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特許7610614複数の個別粒子ビームを独立して集束させる多重極レンズ配列を有する粒子ビームシステム、その使用、及び関連する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】複数の個別粒子ビームを独立して集束させる多重極レンズ配列を有する粒子ビームシステム、その使用、及び関連する方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/12 20060101AFI20241225BHJP
   H01J 37/153 20060101ALI20241225BHJP
   H01J 37/28 20060101ALN20241225BHJP
【FI】
H01J37/12
H01J37/153 B
H01J37/28 B
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2022556177
(86)(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-08
(86)【国際出願番号】 EP2021025102
(87)【国際公開番号】W WO2021185481
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】102020107738.6
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】520284322
【氏名又は名称】カール ツァイス マルチセム ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225543
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 真
(72)【発明者】
【氏名】ディルク プライクスツァーズ
(72)【発明者】
【氏名】ハンス フリッツ
(72)【発明者】
【氏名】アンドラーシュ ゲー マイヨール
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-065117(JP,A)
【文献】特開2000-243337(JP,A)
【文献】特開2008-091827(JP,A)
【文献】特開2008-210571(JP,A)
【文献】特表2009-531855(JP,A)
【文献】特開2015-032380(JP,A)
【文献】特開2015-106518(JP,A)
【文献】特開2015-111571(JP,A)
【文献】特表2018-513543(JP,A)
【文献】特表2018-520495(JP,A)
【文献】特開2019-204694(JP,A)
【文献】特表2019-506006(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0025241(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0362928(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/12
H01J 37/153
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子ビームシステムであって、
複数の荷電個別粒子ビーム(3)を生成するよう構成されたマルチビーム粒子源と、
少なくとも1つの第1多重極レンズアレイ(601)及び少なくとも1つの第2多重極レンズアレイ(602)を有する多重極レンズ配列(600)であり、
前記第1多重極レンズアレイ(601)は、第1四重極場(Q1)を発生させる複数の個別に調整可能な第1多重極レンズを含むと共に、前記個別粒子ビーム(3)が前記第1多重極レンズアレイ(601)を実質的に通過するように粒子のビーム経路に配置され、且つ
前記第2多重極レンズアレイ(602)は、第2四重極場(Q2)を発生させる複数の個別に調整可能な第2多重極レンズを含むと共に、前記第1多重極レンズアレイ(601)を通過する前記個別粒子ビーム(3)が前記第2多重極レンズアレイ(602)も実質的に通過するように粒子のビーム経路に配置され、
同じ前記個別粒子ビーム(3)がそれぞれ通過する異なる多重極レンズアレイ(601、602)に属する多重極レンズの配列により、多重極レンズ群が形成される、
多重極レンズ配列(600)と、
各多重極レンズ群の多重極レンズの配列が、前記異なる多重極レンズアレイ(601、602)を通過する前記個別粒子ビーム(3)それぞれに対して、前記個別粒子ビーム(3)の主軸(Z)に対して直交する第1方向(x)並びに前記第1方向(x)及び前記主軸(Z)に対して直交する第2方向(y)における集束効果を及ぼすように、前記第1多重極レンズアレイ(601)における第1四重極場(Q1)の発生と、前記第2多重極レンズアレイ(602)における第2四重極場(Q2)の発生とを、前記多重極レンズ群ごとに制御するよう構成されるコントローラ(10)と、
を備え
前記主軸(Z)に対して平行に各多重極レンズ群に入る前記個別粒子ビーム(3)の成分が、全体として集束されて前記主軸(Z)上の焦点(f)で合流し、前記成分は、前記個別粒子ビーム(3)の前記第1方向(x)及び前記第2方向(y)における前記主軸(Z)からのずれを示す、粒子ビームシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記第1四重極場(Q1)の四重極及び前記第2四重極場(Q2)の四重極は、相互に対して実質的に90°回転した向きを有し且つ/又は実質的に同じ振幅を有する粒子ビームシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記第1多重極レンズアレイ(601)及び/又は前記第2多重極レンズアレイ(602)は、四重極レンズアレイを含む粒子ビームシステム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、
前記多重極レンズ配列(600)は、第3多重極レンズアレイ(603)を含み、
該第3多重極レンズアレイ(603)は、第3四重極場(Q3)を発生させる複数の個別に調整可能な第3多重極レンズを含み、且つ前記第1多重極レンズアレイ(601)を通過する前記個別粒子ビーム(3)が前記第3多重極レンズアレイ(603)も実質的に通過するように前記第1多重極レンズアレイ(601)と前記第2多重極レンズアレイ(602)との間の粒子のビーム経路に配置され、
前記コントローラ(10)はさらに、同じ前記個別粒子ビーム(3)がそれぞれ通過する前記多重極レンズ配列の多重極レンズが、そこを通過する前記個別粒子ビーム(3)それぞれに対して、焦点面(B)での前記個別粒子ビーム(3)の結像に実質的に歪みがないような効果を全体として及ぼすように、前記多重極レンズを制御するよう構成される粒子ビームシステム。
【請求項5】
請求項4に記載の粒子ビームシステムにおいて、
前記第1多重極レンズアレイ(601)及び前記第2多重極レンズアレイ(602)の四重極は、実質的に同じ向き及び実質的に同じ振幅を有し、
前記第3多重極レンズアレイ(603)の四重極は、前記第1及び第2四重極に対して約90°回転した向きを有し、且つ前記第3四重極の振幅は、前記第1及び第2四重極の振幅よりも大きく、より詳細には前記第1及び第2四重極の振幅の約2倍である粒子ビームシステム。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の粒子ビームシステムにおいて、
前記多重極レンズ配列(600)は第4多重極レンズアレイ(604)を含み、
該第4多重極レンズアレイ(604)は、第4四重極場(Q4)を発生させるための複数の個別に調整可能な第4多重極レンズを含むと共に、前記第1多重極レンズアレイ(601)を通過する前記個別粒子ビーム(3)が前記第4多重極レンズアレイ(603)も実質的に通過するように前記第1多重極レンズアレイ(601)と前記第2多重極レンズアレイ(602)との間の粒子のビーム経路に配置され、且つ
前記コントローラ(10)は、前記多重極レンズ配列の前記多重極レンズが、そこを通過する前記個別粒子ビーム(3)それぞれに対して、該個別粒子ビーム(3)の結像に実質的に歪みがないような効果を全体として及ぼすように、前記多重極レンズを制御するよう構成される粒子ビームシステム。
【請求項7】
請求項4に記載の粒子ビームシステムにおいて、
前記多重極レンズ配列(600)は第4多重極レンズアレイ(604)を含み、
該第4多重極レンズアレイ(604)は、第4四重極場(Q4)を発生させるための複数の個別に調整可能な第4多重極レンズを含むと共に、前記第1多重極レンズアレイ(601)を通過する前記個別粒子ビーム(3)が前記第4多重極レンズアレイ(603)も実質的に通過するように前記第1多重極レンズアレイ(601)と前記第2多重極レンズアレイ(602)との間の粒子のビーム経路に配置され、且つ
前記コントローラ(10)は、前記多重極レンズ配列の前記多重極レンズが、そこを通過する前記個別粒子ビーム(3)それぞれに対して、該個別粒子ビーム(3)の結像に実質的に歪みがないような効果を全体として及ぼすように、前記多重極レンズを制御するよう構成され、
前記第1多重極レンズアレイ(601)及び前記第2多重極レンズアレイ(602)の前記四重極は、相互に対して実質的に90°回転した向きを有し且つ実質的に同じ振幅を有し、
前記第3多重極レンズアレイ(603)及び前記第4多重極レンズアレイ(604)の前記四重極は、相互に対して実質的に約90°回転した向きを有し且つ実質的に同じ振幅を有し、
前記四重極の極性の配列は交互であり、且つ
前記第3及び第4四重極の振幅は、それぞれ前記第1及び第2四重極の振幅よりも大きく、より詳細にはそれぞれ前記第1及び第2四重極の振幅の約3倍である粒子ビームシステム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、少なくとも1つの多重極レンズアレイ(601、602、603、604)は八重極レンズアレイを含む粒子ビームシステム。
【請求項9】
請求項8に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記コントローラ(10)は、八重極電極が発生させた電場が2つの四重極場の重畳をもたらすように八重極レンズを制御するよう構成され、前記重畳により、前記四重極場の一方、特に該四重極場のうち強い方に対して前記個別粒子ビーム(3)の主軸(Z)周りに回転した四重極場が実質的に得られる粒子ビームシステム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記コントローラ(10)は、多重極電極が発生させた電場が四重極場と少なくとも1つの双極場との重畳をもたらすように前記多重極レンズを制御するよう構成され、前記四重極場に関する前記重畳により、個々の前記多重極レンズの幾何軸から変位した四重極場が得られる粒子ビームシステム。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記八重極レンズアレイの八重極レンズの全ての電極が同じサイズ及び形状を有する粒子ビームシステム。
【請求項12】
請求項8~10のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記八重極レンズアレイの八重極レンズの電極の少なくともいくつかが異なるサイズ及び/又は異なる形状を有する粒子ビームシステム。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、少なくとも1つの多重極レンズアレイ(601、602、603、604)が双極レンズアレイを含む粒子ビームシステム。
【請求項14】
請求項13に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記多重極レンズ配列(600)は、以下の場配列:
双極場-四重極場-さらに別の四重極場-最初の双極場とは異なる向き、特に実質的に逆平行の向きを有するさらに別の双極場
を生成する多重極レンズアレイ(601、602、603、604)を含む粒子ビームシステム。
【請求項15】
請求項13に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記多重極レンズ配列(600)は、以下の場配列:
四重極場(Q1)-相互に異なる向きを有する少なくとも2つの双極場(D1、D2)、特に2つの実質的に逆平行の双極場-四重極場(Q2)
を生成する多重極レンズアレイ(601、602、603、604)を含む粒子ビームシステム。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記マルチビーム粒子源は、
荷電粒子ビームを生成するよう構成された少なくとも1つの粒子源(301)と、
複数の開口(A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7)を有し、且つ粒子の少なくとも一部が複数の個別粒子ビーム(3)の形態で前記開口(A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7)を通過するように粒子のビーム経路に配置された多孔プレート(380、390)と
を含む粒子ビームシステム。
【請求項17】
請求項16に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記多孔プレート(390)の前記開口(A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7)の少なくともいくつかは楕円形の断面を有する粒子ビームシステム。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、
複数の集束粒子レンズを含み且つ前記多重極レンズ配列(600)を通過する前記個別粒子ビーム(3)を実質的に通過させるように粒子のビーム経路に配置された円形レンズアレイ(385)
をさらに備え、該円形レンズアレイ(385)の前記集束粒子レンズは多重極レンズではない粒子ビームシステム。
【請求項19】
請求項18に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記円形レンズアレイ(385)は、粒子のビーム経路で前記多重極レンズ配列(600)の下流に配置され、システムは、
粒子のビーム経路で前記多重極レンズ配列(600)の上流に配置されたコンデンサレンズ系(303)
をさらに備える粒子ビームシステム。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記コントローラ(10)は、前記個別粒子ビーム(3)の焦点(323)が凹状領域に位置付けられるように前記個別粒子ビーム(3)に効果を及ぼし、前記凹状領域は、前記個別粒子ビーム(3)の下流に向かって凹状に窪んでいる粒子ビームシステム。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、同じ電圧を印加される多重極レンズの電極用の結合電源がある粒子ビームシステム。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、ビームエネルギーが約10keVの場合、前記多重極レンズ配列(600)の電極に印加される電圧はそれぞれ100V未満である粒子ビームシステム。
【請求項23】
像面湾曲補正のための請求項1~22のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムの使用。
【請求項24】
傾斜非点収差の補正のための請求項1~22のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムの使用。
【請求項25】
マルチビーム粒子顕微鏡(1)であって、請求項1~22のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムを備えたマルチビーム粒子顕微鏡。
【請求項26】
請求項1~22のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムの像面湾曲補正の方法であって、
多重極レンズ配列(600)により、複数の個別粒子ビーム(3)の、特に全ての粒子ビームの焦点距離を個別に設定するステップ
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の粒子ビームで動作する粒子ビームシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
シングルビーム粒子顕微鏡と同様に、マルチビーム粒子顕微鏡を用いて、微視的スケールで物体を分析することができる。これらの粒子顕微鏡を用いて、例えば物体の表面を表すその物体の画像を記録することができる。このようにして、例えば表面の構造を分析することができる。シングルビーム粒子顕微鏡では、例えば電子、陽電子、ミュオン、イオン等の荷電粒子の単独の粒子ビームを用いて物体を分析するが、マルチビーム粒子顕微鏡では、複数の粒子ビームをこの目的で用いる。束とも称する複数の粒子ビームを同時に物体の表面に指向させる結果として、同じ期間内に走査し分析できる物体の表面の面積は、シングルビーム粒子顕微鏡に比べて大幅に大きい。
【0003】
特許文献1は、平行な電子ビーム束を用いて検査対象の物体を走査するために複数の電子ビームを用いて動作する電子顕微鏡システムの形態の多粒子ビームシステムを開示している。電子ビーム束は、電子源により生成された電子ビームを、複数の開口を有する多孔プレートに向けることによって生成される。電子ビームの電子の一部は多孔プレートに入射してそこに吸収され、ビームのうち別の部分は多孔プレートの開口を通過するので、各開口の下流のビーム経路で電子ビームが整形され、この電子ビームの断面は開口の断面により規定される。さらに、適切に選択された電界が多孔プレートの上流及び/又は下流のビーム経路に与えられることにより、多孔プレートの各開口がその開口を通過する電子に対してレンズとして働くので、多孔プレートから離れて位置する平面に電子ビームが集束するという効果がある。電子ビームの焦点が形成される平面は、下流の光学ユニットにより検査対象の物体の表面に結像され、個々の電子ビームが一次ビームとして集束して物体に入射する。そこで、物体から生じる後方散乱電子又は二次電子等の相互作用生成物が生成され、これらが二次ビームを形成するように整形されてさらに別の光学ユニットにより検出器に指向される。検出器では、各二次ビームが別個の検出器素子に入射し、当該検出器素子により検出された電子強度が、対応する一次ビームが物体に入射する部位における物体に関する情報を提供する。走査型電子顕微鏡に慣例的な方法で物体の電子顕微鏡写真を生成するために、一次ビーム束は、物体の表面にわたって系統的に走査される。
【0004】
記載の多粒子ビームシステムでは、実際に十分に良好な使用をするには、高分解能及び高スループットが非常に重要である。この場合、生じる様々なタイプの結像収差を大幅に低減することが望ましい。特に多粒子ビームシステムの場合、全ての個別粒子ビームについて高分解能を達成できるように、システムの光軸から離れた結像収差を低減することが特に重要である。
【0005】
用いる個別粒子ビームの数が増えるほど、又は多粒子ビームシステムの視野(FOV)のサイズが大きくなるほど、像面湾曲結像収差の重要性は高まる。像面湾曲の場合、平面に位置付けられた個別粒子ビームの焦点は(凸状の)湾曲領域に結像される。よって、物体面全体には結像が正確に行われず、この結像収差は、システムの光軸から離れて位置付けられた個別粒子ビームほど大きくなる。
【0006】
従来技術は、像面湾曲を低減するための以下の手法を既に開示している。
【0007】
個別粒子ビームがマルチレンズアレイにより生成されると、個別粒子ビームは、円形開孔が異なる直径を有する多孔装置を通過する(特許文献2参照)。具体的には、開孔の直径dは、システムの光軸からの距離が増えるほど、又は中央開孔からの距離が増えるほど大きくなる。直径が大きくなると対応するレンズの屈折力が低下し、個別粒子ビームの焦点距離が長くなる。結果として、開口径が適切に選択された場合は、個別粒子ビームの焦点が凹状湾曲領域に位置付けられ、その結果としてさらなる結像により続いて生成される(凸状の)像面湾曲を補償することができる。しかしながら、その欠点は、粒子ビームシステムの作用点が変わった場合に、マルチレンズアレイの交換なしではこのタイプの補正が機能しないことである。
【0008】
像面湾曲の補正のさらに別の手法は、個別粒子ビーム群の焦点距離を設定するために、マルチレンズアレイを区分けして僅かに異なる電圧をレンズに印加することにある。しかしながら、この手法は、限られた精度しかなく又は近似解しか提示しない。
【0009】
さらに、本特許出願の優先日には未公開であった出願番号第102018007652.1号の独国特許出願(特許文献3)において、本出願人及びより厳密にはその法律上の前権利者は、像面湾曲を補正するための複数の個別に調整可能且つ集束制御可能な粒子レンズを有するマルチレンズアレイの使用を提案している。特許文献3の開示の全体を本願に援用する。ここで、粒子レンズはリング電極を含む。代替として、リング電極の代わりに、四重極又は八重極等の、正確には全電極に同一の電圧が印加された、方位角方向に細分された電極の使用が提案される。
【0010】
特許文献4は、ビーム集束が改善された多粒子ビームシステムを開示している。この目的で、非点収差粒子ビームが四重極レンズにより目標通りに生成され、その結像形状が解析されて、非点収差のないビームの最良の焦点設定に関する結論を引き出すことが可能となる。
【0011】
特許文献5は、粒子ビームに与えられる非点収差を目標通りに適合可能である粒子ビームシステムを開示している。この目的で、相互に対して順次配置された、特に方位角に関して相互に対して45°回転して配置された多重極対が利用される。
【0012】
特許文献6は、四重極場を生成する電磁場発生器を開示している。この装置は、非点収差補償に役立つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開第2005/024881号パンフレット
【文献】米国特許第7,554,094号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2018 007 652号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0287568号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/0309449号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2014 008 083号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、多粒子システムにおける複数の個別粒子ビームに対する独立したレンズ効果又は集束設定の改良された選択肢を提供することである。特に、低電圧を用いて複数の個別粒子ビームに対する独立したレンズ効果又は集束設定を提供することが目的である。さらなる目的は、複数の個別粒子ビームに対する独立したレンズ効果をより効果的に提供すること、並びにより大きな屈折力及びより短い焦点距離の集束設定を提供することである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、多粒子ビームシステムに対する像面湾曲補正の改良された選択肢を提供することである。この目的は、独立特許請求項により達成される。本発明の有利な実施形態は、従属特許請求項から明らかである。
【0016】
本特許出願は、独国特許出願第10 2020 107 738.6号の優先権を主張し、その開示の全範囲を参照により本特許出願に援用する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
例えば像面湾曲補正のための複数の個別粒子ビームの独立した集束のために、本発明は、個別に制御可能であり且つそれぞれが特定の向きの四重極場を発生させる少なくとも2つの多重極アレイを有する多重極配列を初めて用いる。原理上、これらの四重極場は、電気若しくは磁気四重極場、又は電気-磁気の組み合わせからなり得る。しかしながら、多重極アレイ内の小さな空間にある複数の多重極の場合、技術的観点から良好に実施できるのは電気多重極のみであり、又は容易に発生させることができるのは電気四重極場のみである。したがって、以下では、電気多重極、多重極アレイ、又は多重極場のみを検討する。しかしながら、原理上、全ての記載を磁気又は電気-磁気実施形態にも適用することができる。
【0018】
原理上、個別レンズと同じ粒子光学結像は、上記四重極場によりもたらすことができる。しかしながら、本発明による実現には、例えば像面湾曲補正のために複数の個別粒子ビームを独立して集束させる目的で、著しく低い電圧で動作を実行することができるという利点がある。個別ビーム誘導の範囲内のさらなる補正又はさらなる結像収差の補正のための、四重極場とさらに他の多重極場との組み合わせも単純な方法で可能である。
【0019】
具体的には、第1態様によれば、本発明は、粒子ビームシステムであって、
複数の荷電個別粒子ビームを生成するよう構成されたマルチビーム粒子源と、
少なくとも1つの第1多重極レンズアレイ及び少なくとも1つの第2多重極レンズアレイを有する多重極レンズ配列であり、
第1多重極レンズアレイは、第1四重極場を発生させる複数の個別に調整可能な第1多重極レンズを含むと共に、個別粒子ビームが第1多重極レンズアレイを実質的に通過するように粒子のビーム経路に配置され、且つ
第2多重極レンズアレイは、第2四重極場を発生させる複数の個別に調整可能な第2多重極レンズを含むと共に、第1多重極レンズアレイを通過する個別粒子ビームが第2多重極レンズアレイも実質的に通過するように粒子のビーム経路に配置される、
多重極レンズ配列と、
同じ個別粒子ビームが通過する多重極レンズ配列の関連する多重極レンズ群が、そこを通過する各個別粒子ビームに対して、個別に調整可能な集束効果を全体として及ぼすように、多重極レンズ配列の多重極レンズを制御するよう構成されたコントローラと
を備えた粒子ビームシステムに関する。
【0020】
荷電粒子は、例えば電子、陽電子、ミュオン若しくはイオン、又は他の荷電粒子であり得る。好ましくは、荷電粒子は、例えば熱電界放出源(TFE)を用いて生成された電子である。しかしながら、他の粒子源を用いることもできる。
【0021】
本発明によれば、少なくとも1つの粒子源が設けられるが、複数の粒子源を設けることもできる。本発明の好ましい実施形態によれば、多粒子源は、この場合、荷電粒子ビームを生成するよう構成された少なくとも1つの粒子源と、複数の開口、より詳細には円形開口を有する多孔プレートであり、粒子の少なくとも一部が複数の個別粒子ビームの形態で多孔プレートの開口を通過するように粒子のビーム経路に配置された多孔プレートとを含み得る。
【0022】
本発明の中心概念は、特定の多重極レンズ配列の提供及び特定のその制御により実現される。多重極は、双極、四重極、八重極、又はより高次の多重極を意味すると理解される。ここで、多重極レンズ配列は、少なくとも1つの第1多重極レンズアレイ及び少なくとも1つの第2多重極レンズアレイを含む。しかしながら、3つ、4つ、5つ、6つ、又はそれ以上の多重極レンズアレイを設けることもできる。この場合、配列という用語は、多重極レンズアレイが個別粒子ビームのビーム経路に連続して、好ましくは直接連続して配置されることを示す。しかしながら、他の光学素子又はコンポーネントが、多重極レンズ配列の種々の多重極レンズアレイ間に位置してもよい。重要なのは、必ずしも単一の多重極レンズアレイではなく、配列を用いて、コントローラにより所望の集束効果を設定できることである。
【0023】
原理上、多重極レンズアレイの個々の多重極レンズは、同じアレイ内で同じ構造を有し得る。多重極レンズ配列が同じ構造の複数の多重極レンズアレイを含むことも可能である。この場合、多重極レンズアレイの開口は、アレイに規則的に配置されることが好ましい。例として、アレイの多重極レンズを正方形又は矩形に配置ことが可能である。しかしながら、アレイの開口又は多重極レンズの配置は六角形であることが好ましい。つまり、個別粒子ビームが、例えば61個又は91個の個別粒子ビームを有する六角形構造に従って(nを自然数として、一般式3n(n-1)+1に従って)配置され、この配置が多重極レンズアレイにも幾何学的に設けられる。
【0024】
ここで重要なのは、第1四重極場を発生させる複数の個別に調整可能な第1多重極レンズが、第1多重極レンズアレイにより設けられることである。これらの四重極場は、四重極レンズを用いて発生させることができる。しかしながら、発生用の多重極レンズは、例えば適宜制御される八重極であることも可能である。この点で、重要な側面は、レンズの構造的構成ではなく、レンズを用いた四重極場の発生である。1つ又は複数の他の場、特に多重極場を四重極場のそれぞれに重畳することも可能である。
【0025】
第1多重極レンズアレイ及び第2多重極レンズアレイは、粒子ビームシステムに直接連続して配置することができる。しかしながら、他の多重極レンズアレイ又は他の光学コンポーネントを第1多重極レンズアレイと第2多重極レンズアレイとの間に配置することもできる。
【0026】
第1多重極レンズアレイ及び第2多重極レンズアレイのそれぞれが同じ数の多重極レンズを有することが可能である。しかしながら、数は異なっていてもよい。好ましい場合、個別粒子ビームは、第1多重極レンズアレイの全ての多重極レンズ及び第2多重極レンズアレイの全ての多重極レンズを通過する。ここで、異なる多重極レンズアレイに属する多重極レンズ配列の多重極レンズを組み合わせて群にすることができる。ここで、同じ個別粒子ビームがそれぞれ通過する異なる多重極レンズアレイの多重極レンズにより、群が形成される。よって、群の数は、この場合は各多重極レンズアレイの多重極レンズの数と同一である。
【0027】
次に、本発明によれば、コントローラは、同じ個別粒子ビームがそれぞれ通過する多重極レンズ配列の関連する多重極レンズ群が、そこを通過する各個別粒子ビームに対して、個別に調整可能な集束効果を全体として及ぼすように、多重極レンズ配列の多重極レンズを制御するよう構成される。よって、多重極レンズ群を用いて、1つの個別粒子ビームがそれぞれ個別に影響を受け集束される。個別粒子ビームの集束は、個別粒子ビームが2つの異なる向きの四重極場を通過することにより可能となる。原理上、単一レンズ又は円形レンズと同様に2つの四重極場を用いることで、同様の集束効果を得ることができることが知られている。軸方向に平行な粒子ビームの集束の場合、原則として光軸Zからのずれが低減される。ここで、四重極場が粒子又は粒子ビームに及ぼす影響は、粒子又は粒子ビームが進む又は延びる光軸からの位置によって異なる。したがって、中心が光軸上に位置付けられる又は光軸に沿って延びる単一の四重極場が用いられる場合、集束は第1方向でのみ実行され得る(例えば、軸からのx方向のずれの補正のみ又は軸からのy方向のずれの補正のみ)。しかしながら、第2四重極場がこのとき同様にシステムの光軸上に第1四重極場に続いて異なる向きで配置される場合、これが第1方向に対して直交する第2方向の集束も実施し得る。
【0028】
本発明の好ましい実施形態によれば、第1四重極場の四重極及び/又は第2四重極場の四重極は、実質的に相互に対して90°回転した向きを有し、且つ実質的に同じ振幅を有する。四重極の場合、90°回転した向きは、四重極の電極に対する電圧構成の反転に対応する。
【0029】
発明の一変形実施形態によれば、2つの四重極間の向きは正確に90°回転しており、つまりこの場合は、四重極ができる限り正確な向きにされる。しかしながら、正確には、90°からのずれに明確な利点がある場合には、向きの回転が正確に90°ではない可能である。例として、これは、多重極レンズ配列の前に強い磁気レンズ効果、例えばコンデンサレンズ系がある場合である。この磁気レンズの磁場は、その場合、多重極レンズ配列に作用し、個別粒子ビームは磁場でラーモア回転を受ける。その結果として生じる誤差は、第1及び第2四重極場の四重極の向きを相互に対して回転させることにより補正することができる。
【0030】
個別レンズ又は円形レンズに比べると、順次配置された四重極場の使用の利点は、集束効果に必要な多重極レンズの電極における電圧を、個別レンズ又は円形レンズを使用した場合よりも大幅に低く選択できることである。例示的なビームエネルギーである10keVでは、集束に必要な電圧の通常の絶対値は1000Vを超え、例えば-1250Vである。これに対して、四重極が用いられる場合、同じビームエネルギーでの集束電圧は約50Vにすぎない。これは、多重極レンズへの電源の範囲内で総合的に有利である。
【0031】
本発明のさらに別の実施形態によれば、第1多重極レンズアレイ及び/又は第2多重極レンズアレイは、四重極レンズアレイを含む。したがって、多重極レンズ毎に4つの静電電極が設けられ、当該静電電極は同一の構成を有することが好ましい。好ましくは構造的観点から、四重極において2つの電極がそれぞれ正確に同じ電圧を有するべきなので、例えば、同じ電圧源を用いて同じ極性又は電圧を電極に供給することが可能である。よって、寄生的な双極場が最小限となるできる限り純粋な四重極場を発生させるために、電源に関して対向電極を相互に結合することが可能である。別個の電源で対向電極に供給すると、個々の電源の変動又は雑音に起因して、振幅に変動がある又は雑音が多いこうした寄生的な双極場が生じ得る。同じ電圧の電極を結合するというこの概念は、より高次の多重極にも同様に当てはまる。
【0032】
本発明のさらに別の実施形態によれば、多重極レンズ配列は第3多重極レンズアレイを含み、第3多重極レンズアレイは、第3四重極場を発生させる複数の個別に制御可能な第3多重極レンズを含み、且つ第1多重極レンズアレイを通過する個別粒子ビームが第3多重極レンズアレイも実質的に通過するように第1及び第2多重極レンズアレイ間の粒子のビーム経路に配置され、コントローラはさらに、同じ個別粒子ビームがそれぞれ通過する多重極レンズ配列の多重極レンズが、そこを通過する個別粒子ビームそれぞれに対して、焦点面での個別粒子ビームの結像に実質的に歪みがないような効果を全体として及ぼすように、これらの多重極レンズを制御するよう構成される。よって、この変形実施形態を用いて結像品質をさらにまた向上させることができる。2つの四重極場のみが用いられる場合、原則として所望の集束は歪んだ形でしか達成されないが(円形の入力ビームが楕円形の出力ビームに変わる)、合計3つの四重極場を用いた場合は歪みのない集束を達成することができる(円形の入力ビームが円形の出力ビームに変わる)。拡大像視野の転送時には、例えばx方向及びy方向の倍率は同じとなるが、粒子源のみが結像されるので、像視野についての観察は理論上のものである。
【0033】
さらに別の区別の基準は、多重極の励起を変えずに集束する時の多重極レンズの挙動である。例として、平行に入射する粒子ビームは、例えば粒子のビーム経路で多重極レンズの上流に位置するコンデンサレンズ系の屈折力を減らすことにより、僅かに発散して入射する粒子ビームに変わる。これにより、両方の実施形態で、すなわち2つ若しくは3つのマルチレンズアレイ又は2つ若しくは3つの四重極場を有する多重極レンズ配列の場合に、四重極から離れる焦点面の変位が生じる。しかしながら、2つの四重極場を有する実施形態では新たな焦点面で非点収差が生じる一方で、3つの四重極場を有する実施形態で生じるのは歪みだけである。
【0034】
第3多重極レンズアレイ及びその構成に関しては、第1多重極レンズアレイ及び第2多重極レンズアレイに関して既に上述したものが当てはまる。
【0035】
本発明によれば、第1、第2、及び第3多重極レンズアレイが、対応して生成された四重極場と共に個別粒子ビームの集束に用いられる場合、本発明の好ましい実施形態によれば、第1及び第2多重極レンズアレイの四重極が実質的に同じ向き及び実質的に同じ振幅を有すると共に、第3多重極レンズアレイの四重極が第1及び第2四重極に対して約90°回転した向きを有するようになっており、第3四重極の振幅は、第1及び第2四重極の各振幅よりも大きく、より詳細には第1及び第2四重極の各振幅の約2倍である。代替として、第3四重極の効果の増大は、振幅は不変のまま軸方向にその長さを2倍すること(又はそれらの任意の組み合わせ)により達成することもできる。よって、多重極レンズアレイの電源の制御は、3つの多重極レンズアレイの場合は、多重極レンズアレイが2つしかない場合とは全体として異なる。しかしながら、ここでも当てはまるのは、個別粒子ビームに対する効果が、適当な電源により、又は同じ群の多重極レンズの、すなわち同じ個別粒子ビームが通過するような多重極レンズの制御により得られることである。製造上の観点から有利であるため、多重極配列の全ての多重極の長さは同じであるのが好ましい。これは、本発明のこの実施形態及び他の全ての実施形態に当てはまる。ここで、多重極の長さ(以下では多重極の厚さとも称する)は、多重極軸Zの方向のその大きさを意味すると理解されたい。
【0036】
本発明のさらに別の実施形態によれば、多重極レンズ配列は第4多重極レンズアレイを含む。原理上、構造の点で第1、第2、及び第3多重極レンズアレイに関して既に説明したことがこの第4多重極レンズアレイにも当てはまる。第4多重極レンズアレイも同様に、第4四重極場を発生させる目的で複数の個別に調整可能な第4多重極レンズを含む。ここで、第4多重極レンズアレイは、第1多重極レンズアレイを通過する個別粒子ビームが第4多重極レンズアレイも実質的に通過するように、第1及び第2多重極レンズアレイ間の粒子のビーム経路に配置される。さらに、コントローラは、多重極レンズ配列の多重極レンズが、多重極レンズ配列の多重極レンズを通過する各個別粒子ビームに対して、個別粒子ビームの結像に実質的に非点収差がないような効果を全体として及ぼすように、多重極レンズ配列の、すなわちこの場合は第1、第2、第3、及び第4多重極レンズアレイを有する多重極レンズ配列の多重極レンズを制御するよう構成される。よって、同じ個別粒子ビームが通過する関連多重極レンズ群により、個別粒子ビーム毎に所望の効果又は所望の結像がこの場合も達成される。よって、第4多重極レンズアレイ又はこれが発生させる第4四重極場を用いて、結像品質をさらに向上させることができる。3つの四重極を有する実施形態のように、結像は無収差であり歪みがない。しかしながら、さらに、四重極の一定の励起での集束中に、変位した焦点面に歪みがなくなる。したがって、4つの適当に切り換えられる四重極場が用いられる場合、軸方向距離において達成される結像を、円形レンズによる線形近似の結像と区別できなくなる。
【0037】
4つの多重極レンズアレイを有する多重極レンズ配列が集束に用いられる場合、好ましくは、第1及び第2多重極レンズアレイの四重極が相互に対して実質的に90°回転した向きを有し且つ実質的に同じ振幅を有し、第3及び第4多重極レンズアレイの四重極が相互に対して実質的に約90°回転した向きを有し且つ実質的に同じ振幅を有し、四重極の向きの配列は交互であり、第3及び第4四重極の振幅は、それぞれ第1及び第2四重極の振幅よりも大きく、より詳細にはそれぞれ第1及び第2四重極の振幅の約3倍である。ビームエネルギーが10keVの場合、典型的な値は、外側四重極で±22V、内側四重極で±66Vである。代替として、例えば、結果として同じ電源又は少なくとも同じ構造の電源を用いることができるように、外側四重極の振幅を増大して軸方向のその長さを短縮することが可能である。したがってここでも、全体として必要な集束電圧は、単一レンズに必要な集束電圧よりも大幅に低い。必要な電圧に関するさらなる詳細は、以下でより詳細に説明する。
【0038】
本発明のさらに別の実施形態によれば、少なくとも1つの多重極レンズアレイは八重極レンズアレイを含む。ここで、この多重極レンズアレイは、上述のような第1、第2、第3、及び/又は第4多重極レンズアレイ又はさらに別の多重極レンズアレイとすることもできる。ここで重要なのは、八重極レンズの電極が適宜制御される場合、八重極レンズアレイを用いて四重極場を発生させることもできることである。さらに、8つの電極が八重極レンズにある場合、適当な制御により2つの重畳した四重極又は四重極場を発生させることもできる。したがって、四重極場又は全体的に得られる四重極場の向きは、八重極レンズを用いて変えることができる。
【0039】
本発明の好ましい実施形態によれば、コントローラは、八重極電極が発生させた電場が2つの四重極場の重畳をもたらすように八重極レンズを制御するよう構成され、この重畳により、四重極場の一方、より詳細には四重極場の強い方に対して個別粒子ビームの主軸周りに僅かに回転した四重極場が実質的に得られる。この場合も、特に安定した場を発生させるために、同じ電圧を印加すべき八重極の電極が共通の電圧源による供給を受けることができる。
【0040】
本発明の好ましい実施形態によれば、コントローラは、多重極電極が発生させた電場が四重極場及び双極場の重畳となるように、多重極レンズを制御するよう構成される。ここで、多重極レンズは例えば八重極レンズであり得る。既に記載したように、四重極場に平行に入る粒子は、軸に向かって又は軸から離れて偏向される。多重極の幾何軸に対してオフセットして四重極場に入る、粒子軌跡を中心とした粒子ビームも同様に偏向される。振幅及び向きの選択が正しい場合、重畳された双極場はこの偏向を補償することができ、四重極場に関するこの重畳は、単一の多重極レンズの幾何軸から変位した四重極場をもたらす。よって、四重極場の粒子光軸及び多重極レンズの幾何軸は一致しなくなる。
【0041】
追加の双極場が1つの四重極場でしか発生しなければ、これは粒子が多重極レンズの中心を通る場合に一方向の偏向をもたらす。これに対して、2つの多重極レンズアレイで四重極場に加えて双極場が発生する場合、2方向で2点の偏向を、したがって双極場が相互に対して逆平行の向きの場合(正確な向きは外部磁場の存在、例えばコンデンサレンズに応じて変わる)は個別粒子ビーム全体の平行オフセットをマルチレンズの通過時に達成することができる。
【0042】
上述の四重極場及び双極場の重畳は、四重極レンズの場合と、八重極レンズ又はさらに多数の極を有する多重極レンズの場合との両方で成功する。しかしながら、ここで、本方法に従って必要とされる四重極場は電気的に変位及び回転され得るので、四重極レンズよりも八重極レンズが有利である。これは、さらに多数の極を有する多重極レンズにも当てはまるが、その際には技術的経費がさらに大きくなる。
【0043】
本発明のさらに別の実施形態によれば、八重極レンズアレイの八重極レンズの全ての電極が同じサイズ及び形状を有する。これにより、八重極レンズアレイの特に単純な製造が可能となる。
【0044】
しかしながら、代替として、八重極レンズアレイの八重極レンズの電極の少なくともいくつかが異なるサイズ及び/又は形状を有することもできる。電極の形状及びサイズは、電極が発生させる電場に影響を及ぼす。例として、四重極場を発生させる電極が大きい場合、ここで発生する四重極場が優位になる。これに対して、それらの間に配置された残りの電極が小さい場合、遮蔽効果の結果、それが発生させる電場は弱い。さらに、例えば電極が円形形状からずれていると、他の電場形状を目標通りに生じさせることができる。
【0045】
本発明のさらに別の実施形態によれば、少なくとも1つの多重極レンズアレイが双極レンズアレイを含む。ここで、これらは、より高次の多重極レンズが発生させた双極場だけでなく、真の双極レンズである。これは、原則として本特許出願の範囲内に非常に当てはまる。特定の多重極レンズに言及する場合、この多重極レンズは対応する数の電極も有する。これに対して、場に言及する場合、この場は、多重極レンズの電極がどのように制御されるかに応じて異なるタイプの多重極レンズにより生成され得る。
【0046】
本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、多重極レンズ配列は、以下の場配列を生成する多重極レンズアレイを含む:四重極場-相互に対して異なる向きの少なくとも2つの双極場、特に2つの実質的に逆平行の双極場-四重極場。このような配置を用いて、個別粒子ビームを2つの四重極場の通路間で光軸と平行にオフセットさせることができる。
【0047】
本発明の代替的な実施形態によれば、多重極レンズ配列は、以下の場配列を生成する多重極レンズアレイを含む:
双極場-四重極場-さらに別の四重極場-最初の双極場とは異なる向き、特に実質的に逆平行の向きを有するさらに別の双極場。
【0048】
本発明の好ましい実施形態によれば、マルチビーム粒子源は、荷電粒子ビームを生成するよう構成された少なくとも1つの粒子源と、複数の開口を有し、且つ粒子の少なくとも一部が複数の個別粒子ビームの形態で開口を通過するように粒子のビーム経路に配置された多孔プレートとを含む。よって、個別粒子ビームは、多孔プレートにより最初に生成される。概して、多孔プレートの開口は、所望の最適なビーム径に対応するために、円形である。しかしながら、本発明の別の実施形態によれば、多孔プレートの開口の少なくともいくつか、好ましくは光軸上の中心に配置された開口以外の全ての開口が、楕円形の断面を有することも可能である。開口の楕円形の断面のサイズ及び向きが適当に選択されている場合、その後の非対称性を歪んだ粒子ビームの形態で生成することが可能である。個別粒子ビームが多孔プレートの中央開口を通過する場合、この中央開口は断面の楕円形ではなく円形の実施形態を有するのが得策である。全体的に、多孔プレートの開口の楕円率は、多孔プレートの中心又は多孔プレートの中央円形開口から離れるほど大きくなる。楕円の中心と多孔プレートの中心との間の関連を考えた場合、中心を通る楕円の長軸は、多孔プレートの中心から径方向に楕円の中心を通過する光線に対して直交又は平行である。別の表現をすると、楕円の短軸は、多孔プレートの中心から径方向に向いているか、又はこの方向に直交する向きである。
【0049】
多孔プレートの開口の典型的な開口径は、d≦150μm、特にd≦50μm及び/又はd≦10μmである。
【0050】
本発明のさらに別の実施形態によれば、粒子ビームシステムは、複数の集束粒子レンズを含み且つ多重極レンズ配列を通過する個別粒子ビームを実質的に通過させるように粒子のビーム経路に配置された円形レンズアレイをさらに備え、円形レンズアレイの集束粒子レンズは多重極レンズではない。その代わりに、これは例えば個別レンズであり得る。上記円形レンズアレイは、多くの粒子ビームシステムで、特にマルチビーム粒子顕微鏡で既に用いられている。この円形レンズアレイを本発明による多重極レンズ配列と組み合わせた場合、既存のシステムの像面湾曲を補正することができる。さらに、この配置構成は焦点位置を補正する働きをするだけであり、それ自体では個別粒子ビームを集束させる働きをしないので、この場合、多重極レンズアレイにより生じる集束効果は比較的弱い。しかしながら、これも同様に可能であろう。
【0051】
本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、円形レンズアレイは、粒子のビーム経路で多重極レンズ配列の下流に配置され、システムは、粒子のビーム経路で多重極レンズ配列の上流に配置されたコンデンサレンズ系をさらに備える。全体として、これにより、コンデンサレンズ系-多重極レンズ配列-円形レンズアレイの配列が得られる。コンデンサレンズ系は、通常は1つ又は複数の磁気コンデンサレンズを含み、その磁場は、多重極レンズ配列の領域で個別粒子ビームの荷電粒子に依然として作用する。しかしながら、既に上述したように、多重極レンズ配列の適当な向きの四重極場により、その結果としてやはり存在するラーモア回転を考慮することができる。
【0052】
個別粒子ビームの生成後に、すなわち、この場合はちなみに多重極レンズアレイ又はマルチレンズアレイとも組み合わせることができる多孔プレートを通過後に、既に述べた結像収差、特に不要な像面湾曲が、粒子光学ビーム経路のそれ以降の進路にわたって生じる。本発明によれば、このとき、コントローラは、個別粒子ビームの焦点が凹状領域に位置付けられるように、個別粒子ビームに効果を及ぼすことが可能である。この凹状のアーチは、結像システムの全ての後続の光学コンポーネントの凸状像面湾曲を正確に補償するように選択され得る。よって、物体面に位置する試料に個別粒子ビームが精密に且つ深い焦点深度で入射することを実現できる。
【0053】
四重極場の集合を用いて円形レンズでの集束と同様の集束を達成する上記方法は、以下のことを共通して含む:四重極場がその想定される強さからずれた場合に非点収差が生じる。このことを利用して、結像システムのさらなる像収差、傾斜束の非点収差を補正することができる。個別粒子ビームの焦点設定が設定され、したがって像視野にわたって変わるデフォーカス(像面湾曲)が補正される方法では、個々の四重極場の強さ及び向きを適合させることにより像視野にわたって変わる非点収差(傾斜束の非点収差)を補正することも可能である。
【0054】
本発明のさらに別の実施形態によれば、同じ電圧を印加される多重極レンズの電極用の結合電源がある。この結合電源の結果として、多重極レンズが発生させた電場の双極成分は、電極用の個別の電源の場合よりも安定する。さらに、小さな空間に収容する必要がある電線が減るので、電極への供給用の電線の配置がより容易になり得る。さらに、異なる多重極レンズアレイに属するが、好ましくは同じ多重極レンズ群に属する多重極レンズの電極は、同じ電圧源によっても結合して供給される。また、この措置は、第1に多重極レンズ配列の製造を簡略化し、第2に僅かな変動又は雑音しかない偏向角でより精密な場形状及び粒子ビームを生成することを可能にする。
【0055】
本発明の好ましい実施形態によれば、ビームエネルギーが約10keVの場合、多重極レンズ配列の電極に印加される電圧はそれぞれ100V未満である。よって、印加電圧は、個別レンズの場合に印加される電圧に比べて非常に低い。
【0056】
本発明の第2態様によれば、本発明は、像面湾曲補正のための上記粒子ビームシステムの使用に関する。多重極レンズ配列の上手く制御することによってここで実現できるのは、上記で既により詳細に説明したように、個別粒子ビームの焦点の位置が凹面上にあり、この表面の曲率がビーム経路のさらに下流で生じる像面湾曲(凸状形態)を正確に補償することである。しかしながら、本発明による粒子ビームシステムは、例えば個別ビーム電流調整の範囲内で、他の目的に用いることもできる。
【0057】
本発明の第3態様によれば、本発明は、傾斜非点収差を補正するための粒子ビームシステムの使用に関する。
【0058】
本発明の第4態様によれば、本発明は、上述の粒子ビームシステムを備えたマルチビーム粒子顕微鏡に関する。ここでも、本発明による粒子ビームシステムによるマルチビーム粒子顕微鏡の像面湾曲補正があり得る。
【0059】
本発明の第5態様によれば、本発明は、例えば上述の粒子ビームシステムの像面湾曲補正のために、複数の個別粒子ビームを独立して集束させる方法であって、多重極レンズ配列により、複数の個別粒子ビームの、特に全ての個別粒子ビームの焦点距離を個別に設定するステップを含む方法に関する。ここで、調整は、個別粒子ビームの焦点、特に全ての個別粒子ビームの焦点が、システムで続いて生じる像面湾曲を補償する曲率を有する凹面に位置付けられるようにも実施される。ここで、焦点距離は、粒子ビームシステムの制御により設定することができる。
【0060】
添付図面を参照して、本発明の理解をさらに促す。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】マルチビーム粒子顕微鏡を概略図で示す。
図2】円形レンズ又はアインツェルレンズによる荷電粒子ビームの(弱い)集束を概略的に示す。
図3】四重極場による荷電粒子ビームの偏向を概略的に示す。
図4】2つの四重極場による荷電粒子ビームの偏向を概略的に示す。
図5図4の図に属する詳細なビーム経路を概略的に示す。
図6】3つの四重極場による荷電粒子ビームの偏向を概略的に示す。
図7図6の図に属する詳細なビーム経路を概略的に示す。
図8】4つの四重極場による荷電粒子ビームの偏向を概略的に示す。
図9図8の図に属する詳細なビーム経路を概略的に示す。
図10】多重極レンズ配列の構造を概略的に示す。
図11】像面湾曲補正のためのマルチビーム粒子顕微鏡の多重極レンズ配列の配置を概略的に示す。
図12】楕円形開口を有する多孔プレートと多重極レンズ配列との組み合わせを概略的に示す。
図13図12に示す楕円形開口を有する多孔プレートの平面図を概略的に示す。
図14】八重極電極配置を有する多重極レンズアレイの一部を概略的に示す。
図15】代替的な八重極電極配置を有する多重極レンズアレイの抜粋を概略的に示す。
図16】四重極場及び双極場を有する多重極レンズ配列の抜粋を概略的に示す。
図17】多重極レンズアレイ用の電源を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
図1は、複数の粒子ビームを用いるマルチビーム粒子顕微鏡1の形態の粒子ビームシステム1の概略図である。粒子ビームシステム1は、検査対象の物体から生じてその後に検出される相互作用生成物、例えば二次電子を生成するために、その物体に入射する複数の粒子ビームを生成する。粒子ビームシステム1は、走査型電子顕微鏡(SEM)タイプであり、複数の位置5で物体7の表面に入射して、相互に空間的に離れた複数の電子ビーム点又はスポットをそこで生成する複数の一次粒子ビーム3を用いる。検査対象の物体7は、任意の所望のタイプ、例えば半導体ウェーハ又は生体試料とすることができ、小型化素子、細密な拡張構造等の配置を含むことができる。物体7の表面は、対物レンズ系100の対物レンズ102の第1平面101(物体面)に配置される。
【0063】
図1の拡大抜粋Iは、第1平面101に形成された入射位置5の正四角形視野103を有する物体面101の平面図を示す。図1において、入射位置の数は25個であり、5×5視野103を形成する。入射位置の数である25は、説明の単純化の理由から選択された数である。原理上、ビームの数、したがって入射位置の数は、それよりも多く、例えば7×7又は10×10、又は大幅に多く、例えば20×30、100×100等になるよう選択することができる。
【0064】
図示の実施形態において、入射位置5の視野103は、隣接する入射位置同士の間が一定のピッチPである実質的に正四角形の視野である。ピッチPの例示的な値は、1マイクロメートル、10マイクロメートル、及び40マイクロメートルである。しかしながら、視野103が他の対称性、例えば六方対称性等を有することも可能である。
【0065】
第1平面101で整形されたビームスポットの直径は小さくなり得る。上記直径の例示的な値は、1ナノメートル、5ナノメートル、10ナノメートル、100ナノメートル、及び200ナノメートルである。ビームスポット5を整形するための粒子ビーム3の集束は、対物レンズ系100により実行される。
【0066】
物体に入射した一次粒子は、相互作用生成物、例えば、二次電子、後方散乱電子、又は他の理由で運動の逆転を起こした一次粒子を生成し、これらは物体7の表面から又は第1平面101から生じる。物体7の表面から生じる相互作用生成物は、対物レンズ102により整形されて二次粒子ビーム9を形成する。粒子ビームシステム1は、複数の二次粒子ビーム9を検出器系200へ誘導する粒子ビーム経路11を提供する。検出器系200は、二次粒子ビーム9を粒子マルチ検出器209へ指向させる投影レンズ205を有する粒子光学ユニットを含む。
【0067】
図1の抜粋Iは、二次粒子ビーム9が位置213で入射される粒子マルチ検出器209の個々の検出領域が位置付けられた平面211の平面図を示す。入射位置213は、相互に対して規則的なピッチPで視野217に置かれる。ピッチPの例示的な値は、10マイクロメートル、100マイクロメートル、及び200マイクロメートルである。
【0068】
一次粒子ビーム3は、少なくとも1つの粒子源301(例えば、電子源)、少なくとも1つのコリメーションレンズ303、多孔装置305、及び視野レンズ307を備えたビーム生成装置300で生成される。粒子源301は、発散粒子ビーム309を生成し、これは、多孔装置305を照射するビーム311を整形するために、コリメーションレンズ303によりコリメート又は少なくとも実質的にコリメートされる。
【0069】
図1の抜粋Iは、多孔装置305の平面図を示す。多孔装置305は、複数の開口又は開孔315が形成された多孔プレート313を含む。開口315の中心点317は、物体面101のビームスポット5により形成された視野103に結像される視野319に配置される。開孔315の中心点317間のピッチPの例示的な値は、5マイクロメートル、100マイクロメートル、及び200マイクロメートルであり得る。開孔315の直径Dは、開孔の中心点間のピッチPより小さい。直径Dの例示的な値は、0.2×P、0.4×P、及び0.8×Pである。
【0070】
照射粒子ビーム311の粒子は、開孔315を通過して、粒子ビーム3を形成する。プレート313に衝突した照射ビーム311の粒子は、プレート313に吸収され、粒子ビーム3の形成に寄与しない。
【0071】
印加される静電界により、多孔装置305は、ビーム焦点323が平面325に形成されるように、粒子ビーム3のそれぞれを集束させる。代替として、ビーム焦点323は仮想的であり得る。ビーム焦点323の直径は、例えば10ナノメートル、100ナノメートル、及び1マイクロメートルであり得る。このとき、以下でより詳細に説明するように、多孔装置305に本発明による多重極配列を補うことができる。
【0072】
視野レンズ307及び対物レンズ102は、ビーム焦点323が形成される平面325を第1平面101に結像することにより入射位置5又はビームスポットの視野103がそこに生じるようにするための第1結像粒子光学ユニットを提供する。物体7の表面が第1平面に配置されている場合、ビームスポットも対応して物体表面に形成される。
【0073】
対物レンズ102及び投影レンズ装置205は、第1平面101を検出平面211に結像するための第2結像粒子光学ユニットを提供する。よって、対物レンズ102は第1及び第2粒子光学ユニット両方の一部であるレンズだが、視野レンズ307は第1粒子光学ユニットのみに属し、投影レンズ205は第2粒子光学ユニットのみに属する。
【0074】
ビームスイッチ400が、多孔装置305と対物レンズ系100との間の第1粒子光学ユニットのビーム経路に配置される。ビームスイッチ400は、対物レンズ系100と検出器系200との間のビーム経路の第2光学ユニットの一部でもある。
【0075】
こうしたマルチビーム粒子ビームシステム及びそこで用いられるコンポーネント、例えば粒子源、多孔プレート、及びレンズ等に関するさらなる情報は、国際特許出願である特許文献1、国際公開第2007/028595号パンフレット、国際公開第2007/028596号パンフレット、国際公開第2011/124352号パンフレット、及び国際公開第2007/060017号パンフレット、並びに独国特許出願第10 2013 016 113号明細書及び独国特許出願第10 2013 014 976号明細書から得ることができ、上記出願の開示の全範囲を参照により本願に援用する。
【0076】
多粒子ビームシステムは、多粒子ビームシステムの個々の粒子光学コンポーネントを制御するよう構成され且つマルチ検出器209により得られた信号を評価及び解析するよう構成されたコンピュータシステム10をさらに備える。この場合、制御は、本発明による多重極レンズ配列の制御も含み得る。この場合、コンピュータシステム10は、複数の個別コンピュータ又はコンポーネントから構成され得る。
【0077】
図2は、円形レンズ又はアインツェルレンズによる荷電粒子ビームの(弱い)集束を概略的に示す。これは、後述する本発明の理解を深める助けとなるはずである。図2は、3つのプレート501、502、及び503からなるアインツェルレンズを示し、各プレートは、この場合、円形の断面及び0.3mmの例示的直径を有する開口を有する。この場合、プレートは、例示的な厚さがそれぞれ0.5mmであり、(中心同士の間を測定して)約1mm離間している。この場合、粒子ビームシステムの光軸Zは、プレート501、502、及び503の開口の中心を通って延びる。ここで、プレート501及び503は同じ電位にある。この電位に対して、プレート502は負の電位-1250Vにある。さらに、ビームエネルギー10keVを基準とする。図2は、軸と平行に装置に入る荷電粒子ビーム3、例えば電子ビームを示す。ビームは、プレート501、502、及び503からなるアインツェルレンズの通過時に、光軸Zの方向に集束される。光軸との交点は図2には示さないが、この例の選択パラメータでは、中央電極502から約100mmの距離に位置する。原則として、集束電圧Vを半分にすると焦点距離は4倍長くなる。絶対値に関して、-1250Vの集束電圧は、約1kVのオーダである。このような円形レンズを1mm以下のピッチでアレイ状に配置する場合、個々の電線をこの狭い空間内で多くの中央電極から電源まで十分に高い絶縁性で導くことは技術的に困難である。しかしながら、個別粒子ビーム3の焦点距離は、原理上は集束電圧を変えることにより個別に設定することができる。
【0078】
これに対して、図3は、第1多重極レンズアレイ601の構成要素である四重極場Q1を通る荷電粒子ビーム3の偏向を概略的に示す。この場合、光軸Zは四重極場Q1の中心を通る。ここでは、軸と平行に四重極場Q1を通って延びる荷電粒子ビーム3が図示されている。四重極場を発生させる四重極レンズも同様に、図2の個別レンズと比較しやすいように、直径0.3mmで厚さ(Z方向に延びる)約0.5mmの開口又は円形ボアを有する。光軸と平行な四重極場Q1を通過する荷電粒子ビーム、この例では電子ビームは、この場合も四重極場Q1から約100mmの距離に集束される。この集束は、四重極場Q1を用いて実施されるものの、一方向についてのみである(図平面内でいずれも同じ軸方向に投影される図中の方向x及びyに分割される)。したがって、四重極場Q1を通過後に、y方向にデフォーカス又は仮想的に集束された荷電粒子ビーム3aを、x方向に集束した荷電粒子ビーム3bとは別個に図3に概略的に示す。しかしながら、この場合もビームエネルギー10keVを基準とする場合、一方向の集束に必要な集束電圧は、このとき僅か±4.5Vである。集束電圧を半分にすると、焦点距離は2倍の長さにしかならない。
【0079】
図4は、2つの四重極場Q1及びQ2による荷電粒子ビーム3の偏向を概略的に示す。四重極場Q1及びQ2は、第1多重極レンズアレイ601及び第2多重極レンズアレイ602を用いてそれぞれ発生され、その一部のみを図4に示す。単一の個別粒子ビーム3の粒子ビームプロファイルのみを図示する。この例では、2つの四重極場Q1及びQ2は、同一の構造を有し、それぞれ直径0.3mmの開口を有し、(中心同士の間を測定して)相互に1mm離間しており、四重極場Q1及びQ2を発生させる多重極レンズは、プレート厚さ0.5mmのプレートをそれぞれ有する。図示の例では、第1四重極場の四重極Q1及び第2四重極場の四重極Q2は、相互に対して実質的に90°回転した向きを有し、実質的に同じ振幅を有する。図示の例では、集束電圧±50Vを用いて、第1四重極Q1の中心から100mmの距離で10keV粒子ビームの集束が得られる。ここで、集束電圧を半分にすると、焦点距離は4倍の長さになる。よって、軸と平行に四重極配列を通過する荷電粒子ビームは、この配置によりx方向及びy方向に集束される。
【0080】
図5は、図4の図に属する詳細なビーム経路を概略的に示す。四重極Q1及びQ2は、光軸Zに沿って位置付けられる。ここで図示するのは、光軸と実質的に平行に入る成分3a及び3bを有するビームであり、上記成分はx方向及びy方向のずれを示すことが意図される。四重極場Q1の通過時に、粒子ビーム3aは最初にデフォーカスされ、粒子ビーム3bの成分は集束される。四重極場Q2の通過時には、条件は逆になり、粒子ビーム3aはこのとき集束され、粒子ビーム3bはデフォーカスされる。しかしながら、軸からの粒子ビーム3aの距離が大きいことにより、上記粒子ビームは以前にデフォーカスされたときよりも強くその際に集束され、対応する又は逆のことが粒子ビーム3bにも当てはまるので、粒子ビーム3a及び3bは両方とも、全体として集束されて光軸Z上の焦点fで合流する。光軸に対して斜めに入射した粒子ビーム3c、3dも同様に、四重極場Q1及びQ2の通過時に異なる方法で偏向される。焦点fを通る光軸Zに対して垂直な平面において、上記粒子ビームは軸から異なる距離を有し、こうした理由で、2つの四重極場Q1及びQ2を用いた結像は、全体的に歪んだ像をもたらす。よって、2つの四重極場Q1及びQ2を用いて生じた結像により、軸と平行なビーム3a、3bの集束が可能だが、これらは歪みに起因して異なる角度で焦点fまで延びる。しかしながら、この結像収差が許容される限り、個別粒子ビーム3毎に焦点距離を個別に設定することが可能である。円形の粒子ビームが四重極場Q1及びQ2の上流で多孔プレート313の円形開口で遮られる場合、楕円形の発散粒子ビームが焦点fの下流で得られる。これに対して、楕円形の粒子ビームが四重極場Q1及びQ2の上流で多孔プレート313の楕円形開口で遮られる場合、楕円形開口の偏心率が適切に選択されていれば、焦点fの下流で円形の発散粒子ビームが得られる。このような円形の発散粒子ビームは、上述の楕円形の発散粒子ビームよりも、下流の対物レンズ系100によって試料7の非常に小さなスポット5に集束されるのに適している。
【0081】
図6は、第1多重極レンズアレイ601、第2多重極レンズアレイ602、及び第3多重極レンズアレイ603を用いて発生させた3つの四重極場Q1、Q3、及びQ2による荷電粒子ビーム3の偏向を概略的に示す。ここで、第3多重極レンズアレイ603は、第1多重極レンズアレイ601と第2多重極レンズアレイ602との間に配置される。多重極レンズアレイ601、602、及び603は、この場合も単一の個別粒子ビーム3に対する抜粋でのみ示す。例示的な図示は、この場合も図3図5の変形実施形態と比較しやすいように選択されている。この場合も、3つの四重極場Q1、Q2、及びQ3は、それぞれ直径0.3mmの開口を有し、プレート厚さは同じく0.5mmであり、個々のプレート又は多重極レンズアレイ601、603、及び602間の各距離は、中心同士の間を測定して、それぞれ1mmである。この場合も中央の四重極Q3の中心から100mmの距離で集束を達成するために、ビームエネルギーが10keVの場合、集束電圧±74Vが内側の四重極Q3に印加され、電圧±37Vが2つの外側の四重極Q1及びQ2に印加される。よって、絶対値に関して、内側の四重極には外側の四重極に比べて約2倍の大きさの電圧が供給される。ここで、四重極Q1、Q3、及びQ2の極性は交互である。
【0082】
図7は、図6の図に属する詳細なビーム経路を概略的に示す。ここで、図5の図及び2つの四重極場の配列のみの場合に比べて、記載した3つの四重極場を使用する場合は結像品質の向上が明らかである。軸と平行な粒子ビーム3a、3bは、この場合も、四重極場Q1、Q3、及びQ2を有する四重極配列の通過時にx方向及びy方向のずれに対して集束され、焦点fで光軸Zと交差する。光軸に対して斜めに入射した粒子ビーム3c、3dも同様に、四重極配列Q1-Q3-Q2の通過時に偏向されて中間像Bの位置で交わるので、こうして得られた像は歪みがない。よって、3つの四重極場を有する多重極レンズ配列を用いれば、少なくとも中間像Bの位置で歪みのない結像を得ることが可能である。焦点fの下流で円形の発散ビームを得るために、四重極場Q1、Q2、及びQ3の上流に位置し得る多孔プレートに楕円形開口は必要なく、代わりに円形開口で十分である。
【0083】
図8は、4つの四重極場Q1~Q4による荷電粒子ビームの偏向を概略的に示す。適切に比較できるようにするために、各四重極Q1~Q4は、この場合も開口径0.3mmであり、関連するプレートは厚さ0.5mmで(中心同士の間を測定して)それぞれお互いから1mmの距離にある。軸と平行に入射した粒子ビームは、四重極Q4の中心から100mmの距離に集束される。ここで、四重極Q1、Q3、Q4、及びQ2の極性は交互に与えられ、四重極Q1及びQ2は絶対値に関してほぼ同じ電圧(振幅)が印加され、四重極Q3及びQ4は同様に絶対値に関してほぼ同じ電圧(振幅)が印加される。ビームエネルギーが10keVの場合、選択された例における内側の四重極Q3及びQ4の集束電圧は±66Vであり、外側の四重極Q1及びQ2の集束電圧は±22Vである。ここでも、集束電圧を半分にすると、焦点距離が4倍になる。
【0084】
図9は、図8の図に属する詳細なビーム経路を概略的に示す。軸と平行に入射した粒子ビーム3a、3bは、同じ角度で同じ点に集束され(すなわち一致し)、軸の方向に対して斜めに入射したビーム3c及び3dでさえも、4つの四重極Q1~Q4の配列を通過後に一致する。よって、各個別粒子ビームは、図示の多重極レンズ配列を用いて、多重極レンズ群の制御を適合させることなく集束させることができる。すなわち、例えばコンデンサレンズ系303の励起を変えることにより、多重極レンズ配列で軸平行入射放射線から収束又は発散入射放射線に変え、その際に、生じる結像に歪みも非点収差も発生させることなく中間像Bの及び焦点fの相対位置を変位させることが可能である。
【0085】
四重極場を用いた結像の選択肢について、ここでは様々な四重極配列又は多重極配列の抜粋に基づいて上述したので、例えば像面湾曲補正のために複数の個別粒子ビームを独立して集束させる目的の、多重極レンズ配列600の構造設定及びマルチビーム粒子ビームシステムにおける、特にマルチビーム粒子顕微鏡におけるその配置を以下に記載する。
【0086】
図10は、多重極レンズ配列600の構造を概略的に示す。ここで、多重極レンズ配列600は、第1多重極レンズアレイ601、第2多重極レンズアレイ602、第3多重極レンズアレイ603、及び第4多重極レンズアレイ604を含む。第5、第6、第7、又はさらなる多重極レンズアレイも多重極レンズ配列600の構成要素である可能性がある。図示の場合、多重極レンズアレイ601、602、603、及び604は、多重極レンズM1i、M2i、M3i、M4iが配置された開口が配置されたプレートをそれぞれ含む。ここで、第1多重極レンズアレイは、例示的に図示される多重極レンズM11、M12、及びM13を含む。図10は、多重極レンズ配列600の断面を示すので、いくつかの多重極レンズのみが例示的に図示されている。しかしながら、例えば、多重極レンズM1i、M2i、M3i、M4i、Mkiを正方形又は矩形に配置することが可能である。しかしながら、アレイにおける開口又は多重極レンズの配置は六角形であることが好ましい。つまり、個別粒子ビーム3が、例えば61個又は91個の個別粒子ビームを有する六角形構造に従って(nを自然数として、一般式3n(n-1)+1に従って)配置され、この配置が各多重極レンズアレイ601、602、603、604にも幾何学的に設けられる。第1、第2、第3、第4、及び/又はさらなる多重極レンズアレイ601、602、603、604は、同一の構造を有することができる。しかしながら、多重極レンズアレイ601、602、603、604が同じ構造を有しない、又は同じ構造を部分的にしか有しないことも可能である。例として、このことは、アレイ601、602、603、604を形成するプレートの厚さに(ひいては軸Zの方向の多重極の長さに)関係し得るが、このことは、多重極レンズM1i、M2i、M3i、及びM4iの構成にも当てはまり得る。追加として又はその代替として、配列における多重極の距離は、(中心同士の間を測定して)相互に同じであり得るが、変えることもできる。本発明によれば、図示の多重極レンズアレイの少なくとも2つが四重極場を発生させる。この場合、場の向き及び強さが適当である場合は、軸と基本的に平行に入射したビームに対してアインツェルレンズ又は円形レンズの集束効果と同様の、すなわち僅かに発散したビームから僅かに収束したビームへの集束効果を生じさせることが可能である。さらなる多重極レンズを用いれば、さらなる像収差を補正することができる。これに関して、僅かに収束又は僅かに発散とは、入射粒子ビームの仮想源位置が、絶対値に関して焦点fよりも多重極から遠いことを意味し、結果として、多重極レンズ配列は、負の屈折力も強すぎる正の屈折力も必要としない。負の屈折力は実現し難く、強い正の屈折力と同様に、多重極電極で高い電圧値も伴うこととなる。
【0087】
次に、図11は、像面湾曲補正のためのマルチビーム粒子顕微鏡1の多重極レンズ配列600の配置を概略的に示す。ここで、マルチビーム粒子顕微鏡1は抜粋でのみ図示されており、検出領域全体及びビームスイッチは図11には示されていない。さらに、図示のビーム経路は簡略化されており、例として、全ての個別粒子ビーム3の相互に対する従来のクロスオーバは、全体像を分かりやすくするために図示されていない。
【0088】
図11に示すマルチビーム粒子顕微鏡は、例えば熱電界放出(TFE)源である粒子源301を備える。図示の例では電子ビーム3が生成される。発散粒子ビームは、コリメーションレンズ系又はコンデンサレンズ系303を用いてコリメートされる。続いて、光軸O(全体像を分かりやすくするために光軸Oは図示されていないが、光軸Oは、多重極レンズ配列の軸Zと必ずしも一致しなくてもよい)と実質的に平行に延びる粒子ビームが多孔プレート380に入射し、これを個別粒子ビーム3の出発点と考えるべきである。こうして生成された個別粒子ビーム3は、それから多重極レンズ配列600に達し、これは図示の例では第1、第2、及び第3多重極レンズアレイ601、602、及び603を含む。しかしながら、2つの多重極レンズアレイのみ、又は4つ以上、例えば4つ、5つ、6つ、若しくはそれ以上の多重極レンズアレイが存在することも可能であろう。しかしながら、本発明によれば、図示の多重極アレイの少なくとも2つが四重極場を発生させる。これにより、基本的に軸と平行な粒子ビームを全体的に集束させることができる。多重極レンズ配列600を通過後に、個別粒子ビーム3は円形レンズアレイ385を通過する。このマルチレンズアレイは、この場合は多重極レンズを含むのではなく、代わりに円形レンズアレイ385の終端プレートに特に総合的に印加された電場の結果としてできると共に集束粒子レンズを表すイマージョンレンズを含む。円形レンズアレイ385のイマージョンレンズの集束力は、多重極レンズ配列600の集束力よりも通常は強い。しかしながら、これは、像面湾曲補正を容易にするために、多重極レンズ配列600が焦点距離を補正する働きのみをする場合にも妥当である。円形レンズアレイ385を通過後に、個別粒子ビーム3は凹状に湾曲した面325に集束され、面325は、その後の粒子光学結像による試料7への入射時に生じる像面湾曲がちょうど補正されるように選択されている。視野レンズ系307及び対物レンズ系100を通過後に、荷電粒子ビーム3は、像面湾曲なしに入射位置5で試料7に平面状に入射する。
【0089】
多孔プレート380と円形レンズアレイ385との間の位置の代替として、多重極レンズ配列600は、多孔プレート380の上流に位置決めすることもできる。こうすることで、2つの多重極レンズアレイ601及び602のみを多孔プレート380の円形開口と共に用いる場合に楕円形の入射粒子ビームが自動的に選択されるという利点が得られ、上記楕円形の入射粒子ビームは、焦点fの下流で円形の発散粒子ビーム3も生成するために必要な偏心率を有する。しかしながら、多重極レンズ配列600は、電子によって完全に照射され、そこにある絶縁コンポーネントが帯電して結像品質の悪化につながり得る。しかしながら、絶縁コンポーネントは被覆することができ、多重極レンズ配列600の上流でさらに別の多孔プレートを用いて帯電を防止することができる。この付加的な多孔プレートの開口は、多孔プレート380の開口のみが選択用開口として働くように、多孔プレート380の開口よりも大きく選択することができる。
【0090】
コリメーションレンズ系又はコンデンサレンズ系303は、多くの場合、レンズ系を通過する荷電粒子のラーモア回転を引き起こす磁場を利用し、その結果、全体角度が約50°~90°の粒子軌跡の螺旋運動プロファイルを引き起こす。螺旋運動経路の原因となる磁場は、多重極レンズ配列600の上流で突然減衰せず、その代わりに粒子軌跡の入射方位角が依然としてあり得る。コンデンサレンズ系303の励起は、粒子軌跡が多重極レンズ配列600にできる限り平行に入るように、すなわち可能であれば入射極角がなくなるように選択されるのが有利であるはずである。しかしながら、コンデンサレンズ系303の球面収差が原因で、これは、例えば光軸Oに近い領域でしか成功せず、多孔プレート380のエッジ領域では、粒子ビームは続いて光軸Oに向かって傾斜する。これらの状況を考慮するために、特に以下の選択肢がある:
1.多重極レンズ群の光軸が粒子ビームの入射角に適合されるように、多重極レンズが多重極レンズアレイ601、602等内に配置される。しかしながら、これはコンデンサレンズ系303の特定の構成でのみ有効である。こうすると、粒子電流密度の適合に関するコンデンサレンズ系303の柔軟性が大幅に制限される。
2.斜め入射の粒子ビームを多重極レンズ群の光軸に到達させるために、双極場が第1多重極レンズアレイ601で用いられる。また、残りの結像システムに必要な傾斜を提供するために、多重極レンズアレイ602でも同様に双極場を用いることができる。残留磁場の存在下で残っている粒子ビーム内の粒子軌跡の螺旋運動プロファイルを、続いて適当な向きの四重極場を用いて考慮することができる。こうすると、技術的経費は増えるが、システム全体の最適化に関する総合的な柔軟性が高まる。
3.入射方位角。多重極レンズ配列600の位置における残留磁場は、コンデンサレンズ系303からの十分な距離によってであろうが、補償目的のさらなる巻線によってであろうが、最大限に減らされる。コンデンサレンズ系303の設計は、できる限り小さな球面収差に関して最適化される。これら2つの措置は、完璧な結果にはつながらないが、需要に応じて問題を軽減し、また技術経費を最小にする。
4.1~3の組み合わせ。
【0091】
図12は、図11と同様にマルチビーム粒子顕微鏡1に組み込むことができる本発明のさらに別の実施形態を概略的に示す。本発明のこの変形実施形態によれば、多孔プレート390が設けられ、これは、粒子ビームが入射するとそこに位置する開孔A1、A2、A3、Aiを通過中に個別粒子ビーム3を生成する。多孔プレート390は、第1多重極レンズアレイ601及び第2多重極レンズアレイ602を有する多重極レンズ配列600と組み合わせられる。図示の場合、第1多重極レンズアレイ601のレンズ及び第2多重極レンズアレイ602のレンズは、それぞれ真の四重極レンズQ11、Q12、Q13、Qi及びQ21、Q22、Q23、Q2iである。しかしながら、代替として、四重極場をより高次の多重極レンズにより発生させることもできる。四重極場又は他の多重極場を有するさらなる多重極レンズアレイを図示の変形実施形態に組み込むことは、当然ながら可能である。しかしながら、このとき多孔プレート390の開孔A1、A2、A3の断面はこの変形実施形態において決定的である。これは、多孔プレート390の開口が楕円形の断面を有するからであり、この場合の唯一の例外は、粒子ビームシステムの光軸Oが延びる中心に位置決めされ得る開口である。開口の楕円形の断面のサイズ及び向きが適当に選択されている場合、歪みの形態のその後の結像収差の効果を考慮することが可能である。生じる粒子ビームは、楕円形の断面ではなく円形の断面を有する。
【0092】
図13は、図12に示す楕円形開口を有する多孔プレートの平面図を概略的に示す。中央開孔A1は円形の断面を有し、システムの光軸Oはその中心を通る。残りの開孔A2~A7は楕円形の断面を有する。全体として、この場合の多孔プレート390の開口の楕円率は、多孔プレートの中心又は多孔プレート390の中央円形開孔A1からの距離が増えると大きくなる。ここで、図示の例の楕円形開口の向きは以下の通りである。楕円の中心と多孔プレート390の中心との間の関連を考えた場合、中心を通る楕円の長軸は、多孔プレート390の中心から径方向に楕円の中心を通過する光線と直交する。別の表現をすると、楕円の短軸は、多孔プレート390の中心から径方向に向いている。多孔プレート390が図示の例示的な7つの開孔A1~A7よりも多くの開孔を有することができることは自明である。その代わりに、特に六角形の実施形態において、既に何度も上述したように、存在する全ての個別粒子ビームに対して開口を設けることができる。さらに、本願の概要部分に記載したように、楕円形開口の向きは図示のものとは異なり得る。
【0093】
図14は、八重極電極配置を有する多重極レンズアレイ601の抜粋を概略的に示す。この八重極電極配置を用いて、四重極場も同様に発生させることができる。原理上、電圧U0=U4=Q及びU2=U6=-Qのみがこの目的で必要とされる。例えばU1=U5=R及びU3=U7=-Rのさらなる四重極場をこの四重極場に重畳させた場合、全体的に得られる四重極場は光軸Z周りに回転し得る。既存のラーモア回転又は既存の磁場に起因した四重極場の向きを僅かに変えるべきである場合、電圧Rは電圧Qに比べて小さい。
【0094】
しかしながら、八重極電極は、多重極場の印加に関してさらにより多くの変化をつけることができる。例として、公差を補償する目的で、所望の四重極場を横方向に変位させることが可能であり、これは例えば、U2=U6=0、U0=-U4=D及びU1=-U3=-U5=U7=0.7Dによる双極場の印加により達成することができる。さらに、この双極場を異なる電圧分布により回転させることが当然ながら可能である。
【0095】
対向電極を結合して単一の電圧源により供給することが可能であり有利でもある。この結合は、電圧偏差又は電圧差と、その結果として生じ得る不利な双極場とを抑制する。原則として当てはまるのは、荷電粒子ビーム、例えば電子ビームが、存在する双極場に対して非常に敏感に反応することであり、すなわち、多重極レンズに供給される電圧は非常に安定していなければならない。したがって、それ自体が既に非常に安定している電圧源を用いることが有利である。しかしながら、電圧源の最大振幅は、電極毎に異なるよう選択することもできる。例として、U0=U4及びU2=U6には最大振幅が大きい電圧源を用い、U1=-U3=-U5=U7には最大振幅が小さい電圧源を用いることが可能である。原理上、最大振幅が小さい電圧源は、最大振幅が大きい電圧源よりも小さい絶対変動又は雑音幅を有する。(U0=U4により)U0及びU4の双極成分を省くことにより、電極U1、U3、U5、及びU7で十分に強い双極場を発生させることも依然として可能である。しかしながら、U0及びU4の双極成分がないことにより双極場と共に寄生的な六重極場が生じ、その結果として対応する収差も生じる。しかしながら、これは双極場Dの小さい振幅には許容可能であり得る。他の位置で最大振幅が小さい電圧源と共に付加的な双極板を用いることも可能だが、その場合はこの目的で適当な空間も設けなければならない。
【0096】
代替として、両方の電極U0及びU4に最大振幅が大きい電圧源UQを用いて、最大振幅が最小である2つの電圧源UD0及びUD4をそこに追加することも可能である。最も容易に理解可能な場合では、電圧源UD0及びUD4が直流的に絶縁されて供給され、電圧源UQに単に(電池のように)直列接続されることができ、UD0と直列接続されたUQはU0を供給し、UD4と直列接続されたUQはU4を供給する。しかしながら、このプロセスは技術的な観点から極めて複雑であり、一般的な場合に全ての電極にも適用されなければならない。
【0097】
より単純な技術的実施のために、電圧源の個々の雑音源を解析する必要がある。これは、基準源、デジタル調整可能な分圧器、1つ又は通常は複数の演算増幅器、及び少数の抵抗器である。概して、大抵の雑音は、基準源及び分圧器から生じる。これに対して、抵抗が十分に小さく選択される場合、抵抗器及び演算増幅器の雑音は無視できる程度である。例として、10Vの正の基準源URPが利用される。インバータ、すなわち1:1分圧器及び演算増幅器を用いて、-10Vのさらに別の負の基準源URNがそこから生成される。デジタル調整可能な分圧器を用いて、これら2つの電圧から例えば四重極電圧UQCPが生成され、反転された電圧UQCNもインバータを用いて即座に生成される。電圧UQCP=-UQCN、UQSP=-UQSN、UDXP=-UDXN、UDYP=-UDYNが得られるように、3つのさらなる電圧でこれが繰り返され、これらの電圧は全てがURNとURPとの間の範囲内で設定され得る。下流の増幅器との抵抗ネットワークを用いて、以下のようにこれらの電圧が次に八重極の電極間に分配される。
【数1】
【0098】
例として、A=10でB=1の場合、最大振幅が大きい四重極電圧及び最大振幅が小さい双極電圧を生成することが可能である。デジタル調整可能な分圧器の雑音は、振幅が大きい四重極電圧に乗る。しかしながら、対向電極に対する対称的なフィードスルーが、平面325における粒子ビーム位置に雑音がないことを確実にする。これに対して、デジタル調整可能な分圧器の雑音は、相対的に双極電圧に乗るだけなので、双極電圧の最大振幅が小さい結果として粒子ビーム位置は平面325において雑音が少ししかない。全ての出力電圧が同じ基準電圧から導出されるので、基準電圧の雑音は実質的に相殺される。四重極電圧が最大飽和の場合、この場合も対向電極に対する対称なフィードスルーが、平面325における粒子ビーム位置に雑音がないことを確実にする。双極電圧が最大飽和の場合、基準源の相対雑音は双極電圧の相対雑音に直接伝播する。しかしながら、双極電圧は最大振幅が小さいので、得られるビーム位置の絶対雑音も同様に小さい。
【0099】
図15は、代替的な八重極電極配置を有する多重極レンズアレイ601の抜粋を概略的に示す。電圧U0~U7を有する図示の電極は、サイズ又は形状が異なる。図14の図に比べて、サイズが大きくなっている電極がある一方で、小さくなっているものもある。適当なサイズ及び形状の選択により、遮蔽効果が起こる。サイズが縮小された電極は、電圧源によって大きな最大振幅を供給される場合でも、粒子ビームに対する効果が弱まる。全ての電極に同じタイプの電圧源によって供給することは可能だが、示される効果は異なる。特に、発生した四重極場をその向きに関して変えることができる。四重極場を弱い双極場に重畳することも可能だが、それでもなお場の必要な均一性が維持されるように留意しなければならない。
【0100】
上記遮蔽の原理は、光軸Zに沿った方向に用いることもできる。適当な製造法を用いることにより、多重極配列又は多重極レンズをZ方向の層状構造で製造することが可能である。ここで、これらの多重極のほとんどを四重極の形態で接続することが可能であり、好ましくは対向電極が結合される。さらに、多重極のいくつかを双極の形態で配線することができ、このとき各電極は個別に制御可能である。八重極を双極の形態で接続することも可能であり、このとき隣接する電極が結合される(しかしながら、こうすると寄生的な六重極場にもなる)。全体として、このようにして非常に薄い多重極又は多重極レンズの積層体又は配列を製造することができ、そのほとんどが強又は主四重極場を発生させる四重極場を有し、好ましくは対向電極が結合される。さらに、光軸に対する粒子ビームの相対位置を変位させるために、特にそれらを平行に変位させるためにも、多重極を双極の形態でまとめて配線することが可能であり、得られる四重極場を所望のえる方法に従って向けるために八重極を設けることも可能である。均一な双極場を発生させるためにも、四重極を用いることも可能である。多重極レンズアレイを用いて多重極レンズ配列をもたらすことができる多くの異なる方法がある。
【0101】
図16は、四重極場及び双極場を有する多重極レンズ配列の一部を概略的に示す。図示の配列は、第1四重極場を有する第1多重極アレイ601、第1双極場D1を有する第2多重極レンズアレイ602、第2双極場D2を有する第3多重極レンズアレイ603、及び第2四重極場Q2を有する第4多重極レンズアレイ604を含む。ここで、2つの四重極場Q1及びQ2は、図示の例では相互に対して実質的に90°回転した向きを有し且つ実質的に同じ振幅を有するように、相互に対して向けられる。2つの四重極場Q1とQ2の間に位置する双極場D1及びD2は、相互に対して逆平行に整列され、原理上は多重極レンズ配列600を通過する粒子ビーム3の平行オフセットが容易になるように実質的に同じ振幅を有する。このような平行オフセットにより、例えば図16に示すように多重極レンズアレイ604の多重極が製造誤差に起因して光軸からオフセットして位置決めされていても、粒子ビーム3を、全ての四重極場の中心を通るように導くことができる。2つのさらなる双極場の別の用途は、外部磁場により螺旋運動した粒子ビームを多重極レンズ配列の通過前に第1双極場でその光軸に戻すこと、及び最終的に螺旋運動した粒子ビームを元の方向に戻すことである。この目的に必要な配列は、第1双極場D1を有する第1多重極レンズアレイ601、第1四重極場Q1を有する第2多重極レンズアレイ602、第2四重極場Q2を有する第3多重極レンズアレイ603、及び第2双極場D2を有する第4多重極レンズアレイ604となる。当然ながら、6つの多重極レンズアレイで例えば4つの双極場及び2つの四重極場を組み合わせることも可能だろう。
【0102】
ここで、平面325における安定した粒子ビーム位置のために、双極として逆向きにそれぞれ励起される2つの多重極を交差配線してまとめて電源に接続することが有利である。結果として、この電源における雑音により生じるのは平行オフセットの雑音のみであり、出力角の雑音ではない。平面325が双極場の距離に対して双極から離れているので、平行オフセットの雑音に比べた出力角の雑音は、平面325における粒子ビーム位置の雑音レベルの倍数になるであろう。交差配線で接続されたこのような双極のダブレットは、例えば多層の多重極レンズ配列の一部であり得ると共に、特に双極場を四重極場と共に多重極レンズに組み込むことに欠点が多すぎる場合に用いることができる。
【0103】
図17は、多重極レンズアレイ601の電源を概略的に示す。多重極レンズアレイ601の平面図の一部を図17に概略的に示す。四重極場(及び/又は他の多重極場)を発生させるために、電磁場発生器372が開口361のそれぞれに割り当てられ、四重極場がこの開口361を通過するビーム3に作用する。各電磁場発生器372は、8つの電極373を有し、これらは開口361の周りに周方向に分散配置され、コントローラ369により制御される。この目的で、調整可能な電圧を生成して電線377を介してそれらを電極373に供給する電子回路375が、開口361から離れて配置された領域で多重極レンズアレイ601のプレートに配置される。コントローラ369は、粒子ビームシステムの真空ジャケット381を通過する直列データ接続379により電子回路375を制御する。ここで、真空ジャケット381に対して直列データ接続のラインをシールするシール382が設けられる。電子回路375は、直列データ接続379を介してコントローラ369から受け取ったデータに基づき、電線377を介して電極373に供給される電圧を生成する。したがって、コントローラ369は、開口361のそれぞれで電気四重極場(及び/又は他の多重極場)を発生させることが可能であり、上記場は、開口361の中心を軸としてその強さ及びその向きに関して調整可能である。これらの四重極場(及び/又は他の多重極場)を用いて、粒子ビーム3の全てをそれぞれ個別に操作することが可能である。コントローラ369は、個別粒子ビーム3の焦点距離が個別に選択可能であり、よって例えばマルチビーム粒子ビームシステムにおける像面湾曲が個別粒子ビーム毎に個別に補正可能であるように、多重極レンズアレイ601の四重極場及び1つ又は複数の他の多重極レンズアレイ60i(図示せず)の四重極場(及び/又は他の多重極場)を設定する。
【0104】
図16に基づき説明したような層状の多重極レンズアレイシステムを構成するために、図17による多重極レンズアレイ601は、半導体技術から既知の光化学的方法を用いて順次構成することができ、結果として多重極レンズ配列600を作製することができる(例えば、MEMS技術)。例として、より効果的な接触のために貫通孔を電極373の周りに配置することができ、上記貫通孔は、電線377により適切な位置で、又は適切な層で電子回路375に接続される。続いて、層に応じて、電極373を対応する多重極群に直接又は交差配線で接続することができる。
【0105】
同じ技術を用いて、例えば多重極レンズ601を作製するために、例えば21層からなるサブ多重極レンズアレイの積層体において、11層を四重極群に接続し、10層を(交差配線せずに)双極群に交互に接続することも可能となる。この多重極において、平面325における雑音の多い粒子ビーム位置を招かない強い四重極場を発生させること、及び平面325における雑音の弱い粒子ビーム位置を招く程度である弱い双極場をその上に重ねることが可能となる。
【0106】
多重極レンズアレイの電源にも適用することができるマルチレンズアレイの製造及び電圧源に関するさらなる詳細は、本特許出願の優先日には未公開であった独国特許出願第10 2020 106 801.8号明細書から明らかとなり、当該出願の開示の全体を参照により本特許出願に援用する。
【0107】
例示的な実施形態による多重極レンズ配列を用いると、例えば像面湾曲補正のための個別粒子ビームに対する独立したレンズ効果又は焦点設定が、リング電極を有するレンズの使用時よりも低電圧で得られる。例示的な実施形態は、像面湾曲補正の例を用いて本発明を説明しているが、本発明は像面湾曲補正に限定されない。別の例では、焦点距離はリング電極の場合よりも低電圧で著しく、例えば10%を超えて、好ましくは20%低減され、開口数は著しく、例えば10%を超えて、好ましくは20%低減される。さらに、本発明は、多重極レンズ配列用の電圧が低く、したがって多数の個別粒子ビームに対する多数の多重極電極の電源の場合に特に起こる相互作用効果が少なくなるので、多数の粒子ビームの個別粒子ビームに対する独立したより強いレンズ効果又はより短い焦点距離での焦点設定を可能にする。例として、多数の個別粒子ビームは、100個、300個、又はそれ以上の複数の個別粒子ビームを含み得る。例えば300V未満、より詳細には200V未満、又は特に好ましくは100V未満の低電圧で、多数の個別粒子ビームの各個別粒子ビームを独立して個別に集束させることができ、例えば、第1個別粒子ビームを隣接する第2個別粒子ビームよりも強く集束させることができる。低電圧を用いて、小さな電圧差でも隣接する個別粒子ビーム間の焦点距離差の調整が容易になる。例として、第1個別粒子ビームと第2個別粒子ビームとの間の焦点距離差は10%よりも大きくすることができ、第1及び第2個別粒子ビームの多重極電圧間の電圧差は、100V未満、好ましくは50V未満、特に好ましくは約20Vである。
図1
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