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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/2346 20110101AFI20241225BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20241225BHJP
   B60R 21/233 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
B60R21/2346
B60R21/207
B60R21/233
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023533500
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2022024233
(87)【国際公開番号】W WO2023282020
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2021114627
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(72)【発明者】
【氏名】石垣 良太
(72)【発明者】
【氏名】三浦 佑香
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-066426(JP,A)
【文献】特開2006-008016(JP,A)
【文献】特開2013-252773(JP,A)
【文献】特開2013-233863(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0094499(US,A1)
【文献】特開2019-018791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートに収容されるエアバッグ装置であって、
膨張ガスを発生するインフレータと;
前記車両用シートの側部から展開することで乗員を保護するエアバッグと:を備え、
前記エアバッグは、乗員の少なくとも頭側部で展開する頭部保護クッションと、乗員の肩部から腰部の側部で展開するサイドクッションとを含み、
前記インフレータは、ガス排出部を備え、前記サイドクッションの内部に少なくとも前記ガス排出部が収容されるように設けられ、
前記インフレータの前記ガス排出部の周囲を覆うように前記エアバッグ内部にディフューザが設けられ、
前記ディフューザは、前記頭部保護クッションに連通する第1の開口部と、前記サイドクッションに連通する第2の開口部とを備え、
前記第1の開口部と前記第2の開口部について、それぞれ最大に開いた状態での最大の投影面積が、前記第1の開口部の方が前記第2の開口部よりも大きく設定されており、
前記ディフューザは、乗員側に面するディフューザ内面と、その反対側のディフューザ外面とを有し、
前記第2の開口部は、前記ディフューザ内面と外面の少なくとも一方に形成されることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記ディフューザは、上部開口と下部開口とを有する筒状に成形され、
前記第1の開口部が前記上部開口に相当し、前記インフレータは前記下部開口から前記ディフューザ内部に挿入されることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記ディフューザは、前記サイドクッションから前記頭部保護クッションまで延びることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記サイドクッションは、前記ディフューザ内面に対向するサイドクッション内側パネルと、前記ディフューザ外面に対向するサイドクッション外側パネルとを有し、
前記ディフューザの前記第2の開口部は、前記サイドクッション内側パネル及び前記サイドクッション外側パネルの少なくとも一方に面することを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記サイドクッションに先行して、前記頭部保護クッションが展開することを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記サイドクッションは、車両用シートに対して車両中央側に設けられ、
前記第1の開口部と前記第2の開口部との面積比率は、3:1~4:1であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記ディフューザの下流側の端部と前記頭部保護クッションの内面とが縫製によって連結されることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
車両用シートに収容されるエアバッグ装置であって、
膨張ガスを発生するインフレータと;
前記車両用シートの側部から展開することで乗員を保護するエアバッグと:を備え、
前記エアバッグは、乗員の少なくとも頭側部で展開する頭部保護クッションと、乗員の肩部から腰部の側部で展開するサイドクッションとを含み、
前記インフレータは、ガス排出部を備え、前記サイドクッションの内部に少なくとも前記ガス排出部が収容されるように設けられ、
前記インフレータの前記ガス排出部の周囲を覆うように前記エアバッグ内部にディフューザが設けられ、
前記ディフューザは、前記頭部保護クッションに連通する第1の開口部と、前記サイドクッションに連通する第2の開口部とを備え、
前記第1の開口部と前記第2の開口部について、それぞれ最大に開いた状態での最大の投影面積が、前記第1の開口部の方が前記第2の開口部よりも大きく設定されており、
前記頭部保護クッションが、乗員の側部を保護する第1チャンバと;前記第1チャンバに繋がり、乗員の頭部前方を保護する第2チャンバと;前記第2チャンバに繋がり、乗員の頭部前方から他方の側部に渡って展開する第3チャンバと;前記第3チャンバと繋がり、乗員の他方の側部で展開する第4チャンバと;を備えたことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項9】
前記ディフューザは、上部開口と下部開口とを有する筒状に成形され、
前記第1の開口部が前記上部開口に相当し、前記インフレータは前記下部開口から前記ディフューザ内部に挿入されることを特徴とする請求項8に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記第1チャンバは、上方に向かって最初に展開する上部方向部と、当該上部方向部に繋がり、前方に向かって展開する前方方向部とを含むことを特徴とする請求項8又は9に記載のエアバッグ装置。
【請求項11】
前記サイドクッションは、前記第1チャンバの前記上部方向部の下端付近に繋がり、乗員の体側部を保護することを特徴とする請求項10に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両に搭載されるエアバッグ装置に関し、特に、エアバッグの展開挙動を適切に制御可能なエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の事故発生時に乗員を保護するために1つまたは複数のエアバッグ装置を車両に設けることは周知である。エアバッグ装置としては、例えば、ステアリングホイールの中心付近から展開して運転者を保護する、いわゆるドライバエアバッグ装置や、窓の内側で下方向に展開して車両横方向の衝撃や横転、転覆事故時に乗員を保護するカーテンエアバッグ装置や、車両横方向の衝撃時に乗員を保護すべく乗員の側部(シートの側部)で展開するサイドエアバッグ装置などの様々な形態がある。
【0003】
サイドエアバッグ装置は、シートから前方に向かって展開するエアバッグによって乗員の横方向への移動を拘束するものであるが、例えば、特許文献1に開示された発明のように、乗員の胴体のみならず、頭部を保護可能に構成されたものが提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のエアバッグ装置等の従来のエアバッグ装置では、乗員の拘束する部位毎にエアバッグの展開速度を適切に調整することが困難であった。その結果、重要な部位の拘束が遅れることが危惧される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-137307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、乗員の胴体部分及び頭部を拘束可能なエアバッグの、展開速度、展開挙動を最適に制御可能なエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、車両用シートに収容されるエアバッグ装置であって、膨張ガスを発生するインフレータと;前記車両用シートの側部から展開することで乗員を保護するエアバッグと:を備える。前記エアバッグは、乗員の少なくとも頭側部で展開する頭部保護クッションと、乗員の肩部から腰部の側部で展開するサイドクッションとを含む。前記インフレータは、ガス排出部を備え、前記サイドクッションの内部に少なくとも前記ガス排出部が収容されるように設けられる。前記インフレータの前記ガス排出部の周囲を覆うように前記エアバッグ内部にディフューザが設けられる。前記ディフューザは、前記頭部保護クッションに連通する第1の開口部と、前記サイドクッションに連通する第2の開口部とを備える。そして、前記第1の開口部と前記第2の開口部について、それぞれ最大に開いた状態での最大の投影面積が、前記第1の開口部の方が前記第2の開口部よりも大きく設定される。
【0008】
ここで、「最大の投影面積」とは、例えば、第1の開口部を円筒形のディフューザの上部開口としたときには、長手方向の軸に対して直交する面の面積となる。また、第1の開口部が円筒状のディフューザの上部において斜めに切り取られた形状の場合には、長手方向の軸に対して直交する面ではなく、開口部の傾斜角に平行な面が基準となる。
【0009】
前記ディフューザは、上部開口と下部開口とを有する筒状に成形され、前記第1の開口部が前記上部開口に相当し、前記インフレータは前記下部開口から前記ディフューザ内部に挿入することができる。
【0010】
前記ディフューザは、前記サイドクッションから前記頭部保護クッションまで延びるように構成することができる。
【0011】
前記ディフューザは、乗員側に面するディフューザ内面と、その反対側のディフューザ外面とを有し、前記第2の開口部を、前記ディフューザ内面と外面の少なくとも一方に形成することができる。
【0012】
前記サイドクッションは、前記ディフューザ内面に対向するサイドクッション内側パネルと、前記ディフューザ外面に対向するサイドクッション外側パネルとを有し、前記ディフューザの前記第2の開口部は、前記サイドクッション内側パネル及び前記サイドクッション外側パネルの少なくとも一方に面する構造とすることができる。
【0013】
前記サイドクッションに先行して、前記頭部保護クッションが展開するように構成することが好ましい。
【0014】
前記サイドクッションは、車両用シートに対して車両中央側に設けられ、前記第1の開口部と前記第2の開口部との面積比率は、3:1~4:1とすることができる。
【0015】
前記ディフューザの下流側の端部と前記頭部保護クッションの内面とを、縫製によって連結することができる。
【0016】
前記頭部保護クッションは、乗員の側部を保護する第1チャンバと;前記第1チャンバに繋がり、乗員の頭部前方を保護する第2チャンバと;前記第2チャンバに繋がり、乗員の頭部前方から他方の側部に渡って展開する第3チャンバと;前記第3チャンバと繋がり、乗員の他方の側部で展開する第4チャンバと;を備えることができる。
【0017】
このように、エアバッグによって乗員の頭部を一側方、前方、他側方というように包囲することにより、シートの位置や、リクライニング角度等に関係なく、乗員の頭部を確実に拘束することが可能となる。本発明によれば、エアバッグが展開する際に、ステアリングホイールやインストルメントパネル等を反力面とする必要が無く、シートの位置等に依存せずに安定した性能を発揮できる。
【0018】
前記第1チャンバは、上方に向かって最初に展開する上部方向部と、当該上部方向部に繋がり、前方に向かって展開する前方方向部とを含むことができる。
【0019】
前記サイドクッションは、前記第1チャンバの前記上部方向部の下端付近に繋がり、乗員の体側部を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明に係るエアバッグ装置が適用可能な車両用シートの主に外観形状を示す斜視図であり、エアバッグ装置の図示は省略する。
図2図2は、図1に示す車両用シートの骨組みとして機能する内部構造体(シートフレーム)を示す斜視図であり、エアバッグ装置の図示は省略する。
図3図3は、本発明の実施例に係るエアバッグ装置が搭載された車両用シートの概略側面図であり、エアバッグ装置が収容された状態を車幅方向の外側から透視した様子を示す。
図4図4は、本発明の実施例に係るエアバッグ装置においてエアバッグが展開した様子を模式的に示す上面図である。
図5図5は、本発明の実施例に係るエアバッグ装置においてエアバッグが展開した様子を示す上面斜視図(俯瞰図)である。
図6図6は、本発明の実施例に係るエアバッグ装置においてエアバッグが展開した様子を示す正面斜視図である。
図7図7は、本発明の実施例に係るエアバッグ装置に使用されるエアバッグを構成するパネルの形状を示す平面図であり、第1及び第2チャンバを形成するものである。
図8図8は、本発明の実施例に係るエアバッグ装置に使用されるエアバッグを構成するパネルの形状を示す平面図であり、サイドチャンバを形成するものである。
図9図9は、本発明の実施例に係るエアバッグ装置に使用されるディフューザの構成を示す平面図であり、(A)が折り畳んでディフューザを形成した状態、(B)が折り畳む前の広げた状態を示す。
図10図10は、ディフューザの第1の開口部の最大の投影面積の設定基準となる投影面を説明するための模式図である。
図11図11は、本発明の実施例に係るエアバッグ装置に使用されるエアバッグを構成するパネルの形状を示す平面図であり、第3チャンバを形成するものである。
図12図12は、本発明の実施例に係るエアバッグ装置に使用されるエアバッグを構成するパネルの形状を示す平面図であり、第4チャンバを形成するものである。
図13図13は、図7図9図11図12に示すパネルの連結関係を説明するための平面図である。
図14図14は、図7図9図11図12に示すパネルを連結した状態を示す平面図である。
図15図15は、図14のA-A方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るエアバッグ装置について、添付図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員が向いている方向を「前方」、その反対方向を「後方」と称し、座標の軸を示すときは「前後方向」と言う。また、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の右側を「右方向」、乗員の左側を「左方向」と称し、座標の軸を示すときは「左右方向」と言う。また、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の頭部方向を「上方」、乗員の腰部方向を「下方」と称し、座標の軸を示すときは「上下方向」と言う。また、展開したエアバッグにおいて、乗員(頭部)に面する側を内側、その反対側を外側とする。
【0022】
図1は、本発明に係る乗員保護装置に使用される車両用シートの主に外観形状を示す斜視図であり、エアバッグ装置(20)の図示は省略する。図2は、図1に示す車両用シートの骨組みとして機能する内部構造体(シートフレーム)を示す斜視図であり、ここでも、エアバッグ装置(20)の図示は省略する。図3は、本発明に係る乗員保護装置の概略側面図であり、車両用シートのドアに遠い側面(ファーサイド)にエアバッグ装置20が収容された状態を車幅方向の外側から観察した様子を示す。
【0023】
本発明が適用可能な車両シートは、部位として観たときには、図1及び図2に示すように、乗員が着座する部分のシートクッション2と;背もたれを形成するシートバック1と、シートバック1の上端に連結されるヘッドレスト3とによって構成されている。
【0024】
シートバック1の内部にはシートの骨格を形成するシートバックフレーム1fが設けられ、その表面及び周囲にはウレタン発泡材等からなるパッドが設けられ、当該パッドの表面は皮革、ファブリック等の表皮によって覆われている。シートクッション2の底側には着座フレーム2fが配置され、その上面及び周囲にはウレタン発泡材等からなるパッドが設けられ、当該パッドの表面は皮革、ファブリック等の表皮によって覆われている。着座フレーム2fとシートバックフレーム1fとは、リクライニング機構4を介して連結されている。
【0025】
シートバックフレーム1fは、図2に示すように、左右に離間して配置され上下方向に延在するシートフレーム10と、このシートフレーム10の上端部を連結する上部フレームと、下端部を連結する下部フレームとにより枠状に構成されている。ヘッドレストフレームの外側にクッション部材を設けることでヘッドレスト3が構成される。
【0026】
図3は、本発明の実施例に係るエアバッグ装置20が搭載された車両用シートの概略側面図であり、エアバッグ装置20が収容された状態を車幅方向の外側から透視した様子を示す。
【0027】
図3に示すように、エアバッグ装置20は、車両シートのシートバック1の右側上端付近に収容される。なお、本実施例においては、エアバッグ装置20を所謂ファーサイドに配置するが、ニアサイドに配置することも可能である。
【0028】
図4は、本発明の実施例に係るエアバッグ装置20においてエアバッグ(30)が展開した様子を模式的に示す上面図である。図5は、エアバッグ(30)が展開した様子を示す上面斜視図(俯瞰図)である。図6は、エアバッグ(30)が展開した様子を示す正面斜視図である。なお、図4及び図5において、破線は縫製ラインを示すものとする。
【0029】
主に図4に示すように、本実施例に係るエアバッグ装置20は、膨張ガスを発生するインフレータ160(図6,8参照)と;車両用シートの右側上端付近から展開することで乗員Pの頭部周辺を保護するエアバッグ30と:を備える。エアバッグ30は、乗員Pの頭部の一方の側部を保護する第1チャンバ32と;第1チャンバ32に繋がり、乗員Pの頭部前方を保護する第2チャンバ34と;第2チャンバ34に繋がり、乗員Pの頭部前方から他方の側部に渡って展開する第3チャンバ36と;第3チャンバ36と繋がり、乗員Pの頭部の他方の側部で展開する第4チャンバ38とを備えている。これら第1~第4チャンバ32,34,36,38によって頭部保護クッションが形成される。
【0030】
エアバッグ装置20は、更に、エアバッグ30の展開方向(前方)に延び、当該エアバッグ30の展開形状を規制するテザー200と;当該テザー200を摺動可能な状態で、エアバッグ30の表面に沿うように保持する保持部材202とを備えている。テザー200及び保持部材202の詳細については、後に図7を参照して説明する。
【0031】
テザー200は、第2チャンバ34の内側表面に連結された第1の端部201aと、当該第1の端部201aと反対側の第2の端部201bとを有する。そして、 第2の端部201bは、シートフレームに連結される。なお、テザー200の第2の端部201b(後端)は、シートフレーム以外の構造部に連結することもでき、あるいは、第1チャンバ32の後端付近に直接連結することも可能である。
【0032】
第1チャンバ32と第2チャンバ34とは、1つのチャンバとして一体に成形されている。第2チャンバ34の後方付近が乗員Pの頭部に近づく方向に屈曲しており、これによって、第2チャンバ34が確実に乗員頭部の前方で展開することが可能となる。
【0033】
第1チャンバ32と第2チャンバ34とを渡すようにテザー200が連結されており、当該エアバッグ30の展開時にテザー200の張力によって第2チャンバ34を屈曲させている。
【0034】
図4図6に示されているように、第1チャンバ32の下方には、サイドチャンバ40が連結されている。サイドチャンバ40は、乗員Pの少なくとも右側肩部付近を拘束するものであるが、腰部まで拘束するような構成でも良い。保護すべき乗員Pに加わる力の方向とタイミングに応じて、サイドチャンバ40と第1チャンバ32との展開タイミングを同時か何れかが先だって展開するように構成されている。図6,8に示すように、サイドチャンバ40内に収容されたインフレータ160から、膨張ガスが放出され、当該ガスは、第1チャンバまたは/およびサイドチャンバ40、続いて第2チャンバ34、第3チャンバ36、第4チャンバ38の順番で流れるようになっている。なお、サイドチャンバ40は、特許請求の範囲に記載の「サイドクッション」に対応する。
【0035】
図4及び図5に示すように、4つのチャンバ(32,34,36,38)が、乗員Pの右側頭部付近から左側頭部付近までを囲むように展開する。第2チャンバ34は第1チャンバ32から乗員側の方向(内側)に屈曲すると同時に、図6に示すように、若干上向きに屈曲するように展開し、確実に乗員Pの頭部(顔面)の斜め前方を含む前方を保護するようになっている。エアバッグ30(少なくとも、第1チャンバ32と第4チャンバ38)が乗員Pの肩の上方に位置することから、乗員Pの肩が干渉して展開挙動を悪化させる事態を抑制可能となる。また、エアバッグ30が乗員Pの肩の上に載ることにより、エアバッグ30と乗員Pの頭部との距離を小さくすることができ、乗員頭部を速やかに拘束することが可能となる。
【0036】
図4及び図5に示すように、エアバッグ30の膨張展開時の上面視において、第1チャンバ32の前後方向に長い長手方向に対して、第2チャンバ34の長手方向は、屈曲領域200aから角度を付けて乗員Pの前方に延びるように設けられる。また、第2チャンバ34の終端近傍である第3チャンバ36のガスの導入口から第4チャンバ38のガスの導入口に向かう、第3チャンバ36の膨張展開の方向は、第1チャンバ32の長手方向の膨張展開方向とは前後方向において概ね逆向きで、且つ、膨張展開した第2チャンバ34の長手方向に対して、第2チャンバ34の終端から乗員Pに近づく方向に角度を付けて設けられる。更に、第3チャンバ36の終端近傍である第4チャンバ38のガス導入口から第4チャンバ38の膨張展開する方向は、第1チャンバ32の長手方向の膨張展開方向とは前後方向において概ね逆向きで、且つ、第3チャンバ36の膨張展開方向に対して、第3チャンバ36の終端から乗員側Pに近づく方向に角度を付けて設けられる。このような構成により、エアバッグ30は、乗員Pの一方の肩口から当該乗員Pの頭部周囲に巻き付くように膨張展開する。
【0037】
図7は、第1チャンバ32及び第2チャンバ34を形成するパネル(基布)を示す平面図である。図7に示すように、第1チャンバ32と第2チャンバ34とは、2枚の基布130a(内側パネル),130b(外側パネル)を貼り合わせることにより一体に成形される。図において、符号132は第1チャンバ32に対応する領域、134は第2チャンバに対応する領域を示している。第1チャンバ32及び第2チャンバ34が展開した時に、内側パネル130aが乗員P側を向くようになっている。
【0038】
第1チャンバ32(領域132)は、サイドチャンバ40と連結される開口部154と、サイドチャンバ40のタブ164と連結されるタブ152を備えている。この開口部154を通じて、サイドチャンバ40の後端部近傍から膨張ガスが第1チャンバ32に流れ込むようになっている。第2チャンバ34の内側パネルの端部近傍で第2チャンバの下縁に沿う方向に延びるように、第3チャンバ36と流体連通するベント開口150aが形成されており、第3チャンバ36の内側パネル136a(図9参照)のベント開口150bと一緒に、周囲を縫製することによって連結される。そして、ベント開口150a,150bによって、ベントホール37が形成される。
【0039】
第1チャンバ32は、大まかには、開口部154から流入したガスを上方に導く上部方向部132aと、当該上部方向部132aに繋がり、前方に向かって展開する前方方向部132bとを含んで構成されている。なお、図7において、上部方向部132a、前方方向部132b以外の破線は縫製ラインを示すものとする。
【0040】
第1チャンバ32において、膨張ガスが最初に上部方向部132aに流れ込むことから、第1チャンバ32を速やか、且つ確実に乗員Pの肩の上部に引き上げることが可能となる。
【0041】
図8は、サイドチャンバ40を形成するパネル(基布)を示す平面図である。図8に示すように、サイドチャンバ40は、概ね同一形状の2枚の基布140a(内側パネル),140b(外側パネル)を貼り合わせることにより成形される。図において、符号166は第1チャンバ32の開口部154aと連結される開口部であり、符号162はインフレータ160を収容するインフレータ保持部である。また、符号164は、第1チャンバ32のタブ152と連結されるタブである。
【0042】
サイドチャンバ40と第1チャンバ32とは、各々の開口部154a、166において直接連結されるとともに、タブ152、164同士を連結することで、展開姿勢を制御可能となっている。なお、図8において、インフレータ160以外の破線は縫製ラインを示すものとする。この連結タブ164は、側部保護クッション40の上縁部に設けられている。第1チャンバ32のタブ152は、第1チャンバの下縁部に設けられており、これらのタブ152,164同士が接続されることにより、互いの膨張展開時に不用意な揺動が減り、膨張展開の安定性が増す。また、タブ152,164同士が連結されていることにより、膨張展開時にエアバッグクッションの膨張展開方向がバラバラになることがなく、乗員Pをより一体的にかつ包括的に保護できるようになる。
【0043】
図8に示すように、インフレータ保持部162の内部には、インフレータ160から放出されたガスをサイドチャンバ40と第1チャンバ32に導くディフューザ180が挿入配置されている。
【0044】
図9は、ディフューザ180の構成を示す平面図であり、(A)が折り畳んでディフューザ180を形成(完成)した状態、(B)が折り畳む前の広げた状態を示す。ディフューザ180は、インフレータ160のガス排出部の周囲を覆うように設けられ、第1チャンバ32に連通する第1の開口部182と、サイドクッションに連通する第2の開口部187とを備えている。なお、本実施例において、第2の開口部187は円形のホールである。
【0045】
ディフューザ180は、乗員側に面するディフューザ内面180aと、その反対側のディフューザ外面180bとを有し、第2の開口部187は、ディフューザ外面180bに形成されている。なお、第2の開口部187は、ディフューザ180の外面180bに替えて内面180aに設けることができ、更には、内面180aと外面180bの両方に設けることも可能である。
【0046】
第1の開口部182と第2の開口部187について、それぞれ最大に開いた状態での最大の投影面積が、第1の開口部182の方が第2の開口部187よりも大きく設定されている。第2の開口部187は、ディフューザ180の側面に形成されているため、第2の開口部187の最大投影面積は、パネル(基布)上における円の面積となる。
【0047】
図10は、ディフューザ180の第1の開口部182の最大の投影面積の設定基準となる投影面を説明するための模式図である。例えば、第1の開口部を図10(A)に示すように、円筒形のディフューザの上部開口としたときには、長手方向の軸に対して直交する面A1が、そのまま投影面の最大投影面積となる。また、図10(B)に示すように、第1の開口部が円筒状のディフューザの上部において例えば斜めに切り取られた形状の場合には、長手方向の軸に対して直交する面A2ではなく、開口部の傾斜角に平行な面A3が最大の投影面積の基準となる投影面となる。つまり、開口部から離間した位置から当該開口部を見たとして、囲まれている開口部全体が投影された投影面の投影面積が最大になるような位置から見た時の投影面を、開口部の最大の投影面積を持つ投影面という。開口部を見る位置は、最大の投影面積となる投影面の中心(投影面の図形の中心)から垂直方向に離れた位置である。
【0048】
本実施例においては、第1の開口部182と第2の開口部187との面積比率を、3:1~4:1とすることが好ましい。この場合、第2の開口部187を複数設けた場合には、第2の開口部の開口面積は、全ての第2の開口部187の開口面積の総和とする。第1開口部がこの比率よりも相対的に小さくなる(3未満)と、頭部保護クッションを所定時間内にガスを充てんさせるためにガスの単位時間あたりの流量を確保できなくなる恐れがある。通常サイドチャンバは、車両用シートのファーサイド側に配置されるので、頭部保護クッションよりは遅れて展開してもよいが、第1開口部がこの比率よりも相対的に大きい(4より大きい状態)と、第2開口からサイドクッションへのガス流入が絞られてしまうため、展開時間の遅れが大きくなり、必要とされる時間に展開が完了していない恐れがある。
【0049】
ディフューザ180は、上部開口(第1の開口部)182と下部開口181とを有する筒状に成形され、インフレータ160が下部開口181からディフューザ180の内部に挿入され、固定される。
【0050】
図8及び図14に示すように、ディフューザ180は、サイドチャンバ40から第1チャンバ32の内部まで延び、第1の開口部182が第1チャンバ32内に位置することになる。
【0051】
図9(A)に示すように、ディフューザ180は、上端の前後両側に第1チャンバ32と連結されるタブ183,184が設けられている。図13にも示すように、これらのタブ183,184は、縫製ライン183a,184aに沿って第1チャンバ32を構成する内側パネル130a、外側パネル130bと共に縫い付けられて、ディフューザ180の上端部2箇所が固定される。
【0052】
図9(B)に示すように、ディフューザ180を構成するパネルは、とで左右対称に成形されており、中心線に沿って折畳み、縫製ライン185、186によって内面180aと外面180bとが互いに連結されて、筒状に成形される。
【0053】
図11は、第3チャンバ36を形成するパネル(基布)を示す平面図である。図11において、破線は縫製ラインを示すものとする。
【0054】
図11に示すように、第3チャンバ36は、2枚の基布136a(内側パネル),136b(外側パネル)を貼り合わせることにより成形される。内側パネル136aの一方の端部近傍には、第2チャンバ34のベント開口150aと連結されるベント開口150bが形成されている。また、内側パネル136aの他方端部近傍には、第4チャンバ38のベント開口170bと連結されるベント開口170aが形成されている。そして、ベント開口170a,170bによって、ベントホール39(図7図11)が形成される。なお、ベントホール開口150bは、ベント開口170aよりも短手方向の長さが長く、開口面積も大きくなっている。
【0055】
図12は、第4チャンバ38を形成するパネル(基布)138を示す平面図である。図12において、破線は縫製ラインを示すものとする。
【0056】
図12に示すように、第4チャンバ38は、1枚のパネル138を半分に折り畳むことによって袋状に成形される。パネル138の長手方向中心付近には、第3チャンバのベントホール170aと連結されるベントホール170bが形成され、このベト開口170bの長手方向に沿った中心線が当該パネル138の折り目となる。
【0057】
図13は、図7図9図11図12に示すパネルの連結を説明するための平面図である。図14は、これらのパネルを連結した状態を示す平面図である。また、図15は、図14のA-A方向の断面図である。
【0058】
図12に示すように、第1チャンバ32と第2チャンバ34とを一体化したチャンバが最も大きく、次いでサイドチャンバ40の容量が大きくなる。これに対して、第3チャンバ36の容量は小さく、第4チャンバ38の容量は更に小さく設計される。
【0059】
第2チャンバ34と第3チャンバ36とは、ベント開口150aとベント開口150bの周辺のみで縫製によって連結される。また、第3チャンバ36と第4チャンバ38とは、ベント開口170aとベント開口170bの周辺のみで縫製によって連結される。
【0060】
ディフューザ180は、サイドチャンバ40の内面180aと外面180bとの間に挟み込まれるように配置され、上述したように、タブ183,184によって第1チャンバ32に連結される。なお、ディフューザ180の下端(第2開口181)と、サイドチャンバ40のインフレータ保持部162の下端部と、インフレータ160とは、サイドチャンバ40の外側からテープを巻き付ける等の手段によって密閉される。
【0061】
(エアバッグの圧縮)
図14に示す状態から、テザー200を後方に引っ張って(手繰り寄せて)、第1チャンバ32及び第2チャンバ34のテザー200の周辺にシュリンクした領域を形成し、シュリンクした領域の上下部分を中心に向かって蛇腹折りして圧縮する。
【0062】
その後、第3チャンバ36及び第4チャンバ38を一緒に蛇腹折りし、更にロールする。最後に、サイドチャンバ40を蛇腹状に折り畳む又はロールすることによってエアバッグ30の圧縮工程が完了する。
【0063】
(エアバッグの展開挙動)
図4図6に示すように、本実施例に係るエアバッグ装置20においては、車両の衝突事象が発生すると、インフレータ160が作動し、膨張ガスがディフューザ180の第1の開口部182から第1チャンバ32に、第2の開口部187からサイドチャンバ40に流れ込む。
【0064】
図15に示すように、ディフューザ180の内面に形成された第2の開口部187は、サイドチャンバ40の外側パネル140bに対して接近状態で面しており、インフレータ160が作動した直後は、大きく開くことができないため、ディフューザ180の内部の膨張ガスの多くは、第1の開口部182から第1チャンバ32の内部に送り込まれる。その後、サイドチャンバ40の外側パネル140bと第2の開口部187との間に隙間が生じ、当該第2の開口部187からサイドチャンバ40に流入するガスの量が増大する。
【0065】
本実施例においては、ディフューザ180の第1の開口部182が第2の開口部187よりも面積が大きく、且つ、第2の開口部187がサイドチャンバ40のパネルに面しているため、サイドチャンバ40の展開に先行して第1チャンバ32、第2チャンバ34,第3チャンバ36,第4チャンバ38が速やかに展開することになる。
【0066】
第1チャンバ32に膨張ガスが流れ込むと、最初に上部方向部132a(図7)が膨張し、続いて前方方向部132bが膨張する。次に、第1チャンバ32から第2チャンバ34にガスが流れ込む。
【0067】
このとき、テザー200(図4)によって第1チャンバ32と第2チャンバ34、あるいは、第2チャンバ34とシートフレームとが連結されているため、第2チャンバ34は前方への展開が規制され、テザー200の屈曲部200a、すなわち、保持部材202の屈曲領域202aを起点として屈曲し、乗員の前方に向かって展開する(図4図5)。なお、第2チャンバ34は、図6に示すように先端側が上方を向くように屈曲し、ベント開口150aが概ね縦長になるように展開する。
【0068】
次に、ベントホール37を介して第2チャンバ34から第3チャンバ36に膨張ガスが流れ込み、第3チャンバ36が乗員Pの正面から左側頭部付近に展開する。第2チャンバ34の内側パネル134aと第3チャンバ36の内側パネル136a同士をベントホール37周辺で連結しているため、第3チャンバ36が外方向(乗員頭部から離れる方向)へ広がるように展開する挙動が制限され、乗員Pの頭部を囲むように湾曲した形状が作り出される。
【0069】
次に、ベントホール39を介して第3チャンバ36から第4チャンバ38に膨張ガスが流れ込み、第4チャンバ38が乗員Pの左側頭部付近に展開する。第3チャンバ36の内側パネル136aと第4チャンバ36とがベントホール39周辺で連結されているため、第4チャンバ36が外方向(乗員頭部から離れる方向)へ広がるように展開する挙動が制限され、乗員Pの頭部を囲むように湾曲した形状が作り出される。そして、これらの構造により、エアバッグ30は、乗員Pの頭部に巻き付くように膨張展開する。
【0070】
本実施例においては、テザー200をエアバッグ30の表面に沿って摺動させる構造であるため、エアバッグ30の表面からテザー200がブリッジ状に張り出すことがなく、乗員Pとの不要な干渉を避けることができる。また、エアバッグ30の展開形状を確実、精密に制御することが可能となる。
【0071】
本発明を上記の例示的な実施形態と関連させて説明してきたが、当業者には本開示により多くの等価の変更および変形が自明であろう。したがって、本発明の上記の例示的な実施形態は、例示的であるが限定的なものではないと考えられる。本発明の精神と範囲を逸脱することなく、記載した実施形態に様々な変化が加えられ得る。例えば、発明を実施するための形態では、実施例においてはファーサイドのエアバッグについて重点的に述べたが、ニアサイドエアバッグ(車両用シートの車両ドアから遠い側の面)や、スモールモビリティなど超小型車両等における単座の車両(ドアの有る無しにかかわらず一列にシートが一つしかない部分を含むような車両)等にも用いることが可能である。
図1
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