(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】ゴム物品用電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/00 20060101AFI20241225BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
B29D30/00
B60C19/00 J
B60C19/00 B
(21)【出願番号】P 2023533980
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2021083961
(87)【国際公開番号】W WO2022117725
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】102020000029513
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174023
【氏名又は名称】伊藤 怜愛
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスコ ヨツィア
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ サリエリ
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-132291(JP,A)
【文献】特開2014-024544(JP,A)
【文献】特表2017-531825(JP,A)
【文献】特表2019-518109(JP,A)
【文献】特開2008-137615(JP,A)
【文献】特開2005-096423(JP,A)
【文献】特許第7316439(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム物品に適用される電子デバイス
(1
)の製造方法であって、
当該デバイスは、
(i)電子素子(5,6,7)と、
(ii)前記電子素子(5,6,7)を
完全に覆うように配置された、熱可塑性材料の1つまたは複数の層(3)からなる被覆要素と、
(iii)前記被覆要素
における前記電子素子(5,6,7)とは反対側の外面(3a)の少なくとも一部を覆うように配置された少なくとも1つのゴム層(4)と、
を備え、
当該方法は、
(a)エラストマーゴムのラテックスと、レゾルシノールおよびホルムアルデヒドの組合せと、を含む塩基性水溶液からなる接着剤溶液を、前記被覆要素の
前記外面(3a)の前記一部に塗布する、堆積処理と、
(b)前記接着剤溶液が塗布された前記被覆要素の
前記外面(3a)の前記一部を、120~230℃の温度に2~15分間保持する、加熱処理と、
を含む、準備工程を備える、製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性材料の1つまたは複数の層(3)が織物の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱可塑性材料の1つまたは複数の層(3)が絶縁材料でできている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記絶縁材料が、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記絶縁材料が、PET、ナイロンおよびポリエチレンナフタレートからなる群から構成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記塩基性水溶液が、ブロックイソシアネート基を有するレゾルシノールおよびホルムアルデヒドからなる予備縮合樹脂を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記塩基性水溶液が、リグニンと、尿素およびチオ尿素から選択される化学物質と、を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記エラストマーゴムのラテックスが、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジンのラテックス、またはスチレン-ブタジエン-ビニルピリジンおよびスチレン-ブタジエンの混合物のラテックスを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ゴム物品がタイヤである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記電子素子が、RFIDチップ(5)と、当該チップ(5)に接続された第1のアンテナ(6)と、前記第1のアンテナ(6)または電気的に結合されたアンテナを有するRFIDチップに電磁気的に結合された第2のアンテナ(7)と、を備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によって実現される、ゴム物品に使用される電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム物品に使用される電子デバイスの製造方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、タイヤ用途のパッチ型無線周波数識別(RFID)デバイスに関するものであり、本明細書では、一般性を損なうことなく当該デバイスについて明示的に言及する。
【背景技術】
【0003】
タイヤ業界において、製造業者は、タイヤの生産から使用、廃棄に至るまでの間に、タイヤを明確に自動識別できる解決策の必要性を表明している。
【0004】
例えば、タイヤの生産について具体的に言及すると、タイヤが明確に自動識別されれば、製造業者は、生産工程および物流業務を最適化し、自動制御システムの使用を支持し、タイヤを効率的に位置確認/追跡することが可能になり、ひいてはスマートタイヤ工場を構築することが可能になり得る。
【0005】
しかしながら、タイヤにバーコードを貼り付けるという解決策では、製造業者は、タイヤの生産や単一のタイヤの生産履歴を管理できるようになるが、限られた数の情報しか記録できない、所定の視線でコードを1つずつ読み取らなければならない、また、タイヤの生産中や通常の操作/使用中にコードが取り消されたり損傷したりして読み取り不能になるか、いずれにしても読み取りが困難になるリスクがある、といった一連の欠点の影響を受ける。
【0006】
バーコードに代わるものとして、タイヤ用のパッチ型無線周波数識別(RFID)デバイスがある。このデバイスは、多層平面状の可撓性構造体からなり、この構造体は、RFIDチップと、このチップに接続された第1のアンテナと、少なくとも部分的に第1のアンテナに電磁気的に結合された第2のアンテナと、を互いの間に含むようにサンドイッチ状に配置されたPET製の2つの絶縁層と、各々がそれぞれの絶縁層の外面を覆うように配置された2つの外側ゴム層と、を備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、PETのような絶縁材料は、「比誘電率が低く導電率が低い、無損失材料」を意味する。
【0008】
この解決策は、絶縁層とそれらが接触しているそれぞれのゴム層との間の接着に関して臨界点を有すること、が実験により示されている。
【0009】
当業者であればすぐに理解できるように、アンテナおよびチップを覆うPET製の絶縁層が2つの外側ゴム層に正しく接着されていない場合、RFIDおよびタイヤ層の周囲のゴムが損傷する可能性がある。特に、デバイスが分裂する可能性があり、これはデバイスの正しい作動を妨げ、デバイスが納められているゴム層に損傷を与える可能性がある。
【0010】
実際に、外側ゴム層との接着がうまくいかず絶縁層がデバイスから外れてしまうと、タイヤの周囲のゴムに切れ目や亀裂が入る可能性がある。
【0011】
基本的に、RFIDはその一例に過ぎず、タイヤに取り付けられるその他の多くの電子デバイスでも同じ技術的問題に直面し得る。その他の電子デバイスとしては、温度センサ、圧力センサ、またはエネルギーハーベスタなど、タイヤ用途で使用される一般的なセンサが考えられる。
【0012】
そのため、タイヤに装着する電子デバイスの構造的安定性を確保する解決策が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前述の必要性を満たすことができる方法を考案した。
【0014】
本発明の主題は、ゴム物品に適用される電子デバイスの製造方法であって、当該デバイスは、(i)電子素子と、(ii)上記電子素子を覆うように配置された、熱可塑性材料の1つまたは複数の層からなる被覆要素と、(iii)上記被覆要素の外面の少なくとも一部を覆うように配置された少なくとも1つのゴム層と、を備え、当該方法は、(a)エラストマーゴムのラテックスと、レゾルシノールおよびホルムアルデヒドの組合せと、を含む塩基性水溶液からなる接着剤溶液を、上記被覆要素の一方の外面の上記一部に塗布する、堆積処理と、(b)上記接着剤溶液が塗布された上記被覆要素の上記外面の上記一部を、120~230℃の温度に2~15分間保持する、加熱処理と、を含む、準備工程を備える。
【0015】
好ましくは、上記熱可塑性材料の1つまたは複数の層は織物の形態である。
【0016】
好ましくは、上記熱可塑性材料の1つまたは複数の層は絶縁材料でできている。好ましくは、上記絶縁材料は、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドからなる群から選択される。
【0017】
好ましくは、上記絶縁材料は、PET、ナイロンおよびポリエチレンナフタレートからなる群から構成される。
【0018】
好ましくは、上記ゴム物品はタイヤである。
【0019】
好ましくは、上記電子素子は、RFIDチップと、当該チップに接続された第1のアンテナと、前記第1のアンテナに電磁気的に結合された第2のアンテナ7と、を備える。
【0020】
上記塩基性水溶液は、好ましくは、ブロックイソシアネート基を有するレゾルシノールおよびホルムアルデヒドからなる予備縮合樹脂を含む。
【0021】
上記塩基性水溶液は、好ましくは、リグニンと、尿素およびチオ尿素から選択される化学物質と、を含む。
【0022】
上記エラストマーゴムのラテックスは、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジンのラテックス、またはスチレン-ブタジエン-ビニルピリジンおよびスチレン-ブタジエンの混合物のラテックスを含む。
【0023】
本発明のさらなる主題は、本発明の方法によって実現される、ゴム物品に使用される電子デバイスである。
【0024】
無線周波数識別デバイスを分解図で示す添付の図面を参照しながら、説明的かつ非限定的な実施形態に関する以下の説明を閲覧することにより、本発明を最もよく理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】図において、符号1は、全体として、本発明による無線周波数識別(RFID)デバイスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
デバイス1は、トランシーバアセンブリ2と、トランシーバアセンブリ2と対向する側にサンドイッチ状に配置された2つのPET層3と、PET層3のそれぞれの外面3aに配置された2つの外側ゴム層4とを備える。
【0027】
サンドイッチ状に配置された2つのPET層3は、トランシーバアセンブリ2を完全に覆うように配置されたカバー要素を構成している。
【0028】
トランシーバアセンブリ2は、RFIDチップ5と、RFIDチップ5に接続された第1のアンテナ6と、第1のアンテナ6に電磁気的に結合された第2のアンテナ7と、を備える。
【0029】
図に示すタイプの無線周波数識別(RFID)デバイスを2台製造した。この2つのデバイスの相違点は、一方を、各PET層3の外面3aに本発明による接着剤溶液を付着させることにより製造した、という点だけである。
【0030】
接着剤溶液を刷毛で外面3aに塗布した(堆積処理)。
【0031】
表Iは、使用した接着剤溶液の組成を重量部で示している。
【0032】
【0033】
接着剤溶液を塗布(堆積処理)後、2つのPET層3を加熱処理した。加熱処理は、接着剤溶液を塗布した2つのPET層3を220℃のオーブン内に3分間保持して行った。
【0034】
上述のものとは異なり、本発明のさらなる実施形態によれば、接着剤溶液は、ブロックイソシアネート基を有するレゾルシノールおよびホルムアルデヒドからなる予備縮合樹脂と、リグニンと、尿素およびチオ尿素から選択される化学物質と、を含む。この接着剤溶液には、ホルムアルデヒドを遊離形態で使用する必要がないという利点がある。
【0035】
上記の予備工程を行った後、トランシーバアセンブリ2を2つのPET層3の間に収容する第1工程を行い、その後、2つのPET層3の外側を2つの未加硫のゴム層4のそれぞれで覆う第2工程を行う。
【0036】
あるいは、2つのPET層3の外側を、部分的または全体的に加硫された2つゴム層のそれぞれで覆うこともできる。
【0037】
こうして、第1のRFIDデバイスを製造した。
【0038】
第2のRFIDデバイスは、予備工程を実施しなかったこと以外は、上述の方法を繰り返すことで製造した。すなわち、第2のRFIDデバイスの製造工程では、接着剤溶液を塗布していないPET層3を用いて第1工程を実施した。
【0039】
上述のものとは異なり、本発明の好ましい実施形態によれば、接着剤溶液をPET層3の両面に塗布することができる。
【0040】
使用時、上述のRFIDデバイスは、タイヤの未硬化ゴム部分に含まれる。
【0041】
あるいは、上述のRFIDデバイスをタイヤの硬化ゴム部分に適用することもできる。
【0042】
RFIDデバイスをタイヤ内部に挿入したら、加硫工程を行う。そうすることで、加硫中にRFIDデバイスのゴム層が周囲のゴムと架橋され、デバイスの位置の安定性が確保される。
【0043】
第1および第2のRFIDデバイスを、ASTM D1876に基づく接着試験に供した。この試験では、それぞれのPET層3と、外面3aを覆うように配置されたそれぞれのゴム層4と、の間の接着力を測定した。
【0044】
表IIは、前述の試験で得られた値を示している。
【0045】
【0046】
表IIに示された値は、本発明の方法がPET層3とそれぞれのゴム層4との間の強固な接着を確実にすることができ、その結果、デバイスの分裂とそれに起因する問題を回避できることを明確に証明している。
【0047】
図に示すタイプの別のRFIDデバイス(第3のRFIDデバイスおよび第4のRFIDデバイス)を2台製造した。
【0048】
第3および第4のRFIDデバイスが第1および第2のRFIDデバイスと異なるのは、層3がPETではなくナイロンで構成されている点である。
【0049】
特に、第3および第4のRFIDデバイスの2つの層3は織物の形態である。
【0050】
また、第3のRFIDデバイスと第4のRFIDデバイスは、加熱処理(b)の条件が異なる。
【0051】
特に、
-第3のRFIDデバイスでは、表Iの接着剤溶液をナイロン層の表面3aに刷毛で塗布した(堆積処理)。
接着剤溶液を塗布(堆積処理)した後、2つのナイロン層3を加熱処理した。加熱処理は、接着剤溶液を塗布した2つのナイロン層3を220℃のオーブン内で5分間保持して行った。
【0052】
-第4のRFIDデバイスでは、表Iの接着剤溶液をナイロン層の表面3aに刷毛で塗布した(堆積処理)。
接着剤溶液を塗布(堆積処理)した後、2つのナイロン層3を加熱処理した。加熱処理は、接着剤溶液を塗布した2つのナイロン層3を155℃のオーブン内で10分間保持して行った。
【0053】
第1、第3、第4のRFIDデバイスについては、それぞれの表面3aに同量の接着剤溶液を塗布した。
【0054】
第3および第4のRFIDデバイスは、ASTM D1876に従い、ナイロン層3のそれぞれと、外面3aを覆うように配置されたゴム層4のそれぞれと、の間の接着力を測定する接着試験を行った。
【0055】
表IIIは、前述の試験で得られた値を示している。
【0056】
【0057】
表IIIに示された値もまた、本発明の方法がナイロン層3とそれぞれのゴム層4との間の強固な接着を保証し、その結果、デバイスの分裂とそれに起因する問題を回避できることを明確に証明している。
【0058】
本発明者らによれば、熱可塑性材料の層が織物の形態である場合、接着力はより大きくなる。
【0059】
上述のものとは異なり、被覆要素は、サンドイッチ状に配置された2つの層の代わりに、電子素子の周囲に巻き付けられた熱可塑性材料の層で構成することができる。
【0060】
上述したように、本発明は、ゴム物品、例えばタイヤに適用されるあらゆる電子デバイスに適応する。
【0061】
電子機器によっては、1つのゴム層4のみを使用することもできる。