(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】負荷駆動装置
(51)【国際特許分類】
H03K 17/082 20060101AFI20241225BHJP
H03K 17/08 20060101ALI20241225BHJP
H03K 17/695 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
H03K17/082
H03K17/08 C
H03K17/695
(21)【出願番号】P 2020212081
(22)【出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小森山 恵士
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋一郎
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-28417(JP,A)
【文献】特開2014-204354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K17/00-17/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御信号によってハイサイド形態とロウサイド形態のいずれかの出力形態が選択可能で、誘導性負荷を駆動する負荷駆動装置であって、
前記誘導
性負荷を駆動するドライバ部であって、前記誘導性負荷に電流を駆動する出力端子の対を有し、前記出力端子の断線を検出する、ドライバ部と、
前記ドライバ部の前記出力端子の一方と電源端子とを結ぶ第1のスイッチと、
前記第1のスイッチと前記電源端子との間に設けられた第2のスイッチと、
前記出力端子の他方とグランド端子とを結ぶ第3のスイッチと、
前記ドライバ部と接続された選択回路であって、前記出力形態の設定信号と、前記ドライバ部による前記出力端子の断線の検出の結果に応じて前記第1から前記第3のスイッチのうちから導通制御するスイッチを選択する選択回路と、を備え、
前記ドライバ部が前記出力端子の断線を検出した場合に、前記選択回路が導通するスイッチを選択することにより、前記出力端子の一方から前記第1および
前記第2のスイッチを介して前記電源端子までの第1の電流経路または前記出力端子の他方から前記第3のスイッチを介して前記グランド端子までの第2の電流経路が構成される、負荷駆動装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1から前記第3のスイッチのそれぞれは、静電気放電経路に用いるMOSと、当該MOSをONするための回路と、を備え、
前記選択回路は、前記第1から前記第3のスイッチに含まれる複数の前記MOSのうちから導通制御するMOSを選択する、負荷駆動装置。
【請求項3】
請求項1において、
それぞれ前記出力端子に接続される
前記誘導性負荷を駆動する、複数の前記ドライバ部を備え、
複数の前記ドライバ部の少なくとも1つが自身の前記出力端子の断線を検出した場合、前記選択回路は、残りの正常なドライバ部のうちから同じ出力形態が選択されたドライバ部を選び出し、当該選び出したドライバ部の前記出力端子に対して前記電源端子から前記誘導性負荷を介して、
複数の前記ドライバ部から前記電源端子を結ぶ共通結線部までの電流経路が選択され、前記誘導性負荷に対する電流駆動動作を継続するようにする、負荷駆動装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記断線の発生を監視する制御部を備え、
前記制御部は、前記断線を検知した場合に、前記選択回路によって選択された電流経路を用いて前記誘導性負荷に対する電流駆動動作を継続するか、あるいは停止して前記選択された電流経路を解除するか決定する、電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、負荷駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車に搭載されるエンジン制御装置やトランスミッション制御装置などの車両用電子制御装置には、リレーコイルなどの誘導性負荷を半導体素子により駆動する負荷駆動装置が搭載されている。このような負荷駆動装置について、例えば、特許文献1には、電気負荷に駆動電流を流すための電流供給経路に直列に接続される2つの出力端子と、電気負荷への通電及び非通電を指示する制御信号を外部から入力し、出力形態設定用データに応じて、当該ICの電気負荷に対する駆動電流の出力形態をハイサイド出力形態とロウサイド出力形態との何れか一方に設定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の半導体装置において、例えばハイサイド出力形態の場合に、駆動電流が流れている最中に電源側の端子が断線故障(例えば、経年劣化により)すると、電流供給経路が遮断されるが、このとき負荷側の端子には駆動中のエネルギーが蓄えられた誘導性負荷が接続されている為に、端子電圧が際限なく引き下げられ、ICが破壊に至る恐れがある。また、ロウサイド出力形態の場合には、やはり駆動電流が流れている最中に接地側の端子が断線故障すると、同じ理由から端子電圧が際限なく引き上げられ、ICが破壊に至る恐れがある。
【0005】
このような破壊の対策として、例えば遮断時の電流経路の確保や、電圧制限による保護のために、使用する出力形態に応じて、ICの外に整流子やツェナーダイオード等の部品を実装する必要がある。
しかし、これらの対策は、外付け部品や、その部品を実装するために基板面積が必要になることから、小型化やコスト低減が困難である。
また、別の対策方法として、上述した外付け部品をICのチップ上に実装し、駆動形態によって接続を切り替えることも考えられる。
【0006】
しかし、駆動電流によって保護素子自体が破壊しないためには、実装する素子面積は比較的大きなものが必要となる。このため、特に複数の負荷駆動装置を1チップに搭載するICにおいて、保護回路が負荷駆動装置の個数分必要であることから製造コストが増加するという課題がある。
【0007】
本開示は、このような状況に鑑み、駆動電流が流れている最中に端子が断線故障した場合にも破壊を回避することができ、かつ保護回路による面積の増加が小さい半導体装置について提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は、制御信号によってハイサイド形態とロウサイド形態のいずれかの出力形態が選択可能で、誘導性負荷を駆動する負荷駆動装置であって、誘導性負荷に電流を駆動する出力端子の対と、出力端子と電源端子または共通結線部とを結ぶ複数のスイッチと、出力端子の断線を検出する検出器と、出力形態の設定信号と検出器の結果に応じて複数のスイッチのうちから導通制御するスイッチを選択する選択回路と、を備え、検出器が出力端子の断線を検出した場合に、選択回路が導通するスイッチを選択することにより、電流経路が構成される、負荷駆動装置を提案する。
【0009】
本開示に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本開示の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される特許請求の範囲の様態により達成され実現される。
本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【発明の効果】
【0010】
本開示の技術によれば、駆動電流が流れている最中に端子が断線故障した場合にも破壊を回避することができ、かつ保護回路による面積の増加が小さい半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態による、複数のチャンネルのドライバ部を有する負荷駆動装置1の回路構成例を示す図である。
【
図2】ドライバ部101および102の内部回路構成例を示す図である。
【
図3】ゲート制御可能な第1の静電気放電素子201~204の内部回路構成例を示す図である。
【
図4】負荷駆動装置1を用いて、1つ目のチャンネルをロウサイド形態とし、2つ目のチャンネルをハイサイド形態として使用する場合の電子制御装置の構成例を示す図である。
【
図5】
図4の構成において、電流駆動中にS1端子が断線した場合と、電流駆動中にD2端子が断線した場合のそれぞれについて、負荷駆動装置1の動作を説明するタイミングチャート(例)を示す図である。
【
図6】第2の実施形態による負荷駆動装置4の回路構成例を示す図である。
【
図7】ゲート制御可能な第4の静電気放電素子の回路図の例である。
【
図8】論理回路410の回路構成例を示す図である。
【
図9】論理回路412の回路構成例を示す図である。
【
図10】負荷駆動装置4を用いて、1つ目のチャンネルをロウサイド形態とし、2つ目、および3つ目のチャンネルをハイサイド形態として使用する場合の電子制御装置6の構成例を示す図である。
【
図11】
図10の構成において、電流駆動中にS1端子が断線した場合と、電流駆動中にD2端子が断線した場合のそれぞれについて、負荷駆動装置4の動作を説明するタイミングチャート(例)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の各実施形態は、リレーコイルなどの誘導性負荷を半導体素子により駆動する負荷駆動装置に関し、従来から当該負荷駆動装置が備える部品(例えば、静電気放電素子やパワークランプ回路など)に電流が流れる経路を切り替える機能を付加することにより、駆動電流が流れている最中に端子が断線故障した場合にも破壊を回避することができ、なおかつ保護回路による面積の増加が小さい半導体装置を実現する。
【0013】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った具体的な実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示の技術を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0014】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0015】
(1)第1の実施形態
<負荷駆動装置の回路構成>
図1は、第1の実施形態による、複数のチャンネル(一例として、
図1では2チャンネル構成。チャンネル数は任意)のドライバ部を有する負荷駆動装置1の回路構成例を示す図である。
【0016】
図1に示すように、負荷駆動装置1は、複数のドライバ部101~102と、ゲート制御可能な第1の静電気放電素子201~204および220と、第2の静電気放電素子301~304と、第3の静電気放電素子501~502と、AND論理401~403と、片側反転入力のAND論理402~404と、OR論理405と、を備える。
【0017】
ドライバ部101は、負荷を駆動する1つ目のチャンネルであり、負荷と直列に接続されるD1とS1の2端子を有する。D1端子は、第1の静電気放電素子201を介して共通結線部VSSと接続され、また第2の静電気放電素子301を介して共通結線部B++と接続される。他方、S1端子は、第1の静電気放電素子202を介して共通結線部B+と接続され、また第2の静電気放電素子302を介して共通結線部S-と接続される。
【0018】
IN1信号は、ドライバ部101をON・OFF制御するための制御信号であり、外部(例えば、ユーザの指示やプログラムからの命令によって)から入力される。また、CF1はドライバ部101の出力形態を示す1ビットの設定値である。本構成例において、CF1は、ハイサイドスイッチとして用いる場合には「1」、ロウサイドスイッチとして用いる場合には「0」とされる。また、ER1は、後述するエラー信号であり、ドライバ部101から出力される。エラー信号は1ビットの信号であり、本構成例において、エラー発生時に「1」、エラーが発生していない場合に「0」とされる。
【0019】
AND論理401は、上述のCF1とER1を入力とし、これらのAND論理が真である場合に第1の静電気放電素子201が導通するように制御する。すなわち、ハイサイド形態において、エラーが発生した場合に第1の静電気放電素子201が導通される。
【0020】
一方、AND論理402は、CF1を論理反転した入力とし、もう一方の入力をER1とし、AND論理が真である場合に第1の静電気放電素子202が導通するように制御する。すなわち、ロウサイド形態において、エラーが発生した場合に第1の静電気放電素子202が導通される。
【0021】
ドライバ部102は、負荷を駆動する2つ目のチャンネルである。なお、構成要素のドライバ部102、第1の静電気放電素子203および204、第2の静電気放電素子303および304、AND論理403および404は、それぞれ前述したドライバ部101、第1の静電気放電素子201および202、第2の静電気放電素子301および302、AND論理401および402に対応するため、説明を省略する。
【0022】
VB端子は電源端子であり、第1の静電気放電素子220を介して共通結線部B+に接続される。そして、第1の静電気放電素子220は、OR論理405により、AND論理402出力またはAND論理404出力のいずれか一方が1の場合に、導通制御される。
【0023】
第3の静電気放電素子501および502は、過電圧から負荷駆動装置1を保護するために用いられる素子であり、それぞれB++とVSS端子間、およびS-とVSS端子間に接続される。
【0024】
なお、
図1に示される第1の静電気放電素子201~204は、通常の負荷駆動装置において静電気を放電するために設けられている素子(静電気放電素子)の内部構成を変更して(
図3参照)、エラー検出時に生成される制御信号CNTに応答して導通制御できるように構成された素子である。これにより、負荷が接続される端子(S1、D1、S2、D2)の電圧を所定範囲内に抑える(S端子が断線したときにはS端子電圧の上限をVBの値に抑え、D端子が断線したときにはD端子電圧の下限をVSS(GND)の値に抑える)ようにしている。これにより、駆動電流が流れている最中に端子に断線故障が発生しても負荷駆動装置1の破壊を回避することが可能となる。
【0025】
<ドライバ部101および102の内部構成例>
ここで、
図2を用いて、ドライバ部101および102の内部構成例について説明する。
図2は、ドライバ部101および102の内部回路構成例を示す図である。
【0026】
図2に示されるように、ドライバ部101および102は、負荷電流を駆動するためのMOSスイッチ150と、IN信号(例えば、駆動開始を指示する信号)に応じてMOSスイッチ150を駆動するプリドライバ回路151と、コンパレータ回路153~154と、セレクタ回路155と、を有する。
【0027】
本実施形態において、ドライバMOS(MOSスイッチ150)はN型MOSであり、負荷と接続するための出力端子として、MOSのドレーン側にD端子が設けられ、ソース側にS端子が設けられる。また、コンパレータ回路153および154は、端子電圧(端子DおよびSの電圧)を監視する電圧比較器である。コンパレータ回路153は、D端子と任意の閾値VTH1とを比較し、D端子電圧がVTH1より低い場合に検出信号を出力する。一方、コンパレータ154は、S端子と任意の閾値VTH2とを比較し、S端子電圧がVTH2より高い場合に検出信号を出力する。そして、これらの検出結果は、セレクタ回路155によって、出力形態の設定値CFに応じていずれか一方がエラー信号ERとして選択される。
【0028】
<第1の静電気放電素子の内部構成例>
図3を用いて、第1の静電気放電素子201~204の内部構成例について説明する。
図3は、ゲート制御可能な第1の静電気放電素子201~204の内部回路構成例を示す図である。
【0029】
図3に示されるように、第1の静電気放電素子201~204は、MOSトランジスタ250と、抵抗251と、スイッチ252と、電流源253と、を有する。MOSトランジスタ250は、ゲートとソース間を抵抗251で短絡されており、ドレーンとソース間が放電経路となっている。電流源253は、スイッチ252を介してMOSトランジスタ250のゲートと接続されている。そして、エラー検出によって生成された制御信号CNTに応じてスイッチ252が導通した際、電流源253から電流が抵抗251に流し込まれる。ここで、スイッチ252が導通した際のMOSトランジスタ250のゲートとソース間の電圧は、電流源253の出力電流と抵抗251の抵抗値で決まるが、この電圧値はMOSトランジスタ250を十分にONさせるだけの値に調整される。なお、ここでは、MOSトランジスタ250をONさせるために電流源253を用いているが、MOSトランジスタ250をON可能であれば電流源253でなく別の手段であってもよい。
【0030】
<負荷駆動装置1の断線時の保護動作>
ここでは、
図4および
図5を用いて負荷駆動装置1の断線時の保護動作について説明する。
図4は、負荷駆動装置1を用いて、1つ目のチャンネルをロウサイド形態とし、2つ目のチャンネルをハイサイド形態として使用する場合の電子制御装置の構成例を示す図である。
図5は、
図4の構成において、電流駆動中にS1端子が断線した場合と、電流駆動中にD2端子が断線した場合のそれぞれについて、負荷駆動装置1の動作を説明するタイミングチャート(例)を示す図である。
図5において、左図は、ロウサイド形態である1つ目のチャンネルでS1端子が断線した場合の動作を示す図である。右図は、ハイサイド形態である2つ目のチャンネルでD2端子が断線した場合の動作を示す図である。
【0031】
(i)本実施形態の負荷駆動装置1を備える電子制御装置3の構成例
図4に示されるように、電子制御装置3は、例えば、負荷駆動装置1と、制御部2と、を有し、負荷として誘導性負荷901および902が接続されている。制御部2は、外部からの入力INPUTに応じて、IN1、CF1、IN2、およびCF2を指定する。なお、IN1とIN2の入力タイミングは同一でなくてもよい。従って、負荷に駆動電流を流すタイミングは個別に制御される。
【0032】
(ii)ロウサイド形態である1つ目のチャンネルでS1端子が断線した場合の動作
まずここでは、
図5左図において、IN1信号がOffからOnに切り替わると(例えば、ユーザからの指示によって切り替えられる)、負荷駆動装置1のドライバ回路(ドライバ部101および102)が導通し、誘導性負荷901の電流が駆動された後、時刻t1においてS1端子が断線された状況を想定する。断線後、誘導性負荷901に蓄えられていた電磁気的なエネルギーにより電流が流れ続けるが、S1端子からの電流経路が無いため、S1端子電圧は上昇する。そして、時刻t2においてS1端子の電圧値が閾値VTH2を超えたことにより、エラー信号ER1が出力され、同時にAND論理402およびOR論理405のから信号「1」がそれぞれ出力される。これにより、第1の静電気放電素子202および220が導通制御され(MOSトランジスタ250が導通制御される)、S1端子はVB端子に接続される。このため、電流はVB端子に対して流れ、時刻t2以降、S1端子電圧がほぼVB端子電圧に制限された状態となり、誘導性負荷901は電磁的エネルギーを開放する。その後、時刻t3にて電流が流れなくなる(制御部2がエラー信号に応答して電源供給を停止し、誘導性負荷901からのエネルギー開放が終わると電流が流れなくなる)と動作を終了する。
【0033】
(iii)ハイサイド形態である2つ目のチャンネルでD2端子が断線した場合の動作
次に、
図5右図において、IN2信号がOffからOnに切り替わると(例えば、ユーザからの指示によって切り替えられる)、負荷駆動装置1のドライバ回路(ドライバ部101および102)が導通し、誘導性負荷902の電流が駆動された後、時刻t10においてD2端子が断線された状況を想定している。断線後、誘導性負荷902に蓄えられていた電磁気的なエネルギーにより電流が流れ続けるが、D2端子からの電流経路が無いため、D2端子電圧は下降する。時刻t11において、D2端子の電圧値が閾値VTH1を下回ったことにより、エラー信号ER2が出力され、同時にAND論理403から信号「1」が出力される。これにより、第1の静電気放電素子203が導通制御され、D2端子はGNDに接続されるVSS端子に接続される。このため、電流はVSS端子に対して流れ、時刻t10以降、D2端子電圧がほぼGND電圧に制限された状態となり、誘導性負荷902は電磁的エネルギーを開放する。その後、時刻t12にて電流が流れなくなる(制御部2がエラー信号に応答して電源供給を停止し、誘導性負荷902からのエネルギー開放が終わると電流が流れなくなる)と動作を終了する。
【0034】
<第1の実施形態のまとめ>
以上に説明した第1の実施形態によれば、負荷接続端子に断線が発生した場合においても、負荷端子電圧はVB端子電圧またはVSS端子電圧程度に制限できるため、過電圧による負荷駆動装置1の破壊を回避することができるようになる。また、このための電流経路として用いる静電気放電経路は、半導体装置(負荷駆動装置1)では通常備えられているものであり、これらは半導体装置に実装される素子として比較的大きく、接続される配線も太い。従って、断線時の電流経路としても耐え得ることから、これらの素子を用いることで、別途保護素子を追加することなく(負荷駆動装置1に設けられている静電気放電素子のMOSを活用しているため)効果(破壊回避およびサイズ低減)を得ることができる。
【0035】
(2)第2の実施形態
第2の実施形態は、負荷駆動装置に備えられた既存の静電気放電素子および論理素子を用いて、第1の実施形態とは別の構成を採用する負荷駆動装置を提案する。
【0036】
<負荷駆動装置4の構成例>
図6は、第2の実施形態による負荷駆動装置4の回路構成例を示す図である。ここでは、3チャンネルのドライバ部を有する負荷駆動装置4が示されているが、チャンネル数は任意である。
【0037】
図6に示されるように、負荷駆動装置4は、ドライバ部103と、ゲート制御可能な第1の静電気放電素子205~212および220と、ゲート制御可能な第4の静電気放電素子601と、論理回路410および412と、を備える。
【0038】
論理回路410は、CF1、ER1、CF2、ER2、CF3、RE3、CLHを入力とし、第1の静電気放電素子201、207、203、209、205、および211に対する制御信号を出力とし、後述する論理に従い動作する。また、論理回路412は、CF1、ER1、CF2、ER2、CF3、RE3、CLLを入力とし、第1の静電気放電素子202、208、204、210、206、212、および220、第4の静電気放電素子601に対する制御信号を出力とし、後述する論理に従い動作する。その他の構成は、
図1に示した同一符号の構成と、同一の機能を有するので、それらの説明は省略する。
【0039】
<第4の静電気放電素子の内部構成例>
図7は、ゲート制御可能な第4の静電気放電素子の回路図の例である。
図7において、第4の静電気放電素子は、MOSトランジスタ650と、静電容量651と、抵抗652と、スイッチ653と、電流源654を有する。
【0040】
MOSトランジスタ650は、ゲートとソース間が抵抗652で短絡され、ゲートとドレーン間が静電容量651で結合され、ドレーンとソース間が放電経路となっている。電流源654は、スイッチ653を介してMOSトランジスタ650のゲートと接続されている。そして、エラー検出によって生成された制御信号CNTに応じてスイッチ653が導通すると、電流源654から電流が抵抗652に流し込まれる。ここで、スイッチ653が導通した際のMOSトランジスタ650のゲートとソース間の電圧は、654の出力電流と652の抵抗値で決まるが、この電圧値はMOSトランジスタ650を十分にONさせるだけの値に調整される。
【0041】
<論理回路410および412の回路構成例>
(i)論理回路410について
図8は、論理回路410の回路構成例を示す図である。
図8に示されるように、ER1b、ER2b、およびER3bは、それぞれラッチされたER1、ER2、およびER3であり、CLH信号によりクリアされる。“Safe>1?“は、ハイサイド形態のチャンネルのうち、エラーがラッチされていないチャンネルが1つ以上あれば真となり、そうでなければ偽となる。”Error>1?“は、ハイサイド形態のチャンネルのうち、エラーがラッチされたチャンネルが1つ以上あれば真となり、そうでなければ偽となる。ErrorAllは、ハイサイド形態のチャンネルの全てがエラーラッチされた場合に真となり、そうでなければ偽となる。ErrorNotAllは、ハイサイド形態のチャンネルの内、エラーがラッチされたチャンネルと、エラーがラッチされていないチャンネルが混在する場合に真となり、そうでなければ偽となる。Error1H、Error2H、Error3Hは、各チャンネルにおいてハイサイド形態かつエラーがラッチされた場合に真となり、そうでなければ偽となる。
【0042】
これにより、論理回路410の動作は次のようになる。[1]ハイサイド形態のチャンネルにおいてエラーの発生が無い場合には、第1の静電気放電素子201、207、203、209、205、および211は導通されない。[2]ハイサイド形態でエラーが発生したチャンネルが1つ以上あり、かつ、他のハイサイド形態のチャンネルではエラーが発生していない場合には、第1の静電気放電素子207、209、および211のうち、ハイサイド形態のチャンネルに接続されたものは全て導通される。[3]ハイサイド形態の全チャンネルでエラーが発生している場合は、第1の静電気放電素子201、203、および205のうち、ハイサイド形態のチャンネルに接続されたものは全て導通される。[4]CLHが入力されると、導通状態は解除される(制御部5がCLH入力に応答して解除を決定する)。
【0043】
(ii)論理回路412について
図9は、論理回路412の回路構成例を示す図である。
図9に示されるように、ER1b、ER2b、およびER3bは、それぞれラッチされたER1、ER2、およびER3であり、CLL信号によりクリアされる。”Error>1?“は、ロウサイド形態のチャンネルのうち、エラーがラッチされたチャンネルが1つ以上あれば真となり、そうでなければ偽となる。Error1L、Error2L、Error3Lは、各チャンネルにおいてロウサイド形態かつエラーがラッチされた場合に真となり、そうでなければ偽となる。
【0044】
これにより、論理回路412の動作は次のようになる。[1]ロウサイド形態のチャンネルにおいてエラーの発生が無い場合には、第1の静電気放電素子202、208、204、210、206、212、および220、第4の静電気放電素子601は導通されない。[2]ロウサイド形態でエラーが発生したチャンネルが1つ以上ある場合には、第1の静電気放電素子208、210、および212のうち、ロウサイド形態のチャンネルに接続されたものは全て導通される。また、第4の静電気放電素子601も導通される。[3]CLLが入力されると、導通状態は解除される(制御部5がCLL入力に応答して解除を決定する)。
【0045】
(iii)論理回路410と論理回路412の構成の相違について
第2の実施形態による負荷駆動装置4(
図6参照)において、ロウサイド形態で用いる論理回路412は、S-共通結線が第4の静電気放電素子601を介してGNDにつながっている。従って、第4の静電気放電素子601を導通させれば通常と同じような動作をさせることができる(
図9参照)。一方、ハイサイド形態で用いる論理回路410には直接電源につながっているラインはなく、第4の静電気放電素子601のような素子も設けられていない。このため、論理回路410では、他のチャンネルを用いて(第4の静電気放電素子601のような素子を用いずに)導通制御を行う構成を採っている。なお、負荷駆動装置4において、ロウサイド側に第4の静電気放電素子601を設けない場合には、論理回路412も
図8のような構成を採ることができ、逆に、ハイサイド側に第4の静電気放電素子601を設ければ論理回路410も
図9のような構成を採ることができる。
【0046】
<電子制御装置6の構成例>
図10は、負荷駆動装置4を用いて、1つ目のチャンネルをロウサイド形態とし、2つ目、および3つ目のチャンネルをハイサイド形態として使用する場合の電子制御装置6の構成例を示す図である。
図10に示されるように、電子制御装置6は、負荷駆動装置4と、制御部5と、を備え、負荷として誘導性負荷901、902、および903がそれぞれのチャンネルに接続される。
【0047】
制御部5は、外部からの入力INPUTに応じて、IN1、CF1、IN2、およびCF2を指定し、また、ER1、ER2、およびER3をモニタし、CLH、およびCLLを出力する。
【0048】
<負荷駆動装置1の断線時の保護動作>
図11は、
図10の構成において、電流駆動中にS1端子が断線した場合と、電流駆動中にD2端子が断線した場合のそれぞれについて、負荷駆動装置4の動作を説明するタイミングチャート(例)である。
【0049】
(i)ロウサイド形態である1つ目のチャンネルでS1端子が断線した場合
まず、
図11左図を用いて、ロウサイド形態である1つ目のチャンネルでS1端子が断線した場合の保護動作について説明する。ここでは、IN1信号がOffからOnに切り替わると(例えば、ユーザからの指示によって切り替えられる)、ドライバ回路(ドライバ部101)が導通し、誘導性負荷901の電流が駆動された後、時刻t20においてS1端子が断線された状況を想定している。
【0050】
S1端子が断線すると、誘導性負荷901に蓄えられていた電磁気的なエネルギーの作用により電流が流れ続けるが、S1端子からの電流経路が無いため、S1端子電圧は上昇する。時刻t21において、S1端子の電圧値が閾値VTH2を超えたことにより、エラー信号ER1が出力され、ER1bとしてラッチされる(CLLが入力されるまでラッチされる)。このとき、
図9の論理回路412の論理に従って第1の静電気放電素子208と第4の静電気放電素子601のみが導通制御され、S1端子はVSS端子に接続される。そして、電流はGNDに接続されたVSS端子に対して流れることになり、時刻t21以降も動作が継続可能となっている。
【0051】
また、制御部5は、ER1信号をモニタすることにより断線状態を知ることができ、予め定められた手順(処理フロー)に従って、断線されたチャンネルを停止することができる。時刻t23以降は停止の動作が示されている。時刻t23においてIN1信号がONからOffになると(例えば、ユーザが停止指示を入力)、t23からt24にかけて正常なドライバ動作と同様に、誘導性負荷901が電磁気的なエネルギーを開放する。その後にCLLを入力する(例えば、予め組み込まれたプログラムで入力タイミングが定められている)ことにより、第1の静電気放電素子208と第4の静電気放電素子601の導通制御が終了する。
【0052】
(ii)ハイサイド形態である2つ目のチャンネルでD2端子が断線した場合
次に、
図11右図を用いて、ハイサイド形態である2つ目のチャンネルでD2端子が断線した場合の保護動作について説明する。ここでは、IN2信号がOffからOnに切り替わると(例えば、ユーザからの指示によって切り替えられる)、ドライバ回路(ドライバ部102)が導通し、誘導性負荷902の電流が駆動された後、時刻t30においてD2端子が断線された状況を想定している。
【0053】
D2端子が断線すると、誘導性負荷902に蓄えられていた電磁気的なエネルギーの作用により電流が流れ続けるが、D2端子からの電流経路が無いため、D2端子電圧は下降する。時刻t31において、D2端子の電圧値が閾値VTH1を下回ったことにより、エラー信号ER2が出力され、ER2bとしてラッチされる(CLHが入力されるまでラッチされる)。ここで、同じくハイサイド形態である3つ目のチャンネルは断線しておらず(ここではそのように想定)、したがってエラー信号ER3は発生せず、ER3bはラッチされない。このとき、
図8の論理回路410の論理に従って第1の静電気放電素子209および211のみが導通制御され、D2端子はD3端子に接続される。そして、電流はVB電源ラインに接続されたD3端子に対して流れることになり、時刻t31以降も動作が継続可能となっている。
【0054】
また、制御部5は、ER2信号をモニタすることにより断線状態を知ることができ、予め定められた手順(処理フロー)に従って、断線されたチャンネルを停止することができる。時刻t33以降は停止の動作が示されている。時刻t33にてIN2信号がONからOffになると(例えば、ユーザが停止指示を入力)、t33からt34にかけて正常なドライバ動作と同様に、誘導性負荷902が電磁気的なエネルギーを開放する。その後にCLHを入力する(例えば、予め組み込まれたプログラムで入力タイミングが定められている)ことにより、第1の静電気放電素子209および211の導通制御が終了する。
以上の動作により、断線発生時においても電子制御装置6は動作を継続することができる。
【0055】
<第2の実施形態のまとめ>
以上に説明した第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、負荷接続端子に断線が発生した場合においても、負荷端子電圧はVB端子電圧またはVSS端子電圧程度に制限できるため、過電圧による負荷駆動装置4の破壊を回避することができるようになる。また、このための電流経路として用いる静電気放電経路は、半導体装置(負荷駆動装置4)では通常備えられているものであり、これらは半導体装置に実装される素子として比較的大きく、接続される配線も太い。従って、断線時の電流経路としても耐え得ることから、これらの素子を用いることで、別途保護素子を追加することなく(負荷駆動装置4に設けられている静電気放電素子のMOSを活用しているため)効果(破壊回避およびサイズ低減)を得ることができる。また、第2の実施形態では、断線が検出されたチャンネル(ドライバ部)以外のチャンネルの中から断線に係る出力形態と同じ出力形態のチャンネルの出力端子に対して電流経路を構成するので、負荷駆動装置の動作の継続性を担保することができるようになる。
【0056】
(3)その他
本開示の技術は、上述の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述の実施形態は、本開示の技術を分かりやすく説明するための詳細説明であり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、一の実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、一の実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。さらに、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、タイミングチャートに記載の信号極性は、一例であり、これに限定するものではない。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば一つの集積回路で設計する等によりハードウエアで実現してもよいし、複数の集積回路で実現しても良い。
【符号の説明】
【0057】
1、4 負荷駆動装置
2、5 制御部
3、6 電子制御装置
101~103 ドライバ部
150 MOSスイッチ
151 プリドライバ回路
153~154 コンパレータ回路
155 セレクタ回路
201~212 第1の静電気放電素子
251、652 抵抗
252、653 スイッチ
253、654 電流源
301~304 第2の静電気放電素子
501~502 第3の静電気放電素子
601 第4の静電気放電素子
901~903 誘導性負荷