(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】窒化ケイ素焼結体、絶縁回路基板、および半導体装置
(51)【国際特許分類】
C04B 35/587 20060101AFI20241225BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241225BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
C04B35/587
H05K1/03 610D
H05K1/03 630H
H01L23/12 C
(21)【出願番号】P 2023134348
(22)【出願日】2023-08-22
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】591149089
【氏名又は名称】株式会社MARUWA
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光隆
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-070436(JP,A)
【文献】特開2022-166443(JP,A)
【文献】国際公開第2021/107021(WO,A1)
【文献】特開2002-128569(JP,A)
【文献】特開2000-344577(JP,A)
【文献】特開2000-351673(JP,A)
【文献】特開2002-293641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/584 -35/597
H05K 1/03
H01L 23/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた、各結晶粒の結晶方位の分布状態を示すテクスチャ指数Jが1.2~1.7であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。
【請求項2】
基板厚み方向をND方向としたときに、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた結晶方位分布をBungeの定義によるオイラー角(φ1,Φ,φ2)で表したときに、φ2=0°、Φ=0°、φ1=0~60°の範囲における密度プロファイルの最大値が1.0~1.6であり、且つ、φ2=0°、Φ=90°、φ1=0~180°の範囲における密度プロファイルの最大値が2.0~7.0であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。
【請求項3】
基板厚み方向をND方向としたときに、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた極点図におけるβ型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが70°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して90~98%であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。
【請求項4】
基板厚み方向をND方向としたときに、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた極点図におけるβ型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが60°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して80~94%であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。
【請求項5】
基板厚み方向をND方向としたときに、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた極点図におけるβ型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが50°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して65~85%であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。
【請求項6】
基板厚み方向をND方向としたときに、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた極点図におけるβ型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが40°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して50~75%であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。
【請求項7】
基板厚み方向をND方向としたときに、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた極点図におけるβ型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが30°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して30~52%であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。
【請求項8】
基板厚み方向をND方向としたときに、X線回折法による基板表面分析によって得られた、ND方向のβ型窒化ケイ素結晶粒のミラー指数(002)面に対応するX線回折ピークの積分強度I(002)と、ミラー指数(200)面に対応するX線回折ピークの積分強度I(200)との強度比I(002)/I(200)が0.05~0.2であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。
【請求項9】
前記窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向のND方向に対して直交する面内において、互いに直交するRD方向およびTD方向を有する基板であり、前記RD方向は、前記窒化ケイ素焼結体のグリーンシートの圧延方向として定められ、
前記RD方向の熱伝導率λxに対する、基板厚み方向の熱伝導率λzと
前記RD方向の熱伝導率λxとの差の割合(|λz-λx|/λx)が、6%以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項10】
基板厚み方向の熱伝導率λzおよび
前記RD方向の熱伝導率λxは、それぞれ70W/mK以上であることを特徴とする請求項9に記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項11】
基板厚み方向に対して直交する基板表面内における
前記RD方向の曲げ強度σxおよび前記
RD方向に直交する
前記TD方向の曲げ強度σyが、それぞれ600MPa以上であり、且つ、前記曲げ強度σxに対する、前記曲げ強度σxと前記曲げ強度σyとの差の割合(|σy-σx|/σx)が、10%以下であることを特徴とする請求項10に記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項12】
前記窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向のND方向に対して直交する面内において、互いに直交するRD方向およびTD方向を有する基板であり、前記RD方向は、前記窒化ケイ素焼結体のグリーンシートの圧延方向として定められ、
基板厚み方向に対して直交する面内において、
前記RD方向の熱伝導率λxに対する、前記
RD方向の熱伝導率λxと前記
TD方向の熱伝導率λyとの差の割合(|λx-λy|/λx)が、1.5%以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項13】
基板厚み方向に対して直交する面内における直交する2軸方向の曲げ強度が、それぞれ600MPa以上であり、且つ、前記2軸方向の曲げ強度の比率が、0.9~1.1であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項14】
前記窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向のND方向に対して直交する面内において、互いに直交するRD方向およびTD方向を有する基板であり、前記RD方向は、前記窒化ケイ素焼結体のグリーンシートの圧延方向として定められ、
前記2軸方向は、
前記RD方向と、前記
RD方向に対して直交する
TD方向であることを特徴とする請求項13に記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項15】
前記窒化ケイ素焼結体は、原料配合比において、92.5~97重量%のSi
3N
4と、2.0~4.5重量%のY
2O
3と、1.0~3.0重量%のMgOとを含むことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項16】
請求項1から8のいずれか一項に記載の前記窒化ケイ素焼結体と、前記窒化ケイ素焼結体の表面に接合された金属板と、を備えることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項17】
請求項16に記載の絶縁回路基板と、前記絶縁回路基板の金属板上に実装された半導体素子と、を備えることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素焼結体、絶縁回路基板、および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や半導体デバイスの高密度化、高出力化に伴い、パワーモジュールの発熱密度が増加している。パワーモジュールの温度上昇は、素子の動作不良を引き起こしたり、絶縁回路基板の割れを引き起こしたりする要因となる。そのため、絶縁回路基板には、比較的に熱伝導率が高い材料であるアルミナや窒化アルミニウムなどのセラミック基板が用いられてきた。しかしながら、アルミナや窒化アルミニウムには、機械的強度が低いという欠点が存在する。それ故、熱応力が強くかかる厚銅をセラミック基板へ直接接合することが出来ず、パワーモジュールの構造に制約を与えてきた。具体的には、銅やアルミニウムなどの放熱板(金属板)を絶縁回路基板に対して、はんだ接合する必要が生じることから、パワーモジュールが大型化することが問題として挙げられる。そこで、絶縁回路基板として注目されているのが窒化ケイ素(Si3N4)材料である。窒化ケイ素焼結体は、アルミナや窒化アルミニウム焼結体と比較して強度や破壊靭性が高いことから、絶縁回路基板へ直接厚銅を接合することが可能となり、モジュールの小型化に貢献する。そのため、機械的強度とともに熱伝導性能を改良した窒化ケイ素焼結体の開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1は、機械的特性および熱伝導性能を改良した窒化ケイ素質焼結体基板の製造方法を開示する。この製造方法では、Al含有量が0.1重量%以下の窒化ケイ素粉末に、Mg,Ca,Sr,Ba,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Ybのうちから選ばれる1種または2種以上の元素の焼結助剤を1重量%以上15重量%以下の範囲内で添加して成形した後、1気圧以上500気圧以下の窒素ガス圧下で、1700℃以上2300℃以下の温度で焼成する。該製造方法によって得られた窒化ケイ素質焼結体基板は、85重量%以上99重量%以下のβ型窒化ケイ素粒と残部が酸化物または酸窒化物の粒界相とから構成される。また、粒界相中にMg,Ca,Sr,Ba,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Ybのうちから選ばれる1種または2種以上の金属元素を0.5重量%以上10重量%以下含有する。そして、粒界相中のAl原子含有量が1重量%以下であり、気孔率が5%以下でかつ焼結体の微構造についてβ型窒化ケイ素粒のうち短軸径5μm以上を持つものの割合が10体積%以上60体積%以下である。すなわち、高熱伝導性の窒化ケイ素焼結体基板を得るためには焼結助剤として希土類化合物や酸化マグネシウムを加え、それらの混合比や添加量によって熱伝導率や機械的強度を向上できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
窒化ケイ素焼結体の主要な結晶相であるβ型窒化ケイ素結晶粒は、c軸方向に伸長した柱状結晶粒であることが知られている。そのため、窒化ケイ素焼結体は、完全にランダムな結晶粒の配向からなることはなく、原料の粒度、形状、成形方法等によって、特定の方向へ結晶粒の配向が偏った結晶相分布を示すことが多い。窒化ケイ素焼結体における結晶粒の配向の偏りは、窒化ケイ素焼結体の熱伝導率や曲げ強度等に特性異方性を生じさせる。具体的には、β型窒化ケイ素結晶粒は、a軸方向とc軸方向で熱伝導率に異方性があることが知られているが、特定の方向へ結晶粒の配向が偏ることで、窒化ケイ素焼結体に熱伝導率の異方性が生じる。また、特定の方向への結晶粒配向は、β型窒化ケイ素結晶粒の複合化にも影響を与え、クラックの偏向や伸長が変化することで機械的強度の異方性が生じる。特に、成形時にせん断力が発生するようなドクターブレードや押出成形などでは、β型窒化ケイ素結晶粒の添加量が少量であっても、スラリーの流動時に成形方向へ結晶粒が配向し、成形方向と、成形方向に対して直交する方向との異方性を大きく生じさせる要因となる。一方で、原料としてSi粉末を使用する反応焼結法においても、同様に異方性の問題が生じる。反応焼結法による焼結体作製では窒化時の発熱反応によって、局所的にSiが融解したり、窒化ケイ素のβ化が進行したりするため、焼結体の特性にむらが生じやすくなる。そのため、原料混合時に希釈剤として窒化ケイ素粉末を添加することで窒化反応を制御することが行われることが一般的であるが、この時に添加した窒化ケイ素粉末が焼結体の結晶粒配向に影響を与え、特定の方向へ結晶粒が優先配向されることになる。このような窒化ケイ素焼結体の特性異方性は、デバイスの用途によってはデバイス設計に影響を与えることから緩和されることが望ましい。
【0006】
発明者らは、従来の窒化ケイ素焼結体に対し、その製造方法を見直すとともに、窒化ケイ素焼結体の集合組織構造の制御に着目して、窒化ケイ素焼結体の熱伝導率や曲げ強度などの特性異方性を抑制することを課題とした。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、その目的は、熱伝導率や曲げ強度などの特性異方性が緩和された窒化ケイ素焼結体を提供することにある。さらに、本発明の目的は、当該窒化ケイ素焼結体を用いた絶縁回路基板、および半導体装置をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態の窒化ケイ素焼結体は、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた、各結晶粒の結晶方位の分布状態を示すテクスチャ指数Jが1.2~1.7であることを特徴とする。
【0009】
本発明の一形態の窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向をND方向としたときに、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた結晶方位分布をBungeの定義によるオイラー角(φ1,Φ,φ2)で表したときに、φ2=0°、Φ=0°、φ1=0~60°の範囲における密度プロファイル(MUD)の最大値が1.0~1.6であり、且つ、φ2=0°、Φ=90°、φ1=0~180°の範囲における密度プロファイル(MUD)の最大値が2.0~7.0であることを特徴とする。
【0010】
本発明の一形態の窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向をND方向としたときに、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた極点図におけるβ型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが70°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して90~98%であることを特徴とする。
【0011】
本発明の一形態の窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向をND方向としたときに、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた極点図におけるβ型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが60°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して80~94%であることを特徴とする。
【0012】
本発明の一形態の窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向をND方向としたときに、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた極点図におけるβ型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが50°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して65~85%であることを特徴とする。
【0013】
本発明の一形態の窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向をND方向としたときに、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた極点図におけるβ型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが40°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して50~75%であることを特徴とする
【0014】
本発明の一形態の窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向をND方向としたときに、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた極点図におけるβ型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが30°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して30~52%であることを特徴とする。
【0015】
本発明の一形態の窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向をND方向としたときに、X線回折法による基板表面分析によって得られた、ND方向のβ型窒化ケイ素結晶粒のミラー指数(002)面に対応するX線回折ピークの積分強度I(002)と、ミラー指数(200)面に対応するX線回折ピークの積分強度I(200)との強度比I(002)/I(200)が0.05~0.2であることを特徴とする。
【0016】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体は、基板成形方向の熱伝導率λxに対する、基板厚み方向の熱伝導率λzと基板成形方向の熱伝導率λxとの差の割合(|λz-λx|/λx)が、6%以下であることをさらに特徴とする。
【0017】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向の熱伝導率λzおよび基板成形方向の熱伝導率λxは、それぞれ70W/mK以上であることをさらに特徴とする。
【0018】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向に対して直交する基板表面内における基板成形方向の曲げ強度σxおよび前記基板成形方向に直交する方向の曲げ強度σyが、それぞれ600MPa以上であり、且つ、前記曲げ強度σxに対する、前記曲げ強度σxと前記曲げ強度σyとの差の割合(|σy-σx|/σx)が、10%以下であることを特徴とする。
【0019】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向に対して直交する面内において、基板板成形方向の熱伝導率λxに対する、前記基板成形方向の熱伝導率λxと前記基板成形方向に直交する方向の熱伝導率λyとの差の割合(|λx-λy|/λx)が、1.5%以下であることをさらに特徴とする。
【0020】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向に対して直交する面内における直交する2軸方向の曲げ強度が、それぞれ600MPa以上であり、且つ、前記2軸方向の曲げ強度の比率が、0.9~1.1であることをさらに特徴とする。前記2軸方向は、成形方向と、前記成形方向に対して直交する方向であり得る。
【0021】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体は、前記窒化ケイ素焼結体は、原料配合比において、92.5~97重量%のSi3N4と、2.0~4.5重量%のY2O3と、1.0~3.0重量%のMgOとを含むことをさらに特徴とする。
【0022】
本発明の一実施形態の絶縁回路基板は、上記特徴を有する窒化ケイ素焼結体と、前記窒化ケイ素焼結体の表面に接合された金属板と、を備えることを特徴とする。また、本発明の一実施形態の半導体装置は、上記絶縁回路基板と、前記絶縁回路基板の金属板上に実装された半導体素子と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の窒化ケイ素焼結体は、EBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織特性を制御することにより、および/または、X線回折法による結晶特性を制御することによって、特性異方性を改善することを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1、実施例2、比較例1、比較例3の窒化ケイ素焼結体のEBSD法によって取得したバンドコントラスト像を示す図。
【
図2】実施例1、実施例2、比較例1、比較例3の窒化ケイ素焼結体のEBSD法によって取得した{1 0 -1 0}極点図。
【
図3】実施例1、実施例2、比較例1、比較例3の窒化ケイ素焼結体のEBSD法によって取得したφ2=0°における結晶方位分布図。
【
図4】
図3の結晶方位分布において、実施例1、実施例2、比較例1、比較例3の窒化ケイ素焼結体のφ2=0°、Φ=0°、φ1=0~60°の範囲における密度プロファイルを示すグラフ。
【
図5】
図3の結晶方位分布において、実施例1、実施例2、比較例1、比較例3の窒化ケイ素焼結体のφ2=0°、Φ=90°、φ1=0~180°の範囲における密度プロファイルを示すグラフ。
【
図6】本発明の窒化ケイ素焼結体の製造工程において、粉砕したβ型窒化ケイ素焼結粉末のSEM画像(倍率5000)。
【
図7】本発明の一実施形態の半導体装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態の窒化ケイ素焼結体は、所定厚の基板形状をなし、主に、基板表面に銅板などの金属板がろう接(ろう付け又は半田付け)されて、電子部品を搭載するための電子部品搭載用基板として使用され得る。なお、基板の厚みは、好適には、0.1~1.0mmである。ここで、窒化ケイ素焼結体の基板において、基板厚み方向をNDまたはZ方向(基板表面に対する法線方向)とし、ND方向に直交する面(基板表面)内における成形(または圧延)方向をRDまたはX方向とし、ND方向に直交する面(基板表面)内におけるRD方向に直交する方向をTDまたはY方向とする。
【0026】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、1~5重量%の希土類酸化物(第1の焼結助剤)と、1.0~3.5重量%のマグネシウム化合物(第2の焼結助剤)と、残部を構成するSi3N4とを含有する窒化ケイ素焼結体から構成され得る。つまり、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、窒化ケイ素粉末、希土類酸化物粉末および酸化マグネシウム粉末を所定の配合比で混合した原料粉末のスラリー化した混合体を成形して焼成したものである。なお、窒化ケイ素焼結体は、主原料としてSi粉末を使用する反応焼結法で形成されたものであってもよい。
【0027】
本実施形態では、焼結助剤は、第1の焼結助剤としての希土類元素(Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Yb)の酸化物と、第2の焼結助剤として酸化マグネシウム(MgO)または窒化ケイ素マグネシウム(MgSiN2)とを組み合わせたものである。特に、焼結助剤成分として希土類酸化物とともにMg成分を添加することにより、焼結時の液相生成温度を低下させ、焼結性を改善することができる。さらに、第1の焼結助剤が2.0~4.5重量%のY2O3であり、第2の焼結助剤が1.0~3.0重量%のMgOであることがより好ましい。焼結助剤成分として、Mg及びYを用いることによって、窒化ケイ素焼結体を緻密化し、その結果、比較的高い熱伝導性と機械的強度を両立することができることが過去の知見として分かっている。本実施形態では、焼結助剤として、MgO及びY2O3が採用された。また、さらなる添加物として、粒界相の結晶化をさらに促進するために、適量の酸化ハフニウム(HfO2)が添加されてもよい。なお、希土類酸化物の配合組成比は、1~5重量%の範囲内であれば、窒化ケイ素焼結体基板の特性に大きな影響を与えないことが過去の知見として得られているので、当業者であれば、その種類や配合比を任意に選択可能である。
【0028】
窒化ケイ素焼結体の基板を構成するβ型窒化ケイ素結晶粒(または粒子)は、長軸および短軸を有する細長い六角柱状の結晶構造を有している。本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、β型窒化ケイ素の結晶粒をランダムに配向させるように制御したことで、熱伝導性および/または機械的強度の特性異方性の緩和を図ったものである。
【0029】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、基板厚み方向をND方向としたときに、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られる特定範囲の集合組織特性を有する。換言すると、発明者らは、ある特定範囲の集合組織構造を有する窒化ケイ素焼結体では熱伝導率や曲げ強度などの特性異方性が緩和されることを見出した。つまり、窒化ケイ素焼結体中のβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織特性を制御することによって、特性異方性が緩和された所望の窒化ケイ素焼結体が得られる。
【0030】
EBSD(Electron Back-Scatter Diffraction,電子後方散乱回折)法は、走査電子顕微鏡を使用して個々の結晶粒や微小領域の方位を測定するものであり、窒化ケイ素焼結体基板の微視的な集合組織を解析することを可能とする。特には、EBSD法は、基板表層から数10nm程度の測定深さで、結晶粒毎の方位情報を取得することから、集合構造と、これに対応する結晶方位を定量的に評価可能である。本実施形態では、窒化ケイ素焼結体の特性異方性を制御するために、以下の集合組織特性を用いた。
【0031】
・テクスチャ指数J
EBSD法で得られたEBSDマップに方位分布関数(Orientation Distribution Function,ODF)解析を行って、各結晶粒の結晶方位の分布状態を示すテクスチャ指数J(texture index J)を取得した。テクスチャ指数Jは、試料のテクスチャ(集合組織、つまり、結晶が特定の方位に配列した状態)がどの程度強いかを示すものであって、結晶方位の分布状態が完全にランダムである場合に1を示し、全結晶方位が同じである場合(例えば、単結晶)に無限大の値を示す。
【0032】
ODF解析では、Bungeによる球面調和関数T
l
mn(g)を用いた級数展開法によって、以下の級数展開式:
【数1】
が使用されて、関数f(g)が算出される。ここで、拡張指数lmaxは22の値を使用した。そして、f(g)の二乗平均値として定義される、J指数が以下の式によって計算された。
【数2】
【0033】
・オイラー角(φ1、Φ、φ2)を用いた密度プロファイル(multiples of uniform density,MUD)
EBSD法による集合組織解析は、得られた結晶方位を、Bungeの定義によるオイラー角(φ1、Φ、φ2)を座標軸とする3次元空間に直接プロットする方法を含む。当該方法では、プロットされた1つの点が結晶方位を確定的に表示できるため、結晶方位の表現としては厳密になる。この方法では、ND方向に対して垂直な結晶面の指数(hkl)と、RD方向に平行な結晶方向の指数[uvw]を用いて、(hkl)[uvw]の形で結晶方位が表現され、各結晶方位に対応するオイラー角がオイラー空間にプロットされる。β-Si3N4のような六方晶系の場合、オイラー空間における{0 0 0 1}面の分布は、φ2=0°、Φ=0°において、φ1=0°から60°のセクションで方位分布を取ると、β-Si3N4の長軸がND方向へ向いている粒子の割合を定量的に評価することができる。同様に、{1 0 -1 0}面の分布はφ2=0°、Φ=90°において、φ1=0°から180°のセクションで方位分布を取ると、β-Si3N4の長軸が面内方向へ向いている粒子の割合を密度プロファイルとして定量的に評価することができる。集合組織特性は、密度プロファイルの最大値によって評価された。
【0034】
・極点図
EBSD法による集合組織解析は、ND方向の直交する平面であるRD-TD面におけるβ-Si3N4結晶粒の{1 0 -1 0}面の結晶方位の分布を示す極点図の評価を含む。極点図において、{1 0 -1 0}面の分布密度が高い箇所が白色で表され、分布密度が低いほど濃い色で表される。集合組織特性は、極点図におけるβ型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向から所定の角度範囲で傾いた結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率によって定量的に評価された。この面積率は、ND方向に対するβ-Si3N4結晶粒の{1 0 -1 0}面の傾き角度範囲累積相対度数とも称される。
【0035】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、テクスチャ指数Jについて以下の特異的な集合組織特性を有する。各結晶粒の結晶方位の分布状態を示すテクスチャ指数Jが1.2~1.7、好ましくは1.2~1.64、より好ましくは1.2~1.58、更に好ましくは1.2~1.53である。
【0036】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、密度プロファイルについて以下の特異的な集合組織特性を有する。密度プロファイルは、
図3の結晶方位分布図によって視覚的に例示される。φ2=0°、Φ=0°、φ1=0~60°の範囲における密度プロファイル(MUD)の最大値が1.0~1.6、好ましくは1.0~1.53、より好ましくは1.06~1.50、更に好ましくは1.14~1.50であり、且つ、φ2=0°、Φ=90°、φ1=0~180°の範囲における密度プロファイルの最大値が2.0~7.0、好ましくは2.0~6.38、より好ましくは2.1~6.38、更に好ましくは2.10~4.26である。
【0037】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、
図2の極点図によって例示され、極点図の定量的評価による以下の特異的な集合組織特性を有する。β型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが70°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して90~98%、好ましくは91~98%、より好ましくは91.4~97.8%、更に好ましくは94.9~97.8%である。β型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが60°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して80~94%、好ましくは81~94%、より好ましくは81.3~93.3%、更に好ましくは85.7~93.3%である。β型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが50°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して65~85%、好ましくは67~84%、より好ましくは67.5~83.1%、更に好ましくは70.2~83.1%である。β型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが40°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して50~75%、好ましくは51~73%、より好ましくは51.8~72.1%、更に好ましくは51.8~68.1%である。β型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが30°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して30~52%、好ましくは33~52%、より好ましくは34.1~51.1%、更に好ましくは34.1~48.3%である。
【0038】
すなわち、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、上記集合組織特性を有することによって、β型窒化ケイ素結晶粒がランダムに配向した集合組織構造を備える。
【0039】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、上記集合組織特性に関連して、以下の熱伝導率に関する特性を有する。基板成形方向(RD方向)の熱伝導率λx、基板成形方向に直交する方向(TD方向)の熱伝導率λy、および、基板厚み方向(ND方向)の熱伝導率λzが、それぞれ70W/mK以上である。熱伝導率λxに対する、基板厚み方向の熱伝導率λzと熱伝導率λxとの差の割合(|λz-λx|/λx)が、6%以下である。また、熱伝導率λxに対する、熱伝導率λxと熱伝導率λyとの差の割合(|λx-λy|/λx)が、1.5%以内である。これは、基板厚み方向に対して直交する面内における任意の直交する2軸方向の熱伝導率の差の割合が1.5%以内であることを意味する。面内において、熱伝導率λxと熱伝導率λyとの差が最大となるからである。すなわち、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、熱伝導率70W/mK以上の高い熱伝導特性を有し、さらに、その特性異方性を6%以下に緩和したものである。
【0040】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、上記集合組織特性に関連して、以下の機械的強度に関する特性を有する。基板成形方向(RD方向)の曲げ強度σx、基板成形方向に直交する方向(TD方向)の曲げ強度σyが、それぞれ600MPa以上である。そして、曲げ強度σxに対する、曲げ強度σxと曲げ強度σyとの差の割合(|σx-σy|/σx)が、10%以内である。これは、基板厚み方向に対して直交する面内における任意の直交する2軸方向の曲げ強度の比率が、0.9~1.1であることを意味する。面内において、曲げ強度σxと曲げ強度σyとの差が最大となるからである。すなわち、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、曲げ強度600MPa以上の高い機械的強度特性を有し、さらに、その特性異方性を10%以下に緩和したものである。
【0041】
したがって、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、70W/mK以上の熱伝導率および600MPa以上の曲げ強度を両立し、さらに、その特性異方性をそれぞれ6%以下、10%以下に抑えることを可能とした。
【0042】
また、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、X線回折法による基板表面分析によっても解析された。すなわち、窒化ケイ素焼結体は、上記集合組織特性に関連して、以下の結晶構造特性を有することが分かった。基板厚み方向をND方向としたときに、X線回折法による基板表面分析によって得られた、ND方向のβ型窒化ケイ素結晶粒のミラー指数(002)面に対応するX線回折ピークの積分強度I(002)と、ミラー指数(200)面に対応するX線回折ピークの積分強度I(200)との強度比I(002)/I(200)が0.05~0.2である。
【0043】
続いて、本実施形態の窒化ケイ素焼結体を製造する方法について説明する。窒化ケイ素焼結体の製造方法は、主に、β率が70~90%の窒化ケイ素インゴットを生成する工程と、窒化ケイ素インゴットを粉砕して、所定の範囲の比表面積および平均粒子径を有するβ型窒化ケイ素粉末を作製する工程と、β型窒化ケイ素粉末、希土類酸化物粉末、および酸化マグネシウム粉末(または窒化ケイ素マグネシウム粉末)を所定の配合比で混合するとともに、溶媒を加えてスラリーを形成する工程と、スラリーを所定厚のシート成形体に成形する工程と、非酸化性雰囲気中でシート成形体を焼結して、窒化ケイ素焼結体を得る工程とを含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0044】
まず、β型窒化ケイ素粉末は、直接窒化法により合成された。金属シリコン粉末と、金属シリコン粉末に対して0.2wt%~1.0wt%の酸化マグネシウム粉末とを混合し、1350℃以上の温度で窒化反応を行い、β率が70~90%の窒化ケイ素インゴットを得た。得られたインゴットの粗粉砕と微粉砕を行い、2μm以上の短軸径を有する柱状粒子を含まず、比表面積が6.0から11.0m
2/g、平均粒子径D50が0.5μm以上から1.5μm以下での範囲に調整された。この比表面積および平均粒子径D50は、粉砕時間によって調整された。そして、粉砕後の粉末の酸洗浄と水洗浄とを行い、酸素量が0.8%以下、表面フッ素量が800ppm以下の粉末に調整された。調整されたβ型窒化ケイ素粉末は、微量のウィスカーを含むものの、短軸径が2μm以上の柱状粒子を含まず、多角形状の粒子が大部分を占める(
図6参照)。これにより、成形時に特定の結晶面が配向せず、焼結後も比較的に無配向である焼結体を得ることが可能である。
【0045】
2~4.5重量%の希土類酸化物粉末(好ましくは酸化イットリウム粉末)と、1.0~3.0重量%の酸化マグネシウム粉末(または窒化ケイ素マグネシウム粉末)とを、φ10の窒化ケイ素玉石とナイロン製のポットミルを使用して、トルエンとエタノールの混合溶媒中でボールミルによる湿式混合を行った。湿式混合では、適量の分散剤が添加されてもよく、通常、ポリカルボン酸系やアミン系の分散剤が原料粉末の表面積に対して0.2mg/m2から1.5mg/m2の範囲で添加される。残部を構成するβ型窒化ケイ素粉末をミル内へ投入し、12~24時間の混合を行った。その後、バインダー、可塑剤および有機溶剤を添加してスラリー化する。成形に用いるスラリーの調整方法としては、生産性や混合時の酸素量増加を抑制するために、有機溶媒を用いた湿式混合が望ましい。具体的な一例として、原料粉末に分散剤、トルエン、エタノールを混合した有機溶媒とを添加し、通常行われる混合粉砕方法によって調整される。そして、ボールミル、ビーズミル、振動ミルなどの方法によって、混合体の均一混合や粒度調整を行う。スラリーは、真空中で脱泡及び粘度調整され、グリーンシートを成形可能な程度に粘度調整される。混合粉砕方法に用いるミルやメディアの材質としては、ウレタンやナイロンなどの樹脂製や、窒化ケイ素や酸化ジルコニウムなどのセラミック製を使用することができるが、スラリーへの不純物混入を防ぐため、材質としては樹脂や窒化ケイ素を使用することが好ましい。
【0046】
希土類酸化物粉末は、Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Ybの酸化物又はこれらの組み合わせから選択され得る。好ましくは、希土類酸化物粉末は、酸化イットリウム(Y2O3)である。
【0047】
また、β型窒化ケイ素粉末は、比表面積が11.0m2/g以下と小さく、焼結助剤として希土類酸化物のみを用いると十分に緻密化しない。そのため、焼結助剤としては、酸化マグネシウム(MgO)や窒化ケイ素マグネシウム(MgSiN2)などのマグネシウム化合物と、例えばYb2O3やY2O3などの希土類酸化物が用いられることが望ましい。マグネシウム化合物は低融点の液相化合物を形成し、緻密化を促進する効果があり、焼成温度を低下させたり、焼成時間を短くさせたりする効果がある。また、希土類酸化物は酸素との親和性が高く、窒化ケイ素粒子内の固溶酸素を減少させ、熱伝導率を高める効果がある。
【0048】
成形工程では、真空脱泡による粘度調整後の高粘度のスラリーがシート状に成形され、ドクターブレード法によって所定の厚さのグリーンシートが得られる。グリーンシートの厚さは、必要な焼結体の厚さにより適宜変更することが可能であるが、通常0.1~1.3mm程度の範囲である。成形後のグリーンシートが金型プレスや切断機により所望の形状に加工されて、成形体が得られる。この成形工程において、ドクターブレードが相対移動して成形体を圧延する方向が、窒化ケイ素焼結体の成形方向(RD方向)として定められる。
【0049】
成形工程で得られた成形体の表面へ、離型剤である窒化ホウ素粉末のスプレーを行い、15~30枚の成形体を積層したブロック体を準備する。このブロック体を窒化ホウ素製のさや内へ設置し、乾燥空気中で500~600℃の温度範囲で脱脂を行った。なお、脱脂時の雰囲気は窒素、あるいは、真空中でもよい。脱脂後のブロック体を高温で所定時間、焼成することにより、本製造方法の最終目的物である窒化ケイ素焼結体が得られる。焼成処理は、焼成炉において、非酸化性(窒素)雰囲気中で、約1750~2000℃の温度範囲で行われる。また、Si3N4や焼結助剤(例えば、MgO)の揮発を防ぐため、5気圧以上の圧力下で加圧焼成を行うことが好ましい。
【0050】
上記説明した工程を経ることによって、特異的な集合組織特性を有する窒化ケイ素焼結体の基板を得ることができる。
【0051】
また、第2の実施形態として、窒化ケイ素焼結体は、主原料としてSi粉末を使用する反応焼結法で形成されたものであってもよい。上記製造方法と同様に、窒化ケイ素インゴットを粉砕して、所定の範囲の比表面積および平均粒子径を有するβ型窒化ケイ素粉末を作製する。そして、作製したβ型窒化ケイ素粉末を原料混合時に希釈剤としてSi粉末に添加することによって、上記集合組織特性を有する窒化ケイ素焼結体の基板を得ることができる。β型窒化ケイ素粉末は、3~10重量%であることが好ましい。
【0052】
図7は、上記実施形態の窒化ケイ素焼結体を用いて構成した絶縁回路基板11、および、該絶縁回路基板11を備える半導体装置10を例示する模式図である。絶縁回路基板11は、絶縁基板として形成された窒化ケイ素焼結体13と、該窒化ケイ素焼結体13の表面に接合された導電体(回路)としての金属板15とを備える。例示した
図7では、窒化ケイ素焼結体13の上面および下面の両方に、金属板15が接合層を介して接合される。ここで、金属板15は、銅板であることが好ましい。また、接合層は、Agナノ粒子などの半田材料であることが好ましい。そして、半導体装置10は、絶縁回路基板11と、当該絶縁回路基板11の金属板15上に実装された半導体素子17と、を備える。なお、半導体素子17の実装は、半田ペーストなどによって行われる。すなわち、本実施形態の半導体装置10は、特性異方性を改善した窒化ケイ素焼結体13の特性を半導体装置製品として発揮し得るものである。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定解釈されるものではない。
【0054】
実施例1~8、比較例1~3に係る窒化ケイ素焼結体は以下の条件および手順によって作製された。実施例1~8、比較例3では、直接窒化法によって高純度の金属シリコン粉末から合成された金属インゴットを粉砕し、洗浄することによってβ型窒化ケイ素粉末を準備した。β型窒化ケイ素粉末の比表面積および平均粒子径を測定し、その特性を確認した。次に、実施例1~7、比較例3では、各粉末の配合組成比に合わせて、β型窒化ケイ素粉末に対してMgO粉末及びY2O3粉末を適量添加した。さらに、実施例7では、HfO2粉末を適量添加した。実施例8では、各粉末の配合組成比に合わせて、金属シリコン粉末に対して、作製したβ型窒化ケイ素粉末、MgSiN2粉末及びY2O3粉末を適量添加した。比較例1、2では、各粉末の配合組成比に合わせて、金属シリコン粉末に対して、MgO粉末及びY2O3粉末を適量添加した。この混合体100重量部に対して、ポリカルボン酸系の界面活性型分散剤を0.3mg/m2と、トルエンとエタノールの混合溶媒を約50重量部添加して、窒化ケイ素玉石を用いて粉砕混合を行った。その後、バインダーとしてポリビニルブチラールを18重量部と、可塑剤としてアジピン酸ジオクチルを6重量部と、トルエンとエタノールの混合溶媒を約20重量部加え、バインダーが完全に溶解・混合されるまで、ボールミルによって攪拌混合した後、スラリーを作製した。そして、スラリーを真空中で放置し、脱泡及び揮発させることで、粘度調整を行った。次いで、作製したスラリーからドクターブレード法によってシート成形体を得た。ドクターブレードの成形方向が、基板成形方向Xとして定められた。得られたシート成形体を金型プレス加工により260mm×200mmの形状に型抜きした。その後、型抜きしたシート表面に離型剤としての窒化ホウ素粉末のスプレーを行い、1ブロックあたり25枚の積層体を準備し、窒化ホウ素製のさや内へ配置し、乾燥空気中、500℃に約4時間加熱し、バインダーなどの有機成分を除去した。そして、シート成形体を9気圧の窒素雰囲気中、1860℃で4時間加熱することで、窒化ケイ素基板の積層体を得た。窒化ケイ素積層体の基板を分離し、最上段と最下段の基板を取り除き、残り23枚の基板外周をレーザーによってブレーク処理を行い、基板表面に残留した窒化ホウ素粉末とレーザー加工によって付着した飛沫をホーニング処理によって除去することで、190mm×140mm×0.32mmの窒化ケイ素焼結体の基板を得た。
【0055】
各試料の作製段階において、β型窒化ケイ素粉末の比表面積、粒子径D50、フッ素含有量、酸素含有量を測定した。そして、作製した各試料について、EBSD法による集合組織解析を行って、テクスチャ指数J、φ2=0°における結晶方位分布図、密度プロファイルの最大値、最大値、極点図、極点図における面積率を取得した。また、作製した各試料について、X線回折法による構造解析を行って、強度比I(002)/I(200)を取得した。作製した各試料について、基板成形方向の熱伝導率λx、基板成形方向に直交する方向の熱伝導率λy、および、基板厚み方向の熱伝導率をλzをそれぞれ測定した。また、作製した各試料について、基板成形方向の曲げ強度σx、基板成形方向に直交する方向の曲げ強度σyをそれぞれ測定した。
【0056】
各種測定および評価は、以下の条件で行われた。
【0057】
・β型窒化ケイ素粉末の比表面積
比表面積をBET一点法により測定した。測定装置は、Quantachrome社製のMonosorb、型式MS-21を用いた。
【0058】
・β型窒化ケイ素粉末の粒子径D50
株式会社島津製作所のレーザー回折式粒度分布測定装置SALD‐2000を使用して測定を行った。分散剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウムを使用し、屈折率は2.4とした。
【0059】
・β型窒化ケイ素粉末のフッ素含有量
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のイオンクロマトグラフ Dionex Integrion RFICと日東精工アナリテック株式会社製の自動試料燃焼装置 AQF-2100Hを使用して、JIS R 1603(2018)記載の熱加水分解分離-イオンクロマトグラフ法により測定された。
【0060】
・β型窒化ケイ素粉末の酸素含有量
株式会社堀場製作所のEMGA-920を使用して、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法により測定を行った。
【0061】
・EBSD法による集合組織分析
オックスフォード・インストゥルメンツ製の型式C-Nanoを用いて、EBSD法により、各試料の結晶方位の測定を行った。測定面として、以下に示す方法で基板表面の鏡面仕上げを行った。まず、#600のダイヤモンド研磨パッドで平面出しを行った。その後、15μm、6μm、1μmの順にダイヤモンドスラリーを用いた中間研磨を行った。仕上げ研磨として、50nmのアルミナスラリーで研磨した後に、40nmのコロイダルシリカで研磨を行うことで鏡面を得た。仕上げ研磨後はアセトンとエタノールを用いた超音波洗浄を行い、レーザー顕微鏡によって、100μm×140μmの範囲(対物レンズの倍率は100倍)における面粗さSaは0.01μm以下であった。鏡面加工後の基板厚み方向をZ方向(ND方向)、基板成形方向をX方向(RD方向)、基板成形方向の直交方向をY方向(TD)方向となるように試料座標系を設定し、加速電圧15kV、ステップサイズ0.21μmの条件で、11000μm2の領域に対してEBSDマッピングを行った。得られたEBSDマップをオックスフォード・インストゥルメンツのEBSD解析ツールAZtecCrystalを使用して、方位分布関数解析等を行うことで、テクスチャ指数J、φ2=0°における結晶方位分布図、密度プロファイルの最大値、最大値、極点図、および極点図における面積率を取得した。
【0062】
・X線回折測定およびその分析
株式会社リガク製の型式UltimaIVを用いて、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折法により、各試料のX線回折強度測定を行った。測定には、15mm×15mmにカットした個片を使用した。#600のダイヤモンド研磨パッドで基板表面を20μm以上研磨し、レーザー顕微鏡による100μm×140μmの範囲(対物レンズの倍率は100倍)における面粗さSaが0.6μm以下である表面を測定面とした。X線回折測定条件は、以下のとおりである。
スキャン範囲:10度から85度
サンプリング幅:0.02度
スキャンスピード:10度/分
発散スリット:2/3度
発散縦スリット:10mm
散乱スリット:8mm
受光スリット:開放
管電圧/電流:40kV/40mA
検出器:半導体検出器
基板平面へのX線入射によって得られた基板平面のX線回折パターンにおいて、β型窒化ケイ素粒子のミラー指数(002)、(200)に対応する回折ピークの積分強度を解析ソフトを用いて算出した。
【0063】
・熱伝導率
基板の各種方向の熱伝導率の測定方法には、フラッシュ法が採用された。測定には、NETZSCH Geratebau GmbH製の熱伝導率測定装置LFA467が使用された。測定には、基板から10mm×10mmにカットした個片を使用した。フラッシュ光の透過を抑える目的で個片両面に約100nmの金スパッタ膜を形成し、パルス光を均一に吸収させる目的で、個片両面にグラフェンスプレーを使用し、グラフェン塗布量が約0.1mg/mm2になるように均一な黒化処理を行った。X方向とY方向の熱伝導率測定には、インプレーン測定用のサンプルホルダーを用いた。熱伝導率の算出時には、得られた焼結体の比熱として0.68J/(g・K)の値を用いた。
【0064】
・3点曲げ強度
測定装置は、株式会社島津製作所製の型式AG-ISであり、その測定条件をクロスヘッドスピード0.5mm/分、支点間距離30mmとし、試験片のサイズは幅20mm、厚み0.3~0.4mmとした。なお、X方向の曲げ強度σxは、成形方向に対して直角方向に試験治具を配置した状態(支持具の支点間距離方向がX方向と一致)で試験を実施し、Y方向の曲げ強度σyは、成形方向に対して平行方向に試験治具を配置した状態(支持具の支点間距離方向がY方向と一致)で試験を実施している。
【0065】
実施例1~8および参考例1~3の各試料についての条件および各種測定結果を表1,2に示した。表1は、主に各試料の作製条件を示し、表2は、各種特性を示している。
図1は、実施例1、2、比較例1、3のEBSD法によるバンドコントラスト像を代表的に示す。
図2は、実施例1、2、比較例1、3のEBSD法による極点図を代表的に示す。
図3は、実施例1、2、比較例1、3のφ2=0°における結晶方位分布図を代表的に示す。
図4は、実施例1、2、比較例1、3の、φ2=0°、Φ=0°、φ1=0~60°の範囲における密度プロファイルを代表的に示す。
図5は、実施例1、2、比較例1、3の、φ2=0°、Φ=90°、φ1=0~180°の範囲における密度プロファイルを代表的に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
表1によれば、実施例1~7は、6.0~11.0m2/gの比表面積、および0.5μm~1.5μmの平均粒子径D50のβ型窒化ケイ素粉末を主原料として形成された。一方、実施例8は、金属シリコン粉末を主原料とするが、上記範囲のβ型窒化ケイ素粉末を希釈剤として添加したものである。これに対し、比較例1、2は、希釈剤を含まずに金属シリコン粉末を主原料としたものである。また、比較例3は、5.0m2/gの比表面積、および2.0μmの平均粒子径D50のβ型窒化ケイ素粉末を主原料として形成された。
【0069】
表2に示すように、テクスチャ指数Jは、実施例1~8では1.2~1.7であるのに対し、比較例1~3では1.7よりも大きい。これは、実施例1~8が、比較例1~3よりも結晶粒がよりランダムな状態で配向されていることを示している。また、実施例1~8では、φ2=0°、Φ=0°、φ1=0~60°の範囲における密度プロファイルの最大値が1.0~1.6であり、且つ、φ2=0°、Φ=90°、φ1=0~180°の範囲における密度プロファイルの最大値が2.0~7.0であるのに対し、比較例1~3では、上記範囲外の値を示している。すなわち、実施例1~8および比較例1~3は、密度プロファイルの最大値によっても集合組織特性において差別化され得る。
【0070】
さらに、
図2の極点図によれば、実施例1と実施例2では、白色の箇所が分散し、広範囲に渡ってβ-Si
3N
4結晶粒の結晶方位が分散していることが分かる。一方で、比較例1ではZ方向(X軸とY軸の交点)への分布が極めて小さく、β-Si
3N
4結晶粒の{0 0 0 1}面がZ方向(ND方向)へ優先的に配向していることが分かる。また、比較例3では、{1 0 -1 0}面のY方向への分布が大きく、β-Si
3N
4の{0 0 0 1}がX方向へ優先的に配向していることが分かる。
【0071】
そして、表2に示すように、極点図の特性を定量的に示すβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率によって、集合組織特性が実施例1~8と比較例1~3との間で差別化されることが分かった。すなわち、実施例1~8では、β型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが70°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して90~98%であるのに対し、比較例1~3ではその範囲外である。実施例1~8では、β型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが60°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して80~94%であるのに対し、比較例1~3ではその範囲外である。実施例1~8では、β型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが50°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して65~85%であるのに対し、比較例1~3ではその範囲外である。実施例1~8では、β型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが40°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して50~75%であるのに対し、比較例1~3ではその範囲外である。実施例1~8では、β型窒化ケイ素結晶粒の{1 0 -1 0}面のND方向からの傾きが30°以内となる結晶方位を有するβ型窒化ケイ素結晶粒の面積率が、全てのβ型窒化ケイ素結晶粒に対して30~52%であるのに対し、比較例1~3ではその範囲外である。
【0072】
表2に示すように、実施例1~8および比較例1~3では、熱伝導率λx、λy、λzは、それぞれ70W/mK以上である。そして、基板成形方向の熱伝導率λxと基板厚み方向の熱伝導率λzとの比率λz/λxが、実施例1~8では0.96~1.06であるのに対し、比較例1~3ではその範囲外である。つまり、熱伝導率λxに対する熱伝導率λzと熱伝導率λxとの差の割合(|λz-λx|/λx)において、実施例1~8では6%以下であるのに対し、比較例1~3では10%以上である。なお、実施例1~7では、差の割合は5%以下である。また、基板成形方向の熱伝導率λxとその直交方向の熱伝導率λyとの比率λy/λxが、実施例1~8では0.99~1.00であるのに対し、比較例1~3ではその範囲外である。つまり、熱伝導率λxに対する熱伝導率λyと熱伝導率λxとの差の割合(|λy-λx|/λx)において、実施例1~8では1.5%以下であるのに対し、比較例では1.9%以上である。すなわち、実施例1~8は、比較例1~3と比べて、熱伝導率の特性異方性が大幅に緩和されている。
【0073】
表2に示すように、実施例1~8および比較例2、3では、基板成形方向の曲げ強度σxおよび基板成形方向に直交する方向の曲げ強度σyが、それぞれ600MPa以上である。比較例1では、曲げ強度σx、σyが600MPa未満であり、基準となる強度を満たしていない。そして、曲げ強度σxおよび曲げ強度σyの比率σy/σxが、実施例1~8では0.9~1.1であるのに対し、比較例2、3ではその範囲外である。つまり、曲げ強度σxに対する曲げ強度σxと曲げ強度σyとの差の割合(|σy-σx|/σx)において、実施例1~8では10%以下であるのに対し、比較例2、3では10%より大きい。すなわち、実施例1~8は、所望の曲げ強度を有しつつ、比較例2、3と比べて、機械的強度の特性異方性が大幅に緩和されている。
【0074】
さらに、表2に示すように、X線回折ピークの積分強度I(002)と積分強度I(200)との強度比I(002)/I(200)が0.05~0.2であるのに対し、比較例2、3ではその範囲外である。すなわち、X線回折による構造分析によっても、実施例1~8と、比較例1~3とを差別化することが可能である。
【0075】
本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
【符号の説明】
【0076】
10 半導体装置
11 絶縁回路基板
13 窒化ケイ素焼結体
15 金属板
17 半導体素子
【要約】
【課題】熱伝導率や曲げ強度などの特性異方性が緩和された窒化ケイ素焼結体を提供する。
【解決手段】窒化ケイ素焼結体は、基板表面のEBSD法によるβ型窒化ケイ素結晶粒の集合組織解析から得られた、各結晶粒の結晶方位の分布状態を示すテクスチャ指数Jが1.2~1.7である。
【選択図】
図2