(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】実行機能の向上に用いるためのヒトミルクオリゴ糖
(51)【国際特許分類】
A61K 31/702 20060101AFI20241225BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20241225BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20241225BHJP
A61K 35/20 20060101ALI20241225BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20241225BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20241225BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20241225BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241225BHJP
C07H 3/06 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
A61K31/702
A23L33/125
A61K9/48
A61K35/20
A61P25/18
A61P25/22
A61P25/24
A61P25/28
C07H3/06
(21)【出願番号】P 2021552684
(86)(22)【出願日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 IB2020051904
(87)【国際公開番号】W WO2020178774
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-27
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508278309
【氏名又は名称】グリコム・アクティーゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】Glycom A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】マコンネル,ブルース
(72)【発明者】
【氏名】ヴィクスネス,ルイーセ クリスティーネ
(72)【発明者】
【氏名】ハウザー,ヨナス
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,ノーラ
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/215572(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/103019(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/146789(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/215406(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非乳児において、
-
ワーキングメモリの改善、増加または向上による実行機能の向上に用いるための合成組成物であって、少なくとも1つのヒトミルクオリゴ糖(HMO)を含
み、前記ヒトミルクオリゴ糖が、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3,2’-ジフコシルラクトース(DFL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、およびラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)の組み合わせ、または2’-FL、DFL、LNTおよびLNnT、3’-シアリルラクトース(3’-SL)および6’-シアリルラクトース(6’-SL)の組み合わせを含む、合成組成物。
【請求項2】
非乳児において、
-
ワーキングメモリの改善、増加または向上による実行機能の向上に用いるためのパックであって、有効量の少なくとも1つのヒトミルクオリゴ糖(HMO)の少なくとも14個の個別の1日用量を含
み、前記ヒトミルクオリゴ糖が、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3,2’-ジフコシルラクトース(DFL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、およびラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)の組み合わせ、または2’-FL、DFL、LNTおよびLNnT、3’-シアリルラクトース(3’-SL)および6’-シアリルラクトース(6’-SL)の組み合わせを含む、パック。
【請求項3】
前記ヒトミルクオリゴ糖が、
-2’-FL、DFL、LNT、およびLNnT、
または
-2’-FL、DFL、LNT
、LNnT
、3’-S
Lおよ
び6’-S
L
から成る、またはそれらから実質的に成る、請求項1
又は2に記載の合成組成物、またはパック。
【請求項4】
前記非乳児が、
-注意欠陥・多動性障害(ADHD)、アルツハイマー病、うつ病、不安、双極性障害、統合失調症、強迫性障害(OCD)、自閉症、アルツハイマー病、前頭側頭骨性認知症、レヴィー小体認知症、トゥレット症候群、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、外傷性脳損傷、または血管性認知症を患っている、
-高齢のヒトである、または
-早産児または在胎不当過小児である、あるいはそうであった、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の合成組成物、またはパック。
【請求項5】
前記合成組成物又は前記1日用量が、認知行動療法と組み合わせて投与される、請求項1~
4のいずれか一項に記載の合成組成物、またはパック。
【請求項6】
前記合成組成物又は前記1日用量が、0.5gから15gの量のHMOを含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の合成組成物、またはパック。
【請求項7】
前記非乳児に対して少なくとも1週間の期間にわたって前記合成組成物又は前記1日用量が投与される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の合成組成物、またはパック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非乳児における実行機能の向上のための、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)またはHMOを含む組成物の使用に関する。本発明はさらに、非乳児における非最適実行機能の予防または管理に用いるための、HMOまたはHMOを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
実行機能は、時間および空間に関連する、認知-知覚過程を調整および統合し、対象が様々な代替選択肢および戦略をどれだけうまく認識、評価、および選択できるかを決定する能力である。それは目標指向行動を支配し、問題解決、推論、柔軟な思考、および意思決定などの高次認知過程の制御において、基本的な役割を有する。それは認知の発達および(特に新しいスキルの)学習の中心であり、社会的および知的/学術的成功および/または達成と強く関連している。
【0003】
ヒトにおいて、実行機能に関連する能力は、全てが一度に発達するわけではない。代わりに、1つの能力が前のスキルの上に積み重なっていき、順番に発達する。全ての実行機能は互いに相互作用し、ヒトが前向きな将来の結果を生み出すためにどのように行動を制御するかに影響を与える。通常、実行機能は2歳までに発達しはじめ、30歳までに完全に発達する。実行機能は通常、最も一般的には記憶に関連して、30歳を過ぎると低下し始める。
【0004】
実行機能は前頭前皮質によって介在されていると考えられている。一般に、情報は脳の後ろに保存され、ヒトは前頭前皮質を使用して、保存された情報を処理することで、社会的に効果的であり人生において成功することができる。実行機能には以下の4つの主な制御回路が必要である;
・計画の実行、タスクの完了に必要な特定のステップ、および目標の達成を可能にする、ワーキングメモリを制御するタスク指向回路
・タスクの完成する順序を整理し、時系列を処理することを可能にする、タイミング指向回路
・感情および気分を制御する、感情指向回路
・感情および経験の自己意識を制御する、意識指向回路。
【0005】
不十分な実行機能(または実行機能障害-EFD)を有する非乳児ヒトは、長期的な目標を達成するのに役立つように行動を整理および制御することに苦労している。一般に、EFDを有する非乳児ヒトは、長期的な目標ではなく、短期的な目標によって行動するように動機付けられる可能性が高い。不十分な実行機能の結果、通常、人生における成功が少なくなる。
【0006】
EFDの極めて現実的な影響にもかかわらず、精神障害の診断と統計のマニュアル(DSM-5)は、EFDを特定の精神的病状として認識していない。それどころか、実行機能の問題は他の神経学的、メンタルヘルス、および行動障害の症状である。したがって、EFD自体の診断は存在しないが、高次機能障害の症状を伴う、神経学的、メンタルヘルス、または行動障害の診断が存在する。典型的な症状は、感情または衝動制御の問題、タスクの開始、整理、計画、または完了に伴う問題、聞き取りや注意の問題、短期記憶問題、マルチラスクまたはタスクのバランスをとることができないこと、社会的に不適切な行動、過去の結果から学ぶことができないこと、問題解決の困難、および学習または新しい情報の処理の困難である。
【0007】
症状が明らかになった時、様々なテストを用いて、その人の実行機能の評価を補助することができる。例えば、ヒトの心的制御および選択的注意を評価するためのストループ・タスク・テスト、トレイル・メイキング・テスト、時計描画試験、言語流暢性試験、およびカード分類試験。あるいは、特定の精神疾患が疑われる場合、医療専門家は実行機能試験を飛ばしてもよく、その代わりに、その人の症状をその障害の標準的な診断基準と比較するか、あるいはMRIスキャンを用いて、脳卒中の損傷または脳腫瘍などの物理的原因を検出してもよい。
【0008】
実行機能の問題を引き起こしうる診断可能な病状としては、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、うつ病および不安障害、双極性障害、統合失調症、強迫性障害(OCD)、自閉症、アルツハイマー病、前頭側頭骨性認知症、レヴィー小体認知症、トゥレット症候群、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、外傷性脳損傷が挙げられる。しかしながら、倦怠感、激しい痛み、ストレス、気が散る環境、薬物使用、アルコール使用、および重度の退屈など、実行機能の問題の一時的な原因も存在しうる。さらに、早産または在胎不当過小児(SGA)で産まれた人は、実行機能の問題を患うリスクが高いようである。実行機能の問題または障害が存在する場合、用いられる治療の種類は、問題または機能障害を引き起こすと考えられている診断された病状によって異なる。治療の選択肢としては、興奮性薬剤、抗うつ剤、抗精神病薬、心理教育、作業療法または言語療法、および認知行動療法(CBT)が挙げられる。一次治療は通常、作業療法または言語療法、心理療法、読書指導、またはCBTである。診断された障害を治療するために薬物療法が組み合わせで用いられる場合、CBTは、成人における抑制、感情制御、時間管理、および計画の問題などの実行機能障害の治療に非常に有効でありうる。しかしながら、CBTは子供にはあまり有効ではない。また、診断された障害について常に有効な医薬があるとは限らず、あるいは医薬は患者のコンプライアンスを低下させる深刻な副作用を有する。さらに、リスクを有する非乳児ヒトにおいて、実行機能の問題または障害を予防するためのアプローチは極めて限定的である。
【0009】
そのため、非乳児ヒトにおいて、実行機能の問題または障害を予防または管理するための、安全で忍容性の高い手段が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
驚くべきことに、ヒトミルクオリゴ糖は、非乳児ヒトにおいて、実行機能の問題または障害を予防し、実行機能を向上させ、実行機能の問題または障害の良好な管理を可能にしうることが発見された。
【0011】
したがって、第1の局面において、本発明は、
a)非乳児における実行機能の向上、
b)非乳児における非最適実行機能のリスクの予防および/または軽減、
c)非乳児における非最適実行機能の管理、および/または
d)非乳児における脳の前頭前皮質領域の成熟のための、ミエリン形成の向上
に用いる、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)またはHMOを含む合成組成物に関する。
【0012】
好ましくは、合成組成物は、0.5g~15g;より好ましくは1g~10gの量のHMOを含む。例えば、合成組成物は、2g~7gのHMOを含みうる。
【0013】
合成組成物は、ビフィズス菌;例えば、Bifidobacterium longumおよび/またはBifidobacterium bifidumを含みうる。
【0014】
本発明の第2の局面は、
a)非乳児における実行機能の向上、
b)非乳児における非最適実行機能のリスクの予防および/または軽減、
c)非乳児における非最適実行機能の管理、および/または
d)非乳児の脳の前頭前皮質領域の成熟のための、ミエリン形成の向上
に用いるためのパックであって、有効量の少なくとも1つのヒトミルクオリゴ糖(HMO)の少なくとも14個の個別の1日用量を含む、パックに関する。
【0015】
好ましくは、当該パックにおけるそれぞれの用量は、約0.5g~15g、より好ましくは1g~10g、さらにより好ましくは2g~7gのヒトミルクオリゴ糖を含む。
【0016】
パックは好ましくは、少なくとも約21日の用量;例えば、約28日の用量を含む。
【0017】
パックはビフィズス菌;例えば、Bifidobacterium longumおよび/またはBifidobacterium bifidumを含みうる。
【0018】
本発明の第3の局面は、非乳児において実行機能を向上させるための方法であって、有効量の少なくとも1つのヒトミルクオリゴ糖(HMO)を非乳児に投与することを含む方法を提供する。
【0019】
好ましくは、当該方法は、様々な代替選択肢および/または戦略を認知、評価、および/または選択する、非乳児の脳力を向上させるのに有効である。好ましくは、当該方法はさらに、非乳児に認知行動療法を提供することを含む。
【0020】
本発明の第4の局面は、非乳児において非最適実行機能のリスクを予防および/または軽減するための方法であって、有効量の少なくとも1つのヒトミルクオリゴ糖(HMO)を非乳児に投与することを含む方法を提供する。
【0021】
HMOは、後の人生において非最適実行機能を発症するリスクのある非乳児に投与されうる。そのような場合において、当該方法は、後の人生において非最適実行機能を発症するリスクのある非乳児を特定することをさらに含む。非乳児は、早産児または在胎不当過小児であった高齢のヒト、または3歳以上の子供でありうる。また、HMOは、再発のリスクまたは再発の重症化を予防および/または軽減するために、非最適実行機能を以前患っていた非乳児に投与されうる。
【0022】
本発明の第5の局面は、非乳児において非最適実行機能を管理するための方法であって、有効量の少なくとも1つのヒトミルクオリゴ糖(HMO)を非乳児に投与することを含む方法を提供する。
【0023】
好ましくは、当該方法は、非乳児の、様々な代替選択肢および/または戦略を認知、評価、および/または選択する能力の低下を管理するのに効果的である。当該方法は特に、非乳児における短期記憶および長期記憶の向上、およびこれによる実行機能の向上に有効である。
【0024】
好ましくは、当該方法はさらに、非乳児に認知行動療法を提供することを含む。ある実施態様において、HMOは成人になる前(すなわち、18歳に達する前)の非乳児に投与される。
【0025】
好ましくは、非乳児は、1日あたり約0.5g~15g、より好ましくは1日あたり1g~10g、さらにより好ましくは1日あたり2g~7gのヒトミルクオリゴ糖を投与される。
【0026】
本発明はまた、非乳児における非最適実行機能の予防および/または治療に用いるための、組成物の製造に用いるための、HMOまたはHMOを含む組成物を提供する。
【0027】
非乳児は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、アルツハイマー病、うつ病、不安、双極性障害、統合失調症、強迫性障害(OCD)、自閉症、アルツハイマー病、前頭側頭骨性認知症、レヴィー小体認知症、トゥレット症候群、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、外傷性脳損傷、または血管性認知症のうちの1つ以上を有しうる。
【0028】
HMOは、フコシル化中性HMO、非フコシル化中性HMO、および/またはシアル化HMOでありうる。
【0029】
ある実施態様において、フコシル化中性HMOは、2’-フコシルラクトース(2’-FL)および/またはジフコシルラクトース(3,2’-ジフコシルラクトース、DFL)でありうる。
【0030】
ある実施態様において、非フコシル化中性HMOは、LNT(ラクト-N-テトラオース)、LNnT(ラクト-N-ネオテトラオース)、またはそれらの組み合わせでありうる。
【0031】
ある実施態様において、シアル化オリゴ糖は、3’-シアリルラクトース(3’-SL)および/または6’-シアリルラクトース(6’-SL)でありうる。
【0032】
本発明の文脈において、特に有効なHMOの組み合わせは以下でありうる:
-2’-FL、DFL、LNT、およびLNnT、
-3’-シアリルラクトース(3’-SL)および6’-シアリルラクトース(6’-SL)、または
-2’-FL、DFL、LNT、LNnT、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、および6’-シアリルラクトース(6’-SL)。
【0033】
第6の局面において、本発明は、非乳児の脳の前頭前皮質領域の成熟のために、ミエリン形成を向上させるための方法であって、少なくとも1つのシアル化ヒトミルクオリゴ糖(HMO)を非乳児に投与することを含む方法を提供する。シアル化HMOは、3’-SL、6’-SL、またはそれらの組み合わせである。さらなるHMOを非乳児に投与してもよい。
【0034】
好ましくは、非乳児に、1日あたり約0.5g~15g;より好ましくは1日あたり1g~10gのHMOを投与する。例えば、非乳児に1日あたり2g~7gを投与しうる。好ましくは、少なくとも1週間;より好ましくは少なくとも2週間の期間にわたって、非乳児にHMOを投与する。
【0035】
非乳児は、初期段階において高用量を投与され、維持段階において低用量を投与されうる。好ましくは、非乳児は、初期段階の間、少なくとも1週間;より好ましくは少なくとも2週間の期間にわたって、HMOを投与される。非乳児は、維持段階の間、少なくとも4週間;より好ましくは少なくとも8週間の期間にわたって、HMOを投与されうる。初期段階で投与される用量は、好ましくは、1日あたり約3gから約10g(例えば、1日あたり約4gから約7.5g)であり、維持段階で投与される用量は、好ましくは、1日あたり約2gから約7.5g(例えば、1日あたり約2gから約5g)である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】一般的なワーキングメモリを評価するために計算された、ミルクA、B、C、対照ミルクを補給した離乳前の食事に曝露した子ブタ、または雌のブタによって飼育された子ブタのパフォーマンススコア。異なる文字は有意な差を示す(p<0.05)。
【
図2】参照記憶を評価するために計算された、ミルクA、B、C、対照ミルクを補給した離乳前の食事に曝露した子ブタ、または雌のブタによって飼育された子ブタのパフォーマンススコア。異なる文字は有意な差を示す(p<0.05)。
【
図3】ワーキングメモリを評価するために計算された、ミルクA、B、C、対照ミルクを補給した離乳前の食事に曝露した子ブタ、または雌のブタによって飼育された子ブタのパフォーマンススコア。異なる文字は有意な差を示す(p<0.05)。
【
図4】6’-SLを含むミルクを与えられたマウスの発現量に対して標準化した、6’-SLを含まないミルクを与えられた子供および成年マウスの前頭前野および海馬脳サンプルにおける、ミエリン遺伝子の発現。アスタリスクは対照との有意な違いを示す(p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の詳細な説明
驚くべきことに、非乳児のヒトに1つ以上のヒトミルクオリゴ糖(HMO)を経口または経腸投与することによって、a)非乳児において実行機能が向上し、b)非乳児において非最適実行機能のリスクを防止および/または軽減し、c)非乳児において非最適実行機能を管理し、および/またはd)非乳児の脳の前頭前皮質の成熟のために、ミエリン形成を向上させることを発見した。
【0038】
本明細書において、以下の用語は次のような意味を有する:
【0039】
「有効量」は、ヒトに望ましい結果をもたらすのに十分なHMOの分量を意味する。有効量は、望ましい結果をもたらすのに十分な1つ以上の用量で投与されうる。
【0040】
「経腸投与」は、消化管(胃など)において組成物の沈着を引き起こす、患者に組成物を送達するための任意の従来の形態を意味する。経腸投与の方法としては、経鼻胃チューブまたは空腸チューブ、経口、舌下、および直腸を介した補給が挙げられる。
【0041】
「実行機能」は、様々な代替選択肢および戦略を認知、評価、および選択する能力を意味する。当該用語は、目標指向行動、計画、および/または認知の柔軟性を含む。
【0042】
「非乳児ヒト」または「非乳児」は、3歳以上のヒトを意味する。非乳児ヒトは、子供、ティーンエイジャー、成人、または高齢者(65歳以上)でありうる。
【0043】
「ヒトミルクオリゴ糖」または「HMO」は、ヒト母乳に存在する複雑な炭水化物を意味する(Urashima et al.: Milk Oligosaccharides. Nova Science Publisher (2011); Chen Adv. Carbohydr. Chem. Biochem. 72, 113 (2015))。HMOは、還元末端において、1つ以上のβ-N-アセチル-ラクトサミニルおよび/または1つ以上のβ-ラクト-N-ビオシル単位によって伸長することができる、ラクトースを含むコア構造を有し、このコア構造は、α-L-フコピラノシルおよび/またはα-N-アセチル-ノイラミニル(シアリル)部位によって置換されうる。この点において、非酸性(または中性)HMOは、シアリル残基を欠いており、酸性HMOはその構造中に少なくとも1つのシアリル残基を有する。非酸性(または中性)HMOは、フコシル化または非フコシル化されうる。そのような中性非フコシル化HMOの例としては、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、ラクト-N-ネオヘキサオース(LNnH)、パラ-ラクト-N-ネオヘキサオース(pLNnH)、パラ-ラクト-N-ヘキサオース(pLNH)、およびラクト-N-ヘキサオース(LNH)が挙げられる。中性フコシル化HMOの例としては、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、ラクト-N-フコペンタオース I(LNFP-I)、ラクト-N-ジフコヘキサオース I(LNDFH-I)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ジフコシルラクトース(DFL)、ラクト-N-フコペンタオース II(LNFP-II)、ラクト-N-フコペンタオース III(LNFP-III)、ラクト-N-ジフコヘキサオース III(LNDFH-III)、フコシル-ラクト-N-ヘキサオース II(FLNH-II)、ラクト-N-フコペンタオース V(LNFP-V)、ラクト-N-フコペンタオース VI(LNFP-VI)、ラクト-N-ジフコヘキサオース II(LNDFH-II)、フコシル-ラクト-N-ヘキサオース I(FLNH-I)、フコシル-パラ-ラクト-N-ヘキサオース I(FpLNH-I)、フコシル-パラ-ラクト-N-ネオヘキサオース II(F-pLNnH II)、およびフコシル-ラクト-N-ネオヘキサオース(FLNnH)が挙げられる。酸性HMOの例としては、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、3-フコシル-3’-シアリルラクトース(FSL)、LST a、フコシル-LST a(FLST a)、LST b、フコシル-LST b(FLST b)、LST c、フコシル-LST c(FLST c)、シアリル-LNH(SLNH)、シアリル-ラクト-N-ヘキサオース(SLNH)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオース I(SLNH-I)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオース II(SLNH-II)、およびジシアリル-ラクト-N-テトラオース(DSLNT)が挙げられる。
【0044】
「経口投与」は、口を介して組成物をヒトに送達するための、任意の従来の形態を意味する。したがって、経口投与は経腸投与の一形態である。
【0045】
「合成組成物」は、人工的に製造された組成物を意味し、好ましくは、エクスビボにおいて、例えば、化学反応、酵素反応、または組み換えによって、化学的および/または生物学的に製造された少なくとも1つの化合物を含む組成物を意味する。いくつかの実施態様において、合成組成物は、1つ以上の化合物、またはHMO以外の成分を含みうる。また、いくつかの実施態様において、合成組成物は、HMOの効力に悪影響を及ぼさない、1つ以上の栄養学的または薬学的に活性な成分を含みうる。本発明の合成組成物のいくつかの限定されない実施態様もまた、以下に記載される。
【0046】
「在胎不当過小児(SGA)で産まれた3歳以上の子ども」は、出生時の在胎期間に対して、通常よりも小さい子どもを意味し、最も一般的には、在胎期間に対して10パーセンタイル未満の体重として定義されている。いくつかの実施態様において、SGAは、子宮内胎児発育遅延(IUGR)に関連する場合があり、これは胎児が潜在的な大きさに到達できない状態をいう。
【0047】
「低出生体重」は、出生時の体重が2500g未満であることを意味する。そのため、以下が含まれる:
-出生時の体重が1800~2500gの子ども(通常、「低出生体重」またはLBWと呼ばれる)、
-出生時の体重が1000~1800gの子ども(「極低出生体重」またはVLBWと呼ばれる)、
-出生時の体重が1000g未満の子ども(「超低出生体重」またはELBWと呼ばれる)。
【0048】
「予防的治療」または「予防」は、疾患の発症または再発のリスク、または発症後の重症度を軽減するために行われる治療、または取られる措置を意味する。
【0049】
「症状の重症度および/または再発を予防的に軽減する」とは、後の時点で、症状の重症度および/または再発を軽減することを意味する。
【0050】
「二次予防」は、高リスク患者の病状の発生の予防、または既に病状を患っている患者における症状の再発の予防を意味する。「高リスク」患者は、例えば、病状の家族歴を有する人など、症状の発症の素因を有する個人である。
【0051】
「管理する」は、非乳児において結果を向上または安定させること、または根本的な栄養ニーズに対処することを目的として、病状または疾患に対処することを意味する。したがって、管理としては、非乳児の栄養ニーズに対処することによって、病状または疾患の食事または栄養管理が挙げられる。「管理する」と「管理」は、文法的に対応する意味を有する。管理としては、非乳児の治療が挙げられる。
【0052】
「治療」は、疾患または病態の症状を軽減する、または排除するために行われる治療、または取られる措置を意味する。
【0053】
本発明の第一の局面において、非乳児の実行機能を強化するのに使用するための、HMO、またはHMOを含む組成物が提供される。
【0054】
HMOは、フコシル化中性HMO、非フコシル化中性HMO、シアル化HMO、または前記のいずれかの任意の組み合わせでありうる。
【0055】
ある実施態様において、HMOはフコシル化中性HMOである。
ある実施態様において、HMOは非フコシル化中性HMOである。
ある実施態様において、HMOはシアル化HMOである。
【0056】
ある実施態様において、HMOは、1つ以上のフコシル化中性HMOおよび1つ以上の非フコシル化中性HMOを含む、それらから実質的に成る、またはそれらから成る、混合物である。
【0057】
ある実施態様において、HMOは、1つ以上のフコシル化中性HMO、1つ以上の非フコシル化中性HMO、および1つ以上のシアル化HMOを含む、それらから実質的に成る、またはそれらから成る、混合物である。
【0058】
特に、1つ以上のフコシル化中性HMOは、2’-FL、3-FL、DFL、LNFP-I、LNFP-II、LNFP-III、LNFP-V、LNFP-VI、LNDFH-I、LNDFH-II、LNDFH-III、FLNH-I、FLNH-II、FLNnH、FpLNH-I、およびF-pLNnH II、好ましくは2’-FL、3-FL、およびDFLから選択される。特に有効なフコシル化オリゴ糖は、2’-フコシルラクトース(2’-FL)およびジフコシルラクトース(DFL)でありうる。
【0059】
好ましくは、1つ以上の非フコシル化中性HMOは、LNT、LNnT、LNH、LNnH、pLNH、およびpLNnH、好ましくはLNnTおよびLNTから選択される。
【0060】
1つ以上のシアル化HMOは、好ましくは、3’-SL、6’-SL、LST a、LST b、LST c、DS-LNT、S-LNH、およびS-LNnH Iから、さらに好ましくは、3’-SLおよび6’-SLから選択される。FSLなどの、フコシル化およびシアル化部分の両方を含むHMOもまた用いられうる。
【0061】
ある実施態様において、HMOは、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、DFL、LNT、LNnT、シアリルラクトース、および前記の任意の組み合わせから成る群から選択される。
【0062】
ある実施態様において、HMOは2’-FL、DFL、LNT、およびLNnTの組み合わせである、すなわち、2’-FL、DFL、LNT、およびLNnTを含む、それらから実質的に成る、またはそれらから成る。
【0063】
ある実施態様において、HMOは3’-シアリルラクトース(3’-SL)および6’-シアリルラクトース(6’-SL)の組み合わせである、すなわち、3’-シアリルラクトース(3’-SL)および6’-シアリルラクトース(6’-SL)を含む、それらから実質的に成る、またはそれらから成る。
【0064】
ある実施態様において、HMOは2’-FL、DFL、LNT、LNnT、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、および6’-シアリルラクトース(6’-SL)の組み合わせである、すなわち、2’-FL、DFL、LNT、LNnT、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、および6’-シアリルラクトース(6’-SL)を含む、それらから実質的に成る、またはそれらから成る。
【0065】
HMOは、哺乳動物、例えば、限定されないが、ヒト、ウシ、ヒツジ、ブタ、またはヤギ種などによって分泌されるミルクから、周知の方法によって単離または濃縮することができる。HMOはまた、微生物発酵、酵素処理、化学合成、またはこれらの技術の組み合わせを用いて、周知の方法によって製造することができる。例として、化学を用いて、LNnTはWO2011/100980およびWO2013/044928に記載されるように製造することができ、LNTはWO2012/155916およびWO2013/044928に記載されるように合成することができ、LNTおよびLNnTの混合物はWO2013/091660に記載されるように製造することができ、2’-FLはWO2010/115934およびWO2010/115935に記載されるように製造することができ、3-FLはWO2013/139344に記載されるように製造することができ、6’-SLおよびその塩はWO2010/100979に記載されるように製造することができ、シアル化オリゴ糖はWO2012/113404に記載されるように製造することができ、ヒトミルクオリゴ糖の混合物はWO2012/113405に記載されるように製造することができる。酵素的製造の例として、シアル化オリゴ糖はWO2012/007588に記載されるように製造することができ、フコシル化オリゴ糖はWO2012/127410に記載されるように製造することができ、有利には、ヒトミルクオリゴ糖の多様な混合物はWO2012/156897およびWO2012/156898に記載されるように製造することができる。さらに、WO01/04341およびWO2007/101862は、遺伝子改変した大腸菌を用いた、フコースまたはシアル酸によって適宜置換されていてもよい、コアヒトミルクオリゴ糖の製造方法を記載する。
【0066】
本発明のいずれかの局面において、HMOは、担体および/または希釈剤なしで、そのまま(ニートで)用いることができる。別の実施態様において、HMOは、栄養または医薬組成物において許容可能な1つ以上の不活性担体/希釈剤、例えば、溶媒(例えば、水、水/エタノール、油、水/油)、分散剤、コーティング剤、吸収促進剤、制御放出剤、不活性賦形剤(例えば、デンプン、ポリオール、造粒剤、微結晶セルロース、希釈剤、滑沢剤、結合剤、および崩壊剤)を含む、合成組成物中において用いられる。これらの組成物は、プレバイオティックおよび/またはプロバイオティックを含まない。別の実施態様において、HMOは、プレバイオティックおよび/またはプロバイオティックを含まなくてもよい、合成医薬または栄養組成物において用いられる。
【0067】
非乳児は、非最適実行機能を患っていない、健康な非乳児でありうる。
【0068】
実行機能は、当業者に周知の方法によって、例えば、実行機能、例えば、抑制、ワーキングメモリ、認知的柔軟性、パターン認識試験などを構成することが知られている、異なる認知能力を評価する、可能な限り総合的に評価することによって、測定されうる。子どもに対して、当該方法は、例えば、次元切り替えカード並び替え(Dimensional Change Card Sort;DCCS)であり、大人に対しては、例えば、ウィスコンシンカード分類課題である。参加者は、ターゲットカードが示され、1つの次元(例えば、色)に従って、一連の2価のテストカードを並び替えるよう求められる。切り替え後のフェーズでは、他の次元(例えば、形)に従って、同じ種類のテストカードを並べ替えるように指示される。
【0069】
非最適実行機能を患っていない非乳児は、例えば、非乳児の種類および年齢に応じて、正常(非病的)であるとみなされる範囲内の試験スコアを有するであろう。
【0070】
当業者に明らかなように、本明細書に開示される、実行機能の向上に用いるためのHMOまたはHMOを含む組成物は、非乳児において非最適実行機能の予防および/または治療にも用いられうる。
【0071】
したがって、本発明の別の局面において、非最適実行機能の予防および/または治療に用いるための、HMOまたはHMOを含む組成物が本明細書において提供される。
【0072】
ある実施態様において、非乳児は、非最適実行機能を患っており、そのため実行機能の強化を必要とする非乳児でありうる。
【0073】
非最適実行機能を患っているヒトは、例えば、非乳児の種類および年齢に応じて、(実行機能の評価に用いられる標準的な試験において)正常(非病的)であるとみなされる範囲内の試験スコアを有しない非乳児でありうる。当業者であれば、非乳児が非最適実行機能を患っている時期を決定することができるであろう。
【0074】
非最適実行機能は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、アルツハイマー病、および血管性認知症などの様々な認知疾患に関連しうる。また、それは、早産または在胎不当過小児(SGA)であった非乳児においてより生じやすいとも考えられており、加齢と共に実行機能が低下しうることが知られている。そのため、これらの患者群において、非最適実行機能を治療および/または予防する特定のニーズが存在しうる。
【0075】
したがって、さらに特定の実施態様において、実行機能の向上を必要とする非乳児は、ADHD、アルツハイマー病、または血管性認知症を患っている非乳児、早産児または在胎不当過小児(SGA)であった高齢の成人または子供である。
【0076】
本発明の別の局面において、非乳児において非最適実行機能を予防および/または治療するための方法であって、前記非乳児に、本明細書に開示されるHMOまたはHMOを含む組成物を投与するステップを含む方法が提供される。前記方法はまた、非最適実行機能を患っている非乳児を特定するステップを適宜含みうる。
【0077】
本発明の別の局面において、非乳児において実行機能を向上させるための方法であって、本明細書に開示されるHMOまたはHMOを含む組成物を前記非乳児に投与するステップを含む方法であって、非最適実行機能を患っている非乳児を特定するステップを適宜含みうる方法が提供される。
【0078】
上記の本発明の任意の局面において、合成組成物は医薬組成物でありうる。医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体、例えば、リン酸緩衝化生理食塩水、水中のエタノールの混合物、水、および油/水などのエマルジョン、または水/油エマルジョン、並びに様々な湿潤剤、または賦形剤を含みうる。医薬組成物はまた、非乳児に投与された場合に有害な、アレルギー性の、または他の望ましくない反応を生じない、他の物質を含みうる。担体および他の物質としては、溶媒、分散剤、コーティング剤、吸収促進剤、制御放出剤、およびデンプン、ポリオールなどの1つ以上の不活性賦形剤、造粒剤、微結晶セルロース、希釈剤、滑沢剤、結合剤、および崩壊剤が挙げられる。必要に応じて、組成物の錠剤投与量は、標準的な水性または非水性技術によってコーティングされうる。
【0079】
医薬組成物は、例えば、所定の分量を含む錠剤、カプセル、もしくはペレットとして、または所定の濃度を含む粉末もしくは顆粒として、または所定の濃度を含む、水性もしくは非水性液体中のゲル、ペースト、溶液、懸濁液、エマルジョン、シロップ、ボーラス、舐剤、もしくはスラリーとして、経口投与することができる。経口投与される組成物としては、結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、香味剤、および湿潤剤が挙げられる。錠剤などの経口投与組成物は、適宜コーティングされていてもよく、その中の混合物の持続、遅延、または制御放出を提供するように製剤化されていてもよい。
【0080】
医薬組成物はまた、肛門坐剤、エアロゾルチューブ、経鼻胃チューブ、または消化管への直接注入によっても投与することができる。
【0081】
医薬組成物はまた、抗ウイルス剤、抗生物質、プロバイオティクス、鎮痛剤、および抗炎症剤などの治療剤を含みうる。非乳児ヒトに対するこれらの組成物の適切な投与量は、免疫状態、体重、および年齢などの因子に基づいて、従来の方法によって決定することができる。いくつかの場合において、用量は、ヒト母乳中に存在するHMOと同様の濃度であるだろう。必要な用量は、一般に、1日あたり約1gから約20gの範囲であり、いくつかの実施態様において、1日あたり約2から約15g、例えば、1日あたり約3gから約7.5gであるだろう。適切な用量レジメンは、従来の方法によって決定することができる。
【0082】
上記の本発明の任意の局面において、合成組成物はまた、栄養組成物でありうる。それは、タンパク質、脂質および/または消化可能な炭水化物源を含んでもよく、粉末または液体の形態でありうる。組成物は、唯一の栄養源または栄養補助食品となるように設計されうる。
【0083】
適切なタンパク質源としては、ミルクタンパク質、大豆タンパク質、米タンパク質、エンドウ豆タンパク質、およびオート麦タンパク質、またはそれらの混合物が挙げられる。ミルクタンパク質は、ミルクタンパク質濃縮物、ミルクタンパク質単離物、ホエイタンパク質、またはカゼイン、またはそれらの混合物の形態でありうる。タンパク質は、全タンパク質または部分的に加水分解された、もしくは広範囲に加水分解されたかのいずれかの加水分解タンパク質でありうる。加水分解タンパク質は、容易な消化の利点を提供し、これは炎症を起こした消化管を有する非乳児にとって重要でありうる。タンパク質はまた、遊離アミノ酸の形態で提供されうる。タンパク質は、栄養組成物のエネルギーの約5%から約30%、通常約10%から20%を含みうる。
【0084】
タンパク質源は、グルタミン、スレオニン、システイン、セリン、プロリン、またはこれらのアミノ酸の組み合わせの供給源でありうる。グルタミン源は、グルタミンジペプチドおよび/またはグルタミン濃縮タンパク質でありうる。グルタミンは、エネルギー源としてグルタミンが腸細胞によって使用されるため、含まれうる。スレオニン、セリン、およびプロリンは、ムチンの生成に重要なアミノ酸である。ムチンは消化管を覆い、粘膜の治癒を改善しうる。システインはグルタチオンの主要な前駆体であり、体の抗酸化防御にとって重要である。
【0085】
適切な消化可能な炭水化物としては、マルトデキストリン、加水分解もしくは修飾デンプンもしくはコーンスターチ、グルコースポリマー、コーンシロップ、コーンシロップ固体、異性化糖、米由来炭水化物、エンドウ豆由来炭水化物、ジャガイモ由来炭水化物、タピオカ、スクロース、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、蜂蜜、糖アルコール(例えば、マルチトール、エリスリトール、ソルビトール)、またはそれらの混合物が挙げられる。好ましくは、組成物はラクトースを含まない。一般に消化可能な炭水化物は、栄養組成物のエネルギーの約35%から約55%を提供する。好ましくは、栄養組成物はラクトースを含まない。特に適切な消化可能な炭水化物は、低デキストロール当量(DE)マルトデキストリンである。
【0086】
適切な糖質としては、中鎖トリグリセリド(MCT)および長鎖トリグリセリド(LCT)が挙げられる。好ましくは、脂質はMCTおよびLCTの混合物である。例えば、MCTは脂質の約30重量%から約70重量%を含み、より具体的には約50重量%から約60重量%を含みうる。MCTは、消化がより容易である利点を提供し、これは炎症した消化管を有する非乳児にとって重要でありうる。一般に、脂質は栄養組成物のエネルギーの約35%から約50%を提供する。脂質は必須脂肪酸を含みうる(オメガ-3およびオメガ-6脂肪酸)。好ましくは、これらの多価不飽和脂肪酸は、脂質源の総エネルギーの約30%未満を提供する。組成物は、オメガ-3多価不飽和脂肪酸源;例えば、魚油、ドコサヘキサエン酸、α-リノレン酸、および/またはエイコサペンタエン酸を含むことが特に好ましい。多価不飽和脂肪酸はまた、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)でありうる。
【0087】
長鎖トリグリセリドの適切な供給源は、菜種油、ひまわり種子油、パーム油、大豆油、乳脂、トウモロコシ油、高オレイン酸油、および大豆レシチンである。分別したココナッツ油は、中鎖トリグリセリドの適切な供給源である。栄養組成物の脂質プロファイルは、好ましくは、約4:1から約10:1の多価不飽和脂肪酸オメガ-6(n-6)対オメガ-3(n-3)の比を有するように設計される。例えば、n-6対n-3脂肪酸の比は、約6:1から約9:1でありうる。
【0088】
好ましくは、栄養組成物はまた、ビタミンおよびミネラルを含む。栄養組成物が唯一の栄養源として意図されている場合、好ましくは、完全なビタミンおよびミネラルプロファイルを含む。ビタミンの例としては、ビタミンA、B複合体(B1、B2、B6、およびB12など)、C、D、E、およびK、ナイアシン、および酸性ビタミン、例えば、パントテン酸、葉酸、およびビオチンが挙げられる。ミネラルの例としては、カルシウム、鉄、亜鉛、マグネシウム、ヨウ素、銅、リン、マンガン、カリウム、クロム、モリブデン、セレン、ニッケル、スズ、ケイ素、バナジウム、およびホウ素が挙げられる。ビタミンD源が特に好ましい。
【0089】
栄養組成物はまた、ルテイン、リコピン、ゼアキサンチン、およびベータ-カロテンなどのカロテノイドを含みうる。含有されるカロテノイドの総量は、約0.001μg/mlから約10μg/mlまで変化しうる。ルテインは、約0.001μg/mlから約10μg/ml、好ましくは約0.044μg/mlから約5g/mlのルテインの分量で含まれうる。リコピンは、約0.001μg/mlから約10μg/ml、好ましくは約0.0185mg/mlから約5g/mlのリコピンの分量で含まれうる。ベータ-カロテンは、約0.001μg/mlから約10mg/ml、例えば、約0.034μg/mlから約5μg/mlのベータ-カロテンで含まれうる。
【0090】
また、栄養組成物は好ましくは、軽減したナトリウムの濃度;例えば、約300mg/lから約400mg/lを含む。残りの電解質は、腎機能に過度な腎溶質負荷を与えることなく、ニーズを満たすように設定された濃度で存在することができる。例えば、カリウムは好ましくは、約1180から約1300mg/lの範囲で存在し;クロライドは好ましくは、約680から約800mg/lの範囲で存在する。
【0091】
栄養組成物はまた、防腐剤、乳化剤、濃化剤、緩衝液、繊維、およびプレバイオティクス(例えば、フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖)、プロバイオティクス(例えば、B. animalis subsp. lactis BB-12, B. lactis HN019, B. lactis Bi07, B. infantis ATCC 15697, L. rhamnosus GG, L. rhamnosus HNOOl, L. acidophilus LA-5, L. acidophilus NCFM, L. fermentum CECT5716, B. longum BB536, B. longum AH1205, B. longum AH1206, B. breve M-16V, L. reuteri ATCC 55730, L. reuteri ATCC PTA-6485, L. reuteri DSM 17938)、抗酸化剤/抗炎症性化合物、例えば、トコフェロール、カロテノイド、アスコルビン酸/ビタミンC、パルミチン酸アスコルビル、ポリフェノール、グルタチオン、およびスーパーオキシドディスムターゼ(メロン)、他の生物学的に活性な因子(例えば、成長ホルモン、サイトカイン、TFG-β)、着色剤、香味剤、および安定化剤、滑沢剤などの他の従来の成分を含みうる。
【0092】
栄養組成物は、可溶性粉末、液体濃縮物、または即時使用可能な製剤の形態でありうる。組成物は、経鼻胃管を介して、または経口によって非乳児に供給することができる。様々な風味剤、繊維、および他の添加剤が存在していてもよい。
【0093】
栄養組成物は、個体または液体の形態で栄養組成物を調製するために一般的に用いられる任意の製造技術によって製造することができる。例えば、組成物は、様々な供給液を組み合わせることによって製造することができる。脂質中のタンパク質供給溶液は、脂質源を加熱および混合し、次いで乳化剤(例えば、レシチン)、脂溶性ビタミン、およびタンパク質源の少なくとも1部を、加熱および撹拌しながら添加することによって製造することができる。次いで、炭水化物供給溶液を、加熱および撹拌しながら、水にミネラル、微量および超微量ミネラル、増粘剤または懸濁化剤を添加することによって製造する。得られた溶液を、加熱および撹拌を継続しながら10分間保持し、その後炭水化物(例えば、HMO、および消化可能な炭水化物源)を加える。次いで、得られた供給溶液を加熱およい撹拌しながら共に混合し、pHを6.6~7.0に調整し、その後組成物を短時間高温処理に付し、その間に組成物は高温処理、乳化、および均一化され、次いで冷却する。水溶性ビタミンおよびアスコルビン酸を加え、必要に応じてpHを目的の範囲に調整し、風味剤を加え、水を加えて、目的の総固体量に達する。
【0094】
液体生成物について、次いで、得られた溶液を無菌的に充填して、無菌包装栄養組成物を生成することができる。この形態において、栄養組成物は、即時供給可能な液体、または濃縮液体の形態でありうる。あるいは、組成物は、噴霧乾燥および処理され、再構築可能な粉末として包装されうる。
【0095】
栄養製品が即時供給可能な栄養液体である場合、液体中のHMOの総濃度は、液体の重量で、約0.0001%から約2.0%、例えば、約0.001%から約1.5%、例えば、約0.01%から約1.0%である。栄養製品が濃縮栄養液体である場合、液体中のHMOの総濃度は、液体の重量で、約0.0002%から約4.0%、例えば、約0.002%から約3.0%、例えば、約0.02%から約2.0%である。
【0096】
合成組成物、好ましくは、栄養組成物はまた、カプセル、錠剤、または小袋/スティック包装などの単位剤形でありうる。例えば、合成組成物、好ましくは、栄養組成物は、HMOと、希釈剤、賦形剤、抗酸化剤、滑沢剤、着色剤、結合剤、崩壊剤などの製剤化および投与を助ける1つ以上のさらなる成分を含む、錠剤形態または粉末形態でありうる。
【0097】
適切な希釈剤、賦形剤、滑沢剤、着色剤、結合剤、および崩壊剤としては、ポリエチレン、ポリビニルクロライド、エチルセルロース、ポリアリレートポリマーおよびそのコポリマー、ヒドロキシエチル-セルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキシド(PEO)、またはポリアクリルアミド(PA)、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、ポリカルボフィル、ポリアクリル酸、トラガカント、メチルセルロース、ペクチン、天然ガム、キサンタンガム、グアーガム、カラヤゴム、ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、微結晶セルロース、およびコロイド状二酸化ケイ素が挙げられる。適切な抗酸化剤は、ビタミンA、カロテノイド、ビタミンC、ビタミンE、セレン、フラボノイド、ポリフェノール、リコピン、ルテイン、リグナン、コエンザイムQ10(「CoQIO」)、およびグルタチオンである。
【0098】
単位剤形はまた、特に小袋またはスティック包装の形態において、主要栄養素などの様々な栄養素を含みうる。特に好ましい栄養素は、前記のビタミンD、オメガ-3多価不飽和脂肪酸、およびプロバイオティクスの供給源である。
【0099】
HMOまたは合成組成物の適切な投与量は、症状の重症度、免疫状態、体重、および年齢などの因子に基づいて、従来の方法において決定することができる。いくつかの場合において、用量は、ヒト母乳に存在するHMOに存在するのと同様の濃度であるだろう。必要な分量は一般に、1日あたり約1gから約20g、いくつかの実施態様において、1日あたり約1gから約15g、例えば、1日あたり約2gから約10g、いくつかの実施態様において、1日あたり約3gから約7.5gの範囲であるだろう。適切な用量レジメンは、従来の方法によって決定することができる。理想的には、1日あたり約2gから約10gの用量を投与し、正確な分量は、症状が治療されているか(一般に高用量)、あるいは二次予防が意図されているか(低用量)に応じて選択される。
【0100】
HMOまたは合成組成物は、有効量のヒトミルクオリゴ糖の少なくとも14個の個別の1日用量を含む、パックの形態で提示されうる。1日用量は、好ましくは、小袋/スティック包装の形態であるが、任意の適切な形態でありうる。各用量は好ましくは、約1gから約20g、より好ましくは、約2gから約15g、例えば、約2gから約10gのヒトミルクオリゴ糖を含む。好ましくは、パックは少なくとも21日の用量、より好ましくは、少なくとも28日の用量を含む。最も適切なパックは、4週間または1ヶ月間に十分な量を含む。パックは使用説明書を含みうる。
【0101】
適切な用量は、例えば、体重および/または病状、症状の重症度、副作用の発生率および/または重症度、並びに投与方法などの、いくつかの因子に基づいて決定することができる。有効量は、非乳児において実行機能を向上させる任意の分量でありうる。実行機能の向上は、上記で詳述するような周知の試験によって測定されうる。実行機能の向上は、6ヶ月、1年より後、例えば、5年より後、10年より後、20年より後にのみ検出できる場合がある。本明細書の情報および当技術分野の知識に基づいて、有効量を決定することは、十分に当業者の範囲内の事項である。
【0102】
適切な用量範囲は、当業者に既知の方法によって決定されうる。初期治療段階の間、用量はより高くなりうる(例えば、1日あたり3gから15g、好ましくは1日あたり4gから10g、より好ましくは1日あたり4gから7.5g)。維持段階の間、用量は減少されうる(例えば、1日あたり1から10g、好ましくは1日あたり2mgから5g、より好ましくは1日あたり2gから5g)。HMOを含む組成物が、3’-シアリルラクトース(3’-SL)および6’-シアリルラクトース(6’-SL)を含む場合、3’-シアリルラクトース(3’-SL)および6’-シアリルラクトース(6’-SL)が、10:1から1:10の間の重量比、例えば、10:1から2:1の間、8:1から3:1の間、6:1から3:1の間、5:1から3:1の間、5:1から4:1の間、または4.7:1から4.1:1の間の重量比で組成物中に含まれている場合が、特に有益でありうる。
【0103】
治療期間は、例えば、体重および/または病状、症状の重症度、副作用の発生率および/または重症度などのいくつかの因子に基づいて決定することができる。好ましくは、治療期間は少なくとも14日、より好ましくは少なくとも3週間;さらにより好ましくは4週間以上である。合成組成物またはHMOはまた、慢性的に摂取されうる。
【0104】
本発明のいくつかの局面は、実行機能の向上に必要な非乳児ヒトの食事管理における、
-1つ以上のヒトミルクオリゴ糖(HMO)、
-1つ以上のヒトミルクオリゴ糖(HMO)を含む合成組成物、または
-有効量の1つ以上のヒトミルクオリゴ糖の少なくとも14個の個別の1日用量を含む、パック
の使用である。HMO、合成組成物、およびパックは、上記に開示される。
【0105】
本明細書に開示される本発明の全ての特徴は、自由に組み合わせることができ、変更および修正は、特許請求の範囲において定義される本発明の範囲を逸脱することなく行うことができることが理解されるべきである。さらに、特定の機能が既知の同等物として存在する場合、そのような同等物は、本明細書で具体的に言及されているかのように組み込まれる。
【0106】
本開示および付属の特許請求の範囲で用いられるように、単数形「a」、「an」、「the」は、文脈において明らかにそうでないことが示されていない限り、複数形についての言及を含む。そのため、例えば、「an ingredient」または「the ingredient」につての言及は、2つ以上の成分を含む。「Xおよび/またはY」の文脈において用いられる用語「および/または」は、「X」、「Y」、または「XおよびY」として解釈されるべきである。本明細書において用いられる場合、用語「例えば」は、特に用語の一覧が後に続く場合は、単なる例示および説明であり、排他的または包括的であるとみなされるべきではない。
【0107】
本明細書において用いられる「約」は、数値の範囲内、例えば、言及される数値の-10%から+10%の範囲内、好ましくは、言及される数値の-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、言及される数値の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは、言及される数値の-0.1%から+0.1%の範囲内の数をいうものと理解されるべきである。2つの値の「間にある」範囲は、これらの2つの値を含む。さらに、本明細書における全ての数値範囲は、範囲内の全ての整数(integer)、整数(whole)、または分数を含むと理解されるべきである。さらに、これらの数値範囲は、その範囲内の任意の数または数のサブセットに関する特許請求の範囲に対して、サポートを提供するものと理解されるべきである。例えば、1~10の開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲をサポートするものと理解されるべきである。
【0108】
本明細書において表される全ての百分率は、別段の記載がない限り、組成物の総重量の重量によるものである。pHについて言及されている場合、値は標準的な装置によって25℃において測定されたpHに対応する。
【0109】
相対的用語「向上」および「減少」は、実行機能における、本明細書に開示されるHMO、またはHMOを含む組成物の効果(例えば、実行機能を構成することが知られている異なる認知能力、例えば、注意または衝動性、ワーキングメモリ、認知的柔軟性における効果)をいう。これはまた、HMOまたはHMOを含む組成物を投与されていない非乳児との比較において、非乳児において全体的に考慮する必要があるであろう。改善、増加、または向上を評価することは、十分に当業者の範囲内である。実行機能(実行機能を構成することが知られている異なる認知能力、例えば、認知的柔軟性、ワーキングメモリ、注意 および/または衝動の軽減)の向上は、1年より後、例えば、5年より後、10年より後、20年より後にのみ検出できる場合がある。
【0110】
本明細書に開示される組成物は、本明細書に具体的に開示されていない任意の要素を欠いている場合がある。そのため、用語「含む」を用いた実施態様の開示は、特定される構成要素「から実質的に成る」、および「から成る」実施態様の開示を含む。同様に、本明細書に開示される方法は、本明細書に具体的に開示されていない任意のステップを欠いている場合がある。そのため、用語「含む」を用いた実施態様の開示は、特定されるステップ「から実質的に成る」、および「から成る」実施態様の開示を含む。さらに、いくつかのステップを「選択肢」として記載することは、選択肢として明確に記載されていない他のステップが、必ず必要であることを意味するものではない。文が単に組成物について言及している場合、これは栄養組成物でありうる。
【0111】
本発明を説明するのに役立つ、一連の非限定的な例を以下に示す。
【実施例】
【0112】
実施例1
方法-行動学的研究
53匹のメスの子ブタ(Gottingen minipigs, Ellegaard, Denmark)を、離乳後にホールボードテストに付した。1週齢において、調合乳(N=45)の子ブタを雌ブタから分離し、寝床として細断した藁を増やし、スクイーズボールおよび犬用ベッドを備えた囲い(2.5mx1m)の中に、2匹の子ブタの混合群を収容した。さらに、8匹の子ブタを交配し、10週齢まで3匹の雌ブタと共に飼育した(自然授乳子ブタ)。母乳から離乳させた後、10週齢において、自然授乳子ブタを、調合乳子ブタと同様の条件で飼育した。さらなる濃縮材料として、2つの金属製の鎖を囲いに追加した。
【0113】
治療.ミルクの介入は1~10週齢であった。1週齢において、調合乳子ブタに、異なるプレバイオティック混合物を濃縮したもの(ミルクA:3’-SLおよび6’-SL、ミルクB:2’-FL+DFL+LNT+LNnT、ミルクC:2’-FL+DFL+LNT+LNnT+3’-SL+6’-SL)、またはプレバイオティクスを含まないもの(対照ミルク)の4つの混合乳のうちの1つを、無作為に割り当てた。自然授乳子ブタは、栄養介入の全期間にわたって母乳を与えた。離乳させた後、10週齢の子ブタに高エネルギー肥満誘発食を与えた。この実験設定により、5つの治療群が得られた:ミルクA(N=12)、ミルクB(N=12)、ミルクC(N=10)、対照ミルク(N=11)、および自然授乳(N=8)。
【0114】
それぞれの囲いの両方のブタは、空間認知(記憶および学習)のパフォーマンスを評価するために、空間ホールボールドタスクにおいて個別に試験した。ホールボードの舞台(3mx3m)は、黒い木製の高さ80cmの壁、およびギロチンドアを有する4つの入口がある。舞台において、16個の灰色の金属製のバケツ(φ12cm-H12cm)が、4x4のマトリックスで床に埋め込まれ、そのうちの4つはリンゴの小片(~12x12x20mm)を入れた。舞台の中の子ブタは、換気ダクトと光チューブによって、部屋の壁および天井を見ることができた。子ブタは、ホールボードテストの全期間にわたって、一晩中餌を奪われた。
【0115】
約16.5~19週齢まで、子ブタをそれぞれ、12日間連続して、1日あたり2回の集団試験(数分間隔で実施)、すなわち24回の取得試験に付した。毎日異なる入口が用いられ、試験の日ごとに2つの異なる入口を用いた(すなわち、試験ごとに1つの入り口)。試験は、子ブタがホールボードの舞台に4本の脚を置いた時に開始し、子ブタが4つの報酬を全て見つけた時、または180秒後に終了した。子ブタが初めて餌のバケツに行く毎に、学習を促進するためにクリック音を生じさせた。子ブタがタスクを完了させると(すなわち、180秒以内に4つの報酬を見つけると)、出口(南)のギロチンドアが開き、子ブタは白ブドウの半分を受け取った。子ブタが180秒以内にタスクを完了しない場合、パトカーのサイレン音が生じ;子ブタは報酬を受け取ることができなかった。囲いごとに2匹の子ブタが2回の試験を受けた後、全ての囲いの動物を、元の家の囲いに戻し、朝のミルク供給量を分配した。
【0116】
取得段階が完了した後、子ブタをそれぞれ、8日連続で1日2回の集団試験の、16回の反転試験に付した。手順は取得フェーズと同様の手順であったが、子ブタは餌のバケツの異なる配置を割り当てられた。
【0117】
以下のパラメーターを、The Observer XT 10(Noldus Information Technology、Wageningen、The Netherlands)を用いてライブでスコアリングした:試験中の全てのバケツへの全ての訪問および再訪問、全てのバケツへの訪問までの待ち時間、試行時間、排便、排尿、および脱出の試みの総数。試験中に記録したパラメーターから、van der Staay et al. Neurosci. Biobehav. Rev. 36, 379 (2012)に従って、事後的に変数を計算した(表1)。
【表1】
【0118】
取得フェーズ中、全てのブタは、時間と共に直線的にに増加するWM、RM、および総合WMスコアによって、および時間と共に直線的に減少するWM、RM、および総合WMエラーの数によって可視化できる、実行機能パフォーマンスの上昇が見られた。
【0119】
反転フェーズの間、全ての子ブタは、時間と共に直線的に増加するWM、RM、および総合WMスコアによって、および時間と共に直線的に減少するWM、RM、および総合WMエラーの数によって可視化できる、実行機能の上昇が見られた。RM、WM、および総合WMパフォーマンスのこの向上は、自然授乳子ブタと比較して、対照ミルク群においては減少し(総合WMおよびRMについて大幅に)、驚くべきことに、これらの欠点は、ミルク中のHMOが存在すると、自然授乳群において観察されたものと同様のレベルに回復した(
図1~3を参照されたい)。
【0120】
実施例2
動物および飼育条件
成体の野生型(WT)B6.129およびヘテロ接合(HZ)B6.129-St6gal1tm2Jxm繁殖ペア(それぞれ、4匹のオスと4匹のメス、および3匹のオスおよび4匹のメス)を、商業ブリーダー(The Jackson Laboratory)から購入した。到着時に、同性のマウスを、おがくずの寝床、濃縮バッグ(Mucedola, Settimo Milanese, Italy)、金属製の表面および自由摂取可能な水および餌のペレットを備えたタイプ1のポリカーボネートケージ(33.0x13.0x14.0cm)に、2~3の同性のグループで収容した。マウスを空調管理した部屋(温度21±1℃および相対湿度60±10%)において、12時間の反転明暗サイクル(7:00PMに点灯)で飼育した。到着から2週間後、繁殖用の3匹の組(1匹のオス、2匹のメス)を形成した。2週間の交配の後、オスのマウスを取り出し、メスを個別に標準的なタイプ1ケージに収容した。メスの出産を毎日確認し、出産した日を出産後(PND)0日とした。週1回のケージの清掃以外は、離乳期(PND25)まで雌親と子供をそのままにした。離乳において、オスおよびメスのマウスを分離し、同性の同腹のケージに入れ;さらにオスのマウスを耳クリップによって印をつけ、この操作によって取り除いた耳組織を用いて遺伝子型判定を行った。次いで、ホモ接合型ノックアウト(KO)およびWTマウスを実験に用いた。
【0121】
飼育手順および飼育
14匹の野生型(WT)および14匹のSt6Gal1ホモ接合(以下KO)メスマウスを、それぞれ7匹のWTおよび7匹のKOオスマウスと交配させた。このバッチのうち、10匹のWTおよび10匹のKOの雌親が、生存可能な子供を出産した。誕生の日を出産後(PND)0日とした。10:00から13:00の間に行われた飼育手順(詳細は
図1を参照されたい)は、4匹の雌親(2匹のWTおよび2匹のKO)を同時に使用する必要があった。そのため、飼育雌親がいないために見捨てられる対象の数を最小にするため、飼育手順は生後24から60時間の間に行った。飼育の日に、我々は最初にケージから雌親を取り出し、次いで性別を判定し、足指にタトゥーインクを穿刺して子供に印をつけた。性別判定および印付けの手順が完了した後、子供を飼育雌親が居るケージに移し、おがくずで覆った。それぞれの子供を飼育雌親に渡し、全ての実験対象が同じ条件に置かれるようにした。それぞれの雌親は、WTおよびKOオスおよびメスの子供から構成される(可能な限り、全ての変数の比率は1:1)、混合された同腹の子供を育てた。開眼時および成年期に、遺伝子発現解析のために、前頭前皮質および海馬脳サンプルを回収した。
【0122】
以下の実験グループを構成した:
-WT雌親に飼育されたWT子供(WT対WT)
-KO雌親に飼育されたWT子供(WT対KO)
-WT雌親に飼育されたKO子供(KO対WT)
-KO雌親に飼育されたKO子供(KO対KO)
【0123】
トータルRNA抽出およびQC
Agencourt RNAdvance Tissue Kit(Beckman Coulter)を用いてトータルRNAを抽出し:溶解を450μl中で行った。400μlの可溶化液を抽出した。溶出体積50μl
定量化を、Quant It Ribogreen アッセイ(Life Technologies)を用いて行う。
QC評価は、Fragment Analyzer 96におけるStandard sensitivity RNA kit(Agilent)を用いて行う。
【0124】
サンプルライブラリー調製
ライブラリーは、LexogenのIllumina用QuantSeq 3' mRNA-Seq Library Prep Kit (FWD) HTを用いて生成する。ポリアデニル化RNAの3’末端に近いイルミナ適合性配列を生成するように設計されている。
【0125】
キットはインプットとしてトータルRNAを用いるため、事前のポリ(A)濃縮またはrRNA枯渇は必要ない。ライブラリーの生成は、イルミナ固有のRead2リンカー配列を含むオリゴdTプライミングによって開始する。最初の鎖合成の後、RNAを除去する。2回目の鎖合成は、ランダムなプライミングおよびDNAポリメラーゼによって開始する。ランダムなプライマーは、イルミナ固有のRead1リンカー配列を含む。最初および第二の鎖合成の間に精製は必要ない。第二の鎖合成の後に、磁気ビーズ精製ステップを行う。シーケンシングのためのクラスター形成に必要な配列は、ライブラリー増幅ステップ中に導入する。二本鎖cDNAをPCRによって増幅する。このステップにおいて、個々のバーコードインデックスを導入し、サンプルを多重化する。NGS読み込みはポリ(A)テールに向かって行われ、mRNAに直接対応する。詳細について
図1を参照されたい。ライブラリーはQuant it Picogreen(Life Technologies)によって定量化した。サイズパターンは、Fragment AnalyzerにおけるHigh Sensitivity NGS Fragment Analysis kit(Agilent)を用いて制御する。ライブラリーは、等モル比(すなわちそれぞれのサンプルライブラリーの等量)でプールされ、single read(SR)sequencing flow cell(Illumina)上で9pMの濃度でクラスター化する。シーケンシングは、HiSeq SR Cluster Kit v4 cBot、HiSeq SBS Kit V4 50 cycle kit(Sequencing by Synthesis)を用いて、HiSeq 2500(Illumina)上で65サイクル実行する。シーケンシング実行中に一次データ品質管理を行い、最適なフローセルローディング(クラスター密度)を確保し、シーケンシング実行(QC30)の品質メトリックを確認する。画像解析によって検出されるクラスターの最適な密度数は、850および1000K/mm
2の間である。最適なクラスター密度において実行することは、高品質のデータを有するが、データ出力の低いアンダークラスターと、低い実行性能をもたらしうるオーバークラスターとの間のバランスを見つけることを含む。
>Q30の割合は、品質のPhredスコアが30以上である塩基の割合を意味する。これは、生成した核酸塩基の同定の質の尺度である。Phredスコアは、エラー確率に対数的に関連する。30に等しいPhredスコアは、1000分の1の誤った塩基の割り当ての確率を意味するため、塩基読み出しの正確性は99.9%である。Illuminaの仕様に関して、スコアは最低80%である必要がある。
【0126】
データ解析
カウントが非常に少ない遺伝子は、グループ間で差異的な発現が生じる可能性は低い。少なくとも8個のサンプルにおいて少なくとも5個のリードを有する遺伝子のみを選択することにより、低発現遺伝子をフィルタリングした。サンプル数の閾値によって、遺伝子が最小のグループ(8個のサンプルを含む)において発現されることが保証される。フィルタリング手順は、ライブラリーの大きさを考慮したCPM値において実行する。この場合、CPM値が2.427の閾値に対応する。また、注釈の付けられていない遺伝子は破棄した。これらのフィルタリング基準によって11523の特徴を保持した。TMM法を用いて標準化した。
【0127】
結果
ミエリン形成に関連する複数の遺伝子の発現は、幼少期の前頭前皮質においてのみ、6’-SLを含まないミルクを与えられたマウスで減少し、これは青年期または2つのいずれの時期の海馬において、いずれも観察されなかった。
図4は、6’-SLを含まないミルクを与えられたマウスにおいて、髄鞘の2つの重要なタンパク質である、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)およびミエリン関連糖タンパク質(MAG)の発現が50%減少したことを示す(遺伝子発現は、対照マウスと比較して倍率変化において定量した)。幼少期に6’-SLが存在しないことによる影響を京都遺伝子ゲノム百科事典の経路において調査したところ、ミエリン形成および髄鞘経路の両方が、6’-SLを含まないミルクを与えられたマウスにおいて下方制御されていたことを特定した。これもまた、前頭前皮質において可視化され、海馬においては(青年期または幼少期において)みられなかった。これらの結果は、母乳における6’-SLの存在が、特に幼少期において、前頭前皮質の最適なミエリン形成の観測に必要であることを明らかに示している。興味深いことに、前頭前皮質は、実行機能を仲介する脳の重要な領域であることが知られている。
【0128】
実施例3-栄養組成物
即時に供給可能な栄養組成物は、水、マルトデキストリン、コーンシロップ、糖、乳タンパク質濃縮物、植物油(キャノーラ、高オレイン酸ヒマワリ、およびトウモロコシ)、大豆タンパク質単離物、アカシアガム、風味剤、2’-FLおよびDFL、クエン酸カリウム、リン酸マグネシウム、セルロースゲルおよびガム、炭酸カルシウム、アスコルビン酸ナトリウム、大豆レシチン、重酒石酸コリン、リン酸カルシウム、アルファ-トコフェリルアセテート、アスコルビン酸、カラギーナンガム、三価鉄ピロリン酸鉄(III)、風味剤、甘味剤(ステビア)、パルミチン酸ビタミンA、ナイアシンアミド、ビタミンD3、パントテン酸カルシウム、硫酸マンガン、硫酸銅、ピリドキシン塩酸塩、チアミン塩酸塩、ベータカロテン、リボフラビン、塩化クロム、葉酸、ビオチン、ヨウ化カリウム、フィトナジオン、亜セレン酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、ビタミンB12から製造される。
【0129】
当該組成物は、良質なタンパク質源、低脂肪、ビタミン、ミネラル、および抗酸化物質を含み、FODMAP基準を満たす、栄養補助食品を提供する。さらに、当該組成物は、有益な腸内細菌の成長を促進し、腸のバリア機能を改善することができる2’-FLおよびDFLを含む。
【0130】
実施例4-カプセル組成物
充填マシンを用いて、約1gの2’-FLおよびDFLを000ゼラチンカプセルに充填してカプセルを製造する。次いでカプセルを閉じる。2’-FLおよびDFLは、自由流動可能な粉末形態である。