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特許7610802ペーパースラッジを原料として含む再生パルプの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】ペーパースラッジを原料として含む再生パルプの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21C 5/02 20060101AFI20241226BHJP
   D21F 1/66 20060101ALI20241226BHJP
   C02F 11/06 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
D21C5/02 ZAB
D21F1/66
C02F11/06 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020181669
(22)【出願日】2020-10-29
(65)【公開番号】P2022072306
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】藤槻 薫麗
(72)【発明者】
【氏名】山川 暁
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05772847(US,A)
【文献】特開2019-026958(JP,A)
【文献】特開昭49-114628(JP,A)
【文献】特開2017-71875(JP,A)
【文献】特開平4-352892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21C 5/02
D21F 1/66
C02F 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペーパースラッジを原料として含むパルプスラリーから再生パルプを製造する方法であって、前記ペーパースラッジと希釈水とを混合して混合水を得る前処理工程を有し、
前記前処理工程前処理用アルカリ剤、又は、前処理用酸化剤及び処理用アルカリ剤を、前記混合水又は前記希釈水に添加するものであり、
前記前処理用アルカリ剤は、前記前処理工程における希釈水に、前記希釈水のpHが10.5以上となるように添加されるものである
ことを特徴とする再生パルプの製造方法。
【請求項2】
前処理用酸化剤は、ハロゲンを有する酸化剤及び/又は過酸化水素である請求項1に記載の再生パルプの製造方法。
【請求項3】
前処理用アルカリ剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア、尿素及びエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の再生パルプの製造方法。
【請求項4】
前処理用酸化剤は、ペーパースラッジ乾燥固形分重量に対して0.002~0.5重量%添加されるものである請求項1、2又は3に記載の再生パルプの製造方法。
【請求項5】
前記前処理用酸化剤は、前記ペーパースラッジとpHが10.5以上に調整された希釈水とを混合して得られる混合水に添加されるものである請求項1、2、3又は4に記載の再生パルプの製造方法。
【請求項6】
前処理工程後の混合水が添加されたパルプスラリーを離解処理する離解工程を有し、前記離解工程において、離解用酸化剤及び/又は離解用アルカリ剤を、前記パルプスラリー又はその希釈水に添加する請求項1、2、3、4又は5に記載の再生パルプの製造方法。
【請求項7】
製紙工場から排出されるペーパースラッジを原料として含むパルプスラリーから家庭紙用再生パルプを製造する方法であって、
前記パルプスラリーを離解処理する離解工程を有し、
前記離解工程において、離解用酸化剤、又は、離解用酸化剤及び離解用アルカリ剤を、前記パルプスラリー又はその希釈水に添加する
ことを特徴とする家庭紙用再生パルプの製造方法。
【請求項8】
離解用酸化剤は、ハロゲンを有する酸化剤及び/又は過酸化水素である請求項6又は7に記載の家庭紙用再生パルプの製造方法。
【請求項9】
離解用アルカリ剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア、尿素及びエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項6、7又は8に記載の家庭紙用再生パルプの製造方法。
【請求項10】
離解用酸化剤は、絶乾パルプ重量に対して0.002~0.5重量%添加されるものである請求項6、7、8又は9に記載の家庭紙用再生パルプの製造方法。
【請求項11】
前記離解工程は、離解用酸化剤及び離解用アルカリ剤を前記パルプスラリー又はその希釈水に添加するものであり、
離解用アルカリ剤は、離解工程におけるパルプスラリーの希釈水に、前記希釈水のpHが10.5以上となるように添加されるものであり、
前記離解用酸化剤は、pHが10.5以上に調整された希釈水が添加されたパルプスラリーに添加されるものである請求項6、7、8、9又は10に記載の家庭紙用再生パルプの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペーパースラッジを原料として含む再生パルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の観点から生産に伴う活動からの産業廃棄物削減を余儀なくされている。製紙業界においても、ペーパースラッジの処理が問題となっている。
【0003】
ペーパースラッジとは、製紙工場の各種工程から排出される廃水として、(1)パルプ化工程での洗浄過程で発生した廃水、(2)古紙処理工程の混入異物除去、脱墨浮選処理、および洗浄処理過程で発生した廃水、(3)紙製造時に原料損失分として抄紙用ワイヤー等を通過して流出した廃水、および(4)生物廃水処理工程の廃水などの各種廃水が挙げられるが、これら廃水に対してスラッジ回収処理として、凝集・沈殿・濃縮・脱水等の工程を適宜組合せて行って、各廃水が含有する固形分をスラッジとして回収したものである。前記した各種廃水は個別にスラッジ回収処理を行って、脱墨スラッジ、塗工紙製造系スラッジ、生物処理余剰汚泥などの各種スラッジを個別回収する場合もあるが、一般的には前記した製紙工場から排出される各種工程スラッジを総称してペーパースラッジ(製紙スラッジ)と呼ぶ。
【0004】
ペーパースラッジを有効利用する方法として、例えば、特許文献1には、ペーパースラッジから高品質の繊維を分離し、該分離された繊維を直接再循環できるように浄化して漂白する方法が示されており、脱繊維工程で、繊維束から個々のパルプ繊維をバラバラに解きほぐすために洗浄剤を添加することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ペーパースラッジ焼却灰や石炭灰などを加工して、ペーパースラッジ焼却灰や石炭灰の平均粒径が20~100μmである灰として、これを、パルプ原料に対して0.01重量%以上、3重量%以下含有させて板紙を製造することが開示されており、ペーパースラッジに含まれる無機物を再利用する方法が開示されている。特許文献3にも、ペーパースラッジに含まれる無機物を再利用する方法が開示されている。
【0006】
このように、ペーパースラッジに含まれるパルプ繊維や、無機物を再利用することは検討されているが、従来は、家庭紙のように高い品質が求められる紙を製造する製紙工場において、ペーパースラッジを原料として再利用することは少なく、またペーパースラッジを再利用する場合があったとしても、充分に離解されなかった未離解のペーパースラッジが品質に影響を与えることや、ペーパースラッジ未離解物の比率が多いことにより、再利用に供される成分割合が低いという問題や、ペーパースラッジ中には多くの内添薬剤が含まれていることによる装置汚れの増加や得られる製品の欠点増加等、多数のトラブルが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平03-279480号公報
【文献】特許第4851119号公報
【文献】特許第4831163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、製紙工場から排出されるペーパースラッジを原料として含むパルプスラリーから家庭紙に利用可能な再生パルプの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、製紙工場から排出されるペーパースラッジは、パルプ繊維と製紙工場で使用される種々の内添薬剤とから構成されており、ペーパースラッジをパルプ繊維と内添薬剤とに離解促進することにより、段ボールを製造する製紙工場のみではなく、家庭紙を製造する製紙工場においても利用可能な再生パルプを製造できるという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、ペーパースラッジを原料として含むパルプスラリーから再生パルプを製造する方法であって、前記ペーパースラッジと希釈水とを混合して混合水を得る前処理工程を有し、前記前処理工程において、前処理用酸化剤及び/又は前処理用アルカリ剤を、前記混合水又は前記希釈水に添加することを特徴とする再生パルプの製造方法である。
上記前処理用酸化剤は、ハロゲンを有する酸化剤及び/又は過酸化水素であることが好ましい。
上記前処理用アルカリ剤は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア、尿素及びエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、上記前処理用酸化剤は、ペーパースラッジ乾燥固形分重量に対して0.002~0.5重量%添加されるものであることが好ましい。
上記前処理用アルカリ剤は、上記前処理工程における希釈水に、上記希釈水のpHが10.5以上となるように添加されるものであることが好ましい。
また、本発明の再生パルプの製造方法は、前処理工程後の混合水が添加されたパルプスラリーを離解処理する離解工程を有し、前記離解工程において、離解用酸化剤及び/又は離解用アルカリ剤を、前記パルプスラリー又はその希釈水に添加することが好ましい。
また、本発明は、ペーパースラッジを原料として含むパルプスラリーから再生パルプを製造する方法であって、前記パルプスラリーを離解処理する離解工程を有し、離解工程において、離解用酸化剤、又は、離解用酸化剤及び離解用アルカリ剤を、上記パルプスラリー又はその希釈水に添加することを特徴とする再生パルプの製造方法でもある。
上記離解用酸化剤は、ハロゲンを有する酸化剤及び/又は過酸化水素であることが好ましい。
上記離解用アルカリ剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア、尿素及びエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、上記離解用酸化剤は、絶乾パルプ重量に対して0.002~0.5重量%添加されるものであることが好ましい。
また、上記離解用アルカリ剤は、上記離解工程におけるパルプスラリーの希釈水に、上記希釈水のpHが10.5以上となるように添加されるものであることが好ましい。
本発明の再生パルプの製造方法により製造される再生パルプは、家庭紙を製造する製紙工場で使用されることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製紙工場から排出されるペーパースラッジを原料として含むパルプスラリーから、家庭紙に利用可能な再生パルプを製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示すものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることは無い。
【0013】
本発明の再生パルプの製造方法は、ペーパースラッジを原料として含むパルプスラリーから再生パルプを製造する方法であって、上記ペーパースラッジと希釈水とを混合して混合水を得る前処理工程を有し、上記前処理工程において、前処理用酸化剤及び/又は前処理用アルカリ剤を、上記混合水又は上記希釈水に添加することを特徴とする。
【0014】
本発明の再生パルプの製造方法は、前処理工程で前処理用酸化剤及び/又は前処理用アルカリ剤を、ペーパースラッジと希釈水とが混合された混合水、又は、該希釈水に添加することで、混合水中のペーパースラッジに含まれる内添薬剤が洗浄され、ペーパースラッジに含まれる内添薬剤の含有量が低減する。そのためパルプスラリーから再生パルプを製造するパルプ化工程の前段階に上記前処理工程を有することで、続くパルプ化工程中の離解工程においてパルプスラリー中のペーパースラッジの離解が促進される。すなわち、パルプ繊維と内添薬剤との離解が促進される。これにより、内添薬剤によって凝集していないパルプ繊維が得られ、段ボール等の厚紙を製造する製紙工場のみではなく、家庭紙を製造する製紙工場でも使用できる再生パルプを製造することができる。
【0015】
なお、上述の通りペーパースラッジは、製紙工場の各種工程で生じるスラッジの総称である。本発明のペーパースラッジの再生方法の原料となるペーパースラッジは、製紙工場のいずれの工程で生じるスラッジであるか限定されるものではない。
また、ペーパースラッジに含まれる内添薬剤は、サイズ剤、乾燥紙力剤(乾燥紙力増強剤)、湿潤紙力剤(湿潤紙力増強剤)、凝結剤、ピッチコントロール剤、歩留まり剤等、製紙工場で使用される添加剤の総称であり、ペーパースラッジには、製紙工場の系内でパルプ製品と共に排出されなかった(又はパルプ製品に定着しなかった)内添薬剤が含まれている。ペーパースラッジに含まれる内添薬剤には、製紙工場の系内で生じるせん断力等により低分子化されたポリマーや切片等も含まれており、製紙工場で添加される内添薬剤と全く同等とは言えないものも含まれている。
なお、パルプスラリーに含まれるペーパースラッジの離解が促進されると、内添薬剤によって凝集していないパルプ繊維が得られ、品質の良い再生パルプを製造することができる。
【0016】
本発明の再生パルプの製造方法は、再生パルプ化工程で実施されるものであり、パルプスラリーの原料として、ペーパースラッジの他に、古紙等の原料を含んでもよい。また、原料として含まれるペーパースラッジは、同一の製紙工場で生じたペーパースラッジであってもよく他の製紙工場で生じたペーパースラッジであってもよく、異なる複数の製紙工場で生じたペーパースラッジが混合されたものであってもよい。
再生パルプ化工程は、主として離解工程、粗選・精選工程および脱水・洗浄工程を含んでなる。本発明の再生パルプの製造方法は、一般の古紙等を原料とする再生パルプ化工程に特別な機器等を設けることなく、離解工程の前に上述の前処理工程を行うことで、ペーパースラッジを原料として含むパルプスラリーから家庭紙に利用可能な再生パルプを製造することができる。また、本発明の再生パルプの製造方法は、一般の古紙等を原料とする再生パルプ化工程に、特別な機器を設けることなく、離解工程に特定の薬剤を添加することで、ペーパースラッジを原料として含むパルプスラリーから家庭紙に利用可能な再生パルプを製造することができる。
パルプスラリーの希釈水としては、工業用水、循環利用または再利用される白水が挙げられる。
【0017】
本明細書中、「X~Y」は、「X以上、Y以下」を意味する。
【0018】
本発明の再生パルプの製造方法において、ペーパースラッジと希釈水とを混合した混合水に含まれるペーパースラッジの濃度は特に限定されないが、混合水におけるペーパースラッジの濃度が、ペーパースラッジ乾燥固形分重量換算で20g/L以上であることが好ましく、250g/L以下であることが好ましい。混合水におけるペーパースラッジの濃度が上記範囲内であることで、前処理工程において、パルプスラリー中のペーパースラッジに含まれる内添薬剤が洗浄され、ペーパースラッジに含まれる内添薬剤の含有量を充分に低減することができる。
なお、前処理工程における混合水は、原料としてペーパースラッジを含むが、さらに、ペーパースラッジの他の原料を含んでもよい。上記混合水に原料としてペーパースラッジと、古紙パルプ等のパルプ原料とを含む場合、混合水に含まれるパルプ濃度は特に限定されないが、例えば、絶乾パルプ重量として2.0~25重量%であることが好ましい。なお、絶乾パルプ重量とは、105℃の温度で低質量となるまで乾燥し、パルプに含まれる自由水が取り去られた状態(絶乾状態)における重量であり、パルプ繊維の他に内添薬剤及び無機物等も含む重量である。すなわち、原料として含まれるペーパースラッジの乾燥固形分、及び、他の原料の乾燥固形分の合計である。
【0019】
本発明の再生パルプの製造方法は、前処理工程後の混合水が添加されたパルプスラリーを離解処理する離解工程をさらに有し、上記離解工程において、離解用酸化剤及び/又は離解用アルカリ剤を、上記パルプスラリー又はその希釈水に添加することが好ましい。
上記離解工程におけるパルプスラリーは、上記前処理工程後の混合水が添加されており、上記離解工程におけるパルプスラリー又はその希釈水に、離解用酸化剤及び/又は離解用アルカリ剤を添加することにより、離解工程におけるパルプスラリーに含まれるペーパースラッジの離解がより促進され、段ボールなどの厚紙を製造する製紙工場のみではなく、家庭紙を製造する製紙工場でも使用できる再生パルプの収量をより向上させることができる。
【0020】
本発明の再生パルプの製造方法において、ペーパースラッジを原料として含むパルプスラリーにおけるパルプ濃度は特に限定されないが、パルプスラリーに含まれるパルプ濃度が、絶乾パルプ重量として2.0~25重量%であることが好ましい。なお、絶乾パルプ重量とは、105℃の温度で低質量となるまで乾燥し、パルプに含まれる自由水が取り去られた状態(絶乾状態)における重量であり、パルプ繊維の他に内添薬剤及び無機物等も含む重量である。すなわち、原料として含まれるペーパースラッジの乾燥固形分、及び、他の原料の乾燥固形分の合計である。パルプ濃度が上記範囲にあることにより、離解工程において、パルプスラリー中のペーパースラッジの離解を促進することができる。本発明の再生パルプの製造方法において、パルプ濃度が2.0重量%未満のパルプスラリーは、含水量が多く離解工程における離解効率が低くなる可能性がある。また、パルプ濃度が25重量%を超えるパルプスラリーは、含水量が低くなり離解工程においてパルプ繊維及び/又は内添薬剤の離解性が低下する可能性がある。
本発明の再生パルプの製造方法において、ペーパースラッジを原料として含むパルプスラリーにおいて、ペーパースラッジの配合率は、パルプスラリーの絶乾パルプ重量を100%としたときに、ペーパースラッジの乾燥固形分重量が0.1~30%となる配合率であることが好ましい。言い換えると、パルプスラリーに含まれるパルプの絶乾パルプ重量100%に対し、ペーパースラッジの乾燥固形分重量が0.1~30%となるように、上述の前処理工程後の混合水が添加されることが好ましい。
絶乾パルプ重量に対するペーパースラッジの乾燥固形分重量が30%を超えると、本発明により得られる再生パルプを用いて製造される紙製品の品質に影響を及ぼす可能性があるためである。
具体的には、ペーパースラッジに含まれるパルプ繊維は繊維長が短い傾向にあるため、絶乾パルプ重量に対するペーパースラッジの乾燥固形分重量が30%を超えると、本発明により得られる再生パルプを用いて製造される紙製品の引張強度が低下する恐れを生じる。
【0021】
また、本発明の再生パルプの製造方法は、ペーパースラッジを原料として含むパルプスラリーから再生パルプを製造する方法であって、上記パルプスラリーを離解処理する離解工程を有し、上記離解工程において、離解用酸化剤、又は、離解用酸化剤及び離解用アルカリ剤を、上記パルプスラリー又はその希釈水に添加することを特徴とする。
この場合、上記前処理工程は任意に有していてもよい。また、ペーパースラッジを原料として含むパルプスラリーにおけるパルプ濃度の好適な範囲、及び、パルプスラリーにおけるペーパースラッジ配合率の好適な範囲などは上述の通りである。
【0022】
本発明の再生パルプの製造方法において、前処理工程で使用される前処理用酸化剤と、離解工程で使用される離解用酸化剤とは、好適な酸化剤が同様であり、これらの工程における好適な添加量も同様である。以下、本明細書において前処理用酸化剤と離解用酸化剤とに適用される説明は、単に「酸化剤」と記載する。ただし、前処理用酸化剤と離解用酸化剤の種類は同一であっても異なっていてもよく、これらの添加量が同一であってもよく異なっていてもよい。
すなわち、本発明の再生パルプの製造方法が、前処理工程及び離解工程を有し、前処理用酸化剤と離解用酸化剤とが使用される場合、前処理工程における前処理用酸化剤と、離解工程における離解用酸化剤とは同一であってもよく異なっていてもよく、その添加量は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0023】
本発明の再生パルプの製造方法で使用される酸化剤は、ハロゲンを有する酸化剤及び/又は過酸化水素であることが好ましい。これらの成分は酸化力により、ペーパースラッジに含まれるパルプ繊維及び/又は内添薬剤に作用して、結果としてパルプ繊維と内添薬剤との離解を促進させていると考えられるためである。
【0024】
上記ハロゲンを有する酸化剤は結合ハロゲン及び/又は遊離ハロゲンである。結合ハロゲンとしては結合塩素及び結合臭素等が挙げられ、遊離ハロゲンとしては、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩及び二酸化塩素が挙げられる。
【0025】
上記結合ハロゲンとしては、結合塩素及び結合臭素等が挙げられ、具体的には、モノクロラミン、モノブロラミン、クロロスルファマート、及び/又は、ブロモスルファマートであることが好ましい。
上記モノクロラミン及びモノブロラミンは、OCl-(Br-)+NH+→NHCl(Br)+HOのような反応で生成される穏やかな酸化剤である。例えば、次亜塩素酸ナトリウムとアンモニウム化合物とを混合することによりモノクロラミンを生成でき、アンモニウム化合物としては、具体的に、硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸アンモニウムが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
次亜塩素酸塩とアンモニウム化合物とのモル比は、一又は複数の実施形態において、残留塩素量と窒素とのモル比として1:1~1:2であることが好ましい。
【0026】
上記クロロスルファマート及びブロモスルファマートは、塩素系酸化剤または臭素系酸化剤と、スルファミン酸化合物又はその塩と、の反応生成物である。上記塩素系酸化剤としては、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸又はその塩が挙げられ、中でも次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。上記臭素系酸化剤としては、一又は複数の実施形態において、次亜臭素酸又はその塩が挙げられ、中でも次亜臭素酸ナトリウムが好ましい。上記スルファミン酸化合物としては、一又は複数の実施形態において、スルファミン酸、クロロスルファミン酸及びブロモスルファミン酸等が挙げられる。上記クロロ/ブロモスルファマートとしては、特に限定されない一又は複数の実施形態において、「水酸化ナトリウム及びスルファミン酸の反応生成物」と「次亜塩素酸/次亜臭素酸ナトリウム」との反応生成物が挙げられる。クロロ/ブロモスルファマートは、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム、スルファミン酸、及び次亜塩素酸ナトリウム又は次亜臭素酸ナトリウムを配合して得ることができる。
【0027】
また、上記亜塩素酸塩としては、具体的には、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム及び亜塩素酸カルシウム等が挙げられ、本発明ではこれらの1種を単独でまたは2種以上を組み合せて用いることができる。
上記次亜塩素酸塩としては、具体的には、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム及び次亜塩素酸カルシウム等が挙げられ、本発明ではこれらの1種を単独でまたは2種以上を組み合せて用いることができる。
【0028】
上記二酸化塩素は、極めて不安定な化学物質であるため、その貯蔵や輸送は非常に困難である。したがって、その場で公知の方法により二酸化塩素を製造(生成)し、添加濃度に調整して用いるのが好ましい。
例えば、次のような反応により二酸化塩素を製造することができ、市販の二酸化塩素発生器(装置)を用いることもできる。
(1)次亜塩素酸ナトリウムと塩酸と亜塩素酸ナトリウムとの反応
NaOCl+2HCl+2NaClO → 2ClO+3NaCl+H
(2)亜塩素酸ナトリウムと塩酸との反応
5NaClO+4HCl → 4ClO+5NaCl+2H
(3)塩素酸ナトリウム、過酸化水素および硫酸との反応
2NaClO+H2O+HSO → 2ClO+NaSO+O+2H
【0029】
本発明の再生パルプの製造方法で使用される酸化剤は、ペーパースラッジ乾燥固形分重量に対して0.002~0.5重量%添加されるものであることが好ましく、0.02~0.1重量%添加されるものであることがより好ましい。
すなわち、本発明の再生パルプの製造方法が前処理工程を含み、前処理用酸化剤を添加する場合、前処理用酸化剤を、ペーパースラッジ乾燥固形分重量に対して、0.002~0.5重量%添加することが好ましく、0.02~0.1重量%添加することがより好ましい。前処理工程における混合水中の前処理用酸化剤の対ペーパースラッジ濃度(乾燥固形分換算)が上記範囲であることにより、混合水に添加された前処理用酸化剤により充分な酸化力が発揮され、混合水中のペーパースラッジに対し、充分な洗浄作用が働き、内添薬剤の含有量を低減することができる。これにより、家庭紙を製造するのに好適な再生パルプを製造することができる。
また、本発明の再生パルプの製造方法が離解工程を含み、離解工程用酸化剤を添加する場合、離解用酸化剤を、絶乾パルプ重量に対して、0.002~0.5重量%添加することが好ましく、0.02~0.1重量%添加することがより好ましい。離解工程におけるパルプスラリー中の離解用酸化剤の対パルプスラリー濃度(乾燥固形分換算)が上記範囲であることにより、パルプスラリーに添加された離解用酸化剤により充分な酸化力が発揮され、パルプスラリー中のペーパースラッジに対し、充分な離解促進作用が働き、内添薬剤によって凝集していないパルプ繊維を得ることができる。これにより、家庭紙を製造するのに好適な再生パルプを製造することができる。
【0030】
また、本発明の再生パルプの製造方法において酸化剤として、ハロゲンを有する酸化剤を混合水又はその希釈水、パルプスラリー又はその希釈水に添加する場合、前処理工程における混合水中及び/又は離解工程におけるパルプスラリー中の酸化剤濃度が0.2mg/L以上となるようにハロゲンを有する酸化剤を添加してもよい。混合水中及び/又はパルプスラリー中の酸化剤濃度の上限は、装置の腐食や費用対効果との関係から決められてもよく、例えば、50mg/L以下とすることが好ましい。また、上記酸化剤としてハロゲンを有する酸化剤をパルプスラリー又はその希釈水に添加する場合は、混合水中及び/又はパルプスラリー中の酸化剤濃度が上記範囲となるようにハロゲンを有する酸化剤の添加量が設定されてもよい。
本発明の再生パルプの製造方法が前処理工程を含み、前処理用酸化剤としてハロゲンを有する酸化剤を添加する場合、前処理工程における混合水中の酸化剤濃度が0.2mg/L以上となるように、ハロゲンを有する酸化剤を前処理工程における混合水又はその希釈水に添加してもよい。また、パルプスラリー中の酸化剤濃度の上限は、装置の腐食や費用対効果との関係から決められてもよく、例えば、50mg/L以下とすることが好ましい。前処理工程における混合水中の前処理用酸化剤濃度が上記範囲であることにより、混合水に添加された前処理用酸化剤により充分な酸化力が発揮され、混合水中のペーパースラッジに対し、充分な洗浄作用が働き、内添薬剤の含有量を低減することができる。これにより、家庭紙を製造するのに好適な再生パルプを製造することができる。
また、本発明の再生パルプの製造方法が離解工程を含み、離解用酸化剤としてハロゲンを有する酸化剤をパルプスラリー又はその希釈水に添加する場合、離解工程におけるパルプスラリー中の酸化剤濃度が0.2mg/L以上となるようにハロゲンを有する酸化剤を離解工程におけるパルプスラリー又はその希釈水に添加してもよい。また、パルプスラリー中の酸化剤濃度の上限は、装置の腐食や費用対効果との関係から決められてもよく、例えば、50mg/L以下とすることが好ましい。離解工程におけるパルプスラリー中の離解用酸化剤濃度が上記範囲であることにより、パルプスラリーに添加された離解用酸化剤により充分な酸化力が発揮され、パルプスラリー中のペーパースラッジに対し、充分な離解促進作用が働き、内添薬剤を吸着していないパルプ繊維を得ることができる。これにより、家庭紙を製造するのに好適な再生パルプを製造することができる。
本明細書において、「酸化剤濃度」は、ハロゲンを有する酸化剤において残留塩素濃度に換算して得られる値である。なお、本明細書における「残留塩素量」の記載は、酸化剤がモノブロラミンである場合にはモノブロラミンの残留臭素量を残留塩素量に換算した値(残留塩素量換算値)を意味する。
【0031】
上記ハロゲンを有する酸化剤は、結合ハロゲンであることが好ましい。酸化剤が添加されたパルプスラリーにおいて、酸化剤の残留濃度が持続するためである。また、結合ハロゲンの中でもモノクロラミンが好適である。
【0032】
また、本発明の再生パルプの製造方法では、前処理工程、離解工程で使用される酸化剤としてハロゲンを有する酸化剤及び過酸化水素を用いることが好ましい。ハロゲンを有する酸化剤及び過酸化水素を用いることにより、混合水中及び/又はパルプスラリー中のペーパースラッジの離解をより促進でき、内添薬剤によって凝集していないパルプ繊維が得られ、家庭紙を製造するのに好適な再生パルプを製造することができるためである。ハロゲンを有する酸化剤としては、上述の結合ハロゲン及び/又は遊離ハロゲンが挙げられる。本発明の再生パルプの製造方法における前処理工程、離解工程で、酸化剤としてハロゲンを有する酸化剤及び過酸化水素を用いる場合は、ハロゲンを有する酸化剤と過酸化水素との合計が、ペーパースラッジの乾燥固形分重量又は絶乾パルプ重量に対し、0.002~0.5重量%となるようにハロゲンを有する酸化剤及び過酸化水素を添加することが好ましく、0.02~0.1重量%となるようにハロゲンを有する酸化剤及び過酸化水素を添加することがより好ましい。
【0033】
本発明の再生パルプの製造方法において、前処理工程で使用される前処理用アルカリ剤と、離解工程で使用される離解用アルカリ剤とは、好適なアルカリ剤が同様であり、これらの工程における好適な添加量も同様である。以下、本明細書において前処理用アルカリ剤と離解用アルカリ剤とに適用される説明は、単に「アルカリ剤」と記載する。ただし、前処理用アルカリ剤と離解用アルカリ剤の種類は同一であっても異なっていてもよく、これらの添加量が同一であってもよく異なっていてもよい。
すなわち、本発明の再生パルプの製造方法が、前処理工程及び離解工程を有し、前処理用アルカリ剤と離解用アルカリ剤とが使用される場合、前処理工程における前処理用アルカリ剤と、離解工程における離解用アルカリ剤とは同一であってもよく異なっていてもよく、その添加量は、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0034】
本発明の再生パルプの製造方法で使用されるアルカリ剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア、尿素及びエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムであることがより好ましい。
【0035】
本発明の再生パルプの製造方法で使用されるアルカリ剤は、前処理工程における混合水に添加されてもよく、その希釈水に添加されてもよい。また、離解工程におけるパルプスラリーに添加されてもよく、その希釈水に添加されてもよい。
発明の再生パルプの製造方法で使用されるアルカリ剤は、前処理工程における混合水の希釈水に添加されることが好ましく、離解工程におけるパルプスラリーの希釈水に添加されることが好ましい。また、各工程において希釈水のpHが10.5以上となるようにアルカリ剤を希釈水に添加することがより好ましい。また、希釈水のpHが10.5以上となるように上記アルカリ剤の希釈水への添加量が決定されることが好ましい。
希釈水のpH条件が、上記範囲にあることで、前処理工程における混合水中の、及び/又は、離解工程におけるパルプスラリー中の、ペーパースラッジの離解が促進され、家庭紙を製造するのに好適な再生パルプを製造することができる。
また、前処理工程における混合水の希釈水及び/又は離解工程におけるパルプスラリーの希釈水のpHが10.5~13.5となるように、上記アルカリ剤が希釈水に添加されることがより好ましい。混合水及び/又はパルプスラリーの希釈水のpH条件が14を超えると、当該希釈水が添加された混合水及び/又はパルプスラリーに含まれるセルロースの繊維長が短くなったり、ペーパースラッジに含まれるパルプ繊維の繊維長が短くなるなどパルプ原料へ影響を与える可能性がある。また、環境面からもアルカリ剤の添加量は少ないほうが好ましい。
【0036】
本発明の再生パルプの製造方法で使用されるアルカリ剤が、前処理工程における混合水及び/又は離解工程におけるパルプスラリーに直接添加される場合、混合水及び/又はパルプスラリーのpHが7.0以上となるように上記アルカリ剤が添加されることが好ましい。また、混合水及び/又はパルプスラリーのpHが7.0以上となるように上記アルカリ剤の混合水及び/又はパルプスラリーへの添加量が決定されることが好ましい。
混合水及び/又はパルプスラリーのpH条件が、上記範囲にあることで、前処理工程における混合水中及び/又は離解工程におけるパルプスラリー中のペーパースラッジの離解が促進され、家庭紙を製造するのに好適な再生パルプを製造することができる。
また、前処理工程における混合水及び/又は離解工程におけるパルプスラリーのpHが7.0~10.0となるように、上記アルカリ剤が混合水及び/又はパルプスラリーに添加されることがより好ましい。
【0037】
本発明の再生パルプの製造方法が、前処理用酸化剤及び/又は前処理用アルカリ剤を、ペーパースラッジを含有する混合水又はその希釈水に添加する前処理工程を有し、離解工程を任意で有する場合、前処理工程で使用される前処理用酸化剤は、モノクロラミン、二酸化塩素、過酸化水素及び次亜塩素酸ナトリウムが好ましく、なかでも、モノクロラミン、二酸化塩素、モノクロラミン及び次亜塩素酸ナトリウムの組合せが好ましい。また、前処理用アルカリ剤は、水酸化ナトリウムが好ましい。
また、前処理工程で前処理用酸化剤及び前処理用アルカリ剤が使用される場合、前処理用アルカリ剤として水酸化ナトリウム、並びに、前処理用酸化剤として、モノクロラミン、二酸化塩素、過酸化水素及び次亜塩素酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種が使用されることが好ましく、前処理用アルカリ剤として水酸化ナトリウム、並びに、前処理用酸化剤として、モノクロラミン、モノクロラミンと二酸化塩素との組合せ、又は、モノクロラミンと次亜塩素酸ナトリウムとの組合せが使用されることがより好ましい。
【0038】
本発明の再生パルプの製造方法が、ペーパースラッジと希釈水とを混合して混合水を得る前処理工程を有し、前処理工程において、前処理用酸化剤及び/又は前処理用アルカリ剤を、上記混合水又は上記希釈水に添加し、前処理工程後の混合水が添加されたパルプスラリーを離解処理する離解工程を有し、離解工程において、離解用酸化剤及び/又は離解用アルカリ剤を、前処理後の混合水を含むパルプスラリー又はその希釈水に添加する場合、前処理工程で用いられる薬剤は、モノクロラミン、二酸化塩素、過酸化水素及び次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。前処理工程で用いられる薬剤は、なかでも、モノクロラミン、二酸化塩素、モノクロラミン及び次亜塩素酸ナトリウムの組合せ、又は、水酸化ナトリウムが好ましく、モノクロラミン及び/又は水酸化ナトリウムがさらに好ましい。また、離解工程で用いられる薬剤は、モノクロラミン、二酸化塩素、過酸化水素及び次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、モノクロラミン、過酸化水素、モノクロラミン及び過酸化水素の組合せ又は水酸化ナトリウムが好ましい。
また、前処理工程で、前処理用アルカリ剤として水酸化ナトリウムを用いる場合、離解工程では、離解用酸化剤としてモノクロラミン及び/又は過酸化水素、並びに、離解用アルカリ剤として水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
また、前処理工程で、前処理用酸化剤としてモノクロラミンを用いる場合、離解工程では、離解工程用酸化剤としてモノクロラミン及び離解用アルカリ剤として水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
また、前処理工程で、前処理用酸化剤としてモノクロラミン及び前処理用アルカリ剤として水酸化ナトリウムを用いる場合、離解工程では、離解用アルカリ剤として水酸化ナトリウムを単独で、若しくは、離解用アルカリ剤として水酸化ナトリウムと離解用酸化剤としてもモノクロラミン、又は、モノクロラミン及び過酸化水素を用いることが好ましい。
【0039】
また、本発明の再生パルプの製造方法が、パルプスラリーを離解処理する離解工程を有し、離解工程において、離解用酸化剤、又は、離解用酸化剤及び離解用アルカリ剤を、パルプスラリー又はその希釈水に添加し、前処理工程を任意に有する場合、上記離解工程では、パルプスラリー又はその希釈水に、離解用酸化剤を添加するが、離解用酸化剤及び離解用アルカリ剤を添加することが好ましく、離解用酸化剤としてモノクロラミン、二酸化塩素、過酸化水素及び次亜塩素酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、離解用アルカリ剤として水酸化ナトリウムを添加することが好ましい。
また、離解用酸化剤として、過酸化水素及びハロゲンを有する酸化剤を添加することがより好ましい。また、ハロゲンを有する酸化剤の中でもモノクロラミンを用いることがさらに好ましい。
アルカリ剤は環境面から使用量を低減することが好ましいため、本発明の再生パルプの製造方法における離解工程では、離解用酸化剤が好適に用いられる。
そして、離解用アルカリ剤を用いて、離解工程におけるパルプスラリー、又は、パルプスラリーに添加される希釈水のpH条件を上記範囲とすると、離解工程におけるパルプスラリー中のペーパースラッジに含まれるパルプ繊維と内添薬剤との離解をより促進するため、離解用酸化剤と離解用アルカリ剤とを併用することが好ましい。
また、離解用酸化剤として過酸化水素及びハロゲンを有する酸化剤を併用することにより、離解工程において、パルプスラリー中のパルプスラッジに含まれるパルプ繊維と内添薬剤との離解をより促進し、家庭紙を製造するのに好適な再生パルプを得ることができる。
【0040】
本発明の再生パルプの製造方法における前処理工程は、ペーパースラッジと希釈水とを含む混合水又はその希釈水に添加された、上述の前処理用酸化剤及び/又は前処理用アルカリ剤が、混合水中に充分に攪拌される位置に設けられていればよく、例えば、パルパーの前段としてタンクを設けてバッチ式で前処理工程を行うことが好ましいが、本発明の方法はこれに限らない。
【0041】
本発明の再生パルプの製造方法における離解工程は、ペーパースラッジを含むパルプスラリーを、パルパー等のパルプ離解能を有する機器を用いて処理する工程であればよく、例えば、ペーパースラッジを含むパルプスラリーを、50~3000rpmで処理する工程であればよい。また、上記離解工程における処理温度は、一又は複数の実施形態において、20~80℃であり、好ましくは、30~70℃であり、室温を含む温度範囲であることが好ましい。上記離解工程における処理時間は、一又は複数の実施形態において、1~60分であることが好ましく、5~30分であることがより好ましい。
【0042】
本発明の再生パルプの製造方法は、家庭紙を製造する製紙工場で使用される再生パルプを製造することが好ましい。すなわち、本発明の再生パルプの製造方法により得られる再生パルプは、家庭紙を製造する製紙工場で使用されることが好ましい。
【0043】
本発明によると、前処理工程におけるペーパースラッジを含む混合水又はその希釈水、及び/又は、離解工程におけるペーパースラッジを含むパルプスラリー又はその希釈水に対し、上述の特定の薬剤(酸化剤及び/又はアルカリ剤)を添加し、これらの工程におけるペーパースラッジの離解を促進することで、内添薬剤によって凝集していないパルプ繊維からなる再生パルプを得ることができる。
【実施例
【0044】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0045】
(実施例1~13、比較例1)
[前処理試験による洗浄効果の確認](試験1)
(1)某工場から採取したペーパースラッジ(あり姿100重量部に対する乾燥固形分41重量部および800℃で2時間灼熱したときの残量である灰分が8重量部)を、前記ペーパースラッジ乾燥固形分重量として3重量%となるように100mlビーカーに量りとり蒸留水を加えて表1に示す比較例1に係る混合水サンプルを調製した。
(2)上記操作(1)で加えた蒸留水を、前処理用アルカリ剤(水酸化ナトリウム水溶液)によりpH11に調整した混合水用希釈水に置き換え、表1に示す実施例7に係る混合水サンプルを調製した。
(3)上記操作(1)の蒸留水を加えたあと、表1に示す前処理用酸化剤を、ペーパースラッジ乾燥固形分重量に対して表1に記載の濃度を添加することにより、実施例1~6に係る混合水サンプルを調製した。
(4)上記操作(2)においてpH11に調整した混合水用希釈水を加えたあと、上記操作(3)と同様に表1に示す前処理用酸化剤を添加することにより、実施例8~13に係る混合水サンプルを調製した。
(5)上記操作(1)~(4)により調製した各サンプルを、スターラー(十字磁石)を用いて30分間低速で攪拌して前処理後の混合水サンプルを作製した。これを各実施例、比較例に係る前処理後の混合水サンプルとした。次に、定量ろ紙#41(Whatman)を用いて吸引ろ過を行い、ビーカーに回収したろ液を105℃で乾固し、得られた乾燥固形分の重量測定を行った。供試薬剤を添加していない比較例1に係る乾燥固形分の重量(100%)に対し、各実施例で得られた乾燥固形分の重量を洗浄率として算出した。洗浄率の向上は、吸引ろ過後のろ液中に内添薬剤量が増加していることを示しており、ペーパースラッジに含まれる内添薬剤とパルプ繊維との離解が促進されたことを示す。
得られた測定結果を下記表1に記載する。
【0046】
(添加薬剤)
モノクロラミンは、公知の方法(例えば、特開2017-53054号公報に記載の方法)によって、生成させた後、適宜純水で希釈することで、下記表1に記載の添加濃度となるように調整した。
二酸化塩素は、亜塩素酸ナトリウムおよび塩酸をそれぞれ適宜純水で希釈して混合し、発生した二酸化塩素を適宜純水で希釈することで、下記表1に記載の添加濃度となるように調整した。
過酸化水素(和光一級)、次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸ソーダ,11-15%)、水酸化ナトリウム(和光一級)はいずれも富士フィルム和光純薬株式会社から購入したものを用いた。なお、他の試験においても、共通する酸化剤及びアルカリ剤は本記載および上述の薬剤と同様である。
【0047】
[前処理試験後の離解性の目視評価]
前処理により得られた各実施例、比較例に係る前処理後の混合水サンプルからシートを作製した。得られたシートを目視で確認し、下記基準に従い評価した。評価結果を下記表1に示す。
1:ペーパースラッジの離解が充分ではなくシートが形成できない。
2:シート上に未離解ペーパースラッジが8割確認される。
3:シート上に未離解ペーパースラッジが7割確認される。
4:シート上に未離解ペーパースラッジが6割確認される。
5:シート上に未離解ペーパースラッジが5割確認される。
6:シート上に未離解ペーパースラッジが4割確認される。
7:シート上に未離解ペーパースラッジが3割確認される。
8:シート上に未離解ペーパースラッジが2割確認される。
9:シート上に未離解ペーパースラッジが1割確認される。
10:シート上に未離解ペーパースラッジが一切ない。
【0048】
【表1】
【0049】
上記表1の結果から、前処理として前処理用酸化剤及び/又は前処理用アルカリ剤を添加すると、洗浄率が向上し、また、目視評価においてもペーパースラッジの離解が向上していた。
また、前処理として酸化剤及びアルカリ剤を併用すると、洗浄率が大きく向上し、目視評価においてもスラッジの離解が大きく向上していた。よって、内添薬剤によって凝集していないパルプ繊維が多く得られ、家庭紙の利用に適した再生パルプの製造に適していると考えられる。
上記表1の結果から、実施例1~13にかかる前処理後の混合水サンプルから作製したシートは、シート上で確認される未離解ペーパースラッジが目視評価で確認できる程度低減しており、また、実施例1、2、6、8~13では、未離解ペーパースラッジが6割まで低減していた。離解工程前の前処理工程において、混合水中のペーパースラッジの離解を促進できたことで、その後の離解工程の離解効率が向上し、最終的に内添薬剤によって凝集していないパルプ繊維が得られ、家庭紙として利用可能なパルプ繊維の収率が向上すると考えられる。これにより、家庭紙に適した再生パルプが製造できる。
【0050】
(実施例14~26、参考例1、比較例2)
[前処理試験及び離解試験による離解促進効果の確認](試験2)
(1)前処理試験についての操作は、1Lビーカーを用いて、表2に記載の供試薬剤を用いた以外は上述の試験1における操作(1)~(4)と同様の操作を行い、実施例14~26、参考例1、比較例2の前処理工程に係る混合水サンプルを調製した。
(2)得られた前処理工程に係る混合水サンプルを試験1と同様にスターラー(十字磁石)を用いて30分間低速で攪拌して前処理後の混合水サンプルを作製した。得られた各試験例の前処理後の混合水サンプルを、定量ろ紙#41(Whatman)を用いて吸引ろ過を行い、各試験例の前処理工程による洗浄後のペーパースラッジを得た。
(3)得られた各試験例のペーパースラッジに蒸留水、又は、離解用アルカリ剤(水酸化ナトリウム水溶液)によりpH11に調整したパルプスラリー用希釈水を加えて1Lとした。これに、離解用酸化剤を表2に記載の添加濃度(ペーパースラッジ乾燥固形分重量に対する添加濃度)で添加し、離解工程のサンプルを作製した。
(4)得られた各試験例の離解工程に係るサンプルをそれぞれ、離解装置(熊谷理器工業(株)製)に入れ、800rpmで30分間離解した。
(5)離解処理後の各サンプルをフラットスクリーン(スクリーンサイズ:8CUT)に入れ15分間処理し、未離解物と離解物とに分離した。
(6)各試験例に係る離解処理後のサンプルから得られた離解物を乾燥し、重量を測定した。
前処理工程で薬剤を添加せず、離解工程で離解用アルカリ剤のみを添加した比較例2に係るサンプルの離解物の重量を100%とした場合の、各実施例及び参考例1に係るサンプルから得られた離解物の乾燥重量を離解促進率として算出した。得られた結果を下記表2に記載した。
(7)なお、操作(4)における離解処理後の各試験例のサンプルのpHを参考として表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
上記表2の結果から、前処理工程で酸化剤及び/又はアルカリ剤を添加し、離解工程で酸化剤及び/又はアルカリ剤を添加すると、離解工程でアルカリ剤のみが添加されている比較例1と比べ、離解促進率が向上していた。よって、内添薬剤によって凝集していないパルプ繊維が多く得られ、家庭紙の利用に適した再生パルプの製造に適していると考えられる。
また、前処理工程で前処理用アルカリ剤を用いる場合は、離解工程で離解用酸化剤及び離解用アルカリ剤を用いると、離解促進率が110%を超えて向上しており、離解促進作用が優れていた。
なお、実施例14~26、参考例1、比較例2の試験例において、離解工程で処理された対象は、前処理工程による洗浄後のペーパースラッジのみを原料とするパルプスラリーであり、ペーパースラッジとは異なるパルプ原料を有するものではない。このようにペーパースラッジのみを原料として含むパルプスラリーにおいても、実施例14~26では、ペーパースラッジの離解促進効果が得られることを確認した。よって当然に、ペーパースラッジを原料として含み、さらに、ペーパースラッジのように内添薬剤によって凝集したパルプ繊維とは異なるパルプ原料を含む場合も、同様にペーパースラッジの離解促進効果を得ることができる。
【0053】
(実施例27~31、比較例3、参考例2)
[離解試験による離解促進効果の確認](試験3)
(1)某工場から採取したペーパースラッジ(あり姿100重量部に対する乾燥固形分40重量部および800℃で2時間灼熱したときの残量である灰分が6重量部)を、前記ペーパースラッジ乾燥固形分重量として3重量%となるように1Lビーカーに量りとり蒸留水を加えて表3に示す参考例2に係るサンプルを調製した。
(2)上記操作(1)で加えた蒸留水を、離解用アルカリ剤(水酸化ナトリウム水溶液)によりpH11に調整したパルプスラリー用希釈水に置き換え、表3に示す比較例3に係るサンプルを調製した。
(3)得られた各サンプルをそれぞれ、離解装置(熊谷理器工業(株)製)に入れ、800rpmで30分間離解した。
(4)その後の操作は試験2の操作(5)及び(6)と同様に行い、比較例3に係るサンプルの離解物の重量を100%とした場合の各実施例及び参考例2に係るサンプルから得られた離解物の乾燥重量を離解促進率として算出し、得られた結果を下記表3に記載した。
(5)なお、操作(3)における離解後の各試験例のサンプルのpHを参考として表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
上記表3の結果から、離解工程で離解用酸化剤を添加すると、離解工程で離解用アルカリ剤を単独で添加した比較例3と比べ、離解促進率が向上していることを確認した。よって、内添薬剤により凝集していないパルプ繊維が多く得られ、家庭紙の利用に適した再生パルプの製造に適していると考えられる。
また、離解工程で離解用酸化剤として過酸化水素及びモノクロラミン、並びに、離解用アルカリ剤として水酸化ナトリウムを用いると、離解促進率が110%を超えて向上しており、離解促進作用が優れていた。
なお、実施例27~31、参考例2、比較例3の試験例において、離解工程で処理された対象は、ペーパースラッジのみを原料とするパルプスラリーであり、ペーパースラッジとは異なるパルプ原料を有するものではない。このようにペーパースラッジのみを原料として含むパルプスラリーにおいても、実施例27~31では、ペーパースラッジの離解促進効果が得られることを確認した。よって当然に、ペーパースラッジを原料として含み、さらに、ペーパースラッジのように内添薬剤によって凝集したパルプ繊維とは異なるパルプ原料を含む場合も、同様にペーパースラッジの離解促進効果を得ることができる。