(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブヤーン、それを含む熱電発電モジュールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/168 20170101AFI20241225BHJP
D01F 9/12 20060101ALI20241225BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20241225BHJP
H10N 10/855 20230101ALI20241225BHJP
【FI】
C01B32/168
D01F9/12
H10N10/01
H10N10/855
(21)【出願番号】P 2023109268
(22)【出願日】2023-07-03
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】大友 一樹
(72)【発明者】
【氏名】日高 直朗
(72)【発明者】
【氏名】杉山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】小堀 啓
(72)【発明者】
【氏名】手島 愼平
(72)【発明者】
【氏名】志水 利彰
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-509664(JP,A)
【文献】特開2009-251601(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0122335(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
D01F 9/12
H10N 10/855
H10N 10/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状のカーボンナノチューブヤーンが長手方向に沿って屈曲した形状をなし、その長手方向に垂直な断面において、前記帯状のカーボンナノチューブヤーンの一部と別の一部とが対向する箇所を有し、その対向する箇所に空隙が形成されていることを特徴とする、カーボンナノチューブヤーン。
【請求項2】
前記断面における前記帯状のカーボンナノチューブヤーンの一端部から他端部までの長さをLとし、前記帯状のカーボンナノチューブヤーンの幅をWとしたとき、L/Wが15~50である、請求項1に記載のカーボンナノチューブヤーン。
【請求項3】
前記断面の平均径をDとしたとき、L/Dが3.1~4.7である、請求項2に記載のカーボンナノチューブヤーン。
【請求項4】
単層、二層または多層のカーボンナノチューブからなる、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブヤーン。
【請求項5】
長手方向において、P型部分と、N型部分とが交互に存在している、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブヤーン。
【請求項6】
断熱性材料および/または絶縁性材料からなる被膜を表面の少なくとも一部に有する、請求項5に記載のカーボンナノチューブヤーン。
【請求項7】
請求項5に記載のカーボンナノチューブヤーンを含む、熱電発電モジュール。
【請求項8】
基板上にカーボンナノチューブが配置されたCNTアレイから初期ウェブを引き出し、ブレードで処理することで緻密化された幅広ウェブを得る初期工程と、
前記幅広ウェブについて第一の型を通過させることで予備成形して予備成形後ウェブを得る予備成形工程と、
前記初期ウェブ、前記幅広ウェブおよび前記予備成形後ウェブからなる群から選ばれる少なくとも一つに揮発性溶剤を含ませる溶剤工程と、
前記揮発性溶剤を含む前記予備成形後ウェブについて第二の型を通過させることで成形し、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブヤーンを得る本成形工程と、
を備えるカーボンナノチューブヤーンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブヤーン、それを含む熱電発電モジュールおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブを用いた熱電素子または熱電変換デバイスが提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、カーボンナノチューブからなるp型半導体とカーボンナノチューブからなるn型半導体とを直列に接続した繊維状の第1リード線と、カーボンナノチューブからなるp型半導体とカーボンナノチューブからなるn型半導体とを直列に接続した繊維状の第2リード線と、を備え、前記第1リード線と前記第2リード線が互いに撚り合わせられた熱電素子が記載されている。そして、このように熱電素子を繊維状に構成することで、小型で柔軟性に優れたものを実現できるという有利な効果が得られると記載されている。
【0004】
例えば特許文献2には、帯状カーボンナノチューブ不織布である帯状熱電変換材料シートを有する熱電変換デバイスであって、該帯状熱電変換材料シートの形状が、螺旋状に巻かれた形状である、熱電変換デバイスが記載されている。そして、このような熱電変換デバイスは、発電時に熱源(或いは冷却源)側とする面と該面から軸に対して反対側の面との間がより厚くとも、より簡便且つ効率的に製造できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-195232号公報
【文献】特開2016-207766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カーボンナノチューブを含む熱電発電モジュールは、より起電力が高いことが好ましい。
【0007】
本発明は、起電力が高い熱電発電モジュールを得るために用いることができるカーボンナノチューブヤーンおよびその製造方法を提供する。また、そのようなカーボンナノチューブヤーンを含む熱電発電モジュールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の(1)~(8)である。
(1)帯状のカーボンナノチューブヤーンが長手方向に沿って屈曲した形状をなし、その長手方向に垂直な断面において、前記カーボンナノチューブヤーンの一部と別の一部とが対向する箇所を有し、その対向する箇所に空隙が形成されていることを特徴とする、カーボンナノチューブヤーン。
(2)前記断面における前記帯状のカーボンナノチューブヤーンの一端部から他端部までの長さをLとし、前記帯状のカーボンナノチューブヤーンの幅をWとしたとき、L/Wが15~50である、上記(1)に記載のカーボンナノチューブヤーン。
(3)前記断面の平均径をDとしたとき、L/Dが3.1~4.7である、上記(2)に記載のカーボンナノチューブヤーン。
(4)単層、二層または多層のカーボンナノチューブからなる、上記(1)~(3)のいずれかに記載のカーボンナノチューブヤーン。
(5)長手方向において、P型部分と、N型部分とが交互に存在している、上記(1)~(4)のいずれかに記載のカーボンナノチューブヤーン。
(6)断熱性材料および/または絶縁性材料からなる被膜を表面の少なくとも一部に有する、上記(1)~(5)のいずれかに記載のカーボンナノチューブヤーン。
(7)上記(1)~(6)のいずれかに記載のカーボンナノチューブヤーンを含む、熱電発電モジュール。
(8)基板上にカーボンナノチューブが成長した(配置された)CNTアレイから初期ウェブを引き出し、ブレードで処理することで緻密化された幅広ウェブを得る初期工程と、
前記幅広ウェブについて第一の型を通過させることで予備成形して予備成形後ウェブを得る予備成形工程と、
前記初期ウェブ、前記幅広ウェブおよび前記予備成形後ウェブからなる群から選ばれる少なくとも一つに揮発性溶剤を含ませる溶剤工程と、
前記揮発性溶剤を含む前記予備成形後ウェブについて第二の型を通過させることで成形し、上記(1)~(6)のいずれかに記載のカーボンナノチューブヤーンを得る本成形工程と、
を備えるカーボンナノチューブヤーンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、起電力が高い熱電発電モジュールを得るために用いることができるカーボンナノチューブヤーンおよびその製造方法を提供することができる。また、そのようなカーボンナノチューブヤーンを含む熱電発電モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(a)は本発明のヤーンに該当するカーボンナノチューブヤーンにおける、その長手方向に垂直な方向における断面のSEM像(500倍)を表しており、それらの断面における本発明のヤーンの輪郭を写し描いたものが、
図1(b)である。
【
図2】
図2(a)は
図1(a)のカーボンナノチューブヤーンにおける、その長手方向に垂直な方向における断面の別視野のSEM像(500倍)を表しており、それらの断面における本発明のヤーンの輪郭を写し描いたものが、
図2(b)である。
【
図3】
図3(a)は
図1(a)のカーボンナノチューブヤーンにおける、その長手方向に垂直な方向における断面の更に別視野のSEM像(500倍)を表しており、それらの断面における本発明のヤーンの輪郭を写し描いたものが、
図3(b)である。
【
図4】本発明のヤーンには該当しない、従来公知のカーボンナノチューブヤーンにおける、その長手方向に垂直な方向における断面のSEM像(500倍)を表している。
【
図5】本発明のヤーンに該当するカーボンナノチューブヤーンにおける、その長手方向に垂直な方向におけるSEM観察用断面を得るときに用いる部材を説明する図である。
【
図6】本発明の製造方法を説明するための概略図であり、本発明の製造方法において用いる部材を上から見た図である。
【
図7】本発明のヤーンに該当するカーボンナノチューブヤーンと、従来公知のカーボンナノチューブヤーンにおける、ヤーン外面へのドーピング剤の塗布回数と熱起電力の関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について説明する。
本発明は、帯状のカーボンナノチューブヤーンが長手方向に沿って屈曲した形状をなし、その長手方向に垂直な断面において、前記カーボンナノチューブヤーンの一部と別の一部とが対向する箇所を有し、その対向する箇所に空隙が形成されていることを特徴とする、カーボンナノチューブヤーンである。
このようなカーボンナノチューブヤーンを、以下では「本発明のヤーン」ともいう。
【0012】
また、本発明は、本発明のヤーンを含む熱電発電モジュールである。
このような熱電発電モジュールを、以下では「本発明の熱電発電モジュール」ともいう。
【0013】
さらに、本発明は、基板上にカーボンナノチューブが成長した(または配置された)CNTアレイから初期ウェブを引き出し、ブレードで処理することで緻密化された幅広ウェブを得る初期工程と、前記幅広ウェブについて第一の型を通過させることで予備成形して予備成形後ウェブを得る予備成形工程と、前記初期ウェブ、前記幅広ウェブおよび前記予備成形後ウェブからなる群から選ばれる少なくとも一つに揮発性溶剤を含ませる溶剤工程と、前記揮発性溶剤を含む前記予備成形後ウェブについて第二の型を通過させることで成形し、本発明のヤーンを得る本成形工程と、を備えるカーボンナノチューブヤーンの製造方法である。
このような製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0014】
<本発明のヤーン>
本発明のヤーンについて図を用いて説明する。
図1(a)、
図2(a)、
図3(a)は、いずれも本発明のヤーンに該当するカーボンナノチューブヤーンにおける、その長手方向に垂直な方向における断面のSEM像(500倍)を表している。そして、それらの断面における本発明のヤーンの輪郭を写し描いたものが、
図1(b)、
図2(b)、
図3(b)である。
なお、本発明のヤーンにおける、その長手方向に垂直な方向における断面は、走査型電子顕微鏡を用いて500倍に拡大して得られるSEM像(写真または画像)を意味するものとする。
また、比較のため、従来公知のカーボンナノチューブヤーンにおける、その長手方向に垂直な方向における断面のSEM像(500倍)を
図4に示す。
【0015】
なお、これら断面は、
図5に示すように、Si基板100の主面に着けられた、粘着性を備えたカーボンテープ102の表面に、本発明のヤーン(または従来公知のカーボンナノチューブヤーン)104を貼り付け、その表面を銅テープ106で覆うように貼り付けることで本発明のヤーン(または従来公知のカーボンナノチューブヤーン)104を固定し、その後、クロスセクションポリッシャ(例えば、JEOL製IB-19520CCP)を用いて断面を作製するものとする。
【0016】
本発明のヤーンは、
図1~
図3に示すように、その長手方向に垂直な断面が特定の形状をなしている。具体的には帯1が蛇行したり、渦を巻いていたり、折れ重なったり、すなわち、1本の帯1が折れ曲がった形状をなしている。そして、その帯1の一部と別の一部との間、すなわち帯1の外縁の一部と、外縁の別の一部との間に、空隙3が形成されている形状をなしている。
【0017】
この空隙3は、円状又は楕円状に折れ曲がったヤーンの外面から内部へ向かってつながっている。
なお、
図1~
図3では、断面作製過程においてヤーンが潰れ、空隙が塞がっている箇所が認められるが、断面作製前の状態では外面から内部に空隙が繋がっていると考えられる。
そのため本発明のヤーンの外面へドーピング剤を付けたとき、この空隙3を通じて本発明のヤーンにおける所望の範囲全てに渡ってドーピング剤が浸透しやすい。その結果、本発明のヤーンを含む本発明の熱電発電モジュールの起電力は高くなる。このことは、
図7に示すように、ヤーンの外面へのドーピング剤の塗布回数が増加する程、従来のカーボンナノチューブヤーンに比べ、本発明のヤーンを用いた熱電発電モジュールの起電力が高くなっていることからも確認することができる。
これに対して
図4に例示するような従来のカーボンナノチューブヤーンは、このような空隙3を有さない。従来のカーボンナノチューブヤーンの場合、一部にクラックのような空隙を有するものもあるが、その空隙は長手方向のものであり、外面から内部へ向かってつながっているものではない。そのためドーピング剤は所望の範囲全てに浸透することが難しい。その結果、これを用いた熱電発電モジュールの起電力は低くなる。
【0018】
ここで
図1(b)、
図2(b)、
図3(b)に示すように、帯1の一端部Sから他端部Eまでの長さ、すなわち、これらの図における点線の長さをLとする。
なお、Lの長さは、画像処理ソフト「ImageJ」のSegmented Lineを用いて、Set Scaleにより1μmが何ピクセルかを記憶させ、帯1の一端部Sから他端部E(他端部Eから一端部Sでも可)まで、帯1の幅方向の中心を通るように任意の間隔で打点し、Measureにより計測する。
Lの長さは160~700μmであることが好ましく、240~470μmであることがより好ましく、300~400μmであることがさらに好ましい。
【0019】
また、
図1~
図3に示すように、本発明のヤーンの断面は外縁を繋いだときに円または楕円に近い形状であるが、この断面における平均径(直径)をDとする。
ここで平均径Dは、断面において最も長い径を長径とし、最も短い径を短径としたときに、それらの平均値を意味するもののとする。
平均径Dは50~150μmであることが好ましく、50~125μmであることがより好ましく、50~100μmであることがさらに好ましい。
【0020】
このようにLおよびDを定義したとき、L/Dは3.1~4.7であることが好ましく、3.4~4.7であることがより好ましく、4.0~4.7であることがさらに好ましい。このような関係を満たすとき、長手方向に垂直な断面における空隙3の大きさが好ましい範囲となるため、本発明のヤーンへドーピング剤を浸透させるとき、この空隙3を通じて所望の範囲全てにドーピング剤が浸透しやすくなり、加えて、本発明のヤーンに求められる強度も満たすからである。
【0021】
また、
図1(b)、
図2(b)、
図3(b)に示すように、帯1の幅をWとする。
ここで、これらの図から明らかなように、帯1の幅Wは一定ではない。そこで画像処理ソフト「ImageJ」のS egmented Lineを用いて、Set Scaleにより1μmが何ピクセルかを記憶させ、帯1の一端部Sから他端部E(他端部Eから一端部Sでも可)まで、Wの中心を通る線に対し垂直となるよう、略等間隔に10か所においてMeasureによりW1~W10を測定し、得られた値の平均値を、その帯1の幅Wとする。
このとき、L/Wが15~50であることが好ましく、20~50であることがより好ましく、30~50であることがさらに好ましい。
このような関係を満たすとき、長手方向に垂直な断面における空隙3の大きさが好ましい範囲となるため、本発明のヤーンへドーピング剤を浸透させるとき、この空隙3を通じて所望の範囲全てにドーピング剤が浸透しやすくなり、加えて、本発明のヤーンに求められる強度も満たすからである。
【0022】
なお、帯1の幅Wは、3~47μmであることが好ましく、3~25μmであることがより好ましく、3~15μmであることがさらに好ましい。
【0023】
図1~
図3に示すように、本発明のヤーンの断面は外縁を繋いだときに円または楕円に近い形状であり、その中に示す空隙3の面積比率は10~50%であることが好ましく、20~50%であることがより好ましく、30~50%であることがさらに好ましい。
なお、本発明のヤーンの断面における空隙3の面積比率は、次のように求めるものとする。
本発明のヤーンの断面を楕円(円を含む)と仮定し、前述のように断面における平均径Rを求めるときに測定した長径および短径を用いて、その楕円の面積(π×長径×短径/4)を求める。ここで求められたその楕円の面積をS
1とする。
次に、前述の帯の始点から終点までの長さをLと、帯の幅をWとを用いて、L×Wを帯1の面積S
2とする。
そして、(S
1-S
2)/S
1×100から算出される値を本発明のヤーンの断面における空隙3の面積比率とする。
【0024】
本発明のヤーンは、従来公知のカーボンナノチューブと同様の態様(材質、結晶構造等)を備える。
【0025】
本発明のヤーンは、単層のカーボンナノチューブ(SWCNT)、二層のカーボンナノチューブ(DWCNT)または多層のカーボンナノチューブ(MWCNT)のいずれから形成されても良い。なお、多層のカーボンナノチューブの層数は3~8層であることが好ましい。
【0026】
本発明のヤーンの長手方向の長さは特に限定されない。例えば1~3000mであることが好ましく、1~2000mであることがより好ましく、1~1000mであることがさらに好ましい。
【0027】
本発明のヤーンは、その長手方向において、P型部分と、N型部分とが交互に存在していることが好ましい。
ここでP型部分とは、熱を加えられた場合に、熱から離れた部位に向かって正孔を移動させることができる部分を意味する。P型部分は、例えばP型ドーパントがドーピングされた部分であってよい。
ここでN型部分とは、熱を加えられた場合に、熱から離れた部位に向かって電子を移動させることができる部分を意味する。N型部分は、例えばN型ドーパントがドーピングされた部分であってよい。
このような本発明のヤーンは、後述する本発明の熱電発電モジュールを得るための部材(熱電素子)として、好ましく用いることができる。
なお、カーボンナノチューブは、通常P型部分と同様の特性を示すので、本発明のヤーンにおいて、N型部分と、何も処理されていない部分とが交互に存在するような態様であってもよい。また、P型部分とN型部分との間にいずれにも該当しない部分が存在していてもよい。そのような場合であっても、本発明のヤーンに該当する。
【0028】
P型ドーパントまたはN型ドーパントをドーピングする方法は特に限定されない。例えば各種ドーパントを溶解可能な溶剤に溶解し、ドーパント溶液を作成し、本発明のヤーンにおける所望の位置に塗布した後、乾燥する方法が挙げられる。この場合、ドーパント溶液が本発明のヤーンにおける所望の部位の全てに、内部にまで、均等に浸透しやすい。
【0029】
本発明のヤーンは、断熱性材料および/または絶縁性材料からなる被膜を表面の少なくとも一部に有することが好ましい。
この場合、ヤーン同士、又はヤーンと接触物の間でリーク電流が発生することを防止する、という効果を奏する。
断熱性材料として、例えば、シリコーンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリル樹脂が挙げられる。
絶縁性材料として、例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、及び前記材料と断熱性材料の複合体が挙げられる。
断熱性材料および/または絶縁性材料からなる被膜の被覆箇所は特に限定されず、例えば後述する本発明の熱電発電モジュールを得る際に、本発明のヤーンが棒材と接触する部分以外の表面に設けることができる。
【0030】
本発明のヤーンが断熱性材料および/または絶縁性材料からなる被膜を有する場合、その被膜の厚さは1μm~0.5mmであることが好ましい。
【0031】
本発明のヤーンを、断熱性材料および/または絶縁性材料によって被覆する方法は特に限定されず、例えば、溶剤に希釈した断熱性材料をスプレーするという方法によって被覆することができる。
【0032】
本発明のヤーンは無撚糸であることが好ましい。
これにより、本発明のヤーンを、後述する本発明の熱電発電モジュールを得るための部材(熱電素子)として、好ましく用いることができる。
【0033】
<本発明の熱電発電モジュール>
本発明の熱電発電モジュールについて説明する。
本発明の熱電発電モジュールは、本発明のヤーンを含むものであれば特に限定されない。
本発明の熱電発電モジュールは、例えば本発明のヤーンを用いて編んだ布地であってよい。
本発明の熱電発電モジュールである布地(以下、単に「布地」ともいう)は、本発明のヤーンを少なくとも一部として用いていれば、その他、必要に応じて綿や化学繊維などを用いて形成した一般的な被服に使用される布と同様のものであってよい。
ここで布地は表面と裏面とを有するが、本発明のヤーンにおけるP型部分とN型部分との境界が表面および裏面に露出していることが好ましい。この場合、この布地からなる被服は、表面の熱(例えば着用している人体等の熱)と、裏面の熱(例えば外気の熱)と差によって発電することができる。
また、このような布地に電流を導通させれば、冷却・加熱などの熱移動が行われて、着用者の体温調節なども行うことができる。
本発明のヤーンを、例えばシリコーンゴム等の柔軟性のある棒材に巻き付け、棒材の任意の一面(但し、棒材の端面は除く)に存在する本発明のヤーンに対してN型ドーパントをドーピングすることで、P型部分とN型部分とが交互に存在する構造を持つ、熱電発電モジュールを製造することができる。
なお、P型部分とN型部分の対と、これに隣接するP型部分とN型部分の対の中心間距離をピッチと規定すると、本発明の熱電発電モジュールのピッチは100μm~450μmであることが好ましい。
この熱電発電モジュールは、本発明のヤーン、及び柔軟性のある棒材で構成されているため、例えば温水が通る配管等、曲面を持つ構造体に追従させることができる。
【0034】
<本発明の製造方法>
本発明の製造方法について
図6を用いて説明する。
図6は本発明の製造方法を説明するための概略図であり、本発明の製造方法において用いる部材を上から見た図である。
【0035】
本発明の製造方法は、次に説明する初期工程と、予備成形工程と、溶剤工程と、本成形工程と、を備えるカーボンナノチューブヤーンの製造方法である。
本発明の製造方法は
図6に示すように各工程での処理が連続して行われることが好ましい。
【0036】
<初期工程>
初期工程では、初めに、CNTアレイ21から初期ウェブ23を引き出す。
【0037】
CNTアレイ21は、基板上にカーボンナノチューブが成長したものである。ここでカーボンナノチューブは、その長手方向が、基板の主面の垂線に平行方向となるように、基板上に成長している。また、CNTアレイ21においてカーボンナノチューブは基板上に非常に密に成長しており、その密度は1cm2当たり数百億本~数千億本となる場合がある。
CNTアレイ21において、カーボンナノチューブは、隣り合う別のカーボンナノチューブとファンデルワールス力によって互いに引き寄せされていると考えられる。
CNTアレイの態様や製造方法等は、例えば特開2019-199676号公報に示されている。
【0038】
なお、カーボンナノチューブは、単層のカーボンナノチューブ(SWCNT)であってよく、二層のカーボンナノチューブ(DWCNT)であってよく、多層のカーボンナノチューブ(MWCNT)であってもよい。多層のカーボンナノチューブの層数は3~8層であることが好ましい。
【0039】
このようなCNTアレイ21から初期ウェブ23を引き出し、ブレード30で処理する。
初期ウェブ23はシート状のものであり、その主面をブレード30における刃先301に押し当てる処理を施す。
図6に示す態様のように、CNTアレイ21から初期ウェブ23を連続的に引き出し、その主面を、ブレード30における刃先301に押し付ける処理を連続的に施すことが好ましい。
ブレード25は、特開2019-199676号公報に示されているものと同様であってよい。
そうすると初期ウェブ23を構成するカーボンナノチューブが緻密化され、幅が概ね、0.5mm~30mmである幅広ウェブ25を得ることができる。
【0040】
ブレード30で処理する前の初期ウェブ23および/またはブレード30で処理した後の幅広ウェブ25について、2つのローラーの間を通過させて初期ウェブ23および/または幅広ウェブ25の厚さ方向へ応力を加えることで、これを圧密化してもよい。
また、ブレード30で処理する前の初期ウェブ23および/またはブレード30で処理した後の幅広ウェブ25について、エアーブロー等することで、これに付着しているトラッシュを除去してもよい。
【0041】
<予備成形工程>
次に、上記のようにして得られた幅広ウェブ25について、第一の型32を通過させる。
初期工程においてCNTアレイ21から初期ウェブ23を連続的に引き出し、その主面を、ブレード30における刃先301に押し付ける処理を連続的に施し、さらに幅広ウェブ25について連続的に第一の型32を通過させることが好ましい。
第一の型32は円形または楕円形の貫通孔を有するものであり、その貫通孔について幅広ウェブ25を通過させる。
ここで、円形の貫通孔の場合はその直径、楕円形の貫通孔の場合はその長径に対して、幅広ウェブ25の幅の方が長くなるようにする。
このようにすることで、その長手方向に垂直な断面が特定の形状、すなわち、帯状のカーボンナノチューブヤーンが長手方向に沿って屈曲した形状をなし、その長手方向に垂直な断面において、前記カーボンナノチューブヤーンの一部と別の一部とが対向する箇所を有し、その対向する箇所に空隙が形成されている形状を備える予備成形後ウェブ27が得られる。
【0042】
<溶剤工程>
上記のようにして得られた初期ウェブ23、幅広ウェブ25および予備成形後ウェブ27からなる群から選ばれる少なくとも一つに揮発性溶剤を含ませる溶剤工程を、本発明の製造方法は備える。
つまり、CNTアレイ21から引き出した初期ウェブ23について、ブレード30で処理する前に、揮発性溶剤を含ませる処理を施してよい。
また、初期工程によって得られた幅広ウェブ25について、予備成形工程に供する前に、揮発性溶剤を含ませる処理を施してよい。
また、予備成形工程に供して得た予備成形後ウェブ27について、揮発性溶剤を含ませる処理を施してよい。
さらに、これらの処理は重複して行ってもよい。
後述する本成形を行う直前の予備成形後ウェブ27が揮発性溶剤を含有していればよい。
【0043】
揮発性溶剤として、有機溶剤が挙げられる。
揮発性溶剤として、例えばエタノール、アセトン、メチルエチルケトン、プロパノール、メタノール、メチルイソブチルケトンが挙げられる。
【0044】
初期ウェブ23、幅広ウェブ25および予備成形後ウェブ27からなる群から選ばれる少なくとも一つに揮発性溶剤を含ませる方法は特に限定されない。例えば、初期ウェブ23、幅広ウェブ25および予備成形後ウェブ27からなる群から選ばれる少なくとも一つに揮発性溶剤を噴霧したり、揮発性溶剤からなるプール内を(連続的に)通過させたりする方法が挙げられる。
【0045】
揮発性溶剤を含有させた予備成形後ウェブ27について、後述する本成形工程に供すると、その後、揮発性溶剤が乾燥したときに予備成形後ウェブ27の形状が概ね保持され、意図した断面形状を備える本発明のヤーンが得られることを本発明者は見出した。
これに対して揮発性溶剤を含有させていない予備成形後ウェブについて、後述する本成形工程に供しても、時間の経過と共に予備成形後ウェブ27の形状が変化してしまい、本発明のヤーンが有するような空隙は得られ難いことを、本発明者は見出した。
【0046】
<本成形工程>
次に、上記のようにして得られた、揮発性溶剤を含む予備成形後ウェブ27について第二の型34を通過させる。
図6に示す態様のように、初期工程においてCNTアレイ21から初期ウェブ23を連続的に引き出し、その主面を、ブレード30における刃先301に押し付ける処理を連続的に施し、幅広ウェブ35について連続的に第一の型32を通過させ、さらに揮発性溶剤を含む予備成形後ウェブ27について、連続的に第二の型34を通過させることが好ましい。
【0047】
第二の型34は、第一の型32と同様、円形または楕円形の貫通孔を有するものであり、その貫通孔について揮発性溶剤を含む予備成形後ウェブ27を通過させる。
ここで、円形の貫通孔の場合はその直径、楕円形の貫通孔の場合はその長径に対して、揮発性溶剤を含む予備成形後ウェブ27の幅が長くなるようにする。
また、予備成形後ウェブ27における貫通孔を通過している部分の断面積(長手方向に垂直な方向の断面の面積)は、第二の型34の貫通孔の断面の面積に対して50~90%であることが好ましく、50~80%であることがより好ましく、50~70%であることがさらに好ましい。
このようにすることで、その長手方向に垂直な断面は特定の形状、すなわち、帯状のカーボンナノチューブヤーンが長手方向に沿って屈曲した形状をなし、その長手方向に垂直な断面において、前記カーボンナノチューブヤーンの一部と別の一部とが対向する箇所を有し、その対向する箇所に空隙が形成されている形状を備える本発明のヤーンが得られる。
【0048】
本発明の製造方法によって得られた本発明のヤーンは、
図6に示すように巻き取ることが好ましい。
【要約】 (修正有)
【課題】起電力が高い熱電発電モジュールを得るために用いることができるカーボンナノチューブヤーンの提供。
【解決手段】帯状のカーボンナノチューブヤーンが帯の長手方向に沿って屈曲した形状をなし、その長手方向に垂直な断面において、前記帯状のカーボンナノチューブヤーンの一部と別の一部とが対向する箇所を有し、その対向する箇所に空隙が形成されていることを特徴とする、カーボンナノチューブヤーン。
【選択図】
図1