(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】刃物
(51)【国際特許分類】
B26B 9/00 20060101AFI20241225BHJP
【FI】
B26B9/00 A
(21)【出願番号】P 2021021491
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2020213830
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂木 淳
(72)【発明者】
【氏名】安部 快彦
(72)【発明者】
【氏名】勝 祐介
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0241352(US,A1)
【文献】国際公開第2017/138792(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111203919(CN,A)
【文献】国際公開第2016/035488(WO,A1)
【文献】特開2018-008074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26B1/00-11/00
B26B23/00-29/06
B24B3/00-3/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも刃先に硬質粒子が分布している刃物であって、
前記硬質粒子の少なくとも一部は、炭化タングステン粒子、あるいは炭化チタン及び炭窒化チタンから選ばれる一種類以上の粒子であり、
前記硬質粒子の結晶粒径Aは、0.4μm以上2.0μm以下であり、
前記刃先は、少なくとも超硬合金又はサーメットからなり、前記刃先において、前記硬質粒子が金属相によって結合されており、
前記金属相は鉄族元素を含有し、
前記刃先の二乗平均平方根高さRq(μm)と、前記硬質粒子の結晶粒径A(μm)とが、
0.7≦Rq/A≦2.5を満たす、刃物。
【請求項2】
包丁である、請求項1に記載の刃物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、刃物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭や料亭、食堂などでは、鋼製の包丁が広く使用されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
料理用の包丁等の刃物に求められる性能として、切れ味と、切れ味の持続性がある。特許文献1に示されるような鋼などの鉄系金属を主体とする刃物は、切れ味を高めるために、刃先が極めて鋭い角度にされることがある。しかし、硬度が低いため、刃先の摩耗が進行しやすく、切れ味の持続性に劣る課題がある。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、切れ味と、切れ味の持続性が共に良好な刃物を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕少なくとも刃先に硬質粒子が分布している刃物であって、
前記刃先の二乗平均平方根高さRq(μm)と、前記硬質粒子の結晶粒径A(μm)とが、
0.1≦Rq/A≦2.5を満たす、刃物。
【発明の効果】
【0006】
本開示の刃物は、切れ味と、切れ味の持続性が共に良好である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
〔2〕前記硬質粒子の少なくとも一部は炭化タングステン粒子である、〔1〕に記載の刃物。
【0009】
〔3〕前記硬質粒子の少なくとも一部は、炭化チタン及び炭窒化チタンから選ばれる一種類以上の粒子である、〔1〕または〔2〕に記載の刃物。
【0010】
〔4〕少なくとも前記刃先において、前記硬質粒子は金属相によって結合されており、
前記金属相は鉄族元素を含有する、〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の刃物。
【0011】
〔5〕包丁である、〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の刃物。
【0012】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0013】
本実施形態の刃物として、包丁1を例示する(
図1参照)。包丁1は、刀身3と柄9を備えている。刀身3は、刃の付いている刃先5を備えている。刃先5の先端部分は、切っ先7とされ、薄い食材等を細かく切る場合等に使用される。刃先5の柄9(ハンドル)に近い部分は、刃元11とされ、皮むき等の繊細な作業に使用される。刃元11の柄9側に位置し、刃先5の柄9側の終点部分は、あご13とされ、じゃがいもの芽取り等に使用される。
包丁1の背部分、すなわち、刀身3の背部分は、峰15とされ、手で押さえる部位として使用されるほか、鱗取り等に使用される。
【0014】
包丁1は、少なくとも刃先5に硬質粒子が分布している。刀身3全体に硬質粒子が分布していてもよい。刃先5に硬質粒子が分布している構成によれば、切れ味の持続性を向上できる。
硬質粒子の分布態様は特に限定されないが、少なくとも一部の硬質粒子は刃先5の表面に露出していることが好ましい。
【0015】
包丁1は、刃先5の二乗平均平方根高さRq(μm)と、硬質粒子の結晶粒径A(μm)とが、0.1≦Rq/A≦2.5を満たす。
Rq/Aは、切れ味の向上の観点から、0.5以上が好ましく、0.7以上がより好ましい。Rq/Aは、切れ味の持続性の向上の観点から、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。これらの観点から、包丁1は、0.5≦Rq/A≦2.0を満たすことがより好ましく、0.7≦Rq/A≦1.5を満たすことが更に好ましい。
【0016】
刃先5の二乗平均平方根高さRqは、次のようにして測定される。測定には、表面形状測定装置(ALICONA社製、INFINITE FOCUS)を用いることができる。まず、刃付けをした刀身3を、刃先5を上向きにセットする。刃先5を刃先5の延在方向に300μmをスキャン後、断面粗さ解析を行って二乗平均平方根高さを測定する。この測定を刃先5の延在方向に間隔を空けて5か所で行い、その平均値を刃先5の二乗平均平方根高さRqとして算出する。このようにして算出されたRqは、刃先5を刀身3の厚さ方向から見たときの、刃先5の輪郭の凹凸(ジグザグ)度合を評価する指標となる。
刃先5の二乗平均平方根高さRqは、特に限定されない。刃先5の二乗平均平方根高さRqは、例えば、0.1μm以上2.4μm以下とすることができる。
なお、刃先5の二乗平均平方根高さRqは、刃付けの際の砥石の砥石粒度及び砥石回転速度を変更して、調整できる。
【0017】
硬質粒子の結晶粒径Aは、次のようにして測定される。刃先5の任意の箇所から□10mmの試験片をワイヤー放電加工機で切り出す。試験片を鏡面研磨後、エッチング処理を施し、電界放射型走査顕微鏡(FE-SEM)にて10,000倍で画像を取得する。得られた画像中の□25μmの領域においてインターセプト法で硬質粒子の結晶粒径を求める。画像取得は任意の5か所で行い、その平均値を硬質粒子の結晶粒径Aとする。
硬質粒子の結晶粒径Aは、特に限定されない。硬質粒子の結晶粒径Aは、例えば、0.4μm以上2.0μm以下とすることができる。
なお、硬質粒子の結晶粒径Aは、刃先5に用いる材料を変更して、調整できる。
【0018】
Rq/Aが0.1以上2.5以下であると、刃先5の凹凸形状(ジグザグ形状)のうち凸部に硬質粒子が好適に配置され、刃先5(硬質粒子)と切断対象物の接触面積が増加し、切れ味を向上できる。硬質粒子は、鋼等に比して硬度が高いから、切れ味の持続性を維持できる。
Rq/Aが0.1未満の場合は、刃先が平滑になり上記接触面積が減少するため、切れ味が低下する。
Rq/Aが2.5を超える場合、凸部が大きくなり、切断対象物からの抵抗が増し、使用に伴って凸部が欠落して(摩耗して)、上記接触面積が低下する。この結果、切れ味の持続性が低下する。
【0019】
硬質粒子は、例えば、WC(炭化タングステン)、TiC(炭化チタン)、TiN(窒化チタン)、TiCN(炭窒化チタン)、TaC(炭化タンタル)、Cr3C2(炭化クロム)、Mo2C(炭化モリブデン)、及びVC(炭化バナジウム)から選ばれる1種以上の粒子が示される。
硬質粒子の少なくとも一部は炭化タングステン粒子であることが好ましい。炭化タングステンは高硬度な材料であり、硬質粒子として炭化タングステン粒子を含むことで、切れ味の持続性が好適に向上する。
硬質粒子の少なくとも一部は、炭化チタン及び炭窒化チタンから選ばれる一種類以上の粒子であることが好ましい。炭化チタン及び炭窒化チタンは高硬度な材料であり、硬質粒子として炭化チタン及び炭窒化チタンから選ばれる一種類以上の粒子を含むことで、切れ味の持続性が好適に向上する。
なお、炭化タングステン粒子、炭化チタン粒子、及び炭窒化チタン粒子以外の、窒化チタン粒子、炭化タンタル粒子、炭化クロム粒子、炭化モリブデン粒子、及び炭化バナジウム粒子についても、切れ味の持続性が向上する効果が確認される。
【0020】
包丁1は、少なくとも刃先5において、硬質粒子は金属相によって結合されており、金属相は鉄族元素を含有することが好ましい。鉄族元素とは、Fe(鉄)、Co(コバルト)、及びNi(ニッケル)のことをいう。鉄族元素を含有することで、食材から受ける衝撃を吸収する効果が向上し、凸部の欠落がし難くなる。この結果、切れ味の持続性を好適に向上できる。
【0021】
このような包丁1の材料としては、超硬合金が挙げられる。超硬合金としては、炭化タングステン結晶粒子を含有する超硬合金(以下「炭化タングステン(WC)系超硬合金」ともいう)が好適である。
炭化タングステン系超硬合金としては、WC-Ni系超硬合金、WC-Co系超硬合金、WC-Fe系超硬合金、WC-Ni-Cr系超硬合金、WC-Co-Cr系超硬合金を例示できる。
炭化タングステン系超硬合金における結合相(金属相)の含有量は特に限定されない。炭化タングステン系超硬合金全体を100体積%とした場合に、結合相の含有量は8体積%~40体積%が好ましい。ここでいう「結合相」は、WC-Ni系超硬合金では「Ni」、WC-Co系超硬合金では「Co」、WC-Fe系超硬合金では「Fe」、WC-Ni-Cr系超硬合金では「Ni-Cr」、WC-Co-Cr系超硬合金では「Co-Cr」をそれぞれ意味する。
また、酸、アルカリに対する腐食性に優れており、包丁1の切れ味がより長持ちするという観点から、WC-Ni系超硬合金及びWC-Ni-Cr系超硬合金が好ましい。WC-Ni-Cr系超硬合金の場合には、結合相がNi基合金であることが好ましい。すなわち、「結合相」たる「Ni-Cr」を100体積%とした場合に、「Ni」が50体積%よりも多く含まれていることが好ましい。さらには、「結合相」たる「Ni-Cr」100体積%に対して、「Cr」が1体積%~10体積%含まれており、残部が「Ni」であることが好ましい。
【0022】
包丁1の材料である超硬合金としては、具体的には、CIS(超硬工具協会規格)019D-2005における「NF30」「NF40」「NF50」「NF60」「NF70」「VF70」が好適に例示される。また、これらの超硬合金と、例えば結合相の材料、硬質粒子の材料、硬質粒子の粒度、及び硬さ等の項目において少なくとも1つが相違するような、同等のグレードの超硬合金を使用してもよい。
【0023】
また、このような包丁1の材料としては、サーメットが挙げられる。サーメットとしては、炭化チタン及び炭窒化チタンから選ばれる一種類以上の粒子を含有するサーメット(以下「TiC系サーメット」、「TiCN系サーメット」ともいう)が好適である。
TiC系サーメットとしては、TiC-Ni系サーメット、TiC-Co系サーメット、TiC-Fe系サーメット、TiC-Cr3C2-Ni系サーメット、TiC-Mо2C-Ni系サーメットを例示できる。
TiC系サーメットにおける結合相(金属相)の含有量は特に限定されない。TiC系サーメット全体を100体積%とした場合に、結合相の含有量は8体積%~40体積%が好ましい。ここでいう「結合相」は、TiC-Ni系サーメットでは「Ni」、TiC-Co系サーメットでは「Co」、TiC-Fe系サーメットでは「Fe」、TiC-Cr3C2-Ni系サーメットでは「Ni」、TiC-Mо2C-Ni系サーメットでは「Ni」をそれぞれ意味する。
TiCN系サーメットとしては、TiCN-Ni系サーメット、TiCN-Co系サーメット、TiCN-Fe系サーメット、TiCN-Cr3C2-Ni系サーメット、TiCN-Mо2C-Ni系サーメットを例示できる。
TiCN系サーメットにおける結合相(金属相)の含有量は特に限定されない。TiCN系サーメット全体を100体積%とした場合に、結合相の含有量は8体積%~40体積%が好ましい。ここでいう「結合相」は、TiCN-Ni系サーメットでは「Ni」、TiCN-Co系サーメットでは「Co」、TiCN-Fe系サーメットでは「Fe」、TiCN-Cr3C2-Ni系サーメットでは「Ni」、TiCN-Mо2C-Ni系サーメットでは「Ni」をそれぞれ意味する。
また、酸、アルカリに対する腐食性に優れており、包丁1の切れ味がより長持ちするというという観点から、TiC-Ni系サーメット、TiC-Cr3C2-Ni系サーメット、TiC-Mо2C-Ni系サーメット、TiCN-Ni系サーメット、TiCN-Cr3C2-Ni系サーメット、TiCN-Mо2C-Ni系サーメットが好ましい。
【0024】
包丁1の材料であるサーメットとしては、具体的には、CIS(超硬工具協会規格)019D-2005における「NF30」「NF40」「NF50」「NF60」「NF70」「NF80」「NM70」における硬質粒子の種類が、炭化タングステンから炭化チタン及び炭窒化チタンから選ばれる一種類以上に置き換えられたものが好適に例示される。本開示において、例えば、金属相の種類や硬質粒子の含有率、粒径等は「NF30」と同じであり、硬質粒子の種類が炭化チタン又は炭窒化チタンであるサーメットを「NF30相当」とも表す。
【実施例】
【0025】
以下、実験例により更に具体的に説明する。表において、「5*」のように、「*」が付されている場合には、比較例であることを示している。実験例1-4,6-11,13,14は実施例であり、実験例5,12,15は比較例である。実験例16-19,21-23,25-27は実施例であり、実験例20,24は比較例である。
【0026】
1.包丁の作製
実験例1-14について、表1に記載の各材料で形成した刀身を備えた包丁を作製した。なお、表1の「硬質粒子」の欄は硬質粒子の種類が示されている。「金属相」の欄は金属相の種類が示されている。「備考」の欄は、CIS 0190D-2005における材料の組成、グレードが示されている。なお、実験例14に記載の「VF70相当」は、金属相が鉄である他は、VF70と同じであることを表している。
実験例1-14の材料は、硬質粒子としての炭化タングステン粒子が、表1に記載の金属相によって結合されたものである。これらの材料の母材からワイヤー放電加工機にて刀身の概形を切出し、平面研削盤にて所望の厚さまで研磨した。
【0027】
実験例16-27について、表2に記載の各材料で形成した刀身を備えた包丁を作製した。なお、表2の「硬質粒子」の欄は硬質粒子の種類が示されている。「金属相」の欄は金属相の種類が示されている。「備考」の欄は、硬質粒子の種類が異なる他は、記載されたCIS 0190D-2005の記号における材料の組成、グレードと同じであることを表している。
実験例16-27の材料は、硬質粒子としての炭化チタン粒子又は炭窒化チタン粒子が、表2に記載の金属相によって結合されたものである。これらの材料の母材からワイヤー放電加工機にて刀身の概形を切出し、平面研削盤にて所望の厚さまで研磨した。
【0028】
研磨して得られた素材に、刃物研削盤にて刃付けを行った。この刃付けの際に砥石の砥粒の粗さ(砥石粒度)及び砥石回転速度(rpm)を変える事で刃先形状の制御を行った。研磨の各条件は表1に示すものとした。
なお、表1の記載の砥石粒度(♯)は、JIS R 6001-2:2017における粒度である。
【0029】
実験例15は、市販のモリブデンバナジウム鋼製の包丁を用意した。
【0030】
【0031】
【0032】
2.包丁の物性の評価
実験例1-14,実験例16-27について、二乗平均平方根高さRq(μm)及び硬質粒子の結晶粒径A(μm)を既述の方法で測定し、Rq/Aを算出した。各実験例とも、二乗平均平方根高さRqは0.1μm~2.4μmの範囲で調整し、硬質粒子の結晶粒径Aは0.4μm~2.0μmの範囲で調整した。
算出したRq/Aの値を、表1の「Rq/A」の欄に示す。なお、実験例15は硬質粒子を含んでいないため、Rq/Aは算出せず「-」とした。
【0033】
3.包丁の試験方法(評価方法)
(1)切れ味と、切れ味の持続性の試験方法
得られた包丁について、切れ味試験機によって「使用前切れ味」と「使用後切れ味」を評価した。切断対象物として7.5mm幅の新聞紙相当の紙を重ねた紙束を用い、包丁と紙束との押付荷重8N、往復幅10mm、往復速度40mm/s(つまり、1秒間で2往復の速度)として、包丁を往復させながら紙束を切断した。
図2に試験時の包丁1、刃先5、及び紙束21を示す。各項目は以下の様に評価した。
・使用前切れ味:未使用の包丁を1往復作動させたときの切断深さ(mm)。
・使用後切れ味:総切断深さが1,000mmに到達したときの、最後の1往復における切断深さ(mm)。
【0034】
(2)切れ味と、切れ味の持続性の試験結果
試験結果を表1及び表2に併記する。
切れ味は次のように評価した。使用前切れ味が2.0mm以上であるものを、切れ味が良好な包丁と評価した。さらに、使用前切れ味が2.5mm以上であるものを切れ味がより良好と評価し、使用前切れ味が3.0mm以上であるものを切れ味が特に良好と評価した。
切れ味の持続性は次のように評価した。使用前切れ味と使用後切れ味との差が小さいもの、目安としては差が1mm以下のものを、良好な包丁と評価した。
【0035】
各実施例について、下記の要件の充足状況を説明する。実験例1-4,6-11,13,14は下記要件(a)(b)(d)を満たしている。実験例16-19,21-23,25-27は下記要件(a)(c)(d)を満たしている。実験例5,12は下記要件(b)(d)は満たしているが、要件(a)を満たしていない。実験例20,24は下記要件(c)(d)は満たしているが、要件(a)を満たしていない。実験例15は下記要件(a)(b)(c)(d)のいずれも満たしていない。
・要件(a):刃先に硬質粒子が分布し、かつ、0.1≦Rq/A≦2.5を満たす。
・要件(b):硬質粒子の少なくとも一部は炭化タングステン粒子である。
・要件(c):硬質粒子の少なくとも一部は、炭化チタン及び炭窒化チタンから選ばれる一種類以上の粒子である。
・要件(d):硬質粒子は金属相によって結合されており、金属相は鉄族元素を含有する。
【0036】
要件(a)(b)(d)を満たしている実験例1-4,6-11,13,14は使用前切れ味が2.0mm以上であり、使用前切れ味と使用後切れ味との差が1mm以下であった。要件(a)(c)(d)を満たしている実験例16-19,21-23,25-27は使用前切れ味が2.0mm以上であり、使用前切れ味と使用後切れ味との差が1mm以下であった。すなわち、実験例1-4,6-11,13,14,16-19,21-23,25-27は切れ味と、切れ味の持続性が共に良好であった。
【0037】
同じ材料を用いたが、Rq/Aが異なる実験例6-11を比較する。実験例6-11はRq/Aが大きくなる程、切れ味が向上した。実験例6-11のうち、Rq/Aが1.0以上である実験例8-11は、Rq/Aが小さくなる程、使用前切れ味と使用後切れ味との差が小さくなり、切れ味の持続性が良好であった。
【0038】
これに対して、要件(a)を満たさない実験例5,12,15,20,24は、使用前切れ味が2.0mm未満であるか、使用前切れ味と使用後切れ味との差が大きかった。
実験例5は、要件(b)(d)は満たすものの、Rq/Aが0.05であり要件(a)を満たさない。実験例20は、要件(c)(d)は満たすものの、Rq/Aが0.05であり要件(a)を満たさない。実験例5,20は、Rq/Aが0.1未満であり、切れ味が良くなかった。
実験例12は、要件(b)(d)は満たすものの、Rq/Aが3.0であり要件(a)を満たさない。実験例24は、要件(c)(d)は満たすものの、Rq/Aが3.0であり要件(a)を満たさない。実験例12,24は、Rq/Aが2.5を超え、使用前切れ味は高いが使用前切れ味と使用後切れ味との差が大きく、切れ味の持続性が良くなかった。
実験例15は、要件(a)(b)(c)(d)のすべてを満たさない。実験例15は、硬質材料を含まないため、切れ味の持続性が良くなかった。
【0039】
4.実験結果のまとめ
刃先に硬質粒子が分布し、かつ、0.1≦Rq/A≦2.5を満たすことで、切れ味と、切れ味の持続性が共に良好となった。
硬質粒子の少なくとも一部が炭化タングステン粒子である場合には、切れ味の持続性が好適に保たれた。
硬質粒子の少なくとも一部が、炭化チタン及び炭窒化チタンから選ばれる一種類以上の粒子である場合には、切れ味の持続性が好適に保たれた。
硬質粒子が金属相によって結合されており、金属相が鉄族元素を含有する場合には、切れ味の持続性が好適に保たれた。
このような刃物は、包丁として好適であることが確認された。
【0040】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、本開示の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【0041】
(1)上記実施形態では、刃物が包丁である構成を例示したが、刃物は包丁以外の刃物、例えばピーラー等であってもよい。
(2)上記実施形態以外にも、刃先のみが上記の材料からなり、刀身における刃先以外の部位が硬質粒子を含まない材料からなっていてもよい。
(3)上記実施形態以外にも、硬質粒子がアルミニウム等の鉄族元素を含有しない金属相によって結合されていてもよい。
(4)上記実施形態では、刀身の峰の基端側に、刀身と別の部材である柄が設けられている態様を示したが、別部材からなる柄は必須ではない。例えば、刀身の基端側を加工して手で持つ柄として機能させてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 …包丁(刃物)
3 …刀身
5 …刃先
7 …切っ先
9 …柄
11…刃元
13…あご
15…峰