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7610351白ブドウ果汁及び白ブドウ果汁の製造方法、並びに飲料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】白ブドウ果汁及び白ブドウ果汁の製造方法、並びに飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/02 20060101AFI20241225BHJP
   C12G 1/00 20190101ALI20241225BHJP
   C12G 1/02 20060101ALI20241225BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
A23L2/02 A
C12G1/00
C12G1/02
A23L2/00 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020017100
(22)【出願日】2020-02-04
(65)【公開番号】P2021122220
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】榊原 正英
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】HUCKLEBERRY J. M. et al.,EVALUATION OF WINE GRAPES FOR SUITABILITY IN JUICE PRODUCTION',Journal of Food Quality,1990年,vol.13(1),pp.71-84
【文献】~秋を感じさせる白ぶどう「シャルドネ」の華やかな味わい~ 『素のままづくり シャルドネ 天然水仕立て 500mlPET』,ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社 ニュースリリース[online], 2015年10月07日(2024年6月24日検索),<https://www.pokkasapporo-fb.jp/company/news/release/151007_01.html>
【文献】シャルドネのジュース,KOBE WINERY[online], 2018年10月09日(2024年06月24日検索),<https://kobewinery.or.jp/news/1186/>
【文献】横塚弘毅,ワイン製造(その1),日本醸造協会誌,日本醸造協会,1999年11月15日,94巻11号,pp.868-878,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/94/11/94_11_868/_pdf/-char/ja
【文献】RAMEY.D et al,Effects of Skin Contact Temperature on Chardonnay Must and Wine Composition,American Journal of Enology and Viticulture,American Society for Enology and Viticulture,1986年01月01日,37巻2号,pp.99-106
【文献】白ワインの清涼感と上品な香りがジュースに 2020年・シャルドネのジュース, ラジトピ[online], 2020年11月10日(2024年01月29日検索),https://jocr.jp/raditopi/2020/11/10/178487/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、C12G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラボノイド型ポリフェノールの含有量が600ppm以上であり、
オレアノール酸の含有量が50ppb以上である、白ブドウ果汁。
【請求項2】
総ポリフェノールの含有量が700ppm以上である、請求項1に記載の白ブドウ果汁。
【請求項3】
カテキン及びエピカテキンの合計含有量が5ppm以上である、請求項1又は2に記載の白ブドウ果汁。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の白ブドウ果汁を含む、飲料。
【請求項5】
前記白ブドウ果汁が、濃縮果汁である、請求項4に記載の飲料。
【請求項6】
果実酒である、請求項4又は5に記載の飲料。
【請求項7】
ノンアルコール飲料である、請求項4又は5に記載の飲料。
【請求項8】
アルコール度数が1v/v%以上10v/v%以下である、請求項4~6のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項9】
白ブドウを除梗破砕する工程と、
前記工程で除梗破砕された白ブドウを60℃以上で時間以上加熱する、又は70℃以上で1時間以上加熱する工程と、を備える、白ブドウ果汁の製造方法。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか一項に記載の白ブドウ果汁、又は請求項9に記載の製造方法により得られた白ブドウ果汁を飲料に配合することを含む、飲料に優れた香味を付与する方法。
【請求項11】
白ブドウを除梗破砕する工程と、
前記工程で除梗破砕された白ブドウを60℃以上で時間以上加熱する、又は70℃以上で1時間以上加熱する工程と、を備える、白ブドウ果汁中のオレアノール酸を増加させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白ブドウ果汁及び白ブドウ果汁の製造方法、並びに飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ブドウ果汁は、ワインをはじめとする飲料の原料として用いられる。ブドウ果汁に含まれる成分及びその含有量は飲料の香味に影響を与えることから、様々な種類のブドウ果汁の開発が進められている。例えば、特許文献1には、モノテルペンアルコール配糖体を含んでなるブドウ果汁であって、モノテルペンアルコール配糖体の総和量が、Brix20度換算で7nM以上である、ブドウ果汁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-192652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、白ブドウ果汁は、一般的に、白ブドウを除梗破砕した後、直ちに搾汁することによって製造される。しかし、このような白ブドウ果汁を用いたワイン等の飲料は、うまみ及びボディー感、又は赤ワイン様の味の複雑さに劣ることがあり、飲料としての香味が充分ではなかった。また、白ブドウ果汁の配合量を多くすることで、ある程度うまみ及びボディー感が向上することもあるが、高コストになることのみならず、甘味が増加したりすることで優れた香味を得ることが難しい場合が多い。
【0005】
そこで、本発明は、飲料に優れた香味を付与できる白ブドウ果汁及び白ブドウ果汁の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、優れた香味を有する飲料を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フラボノイド型ポリフェノールの含有量が50ppm以上である、白ブドウ果汁に関する。
【0007】
本発明に係る白ブドウ果汁は、フラボノイド型ポリフェノールの含有量が所定量であるため、飲料に優れた香味を付与できる。
【0008】
一態様において、白ブドウ果汁は、総ポリフェノールの含有量が700ppm以上であってよい。これにより、飲料により一層優れた香味を付与できる。また、飲料に、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味も付与できる。
【0009】
一態様において、白ブドウ果汁は、カテキン及びエピカテキンの合計含有量が5ppm以上であってよい。
【0010】
本発明はまた、オレアノール酸の含有量が50ppb以上である、白ブドウ果汁にも関する。当該白ブドウ果汁は、オレアノール酸の含有量が所定量であるため、飲料に優れた香味を付与できる。
【0011】
本発明は更に、上記白ブドウ果汁を含む、飲料に関する。
【0012】
本発明に係る飲料は、フラボノイド型ポリフェノールの含有量が所定量である白ブドウ果汁、又はオレアノール酸の含有量が所定量である白ブドウ果汁を含むため、優れた香味を有する。
【0013】
一態様において、飲料に含まれる白ブドウ果汁は、濃縮果汁であってよい。
【0014】
一態様において、飲料は、果実酒であってよい。
【0015】
一態様において、飲料は、ノンアルコール飲料であってよい。
【0016】
一態様において、飲料は、アルコール度数が1v/v%以上10v/v%以下である飲料であってよい。
【0017】
本発明は更にまた、白ブドウを除梗破砕する工程と、上記工程で除梗破砕された白ブドウを60℃以上で1時間以上加熱する工程と、を備える、白ブドウ果汁の製造方法に関する。
【0018】
本発明に係る製造方法は、除梗破砕された白ブドウを所定温度で所定時間加熱する工程を備える。そのため、本発明に係る製造方法により得られた白ブドウ果汁は、飲料に優れた香味を付与できる。
【0019】
本発明は、上述した白ブドウ果汁、又は上述した製造方法により得られた白ブドウ果汁を飲料に配合することを含む、飲料に優れた香味を付与する方法と捉えることもできる。
【0020】
本発明は更に、白ブドウを除梗破砕する工程と、上記工程で除梗破砕された白ブドウを60℃以上で1時間以上加熱する工程と、を備える、白ブドウ果汁中のオレアノール酸を増加させる方法と捉えることもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、飲料に優れた香味を付与できる白ブドウ果汁及び白ブドウ果汁の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、優れた香味を有する飲料も提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
(白ブドウ果汁)
本実施形態に係る白ブドウ果汁は、フラボノイド型ポリフェノールの含有量が50ppm以上である。なお、本明細書において、「ppm」は、「mg/L」を意味する。
【0024】
白ブドウ果汁とは、白ブドウを利用して製造された果汁を意味する。白ブドウの品種としては、例えば、シャルドネ、ケルナー、リースリング、ソービニヨン・ブラン、ピノ・ブラン、甲州、マスカット、ナイアガラといったアントシアニンの赤色素を多く含まない品種が挙げられる。
【0025】
本明細書において、「総ポリフェノール」には、いわゆるポリフェノール(分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基を有する化合物)に加え、グアイアコール及びチロソールといったフェノール性ヒドロキシ基を一つ有する化合物を含むものとする。また、本明細書において、「非フラボノイド型ポリフェノール」とは、総ポリフェノールのうち、フラボノイド型ポリフェノール以外のものをいう。
【0026】
フラボノイド型ポリフェノールとしては、例えば、フラバノール類、フラボン類、イソフラボン類、アントシアニン類、フラバノン類、フラボノール類等及びそれら重合体が挙げられる。
【0027】
フラバノール類としては、具体的には、カテキン、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等が挙げられる。フラボン類としては、具体的には、フラボン、アピゲニン、ルテオニン、アピゲニニジン、ルテリオニジン、バイカレイン等が挙げられる。イソフラボン類としては、具体的には、ゲニステイン、ダイゼイン、ダイジン、グリシテイン、エクオール等が挙げられる。アントシアニン類としては、具体的には、ペラルゴニジン、シアニジン、ペツニジン、ペオニジン、ペチュニジン、デルフィニジン、マルビジン等が挙げられる。フラバノン類としては、具体的には、ナリジン、ヘスペリジン、リキリチゲン等が挙げられる。フラボノール類としては、具体的には、ケルセチン、ケンフェロール、ミリセチン等が挙げられる。
【0028】
本実施形態に係る白ブドウ果汁は、フラボノイド型ポリフェノールの含有量が、例えば、80ppm以上、100ppm以上、200ppm以上、300ppm以上、400ppm以上又は500ppm以上であってよく、好ましくは600ppm以上、700ppm以上、800ppm以上、900ppm以上又は1000ppm以上である。フラボノイド型ポリフェノールの含有量は、例えば、2000ppm以下、1500ppm以下、1200ppm以下、1100ppm以下又は1000ppm以下であってよい。フラボノイド型ポリフェノールの含有量が上記範囲にあると、飲料により一層優れた香味を付与できる白ブドウ果汁となる。また、フラボノイド型ポリフェノールの含有量が上記範囲にあると、飲料に、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味も付与できる白ブドウ果汁となる。
【0029】
フラボノイド型ポリフェノールの含有量は、例えば、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0030】
本実施形態に係る白ブドウ果汁は、カテキン及びエピカテキンの合計含有量が、例えば、1ppm以上又は2ppm以上であってよく、好ましくは5ppm以上、より好ましくは10ppm以上、15ppm以上、20ppm以上又は25ppm以上である。カテキン及びエピカテキンの合計含有量は、例えば、1000ppm以下、500ppm以下、50ppm以下、40ppm以下又は30ppm以下であってよい。カテキン及びエピカテキンの合計含有量が上記範囲にあると、飲料により一層優れた香味を付与できる白ブドウ果汁となる。
【0031】
カテキン及びエピカテキンの合計含有量は、例えば、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0032】
本実施形態に係る白ブドウ果汁は、非フラボノイド型ポリフェノールを含んでいてもよい。非フラボノイド型ポリフェノールとしては、具体的には、例えば、没食子酸、シリング酸、バニリン酸、ヒドロキシ桂皮酸、チロソール、レスベラトロール、バニリン、シナピルアルデヒド、エラグ酸、シンナミルアルコール、バニリルアルコール、クマリン、クルクミン、クロロゲン酸、リグナン等及びそれらの重合体が挙げられる。
【0033】
本実施形態に係る白ブドウ果汁は、総ポリフェノールの含有量が、例えば、200ppm以上、300ppm以上、400ppm以上、500ppm以上、600ppm以上又は700ppm以上であってよく、好ましくは800ppm以上、900ppm以上又は1000ppm以上である。総ポリフェノールの含有量は、例えば、2000ppm以下、1500ppm以下、1300ppm以下、1200ppm以下又は1000ppm以下であってよい。総ポリフェノールの含有量が上記範囲にあると、飲料により一層優れた香味を付与できる白ブドウ果汁となる。また、総ポリフェノールの含有量が上記範囲にあると、飲料に、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味も付与できる白ブドウ果汁となる。
【0034】
本実施形態における白ブドウ果汁は、フラボノイド型ポリフェノールの含有量が50ppm以上となるように調整すること以外は、常法にしたがって得ることができる。また、白ブドウ果汁は、後述する製造方法によって得てもよい。フラボノイド型ポリフェノールの含有量は、例えば、後述する製造方法の加熱工程における加熱温度及び/又は加熱時間を調整することにより、調整することができる。
【0035】
総ポリフェノールの含有量は、例えば、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0036】
本発明の他の実施形態に係る白ブドウ果汁は、オレアノール酸の含有量が50ppb以上である。なお、本明細書において、「ppb」は、「μg/L」を意味する。本実施形態に係る白ブドウ果汁は、オレアノール酸の含有量が上記範囲にあればよいが、更にフラボノイド型ポリフェノール、総ポリフェノール、並びにカテキン及びエピカテキンの合計含有量が、上述した範囲内にあってもよい。
【0037】
本実施形態に係る白ブドウ果汁は、オレアノール酸の含有量が、例えば、60ppb以上、70ppb以上、80ppb以上、90ppb以上又は100ppb以上であってよい。オレアノール酸の含有量は、例えば、1000ppb以下、900ppb以下、800ppb以下、700ppb以下、600ppb以下、500ppb以下、400ppb以下、300ppb以下又は200ppb以下であってよい。オレアノール酸の含有量が上記範囲にあると、飲料により一層優れた香味を付与できる白ブドウ果汁となる。また、オレアノール酸の含有量が上記範囲にあると、飲料に、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味も付与できる白ブドウ果汁となる。
【0038】
オレアノール酸の含有量は、例えば、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0039】
本実施形態における白ブドウ果汁は、オレアノール酸の含有量が50ppb以上となるように調整すること以外は、常法にしたがって得ることができる。また、本実施形態に係る白ブドウ果汁は、後述する製造方法によって得てもよい。オレアノール酸の含有量は、例えば、後述する製造方法の加熱工程における加熱温度及び/又は加熱時間を調整することにより、調整することができる。
【0040】
(白ブドウ果汁の製造方法)
本実施形態に係る白ブドウ果汁の製造方法は、白ブドウを除梗破砕する工程(以下、「除梗破砕工程」ともいう。)と、除梗破砕工程で除梗破砕された白ブドウを60℃以上で1時間以上加熱する工程(以下、「加熱工程」ともいう。)と、を備える。
【0041】
除梗破砕工程では、白ブドウの梗を取り除き、破砕する。白ブドウは、上述の白ブドウ果汁で説明したものと同様の態様を適用できる。白ブドウを破砕する程度は、特に限定されず、好ましくは果皮が破れる程度である。白ブドウを果皮が破れる程度に破砕することで、白ブドウの種子及び/又は果皮に含まれる成分が抽出されやすくなる。
【0042】
除梗破砕工程では、白ブドウを除梗破砕することによって、除梗破砕された白ブドウを得ることができる。除梗破砕された白ブドウは、例えば、白ブドウの種子及び/又は果皮と果汁とを含む混合物であってよい。混合物は、白ブドウの果肉を更に含んでいてよい。
【0043】
加熱工程では、除梗破砕工程で除梗破砕された白ブドウを、60℃以上で1時間以上加熱する。加熱する方法は特に限定されず、例えば、インキュベーターを用いて、攪拌しながら加熱する。加熱工程を経ることで、白ブドウの種子及び/又は果皮に含まれる成分が抽出されやすくなり、抽出された成分を果汁中に移行することができる。
【0044】
加熱工程における加熱時間は、1時間以上であればよく、好ましくは2時間以上、より好ましくは3時間以上、5時間以上、6時間以上、10時間以上、12時間以上、15時間以上又は20時間以上である。加熱時間は、例えば30時間以下、25時間以下又は20時間以下であってよい。加熱時間が上記範囲にあると、白ブドウの種子及び/又は果皮に含まれる成分がより一層抽出されやすくなり、抽出された成分を果汁中により多く移行することができる。そのため、飲料により一層優れた香味を付与できる白ブドウ果汁を得ることができる。また、加熱時間が上記範囲にあると、飲料に、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味も付与できる白ブドウ果汁を得ることができる。
【0045】
加熱工程における加熱温度は、60℃以上であればよく、好ましくは70℃以上又は80℃以上である。加熱温度は、例えば100℃以下、90℃以下又は85℃以下であってよい。加熱温度が上記範囲にあると、白ブドウの種子及び/又は果皮に含まれる成分がより一層抽出されやすくなり、抽出された成分を果汁中により多く移行することができる。そのため、飲料により一層優れた香味を付与できる白ブドウ果汁を得ることができる。また、加熱温度が上記範囲にあると、飲料に、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味も付与でき、更に香味劣化の少ない白ブドウ果汁を得ることができる。さらに、加熱温度が上記範囲にあると、白ブドウの種子及び/又は果皮に含まれるポリフェノールが多く抽出されるため、得られる白ブドウ果汁の色が濃くなり、さらに加熱すると抽出されたポリフェノールが酸化し窒素成分と糖が反応して赤色又は褐色を呈すようになる。
【0046】
本実施形態に係る白ブドウ果汁の製造方法は、除梗破砕工程及び加熱工程以外の工程として、冷却工程、搾汁工程、冷却保持工程、清澄工程、濃縮工程等を更に備えていてもよい。
【0047】
冷却工程は、除梗破砕された白ブドウの加熱工程の後に、室温程度まで冷却する工程である。冷却は、搾汁機の破損防止の他、品質保持や管理値のコントロールの観点から、除梗破砕された白ブドウを急速に冷却させることが好ましいが、冷却工程を経ずに搾汁工程に入ることも可能である。
【0048】
搾汁工程は、除梗破砕された白ブドウを搾る工程である。搾汁工程を経ることで、白ブドウの搾汁を得ることができる。
【0049】
冷却保持工程は、搾汁工程後の白ブドウ果汁を冷却保持する工程である。冷却保持工程における冷却保持温度は、例えば、-25℃以上、-10℃以上、-5℃以上又は0℃以上であってよく、20℃以下、10℃以下、5℃以下又は0℃以下であってよい。冷却保持工程における冷却保持時間は、例えば、12時間以上、1日以上、2日以上、3日以上又は5日以上であってよく、10日以下又は7日以下であってよい。
【0050】
清澄工程は、通常、酵素剤(例えば、ペクチナーゼ)等を添加することによる酵素処理や、遠心分離機、ろ過機等を用いた工程によって行われる。清澄工程を経ることで、不溶性成分を除き、濁度を低下させることができるため、透明な白ブドウ果汁を得ることができる。
【0051】
濃縮工程は、白ブドウの搾汁を濃縮する工程である。濃縮工程では、例えば、加熱、減圧若しくはその併用、又は凍結解凍等の手段により、白ブドウの搾汁を濃縮することができる。また濃縮中に生じた蒸留物の一部を濃縮後の液に戻すこともできる。濃縮の程度は、糖度示差屈折計によるBrix度数で表すことができる。濃縮の程度は、例えば、Brix度数30~70度であってよい。
【0052】
(濃縮果汁)
濃縮果汁は、一般に搾汁工程によって得た果汁を濃縮工程によって濃縮し、その後冷却、清澄化、ろ過等の工程を経て製造される。場合により冷却、清澄化、ろ過等の工程を省いたり、濃縮工程を複数回実施することもある。ここでいう濃縮果汁は、最終的に果汁飲料の日本農林規格平成25年12月24日農林水産省告示第3118号で定めるBrix30度以上のブドウ果汁を言うが、果汁飲料でいう濃縮果汁の規格基準に当てはまる場合に限るものではなく、アルコール分や酸味料等が調整されたものであってもよい。
【0053】
(飲料)
本実施形態に係る飲料は、上述の白ブドウ果汁を含む。白ブドウ果汁は、濃縮果汁であってもよい。
【0054】
本実施形態に係る飲料は、日本国酒税法(令和元年六月十四日時点)上の果実酒、その他の醸造酒、スピリッツ、甘味果実酒、リキュール又は雑酒に分類されるものが挙げられる。果実酒には、赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン、赤ワインと白ワインの中間の物性等のワインが含まれる。また、飲料は、炭酸飲料、果実飲料(例えば、果汁飲料)等の清涼飲料水であってもよい。
【0055】
本実施形態に係る飲料は、ワインテイスト飲料であってよい。ワインテイスト飲料とは、ワインのような味、香り及び色彩を呈するものであって、飲用の際にワインを飲用したような感覚を飲用者に与える飲料をいう。ワインテイスト飲料は、赤ワインのような味、香り及び色彩を呈するワインテイスト飲料(赤ワインテイスト飲料)であってよく、白ワインのような味、香り及び色彩を呈するワインテイスト飲料(白ワインテイスト飲料)であってよく、ロゼワインのような味、香り及び色彩を呈するワインテイスト飲料(ロゼワインテイスト飲料)であってよく、赤ワインと白ワインの中間の物性のワインのような味、香り及び色彩を呈するワインテイスト飲料(赤ワインと白ワインの中間の物性のワインテイスト飲料)であってよい。
【0056】
本実施形態に係る飲料は、RTD(Ready To Drink)又はRTS(Ready To Serve)の形態であってもよい。RTSは、氷、水、湯等で割ることにより飲用されるものである。
【0057】
本実施形態に係る飲料は、アルコール度数が1v/v%以上であるアルコール飲料であってもよく、アルコール度数が1v/v%未満であるノンアルコール飲料であってもよい。なお、本明細書においてアルコールとは、特に言及しない限りエタノールを意味する。
【0058】
アルコール飲料のアルコール度数は、特に制限されず、例えば、1v/v%以上、2v/v%以上、3v/v%以上、4v/v%以上、5v/v%以上、6v/v%以上、7v/v%以上、8v/v%以上、9v/v%以上又は10v/v%以上であってよい。また、アルコール飲料のアルコール度数は、例えば、20v/v%以下、15v/v%以下、12v/v%以下又は10v/v%以下であってよい。
【0059】
ノンアルコール飲料は、実質的にアルコールを含有しない飲料である。ノンアルコール飲料のアルコール度数は、1v/v%未満であればよく、0.5v/v%以下であってよく、0.1v/v%以下であってよく、0.005v/v%未満(0.00v/v%)であってもよい。
【0060】
本実施形態に係る飲料は、白ブドウ果汁の含有量が、例えば、0.1w/v%以上、1w/v%以上、3w/v%以上、5w/v%以上、10w/v%以上、15w/v%以上、20w/v%以上又は25w/v%以上であってよい。白ブドウ果汁の含有量は、例えば、100w/v%以下、50w/v%以下、40w/v%以下又は30w/v%以下であってよい。
【0061】
本実施形態に係る飲料は、フラボノイド型ポリフェノールの含有量が、例えば、50ppm以上又は100ppm以上であってよく、好ましくは150ppm以上、200ppm以上又は400ppm以上であってよく、より好ましくは500ppm以上、600ppm以上、700ppm以上又は800ppm以上である。フラボノイド型ポリフェノールの含有量は、例えば、2000ppm以下、1500ppm以下、1200ppm以下、1100ppm以下又は1000ppm以下であってよい。フラボノイド型ポリフェノールの含有量が上記範囲にあると、より一層優れた香味を有する飲料となる。また、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味も有する飲料となる。
【0062】
本実施形態に係る飲料は、カテキン及びエピカテキンの合計含有量が、例えば、1ppm以上又は2ppm以上であってよく、好ましくは5ppm以上又は10ppm以上である。カテキン及びエピカテキンの合計含有量は、例えば、200ppm以下、150ppm以下、100ppm以下、50ppm以下、30ppm以下、20ppm以下又は14ppm以下であってよい。カテキン及びエピカテキンの合計含有量が上記範囲にあると、より一層優れた香味を有する飲料となる。
【0063】
本実施形態に係る飲料は、非フラボノイド型ポリフェノールを含んでいてもよい。非フラボノイド型ポリフェノールとしては、具体的には、上述した成分が挙げられる。
【0064】
本実施形態に係る飲料は、総ポリフェノールの含有量が、例えば、200ppm以上又は300ppm以上であってよく、好ましくは500ppm以上又は600ppm以上、より好ましくは700ppm以上、800ppm以上又は900ppm以上である。総ポリフェノールの含有量は、例えば、2000ppm以下、1500ppm以下、1300ppm以下、1200ppm以下又は1000ppm以下であってよい。総ポリフェノールの含有量が上記範囲にあると、より一層優れた香味を有する飲料となる。また、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味も有する飲料となる。
【0065】
本発明の他の実施形態に係る飲料は、オレアノール酸の含有量が、例えば、6ppb以上、7ppb以上、8ppb以上、9ppb以上又は10ppb以上であってよい。オレアノール酸の含有量は、例えば、1000ppb以下、600ppb以下、500ppb以下、300ppb以下、100ppb以下、90ppb以下、80ppb以下、70ppb以下、60ppb以下、50ppb以下、40ppb以下、30ppb以下又は20ppb以下であってよい。オレアノール酸の含有量が上記範囲にあると、より一層優れた香味を有する飲料となる。また、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味も有する飲料となる。
【0066】
本実施形態に係る飲料のpHは、例えば、2.6以上、2.8以上、3.0以上、3.2以上、3.4以上、3.6以上、3.7以上、3.8以上、3.9以上又は4.0以上であってよい。飲料のpHは、例えば、4.8以下、4.6以下、4.4以下又は4.2以下であってよい。
【0067】
本実施形態に係る飲料の酸度は、例えば、酒石酸換算で、0.1w/v%以上、0.2w/v%以上又は0.5w/v%以上であってよい。飲料の酸度は、例えば、1.0w/v%以下、0.9w/v%以下、0.8w/v%以下又は0.7w/v%以下であってよい。酸度は、国税庁所定分析法(平成29年3月9日改正版)に基づいて、測定することができる。
【0068】
本実施形態に係る飲料のエキス分は、例えば、0.1w/v%以上、0.5w/v%以上、1.0w/v%以上、1.2w/v%以上、1.4w/v%以上、1.6w/v%以上、1.8w/v%以上、2.0w/v%以上、2.2w/v%以上又は2.4w/v%以上であってよい。飲料のエキス分は、例えば、4.0w/v%以下、3.5w/v%以下又は3.0w/v%以下であってよい。エキス分は、国税庁所定分析法(平成29年3月9日改正版)に基づいて、測定することができる。
【0069】
本実施形態に係る飲料は、波長420nmの吸光度が0.35未満であることが好ましい。波長420nmの吸光度が上記範囲内にあると、外観がより好ましい飲料となる。同様に、本実施形態に係る飲料は、波長530nmの吸光度が0.15未満であることが好ましい。波長530nmの吸光度が上記範囲内にあると、外観がより好ましい飲料となる。本実施形態に係る飲料は、波長420nmの吸光度、及び波長530nmの吸光度のいずれもが上記範囲内にあることがより好ましい。
【0070】
本実施形態に係る飲料は、本発明の効果を損なわない範囲において、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、酸味料、着色料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、塩類、食物繊維及び増粘多糖類、pH調整剤、保存料等を使用することができる。
【0071】
酸味料としては、例えば、リン酸、乳酸、DL-リンゴ酸、クエン酸、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸ナトリウム等が挙げられる。着色料としては、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、果汁色素、野菜色素、合成色素等が挙げられる。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース等が挙げられる。高甘味度甘味料としては、例えば、アセスルファムカリウム(アセスルファムK)、スクラロース、グリチルリチン及びグルチルリチンを含有する甘味料(例えば、甘草製剤等)、ステビア、ネオテーム、アスパルテーム、アリテームサッカリン、サッカリンナトリウム、リチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ソーマチン、モネリン等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール等が挙げられる。香料としては、ワインフレーバー等が挙げられる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウム、炭酸カリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム等が挙げられる。食物繊維及び増粘多糖類としては、例えば、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、難消化性グルカン、グリコーゲン、デンプン、微結晶セルロース、ジェランガム、カラギーナン、寒天等が挙げられる。pH調整剤としては、食品に添加できる酸又はアルカリを用いることができる。保存料としては、例えば、安息香酸ナトリウム、脂肪酸エステル、ピロ亜硫酸カリウム等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0072】
本実施形態に係る飲料は、発酵飲料であってもよく、非発酵飲料であってもよい。発酵飲料は、酵母等による発酵を経て製造されるものである。非発酵飲料は、酵母等による発酵を行わずに製造されるものである。
【0073】
本実施形態に係る飲料は、非発泡性であってもよく、発泡性であってもよい。ここで、非発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm)未満であることをいい、発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm)以上であることをいう。発泡性とする場合、ガス圧の上限は0.294MPa(3.0kg/cm)程度としてもよい。
【0074】
本実施形態に係る飲料は、容器に入れて提供することができる。容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器等を適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、ガラス製又は金属製の容器を適用することが好ましく、さらに褐色ガラス製又は金属製の容器を用いることで、光線も完全に遮断しより安定した品質を保つことができる。
【0075】
本実施形態における飲料は、上述の白ブドウ果汁を配合すること以外は、常法にしたがって得ることができる。
【0076】
一実施形態における飲料の製造方法は、例えば、飲料の原料、白ブドウ果汁及び水を配合する方法であってよい。
【0077】
飲料としては、例えば、日本国酒税法(令和元年六月十四日時点)上の果実酒、その他の醸造酒、スピリッツ、甘味果実酒、リキュール又は雑酒に分類されるものが挙げられる。また、これらに水、酸類等が既に添加された加工品であってもよい。果実酒や甘味果実酒のようなワインにおいては、形態は特に限定されず、白ワインであってもよく、赤ワインであってもよく、ロゼワインであってもよく、白ワインと赤ワインの中間の物性のワインであってよい。また、飲料として、炭酸飲料、非炭酸飲料、果実飲料(例えば、果汁飲料)等の清涼飲料水であってもよい。
【0078】
飲料の原料として、濃縮果汁を用いることもできる。濃縮果汁とは、ブドウ果汁を濃縮して製造した果汁をいう。ブドウの種類は特に限定されず、例えば、茶色、緑色又は黄色の果肉を有するブドウ(白ブドウ果汁用のブドウ)であってよい。ブドウの果汁を濃縮する方法は、例えば、常圧若しくは減圧下で加熱する方法、逆浸透による方法、又は凍結解凍による方法であってよい。ブドウ濃縮果汁を発酵させる方法は、例えば、ブドウ濃縮果汁を、果汁転化糖分換算で12~23w/v%まで水で希釈した後、酵母を添加し、発酵させる方法であってよい。濃縮果汁で製造した飲料としては、例えば、濃縮還元ぶどう果汁白色ワイン等が挙げられる。果汁転化糖分は、山梨県ワイン酒造組合 平成28年発行山梨県ワイン製造マニュアル(34ページ,第3章,果汁の改良)に記載の方法に基づいて、測定することができる。
【0079】
他の実施形態における飲料の製造方法は、例えば、白ブドウ果汁に酵母を添加して発酵させる方法であってもよい。
【0080】
上記いずれの実施形態に係る製造方法においても、各種添加剤(例えば、酸味料、着色料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、塩類、食物繊維及び増粘多糖類、pH調整剤、保存料等)の添加、アルコールの添加、炭酸水の添加、カーボネーション等を行ってよい。
【0081】
(飲料に優れた香味を付与する方法)
本発明に係る白ブドウ果汁は、飲料に優れた香味を付与できる。したがって、本発明は、本発明に係る白ブドウ果汁(本発明に係る白ブドウ果汁の製造方法により得られた白ブドウ果汁を含む。)を飲料に配合することを含む、飲料に優れた香味を付与する方法と捉えることもできる。本実施形態に係る方法によればまた、飲料に、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味も付与することができる。本実施形態に係る方法の具体的態様としては、上述した実施形態に係る態様を特に制限なく適用することができる。
【0082】
(白ブドウ果汁中のオレアノール酸を増加させる方法)
本発明に係る白ブドウ果汁の製造方法は、上述した加熱工程を備えているため、得られる白ブドウ果汁中のオレアノール酸の含有量を増加させることができる。したがって、本発明は、白ブドウを除梗破砕する工程と、上記工程で除梗破砕された白ブドウを60℃以上で1時間以上加熱する工程と、を備える、白ブドウ果汁中のオレアノール酸を増加させる方法と捉えることもできる。本実施形態に係る方法の具体的態様としては、上述した実施形態に係る態様を特に制限なく適用することができる。
【実施例
【0083】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0084】
〔試験例1:果汁の調製〕
(果汁1)
白ブドウ(北海道産ケルナー種)の梗を取り除き、果皮が破れる程度につぶした。これを5℃の冷蔵庫で20時間保持した後、搾汁した。遠心分離を行い、果汁1を得た。
【0085】
(果汁2~11)
白ブドウ(北海道産ケルナー種)の梗を取り除き、果皮が破れる程度につぶした。これを、軽く撹拌しながら速やかに所定温度(表1に記載の各温度)まで、当該温度が超えないよう加熱昇温し、インキュベーターにて所定温度を所定時間(表1に記載の各時間)維持した。その後、速やかに室温まで冷却し、直ちに搾汁した。遠心分離を行い、果汁2~11を得た。
【0086】
【表1】
【0087】
(果汁12及び13)
ソービニヨンブラン種主体のブドウを工場の搾汁機を用い5℃~20℃で搾汁し、得た果汁を減圧加熱でBrix68°に濃縮することで濃縮ぶどう果汁とした(以下、通常白ブドウ濃縮果汁)。これを果汁転化糖分換算で23w/v%に希釈したものを、果汁12とした。ソービニヨンブラン種主体のブドウを工場の大型製造設備を用い70~80℃20時間の加熱工程を経てから搾汁し、得た果汁を減圧加熱でBrix68°に濃縮することで濃縮ぶどう果汁とした(以下、高ポリフェノール白ブドウ濃縮果汁)。これを果汁転化糖分換算で23w/v%に希釈したものを、果汁13とした。また、カベルネソービニヨン主体の赤ブドウを約80℃2時間の加熱工程を経てから搾汁し、得た果汁を減圧加熱でBrix68°に濃縮することで濃縮ぶどう果汁とした(以下、通常赤ブドウ濃縮果汁)。
【0088】
【表2】
【0089】
果汁1~13について、総ポリフェノール濃度、フラボノイド型ポリフェノール濃度、並びに、カテキン及びエピカテキンの合計濃度(カテキン+エピカテキン)を測定した。また、果汁1~11について、オレアノール酸濃度を測定した。結果を表1及び2に示す。
【0090】
<総ポリフェノールの分析>
総ポリフェノールは、非特許文献(V.L.Singleton,and C.Kramer. Am.J. Enol. And Vitic.22:161-166(1971))に記載の方法を参考にして、分析した。より具体的には、総ポリフェノール濃度10~50mg/Lに希釈したサンプル溶液1mlに、10倍希釈したFolin-Ciocalteu試薬5ml及び75g/L炭酸ナトリウム溶液4mlを加えて、室温で2時間反応させた。反応後、分光光度計を用いて765nmの吸光度を測定した。蒸留水を対照として、10~50mg/L無水没食子酸の水溶液を検量線に用い、没食子酸換算の値を、総ポリフェノール濃度とした。
【0091】
<フラボノイド型ポリフェノールの分析>
フラボノイド型ポリフェノールは、上述の総ポリフェノールの分析で参考にした非特許文献と同様の文献を参考にして、分析した。より具体的には、サンプル溶液10ml、15%塩酸5ml及び120g/Lホルムアルデヒド5mlを攪拌混合し、室温で1晩静置した。その後、遠心分離し、上澄みを0.45μmメンブランフィルターでろ過した。ろ液について、上述の総ポリフェノールの分析と同様の方法で分析し、ノンフラボノイド型ポリフェノール濃度を測定した。総ポリフェノール濃度から、ノンフラボノイド型ポリフェノール濃度を差し引いた値を、フラボノイド型ポリフェノール濃度とした。
【0092】
<カテキン及びエピカテキンの分析>
各サンプルを、超純水で5倍希釈し、0.45μmの親水性混合セルロースメンブランフィルターでろ過したものを測定試料とした。測定にはHPLC(Agilent1260、アジレントテクノロジー社製)を用いた。その測定条件は下記のとおりとした。
カラム:WakoPak Navi C18-5(4.6×150mm(富士フィルム和光純薬株式会社製))
注入量:10μL
流量:1mL/分
移動相A:超純水:リン酸:アセトニトリル=1000:2.5:25(v/v/v)
移動相B:移動相Aとメタノールを5:1で混合
移動相A90%移動相B10%から移動相A5%移動相B95%に30分で切り替える勾配をかけ、成分を分離した。
カラム温度:40℃
検出器:蛍光検出器 励起波長280nm、蛍光波長310nm
得られたクロマトグラフのピークの面積から成分濃度を計算した。
【0093】
<オレアノール酸の分析>
各サンプルを、メタノールで5倍又は20倍希釈し、0.45μmの親水性PTFEメンブランフィルターでろ過したものを測定試料とした。測定にはLC/MS/MS(Xevo TQ-XS、Waters社製)を用いた。その測定条件は下記のとおりとした。
カラム:HSS T3(2.1×100mm,1.8μm(Waters社製))
注入量:1μL
流量:0.4mL/分
移動相A:0.1%ギ酸水溶液
移動相B:アセトニトリル
グラジエント分析で、成分を分離した。
カラム温度:40℃
検出器:Zspray nega m/z455.3923>97.0506
Cone Voltage100V、Collision Voltage52V
得られたクロマトグラフのピークの面積から成分濃度を計算した。
【0094】
〔試験例2:ワインの調製及び評価〕
<ワインの調製>
(飲料1-1~1-10)
容器に、果汁1~7及び9~11を分注し、酒石酸で酸度を同じになるように調節し、乾燥酵母PdM及びリン酸二アンモニウムを添加して20℃で発酵させた。発酵は、糖分がほぼなくなり、発酵が止まるまで行った。発酵終了後、遠心分離を行い、飲料1-1~1-10(飲料の種類:ワイン、アルコール濃度:9v/v%、エキス分:2.5w/v%、酸度:0.9w/v%)を得た。
【0095】
飲料1-1~1-10について、分光光度計を用いて波長420nm及び波長530nmの吸光度を測定した。結果を表3に併せて示す。これらの波長の吸光度は、飲料の外観の指標となり、具体的には、波長420nmの吸光度が0.35未満であると飲料の外観として適当であり、また波長530nmの吸光度が0.15未満であると飲料の外観として適当であることを示す。
【0096】
【表3】
【0097】
(飲料1-11~1-13)
果汁12(通常白ブドウ濃縮果汁を水で果汁転化糖分換算で23w/v%まで希釈したもの)及び13(高ポリフェノール白ブドウ濃縮果汁を水で果汁転化糖分換算で23w/v%まで希釈したもの)を使用して、飲料1-1と同様にして、飲料1-11及び1-12を得た(飲料の種類:ワイン、アルコール濃度:12v/v%、エキス分:3w/v%、酸度:0.8w/v%)。また、通常赤ブドウ濃縮果汁を水で果汁転化糖分換算で23w/v%まで希釈したものを使用して、飲料1-11と同様に発酵して得た赤ワインを飲料1-12と同程度の総ポリフェノール量、アルコール、エキス分、酸度になるように、飲料1-11と混合して飲料1-13を得た(飲料の種類:赤ワイン、アルコール濃度:12v/v%、エキス分:3w/v%、酸度:0.8w/v%)。
【0098】
【表4】
【0099】
飲料1-1~1-13について、試験例1と同様にして、総ポリフェノール濃度、フラボノイド型ポリフェノール濃度、並びに、カテキン及びエピカテキンの合計濃度(カテキン+エピカテキン)を測定した。結果を表3及び4に示す。
【0100】
<官能評価>
飲料1-1~1-13の官能評価は、選抜された識別能力のあるパネル8名が、「香の複雑性」、「うまみ及びボディー感」、「赤ワイン様の味の複雑さ」、「白ワイン様の酸味」、並びに「総合評価」を評価することにより行った。結果を表3及び4に示す。なお、官能評価は、いずれの評価項目も-4~4の9段階で評価し、その平均値を評価スコアとした。
【0101】
「香の複雑性」はブドウの特徴やおいしさを誘引し、調合原料としても使用することができ得る香であり、評点が高いほど果実の加熱に伴う劣化臭は無く、好ましい香の複雑性を感じることを示す。「うまみ及びボディー感」は、飲んだ時に感じる美味しさやコクであり、評点が高いほど好ましいうまみ及びボディー感を強く感じることを示す。「赤ワイン様の味の複雑さ」は、赤ワインらしい複雑さを感じる香味の感覚であり、評点が高いほど好ましい赤ワイン様の味の複雑さを強く感じることを示す。「白ワイン様の酸味」は、白ワインらしいすっきりとした酸味であり、評点が高いほど好ましい白ワイン様の酸味を強く感じることを示す。「総合評価」は、飲料としての香味のバランスであり、評点が高いほど果実の加熱処理に伴う品質劣化は無く、好ましい飲料としての香味を感じることを示す。
【0102】
なお、飲料1-2~1-10については、飲料1-1の評点を0点として固定し、これを基準として評価した。飲料1-12及び1-13については、飲料1-11の評点を0点として固定し、これを基準として評価した。
【0103】
表3及び4に示すとおり、果汁2~7、9~11及び13は、ワインに優れた香味を付与できることが示された。
【0104】
飲料1-2及び1-3を比較すると、果汁の製造工程における加熱温度が高いほど、ワインに、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味を、より一層付与できる果汁が得られることが示された。飲料1-3及び1-8~1-10を比較すると、果汁の製造工程における加熱温度が70℃である場合には、加熱時間が12時間であるときに、ワインに、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味を、より一層付与できる果汁が得られることが示された。飲料1-4~1-7を比較すると、果汁の製造工程における加熱温度が80℃である場合には、加熱時間が12時間であるときに、ワインに香の複雑性、赤ワイン様の味の複雑さをより一層付与できる果汁が得られることが示された。飲料1-11及び1-12を比較すると、濃縮された果汁を用いた場合であっても、希釈後の果汁のフラボノイド型ポリフェノールの含有量が50ppm以上であれば、ワインに優れた香味を付与できることが示された。
【0105】
〔試験例3:ノンアルコール飲料の調製及び評価〕
(飲料2-1~2-11)
果汁1~11を果実飲料の日本農林規格令和元年度6月27日農林水産省告示第475号に基づき果汁比率25%になるように配合し、さらに水、酒石酸及びワイン香料(アルコールを含有しない香料)を配合することで、飲料2-1~2-11(飲料の種類:ノンアルコール飲料、白ブドウ果汁の含有量:25w/v%、酸度:0.17w/v%)を得た。
【0106】
使用した果汁の総ポリフェノール濃度から飲料2-1~2-11の総ポリフェノール濃度を算出した。また、試験例2と同様にして官能評価を実施した。その結果を表5及び6に示す。
【0107】
なお、官能評価では、飲料2-1の評点を0点として固定し、これを基準として飲料2-2~2-11を評価した。
【0108】
【表5】
【0109】
【表6】
【0110】
表5及び6に示すとおり、果汁2~11は、ノンアルコール飲料に優れた香味を付与できることが示された。
【0111】
飲料2-2、2-3及び2-8を比較すると、果汁の製造工程における加熱温度が高いほど、ノンアルコール飲料に、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味を、より一層付与できる果汁が得られることが示された。飲料2-3及び2-9~2-11を比較すると、果汁の製造工程における加熱温度が70℃である場合には、加熱時間が12時間であるときに、ノンアルコール飲料に、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、白ワイン様の酸味、並びに飲料としての香味を、より一層付与できる果汁が得られることが示された。飲料2-4~2-8を比較すると、果汁の製造工程における加熱温度が80℃である場合には、加熱時間が長いほど、ノンアルコール飲料に、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味を、より一層付与できる果汁が得られることが示された。
【0112】
〔試験例4:リキュールの調製及び評価〕
果汁1、5及び8を果実飲料の日本農林規格令和元年度6月27日農林水産省告示第475号に基づき果汁比率25%になるように配合し、さらに原料用アルコール、水、酒石酸及びワイン香料(アルコールを含有しない香料)を配合することで、飲料3-1~3-3(種類:リキュール、白ブドウ果汁の含有量:25w/v%、アルコール濃度:5v/v%、エキス分:3.0w/v%、酸度:0.17w/v%)を得た。
【0113】
使用した果汁の総ポリフェノール濃度から飲料3-1~3-3の総ポリフェノール濃度を算出した。また、試験例2と同様にして官能評価も実施した。結果を表7に示す。
【0114】
なお、官能評価では、飲料3-1の評点を0点として固定し、これを基準として飲料3-2及び3-3を評価した。
【0115】
【表7】
【0116】
表7に示すとおり、果汁5及び8は、リキュールに優れた香味を付与できることが示された。
【0117】
飲料3-2及び3-3を比較すると、果汁の製造工程における加熱時間が長いほど、リキュールに、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、白ワイン様の酸味、並びに飲料としての香味を、より一層付与できる果汁が得られることが示された。また、リキュールの総ポリフェノール濃度が高いほど、香の複雑性、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、白ワイン様の酸味、並びに飲料としての香味に優れていた。
【0118】
〔試験例5:果汁の調製〕
(果汁4-1)
白ブドウ(シャルドネ種)のの梗を取り除き、果皮が破れる程度につぶした。これを5℃の冷蔵庫で20時間保持した後、搾汁した。遠心分離を行い、果汁4-1を得た。
【0119】
(果汁4-2~4~12)
白ブドウ(シャルドネ種)の梗を取り除き、果皮が破れる程度につぶした。これを、軽く撹拌しながら速やかに所定温度(表8に記載の各温度)まで、当該温度が超えないよう加熱昇温し、インキュベーターにて所定温度を所定時間(表8に記載の各時間)維持した。その後、速やかに室温まで冷却し、直ちに搾汁した。遠心分離を行い、果汁4-2~4-12を得た。
【0120】
果汁4-1~4-12について、試験例1と同様にして、総ポリフェノール濃度、フラボノイド型ポリフェノール濃度、並びに、カテキン及びエピカテキンの合計濃度(カテキン+エピカテキン)を測定した。結果を表8に示す。
【0121】
【表8】
【0122】
〔試験例6:ワインの調製及び評価〕
<ワインの調製>
(飲料5-1~5-12)
容器に、果汁4-1~4-12を分注し、乾燥酵母PdM及びリン酸二アンモニウムを添加して20℃で発酵させた。発酵は、糖分がほぼなくなり、発酵が止まるまで行った。発酵終了後、遠心分離を行い、飲料5-1~5-12(飲料の種類:ワイン、アルコール濃度:9v/v%、エキス分:2.3w/v%、酸度:0.8w/v%、pH3.6)を得た。
【0123】
飲料5-1~5-12について、試験例2と同様にして、分光光度計を用いて420nm及び530nmの吸光度を測定した。また、飲料5-1~5-12について、試験例1と同様にして、総ポリフェノール濃度、フラボノイド型ポリフェノール濃度、並びに、カテキン及びエピカテキンの合計濃度(カテキン+エピカテキン)を測定した。
【0124】
<官能評価>
飲料5-1~5-12の官能評価は、試験例2と同様にして実施した。なお、官能評価では、飲料5-1の評点を0点として固定し、これを基準として飲料5-2~5-12を評価した。結果を表9に併せて示す。
【0125】
【表9】
【0126】
表9に示すとおり、果汁4-2~4-12は、ワインに優れた香味を付与できることが示された。
【0127】
飲料5-2~5-4を比較すると、果汁の製造工程における加熱温度が高いほど、ワインに、香の複雑性、うまみ及びボディー感、並びに赤ワイン様の味の複雑さを、より一層付与できる果汁が得られることが示された。飲料5-3及び5-5~5-8を比較すると、果汁の製造工程における加熱温度が70℃である場合には、加熱時間が12時間であるときに、ワインに、香の複雑性、うまみ及びボディー感、並びに赤ワイン様の味の複雑さを、より一層付与できる果汁が得られることが示された。飲料5-4及び5-9~5-12を比較すると、果汁の製造工程における加熱温度が80℃である場合には、加熱時間が12時間であるときに、ワインに、うまみ及びボディー感、赤ワイン様の味の複雑さ、並びに白ワイン様の酸味を、より一層付与できる果汁が得られることが示された。