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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】水力機械のステーベーン補修方法
(51)【国際特許分類】
   F03B 3/16 20060101AFI20241225BHJP
【FI】
F03B3/16
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022004183
(22)【出願日】2022-01-14
(65)【公開番号】P2023103575
(43)【公開日】2023-07-27
【審査請求日】2024-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】角谷 利恵
(72)【発明者】
【氏名】中川 斉年
(72)【発明者】
【氏名】新井 友樹
(72)【発明者】
【氏名】長濱 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】梅田 成実
(72)【発明者】
【氏名】関口 徹
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-086182(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0259384(US,A1)
【文献】米国特許第5134774(US,A)
【文献】米国特許第6077615(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水力機械のステーベーンに形成された損傷部を補修するための水力機械のステーベーン補修方法であって、
前記損傷部を凹状に除去して凹部を形成する損傷部除去工程と、
前記凹部内に肉盛溶接を行い、前記ステーベーンの表面よりも膨出した膨出部を有する内部肉盛部を形成する内部肉盛工程と、
前記内部肉盛部のうち前記膨出部を除去する膨出部除去工程と、
前記膨出部除去工程の後、前記内部肉盛部の表面に対してハンマー式のピーニング処理を行う内部ピーニング工程と、
前記内部ピーニング工程の後、前記内部肉盛部の表面に、前記内部肉盛部よりも耐食性を有する材料で肉盛溶接を行い、耐食肉盛部を形成する耐食肉盛工程と、
前記耐食肉盛部の表面に対してハンマー式のピーニング処理を行う耐食肉盛部ピーニング工程と、を備えた、水力機械のステーベーン補修方法。
【請求項2】
前記内部ピーニング工程において、ピーニング処理は、前記内部肉盛部の表面に対して行われるとともに、前記内部肉盛部の周囲における前記ステーベーンの母材の表面に対して行われる、請求項1に記載の水力機械のステーベーン補修方法。
【請求項3】
前記耐食肉盛部ピーニング工程において、ピーニング処理は、前記耐食肉盛部の表面に対して行われるとともに、前記耐食肉盛部の周囲における前記ステーベーンの母材の表面に対して行われる、請求項1または2に記載の水力機械のステーベーン補修方法。
【請求項4】
前記耐食肉盛工程において、前記耐食肉盛部は、前記内部肉盛部の表面に形成されるとともに、前記内部肉盛部の周囲における前記ステーベーンの母材の表面に形成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の水力機械のステーベーン補修方法。
【請求項5】
前記耐食肉盛工程の後であって前記耐食肉盛部ピーニング工程の前に、前記耐食肉盛部の止端部に対して残留応力低減処理を行う止端部処理工程を更に備えた、請求項1~4のいずれか一項に記載の水力機械のステーベーン補修方法。
【請求項6】
前記内部肉盛工程は、
第1溶接ビード層をなす第1溶接ビードを形成する第1層形成工程と、
前記第1溶接ビード層の表面に対してハンマー式のピーニング処理を行う第1層ピーニング工程と、
前記第1層ピーニング工程の後、前記第1溶接ビード層に積層された第2溶接ビード層をなす第2溶接ビードを形成する第2層形成工程と、を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の水力機械のステーベーン補修方法。
【請求項7】
前記内部肉盛部は、前記ステーベーンの母材と同一の材料で構成される、請求項1~6のいずれか一項に記載の水力機械のステーベーン補修方法。
【請求項8】
前記内部ピーニング工程の後の前記内部肉盛部の残留応力、および前記耐食肉盛部ピーニング工程の後の前記耐食肉盛部の残留応力のうちの少なくとも1つを計測する計測工程を更に備えた、請求項1~7のいずれか一項に記載の水力機械のステーベーン補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、水力機械のステーベーン補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フランシス水車等の水力機械においては、ケーシングからガイドベーンを介してランナに流入する水流を整流するためにステーベーンが設けられている。ステーベーンは、ケーシングとガイドベーンとの間に配置されており、ランナの周方向に複数配列されている。各ステーベーンは、ケーシングに固定されている。より具体的には、ケーシングに、上板および下板が溶接して固定されている。各ステーベーンは、上板と下板との間に介在されて、上板および下板にそれぞれ溶接して固定されている。ステーベーンは一般的に炭素鋼で製造されており、表面には塗装が施されている。
【0003】
ステーベーンの周囲には、水車運転中にキャビテーションが発生し得る。キャビテーションが発生すると、塗装が剥離される。このため、ステーベーンに壊食が発生し、ステーベーンが損傷を受ける場合がある。
【0004】
ケーシング、上板および下板は、コンクリートに埋設されている。このことにより、ステーベーンに壊食が発生した場合であっても、ステーベーンを交換することは困難になっている。このため、ステーベーンの壊食箇所は、グラインダ等で削ることにより補修する場合がある。しかしながら、この場合、ステーベーンの表面形状および板厚を復元することができない。
【0005】
このことに対処するために、溶接補修を行うことが考えられる。この場合、壊食箇所に肉盛溶接を行い、ステーベーンの表面形状および板厚を復元することができる。しかしながら、上述したように、ステーベーンは、コンクリートに埋設されたケーシングに固定されている。このため、溶接後に発生する残留応力を低減するための熱処理を行うことが困難であり、補修後のステーベーンの信頼性が問題になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開昭57-184270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実施の形態は、このような点を考慮してなされたものであり、溶接補修後のステーベーンの信頼性を向上させることができる水力機械のステーベーン補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施の形態による水力機械のステーベーン補修方法は、水力機械のステーベーンに形成された損傷部を補修するための方法である。水力機械のステーベーン補修方法は、損傷部除去工程と、内部肉盛工程と、膨出部除去工程と、内部ピーニング工程と、耐食肉盛工程と、耐食肉盛部ピーニング工程と、を備えている。損傷部除去工程において、損傷部が凹状に除去されて凹部が形成される。内部肉盛工程において、凹部内に肉盛溶接が行われ、ステーベーンの表面よりも膨出した膨出部を有する内部肉盛部が形成される。膨出部除去工程において、内部肉盛部のうち膨出部が除去される。内部ピーニング工程において、膨出部除去工程の後、内部肉盛部の表面に対してハンマー式のピーニング処理が行われる。耐食肉盛工程において、内部ピーニング工程の後、内部肉盛部の表面に、内部肉盛部よりも耐食性を有する材料で肉盛溶接が行われ、耐食肉盛部が形成される。耐食肉盛部ピーニング工程において、耐食肉盛部の表面に対してハンマー式のピーニング処理が行われる。
【発明の効果】
【0009】
実施の形態によれば、溶接補修後のステーベーンの信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施の形態による水力機械の全体構成を示す縦断面図である。
図2図2は、図1のステーベーンを水流の方向で見た断面図である。
図3図3は、本実施の形態による水力機械のステーベーン補修方法において、損傷部除去工程を説明するための模式断面図である。
図4図4は、本実施の形態による水力機械のステーベーン補修方法において、第1層形成工程を説明するための模式断面図である。
図5図5は、本実施の形態による水力機械のステーベーン補修方法において、第1層ピーニング工程を説明するための模式断面図である。
図6図6は、本実施の形態による水力機械のステーベーン補修方法において、第2層形成工程を説明するための模式断面図である。
図7図7は、本実施の形態による水力機械のステーベーン補修方法において、第2層ピーニング工程を説明するための模式断面図である。
図8図8は、本実施の形態による水力機械のステーベーン補修方法において、膨出部形成工程を説明するための模式断面図である。
図9図9は、本実施の形態による水力機械のステーベーン補修方法において、膨出部除去工程を説明するための模式断面図である。
図10図10は、本実施の形態による水力機械のステーベーン補修方法において、内部ピーニング工程を説明するための模式断面図である。
図11図11は、本実施の形態による水力機械のステーベーン補修方法において、耐食肉盛工程を説明するための模式断面図である。
図12図12は、本実施の形態による水力機械のステーベーン補修方法において、耐食肉盛部の止端部を示す模式断面図である。
図13図13は、図12に示す止端部にTigドレッシングを行った状態を示す模式断面図である。
図14図14は、図13に示す止端部を、グラインダ整形した状態を示す模式断面図である。
図15図15は、本実施の形態による水力機械のステーベーン補修方法において、耐食肉盛部ピーニング工程を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態における水力機械のステーベーン補修方法について説明する。水力機械のステーベーン補修方法は、水力機械のステーベーンに形成された損傷部を補修するための方法である。
【0012】
まず、図1図3を用いて、本実施の形態による水力機械およびステーベーンについて説明する。本実施の形態では、水力機械の一例として、フランシス水車を例にとって説明する。
【0013】
図1に示すように、フランシス水車1は、水車運転時に上池から水圧鉄管(いずれも図示せず)を通って水が流入する渦巻き状のケーシング2と、複数のステーベーン3と、複数のガイドベーン4と、ランナ5と、を備えている。このうちステーベーン3は、ケーシング2からランナ5に流入する水流を整流するための部材である。ステーベーン3は、周方向に所定の間隔をあけて配列され、周方向に隣り合うステーベーン3同士の間には、水が流れる流路が形成されている。ガイドベーン4は、周方向に所定の間隔あけて配列され、周方向に隣り合うガイドベーン4同士の間には、水が流れる流路が形成されている。また、各ガイドベーン4は回動可能に構成されており、ランナ5に流入する水の流量が調整可能になっている。このようにして、後述する発電機(図示せず)の発電量が調整可能になっている。
【0014】
ランナ5は、ケーシング2に対して回転軸線Xを中心に回転可能に構成されている。水車運転時には、ケーシング2から流入する水流によってランナ5は回転駆動される。すなわち、ランナ5は、ランナ5に流入する水の圧力エネルギを回転エネルギへと変換するための部材である。
【0015】
ランナ5には、主軸6を介して発電機(図視せず)が連結されている。この発電機は、水車運転時には、ランナ5の回転エネルギが伝達されて発電を行うように構成されている。
【0016】
ランナ5の水車運転時の下流側には、吸出し管7が設けられている。この吸出し管7は、図示しない下池または放水路に連結されており、ランナ5を回転駆動させた水が、圧力を回復して、図示しない下池または放水路に放出されるようになっている。
【0017】
なお、フランシス水車1は、ポンプ水車としてポンプ運転(揚水運転)することが可能であってもよい。この場合、発電機は、電動機としての機能をも有し、電力が供給されることによりランナ5を回転駆動するように構成される。このことにより、吸出し管7を介して下池の水を吸い上げて上池に放出させることができ、ポンプ運転することが可能になる。この際、ガイドベーン4の開度は、ポンプ揚程に応じて適切な揚水量になるように変えられる。
【0018】
図1および図2に示すように、ケーシング2に、上板8および下板9が溶接して固定されている。上板8および下板9は、リング状に形成されている。各ステーベーン3は、上板8と下板9との間に介在されて、上板8および下板9にそれぞれ溶接して固定されている。上板8および下板9は、図1に示すように、ケーシング2とともにコンクリートCに埋設されている。
【0019】
水車運転時には、上板8および下板9が、流入する水流の圧力を受ける。このことにより、上板8は上方を向く圧力を受け、下板9は下方を向く圧力を受け、これにより、ステーベーンには引張荷重が作用する。この引張荷重に対しては、ステーベーン3を厚くすることで、応力を低減させることは可能である。この場合、水流の流路が狭くなり、水流に発生する圧力損失などの損失が増大し得る。このため、ステーベーン3の厚みは、強度上許容可能な最小限の厚みに制限され、ステーベーン3には、許容応力に近い応力が生じ得る。
【0020】
一方、フランシス水車1の水車運転中、ステーベーン3の周囲にキャビテーションが発生し得る。また、フランシス水車1がポンプ水車として構成されている場合には、ポンプ運転中にも、ステーベーン3の周囲にキャビテーションが発生し得る。例えば、ポンプ運転の起動時には、ステーベーン3にジェット水が衝突する。すなわち、ポンプ運転の起動時には、ガイドベーン4の開度が小さいため、周方向に隣り合うガイドベーン4の間の小さな隙間から、水がジェット水となって噴出する。ジェット水がステーベーン3の周囲を通過することにより、ステーベーン3の近傍にキャビテーションが発生し得る。
【0021】
キャビテーションが発生すると、ステーベーン3に壊食が発生し、損傷部20(図3参照)が形成される。損傷部20は、水車運転時にステーベーン3に生じる応力のうち最も高い応力が生じる箇所に発生する傾向にある。
【0022】
本実施の形態による水力機械のステーベーン補修方法は、上述したような壊食などで発生した損傷部20を補修するための方法である。以下、図3図15を用いて、本実施の形態による水力機械のステーベーン補修方法(以下、単に補修方法と記す)について、説明する。
【0023】
本実施の形態による補修方法は、損傷部除去工程と、内部肉盛工程と、膨出部除去工程と、内部ピーニング工程と、耐食肉盛工程と、耐食肉盛部ピーニング工程と、を備えていてもよい。
【0024】
[損傷部除去工程]
損傷部除去工程は、図3に示すように、損傷部20を凹状に除去して凹部21を形成する工程である。
【0025】
より具体的には、図3に示すように、ステーベーン3に形成された損傷部20が除去される。この際、損傷部20よりも広い平面領域であって、損傷部20よりも深くなるように、凹部21が形成されてもよい。このことにより、損傷部20の表面が残らないように凹部21が形成される。凹部21は、例えば、グラインダを用いて損傷部20の周囲を削ることにより形成されてもよい。
【0026】
[内部肉盛工程]
損傷部除去工程の後、内部肉盛工程が行われる。内部肉盛工程は、凹部21内に肉盛溶接を行い、ステーベーン3の表面3aよりも膨出した膨出部31を有する内部肉盛部30を形成する工程である。内部肉盛部30は、ステーベーン3の母材と同一の材料で構成されていてもよい。
【0027】
内部肉盛工程は、第1層形成工程と、第1層ピーニング工程と、第2層形成工程と、第2層ピーニング工程と、膨出部形成工程と、を含んでいてもよい。
【0028】
(第1層形成工程)
まず、図4に示すように、第1層形成工程が行われる。第1層形成工程は、凹部21内で肉盛溶接を行い、第1溶接ビード層32をなす第1溶接ビード33を形成する工程である。
【0029】
より具体的には、図4に示すように、所定方向に延びるように複数の第1溶接ビード33が形成される。複数の第1溶接ビード33は、第1溶接ビード33の長手方向(図4における紙面に垂直な方向)に直交する方向(図4における左右方向)に配列されて、第1溶接ビード層32を構成している。互いに隣り合う第1溶接ビード33同士は、部分的に重なり合っていてもよい。凹部21内に形成される第1溶接ビード33の本数は、複数であることに限られない。
【0030】
各第1溶接ビード33の材料は、ステーベーン3の母材と同一の材料で構成されていてもよい。この場合、第1層形成工程において用いられる溶接棒(図示せず)は、ステーベーン3の母材の材料と同一の材料で構成されている。
【0031】
(第1層ピーニング工程)
第1層形成工程の後、図5に示すように、第1層ピーニング工程が行われる。第1層ピーニング工程は、第1溶接ビード層32の表面32aに対してハンマー式のピーニング処理を行う工程である。ハンマー式のピーニング処理は、ハンマーで表面を叩くことにより表面に圧縮応力を付与する処理である。ハンマー式のピーニング処理の例としては、ハンマーを圧縮空気で駆動するエアハンマー式のピーニング処理と、ハンマーを電動駆動する電動ハンマー式のピーニング処理とが挙げられる。
【0032】
第1溶接ビード層32の表面32aに対してハンマー式のピーニング処理を行うことにより、表面32aに圧縮応力が付与される。このことにより、表面32aに溶接時の入熱によって残留していた引張応力を低減したり、引張応力を微小な圧縮応力に変えたりすることができる。この結果、第1溶接ビード層32の変形を抑制することができる。ピーニング工具100は、表面32aをハンマーで叩くことにより局所的に圧縮応力を付与しながら、表面32aに沿って移動させる。このことにより、第1溶接ビード層32の表面32a全体にわたって、ハンマー式のピーニング処理を行うことができる。第1層ピーニング工程におけるピーニング処理の範囲は、凹部21の範囲に相当し、図5に示す範囲R1で示される。
【0033】
(第2層形成工程)
第1層ピーニング工程の後、図6に示すように、第2層形成工程が行われる。第2層形成工程は、第1溶接ビード層32に積層された第2溶接ビード層34をなす第2溶接ビード35を形成する工程である。
【0034】
より具体的には、図6に示すように、所定方向に延びるように複数の第2溶接ビード35が形成される。複数の第2溶接ビード35は、第2溶接ビード35の長手方向(図6における紙面に垂直な方向)に直交する方向(図6における左右方向)に配列されて、第2溶接ビード層34を構成している。互いに隣り合う第2溶接ビード35同士は、部分的に重なり合っていてもよい。凹部21内に形成される第2溶接ビード35の本数は、複数であることに限られない。
【0035】
第2溶接ビード35は、第1溶接ビード33の長手方向に直交する方向に延びるように形成されてもよく、第2溶接ビード35の長手方向や配列方向は任意である。また、図6においては、第1溶接ビード33の位置に合わせて第2溶接ビード35が形成されている例を示しているが、これに限られることはなく、互いに隣り合う第1溶接ビード33の間の境界の上方に第2溶接ビード35が形成されるように、第2溶接ビード35を第1溶接ビード33に対してずれた位置に形成してもよい。
【0036】
各第2溶接ビード35の材料は、第1溶接ビード33の材料と同一であってもよい。
【0037】
(第2層ピーニング工程)
第2層形成工程の後、図7に示すように、第2層ピーニング工程が行われる。第2層ピーニング工程は、第2溶接ビード層34の表面34aに対してハンマー式のピーニング処理を行う工程である。第2層ピーニング工程は、第1層ピーニング工程と同様に行われてもよい。このことにより、表面34aに圧縮応力が付与されて、表面34aに溶接時の入熱によって残留していた引張応力を低減したり、引張応力を微小な圧縮応力に変えたりすることができる。このため、第2溶接ビード層34の変形を抑制することができる。第2層ピーニング工程におけるピーニング処理の範囲は、凹部21の範囲に相当し、図7に示す範囲R1で示される。
【0038】
(膨出部形成工程)
第2層ピーニング工程の後、図8に示すように、第1層形成工程および第2層形成工程と同様にして、複数の溶接ビード層が形成される。1つまたは複数の溶接ビード層を形成することにより、ステーベーン3の母材の表面3aよりも膨出した膨出部31が形成される。凹部21は、溶接ビードで充填される。複数の溶接ビード層が形成される場合には、最上層の溶接ビード層以外の溶接ビード層に対して、上述した第1層ピーニング工程等と同様にして、ハンマー式のピーニング処理が行われてもよい。
【0039】
このようにして、本実施の形態による内部肉盛部30が形成される。
【0040】
[膨出部除去工程]
内部肉盛工程の後、図9に示すように、膨出部除去工程が行われる。膨出部除去工程は、内部肉盛部30のうち上述した膨出部31を除去する工程である。より具体的には、内部肉盛部30の表面30aがステーベーン3の表面3aと連続するように、ステーベーン3の表面3aから膨出した膨出部31が除去される。膨出部31は、例えば、グラインダを用いて削ることにより除去されてもよい。
【0041】
[内部ピーニング工程]
膨出部除去工程の後、図10に示すように、内部ピーニング工程が行われる。内部ピーニング工程は、内部肉盛部30の表面30aに対してハンマー式のピーニング処理を行う工程である。
【0042】
より具体的には、図10に示すように、第1層ピーニング工程等と同様に、内部肉盛部30の表面30aに対してハンマー式のピーニング処理が行われてもよい。このことにより、表面30aに圧縮応力が付与され、表面30aに、膨出部31の除去によって残留していた引張応力を低減したり、引張応力を圧縮応力に変えたりすることができる。この結果、内部肉盛部30の変形を抑制することができる。ピーニング工具100は、表面30aをハンマーで叩くことにより局所的に圧縮応力を付与しながら、表面30aに沿って移動させる。このことにより、内部肉盛部30の表面30a全体にわたって、ハンマー式のピーニング処理を行うことができる。
【0043】
ピーニング処理は、内部肉盛部30の表面30aの全体に対して行われるとともに、内部肉盛部30の周囲におけるステーベーン3の母材の表面3aに対して行われてもよい。内部ピーニング工程におけるピーニング処理の範囲は、図10に示す範囲R2で示される。範囲R2は、上述した範囲R1よりも広く、凹部21の周囲を含む範囲に相当している。
【0044】
[耐食肉盛工程]
内部ピーニング工程の後、図11に示すように、耐食肉盛工程が行われる。耐食肉盛工程は、内部肉盛部30の表面30aに肉盛溶接を行い、耐食肉盛部40を形成する工程である。耐食肉盛工程における肉盛溶接は、内部肉盛部30よりも耐食性を有する材料で行われる。耐食肉盛部40は、内部肉盛部30よりも水に対する耐食性を有する材料で構成されていてもよい。例えば、耐食肉盛部40は、ステンレスで構成されていてもよい。
【0045】
耐食肉盛部40は、1つ以上の耐食溶接ビード層41で構成されていてもよい。本実施の形態においては、2層の耐食溶接ビード層41によって耐食肉盛部40が構成されている。耐食溶接ビード層41は、1つ以上の耐食溶接ビード42で形成されていてもよい。本実施の形態においては、耐食溶接ビード層41は、複数の耐食溶接ビード42で形成されている。
【0046】
より具体的には、図11に示すように、所定方向に延びるように複数の耐食溶接ビード42が形成される。複数の耐食溶接ビード42は、耐食溶接ビード42の長手方向(図11における紙面に垂直な方向)に直交する方向(図11における左右方向)に配列されて、1つの耐食溶接ビード層41を構成している。互いに隣り合う耐食溶接ビード42同士は、部分的に重なり合っていてもよい。表面ビードの本数は、複数であることに限られない。
【0047】
このように構成された耐食溶接ビード層41が2層構成となって、本実施の形態による耐食肉盛部40が形成される。なお、複数の耐食溶接ビード層41が形成される場合には、最上層の耐食溶接ビード層41以外の耐食溶接ビード層41に対して、上述した第1層ピーニング工程等と同様にして、ハンマー式のピーニング処理が行われてもよい。
【0048】
耐食肉盛部40は、内部肉盛部30の表面30aに形成されるとともに、内部肉盛部30の周囲におけるステーベーン3の母材の表面3aにも形成されていてもよい。
【0049】
耐食肉盛部40は、ステーベーン3の母材の表面3aよりも膨出するように形成される。表面3aからの耐食肉盛部40の高さは、水車運転時またはポンプ運転時のステーベーン3の周囲の水の流れに発生する損失を許容可能な高さであってもよい。
【0050】
各耐食溶接ビード42の材料は、耐食性を有していてもよい。例えば、各耐食溶接ビード42は、ステンレスで構成されていてもよい。この場合、耐食肉盛部形成工程において用いられる溶接棒(図示せず)は、ステンレスで構成されている。
【0051】
[止端部処理工程]
耐食肉盛工程の後、止端部処理工程が行われる。止端部処理工程は、耐食肉盛部40の止端部43に対して残留応力低減処理を行う工程である。止端部処理工程は、ドレッシング工程と、グラインダ工程と、を含んでいてもよい。止端部43とは、図12に示すように、耐食溶接ビード層41のうち、耐食溶接ビード42とステーベーン3の母材との間の境界に接する部分を意味する。
【0052】
(ドレッシング工程)
まず、図13に示すように、ドレッシング工程が行われる。ドレッシング工程は、止端部43をTigドレッシング処理する工程である。Tigドレッシング処理は、Tigトーチ110で止端部43を再溶融して、止端部43を、丸みを帯びる形状に修正する処理である。止端部43を再溶融する際には、溶接棒などでの材料の供給は行われなくてよい。このようにして、止端部43に溶接の入熱によって残留していた引張応力を低減または除去することができ、止端部43の変形を防止することができる。
【0053】
(グラインダ工程)
ドレッシング工程の後、図14に示すように、グラインダ工程が行われる。グラインダ工程は、止端部43を、グラインダで滑らかな形状に削る工程である。このことにより、止端部43の形状を、滑らかにすることができる。このため、止端部43における応力集中を緩和し、止端部43の変形を防止することができる。
【0054】
[耐食肉盛部ピーニング工程]
止端部処理工程の後、図15に示すように、耐食肉盛部ピーニング工程が行われる。耐食肉盛部ピーニング工程は、耐食肉盛部40の表面40aに対してハンマー式のピーニング処理を行う工程である。
【0055】
より具体的には、図15に示すように、第1層ピーニング工程等と同様に、耐食肉盛部40の表面40aに対してハンマー式のピーニング処理が行われてもよい。このことにより、表面40aに圧縮応力が付与され、表面40aに溶接時の入熱によって残留していた引張応力を低減したり、引張応力を圧縮応力に変えたりすることができる。この結果、耐食肉盛部40の変形を抑制することができる。ピーニング工具100は、表面40aをハンマーで叩くことによりに局所的に圧縮応力を付与しながら、表面40aに沿って移動させる。このことにより、耐食肉盛部40の表面40a全体にわたって、ハンマー式のピーニング処理を行うことができる。
【0056】
ピーニング処理は、耐食肉盛部40の表面40aの全体に対して行われるとともに、耐食肉盛部40の周囲におけるステーベーン3の母材の表面3aに対して行われてもよい。耐食肉盛部ピーニング工程におけるピーニング処理の範囲は、図15に示す範囲R3で示される。範囲R3は、上述した範囲R2よりも広く、耐食肉盛部40の周囲を含む範囲に相当している。
【0057】
このようにして、ステーベーン3のうち損傷部20が補修される。
【0058】
[計測工程]
耐食肉盛部ピーニング工程の後、計測工程が行われてもよい。計測工程は、耐食肉盛部40の残留応力を計測する工程であってもよい。残留応力は、歪みゲージを用いて計測してもよく、またはX線を用いて計測してもよい。計測された残留応力が、所望の基準値以下である場合、計測工程を終了してもよい。
【0059】
計測された残留応力が所望の基準値以下である場合、本実施の形態による補修方法を終了してもよい。残留応力が基準値を超える場合には、再度、耐食肉盛部ピーニング工程を行うようにしてもよい。
【0060】
なお、計測工程は、内部ピーニング工程および耐食肉盛部ピーニング工程のうちの少なくとも1つの工程の後に行われてもよい。内部ピーニング工程の後の計測工程では、内部肉盛部30の残留応力が計測される。計測された残留応力が基準値を超える場合には、再度、内部ピーニング工程を行うようにしてもよい。さらに、計測工程は、第1層ピーニング工程、第2層ピーニング工程、内部ピーニング工程および耐食肉盛部ピーニング工程のうちの少なくとも1つの工程の後に行われてもよい。第1層ピーニング工程の後の計測工程では、第1溶接ビード層32の残留応力が計測され、計測された残留応力が基準値を超える場合には、再度、第1層ピーニング工程を行うようにしてもよい。第2層ピーニング工程の後の計測工程では、第2溶接ビード層34の残留応力が計測され、計測された残留応力が基準値を超える場合には、再度、第2層ピーニング工程を行うようにしてもよい。
【0061】
このように本実施の形態によれば、ステーベーン3の損傷部20に形成された凹部21に内部肉盛部30が形成され、内部肉盛部30のうち膨出部31が除去される。続いて、内部肉盛部30の表面30aに対して、ハンマー式のピーニング処理が行われる。このことにより、内部肉盛部30に残留していた引張応力を低減することができる。その後、内部肉盛部30の表面30aに、耐食肉盛部40が形成され、耐食肉盛部40の表面40aに対して、ハンマー式のピーニング処理が行われる。このことにより、耐食肉盛部40に残留していた引張応力を低減することができる。このため、残留応力を低減しながら、損傷部20を補修することができる。この結果、溶接補修後のステーベーン3の信頼性を向上させることができる。
【0062】
また、本実施の形態によれば、耐食肉盛部40は、内部肉盛部30よりも耐食性を有する材料で構成される。このことにより、内部肉盛部30が腐食することを防止でき、溶接補修後のステーベーン3の信頼性を向上させることができる。
【0063】
また、本実施の形態によれば、内部ピーニング工程において、ピーニング処理は、内部肉盛部30の表面30aに対して行われるとともに、内部肉盛部30の周囲におけるステーベーン3の母材の表面3aに対して行われる。このことにより、溶接時の入熱によってステーベーン3の表面3aに残留していた引張応力を低減することができる。このため、溶接補修後のステーベーン3の信頼性を向上させることができる。
【0064】
また、本実施の形態によれば、耐食肉盛部ピーニング工程において、ピーニング処理は、耐食肉盛部40の表面40aに対して行われるとともに、耐食肉盛部40の周囲におけるステーベーン3の母材の表面3aに対して行われる。このことにより、溶接時の入熱によってステーベーン3の表面3aに残留していた引張応力を低減することができる。このため、溶接補修後のステーベーン3の信頼性を向上させることができる。
【0065】
また、本実施の形態によれば、耐食肉盛部40は、内部肉盛部30の表面30aに形成されるとともに、内部肉盛部30の周囲におけるステーベーン3の母材の表面3aにも形成される。このことにより、内部肉盛部30が耐食肉盛部40から露出されることを防止できる。このため、内部肉盛部30の腐食をより一層防止することができ、溶接補修後のステーベーン3の信頼性を向上させることができる。
【0066】
また、本実施の形態によれば、耐食肉盛工程の後であって耐食肉盛部ピーニング工程の前に、耐食肉盛部40の止端部43に対して残留応力低減処理が行われる。このことにより、止端部43に残留していた引張応力を低減することができる。このため、溶接補修後のステーベーン3の信頼性を向上させることができる。
【0067】
また、本実施の形態によれば、内部肉盛工程は、第1層形成工程と、第1層ピーニング工程と、第2層形成工程と、を含んでいる。第1層形成工程では、第1溶接ビード層32をなす第1溶接ビード33が形成され、第1層ピーニング工程では、第1溶接ビード層32の表面32aに対してハンマー式のピーニング処理が行われる。第2層形成工程では、第1溶接ビード層32に積層された第2溶接ビード層34をなす第2溶接ビード35が形成される。このことにより、第2溶接ビード層34を形成する前に、第1溶接ビード層32の表面32aに対してピーニング処理を行うことができ、第1溶接ビード層32に残留していた引張応力を低減することができる。このため、内部肉盛部30が複数の溶接ビード層で形成される場合であっても、内部肉盛部30の内部の残留応力を低減することができ、溶接補修後のステーベーン3の信頼性を向上させることができる。
【0068】
また、本実施の形態によれば、内部肉盛部30は、ステーベーン3の母材と同一の材料で構成される。このことにより、内部肉盛部30の機械的強度を、母材の強度と同一とすることができ、溶接補修後のステーベーン3の機械的強度を確保することができる。
【0069】
また、本実施の形態によれば、内部ピーニング工程の後の内部肉盛部30の残留応力、および耐食肉盛部ピーニング工程の後の耐食肉盛部40の残留応力のうちの少なくとも1つが計測される。このことにより、内部ピーニング工程の後に計測工程を行う場合には、内部肉盛部30の残留応力が低減していることを確認することができる。耐食肉盛部ピーニング工程の後に計測工程を行う場合には、耐食肉盛部40の残留応力が低減していることを確認することができる。このため、溶接補修後のステーベーン3の信頼性を向上させることができる。
【0070】
以上述べた実施の形態によれば、溶接補修後のステーベーンの信頼性を向上させることができる。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、当然のことながら、本発明の要旨の範囲内で、これらの実施の形態を、部分的に適宜組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0072】
1:フランシス水車、3:ステーベーン、3a:表面、20:損傷部、21:凹部、30:内部肉盛部、30a:表面、31:膨出部、32:第1溶接ビード層、32a:表面、33:第1溶接ビード、34:第2溶接ビード層、35:第2溶接ビード、40:耐食肉盛部、40a:表面、43:止端部
図1
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