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特許7610699歯科材料用組成物、歯科材料及び抗菌用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】歯科材料用組成物、歯科材料及び抗菌用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/887 20200101AFI20241225BHJP
   A61K 6/30 20200101ALI20241225BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20241225BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/30
A61K6/60
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023510948
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2022012371
(87)【国際公開番号】W WO2022209973
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2021060514
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】的石 かおり
(72)【発明者】
【氏名】小杉 洋子
(72)【発明者】
【氏名】安保 絵梨
(72)【発明者】
【氏名】近藤 智之
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-132590(JP,A)
【文献】特開昭63-017816(JP,A)
【文献】特開昭62-045509(JP,A)
【文献】特開平06-056619(JP,A)
【文献】特開平05-320020(JP,A)
【文献】特開2008-266225(JP,A)
【文献】特開昭62-005936(JP,A)
【文献】特開2004-189661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの(メタ)アクリロイル基と、炭素数8~20のアルケニルオキシ基と、2~35のオキシプロピレン基とからなる重合性化合物(C)を含む歯科材料用組成物。
【請求項2】
1つの重合性基と2つ以上のオキシアルキレン基とを含む重合性化合物(A)を含み、
前記重合性化合物(A)が、下記式(2)で表される化合物を含む歯科材料用組成物。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯科材料用組成物、歯科材料及び抗菌用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯科材料は歯科治療に用いることが知られている。
歯科材料を用いる場合、歯科材料の表面に菌が付着して、付着した菌がプラークの原因となることがある。
このような状況に対応するため、歯科材料には、抗菌性が求められることがある。歯科材料に用いられる抗菌剤としては、銀イオンなどが挙げられるが、銀イオン以外の抗菌性の材料も求められている。
例えば、特許文献1には、特定の構造式で示される、10-ウンデセノキシ基およびエトキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)ならびに重合開始剤(D)を含有する抗菌性歯科用重合性組成物が記載されている。
【0003】
特許文献1:特開2004-189661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯科材料用組成物における抗菌性としては、硬化前の歯科材料用組成物の状態での抗菌性と、歯科材料用組成物を硬化して得られる硬化物の状態での抗菌性と、が考えられる。
ここで、歯科材料を使用する際、プラーク形成を抑制する観点からは、歯科材料用組成物を硬化して得られる硬化物の状態での抗菌性が、特に重要であると考えられる。
この点に関して、特許文献1の抗菌性歯科用重合性組成物は、組成物を硬化して得られる硬化物の状態での抗菌性について改善の余地がある。
【0005】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、抗菌性に優れる硬化物を得ることができる歯科材料用組成物、上記硬化物を含む歯科材料及び抗菌用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は以下の態様を含む。
<1> 1つの重合性基と2つ以上のオキシアルキレン基とを含む重合性化合物(A)を含む歯科材料用組成物。
<2> 前記1つの重合性基が、(メタ)アクリロイル基である<1>に記載の歯科材料用組成物。
<3> 前記重合性化合物(A)の数平均分子量Mnが200以上である<1>又は<2>に記載の歯科材料用組成物。
<4> 前記重合性化合物(A)が、下記式(1)で表される化合物を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載の歯科材料用組成物。
【0007】
【化1】

【0008】
式(1)中、Rは重合性基を含まない炭素数1~24の有機基又は水酸基であり、Rは水素原子又はメチル基であり、Xは炭素数2~6の2価の炭化水素基であり、nは2以上の整数である。
<5> 前記式(1)におけるRが、炭素数1~24のアルコキシ基又は水酸基である<4>に記載の歯科材料用組成物。
<6> 前記重合性化合物(A)における前記1つの重合性基が(メタ)アクリロイル基であり、前記重合性化合物(A)以外の(メタ)アクリレート化合物(B)をさらに含む<1>~<5>のいずれか1つに記載の歯科材料用組成物。
<7> 前記重合性化合物(A)と前記(メタ)アクリレート化合物(B)との合計含有量が、歯科材料用組成物の全質量に対して、15質量%以上である<6>に記載の歯科材料用組成物。
<8> 前記重合性化合物(A)の含有量が、前記重合性化合物(A)と前記(メタ)アクリレート化合物(B)との合計含有量に対して、1質量%~50質量%である<6>又は<7>に記載の歯科材料用組成物。
<9> 前記(メタ)アクリレート化合物(B)は、酸性基を含む(メタ)アクリレート化合物を含む<6>~<8>のいずれか1つに記載の歯科材料用組成物。
<10> 1つの(メタ)アクリロイル基と、炭素数8~20のアルケニルオキシ基と、2つ以上のオキシプロピレン基とを含む重合性化合物(C)を含む歯科材料用組成物。
<11> 顔料及び染料の合計含有量が10質量%以下である<1>~<10>のいずれか1つに記載の歯科材料用組成物。
<12> ボンディング材又はコンポジットレジンとして用いられる<1>~<11>のいずれか1つに記載の歯科材料用組成物。
<13> <1>~<12>のいずれか1つに記載の歯科材料用組成物の硬化物を含む歯科材料。
<14> 1つの重合性基と2つ以上のオキシアルキレン基とを含む重合性化合物(A)を含む抗菌用組成物。
<15> コーティング剤として用いられる<14>に記載の抗菌用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施形態によれば、抗菌性に優れる硬化物を得ることができる歯科材料用組成物、上記硬化物を含む歯科材料及び抗菌用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、「(メタ)アクリロイル」とはアクリロイル又はメタクリロイルを意味し、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート又はメタクリレートを意味する。
本開示において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0011】
≪歯科材料用組成物≫
本開示の歯科材料用組成物は、第1実施形態及び第2実施形態を含む。
各実施形態について、以下に説明する。
【0012】
[第1実施形態]
第1実施形態の歯科材料用組成物は、1つの重合性基と2つ以上のオキシアルキレン基とを含む重合性化合物(A)を含む。
第1実施形態の歯科材料用組成物は、重合性化合物(A)を含むことで、抗菌性に優れる硬化物を得ることができる。
この理由は以下の通りであると推測される。
重合性化合物(A)における2つ以上のオキシアルキレン基が抗菌活性を有し、さらに、重合性基が1つであることで、硬化した際に硬化物の表面に2つ以上のオキシアルキレン基が存在しやすくなるためであると推測される。
【0013】
また、第1実施形態の歯科材料用組成物の一実施形態は、接着強度に優れる硬化物を得ることもできる。
【0014】
<重合性化合物(A)>
重合性化合物(A)は、1つの重合性基と2つ以上のオキシアルキレン基とを含む。
1つの重合性基としては、特に制限はない。例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基等が挙げられる。
上記の中でも抗菌性に優れる硬化物を得る観点から、1つの重合性基は、(メタ)アクリロイル基であることが好ましい。
【0015】
2つ以上のオキシアルキレン基は、オキシアルキレン基を2つ以上含んでいれば、特に制限はない。
オキシアルキレン基は、炭素数2~6であることが好ましく、炭素数2~5であることがより好ましく、炭素数2~4であることがさらに好ましい。
2つ以上のオキシアルキレン基は、連続していてもよく、連続していなくてもよいが、連続していることが好ましい。
【0016】
第1実施形態の歯科材料用組成物は、前記重合性化合物(A)が、下記式(1)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0017】
【化2】

【0018】
式(1)中、Rは重合性基を含まない炭素数1~24の有機基又は水酸基であり、
は水素原子又はメチル基であり、
Xは炭素数2~6の2価の炭化水素基であり、
nは2以上の整数である。
【0019】
式(1)におけるRは、炭素数1~24のアルコキシ基又は水酸基であることが好ましい。Rは炭素数が1~18であることが好ましく、1~12であることがより好ましい。
Xは、炭素数2~6の2価の炭化水素基であることが好ましく、炭素数2~4の2価の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数2の2価の炭化水素基であることがさらに好ましい。
nは3以上の整数であることが好ましい。
【0020】
重合性化合物(A)の数平均分子量は、抗菌性に優れる硬化物を得る観点から、200以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、400以上であることがさらに好ましい。
重合性化合物(A)の数平均分子量は、2000以下であってもよく、1500以下であってもよく、1000以下であってもよい。
【0021】
重合性化合物(A)としては、ポリエチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールドデシルエーテル(メタ)アクリレート、及びポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが好ましい。
【0022】
<(メタ)アクリレート化合物(B)>
第1実施形態の歯科材料用組成物は、重合性化合物(A)以外の(メタ)アクリレート化合物(B)をさらに含むことが好ましい。
また、第1実施形態の歯科材料用組成物は、重合性化合物(A)における1つの重合性基が(メタ)アクリロイル基であり、重合性化合物(A)以外の(メタ)アクリレート化合物(B)をさらに含むことがより好ましい。
【0023】
(メタ)アクリレート化合物(B)は、重合性化合物(A)以外の(メタ)アクリレート化合物であれば、特に制限なく用いることができる。
具体的には、(メタ)アクリレート化合物(B)は、2つ以上の重合性基を含む(メタ)アクリレート化合物、オキシアルキレン基を含まない又はオキシアルキレン基を1つのみ含む(メタ)アクリレート化合物等を含む。
以下に、(メタ)アクリレート化合物(B)の具体例について説明する。
【0024】
(2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を含む(メタ)アクリレート化合物)
(メタ)アクリレート化合物(B)は、2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を含む(メタ)アクリレート化合物を含んでもよい。
【0025】
2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を含む(メタ)アクリレート化合物としては、二官能(メタ)アクリレート化合物、及び三官能以上の(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
二官能(メタ)アクリレート化合物としては、芳香族化合物系の二官能(メタ)アクリレート化合物、脂肪族化合物系の二官能(メタ)アクリレート化合物、2つ以上のウレタン結合を含む(メタ)アクリレート化合物、2つ以上のチオウレタン結合を含む(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0026】
芳香族化合物系の二官能(メタ)アクリレート化合物の例としては、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリプルポキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
これらの中でも、2,2-ビス〔4-(3-(メタクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパン(Bis-GMAともいう。)、及び2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0027】
脂肪族化合物系の二官能(メタ)アクリレート化合物の例としては、ウレタン結合及びチオウレタン結合を含まない脂肪族化合物系の二官能(メタ)アクリレートと、2つ以上のウレタン結合を含む(メタ)アクリレート化合物と、2つ以上のチオウレタン結合を含む(メタ)アクリレート化合物と、が挙げられる。
【0028】
ウレタン結合及びチオウレタン結合を含まない脂肪族化合物系の二官能(メタ)アクリレートの例としては、エリスリトールジ(メタ)アクリレート、ソルビトールジ(メタ)アクリレート、マンニトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)エタン等が挙げられる。
これらの中でも、グリセロールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(HexDMAともいう。)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(NPGともいう。)、及び1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)エタンからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0029】
2つ以上のウレタン結合を含む(メタ)アクリレート化合物は、例えば、イソ(チオ)シアネート基を2つ以上含むイソ(チオ)シアネート化合物と、後述のヒドロキシ基を含む(メタ)アクリレート化合物と、の反応生成物として製造することができる。
2つ以上のウレタン結合を含む(メタ)アクリレート化合物において、ウレタン結合の数は2つであることが好ましい。
2つ以上のウレタン結合を含む(メタ)アクリレート化合物としては、特に限定されない。例えば、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(UDMAともいう。)等が挙げられる。
【0030】
2つ以上のチオウレタン結合を含む(メタ)アクリレート化合物は、例えば、チオール基を2つ以上含むチオール化合物(ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)等)と、イソ(チオ)シアネート基を2つ以上含むイソ(チオ)シアネート化合物と、ヒドロキシ基を含む(メタ)アクリレート化合物と、の反応生成物として製造することができる。
【0031】
第1実施形態において、「2つ以上のウレタン結合を含む(メタ)アクリレート化合物」は、2つ以上のチオウレタン結合を含まない。
第1実施形態において、「2つ以上のチオウレタン結合を含む(メタ)アクリレート化合物」は、2つ以上のウレタン結合を有してもよい。
【0032】
三官能以上の(メタ)アクリレート化合物の例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラアクリロイルオキシメチル-4-オキシヘプタン等が挙げられる。
【0033】
(イソ(チオ)シアネート化合物)
2つ以上のウレタン結合又はチオウレタン結合を含む(メタ)アクリレート化合物の原料として使用可能なイソ(チオ)シアネート基を2つ以上含むイソ(チオ)シアネート化合物としては、例えば、下記のイソシアネート化合物及びイソチオシアネート化合物が挙げられる。
【0034】
イソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアネートシクロへキシル)メタン、2,5-ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4‘-ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
イソシアネート化合物としては、一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0035】
イソチオシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソチオシアネート等の脂環族ポリイソチオシアネート化合物;トリレンジイソチオシアネート等の芳香族ポリイソチオシアネート化合物;2,5-ジイソチオシアネートチオフェン等の含硫複素環ポリイソチオシアネート化合物;などが挙げられる。
イソチオシアネート化合物としては、一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0036】
上記の中でも、イソ(チオ)シアネート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアネートシクロへキシル)メタン、2,5-ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0037】
(ヒドロキシ基を含む(メタ)アクリレート化合物)
2つ以上のウレタン結合又はチオウレタン結合を含む(メタ)アクリレート化合物の原料として使用可能なヒドロキシ基を含む(メタ)アクリレート化合物としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEMAともいう。)、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記の中でも、ヒドロキシ基を含む(メタ)アクリレート化合物としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0038】
(オキシアルキレン基を含まない又はオキシアルキレン基を1つのみ含む(メタ)アクリレート化合物)
第1実施形態の(メタ)アクリレート化合物(B)におけるオキシアルキレン基を含まない又はオキシアルキレン基を1つのみ含む(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、重合性基を1つ含み、かつ、オキシアルキレン基の数が1つ以下である(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
重合性基を1つ含み、かつ、オキシアルキレン基の数が1つ以下である(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ヒドロキシ基を含む(メタ)アクリレート化合物、ヒドロキシ基を含まない(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
ヒドロキシ基を含む(メタ)アクリレート化合物としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEMAともいう。)、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記の中でも、ヒドロキシ基を含む(メタ)アクリレート化合物としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
ヒドロキシ基を含まない(メタ)アクリレート化合物としては、ドデシル(メタ)アクリレート(DMA)等のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0039】
オキシアルキレン基を含まない又はオキシアルキレン基を1つのみ含み、かつ、2つ以上の重合性基を有する化合物としては、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基と1つ以上のビニル基とを含む(メタ)アクリレート化合物(ω-ウンデシエニルエチレンオキサイド4モル付加メタクリレート(ML-4Gともいう。)等)が挙げられる。
【0040】
(酸性基を含む(メタ)アクリレート化合物)
(メタ)アクリレート化合物(B)は、酸性基を含む(メタ)アクリレート化合物を含むことが好ましい。
酸性基を含む(メタ)アクリレート化合物は、被着体との親和性を含むとともに、歯質に対しては脱灰作用を含む。
【0041】
酸性基としては、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等が挙げられる。
上記の中でも、酸性基が、リン酸基及びカルボン酸基からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、リン酸基であることがより好ましい。
【0042】
リン酸基を含む(メタ)アクリレート化合物としては、10-(ホスホノオキシ)デシル-(メタ)アクリレート(PDMともいう。)等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシ-(1-ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
カルボン酸基を含む(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸(4-METともいう。)及びその無水物等が挙げられる。
【0043】
重合性化合物(A)と(メタ)アクリレート化合物(B)との合計含有量は、抗菌性に優れる硬化物を得る観点から、歯科材料用組成物の全質量に対して、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましい。
重合性化合物(A)と(メタ)アクリレート化合物(B)との合計含有量が、歯科材料用組成物の全質量に対して、99質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。
【0044】
重合性化合物(A)の含有量は、抗菌性に優れる硬化物を得る観点から、重合性化合物(A)と(メタ)アクリレート化合物(B)との合計含有量に対して、1質量%~50質量%であることが好ましく、10質量%~45質量%であることがより好ましく、20質量%~45質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
<他の成分>
第1実施形態の歯科材料用組成物は、上述の成分以外の成分を、目的に応じて適宜含んでもよい。第1実施形態の歯科材料用組成物に含んでもよい成分は公知の成分であれば特に限定されない。
例えば、第1実施形態の歯科材料用組成物は、重合開始剤、フィラー、溶媒等を含んでもよい。
【0046】
<重合開始剤>
第1実施形態の歯科材料用組成物は、さらに、重合開始剤を含有してもよい。
第1実施形態の歯科材料用組成物は、重合開始剤を含有することで、化学重合性、熱重合性又は光重合性を有し、より良好に硬化物を得ることができる。
重合開始剤としては、歯科分野で用いられる一般的な重合開始剤を使用することができる。
【0047】
化学重合を行う場合には、重合開始剤としては、例えば、酸化剤及び還元剤を組み合わせたレドックス系の重合開始剤が好ましい。レドックス系の重合開始剤を使用する場合、酸化剤と還元剤が別々に包装された形態をとり、使用する直前に両者を混合すればよい。 重合開始剤としては、例えば、一般的に使用されている公知の重合開始剤であれば特に限定されず使用でき、通常、重合性化合物の重合性と重合条件を考慮して選択される。
【0048】
重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、デカノイルパーオキシドなどのジアシルパーオキシドなどの有機過酸化物/芳香族アミン系、クメンヒドロパーオキサイド/チオ尿素系、アスコルビン酸/銅塩系、有機過酸化物/アミン化合物/スルフィン酸(又はその塩)系等のレドックス系重合開始剤を用いることができる。また、重合開始剤として、トリブチルボランおよびその部分酸化物等のトリアルキルボランおよびその部分酸化物、5-ブチルバルビツール酸、5-ブチル-2-チオバルビツール酸系触媒等も好適に用いられる。
【0049】
加熱による熱重合を行う場合には、過酸化物、アゾ系化合物等の重合開始剤が好ましい。
過酸化物としては特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等が挙げられる。アゾ系化合物としては特に限定されず、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0050】
可視光線照射による光重合を行う場合には、カンファーキノン(CQともいう。)、アセチルベンゾイル等のα-ジケトン;ベンゾイルエチルエーテル等のベンゾイルアルキルエーテル;2-クロロチオキサントン、メチルチオキサントン等のチオキサントン誘導体;ベンゾフェノン、p,p’-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類等の光重合触媒等が挙げられる。
また、これら重合開始剤に加えて、ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチル-p-トルイジン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル(EDBともいう。)、4-(ジメチルアミノ)安息香酸2-ブトキシエチル(BEDBともいう。)等のアミン化合物、シトロネラール、ジメチルアミノベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物、2-メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール等のチオール基を有する化合物等の助触媒成分を併用することが好ましい。
上記重合開始剤は一種単独で用いても、二種以上を用いてもよい。重合開始剤の含有量は、歯科材料用組成物100質量%に対して、0.01質量%~20質量%が好ましく、0.1質量%~5質量%がより好ましい。
【0051】
<フィラー>
第1実施形態の歯科材料用組成物は、フィラーを含んでもよい。フィラーは、歯科分野で用いられる一般的なフィラーであれば特に限定されず使用することができる。フィラーは、通常、有機フィラーと無機フィラーに大別される。
有機フィラーとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体等の微粉末が挙げられる。
【0052】
無機フィラーとしては、例えば、各種ガラス類(二酸化珪素を主成分とし、必要に応じ、重金属、ホウ素、アルミニウム等の酸化物を含有する)、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイトなどの微粉末が挙げられる。このような無機フィラーの具体例としては、例えば、バリウムボロシリケートガラス(ショット8235、ショットGM27884、ショットG018-053等)、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス(ショットG018-163等)、ランタンガラス(ショットGM31684等)、フルオロアルミノシリケートガラス(ショットG018-117等)、ジルコニウム、セシウム等を含むボロアルミノシリケートガラス(ショットG018-307等)が挙げられる。
【0053】
本開示におけるフィラーは、顔料以外のフィラーであることが好ましい。
顔料以外のフィラーとしては、例えば、バリウムボロシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、ランタンガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ボロアルミノシリケートガラス、シリカ、ジルコニア、これらの複合物(例えば、シリカ・ジルコニアの複合酸化物)等が挙げられる。
【0054】
これらのフィラーは一種単独で用いても、二種以上を用いてもよい。フィラーの含有量は、歯科材料用組成物(例えばコンポジットレジン組成物)の操作性(粘稠度)、その硬化物の曲げ強度等を考慮して適宜決定すればよく、歯科材料用組成物中に含まれるフィラー以外の全成分100質量部に対して、10質量部~2000質量部が好ましく、50質量部~1000質量部がより好ましく、100質量部~600質量部がさらに好ましい。
特に、本開示におけるフィラーが顔料以外のフィラーである場合に、顔料以外のフィラーの含有量が、上述の範囲内であることが好ましい。
【0055】
本開示の歯科材料用組成物は、顔料以外のフィラー、又は、顔料以外のフィラーとチタニアとの複合物を含むことが好ましい。
すなわち、本開示におけるフィラーは、顔料以外のフィラー、又は、顔料以外のフィラーとチタニアとの複合物であることが好ましい。
顔料以外のフィラーとチタニアとの複合物としては、例えば、シリカ・チタニア、シリカ・チタニア・ジルコニア等の複合酸化物等が挙げられる。
【0056】
本開示におけるフィラーが顔料以外のフィラーとチタニアとの複合物である場合にも、顔料以外のフィラーとチタニアとの複合物の含有量が、上述の範囲内であることが好ましい。
すなわち、顔料以外のフィラーとチタニアとの複合物の含有量は、歯科材料用組成物中に含まれるフィラー以外の全成分100質量部に対して、10質量部~2000質量部が好ましく、50質量部~1000質量部がより好ましく、100質量部~600質量部がさらに好ましい。
また、顔料以外のフィラーとチタニアとの複合物中、チタニアの含有量は、例えば、5モル%~30モル%であることが好ましい。
【0057】
<溶媒>
第1実施形態の歯科材料用組成物は、溶媒を含有することが好ましい。
溶媒としては、有機溶媒、水等が挙げられる。
第1実施形態の歯科材料用組成物は、有機溶媒及び水を含有することが好ましい。
【0058】
有機溶媒としては、エタノール、イソプルピルアルコール、アセトン等を用いることができる。
水としては、蒸留水、超純水等が挙げられる。
【0059】
第1実施形態の歯科材料用組成物は、顔料及び染料の合計含有量が10質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましく、顔料及び染料を含まないことがより好ましい。
顔料としては、上述した顔料以外のフィラー(バリウムボロシリケートガラス等)でないフィラーが挙げられる。例えば、顔料としては、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等が挙げられる。
あるいは、本開示の顔料のうち、チタニアを顔料以外のフィラーとの複合体として使用する場合は、第1実施形態の歯科材料用組成物は、チタニア以外の顔料及び染料の合計含有量が10質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましく、顔料及び染料を含まないことがより好ましい。
第1実施形態の歯科材料用組成物は、顔料及び染料の合計含有量が0質量%以上であってもよく、0.01質量%以上であってもよい。
【0060】
第1実施形態の歯科材料用組成物は、例えば、保存安定性を向上させるために重合禁止剤を含んでもよい。また、色調を調整するために、公知の顔料、染料等の色素を含んでいてもよい。さらに、硬化物の強度を向上させるために、公知のファイバー等の補強材を含んでもよい。また、第1実施形態の歯科材料用組成物は、殺菌剤、消毒剤、安定化剤、保存剤などの添加剤を本開示の効果を奏する限り必要に応じて含有してもよい。
【0061】
≪用途≫
第1実施形態の歯科材料用組成物は、歯科材料に関する用途に好適に用いられる。
上記の中でも、特に、第1実施形態の歯科材料用組成物は、ボンディング材又はコンポジットレジンとして用いられることが好ましい。
第1実施形態の歯科材料用組成物をボンディング材として用いる場合、例えば、歯科材料用組成物は、重合性化合物100質量部に対し、水を10質量部~250質量部、有機溶媒を10質量部~250質量部含むことが好ましい。
第1実施形態の歯科材料用組成物をボンディング材として用いる場合、歯科材料用組成物は、水及び有機溶媒の合計含有量が、重合性化合物100質量部に対し、20質量部~500質量部であることが好ましい。
有機溶剤としては、特に限定されないが、エタノール、アセトン及びイソプロピルアルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。
【0062】
第1実施形態の歯科材料用組成物をコンポジットレジンとして用いる場合、例えば、歯科材料用組成物は、水及び有機溶媒の合計含有量が歯科材料用組成物の全質量に対して1質量%以下であるか、又は水及び有機溶媒を含まないことが好ましい。
【0063】
[第2実施形態]
第2実施形態の歯科材料用組成物は、1つの(メタ)アクリロイル基と、炭素数8~20のアルケニルオキシ基と、2つ以上のオキシプロピレン基とを含む重合性化合物(C)を含む。
第2実施形態の歯科材料用組成物は、重合性化合物(C)を含むことで、抗菌性に優れる硬化物を得ることができる。
この理由は以下の通りであると推測される。
重合性化合物(C)はオキシプロピレン構造を含むことで、オキシエチレン構造と比べると立体障害が生じ易くなる。これによって、重合性化合物(C)が硬化物の内部に取り込まれにくくなり、表面に抗菌活性を有するオキシプロプレン構造が存在しやすくなるためであると推測される。
【0064】
また、第2実施形態の歯科材料用組成物の一実施形態は、接着強度に優れる硬化物を得ることもできる。
【0065】
<重合性化合物(C)>
重合性化合物(C)は、1つの(メタ)アクリロイル基と、炭素数8~20のアルケニルオキシ基と、2つ以上のオキシプロピレン基とを含む。
重合性化合物(C)は、重合性基を2つ以上含む。
アルケニルオキシ基は、炭素数が、8~18であることが好ましく、9~16であることがより好ましく、10~14であることがさらに好ましい。
オキシプロピレン基の数は、4~35であってもよく、8~16であることが好ましい。
1つの(メタ)アクリロイル基は、抗菌活性の観点から、1つのアクリロイル基であることが好ましい。
【0066】
第2実施形態の歯科材料用組成物は、1つの重合性基と2つ以上のオキシアルキレン基とを含む重合性化合物(A)が、1つの(メタ)アクリロイル基と、炭素数8~20のアルケニルオキシ基と、2つ以上のオキシプロピレン基とを含む重合性化合物(C)に変更されたこと以外は、第1実施形態の歯科材料用組成物と同様の構成とすることができる。
つまり、重合性化合物(A)が重合性化合物(C)に変更されたこと以外は、第1実施形態の項に記載の各成分の具体例、好ましい具体例、含有量等を含む好ましい態様は、第2実施形態の歯科材料用組成物にも適用することができる。
【0067】
第2実施形態の歯科材料用組成物は、重合性化合物(C)以外の(メタ)アクリレート化合物(B’)をさらに含むことが好ましい。
(メタ)アクリレート化合物(B’)の具体例、好ましい具体例、含有量を含む好ましい態様等の詳細は、第1実施形態における<(メタ)アクリレート化合物(B)>の項の記載の内、重合性化合物(C)以外の(メタ)アクリレート化合物に該当する具体例、好ましい具体例、含有量を含む好ましい態様等の詳細と同様である。
【0068】
第2実施形態の歯科材料用組成物において、<他の成分>、<重合開始剤>、<フィラー>及び<溶媒>等を含むことができる。
第2実施形態における<他の成分>、<重合開始剤>、<フィラー>及び<溶媒>の具体例、好ましい具体例、好ましい態様等の詳細は、第1実施形態における<他の成分>、<重合開始剤>、<フィラー>及び<溶媒>の項に記載の具体例、好ましい具体例、好ましい態様等の詳細と同様である。
【0069】
重合性化合物(A)及び重合性化合物(C)は市販品を用いてもよく、公知の方法で製造してもよい。
例えば、重合性基として(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物(A)及び重合性化合物(C)は、オキシアルキレン基を有するアルコール化合物(オキシアルキレン基のほか、アルコキシ基又はアルケニルオキシ基を有するものも含む)と(メタ)アクリルクロライドとをトリエチルアミン存在下、塩化メチレン中で反応させ、塩化メチレンを除去したのちに精製することにより製造できる。
【0070】
≪用途≫
第2実施形態の歯科材料用組成物における用途の具体例、好ましい具体例等の詳細は、第1実施形態の歯科材料用組成物における用途の具体例、好ましい具体例等の詳細と同様である。
第2実施形態の歯科材料用組成物をボンディング材として用いる場合における、水、有機溶媒等の好ましい含有量は、第1実施形態の歯科材料用組成物をボンディング材として用いる場合における、水、有機溶媒等の好ましい含有量と同様である。
第2実施形態における有機溶媒の具体例等の詳細は、第1実施形態における有機溶媒の具体例等の詳細と同様である。
第2実施形態の歯科材料用組成物をコンポジットレジンとして用いる場合における、水、有機溶媒等の好ましい含有量は、第1実施形態の歯科材料用組成物をコンポジットレジンとして用いる場合における、水、有機溶媒等の好ましい含有量と同様である。
【0071】
≪硬化物≫
本開示の硬化物は、本開示の歯科材料用組成物の硬化物である。
本開示の硬化物は、抗菌性に優れる。
また、本開示の硬化物の一実施形態は、接着強度にも優れる。
【0072】
≪歯科材料≫
本開示の歯科材料は、本開示の歯科材料用組成物の硬化物を含む。
本開示の歯科材料用組成物は、光造形による歯科材料の製造に用いられることが好ましい。
【0073】
≪抗菌用組成物≫
本開示の歯科材料用組成物は、抗菌用組成物として好適に用いることができる。
本開示の抗菌用組成物は、本開示の歯科材料用組成物を含む。
本開示の抗菌用組成物の一実施形態は、1つの重合性基と2つ以上のオキシアルキレン基とを含む重合性化合物(A)を含んでもよい。
【0074】
本開示の抗菌用組成物は、上記構成を含むことで、抗菌性に優れる硬化物を得ることができる。
本開示の抗菌用組成物は、歯科材料用途以外にも、抗菌の用途に幅広く用いることができる。
例えば、本開示の抗菌用組成物は、塗料、コーティング剤等として用いられてもよい。
【0075】
本開示の抗菌用組成物において、1つの重合性基と2つ以上のオキシアルキレン基とを含む重合性化合物(A)の具体的態様、好ましい態様等の詳細は、≪歯科材料用組成物≫の項に記載の1つの重合性基と2つ以上のオキシアルキレン基とを含む重合性化合物(A)の具体的態様、好ましい態様等の詳細と同様である。
【0076】
本開示の抗菌用組成物は、重合性化合物(A)以外の(メタ)アクリレート化合物(B)をさらに含むことが好ましい。
本開示の抗菌用組成物は、前記重合性化合物(A)における前記1つの重合性基が(メタ)アクリロイル基であり、前記重合性化合物(A)以外の(メタ)アクリレート化合物(B)をさらに含むことがより好ましい。
【0077】
本開示の抗菌用組成物において、(メタ)アクリレート化合物(B)の具体的態様、好ましい態様等の詳細は、≪歯科材料用組成物≫の項に記載の(メタ)アクリレート化合物(B)の具体的態様、好ましい態様等の詳細と同様である。
【0078】
重合性化合物(A)と(メタ)アクリレート化合物(B)との合計含有量は、抗菌性に優れる硬化物を得る観点から、抗菌用組成物の全質量に対して、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましい。
重合性化合物(A)と(メタ)アクリレート化合物(B)との合計含有量が、抗菌用組成物の全質量に対して、99質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。
【0079】
本開示の抗菌用組成物は、重合性化合物(A)以外の(メタ)アクリレート化合物(B)をさらに含むことが好ましい。
【0080】
本開示の抗菌用組成物の他の一実施形態は、1つの(メタ)アクリロイル基と、炭素数8~20のアルケニルオキシ基と、2つ以上のオキシプロピレン基とを含む重合性化合物(C)を含んでもよい。
【0081】
本開示の抗菌用組成物において、1つの(メタ)アクリロイル基と、炭素数8~20のアルケニルオキシ基と、2つ以上のオキシプロピレン基とを含む重合性化合物(C)の具体的態様、好ましい態様等の詳細は、≪歯科材料用組成物≫の項に記載の1つの(メタ)アクリロイル基と、炭素数8~20のアルケニルオキシ基と、2つ以上のオキシプロピレン基とを含む重合性化合物(C)の具体的態様、好ましい態様等の詳細と同様である。
【0082】
本開示の抗菌用組成物は、重合性化合物(C)以外の(メタ)アクリレート化合物(B’)をさらに含むことが好ましい。
本開示の抗菌用組成物において、(メタ)アクリレート化合物(B’)の具体的態様、好ましい態様等の詳細は、≪歯科材料用組成物≫の項に記載の(メタ)アクリレート化合物(B’)の具体的態様、好ましい態様等の詳細と同様である。
【0083】
重合性化合物(C)と(メタ)アクリレート化合物(B’)との合計含有量の好ましい範囲は、重合性化合物(A)と(メタ)アクリレート化合物(B)との合計含有量の好ましい範囲と同様である。
【0084】
本開示の抗菌用組成物は、上述の成分以外の成分を、目的に応じて適宜含んでもよい。本開示の抗菌用組成物に含んでもよい成分は公知の成分であれば特に限定されない。
本開示の抗菌用組成物に含んでもよい成分の具体的態様、好ましい態様等の詳細は、≪歯科材料用組成物≫の<他の成分>の項に記載の具体的態様、好ましい態様等の詳細と同様である。
【実施例
【0085】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0086】
本実施例に使用した化合物の略号を以下に示す。
PEGMEMA500:ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート
PEGMEMA500は、シグマ-アルドリッチ社のポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(カタログ番号447943)を使用した。
PEGMEMA500の構造を以下に示す。
【0087】
【化3】

【0088】
PEGMEMA950:ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート
PEGMEMA950は、シグマ-アルドリッチ社のポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(カタログ番号447951)を使用した。
PEGMEMA950の構造を以下に示す。
【0089】
【化4】

【0090】
PEGMEA480:ポリエチレングリコールメチルエーテルアクリレート
PEGMEA480は、シグマ-アルドリッチ社のポリエチレングリコールメチルエーテルアクリレート(カタログ番号454990)を使用した。
PEGMEA480の構造を以下に示す。
【0091】
【化5】

【0092】
PEGMEMA300:ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート
PEGMEMA300は、シグマ-アルドリッチ社のポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(カタログ番号447935)を使用した。
PEGMEMA300の構造を以下に示す。
【0093】
【化6】

【0094】
PEGDEMA:ポリエチレングリコールドデシルエーテルメタクリレート
PEGDEMAは、以下の合成例で合成した。
【0095】
<合成例>
以下、PEGDEMAの合成例を示す。
シグマ-アルドリッチ社のデカエチレングリコールモノドデシルエーテル(カタログ番号P9769)13.74gを窒素雰囲気下500mLナス型フラスコ中で200mLの塩化メチレンに溶解し、7.6mLのトリエチルアミン(シグマ-アルドリッチ社、カタログ番号T0886)を加えて氷浴上で撹拌した。10分間かけて2.9mLのメタクリルクロライド(東京化成工業株式会社 製品コードM0556)を滴下し、滴下後に室温に戻して40時間撹拌を継続した。ロータリーエバポレーターを用いて塩化メチレンを除去後、水を加えて酢酸エチルで抽出した。この抽出液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮して粗生成物を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶剤は酢酸エチルのち10%メタノール含有酢酸エチル)で精製して10.76g(収率71質量%)のPEGDEMAを得た。
PEGDEMAの構造を以下に示す。
【0096】
【化7】

【0097】
PEGMA500:ポリエチレングリコールメタクリレート
PEGMA500は、シグマ-アルドリッチ社のポリエチレングリコールメタクリレート(カタログ番号409529)を使用した。
PEGMA500の構造を以下に示す。
【0098】
【化8】

【0099】
ML-4G:ω-ウンデシエニルエチレンオキサイド4モル付加メタクリレート
ML-4Gは、新中村化学工業株式会社のNKエステル TE-ML4Gを使用した。
ML-4Gの構造を以下に示す。
【0100】
【化9】

【0101】
DMA:ドデシルメタクリレート
DMAは、東京化成工業株式会社のドデシルメタクリレート(製品コードM0083)を使用した。
DMAの構造を以下に示す。
【0102】
【化10】

【0103】
UA:10-ウンデセニルアクリレート
UAは、シグマ-アルドリッチ社の10-ウンデセニルアクリレート(カタログ番号760447-1G)を使用した。
UAの構造を以下に示す。
【0104】
【化11】

【0105】
9G:ノナエチレングリコールジメタクリレート
9Gは、東京化成工業株式会社のポリエチレングリコールジメタクリレート(製品コードP2709)を使用した。
9Gの構造を以下に示す。
【0106】
【化12】

【0107】
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
3Gは、新中村化学工業株式会社のNKエステル 3Gを使用した。
3Gの構造を以下に示す。
【0108】
【化13】

【0109】
UDMA:2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート
UDMAは、シグマ-アルドリッチ社のジウレタンジメタクリラート、異性体混合物(カタログ番号436909)を使用した。
UDMAの構造を以下に示す。
【0110】
【化14】

【0111】
Bis-GMA:ビスフェノールA グリシジルメタクリレート
Bis-GMAは、シグマ-アルドリッチ社のビスフェノール A グリセロラートジメタクリラート(カタログ番号494356)を使用した。
Bis-GMAの構造を以下に示す。
【0112】
【化15】

【0113】
PDM:10-(ホスホノオキシ)デシル-メタクリレート
PDMは、富士フィルム和光純薬株式会社の10-(ホスホノオキシ)デシル-メタクリレート(製品コード QH-4069)を使用した。
PDMの構造を以下に示す。
【0114】
【化16】

【0115】
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
HEMAは、シグマ-アルドリッチ社の2-ヒドロキシエチルメタクリレート(カタログ番号128635)を使用した。
HEMAの構造を以下に示す。
【0116】
【化17】

【0117】
CQ:(±)-カンファーキノン
CQは、富士フィルム和光純薬株式会社の(±)-カンファーキノン(製品コード 032-12871)を使用した。
【0118】
BEDB:4-(ジメチルアミノ)安息香酸2-ブトキシエチル
BEDBは、東京化成工業株式会社の4-(ジメチルアミノ)安息香酸2-ブトキシエチル(製品コードD1848)を使用した。
【0119】
EDB:p-ジメチルアミノ安息香酸エチル
EDBは、富士フィルム和光純薬株式会社のp-ジメチルアミノ安息香酸エチル(製品コード 050-06002)を使用した。
【0120】
PPGDEA:ポリプロピレングリコール12モル付加ドデシルエーテルアクリレート
PPGDEAは、新中村化学工業株式会社に委託して合成した。
PPGDEAの構造を以下に示す。
【0121】
【化18】
【0122】
PPGUEA:ω-ウンデシエニルプロピレンオキサイド12モル付加アクリレート
PPGUEAは、新中村化学工業株式会社に委託して合成した。
PPGUEAの構造を以下に示す。
【0123】
【化19】

【0124】
<実施例1~実施例9、及び比較例1~比較例6>
表1に示す質量比で各成分を混合した後、50℃で均一になるまで撹拌して、実施例1~実施例9、比較例1~比較例6の組成物を調製した。
【0125】
<抗菌性評価(板状硬化)>
ガラスの上に厚さ25μmのPETフィルムを敷き、その上に厚さ1mmのシリコーン製の型を乗せた。型の中に上述の方法で調製した組成物を載置し、上記組成物に対してもう1枚のPETフィルムを乗せた後、ガラスを上方から被せた。
その後2枚のガラスを圧接し、アルファライトV LCR11(株式会社モリタ製)を用いて、表と裏のそれぞれに3分ずつ光照射を行い、完全に硬化させて板状硬化物を得た。
得られた板状硬化物の試験片(縦3.5cm、横3.5cm及び厚さ1mm)を、エタノール中で10分間超音波洗浄し、その後エタノールを超純水に変えて再度10分間超音波洗浄を行って残存する重合性化合物を除去した。
続いて、上記板状硬化物をJIS Z 2801:2012に記載の方法に準拠し、ミュータンス菌(Streptococcus mutans NBRC13955 (独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンターより分譲))に対する抗菌性試験を実施し、抗菌活性値を算出した。
抗菌活性値は抗菌性の指標であり、2.0以上であることが好ましい。
【0126】
以下に、抗菌性評価法を説明する。
まず、試験片3枚を70質量%エタノール水溶液で消毒し、十分に乾燥させた。次に、ブレインハートインフュージョン培地(日本ベクトンディッキンソン 型番237500)で一晩培養したミュータンス菌を同培地で菌数が2.5×10個/mL~10×10個/mLになるよう希釈し、試験片1枚につき225μLを載置した後、滅菌したPETフィルム(縦3cm、横3cm及び厚さ25μm)を乗せて密着させた。
この試験片を嫌気・微好気培養ジャーシステムAnoxomat MarkII(株式会社セントラル科学貿易)を用いて微好気条件(つまり酸素濃度6体積%)とし、37℃にて24時間培養を行った。その後、培養液をりん酸緩衝生理食塩水を用いて回収及び希釈し、ブレインハートインフュージョン寒天培地に播種して微好気条件下、48時間37℃で培養し、生菌数を測定した。抗菌活性値Rの算出式は以下のとおりである。
なお、本試験では比較例5を無加工試験片として扱った。
抗菌活性値Rは、大きいほど抗菌活性が高く、2.0以上で抗菌活性があると判断される。
結果を表1に示す。
【0127】
R=(Ut-U0)-(At-U0)=Ut-At
R:抗菌活性値
U0:無加工試験片の接種直後の生菌数の対数値の平均値
Ut:無加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値
At:抗菌加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値
【0128】
【表1】


【0129】
表1に示す通り、1つの重合性基と2つ以上のオキシアルキレン基とを含む重合性化合物(A)を含む歯科材料用組成物を用いた実施例は、得られた硬化物の抗菌活性値Rが高く、抗菌性に優れる硬化物を得ることができた。
一方、本開示における重合性化合物(A)を含まない比較例1~比較例6は、得られた硬化物の抗菌活性値Rが低く、抗菌性に優れる硬化物を得ることができなかった。
【0130】
<実施例10、実施例11、比較例7、及び比較例8>
表2に示す質量比で各成分を混合した後、50℃で均一になるまで撹拌して、実施例10~実施例11、及び比較例8の組成物を調製した。
【0131】
<抗菌性評価(アクリル板へのコート状硬化物)>
上述の方法で得らえた組成物を、アクリル板(縦3.5cm、横3.5cm及び厚さ2mm)に400μL載置した後、表面をエアブローすることで全面に塗り広げ、さらに余分な組成物を落とした後、組成物の流動性が無くなるまで乾燥した。
その上に厚さ25μmのPETフィルムを乗せ、アルファライトV LCR11を用いて、塗布面に3分間光照射を行い、完全に硬化させてコート状硬化物を得た。
続いて、当該硬化物をJIS Z 2801:2012に記載の方法に準拠し、上述と同様に、ミュータンス菌(Streptococcus mutans NBRC13955 (独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンターより分譲))に対する抗菌性試験を実施し、上述の方法により抗菌活性値Rを算出した。
なお、本試験では比較例7を無加工試験片として扱った。
結果を以下の表2に示す。
【0132】
【表2】

【0133】
表2に示す通り、1つの重合性基と2つ以上のオキシアルキレン基とを含む重合性化合物(A)を含む抗菌用組成物を用いた実施例は、得られた硬化物の抗菌活性値Rが高く、抗菌性に優れる硬化物を得ることができた。
一方、無加工試験片である比較例7、及び本開示における重合性化合物(A)を含まない比較例8は、得られた硬化物の抗菌活性値Rが低く、抗菌性に優れる硬化物を得ることができなかった。
【0134】
<実験例101、及び比較実験例101~比較実験例103>
(抗菌性評価(重合性化合物))
以下の重合性化合物について、抗菌性評価を行った。
PEGDEMA(実験例101)
ML-4G:(比較実験例101)
DMA(比較実験例102)
UA(比較実験例103)
【0135】
重合性化合物の抗菌性評価であるMIC(最小発育阻止濃度)値の測定は、微量液体希釈法にて、以下の手順で行った。
まず、重合性化合物をエタノールで50容量%となるよう希釈し、0.22μmの滅菌フィルター(メルク社 マイレクスーGP SLGP033RS)でろ過滅菌を行った。測定は1検体当たり2系列行い、重合性化合物の濃度段階は5.0容量%から2倍段階希釈していき0.0024容量%までとした。
【0136】
具体的には、まずブレインハートインフュージョン培地を96ウェル準備した。平底のマイクロプレートのうち、重合性化合物のエタノール溶液を加える最初のウェルには同培地を180μL分注し、それ以外のウェルには同培地を100μLずつ分注した。次に最初のウェルにエタノール希釈した重合性化合物(50容量%)を20μL入れ5.0容量%(合計200μL)とした。次に、最初のウェルに含まれる200μLのうち100μLを隣のウェル(上述の通り、既に100μLの培地を分注済みのウェル)に加えることで2倍段階希釈を行った。
さらに、この2倍段階希釈された200μLのうちの100μLを隣のウェルに加えて2倍段階希釈を行った。
上記のような隣のウェルに対する2倍段階希釈を、重合性化合物の濃度が0.0024容量%となるまで連続的に行った。
ミュータンス菌はブレインハートインフュージョン培地(日本ベクトンディッキンソン 型番237500)で一晩培養し、同培地で最終的な接種濃度が5×10cfu/mL(5×10cfu/100μL)となるよう希釈した。コントロールとしてブレインハートインフュージョン培地と菌液のみのウェル及び、同培地だけのウェルを作製した。
マイクロプレートを微好気条件下、37℃で24時間培養後、肉眼で観察して完全に発育が阻止された容量%をMIC値(容量%)とし、重合性化合物の比重からMIC値(mg/mL)の値に換算した。その結果を以下の表3に示す。
MIC値(mg/mL)は、各検体の2系列のMIC値(mg/mL)の平均値を示す。
MIC値(mg/mL)は、小さいほど抗菌活性が高く、1mg/mL以下であると抗菌活性が良好である。
【0137】
【表3】

【0138】
表3に示す通り、本開示における重合性化合物(A)を用いた実験例101は、MIC値が小さく、抗菌性に優れていた。
一方、本開示における重合性化合物(A)に該当しない化合物を用いた比較実験例101~比較実験例103は、MIC値が大きく、抗菌性に劣っていた。
【0139】
<実施例201、比較例201>
表4に示す質量比で各成分を混合した後、50℃で均一になるまで撹拌して、実施例201、及び比較例201の組成物を調製した。
【0140】
<接着強度>
接着強度の評価法は以下の通りである。
牛歯被着体は、抜去した後、冷蔵保存した牛下顎前歯を注水下解凍し、歯根切断、抜髄処理した。これを直径25mm、深さ25mmのプラスチック製円筒容器に設置し、アクリル樹脂中に包埋した。牛歯被着体は、使用直前に耐水エメリー紙(P400)にて研磨し、エナメル質及び象牙質の平滑面を削り出して使用した。
被着面に圧縮空気を約1秒間吹き付けて乾燥した後、エナメル質または象牙質の平面に実施例201又は比較例201の組成物を塗布し、20秒後にそれぞれの組成物に含まれる揮発性の溶剤を歯科用エアーシリンジにて乾燥させた。
その後、それぞれの組成物にLED可視光線照射器(トランスルクス 2ウェーブ)を用いて10秒間光照射して組成物を硬化させた後、直径2.38mmのプラスチック製モールド(ウルトラデントジャパン株式会社製)を設置し、光重合性材料(クリアフィル エーピーエックス、クラレノリタケデンタル株式会社製)を充填して同じLED可視光線照射器を用いて20秒間光照射して硬化させた。
その後、水中浸漬して37℃の恒温機中で18時間保管後に接着強度を測定した。
接着強度は、牛歯象牙質面に平行、かつ表面に接して1.0mm/分のクロスヘッド速度で剪断負荷を掛け、牛歯表面に柱状に形成させた光重合性材料(クリアフィル エーピーエックス、クラレノリタケデンタル株式会社製)の硬化物が表面から分離する際の剪断負荷から求めた。
【0141】
【表4】

【0142】
表4に示す通り、1つの重合性基と2つ以上のオキシアルキレン基とを含む重合性化合物(A)を含む組成物を用いた実施例201は、接着性モノマーの浸透を良くするために用いられ得るHEMAを用いた比較例201と比べ、得られた硬化物の接着強度が同等であった。すなわち、実施例201は、接着性モノマーとして機能することが確認された。
このことから、接着モノマーとして使用される皮膚腐食性/刺激性のGHS分類が区分2であるHEMAの代替として、本重合性化合物(A)を利用できる可能性があるといえる。
【0143】
<実施例301、比較例301>
表5に示す質量比で各成分を混合した後、50℃で均一になるまで撹拌して、実施例301及び比較例301の組成物を調製した。
【0144】
<抗菌性評価>
各実施例及び比較例について、抗菌性を評価した。
評価方法は、上述の<抗菌性評価(板状硬化)>の項に記載の方法と同様の方法により行った。
【0145】
【表5】
【0146】
表5に記載の通り、1つの(メタ)アクリロイル基と、炭素数8~20のアルケニルオキシ基と、2つ以上のオキシプロピレン基とを含む重合性化合物(C)を含む歯科材料用組成物を用いた実施例は、得られた硬化物の抗菌活性値Rが高く、抗菌性に優れる硬化物を得ることができた。
一方、本開示における重合性化合物(C)を含まない比較例301は、得られた硬化物の抗菌活性値Rが低く、抗菌性に優れる硬化物を得ることができなかった。
【0147】
2021年3月31日に出願された日本国特許出願2021-060514号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。