることが好ましい。
【0019】
上記材料で形成された吸収層4であれば、その吸収層4で形成された転写パターンは射影効果を低減(抑制)することができる。
なお、吸収層4の層厚は、10nm以上50nm以下の範囲内であってもよく、20nm以上40nm以下の範囲内であればより好ましく、25nm以上35nm以下の範囲内であればさらに好ましい。吸収層4の層厚が上記数値範囲内であれば、EUV光を効果的に吸収し、且つ吸収層4の薄膜化を実現できる。
【0020】
(被覆膜)
吸収層4は、洗浄耐性を有することが反射型マスクとして必要であり、材料種が制限される。しかし、洗浄耐性の高い被覆膜5で吸収層4を覆うことで、洗浄耐性に乏しい材料も吸収層4の構成材料として使用することができる。また、吸収層4の構成材料が洗浄耐性を持つ材料であっても、被覆膜5により保護されることにより、吸収層4は直接薬液に触れないため、より繰り返しの洗浄に耐えることができる。
【0021】
反射型マスクに必要な洗浄耐性としては、反射型マスク10を80℃の硫酸に10分間浸漬した後、アンモニアと過酸化水素水と水とを1:1:20の割合(質量比)で混合した洗浄薬液を満たした洗浄層に、500Wのメガソニックを用いて10分間浸漬したときの転写パターン(低反射部パターン)の膜減り量を電子天秤により測定し、質量変化がない化合物材料を、本実施形態において洗浄耐性の高い材料とする。ここで、「質量変化がない」とは、膜減り量(質量)が、転写パターン(低反射部パターン)の総質量に対して10%以下であることを意味する。
【0022】
本実施形態に係る反射型マスク10の場合、被覆膜5は、反射型マスク10における最表層となるため、入射光及び反射光の各光路の妨げとならないことが好ましい。射影効果による解像性の悪化を25%以内に収めるため、最表層である被覆膜5の消衰係数kは0.04以下であり、被覆膜5の膜厚は10nm以内が望ましい。被覆膜5の膜厚のより好ましい範囲は、1nm以上8nm以下の範囲内であり、さらに好ましくは、2nm以上6nm以下の範囲内である。上記数値範囲内であれば、入射光及び反射光の各光路の妨げをさらに低減することができる。
【0023】
上記射影効果を低減するための被覆膜5の主材料として、光路の妨げとならないよう、EUV光に対する消衰係数kは小さい化合物材料であることが好ましい。例えば、珪素(Si)の消衰係数kは0.0018であり、上記の条件に当てはまる。また、二酸化珪素は、酸・アルカリ耐性が高いことが知られており、二酸化珪素を最表層に適用することで反射型マスク10に必要な洗浄耐性を備えることができる。また、珪素(Si)と酸素(O)とを原子数比1:1.5~1:2の割合で、且つ珪素及び酸素の合計含有量が化合物材料全体の50%原子以上であり、上記光学条件を満たす化合物材料であれば、十分な洗浄耐性を備えるため、被覆膜5の主材料として好ましい。
【0024】
このように、被覆膜5は、洗浄耐性を有し、消衰係数kが0.04以下である化合物材料が好まれる。そのため、被覆膜5は、例えば、二酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、ルテニウム、ジルコニウム、クロム、ハフニウム、ニオブ、ロジウム、タングステン、バナジウム、またはチタン等の単体材料、もしくは上記元素を少なくとも1種類含む、酸化物や窒化物等の化合物材料で形成されていてもよい。また、被覆膜5を構成する材料自身は、上述した元素を原子数比で50%以上含んでいることが好ましい。
また、被覆膜5は、上述した元素を含む化合物材料を被覆膜5全体の質量に対して50質量%以上含んでいることが好ましい。
【0025】
上記材料で形成された被覆膜5であれば、その被覆膜5で形成された転写パターンはEUV光の吸収効率を高めることができる。
なお、図1では図示しないが、本実施形態に係る反射型マスク10では、基板1の多層反射膜2が形成された面とは反対側の面に裏面導電膜を形成することができる。裏面導電膜は、反射型マスク10を露光機に設置するときに静電チャックの原理を利用して固定するための膜である。
【0026】
(被覆膜の形成方法)
本実施形態に係る反射型マスク10を製造する際、被覆膜5を、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ルテニウム、クロム、ハフニウム、ニオブ、ロジウム、タングステン、バナジウム、及びチタンを少なくとも1種類含むガスと、酸素、窒素、またはフッ素のいずれか1種類を含むガスとを交互に供給する原子層堆積法を用いて形成してもよい。
原子層堆積法は、原子層単位で薄膜を形成することができる。このため、この方法により形成された被覆膜5は、高い膜厚均一性、及び高い形状追従性を有している。
【0027】
被覆膜5は、洗浄による転写性能の悪化を防ぐため、吸収層4の表面及び側面、さらにキャッピング層3上または多層反射膜2上に形成された転写パターンに沿って、即ち表面が露出したキャッピング層3上または多層反射膜2上に被覆膜5を形成する必要がある。さらに前述のように被覆膜5による転写性の悪化を防ぐためには許容される膜厚が制限されており、形成される被覆膜5には均一な膜厚が求められる。従って膜厚均一性、形状追従性に優れる原子層堆積法により被覆膜5を形成することで、パターン転写性の悪化を伴わず高い洗浄耐性を有する反射型マスク10を製造することが可能である。ここで、「均一な膜厚」とは、吸収層4の表面及び側面にそれぞれ形成された被覆膜5の平均厚みに対して、最も薄い部分の厚さが-2nm以内の範囲内であり、最も厚い部分の厚さが+2nm以内の範囲内であることをいう。つまり、本実施形態では、吸収層4の表面に形成された被覆膜5の層厚は、その平均厚みに対して±2nmの範囲内に収まっている。また、吸収層4の側面に形成された被覆膜5の層厚は、その平均厚みに対して±2nmの範囲内に収まっている。
【0028】
このように、本実施形態に係る反射型マスク10においては、原子層堆積法により吸収層4の表面及び側面に洗浄耐性の高い被覆膜5が形成されている。このため、反射型マスク10に用いられる洗浄薬液による吸収層4の侵食等が低減され、パターン転写性の悪化を抑制することができる。
また、被覆膜5は、EUV透過率が高い材料によって均一に形成されているため、被覆膜5の形成による転写性悪化を抑制することができる。そのため、洗浄耐性が低い吸収層材料を用いた場合であっても、高いパターン転写精度を実現することが可能である。
【0029】
[実施例1]
以下、本発明の実施例に係る反射型マスクについて、図と表を用いて説明する。
図2に示すように、低熱膨張性を有する合成石英の基板11の上に、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)とを一対とする積層膜が40枚積層されて形成された多層反射膜12を形成した。多層反射膜12の膜厚は280nmとした。図2では、簡便のため、多層反射膜12は、数対の積層膜で図示されている。
【0030】
次に、多層反射膜12上に、中間膜としてルテニウム(Ru)で形成されたキャッピング層13を、膜厚が2.5nmになるように成膜した。これにより、基板11上には多層反射膜12及びキャッピング層13を有する反射層(反射部)16が形成されている。
キャッピング層13の上に、酸化錫で形成された吸収層14を膜厚が26nmになるよう成膜した。
次に、基板11の多層反射膜12が形成されていない側に窒化クロム(CrN)で形成された裏面導電膜15を100nmの厚さで成膜した。
基板11上へのそれぞれの膜の成膜は、多元スパッタリング装置を用いた。各々の膜の膜厚は、スパッタリング時間で制御した。
【0031】
次に、吸収層14上にポジ型化学増幅型レジスト(SEBP9012:信越化学社製)を120nmの膜厚にスピンコートで成膜し、110度で10分間ベークし、レジスト膜17を形成した。
次いで、電子線描画機(JBX3030:日本電子社製)によってポジ型化学増幅型レジストに所定のパターンを描画した。
その後、110度、10分間ベーク処理を施し、次いでスプレー現像(SFG3000:シグマメルテック社製)した。これにより、図3に示すように、レジストパターン17aを形成した。
【0032】
次に、レジストパターンをエッチングマスクとして、塩素系ガスを主体としたドライエッチングにより吸収層14のパターニングを行い、吸収層パターン14aを形成した。
次に、残ったレジストパターン17aの剥離を行った。こうして、図4に示すように、吸収層14の表面及び側面が露出した吸収層パターン14aを形成した。
本実施例において、低反射層として機能する吸収層14で形成された吸収層パターン14aは、線幅64nmLS(ラインアンドスペース)パターンとした。この線幅64nmLSパターンは、EUV照射による射影効果の影響が見えやすくなるように、図5に示すようにx方向とy方向にそれぞれ設計した。
【0033】
次に、シリコンガスと酸素ガスとを使用した原子層堆積法により、吸収層14の露出した表面及び側面、並びに反射層16上に、二酸化珪素で形成された被覆膜18を膜厚が2nm、5nm、10nmになるようにそれぞれ成膜した。珪素と酸素との原子数比率は、XPS(X線光電子分光法)で測定したところ、1:1.9であった。こうして、図6に示すような反射型フォトマスク(以下、単に「反射型マスク」とも称する)100を作製した。
【0034】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で、図4に示す吸収層パターン14aを形成した。
次に、有機アルミニウムガスと酸素ガスとを使用した原子層堆積法により、吸収層14の表面及び側面、並びに反射層16上に、酸化アルミニウムで形成された被覆膜18を膜厚が2nm、5nm、10nmになるようにそれぞれ成膜した。アルミニウムと酸素との原子数比率は、XPS(X線光電子分光法)で測定したところ、1:1.6であった。こうして、図6に示すような反射型マスク100を作製した。
【0035】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で、図4に示す吸収層パターン14aを形成した。
次に、有機チタン系ガスと酸素ガスとを使用した原子層堆積法により、吸収層14の表面及び側面、並びに反射層16上に、酸化チタンで形成された被覆膜18を膜厚が2nm、5nm、10nmになるようにそれぞれ成膜した。こうして、図6に示すような反射型マスク100を作製した。
【0036】
[比較例1]
実施例1と同様の方法で、図4に示す吸収層パターン14aを形成した。
次に、有機モリブデン系ガスを使用した原子層堆積法により、吸収層14の表面及び側面、並びに反射層16上に、モリブデンで形成された被覆膜18を膜厚が2nm、5nm、10nmになるようにそれぞれ成膜した。こうして、図6に示すような反射型マスク100を作製した。
【0037】
[比較例2]
実施例1と同様の方法で、図4に示す吸収層パターン14aを形成した。
次に、有機白金系ガスを使用した原子層堆積法により、吸収層14の表面及び側面、並びに反射層16上に、白金が形成された被覆膜18を膜厚が2nm、5nm、10nmになるようにそれぞれ成膜した。こうして、図6に示すような反射型マスク100を作製した。
前述の実施例及び比較例において、被覆膜18の膜厚は透過電子顕微鏡によって測定した。
【0038】
(洗浄耐性)
重量濃度90%、液温80度の温硫酸と過酸化水とを用いたSPM洗浄、及びアンモニア水と過酸化水とを用いたSC1洗浄を使用して反射型マスク100の洗浄を行った。膜減りの確認は電子天秤による質量変化から判断した。本実施例では、膜減り量が、被覆膜18の質量の10%以下であれば、使用上何ら問題ないため、「洗浄耐性あり」と評価した。一方、膜減り量が、被覆膜18の質量の10%超であれば、使用上問題があるため、「洗浄耐性なし」と評価した。
【0039】
(ウェハ露光評価)
EUV露光装置(NXE3300B:ASML社製)を用いて、EUVポジ型化学増幅型レジストを塗布した半導体ウェハ上に、実施例及び比較例で作製した反射型マスク100の吸収層パターン14aを転写露光した。このとき、露光量は、図5に示すx方向のLSパターンが設計通りに転写するように調節した。電子線寸法測定機により転写されたレジストパターンの観察及び線幅測定を実施し、解像性の確認を行った。より詳しくは、本実施例では、解像性の確認を、y方向のLSパターンが適切に転写されるか否かで評価した。つまり、図5に示すx方向のLSパターンが設計通りに転写するように露光条件を調節した状態で、y方向のLSパターンが被覆膜なしの解像性に対し、解像性悪化が25%以内に収まった場合を「合格」とし、解像性悪化が25%を超える場合(y方向のLSパターンが解像しない場合)を「不合格」とした。なお、表1~表5において、y方向のLSパターンが解像しない場合を「-」で示した。
【0040】
これらの評価結果を表1から表5に示す。
表1では、実施例1の反射型マスク100、即ち、吸収層14が酸化錫で形成され、その膜厚が26nmであり、被覆膜18が二酸化珪素で形成され、その膜厚がそれぞれ2nm、5nm、10nmである反射型マスク100に対する洗浄耐性とウェハ上のレジストパターン寸法とを示している。
【0041】
実施例1の反射型マスク100では、洗浄による膜減りは確認されなかった。つまり、実施例1の反射型マスク100は、洗浄耐性を備えていた。被覆膜18の膜厚が2nm、5nm、10nmのとき、y方向のLSパターン寸法は、設計値16.0nmに対して、12.4nm、11.9nm、11.7nmであった。このように、被覆膜18の膜厚が厚くなるごとに射影効果による寸法精度の悪化が見られたが、解像性の悪化はおおよそ25%以内に収まった。つまり、実施例1の反射型マスク100は、使用上問題のないパターン転写性を備えていた。
【0042】
【表1】
【0043】
表2では、実施例2の反射型マスク100、即ち、吸収層14が酸化錫で形成され、その膜厚が26nmであり、被覆膜18が酸化アルミニウムで形成され、その膜厚がそれぞれ2nm、5nm、10nmである反射型マスク100に対する洗浄耐性とウェハ上のレジストパターン寸法とを示している。
【0044】
実施例2の反射型マスク100では、洗浄による膜減りは確認されなかった。つまり、実施例1の反射型マスク100は、洗浄耐性を備えていた。被覆膜18の膜厚が2nm、5nm、10nmのとき、y方向のLSパターン寸法は、設計値16.0nmに対して、12.3nm、11.5nm、10.4nmであり、実施例1と同等の結果が得られた。このように、実施例1と同様、被覆膜18の膜厚が厚くなるごとに射影効果による寸法精度の悪化が見られたが、解像性の悪化はおおよそ25%以内に収まった。つまり、実施例2の反射型マスク100は、使用上問題のないパターン転写性を備えていた。
【0045】
【表2】
【0046】
表3では、実施例3の反射型マスク100、即ち、吸収層14が酸化錫で形成され、その膜厚が26nmであり、被覆膜18が酸化チタンで形成され、その膜厚が2nm、5nm、10nmである反射型マスク100に対する洗浄耐性とウェハ上のレジストパターン寸法とを示している。
【0047】
実施例3の反射型マスク100では、洗浄による膜減りは確認されなかった。つまり、実施例1の反射型マスク100は、洗浄耐性を備えていた。被覆膜18の膜厚が2nm、5nm、10nmのとき、y方向のLSパターン寸法は、設計値16.0nmに対して、12.5nm、11.2nm、10.5nmであり、実施例1と同等の結果が得られた。このように、実施例1と同様、被覆膜18の膜厚が厚くなるごとに射影効果による寸法精度の悪化が見られたが、解像性の悪化はおおよそ25%以内に収まった。つまり、実施例2の反射型マスク100は、使用上問題のないパターン転写性を備えていた。
【0048】
【表3】
【0049】
表4では、比較例1の反射型マスク100、即ち、吸収層14が酸化錫で形成され、その膜厚が26nmであり、被覆膜18がモリブデンで形成され、その膜厚が2nm、5nm、10nmである反射型マスク100に対する洗浄耐性とウェハ上のレジストパターン寸法とを示している。
【0050】
比較例1の反射型マスク100では、洗浄薬液による膜減りが確認され、洗浄耐性が低いことが分かった。被覆膜18の膜厚が2nm、5nm、10nmのとき、y方向のLSパターン寸法は、設計値16.0nmに対して、12.7nm、11.1nm、10.5nmであり、実施例1~3と同等の結果が得られた。このように、実施例1~3と同様、被覆膜18の膜厚が厚くなるごとに射影効果による寸法精度の悪化が見られた。一方、実施例1~3とは異なり、モリブデンで形成された被覆膜18は洗浄耐性が低い材料であるため、反射型マスクとして使用することは不向きである。
【0051】
【表4】
【0052】
表5では、比較例2の反射型マスク100、即ち、吸収層14が酸化錫で形成され、その膜厚が26nmであり、被覆膜18が白金で形成され、その膜厚が2nm、5nm、10nmである反射型マスク100に対する洗浄耐性とウェハ上のレジストパターン寸法とを示している。
【0053】
比較例2の反射型マスク100では、洗浄による膜減りは確認されなかった。被覆膜18の膜厚が2nmのとき、y方向のLSパターン寸法は、設計値16.0nmに対して、12.4nmであったが、5nm、10nmのときパターンは解像しなかった。つまり、比較例2の反射型マスク100は、十分なパターン転写性を備えていなかった。
このように、実施例1~3とは異なり、消衰係数kが大きい材料で被覆膜18を形成すると、被覆膜18の膜厚が厚くなるごとに射影効果が強く表れ、5nm以上の膜厚ではy方向パターンは解像されなかった。
【0054】
【表5】
【0055】
以上により、吸収層14が洗浄耐性に乏しい材料であっても、被覆膜18を二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタンで形成した反射型マスク100であれば、射影効果を悪化させず、洗浄耐性が良好であるため、長寿命で転写性能の高い反射型マスクとなることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る反射型マスクは、半導体集積回路などの製造工程において、EUV露光によって微細なパターンを形成するために好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0057】
1…基板
2…多層反射膜
3…キャッピング層
4…吸収層
5…被覆膜
10…反射型フォトマスク
11…基板
12…多層反射膜
13…キャッピング層
14…吸収層
14a…吸収層パターン
15…裏面導電膜
16…反射部(反射層)
17…レジスト膜
17a…レジストパターン
18…被覆膜
100…反射型フォトマスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6