(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】モノマー組成物、硬化性組成物、成形体、及びモノマー組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20241225BHJP
A61K 6/30 20200101ALI20241225BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20241225BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20241225BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20241225BHJP
A61K 6/889 20200101ALI20241225BHJP
A61K 6/90 20200101ALI20241225BHJP
【FI】
C08F290/06
A61K6/30
A61K6/60
A61K6/831
A61K6/887
A61K6/889
A61K6/90
(21)【出願番号】P 2022578240
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2022001235
(87)【国際公開番号】W WO2022163396
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2021010402
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 直志
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-185074(JP,A)
【文献】特開2010-215774(JP,A)
【文献】特開2018-203946(JP,A)
【文献】特開2012-153818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非錫系触媒(A)、及び、イソ(チオ)シアネート化合物(B)とアルコール化合物(C)との反応生成物である(メタ)アクリレートモノマー(D)を含有するモノマー組成物であって、
カルボン酸アミド基及びスルホンアミド基の少なくとも一方を含むアミド化合物の含有量が前記モノマー組成物の全量に対して1質量ppm未満であ
り、
前記非錫系触媒(A)は、配位子を含み、
前記配位子が、ジケトン構造及びカルボニル結合以外の二重結合の少なくとも一方を有する基を含み、
歯科材料に用いられる、モノマー組成物。
【請求項2】
非錫系触媒(A)、及び、イソ(チオ)シアネート化合物(B)とアルコール化合物(C)との反応生成物である(メタ)アクリレートモノマー(D)を含有するモノマー組成物であって、
カルボン酸アミド基及びスルホンアミド基の少なくとも一方を含むアミド化合物の含有量が前記モノマー組成物の全量に対して1質量ppm未満であり、
前記非錫系触媒(A)は、配位子を含み、
前記配位子が、ジケトン構造及びカルボニル結合以外の二重結合の少なくとも一方を有する基を含み、
前記非錫系触媒(A)が亜鉛系触媒を含む場合、前記亜鉛系触媒が、下記式(X)及び下記式(Z)で表される化合物の少なくとも一つを含む、モノマー組成物。
【化1】
(式(X)中、R
X1
及びR
X2
は、それぞれ独立に、1価の炭化水素基である。M
X
は、亜鉛原子である。n
X
は、M
X
の価数である。複数存在するR
X1
及びR
X2
は同一であっても異なっていてもよい。)
【化2】
(式(Z)中、R
Z1
は、ハロゲン原子である。M
Z
は、亜鉛原子である。n
Z
は、M
Z
の価数である。m
Z
は、1又は0の整数である。)
【請求項3】
前記非錫系触媒(A)が、下記式(X)で表される化合物、下記式(Y)で表される化合物、及び下記式(Z)で表される化合物の少なくとも一つを含む、請求項1又は請求項2に記載のモノマー組成物。
【化3】
(式(X)中、R
X1及びR
X2は、それぞれ独立に、1価の炭化水素基である。M
Xは、錫以外の金属原子である。n
Xは、M
Xの価数である。複数存在するR
X1及びR
X2は同一であっても異なっていてもよい。)
【化4】
(式(Y)中、R
Y1及びR
Y2は、それぞれ独立に、1価の炭化水素基である。M
Yは、錫以外の金属原子である。n
Yは、M
Yの価数である。複数存在するR
Y1及びR
Y2は同一であっても異なっていてもよい。)
【化5】
(式(Z)中、R
Z1は、ハロゲン原子である。M
Zは、錫以外の金属原子である。n
Zは、M
Zの価数である。m
Zは、1又は0の整数である。)
【請求項4】
前記非錫系触媒(A)が錫以外の金属原子を含み、
前記錫以外の金属原子が、第4周期~第6周期のいずれか1つの周期に属し、かつ、第4族~第14族のいずれか1つの族に属する金属元素の原子(錫原子を除く。)である、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のモノマー組成物。
【請求項5】
前記非錫系触媒(A)は、亜鉛系触媒、銅系触媒、インジウム系触媒及び白金系触媒からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のモノマー組成物。
【請求項6】
前記イソ(チオ)シアネート化合物(B)は、芳香環を含む、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のモノマー組成物。
【請求項7】
前記イソ(チオ)シアネート化合物(B)は、チオウレタン結合を含まないイソ(チオ)シアネート化合物(b1)、又は、チオウレタン結合を含まないイソ(チオ)シアネート化合物(b2)とメルカプト基を2つ以上含むチオール化合物(F)との反応生成物(X)を含む、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のモノマー組成物。
【請求項8】
前記イソ(チオ)シアネート化合物(b1)、及び前記イソ(チオ)シアネート化合物(b2)の各々が、m-キシリレンジイソシアネート、1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項7に記載のモノマー組成物。
【請求項9】
前記アルコール化合物(C)は、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコール、及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のモノマー組成物。
【請求項10】
亜リン酸エステル系化合物、及びフェノール系化合物の少なくとも一方である安定剤(E)を含有する、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のモノマー組成物。
【請求項11】
前記イソ(チオ)シアネート化合物(B)は、チオウレタン結合を含まないイソ(チオ)シアネート化合物(b2)とメルカプト基を2つ以上含むチオール化合物(F)との反応生成物である、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載のモノマー組成物。
【請求項12】
請求項1~請求項11のいずれか1項に記載のモノマー組成物を含有する、硬化性組成物。
【請求項13】
重合開始剤をさらに含有する、請求項12に記載の硬化性組成物。
【請求項14】
歯科材料用組成物である、請求項12又は請求項13に記載の硬化性組成物。
【請求項15】
請求項12~請求項14のいずれか1項に記載の硬化性組成物の硬化物であ
り、かつ歯科材料である、成形体。
【請求項16】
非錫系触媒(A)、及び、イソ(チオ)シアネート化合物(B)とアルコール化合物(C)との反応生成物である(メタ)アクリレートモノマー(D)を含有するモノマー組成物を製造する方法であって、
前記非錫系触媒(A)と、前記イソ(チオ)シアネート化合物(B)と、前記アルコール化合物(C)と、を混合する工程を含み、
カルボン酸アミド基及びスルホンアミド基の少なくとも一方を含むアミド化合物の含有量が、前記モノマー組成物の全量に対して1質量ppm未満であ
り、
前記非錫系触媒(A)は、配位子を含み、
前記配位子が、ジケトン構造及びカルボニル結合以外の二重結合の少なくとも一方を有する基を含み、
前記非錫系触媒(A)が亜鉛系触媒を含む場合、前記亜鉛系触媒が、下記式(X)及び下記式(Z)で表される化合物の少なくとも一つを含む、モノマー組成物の製造方法。
【化6】
(式(X)中、R
X1
及びR
X2
は、それぞれ独立に、1価の炭化水素基である。M
X
は、亜鉛原子である。n
X
は、M
X
の価数である。複数存在するR
X1
及びR
X2
は同一であっても異なっていてもよい。)
【化7】
(式(Z)中、R
Z1
は、ハロゲン原子である。M
Z
は、亜鉛原子である。n
Z
は、M
Z
の価数である。m
Z
は、1又は0の整数である。)
【請求項17】
非錫系触媒(A)、及び、イソ(チオ)シアネート化合物(B)とアルコール化合物(C)との反応生成物である(メタ)アクリレートモノマー(D)を含有するモノマー組成物を製造する方法であって、
前記非錫系触媒(A)と、前記イソ(チオ)シアネート化合物(B)と、前記アルコール化合物(C)と、を混合する工程を含み、
カルボン酸アミド基及びスルホンアミド基の少なくとも一方を含むアミド化合物の含有量が、前記モノマー組成物の全量に対して1質量ppm未満であり、
前記非錫系触媒(A)は、配位子を含み、
前記配位子が、ジケトン構造及びカルボニル結合以外の二重結合の少なくとも一方を有する基を含み、
前記モノマー組成物が、歯科材料に用いられる、モノマー組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モノマー組成物、硬化性組成物、成形体、及びモノマー組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性組成物に含有されるモノマーとして、ウレタン(メタ)アクリレートが知られている。ウレタン(メタ)アクリレートは、ウレタン結合を含む(メタ)アクリレート化合物である。
従来、ウレタン(メタ)アクリレートは、Sn(錫)系触媒を用いて合成されていた。
例えば、特許文献1には、微細不活性無機充填剤粉末と、有機ジイソシアネートとアクリル酸オキシアルキル又はメタクリル酸オキシアルキルとの反応生成物と、の混合物である歯科用複合充填剤が開示されている。この特許文献1の実施例では、ジラウリン酸ジブチル錫を触媒として用い、メタクリル酸オキシプロピルと2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとを反応させてジウレタンジメタクリレートを形成している。
【0003】
特許文献1:特開昭51-36960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、重金属の使用量低減等の観点から、ウレタン(メタ)アクリレートの形成に用いる触媒として、Sn系触媒(例えば、ジラウリン酸ジブチル錫(DBTDL))に代わる触媒が求められている。
歯科材料の原料として、特定のウレタン(メタ)アクリレートモノマーを含有するモノマー組成物を用いる場合、モノマー組成物の色相が歯科材料に適していることが望まれる。特定のウレタン(メタ)アクリレートモノマーは、触媒を用いて、イソ(チオ)シアネート基を含むイソ(チオ)シアネート化合物と、ヒドロキシ基を含む(メタ)アクリレート化合物とを反応させて得られる。具体的に、モノマー組成物の色相は黄色味を帯びていないことが望まれる。
【0005】
本開示の一態様の課題は、Sn系触媒に代わる触媒を用いても、歯科材料に適した色相を有するモノマー組成物、硬化性組成物、成形体、及びモノマー組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 非錫系触媒(A)、及び、イソ(チオ)シアネート化合物(B)とアルコール化合物(C)との反応生成物である(メタ)アクリレートモノマー(D)を含有するモノマー組成物であって、
カルボン酸アミド基及びスルホンアミド基の少なくとも一方を含むアミド化合物の含有量が前記モノマー組成物の全量に対して1質量ppm未満である、モノマー組成物。
<2> 前記非錫系触媒(A)は、配位子を含み、
前記配位子が、ジケトン構造及びカルボニル結合以外の二重結合の少なくとも一方を有する基を含む、前記<1>に記載のモノマー組成物。
<3> 前記非錫系触媒(A)が、下記式(X)で表される化合物、下記式(Y)で表される化合物、及び下記式(Z)で表される化合物の少なくとも一つを含む、前記<1>又は<2>に記載のモノマー組成物。
【0007】
【0008】
(式(X)中、RX1及びRX2は、それぞれ独立に、1価の炭化水素基である。MXは、錫以外の金属原子である。nXは、MXの価数である。複数存在するRX1及びRX2は同一であっても異なっていてもよい。)
【0009】
【0010】
(式(Y)中、RY1及びRY2は、それぞれ独立に、1価の炭化水素基である。MYは、錫以外の金属原子である。nYは、MYの価数である。複数存在するRY1及びRY2は同一であっても異なっていてもよい。)
【0011】
【0012】
(式(Z)中、RZ1は、ハロゲン原子である。MZは、錫以外の金属原子である。nZは、MZの価数である。mZは、1又は0の整数である。)
<4> 前記非錫系触媒(A)が錫以外の金属原子を含み、
前記錫以外の金属原子が、第4周期~第6周期のいずれか1つの周期に属し、かつ、第4族~第14族のいずれか1つの族に属する金属元素の原子(錫原子を除く。)である、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載のモノマー組成物。
<5> 前記非錫系触媒(A)は、亜鉛系触媒、銅系触媒、インジウム系触媒及び白金系触媒からなる群から選択される少なくとも1つを含む、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載のモノマー組成物。
<6> 前記イソ(チオ)シアネート化合物(B)は、芳香環を含む、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載のモノマー組成物。
<7> 前記イソ(チオ)シアネート化合物(B)は、チオウレタン結合を含まないイソ(チオ)シアネート化合物(b1)、又は、チオウレタン結合を含まないイソ(チオ)シアネート化合物(b2)とメルカプト基を2つ以上含むチオール化合物(F)との反応生成物(X)を含む、前記<1>~<6>のいずれか1つに記載のモノマー組成物。
<8> 前記イソ(チオ)シアネート化合物(b1)、及び前記イソ(チオ)シアネート化合物(b2)の各々が、m-キシリレンジイソシアネート、1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種を含む、前記<7>に記載のモノマー組成物。
<9> 前記アルコール化合物(C)は、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコール、及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、前記<1>~<8>のいずれか1つに記載のモノマー組成物。
<10> 亜リン酸エステル系化合物、及びフェノール系化合物の少なくとも一方である安定剤(E)を含有する、前記<1>~<9>のいずれか1つに記載のモノマー組成物。
<11> 前記イソ(チオ)シアネート化合物(B)は、チオウレタン結合を含まないイソ(チオ)シアネート化合物(b2)とメルカプト基を2つ以上含むチオール化合物(F)との反応生成物である、前記<1>~<10>のいずれか1つに記載のモノマー組成物。
<12> 前記<1>~<11>のいずれか1つに記載のモノマー組成物を含有する、硬化性組成物。
<13> 重合開始剤をさらに含有する、前記<12>に記載の硬化性組成物。
<14> 歯科材料用組成物である、前記<12>又は<13>に記載の硬化性組成物。
<15> 前記<12>~<14>のいずれか1つに記載の硬化性組成物の硬化物である、成形体。
<16> 非錫系触媒(A)、及び、イソ(チオ)シアネート化合物(B)とアルコール化合物(C)との反応生成物である(メタ)アクリレートモノマー(D)を含有するモノマー組成物を製造する方法であって、
前記非錫系触媒(A)と、前記イソ(チオ)シアネート化合物(B)と、前記アルコール化合物(C)と、を混合する工程を含み、
カルボン酸アミド基及びスルホンアミド基の少なくとも一方を含むアミド化合物の含有量が、前記モノマー組成物の全量に対して1質量ppm未満である、モノマー組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様によれば、Sn系触媒に代わる触媒を用いても、歯科材料に適した色相を有するモノマー組成物、硬化性組成物、成形体、及びモノマー組成物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、「光」は、紫外線、可視光線等の活性エネルギー線を包含する概念である。
本開示において、「(メタ)アクリルモノマー」とはアクリルモノマー又はメタクリルモノマーを意味し、「(メタ)アクリロイル基」とはアクリロイル基又はメタクリロイル基を意味し、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」とはアクリル酸又はメタクリル酸を意味し、「(メタ)アクリロニトリル」とはアクリロニトリル又はメタクリロニトリルを意味する。
本開示において、「イソ(チオ)シアネート基」とはイソシアネート基又はイソチオシアネート基を意味し、「イソ(チオ)シアネート化合物」とはイソシアネート化合物又はイソチオシアネート化合物を意味する。
本開示において、「アミド化合物」とはカルボン酸アミド基及びスルホンアミド基の少なくとも一方を含むアミド化合物を意味する。
本開示において、「アミド化合物の含有量がモノマー組成物の総量に対して1質量ppm未満である」とは、アミド化合物の含有量がモノマー組成物の総量に対して0質量部である場合を含む。
本開示では、-NHC(=O)O-結合及び-NHC(=S)O-結合を「ウレタン結合」と総称し、-NHC(=O)O-結合及び-NHC(=S)O-結合の少なくとも一方と(メタ)アクリロイル基とを含む化合物をウレタン(メタ)アクリレートとも称する。
本開示のモノマー組成物、硬化性組成物、成形体、及びモノマー組成物の製造方法にそれぞれ記載されている好ましい構成は、適宜組み合わせてもよく、例えば、モノマー組成物に開示された構成をモノマー組成物の製造方法等に適宜組み合わせてもよい。
【0015】
〔モノマー組成物〕
本開示のモノマー組成物は、非錫系触媒(A)、及び、イソ(チオ)シアネート化合物(B)とアルコール化合物(C)との反応生成物である(メタ)アクリレートモノマー(D)を含有するモノマー組成物であって、カルボン酸アミド基(-C(=O)NH2)及びスルホンアミド基(-S(=O)2NH2)の少なくとも一方を含むアミド化合物の含有量がモノマー組成物の総量に対して1質量ppm未満である。
本開示のモノマー組成物は、上記の構成を有するので、Sn系触媒に代わる触媒を用いても、歯科材料に適した色相を有する。具体的に、本開示のモノマー組成物の色相は、黄色味を帯びていない。そのため、本開示のモノマー組成物を用いることで、歯科材料に適した色相を有する硬化物を製造できる。
【0016】
前述した通り、重金属の使用量低減等の観点から、ウレタン(メタ)アクリレートの形成に用いる触媒として、Sn系触媒に代わる触媒が求められている。更に、歯科材料の原料としては、モノマー組成物の色相は歯科材料に適していること(例えば、黄色味を帯びてないこと)が望まれる。
一方で、非錫系触媒(例えば、亜鉛系触媒)の存在下、イソ(チオ)シアネート化合物の原料として市販品を用いると、得られるモノマー組成物の色相は黄色味を帯びる場合があった。通常、イソ(チオ)シアネート化合物の市販品は、安定剤を含有する。
本発明者は、鋭意検討した結果、非錫系触媒(例えば、亜鉛系触媒)を用いた場合に、モノマー組成物の色相が黄色味を帯びる主要因は、アミド化合物にあることを新規に突き止め、本開示を完成させるに至った。アミド化合物は、イソ(チオ)シアネート化合物の市販品に安定剤として含まれる。
【0017】
アミド化合物は、前述したように、市販品に含まれ得る。例えば、市販品を公知の方法によって精製して得られる精製品をモノマー組成物の原料として用いることで、アミド化合物の含有量を上記範囲内にすることができる。
【0018】
以下、本開示のモノマー組成物に含まれうる成分について説明する。
【0019】
<非錫系触媒(A)>
本開示のモノマー組成物は、非錫系触媒(A)を含有する。
非錫系触媒(A)は、亜鉛原子、チタン原子、ジルコニウム原子、ビスマス原子、鉄原子、銅原子、コバルト原子等の錫原子以外の金属原子を含む触媒である。
非錫系触媒(A)は、(メタ)アクリレートモノマー(D)の生成(即ち、イソ(チオ)シアネート化合物(B)とアルコール化合物(C)との反応)に使用される触媒である。
本開示のモノマー組成物に含有される非錫系触媒(A)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0020】
非錫系触媒(A)は、配位子を含む特定の化合物である場合は、モノマー組成物を歯科材料として用いると、色相の問題が生じにくい(例えば、黄色味が生じにくい。)。上記の特定の化合物の配位子は、アルキル基、カルボキシル基、アルコキシ基及びハロゲノ基からなる群から選択される1つ以上である配位子のみである。
他方、非錫系触媒(A)がこれら以外の配位子を含む場合は、モノマー組成物を歯科材料として用いると、色相の問題が生じることがある(例えば、黄色味が生じる)。
しかしながら、本開示のモノマー組成物は、アミド化合物の含有量が1質量ppm未満である。そのために、非錫系触媒(A)が上記の特定の化合物以外の化合物であっても、色相が低下しにくく、歯科材料により適した色相を有するモノマー組成物が得られる。
このように色相の低下を抑制できる観点で、本開示における非錫系触媒(A)は、配位子を含む場合、第1化合物であることが好適であり、第2化合物であることがより好適であり、第3化合物であることがさらに好適である。
第1化合物は、配位子が、アルキル基及びカルボキシル基からなる群から選択される1つ以上である配位子のみである化合物以外の化合物である。
第2化合物は、配位子が、アルキル基、カルボキシル基及びアルコキシ基からなる群から選択される1つ以上である配位子のみである化合物以外の化合物である。
第3化合物は、配位子が、アルキル基、カルボキシル基、アルコキシ基及びハロゲノ基からなる群から選択される1つ以上である配位子のみである化合物以外の化合物である。
配位子であるアルキル基としては、炭素数1~20のアルキル基(直鎖であっても分鎖であってもよい)等が挙げられる。
配位子であるカルボキシル基としては、カルボキシル基を一般式:R-C(=O)-O-で表した場合における、Rが炭素数1~20のアルキル基(直鎖であっても分鎖であってもよい)であるもの等が挙げられる。
配位子であるアルコキシ基としては、アルコキシ基を一般式:R-O-で表した場合における、Rが炭素数1~20のアルキル基(直鎖であっても分鎖であってもよい)であるもの等が挙げられる。
配位子であるハロゲノ基としては、フルオロ基(F-)、クロロ基(Cl-)、ブロモ基(Br-)、ヨード基(I-)等が挙げられる。
【0021】
非錫系触媒(A)の波長250nm~800nmの範囲内における吸光度は、0.05以上である場合、モノマー組成物を歯科材料として用いると、色相の問題が生じることがある(例えば、黄色味が生じる)。
しかしながら、本開示のモノマー組成物は、アミド化合物の含有量が1質量ppm未満であるために、波長250nm~800nmの範囲内における吸光度が0.05以上であっても、色相が低下しにくく、歯科材料により適した色相を有するモノマー組成物が得られる。
このように色相の低下を抑制できる観点で、本開示のモノマー組成物は、非錫系触媒(A)の波長250nm~800nmの範囲内における吸光度が0.05以上である場合に好適である。
非錫系触媒(A)の吸光度は、非錫系触媒(A)をテトラヒドロフラン(安定剤不含)に溶解させ、0.01mmol/L溶液を調整し、得られた溶液をセル長1cmの石英セルに入れ、紫外可視分光光度計(日本分光社製、「V-650」)にて測定される。
【0022】
非錫系触媒(A)は、配位子を含み、配位子が、ジケトン構造及びカルボニル結合以外の二重結合の少なくとも一方を有する基を含んでもよい。
カルボニル結合以外の二重結合は、特定の波長の光(例えば、可視光)を吸収しやすく、発色しやすいか、モノマー組成物を製造する過程において、ケトンとは異なる官能基との付加反応によって、色相が生じやすい。ジケトン構造は、モノマー組成物を製造する過程において、ケトンとは異なる官能基との付加反応によって、色相が生じやすい。得られる付加反応基は、特定の波長の光(例えば、可視光)を吸収しやすく、発色しやすい。
本開示のモノマー組成物は、アミド化合物の含有量が1質量ppm未満である。そのため、非錫系触媒(A)の配位子が、ジケトン構造及びカルボニル結合以外の二重結合の少なくとも一方を有する基を含む場合であっても、本開示のモノマー組成物の色相は、歯科材料に適する。
【0023】
カルボニル結合以外の二重結合を有する基としては、例えば、芳香族基、チオカルボニル基、複素芳香族基、アルケニル基などが挙げられる。芳香族基、チオカルボニル基、複素芳香族基は、それ自体が色相を呈しやすく、アルケニル基は、付加反応により色相が生じやすい。芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。チオカルボニル基を有する基としては、例えば、チオカーバメート基、チオベンズアミド基、チオアセトアミド基、チオウレア基等が挙げられる。複素芳香族基としては、例えば、窒素原子、硫黄原子、又は酸素原子を有する3~6員環状が挙げられ、より具体的には、フラン基、チオフェン基、オキサゾール基、チアゾール基、ピリジン基、ピラン基、チオピラン基等が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、アリル基、ビニル基、ビニリデン基、ビニレン基等が挙げられる。
【0024】
ジケトン構造を有する基は、2つのケトン基を有する配位子であればよく、β-ジケトンを有する配位子であることが好ましい。β-ジケトンを有する配位子としては、例えば、アセチルアセトナート、3-メチルアセチルアセトナート、3-エチルアセチルアセトナート、3-フェニルアセチルアセトナート、トリフルオロアセチルアセトナート、ヘキサフルオロアセチルアセトナート、ジイソブチルメタン等が挙げられる。
【0025】
非錫系触媒(A)が、下記式(X)で表される化合物(以下、「化合物(X)」という。)、下記式(Y)で表される化合物(以下、「化合物(Y)」という。)、及び下記式(Z)で表される化合物(以下、「化合物(Z)」という。)の少なくとも一つを含むことが好ましく、化合物(X)又は化合物(Y)を含むことがより好ましい。非錫系触媒(A)がこれらの化合物を含む場合、色相が生じやすいが、本開示のモノマー組成物によると、色相を抑制できる。
【0026】
化合物(X)は、下記式(X)で表される。
【0027】
【0028】
式(X)中、RX1及びRX2は、それぞれ独立に、1価の炭化水素基である。MXは、錫以外の金属原子である。nXは、MXの価数である。複数存在するRX1及びRX2は同一であっても異なっていてもよい。
【0029】
RX1及びRX2における1価の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニルアリール基、アルキニルアリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基等が挙げられる。
RX1及びRX2は、それぞれ独立に、アルキル基及びアリール基が好ましい。
アルキル基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基が挙げられ、より具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基が挙げられる。
MXは、錫以外の金属原子であり、触媒活性があればよく、特定の金属原子であることが好ましく、亜鉛、銅、インジウム又は白金であることがより好ましい。
本開示において、「特定の金属原子」とは、第4周期~第6周期のいずれか1つの周期に属し、かつ、第4族~第14族のいずれか1つの族に属する金属元素を示す。具体的には、特定の金属原子とは、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、タリウム、鉛を指す。
【0030】
化合物(A)を含む非錫系触媒(A)は、下記式(1)で表される化合物を含む。
化合物(A)を含む非錫系触媒(A)の具体例としては、ジブチルジチオカルバメート亜鉛等が挙げられる。
【0031】
【0032】
式(Y)中、RY1及びRY2は、それぞれ独立に、1価の炭化水素基である。MYは、錫以外の金属原子である。nYは、MYの価数である。複数存在するRY1及びRY2は同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
RY1及びRY2における「1価の炭化水素基」としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニルアリール基、アルキニルアリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基等が挙げられる。
RY1及びRY2は、それぞれ独立に、アルキル基及びアリール基が好ましい。
アルキル基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基が挙げられ、より具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基が挙げられる。
MYは、錫以外の金属原子であり、触媒活性があればよく、特定の金属原子であることが好ましく、亜鉛、銅、インジウム又は白金であることがより好ましい。
【0034】
化合物(B)を含む非錫系触媒(A)の具体例としては、インジウムアセチルアセトナート、白金アセチルアセトナート等が挙げられる。
【0035】
【0036】
式(Z)中、RZ1は、ハロゲン原子である。MZは、錫以外の金属原子である。nZは、MZの価数である。mZは、1又は0の整数である。
【0037】
RZ1におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が好ましく、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子がより好ましく、フッ素原子又は塩素原子が更に好ましく、フッ素原子が特に好ましい。
MZは、錫以外の金属原子であり、触媒活性があればよく、特定の金属原子であることが好ましく、亜鉛、銅、インジウム又は白金であることがより好ましい。
【0038】
化合物(C)を含む非錫系触媒(A)の具体例としては、トリス(トリフェニルホスフィン)(トリフルオロメチル)銅等が挙げられる。
【0039】
非錫系触媒(A)が錫以外の金属原子を含むことが好ましい。錫以外の金属原子は、特定の金属原子、すなわち、第4周期~第6周期のいずれか1つの周期に属し、かつ、第4族~第14族のいずれか1つの族に属する金属元素の原子(錫原子を除く。)である。これにより、非錫系触媒(A)は、錫原子を有さずとも、本開示の(メタ)アクリレートモノマー(D)の合成反応の触媒活性を奏することができる。
【0040】
非錫系触媒(A)としては、上述の特定の金属原子を含む触媒を使用することができ、例えば、亜鉛系触媒、チタン系触媒、ジルコニウム系触媒、ビスマス系触媒、鉄系触媒、銅系触媒、コバルト系触媒、インジウム系触媒、白金系触媒等が挙げられる。
例えば、亜鉛系触媒は、亜鉛原子を含む。チタン系触媒は、チタン原子を含む。ジルコニウム系触媒は、ジルコニウム原子を含む。ビスマス系触媒は、ビスマス原子を含む。鉄系触媒は、鉄原子を含む。銅系触媒は、銅原子を含む。コバルト系触媒は、コバルト原子を含む。インジウム系触媒は、インジウム原子を含む。白金系触媒は、白金原子を含む。
【0041】
非錫系触媒(A)は、亜鉛系触媒、銅系触媒、インジウム系触媒及び白金系触媒からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0042】
亜鉛系触媒としては、公知の亜鉛系触媒を用いることができる。
亜鉛系触媒として、亜鉛原子を少なくとも1つ含む触媒であればよく、例えば、硫黄原子を含む含硫黄化合物及び酸素原子を含む含酸素化合物の少なくとも一方であることが好ましい。
硫黄原子を含む含硫黄化合物及び酸素原子を含む含酸素化合物としては、亜鉛原子を含むジチオカーバメート系触媒、並びに亜鉛原子及び環構造を含む亜鉛化合物の少なくとも一方であることが好ましい。
【0043】
亜鉛原子を含むジチオカーバメート系触媒としては、亜鉛ジチオカーバメート化合物が好ましい。亜鉛原子及び環構造を含む亜鉛化合物としては、亜鉛原子及び芳香族環又は複素環を含む亜鉛化合物であることが好ましく、ビスチオ亜鉛骨格(-S-Zn-S-)又はビスオキシ亜鉛骨格(-O-Zn-O-)及び芳香族環又は複素環を含む亜鉛化合物であることがより好ましい。
【0044】
非錫系触媒(A)は、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物の少なくとも一方であることが好ましい。下記式(2)で表される化合物は、亜鉛錯体であってもよい。特に、下記式(1)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0045】
【0046】
【0047】
式(1)中、2つのR1及び2つのR2は、それぞれ独立に、1価の炭化水素基である。
【0048】
R1及びR2における1価の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニルアリール基、アルキニルアリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基等が挙げられる。
【0049】
R1及びR2は、それぞれ独立に、アルキル基及びアリール基が好ましい。
アルキル基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基が挙げられ、より具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基が挙げられる。
【0050】
前述の式(1)で表される化合物の具体例としては、ジブチルジチオカルバメート亜鉛等が挙げられる。
【0051】
式(2)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子である。R3及びR4は、それぞれ独立に、芳香族環若しくは複素環を含む1価の有機基であるか、又は、R3及びR4が互いに結合して、環構造を形成する有機基である。
【0052】
R3及びR4において、芳香族環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等が挙げられ、中でも、ベンゼン環が好ましい。
R3及びR4において、複素環としては、窒素原子、硫黄原子、酸素原子等を含む環構造が挙げられ、中でも、芳香族性を有する複素環が好ましい。
複素環の具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、ピロール環、インドール環、イソインドール環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピラゾール環、インダゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、ピリジン環、キノリン環、ピラジン環、キノキサリン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環等が挙げられ、中でも、ピリジン環及びベンゾチアゾール環が好ましい。
R3及びR4は、1つ以上の芳香族環及び1つ以上の複素環をそれぞれ含んでいてもよく、複数の芳香族環又は複数の複素環を含んでいてもよい。例えば、R3及びR4は、それぞれベンゼン環及びベンゾチアゾール環を含むことが好ましい。
【0053】
R3及びR4が互いに結合して形成される環構造としては、前述の芳香族環及び複素環が挙げられ、中でも、ベンゼン環が好ましい。R3及びR4が互いに結合する場合、当該環構造は、X1及びX2と、亜鉛原子を含む環と、芳香族環又は複素環とを備えることが好ましい。当該環構造は2個の炭素原子を共有する縮合環であることがより好ましい。
R3及びR4において、芳香族環又は複素環を含む1価の有機基及び環構造を形成する有機基は、それぞれ独立に置換基を含んでいてもよい。当該置換基としては、炭素数1~6のアルキル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基などが挙げられる。
【0054】
前述の式(2)で表される化合物の具体例としては、以下のような構造を有する化合物が挙げられる。
【0055】
【0056】
銅系触媒としては、公知の銅系触媒を用いることができる。
銅系触媒は、銅原子を少なくとも1つ含む触媒であればよく、例えば、銅原子及び配位子を含んでもよい。
銅系触媒の配位子としては、例えば、アセチルアセトナート、トリス(トリフェニルホスフィン)(トリフルオロメチル)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)等が挙げられる。銅系触媒の具体例としては、トリス(トリフェニルホスフィン)(トリフルオロメチル)銅が挙げられる。
【0057】
インジウム系触媒としては、公知のインジウム系触媒を用いることができる。
インジウム系触媒は、インジウム原子を少なくとも1つ含む触媒であればよく、例えば、インジウム原子及び配位子を含んでもよい。インジウム系触媒の配位子としては、銅系触媒の配位子として例示した配位子と同様のものが挙げられる。
インジウム系触媒の具体例としては、インジウムアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0058】
白金系触媒としては、公知の白金系触媒を用いることができる。
白金系触媒は、白金原子を少なくとも1つ含む触媒であればよく、例えば、白金原子及び配位子を含んでもよい。白金系触媒の配位子としては、銅系触媒の配位子として例示した配位子と同様のものが挙げられる。
白金系触媒の具体例としては、白金アセチルアセトナート等が挙げられる。
【0059】
本開示のモノマー組成物における非錫系触媒(A)の含有量は、モノマー組成物の全量に対し、好ましくは0.01質量%~1質量%であり、より好ましくは0.03質量%~0.7質量%であり、更に好ましくは0.05質量%~0.5質量%である。
【0060】
本開示のモノマー組成物において、特に、亜鉛系触媒の含有量は、モノマー組成物の全量に対し、0.5質量%以下であってもよく、0.3質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよい。
【0061】
本開示のモノマー組成物は、非錫系触媒(A)であって、亜鉛系触媒以外の触媒(以下、「その他の触媒」とも称する。)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。その他の触媒としては、錫原子及び亜鉛原子以外の金属原子を含む触媒が挙げられる。
【0062】
本開示のモノマー組成物におけるその他の触媒の含有量は、モノマー組成物の全量に対し、0.5質量%以下であってもよく、0.3質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよい。本開示のモノマー組成物におけるその他の触媒の含有量の下限は特に制限されず、錫等の重金属の使用を削減する観点から、0質量%であってもよい。
【0063】
<(メタ)アクリレートモノマー(D)>
本開示のモノマー組成物は、(メタ)アクリレートモノマー(D)を含有する。
本開示のモノマー組成物に含有される(メタ)アクリレートモノマー(D)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0064】
本開示のモノマー組成物は、例えば、後述する硬化性組成物中の成分として(具体的には、後述する硬化性組成物に対するモノマーの供給源として)用いることができる。本開示のモノマー組成物自身は、硬化性組成物として用いられ得る。
【0065】
(メタ)アクリレートモノマー(D)は、イソ(チオ)シアネート化合物(B)とアルコール化合物(B)との反応生成物である。イソ(チオ)シアネート化合物(B)は、イソ(チオ)シアネート基を含む。アルコール化合物(B)は、ヒドロキシル基を含む。
【0066】
(メタ)アクリレートモノマー(D)は、好ましくは、イソ(チオ)シアネート化合物(B)におけるイソ(チオ)シアネート基と、アルコール化合物(C)中のヒドロキシ基と、の反応によって形成された、ウレタン結合(即ち、-NHC(=O)O-結合及び-NHC(=S)O-結合の少なくとも一方。以下同じ。)を含み、かつ(メタ)アクリロイル基を含む。(メタ)アクリレートモノマー(D)の(メタ)アクリロイル基は、イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の少なくとも一方に由来することが好ましい。即ち、(メタ)アクリレートモノマー(D)は、好ましくは、ウレタン(メタ)アクリレートである。
【0067】
(メタ)アクリレートモノマー(D)は、好ましくは、後述するイソ(チオ)シアネート化合物(b2)におけるイソ(チオ)シアネート基と、チオール化合物(F)におけるメルカプト基と、の反応によって形成された、チオウレタン結合(即ち、-NHC(=O)S-結合及び-NHC(=S)S-結合の少なくとも一方。以下同じ。)を含み、かつ、(メタ)アクリロイル基を含む。(メタ)アクリレートモノマー(D)の(メタ)アクリロイル基は、イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の少なくとも一方に由来することが好ましい。即ち、(メタ)アクリレートモノマー(D)は、好ましくは、チオウレタン(メタ)アクリレートである。
上記チオウレタン(メタ)アクリレートは、好ましくは、イソ(チオ)シアネート化合物(B)におけるイソ(チオ)シアネート基と、アルコール化合物(C)におけるヒドロキシ基と、の反応によって形成された、ウレタン結合(即ち、-NHC(=O)O-結合及び-NHC(=S)O-結合)を含む。
【0068】
本開示のモノマー組成物において、(メタ)アクリレートモノマー(D)の含有量は、モノマー組成物の全量に対し、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。
【0069】
本開示のモノマー組成物において、(メタ)アクリレートモノマー(D)、イソ(チオ)シアネート化合物(B)、及びアルコール化合物(C)の総含有量は、モノマー組成物の全量に対し、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。
【0070】
以下、(メタ)アクリレートモノマー(D)の原料組成物に含まれる、イソ(チオ)シアネート化合物(B)、(メタ)アクリレート化合物(C)について説明する。更に、(メタ)アクリレートモノマー(D)の原料組成物に含まれ得る、チオール化合物(F)について説明する。
【0071】
(イソ(チオ)シアネート化合物(B))
(メタ)アクリレートモノマー(D)の原料組成物は、イソ(チオ)シアネート化合物(B)を含有する。
イソ(チオ)シアネート化合物(B)は、イソ(チオ)シアネート基を含む。
本開示のモノマー組成物に含有されるイソ(チオ)シアネート基を含むイソ(チオ)シアネート化合物(B)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
イソ(チオ)シアネート化合物(B)におけるイソ(チオ)シアネート基の数は、好ましくは2~4である。
イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の少なくとも一方が(メタ)アクリロイル基を含むことが好ましい。アルコール化合物(C)が(メタ)アクリロイル基を含む場合、イソ(チオ)シアネート化合物(B)は(メタ)アクリロイル基を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。アルコール化合物(C)が(メタ)アクリロイル基を含まない場合、イソ(チオ)シアネート化合物(B)は(メタ)アクリロイル基を含む。
イソ(チオ)シアネート化合物(B)は、芳香環を含むことが好ましい。
【0072】
本開示において、イソ(チオ)シアネート化合物(B)としては、イソ(チオ)シアネート化合物(b1)、反応生成物(X)等が挙げられる。
イソ(チオ)シアネート化合物(b1)は、チオウレタン結合を含まないイソ(チオ)シアネート化合物そのものである。
反応生成物(X)は、チオウレタン結合を含まないイソ(チオ)シアネート化合物(b2)とメルカプト基を2つ以上含むチオール化合物(F)との反応生成物である。チオール化合物(F)の詳細については、後述する。
イソ(チオ)シアネート化合物(B)は、イソ(チオ)シアネート化合物(b1)、又は反応生成物(X)を含むことが好ましい。
特に、イソ(チオ)シアネート化合物(B)は、反応生成物(X)であることが好ましい。換言すると、(メタ)アクリレートモノマー(D)は、反応生成物(X)とアルコール化合物(B)との反応生成物(Y)であることが好ましい。この場合、(メタ)アクリレートモノマー(D)は、反応生成物(X)におけるイソ(チオ)シアネート基(即ち、イソ(チオ)シアネート化合物(b2)に由来するイソ(チオ)シアネート基)と、チオール化合物(F)におけるメルカプト基と、の反応によって形成された、チオウレタン結合を含み、かつ、(メタ)アクリロイル基を含む。
【0073】
以下、イソ(チオ)シアネート化合物(b1)と、反応生成物(X)の原料であるイソ(チオ)シアネート化合物(b2)とをまとめて「イソ(チオ)シアネート化合物(b)」と呼称する。
【0074】
イソ(チオ)シアネート化合物(b)として、好ましくは、イソシアネート基を2つ以上(より好ましくは2つ又は3つ、更に好ましくは2つ)含むイソシアネート化合物であり、より好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアネートシクロへキシル)メタン、2,5-ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,1-(ビス(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート及び2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0075】
イソ(チオ)シアネート化合物(b)(特に、イソ(チオ)シアネート化合物(b1)及びイソ(チオ)シアネート化合物(b2))が、より好ましくは、m-キシリレンジイソシアネート、1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0076】
イソ(チオ)シアネート化合物(b)のうち、チオイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソチオシアネート化合物、脂環族ポリイソチオシアネート化合物、芳香族ポリイソチオシアネート化合物、含硫複素環ポリイソチオシアネート化合物等が挙げられる。
脂肪族ポリイソチオシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソチオシアネート、リジンジイソチオシアネートメチルエステル、リジントリイソチオシアネート、m-キシリレンジイソチオシアネート、ビス(イソチオシアネートメチル)スルフィド、ビス(イソチオシアネートエチル)スルフィド、ビス(イソチオシアネートエチル)ジスルフィド等が挙げられる。
脂環族ポリイソチオシアネート化合物としては、イソホロンジイソチオシアネート、ビス(イソチオシアネートメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソチオシアネート、シクロヘキサンジイソチオシアネート、メチルシクロヘキサンジイソチオシアネート、2,5-ビス(イソチオシアネートメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソチオシアネートメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、3,8-ビス(イソチオシアネートメチル)トリシクロデカン、3,9-ビス(イソチオシアネートメチル)トリシクロデカン、4,8-ビス(イソチオシアネートメチル)トリシクロデカン、4,9-ビス(イソチオシアネートメチル)トリシクロデカン等が挙げられる。
芳香族ポリイソチオシアネート化合物としては、トリレンジイソチオシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソチオシアネート、ジフェニルジスルフィド-4,4-ジイソチオシアネート等が挙げられる。
含硫複素環ポリイソチオシアネート化合物としては、2,5-ジイソチオシアネートチオフェン、2,5-ビス(イソチオシアネートメチル)チオフェン、2,5-イソチオシアネートテトラヒドロチオフェン、2,5-ビス(イソチオシアネートメチル)テトラヒドロチオフェン、3,4-ビス(イソチオシアネートメチル)テトラヒドロチオフェン、2,5-ジイソチオシアネート1,4-ジチアン、2,5-ビス(イソチオシアネートメチル)-1,4-ジチアン、4,5-ジイソチオシアネート1,3-ジチオラン、4,5-ビス(イソチオシアネートメチル)-1,3-ジチオラン等が挙げられる。
【0077】
本開示では、イソ(チオ)シアネート化合物(B)の原料として市販品を用いる場合、公知の方法によって市販品を精製して得られるイソ(チオ)シアネート化合物(B)を使用することが好ましい。市販品は、安定剤としてアミド化合物を含有する場合がある。イソ(チオ)シアネート化合物(B)として、アミド化合物を含有する市販品を精製せずにそのまま用いると、市販品に含まれるアミド化合物に起因して、モノマー組成物の色相は黄色味を帯びるおそれがある。
【0078】
(アルコール化合物(C))
(メタ)アクリレートモノマー(D)の原料組成物は、アルコール化合物(C)を含有する。
アルコール化合物(C)は、ヒドロキシ基を含む。
(メタ)アクリレートモノマー(D)の原料組成物に含有されるアルコール化合物(C)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の少なくとも一方が(メタ)アクリロイル基を含むことが好ましい。イソ(チオ)シアネート化合物(B)が(メタ)アクリロイル基を含む場合、アルコール化合物(C)は(メタ)アクリロイル基を含んでもよく、含まなくてもよい。イソ(チオ)シアネート化合物(B)が(メタ)アクリロイル基を含まない場合、アルコール化合物(C)は(メタ)アクリロイル基を含む。
【0079】
アルコール化合物(C)として、好ましくは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコール及びグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0080】
本開示のモノマー組成物では、イソ(チオ)シアネート化合物(B)中のイソ(チオ)シアネート基に対するアルコール化合物(C)中のヒドロキシ基のモル比(即ち、モル比〔ヒドロキシ基/イソ(チオ)シアネート基〕)は、好ましくは0.3~2であり、より好ましくは0.5~1.5であり、更に好ましくは0.8~1.2であり、更に好ましくは0.9~1.1である。
【0081】
本開示のモノマー組成物では、イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の総含有量は、モノマー組成物の全量に対し、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。
イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の総含有量の上限は、非錫系触媒(A)の含有量に応じて適宜定まる。イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の総含有量の上限としては、例えば、99.9質量%、99.7質量%、99.5質量%等が挙げられる。
【0082】
(チオール化合物(F))
(メタ)アクリレートモノマー(D)の原料組成物は、チオール化合物(F)を含有してもよい。これにより、(メタ)アクリレートモノマー(D)は、例えば、イソ(チオ)シアネート化合物(b2)及びチオール化合物(F)を反応させて得られる反応生成物(X)と、アルコール化合物(C)との反応生成物(Y)として得られる。
(メタ)アクリレートモノマー(D)の原料組成物に含有されるチオール化合物(F)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
チオール化合物(F)におけるメルカプト基の数は、好ましくは2つ以上であり、より好ましくは3つ以上、さらに好ましくは3つ~6つ、特に好ましくは3つ~5つ、一層好ましくは3つ又は4つである。
【0083】
チオール化合物(F)については、例えば、国際公開第2019/107323号の段落0045~0087の記載を適宜参照できる。
【0084】
チオール化合物(F)として、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、2,5-ジメルカプトメチル-1,4-ジチアン、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、及びジエチレングリコールビス(メルカプトプロピオネート)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
チオール化合物(F)として、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、及びペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0085】
本開示のモノマー組成物では、反応生成物(X)の原料であるイソ(チオ)シアネート化合物(b2)中のイソ(チオ)シアネート基に対するアルコール化合物(C)中のヒドロキシ基及びチオール化合物(F)のメルカプト基のモル比(即ち、モル比〔(ヒドロキシ基+メルカプト基)/イソ(チオ)シアネート基〕)は、好ましくは0.3~2であり、より好ましくは0.5~1.5であり、更に好ましくは0.8~1.2であり、更に好ましくは0.9~1.1である。
【0086】
本開示のモノマー組成物では、反応生成物(X)の原料であるイソ(チオ)シアネート化合物(b2)、アルコール化合物(C)及びチオール化合物(F)の総含有量は、モノマー組成物の全量に対し、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。
イソ(チオ)シアネート化合物(b2)、アルコール化合物(C)及びチオール化合物(F)の総含有量の上限は、非錫系触媒(A)の含有量に応じて適宜定まる。反応生成物(X)の原料であるイソ(チオ)シアネート化合物(b2)、アルコール化合物(C)及びチオール化合物(F)の総含有量の上限としては、例えば、99.9質量%、99.7質量%、99.5質量%等が挙げられる。
【0087】
(安定剤(E))
(メタ)アクリレートモノマー(D)の原料組成物は、安定剤(E)を含有してもよい。
(メタ)アクリレートモノマー(D)の原料組成物に含有される安定剤(E)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0088】
安定剤(E)は、亜リン酸エステル系化合物、及びフェノール系化合物の少なくとも一方である。つまり、安定剤(E)は、亜リン酸エステル系化合物であってもよいし、フェノール系化合物であってもよいし、亜リン酸エステル系化合物、及びフェノール系化合物であってもよい。
【0089】
亜リン酸エステル系化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、ジフェニルモノ(2-エチルヘキシル)ホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト,ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。
【0090】
フェノール系化合物としては、フェノール、メタクレゾール、2,5-ジターシャリアミルハイドロキノン、2,5-ジターシャリブチルハイドロキノン等が挙げられる。
【0091】
安定剤(E)の含有量は、モノマー組成物の全量に対し、好ましくは10質量ppm~10000質量ppm、より好ましくは50質量ppm~5000質量ppm、さらに好ましくは100質量ppm~2500質量ppm、より好ましくは200質量ppm~1000質量ppmである。
【0092】
本開示のモノマー組成物は、(メタ)アクリレートモノマー(D)(即ち、反応生成物)以外に、未反応の原料として、イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の少なくとも一方を含有していてもよい。
【0093】
<重合禁止剤(G)>
本開示のモノマー組成物は、重合禁止剤(G)を含有してもよい。
本開示のモノマー組成物が重合禁止剤(G)を含有する場合、含有される重合禁止剤(G)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
重合禁止剤(G)としては、特に限定されず、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、フェノチアジン(PTZ)等が挙げられる。
【0094】
重合禁止剤(G)の含有量は、モノマー組成物の全量に対し、好ましくは0.001質量%~0.5質量%、より好ましくは0.002質量%~0.3質量%、さらに好ましくは0.005質量%~0.3質量%、より好ましくは0.01質量%~0.2質量%である。
【0095】
<その他のモノマー>
本開示のモノマー組成物は、(メタ)アクリレートモノマー(D)並びにその原料であるイソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)以外にも、その他のモノマーを少なくとも1種含有していてもよい。
その他のモノマーとしては、(メタ)アクリレートモノマー(D)、イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)以外の(メタ)アクリレート(以下、「(メタ)アクリレート化合物(H)」ともいう)が挙げられる。
【0096】
(メタ)アクリレート化合物(H)としては、例えば、ネオペンチルジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0097】
本開示のモノマー組成物がその他のモノマー(例えば(メタ)アクリレート化合物(H))を含有する場合、その他のモノマーの含有量は、イソ(チオ)シアネート化合物(B)、アルコール化合物(C)、(メタ)アクリレートモノマー(D)及びその他のモノマーの総含有量(ただし、(メタ)アクリロイル基を含まない化合物を除く)に対し、好ましくは1質量%~70質量%であり、より好ましくは5質量%~50質量%であり、更に好ましくは10質量%~40質量%であり、更に好ましくは20質量%~40質量%である。
【0098】
<その他の成分>
本開示のモノマー組成物は、上述した成分以外のその他の成分を含有していてもよい。
本開示のモノマー組成物に含有され得るその他の成分としては、後述する硬化性組成物中の成分が挙げられる。
【0099】
〔モノマー組成物の製造方法〕
本開示のモノマー組成物の製造方法は、非錫系触媒(A)、及び、イソ(チオ)シアネート化合物(B)とアルコール化合物(C)との反応生成物である(メタ)アクリレートモノマー(D)を含有するモノマー組成物を製造する方法であって、非錫系触媒(A)と、イソ(チオ)シアネート化合物(B)と、アルコール化合物(C)と、を混合する工程(以下、「混合工程」ともいう)を含み、カルボン酸アミド基及びスルホンアミド基の少なくとも一方を含むアミド化合物の含有量が、モノマー組成物の全量に対して1質量ppm未満である。
本開示のモノマー組成物の製造方法は、必要に応じ、その他の工程を含んでいてもよい。
【0100】
混合工程では、非錫系触媒(A)、イソ(チオ)シアネート化合物(B)、及びアルコール化合物(C)の各成分を混合することにより、イソ(チオ)シアネート化合物(B)とアルコール化合物(C)との反応が進行し、反応生成物である(メタ)アクリレートモノマー(D)が生成される。これにより、Sn系触媒に代わる触媒を用いて(メタ)アクリレートモノマー(D)を製造可能であり、歯科材料に適した色相を有する硬化物を製造可能である。
【0101】
混合工程では、非錫系触媒(A)と、チオウレタン結合を含まないイソ(チオ)シアネート化合物(b2)と、アルコール化合物(C)と、メルカプト基を2つ以上含むチオール化合物(F)と、を混合してもよい。
混合工程では、非錫系触媒(A)、イソ(チオ)シアネート化合物(b2)、アルコール化合物(C)、及びチオール化合物(F)の各成分を混合することにより、イソ(チオ)シアネート化合物(b2)とアルコール化合物(C)とチオール化合物(F)との反応が進行し、反応生成物である(メタ)アクリレートモノマー(D)が生成される。
混合工程では、非錫系触媒(A)と、チオウレタン結合を含まないイソ(チオ)シアネート化合物(b2)と、メルカプト基を2つ以上含むチオール化合物(F)とを混合した後に、アルコール化合物(C)を添加して混合してもよい。換言すると、混合工程では、混合により、イソ(チオ)シアネート化合物(b2)とチオール化合物(F)とを反応させて反応生成物(X)を生成した後、該反応生成物(X)とアルコール化合物(C)とを反応させ、反応生成物(Y)である(メタ)アクリレートモノマー(D)を生成してもよい。
これにより、Sn系触媒に代わる触媒を用いて(メタ)アクリレートモノマー(D)を製造可能であり、歯科材料に適した色相を有する硬化物を製造可能である。
【0102】
混合工程において、各成分を混合する態様については特に制限はない。
各成分を混合する態様として、好ましくは、まず、非錫系触媒(A)と、イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の一方とを混合して組成物を調製し、得られた組成物に対し、イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の他方を加えて混合する態様である。このとき、イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の他方は滴下等により徐々に混合してもよい。
【0103】
各成分を混合する態様として、より好ましくは、イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の一方が(メタ)アクリロイル基を含み、他方が(メタ)アクリロイル基を含まず、以下のように各成分を混合する態様である。具体的には、非錫系触媒(A)と、イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の一方であり、かつ(メタ)アクリロイル基を含まない化合物とを混合して組成物を調製し、得られた組成物に対し、イソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の他方であり、かつ(メタ)アクリロイル基を含まない化合物を加えて混合する態様である。これにより、(メタ)アクリロイル基の重合反応を抑制しつつ、イソ(チオ)シアネート化合物(B)とアルコール化合物(C)との反応を好適に進行させることができる傾向にある。
【0104】
混合工程における上記反応の反応温度は、好ましくは40℃~90℃であり、より好ましくは50℃~90℃であり、更に好ましくは60℃~90℃である。
【0105】
混合工程における上記反応の反応時間は、イソ(チオ)シアネート化合物(B)とアルコール化合物(C)との反応をより進行させる観点から、好ましくは1時間以上であり、より好ましくは2時間以上であり、更に好ましくは3時間以上である。
反応時間は、(メタ)アクリレートモノマー(D)の分解、重合等、イソ(チオ)シアネート化合物(B)同士の副反応等をより抑制する観点から、好ましくは30時間以下であり、より好ましくは25時間以下であり、更に好ましくは20時間以下である。
【0106】
混合工程における非錫系触媒(A)の使用量の好ましい範囲は、本開示のモノマー組成物における非錫系触媒(A)の含有量の好ましい範囲と同様である。
【0107】
混合工程における、モル比〔ヒドロキシ基/イソ(チオ)シアネート基〕並びにイソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の総使用量の好ましい範囲は、本開示のモノマー組成物におけるモル比〔ヒドロキシ基/イソ(チオ)シアネート基〕並びにイソ(チオ)シアネート化合物(B)及びアルコール化合物(C)の総含有量と同様である。
【0108】
混合工程では、非錫系触媒(A)、イソ(チオ)シアネート化合物(B)、及びアルコール化合物(C)の各成分だけでなく、その他の成分を加えて混合してもよい。
その他の成分として、重合禁止剤(G)が好ましい。重合禁止剤(G)については、「モノマー組成物」の項を適宜参照できる。
混合工程において、重合禁止剤(G)を加えて各成分を混合した場合には、アルコール化合物(C)の重合をより抑制でき、イソ(チオ)シアネート化合物(B)とアルコール化合物(C)との反応をより効果的に進行させることができる。
重合禁止剤(G)の使用量は、非錫系触媒(A)、イソ(チオ)シアネート化合物(B)、及びアルコール化合物(C)の総使用量に対し、0.001質量%~0.5質量%であってもよく、0.002質量%~0.3質量%であってもよく、0.005質量%~0.3質量%であってもよい。
【0109】
〔硬化性組成物〕
本開示の硬化性組成物は、上述した本開示のモノマー組成物を含有する。
即ち、本開示の硬化性組成物は、上述した本開示のモノマー組成物中の各成分を含有する。
本開示の硬化性組成物は、上述した本開示のモノマー組成物からなるもの(即ち、本開示のモノマー組成物自体)であってもよい。
【0110】
本開示の硬化性組成物は、硬化物(例えば、後述する成形体)の製造に好適に用いられる。ここでいう「硬化物」は、本開示の硬化性組成物を硬化させたものを意味する。
本開示の硬化性組成物の硬化は、含有されるモノマーの重合によって実現される。
本開示の硬化性組成物を硬化させる方法としては、硬化性組成物中のモノマーを常温重合させる方法、硬化性組成物中のモノマーを熱重合させる方法、硬化性組成物中のモノマーを光重合させる方法、等が挙げられる。
【0111】
本開示の硬化性組成物では、硬化物とした場合の硬化物の色相は歯科材料に適している(例えば、黄色味を帯びていない)。
かかる効果には、モノマーとしての上述した(メタ)アクリレートモノマー(D)(即ち、ウレタン結合を含む(メタ)アクリレートモノマー(D))が寄与していると考えられる。
【0112】
本開示の硬化性組成物中におけるモノマー組成物の含有量は、硬化性組成物の全量に対し、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、更に好ましくは30質量%以上である。
本開示の硬化性組成物中におけるモノマー組成物の含有量は、硬化性組成物の全量に対し、100質量%であってもよく、80質量%以下、60質量%以下、50質量%以下等であってもよい。
【0113】
<重合開始剤>
本開示の硬化性組成物は、重合開始剤を含有することが好ましい。
本開示の硬化性組成物が重合開始剤を含有する場合、含有される重合開始剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
本開示の硬化性組成物が重合開始剤を含有する場合には、硬化性組成物を硬化させる過程において、モノマー(即ち、(メタ)アクリレートモノマー(D)及び必要に応じて含有されるその他のモノマー。以下同じ。)の重合をより促進させることができる。
【0114】
モノマーの重合として常温重合を行う場合の重合開始剤としては、例えば、酸化剤及び還元剤を組み合わせたレドックス系の重合開始剤が好ましい。
レドックス系の重合開始剤を使用する場合、例えば、別々に包装された形態の酸化剤と還元剤とを準備し、使用する直前に両者を混合してもよい。
【0115】
酸化剤としては、特に限定されず、例えば、有機過酸化物等が挙げられる。有機過酸化物としては、ジアシルパーオキサイド類(例えば、ベンゾイルパーオキサイド等)、パーオキシエステル類(例えば、t-ブチルパーオキシベンゾエート等)、ジアルキルパーオキサイド類(例えば、ジクミルパーオキサイド等)、パーオキシケタール類(例えば、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等)、ケトンパーオキサイド類(例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド等)、ハイドロパーオキサイド類(例えば、t-ブチルハイドロパーオキサイド等)が挙げられる。
【0116】
還元剤としては、特に限定されず、通常、第三級アミン(例えば、N,N-ジメチルアニリン等)が用いられる。
【0117】
レドックス系重合開始剤として、これら有機過酸化物/アミン系の他には、クメンヒドロパーオキサイド/チオ尿素系、アスコルビン酸/Cu2+塩系、有機過酸化物/アミン/スルフィン酸(又はその塩)系等が挙げられる。
重合開始剤として、トリブチルボラン、有機スルフィン酸等も好適に用いられる。
【0118】
モノマーの重合として加熱による熱重合を行う場合、重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系化合物等が好ましい。
過酸化物としては特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等が挙げられる。
アゾ系化合物としては特に限定されず、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0119】
モノマーの重合として可視光線照射による光重合を行う場合の重合開始剤(以下、「光重合開始剤」ともいう)としては、α-ジケトン/第三級アミン、α-ジケトン/アルデヒド、α-ジケトン/メルカプタン等のレドックス系開始剤が好ましい。
光重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、α-ジケトン/還元剤、ケタール/還元剤、チオキサントン/還元剤等が挙げられる。
α-ジケトンとしては、例えば、カンファーキノン等が挙げられる。
ケタールとしては、例えば、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。
チオキサントンとしては、例えば、2-クロロチオキサントン等が挙げられる。
還元剤としては、例えば、第三級アミン(例えば、ミヒラ-ケトン等)、アルデヒド類(例えば、シトロネラール等)、チオール基を含む化合物(例えば、2-メルカプトベンゾオキサゾール等)などが挙げられる。
更に、これらのレドックス系開始剤に有機過酸化物を添加したα-ジケトン/有機過酸化物/還元剤等の重合開始剤も好適に光重合開始剤として用いられる。
【0120】
紫外線照射による光重合を行う場合の光重合開始剤としては、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルジメチルケタール、(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類等が挙げられる。
【0121】
(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類としては、アシルフォスフィンオキサイド類(例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等)、ビスアシルフォスフィンオキサイド類(例えば、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等)などが挙げられる。
これら(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類の光重合開始剤は、単独で使用、又は各種アミン類、アルデヒド類、メルカプタン類、スルフィン酸塩等の還元剤と併用してもよい。
これら(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類の光重合開始剤は、上記可視光線の光重合開始剤とも併用してもよい。
【0122】
例えば、国際公開第2019/107323号、国際公開第2020/040141号等を参照して重合開始剤を使用してもよい。
【0123】
重合開始剤の含有量は、硬化性組成物に含有されているモノマーの全量に対し、0.01質量%~20質量%が好ましく、0.1質量%~5質量%がより好ましい。
【0124】
<フィラー>
本開示の硬化性組成物は、フィラーを含有してもよい。
本開示の硬化性組成物がフィラーを含有する場合、含有されるフィラーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
本開示の硬化性組成物が、フィラーを含有する場合には、硬化物とした場合の機械的特性がより向上する。
【0125】
フィラーは、有機フィラーと無機フィラーとに大別される。
有機フィラーとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル等の微粉末が挙げられる。
【0126】
無機フィラーの材質としては、例えば、各種ガラス類(例えば、二酸化珪素を主成分とし、必要に応じ、重金属、ホウ素、アルミニウム等の酸化物を含有する)、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(例えば、モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイトなどが挙げられる。
無機フィラーの具体例としては、例えば、バリウムボロシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、ランタンガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ボロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。
【0127】
フィラーとしては、例えば、国際公開第2019/107323号、国際公開第2020/040141号等に記載されているフィラーを使用してもよい。
【0128】
フィラーの含有量は、硬化性組成物に含有されているモノマーの全量を100質量部とした場合に、好ましくは10質量部~2000質量部、より好ましくは50質量部~1000質量部、さらに好ましくは100質量部~600質量部である。
【0129】
<その他の成分>
本開示の硬化性組成物は、上述した成分以外のその他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、顔料、染料、殺菌剤、消毒剤、安定化剤、保存剤等が挙げられる。
【0130】
<好ましい用途>
本開示の硬化性組成物の用途には特に制限はない。
本開示の硬化性組成物は、例えば、塗料、コーティング膜形成用組成物、歯科材料用組成物等として用いることができる。
【0131】
本開示の硬化性組成物は、歯科材料に適した色相を有する硬化物を形成できることから、特に、歯科材料用組成物として好適である。
ここで、「歯科材料用組成物」とは、歯科材料用組成物自体、歯科材料用組成物の硬化物(例えば後述の成形体)、又は、上記硬化物を更に加工したものを、歯科材料として用いることができる組成物を意味する。
歯科材料としては、歯科修復材料、義歯床用レジン、義歯床用裏装材、印象材、合着用材料(例えば、レジンセメント、レジン添加型グラスアイオノマーセメント等)、歯科用接着材(例えば、歯列矯正用接着材、窩洞塗布用接着材等)、歯牙裂溝封鎖材、CAD(Computer Aided Design)/CAM(Computer Aided Manufacturing)用レジンブロック、テンポラリークラウン、人工歯材料等が挙げられる。
歯科修復材料としては、歯冠用コンポジットレジン、齲蝕窩洞充填用コンポジットレジン、支台築造用コンポジットレジン、充填修復用コンポジットレジン等が挙げられる。
【0132】
<製法の一例>
本開示の硬化性組成物の製造方法については特に制限はない。
以下、本開示の硬化性組成物を製造する方法の一例を説明する。
本開示の硬化性組成物を製造する方法は、例えば、本開示のモノマー組成物を準備する工程と、モノマー組成物とその他の成分(例えば、重合開始剤、フィラー等)とを混合する工程と、を含む。
本開示の硬化性組成物を製造する方法は、必要に応じ、その他の工程を含んでいてもよい。
【0133】
〔成形体〕
本開示の成形体は、上述した本開示の硬化性組成物の硬化物である。
従って、本開示の成形体は、色相が歯科材料に適している。
成形体は、例えば、本開示の硬化性組成物を所望とする形状に成形した後、硬化させることによって製造される。
本開示の硬化性組成物を硬化させる方法の例については前述したとおりである。
【実施例】
【0134】
以下、本開示を実施例によりさらに具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0135】
本開示の実施例に使用した化合物の略号を以下に示す。
<触媒>
(非錫系触媒(A))
・ZDBDT :ジブチルジチオカルバメート亜鉛
・ZACAC :亜鉛アセチルアセトナート
・InACAC:インジウムアセチルアセトナート
・PtACAC:白金アセチルアセトナート
・PtTTPP:テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金
・CuTTTF:トリス(トリフェニルホスフィン)(トリフルオロメチル)銅
(錫系触媒)
・DBTDL:ジブチル錫ジラウレート
<イソ(チオ)シアネート化合物(B)>
・XDI :m-キシリレンジイソシアネート
<アルコール化合物(C)>
・HPA :2-ヒドロキシプロピルアクリレート
<安定剤(E)>
(カルボン酸アミド基及びスルホンアミド基の少なくとも一方を含まない化合物)
・PhOH:フェノール
・HCl :塩酸
・TPP :トリフェニルフォスファイト
(カルボン酸アミド基及びスルホンアミド基の少なくとも一方を含む化合物)
・PTSA:p-トルエンスルホンアミド
・BzA :ベンズアミド
<チオール化合物(F)>
・THIOL:5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンと、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンとの混合物
<重合禁止剤(G)>
・BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
【0136】
[高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の測定方法]
本開示の実施例、及び比較例で得られた(メタ)アクリレートのHPLCチャートスペクトルを、株式会社島津製作所製のHPLC装置「LC-20AT」を用いて測定した。
本開示の実施例、比較例、及び参考例で得られた(メタ)アクリレートをCH3CNに溶解させた後、該(メタ)アクリレートについてCH3CN/H2O=90/10の溶離液にて測定を行った。
【0137】
[色相の判定]
本開示の実施例及び比較例における色相については、実施例3~実施例16、及び比較例1~比較例13のモノマー組成物のb*と、実施例1又は実施例2のモノマー組成物のb*との差異(Δb*)により規定した。詳しくは、モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含まない実施例3、4及び比較例1~4のモノマー組成物のb*の比較対象は、モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含まない実施例1のモノマー組成物のb*とした。モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含む実施例5、6及び比較例5~8のモノマー組成物のb*の比較対象は、モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含む実施例2のモノマー組成物のb*とした。モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含む実施例8及び比較例9のモノマー組成物のb*の比較対象は、モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含む実施例7のモノマー組成物のb*とした。モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含む実施例10及び比較例10のモノマー組成物のb*の比較対象は、モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含む実施例9のモノマー組成物のb*とした。モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含む実施例12及び比較例11のモノマー組成物のb*の比較対象は、モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含む実施例11のモノマー組成物のb*とした。モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含む実施例14及び比較例12のモノマー組成物のb*の比較対象は、モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含む実施例13のモノマー組成物のb*とした。モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含む実施例16及び比較例13のモノマー組成物のb*の比較対象は、モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含む実施例15のモノマー組成物のb*とした。
本開示の参考例における色相については、参考例3、4のモノマー組成物のb*と参考例1、2のモノマー組成物のb*との差異(Δb*)により規定した。モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含まない参考例3のモノマー組成物のb*の比較対象は、モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含まない参考例1のモノマー組成物のb*とした。モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含む参考例4のモノマー組成物のb*の比較対象は、モノマー組成物の原料にチオール化合物(F)を含む参考例2のモノマー組成物のb*とした。
Δb*が0.3未満のものについては判定を「A」、Δb*が0.3以上のものについては「B」とした。
【0138】
(b*の測定方法)
本開示の実施例、及び比較例のモノマー組成物におけるb*は、分光色差計(日本電色株式会社製SD-3000)を用い測定した。温度25℃にてコントロールした。
【0139】
[製造例:XDI]
窒素ラインに連結されたキャピラリー管を備える蒸留釜に、XDI品(東京化成工業株式会社製、製品コード:「X0022」、XDIの純度:>98.0%(GC))を装入した。そして、0.5~5torr(66.7Pa~666.7Pa)の圧力範囲、かつ、160℃~240℃の温度範囲において、減圧蒸留を実施した。次いで、留出液を捕集した。これにより、XDI品からXDIを得た。
【0140】
[実施例1]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた100mL4ツ口フラスコ内に、XDI 41.97質量部、ZDBDT 0.1質量部、BHT 0.05質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、この溶液を80℃まで昇温し、さらにHPA 58.03質量部を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、90℃以下となるように滴下量をコントロールした。HPAを全量滴下した後、反応温度を90℃に保って、6時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、ウレタンアクリレートモノマー(A-1)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0141】
[実施例2]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた100mL4ツ口フラスコ内に、XDI 42.70質量部、ZDBDT 0.1質量部、BHT 0.05質量部、THIOL 4.18質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、80℃で4時間反応させた。当該溶液を、90℃まで昇温し、更にHPA 53.12質量部を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、90℃以下となるように滴下量をコントロールした。全量滴下後反応温度を90℃に保って、6時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、チオウレタンアクリレートモノマー(A-2)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0142】
[実施例3]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた100mL4ツ口フラスコ内に、XDI 41.97質量部、ZDBDT 0.1質量部、BHT 0.05質量部、PhOH 0.025質量部、HCl 0.025質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、この溶液を80℃まで昇温し、さらにHPA 58.03質量部を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、90℃以下となるように滴下量をコントロールした。HPAを全量滴下した後、反応温度を90℃に保って、6時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、ウレタンアクリレートモノマー(B-1)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0143】
[実施例4]
PhOH及びHClをTPP 0.05質量部に変更したこと以外は実施例3と同様にしてウレタンアクリレートモノマー(B-2)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0144】
[実施例5]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた100mL4ツ口フラスコ内に、XDI 42.70質量部、ZDBDT 0.1質量部、BHT 0.05質量部、PhOH 0.025質量部、HCl 0.025質量部、THIOL 4.18質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、80℃で4時間反応させた。当該溶液を、90℃まで昇温し、更にHPA 53.12質量部を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、90℃以下となるように滴下量をコントロールした。全量滴下後反応温度を90℃に保って、6時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、チオウレタンアクリレートモノマー(B-3)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0145】
[実施例6]
PhOH及びHClをTPP 0.05質量部に変更したこと以外は実施例5と同様にしてチオウレタンアクリレートモノマー(B-4)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0146】
[実施例7~16]
非錫系触媒(A)及び安定剤(E)を表1に示すように変更したことの他は、実施例5と同様にして、モノマー組成物 100gを得た。
【0147】
[比較例1]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた100mL4ツ口フラスコ内に、XDI 41.97質量部、ZDBDT 0.1質量部、BHT 0.05質量部、PTSA 0.05質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、この溶液を80℃まで昇温し、さらにHPA 58.03質量部を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、90℃以下となるように滴下量をコントロールした。HPAを全量滴下した後、反応温度を90℃に保って、6時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、ウレタンアクリレートモノマー(C-1)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0148】
[比較例2]
PTSAをBzAに変更したこと以外は比較例1と同様にしてウレタンアクリレートモノマー(C-2)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0149】
[比較例3]
PTSAを0.05質量部から0.005質量部に変更した以外は比較例1と同様にしてウレタンアクリレートモノマー(C-3)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0150】
[比較例4]
BzAを0.05質量部から0.005質量部に変更した以外は比較例2と同様にしてウレタンアクリレートモノマー(C-4)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0151】
[比較例5]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた100mL4ツ口フラスコ内に、XDI 42.70質量部、ZDBDT 0.1質量部、BHT 0.05質量部、PTSA 0.05質量部、THIOL 4.18質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、80℃で4時間反応させた。当該溶液を、90℃まで昇温し、更にHPA 53.12質量部を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、90℃以下となるように滴下量をコントロールした。全量滴下後反応温度を90℃に保って、6時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、チオウレタンアクリレートモノマー(C-5)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0152】
[比較例6]
PTSAをBzAに変更したこと以外は比較例5と同様にしてチオウレタンアクリレートモノマー(C-6)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0153】
[比較例7]
PTSAを0.05質量部から0.005質量部に変更した以外は比較例5と同様にしてチオウレタンアクリレートモノマー(C-7)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0154】
[比較例8]
BzAを0.05質量部から0.005質量部に変更した以外は比較例6と同様にしてチオウレタンアクリレートモノマー(C-8)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0155】
[比較例9~比較例13]
非錫系触媒(A)及び安定剤(E)を表1に示すように変更したことの他は、比較例5と同様にして、モノマー組成物 100gを得た。
【0156】
[参考例1]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた100mL4ツ口フラスコ内に、XDI 41.97質量部、DBTDL 0.1質量部、BHT 0.05質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、この溶液を80℃まで昇温し、さらにHPA 58.03質量部を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、90℃以下となるように滴下量をコントロールした。HPAを全量滴下した後、反応温度を90℃に保って、4時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、ウレタンアクリレートモノマー(D-1)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0157】
[参考例2]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた100mL4ツ口フラスコ内に、XDI 42.70質量部、DBTDL 0.1質量部、BHT 0.05質量部、THIOL 4.18質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、80℃で2時間反応させた。当該溶液を、90℃まで昇温し、更にHPA 53.12質量部を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、90℃以下となるように滴下量をコントロールした。全量滴下後反応温度を90℃に保って、4時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、チオウレタンアクリレートモノマー(D-2)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0158】
[参考例3]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた100mL4ツ口フラスコ内に、XDI 41.97質量部、DBTDL 0.1質量部、BHT 0.05質量部、PTSA 0.05質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、この溶液を80℃まで昇温し、さらにHPA 58.03質量部を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、90℃以下となるように滴下量をコントロールした。HPAを全量滴下した後、反応温度を90℃に保って、4時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、ウレタンアクリレートモノマー(E-1)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0159】
[参考例4]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた100mL4ツ口フラスコ内に、XDI 42.70質量部、DBTDL 0.1質量部、BHT 0.05質量部、PTSA 0.05質量部、THIOL 4.18質量部を装入し、溶解させて均一溶液とした後、80℃で2時間反応させた。当該溶液を、90℃まで昇温し、更にHPA 53.12質量部を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、90℃以下となるように滴下量をコントロールした。全量滴下後反応温度を90℃に保って、4時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、チオウレタンアクリレートモノマー(E-2)を含有するモノマー組成物 100gを得た。
【0160】
実施例1~16、比較例1~13、及び参考例1~4のモノマー組成物のb*の測定結果、Δb*の算出結果、及びモノマー組成物の色相の評価結果を表1及び表2に示す。
【0161】
【0162】
【0163】
表1及び表2中、「アミド非含有化合物」とは、カルボン酸アミド基及びスルホンアミド基の少なくとも一方を含まない合物を示す。表1及び表2中、「アミド含有化合物」とは、カルボン酸アミド基及びスルホンアミド基の少なくとも一方を含む化合物を示す。
【0164】
歯科材料用モノマーとして汎用的に使用されているUDMA(ジメタクリロキシエチル2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジウレタン)やTEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)は、b*が、0.5以下であり、他の歯科材料用モノマーも少なくとも同程度の色相が求められる。
この点に関して、比較例1~比較例4のモノマー組成物は、非錫系触媒(A)、及びXDI(B)とHPA(C)との反応生成物であるウレタンアクリレートモノマー(D)を含有するが、アミド含有化合物の含有量がモノマー組成物の全量に対して1質量ppm以上であった。比較例5~比較例13のモノマー組成物は、非錫系触媒(A)、及びXDI(B)とHPA(C)とTHIOL(F)との反応生成物であるチオウレタンアクリレート(D)を含有するが、アミド含有化合物の含有量がモノマー組成物の全量に対して1質量ppm以上であった。そのため、比較例1~比較例13のモノマー組成物の全てのb*は、0.5超であった。比較例1~比較例13のモノマー組成物の色相は、目視において黄色味を帯びていた。つまり、比較例1~比較例13のモノマー組成物は、歯科用途の色相に適していないことがわかった。
これに対し、実施例1、実施例3、及び実施例4の各々のモノマー組成物は、非錫系触媒(A)、及びXDI(B)とHPA(C)との反応生成物であるウレタンアクリレート(D)を含有し、アミド含有化合物の含有量がモノマー組成物の全量に対して1質量ppm未満であった。実施例2、及び実施例5~実施例16の各々のモノマー組成物は、非錫系触媒(A)、及びXDI(B)とHPA(C)とTHIOL(F)との反応生成物であるチオウレタンアクリレート(D)を含有し、アミド含有化合物の含有量がモノマー組成物の全量に対して1質量ppm未満であった。そのため、実施例1~実施例16のモノマー組成物の全てのb*は、0.5以下であった。実施例1~実施例16のモノマー組成物の色相は、目視において黄色味を帯びていなかった。すなわち、実施例1~実施例16のモノマー組成物は、全て歯科材料に適した色相を有することがわかった。
参考例1~4のモノマー組成物は、錫系触媒であるDBTDLを用いて合成されたウレタンアクリレートモノマー又はチオウレタンアクリレートモノマーを含んでいるものである。これらのうち、参考例3及び参考例4のモノマー組成物は、アミド含有化合物の含有量がモノマー組成物の全量に対して1質量ppm以上であるにもかかわらず、b*が0.5以下であった。参考例3及び参考例4のモノマー組成物は、参考例1又は2のモノマー組成物(アミド含有化合物の含有量がモノマー組成物の全量に対して1質量ppm未満であるモノマー組成物)との色相差であるΔb*の差がほとんどなかった。
これらのことから、ウレタン(メタ)アクリレートモノマー又はチオウレタン(メタ)アクリレートモノマーの合成をする際に、合成されたモノマー組成物の色相が黄色味を帯びることがあるのは、非錫系触媒を用いることの特有の課題である。この課題をアミド含有化合物が1質量ppm未満であることで解決できることがわかった。
【0165】
2021年1月26日に出願された日本国特許出願2021-010402の開示の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。