(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
F02B 23/08 20060101AFI20241225BHJP
F02B 23/10 20060101ALI20241225BHJP
F02F 1/24 20060101ALI20241225BHJP
F02F 3/26 20060101ALI20241225BHJP
F02P 5/15 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
F02B23/08 D
F02B23/08 V
F02B23/08 E
F02B23/10 N
F02B23/10 V
F02F1/24 D
F02F3/26 A
F02P5/15 E
(21)【出願番号】P 2021054915
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 雄史
(72)【発明者】
【氏名】藤間 浩平
(72)【発明者】
【氏名】安達 龍
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-105228(JP,A)
【文献】実開昭56-088917(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 23/08-23/10
F02F 1/24
F02F 3/26
F02P 5/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内に収容されるピストンと、
前記シリンダ上に配置されるシリンダヘッドと、
点火制御部と、
を備え、
前記ピストンが上死点に位置するとき、前記ピストンの冠面のうち中央エリアと、前記シリンダヘッドの内面のうち点火プラグが配置される中央エリアとの間に、前記シリンダの内半径よりも半径が小さい燃焼室である小径燃焼室が形成され、
前記ピストンの冠面のうち中央エリアの周辺の周辺エリアと、前記シリンダヘッドの内面のうち中央エリアの周辺の周辺エリアとの間隔であるスキッシュが、前記ピストンが上死点に位置するとき消炎距離より短くなり、
前記小径燃焼室の半径は、前記ピストンの往復運動に応じて変動する前記スキッシュが前記消炎距離以下である時間に、前記点火プラグの点火による火炎伝播速度を乗算した値以下であ
り、
前記点火制御部は、
前記スキッシュが前記消炎距離以下である時間内に、前記小径燃焼室における混合ガスの燃焼を終了させるように、前記点火プラグの点火タイミングを制御し、
かつ、前記点火プラグの点火により発生した火炎の膨張により圧縮される未燃の混合ガスが自着火の条件を満たす前に、火炎が前記小径燃焼室の内面に到達するように、前記点火プラグの点火タイミングを制御する、
エンジンシステム。
【請求項2】
前記ピストンの冠面のうち前記スキッシュを形成する周辺エリアは、
吸気バルブに対向する第1平面と、
排気バルブに対向する第2平面と、
を有し、
前記第1平面および前記第2平面によりペントルーフ型の冠面が形成される、請求項1に記載のエンジンシステム。
【請求項3】
前記ピストンの冠面のうち前記スキッシュを形成する周辺エリアは、
前記第1平面および前記第2平面で形成される前記ペントルーフ型の冠面の稜線の長手方向の一側に配置され、前記第1平面および前記第2平面に交差する第3平面と、
前記稜線の長手方向の他側に配置され、前記第1平面および前記第2平面に交差する第4平面と、
をさらに有し、
前記第1平面、前記第2平面、前記第3平面および前記第4平面により、4方向に傾斜する角錐型の冠面が形成される、請求項2に記載のエンジンシステム。
【請求項4】
前記第3平面の面積は、前記第1平面および前記第2平面の面積よりも小さく、
前記第4平面の面積は、前記第1平面および前記第2平面の面積よりも小さい、
請求項3に記載のエンジンシステム。
【請求項5】
前記シリンダヘッドの内面のうち中央エリアには、窪み部が形成され、
前記小径燃焼室は、前記窪み部を含む、
請求項1に記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを有するエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、エンジンの冷却損失の低減を図るために、ピストンの冠面に放射状に延びる複数の微細溝を形成したエンジンの燃焼室構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンでは、ノックが生じることがある。エンジンのノックを抑制する一例として、シリンダの内径を小さくして、代わりにピストンのストロークを長くすることが考えられる。しかし、エンジンの実装スペースの制約などによって、ピストンのストロークを長くすることが困難なことがある。このため、シリンダの内径を小さくすることなく、エンジンのノックを抑制することが望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、エンジンのノックを抑制することが可能なエンジンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のエンジンシステムは、シリンダ内に収容されるピストンと、シリンダ上に配置されるシリンダヘッドと、点火制御部と、を備え、ピストンが上死点に位置するとき、ピストンの冠面のうち中央エリアと、シリンダヘッドの内面のうち点火プラグが配置される中央エリアとの間に、シリンダの内半径よりも半径が小さい燃焼室である小径燃焼室が形成され、ピストンの冠面のうち中央エリアの周辺の周辺エリアと、シリンダヘッドの内面のうち中央エリアの周辺の周辺エリアとの間隔であるスキッシュが、ピストンが上死点に位置するとき消炎距離より短くなり、小径燃焼室の半径は、ピストンの往復運動に応じて変動するスキッシュが消炎距離以下である時間に、点火プラグの点火による火炎伝播速度を乗算した値以下であり、点火制御部は、スキッシュが消炎距離以下である時間内に、小径燃焼室における混合ガスの燃焼を終了させるように、点火プラグの点火タイミングを制御し、かつ、点火プラグの点火により発生した火炎の膨張により圧縮される未燃の混合ガスが自着火の条件を満たす前に、火炎が小径燃焼室の内面に到達するように、点火プラグの点火タイミングを制御する。
【0007】
また、ピストンの冠面のうちスキッシュを形成する周辺エリアは、吸気バルブに対向する第1平面と、排気バルブに対向する第2平面と、を有し、第1平面および第2平面によりペントルーフ型の冠面が形成されるとしてもよい。
【0008】
また、ピストンの冠面のうちスキッシュを形成する周辺エリアは、第1平面および第2平面で形成されるペントルーフ型の冠面の稜線の長手方向の一側に配置され、第1平面および第2平面に交差する第3平面と、稜線の長手方向の他側に配置され、第1平面および第2平面に交差する第4平面と、をさらに有し、第1平面、第2平面、第3平面および第4平面により、4方向に傾斜する角錐型の冠面が形成されるとしてもよい。
【0009】
また、第3平面の面積は、第1平面および第2平面の面積よりも小さく、第4平面の面積は、第1平面および第2平面の面積よりも小さいとしてもよい。
【0010】
また、シリンダヘッドの内面のうち中央エリアには、窪み部が形成され、小径燃焼室は、窪み部を含むとしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エンジンのノックを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、第1実施形態にかかるエンジンシステムの構成を示す概略図である。
【
図3】
図3は、エンジンをシリンダヘッド側から見た透視平面図である。
【
図4】
図4は、シリンダヘッドの内面の位置とピストンの冠面の位置との相対関係を示す図である。
【
図5】
図5は、点火タイミングを説明する図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態にかかるエンジンシステムのエンジンのピストンを示す斜視図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態のエンジンをシリンダヘッド側から見た透視平面図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態にかかるエンジンの作用の一例を説明する概略透視平面図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態にかかるエンジンの作用の他の例を説明する概略透視平面図である。
【
図10】
図10は、第3実施形態にかかるエンジンシステムの構成を示す概略図である。
【
図11】
図11は、第4実施形態にかかるエンジンシステムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかるエンジンシステム1の構成を示す概略図である。エンジンシステム1は、例えば、ハイブリッド車またはエンジン車に適用される。エンジンシステム1は、エンジン10およびエンジン制御部12を含む。エンジン10は、シリンダブロック20、ピストン22、シリンダヘッド24、吸気バルブ26および排気バルブ28を含む。
【0015】
シリンダブロック20には、複数のシリンダ30が形成されている。ピストン22は、シリンダ30内に摺動可能に収容される。ピストン22は、コネクティングロッド32を通じて不図示のクランクシャフトに連結される。クランクシャフトは、ピストン22の往復運動に従って回転する。
【0016】
シリンダヘッド24は、シリンダブロック20におけるクランクシャフトとは反対側に設けられる。シリンダヘッド24は、シリンダ30を塞ぐようにシリンダ30上に配置され、シリンダブロック20に連結される。シリンダヘッド24には、吸気ポート34および排気ポート36が形成される。吸気ポート34および排気ポート36は、シリンダ30の内面、シリンダヘッド24の内面38およびピストン22の冠面40で囲まれる空間と連通する。以後、シリンダ30の内面、シリンダヘッド24の内面38およびピストン22の冠面40で囲まれる空間を、便宜的にガス収容空間と呼ぶ場合がある。
【0017】
吸気バルブ26は、吸気ポート34に設けられ、吸気ポート34を開閉する。吸気バルブ26によって吸気ポート34が開かれると、ガス収容空間に吸気ポート34を通じて空気が送入される。排気バルブ28は、排気ポート36に設けられ、排気ポート36を開閉する。排気バルブ28によって排気ポート36が開かれると、ガス収容空間内のガスが排気ポート36を通じて送出される。
【0018】
シリンダヘッド24には、インジェクタ42および点火プラグ44が設けられる。インジェクタ42および点火プラグ44は、シリンダ30の中心軸付近に位置する。インジェクタ42は、噴射口をガス収容空間に向けて配置される。インジェクタ42は、ガソリンなどの燃料を所定のタイミングでガス収容空間に噴射する。点火プラグ44は、電極をガス収容空間に向けて配置される。点火プラグ44は、空気と燃料との混合ガスを所定のタイミングで点火して燃焼させる。かかる燃焼により、ピストン22がシリンダ30内で往復運動する。
【0019】
エンジン制御部12は、中央処理装置、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路から構成される。エンジン制御部12は、プログラムを実行することで点火制御部46として機能する。点火制御部46は、点火プラグ44の点火タイミングを制御する。点火制御部46については、後に詳述する。
【0020】
図1は、ピストン22が上死点に位置するときを示している。ピストン22の冠面40のうち中央エリアには、半球状の窪み部50が形成されている。また、シリンダヘッド24の内面38のうち中央エリアには、点火プラグ44が配置される。エンジン10では、ピストン22が上死点に位置するとき、ピストン22の冠面40のうち中央エリアと、シリンダヘッド24の内面38のうち点火プラグ44が配置される中央エリアとの間に、小径燃焼室52が形成される。小径燃焼室52は、シリンダ30の内半径より半径が小さい燃焼室である。つまり、窪み部50の内面が小径燃焼室52の内面となる。
【0021】
また、ピストン22の冠面40のうち中央エリアの周辺の周辺エリアには、第1平面54および第2平面56が形成される。つまり、第1平面54および第2平面56は、冠面40における窪み部50の周囲の領域を示す。第1平面54は、吸気バルブ26に対向する。第2平面56は、排気バルブ28に対向する。
【0022】
図2は、エンジンの透視斜視図である。
図2に示すように、第1平面54および第2平面56は、所謂ペントルーフ型の冠面40を形成する。また、第1平面54および第2平面56は、一様に平らとなっており、バルブリセスが形成されていない。
【0023】
図1に戻って、エンジン10では、ピストン22が上死点に位置するとき、吸気バルブ26および排気バルブ28が共に閉じている。吸気バルブ26が閉じているとき、吸気バルブ26における第1平面54に対向する面は、シリンダヘッド24の内面38と大凡面一に位置する。また、排気バルブ28が閉じているとき、排気バルブ28における第2平面56に対向する面は、シリンダヘッド24の内面38と大凡面一に位置する。
【0024】
また、
図1で示すように、ピストン22の冠面40のうち中央エリアの周辺の周辺エリアと、シリンダヘッド24の内面38のうち中央エリアの周辺の周辺エリアとの間隔を、スキッシュ60と呼ぶ場合がある。スキッシュ60は、ピストン22が上死点付近に位置するときの、ピストン22とシリンダヘッド24との間の比較的狭い間隔を示す。
【0025】
具体的には、冠面40における第1平面54と、第1平面54に対抗するシリンダヘッド24の内面38および吸気バルブ26の第1平面54側の面との間にスキッシュ60が形成される。また、冠面40における第2平面56と、第2平面56に対抗するシリンダヘッド24の内面38および排気バルブ28の第2平面56側の面との間にスキッシュ60が形成される。換言すると、ピストン22の冠面40のうちスキッシュ60を形成する周辺エリアは、第1平面54および第2平面56を有する。
【0026】
図3は、エンジン10をシリンダヘッド24側から見た透視平面図である。
図3で示すように、エンジン10では、1個のシリンダ30に対して、吸気ポート34の開口面および排気ポート36の開口面が、それぞれ2個形成されている。図示を省略するが、吸気バルブ26は、吸気ポート34の開口面ごとに設けられ、排気バルブ28は、排気ポート36の開口面ごとに設けられる。第1平面54は、2個の吸気バルブ26の双方に対向しており、第2平面56は、2個の排気バルブ28の双方に対向している。
【0027】
ピストン22が上死点に向かうとき、ガス収容空間内の混合ガスが圧縮される。このとき、第1平面54とシリンダヘッド24の内面38との間隔、すなわち、スキッシュ60によって、第1平面54上に存在する混合ガスには、第1平面54を下死点側から上死点側に登るような流れが発生する。つまり、第1平面54上の混合ガスは、矢印A10で示すように、第1平面54から小径燃焼室52に向かう方向に流れる。
【0028】
また、第2平面56とシリンダヘッド24の内面38との間隔、すなわち、スキッシュ60によって、第2平面56上に存在する混合ガスには、第2平面56を下死点側から上死点側に登るような流れが発生する。つまり、第2平面56上の混合ガスは、矢印A12で示すように、第2平面56から小径燃焼室52に向かう方向に流れる。矢印A10および矢印A12で示すような混合ガスの流れは、スキッシュ60によって発生するため、スキッシュ流と呼ぶ場合がある。
【0029】
エンジン10では、このスキッシュ流によって、窪み部50で形成される小径燃焼室52に混合ガスが集約される。また、エンジン10では、バルブリセスが設けられていないため、スキッシュ流がバルブリセスで阻害されることがなく、混合ガスを適切に小径燃焼室52に集約することができる。
【0030】
図4は、シリンダヘッド24の内面38の位置とピストン22の冠面40の位置との相対関係を示す図である。
図4において、横軸は、ピストン22が移動するときの時間を示し、縦軸は、ピストン22の冠面40の位置を示す。この冠面40の位置は、より詳細には、シリンダヘッド24の内面38を基準とした第1平面54および第2平面56の相対位置を示す。
【0031】
ピストン22が上死点側に移動するとき、第1平面54および第2平面56がシリンダヘッド24の内面38に近づいていき、スキッシュ60が形成される。スキッシュ60は、ピストン22が上死点側に進むに従って短くなる。つまり、スキッシュ60は、ピストン22の往復運動に応じて変動する。
【0032】
そして、ピストン22が上死点に位置するとき、スキッシュ60は、消炎距離より短くなる。消炎距離は、火炎が伝播できずに消える間隔を示す。消炎距離は、例えば、2mmとされるが、実験またはシミュレーションなどによって適切に設定されてもよい。消炎距離が2mmの場合、ピストン22が上死点に位置するときのスキッシュ60は、例えば、0.5mm~1mmの間で設定される。なお、具体的な数値は、この例に限らず、適宜設定されてもよい。
【0033】
図4で示すように、タイミングT1は、ピストン22が上死点に向かって移動する際、消炎距離より長い値のスキッシュ60が消炎距離以下に変化する境界のタイミングを示す。また、タイミングT2は、ピストン22が下死点に向かって移動する際、消炎距離以下のスキッシュ60が消炎距離より長い値に変化する境界のタイミングを示す。したがって、タイミングT1からタイミングT2までの時間Tqdは、ピストン22の往復運動に応じて変動するスキッシュ60が消炎距離以下である時間を示す。換言すると、時間Tqdは、スキッシュ60が消炎距離以下に維持されている時間を示す。
【0034】
エンジン10では、小径燃焼室52の半径が、ピストン22の往復運動に応じて変動するスキッシュ60が消炎距離以下である時間Tqdに、点火プラグ44の点火による火炎伝播速度を乗算した値以下となっている。すなわち、小径燃焼室52の半径をR、火炎伝播速度をVfとすると、以下の式(1)を満たす。火炎伝播速度は、点火によって発生した火炎が小径燃焼室52内を伝播する速度を示す。
R≦Tqd×Vf ・・・(1)
【0035】
小径燃焼室52の半径が上記式(1)を満たす値であるため、エンジン10では、スキッシュ60が消炎距離より長くなる前に、点火による火炎を小径燃焼室52の内面に到達させることができる。そして、火炎が小径燃焼室52の内面に到達したときに、スキッシュ60が消炎距離以下となっているため、スキッシュ60には火炎が伝播されない。これにより、エンジン10では、ガス収容空間全体で燃焼が行われるのではなく、窪み部50で形成される小さな小径燃焼室52で燃焼が行われる。
【0036】
したがって、第1実施形態のエンジンシステム1では、シリンダ30の内径を小さくすることなく、エンジン10のノックを抑制することが可能となる。
【0037】
また、第1実施形態のエンジン10は、ガス収容空間全体を燃焼室とする従来のエンジンと比べ、小径燃焼室52の容積が小さいため、エンジン10のノックを抑制しつつ、高圧縮比とすることができる。その結果、第1実施形態のエンジンシステム1では、燃焼効率をより向上させることができる。
【0038】
また、第1実施形態のエンジンシステム1では、小径燃焼室52の半径に加え、点火タイミングを制御することで、エンジン10のノックをより抑制することができる。
【0039】
図5は、点火タイミングを説明する図である。
図5では、スキッシュ60の時間推移と点火タイミングの例を共通の時間軸上に併記している。
【0040】
点火例Aでは、黒丸PA1のタイミングで点火が開始され、発生した火炎が伝播していき、スキッシュ60が消炎距離以下であるタイミングT2以前の黒四角PA2のタイミングで火炎の先頭が小径燃焼室52の内面に到達している。しかし、点火例Aでは、火炎が小径燃焼室52の内面に到達した後も混合ガスの燃焼が継続され、スキッシュ60が消炎距離より長くなってから、白丸PA3のタイミングで混合ガスの燃焼が終了している。
【0041】
点火例Aの場合、スキッシュ60が消炎距離より長くなることで、燃焼中の火炎がスキッシュ60内に存在する混合ガスに伝播するおそれがある。そうすると、タイミングT2より後において、スキッシュ60に伝播された火炎の膨張によってスキッシュ60内の未燃の混合ガスが圧縮されて、スキッシュ60内の未燃の混合ガスが自着火するおそれがある。その結果、エンジン10のノックが生じるおそれがある。
【0042】
これに対し、点火例Bでは、黒丸PB1のタイミングで点火が開始され、黒四角PB2のタイミングで火炎の先頭が燃焼室の内面に到達し、スキッシュ60が消炎距離以下であるタイミングT2以前の白丸PB3のタイミングで混合ガスの燃焼が終了している。
【0043】
点火例Bの場合、スキッシュ60が消炎距離より長くなる前に小径燃焼室52の燃焼が終了されるため、タイミングT2より後において、スキッシュ60内の混合ガスに火炎が伝播することがない。これにより、スキッシュ60内の未燃の混合ガスの自着火を抑制することができる。
【0044】
この点を踏まえ、点火制御部46は、スキッシュ60が消炎距離以下である時間内に、小径燃焼室52における混合ガスの燃焼を終了させるように、点火プラグ44の点火タイミングを制御する。換言すると、点火制御部46は、小径燃焼室52における混合ガスの燃焼の終了タイミングが、スキッシュ60が消炎距離以下から消炎距離より長くなる境界のタイミングT2となるような点火タイミング以前に、点火プラグ44の点火を開始させる。この点火開始条件は、点火タイミングの適正範囲Tsにおける遅い側の閾値に対応する。
【0045】
また、点火例Cでは、ピストン22が上死点に到達するタイミングを基準として比較的早いタイミングである黒丸PC1のタイミングで点火が開始されている。そして、点火例Cでは、発生した火炎が伝播していき、黒四角PC2のタイミングで火炎の先頭が小径燃焼室52の内面に到達し、白丸PC3のタイミングで混合ガスの燃焼が終了している。しかし、点火例Cでは、発生した火炎の膨張によって小径燃焼室52内の未燃の混合ガスが圧縮されて、発生した火炎の先頭が小径燃焼室52の内面に到達するよりも前に、小径燃焼室52内で圧縮された未燃の混合ガスが自着火の条件を満たして自着火が生じたとする。自着火の条件は、例えば、未燃の混合ガスの圧力が所定圧力以上であり、未燃の混合ガスの温度が所定温度以上である。自着火が生じてしまうと、その結果、エンジン10のノックが生じる可能性が高い。
【0046】
これに対し、点火例Dでは、点火例Cの黒丸PC1で示す点火タイミングと比べ、遅いタイミングである黒丸PD1のタイミングで点火が開始されている。そして、点火例Dでは、発生した火炎が伝播し、小径燃焼室52内の未燃の混合ガスが自着火の条件を満たす前に、黒四角PD2のタイミングで火炎の先頭が小径燃焼室52の内面に到達し、白丸PD3のタイミングで混合ガスの燃焼が終了している。
【0047】
この点を踏まえ、点火制御部46は、点火により発生した火炎の膨張により圧縮される未燃の混合ガスが自着火の条件を満たすよりも前に、火炎が小径燃焼室52の内面に到達するように、点火プラグ44の点火タイミングを制御する。換言すると、点火制御部46は、火炎の先頭が小径燃焼室52の内面に到達した時点で未燃の混合ガスが自着火の条件を満たすような点火タイミングより遅くに、点火プラグ44の点火を開始させる。この点火開始条件は、点火タイミングの適正範囲Tsにおける早い側の閾値に対応する。
【0048】
点火制御部46は、上述の遅い側の点火開始条件、および、上述の早い側の点火開始条件のいずれか一方または双方を満たすように制御する。これにより、エンジンシステム1では、エンジン10のノックをより抑制することができる。
【0049】
また、例えば、吸気温度などのような運転条件によっては、火炎伝播速度が変動することがある。そこで、エンジンシステム1の導入時には、標準的あるいは一般的な運転条件を示す基準運転条件が設定され、その基準運転条件のときの火炎伝播速度を用いて小径燃焼室52の半径が設計される。
【0050】
そして、エンジンシステム1の運用時には、小径燃焼室52の半径が固定値であることから、点火制御部46は、実際の運転条件の変動に従って、点火タイミングを上述の点火タイミングの適正範囲Ts内で調整する。これにより、より確実にエンジン10のノックを抑制することができる。
【0051】
例えば、基準運転条件を元に設計された小径燃焼室52の半径に対応する点火タイミングを示す基準点火タイミングが予め設定される。点火制御部46は、現在の運転条件を取得し、現在の運転条件に基づいて基準点火タイミングからの点火タイミングのシフト量を導出する。点火制御部46は、基準点火タイミングと点火タイミングのシフト量とから、現在の運転条件に対応する点火タイミングを決定する。そして、点火制御部46は、決定した点火タイミングとなると、点火プラグ44の点火を開始させる。
【0052】
(第2実施形態)
図6は、第2実施形態にかかるエンジンシステム100のエンジン110のピストン122を示す斜視図である。第2実施形態のピストン122は、第1実施形態のピストン22と同様に、冠面40のうち中央エリアに窪み部50が形成されている。そして、エンジン110では、ピストン122が上死点に位置するとき、ピストン122の冠面40のうち中央エリアと、シリンダヘッド24の内面38のうち点火プラグ44が配置される中央エリアとの間に、小径燃焼室52が形成される。
【0053】
ピストン122の冠面40のうち中央エリアの周辺の周辺エリアには、第1平面154、第2平面156、第3平面170および第4平面172が形成される。第1平面154は、第1実施形態の第1平面54に相当し、吸気バルブ26に対向する。第2平面156は、第1実施形態の第2平面56に相当し、排気バルブ28に対向する。第1平面154を延長した平面と、第2平面156を延長した平面とは、所謂ペントルーフを形成する。また、第1平面154および第2平面156は、一様に平らとなっており、バルブリセスが形成されていない。
【0054】
図7は、第2実施形態のエンジン110をシリンダヘッド24側から見た透視平面図である。
図7の一点鎖線は、第1平面154を延長した平面と第2平面156を延長した平面とで形成されるペントルーフの稜線174を示している。
【0055】
図7で示すように、第3平面170は、第1平面154および第2平面156で形成されるペントルーフ型の冠面40の稜線174の長手方向の一側に配置される。一方、第4平面172は、その稜線174の長手方向の他側に配置される。第3平面170および第4平面172は、吸気ポート34の開口面および排気ポート36の開口面の冠面40への投影面に重ならないように形成される。
【0056】
図6および
図7で示すように、第3平面170は、稜線174の長手方向の一側の端部から冠面40の周縁に向かってクランクシャフト側に進むように、稜線174に対して傾斜している。第3平面170は、第1平面154および第2平面156に各々交差するように形成される。また、第4平面172は、稜線174の長手方向の他側の端部から冠面40の周縁に向かってクランクシャフト側に進むように、稜線174に対して傾斜している。第4平面172は、第1平面154および第2平面156に各々交差するように形成される。
【0057】
このように、ピストン122では、第1平面154、第2平面156、第3平面170および第4平面172により、4方向に傾斜する角錐型の冠面40が形成される。換言すると、第1平面154、第2平面156、第3平面170および第4平面172は、頂部が欠けた角錐の各側面に大凡対応する。
【0058】
図示を省略するが、シリンダヘッド24の内面38は、第1平面154、第2平面156、第3平面170および第4平面172にそれぞれ対向するように形成されている。第1平面154、第2平面156、第3平面170および第4平面172は、シリンダヘッド24の内面38との間で、スキッシュ60を形成する。ピストン122が上死点に位置するとき、スキッシュ60は、消炎距離より短くなる。
【0059】
図7で示すように、第1平面154上の混合ガスには、スキッシュ60によって、矢印A20で示すような第1平面154から小径燃焼室52に向かう方向のスキッシュ流が発生する。第2平面156上の混合ガスには、スキッシュ60によって、矢印A22で示すような第2平面156から小径燃焼室52に向かう方向のスキッシュ流が発生する。第3平面170上の混合ガスには、スキッシュ60によって、矢印A24で示すような第3平面170から小径燃焼室52に向かう方向のスキッシュ流が発生する。第4平面172上の混合ガスには、スキッシュ60によって、矢印A26で示すような第4平面172から小径燃焼室52に向かう方向のスキッシュ流が発生する。このように、第2実施形態のエンジン110では、小径燃焼室52の四方からスキッシュ流が流れ込むため、より適切に混合ガスを小径燃焼室52に集約することができる。
【0060】
また、エンジン110の小径燃焼室52の半径は、第1実施形態と同様に、ピストン122の往復運動に応じて変動するスキッシュ60が消炎距離以下である時間Tqdに、点火プラグ44の点火による火炎伝播速度を乗算した値以下となっている。したがって、第2実施形態のエンジンシステム100では、第1実施形態と同様に、シリンダ30の内径を小さくすることなく、エンジン110のノックを抑制することが可能となる。
【0061】
また、第2実施形態のエンジンシステム100では、第1実施形態と同様にして点火制御部46が点火タイミングを制御ことで、第1実施形態と同様にエンジン110のノックをより抑制することができる。
【0062】
図8は、第2実施形態にかかるエンジン110の作用の一例を説明する概略透視平面図である。
図8において、矢印A24および矢印A26は、第3平面170上のスキッシュ流および第4平面172上のスキッシュ流を示す。また、矢印A30は、吸気ポート34を通じてガス収容空間に導入される吸気の流れの一例を示す。
【0063】
吸気は、ガス収容空間で縦渦のタンブル流となるように導入される。しかし、場合によっては、矢印A30で示すように、縦渦が横に広がって崩れるおそれがある。
【0064】
これに対し、エンジン110では、第3平面170上のスキッシュ流および第4平面172上のスキッシュ流が、吸気の縦渦をシリンダ30の中心軸に向かう方向に押すように流れる。これにより、縦渦の横方向の崩れが抑制される。
【0065】
したがって、第2実施形態のエンジンシステム100では、吸気のタンブル流を適正な縦渦に維持させることができ、その結果、燃焼効率を向上させることが可能となる。
【0066】
図9は、第2実施形態にかかるエンジン110の作用の他の例を説明する概略透視平面図である。
図9において、矢印A24および矢印A26は、第3平面170上のスキッシュ流および第4平面172上のスキッシュ流を示す。また、矢印A40は、吸気ポート34を通じてガス収容空間に導入される吸気の流れの他の例を示す。
【0067】
吸気は、ガス収容空間で縦渦を形成するために、シリンダ30の中心軸に近いほど流速が早くなるように導入される。しかし、場合によっては、シリンダ30の内面に近い吸気の流速が早くなってしまうことがある。
【0068】
これに対し、エンジン110では、第3平面170上のスキッシュ流および第4平面172上のスキッシュ流が、シリンダ30の内面に近い吸気の流れを妨げ、シリンダ30の内面に近い吸気の流速が抑制される。これにより、吸気の流速は、シリンダ30の中心軸に近いほど相対的に早くなる。なお、
図9では、矢印A40の太さが太いほど流速が早いことを示す。
【0069】
したがって、第2実施形態のエンジンシステム100では、吸気の流速の分布を適切にすることができ、その結果、縦渦を適切に形成させることが可能となる。
【0070】
(第3実施形態)
図10は、第3実施形態にかかるエンジンシステム200の構成を示す概略図である。エンジンシステム200のエンジン210において、ピストン22の冠面40のうち中央エリアには、第1実施形態のような窪み部50が形成されておらず、平面250aとなっている。また、シリンダヘッド24の内面38のうち中央エリアには、窪み部250bが形成されている。エンジン210では、ピストン22が上死点に位置するとき、ピストン22の冠面40の平面250aと、シリンダヘッド24の内面38の窪み部250bとにより、小径燃焼室52が形成される。なお、ピストン22の冠面40のうち中央エリアの周辺の周辺エリアは、第1実施形態のようなペントルーフ型であってもよいし、第2実施形態のような角錐型であってもよい。
【0071】
そして、エンジン210の小径燃焼室52の半径は、第1実施形態と同様に、ピストン22の往復運動に応じて変動するスキッシュ60が消炎距離以下である時間Tqdに、点火プラグ44の点火による火炎伝播速度を乗算した値以下となっている。したがって、第3実施形態のエンジンシステム200では、第1実施形態と同様に、シリンダ30の内径を小さくすることなく、エンジン210のノックを抑制することが可能となる。
【0072】
(第4実施形態)
図11は、第4実施形態にかかるエンジンシステム300の構成を示す概略図である。エンジンシステム300のエンジン310において、ピストン22の冠面40のうち中央エリアには、窪み部350aが形成されている。また、シリンダヘッド24の内面38のうち中央エリアには、窪み部350bが形成されている。エンジン310では、ピストン22が上死点に位置するとき、ピストン22の冠面40の窪み部350aと、シリンダヘッド24の内面38の窪み部350bとにより、小径燃焼室52が形成される。なお、ピストン22の冠面40のうち中央エリアの周辺の周辺エリアは、第1実施形態のようなペントルーフ型であってもよいし、第2実施形態のような角錐型であってもよい。
【0073】
そして、エンジン310の小径燃焼室52の半径は、第1実施形態と同様に、ピストン22の往復運動に応じて変動するスキッシュ60が消炎距離以下である時間Tqdに、点火プラグ44の点火による火炎伝播速度を乗算した値以下となっている。したがって、第3実施形態のエンジンシステム300では、第1実施形態と同様に、シリンダ30の内径を小さくすることなく、エンジン310のノックを抑制することが可能となる。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0075】
例えば、ピストン22、122の冠面40のうち中央エリアの周辺の周辺エリアの形状は、第1実施形態のペントルーフ型、または、第2実施形態の角錐型に限らない。例えば、ピストン22、122の冠面40のうち中央エリアの周辺の周辺エリアは、半球面のようなドーム型の冠面40が形成されてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1、100、200、300 エンジンシステム
10、110、210、310 エンジン
22、122 ピストン
24 シリンダヘッド
26 吸気バルブ
28 排気バルブ
38 内面
40 冠面
44 点火プラグ
46 点火制御部
52 小径燃焼室
54、154 第1平面
56、156 第2平面
60 スキッシュ
170 第3平面
172 第4平面
174 稜線