(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】隠れフローティングイメージ
(51)【国際特許分類】
B42D 25/41 20140101AFI20241226BHJP
B42D 25/23 20140101ALI20241226BHJP
B42D 25/24 20140101ALI20241226BHJP
B42D 25/29 20140101ALI20241226BHJP
【FI】
B42D25/41
B42D25/23
B42D25/24
B42D25/29
(21)【出願番号】P 2022535759
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(86)【国際出願番号】 EP2020085824
(87)【国際公開番号】W WO2021116440
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-08-08
(32)【優先日】2019-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522230381
【氏名又は名称】タレス ディアイエス フランス エスアーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タデッセ ジー, ニガツ
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-512545(JP,A)
【文献】国際公開第2015/148878(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/209284(WO,A1)
【文献】特開2017-156703(JP,A)
【文献】特表2018-517587(JP,A)
【文献】特表2018-514412(JP,A)
【文献】特表2013-504451(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0186165(US,A1)
【文献】特表2007-516478(JP,A)
【文献】特表2004-506547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 15/02
25/00-25/485
G02B 1/00-1/08
3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
データキャリア(1)に少なくとも1つのセキュリティエレメント(9)を生成する方法であって、
‐電磁放射(R)を放出するように構成されている放射源(6)を設けるステップと、
‐前記データキャリア(1)に少なくとも1つの誘導層(2)と少なくとも1つの処理層(3)とを備えるステップであって、前記少なくとも1つの処理層(3)は、伸長方向(E)に関して前記少なくとも1つの誘導層(2)の後に配置され、前記少なくとも1つの誘導層(2)が、衝突する前記電磁放射(R)を前記少なくとも1つの処理層(3)に導くように構成され、前記少なくとも1つの処理層(3)が、前記電磁放射(R)と相互作用して硬化するステップと、
‐前記伸長方向(E)に関して、前記誘導層(2)と前記放射源(6)との間にあって、前記誘導層(2)の
前に配置される少なくとも1つのマスキング要素(5)を備えたマスキング層(4)を設けるステップと、
‐前記放射源(6)からの前記電磁放射(R)を前記マスキング層(4)を通して前記データキャリア(1)上に照射するステップとを含み、
前記マスキング層(4)の前記少なくとも1つのマスキング要素(5)のない領域(7a)に衝突する電磁放射(R)が、第1の強度の放射特性(Ra)を有する電磁放射として前記少なくとも1つの処理層(3)に衝突して第1の硬化状態に硬化された第1の衝突領域(8a)を形成するステップと、
‐前記マスキング層(4)の前記少なくとも1つのマスキング要素(5)を含む領域(7b)に衝突する電磁放射(R)が、前記第1の強度の放射特性(Ra)よりも低い第2の強度の電磁放射として前記少なくとも1つの処理層(3)に衝突して第2の硬化状態に硬化された第2の衝突領域(8b)を形成するステップと、を含み、
‐前記少なくとも1つの処理層(3)をモノマー及びアクリルエラストマの混合物で構成
し、前記硬化中の前記混合物の相変化によ
り前記第1の衝突領域(8a)と前記第2の衝突領域(8b)との透明度を異ならしめ
ること、を特徴とする方法。
【請求項2】
前記マスキング層(4)が、前記伸長方向(E)に関して少なくとも1つの前記誘導層(2)から距離(A)を置いて配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記誘導層(2)及び前記処理層(3)が、前記伸長方向(E)に関して互いに直に隣接して配置される、又は
前記誘導層(2)及び前記処理層(3)が、前記伸長方向(E)に関して互いから距離(B)を置いて配置される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記誘導層(2)及び前記処理層(3)が、前記データキャリア(1)内で永久的に固定されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記放射源(6)と前記マスキング層(4)の間の距離(C)を、前記伸長方向(E)に関して変化させて配置し、及び/又は
前記マスキング層
(4)と前記誘導層(2)の間の距離(A)を、前記伸長方向(E)に関して変化させて配置し、前記第1の強度の放射特性(Ra)と前記第2の強度の放射特性(Rb)とを
前記セキュリティエレメント(9)を生成する過程において変化させる請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記誘導層(2)が少なくとも1つの誘導構造(10)を備え、少なくとも1つの前記誘導構造(10)が、衝突する電磁放射(R)を前記伸長方向(E)に関して特定の焦点距離に集束させるように構成されており、少なくとも1つの前記誘導構造(10)が、球面及び/又は半球レンズアレイのレンズ構造に対応する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記マスキング層(4)が、少なくとも1つの透明及び/又は熱可塑性ポリマー、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリブチレンのうちの少なくとも1つを含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの前記マスキング要素(5)が、不透明であり、前記マスキング層(4)内及び/又は上の金属化合物、プリント及び/又はエンボスに対応する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の強度の放射特性(Ra)及び前記第2の強度の放射特性(Rb)が、いずれの場合も電磁放射の強度に相当する、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記誘導層(2)は、アクリル樹脂、アクリルポリマー、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、及びポリエチレンのうちの少なくとも1つを含む透明ポリマー及び/又は熱可塑性ポリマーを含み、
少なくとも1つの前記処理層(3)は、ポリエステル、アクリルエラストマ、ウレタン、アクリレート、メタクリレート、UV硬化樹脂、又はカチオン硬化樹脂のポリマーの少
なくとも1つを含む、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記処理層(3)の前記第1の硬化状態に硬化される前記第1の衝突領域(8a)及び前記処理層(3)の前記第2の硬化状態に硬化される前記第2の衝突領域(8b)は屈折率が異なる、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記セキュリティエレメント(9)
は、電磁スペクトルの赤外領域及び/又は可視領域及び/又は紫外領域の電磁放射で照明されると観察者に見える
ようになる、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
1つ以上の追加層(11)が、前記誘導層(2)と前記処理層(3)の間に設けられ、1つ以上の前記追加層(11)が、透明及び/又は熱可塑性ポリマーに対応する、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の少なくとも1つのセキュリティエレメントをデータキャリアに生成する方法、及び請求項15に記載の少なくとも1つのセキュリティエレメントを備えたデータキャリアにそれぞれ関する。
【背景技術】
【0002】
通貨及び文書の認証及び識別並びに真正品と模倣品の区別を行う様々な解決策が存在する。これに関連して、保護すべき物品に組み込むことができ、微細構造の助けを借りて導入される電磁放射により生成される1つ以上のセキュリティエレメントを備えるデータキャリアの生成が近年一般的なことになりつつある。具体的には、いわゆるフローティングイメージであるセキュリティエレメントが、高エネルギー放射、具体的にはレーザ放射を、レーザ放射を集束させることによりデータキャリアに焼けを発生させるミクロンサイズの透明レンズに透過させることによって作成される可能性がある。本発明との関連において、フローティングイメージは立体的に見える画像、すなわち奥行きを感じさせるイメージと理解される。
【0003】
フローティングイメージの形態のセキュリティエレメントを備えたデータキャリアは、高いレベルの偽造セキュリティを提供する。ただし、その生成は骨の折れる費用のかかるプロセスである。
【0004】
すなわち、高い安全要件や特定の専門知識などの、レーザ放射の使用に関連する高い要求に加えて、機器も高価である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、簡易であるが、同時に高いレベルの偽造セキュリティを提供する少なくとも1つのセキュリティエレメントをデータキャリアに生成する方法を提供することである。
【0006】
この目的は、請求項1に記載の方法によって達成される。具体的には、少なくとも1つのセキュリティエレメントをデータキャリアに生成する方法であって、i)電磁放射を放出するように構成されている放射源を設けるステップ、ii)少なくとも1つの誘導層及び少なくとも1つの処理層を備えるデータキャリアを設けるステップ、iii)少なくとも1つのマスキング要素を含む少なくとも1つのマスキング層を設けるステップ、及びiv)放射源からの電磁放射をマスキング層を通してデータキャリア上に照射するステップを含む方法が提供される。少なくとも1つの処理層は、伸長方向に関して少なくとも1つの誘導層の後に配置され、少なくとも1つのマスキング層は、伸長方向に関して少なくとも1つの誘導層の前に配置される。つまり、少なくとも1つのマスキング層は放射源の後に配置され、少なくとも1つの誘導層はマスキング層の後に配置され、次に少なくとも1つの処理層は少なくとも1つの誘導層の後に配置される。
【0007】
再度換言すれば、少なくとも1つの誘導層は、少なくとも1つのマスキング層と少なくとも1つの処理層との間に配置される。少なくとも1つの誘導層は、衝突する電磁放射を少なくとも1つの処理層内に導くように構成されており、少なくとも1つの処理層は、電磁放射と相互作用すると硬化可能である。マスキング層のマスキング要素がない領域に衝突する電磁放射が、第1の放射特性を有する電磁放射として少なくとも1つの処理層に衝突して、少なくとも1つの処理層は上記衝突領域において第1の硬化状態に硬化される。一方、少なくとも1つのマスキング要素を含むマスキング層の領域に衝突する電磁放射は、第1の放射特性と異なる第2の放射特性を有する電磁放射として少なくとも1つの処理層に衝突して、少なくとも1つの処理層は上記衝突領域において第2の硬化状態に硬化される。処理層の第2の硬化状態はセキュリティエレメントを構成する。
【0008】
つまり、硬化性処理層は、異なる放射特性を有する電磁放射の衝突によって異なる硬化状態に硬化される。異なる放射特性は、マスキング層、具体的にはマスキング層におけるマスキング要素の有無によって生じる。その際、マスキング要素の形状は処理層で再現されて、マスキング要素の形状を有するセキュリティフィーチャが処理層に生成される。
【0009】
異なる硬化状態の数は、マスキング層のマスキング要素の数に依存する。例えばマスキング層が単一のマスキング要素を含む場合は、2つの異なる特性の電磁放射がマスキング層を出て処理層に向かうことになる。すなわち、一方はマスキング要素の領域における第1の放射特性を有する電磁放射であり、他方はマスキング要素のない領域における第2の放射特性を有する電磁放射である。一方、マスキング層が互いに異なる2つ以上のマスキング要素を含む場合は、上記2つ以上のマスキング要素は、同様に互いに異なる2つ以上の放射特性を有する電磁放射をもたらすことになる。
【0010】
その結果、2つ以上のセキュリティエレメントを作成することができる。1つのマスキング要素の存在により生じた1つのセキュリティエレメントについて本明細書で提供されるいずれの説明も、2つ以上のセキュリティエレメントを生成するために2つ以上のマスキング要素が存在する状況に同様に当てはまる。したがって、処理層が2つ以上の異なる硬化状態に硬化されて、セキュリティエレメントが生成される。衝突する電磁放射を処理層内に導くように構成されている少なくとも1つの誘導層の存在に起因して、セキュリティエレメントはいわゆるフローティングエレメントに対応する。このため、誘導層は、放射源から放出される衝突する電磁放射を硬化性処理層内に導く。したがって、製造プロセス中に誘導が達成される。しかしながら、以下でより詳細に説明されるように、誘導層は好ましくはデータキャリアに存在したままであるため、フラッシュライトなどの光源から放出された電磁放射も処理層に導かれて、フローティングセキュリティエレメントが観察者に見えるようになる。
【0011】
したがって、要約すれば、誘導層はセキュリティエレメントの作成だけではなく、フローティングセキュリティエレメントを観察者に見えるようにすることにも関与していると言える。
【0012】
いずれにせよ、好ましくは少なくとも1つの誘導層は、放射源からの又は光源からの衝突する電磁放射が少なくとも1つの処理層内に導かれるように構成されている。
【0013】
好ましくは、放射源は、電磁スペクトルの紫外領域及び/又は電磁スペクトルの可視領域及び/又は電磁スペクトルの赤外領域の電磁放射を放出するように構成されている放射源に対応する。好ましくは、以下でより詳細に更に説明されるように、処理層を硬化させるのに使用される電磁放射は、ブラックライトランプなどのUVエミッタから放出される紫外線に対応する。
【0014】
ただし、硬化性処理層の化学的特性に依存して、他の放射源ひいては放射波長も使用可能である。したがって、フローティングイメージがレーザや他の高度な放射線発生システムによって生成される従来技術と異なり、本発明はブラックライトランプなどの単純な放射源を使用する。このようにして、高いレベルの偽造セキュリティを提供するが、同時に簡単な方法で生成されるフローティングセキュリティエレメントが生成される。
【0015】
マスキング層は、伸長方向に関して少なくとも1つの誘導層から距離を置いて配置される可能性がある。つまり、好ましくは、マスキング層は、データキャリアとは別体に構成され、かつデータキャリアから離間しているコンポーネントに対応する。換言すれば、マスキング層とデータキャリアとの間に物理的接触が確立されないことが好ましい。
【0016】
誘導層及び処理層は、伸長方向に関して互いに直に隣接して配置される可能性がある。代替的に、誘導層及び処理層は、伸長方向に関して互いから距離を置いて配置される可能性がある。前者の場合、「直に隣接して」なる表現は、間に他の要素が配置されることなく、又は間に接着剤などの別の要素が配置されて、誘導層が処理層上に直接適用されることを意味する。ただし、上記別の要素は、単に誘導層を処理層と接続する目的を果たす。一方、後者の場合、誘導層と処理層の間に1つ以上の層が配置されていると考えられる(以下に更に提供される説明参照)。
【0017】
好ましくは、誘導層及び処理層は、データキャリア内で永久的に固定されている。永久的に固定されているとは、生成する方法の間又は生成後に誘導層が処理層から除去されないことを意味する。このことは、例えば、好ましくは生成する方法の間のみ存在するが、その後脇に置かれるマスキング層とは対照的である。
【0018】
放射源とマスキング層の間の距離は、伸長方向に関して変化する可能性がある。付加的又は代替的に、マスキング層と誘導層の間の距離は、伸長方向に関して変化する可能性がある。放射源と、マスキング層、ひいては少なくとも1つのマスキング要素の間の距離を変化させることによって、及び/又はマスキング層、ひいては少なくとも1つのマスキング要素と、誘導層の間の距離を変化させることによって、仮想セキュリティエレメントの移動の深さ及び幅を調整することが可能である。このため、マスキング層と誘導層の間の距離が一定である特定のセキュリティエレメントを生成すること、及び必要に応じて上記距離を別のセキュリティエレメントの生成中に一定に保たれる別の距離に変化させることが好ましい。
【0019】
好ましくは、誘導層は、衝突する電磁放射を伸長方向に関して特定の焦点距離に集束させるように構成されており、かつ好ましくは球面及び/又は半球レンズアレイなどのレンズ構造に対応する少なくとも1つの誘導構造を備える。レンズアレイは、特定のパターンに配置されている複数のレンズとして理解される可能性がある。好ましくは、レンズ及びそれらの特定の配置は、観察者が完成したデータキャリアを異なる視野角から見たときにセキュリティエレメントが違って見えるように設計される。すなわち、レンズアレイを通して見たセキュリティエレメントに奥行きの錯覚が与えられ、データキャリアを異なる視野角から見たときに変化又は移動するように見える。誘導構造の焦点距離に応じて、処理層内のセキュリティエレメントの高さを調整することができる。これに関して、セキュリティエレメントのサイズ、すなわちセキュリティエレメントの空間的広がりが、レンズ構造の焦点距離によって決定され、ひいては調整されるが、上記のようにマスキング層とレンズ構造の間の距離の調整から生じるサイズ調整と比較すると程度が小さいことに留意されたい。
【0020】
少なくとも1つの誘導構造、好ましくは誘導構造を含む誘導層全体は、注型及び硬化によって生成される可能性がある。例えば、誘導構造又は誘導層全体を構成する液体材料が、誘導構造又は誘導層全体それぞれの所望の形状の空洞を備えるモールドに注入される可能性がある。そして上記液体材料は固体化することができる。使用する材料に応じて、固体化は、UV硬化材料の場合に電磁放射、例えばUV光を照射することによって、実行される可能性がある、又は支援される。
【0021】
好ましくは、マスキング層は、少なくとも1つの透明な及び/又は熱可塑性のポリマー、特に好ましくは、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリブチレンのうちの少なくとも1つを含む。
【0022】
少なくとも1つのマスキング要素は、好ましくは本質的に不透明であり、好ましくはマスキング層内及び/又は上の金属化合物、プリント及び/又はエンボスに対応する。
【0023】
つまり、少なくとも1つのマスキング要素を含むマスキング層であって、透明領域及び不透明領域を備えるマスキング層が好ましい。本質的に不透明であるとは、衝突する電磁放射が少なくとも部分的に減衰されることを意味する。
【0024】
例えば、マスキング要素が金属化合物に対応する場合、上記金属化合物に光の通過を可能にする小さい穴又はスリットを設けることが考えられる。様々な金属化合物がマスキング要素として考えられる。原則として、少なくとも部分的な不透明度を示す固体金属化合物が使用される可能性がある。同様に、好ましくは、プリント又はエンボスの形態のマスキング要素が、ある程度の光の通過を可能にするように構成されている。エンボスの形態のマスキング要素の場合、元の、すなわちエンボス加工されていないマスキング層は透明な材料によって提供されることが好ましい。エンボス加工後、エンボスは、エンボスを通過する電磁放射の経路を、マスキング層のエンボスが存在しない領域を通過する電磁放射の経路と比較して変えるマスキング層の構造に対応する。処理層に現れるのは、電磁放射の特性のこの違いである。
【0025】
特に好ましくは、マスキング層及び少なくとも1つのマスキング要素は、少なくとも1つのマスキング要素を通過する電磁放射の強度が、マスキング層のマスキング要素が存在しない領域を通過する電磁放射の強度よりも低くなるように構成されている。
【0026】
好ましくは、第1の放射特性及び第2の放射特性は、いずれの場合も電磁放射の強度に相当する。したがって、放射源から放出されている電磁放射が、マスキング層のマスキング要素のない領域においてマスキング層と衝突する場合、上記電磁放射は、マスキング層のマスキング要素の領域を通過する電磁放射と関連する第2の強度よりも高い第1の強度を有する電磁放射としてマスキング層を通過することになる。その結果、伸長方向に関してマスキング層の後に配置されるデータキャリアは、異なる強度の電磁放射で照射されることになる。
【0027】
好ましくは、誘導層は、少なくとも1つのポリマー、好ましくは少なくとも1つの透明ポリマー及び/又は熱可塑性ポリマーを含む。特に好ましくは、誘導層は、アクリル樹脂、アクリルポリマー、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、及びポリエチレンのうちの少なくとも1つを含む。付加的又は代替的に、好ましくは、少なくとも1つの処理層は、ポリエステル、アクリルエラストマ、ウレタン、アクリレート、メタクリレート、UV硬化樹脂、及びカチオン硬化樹脂などのポリマーの少なくとも1つを含む。より好ましくは、処理層は、エポキシアクリルなどのエポキシ樹脂アクリル樹脂、ウレタンアクリレート、エポキシメタクリレートなどのメタクリレート樹脂、及びウレタンメタクリレートのうちの少なくとも1つを含む。特に好ましくは、処理層は、エトキシ化ノニルフェノールアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、及びアクリルエラストマのうちの少なくとも1つを含む。
【0028】
つまり、誘導層及び/又は処理層が上記の成分の1つから構成されることが考えられる。ただし、誘導層及び/又は処理層が上記の成分の2つ以上の混合物に対応することも考えられる。好ましい誘導層が、注型及び硬化されたアクリル系の半球形状のストリクタから構成される。
【0029】
例えば、処理層の第1の好ましい処方は、エトキシ化ノニルフェノールアクリレート(例えばSartomer SR 404)、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(例えばSartomer SR 348)、及び光開始剤を含む可能性がある。好ましくは、上記成分は以下の量で存在する。
‐エトキシ化ノニルフェノールアクリレート:40~80重量パーセント、好ましくは約60重量パーセント;
‐エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート:15~45重量パーセント、好ましくは約30重量パーセント;
‐光開始剤:0.5~5重量パーセント、好ましくは約2重量パーセント。
【0030】
処理層の第2の好ましい処方は、エトキシ化ノニルフェノールアクリレート(例えばSartomer SR 404)、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(例えばSartomer SR 348)、光開始剤、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、及びアクリルエラストマ(KURARAY)(例えばLA2330)を含む可能性がある。
【0031】
好ましくは、上記成分は以下の量で存在する。
‐エトキシ化ノニルフェノールアクリレート:30~50重量パーセント、好ましくは約45重量パーセント;
‐エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート:10~20重量パーセント、好ましくは約15重量パーセント;
‐光開始剤:0.5~5重量パーセント、好ましくは約1重量パーセント;
‐ヒドロキシエチルアクリレート:30~50重量パーセント、好ましくは約40重量パーセント;
‐アクリルエラストマ:10~20重量パーセント、好ましくは約15重量パーセント。
【0032】
第3の好ましい処理層が、上に示す処方1及び2の混合物を2(処方1):1(処方2)の混合比で含む。
【0033】
ある成分の混合物、具体的には上記のモノマー及びアクリルエラストマの1つ以上の混合物、特に処方2は、重合中に相変化を示す。あるエラストマの存在下で、硬化が通常は透明な材料を半透明な(「かすんで見える」)材料に変化させることが分かった。
【0034】
この外観の変化は、新しい相の発生に起因し、この変化は屈折率の変化を伴う。換言すれば、混合物は相変化を示す。上記相変化は、フローティングセキュリティエレメントを隠す、すなわちフローティングセキュリティエレメントを肉眼では見えにくくすることによって、データキャリアのセキュリティを強化するのに利用される可能性がある。すなわち、かすんで見える外観によって、フローティングセキュリティエレメントは、より透明な処理層と比較してあまりはっきりとは見えない。
【0035】
技術水準において知られている染料、セキュリティインク、カラーシフト顔料などの追加成分も処理層に存在し得ることが理解されるべきである。
【0036】
特に好ましくは、少なくとも1つの処理層は、電磁スペクトルの紫外領域の電磁放射が照射されると硬化可能である。
【0037】
一方、処理層が電磁スペクトルの可視領域又は電磁スペクトルの赤外領域の電磁放射が照射されると硬化可能であることも考えられる。この場合、対応する硬化性樹脂が処理層の処方として選択されることが好ましい。
【0038】
好ましくは、処理層の第1の硬化状態に硬化される領域及び処理層の第2の硬化状態に硬化される領域は屈折率が異なる。したがって、好ましくは、処理層は、特定の強度などの特定の特性を有する電磁放射が照射されると変化する屈折率を有する層に対応する。換言すれば、本発明に係る処理層によって、衝突する電磁放射が、かかる衝突する電磁放射の特性に応じて、硬化された処理層の屈折率の差を生み出すことが可能になる。
【0039】
したがって、マスキング要素の有無に応じて異なる放射特性を有する電磁放射を発生させるために、少なくとも1つのマスキング要素を含むマスキング層を使用することによって、処理層は、上記放射特性に依存して選択的に硬化される。同時に、マスキング要素の外観を処理層に再現することができる。例えば、マスキング要素が星の形を有している場合は、処理層に生成されたセキュリティエレメントは、電磁放射が星形のマスキング要素を透過するために星のように見える。
【0040】
セキュリティエレメントは、データキャリアが電磁放射で照明されると、好ましくは電磁スペクトルの赤外領域及び/又は可視領域及び/又は紫外領域の電磁放射で照明されると観察者に見える可能性がある。つまり、処理層の化学成分及びその硬化状態に応じて、観察者にすぐには明らかでないセキュリティエレメントを生成することが可能である。逆に、フラッシュライトなどの追加照明が照明源として必要とされる可能性がある。したがって、そのようなセキュリティエレメントは、改竄に対する二次的特徴としての機能を果たす可能性がある。
【0041】
1つ以上の追加層が、誘導層と処理層の間に設けられる可能性があり、好ましくは上記1つ以上の追加層は、二軸延伸ポリプロピレンなどの透明及び/又は熱可塑性ポリマーに対応する。1つ以上の追加層は、例えば技術水準で知られている他のセキュリティエレメントをデータキャリアに含めなければならない場合に望まれる可能性がある。例えば、1つ以上のプリントが上記層に適用される可能性がある。
【0042】
一方、上記1つ以上の追加層は、注型及び硬化される誘導層(上記参照)がコーティングされた後に硬化される基板の目的を果たす可能性もある。
【0043】
別の態様では、少なくとも1つの誘導層と、伸長方向に関して少なくとも1つの誘導層の後に配置される少なくとも1つの処理層とを備えるデータキャリアが設けられる。少なくとも1つの誘導層は、衝突する電磁放射を少なくとも1つの処理層内に導くように構成されている。少なくとも1つの処理層は、少なくとも第1の放射特性を有する電磁放射が上記衝突領域に衝突すると、少なくとも第1の硬化状態に硬化可能であり、第1の放射特性と異なる少なくとも第2の放射特性を有する電磁放射が上記衝突領域に衝突すると、第1の硬化状態と異なる少なくとも第2の硬化状態に硬化可能である。処理層の第2の硬化状態は少なくとも1つのセキュリティエレメントを構成する。
【0044】
つまり、データキャリアは、処理層の別の少なくとも1つの硬化状態と異なる、処理層の少なくとも1つの硬化状態により構成される少なくとも1つのセキュリティエレメントを含む可能性がある。好ましくは、これらの異なる硬化状態は、以上で概説したように処理層内の屈折率が異なる領域に対応する。好ましくは、データキャリアが以上で概説した特徴を含むデータキャリアに対応することに留意されたい。したがって、以上の説明が参照される。
【0045】
別の態様では、以上で説明したようなデータキャリアを備えるセキュリティ文書が提供され、好ましくは、セキュリティ文書は、身分証明書、パスポート、クレジットカード、紙幣などである。
【0046】
ここで、データキャリアそれ自体がセキュリティ文書に相当し得ることが理解されるべきである。これは、データキャリアが、例えば身分証明書の形態で提供される場合である。一方、データキャリアをセキュリティ文書に挿入する又は組み込むことも考えられる。例えばパスポートの場合、データキャリアは、パスポートのあるページに組み込まれる可能性がある。そして、例えばパスポート所有者のフローティングイメージなどのセキュリティエレメントが上記の方法によって生成される可能性がある。
【0047】
一方、当技術分野で知られている、イメージやロゴなどの他のパーソナライズデータ、所有者の氏名や生年月日などの英数字データ、バーコードなどの機械可読データ、又は光学フィルタ(例えばモアレパターン)が、必要に応じて提供される可能性がある。データキャリアのセキュリティ文書への組み込みは、データキャリアをセキュリティ文書に積層するだけで達成される可能性がある。
【0048】
別の態様では、以上で説明したようなデータキャリアはセキュリティ文書を作成するために使用される。例えば、セキュリティ文書は、まず「生の」すなわちパーソナライズされていないデータキャリアをパスポートなどのセキュリティ文書に積層すること、次に処理層に異なる硬化状態の領域を選択的に生成するために、処理層に電磁放射を照射することことによって作成される可能性がある。一方、まずは処理層に異なる硬化状態を生成するために処理層を電磁放射で処理すること、次にこうしてパーソナライズされたデータキャリアをパスポートなどのセキュリティ文書に積層することによってセキュリティ文書を作成することも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
本発明の好ましい実施形態が、本発明の好ましい実施形態を説明するためのものであって、限定するためのものではない図面を参照して以下で説明される。
【0050】
【
図1】データキャリアにセキュリティエレメントを生成する方法の模式図。
【
図2】
図1に係る方法により生成されたセキュリティエレメントを含むデータキャリアの模式図。
【
図3】
図1に係る方法により生成されたセキュリティエレメントを含む別のデータキャリアの模式図。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図1は、放射源6から放出される電磁放射を使用してデータキャリア1内に少なくとも1つのセキュリティエレメント9を生成する方法を模式的に示している。この例では、放射源6は、電磁スペクトルの紫外領域の電磁放射Rを放出するように構成されているブラックランプに対応する。データキャリア1は、少なくとも1つの誘導層2と少なくとも1つの処理層3とを備え、少なくとも1つの処理層3は、伸長方向Eに関して少なくとも1つの誘導層2の後に配置される。少なくとも1つの誘導層2は、衝突する電磁放射Rを処理層3内に導くように構成されている。
【0052】
このため、誘導層は少なくとも1つの誘導構造10を含み、少なくとも1つの誘導構造10は、衝突する電磁放射Rを伸長方向Eに関して特定の焦点距離に集束させるように構成されている。
図1に示す実施形態では、誘導構造10は、データキャリアの幅全体に沿って、かつ伸長方向Eに対して垂直に走る横方向Tに沿って延在する半球レンズアレイに対応する。ここで、レンズアレイ10は、屈折率が約1.5の透明フィルムで作られる。放射源6から放出される紫外線放射は、屈折率が1の周囲空気を通過し、高屈折率層、ここでは処理層3に向かって曲がる(単純化するために示されていない)。レンズアレイ10の特定のレンズが、衝突する電磁放射Rを導き、処理層3内の特定の焦点に集束させる。少なくとも1つの処理層3は、硬化性材料から作られており、衝突する電磁放射Rと相互作用すると硬化可能である。このため、少なくとも1つの処理層3の硬化状態が、とりわけ、衝突する電磁放射Rの強度によって決定される。
【0053】
そのため、少なくとも1つのマスキング要素5を含むマスキング層4が、伸長方向Eに関して少なくとも1つの誘導層2の前に配置され、電磁放射Rは、放射源6からマスキング層4を通ってデータキャリア1上に照射される。マスキング層4は、マスキング層4を構成する透明ポリマーによって提供される少なくとも1つの透明領域7aを備える。一方、マスキング層4は、衝突する電磁放射Rが変化せずにマスキング層4を通過しないように完全に透明なわけではない少なくとも1つの領域7bも備える。上記完全に透明なわけではない領域7bは、本質的に不透明であり、かつここではマスキング層4の表面12上の濃い灰色のプリントに対応するマスキング要素5によって提供される。したがって、電磁放射Rがマスキング要素5に衝突する場合、その不透明な性質が電磁放射Rの一部を吸収することになる。したがって、マスキング層4の不透明領域7b、すなわちマスキング要素5を通過する電磁放射Rは、強度が低下するため、マスキング層4の透明領域7aを通過する電磁放射Rの放射特性Raと異なる放射特性Rbを有する。換言すれば、マスキング層4上のマスキング要素5の有無によって、異なる放射特性Ra、Rbを有する電磁放射Rがマスキング層を出てデータキャリアに向かう。その結果、マスキング層4のマスキング要素5のない領域7aに衝突する電磁放射Rは、第1の放射特性Raを有する電磁放射として少なくとも1つの処理層3に衝突して、少なくとも1つの処理層3が上記衝突領域8aで第1の硬化状態に硬化され、マスキング層4の少なくとも1つのマスキング要素5を含む領域7bに衝突する電磁放射Rは、第2の放射特性Rbを有する電磁放射として少なくとも1つの処理層3に衝突して、少なくとも1つの処理層3が上記衝突領域8bで第2の硬化状態に硬化され、これによってマスキング要素の形状は処理層に再現される。つまり、処理層3の第2の硬化状態はセキュリティエレメント9を構成する(
図2及び3参照)。
図2及び3に示したデータキャリア1はいずれの場合も、第1の硬化状態に硬化され、かつ第1の屈折率を有する領域8aと、第2の硬化状態に硬化され、かつ第1の屈折率と異なる第2の屈折率を有する領域8bとを有する処理層3を備える。このいわゆる光誘起屈折率変化は、マスキング層4のマスキング要素5の存在によって引き起こされる。
【0054】
図1から容易に分かるように、マスキング層4は、伸長方向Eに関して少なくとも1つの誘導層2から距離Aを置いて配置される。更に、図示されていないが、それぞれ、マスキング層と誘導層2の間の距離Aは伸長方向Eに関して変化する可能性があり、放射源6とマスキング層4の間の距離Cは伸長方向Eに関して変化する可能性がある。これらの距離を変化させることによって、処理層3内の仮想セキュリティエレメントの移動の深さ及び幅を調整することが可能である。
【0055】
図1及び2に示す実施形態では、データキャリア1は、伸長方向Eに関して互いに直に隣接して配置される1つの誘導層2と1つの処理層3とを備える。すなわち、誘導層2は処理層3の頂部に配置されている。一方、
図3に示す実施形態では、誘導層2及び処理層3は、伸長方向に関して互いから距離Bを置いて配置されている。上記層2、3の間には、誘導層2の製造における基板としての機能を果たす1つの追加層11が設けられる。
【0056】
両実施形態において、データキャリア1を構成する層は、データキャリア1内で永久的に固定されている。つまり、誘導層2、処理層3、そして存在する場合の追加層11は、データキャリア1内にとどまる。
【0057】
データキャリア1の個々の層の幾何学的寸法について、それぞれ、処理層3の考えられる厚さは約0.5センチメートル~3センチメートルの範囲内にあり、誘導層2の考えられる厚さは約50ミクロン~500ミクロンの範囲内にあると言える。追加層11が存在する場合、かかる層は柔軟性があり、薄く、かつ厳格な処理に耐えるだけ頑丈であるべきである。したがって、追加層11の適切な厚さは、約300ミクロン、好ましくは約250ミクロン未満である。
【符号の説明】
【0058】
<参照符号の一覧>
1 データキャリア
2 誘導層
3 処理層
4 マスキング層
5 マスキング要素
6 放射源
7a、7b マスキング層上の領域
8a、8b 処理層内の領域
9 セキュリティエレメント
10 誘導構造
11 追加層
12 表面
R 電磁放射
Ra 第1の放射特性を有する電磁放射
Rb 第2の放射特性を有する電磁放射
E 伸長方向
T 横方向
A 距離
B 距離
C 距離