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特許7610440アーク溶接練習機及び運棒練習用紙支持台
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】アーク溶接練習機及び運棒練習用紙支持台
(51)【国際特許分類】
   G09B 9/00 20060101AFI20241225BHJP
   G09B 19/24 20060101ALI20241225BHJP
   B43K 29/00 20060101ALI20241225BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
G09B9/00 Z
G09B19/24 Z
B43K29/00 Z
B23K31/00 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021042836
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022142605
(43)【公開日】2022-09-30
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】500466108
【氏名又は名称】レイズネクスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】古川 忍
(72)【発明者】
【氏名】岡谷 義幸
【審査官】岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-185478(JP,U)
【文献】実開昭56-117993(JP,U)
【文献】特開2000-024963(JP,A)
【文献】特開平04-097383(JP,A)
【文献】実開平04-075369(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00-9/56
G09B 17/00-19/26
B23K 31/00
B43K 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が手で把持することのできるグリップ本体と、
前記グリップ本体に回転可能に取り付けられ、先端部がグリップ本体から離れた初期位置から前記グリップ本体に向かう方向に直線的に移動可能である可動部材と、
前記可動部材の前記先端部を前記初期位置から前記グリップ本体に向かう方向に移動させるための直動式駆動手段と、
前記直動式駆動手段を制御して前記可動部材の前記先端部の移動速度を調整するための制御手段と、
前記可動部材の前記先端部に設けられた、筆圧に応じて線の太さが変化する筆記具が装着される筆記具装着部と
を備え
前記筆記具は筆ペンである、アーク溶接練習機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆アーク溶接作業における運棒を効率よく習得することのできるアーク溶接練習機に関する。また、本発明は、かかるアーク溶接練習機と共に用いるのに適したアーク溶接の運棒の練習用紙を支持するための練習用紙支持台にも関する。
【背景技術】
【0002】
被覆アーク溶接は、消耗電極式アーク溶接法の一種で、被溶接対象たる母材と同じ材質の心線とその周りを覆う被覆材とからなる溶接棒を電極とし、この溶接棒の心線と母材との間に形成されるアークを熱源とする溶接法である。
【0003】
被覆アーク溶接では、溶接が進むと溶接棒が徐々に短くなる。そのため、溶接を良好に仕上げるためには、溶接棒の消耗に合わせて溶接棒を下げ、溶接棒の先端と母材との間の距離(アーク長に相当)を一定に保つという操作が必要になる。また、アーク発生時に形成される母材と心材との間の溶融池を安定させるためには、溶接棒を母材の面に対して一定の速度で移動させる必要もある。この溶接棒の移動に関しては、直線移動たけではなく、幅の広いビードを形成するために、移動方向に対して左右に溶接棒の先端を動かしながら移動するウィービングという技法もある。さらに、溶接棒と母材との間の角度を一定に維持することも必要である。このように、良好な被覆アーク溶接を行うには、溶接棒の動かし方、いわゆる運棒を習熟することが重要となる。
【0004】
運棒の練習は、実際のアーク溶接機と、消耗品たる溶接棒と、鋼材を加工したテストピースとを用いて行われることが多いが、持ち運びが困難な上に、練習するためのスペースも必要になることから、その実施には時間的、金銭的、スペース的な制約があった。
【0005】
このため、従来においては、下記の特許文献1に記載されているようなアーク溶接練習機が提案されている。この従来のアーク溶接練習機は、伸縮シャフトと、この伸縮シャフトの先端部に固定されるロットペン等の筆記具とを備えるものである。そして、練習を行う際、使用者は、伸縮シャフトを持ち、その先端部のロットペンを動かして、練習用紙にロットペンの軌跡を描くことで、運棒の練習を行うことができるようにしたものである。特に、このアーク溶接練習機は、伸縮シャフトの先端部を後退させることで被覆アーク溶接作業時の溶接棒の消耗を擬似的に再現できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開昭57-185478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来のアーク溶接練習機は、簡易な構成で且つ小型であり、持ち運びも可能である。しかしながら、特許文献1には、伸縮シャフトの構成は細長い円錐形の部材を互いに嵌め合わせたものしか記載されておらず、この構成では、伸縮シャフトを長く伸ばした状態では直線的な棒状の形状を維持することはできず、先端部が垂れ下がることは必至である。逆に、伸縮シャフトを長く伸ばした状態で棒状の形状を維持できるようにした場合、短く収縮させることが困難となる。したがって、特許文献1に記載のアーク溶接練習機は実施不可能な構成である。また、一旦短くなった伸縮シャフトを元の伸張状態に伸ばす手段が、特許文献1に記載のアーク溶接練習機にはなく、不便である。
【0008】
さらに、特許文献1には、筆記具の例としてロットペンのみが記載されているが、このロットペンで描かれる線は一定の太さとなる。すなわち、特許文献1に記載のアーク溶接練習機を用いて描かれた線を見ても、被覆アーク溶接作業の運棒において重要であるアーク長が一定になっているかどうかを判定できないという問題点がある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、上述したような従来の問題点を解消することのできる新規なアーク溶接練習機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様によるアーク溶接練習機は、使用者が手で把持することのできるグリップ本体と、このグリップ本体に回転可能に取り付けられ、先端部がグリップ本体から離れた初期位置からグリップ本体に向かう方向に直線的に移動可能である可動部材と、可動部材の先端部を初期位置からグリップ本体に向かう方向に移動させるための直動式駆動手段と、直動式駆動手段を制御して可動部材の先端部の移動速度を調整するための制御手段と、可動部材の先端部に設けられた、筆圧に応じて線の太さが変化する筆記具が装着される筆記具装着部とを備えることを特徴とする。筆記具は筆ペンであることが好適である。
【0011】
また、本発明の第2の態様によれば、前記アーク溶接練習機と共に用いるのに適した、被覆アーク溶接の運棒の練習用紙を支持するための運棒練習用紙支持台が提供される。この練習用紙支持台は、被覆アーク溶接作業において溶接棒の先端が描く線、すなわち運棒の軌跡を模した線が少なくとも1本、倣い線として描かれた台紙と、この台紙が取り付けられる取付面を有する支持台本体とを備えている。支持台本体の取付面は、該取付面に付けられた台紙に向かって光を照射することができるように構成されており、また、台紙は取付面からの光を透過することができるように構成されている、運棒の練習を行う際には、半紙のような運棒の練習用紙が、台紙を覆うようにして練習用紙支持台に支持される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の態様によるアーク溶接練習機は、簡単には、可動部材の先端部の筆記具装着部に装着された筆ペン等の筆記具で運棒の練習用紙をなぞることで、運棒の練習を行うことができる。この際、制御手段による制御によって、実際のアーク溶接機の溶接棒が作業中に短くなっていくのと同様に筆記具が練習用紙から離れていくよう設定できる等、以下の「発明を実施するための形態」にて詳細に説明するような様々な効果を奏することができる。
【0013】
また、本発明の第2の態様による運棒練習用紙支持台は、運棒の軌跡を模した倣い線が描かれた台紙を有し、その上に半紙等の練習用紙を置いて、練習用紙に映る台紙の倣い線を筆記具でなぞって運棒の練習を行うことができる。特に、支持台本体から光を出射させることで、台紙の倣い線を練習用紙に明瞭に映すことが可能となり、運棒の練習をより一層効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明によるアーク溶接練習機の第1の実施形態を示す側面図である。
図2図1のII-II線に沿っての断面図である。
図3図1のアーク溶接練習機を折り曲げた形状を示す部分断面側面図である。
図4】本発明によるアーク溶接練習機と共に使用するのに適した運棒の練習用紙を支持するための運棒練習用紙支持台の一例を示す概略説明図である。
図5】本発明によるアーク溶接練習機と運棒練習用紙支持台とを用いて描いた線を示す写真に基づく図である。
図6】本発明によるアーク溶接練習機と共に使用するのに適したアーク溶接練習用紙の支持台の変形例を示す概略説明図である。
図7】本発明によるアーク溶接練習機の第2の実施形態を示す側面図である。
図8】本発明によるアーク溶接練習機の第3の実施形態を示す側面図である。
図9】本発明によるアーク溶接練習機の第4の実施形態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、被覆アーク溶接練習機と、このアーク溶接練習機と共に用いるのに適した運棒練習用紙支持台について詳細に説明する。尚、全図を通して同一又は相当部分には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0016】
図1図3は、本発明によるアーク溶接練習機の第1の実施形態を示している。図示実施形態において、アーク溶接練習機10は、使用者が手で把持するグリップ部12を有するグリップ本体14を備えている。このグリップ本体14は、被覆アーク溶接作業で用いられる実際のアーク溶接機の溶接棒ホルダと同等の寸法を有することが好ましく、特に手で把持するグリップ部12は溶接棒ホルダのグリップ部と同等の形状と寸法とすることが有効である。可能な限り、実機と同様な感触で練習を行うためである。
【0017】
グリップ本体14の、グリップ部12とは反対側の端部は二股状となっており、その間に、筆記具16を保持するための筆記具ホルダ18が回転可能に配置されている。筆記具ホルダ18のホルダ本体20には、回転中心Pから等距離の位置に複数個(図示実施形態では3個)の穴22が形成されている。これらの穴22は、ホルダ本体20をグリップ本体14に対して折り曲げた際に、グリップ本体14に設けられた回転中心Pから同距離の位置の穴24と整列し、グリップ本体14の穴24に螺合されたストッパピン26をねじ込むことで、ホルダ本体20をグリップ本体14に対して所定の折曲げ角θで固定することができる。図示実施形態では、図1及び図2に示す折曲げ角(図3においてθで示す角度)が0度の位置と、図3の実線で示す折曲げ角θが90度の位置と、その中間の折曲げ角θが45度の位置(図3の二点鎖線で示す位置)の3か所でホルダ本体20を固定することができるようになっている。しかしながら、折曲げ角θは特に限定的なものではなく、無段階で可変としてもよく、また、ホルダ本体20の固定手段もストッパピン26によるものである必要もない。
【0018】
筆記具ホルダ18は、ホルダ本体20に設けられた伸縮ロッド(可動部材)28を備える。伸縮ロッド28は、ロッドアンテナのような入れ子構造をとり、ホルダ本体20に形成された細長い穴30に摺動可能に嵌合された第1の円筒体32と、この第1の円筒体32に摺動可能に嵌合された第2の円筒体34とからなる3段式となっている。なお、伸縮ロッド28の段数に関しては3段式に限られず、2段式であってもよいし、4段以上であってもよい。
【0019】
伸縮ロッド28の長さは特に限定的なものではないが、実際の被覆アーク溶接作業を模した練習という観点からは、伸縮ロッド28を最も長く伸ばした状態(図3参照)における長さが実際の溶接棒の長さと概ね同等とすることが好ましい。一方、伸縮ロッド28を最も短くした状態が図1及び図2に示すものであるが、この長さは、実際の溶接棒を使い切った際の長さに概ね同等とすることが好ましい。
【0020】
なお、図示実施形態において、細長い穴30と第1の円筒体32との間の嵌合関係、及び第1の円筒体32と第2の円筒体34との間の嵌合関係には、遊びはなく、伸縮ロッド28を最長に伸ばしても、伸縮方向から反れるような撓みを生じることはない。
【0021】
ホルダ本体20には、伸縮ロッド28が突出する方向とは反対の方向に延びる部分が形成されており、その部分にモータ36が取り付けられている。このモータ36の回転軸には、巻きばね38の鋼帯38aの一端が固定されており、巻きばね38の鋼帯38aの他端はホルダ本体20の細長い穴30から第1の円筒体32の内部を通って第2の円筒体34の末端に接続されている。巻きばね38の初期状態(ばね付勢力が全く又は殆ど生じていない状態)では、図3に示すように、巻きばね38の鋼帯38aの接続端側は直線状に延びようとする。モータ36を駆動して巻きばね38の鋼帯38aをモータ36の回転軸に巻き取っていくと、巻きばね38は第2の円筒体34を引っ張り、第1の円筒体32内に収容していく。さらにモータ36の駆動を続けると、第2の円筒体34と第1の円筒体32が一体となってホルダ本体20の細長い穴30内に収容され、図1に示す最短状態となる。ここで、モータ36の回転軸の回転を逆転させると、巻きばね38の接続端側の鋼帯38aはその弾性的な復元力により元の直線状に戻ろうとし、直線状となった鋼帯38aの部分は長手方向軸線に沿う押し力を伝達することができるため、伸縮ロッド28の第2の円筒体34を押し、伸縮ロッド28を最長となる初期位置に戻すことができる。或いは、モータ36の駆動力を解放した状態で伸縮ロッド28の先端部を手で引っ張ることによっても、伸縮ロッド28を初期位置に戻すことも可能である。
【0022】
モータ36の回転軸の回転速度については、一定として、伸縮ロッド28の収縮速度を一定とすることが考えられる。しかしながら、実際の被覆アーク溶接作業では、母材の種類や溶接部の形状等の様々な要因によって溶接棒が短くなる速度も種々である。そこで、モータ36の駆動を制御することで、モータ36の回転軸の速度、ひいては伸縮ロッド28の収縮速度(先端部の移動速度)を調整することが必要となる。制御方法としてはモータ36に供給する電流量を調整する方法や電圧値を調整する方法、モータ36がステッピングモータであれば印加する電流の波形を調整する方法等、種々考えられる。図示しないが、モータ36を制御する制御装置(制御手段)及び電源等は、アーク溶接練習機10のグリップ部12等に内蔵してもよいが、アーク溶接練習機10の重量が実際のアーク溶接機の溶接棒ホルダとアーク溶接棒の合計の重量を大きく上回ることも考えられるため、アーク溶接練習機10を実機と同等の重量にするために制御装置と電源等はアーク溶接練習機10とは別個に設けてもよい。
【0023】
伸縮ロッド28の先端部には、筆記具16が取外し可能に装着される。より具体的には、伸縮ロッド28の先端部には、筆記具16の軸部を受け入れる筒体からなる筆記具装着部40が設けられている。筆記具装着部40の筒体の長手方向軸線は、伸縮ロッド28の伸縮方向と実質的に平行に配置されている。また、筆記具装着部40の筒体の内周面は、筆記具16の軸部を簡単に抜き差しでき、装着後にはぐらつかないようにするため、筆記具16の軸部の外周面と実質的に相似形であり、若干のしまり嵌めの関係となっていることが好適である。或いは、筆記具装着部40の筒体の内周面に突条を複数本形成し、筆記具16の軸部を弾性的には保持するような構成としてもよい。
【0024】
本発明によれば、筆記具16は、アーク溶接練習機10を用いて練習用紙の上に線を描き、その線の太さや揺れ等の状態を見て練習の成果を見るものであるため、その重要度は高い。特に、実際の被覆アーク溶接作業では、溶接棒の先端と母材との間の距離、すなわちアーク長を一定に保つ必要があるため、練習の成果を良と判定するためには、筆記具16が描く線の太さも一定になることが必須となる。一方、筆記具16が一定の太さでしか書けないようなものでは、練習の成果の良否を判定することができず、本発明のアーク溶接練習機10には不適である。このため、筆記具16としては、筆圧の僅かな差でも描く線の太さが変化するものを選択する必要がある。このような条件に適合する筆記具16として、本願発明者らは実験を繰り返し鋭意検討した結果、筆ペン16が最適であることを見出した。
【0025】
筆ペン16は、インク液を保持する軸部と、軸部の先端に取り付けられ軸部内のインク液を吸い上げる、樹脂又は動物の毛で作られた穂先とからなる、従来から知られたものである。近年では筆ペンは安価で市販されているため、アーク溶接練習機10において何度も練習を行って交換を繰り返しても金銭的な負担は極めて軽い。なお、本願発明者らは、様々な筆ペンを用いた実験を通して、被覆アーク溶接作業に近い感触を有し且つ細い線から比較的太い線までを描くことのできるぺんてる株式会社製の「ぺんてる筆(中字)(商標)」が有効であることを見出した。
【0026】
以上述べたようなアーク溶接練習機10を用いて被覆アーク溶接作業の運棒の練習を行う場合、まず、伸縮ロッド28を最長に伸ばしてその先端部をグリップ本体14から最も離れた初期位置に配置する。そして、筆ペン16を筆記具ホルダ18の筆記具装着部40に装着する。また、筆記具ホルダ18をグリップ本体14に対して所望の折曲げ角θとなるように折り曲げ、ストッパピン26で固定する。実際のアーク溶接機では、溶接棒を溶接棒ホルダのグリップ部に対して約90度の角度として用いることが多いため、通常、折曲げ角θは90度として図3に示す状態にする。この後、使用者は、グリップ本体14のグリップ部12を手で把持し、伸縮ロッド28の先端部の移動速度、すなわち筆ペンの移動速度を制御装置によって調整する。モータ36を駆動させると伸縮ロッド28は図3の矢印A方向に収縮し、伸縮ロッド28の先端部に取り付けられた筆ペン16は、伸縮ロッド28の伸縮方向から反れることなく、グリップ本体14に向かって直線的に移動する。この移動の速度は、実際の溶接棒が被覆アーク溶接作業中に消耗して短くなる速度に対応するため、グリップ本体14のグリップ部12を握って筆記具ホルダ18の先端部にある筆ペン16を操作すれば、実際の運棒と同様な感覚で、筆ペン16で練習用紙に線を描いていくことができる。練習用紙に描かれた線は、筆ペン16が練習用紙から離れすぎれば細くなり、近づきすぎれば太くなるため、溶接棒の先端と母材との間の距離に相当するアーク長が一定となるかを擬似的に判定することができる。また、筆ペン16の移動速度が変化した場合は、筆圧も変化するため、これも溶接の速度が適正であるか等の擬似的な判定を可能とする。さらに、筆ペン16の練習用紙に対する角度が安定しない場合にも、練習用紙に描かれた線は一定とならず、これによっても運棒の姿勢が適正であるか否かを判定することができる。このように、本発明によるアーク溶接練習機10を用いることで、実際に被覆アーク溶接作業を行わずとも、練習用紙に描かれた線を見るだけで、使用者自らが、運棒を正しく習得したか否か、或いは上達しているか否かを簡単に判定することができる。
【0027】
1回の運棒練習が完了すれば、モータ36の回転を逆転させるか、又は伸縮ロッド28の先端部を手で引っ張ることによって、伸縮ロッド28の先端部の筆ペン16を初期位置に迅速に戻すことができるため、繰り返しの練習にも対応することが可能となる。
【0028】
なお、本発明によるアーク溶接練習機10は上述したように比較的簡易な構成であるため、小型化、軽量化を図ることができ、時間的、金銭的、スペース的な制約を受けず練習をいつでもどこでもできるというメリットも有する。
【0029】
ところで、実際の被覆アーク溶接作業は、平板状の母材同士の突合せ溶接だけではなく、母材同士が直角に交わる部分の隅肉溶接や重ね継手溶接等がある。また、円筒管同士の溶接やフランジ部の溶接等、溶接個所や形状も種々である。このような多様な被覆アーク溶接作業の練習も可能とし、その習熟度をより一層高めるためには、練習用紙を単に平面に置いて行うだけでは足りない。また、溶接棒は直線的に動かすだけではなく、ジグザク移動や円を描きながらの移動、8の字を描きながらの移動等、運棒の種類も多様である。このような多種多様な運棒を覚えるためには、運棒を模した倣い線をなぞる方法が適している。
【0030】
そこで、本発明によるアーク溶接練習機10が筆記具として筆ペン16を利用することが好適であるとしたことに鑑みて、本願発明者らは、アーク溶接練習機10と共に用いることに適した、運棒の練習用紙を支持するための運棒練習用紙支持台を創案した。
【0031】
図4は、本発明による運棒練習用紙支持台50の一実施形態を示しており、練習用紙52として裏が透けて見える薄紙、好ましくは半紙を用いるものとしている。半紙としたのは、アーク溶接練習機10で用いる筆ペン16との相性がよいためである。運棒練習用紙支持台50の形状としては、練習において想定される溶接の種類に応じて種々考えられるが、例えば突合せ溶接を練習する場合には、図4に示すような平板状のものでよい。図4に示す運棒練習用紙支持台50は、平板状の支持台本体54と、その表面に配置される台紙56とから主に構成されている。台紙56は、理想的な運棒の軌跡が倣い線58として描かれたものである。倣い線58は1本だけでもよいが、何度も練習するためには複数本あることが好ましく、また、図4に示すように、種々の運棒方法を覚えるために複数種類の倣い線が描かれていてもよい。台紙56は、半紙52から筆ペン16のインク液が浸透してこれを汚さないよう、表面が透明樹脂でコーティングされたものや、セロハンフィルムのような透明フィルムで覆われたものが考えられる。また、台紙56は、支持台本体54に固着されてもよいが、支持台本体54に対して取外し可能に配置されることで、複数種類の台紙56を交換して用いることができるので有効である。さらに、図示しないが、台紙56上に練習用紙52を置いた際に練習用紙52がずれないよう、押さえバンドのような固定手段を設けておくことが好ましい。
【0032】
なお、台紙56に描かれた倣い線58は、通常、その上に置かれる半紙等の薄手の練習用紙52から透かし見ることができるが、より明瞭に倣い線58を見るために、支持台本体54の背面側に光源(図示せず)を配置するとよい。光源は、液晶ディスプレイ等で用いられる平板状のバックライトや、反射板を有する棒状のバックライト等、色々な種類のものを適用できる。また、光源は、支持台本体54に搭載されたものでもよいし、特別な光源ではなく、通常の電気スタンドを支持台本体54の背後に設置可能とする構成としてもよい。いずれにせよ、光源を用いる場合には、支持台本体54の、台紙56が取り付けられる支持台本体54の取付面60から光が照射されることが必要となる。また、台紙56はある程度の透光性を有することが好適である。
【0033】
このような運棒練習用紙支持台50に、台紙56を覆うようにして練習用紙52を置き、本発明によるアーク溶接練習機10を用いて筆ペン16でウィービング用の倣い線58をなぞったものが図5である。図5の左側の線は、ある程度の技量を有する者が描いたものであり、線の幅、上下の間隔、線の太さが揃っていることが分かる。一方、右側の線は、被覆アーク溶接の初心者が描いた線であり、線の幅、上下の間隔、線の太さが所々不揃いであることが分かる。線の太さが不揃いなのは、溶接棒を模した伸縮ロッド28の、母材の溶接個所を模した練習用紙52の面に対して角度とアーク長が安定していないことを示し、線の幅と上下の間隔が不揃いなのは運棒が円滑に行われていないことを示している。特に、右側の線の一部を拡大した図4中の拡大図を見ると、限られた短い間隔で、線の太さが太い箇所と細い箇所が交互に連続しているが、これは練習用紙52の面に対して筆ペン16の穂先が上下していることになるので、アーク長が不安定になるおそれがあることの証となる。
【0034】
以上から理解されるとおり、本発明によるアーク溶接練習機10を用いて描いた線が倣い線からずれていないか、線の幅、太さが一定か、上下の間隔が一定かについては、使用者自らが判断することは容易である。
【0035】
ちなみに、運棒練習用紙支持台50の形状は図4に示すものに限られない。例えば、図6に示す運棒練習用紙支持台50は、鋼管に対しての溶接を想定したものであり、支持台本体54は円筒形となっている。この支持台50において、円周方向の溶接を想定した場合には、台紙56は、その倣い線58が支持台本体54の円周方向に向くように配置され、立向き上進溶接を想定した場合には、図示しないが、台紙56は、その倣い線58が支持台本体54の長手方向軸線と平行になるように配置される。また、運棒練習用紙支持台50の支持台本体54の形状は、その他にも種々考えられ、多くの種類を用意しておくことで様々な運棒の技能を身に着けることが可能となり、現場での溶接作業の実施前の手慣らしにも役立つこととなろう。
【0036】
なお、本発明による運棒練習用紙支持台50は、本発明によるアーク溶接練習機10の創案に伴って考え出されたものであり、アーク溶接練習機10とは別個に用いることも可能であるが、アーク溶接練習機10と組み合わせて用いることが、運棒の技能向上のためにはより望ましい。
【0037】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、様々な変更ができることは言うまでもない。
【0038】
例えば、図7は、本発明による第2の実施形態に係るアーク溶接練習機10’を示しているが、これは、伸縮ロッド28が7段となっている点で図1図3に示す第1の実施形態に係るアーク溶接練習機10と相違している。また、このアーク溶接練習機10’は、モータ36の重心がグリップ本体14のグリップ部12から離れた位置となっている点でも第1の実施形態のアーク溶接練習機10と相違している。モータ36のこの配置によって、伸縮ロッド28を回転中心P回りで折り曲げた場合、モータ36の重心はグリップ部12の長手方向軸線に近い位置となる。特に、折曲げ角θを90度にした時には、モータ36の重心はグリップ部12の長手方向軸線上に実質的に位置することになり、グリップ部12を把持した手に大きなモーメント力が生ぜず安定したアーク溶接の練習を行うことができる。
【0039】
図8は、本発明による第3の実施形態に係るアーク溶接練習機10”を示している。このアーク溶接練習機10”は、図7に示す第2の実施形態にかかるアーク溶接練習機10’と同様な構成となっているが、筆記部装着部の構成において両者は相違している。第3の実施形態に係るアーク溶接練習機10”は、市販されている筆ペンの中には穂先とインクカートリッジが一体となって軸部から取り外して交換可能なものがあることに鑑みて創案されたものである。すなわち、この第3の実施形態では、伸縮ロッド28の最先端の円筒体60自体が筆記具装着部となっており、穂先とインクカートリッジの一体物16’が円筒体60の内部に取外し可能にはめ込まれる構成となっている。この構成によって、筆ペン16’の穂先と伸縮ロッド28とが同軸となるため、実際の溶接棒とより一層同等な感覚でアーク溶接の練習が可能となる。なお、穂先とインクカートリッジの一体物16’は市販の筆ペンのものを利用することが可能であるが、本発明によるアーク溶接練習機専用のものを用意してもよいことは勿論である。
【0040】
図9は、筆ペン16を軸部が付いたまま伸縮ロッド28の先端部の円筒体60に装着できるようにした、第4の実施形態に係るアーク溶接練習機10’”を示している。このアーク溶接練習機10’”は、図7図8に示すアーク溶接練習機とは相違して、伸縮ロッド28の段数が4段となっている。この構成では、先端部の円筒体60をグリップ本体14の側に十分に引き寄せるために、筆記具ホルダ18の末端がグリップ本体14のグリップ部の中間位置まで延びている点で、図1図3図7及び図8のものと相違している。
【0041】
なお、図8及び図9の実施形態に係るアーク溶接練習機10”、10’”については、伸縮ロッド28及び筆ペン16、16’の長手方向軸線がグリップ本体14との接続部の回転中心Pを通っていることに留意されたい。この配置構成においては、筆ペン16、16’を筆記具ホルダ18の先端に取り付けた位置と寸法及び角度が、実際のアーク溶接機の溶接棒ホルダに溶接棒を取付けた場合と同等又は極めて近いものとなり、これによっても実際のアーク溶接に近い感覚でのアーク溶接の練習を行うことが可能となる。
【0042】
この他にも種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、伸縮ロッドは入れ子構造とし、それを巻きばねにより直動させることとしたが、筆記具を保持する先端部を、撓むことなく直線的に移動させることのできる機能を有する可動部材ないしは直動式駆動手段であればどのようなものでもよいので、ラックとピニオンからなる機構、ボールねじ機構、リニアアクチュエータ等、種々考えられる。筆記具を初期位置に戻す手段はモータの逆回転とばねの弾性的な復元力とを利用したものである必要はなく、圧縮ばねを伸縮ロッド内に配置することとしてもよい。また、伸縮ロッドを収縮させるために巻きばねを用いることとしているが、弾性を有していないワイヤやストリップのような部材を用いることもできる。さらに、筆記具装着部はクリップを利用したもの等も考えられる。さらにまた、僅かな筆圧の違いによって線の太さが変る筆記具であれば本発明に適用可能であるので、筆記具は筆ペンに限定されるものでもない。
【符号の説明】
【0043】
10,10’,10”,10’”…アーク溶接練習機、14…グリップ本体、16,16’…筆記具(筆ペン)、18…筆記具ホルダ、20…ホルダ本体、28…伸縮ロッド(可動部材、直動式駆動手段)、36…モータ(直動式駆動手段)、38…巻きばね、40…筆記具装着部、50…運棒練習用紙支持台、52…練習用紙(半紙)、54…支持台本体、56…台紙、58…倣い線、60…取付面。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9