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  • 特許-吸音構造体およびその製造方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】吸音構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20241225BHJP
   F02M 35/12 20060101ALI20241225BHJP
   F02M 35/14 20060101ALI20241225BHJP
   G10K 11/162 20060101ALI20241225BHJP
   G10K 11/172 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
G10K11/16 110
G10K11/16 150
F02M35/12 B
F02M35/14 B
G10K11/162
G10K11/172
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021040236
(22)【出願日】2021-03-12
(65)【公開番号】P2022139729
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2022-03-22
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】増谷 隆志
(72)【発明者】
【氏名】中野 幸人
(72)【発明者】
【氏名】富田 直
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晴輝
【合議体】
【審判長】千葉 輝久
【審判官】木方 庸輔
【審判官】樫本 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-72129(JP,A)
【文献】特表2018-517086(JP,A)
【文献】特開平9-185381(JP,A)
【文献】特開2018-115364(JP,A)
【文献】特開昭53-24801(JP,A)
【文献】特開昭60-112952(JP,A)
【文献】特開2015-169050(JP,A)
【文献】特開2019-152837(JP,A)
【文献】特開2020-76797(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163658(WO,A1)
【文献】特開2014-129039(JP,A)
【文献】特開2002-178999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側に開孔した格子状の多孔部を有する本体と、
該本体に内蔵され、空洞部と該本体の表面側から該空洞部へ至る導管であるネック部とを有するレゾネータと備え
該本体の表層側にある多孔部と該本体の内側にある空洞部とが一体形成されてなる吸音構造体。
【請求項2】
前記多孔部は、平均孔サイズが□0.05~2mmである請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項3】
前記本体は、さらに中実部を有する請求項1または2に記載の吸音構造体。
【請求項4】
前記レゾネータは、前記空洞部と前記ネック部をそれぞれ複数有する請求項1~のいずれかに記載の吸音構造体。
【請求項5】
前記レゾネータは、複数の共鳴周波数を有する請求項に記載の吸音構造体。
【請求項6】
さらに、前記空洞部の二つ以上を連通する連通管を有する請求項またはに記載の吸音構造体。
【請求項7】
前記空洞部の壁面の少なくとも一部は、中実面である請求項1~のいずれかに記載の吸音構造体。
【請求項8】
前記ネック部の少なくとも一つは、前記空洞部の外周側を迂回する導管である請求項1~のいずれかに記載の吸音構造体。
【請求項9】
前記本体は、全体が金属からなる請求項1~のいずれかに記載の吸音構造体。
【請求項10】
筐体の少なくとも一部を構成している請求項1~のいずれかに記載の吸音構造体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の吸音構造体を、粉末積層法により製造する吸音構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音の低減を図れる吸音構造体等に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の機器(機械、装置、機具等)は、一般的に静かなほど好まれる。静音対策として、構造や運転条件等を見直して音の発生自体を抑制する他、発生または伝播した音を低減または消滅させる吸音(消音)対策がなされる。後者に関連する記載が下記の文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-225398
【文献】特開平11-259076
【文献】特開2000-8950
【非特許文献】
【0004】
【文献】Zhengqing Liu et al.,”Acoustic properties of a porous polycarbonate material produced by additive manufacturing”, Materials Letters ,Vol.181(2016),pp.296-299.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3には、ヘルムホルツ共鳴器(レゾネータ)に関する記載がある。非特許文献1には、光造形法(3Dプリンタ)により造形した0.8mmの丸孔が2~3mm程度のピッチで100個程度開いた構造の吸音特性に関する記載がある。いずれも吸音される音の周波数の範囲(「吸音周波数帯」または単に「周波数帯」という。)が限定的であり、広い周波数帯にわたる音を低減、遮蔽、消滅等できていない。
【0006】
なお、特許文献2は、従来から遮音用パネル(エンジンカバー等)に取り着けられていた吸音材(粗毛フェルト)に、プレス成形および穴加工を施して、ヘルムホルツ型共鳴器(レゾネータ)を形成することを提案している。特許文献2の吸音材の表面には、飛散防止、形状保持等の確保のため表皮材(アルミ箔等)が貼着されており、さらに、通気を遮蔽するフィルム材もヘルムホルツ型共鳴器の内壁面等に貼着されている(特許文献2の[0012]、[0013]、[0019]、図3等)。この場合、表皮材は通気を遮断するものであるため、吸音材内の隙間(例えば繊維間)へ空気が進入(侵入)せず、空気の粘性抵抗による吸音は期待されない。特許文献2の図4に示されたグラフを一見すると、広い吸音周波数帯が実現されているようにもみえる。しかし、特許文献2中に吸音周波数帯を実測した記載はなく、特許文献2に示されたグラフは、実施例に記載された吸音材に適合しているとは考えられない。仮に、その吸音材により高周波側の音が低減されるなら、表皮材の膜振動による共振、もしくは吸音材が遮音用パネルの振動を抑制する制振材として機能しているためと考えられる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、従来とは異なり、広い周波数帯の音を低減できる新たな吸音構造体等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、多孔構造にした本体にレゾネータを内蔵することを着想し、それにより広い周波数帯で吸音できることを実際に確認した。このような成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《吸音構造体》
(1)本発明は、表面側に開孔した多孔部を有する本体と、該本体に内蔵され、空洞部と該本体の表面側から該空洞部へ至る導管であるネック部とを有するレゾネータと、を備える吸音構造体である。
【0010】
(2)本発明の吸音構造体(単に「構造体」ともいう。)によれば、広い周波数帯の音を低減でき、種々の構造物(機械、機器、装置、建築物等)における効果的な吸音(消音、静音)が可能となる。
【0011】
本発明の構造体により吸音される機序は次のように考えられる。先ず、外部から多孔部へ侵入(進入)した音波(空気振動)は、空気の粘性損失や熱交換損失により、音響エネルギ(単に「エネルギ」という。)が低減される。これにより、例えば、主に高周波側の吸音がなされる。
【0012】
次に、レゾネータにより、外部から空洞部へ進入した音波(空気振動)は、ヘルムホルツの共鳴効果によりエネルギが低減される。これにより、例えば、主に低周波側の吸音がなされる。こうして本発明の構造体によれば、本体に設けた多孔部と本体に内蔵したレゾネータとの相乗効果により、広い周波数帯で吸音が可能となる。
【0013】
ここで多孔部は、本体の少なくとも表面側(表層側)にあればよい。つまり、本体は、全体的に多孔状(多孔部)でもよいし、多孔部以外の部分は中実状(中実部)でも、軽量化等を目的として中空状でもよい。また多孔部は薄くても(層状でも)、十分な吸音効果を発現し得る。このため、本体(ひいては構造体)の形態自由度は大きく、それ自身が種々の部材の構成要素となり得る。
【0014】
また、多孔部、空洞部およびネック部の形態を変更することにより、吸音される周波数帯や特定の周波数域における吸音率の調整等が可能となる。従って、本発明の構造体は、必ずしも、多孔部で高周波側の吸音がなされ、レゾネータで低周波側の吸音がなされる場合に限られない。
【0015】
《吸音構造体の製造方法》
(1)本発明は、吸音構造体の製造方法としても把握される。その製造方法は種々あるが、例えば、粉末積層法を用いるとよい。
【0016】
粉末積層法によれば、例えば、微細な隙間(孔)からなる多孔部や微小な空洞部やネック部からなるレゾネータの形成も可能となる。具体的にいうと、例えば、1mm単位、0.5mm単位、0.1mm単位、さらには0.05mm単位でサイズ調整した多孔部、空洞部またはネック部の製作が可能となる。
【0017】
また粉末積層法によれば、例えば、多孔構造の本体内にレゾネータを一体的に形成したり、それらの形態(形状、大きさ、長さ、数等)を自在に調整したり、レゾネータの空洞部内に別な吸音構造(例えば格子構造)や制振構造を形成したりすることも可能となる。
【0018】
なお、構造体(本体)内の残余粉末は、例えば、多孔部やネック部を通じて外部へ排出されてもよいし、別途設けた粉抜き穴から排出されてもよい。さらにいえば、一部の粉末は内部に残存していてもよい。
【0019】
(2)ちなみに、粉末積層法は、粉末を用いた積層造形法(いわゆる三次元造形法、3Dプリンター法)または付加製造法(AM:Additive Manufacturing)の一種であり、粉末焼結積層造形法でも、粉末固着積層造形法でもよい。粉末焼結積層造形法によれば、各層の原料粉末に加熱源である高エネルギビームを照射し、その原料粉末を順次焼結(溶融凝固を含む。)させて造形物が得られる(SLM(Selective laser melting)方式等)。粉末固着積層造形法によれば、各層の原料粉末に、接着剤(インク)を逐次吹付け、その原料粉末を順次結着させて造形物が得られる(バインダージェット方式等)。
【0020】
粉末焼結積層造形法は、粉末床溶融結合法(PBF:powder bed fusion)でも、指向性エネルギ堆積法(DED:directed energydeposition)でもよい。PBFは、原料粉末を薄く1層敷く毎に、所定の経路で高エネルギビーム(レーザ、電子ビーム等)を走査して、原料粉末を溶融凝固させることを繰り返し、所望形状の造形物(バルク体)を得る方法である。DEDは、高エネルギビームの焦点付近に投射した原料粉末を溶融凝固させつつ、その溶融凝固位置を走査(移動)させて所望形状の造形物を得る方法である。なお、種々の材質(金属、樹脂、化合物(セラミックス)等)の粉末を原料粉末とできるが、代表的な原料粉末は金属粉末である。
【0021】
《その他》
特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また、特に断らない限り、本明細書でいう「x~yμm」は、xμm~yμmを意味する。他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A】試料1の外観、内部および断面を示す斜視図である。
図1B】試料2の外観、内部および断面を示す斜視図である。
図2】各試料に係る周波数と吸音率の関係を示すグラフである。
図3A】試料2の変形例を示す斜視図である。
図3B】試料2の別な変形例を示す斜視図である。
図4】吸音構造体の応用例を示す説明図である。
図5】レゾネータ(ヘルムホルツ共鳴器)の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明の吸音構造体としてのみならず、その製造方法にも適宜該当する。方法的な構成要素であっても、物に関する構成要素ともなり得る。
【0024】
《吸音原理》
(1)レゾネータ
空洞部(共鳴室)とネック部(連通管)を有するレゾネータ(ヘルムホルツ共鳴器)による吸音原理は次のように考えられる。レゾネータは、図5に示すように、主に空洞部とネック部の形態から定まる共鳴周波数(固有振動数)fを有する。ネック部から空洞部へ進入(伝播)した音(空気振動)のうち、共鳴周波数付近の成分は、空洞部内で共鳴(反射)し、干渉により振動が減衰する。こうして、レゾネータの共鳴周波数付近の音が低減される。
【0025】
なお、共鳴周波数には、ネック部の開口付近の空気振動も影響し得る。そこで図5には、開口端補正を伴う共鳴周波数(f)の算出式を例示した。例示した開口端補正は、ネック部の開口付近(本体の表面側)がフランジ状となっている場合である。ネック部の開口付近がフランジ状でない場合(例えば、ネック部の開口が本体表面から突出した位置にあるような場合)なら、L’=L+1.7(d/2)をL’=L+1.5(d/2)に置換してもよい。
【0026】
ちなみに、空洞部へ進入する音は、ネック部内でも摩擦(空気の粘性抵抗)によりエネルギが消耗されて低減され得る。もっとも、通常、前者の共鳴による吸音が主体となるため、レゾネータによる吸音周波数帯は狭くなり得る。但し、仕様が異なる複数の空洞部および/またはネック部からなるレゾネータを設ければ、共鳴周波数の複数化または分布により、レゾネータによる吸音周波数帯の拡張またはシフトが図られる。なお、レゾネータの仕様は、空洞部の内容積(V)、ネック部の断面積(S)や長さ(l)等である。
【0027】
(2)多孔部
多孔部による吸音原理は次のように考えられる。表面側に開孔した多数の隙間(孔)へ進入する音は、空気と多孔部の壁面や柱等との摩擦(空気の粘性抵抗)によりエネルギを消耗する。なお、一般的に、そのような吸音は波長に依存し、吸音したい周波数の波長に対して、その1/4程度の厚み(目安)が必要とされている。そして現実的には、空間的な制約があるため、吸音材の厚みは薄くせざるを得ない場合が多い。このため、多孔部により吸音(消音)される周波数帯は、通常、高周波側になり得る。但し、各隙間(孔)の形態(形状、大きさ等)を変更することにより、多孔部による吸音周波数帯の調整も可能である。
【0028】
《レゾネータ》
(1)レゾネータは空洞部とネック部を有する。空洞部やネック部の形態は、構造体の要求仕様により調整されるとよい。空洞部は、例えば、略円柱状でも、略四角柱状でも、略三角柱状でも、歪な異形状でもよい。ネック部は、例えば、円管状でも、角管状でも、歪な異形管状でもよい。ネック部の経路は、例えば、直線状、曲線状、折れ線状等のいずれでもよい。
【0029】
空洞部とネック部は、それぞれ少なくとも一つ以上あればよい。複数の空洞部がある場合、ネック部は各空洞部に対して一つ以上設けられてもよいし、逆に、いくつかの空洞部に対してネック部が一つでもよい。後者の場合、空洞部の二つ以上が連通されているとよい。
【0030】
空洞部やネック部が複数ある場合、各空洞部や各ネック部は、形態が同じでも異なっていてもよい。形態が異なる空洞部やネック部を設けることにより、レゾネータによる吸音周波数帯が拡張し得る。また、ネック部が複数あるとき、各開口は、同じ方向または面側に配置されてもよいし、異なる方向や面側に配置されてもよい。前者なら指向的な音を効果的に吸音でき、後者なら多方向の音を吸音できる。
【0031】
(2)空洞部やネック部の壁面は、中実状でも多孔状(メッシュ状)でもよい。多孔状の壁面でも、隙間のサイズが小さい(例えば、最大長(径)が200μm以下さらには100μm以下)なら、通気性(音の透過性)が抑制されて、レゾネータとしての機能が確保され得る。勿論、空洞部の少なくとも一部が中実な壁面(シェル)であると、レゾネータによる吸音率が高まり得る。
【0032】
(3)ネック部は、空洞部の壁面と本体の外表面とを連通(貫通)する導管からなる。複数のネック部があるとき、それぞれの導管の形態は同じでも異なっていてもよい。また、ネック部の少なくとも一つは、空洞部の外周側を迂回する導管(迂回管)でもよい。これによりネック部が長くなり、吸音周波数帯(共鳴周波数帯)を低周波側へシフトできる(図5参照)。
【0033】
《本体》
(1)多孔部は、本体の外表面の全面にあってもよいし、一部にあってもよい。なお、レゾネータのネック部の開口は、多孔部内にあっても、多孔部外にあってもよい。
【0034】
多孔部を構成する各孔の形態は種々あり得る。各孔は、例えば、貫通状でも、有底筒状でもよい。また各孔は、略角形状(例えば方形状または格子状)でも、略円形状(楕円状、長円状等を含む。)でも、歪な異形状でもよい。その平均孔サイズは、例えば、□0.05~2mm、0.1~1mm、0.15~0.5mmであるとよい。
【0035】
孔サイズは、閉じた各孔(隙間)の面積(si)に等しい面積の正方形の一辺(√si)の長さ(□:かく)で指標する。平均孔サイズは、多孔部の表面を顕微鏡等で拡大して得た観察像の視野にある閉じた孔(隙間)の合計面積(S=Σsi)を、その孔のカウント数(n=Σi)で除して求まる平均面積(sm=S/n)の平方根(√sm)とする。平均孔サイズは、例えば、観察像を画像処理して求まる。画像処理は、顕微鏡の付属機能を利用してもよいし、別なソフトウェア(フリーソフトのImageJ等)を利用してもよい。なお、平均孔サイズは、極端に過小または過大な孔を除いて任意に抽出した5~100個さらには10~50個の孔を用いて算出されるとよい。
【0036】
(2)本体は、全体が多孔状でもよいし、多孔部および内蔵されるレゾネータを除いて、中実状(中実部)でもよい。多孔部は、例えば、本体の表層付近にだけあってもよい。
【0037】
本体は、機器(機械、装置等)の筐体(ケース、ハウジング等)や部材の壁部、構造部材の骨格等の全部または一部であるとよい。これにより吸音材等を別途設けるまでもなく、省スペース化を図りつつ静音対策を行える。
【0038】
本体は、金属製、樹脂製、セラミックス製等のいずれでもよい。金属製の本体(構造体)なら、一般的な多孔質吸音材等よりも、強度、剛性、熱伝導、耐熱性、耐湿性、不燃性等に優れるため、高温環境下(例えばエンジンルーム)でも安定した吸音(消音)効果を発揮し得る。
【0039】
《吸音構造体》
構造体は、形状、大きさ、用途等を問わない。仕様に応じて、本体(多孔部)やレゾネータの形態、サイズ、配設位置(領域)、配設方向、特性等が適宜選択される。吸音構造体は、汎用品でも、専用品でもよい。専用品なら、上述したように、本体を特定の機器等に応じた形態とすればよい。
【0040】
構造体は、既述した粉末積層法のような付加加工の他、レーザー加工、切削加工、打ち抜き等の除去加工、さらには塑性加工等によっても形成され得る。構造体の仕様や用途等に応じて適切な製造方法が選択されるとよい。なお、構造体は、本体とレゾネータが一体的に形成されたものでもよいし、複数部材を結合または接合(接着、溶接、締結等)して組み立てたものでもよい。
【実施例
【0041】
複数の試料(吸音構造体)を製作して、それらの吸音特性を評価した。このような具体例に基づいて、以下に本発明をさらに詳しく説明する。
【0042】
[第1実施例]
《試料の製作》
(1)形態
図1Aおよび図1B(両図を併せて「図1」という。)に示す試料1および試料2を粉末焼結積層造形法により製造した。なお、説明の便宜上、図中に矢印で示した方向を上下方向または左右方向とする
【0043】
試料1、2は、短円柱状の本体と、本体の内部に形成されたレゾネータからなる。本体は、レゾネータ部分を除いて全体が多孔部となっている。
【0044】
レゾネータは、複数の空洞部とネック部からなる。一つの空洞部に対して一つのネック部が設けられている。各空洞部は略三角柱状のシェルからなる。シェル壁面は、特に断らない限り、中実壁とした。中実壁からなるシェルを適宜「中実シェル」という。各ネック部は、各空洞部の上面側から本体の上面側まで延在した直円管(導管)からなる。各ネック部の開口端は、本体の上面と面一状態となっている。試料1は4対の空洞部とネック部を有し、試料2は8対の空洞部とネック部を有する。
【0045】
本体のサイズ:φ29mm×10mm、空洞部の容積(V):246.5mm、空洞部の壁厚(シェル厚さ):0.5mm、ネック部の内径(d):φ1mm、ネック部の長さ(l):2mmとした。
【0046】
本体の上面側の多孔部は、略正方形状の格子状(上下方向への二次元押出形状)であり、格子壁の厚さ:100μm(狙い値)、格子壁の間隔(隙間の幅):200μm(狙い値)とした。実際に作製した試料の多孔部は、平均孔サイズが□154μmであった。
【0047】
(2)製法
試料は、いわゆる3Dプリンター(SLM Solutions 社製 SLM280)を用いて、粉末焼結積層造形法により製作した。原料粉末には、市販されているAlSi10Mg粉末(成分組成:Al-10wt%Si-0.35wt%Mg、粒径:20~63μm)を用いた。なお、空洞部内の残存粉末はネック部から排出した。
【0048】
(3)比較試料
比較試料として、代表的な多孔質吸音材であるポリウレタンフォーム(株式会社ミスミ製BS2F)からなる試料Cを用意した。試料Cの外観は、図1に示した試料1、2と同じ円柱状とした。
【0049】
《測定》
各試料の吸音特性(吸音率)を規格(音響管による吸音率及びインピーダンスの測定/ISO 10534-2:1998,JIS A 1405-2:2007)に沿って測定した。音響管には、ブリュエル・ケアー製Type4206を使用した。評価できる周波数範囲は500~6300Hzであった。音は、各試料の多孔部とネック部の開口に対して、垂直上方から入射させた。こうして、各試料について測定した吸音特性(周波数毎の吸音率)を図2にまとめて示した。
【0050】
なお、試料1、2のレゾネータの共鳴周波数は、図5に示した算出式に基づいて算出すると、1809Hzとなった。また、試料2と試料Cの吸音率が重なった周波数は4768Hzであった。
【0051】
《評価》
図2から明らかなように、試料1、2は試料Cよりも、広い周波数帯で吸音率が大幅に大きくなった。また、試料1、2では、レゾネータによる吸音ピークが低周波側(例えば1500~1600Hz)に、多孔部による吸音ピークが高周波側(例えば4000~6000Hz)に、それぞれ現れることもわかった。
【0052】
レゾネータによる吸音ピークが現れる周波数は、上述した共鳴周波数(1809Hz)付近となり、両者は略一致した。なお、試料1と試料2で、高周波側の吸音ピークの大きさが異なっている。4000~6000Hzの吸音ピークは、10mm厚さの多孔部の効果による。レゾネータの数が多い試料2では、入射する音波に対する面積が小さいため、吸音率が小さくなったと考えられる。
【0053】
[第2実施例]
図1Bに示した試料2の構造体の変形例を図3A図3Bに示した。各図に示すように、ネック部は、空洞部(シェル)の外周囲に沿って延在する導管(迂回管)でもよい。例えば、図3Aに示すように、ネック部は、空洞部の下面側から本体の上面側へ延在する導管であってもよい。また、図3Bに示すように、ネック部は、空洞部の上面側から出て空洞部の外周側を巻回した後、本体の上面側へ至る導管でもよい。このようにネック部の形態(特に長さl)を変更することにより、レゾネータによる吸音ピークが現れる周波数帯を調整することもできる。例えば、ネック部の長さを長くすることにより、より低周波側の吸音(消音)も可能となる。
【0054】
また、空洞部の二つ以上は、ネック部とは別に設けた連通管で接続されていてもよい。連通管は、吸音周波数帯の調整、粉末焼結積層造形法で製作された空洞部内の残存粉末の排出等に利用できる。
【0055】
[第3実施例]
構造体の一応用例として、自動車のエンジンルーム内に配設される電動機のケース(筐体壁)を吸音構造体で構成した場合を図4に示した。このようなケースを用いると、電動機自体で生じる音のみならず、エンジンルーム内にある他の機器(図中のA~E等)から発生または反射等した種々の音も吸音(消音)される。このため、吸音材等を別途付加(後付け)することなく、車両の静音対策を行える。
【0056】
また構造体(ケース等)は、例えば、大きな応力が作用する部位(例えばフランジのボルト周辺)を中実部としつつ、作用応力の小さい部位には多孔部やレゾネータが配設されるとよい。このような構造体は、剛性や強度等を確保できる金属製であると好ましい。特に、高温または高湿度な環境下で使用される構造体は金属製であるとよい。
【0057】
このように、本発明の吸音構造体を部材の一部として用いれば、新たな部材を追加するまでもなく、広域な周波数帯で静音化(音圧レベルの低減等)を図れる。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5