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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-24
(45)【発行日】2025-01-08
(54)【発明の名称】活性炭吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/20 20060101AFI20241225BHJP
   A61K 33/44 20060101ALI20241225BHJP
   C01B 32/306 20170101ALI20241225BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20241225BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20241225BHJP
【FI】
B01J20/20 B
A61K33/44
C01B32/306
A61P39/02
B82Y5/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024552191
(86)(22)【出願日】2024-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2024019235
【審査請求日】2024-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2023126911
(32)【優先日】2023-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004107
【氏名又は名称】弁理士法人Kighs
(72)【発明者】
【氏名】浅原 亮介
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-038117(JP,A)
【文献】特表2017-507126(JP,A)
【文献】特開2019-150261(JP,A)
【文献】特開2020-175383(JP,A)
【文献】国際公開第2010/013785(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1145131(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/20
C01B 33/30-33/384
A61K 33/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO吸着に基づくGCMC法により算出される細孔容積基準の細孔直径のピーク(W)が0.52~0.70nmであり、
前記GCMC法より算出される細孔直径1.0nm以下のサブナノ孔の細孔容積(VSN)が0.45~0.55cm/gであり、
吸着に基づくDH法により算出される細孔直径3~50nmの細孔容積(VME)が0.01~1.00cm/gであり、
BET法により測定される平均細孔直径が1.7~5.0nmである
ことを特徴とする活性炭吸着剤。
【請求項2】
下記式(i)に規定する前記細孔直径3~50nmの細孔容積(VME)に対する前記サブナノ孔の細孔容積(VSN)の容積比(VSN/ME)が3~50である請求項1に記載の活性炭吸着剤。
【数1】
【請求項3】
直径150~500μmの活性炭粒子の平均硬度から算出される粒子径300μmの活性炭粒子の硬度(HD300)が2.0~30.0Nである請求項1又は2に記載の活性炭吸着剤。
【請求項4】
前記活性炭吸着剤が、経口投与用腎疾患又は経口投与用肝疾患のための治療剤又は予防剤である請求項1又は2に記載の活性炭吸着剤。
【請求項5】
前記活性炭吸着剤が、経口投与用腎疾患又は経口投与用肝疾患のための治療剤又は予防剤である請求項3に記載の活性炭吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毒性物質の吸着性能に優れた活性炭吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腎疾患や肝疾患は、血液中に毒性物質が蓄積して尿毒症や意識障害等の脳症を引き起こすことで知られる。軽度な腎疾患や肝疾患の治療薬として、活性炭の吸着性能を利用した経口投与用吸着剤が開発されている。この種の活性炭吸着剤では、体内の酵素類等の有用物質を極力吸着せずに、尿毒素類等の除去すべき物質を選択的に吸着することが求められる。
【0003】
一般に、酵素類は分子量数万程度の高分子化合物であるのに対し、毒素類は分子量が数百程度の低分子化合物であることから、活性炭吸着剤においては、毒素類の吸着サイトとなるミクロ孔のみを発達させることで高度な選択吸着性を得ることができると考えられている。そこで、メソ孔~マクロ孔の容積を小さくすることで選択吸着率とインドール吸着率の両立を図った活性炭吸着剤(例えば、特許文献1参照)や、ミクロ孔の細孔容積に対してメソ孔の細孔容積を減少させることで胆汁酸の存在下での有害物質の吸着性能向上を図った活性炭吸着剤(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【0004】
特許文献1の活性炭吸着剤にあっては、選択吸着性の評価に際し、毒素と酵素を個別の系で活性炭に接触させて各物質の吸着率を測定するというように、単一成分の吸着試験を複数種類実施して各試験の性能評価に基づいて吸着選択性を評価する手法が一般的である。しかしながら、活性炭吸着剤が実際に使用される体内環境下において、吸着剤は、毒素を吸着するまでの過程で、様々な消化酵素等の高分子化合物により毒素吸着が阻害される等の影響を受けると考えられる。そのため、従来の単一成分の吸着試験に基づく性能評価では、消化酵素等が存在する体内環境下の吸着現象に対応した適切な評価を得ることは困難であった。
【0005】
また、特許文献2の活性炭吸着剤では、胆汁に多量に含まれるコール酸の存在下でインドールを吸着させる試験により、毒性物質の吸着性能を評価する手法が採用されている。しかしながら、インドールと共存するコール酸は消化酵素等の高分子化合物と比較して分子量が極めて小さいことから、消化酵素等が存在する体内環境下に対応しているとはいえず、消化酵素等の高分子化合物の共存下での吸着現象を適切に評価することは困難であった。
【0006】
そこで本発明者は、消化酵素等が存在する体内環境下での使用を想定して鋭意検討を重ね、毒性物質に相当する低分子化合物と毒素吸着の阻害物となり得る高分子化合物の共存下においても低分子化合物の吸着性能を高水準で維持することができる活性炭吸着剤を発明するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6386571号
【文献】特許第6306721号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記状況に鑑み提案されたものであり、低分子化合物と高分子化合物の共存下でも低分子化合物の吸着性能を高水準で維持することができる活性炭吸着剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、第1の発明は、CO吸着に基づくGCMC法により算出される細孔容積基準の細孔直径のピーク(W)が0.52~0.70nmであり、前記GCMC法より算出される細孔直径1.0nm以下のサブナノ孔の細孔容積(VSN)が0.45~0.55cm/gであり、N吸着に基づくDH法により算出される細孔直径3~50nmの細孔容積(VME)が0.01~1.00cm/gであり、BET法により測定される平均細孔直径が1.7~5.0nmであることを特徴とする活性炭吸着剤に係る。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、下記式(i)に規定する前記細孔直径3~50nmの細孔容積(VME)に対する前記サブナノ孔の細孔容積(VSN)の容積比(VSN/ME)が3~50である活性炭吸着剤に係る。
【0011】
【数1】
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、直径150~500μmの活性炭粒子の平均硬度から算出される粒子径300μmの活性炭粒子の硬度(HD300)が2.0~30.0Nである活性炭吸着剤に係る。
【0013】
第4の発明は、第1又は第2の発明において、前記活性炭吸着剤が、経口投与用腎疾患又は経口投与用肝疾患のための治療剤又は予防剤である活性炭吸着剤に係る。
【0014】
第5の発明は、第3の発明において、前記活性炭吸着剤が、経口投与用腎疾患又は経口投与用肝疾患のための治療剤又は予防剤である活性炭吸着剤に係る。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明に係る活性炭吸着剤によると、CO吸着に基づくGCMC法により算出される細孔容積基準の細孔直径のピーク(W)が0.52~0.70nmであり、前記GCMC法より算出される細孔直径1.0nm以下のサブナノ孔の細孔容積(VSN)が0.45~0.55cm/gであり、N吸着に基づくDH法により算出される細孔直径3~50nmの細孔容積(VME)が0.01~1.00cm/gであり、BET法により測定される平均細孔直径が1.7~5.0nmであるため、低分子化合物と高分子化合物の共存下でも低分子化合物の吸着性能を高水準で維持することができる。
【0016】
第2の発明に係る活性炭吸着剤によると、第1の発明において、前記細孔直径3~50nmの細孔容積(VME)に対する前記サブナノ孔の細孔容積(VSN)の容積比(VSN/ME)が3~50であるため、毒性物質に対する吸着性能の低下を抑制することができる。
【0017】
第3の発明に係る活性炭吸着剤によると、第1又は第2の発明において、直径150~500μmの活性炭粒子の平均硬度から算出される粒子径300μmの活性炭粒子の硬度(HD300)が2.0~30.0Nであるため、活性炭粒子の形状が保持されて吸着性能の低下を抑制することができる。
【0018】
第4の発明に係る活性炭吸着剤によると、第1又は第2の発明において、前記活性炭吸着剤が、経口投与用腎疾患又は経口投与用肝疾患のための治療剤又は予防剤であるため、腎疾患又は肝疾患の原因物質を選択的に吸着する効果が高く、治療剤又は予防剤として好適である。
【0019】
第5の発明に係る活性炭吸着剤によると、第3の発明において、前記活性炭吸着剤が、経口投与用腎疾患又は経口投与用肝疾患のための治療剤又は予防剤であるため、腎疾患又は肝疾患の原因物質を選択的に吸着する効果が高く、治療剤又は予防剤として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る活性炭吸着剤での吸着現象のイメージ図である。
図2】従来の活性炭吸着剤での吸着現象のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の活性炭吸着剤は、消化酵素等が存在する体内環境下での使用を想定した低分子化合物と高分子化合物とが共存する環境下において低分子化合物を効果的に吸着するために、細孔直径のピーク(W)と、細孔直径1.0nm以下のサブナノ孔の細孔容積(VSN)と、細孔直径3~50nmの細孔容積(VME)と、平均細孔直径とによって物性を特定したものである。
【0022】
活性炭吸着剤は、経口投与用の薬剤として好適に使用可能であり、例えば活性炭を吸着剤とし、結合剤としての添加剤により錠剤型に成形される。経口投与用薬剤としての活性炭吸着剤は、特に経口投与用腎疾患又は経口投与用肝疾患のための治療剤又は予防剤として使用される。すなわち活性炭吸着剤では、腎疾患又は肝疾患の原因物質を選択的に吸着する効果が高いことから、経口投与によりその表面の細孔内に疾患や慢性症状の原因物質が吸着、保持され、体外へ排出されて、症状悪化の抑制や病態改善が図られる。また、活性炭吸着剤は予め内服することにより、疾患、慢性症状の原因物質の体内濃度を低減させることが可能であるため、先天的又は後天的に代謝異常やそのおそれがある場合に症状悪化を抑制する予防薬としても有効であると考えられる。
【0023】
腎疾患としては、例えば慢性腎不全、急性腎不全、慢性腎盂腎炎、急性腎盂腎炎、慢性腎炎、急性腎炎症候群、急性進行型腎炎症候群、慢性腎炎症候群、ネフローゼ症候群、腎硬化症、間質性腎炎、細尿管症、リポイドネフローゼ、糖尿病性腎症、腎血管性高血圧、高血圧症候群、又これらの原疾患に伴う続発性腎疾患や透析前の軽度腎不全等が挙げられる。肝疾患としては、例えば、劇症肝炎、慢性肝炎、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、肝線維症、肝硬変、肝癌、自己免疫性肝炎、薬剤アレルギー性肝障害、原発性胆汁性肝硬変、振戦(しんせん)、脳症、代謝異常、機能異常等が挙げられる。
【0024】
活性炭吸着剤の原料は、例えばフェノール樹脂の樹脂炭化物が好ましく使用される。フェノール樹脂の樹脂炭化物は、賦活を高めて比表面積を大きくしながら、ミクロ孔容積の和に対するメソ孔容積の和の割合(容積比)を高めることが可能であり、毒性物質の吸着性能が向上させやすくなる。フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型やレゾール型、両者の複合フェノール樹脂等の公知のものが挙げられる。
【0025】
フェノール樹脂の活性炭は、平均粒子径が20~1000μmの範囲の粒状ないし球状とすることが好ましい。活性炭の平均粒子径が小さすぎると、錠剤としたときに活性炭が緻密になりすぎて崩壊性が悪くなるおそれがある。活性炭の平均粒子径が大きすぎると、結合剤としての添加剤によって活性炭同士が接触し結合する表面積が大きくなるため、結合力が弱くなり錠剤の硬度が低くなってしまうおそれがある。
【0026】
活性炭吸着剤の原料は、フェノール樹脂以外にセルロースを使用することも可能である。セルロースを原料として使用する場合には、マクロ孔の多い活性炭とすることにより、添加剤を用いて錠剤型としたときに活性炭由来の吸着性能の低下を抑制することができると考えられる。
【0027】
細孔直径のピーク(W)は、CO吸着に基づくGCMC法により算出される細孔容積基準の細孔直径の極大値である。この細孔容積(cm/g)は、298Kにおける二酸化炭素吸着等温線を測定してGCMC法による解析を行って算出される、より小さなミクロ孔(直径1.4nm以下)の細孔容積である。細孔容積基準の細孔直径のピークは、活性炭の賦活が進むほど細孔径が大きくなる方向にシフトする。好ましい細孔直径のピークとしては、0.52~0.70nmである。細孔直径のピークが小さすぎると、毒性物質を十分に吸着できないおそれがある。細孔直径のピークが大きすぎると、過度に賦活が進んでいることを示唆し、生体内酵素のような分子量の大きい有用物質を不要に吸着してしまうおそれがある。
【0028】
細孔直径1.0nm以下のサブナノ孔の細孔容積(VSN)は、298Kにおける二酸化炭素吸着等温線を測定してGCMC法による解析を行って算出される値である。サブナノ孔の細孔容積は、毒性物質である低分子化合物の吸着性能の指標に相当する。好ましいサブナノ孔の細孔容積としては、0.45~0.55cm/gである。サブナノ孔の細孔容積が小さすぎると、毒性物質の吸着性能が不十分となるおそれがある。サブナノ孔の細孔容積が一定以上になるとサブナノ孔同士が会合し、1nm以上のより大きなミクロ孔を形成するため、適宜上限が規定される。
【0029】
細孔直径3~50nmの細孔容積(VME)は、N吸着に基づくDH法により算出される値である。この細孔容積は、77Kにおける窒素吸着等温線を測定してDH法(Dollimore-Heal法)による解析を行って算出される細孔直径3~50nmの範囲のメソ孔の細孔容積に相当する。細孔直径3~50nmの細孔容積は、消化酵素等の高分子化合物に対応するメソ孔の細孔容積であり、高分子化合物の吸着性能の指標に相当する。好ましい細孔直径3~50nmの細孔容積としては、0.01~1.00ml/gであり、より好ましくは0.01~0.20ml/gである。細孔直径3~50nmの細孔容積が小さすぎると、体内に存在する様々な酵素類等の高分子化合物の影響により、毒性物質のミクロ孔への拡散経路となるメソ孔が閉塞され、毒性物質の吸着性能が不十分となるおそれがある。細孔直径3~50nmの細孔容積が大きすぎると、生体内酵素のような分子量の大きい有用物質を不要に吸着してしまうおそれがある。
【0030】
平均細孔直径は、BET法により測定される値である。具体的には、細孔の形状を円筒形と仮定し、77Kにおける窒素吸着等温線を測定してDH法、MP法により細孔分布を解析し求めた細孔容積(mL/g)と、77Kにおける窒素吸着等温線を測定してBET法により求めた比表面積(m/g)とを用いて、下記式(ii)から算出される。好ましい平均細孔直径としては、1.7~5.0nmであり、より好ましくは1.7~2.5nmである。平均細孔直径が小さすぎると、毒性物質の吸着性能が低下するおそれがある。平均細孔直径が大きすぎると、生体内酵素のような分子量の大きい有用物質を不要に吸着してしまうおそれがある。
【0031】
【数2】
【0032】
本発明の活性炭吸着剤では、下記式(i)に規定する細孔直径3~50nmの範囲のメソ孔の細孔容積(VME)に対するサブナノ孔の細孔容積(VSN)の容積比(VSN/ME)が3~50であることが好ましい。
【0033】
【数3】
【0034】
この容積比(VSN/ME)は、高分子化合物を対象とする細孔直径3~50nmの範囲のメソ孔の細孔容積に対する低分子化合物を対象とするサブナノ孔の細孔容積の割合であり、3~50であること、すなわち低分子化合物を対象とする細孔容積が高分子化合物を対象とする細孔容積より大きいことを表す。これにより、両者共存下での毒性物質に対する吸着性能の低下を抑制することができる。容積比(VSN/ME)が小さすぎると、低分子化合物を対象とする細孔容積が不足して吸着性能が低下するおそれがある。容積比(VSN/ME)が大きすぎると、毒性物質の拡散経路となるメソ孔の細孔容積が不足して毒性物質の吸着を阻害しやすくなり、毒性物質の吸着性能が低下するおそれがある。
【0035】
また、容積比が上記範囲を満たすことにより、低分子化合物と高分子化合物の共存下での高分子化合物の過剰な吸着を抑制することも可能となる。特に容積比が小さすぎると高分子化合物を対象とする細孔容積が過剰となることから、必要以上に高分子化合物を吸着するおそれがあり、好ましくない。
【0036】
さらに、本発明の活性炭吸着剤では、直径150~500μmの活性炭粒子の平均硬度から算出される粒子径300μmの活性炭粒子の硬度(HD300)が2.0~30.0Nであることが好ましい。平均硬度は、一般に経口投与用の活性炭吸着剤の粒子径である、直径150~500μmの活性炭粒子中の任意の粒子の圧壊強度の平均値として算出される。特に、サンプル間の粒度による硬度のばらつきを抑制するため、任意の20点前後の活性炭粒子の圧壊強度から一次関数を導出し、活性炭吸着剤の最頻粒子径である粒子径300μmの硬度(HD300)を算出することが望ましい。粒子径300μmの活性炭粒子の硬度(HD300)が低すぎると、活性炭粒子が崩壊しやすくなって所望する吸着性能が得られなくなるおそれがある。硬度(HD300)が高すぎると、一般的に賦活が十分に進んでおらず、毒性物質の吸着に必要な細孔が不十分であることを意味する。粒子径300μmの活性炭粒子の硬度が2.0~30.0Nであることにより、活性炭粒子の形状が保持されて吸着性能の低下を抑制することができる。
【0037】
本発明の活性炭吸着剤では、後述の実施例により示される通り、細孔直径のピークが0.52~0.70nm、細孔直径1.0nm以下のサブナノ孔の細孔容積が0.45~0.55cm/g、細孔直径3~50nmの細孔容積が0.01~1.0cm/g、平均細孔直径が1.7~5.0nmである場合に、低分子化合物と高分子化合物との共存下であっても低分子化合物の吸着性能を高水準で維持することが可能となる。
【0038】
そこで、図1,2のイメージ図を用いて、細孔直径のピークと、細孔直径1.0nm以下のサブナノ孔の細孔容積と、細孔直径3~50nmの細孔容積と、平均細孔直径とで特定される活性炭吸着剤の吸着現象について説明する。なお、図において、符号10は活性炭粒子、20はマクロ孔、30はメソ孔、40はミクロ孔、100は従来の活性炭吸着剤の活性炭粒子、X,X1は尿毒素等の低分子化合物、Y,Y1は酵素類等の高分子化合物である。
【0039】
細孔直径のピークと、細孔直径1.0nm以下のサブナノ孔の細孔容積と、細孔直径3~50nmの細孔容積と、平均細孔直径とが前記の通り規定された本発明の活性炭吸着剤は、図1に示すように、活性炭粒子10中のマクロ孔20内に多数のメソ孔30が形成され、各メソ孔30内に更に多数のミクロ孔40が形成された細孔構造が想定される。すなわち、低分子化合物に対応するミクロ孔40とともに高分子化合物に対応するメソ孔30を比較的多く有する構造である。
【0040】
一方、従来の活性炭吸着剤では、ミクロ孔の細孔容積に対してメソ孔の細孔容積を減少させたことから、図2に示すように、活性炭粒子100中のマクロ孔20内のメソ孔30が少なく、各メソ孔30内に多数のミクロ孔40が形成された細孔構造が想定される。このような活性炭粒子100では、ミクロ孔40の細孔容積に対してメソ孔30の細孔容積を減少させていることから、単一成分の吸着試験を行うことにより、低分子化合物Xの吸着性能が高く示されると考えられる。
【0041】
しかしながら、低分子化合物と高分子化合物とが共存する環境下においては、図2に示すように、高分子化合物Y1がメソ孔30に吸着されると、内部に多数のミクロ孔40が形成されたメソ孔30の入口が高分子化合物Y1により塞がれることがある。内部にミクロ孔40が形成されたメソ孔30は、低分子化合物がミクロ孔に吸着される際の細孔拡散に必要な経路(拡散経路)に相当することから、高分子化合物Y1がメソ孔30の入り口を閉塞することによって低分子化合物X1のミクロ孔40への経路が妨げられると考えられる。そして、マクロ孔20内のメソ孔30が少ないことから、低分子化合物X1の拡散経路が妨げられる割合が高くなり、低分子化合物の吸着性能が低下すると考えられる。
【0042】
これに対し、本発明の活性炭吸着剤の活性炭粒子10では、活性炭粒子10中のマクロ孔20内に多数のメソ孔30が形成されていることから、図1に示すように、メソ孔30の一部が高分子化合物Y1により塞がれても、開放された他のメソ孔30が多数存在して低分子化合物X1のミクロ孔40への経路が確保されると考えられる。そのため、低分子化合物X1の拡散経路が妨げられる割合が低くなり、低分子化合物の吸着性能の低下が抑制されると考えられる。
【0043】
本発明の活性炭吸着剤は、活性炭原料を炭化させる炭化工程と、炭化工程により得られた炭化物を賦活させる賦活工程とを行う公知の製造方法によって得られる。炭化工程では、円筒状レトルト電気炉等の焼成炉内に活性炭原料を収容し、炉内を窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下として、300~1000℃、好ましくは450~700℃で、1~20時間かけて炭化させて炭化物が得られる。
【0044】
賦活工程では、炭化工程で得られた炭化物を公知の加熱炉等に収容し、750~1000℃、好ましくは800~1000℃、さらに好ましくは850~950℃で水蒸気賦活が行われる。賦活時間は生産規模、設備等に応じて適宜であり、例えば0.5~50時間程度が好ましい。賦活工程は、水蒸気賦活の他、二酸化炭素等のガス賦活を用いることも可能である。賦活された活性炭は、希塩酸等によって洗浄され、希塩酸洗浄後、pH5~7程度になるまで水洗される。なお、pHは、JIS K 1474(2014)に準拠して測定される値である。
【0045】
希塩酸洗浄後、必要に応じて酸素及び窒素の混合気体中において加熱処理、水洗浄が行われ、灰分等の不純物や加熱処理により残留する塩酸分等が除去される。加熱処理中の酸素濃度は0.1~21体積%、加熱温度は150~1000℃、好ましくは400~800℃であり、加熱時間は15分~2時間程度が好ましい。活性炭吸着剤では、各処理を経ることにより表面酸化物量が調整され、酸洗浄後の加熱処理を通じて、表面酸化物量が増加される。
【0046】
活性炭吸着剤では、形状等は特に限定されるものではないが、賦活処理後、又は賦活処理に続く加熱処理後に、篩別により平均粒子径20~1000μm、好ましくは150~350μmの粒状物ないし球状物の活性炭に選別することが好ましい。粒子径を上記の範囲に選別することにより、活性炭吸着剤の表面積を適切に確保することができる。また、粒子径の調整及び分別により、活性炭吸着剤の吸着速度の一定化や吸着能力の安定化を図ることができる。すなわち、粒子径が揃えられることにより、消化管内での吸着性能が安定し、粒子の硬さを維持して経口投与後(服用後)の消化管内でさらに粉化することが抑制される。なお、活性炭吸着剤の好ましい形状は球状物であるが、製造に起因する真球度のばらつき等も許容されるため、粒状物も含まれる。
【0047】
活性炭原料として使用されるフェノール樹脂は、分子中に芳香環構造を有しているため、炭化収率は高まる。さらに賦活により表面積の大きな活性炭が生じる。賦活後の活性炭は、従来の木質やヤシ殻、石油ピッチ等の活性炭と比較しても、細孔径は小さく充填密度は高い。そのため、尿毒症の原因物質やその前駆物質に代表されるインドキシル硫酸、アミノイソ酪酸、トリプトファン等の窒素を含有する比較的小さい分子量(分子量が数十ないし数百の範囲)のイオン性有機化合物の吸着に適する。また、フェノール樹脂は従来の活性炭原料の木質等と比較して窒素、リン、ナトリウム、マグネシウム等の灰分が少なく単位質量当たりの炭素の比率は高い。このため、不純物の少ない活性炭を得ることができる。
【実施例
【0048】
[活性炭吸着剤の作製]
後述の活性炭原料を使用し、円筒状レトルト電気炉に入れて窒素を封入した後、加熱処理を行い、さらに炉内に水蒸気を注入して賦活処理を行い、試作例1~16の活性炭吸着剤を得た。
【0049】
[試作例1]
活性炭原料として、公知の製造方法により作製したノボラックレゾール複合球状フェノール樹脂を用いた。このフェノール樹脂1kgを円筒状レトルト電気炉に入れて窒素を封入した後、75℃/1時間で昇温し、600℃を1時間維持して炉内の球状フェノール樹脂を炭化させた。その後、得られた炭化物を900℃に加熱し炉内に水蒸気を注入して900℃で4時間維持して水蒸気を添加して賦活化させて、試作例1の活性炭吸着剤を得た。
【0050】
[試作例2]
活性炭原料として、球状フェノール樹脂(リグナイト株式会社製)を用いた。この球場フェノール樹脂10kgを円筒状レトルト電気炉に入れて窒素を封入した後、50℃/1時間で昇温し、600℃を1時間維持して炉内の球状フェノール樹脂を炭化させた。その後、得られた炭化物を900℃に加熱し炉内に水蒸気を注入して900℃で10時間維持して水蒸気を添加して賦活化させて、試作例2の活性炭吸着剤を得た。
【0051】
[試作例3]
試作例3は、賦活時間を27時間としたこと以外は試作例2に準じて得られた活性炭吸着剤である。
【0052】
[試作例4]
試作例4は、賦活時間を33時間としたこと以外は試作例2に準じて得られた活性炭吸着剤である。
【0053】
[試作例5]
試作例5は、賦活時間を37時間としたこと以外は試作例2に準じて得られた活性炭吸着剤である。
【0054】
[試作例6]
試作例6は、フラン樹脂を活性炭原料とした球形吸着炭(テウォン ファーム カンパニー リミテッド製、「レナメジン」)である。
【0055】
[試作例7]
試作例7は、フェノール樹脂を原料とした球形吸着炭(日医工株式会社製、「日医工」)である。
【0056】
[試作例8]
試作例8は、賦活時間を40時間としたこと以外は試作例2に準じて得られた活性炭吸着剤である。
【0057】
[試作例9]
試作例9は、賦活時間を52時間としたこと以外は試作例2に準じて得られた活性炭吸着剤である。
【0058】
[試作例10]
試作例10は、賦活時間を56時間としたこと以外は試作例2に準じて得られた活性炭吸着剤である。
【0059】
[試作例11]
試作例11は、賦活時間を60時間としたこと以外は試作例2に準じて得られた活性炭吸着剤である。
【0060】
[試作例12]
活性炭原料として、旭有機材株式会社製の球状フラン樹脂を用いた。このフラン樹脂500gを円筒状レトルト電気炉に入れて窒素を封入した後、50℃/1時間で昇温し、500℃を1時間維持して炉内の球状フラン樹脂を炭化させた。その後、得られた炭化物を900℃に加熱し炉内に水蒸気を注入して900℃で5時間維持して水蒸気を添加して賦活化させて、試作例12の活性炭吸着剤を得た。
【0061】
[試作例13]
活性炭原料として、試作例1と同様のノボラックレゾール複合球状フェノール樹脂を用いた。このフェノール樹脂6kgを円筒状レトルト電気炉に入れて窒素を封入した後、150~250℃で適宜温度維持し、十分に硬化させた。その後50℃/1時間で昇温し、600℃を1時間維持して炉内の球状フェノール樹脂を炭化させた。その後、得られた炭化物を850℃に加熱し炉内に水蒸気を注入して850℃で36時間維持して水蒸気を添加して賦活化させて、試作例13の活性炭吸着剤を得た。
【0062】
[試作例14]
試作例14は、活性炭原料として、試作例1と同様のノボラックレゾール複合球状フェノール樹脂を使用し、昇温速度を50℃/1時間、賦活時間を6時間としたこと以外は試作例1に準じて得られた活性炭吸着剤である。
【0063】
[試作例15]
活性炭原料として、公知の製造方法により作製した難燃化処理された球状セルロース樹脂を用いた。この難燃化処理されたセルロース樹脂400gを円筒状レトルト電気炉に入れて窒素を封入した後、50℃/1時間で昇温し、250℃で1時間維持した。その後、炭化物を900℃に加熱し炉内に水蒸気を注入して900℃で3時間維持して水蒸気を添加して賦活化させて、試作例15の活性炭吸着剤を得た。
【0064】
[試作例16]
試作例16は、活性炭原料として、試作例1と同様のノボラックレゾール複合球状フェノール樹脂を使用し、昇温速度を50℃/1時間、賦活時間を8時間としたこと以外は試作例1に準じて得られた活性炭吸着剤である。
【0065】
[活性炭の測定]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、サブナノ孔の細孔容積、ウルトラミクロ孔の細孔容積、細孔直径のピーク、全ミクロ孔の細孔容積、細孔直径3~50nmの細孔容積、単分子層吸着量、全比表面積、全細孔容積、平均細孔直径、活性炭粒子の平均直径、活性炭粒子の平均硬度、粒子径300μmの硬度、容積比をそれぞれ求めた。各試作例の測定結果を後述の表1~3に示した。
【0066】
[サブナノ孔の細孔容積]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、サブナノ孔(細孔直径1nm未満)の細孔容積(cm/g)をそれぞれ測定した。サブナノ孔の細孔容積は、比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「BELSORP-miniII」)を用いて、298Kにおける二酸化炭素吸着等温線を測定し、得られた二酸化炭素吸着等温線に対し、活性炭吸着剤をグラファイトカーボン、細孔の形状をスリットモデルに設定してGCMC法の解析を行って求めた。
【0067】
[ウルトラミクロ孔の細孔容積]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、上記測定で得られた二酸化炭素吸着等温線に対し、同様にGCMC法の解析を行い、細孔直径0.7nm未満(ウルトラミクロ孔)の細孔容積(cm/g)をそれぞれ求めた。
【0068】
[細孔直径のピーク]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、上記測定で得られた二酸化炭素吸着等温線に対し、同様にGCMC法の解析を行い、各細孔直径における細孔容積に基づく細孔直径のピークを求めた。
【0069】
[全ミクロ孔の細孔容積]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、自動比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、「BELSORP-miniII」)を用いて、77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、MP法(Micropore法)により細孔分布を解析して0.42~2nm(全ミクロ孔)の細孔容積(cm/g)をそれぞれ求めた。
【0070】
[細孔直径3~50nmの細孔容積]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、上記測定で得られた窒素吸着等温線に対し、DH法により細孔分布を解析して3~50nmの細孔容積(cm/g)をそれぞれ求めた。
【0071】
[単分子層吸着量]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、上記測定で得られた窒素吸着等温線に対し、BET法により単分子層吸着量(cm/g)をそれぞれ求めた。
【0072】
[全比表面積]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、上記測定で得られた窒素吸着等温線に対し、BET法により全比表面積(m/g)をそれぞれ求めた(BET比表面積)。
【0073】
[全細孔容積]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、上記測定で得られた窒素吸着等温線に対し、BET法により全細孔容積(cm/g)をそれぞれ求めた。
【0074】
[平均細孔直径]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、上記測定で得られた全比表面積(m/g)及び全細孔容積(mL/g)の値を用いて、前記式(ii)より平均細孔直径(nm)をそれぞれ求めた。
【0075】
[活性炭粒子の平均直径]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、150~500μmの活性炭粒子の中から任意の20点を採取し、デジタルマイクロメーター(シンワ測定株式会社製)を用いて粒子直径を測定し、その平均値を平均直径(μm)とした。
【0076】
[活性炭粒子の平均硬度]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、前記のデジタルマイクロメーターで直径を測定した活性炭粒子について、デジタルフォースゲージ(株式会社イマダ製、「ZTA-50N」)を用いて、活性炭粒子が破壊されるまでの間における最大の圧壊強度を測定し、その平均値を平均硬度(N)とした。
【0077】
[粒子径300μmの硬度]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、前記方法で測定した20点の活性炭粒子の粒子直径と圧壊強度のデータをプロットし、表計算ソフトにて一次関数を導出した。外れ値を除いたグラフの相関係数が0.7以上になることを確認した後、一次関数の数式から粒子径300μmの硬度を求めた。
【0078】
[容積比]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、上記測定で得られたサブナノ孔の細孔容積(cm/g)と細孔直径3~50nmの範囲のメソ孔の細孔容積(cm/g)の値を用いて、前記式(i)より容積比をそれぞれ求めた。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
[吸着性能試験]
試作例1~16の活性炭吸着剤について、低分子化合物と高分子化合物の共存下での低分子化合物の吸着性能試験として、毒素吸着試験と、共存吸着試験(1)及び共存吸着試験(2)とを行った。
【0083】
[毒素吸着試験]
毒素吸着試験では、毒性物質として尿毒症等の原因となり得る含窒素低分子化合物である「トリプトファン」、「インドール」、「インドール酢酸」の3種類の物質を選択し、pH7.4のリン酸緩衝液に各物質をそれぞれ溶解させて0.1g/lの濃度の3毒素の混合溶液を調製した。3毒素の混合溶液に、予め静置乾燥機内120℃で15分以上加熱乾燥させた試作例1~16の活性炭吸着剤をそれぞれ0.1g添加し、37℃の温度で3時間接触振とうした。その後、メンブレンフィルターを用いて濾過して得た濾液について、高速液体クロマトグラフ(HPLC)(アジレント・テクノロジー株式会社製、「1260 Infinity II LC システム」)を用いてグラジエント溶離により、各被吸着物質(トリプトファン、インドール、インドール酢酸)の吸着前後のピーク面積の差から吸着率(%)を求めた。
【0084】
グラジエント溶離には、移動相Aとして0.05%トリフルオロ酢酸入り水溶液を、移動相Bとして0.05%トリフルオロ酢酸入りエタノール溶液を用いた。分離カラムとして「XBridge(登録商標) Premier Protein BEH C4 300Å 2.5μm Column」(日本ウォーターズ株式会社製)を用い、カラム加熱温度を60℃に設定し、UV波長278nmで対象物質を検出した。詳細なグラジエント溶離条件については表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
[共存吸着試験(1)]
共存吸着試験(1)では、毒性物質として「トリプトファン」、「インドール」、「インドール酢酸」の3種類の物質、酵素類(高分子化合物)として「α-アミラーゼ」の1種類の物質をそれぞれ選択し、pH7.4のリン酸緩衝液に各毒性物質をそれぞれ0.1g/l、α-アミラーゼを1g/l溶解させて3毒素・酵素の混合溶液を調製した。それ以外は毒素吸着試験と同様の手順で各被吸着物質(トリプトファン、インドール、インドール酢酸、α-アミラーゼ)の吸着率(%)を求めた。なお、α-アミラーゼは毒性物質と比べ分子量が高く、検出されるピーク強度が小さいため濃度を10倍とした。
【0087】
[共存吸着試験(2)]
共存吸着試験(2)では、毒性物質として「トリプトファン」、「インドール」、「インドール酢酸」の3種類の物質、酵素類として「α-アミラーゼ」、「ペプシン」、「トリプシン」、「リパーゼ」の4種類の物質をそれぞれ選択し、pH7.4のリン酸緩衝液に各物質をそれぞれ溶解させて0.1g/lの濃度の3毒素・4酵素の混合溶液を調製した。それ以外は毒素吸着試験と同様の手順で各被吸着物質(トリプトファン、インドール、インドール酢酸)の吸着率(%)を求めた。なお、共存吸着試験(2)では、酵素の分離が技術的に困難であるため、吸着率は毒性物質のみを算出した。
【0088】
[吸着低減率の算出]
毒素吸着試験、共存吸着試験(1)及び共存吸着試験(2)の各試験について、算出された3毒素(トリプトファン、インドール、インドール酢酸)の吸着率から、各吸着試験における毒素の平均吸着率([3毒素の吸着率]÷3)を算出した。毒素吸着試験における毒素の平均吸着率を標準吸着率、共存吸着試験(1)又は共存吸着試験(2)における毒素の平均吸着率を各共存吸着試験の共存吸着率とし、下記式(iii)を用いて吸着低減率(%)を算出した。なお、吸着低減率は、高分子化合物が共存しない環境下と比較して、高分子化合物の共存下において低分子化合物の吸着率が低下する程度を示す指標である。
【0089】
【数4】
【0090】
[吸着性能の評価]
トリプトファン、インドール酢酸、インドールの分子量はそれぞれ204、175、117の順に小さく、特にインドールは疎水性の高い物質のため活性炭に極めて吸着され易く、共存物質による吸着率への影響を受けにくい。そこで、各吸着試験において、トリプトファンの吸着率、インドール酢酸の吸着率、毒素の平均吸着率については、50%以上の場合を「良(○)」、50%未満の場合を「不可(×)」とそれぞれ評価し、インドールの吸着率は、95%以上の場合を「良(○)」、95%未満の場合を「不可(×)」と評価した。また、α-アミラーゼの吸着率、吸着低減率は、30%未満の場合を「良(○)」、30%以上の場合を「不可(×)」と評価した。各結果及び評価について、表5~7に示す。
【0091】
【表5】
【0092】
【表6】
【0093】
【表7】
【0094】
[結果と考察]
試作例1~16の活性炭吸着剤に関し、毒性物質(低分子化合物)と酵素類(高分子化合物)が共存しない毒素吸着試験と、複数の毒性物質と1種の酵素類が共存する共存吸着試験(1)と、複数の毒性物質と複数の酵素類が共存する共存吸着試験(2)とを行い、表5~7に示す測定結果から低分子化合物と高分子化合物の共存下での吸着性能の変化について検討した。
【0095】
毒素吸着試験では、高分子化合物と共存しない環境下での複数の毒性物質に対する吸着性能を測定した。試作例1では、毒素の平均吸着率が基準値を上回っていたものの、トリプトファンとインドール酢酸の吸着性能が不足していた。また試作例2は、十分な毒素吸着性能を有していなかった。一方、試作例3~16は、いずれも良好な毒素吸着性能を示した。
【0096】
共存吸着試験(1)では、複数の毒性物質と1種の酵素類が共存する環境下での複数の毒性物質に対する吸着性能を測定した。試作例1~7では、一部でインドールの吸着率が基準値を上回っていたものの、全体の傾向として各毒性物質の吸着率が基準値を下回り、高分子化合物1種の共存下で十分な毒素吸着性能が得られないことが示された。
【0097】
また、高分子化合物の共存下での低分子化合物の吸着率低下の指標である吸着低減率に着目すると、試作例1~7のうち毒素吸着試験での吸着率が比較的低い値を示した試作例1,2の吸着低減率は低く、毒素吸着試験での吸着率が良好な試作例3~7の吸着低減率は高い値であった。このことから、試作例3~7では、毒素吸着性能は良好であるにもかかわらず、高分子化合物1種の共存下では毒素吸着性能が著しく低下することが示された。なお、試作例1,2は、毒素吸着性能が比較的低かったことから吸着低減率は抑えられたが、共存下での毒素吸着性能は不十分であることが示された。
【0098】
一方、試作例8~16では、高分子化合物1種の共存下でも各毒性物質及び毒素平均の吸着率がいずれも良好であり、吸着低減率も低く良好であった。従って、試作例8~16は、毒素吸着性能が良好であるとともに、高分子化合物1種の共存下においても毒素吸着性能が高水準で維持されることが示された。
【0099】
共存吸着試験(2)では、複数の毒性物質と複数の酵素類が共存する環境下での複数の毒性物質に対する吸着性能を測定した。試作例1~7及び試作例8~16では、共存吸着試験(1)とほぼ同様の傾向が示された。従って、試作例1~7では複数の高分子化合物の共存下で毒素吸着性能が低下し、試作例8~16では複数の高分子化合物の共存下であっても毒素吸着性能が高水準で維持されることが示された。
【0100】
この通り、共存する高分子化合物が1種か複数かにかかわらず、高分子化合物の共存下において、試作例8~16では毒素吸着性能を高水準で維持することができ、試作例1~7では毒素吸着性能が低下することがわかった。そこで、試作例8~16と試作例1~7との物性の相違について、表1~3から検討する。
【0101】
まず、毒性物質の吸着性能について、毒性物質(低分子化合物)の吸着に対応すると考えられるサブナノ孔(細孔直径1nm未満)の細孔容積と、ウルトラミクロ孔(細孔直径0.7nm未満)の細孔容積とに基づいて、試作例1,2と試作例3~16とを比較する。サブナノ孔の細孔容積では、毒素吸着試験における各毒性物質の吸着性能が不十分であった試作例1,2より、吸着性能が良好であった試作例3~16がいずれも大きい値であった。一方、ウルトラミクロ孔の細孔容積では異なる傾向が見られなかった。そうすると、毒性物質の吸着性能の指標としてはサブナノ孔の細孔容積が有効であり、試作例3~16の測定結果から好ましい条件は0.45~0.55cm/g程度であると考えられる。
【0102】
次に、共存下での毒性物質の吸着性能について、細孔直径のピーク、全ミクロ孔の細孔容積、細孔直径3~50nmの細孔容積、単分子層吸着量、全比表面積、全細孔容積、平均細孔直径、活性炭粒子の平均直径、活性炭粒子の平均硬度、粒子径300μmの硬度、容積比に基づいて、試作例3~7と試作例8~16とを比較する。そうすると、全ミクロ孔の細孔容積、単分子層吸着量、全比表面積、全細孔容積、活性炭粒子の平均直径、活性炭粒子の平均硬度、粒子径300μmの硬度について、試作例3~7と試作例8~16とで異なる傾向が見られなかった。
【0103】
一方、細孔直径のピーク、細孔直径3~50nmの細孔容積、平均細孔直径、容積比では、試作例3~7と試作例8~16とで異なる傾向が見られた。細孔直径のピークは、CO吸着に基づくGCMC法によりミクロ孔を測定範囲とするから、ミクロ孔中の細孔直径のピークに相当する。そこで、試作例3~7と試作例8~16とを比較すると、試作例8~16の細孔直径のピークはいずれも試作例3~7の細孔直径のピークより大きい値であった。
【0104】
細孔直径3~50nmの細孔容積は、DH法の測定範囲であるメソ孔のうち、酵素類(高分子化合物)の吸着に対応する細孔直径3~50nmの範囲を対象とし、酵素類の吸着性能の指標として使用可能である。そこで、試作例3~7と試作例8~16とを比較すると、試作例8~16の細孔直径3~50nmの細孔容積はいずれも試作例3~7の細孔直径3~50nmの細孔容積より大きい値であった。
【0105】
平均細孔直径は、活性炭吸着剤の吸着性能の指標の1つとして使用可能である。そこで、試作例3~7と試作例8~16とを比較すると、試作例8~16の平均細孔直径は概ね試作例3~7の平均細孔直径より大きい値であった。
【0106】
従って、活性炭吸着剤では、毒素吸着性能の指標となるサブナノ孔の細孔容積に加えて、細孔直径のピークと、細孔直径3~50nmの細孔容積と、平均細孔直径とで特定される物性が、低分子化合物と高分子化合物の共存下で低分子化合物(毒性物質)の吸着性能を高水準で維持することを可能とするための指標として有効であるといえる。
【0107】
そこで、細孔直径のピーク、細孔直径3~50nmの細孔容積、平均細孔直径について、上記試作例3~7と試作例8~16との関係を踏まえて、各測定結果から好ましい条件を導くと、細孔直径のピークは0.52~0.70nm程度、細孔直径3~50nmの細孔容積は0.01~1.00cm/g程度、平均細孔直径は1.7~5.0nm程度であると考えられる。そうすると、毒性物質(低分子化合物)と酵素類(高分子化合物)の共存下での毒素吸着に好適な活性炭吸着剤は、サブナノ孔の細孔容積が0.45~0.55cm/g程度であることによって優れた毒素吸着性能を有するとともに、細孔直径のピークが0.52~0.70nm程度、細孔直径3~50nmの細孔容積が0.01~1.00cm/g程度、平均細孔直径が1.7~5.0nm程度の物性をすべて満たすことを要すると考えられる。
【0108】
また、共存下の毒素吸着に好適な試作例8~16について比較すると、共存吸着試験(1)におけるα-アミラーゼの吸着率について、試作例16が他の試作例8~15と比較して高い値であった。活性炭吸着剤の品質をより高めることを考慮すると、共存下でのα-アミラーゼ等の酵素類の吸着率は、低い方が消化不良や食欲不振等の副作用を引き起こしにくいため好ましい。そこで、試作例16と試作例8~15の物性を比較すると、試作例16の容積比が他の試作例8~15と比較して小さい値であった。
【0109】
容積比は、酵素類の吸着性能の指標である細孔直径3~50nmの細孔容積に対する毒性物質の吸着性能の指標であるサブナノ孔の細孔容積の割合であり、活性炭吸着剤中のサブナノ孔と細孔直径3~50nmの細孔のバランスを表す。試作例16は、容積比が0.54であることから、サブナノ孔の細孔容積と比較して細孔直径3~50nmの細孔容積が過剰であることを示している。そのため、試作例16では必要以上にα-アミラーゼを吸着したと考えられる。そこで、試作例8~15の測定結果から、α-アミラーゼ等の酵素類(高分子化合物)の過剰な吸着を回避する好ましい条件は、容積比が3~50程度であると考えられる。
【0110】
なお、活性炭吸着剤は、経口投与用の薬剤として錠剤型等に成形されることを想定すると、所定の硬度を備えることが好ましい。活性炭吸着剤の好ましい硬度としては、粒子径300μmの活性炭粒子の硬度が2.0~30.0N程度である。従って、試作例1~16の活性炭吸着剤のうち、試作例8~13の活性炭吸着剤が共存下での毒素吸着性能、酵素類の過剰な吸着の回避、硬度のいずれの性能においても良好であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の活性炭吸着剤は、低分子化合物と高分子化合物の共存下で低分子化合物の吸着性能を高水準で維持することができることから、低分子化合物である毒性物質と高分子化合物である酵素類とが共存する体内環境下で優れた毒素吸着性能を発揮することが可能となる。そのため、従来の活性炭吸着剤の代替として有望である。
【符号の説明】
【0112】
10 活性炭粒子
20 マクロ孔
30 メソ孔
40 ミクロ孔
100 従来の活性炭吸着剤の活性炭粒子
X,X1 低分子化合物
Y,Y1 高分子化合物
【要約】
【課題】低分子化合物と高分子化合物の共存下でも低分子化合物の吸着性能を高水準で維持することができる活性炭吸着剤を提供する。
【解決手段】CO吸着に基づくGCMC法により算出される細孔容積基準の細孔直径のピーク(Wp)が0.52~0.70nmであり、前記GCMC法より算出される細孔直径1.0nm以下のサブナノ孔の細孔容積(VSN)が0.45~0.55cm/gであり、N吸着に基づくDH法により算出される細孔直径3~50nmの細孔容積(VME)が0.01~1.00cm/gであり、BET法により測定される平均細孔直径が1.7~5.0nmである。
【選択図】図1
図1
図2