(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッド及びサーマルプリンタ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20241225BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20241225BHJP
H05K 1/18 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
B41J2/335 101Z
B41J2/335 101E
H05K1/09 A
H05K1/18 S
(21)【出願番号】P 2020121828
(22)【出願日】2020-07-16
【審査請求日】2023-06-07
【審判番号】
【審判請求日】2024-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 俊夫
【合議体】
【審判長】川俣 洋史
【審判官】門 良成
【審判官】道祖土 新吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-6587(JP,A)
【文献】特開2014-141050(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114289(WO,A1)
【文献】特開平10-233507(JP,A)
【文献】特開平5-89716(JP,A)
【文献】特開平6-132338(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0159105(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/335
H05K 1/09
H05K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱抵抗部を有するサーマルプリントヘッドであって、
前記発熱抵抗部と接する共通電極と、
前記発熱抵抗部を介して前記共通電極と電気的に接続される個別電極と、
前記サーマルプリントヘッドに対する接地電位が供給される対象である接地電極と、
前記個別電極と前記接地電極とに電気的に接続される駆動ICと、
前記サーマルプリントヘッドに対する電源電位が供給される対象である電源電極と、
サージ保護素子と、を備え、
前記共通電極および前記個別電極は金属粒子を含
み、
前記電源電位は、前記駆動ICに供給される第1電位および前記共通電極に供給される第2電位を含み、
前記サージ保護素子は、前記第1電位と前記接地電極との間に接続されている、
サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
前記金属粒子は銅及び銀からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
前記サージ保護素子はツェナーダイオードである、請求項1又は2に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項4】
前記第2電位は、前記第1電位と同電位又はより高電位である、請求項
1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、サーマルプリントヘッド及びサーマルプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルプリントヘッドは、例えば、ヘッド基板上に主走査方向に並ぶ多数の発熱部を備えている。各発熱部は、ヘッド基板にグレーズ層を介して形成した抵抗体層上に、その一部を露出させるようにして、共通電極と個別電極をそれらの端部を対向させて積層することにより形成されている。共通電極と個別電極間を通電することにより、上記抵抗体層の露出部(発熱部)がジュール熱により発熱する。
【0003】
また、共通電極及び個別電極を介して抵抗体に通電する配線層の形成には、金を使用したペーストを用いて配線パターンを形成することが行われている。金を使用したペーストは高価であり、製品のコスト低減の観点から、金の使用量を低減する技術、又は金以外の金属を使用したペーストが提案されている。比較的に安価で電気伝導性の良好な金属として銀を用いた技術が多数提案されている。
【0004】
例えば、導体層間の界面抵抗値を低減するとともに、同時に、焼成工程の繰り返しにより生じる膜厚が薄くなってしまう「スケ」の発生、あるいはこれによる導体抵抗値の上昇ないしは断線の問題を回避するために、銀の有機化合物とニッケルの有機化合物とを含みこれらを樹脂で混合してペースト状としたレジネートペーストであって、金属元素成分中、銀を95ないし99重量%、ニッケルを1ないし5重量%とした合金が開示されている。
【0005】
また、よりコストを低減させるために配線を用いた接続から、配線を用いず、駆動ICを直接、はんだバンプと接触させるフリップチップの実装の要求が高まっている。
【0006】
しかしながら、単に配線の材料を金から銀に変更し、はんだバンプを用いてフリップチップを実装するだけでは、イオンマイグレーションによる配線間のショート不良の問題があり、配線間に突発的な高電圧が印加されてしまうことで製品に不具合が生じるため、実用化するには十分な性能が得られないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平5-89716号公報
【文献】特開平6-132338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本実施形態の一態様は、よりコストを低減させ、かつ、配線間に生じる突発的な高電圧を抑制するサーマルプリントヘッドを提供する。また、本実施形態の他の一態様は、当該サーマルプリントヘッドを備えたサーマルプリンタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態は、配線間にサージ保護素子を設けることでよりコストを低減させ、かつ、配線間に生じる突発的な高電圧を抑制する。本実施形態の一態様は以下のとおりである。
【0010】
本実施形態の一態様は、発熱抵抗部を有するサーマルプリントヘッドであって、前記発熱抵抗部と接する共通電極と、前記発熱抵抗部を介して前記共通電極と電気的に接続される個別電極と、前記サーマルプリントヘッドに対する接地電位が供給される対象である接地電極と、前記個別電極と前記接地電極とに電気的に接続される駆動ICと、前記サーマルプリントヘッドに対する電源電位が供給される対象である電源電極と、サージ保護素子と、を備え、前記共通電極および前記個別電極は金属粒子を含み、前記電源電位は、前記駆動ICに供給される第1電位および前記共通電極に供給される第2電位を含み、前記サージ保護素子は、前記第1電位と前記接地電極との間に接続されているサーマルプリントヘッドである。
【0011】
また、本実施形態の他の一態様は、上記サーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタである。
【発明の効果】
【0012】
本実施形態によれば、よりコストを低減させ、かつ、配線間に生じる突発的な高電圧を抑制するサーマルプリントヘッドを提供することができる。また、本実施形態の他の一態様は、当該サーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るサーマルプリントヘッドを説明する配線図である。
【
図3】
図3は、接地電極(GND)と共通電極(VH)との間にサージ保護素子を設ける構成を説明する配線図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す平面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す要部平面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す要部拡大平面図である。
【
図8】
図8は、本実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す要部平面図である。
【
図9】
図9は、本実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して、本実施形態について説明する。以下に説明する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各構成部品の厚みと平面寸法との関係等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0015】
また、以下に示す実施形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものではない。本実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
具体的な本実施形態の一態様は、以下の通りである。
【0017】
<1> 発熱抵抗部を有するサーマルプリントヘッドであって、前記発熱抵抗部と接する共通電極と、前記発熱抵抗部を介して前記共通電極と電気的に接続される個別電極と、前記サーマルプリントヘッドに対する接地電位が供給される対象である接地電極と、前記個別電極と前記接地電極とに電気的に接続される駆動ICと、前記サーマルプリントヘッドに対する電源電位が供給される対象である電源電極と、前記電源電極と前記接地電極とに電気的に接続されるサージ保護素子と、を備え、前記共通電極および前記個別電極は金属粒子を含む、サーマルプリントヘッド。
【0018】
<2> 前記金属粒子は銅及び銀からなる群から選択される少なくとも1つを含む、<1>に記載のサーマルプリントヘッド。
【0019】
<3> 前記サージ保護素子はツェナーダイオードである、<1>又は<2>に記載のサーマルプリントヘッド。
【0020】
<4> 前記電源電位は、前記駆動ICに供給される第1電位である、<1>~<3>のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッド。
【0021】
<5> 前記サーマルプリントヘッドに対する他の電源電位は、前記共通電極に供給される第2電位である、<4>に記載のサーマルプリントヘッド。
【0022】
<6> 前記第2電位は、前記第1電位と同電位又はより高電位である、<5>に記載のサーマルプリントヘッド。
【0023】
<7> <1>~<6>のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタ。
【0024】
<サーマルプリントヘッド>
本実施形態に係るサーマルプリントヘッドについて図面を用いて説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係るサーマルプリントヘッドを説明する配線図である。本実施形態のサーマルプリントヘッドA1は、発熱抵抗部を有し、発熱抵抗部と接する共通電極と、発熱抵抗部を介して共通電極と電気的に接続される個別電極と、サーマルプリントヘッドA1に対する接地電位が供給される対象である接地電極(GND)と、個別電極と接地電極とに電気的に接続される駆動IC(
図1では、駆動IC1~IC3)と、サーマルプリントヘッドA1に対する電源電位が供給される対象である電源電極(VDD及びVH)と、電源電極及び接地電極に電気的に接続されるサージ保護素子10と、を備える。言い換えれば、サーマルプリントヘッドA1が使用される場合には、接地電極(GND)に接地電位が供給され、電源電極(VDD及びVH)に電源電位が供給される。
【0026】
図1に示す駆動IC1周辺の拡大図である
図2を用いてより詳細に説明する。駆動IC1周辺には、サーマルプリントヘッドA1が使用される場合において接地電位(Vgnd)が供給される接地電極、駆動IC用電位(Vdd)が供給される駆動IC用電源電極、共通電位(Vh)が供給される共通電極などの電源配線及び信号配線が密集している。後述するサーマルプリントヘッドA1の発熱抵抗部及びその周辺は、配線がオーバーコート用ガラス層で覆われているため、外部からの水分が配線に達することがない。そのため配線の材料である金属のイオンマイグレーションが生じることはない。しかし、駆動IC1周辺や駆動IC直下は、ガラス層が設けられていない。イオンマイグレーションは各電源配線及び信号配線の間の電界強度が大きいほど発生しやすいため、電源配線及び信号配線が密集している駆動IC1周辺や直下はイオンマイグレーションが生じやすい箇所である。一般的に、共通電極に供給される共通電位(Vh)は駆動IC1に供給される駆動IC用電位(Vdd)よりも高い。場合によっては、共通電位(Vh)と駆動IC用電位(Vdd)とが等しい。
【0027】
ここで、配線の材料に銀を用いたときのイオンマイグレーションについて簡単に説明する。配線の材料である銀(Ag)が電極間(例えば、共通電極及び個別電極間)の電位差と周囲雰囲気中から表面に吸着された水の存在により以下のように電離が起こる。
【0028】
【0029】
次いで、銀イオン(Ag+)及び水酸化物イオン(OH-)が共通電極側で反応し、水酸化銀(AgOH)を生成して共通電極表面に析出する。
【0030】
【0031】
共通電極側の水酸化銀(AgOH)が分解されて酸化銀(Ag2O)となり、コロイド状に分散される。
【0032】
【0033】
水和反応により銀イオン(Ag+)が個別電極側に移動し、銀(Ag)のデンドライト状の析出が生じる。
【0034】
【0035】
以上に示すように、外部からの水が配線に達することでイオンマイグレーションが生じる。ここでは、銀を用いた配線を例示したが他の金属でも同様にイオンマイグレーションが生じ得、金属の性質、イオン化傾向の大きさ等によりイオンマイグレーションの生じやすさが異なる。例えば、銀と銅とを比較すると、銀の性質から、銀は銅よりも低い電圧でイオンマイグレーションを生じやすい。銀と金とを比較すると、イオン化傾向によって銀は金よりも陽イオンになりやすく、銀は金よりもイオンマイグレーションを生じやすい。
【0036】
駆動IC1は、基板上に設けられたはんだバンプを介して配線と電気的に接続され、実装される。また、はんだバンプは、基板を支える支持体としての機能を有する。本実施形態では、駆動IC1を実装後、接地電極(GND)と高電源電極(VDD)との間にサージ保護素子10を電気的に介するように設ける。サージ保護素子10のアノードが接地電極(GND)と電気的に接続し、カソードが高電源電極(VDD)と電気的に接続する。サーマルプリントヘッドA1が使用される場合には、駆動ICは、制御部からの信号に基づいて発熱抵抗部41の導通状態を制御する。具体的には、駆動ICは、接地電極、高電源電極、共通電極のそれぞれと電気的に接続される。サーマルプリントヘッドA1が使用される場合には、制御部からの信号に基づいて発熱抵抗部41と接する共通電極から発熱抵抗部41及び個別電極を介して接地電源に電流が流れるようにして発熱抵抗部41の導通状態を制御する。
【0037】
なお、本明細書等において、「電気的に接続」とは、「何らかの電気的作用を有するもの」を介して接続されている場合が含まれる。ここで、「何らかの電気的作用を有するもの」は、接続対象間での電気信号の授受を可能とするものであれば、特に限定されない。例えば、「何らかの電気的作用を有するもの」には、電極、配線、スイッチング素子、抵抗素子、インダクタ、容量素子、その他の各種機能を有する素子などが含まれる。
【0038】
サージ保護素子10は、配線間に突発的な高電圧が印加されることを抑制する機能を有し、例えば、一時的に規定外の大きな電流が製品の回路に流れた場合に製品が壊れることを防ぎ、供給される電圧を一定に保つために使用することができる。サージ保護素子10としては、例えば、ツェナーダイオード、バリスタ、ESDサプレッサなどが挙げられ、ツェナーダイオードであることが好ましい。
【0039】
また、
図3に示すように、接地電極(GND)と共通電極(VH)との間にサージ保護素子10を電気的に介するように設ける構成としてもよい。サージ保護素子10のアノードが接地電極(GND)と電気的に接続し、カソードが共通電極(VH)と電気的に接続する。サージ保護素子10は、接地電極(GND)と高電源電極(VDD)との間、接地電極(GND)と共通電極(VH)との間の少なくともどちらか設けられていればよい。また、共通電極(VH)に供給される共通電位(Vh)は高電源電極(VDD)に供給される電位(Vdd)より高電位であっても、同電位であってもよく、例えば、電位(Vdd)を供給する電源と共通電位(Vh)を供給する電源とを単一電源で兼用してもよい。
【0040】
また、
図1において、サージ保護素子10が複数設けられているがこれに限られず、1種の電源に対して少なくとも1つのサージ保護素子10を介して接地電極(GND)と電気的に接続されていればよい。
【0041】
本実施形態における共通電極及び個別電極、並びに配線は、金属粒子を含み、金属粒子は銅、銀、パラジウム、イリジウム、白金、及び金であり、金属のイオン化傾向の観点から、銅、銀、白金、及び金であることが好ましく、金属のイオン化傾向及びコスト低減の観点から、銅及び銀であることがより好ましい。
【0042】
基板と駆動IC1の隙間にはアンダーフィル材となる樹脂を充填し、硬化させたアンダーフィル材が設けられている。アンダーフィル材となる樹脂を硬化させる際、樹脂を流して封止するがこのときに気泡が樹脂に混入し、はんだバンプの裏側(樹脂が流れる先の方向側)にまで樹脂が入りにくいためボイドが生じることがあり、はんだバンプが多いとボイドが生じる確率が高くなり、これらが駆動IC1の信頼性に影響を及ぼす恐れがある。一方、はんだバンプが少ないと支持体としての機能が低下するため、これらを考慮して、はんだバンプの配置及び個数等は適切に調整することが好ましい。
【0043】
ここでは、駆動IC1を用いて説明したが、駆動IC2及び駆動IC3も駆動IC1と同様である。
【0044】
さらに、本実施形態のサーマルプリントヘッドA1の平面図を
図4、要部平面図を
図5、要部拡大平面図を
図6、
図4のIV-IV線に沿う断面図を
図7にそれぞれ示す。
【0045】
本実施形態のサーマルプリントヘッドA1は、基板1、接続基板5、及び放熱部材8を備える。基板1及び接続基板5は、放熱部材8上に副走査方向yに隣接させて搭載されている。基板1には、主走査方向xに配列される複数の発熱抵抗部(発熱部)41が形成されている。当該発熱抵抗部41は、接続基板5上に搭載された駆動ICにより選択的に発熱するように駆動される。当該発熱抵抗部41は、コネクタ59を介して外部から送信される印字信号にしたがって、プラテンローラ91(
図7参照)により発熱抵抗部41に押圧される感熱紙等の印字媒体92に印字を行う。
【0046】
基板1は、主走査方向xを長手方向とし、副走査方向yを短手方向とする細長矩形状の平面形状を有する。基板1の大きさは限定されないが、一例を挙げると、主走査方向xの寸法は、例えば50~150mm、副走査方向yの寸法は、例えば、2.0~5.0mm、厚さ方向zの寸法は、例えば725μmである。なお、以下の説明において、基板1における副走査方向yの駆動ICに近い側を上流側といい、駆動ICから遠い側を下流側という。
【0047】
基板1は、セラミック又は単結晶半導体からなる。セラミックとしては、例えば、アルミナなどを用いることができる。単結晶半導体としては、例えば、シリコンなどを用いることができる。
【0048】
接続基板5は、例えば、プリント配線基板を用いることができる。接続基板5は、基材層と図示しない配線層とが積層された構造を有する。基材層は、例えば、ガラスエポキシ樹脂などを用いることができる。配線層は、例えば、上述した金属粒子などを用いることができる。
【0049】
放熱部材8は、基板1からの熱を放散させる機能を有する。放熱部材8には、基板1及び接続基板5が取り付けられている。放熱部材8は、例えば、アルミニウムなどの金属を用いることができる。
【0050】
絶縁層19は、基板1を覆っている。絶縁層19は、絶縁性材料を用いることができ、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンなどを用いることができる。絶縁層19の厚さは、特に限定されず、例えば、5~15μmであり、好ましくは5~10μmである。なお、絶縁層19を設けない構成としてもよい。
【0051】
抵抗体層4は、電極3からの電流が流れた部分が発熱する。このように発熱することによって印字ドットが形成される。抵抗体層4は、電極3を構成する材料よりも抵抗率が高い材料を用い、例えば、窒化タンタル、又はタンタルを含む酸化シリコンなどを用いることができる。抵抗体層4の材料として、酸化ルテニウムを使用してもよい。
図5に示すように、抵抗体層4は、発熱抵抗部41を含む。本実施形態では、抵抗体層4の厚さは、例えば、0.05~0.2μm程度である。
【0052】
電極3は、抵抗体層4に通電するための経路を構成している。電極3は、基板1に形成される複数の個別電極31と、共通電極32とを含む。電極3は導電体からなる。導電体としては、例えば、上述した銀などの金属粒子などを用いることができる。本実施形態では、電極3の厚さは、例えば、0.2~0.8μm程度である。
【0053】
各個別電極31は、概ね副走査方向yに延伸する帯状をしており、それらの下方側先端は領域13の位置まで延伸している。各個別電極31は、互いに導通していない。そのため、各個別電極31には、サーマルプリントヘッドの組み込まれたプリンタが使用される際に、個別に、互いに異なる電位が付与されうる。各個別電極31の上方側端部には、個別パッド部311が形成されている。
【0054】
共通電極32は、サーマルプリントヘッドの組み込まれたプリンタが使用される際に複数の個別電極31に対して電気的に逆極性となる部位である。共通電極32は、複数の櫛歯部324と、これら複数の櫛歯部324を共通につなげる共通部323と、を有する。共通部323は基板1の上方側の縁に沿って主走査方向xに形成され、各櫛歯部324は、共通部323から分かれて副走査方向yに延伸する帯状をしており、その上方側先端は、各個別電極31の先端に対して所定間隔を隔てて対向させられている。
【0055】
電極3及び抵抗体層4等は保護膜で覆われている。当該保護膜は絶縁性の材料を用いることができ、例えば、窒化シリコン、酸化シリコンなどを用いることができる。当該保護膜の厚さは、例えば、3~8μm程度である。
【0056】
駆動ICは、はんだバンプを介して接続基板5上に実装されており、発熱抵抗部41に個別に通電させるために設けられる。駆動ICと上記各個別電極31の各個別パッド部311間は、接続基板5上の配線に接続されたワイヤ(図示なし)によって接続される。駆動ICには、コネクタ59を介して外部から送信される印字信号が入力される。発熱抵抗部41は、印字信号に従って個別に通電されることにより、選択的に発熱させられる。
【0057】
ここで、上述した構成要素を含むサーマルプリントヘッドの一例の断面図を示す。
【0058】
図8及び
図9を用いて上述した構成要素について詳細に説明する。
図8及び
図9に示すサーマルプリントヘッドは、基板35と、基板35上の蓄熱層33と、蓄熱層33上の個別電極31及び共通電極32と、個別電極31上及び共通電極32上の発熱抵抗部41と、発熱抵抗部41上の保護膜34と、を備える。
【0059】
基板35は上述の基板1に対応する。
【0060】
蓄熱層33は、絶縁性材料を用いることができ、例えば、ガラスの主成分である酸化シリコン、窒化シリコンを用いることが好ましい。蓄熱層33の厚さは、特に限定されず、例えば、5~15μmであり、好ましくは5~10μmである。
【0061】
個別電極31、共通電極32、及び発熱抵抗部41の詳細は、上述の通りである。個別電極31、共通電極32は、印刷機を用いてパターン形成してもよいし、フォトリソグラフィ工程にてパターン形成してもよい。
【0062】
保護膜34は上述の電極3及び抵抗体層4等を覆う保護膜に対応する。
【0063】
ここで、本実施形態のサーマルプリントヘッドの製造方法について説明する。
【0064】
まず、基板35上に蓄熱層33を形成し、次いで、個別電極31、共通電極32を形成する。また、個別電極31及び共通電極32の形成と同時に配線やパッド部等も形成する。例えば、アルミナ基板上にガラスを形成し、ガラス上に個別電極31及び共通電極32となる導電体を形成する。その後、当該導電体に対して印刷機を用いたスクリーン印刷やフォトリソグラフィ工程により電極、配線、及びパッド部等のパターンを形成して個別電極31及び共通電極32、配線、及びパッド部等を形成する。導電体は、例えば、銀等を用いて形成することができる。
【0065】
次に、共通電極32と電気的に接続する補助電極を形成する。補助電極は、共通電極32と電気的に接続されているため同一の電位に保持される。言い換えると、補助電極は、共通電極32の全ての部分に対する共通接続部として機能する。補助電極は大きな面積を有していることから、電流路を拡大し、サーマルプリントヘッドの長手方向の電圧降下を実質的に解消する。したがって、発熱抵抗部41が広範囲に発熱する場合(例えば、「ベタ状印刷」する場合)にも、十分な電流を流すことができ、印字品質の低下を抑制することができる。補助電極は、例えば、銀、アルミニウム等を用いて形成することができる。
【0066】
次に、個別電極31上及び共通電極32上に発熱抵抗部41を形成する。その後、保護膜34としてオーバーコート用ガラス層を形成する。
【0067】
次に、蓄熱層33、個別電極31、共通電極32、発熱抵抗部41等が搭載された基板35を個片化する。基板35の個片化には、例えば、ダイサーを用いることができる。更に、レーザーなどを用いて基板35の個片化を行うことができる。レーザーとしては、例えば、ファイバーレーザーなどの固体レーザーを用いることができる。
【0068】
次に、個片化した基板(個片基板ともいう)に駆動IC及びサージ保護素子であるツェナーダイオードを実装する。実装には、個片基板と駆動ICの間にはんだバンプを設けておき、リフロー炉内で、窒素などの不活性ガス雰囲気下で加熱処理を行い、はんだバンプを溶融させ、はんだと導電体を接合させて個片基板と駆動ICとを電気的に接続させる。
【0069】
次に、個片基板と駆動ICとの間に充填したアンダーフィル材となる樹脂を熱硬化させてアンダーフィル材を形成する。
【0070】
以上の工程により、本実施形態のサーマルプリントヘッドを製造することができる。
【0071】
本実施形態によれば、コストを低減させるために比較的に安価で電気伝導性の良好な金属材料を用いて配線等を形成しつつ、当該配線間等に生じる突発的な高電圧を抑制するサーマルプリントヘッドを得ることが可能となる。
【0072】
<サーマルプリンタ>
本実施形態のサーマルプリンタは、上述のサーマルプリントヘッドを備えることができる。サーマルプリンタは、印刷媒体に印刷を施す。印刷媒体としては、例えば、バーコードシートやレシートを作成するための感熱紙等が挙げられる。
【0073】
サーマルプリンタは、例えば、サーマルプリントヘッドA1と、プラテンローラ91(
図7参照)と、主電源回路と、計測用回路と、制御部と、を備える。プラテンローラ91は、サーマルプリントヘッドA1に正対している。
【0074】
主電源回路は、サーマルプリントヘッドA1における複数の発熱抵抗部41に電力を供給する。計測用回路は、複数の発熱抵抗部41の各々の抵抗値を計測する。計測用回路は、例えば、印刷媒体への印字を行わない時に、複数の発熱抵抗部41の各々の抵抗値を計測する。これにより、発熱抵抗部41の寿命や故障した発熱抵抗部41の有無が確認されうる。制御部は、主電源回路及び計測用回路の駆動状態を制御する。制御部は、複数の発熱抵抗部41の各々の通電状態を制御する。計測用回路は省略される場合がある。
【0075】
コネクタ59(
図7参照)は、サーマルプリントヘッドA1外の装置と通信するために用いられる。コネクタ59を介して、サーマルプリントヘッドA1は、主電源回路及び計測用回路に電気的に接続している。コネクタ59を介して、サーマルプリントヘッドA1は、制御部に電気的に接続している。
【0076】
駆動ICは、コネクタ59を介して、制御部から信号を受ける。駆動ICは制御部から受けた当該信号に基づき、複数の発熱抵抗部41の各々の通電状態を制御する。具体的には、駆動ICは、複数の個別電極31を選択的に通電させることにより、複数の発熱抵抗部41のいずれかを任意に発熱させる。
【0077】
次に、サーマルプリンタの使用方法について説明する。
【0078】
印刷媒体への印刷時には、コネクタ59に、主電源回路から、電位V1として電位v11が付与される。この場合、複数の発熱抵抗部41が選択的に通電し、発熱する。当該熱を印刷媒体に伝えることにより、印刷媒体への印刷がなされる。上述のとおり、コネクタ59に、主電源回路から、電位V1として電位v11が付与されている場合、複数の発熱抵抗部41の各々への通電経路が確保されている。
【0079】
印刷媒体への印字を行わない時には、各発熱抵抗部41の抵抗値を計測する。当該計測時には、主電源回路からコネクタ59に電位は付与されない。各発熱抵抗部41の抵抗値の計測時には、コネクタ59に、計測用回路から、電位V1として電位v12が付与される。この場合、複数の発熱抵抗部41が順番に(例えば、主走査方向xの端に位置する発熱抵抗部41から順番に)通電する。発熱抵抗部41に流れる電流の値および電位v12に基づき、計測用回路は、各発熱抵抗部41の抵抗値を計測する。上述のとおり、コネクタ59に、主電源回路から、電位V1として電位v11が付与されている場合、複数の発熱抵抗部41の各々への通電経路が実質的に遮断される。これにより、計測用回路によって、より正確に各発熱抵抗部41の抵抗値を計測でき、発熱抵抗部41の寿命や故障した発熱抵抗部41の有無が確認されうる。
【0080】
本実施形態によれば、当該サーマルプリンタは上述のサーマルプリントヘッドを備えるため、コストを低減させるために比較的に安価で電気伝導性の良好な金属材料を用いて配線等を形成しつつ、当該配線間等に生じる突発的な高電圧を抑制するサーマルプリンタを得ることが可能となる。
【0081】
[その他の実施形態]
上述のように、いくつかの実施形態について記載したが、開示の一部をなす論述及び図面は例示的なものであり、限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替の実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。このように、本実施形態は、ここでは記載していない様々な実施形態等を含む。
【符号の説明】
【0082】
1 基板
3 電極
4 抵抗体層
5 接続基板
8 放熱部材
10 サージ保護素子
13 領域
19 絶縁層
31 個別電極
32 共通電極
33 蓄熱層
34 保護膜
35 基板
41 発熱抵抗部
59 コネクタ
91 プラテンローラ
92 印字媒体
311 個別パッド部
323 共通部
324 櫛歯部
A1 サーマルプリントヘッド
IC 駆動IC
IC1 駆動IC
IC2 駆動IC
IC3 駆動IC
GND 接地電極
Vdd 高電位
VDD 高電源電極
Vgnd 接地電位
Vh 共通電位
VH 共通電極