(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】油中水型乳化化粧料用基剤及び該基剤を含む油中水型乳化化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20241225BHJP
A61K 8/891 20060101ALI20241225BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20241225BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20241225BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20241225BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20241225BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20241225BHJP
A61Q 17/04 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/891
A61K8/37
A61K8/06
A61Q1/02
A61Q19/10
A61Q5/00
A61Q17/04
(21)【出願番号】P 2020119392
(22)【出願日】2020-07-10
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友香
(72)【発明者】
【氏名】園山 悠治
(72)【発明者】
【氏名】宇山 允人
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-113296(JP,A)
【文献】特開平10-053625(JP,A)
【文献】特開2003-212744(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098456(WO,A1)
【文献】特開2003-238348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン油、
極性油、並びに、
親水性モノマーから構成されるモノマー単位、及び下記の式4の疎水性モノマーから構成されるモノマー単位を有する油溶性共重合体、
を含み、
前記親水性モノマーが、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリセリル、(メタ)アクリル酸PPG-6、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル、及び下記の式2から選択される少なくとも一種であり、
前記シリコーン油が、50質量%以上含まれている、
油中水型乳化化粧料用基剤
:
【化1】
式2中、
R
3は、水素原子又はメチル基であり、かつ
R
4は、炭素原子数1~4の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基、又は下記の式3の置換基である。
【化2】
【化3】
式4中、
R
5は、炭素原子数16~22の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、かつ
R
6は、水素原子又はメチル基である。
【請求項2】
シリコーン油、
極性油、並びに、
親水性モノマーから構成されるモノマー単位、及び下記の式4の疎水性モノマーから構成されるモノマー単位を有する油溶性共重合体、
を含み、
前記親水性モノマーが、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリセリル、(メタ)アクリル酸PPG-6、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル、及び下記の式2から選択される少なくとも一種であり、
前記シリコーン油と前記極性油との質量比が、9:1~4:1である、
油中水型乳化化粧料用基剤
:
【化4】
式2中、
R
3は、水素原子又はメチル基であり、かつ
R
4は、炭素原子数1~4の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基、又は下記の式3の置換基である。
【化5】
【化6】
式4中、
R
5は、炭素原子数16~22の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、かつ
R
6は、水素原子又はメチル基である。
【請求項3】
前記式2のモノマーが、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、及び2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸から選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の基剤。
【請求項4】
前記式4のモノマーが、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、及び(メタ)アクリル酸ベヘニルから選択される少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の基剤。
【請求項5】
前記油溶性共重合体において、前記親水性モノマーのモノマー単位が、30~50モル%の範囲で含まれており、前記疎水性モノマーのモノマー単位が、50~70モル%の範囲で含まれている、請求項1~4のいずれか一項に記載の基剤。
【請求項6】
前記シリコーン油が、ジメチルシリコーン、メチルフェニルポリシロキサン、及び環状ポリシロキサンから選択される少なくとも一種である、請求項1~5のいずれか一項に記載の基剤。
【請求項7】
前記極性油は、IOB値が0.10以上の極性油である、請求項1~6のいずれか一項に記載の基剤。
【請求項8】
前記極性油が、オクチルメトキシシンナメート、ジピバリン酸トリプロピレングリコール、エチルヘキサン酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、及びサリチル酸オクチルから選択される少なくとも一種である、請求項7に記載の基剤。
【請求項9】
前記シリコーン油が、50質量%以上含まれている、請求項2に記載の基剤。
【請求項10】
前記シリコーン油と前記極性油との質量比が、9:1~4:1である、請求項1に記載の基剤。
【請求項11】
水を添加したときに増粘する、請求項1~10のいずれか一項に記載の基剤。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の基剤と、
前記基剤中に分散し、かつ、水を含む水滴と、
を含む、
油中水型乳化化粧料。
【請求項13】
前記油溶性共重合体の含有量が、0.1質量%以上である、請求項12に記載の化粧料。
【請求項14】
前記シリコーン油の含有量が、10質量%以上である、請求項12又は13に記載の化粧料。
【請求項15】
顔料をさらに含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の化粧料。
【請求項16】
ファンデーションとして使用される、請求項15に記載の化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、油中水型乳化化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、化粧料の分野では、肌に対し、油分及び油溶性成分のみならず、水分及び水溶性成分を付与することができる油中水型乳化化粧料が使用されている。そして、化粧料の使用性等を改良するために、油中水型乳化化粧料において、増粘又はゲル化させる試みが検討されている。
【0003】
特許文献1には、(A)6~40質量%の紫外線吸収剤、(B)ベントン等の有機変性粘土鉱物、(C)0.1~15質量%の前記(B)以外の油相増粘剤、(D)0.1~8質量%のHLBが8未満のシリコーン系界面活性剤、(E)球状樹脂粉末、及び(F)揮発性シリコーン油を含有し、[(B)成分と(C)成分との合計量]/[(G)シリコーン油以外の不揮発性液状油分の合計量]の比率が0.04以上0.68未満である、油中水型乳化日焼け止め化粧料が開示されている。
【0004】
特許文献2には、特定の疎水性モノマーと特定の親水性モノマーとから構成される共重合体からなる油性ゲル化剤、及び炭化水素油等の油分を含む、油中水型乳化化粧料が開示されている。
【0005】
特許文献3には、易結晶性の疎水性モノマーと、難結晶性の疎水性モノマーと、親水性モノマーとから構成される共重合体からなる化粧料用オイル増粘剤、及び炭化水素油等の油分を含む、油中水型乳化化粧料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-210492号公報
【文献】国際公開第2016/098456号
【文献】特開2019-206515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シリコーン油を増粘させる場合、一般的には、特許文献1に記載されるようなベントンなどの有機変性粘土鉱物が使用されてきた。
【0008】
特許文献2及び3に記載される特定のモノマーから構成される共重合体は、油性ゲル化剤又はオイル増粘剤として使用し得ることが知られているが、かかる共重合体は、シリコーン油に対する相溶性が低いため、典型的には、シリコーン油を含む油中水型乳化化粧料などの増粘剤又はゲル化剤としては使用されていない。
【0009】
このため、種々の化粧料に対応できるように、シリコーン油を含む系の増粘に関するバリエーションを増やすことが望まれていた。
【0010】
したがって、本開示の主題は、シリコーン油を含む油中水型乳化化粧料を増粘させることが可能な新規な基剤、及び該基剤を用いて増粘させたシリコーン油を含む油中水型乳化化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〈態様1〉
シリコーン油、
極性油、並びに、
下記の式1及び式2から選択される少なくとも一種の親水性モノマーから構成されるモノマー単位、及び下記の式4の疎水性モノマーから構成されるモノマー単位を有する油溶性共重合体、
を含む、
油中水型乳化化粧料用基剤:
【化1】
式1中、
R
1は、水素原子、グリセリル基、炭素原子数1~4の直鎖状若しくは分岐状のヒドロキシアルキル基、又は-(C
3H
6O)
nHで示され、nが2~10の整数であるポリプロピレングリコール基であり、かつ
R
2は、水素原子又はメチル基であり、
【化2】
式2中、
R
3は、水素原子又はメチル基であり、かつ
R
4は、炭素原子数1~4の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基、又は下記の式3の置換基である。
【化3】
【化4】
式4中、
R
5は、炭素原子数16~22の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、かつ
R
6は、水素原子又はメチル基である。
〈態様2〉
前記式1のモノマーが、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリセリル、(メタ)アクリル酸PPG-6、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル、及び(メタ)アクリル酸から選択される少なくとも一種であり、かつ、前記式2のモノマーが、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、及び2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸から選択される少なくとも一種である、態様1に記載の基剤。
〈態様3〉
前記式4のモノマーが、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、及び(メタ)アクリル酸ベヘニルから選択される少なくとも一種である、態様1又は2に記載の基剤。
〈態様4〉
前記油溶性共重合体において、前記親水性モノマーのモノマー単位が、30~50モル%の範囲で含まれており、前記疎水性モノマーのモノマー単位が、50~70モル%の範囲で含まれている、態様1~3のいずれかに記載の基剤。
〈態様5〉
前記シリコーン油が、ジメチルシリコーン、メチルフェニルポリシロキサン、及び環状ポリシロキサンから選択される少なくとも一種である、態様1~4のいずれかに記載の基剤。
〈態様6〉
前記極性油は、IOB値が0.10以上の極性油である、態様1~5のいずれかに記載の基剤。
〈態様7〉
前記極性油が、オクチルメトキシシンナメート、ジピバリン酸トリプロピレングリコール、エチルヘキサン酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、及びサリチル酸オクチルから選択される少なくとも一種である、態様6に記載の基剤。
〈態様8〉
前記シリコーン油が、50質量%以上含まれている、態様1~7のいずれかに記載の基剤。
〈態様9〉
前記シリコーン油と前記極性油との質量比が、9:1~4:1である、態様1~8のいずれかに記載の基剤。
〈態様10〉
水を添加したときに増粘する、態様1~9のいずれかに記載の基剤。
〈態様11〉
態様1~10のいずれかに記載の基剤と、
前記基剤中に分散し、かつ、水を含む水滴と、
を含む、
油中水型乳化化粧料。
〈態様12〉
前記油溶性共重合体の含有量が、0.1質量%以上である、態様11に記載の化粧料。
〈態様13〉
前記シリコーン油の含有量が、10質量%以上である、態様11又は12に記載の化粧料。
〈態様14〉
顔料をさらに含む、態様11~13のいずれかに記載の化粧料。
〈態様15〉
ファンデーションとして使用される、態様14に記載の化粧料。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、シリコーン油を含む油中水型乳化化粧料を増粘させることが可能な新規な基剤、及び該基剤を用いて増粘させたシリコーン油を含む油中水型乳化化粧料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は、シリコーン油から構成される連続相中に本開示の油溶性共重合体を配合した基剤の模式図であり、(b)は、(a)の基剤に水を添加して調製した油中水型乳化化粧料の模式図である。
【
図2】(a)は、シリコーン油及び極性油から構成される連続相中に本開示の油溶性共重合体を配合した基剤の模式図であり、(b)は、(a)の基剤に水を添加して調製した油中水型乳化化粧料の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0015】
本開示の油中水型乳化化粧料用基剤(単に「基剤」という場合がある。)は、シリコーン油、極性油、並びに、上記の式1及び式2から選択される少なくとも一種の親水性モノマーから構成されるモノマー単位、及び上記の式4の疎水性モノマーから構成されるモノマー単位を有する油溶性共重合体を含んでいる。
【0016】
原理によって限定されるものではないが、シリコーン油を含む基剤に対し、水を添加することで、増粘した油中水型乳化化粧料が得られる作用原理は以下のとおりであると考える。
【0017】
本開示の油溶性共重合体は、特許文献2に記載されているように、流動パラフィン等の炭化水素油、2-エチルヘキサン酸セチル等のエステル油に対し、増粘の一種であるゲル化を生じさせ得ることは知られている。しかしながら、この油溶性共重合体は、特許文献2に記載されているように、シリコーン油に対する相溶性が低いため、例えば、ジメチルポリシロキサン等のシリコーン油にこの油溶性共重合体を配合すると、
図1の(a)に示すように、油溶性共重合体11のポリマーのみの沈殿物が生じやすかった。
【0018】
そして、このような沈殿した状態の油溶性共重合体とシリコーン油を含む基剤に対して水を添加した場合、沈殿状態は解消されて乳化物を得ることはできるが、得られる油中水型乳化化粧料は、増粘しておらず、さらさらとした状態を呈しており、静置するとすぐに分離する不安定な乳化状態であった。これは、油溶性共重合体には、特定の親水性モノマーから構成される部位が存在するため、
図1の(b)に示されるように、水相(水滴13)と油相との界面付近に油溶性共重合体11が配置されると考えられる。その一方で、特定の疎水性モノマーから構成される部位は、相溶しづらいシリコーン油中には広がりにくく、かかる部位による油分を取り込むようなネットワーク構造が形成されにくいため、本開示の油溶性共重合体は、シリコーン油を含む油中水型乳化化粧料を増粘化させにくいと考えている。
【0019】
本開示の基剤は、シリコーン油に加えて極性油を含んでいる。この極性油は、油溶性共重合体の特定の疎水性モノマーから構成される部位と相溶しやすいが、例えば、シリコーン油を高度に含む油分中に油溶性共重合体及び極性油を配合しても、シリコーン油のみの場合と同様に、基剤の増粘効果に乏しく、場合によっては油の一部を含んだゲル又は膨潤した層が生じていた。しかしながら、本発明者は、このような基剤に対し、水を添加して油中水型乳化化粧料を調製すると、意外にも、かかる化粧料の場合には、増粘性を発現し得ることを見出した。
【0020】
シリコーン油と極性油を含む基剤において、油溶性共重合体の特定の疎水性モノマーから構成される部位は、油相としてシリコーン油のみを含む基剤の場合に比べて油相中に広がりやすくなるため、
図2の(a)に示すような、油溶性共重合体21が沈殿しているような箇所においても油分がある程度取り込まれ、ゲル又は膨潤した層が生じて局所的に増粘しているのかもしれないが、このような増粘作用は、基剤全体の増粘化には貢献していないと考えられる。一方、水を添加して乳化させた場合、乳化した水滴は系全体に分散し、それに伴い、水相と油相との界面付近に配置される油溶性共重合体も、系全体に分散することになると考えられる。そして、油溶性共重合体の特定の疎水性モノマーから構成される部位は、油相がシリコーン油のみの場合よりも、シリコーン油と極性油を含む場合の方が、油相中に広がりやすくなる結果、
図2の(b)に示すように、水滴23の周囲において広がった特定の疎水性モノマーから構成される部位が、水滴23を架橋点として、系全体にネットワーク構造を形成して油分を保持するため、シリコーン油を含む油中水型乳化化粧料を増粘化させ得ると考えている。
【0021】
また、本開示の基剤を用いて調製した油中水型乳化化粧料は、粘度が上昇することに加え、油相中に広がるように存在する疎水性モノマー単位が立体的な障害となり、隣接する水滴同士の合一を抑制するため、化粧料の乳化安定性が向上すると考えられる。
【0022】
本開示における用語の定義は以下のとおりである。
【0023】
本開示において「親水性モノマー」とは、水に任意の割合で溶解するモノマーを意図し、「疎水性モノマー」とは、それ以外のモノマー、即ち、基本的に水に混和しないモノマーを意図する。
【0024】
本開示において「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0025】
《油中水型乳化化粧料用基剤》
本開示の油中水型乳化化粧料用基剤は、シリコーン油、極性油、並びに、上述した式1及び式2から選択される少なくとも一種の親水性モノマーから構成されるモノマー単位、及び上述した式4の疎水性モノマーから構成されるモノマー単位を有する油溶性共重合体を含んでおり、水を添加したときに増粘する性能を有している。
【0026】
〈シリコーン油〉
本開示の基剤におけるシリコーン油の配合量としては特に制限はなく、例えば、基剤の全量に対し、50質量%以上、55質量%以上、又は60質量%以上とすることができ、また、80質量%以下、75質量%以下、又は70質量%以下とすることができる。
【0027】
あるいは、シリコーン油の配合量は、例えば、同時に配合する極性油の配合量よりも多くすることでき、具体的には、油分の全量に対し、55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、又は75質量%以上とすることができ、また、95質量%以下、90質量%以下、又は85質量%以下とすることができる。
【0028】
シリコーン油としては特に制限はなく、例えば、ジメチルシリコーン(「ジメチルポリシロキサン」又は「ジメチコン」と称する場合がある。);トリメチルペンタフェニルトリシロキサン、ジフェニルジメチコン、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン、フェニルトリメチコン、フェニルジメチコン等のメチルフェニルポリシロキサン(「メチルフェニルシリコーン」と称する場合がある。);オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等の環状ポリシロキサン(「環状シリコーン」と称する場合がある。);メチルハイドロジェンポリシロキサン;パーフルオロオクチルエチル/ジフェニルジメチコン等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、増粘性、乳化安定性等の観点から、ジメチルシリコーン、メチルフェニルポリシロキサン、及び環状ポリシロキサンから選択される少なくとも一種が好ましく、さらに、化粧持ち、或いは、例えば、化粧料をリキッドファンデーションとして調製した場合の耐分離性(耐ひび割れ性)等の観点から、ジメチルシリコーンがより好ましい。
【0029】
〈極性油〉
基剤が油分としてシリコーン油のみを含む場合、本開示の油溶性共重合体と組わせて水を添加しても顕著に増粘させることはできない。つまり、本開示の基剤に配合する極性油は、いわば、シリコーン油と油溶性共重合体とを増粘化させるためのつなぎ成分としての機能を呈することができる。
【0030】
極性油の配合量としては特に制限はなく、例えば、基剤の全量に対し、5.0質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上とすることができ、また、30質量%以下、25質量%以下、又は20質量%以下とすることができる。
【0031】
あるいは、極性油の配合量は、例えば、油分の全量に対し、5.0質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上とすることができ、また、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、又は25質量%以下とすることができる。
【0032】
シリコーン油と極性油との配合割合としては特に制限はないが、乳化安定性、例えば、化粧料をリキッドファンデーションとして調製した場合の耐分離性(耐ひび割れ性)等の観点から、シリコーン油と極性油との質量比としては、9:1~4:1(8:2)の範囲が好ましく、9:1~8.5:1.5の範囲がより好ましい。
【0033】
本開示の基剤中に配合する極性油としては、増粘化させるためのつなぎ成分として機能し得る限り、特に制限はなく、例えば、IOB値が0.10以上の極性油を採用することができる。
【0034】
極性油のIOB値は、例えば、0.11以上、0.12以上、0.13以上、0.14以上、又は0.15以上とすることでき、また、0.65以下、0.60以下、0.55以下、0.50以下、0.45以下、又は0.40以下とすることができる。なかでも、長期的な粘度の増加性能又は乳化安定性能等の観点から、極性油のIOB値は、0.15以上、0.55以下が好ましく、0.20以上、0.55以下がより好ましく、0.20以上、0.50以下が特に好ましい。
【0035】
ここで、IOB値とは、Inorganic/Organic Balance(無機性/有機性比)の略であって、無機性値の有機性値に対する比率を表す値であり、有機化合物の極性の度合いを示す指標となるものである。IOB値は、具体的には、IOB値=無機性値/有機性値として表される。「無機性値」、「有機性値」のそれぞれについては、例えば、分子中の炭素原子1個について「有機性値」が20、水酸基1個について「無機性値」が100といったように、各種原子又は官能基に応じた「無機性値」、「有機性値」が設定されており、有機化合物中の全ての原子及び官能基の「無機性値」、「有機性値」を積算することによって、当該有機化合物のIOB値を算出することができる(例えば、甲田善生著、「有機概念図-基礎と応用-」、p.11~17、三共出版、1984年発行参照)。
【0036】
このようなIOB値の条件を満たす極性油の例としては、オレイン酸(IOB値=0.42)、イソステアリン酸(IOB値=0.43)、ミリスチン酸イソプロピル(IOB値=0.18)、パルミチン酸オクチル(IOB値=0.13)、パルミチン酸イソプロピル(IOB値=0.16)、ステアリン酸ブチル(IOB値=0.14)、ラウリン酸ヘキシル(IOB値=0.17)、ミリスチン酸ミリスチル(IOB値=0.11)、オレイン酸デシル(IOB値=0.11)、イソノナン酸イソノニル(IOB値=0.20)、イソノナン酸イソトリデシル(IOB値=0.15)、エチルヘキサン酸セチル(IOB値=0.13)、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル(IOB値=0.35)、コハク酸ジエチルヘキシル(IOB値=0.32)、ジステアリン酸グリコール(IOB値=0.16)、ジイソステアリン酸グリセリル(IOB値=0.29)、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール(IOB値=0.25)、リンゴ酸ジイソステアリル(IOB値=0.28)、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン(IOB値=0.16)、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル(トリエチルヘキサノイン)(IOB値=0.35)、トリオクタン酸トリメチロールプロパン(IOB値=0.33)、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン(IOB値=0.16)、アジピン酸ジイソブチル(IOB値=0.46)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-2-オクチルドデシルエステル(IOB値=0.29)、アジピン酸2-ヘキシルデシル(IOB値=0.16)、セバシン酸ジイソプロピル(IOB値=0.40)、オクチルメトキシシンナメート(「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル」と称する場合がある。)(IOB値=0.28)、オリーブ油(IOB値=0.16)、ヒマシ油(IOB値=0.43)、デシルテトラデカノール(IOB値=0.21)、オクチルドデカノール(IOB値=0.26)、オレイルアルコール(IOB値=0.28)、パルミチン酸2-エチルヘキシル(IOB値=0.13)、エチルヘキサン酸2-エチルヘキシル(IOB値=0.2)、トリイソステアリン(IOB値=0.16)、ジピバリン酸トリプロピレングリコール(「ジピバリン酸PPG-3」と称する場合がある。)(IOB値=0.52)、サリチル酸オクチル(IOB=0.60)、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(IOB値=0.33)等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、増粘性、乳化安定性等の観点から、オクチルメトキシシンナメート、ジピバリン酸トリプロピレングリコール、エチルヘキサン酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、及びサリチル酸オクチルから選択される少なくとも一種が好ましく、オクチルメトキシシンナメート、ジピバリン酸トリプロピレングリコール、及びリンゴ酸ジイソステアリルから選択される少なくとも一種がより好ましく、さらに、例えば、化粧料をリキッドファンデーションとして調製した場合の耐分離性(耐ひび割れ性)等の観点から、オクチルメトキシシンナメートが特に好ましい。
【0037】
〈任意の油分〉
本開示の基剤における油分としては、シリコーン油及び極性油のみであってもよいが、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲において、任意に、シリコーン油及び極性油以外の油分を配合してもよい。このような油分としては、例えば、炭化水素油、高級アルコール、油溶性の多価アルコールを挙げることができる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0038】
炭化水素油としては、例えば、流動パラフィン、テトライソブタン、水添ポリデセン、オレフィンオリゴマー、イソドデカン、イソヘキサデカン、スクワラン、水添ポリイソブテン等が挙げられる。
【0039】
高級アルコールとしては、例えば、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール等が挙げられる。
【0040】
油溶性の多価アルコールとしては、例えば、ポリブチレングリコール等が挙げられる。
【0041】
このような任意の油分を基剤に配合する場合、かかる油分は、基剤の全量に対し、15質量%以下、10質量%以下、又は5.0質量%以下の範囲で配合することができ、或いは、油分の全量に対し、10質量%以下、5.0質量%以下、又は1.0質量%以下の範囲で配合することができる。任意の油分の配合量の下限値については特に制限はないが、基剤又は油分の全量に対し、0質量%超、又は0.1質量%以上とすることができる。
【0042】
〈油溶性共重合体〉
本開示の基剤は、油中水型乳化化粧料において増粘剤として機能し得る油溶性共重合体を含んでいる。かかる油溶性共重合体は、少なくとも、上記の式1及び式2から選択される少なくとも一種の親水性モノマーから構成されるモノマー単位、及び上記の式4の疎水性モノマーから構成されるモノマー単位を有している。こられの各モノマー単位は、単独のモノマー単位から構成されてもよく、或いは二種以上のモノマー単位から構成されてもよい。例えば、親水性のモノマー単位は一種類のモノマー単位から構成され、疎水性のモノマー単位は二種類のモノマー単位から構成されてもよい。
【0043】
油溶性共重合体の重合形態は特に制限はなく、例えばランダム型、ブロック型などを採用することができるが、合成の容易性の観点から、ランダム型であることが好ましい。
【0044】
油溶性共重合体中の上記親水性モノマーから構成されるモノマー単位と上記疎水性モノマーから構成されるモノマー単位との割合は特に制限はないが、例えば、増粘性、乳化安定性等の観点から、親水性モノマーのモノマー単位は、30モル%以上、32モル%以上、35モル%以上、又は40モル%以上含まれていてもよく、また、50モル%以下、48モル%以下、又は45モル%以下含まれていてもよい。増粘性、乳化安定性、油分への溶解性等の観点から、疎水性モノマーのモノマー単位は、50モル%以上、52モル%以上、又は55モル%以上含まれていてもよく、また、70モル%以下、68モル%以下、65モル%以下、又は60モル%以下含まれていてもよい。
【0045】
油溶性共重合体の含有量は、基剤の全量に対し、0.1質量%以上、0.5質量%以上、又は1.0質量%以上とすることができ、また、10質量%以下、5.0質量%以下、又は3.0質量%以下とすることができる。
【0046】
油分全量に対する油溶性共重合体の割合は、0.5質量%以上、0.7質量%以上、1.0質量%以上、1.2質量%以上、又は1.5質量%以上とすることができ、また、8.0質量%以下、7.0質量%以下、6.0質量%以下、5.0質量%以下、4.5質量%以下、又は4.0質量%以下とすることができる。
【0047】
(親水性モノマー)
親水性モノマーは、下記の式1及び式2から選択される少なくとも一種のモノマーを使用することができる。
【0048】
【0049】
式1中、R1は、水素原子、グリセリル基、炭素原子数1~4の直鎖状若しくは分岐状のヒドロキシアルキル基、又は-(C3H6O)nHで示され、nが2~10の整数であるポリプロピレングリコール基であり、かつ、R2は、水素原子又はメチル基である。ここで、ヒドロキシアルキル基としては、例えば、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシエチル-2-メチルプロピル基、2-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、4-ヒドロキシブチル基を挙げることができる。
【0050】
式1で示される親水性モノマーとしては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリセリル、(メタ)アクリル酸PPG-6、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル、(メタ)アクリル酸を挙げることができる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、増粘性、乳化安定性等の観点から、(メタ)アクリル酸グリセリルが好ましく、メタクリル酸グリセリルがより好ましい。
【0051】
【0052】
式2中、R
3は、水素原子又はメチル基であり、かつ、R
4は、炭素原子数1~4の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基、又は下記の式3の置換基である。
【化7】
【0053】
ここで、R4におけるアルキル基としては、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基を挙げることができ、ヒドロキシアルキル基としては、例えば、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシエチル-2-メチルプロピル基、2-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、4-ヒドロキシブチル基を挙げることができる。
【0054】
式2で示される親水性モノマーとしては、具体的には、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を挙げることができる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、増粘性、乳化安定性等の観点から、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドが好ましく、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドがより好ましい。
【0055】
【0056】
式4中、R5は、炭素原子数16~22の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、かつ、R6は、水素原子又はメチル基である。ここで、炭素原子数16~22の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、例えば、セチル基、ステアリル基、イソステアリル基、ベヘニル基を挙げることができる。なかでも、増粘性、乳化安定性、極性油との相溶性等の観点から、炭素原子数16~22の直鎖状のアルキル基が好ましく、セチル基、ステアリル基、ベヘニル基がより好ましい。
【0057】
かかる疎水性モノマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、即ち、(メタ)アクリル酸と、炭素原子数が16~22の直鎖状又は分岐状のアルキル基を有するアルコールからなるエステルである。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニルを挙げることができる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、増粘性、乳化安定性、極性油との相溶性等の観点から、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニルが好ましく、(メタ)アクリル酸ステアリルがより好ましい。
【0058】
(任意のモノマー)
本開示の油溶性共重合体は、増粘性、乳化安定性の観点から、上記の式1、式2、式4以外のモノマーから構成されるモノマー単位を含まないことが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他のモノマー単位をさらに有していてもよい。かかるモノマー単位の割合は、構成するモノマー単位全量の、30モル%以下、20モル%以下、15モル%以下、10モル%以下、又は5モル%以下とすることができ、また、0モル%超、1モル%以上、又は3モル%以上とすることができる。
【0059】
上記の式1、式2、式4以外のモノマーとしては、例えば、各種のアニオン性モノマー、カチオン性モノマー、ノニオン性モノマー、及びこれら以外のモノマーからなる群から選ばれる一種以上のモノマーが挙げられる。
【0060】
具体的には、式1又は式2で示される親水性モノマー以外の親水性モノマーとしては、例えば、ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メタアクリロイルモルホリン、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを挙げることができる。
【0061】
式4で示される疎水性モノマー以外の疎水性モノマーとしては、例えば、メチルスチレン、スチレン、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル、(メタ)アクリル酸-2-パーフルオロヘキシル-2-エチルを挙げることができる。
【0062】
この他、下記の式5で示される疎水性モノマーを使用することができる:
【化9】
【0063】
式5中、R7は、炭素原子数18以下の分岐状のアルキル基、又は炭素原子数12以下の直鎖状のアルキル基であり、かつ、R8は、水素原子又はメチル基である。ここで、R7における直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、炭素原子数が3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、又は8以上のアルキル基を使用することができる。また、R8としては、水素原子が好ましい。
【0064】
上述した式4で示される疎水性モノマーから構成されるモノマー単位は、油溶性共重合体同士が近接するに従い、共重合体間のこの疎水性モノマー単位によって結晶化するため、油分を取り込むような形でネットワーク構造を形成すると考えられる。一方、式5で示される疎水性モノマーから構成されるモノマー単位は、式4で示される疎水性モノマーから構成されるモノマー単位による結晶化を阻害し、結晶化に基づくネットワーク構造の発現を抑制することができるため、この式5で示される疎水性モノマーから構成されるモノマー単位を導入することによって、増粘性をコントロールすることができる。
【0065】
式5で示される疎水性モノマーとしては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸イソステアリルが好ましく、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸イソステアリルがより好ましく、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソステアリルがさらに好ましい。
【0066】
(油溶性共重合体の製造方法)
本開示の油溶性共重合体は、公知の重合法によって得ることができる。次の方法に限定されないが、例えば、親水性モノマー及び疎水性モノマーの混合物、重合溶媒、並びに重合開始剤を反応容器内に仕込み、一定温度を保つように加温しながら数時間維持して重合反応を進行させる。次いで、反応容器内の溶液から重合溶媒を留去することで、油溶性共重合体を得ることができる。
【0067】
また、リビングラジカル重合法により共重合体を得ることもできる。この場合、共重合体の分子量の調節が容易になるとともに、分子量分布の狭い共重合体を生成することができる。
【0068】
d.重合溶媒
重合溶媒としては、モノマーの官能基に対して反応性を示さないような溶媒が適宜選択される。次のものに限定されないが、例えば、n-ヘキサン、n-オクタン、n-デカン、イソデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ヘキサノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルトリエチレングリコール、メチルジプロピレングリコールなどの水酸基含有グリコールエーテル;ジグライム、トリグライム、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコール系溶剤;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルシクロプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル系溶剤;ジメチルケトン、ジエチルケトン、エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノンなどのケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、カプロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル系溶剤;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、o-ジクロロベンゼンなどのハロゲン系溶剤;ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタムなどのアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、ニトロメタン、アセトニトリル、ニトロベンゼン、ジオクチルフタレートなどが挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0069】
e.重合開始剤
重合開始剤としては、従来公知のものを使用することができ、特に限定されないが、例えば、有機過酸化物又はアゾ化合物などを使用することができる。具体的には、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーキシド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシル-3,3-イソプロピルヒドロパーオキシド、t-ブチルヒドロパーオキシド、ジクミルヒドロパーオキシド、アセチルパーオキシド、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、イソブチルパーオキシド、3,3,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(イソブチレート)などが挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0070】
f.重合時間
還流状態を維持する時間、即ち、重合時間は、モノマーがなくなるまで重合を続けることが好ましく、特に限定されないが、例えば、1時間以上、2時間以上又は3時間以上とすることができ、また、144時間以下、72時間以下又は48時間以下とすることができる。
【0071】
g.重合雰囲気
重合雰囲気は、特に限定されず、大気雰囲気下でそのまま重合してもよく、即ち、重合系内に通常の範囲内で酸素が存在してもよいし、必要に応じて酸素を除去するため窒素又はアルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行ってもよい。使用する各種材料は、蒸留、活性炭又はアルミナ等で不純物を除去してもよいが、市販品をそのまま使用してもよい。また、重合を遮光下で行ってもよく、ガラスのような透明容器中で行ってもよい。
【0072】
h.重合反応に寄与する他の成分
例えば、共重合体の分子量調節等のため、反応容器中に連鎖移動剤などの他の成分を必要に応じて添加してもよい。かかる連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えば、ラウリルメルカプタン、チオグリセロール等のメルカプト基を有する化合物;次亜リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の無機塩;α-メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。連鎖移動剤の使用量は、共重合体の分子量が目的の範囲となるように適宜決定されるが、通常、モノマーに対して0.01~10質量%の範囲が好ましい。
【0073】
《油中水型乳化化粧料》
本開示の油中水型乳化化粧料は、上述した基剤と、この基剤中に分散し、かつ、水を含む水滴とを含んでいる。
【0074】
本開示の油中水型乳化化粧料は、連続相の油分として、シリコーン油以外に極性油を含み、かつ、分散相の水滴と上述した油溶性共重合体とを含む結果、優れた増粘効果を発現することができる。かかる化粧料の増粘性は、B型粘度計(TVB形粘度計TVB-10、東機産業株式会社製)を用い、25℃の雰囲気下、ローターNo.2~4のいずれか、及び回転数12rpmの測定条件で測定した粘度によって評価することができる。
【0075】
いくつかの実施態様において、例えば、顔料等の粉末を含まない構成の本開示の化粧料の未振とう時の粘度、又は振とう後の粘度としては、500mPa・s以上、600mPa・s以上、700mPa・s以上、800mPa・s以上、又は900mPa・s以上を達成することができる。かかる粘度の上限値としては特に制限はないが、例えば、30,000mPa・s以下、15,000mPa・s以下、10,000mPa・s以下、5,000mPa・s以下、又は3,000mPa・s以下とすることができる。
【0076】
いくつかの実施態様において、例えば、顔料等の粉末を含む構成の本開示の化粧料の未振とう時の粘度、又は振とう後の粘度としては、4,000mPa・s以上、5,000mPa・s以上、6,000mPa・s以上、7,000mPa・s以上、8,000mPa・s以上、又は9,000mPa・s以上を達成することができる。かかる粘度の上限値としては特に制限はないが、例えば、60,000mPa・s以下、55,000mPa・s以下、50,000mPa・s以下、又は45,000mPa・s以下とすることができる。
【0077】
ここで、化粧料の粘度は、化粧料を作製してから、当日中(例えば1時間後、2時間後)、1日後、4日後、2週間後、及び4週間後のうちの少なくとも1つの時点での粘度を意図するが、長期間にわたる増粘効果の指標の観点から、化粧料を作製してから2週間後又は4週間後の粘度を意図することが好ましい。また、化粧料の振とう後の粘度は、化粧料全体が略均一になるように、手で数回~数十回(例えば3~20回)振とうした後に測定したときの粘度を意図する。
【0078】
ベントンなどの有機変性粘土鉱物を用いて調製した、シリコーン油を含む従来の油中水型乳化化粧料は、肌に適用すると、化粧料が一気に崩れるようなみずみずしい使用感を発現することができる。一方、いくつかの実施態様において、本開示の油中水型乳化化粧料は、ベントンなどの有機変性粘土鉱物を用いた場合とは異なる、これまでにない新規な使用感、例えば、クリーミーな使用感、まろやかな使用感などを発現することができる。
【0079】
本開示の油中水型乳化化粧料は、基剤に含まれる、上述した、シリコーン油、極性油、及び油溶性共重合体を含んでいる。ここで、化粧料における、油分全量に対する、シリコーン油、極性油、及び油溶性共重合体の各配合割合、並びにシリコーン油と極性油との質量比については、上述した基剤における各配合割合及び質量比を同様に採用することができる。
【0080】
一方、化粧料中のシリコーン油の含有量としては、化粧料の全量に対し、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は25質量%以上とすることができ、また、40質量%以下、35質量%以下、又は30質量%以下とすることができる。
【0081】
化粧料中の極性油の含有量としては、化粧料の全量に対し、1.0質量%以上、3.0質量%以上、又は5.0質量%以上とすることができ、また、20質量%以下、15質量%以下、又は10質量%以下とすることができる。
【0082】
化粧料中の油溶性共重合体の含有量としては、化粧料の全量に対し、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.7質量%以上、又は1.0質量%以上とすることができ、また、5.0質量%以下、4.0質量%以下、3.0質量%以下、又は2.0質量%以下とすることができる。本開示の油中水型乳化化粧料は、化粧料中に含まれる複数の水滴によるパッキング作用に基づく増粘効果なども発現し得るため、増粘剤である油溶性共重合体がこのように比較的低量であっても、本開示の化粧料は優れた増粘性を発現することができると考えられる。
【0083】
〈水滴〉
本開示の油中水型乳化化粧料は、上述した基剤に水を添加することによって調製され、その結果、かかる化粧料には、水相又は分散相としての水滴が含まれる。
【0084】
(水)
本開示の油中水型乳化化粧料で使用し得る水としては、特に限定されるものではないが、化粧料、医薬部外品等に使用される水を使用することができる。例えば、精製水、イオン交換水、水道水等を使用することができる。
【0085】
水の含有量は、化粧料の全量に対し、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、又は55質量%以上とすることができ、また、70質量%以下、65質量%以下、又は60質量%以下とすることができる。水の含有量が多くなると、水滴の数を増加させることができ、その結果、
図2の(b)に示すようなネットワーク構造の架橋点、及び水滴によるパッキング作用に基づく増粘効果を増加させることができる。つまり、水の含有量の増加は、化粧料の粘度上昇に貢献することができる。
【0086】
(界面活性剤)
本開示の油中水型乳化化粧料は、その調製時において、典型的には、界面活性剤が使用される。界面活性剤は、一般に、水相と油相との界面付近、即ち、水滴の外周付近に主に存在し、一部は油分中に分散している。また、界面活性剤は、上述した基剤中に配合してもよく、或いは、水などを含む水相パーツ中に配合してもよい。
【0087】
本開示の油中水型乳化化粧料で使用し得る界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、公知の界面活性剤を単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。例えば、シリコーン界面活性剤、特に、ポリエーテル基又はポリグリセリン基によって変性されたシリコーン界面活性剤を使用することができる。
【0088】
ポリエーテル基によって変性されたシリコーン界面活性剤としては、例えば、PEG-11メチルエーテルジメチコン、PEG-10ジメチコン、PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、及びセチルPEG/PPG-10/1ジメチコン等が挙げられる。
【0089】
ポリグリセリン基によって変性されたシリコーン界面活性剤としては、例えば、ポリグリセリル―3ジシロキサンジメチコン、ポリグリセリル-3ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、及びラウリルポリグリセリル-3ポリジメチルシロキシエチルジメチコン等が挙げられる。
【0090】
界面活性剤の配合量としては、乳化安定性等の観点から、化粧料の全量に対し、0.1質量%以上、0.5質量%以上、又は1.0質量%以上とすることができ、また、8.0質量%以下、6.0質量%以下、又は5.0質量%以下とすることができる。
【0091】
〈任意成分〉
本開示の油中水型乳化化粧料は、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、各種成分を適宜配合することができる。各種成分としては、化粧料に通常配合し得るような添加成分を挙げることができる。例えば、ダイナマイトグリセリン等の保湿剤、水溶性高分子、シリコーン化多糖類等の皮膜形成剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール(例えば、1,3-ブチレングリコール、PEG1500、ジプロピレングリコール等)、イソステアリン酸等の高級脂肪酸、各種抽出液、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、キレート剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、医薬品、医薬部外品、化粧品等に適用可能な水溶性薬剤、酸化防止剤、緩衝剤、フェノキシエタノール等の防腐剤、酸化防止助剤、滑り性向上剤、噴射剤、有機系粉末、顔料、染料、色素、香料、酸成分、アルカリ成分等を挙げることができる。これらの任意成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができ、油相中又は水相中に適宜配合することができる。また、これらの任意成分、特に、油溶性の成分、又は顔料等の粉末成分に関しては、上述した基剤中に予め配合しておいてもよい。
【0092】
本開示の化粧料は、ベントンなどの有機変性粘土鉱物を配合しても構わないが、上述した新規な使用感を得る観点から、このような粘土鉱物は、化粧料の全量に対し、1.0質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%未満、又は0.05質量%以下の範囲で使用することが好ましく、有機変性粘土鉱物は使用しないことがより好ましい。
【0093】
〈油中水型乳化化粧料の用途〉
本開示の油中水型乳化化粧料の製品形態としては、特に限定されるものではないが、例えば、乳液、クリーム、フェイスオイル、ボディーオイル、美容液などのスキンケア化粧料;ファンデーション、化粧下地、口紅、頬紅、アイシャドウ、マスカラ、マスカラ下地などのメーキャップ化粧料;メイク落としなどの皮膚洗浄料;毛髪洗浄料;ヘアトリートメント、ヘアオイルなどの毛髪化粧料;日焼け止め化粧料;染毛料等が挙げられる。
【0094】
本開示の油中水型乳化化粧料は、シリコーン油の配合により、化粧持ちを向上させることができ、かつ、特定の油溶性共重合体と極性油との配合により、シリコーン油を含む油中水型乳化化粧料において、これまでにない新規な使用感、例えば、クリーミーな使用感、まろやかな使用感などを発現することができる。加えて、本開示の油中水型乳化化粧料は、例えば、顔料を配合した場合において、分離(ひび割れ)等の不具合を低減又は防止することができる。これらを考慮すると、上記の製品形態の中でも、顔料を含み、かつ、新規な使用感が望まれているファンデーションとして、本開示の油中水型乳化化粧料を使用することが有利である。
【0095】
〈油中水型乳化化粧料の製造方法〉
本開示の油中水型乳化化粧料は、常法により製造することができる。例えば、油溶性共重合体及び界面活性剤を油分に添加、攪拌して基剤を調製し、かかる基剤に水を添加、撹拌して油中水型の乳化化粧料を得ることができる。必要に応じ、水又は油分に対し、上記の任意成分を適宜配合してもよく、また、加熱手段を適用してもよい。
【0096】
例えば、ファンデーションのような顔料等の粉末成分を含む油中水型乳化化粧料を製造する場合には、シリコーン油及び極性油を含む油分を加温し、そこへ油溶性共重合体及び界面活性剤を混合して油相パーツを調製する。次いで、加温した状態の油相パーツに、顔料等を含む粉末パーツを混合して基剤を調製した後、加温した状態の水等を含む水相パーツを基剤に混合し、徐冷して、顔料等の粉末成分を含む油中水型乳化化粧料を調製することができる。
【0097】
ここで、加温の温度条件としては、例えば、70℃以上、75℃以上、又は80℃以上とすることができ、また、95℃以下、90℃以下、又は85℃以下とすることができる。また、徐冷の温度条件としては、例えば、50℃以下、45℃以下、又は40℃以下とすることができ、また、25℃以上、30℃以上、又は35℃以上とすることができる。
【実施例】
【0098】
以下に実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下、特に断りのない限り、配合量は質量%で示す。
【0099】
《実施例1~16及び比較例1~2》
〈油溶性共重合体の合成〉
還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管及び撹拌機が取り付けられた容量1リットルの四つ口フラスコに、エタノール250質量部、並びに親水性モノマーであるメタクリル酸グリセリルを40質量部、疎水性モノマーであるアクリル酸ステアリルを30質量部及びメタクリル酸ステアリルを30質量部仕込み、窒素気流下で昇温した。約80℃の還流状態となった時点で、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルを1質量部添加し、4時間、還流状態を維持して重合反応を進行させた。次いで、フラスコ内の溶液から溶媒のエタノールを留去することで、油溶性共重合体を得た。
【0100】
下記に示す表1~表2の処方及び製造方法により得た油中水型乳化化粧料の粘度について評価した。その結果を、表1~表2にまとめる。
【0101】
〈評価方法1〉
(粘度の評価)
化粧料の粘度は、B型粘度計(TVB形粘度計TVB-10、東機産業株式会社製)を用い、25℃の雰囲気下、ローターNo.2~4のいずれか、及び回転数12rpmの測定条件で評価した。また、化粧料の振とう後の粘度(振とう粘度)に関しては、化粧料全体が略均一になるように、手で10回程度振とうした後に、上記の粘度計及び測定条件で評価した。
【0102】
なお、実施例1及び2の化粧料においては、ローターはNo.4を採用し、実施例3~4及び比較例1~2の化粧料においては、ローターはNo.2を採用し、実施例5~8の化粧料においては、ローターはNo.3を採用した。
【0103】
〈実施例1~4、比較例1~2〉
実施例1~4及び比較例1~2では、油溶性共重合体又は極性油の有無、及びシリコーン油の種類による影響について評価した。その結果を表1に示す。
【0104】
(実施例1)
オクチルメトキシシンナメート及びジメチルシリコーンを含む油分を80~90℃に加温し、この油分中にPEG-10ジメチコン、油溶性共重合体、及びイソステアリン酸を添加し、攪拌して基剤を調製した。基剤を加温しながら、水を基剤に添加して攪拌した後、40℃まで徐冷して油中水型の乳化化粧料を調製した。
【0105】
なお、実施例1で調製した基剤は、加温時は白濁しており、室温に放置しておくと、底に透明なゲル状物が生じていた。一方、得られた油中水型乳化化粧料については、ゲル状物は生じていなかった。
【0106】
(実施例2~4、比較例1~2)
表1の配合割合に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2~4、比較例1~2の化粧料を各々調製した。
【0107】
なお、実施例2~4で調製した基剤は、加温時はいずれも透明な状態を呈しており、室温に放置しておくと、実施例3及び4の基剤は、底に透明なゲル状物が生じていた。一方、得られた油中水型乳化化粧料については、いずれもゲル状物は生じていなかった。
【0108】
【0109】
〈結果〉
実施例1~4で用いた基剤はいずれも、水の添加に伴い増粘することが確認できた。また、同一のシリコーン油を使用している実施例4及び比較例1~2を比較すると、極性油を含まない比較例2の化粧料は、油溶性共重合体を含んでいるにもかかわらず、油溶性共重合体を含まない比較例1の化粧料の粘度に比べて顕著な粘度上昇は見られなかった。一方、油溶性共重合体に加えて極性油を含む実施例4の化粧料は、比較例1の化粧料の粘度に比べ、粘度が10倍以上も上昇していた。
【0110】
また、実施例1~4を見れば分かるように、この粘度上昇の効果は、種々のシリコーン油において生じ得ることが確認できた。
【0111】
〈実施例5~8〉
実施例5~8では、極性油の種類による影響について評価した。その結果を表2に示す。なお、表2には、実施例4及び比較例1~2の結果も示している。
【0112】
(実施例5~8)
表2の配合割合に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例5~8の化粧料を各々調製した。
【0113】
なお、実施例5~8で調製した基剤のうち、実施例5及び7の基剤については、加温時は白濁しており、実施例6及び8の基剤については、加温時は透明な状態を呈していた。また、これらを室温に放置しておくと、いずれも底に透明なゲル状物が生じていた。一方、得られた油中水型乳化化粧料については、いずれもゲル状物は生じていなかった。
【0114】
【0115】
〈結果〉
実施例5~8で用いた基剤も、水の添加に伴い増粘することが確認できた。また、実施例4~8の化粧料を比較すると、極性油として、IOB値が0.28のオクチルメトキシシンナメート及びリンゴ酸ジイソステアリルと、IOB値が0.52のジピバリン酸トリプロピレングリコールとを使用した実施例4、5及び7の化粧料は、2週間の長期にわたって安定的に増粘効果が生じ得ることが確認できた。
【0116】
IOB値が0.13のエチルヘキサン酸セチルと、IOB値が0.60のサリチル酸オクチルとを使用した実施例6及び8の化粧料は、2週間後における未振とうの粘度は低下していたが、これらの化粧料を振とうすると、粘度が顕著に回復することが分かった。この傾向は、実施例5及び7の化粧料でも確認できた。一方、油溶性共重合体を含むが極性油を含まない比較例2の化粧料も、振とうすることによって粘度はある程度回復はするが、その回復性能は、実施例5~8の化粧料の回復性能に比べて劣っていた。つまり、極性油は、シリコーン油と油溶性共重合体とを含む油中水型乳化化粧料の調製時の粘度増加に貢献することに加え、化粧料の粘度が経時的に低下した場合において、振とうによりその粘度を回復させる機能を有することが分かった。
【0117】
〈実施例9~13〉
実施例9~13の処方は、顔料を含むファンデーション等に使用され得る処方であり、このような処方の化粧料における油溶性共重合体の配合割合の影響について評価した。その結果を表3に示す。
【0118】
〈評価方法2〉
(粘度の評価)
化粧料の粘度は、B型粘度計(TVB形粘度計TVB-10、東機産業株式会社製)を用い、25℃の雰囲気下、ローターNo.2~4、及び回転数12rpmの測定条件で評価した。
【0119】
(使用性の評価)
5名の専門パネルにより、各化粧料を肌に塗布し、使用感、及び塗布終わりの指の止まり際の軽さについて、下記の評価基準により評価した:
A:5名が、クリーミーな使用感を有し、かつ、指の止まり際が軽いと回答した。
B:4名が、クリーミーな使用感を有し、かつ、指の止まり際が軽いと回答した。
C:3名が、クリーミーな使用感を有し、かつ、指の止まり際が軽いと回答した。
D:2名が、クリーミーな使用感を有し、かつ、指の止まり際が軽いと回答した。
E:0~1名が、クリーミーな使用感を有し、かつ、指の止まり際が軽いと回答した。
【0120】
(顔料の分散性の評価)
5名の専門パネルにより、各化粧料を肌に塗布し、以下の基準で化粧料における顔料の分散状態を評価した:
A:4~5名が、色浮きすることなく、顔料が均一に分散していると回答した。
B:2~3名が、色浮きすることなく、顔料が均一に分散していると回答した。
C:0~1名が、色浮きすることなく、顔料が均一に分散していると回答した。
【0121】
(経時安定性の評価)
作製してから4週間後の化粧料の外観を目視で観察し、以下の基準で化粧料における経時安定性を評価した:
A:分離(ひび割れ)が生じていなかった。
B:分離(ひび割れ)がわずかに生じていた。
C:分離(ひび割れ)が明らかに生じていた。
【0122】
(実施例9)
オクチルメトキシシンナメート及びジメチルシリコーンを含む油分を80~90℃に加温し、この油分中にPEG-10ジメチコン、油溶性共重合体、及びイソステアリン酸を添加し、攪拌して油相パーツを調製した。この油相パーツを加温しながら、表3に示す粉末パーツの各成分を添加し、撹拌して基剤を調製した。基剤を加温しながら、水を基剤に添加して攪拌した後、40℃まで徐冷し、顔料を含む油中水型の乳化化粧料を調製した。
【0123】
(実施例10~13)
表3の配合割合に変更したこと以外は、実施例9と同様にして実施例10~13の化粧料を各々調製した。
【0124】
【0125】
〈結果〉
実施例9~13で用いた顔料を含む基剤においても、水の添加に伴い増粘することが確認できた。また、表3から明らかなように、油溶性共重合体の配合量が増加すると、化粧料の粘度、特に、作製当日以降の粘度も増加することが確認できた。また、化粧料の使用性を踏まえると、顔料を含む油中水型乳化化粧料の場合には、油溶性共重合体は、化粧料全体に対し、0.6質量%よりも多く配合することが有利であることが分かった。
【0126】
なお、実施例9~13の化粧料の粘度は、実施例1~8の化粧料の粘度よりも大幅に増加しているが、これは顔料の配合が影響していると考えている。
【0127】
〈実施例14~16〉
実施例14~16の処方も、顔料を含むファンデーション等に使用され得る処方であり、このような処方の化粧料におけるシリコーン油と極性油との影響について評価した。その結果を表4に示す。なお、表4には、実施例11の結果も示す。
【0128】
〈評価方法3〉
(粘度の評価)
化粧料の粘度は、B型粘度計(TVB形粘度計TVB-10、東機産業株式会社製)を用い、25℃の雰囲気下、ローターNo.2~4、及び回転数12rpmの測定条件で評価した。
【0129】
(経時安定性の評価)
作製してから4週間後の化粧料の外観を目視で観察し、以下の基準で化粧料の経時安定性を評価した:
A:分離(ひび割れ)が生じていなかった。
B:分離(ひび割れ)がわずかに生じていた。
C:分離(ひび割れ)が明らかに生じていた。
【0130】
(実施例14~16)
表4の配合割合に変更したこと以外は、実施例9と同様にして実施例14~16の化粧料を各々調製した。
【0131】
【0132】
〈結果〉
実施例14~16で用いた顔料を含む基剤においても、水の添加に伴い増粘することが確認できた。また、表4から明らかなように、油分中の極性油の割合が増加すると、化粧料の粘度も増加することが確認できた。
【0133】
また、顔料を含む油中水型乳化化粧料の場合には、油分中の極性油の割合が、化粧料の分離(ひび割れ)に影響し得ることも確認できた。したがって、このような化粧料の場合には、シリコーン油と極性油との質量比を調整することによって、化粧料の分離(ひび割れ)を低減又は防止し得ることが分かった。
【符号の説明】
【0134】
10、20 油中水型乳化化粧料用基剤
11、21 油溶性共重合体
13、23 水滴
15、25 油中水型乳化化粧料