(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】着氷装置及び着氷方法
(51)【国際特許分類】
G01M 9/06 20060101AFI20241225BHJP
F25C 1/00 20060101ALI20241225BHJP
F25C 3/00 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
G01M9/06
F25C1/00 A
F25C3/00
(21)【出願番号】P 2020175836
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000108797
【氏名又は名称】エスペック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】大浦 修一
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-190426(JP,A)
【文献】特開2006-078137(JP,A)
【文献】特開2015-187519(JP,A)
【文献】特開2020-143986(JP,A)
【文献】特開2000-146387(JP,A)
【文献】実開昭60-161841(JP,U)
【文献】米国特許第04142678(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 9/00 - 9/08
G01N 17/00
F25C 1/00 - 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
氷点下の低温環境に調整可能な室内において、
外部から前記室内に持ち込まれて配置された供試体に氷層を形成する着氷装置であって、
前記室内に霧状の水粒子を噴射する噴霧ユニットと、
前記供試体の温度を検出する供試体温度検出部と、
前記室内の温度を調整する空調部と、を備え、
前記空調部は、前記噴霧ユニットからの前記水粒子の噴射中において、前記供試体温度検出部
による前記供試体の温度の検出結果に基づいて、前記供試体の温度が0℃以下の所定の温度範囲内の目標温度に維持されて前記供試体に着氷するように、前記室内の温度を調整するように構成されている、着氷装置。
【請求項2】
氷点下の低温環境に調整可能な室内において、供試体に氷層を形成する着氷装置であって、
前記室内に霧状の水粒子を噴射する噴霧ユニットと、
前記供試体の温度を検出する供試体温度検出部と、
前記室内の温度を調整する空調部と、を備え、
前記空調部は、
前記噴霧ユニットからの前記水粒子の噴射中において、前記供試体温度検出部の検出結果に基づいて、前記供試体の温度が0℃以下の所定の温度範囲内の目標温度に維持されて前記供試体に着氷するように、前記室内の温度を調整するように構成されており、
前記噴霧ユニットからの前記水粒子の噴射前において、前記供試体の温度が、前記目標温度よりも低い温度になるように、前記室内の温度を調整するように構成されている
、着氷装置。
【請求項3】
前記温度範囲は、-1℃以上0℃以下の範囲である、請求項1又は2に記載の着氷装置。
【請求項4】
前記噴霧ユニットは、前記水粒子として平均粒径が所定値未満の水粒子を噴射する、請求項1~3のいずれか1項に記載の着氷装置。
【請求項5】
前記平均粒径が、12μm以上25μm以下である、請求項4に記載の着氷装置。
【請求項6】
前記噴霧ユニットに加圧した水を供給することにより、前記噴霧ユニットから前記水粒子を噴射させる加圧ポンプを備え、
前記加圧ポンプは、前記噴霧ユニットからの前記水粒子の噴射中において、前記水粒子の噴射水圧が一定に保持されるように、前記噴霧ユニットに加圧した水を供給する、請求項1~5のいずれか1項に記載の着氷装置。
【請求項7】
氷点下の低温環境に調整可能な室内において、
外部から前記室内に持ち込まれて配置された供試体に氷層を形成する着氷方法であって、
供試体温度検出部により前記供試体の温度を検出しつつ、噴霧ユニットにより前記室内に霧状の水粒子を噴射する噴霧工程を含み、
前記噴霧工程では、前記噴霧ユニットからの前記水粒子の噴射中において、前記供試体温度検出部
による前記供試体の温度の検出結果に基づいて、前記供試体の温度が0℃以下の所定の温度範囲内の目標温度に維持されて前記供試体に着氷するように、前記室内の温度を調整する、着氷方法。
【請求項8】
氷点下の低温環境に調整可能な室内において、供試体に氷層を形成する着氷方法であって、
供試体温度検出部により前記供試体の温度を検出しつつ、噴霧ユニットにより前記室内に霧状の水粒子を噴射する噴霧工程を含み、
前記噴霧工程では、
前記供試体温度検出部の検出結果に基づいて、前記供試体の温度が所定の温度範囲内の目標温度に維持されるように、前記噴霧ユニットの位置を調整し、
前記検出結果が前記目標温度よりも高い場合には、前記噴霧ユニットの位置を前記供試体から遠ざかるように調整し、
前記検出結果が前記目標温度よりも低い場合には、前記噴霧ユニットの位置を前記供試体に近づくように調整する、着氷方法。
【請求項9】
氷点下の低温環境に調整可能な室内において、供試体に氷層を形成する着氷方法であって、
供試体温度検出部により前記供試体の温度を検出しつつ、噴霧ユニットにより前記室内に霧状の水粒子を噴射する噴霧工程を含み、
前記噴霧工程では、
前記供試体温度検出部の検出結果に基づいて、前記供試体の温度が所定の温度範囲内の目標温度に維持されるように、前記噴霧ユニットによる前記水粒子の噴射量を調整し、
前記検出結果が前記目標温度よりも高い場合には、前記噴霧ユニットによる前記水粒子の噴射量を少なくなるように調整し、
前記検出結果が前記目標温度よりも低い場合には、前記噴霧ユニットによる前記水粒子の噴射量を多くなるように調整する、着氷方法。
【請求項10】
氷点下の低温環境に調整可能な室内において、供試体に氷層を形成する着氷方法であって、
供試体温度検出部により前記供試体の温度を検出しつつ、噴霧ユニットにより前記室内に霧状の水粒子を噴射する噴霧工程を含み、
前記噴霧工程では、前記噴霧ユニットからの前記水粒子の噴射中において、前記供試体温度検出部の検出結果に基づいて、前記供試体の温度が0℃以下の所定の温度範囲内の目標温度に維持されて前記供試体に着氷するように、前記室内の温度を調整し、
前記噴霧工程の前工程として、前記供試体の温度が、前記噴霧工程における前記供試体の前記目標温度よりも低い温度になるように、前記室内の温度を調整する予備冷却工程を含む
、着氷方法。
【請求項11】
前記温度範囲は、-1℃以上0℃以下の範囲である、請求項7~10のいずれか1項に記載の着氷方法。
【請求項12】
前記噴霧工程では、前記噴霧ユニットからの前記水粒子の噴射中において、前記供試体の温度が当該供試体における氷層形成部位に応じた目標温度に維持されるように、前記噴霧ユニットの位置、前記噴霧ユニットによる前記水粒子の噴射量、及び前記室内の温度の少なくともいずれかを調整する、請求項8又は9に記載の着氷方法。
【請求項13】
前記噴霧工程では、前記水粒子として平均粒径が所定値未満の水粒子を前記噴霧ユニットにより噴射する、請求項7~12のいずれか1項に記載の着氷方法。
【請求項14】
前記平均粒径が、12μm以上25μm以下である、請求項13に記載の着氷方法。
【請求項15】
前記噴霧工程では、前記噴霧ユニットからの前記水粒子の噴射水圧を一定に保持する、請求項7~14のいずれか1項に記載の着氷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、氷点下の低温環境に調整可能な室内において、供試体に氷層を形成する着氷装置及び着氷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、氷点下の低温環境に調整した室内に配置された着氷対象物に氷層を形成する着氷装置が知られている。この種の着氷装置が特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2に開示される装置は、いずれも、氷点下の所定温度に調整された室内(特許文献1ではチャンバ内、特許文献2では風洞室内)に水粒子を噴射し、当該水粒子を着氷対象物上で凍結させて氷層を形成するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2019-516995号公報
【文献】実開平02-103245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、着氷対象物に氷層を形成する際に、氷の成長の制御が必要な場合がある。例えば、着氷対象物に透明な氷層を形成する場合には、氷層の透明性を阻害する空気などが氷層の中に閉じ込められることがないように、氷の成長を制御する必要がある。特許文献1,2に開示される技術のように、着氷対象物が配置される室内の温度を所定温度に調整するだけでは、着氷対象物に氷層を形成する際の氷の成長を精度よく制御することができないという課題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、供試体に氷層を形成する際の氷の成長を精度よく制御することが可能な着氷装置及び着氷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の局面に係る着氷装置は、氷点下の低温環境に調整可能な室内において、供試体に氷層を形成する装置である。この着氷装置は、前記室内に霧状の水粒子を噴射する噴霧ユニットと、前記供試体の温度を検出する供試体温度検出部と、を備える。そして、前記噴霧ユニットの位置、前記噴霧ユニットによる前記水粒子の噴射量、及び前記室内の温度の少なくともいずれかは、前記供試体温度検出部の検出結果に基づいて、調整可能である。
【0008】
この着氷装置によれば、噴霧ユニットは、供試体が配置された室内に霧状の水粒子を噴射する。氷点下の低温環境に室内が調整された状態において、噴霧ユニットから噴射された水粒子は、氷点下の低温環境に調整された室内を浮遊して供試体上で凍結する。このような供試体上での水粒子の凍結によって、供試体に氷層が形成される。
【0009】
着氷装置では、供試体に氷層を形成する際において、供試体温度検出部による供試体温度の検出結果に基づいて、噴霧ユニットの位置、噴霧ユニットによる水粒子の噴射量、及び室内の温度の少なくともいずれかの調整が可能である。噴霧ユニットの位置及び室内の温度は、室内を浮遊して供試体に到達したときの水粒子の温度に影響を及ぼす。また、噴霧ユニットによる水粒子の噴射量は、供試体に到達する水粒子の量に影響を及ぼす。これらの影響因子を、供試体温度の検出結果に基づいて調整することにより、供試体の温度を精密に制御することが可能となる。供試体の温度は、供試体に氷層を形成する際の氷の成長に影響を及ぼす氷成長影響因子であるので、この供試体の温度の精密な制御によって、供試体における氷の成長を精度よく制御することができる。
【0010】
上記の着氷装置は、前記室内の温度を調整する空調部を備える構成であってもよい。そして、前記空調部は、前記噴霧ユニットからの前記水粒子の噴射前において、前記供試体の温度が、前記噴霧ユニットからの前記水粒子の噴射中における前記供試体の目標温度よりも低い温度になるように、前記室内の温度を調整する。
【0011】
この態様では、噴霧ユニットからの水粒子の噴射前に、供試体の温度が目標温度よりも低い温度に調整される。これにより、噴霧ユニットによる水粒子の噴射が開始されて供試体に氷層が形成される初期段階において、供試体上での水粒子の凍結を促進することができる。
【0012】
上記の着氷装置において、前記噴霧ユニットの位置、前記噴霧ユニットによる前記水粒子の噴射量、及び前記室内の温度の少なくともいずれかは、前記噴霧ユニットからの前記水粒子の噴射中において、前記供試体の温度が-1℃以上0℃以下の温度範囲内に維持されるように調整可能である。
【0013】
この態様では、噴霧ユニットからの水粒子の噴射中において、供試体の温度が-1℃以上0℃以下の温度範囲内に維持されるように、噴霧ユニットの位置、噴霧ユニットによる水粒子の噴射量、及び室内の温度の少なくともいずれかの影響因子が調整される。このような影響因子の調整は、供試体に透明な氷層を形成する場合に特に有効である。供試体の温度が-1℃以上0℃以下に調整されることにより、氷層の透明性を阻害する空気などが氷層の中に閉じ込められることを抑制可能である。このため、透明且つ均質な氷層を供試体に形成することができる。
【0014】
上記の着氷装置において、前記噴霧ユニットの位置、前記噴霧ユニットによる前記水粒子の噴射量、及び前記室内の温度の少なくともいずれかは、前記噴霧ユニットからの前記水粒子の噴射中において、前記供試体の温度が当該供試体における氷層形成部位に応じて設定される目標温度に維持されるように調整可能である。
【0015】
供試体においては、例えば、上方を向く上面と下方を向く下面とでは、氷層を形成する際の氷の成長速度が異なる。供試体の上面に氷層を形成する場合、当該上面に到達した水粒子が垂れ落ちる現象が生じ難い。一方、供試体の下面に氷層を形成する場合、当該下面に到達した水粒子が垂れ落ちる現象が生じ易い。このため、供試体において上面よりも下面の方が、氷の成長速度が遅くなる。このような供試体における氷層形成部位によって氷の成長速度が異なることを考慮して、供試体の温度が氷層形成部位に応じた目標温度に維持されるように、噴霧ユニットの位置、噴霧ユニットによる水粒子の噴射量、及び室内の温度の少なくともいずれかの影響因子を調整する。これにより、供試体における氷層形成部位に応じて、氷層を形成する際の氷の成長を精度よく制御することができる。
【0016】
上記の着氷装置において、前記噴霧ユニットは、前記水粒子として平均粒径が所定値未満の水粒子を噴射するように構成されている。
【0017】
この態様では、供試体に氷層を形成する際に、噴霧ユニットから平均粒径が所定値未満の超微細な水粒子が噴射される。このため、室内において水粒子を容易に浮遊させることができるとともに、水粒子を過冷却状態に近づけることが容易となる。したがって、供試体上での均質な氷層の形成に寄与する。
【0018】
上記の着氷装置は、前記噴霧ユニットに加圧した水を供給することにより、前記噴霧ユニットから前記水粒子を噴射させる加圧ポンプを備える構成であってもよい。そして、前記加圧ポンプは、前記噴霧ユニットからの前記水粒子の噴射中において、前記水粒子の噴射水圧が一定に保持されるように、前記噴霧ユニットに加圧した水を供給する。
【0019】
この態様では、噴霧ユニットから水粒子を噴射するときの噴射水圧が一定に保持されるので、平均粒径が略一定の水粒子を噴射することができる。これにより、噴霧ユニットからの水粒子の噴射中において、室内を浮遊して供試体に到達したときの水粒子の温度の安定化を図ることができる。したがって、供試体上での均質な氷層の形成に寄与する。
【0020】
本発明の他の局面に係る着氷方法は、氷点下の低温環境に調整可能な室内において、供試体に氷層を形成する方法である。この着氷方法は、供試体温度検出部により前記供試体の温度を検出しつつ、噴霧ユニットにより前記室内に霧状の水粒子を噴射する噴霧工程を含み、前記噴霧工程では、前記供試体温度検出部の検出結果に基づいて、前記噴霧ユニットの位置、前記噴霧ユニットによる前記水粒子の噴射量、及び前記室内の温度の少なくともいずれかを調整する。
【0021】
この着氷方法によれば、噴霧工程において、供試体が配置された室内に噴霧ユニットにより霧状の水粒子を噴射する。これにより、供試体上での水粒子の凍結によって、供試体に氷層が形成される。更に、噴霧工程では、供試体温度検出部による供試体温度の検出結果に基づいて、噴霧ユニットの位置、噴霧ユニットによる水粒子の噴射量、及び室内の温度の少なくともいずれかを調整する。これにより、供試体に氷層を形成する際の氷の成長に影響を及ぼす氷成長影響因子である供試体の温度を精密に制御することが可能となる。このような供試体の温度の精密な制御によって、供試体における氷の成長を精度よく制御することができる。
【0022】
上記の着氷方法は、前記噴霧工程の前工程として、前記供試体の温度が、前記噴霧工程における前記供試体の目標温度よりも低い温度になるように、前記室内の温度を調整する予備冷却工程を含んでもよい。
【0023】
この態様では、噴霧工程の前工程としての予備冷却工程において、供試体の温度が目標温度よりも低い温度に調整される。これにより、噴霧ユニットによる水粒子の噴射が開始されて供試体に氷層が形成される初期段階において、供試体上での水粒子の凍結を促進することができる。
【0024】
上記の着氷方法において、前記噴霧工程では、前記供試体の温度が-1℃以上0℃以下の温度範囲内に維持されるように、前記噴霧ユニットの位置、前記噴霧ユニットによる前記水粒子の噴射量、及び前記室内の温度の少なくともいずれかを調整する。
【0025】
この態様では、噴霧工程において、供試体の温度が-1℃以上0℃以下に調整されることにより、氷層の透明性を阻害する空気などが氷層の中に閉じ込められることを抑制可能である。このため、透明且つ均質な氷層を供試体に形成することができる。
【0026】
上記の着氷方法において、前記噴霧工程では、前記供試体の温度が当該供試体における氷層形成部位に応じた目標温度に維持されるように、前記噴霧ユニットの位置、前記噴霧ユニットによる前記水粒子の噴射量、及び前記室内の温度の少なくともいずれかを調整する。
【0027】
この態様では、供試体における氷層形成部位によって氷の成長速度が異なることを考慮して、供試体の温度が氷層形成部位に応じた目標温度に維持されるように、噴霧ユニットの位置、噴霧ユニットによる水粒子の噴射量、及び室内の温度の少なくともいずれかを調整する。これにより、供試体における氷層形成部位に応じて、氷層を形成する際の氷の成長を精度よく制御することができる。
【0028】
上記の着氷方法において、前記噴霧工程では、前記水粒子として平均粒径が所定値未満の水粒子を前記噴霧ユニットにより噴射する。
【0029】
この態様では、噴霧工程において、噴霧ユニットから平均粒径が所定値未満の超微細な水粒子が噴射される。このため、室内において水粒子を容易に浮遊させることができるとともに、水粒子を過冷却状態に近づけることが容易となる。したがって、供試体上での均質な氷層の形成に寄与する。
【0030】
上記の着氷方法において、前記噴霧工程では、前記噴霧ユニットからの前記水粒子の噴射水圧を一定に保持する。
【0031】
この態様では、噴霧ユニットから水粒子を噴射するときの噴射水圧が一定に保持されるので、平均粒径が略一定の水粒子を噴射することができる。これにより、噴霧ユニットからの水粒子の噴射中において、室内を浮遊して供試体に到達したときの水粒子の温度の安定化を図ることができる。したがって、供試体上での均質な氷層の形成に寄与する。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本発明によれば、供試体に氷層を形成する際の氷の成長を精度よく制御することが可能な着氷装置及び着氷方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態に係る着氷装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】着氷装置に備えられるユニット支持体の構成を示す斜視図である。
【
図3】着氷装置を用いて実施される着氷方法を示すフローチャートである。
【
図4】着氷装置の変形例の要部を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本実施形態に係る着氷装置及び着氷方法について、図面に基づいて説明する。
【0035】
本実施形態に係る着氷装置及び着氷方法は、氷点下の低温環境に調整可能な室内において、供試体に氷層を形成して試験を行う試験装置及び試験方法に適用可能である。このような試験としては、航空機搭載機器を供試体とする着氷試験や、航空機の構造体への氷の形成を防止する疎水性コーティング剤の有効性を評価するための着氷試験、自動車等の車両の構造体への氷の形成に対する耐性を評価するための着氷試験、送電線などの送電設備への氷の形成に対する耐性を評価するための着氷試験などが挙げられる。航空機搭載機器の着氷試験は、RTCA/DO-160Gのセクション24カテゴリーCに規定されている。この着氷試験では、試験対象の供試体に透明な氷層を形成することが要求されている。また、供試体としては、航空機の機体に装備される主翼や尾翼、航空機の機体を地上で支持するための降着装置、対気速度の計測に用いられるピトー管などが挙げられる。以下では、本実施形態に係る着氷装置及び着氷方法について、航空機搭載機器を供試体とする場合を例に挙げて説明することとする。
【0036】
[着氷装置について]
図1に示される着氷装置1は、試験室7内で供試体SPに氷層を形成するための装置である。試験室7は、供試体SPに着氷させる環境に調整された部屋の一例である。
【0037】
図1に示されるように、試験対象の供試体SPが配置される試験室7の側方には、試験室7とは仕切壁71で隔てられた空調室8が設けられている。仕切壁71には、吹出口711と吸込口712とが設けられている。
【0038】
着氷装置1は、空調室8内を流れる空気を空調する空調部6を備えている。空調部6は、空調室8内の空気を加熱又は冷却することにより、空調室8内の空気の温度を調整する。空調部6によって温度調整された空気は、吹出口711から試験室7内へ吹き出される。これにより、試験室7内に温度調整された空気が供給される。空調室8から試験室7内に空気が吹き出されることによって、試験室7内の空気は、吸込口712から空調室8内に吸い込まれる。このように、空調室8と試験室7との間での空気の循環を繰り返すことで、試験室7内の空気の温度が調整される。つまり、空調部6は、温度調整された空気を試験室7内に供給することにより、試験室7内の温度を調整することができる。
【0039】
試験室7内の温度は、室温検出部72によって検出される。室温検出部72は、例えば温度センサによって構成される。室温検出部72は、試験室7内における吹出口711の近傍に設けられ、吹出口711の近傍の空気の温度を検出する。試験室7内の温度は、氷点下の温度、例えば-10℃以上-1℃以下に調整される。
【0040】
着氷装置1は、氷点下の低温環境に調整可能な試験室7内において、供試体SPに氷層が形成される環境を提供する。着氷装置1は、噴霧機2と、供試体温度検出部3と、ユニット支持体4と、送風機5と、を備えている。
【0041】
噴霧機2は、試験室7内に霧状の水粒子を噴射するための機構である。噴霧機2の設置台数は、試験室7の広さや供試体SPの大きさ、あるいは、供試体SPにおける氷層形成部位の位置に応じて決定され、1台であってもよいし、2台以上の複数台であってもよい。噴霧機2は、噴霧ユニット21と、加圧ポンプ22と、フィルタ23と、供給配管24と、タンク25と、水温調整器26と、を備えている。
【0042】
噴霧ユニット21は、試験室7内に配置されている。噴霧ユニット21は、1又は2以上の複数の噴霧ノズル211を有している。噴霧ユニット21は、噴霧ノズル211から霧状の水粒子を噴射する。本実施形態では、噴霧ユニット21は、複数の噴霧ノズル211を有している。
【0043】
噴霧ユニット21から噴射された水粒子は、氷点下の低温環境に調整された試験室7内を浮遊することで、過冷却の状態又は過冷却に近い状態にまで冷却される。試験室7内を浮遊する水粒子は、供試体SPに到達したときに当該供試体SP上で凍結する。このような供試体SP上での水粒子の凍結によって、供試体SPに氷層が形成される。
【0044】
タンク25及び水温調整器26は、試験室7外に配置されている。タンク25は、水を貯留するものであり、当該水が噴霧ユニット21に供給される。水温調整器26は、タンク25内の水の温度を調整する。つまり、水温調整器26がタンク25内の水の温度を調整することにより、噴霧ユニット21から噴射される水粒子の温度を調整することができる。タンク25内の水の温度は、例えば、0℃以上40℃以下に調整される。なお、水温調整器26を省略して、噴霧ユニット21から常温(25℃)の水粒子を噴射してもよい。
【0045】
加圧ポンプ22は、試験室7外に配置されている。加圧ポンプ22は、噴霧ユニット21における複数の噴霧ノズル211の各々に対応して、複数設けられる。つまり、加圧ポンプ22の設置数は、噴霧ユニット21における噴霧ノズル211の数と同じである。各加圧ポンプ22は、タンク25内の水を加圧して噴霧ユニット21の各噴霧ノズル211に供給する。
【0046】
各加圧ポンプ22と噴霧ユニット21における各噴霧ノズル211とは、供給配管24によって接続されている。各加圧ポンプ22によって加圧された水は、供給配管24を流通して各噴霧ノズル211に供給される。供給配管24は、少なくとも試験室7内に配索される部分が断熱材によって覆われている。これにより、供給配管24を流通する水が凍るのを防止することができる。
【0047】
フィルタ23は、試験室7外に配置されている。フィルタ23は、供給配管24を流通する水に含まれる異物を捕集する。これにより、異物を含む水が噴霧ユニット21における噴霧ノズル211に供給されることを抑制できる。
【0048】
噴霧ユニット21は、各加圧ポンプ22から加圧された水が供給されることにより、各噴霧ノズル211から水粒子を噴射する。複数の噴霧ノズル211の各々に対応して加圧ポンプ22を設けた構成では、加圧ポンプ22の作動数を調整することにより、水粒子を噴射させる噴霧ノズル211の数を調整することができる。このように、加圧ポンプ22の作動数に応じて水粒子を噴射させる噴霧ノズル211の数を調整することにより、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量を調整することができる。
【0049】
なお、上記の例では、複数の噴霧ノズル211の各々に対応して加圧ポンプ22を複数設ける構成について説明したが、この構成に限定されない。例えば、加圧ポンプ22を1台とし、この加圧ポンプ22と噴霧ユニット21における各噴霧ノズル211とを、開閉弁を設けた供給配管24によって接続するようにしてもよい。この場合、加圧ポンプ22を作動させた状態で、開放する開閉弁の数に応じて水粒子を噴射させる噴霧ノズル211の数を調整することにより、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量を調整することができる。
【0050】
噴霧ユニット21から噴射される水粒子の噴射水圧は、加圧ポンプ22による噴霧ノズル211に対する水の供給水圧によって調整される。噴霧ユニット21から水粒子を噴射するときの噴射水圧は、水粒子の平均粒径に影響を及ぼす。つまり、噴霧ユニット21による水粒子の噴射水圧が高くなるに従って、水粒子の平均粒径が小さくなる。噴霧ユニット21から噴射される水粒子の平均粒径は、例えば、12μm以上25μm以下に設定される。
【0051】
噴霧ユニット21は、平均粒径が所定値(例えば16μm)未満の水粒子(所謂「ドライミスト」)を噴霧ノズル211から噴射するように構成されていることが望ましい。この水粒子は、平均粒径が所定値未満の超微細な水粒子であるので、水粒子を試験室7内で容易に浮遊させることができるとともに、過冷却の状態に近づけることが容易となる。このため、供試体SP上での均質な氷層の形成に寄与する。
【0052】
供試体温度検出部3は、供試体SPの温度を検出する。供試体温度検出部3は、例えば熱電対などの温度センサによって構成される。供試体温度検出部3は、供試体SPの表面に取り付けられ、供試体SPの表面温度を検出する。なお、供試体温度検出部3は、赤外線などを利用して非接触で供試体SPの表面温度を検出するように構成されてもよい。
【0053】
送風機5は、試験室7内に配置されている。送風機5は、所定の風速の風を生成する。送風機5が生成した風により、噴霧ユニット21から噴射されて試験室7内を浮遊する水粒子を供試体SPに向けて移動させることができる。なお、送風機5の設置を省略しても構わない。
【0054】
ユニット支持体4は、試験室7内において噴霧ユニット21を支持するように構成されている。更に、ユニット支持体4は、供試体SPに対する噴霧ユニット21の相対位置を調整できるように構成されている。
図2に示されるように、ユニット支持体4は、ユニット支持部41と、レール42と、4本の支柱部材43と、第1支持フレーム44と、2本の第2支持フレーム45と、を備えている。
【0055】
4本の支柱部材43は、上下方向に延びるように試験室7の床面に立設される部材である。第1支持フレーム44は、矩形枠状に形成される部材であり、水平姿勢で4本の支柱部材43の上端に固定されている。2本の第2支持フレーム45は、第1水平方向H1に延びる部材であり、第1水平方向H1に直交する第2水平方向H2に互いに対向するように、2本の支柱部材43における上下方向の中間部にそれぞれ接続されている。
【0056】
レール42は、第2水平方向H2に延びる部材であり、第1支持フレーム44又は2本の第2支持フレーム45に支持される。レール42は、第1支持フレーム44又は2本の第2支持フレーム45に沿って第1水平方向H1に移動可能である。ユニット支持部41は、噴霧ユニット21を支持する部材であり、噴霧ユニット21を支持した状態でレール42に取り付けられる。ユニット支持部41は、レール42に沿って第2水平方向H2に移動可能である。
【0057】
ユニット支持体4では、レール42が第1支持フレーム44又は2本の第2支持フレーム45に沿って第1水平方向H1に移動され、噴霧ユニット21を支持したユニット支持部41がレール42に沿って第2水平方向H2に移動される。これにより、供試体SPに対する噴霧ユニット21の相対位置を水平方向に調整することができる。更に、第1支持フレーム44と第2支持フレーム45との間でレール42の支持を変更することにより、供試体SPに対する噴霧ユニット21の相対位置を上下方向に調整することができる。なお、ユニット支持体4において第2支持フレーム45を省略し、レール42を支持する第1支持フレーム44が4本の支柱部材43に沿って上下方向に移動するようにしてもよい。この場合、第1支持フレーム44の上下方向への移動によって、供試体SPに対する噴霧ユニット21の相対位置を上下方向に調整することができる。
【0058】
なお、ユニット支持体4の構成は、噴霧ユニット21を支持し、且つ、供試体SPに対する噴霧ユニット21の相対位置を上下方向及び水平方向に調整することが可能であれば、上記の構成に限定されるものではない。
【0059】
着氷装置1では、供試体SPに氷層を形成する際において、供試体温度検出部3による供試体SPの温度の検出結果に基づいて、噴霧ユニット21の位置、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量、及び、試験室7内の温度の少なくともいずれかの調整が可能である。具体的には、着氷装置1においては、供試体SPに対する噴霧ユニット21の相対位置がユニット支持体4によって調整される。また、加圧ポンプ22の作動数に応じて水粒子を噴射させる噴霧ノズル211の数を調整することにより、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量が調整される。更に、空調部6により温度調整された空気の試験室7内への供給に応じて、試験室7内の温度が調整される。
【0060】
噴霧ユニット21の位置及び試験室7内の温度は、試験室7内を浮遊して供試体SPに到達したときの水粒子の温度に影響を及ぼす。また、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量は、供試体SPに到達する水粒子の量に影響を及ぼす。これらの影響因子を、供試体温度検出部3による供試体SPの温度の検出結果に基づいて調整することにより、供試体SPの温度を精密に制御することが可能となる。供試体SPの温度は、供試体SPに氷層を形成する際の氷の成長に影響を及ぼす氷成長影響因子であるので、この供試体SPの温度の精密な制御によって、供試体SPにおける氷の成長を精度よく制御することができる。
【0061】
噴霧ユニット21の位置、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量、及び試験室7内の温度はいずれも、供試体SPの温度に影響を及ぼす影響因子となる。以下の説明では、噴霧ユニット21の位置、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量、及び試験室7内の温度の少なくともいずれかを「供試体温度影響因子」と総称することがある。
【0062】
着氷装置1では、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射中において、水粒子の噴射水圧は一定に保持されることが望ましい。既述の通り、水粒子の噴射水圧は、加圧ポンプ22による噴霧ノズル211に対する水の供給水圧によって調整される。噴霧ユニット21から水粒子を噴射するときの噴射水圧が一定に保持されることにより、平均粒径が略一定の水粒子を噴射することができる。これにより、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射中において、試験室7内を浮遊して供試体SPに到達したときの水粒子の温度の安定化を図ることができる。このため、供試体SP上での均質な氷層の形成に寄与する。
【0063】
また、着氷装置1においては、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射中において、供試体SPの温度が-1℃以上0℃以下の温度範囲内の所定の目標温度に維持されるように、供試体温度影響因子が調整される。この際、まず、ユニット支持体4による噴霧ユニット21の位置調整、及び、水粒子を噴射させる噴霧ノズル211の数に応じた噴霧ユニット21による水粒子の噴射量の調整の少なくともいずれかの調整が行われる。これらの調整によって供試体SPの温度が目標温度で維持されない場合に、空調部6による試験室7内の温度の調整が行われる。供試体温度影響因子の調整のうち、噴霧ユニット21の位置調整及び噴霧ユニット21による水粒子の噴射量の調整については、水粒子の噴射前に行い、試験室7内の温度の調整については水粒子の噴射中に行う。あるいは、噴霧ユニット21の位置調整については水粒子の噴射前に行い、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量の調整及び試験室7内の温度の調整については、水粒子の噴射中に行ってもよい。また、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量の調整については水粒子の噴射前に行い、噴霧ユニット21の位置調整及び試験室7内の温度の調整については、水粒子の噴射中に行ってもよい。また、噴霧ユニット21の位置調整、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量の調整及び試験室7内の温度の調整を、水粒子の噴射中に行ってもよい。
【0064】
具体的には、供試体温度検出部3による供試体SPの温度の検出結果が目標温度よりも高い場合、噴霧ユニット21の位置は、噴霧ユニット21が供試体SPから遠ざかるように、ユニット支持体4によって調整される。これにより、噴霧ユニット21から噴射された水粒子が供試体SPに到達するまでに浮遊する距離が長くなるから、供試体SPに到達したときの水粒子の温度が低くなる。このため、供試体SPの温度を目標温度に近づけることができる。また、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量については、当該噴射量が少なくなるように調整される。これにより、目標温度よりも高い温度の水粒子の供試体SPに到達する量が少なくなる。このため、供試体SPの温度を目標温度に近づけることができる。また、試験室7内の温度については、当該温度が低くなるように空調部6によって調整される。これにより、試験室7内を浮遊する水粒子の温度が低くなる。このため、供試体SPに到達したときの水粒子の温度も低くなるので、供試体SPの温度を目標温度に近づけることができる。
【0065】
一方、供試体温度検出部3による供試体SPの温度の検出結果が目標温度よりも低い場合、噴霧ユニット21の位置は、噴霧ユニット21が供試体SPに近づくように、ユニット支持体4によって調整される。これにより、噴霧ユニット21から噴射された水粒子が供試体SPに到達するまでに浮遊する距離が短くなるから、供試体SPに到達したときの水粒子の温度が高くなる。このため、供試体SPの温度を目標温度に近づけることができる。また、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量については、当該噴射量が多くなるように調整される。これにより、目標温度よりも高い温度の水粒子の供試体SPに到達する量が多くなる。このため、供試体SPの温度を目標温度に近づけることができる。また、試験室7内の温度については、当該温度が高くなるように空調部6によって調整される。これにより、試験室7内を浮遊する水粒子の温度が高くなる。このため、供試体SPに到達したときの水粒子の温度も高くなるので、供試体SPの温度を目標温度に近づけることができる。
【0066】
供試体SPの温度が-1℃以上0℃以下の目標温度に維持されるような供試体温度影響因子の調整は、供試体SPに透明な氷層を形成する場合に特に有効である。供試体SPの温度が-1℃以上0℃以下に調整されることにより、氷層の透明性を阻害する空気などが氷層の中に閉じ込められることを抑制可能である。このため、透明且つ均質な氷層を供試体SPに形成することができる。
【0067】
供試体SPにおいては、例えば、上方を向く上面と下方を向く下面とでは、氷層を形成する際の氷の成長速度が異なる。供試体SPの上面に氷層を形成する場合、当該上面に到達した水粒子が垂れ落ちる現象が生じ難い。一方、供試体SPの下面に氷層を形成する場合、当該下面に到達した水粒子が垂れ落ちる現象が生じ易い。このため、供試体SPにおいて上面よりも下面の方が、氷の成長速度が遅くなる。
【0068】
着氷装置1は、供試体SPにおける氷層形成部位によって氷の成長速度が異なることを考慮した構成であることが望ましい。つまり、着氷装置1においては、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射中において、供試体SPの温度が当該供試体SPにおける氷層形成部位に応じて設定される目標温度に維持されるように、噴霧ユニット21の位置、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量、及び試験室7内の温度の少なくともいずれかの供試体温度影響因子が調整される。この場合の供試体温度影響因子の調整についても、噴霧ユニット21の位置調整及び噴霧ユニット21による水粒子の噴射量の調整については、水粒子の噴射前に行い、試験室7内の温度の調整については水粒子の噴射中に行う。あるいは、噴霧ユニット21の位置調整については水粒子の噴射前に行い、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量の調整及び試験室7内の温度の調整については、水粒子の噴射中に行ってもよい。また、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量の調整については水粒子の噴射前に行い、噴霧ユニット21の位置調整及び試験室7内の温度の調整については、水粒子の噴射中に行ってもよい。また、噴霧ユニット21の位置調整、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量の調整及び試験室7内の温度の調整を、水粒子の噴射中に行ってもよい。
【0069】
供試体SPにおける下面を氷層形成の対象としない場合の目標温度を「第1目標温度」とし、供試体SPにおける下面を氷層形成の対象として含む場合の目標温度を「第2目標温度」とする。この場合、第2目標温度は、第1目標温度よりも低い値に設定される。つまり、着氷装置1においては、供試体SPにおける下面を氷層形成の対象としない場合、供試体SPの温度が第1目標温度に維持されるように、供試体温度影響因子が調整される。一方、供試体SPにおける下面を氷層形成の対象として含み、供試体SPの全面を氷層形成の対象とする場合には、供試体SPの少なくとも下面の温度が第1目標温度よりも低い第2目標温度に維持されるように、供試体温度影響因子が調整される。これにより、供試体SPにおける氷層形成部位に応じて、氷層を形成する際の氷の成長を精度よく制御することができる。なお、供試体温度検出部3は、供試体SPにおける下面以外の面の温度を検出するように構成されていてもよいし、供試体SPにおける下面の温度を検出するように構成されていてもよい。また、供試体温度検出部3は、供試体SPの氷層形成部位に応じて、供試体SPにおける温度の検出対象位置を変更するように構成されていてもよい。例えば、供試体SPにおける下面を氷層形成の対象としない場合には、供試体温度検出部3は、供試体SPにおける下面以外の面の温度を検出する。一方、供試体SPの全面を氷層形成の対象とする場合には、供試体温度検出部3は、供試体SPにおける下面の温度を検出する。
【0070】
供試体SPの全面を氷層形成の対象とする場合における供試体温度影響因子の調整では、供試体SPの各面における氷の成長速度を考慮して、供試体SPに対する水粒子の到達量が下面よりも上面が少なくなるように、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量を調整してもよい。これにより、供試体SPの全面で厚みが均一な氷層を形成することができる。
【0071】
また、着氷装置1においては、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射前において、供試体SPの温度が、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射中における供試体SPの目標温度になるように、空調部6によって試験室7内の温度が調整されてもよい。これにより、噴霧ユニット21による水粒子の噴射が開始されて供試体SPに氷層が形成される初期段階において、供試体SP上での水粒子の凍結を促進することができる。あるいは、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射前において、供試体SPの温度が、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射中における供試体SPの目標温度よりも低い温度(予備冷却温度)になるように、空調部6によって試験室7内の温度が調整されてもよい。これにより、噴霧ユニット21による水粒子の噴射が開始されて供試体SPに氷層が形成される初期段階において、供試体SP上での水粒子の凍結をより促進することができる。
【0072】
[着氷方法について]
次に、氷点下の低温環境に調整可能な試験室7内の供試体SPに氷層を形成する着氷方法について、
図3のフローチャートを参照して説明する。この着氷方法の各工程は、上記の着氷装置1を用いて実施される。
【0073】
試験室7内に供試体SPを配置し、当該供試体SPに供試体温度検出部3を取り付けるとともに、噴霧ユニット21が供試体SPから所定距離離間するように、噴霧ユニット21を支持したユニット支持体4を所定位置に配置する。また、供試体SPの予備冷却温度、及び、供試体SPにおける氷層形成部位に応じた目標温度を設定する。
【0074】
また、噴霧機2の動作条件についても予め設定する。具体的には、所望の平均粒径の水粒子を噴霧ユニット21から噴射するための噴射水圧、すなわち、加圧ポンプ22から噴霧ノズル211への水の供給水圧を予め設定する。この際、平均粒径が所定値(例えば16μm)未満の水粒子を噴霧ユニット21から噴射する場合には、噴霧ユニット21から噴射される水粒子の温度が例えば常温(25℃)となるように、水温調整器26がタンク25内の水の温度を調整する。既述の通り、平均粒径が所定値未満の水粒子(ドライミスト)は、試験室7内を容易に浮遊し、且つ過冷却の状態に容易に近づくような水粒子である。このため、噴霧ユニット21から噴射される水粒子の温度を0℃付近の低温にする必要はなく、例えば25℃の常温に調整すればよい。
【0075】
なお、試験室7内の温度は、空調部6によって、氷点下の温度、例えば-10℃以上-1℃以下に調整される。このような空調部6による試験室7内の温度調整は、試験室7内への供試体SPの配置前にされてもよいし、供試体SPの配置後にされてもよい。
【0076】
噴霧ユニット21からの水粒子の噴射前に、供試体SPの温度が予備冷却温度になるように、空調部6によって試験室7内の温度が調整される(ステップS1、予備冷却工程)。このような試験室7の温度の調整中において、供試体温度検出部3の検出結果に基づいて、供試体SPの温度が予備冷却温度に到達したか否かが判断される(ステップS2)。
【0077】
供試体SPの温度が予備冷却温度に到達した場合(ステップS2でYESの場合)には、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射を開始する(ステップS3)。噴霧ユニット21による水粒子の噴射が開始されて供試体SPに氷層が形成される初期段階においては、供試体SPの温度が予備冷却温度になっているので、供試体SP上での水粒子の凍結が促進される。
【0078】
また、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射中において、水粒子の噴射水圧は一定に保持される。これにより、平均粒径が略一定の水粒子が噴霧ユニット21から噴射される。このため、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射中において、試験室7内を浮遊して供試体SPに到達したときの水粒子の温度の安定化が図られる。噴霧ユニット21から噴射された水粒子は、氷点下の低温環境に調整された試験室7内を浮遊することで、過冷却の状態又は過冷却に近い状態にまで冷却される。
【0079】
噴霧ユニット21からの水粒子の噴射中において、供試体SPの温度が-1℃以上0℃以下の温度範囲内の所定の目標温度に維持されるように、供試体温度検出部3の検出結果に基づいて、噴霧ユニット21の位置、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量、及び、試験室7内の温度の少なくともいずれかの供試体温度影響因子を調整する(ステップS4)。この際、供試体SPの温度が当該供試体SPにおける氷層形成部位に応じて設定される目標温度に維持されるように、供試体温度影響因子を調整する。これにより、氷層の透明性を阻害する空気などが氷層の中に閉じ込められることを抑制可能である。このため、透明且つ均質な氷層を供試体SPに形成することができる。
【0080】
なお、供試体温度影響因子の調整のうち、噴霧ユニット21の位置調整及び噴霧ユニット21による水粒子の噴射量の調整については、水粒子の噴射前に行い、試験室7内の温度の調整については水粒子の噴射中に行う。あるいは、噴霧ユニット21の位置調整については水粒子の噴射前に行い、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量の調整及び試験室7内の温度の調整については、水粒子の噴射中に行ってもよい。また、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量の調整については水粒子の噴射前に行い、噴霧ユニット21の位置調整及び試験室7内の温度の調整については、水粒子の噴射中に行ってもよい。また、噴霧ユニット21の位置調整、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量の調整及び試験室7内の温度の調整を、水粒子の噴射中に行ってもよい。
【0081】
噴霧ユニット21からの水粒子の噴射中において、目標噴射時間が経過したか否かが判断される(ステップS5)。目標噴射時間が経過した場合(ステップS5でYESの場合)には、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射を停止する(ステップS6)。なお、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射を開始するステップS3から、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射を停止するステップS6までの間が、噴霧工程に相当する。
【0082】
噴霧ユニット21からの水粒子の噴射が停止されると、供試体SP上に形成された氷層の厚みを厚み測定器によって測定する。この厚み測定器としては、例えば、超音波厚み測定器を用いることができる。超音波厚み測定器は、氷層の表面に接触された探触子から出力された超音波が供試体SPで反射して戻ってくるときの伝搬時間を測定することで、氷層の厚みを算出するように構成されている。超音波厚み測定器では、供試体SP上の氷層の厚みを非破壊で測定することができる。
【0083】
厚み測定器の測定結果に基づいて、供試体SP上の氷層の厚みが目標厚みに到達しているか否かが判断される(ステップS7)。供試体SP上の氷層の厚みが目標厚みに到達していない場合(ステップS7でNOの場合)には、ステップS3からステップS7までの各処理が繰り返される。
【0084】
供試体SP上の氷層の厚みが目標厚みに到達した場合(ステップS7でYESの場合)には、供試体SPの温度が所定の氷点下の作動試験温度になるように、空調部6によって試験室7内の温度が調整される(ステップS8)。
【0085】
供試体SPの温度が作動試験温度に維持されると、氷層が形成された供試体SPの作動試験を開始する(ステップS9)。そして、供試体SPの作動試験が終了したか否かが判断され(ステップS10)、所定の条件が満たされると作動試験を終了する。
【0086】
以上、本発明の実施形態に係る着氷装置及び着氷方法について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を採用することができる。
【0087】
上記の実施形態では、航空機搭載機器を供試体とし、当該供試体に透明な氷層を形成する着氷試験に適用した場合の着氷装置1及び着氷方法について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、航空機の構造体への氷の形成を防止する疎水性コーティング剤の有効性を評価するための着氷試験、自動車等の車両の構造体への氷の形成に対する耐性を評価するための着氷試験、送電線などの送電設備への氷の形成に対する耐性を評価するための着氷試験などを行うための氷層形成にも適用される。
【0088】
上記の実施形態では、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射前において、供試体SPの温度を予備冷却温度に調整する構成について説明したが、このような構成に限定されない。着氷装置1は、供試体SPの温度の予備冷却温度への調整を省略し、供試体SPの温度が目標温度に維持された状態で、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射を開始するように構成されていてもよい。
【0089】
上記の実施形態では、平均粒径が所定値(例えば16μm)未満の水粒子(ドライミスト)を噴霧ユニット21から噴射する構成について説明したが、このような構成に限定されない。噴霧ユニット21は、試験室7内での浮遊が可能な水粒子であれば、前記所定値以上の平均粒径を有する水粒子を噴射するように構成されていてもよい。
【0090】
上記の実施形態では、噴霧ユニット21からの水粒子の噴射中において、水粒子の噴射水圧を一定に保持する構成について説明したが、このような構成に限定されない。噴霧ユニット21は、水粒子の噴射水圧を調整することにより、水粒子の噴射量を調整可能に構成されていてもよい。この場合、水粒子を噴射させる噴霧ノズル211の数の調整に代えて、水粒子の噴射水圧の調整によって、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量を調整することができる。
【0091】
上記の実施形態では、噴霧ユニット21の位置を調整するときに、ユニット支持体4におけるユニット支持部41の位置を変えることにより噴霧ユニット21を移動させる構成について説明したが、このような構成に限定されない。これに代えて、又は、これとともに、ユニット支持体4自体を移動させることによって、噴霧ユニット21の位置を調整してもよい。
【0092】
上記の実施形態では、1つの供試体温度検出部3による供試体SPの温度の検出結果に基づいて、噴霧ユニット21の位置、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量、及び、試験室7内の温度の少なくともいずれかの供試体温度影響因子が調整される構成について説明したが、このような構成に限定されない。例えば、複数の供試体温度検出部3を設けておいて、これらの供試体温度検出部3によって供試体SPの温度を検出するようにしてもよい。この場合、複数の供試体温度検出部3の検出結果における最大値、最小値又は平均値等の代表値に基づいて、噴霧ユニット21の位置、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量、及び、試験室7内の温度の少なくともいずれかの供試体温度影響因子が調整される。あるいは、複数の供試体温度検出部3の各々の検出結果に基づいて、噴霧ユニット21の位置、噴霧ユニット21による水粒子の噴射量、及び、試験室7内の温度の少なくともいずれかの供試体温度影響因子が調整されてもよい。
【0093】
上記の実施形態では、1つの噴霧ユニット21から水粒子を噴射することにより、供試体SPに氷層を形成する構成について説明したが、このような構成に限定されない。例えば、
図4に示されるように、着氷装置1は、供試体SPにおける氷層形成部位に応じて、1つの噴霧機2が複数の噴霧ユニット21A,21Bを備えるとともに、複数の供試体温度検出部3A,3Bを備える構成であってもよい。具体的には、着氷装置1は、供試体SPにおける下面以外の面への氷層形成用の第1の噴霧ユニット21Aと、供試体SPにおける下面への氷層形成用の第2の噴霧ユニット21Bと、を備える。更に、着氷装置1は、供試体SPにおける下面以外の面の温度を検出する第1の供試体温度検出部3Aと、供試体SPにおける下面の温度を検出する第2の供試体温度検出部3Bと、を備える。
【0094】
上記構成の着氷装置1における、供試体SPの全面を氷層形成の対象とする場合の供試体温度影響因子の調整について説明する。第1の噴霧ユニット21Aの位置、及び第1の噴霧ユニット21Aによる水粒子の噴射量の少なくともいずれかが、第1の供試体温度検出部3Aの検出結果に基づいて、供試体SPにおける下面以外の面の温度が第1目標温度に維持されるように調整される。また、第2の噴霧ユニット21Bの位置、及び第2の噴霧ユニット21Bによる水粒子の噴射量の少なくともいずれかが、第2の供試体温度検出部3Bの検出結果に基づいて、供試体SPにおける下面の温度が第1目標温度よりも低い第2目標温度に維持されるように調整される。これにより、供試体SPの全面に均質な氷層を形成することができる。
【0095】
上記の実施形態では、着氷装置1が試験室7内に配置される送風機5を備える構成について説明したが、このような構成に限定されない。試験室7内への送風機5の設置を省略しても構わない。
【符号の説明】
【0096】
1 着氷装置
2 噴霧機
21 噴霧ユニット
22 加圧ポンプ
3 供試体温度検出部
6 空調部
7 試験室
SP 供試体