(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】表面処理粉体
(51)【国際特許分類】
C09C 3/12 20060101AFI20241225BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20241225BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
C09C3/12
A61K8/19
A61Q1/00
(21)【出願番号】P 2023521013
(86)(22)【出願日】2022-05-09
(86)【国際出願番号】 JP2022019688
(87)【国際公開番号】W WO2022239737
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2021082470
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇夫
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆之
(72)【発明者】
【氏名】廣田 直子
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/022621(WO,A1)
【文献】特開2019-006715(JP,A)
【文献】特開2007-277415(JP,A)
【文献】特開2009-161496(JP,A)
【文献】特開2013-014767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 3/
A61K 8/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材粉体が、
(A)カルボキシル基を有する変性シリコーンと、
(B)2価以上のカチオンを放出可能な物質と、
(C)カルボキシル基またはスルホン酸基を有する、前記(A)とは異なる高分子と
によって表面処理されて
おり、
前記(B)2価以上のカチオンを放出可能な物質は、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム、および、亜鉛からなる群から選択される1種以上の酸化物、水酸化物、または、塩であり、
前記(C)カルボキシル基またはスルホン酸基を有する、前記(A)とは異なる高分子は、カルボマー、(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー、キサンタンガム、(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー、および/または、(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリン/ジメチルアクリルアミド)クロスポリマーである、表面処理粉体。
【請求項2】
前記(A)カルボキシル基を有する変性シリコーンは、ビスカルボキシデシルジメチコン、および/または、カルボキシデシルジメチコンである、請求項1に記載の表面処理粉体。
【請求項3】
前記基材粉体は、タルク、酸化チタン、シリカ、マイカ、酸化鉄、および、酸化亜鉛からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の表面処理粉体。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の表面処理粉体を10質量部以上含む、化粧料。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の表面処理粉体を含む化粧料を肌に塗布して化粧膜を形成し、前記化粧膜に水分を付着させることを含む、化粧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には基材粉体が表面処理された表面処理粉体に関し、特定的には、化粧料に用いられる表面処理粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧崩れを防ぐために、化粧料を塗布して得られる化粧膜の耐水性や耐皮脂性を高めることを目的とした化粧料が提案されている。
【0003】
また最近、衛生意識が高まり、マスクを着用する機会が増えており、化粧のマスク移りを低減することが望まれている。
【0004】
例えば、国際公開第WO2020/036064号公報(特許文献1)には、高いSPF値を有し、水中油型乳化化粧料特有の感触や使用感を極力損なうことなく、かつ、皮膜(化粧膜)の耐水性等に優れた水中油型乳化化粧料を提供することを目的として、(A)50℃で液状のカルボン酸変性シリコーン、(B)ビニル系重合体エマルション、(C)塩基性化合物、及び、(D)疎水性微粒子金属酸化物からなる無機紫外線防御剤を含む、水中油型乳化化粧料が記載されている。
【0005】
また、国際公開第WO2009/022621号公報(特許文献2)には、化粧料に配合して用いる表面処理粉体の耐水性、耐皮脂性及び使用感触の改善を目的として、カルボキシル基を含む特定構造のオルガノシロキサン誘導体を表面処理剤として用い、粉体表面を該オルガノポリシロキサン誘導体で処理することによって得られる表面処理粉体とそれを含む化粧料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第WO2020/036064号公報
【文献】国際公開第WO2009/022621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2に記載された化粧料では、耐水性や耐皮脂性を高めるために化粧料に配合された化粧皮膜形成剤どうしが結合することによって硬い皮膜が形成されるため、乾燥後にパリパリした不快な感触となることがある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、柔らかな感触の化粧皮膜を形成することが可能であって、かつ、従来と同等以上に化粧のマスク移りを防ぐことが可能な化粧料に配合するための表面処理粉体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、化粧皮膜形成剤どうしではなく、カチオンを介して粉体どうしの相互作用によって化粧皮膜を形成させることで、柔らかな感触の化粧皮膜を形成することができることを見出した。このような知見に基づいて、本発明は次のように構成される。
【0010】
本発明に従った表面処理粉体は、基材粉体が、(A)カルボキシル基を有する変性シリコーンと、(B)2価以上のカチオンを放出可能な物質と、(C)カルボキシル基またはスルホン酸基を有する高分子によって表面処理されている表面処理粉体である。
【0011】
このようにすることにより、柔らかな感触の化粧皮膜を形成することが可能であって、かつ、従来と同等以上に化粧のマスク移りを防ぐことが可能な化粧料に配合するための表面処理粉体を提供することができる。
【0012】
本発明に従った表面処理粉体においては、基材粉体が、タルク、酸化チタン、シリカ、マイカ、酸化鉄、および、酸化亜鉛からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0013】
本発明に従った表面処理粉体においては、(B)2価以上のカチオンを放出可能な物質は、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム、および、亜鉛からなる群から選択される1種以上の酸化物、水酸化物、または、塩であることが好ましい。
【0014】
本発明に従った化粧料は、上記のいずれかの表面処理粉体を10質量部以上含む。
【0015】
本発明に従った化粧方法は、上記のいずれかの表面処理粉体を含む化粧料を肌に塗布して化粧膜を形成した後、化粧膜に水分を付着させることを含む。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の表面処理粉体、化粧料、および、化粧方法について具体例を交えながら詳細に説明する。なお、本発明は以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【0017】
本発明に従った表面処理粉体は、基材粉体が、(A)カルボキシル基を有する変性シリコーンと、(B)2価以上のカチオンを放出可能な物質と、(C)カルボキシル基またはスルホン酸基を有する高分子によって表面処理されている表面処理粉体である。
【0018】
<基材粉体>
基材粉体として使用される無機材料は特に制限されず、例えば、タルク、酸化チタン、シリカ、マイカ、酸化鉄、および、酸化亜鉛からなる群から選択される一種以上を使用することができる。この中でも、特にタルクまたは酸化チタンが好ましい。例えばタルクと顔料級酸化チタンを混合して基材粉体として用いることもできる。
【0019】
基材粉体の粒子の形状は、通常化粧料に用いられるものであれば、球状、略球状、半球状、紡錘状、針状、板状、多面体状、星型状などいずれの形状でもよく、球状、略球状、半球状などの丸みのある形状が好ましい。また、基材粉体の粒子は、無孔質、多孔質のいずれでもよい。
【0020】
基材粉体は、例えば表面処理粉体中に70質量部以上90質量部以下含まれることができるが、限定ではない。
【0021】
<(A)カルボキシル基を有する変性シリコーン>
カルボキシル基を有する変性シリコーンの種類は特に限定されず、化粧料に通常用いられるものであればよく、例えば、ビスカルボキシデシルジメチコン、および/または、カルボキシデシルジメチコンを用いることができる。
【0022】
カルボキシル基を有する変性シリコーンは、限定ではなく、例えば表面処理粉体100質量部中に1質量部以上5質量部以下含まれることができ、好ましくは、1.0質量部以上3.0質量部以下含まれる。
【0023】
<(B)2価以上のカチオンを放出可能な物質>
2価以上のカチオンを放出可能な物質としては、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム、および、亜鉛からなる群から選択される1種以上の酸化物、水酸化物、または、塩が用いられることが好ましい。具体的には、例えば、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化アルミニウムを用いることが好ましい。
【0024】
2価以上のカチオンを放出可能な物質は、限定ではなく、例えば表面処理粉体100質量部中に0.5質量部以上3質量部以下含まれることができ、好ましくは、0.8質量部以上2.6質量部以下含まれる。
【0025】
<(C)カルボキシル基またはスルホン酸基を有する高分子>
カルボキシル基を有する高分子としては、化粧料に通常用いられるものであればよく、例えば、カルボマー、(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー、キサンタンガムが用いられる。スルホン酸基を有する高分子としては、例えば(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー、(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリン/ジメチルアクリルアミド)クロスポリマーが用いられる。
【0026】
カルボキシル基またはスルホン酸基を有する高分子は、限定ではなく、例えば表面処理粉体100質量部中に5質量部以上20質量部以下含まれることができ、好ましくは、5質量部以上11質量部以下含まれる。
【0027】
<表面処理方法>
本発明の表面処理粉体を得るための表面処理方法は、基材粉体や表面処理剤の物性を考慮して適宜選択すればよい。例えば、基材粉体を分散媒に分散させ、表面処理剤を添加して撹拌したのち、ろ過、乾燥する方法でもよいし、乾燥状態の粉体に表面処理剤を添加して混合する方法でもよく、これらに限定されない。
【0028】
<化粧料>
表面処理粉体が化粧料に配合される場合、通常の化粧料に配合されるその他の成分が含まれてもよい。例えば、保湿剤、(C)カルボキシル基またはスルホン酸基を有する高分子以外の増粘剤としてメチルセルロースやグアーガム等の水性増粘剤、ゲル化剤、防腐剤、抗菌剤、着色料、香料、塩類、酸化防止剤、pH調整剤、キレート剤、清涼剤、抗炎症剤、ビタミン類、アミノ酸類等が含まれてもよく、添加される成分は特に限定されない。
【0029】
表面処理粉体が化粧料に配合される場合、表面処理粉体は化粧料100質量部中の10質量部以上含まれることが好ましく、20質量部以上含まれることが特に好ましい。
【0030】
<化粧方法>
本発明の化粧料を用いて化粧をする場合、表面処理粉体を含む化粧料を肌に塗布して化粧膜を形成した後、化粧膜に水分を付着させる。例えば化粧料としてパウダーファンデーションに本発明の表面処理粉体が配合される場合、通常のパウダーファンデーションの塗布方法が行われ、肌に化粧膜が形成される。化粧膜に水分を付着させる方法は限定されないが、好ましくは、常温の水をスプレーして、化粧膜全体に均一に水分を付着させる。水分を付着させることによって、カチオンを介して粉体が皮膜を形成し、マスク移りを低減することができる。好ましくは水分を付着させた後、マスクを着用する前に室温で5分間、乾燥させる。
【0031】
このようにすることにより、柔らかな感触の化粧皮膜を形成し、かつ、従来と同等以上に化粧のマスク移りを防ぐことができる。
【実施例】
【0032】
本発明に係る複合表面処理無機粉体の具体的な製造例及び試験結果を示して、より詳細に説明する。
【0033】
<実施例1>
タルク(兵庫クレー製、THC-7P)84.86質量部、炭酸カルシウム1.7質量部、および、カルボマー(Lubrizol製、カーボポール934ポリマー)10.61質量部を混合機で混合し、撹拌した。得られた混合物にビスカルボキシデシルジメチコン(Momentive Performance Materials製、SILSOFT INX)2.83質量部を加えて混合し、実施例1の表面処理粉体を得た。
【0034】
<実施例2>
実施例1のビスカルボキシデシルジメチコンをカルボキシデシルジメチコン(ダウ・東レ製、DOWSIL ES-5800)に変更した他は実施例1と同様にして実施例2の表面処理粉体を得た。
【0035】
<実施例3>
実施例1のビスカルボキシデシルジメチコン2.83質量部を、ビスカルボキシデシルジメチコン(SILSOFT INX)1質量部とカルボキシデシルジメチコン(DOWSIL ES-5800)1.83質量部の混合物に変更した他は実施例1と同様にして実施例3の表面処理粉体を得た。
【0036】
<実施例4>
実施例1のタルク84.86質量部を77.30質量部に、ビスカルボキシデシルジメチコン2.83質量部を4.25質量部に、炭酸カルシウム1.7質量部を2.55質量部に、カルボマー10.61質量部を15.9質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例4の表面処理粉体を得た。
【0037】
<実施例5>
実施例1のタルク84.86質量部を88.65質量部に、ビスカルボキシデシルジメチコン2.83質量部を2.125質量部に、炭酸カルシウム1.7質量部を1.275質量部に、カルボマー10.61質量部を7.95質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例5の表面処理粉体を得た。
【0038】
<実施例6>
実施例1のタルク84.86質量部を92.425質量部に、ビスカルボキシデシルジメチコン2.83質量部を1.415質量部に、炭酸カルシウム1.7質量部を0.85質量部に、カルボマー10.61質量部を5.31質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例6の表面処理粉体を得た。
【0039】
<実施例7>
実施例1の炭酸カルシウム1.7質量部を酸化アルミニウム1.7質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例7の表面処理粉体を得た。
【0040】
<実施例8>
実施例1のタルク84.86質量部を84.68質量部に、炭酸カルシウム1.7質量部を塩化カルシウム1.88質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例8の表面処理粉体を得た。
【0041】
<実施例9>
実施例1のタルク84.86質量部を84.25質量部に、炭酸カルシウム1.7質量部を水酸化カルシウム2.31質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例9の表面処理粉体を得た。
【0042】
<実施例10>
実施例1のカルボマー10.61質量部を(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー(SEPPIC製、SEPINOV EMT-10)10.61質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例10の表面処理粉体を得た。
【0043】
<実施例11>
実施例1のカルボマー10.61質量部を(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-C30))クロスポリマー(Lubrizol製、PEMULEN TR-1)10.61質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例11の表面処理粉体を得た。
【0044】
<実施例12>
実施例1のタルク84.86質量部を顔料級酸化チタン(テイカ製、MP-25)84.86質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例12の表面処理粉体を得た。
【0045】
<実施例13>
実施例1のタルク84.86質量部を、タルクと顔料級酸化チタン(テイカ製、MP-25)の質量比6:4で合計84.86質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例13の表面処理粉体を得た。
【0046】
<実施例14>
実施例1のタルク84.86質量部を、赤酸化鉄84.86質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例14の表面処理粉体を得た。
【0047】
<実施例15>
実施例1のタルク84.86質量部を、黄酸化鉄84.86質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例15の表面処理粉体を得た。
【0048】
<実施例16>
実施例1のタルク84.86質量部を、黒酸化鉄84.86質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例16の表面処理粉体を得た。
【0049】
<実施例17>
実施例1のタルク84.86質量部を、シリカ84.86質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例17の表面処理粉体を得た。
【0050】
<実施例18>
実施例1のタルク84.86質量部を、酸化亜鉛84.86質量部に変更した他は実施例1と同様にして実施例18の表面処理粉体を得た。
【0051】
<比較例1>
実施例1で用いたタルク100質量部を比較例1の粉体とした。
【0052】
<比較例2>
実施例1のビスカルボキシデシルジメチコン2.83質量部をジメチコン2.83質量部に変更した他は実施例1と同様にして比較例2の表面処理粉体を得た。
【0053】
<比較例3>
ビーカーに水2Lを入れ、撹拌しながらタルク200gを投入してスラリー化したのち、水酸化ナトリウムを投入してpH10に調整した。そこに、ビスカルボキシデシルジメチコン2.4g、カルボキシデシルジメチコン4.2g、塩化カルシウム4.5gを投入し、30分間熟成した。得られた分散液をろ過、乾燥、粉砕して、比較例3の表面処理粉体を得た。
【0054】
<比較例4>
実施例1のタルク84.86質量部を84.83質量部に、炭酸カルシウム1.73質量部を塩化ナトリウム1.73質量部に変更した他は実施例1と同様にして比較例4の表面処理粉体を得た。
【0055】
<比較例5>
タルク97.17質量部にビスカルボキシデシルジメチコン(SILSOFT INX)2.83質量部を加えて混合機で混合し、比較例5の表面処理粉体を得た。
【0056】
各実施例と比較例で得られた粉体のマスク移りとマスク擦れを次のように評価した。なお、基材粉体がタルクのみである実施例1~11および比較例1~5の表面処理粉体については、そのままでは色移りの評価が困難であったため、着色剤として顔料級酸化チタンを、表面処理粉体:顔料級酸化チタンが質量比で6:4になるように混合したのち、評価した。
【0057】
<表面処理粉体のマスク移り評価>
人工皮革上の6cm×3.5cmの範囲に粉体2mg/cm2を塗布した。スプレーで水を15cm程度離した状態で2秒程度噴霧し、60℃で10分乾燥させた。このときの水の噴霧量は1gであった。得られた塗布膜上に、黒色のポリエステル布、さらにその上にガラス板を置き、さらにその上から1kgの分銅を置いて10秒間放置した。色差計により、塗布膜と接触させた黒色ポリエステル布の明度(L1)と、塗布膜に接触させる前の黒色ポリエステル布の明度(L2)を測定し、L1/L2の値を算出した。L1/L2が1に近いほど、色移りが抑制できていると言える。結果を表1に示す。
【0058】
<表面処理粉体のマスク擦れ評価>
人工皮革上の6cm×3.5cmの範囲に粉体2mg/cm2を塗布した。スプレーで水を15cm程度離した状態で2秒程度噴霧し、60℃で10分乾燥させた。このときの水の噴霧量は1gであった。パフに黒色のポリエステル布を固定し、塗布膜上に載せた。その上から1kgの分銅を置き、パフを1秒間程度でスライドさせた。色差計により、塗布膜と接触させた黒色ポリエステル布の明度(L3)と、塗布膜に接触させる前の黒色ポリエステル布の明度(L2)を測定し、L3/L2の値を算出した。L3/L2が1に近いほど、色移りが抑制できていると言える。結果を表1に示す。
【0059】
【0060】
表1に示されているように、実施例1~18の表面処理粉体では、マスク移りもマスク擦れも比較例1~5よりも抑えられていた。特に、マスク擦れは、実施例1~18のいずれもL3/L2の値が3.0未満に抑えられていたが、比較例1~5ではいずれもL3/L2の値が3.0以上であった。
【0061】
<化粧料>
下記表2に掲げた組成を有する粉体化粧料を常法により調製した。表2中、各成分の配合量は質量部で表されている。得られた化粧料のマスク移り及びマスク擦れについて、以下の評価基準で判定した。処方とともに結果を表2に示す。
【0062】
表中の原料の詳細は以下の通りであった。
タルク:兵庫クレー製 THC-7P
顔料級酸化チタン:テイカ製 MP-25
赤酸化鉄:チタン工業製 R-516HP
黄酸化鉄:チタン工業製 LL-100HP
黒酸化鉄:チタン工業製 BL-100HP
マイカ:ジャパンセリサイト製 JS-A
シリカ:テイカ製 TMS-10
ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン:信越化学工業製 KF-56A
ワセリン:クローダジャパン製 クロラータムV
リンゴ酸ジイソステアリル:日清オイリオグループ製 コスモール222
ミネラルオイル:モレスコ製 モレスコホワイトP-70
トリエチルヘキサノイン:日清オイリオグループ製 T.I.O
【0063】
<化粧料のマスク移り評価>
各例の化粧料を肌に2.0mg/cm2塗布した。スプレーで水を15cm程度離した状態で2秒(1g)程度噴霧し、室温にて5分間乾燥後、塗布部分にポリエステルの黒色布を3秒間押しつけ、付着量を目視で確認し、化粧料のマスク移りを次の基準で評価した。
(評価基準)
◎:ポリエステル黒色布に殆ど付着しない。
○:ポリエステル黒色布に少し付着する。
△:ポリエステル黒色布に多く付着する。
【0064】
<化粧料のマスク擦れ評価>
各例の化粧料を肌に2.0mg/cm2塗布した。スプレーで水を15cm程度離した状態で2秒(1g)程度噴霧し、室温にて5分間乾燥後、塗布部分をポリエステルの黒色布で3回擦り、付着量を目視で確認し、化粧料のマスク擦れを次の基準で評価した。
(評価基準)
◎:ポリエステル黒色布に殆ど付着しない。
○:ポリエステル黒色布に少し付着する。
△:ポリエステル黒色布に多く付着する。
【0065】
【0066】
表2に示されているように、本発明の表面処理粉体を10質量部以上含む、実施例19~22の化粧料では、マスク移りもマスク擦れも比較例6よりも抑えられていた。特に、本発明の表面処理粉体を20質量部以上含む実施例20~22では、マスク移りを防ぐ効果がさらに優れる結果であった。
【0067】
<フィックスミスト使用時の感触との比較>
実施例21及び比較例6の化粧料を肌に2.0mg/cm2塗布後、実施例21には水を、比較例6には市販のフィックスミストを噴霧し、室温にて5分間乾燥させた。化粧料塗布時の使用感及び乾燥後の化粧皮膜の感触(塗布時の伸び広がり、塗りムラ、密着性、乾燥後の柔軟性の高さ)をパネラー10名に比較してもらい、以下の評価基準で判定した。パネラー10名の評価の平均値を表3に示す。
(評価基準)
5点:比較例6と比べ非常に優れている
4点:比較例6と比べ優れている
3点:比較例6と同等
2点:比較例6と比べ劣る
1点:比較例6と比べ非常に劣る
【0068】
【0069】
表3に示されているように、実施例21の化粧料は、比較例6の化粧料と同等以上の使用感を有すると共に、市販のフィックスミストを使用した際には得られない、柔軟性の高い化粧皮膜を形成できることが分かった。
【0070】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。