(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】移植針、移植物装填治具
(51)【国際特許分類】
A61M 5/32 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
A61M5/32 540
(21)【出願番号】P 2020098168
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】521521345
【氏名又は名称】株式会社キュオール
(73)【特許権者】
【識別番号】520199602
【氏名又は名称】九州オルガン針株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】岡田 誠治
(72)【発明者】
【氏名】刈谷 龍昇
(72)【発明者】
【氏名】城戸 響
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04871094(US,A)
【文献】特開昭63-035261(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0025085(US,A1)
【文献】特開2015-123165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空筒状の針胴体部と、前記針胴体部の先端に延設され、先端尖鋭とした中空筒状の針本体部と、を備え、
前記針胴体部と前記針本体部との筒軸を同軸上に配置して前記針本体部の筒孔と前記針胴体部の筒孔とを接続連通することにより連通筒孔を内径が0.7~1.5mmの針管路とし、
前記針本体部は、先端部を筒軸に対して一定方向に傾斜切削して、その切削面を針先端開口の開口面積が針管路の横断面積に対して3.8倍~6倍となる刃面となし、
前記針胴体部は、前記針本体部の周壁よりも肉厚の周壁を有し、
前記針胴体部の周壁には、周面で開口する内径が2.0mm~4.0mmの上方開口と前記針管路の一側で針管路の長手方向に長径を有する略楕円形状に開口した開口面積が前記上方開口の開口面積の0.04~0.5倍である下方開口とを有した移植物装填孔を前記針管路に連通するように貫通形成し、
前記下方開口の開口縁部は前記針管路に向かって漸次縮径するように傾斜するテーパー部に形成し、
前記移植物装填孔の下方開口を介して軟質の固形移植物を針胴体部の針管路内に装入させるべく押し出した際に、軟質の固形移植物が下方開口により針管路の伸延方向に沿う楕円形状に仮成型された状態で押し出されるよう構成したことを特徴とする移植針。
【請求項2】
移植針を備えた移植用注射器への軟質の固形移植物の装填の際に使用される移植物装填治具であって、
前記移植針は、中空筒状の針胴体部と、前記針胴体部の先端に延設され、先端尖鋭とした中空筒状の針本体部と、を備え、前記針胴体部と前記針本体部との筒軸を同軸上に配置して前記針本体部の筒孔と前記針胴体部の筒孔とを接続連通することにより連通筒孔を針管路とし、前記針本体部は、先端部を筒軸に対して一定方向に傾斜切削して切削面を刃面となし、前記針胴体部は、前記針本体部の周壁よりも肉厚の周壁を有し、前記針胴体部の周壁には、周面で開口する上方開口と前記針管路の一側で開口する下方開口とを有した移植物装填孔を前記針管路に連通するように貫通形成し、前記移植物装填孔を介して前記針管路へ軟質の固形移植物を装入可能とし、
前記移植用注射器は、前記移植針の前記針管路に連通するシリンジ孔を有し、先端部に前記移植針を着脱可能とする針取付部を形成した中空筒状のシリンジと、前記シリンジの基端側開口からシリンジ孔に挿入され、前記移植針の前記移植物装填孔から前記針管路に装入された前記固形移植物を前記移植針の先端開口から外方へ押し出すための押子と、を有し、
前記移植物装填治具は、前記移植物装填孔の前記上方開口を上方に臨ませた前記移植用注射器の横臥状態で前記移植用注射器を載置固定して前後左右の動きを規制する注射器固定部を有する支持フレームと、
前記支持フレームに連設され、前記移植物装填孔に設置した前記固形移植物に対して前記針管路に装入する下方押圧力を前記移植物装填孔の上方から付与するための装填押圧体と、を備えることを特徴とする移植物装填治具。
【請求項3】
前記支持フレームは、前記移植針の前記針管路に装入された前記固形移植物を前記針本体部の先端開口近傍に位置づけるように前記押子の進入位置を規制する押子ストッパーを備えることを特徴とする請求項2に記載の移植物装填治具。
【請求項4】
前記注射器固定部は、
前記移植用注射器の前記移植針を載置固定するための針固定用シャフトと、
前記針固定用シャフトと平行に配置され、前記移植用注射器の前記シリンジの外周壁に嵌着対応して前記シリンジを載置固定するためのシリンジ固定用シャフトと、で構成したことを特徴とする請求項2に記載の移植物装填治具。
【請求項5】
前記装填押圧体は、
前記支持フレームに対して水平方向に回動可能に支持され、先端部に鉛直方向に貫通した貫通孔を有する回動アームと、
前記回動アームの前記貫通孔に遊嵌されると共に弾性体を介して下方付勢され、前記移植針の前記移植物装填孔に嵌入対応する押圧ピンと、
前記押圧ピンを前記回動アームに支持すると共に前記弾性体の下方付勢力に抗して前記押圧ピンを上方に引き上げ可能とするためのピン支持体と、
を備えることを特徴とする請求項2のいずれか1項に記載の移植物装填治具。
【請求項6】
前記押圧ピンの先端角部はテーパー部とし、前記押圧ピンが前記移植物装填孔に嵌入された状態で前記テーパー部の少なくとも一部が前記移植針の前記針管路内に突出するようにしたことを特徴とする請求項5に記載の移植物装填治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質の固形移植物を生体内へ移植するための移植針、同移植針を備えた移植用注射器を固定して移植物を安定して装填するための移植物装填治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療機関や研究施設、動物病院等の各施設では、生体組織塊や薬剤徐放性カプセル、個体識別用のICチップ等の約0.1~5mmの極小サイズの微細片からなる移植物を、マウスや犬などの実験動物やヒト等の被移植体の皮下組織へ移植する移植施術が行われている。
【0003】
移植施術の方式としては、被移植体を麻酔にかけて保定器に固定し、被移植体の表皮にメスやハサミ等により大型の切開口を形成し、切開口からピンセットを挿し込み生体組織を剥離しながら所望とする移植位置を露出させて同移植位置に移植物を留置し、最終的に切開口をパンチや縫合糸等により縫合して閉塞することにより移植物の移植を行う、いわゆる切開式が一般的に普及している。
【0004】
この切開式は、被移植体にとっては、表皮の切開に伴う身体的苦痛、麻酔成分の副作用、切開口を介して体内に侵入した外気暴露による体内組織の酸化、切開創の治癒にかかる身体的負荷の増大等、侵襲度を不用意に高めて生体ストレスを大きくする問題があった。
【0005】
また、施術者にとっては、麻酔、表皮切開、組織剥離、被移植体挿入、切開口縫合といった各複数の施術手順を要する施術の煩雑さ、施術者の施術経験の多寡や技能に依存した施術再現性の不安定化、各施術手順に応じたピンセットやメスなどの特別な施術器具や麻酔などの薬剤を必要とする施術コストの高額化等、施術負担を大きくする問題があった。
【0006】
特に実験動物を用いた薬剤の臨床試験にあたっては、動物福祉に考慮しつつ、なるべく動物への侵襲度が少なく、熟練者でなくても簡便な手技で安定した臨床結果が得られる施術方式が推奨されている。すなわち、臨床試験では複数の被移植体をサンプルに効果判定をするため複数回の移植施術を行う必要があり、簡便且つ短時間で安定した移植を可能とする施術方式が求められていた。
【0007】
このような背景から、近年では、切開式に代わり、移植物を予め装填した移植用注射器を用い、注射器の移植針先端を被移植体皮下の所望とする移植位置まで穿刺して位置づけ、移植物を皮下組織へ局所的に注入留置する移植物留置作業を行い、移植用注射器を抜針して移植物の移植を完了する、いわゆるインジェクション式が提案されている。
【0008】
このインジェクション式に使用される移植用注射器は、基本構造として、内部中空筒状のシリンジと、シリンジ先端で同軸上に一体配置されてシリンジ空間と連通する内部中空筒状の移植針と、シリンジ空間と針空間をスライドする細長棒状のプランジャと、を備え、プランジャにより移植物をシリンジから移植針へ押出移動させて針先端開口から押出可能に構成している(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、被移植体に移植される移植物には、前述の通り、例えばICチップのように定形性を有した硬質の固形移植物と、例えば生体組織塊のように不定形性を有した軟質の固形移植物(以下、単に軟質移植物とも言う。)との2種類がある。
【0011】
これら移植物のうち特に軟質移植物の取り扱いは大変難しく、特許文献1に開示の移植用注射器により軟質移植物を被移植体へ移植しようとすると、安定した移植施術が行えない虞があった。
【0012】
すなわち、特許文献1に開示の移植用注射器により移植施術を行うに際しては、予め注射器に軟質移植物を装填する施術前の移植物充填作業を行う必要がある。この施術前の移植物充填作業は、軟質移植物を、シリンジの後端開口に設置してプランジャにより同軟質移植物をシリンジ空間へ押し込み、シリンジ空間から針空間、すなわち針先端開口の近傍位置に配置することにより行われている。
【0013】
しかしながら、上記従来の移植用注射器によれば、プランジャによる進出方向への押出応力を受けた軟質移植物は、軟質不定形性であるがゆえに、押出応力を受けた部分からシリンジの径方向外方へ拡開するように膨出変形して該押出応力を不用意に散逸させてしまい、施術前の移植物充填作業をスムーズに行うことが出来ない虞があった。
【0014】
具体的には、軟質移植物の膨出変形部分がシリンジの後端開口からはみ出してしまい、同はみ出し部分がシリンジ後方開口縁とプランジャ先端との間で圧潰剪断されて軟質移植物が損壊する可能性があった。
【0015】
また、軟質移植物をプランジャによりシリンジの後端開口からシリンジ空間へ装入できても、同軟質移植物は、シリンジ空間から針空間へと移動させなければならい。この際、軟質移植物の膨出変形部分が、内周面との間で摩擦力を受け、内周面と不用意に圧着係合する可能性がある。
【0016】
そして、軟質移植物の膨出変形部分がシリンジ内周面に圧着係合した状態で強制的にプランジャを進出させると、膨出変形部分と押圧部分との間で押出方向と逆方向の反力が不用意に生起してしまうこととなる。
【0017】
その結果、プランジャによる押出応力を移植物全体に均一に作用させることができないばかりか、プランジャの押出応力と逆方向の反力を受けた膨出変形部分がシリンジとプランジャの隙間から逆流してシリンジの後端開口から漏れ出たりシリンジ空間内に残留したりして、移植物が損壊する可能性があった。
【0018】
また、プランジャにより軟質移植物を押圧してシリンジ空間から針先端開口近傍へ移動設置する際には、施術者は移植物が針先端開口から不用意に飛び出さないようにプランジャ先端の進出位置を調整しながらプランジャの微妙な押出スライド操作をする必要がある。
【0019】
すなわち、注射針内空間でのプランジャによる軟質移植物の移動位置は注射器外部からは視認できないため、施術前の移植物装填作業におけるプランジャの押出スライド操作は、施術者の経験則に基づいた感覚に依存して行われているのが現状である。
【0020】
このように、従来の移植用注射器は、施術者に対して施術前の移植物装填作業を煩雑なものとし、同作業の繰り返しによる習熟等の特別な技能を要求して施術負担を強いるものであった。
【0021】
すなわち、従来の移植用注射器は、安定的且つ定量的な移植物の装填作業を困難とし、手順を徒に煩雑にして本来的な移植施術を円滑に行うことができないばかりか、稀少性且つ有限性の高い試料である軟質移植物の無用なロスを生じさせて移植施術の再現性を不安定にする虞があった。
【0022】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであって、軟質の固形移植物を移植施術前に移植針の先端開口近傍位置に位置付ける移植物装填作業と移植施術時に被移植体の所望とする皮下組織へ設置する移植物留置作業を誰でも簡単且つ安定して短時間で行うことができ、施術コストを可及的低減化しつつ軟質の固形移植物の無用なロスをなくして移植施術の再現性を高めることができる、移植針、移植物装填治具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記従来の課題を解決するために、(1)本発明に係る移植針は、中空筒状の針胴体部と、前記針胴体部の先端に延設され、先端尖鋭とした中空筒状の針本体部と、を備え、前記針胴体部と前記針本体部との筒軸を同軸上に配置して前記針本体部の筒孔と前記針胴体部の筒孔とを接続連通することにより連通筒孔を内径が0.7~1.5mmの針管路とし、前記針本体部は、先端部を筒軸に対して一定方向に傾斜切削して、その切削面を針先端開口の開口面積が針管路の横断面積に対して3.8倍~6倍となる刃面となし、前記針胴体部は、前記針本体部の周壁よりも肉厚の周壁を有し、前記針胴体部の周壁には、周面で開口する内径が2.0mm~4.0mmの上方開口と前記針管路の一側で針管路の長手方向に長径を有する略楕円形状に開口した開口面積が前記上方開口の開口面積の0.04~0.5倍である下方開口とを有した移植物装填孔を前記針管路に連通するように貫通形成し、前記下方開口の開口縁部は前記針管路に向かって漸次縮径するように傾斜するテーパー部に形成し、前記移植物装填孔の下方開口を介して軟質の固形移植物を針胴体部の針管路内に装入させるべく押し出した際に、軟質の固形移植物が下方開口により針管路の伸延方向に沿う楕円形状に仮成型された状態で押し出されるよう構成したことを特徴とする。
【0027】
また、(2)本発明に係る移植物装填治具は、移植針を備えた移植用注射器への軟質の固形移植物の装填の際に使用される移植物装填治具であって、前記移植針は、中空筒状の針胴体部と、前記針胴体部の先端に延設され、先端尖鋭とした中空筒状の針本体部と、を備え、前記針胴体部と前記針本体部との筒軸を同軸上に配置して前記針本体部の筒孔と前記針胴体部の筒孔とを接続連通することにより連通筒孔を針管路とし、前記針本体部は、先端部を筒軸に対して一定方向に傾斜切削して切削面を刃面となし、前記針胴体部は、前記針本体部の周壁よりも肉厚の周壁を有し、前記針胴体部の周壁には、周面で開口する上方開口と前記針管路の一側で開口する下方開口とを有した移植物装填孔を前記針管路に連通するように貫通形成し、前記移植物装填孔を介して前記針管路へ軟質の固形移植物を装入可能とし、前記移植用注射器は、前記移植針の前記針管路に連通するシリンジ孔を有し、先端部に前記移植針を着脱可能とする針取付部を形成した中空筒状のシリンジと、前記シリンジの基端側開口からシリンジ孔に挿入され、前記移植針の前記移植物装填孔から前記針管路に装入された前記固形移植物を前記移植針の先端開口から外方へ押し出すための押子と、を有し、前記移植物装填治具は、前記移植物装填孔の前記上方開口を上方に臨ませた前記移植用注射器の横臥状態で前記移植用注射器を載置固定して前後左右の動きを規制する注射器固定部を有する支持フレームと、前記支持フレームに連設され、前記移植物装填孔に設置した前記固形移植物に対して前記針管路に装入する下方押圧力を前記移植物装填孔の上方から付与するための装填押圧体と、を備えることを特徴とする。
【0028】
また、本発明に係る移植物装填治具は、以下の点にも特徴を有する。
(3)前記支持フレームは、前記移植針の前記針管路に装入された前記固形移植物を前記針本体部の先端開口近傍に位置づけるように前記押子の進入位置を規制する押子ストッパーを備えること。
(4)前記注射器固定部は、前記移植用注射器の前記移植針を載置固定するための針固定用シャフトと、前記針固定用シャフトと平行に配置され、前記移植用注射器の前記シリンジの外周壁に嵌着対応して前記シリンジを載置固定するためのシリンジ固定用シャフトと、で構成したこと。
(5)前記装填押圧体は、前記支持フレームに対して水平方向に回動可能に支持され、先端部に鉛直方向に貫通した貫通孔を有する回動アームと、前記回動アームの前記貫通孔に遊嵌されると共に弾性体を介して下方付勢され、前記移植針の前記移植物装填孔に嵌入対応する押圧ピンと、前記押圧ピンを前記回動アームに支持すると共に前記弾性体の下方付勢力に抗して前記押圧ピンを上方に引き上げ可能とするためのピン支持体と、を備えること。
(6)前記押圧ピンの先端角部はテーパー部とし、前記押圧ピンが前記移植物装填孔に嵌入された状態で前記同テーパー部の少なくとも一部が前記移植針の前記針管路内に突出するようにしたこと。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る移植針によれば、中空筒状の針胴体部と、前記針胴体部の先端に延設され、先端尖鋭とした中空筒状の針本体部と、を備え、前記針胴体部と前記針本体部との筒軸を同軸上に配置して前記針本体部の筒孔と前記針胴体部の筒孔とを接続連通することにより連通筒孔を内径が0.7~1.5mmの針管路とし、前記針本体部は、先端部を筒軸に対して一定方向に傾斜切削して、その切削面を針先端開口の開口面積が針管路の横断面積に対して3.8倍~6倍となる刃面となし、前記針胴体部は、前記針本体部の周壁よりも肉厚の周壁を有し、前記針胴体部の周壁には、周面で開口する内径が2.0mm~4.0mmの上方開口と前記針管路の一側で針管路の長手方向に長径を有する略楕円形状に開口した開口面積が前記上方開口の開口面積の0.04~0.5倍である下方開口とを有した移植物装填孔を前記針管路に連通するように貫通形成し、前記下方開口の開口縁部は前記針管路に向かって漸次縮径するように傾斜するテーパー部に形成し、前記移植物装填孔の下方開口を介して軟質の固形移植物を針胴体部の針管路内に装入させるべく押し出した際に、軟質の固形移植物が下方開口により針管路の伸延方向に沿う楕円形状に仮成型された状態で押し出されるよう構成したため、軟質移植物を針胴体部に設けた移植物装填孔から装入して針管路の中途部に介装配置できるために、軟質移植物を押子により針先端開口の近傍位置へ押込み位置づける際の軟質移植物の移動距離を短縮化でき、軟質移植物が移動時に受ける摺動摩擦抵抗の影響を可及的低減化することができ、施術前における針先端開口近傍への移植物装填作業を簡略化することができると共に軟質移植物の不用意な摺動損壊を防止でき、軟質移植物の無用なロスを抑制できる効果がある。
【0030】
また、前記移植物装填孔の前記下方開口は、前記上方開口よりも縮径して形成したため、移植物装填孔内に軟質移植物を仮載置でき、極小サイズの軟質移植物の移植物装填孔への挿入作業を容易に行うことができる効果がある。
【0032】
また、前記刃面は、前記針管路の先端開口の開口面積を前記針管路の横断面積に対して3.8倍~6倍となるように形成したため、被移植体皮下へ移植針を穿刺した場合に移植針先端の刃面により被移植体組織を切り裂きながら標的とする移植位置へ針先端開口を容易に位置づけることができると共に同針本体部の刃面内側の先端開口から押子により軟質移植物をスムーズに押出すことができ、施術時の移植位置への移植物留置作業を確実に行うことができる効果がある。
【0040】
また、本発明に係る移植物装填治具によれば、前記移植物装填孔の前記上方開口を上方に臨ませた前記移植用注射器の横臥状態で前記移植用注射器を載置固定して前後左右の動きを規制する注射器固定部を有する支持フレームと、前記支持フレームに連設され、前記移植物装填孔に設置した前記固形移植物に対して前記針管路に装入する下方押圧力を前記移植物装填孔の上方から付与するための装填押圧体と、を備えたため、移植用注射器に軟質移植物を装填する際の誤刺事故を防止し、移植用注射器の横臥姿勢に固定した状態を安定させることができ、施術前の移植物装填作業を安全、確実且つ迅速におこなうことができる効果がある。
【0041】
すなわち、横臥姿勢状態に固定された移植用注射器の移植物装填孔の上方位置に装填押圧体が配置されるように予め位置決めされているため、装填押圧体を移植物装填孔に向かって押し込むだけで、移植物装填孔内に挿入配置された軟質移植物を針管路中途部へ誘導して確実に配置する管路内移植物挿入作業をワンタッチで行うことができる。
【0042】
さらに、装填押圧体の先端と同先端に対向する針管路内周面と間で装填押圧体により軟質移植物を挟持した状態で針管路の中途部に軟質移植物を配置固定することができ、同挟持された軟質移植物に押子による押出応力を確実に作用させた施術前の移植物装填作業を安定して行うことができる効果がある。
【0043】
また、前記支持フレームは、前記移植針の前記針管路に装入された前記固形移植物を前記針本体部の先端開口近傍に位置づけるように前記押子の進入位置を規制する押子ストッパーを備えることとしたため、押子ストッパーにより押子の押出スライド操作時の押子先端の進出位置、すなわち芯金先端の進出位置を、同先端により押出移動される軟質移植物を針本体部の先端開口近傍に正確に位置づけるように規制することで、施術者が過度に押子を進出させて装入した軟質移植物を針本体部の先端開口から不用意に押出してしまうことを防止でき、誰でも簡単に施術前の移植物装填作業を行うことができる効果がある。
【0044】
また、前記注射器固定部は、前記移植用注射器の前記移植針を載置固定するための針固定用シャフトと、前記針固定用シャフトと平行に配置され、前記移植用注射器の前記シリンジの外周壁に嵌着対応して前記シリンジを載置固定するためのシリンジ固定用シャフトと、で構成したため、移植用注射器を基端側でシリンジとシリンジ固定用シャフトとの嵌着構造を介して固定すると共に先端側で移植針と針固定用シャフトとの載置固定構造を介して固定することにより、移植物装填治具で
の移植用注射器の横臥姿勢をより安定させることができ、施術前の移植物装填作業時の作業性をより向上することができる効果がある。
【0045】
また、前記装填押圧体は、前記支持フレームに対して水平方向に回動可能に支持され、先端部に鉛直方向に貫通した貫通孔を有する回動アームと、前記回動アームの前記貫通孔に遊嵌されると共に弾性体を介して下方付勢され、前記移植針の前記移植物装填孔に嵌入対応する押圧ピンと、前記押圧ピンを前記回動アームに支持すると共に前記弾性体の下方付勢力に抗して前記押圧ピンを上方に引き上げ可能とするためのピン支持体と、を備えることとしたため、移植物装填孔に挿入設置した移植物を針管路中途部に押込み誘導する管路内移植物挿入作業を正確且つ速やかにおこなうことができると共に、弾性体により押圧ピンを常時下方付勢して針管路中途部での軟質移植物の配置固定状態を堅実にして施術前の移植物装填作業をより安定して行うことができる効果がある。
【0046】
また、前記押圧ピンの先端角部はテーパー部とし、前記押圧ピンが前記移植物装填孔に嵌入された状態で前記同テーパー部の少なくとも一部が前記移植針の前記針管路内に突出するようにしたため、同テーパー部が移植物装填孔に係合して押圧ピンが針管路へ侵入して針管路を不用意に閉塞することを防止できる効果がある。
【0047】
また、押圧ピンが移植物装填孔にテーパー部を介して嵌入係合した状態では、テーパ部の一部が針管路内に突出するため、押圧ピン先端と同先端に対向する針管路内周面と間での軟質移植物の挟持状態をより確実にして、押子による押出応力を確実に作用させることができる効果がある。
【0048】
また、押子により針先端開口近傍に軟質移植物を配置する際の押子の押出スライド操作時に押子先端が押圧ピンのテーパー面に摺接滑動することでき、押子のスライド動作をスムーズに行うことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】本発明に係る移植用注射器と移植物装填治具の着脱状態を示す外観斜視図である。
【
図2】第1の実施形態に係る移植用注射器の構成を示す分解斜視図である。
【
図3】第1の実施形態に係る移植用注射器の構成を示す側断面図である。
【
図4】第1の実施形態に係るシリンジの構成を示す説明図である。
【
図5】第1の実施形態に係る押出ロッドの構成を示す説明図である。
【
図6】第1の実施形態に係る指掛用フランジの構成を示す説明図である。
【
図7】第1の実施形態に係る移植針の構成を示す説明図である。
【
図8】第1の実施形態に係る移植物装填治具の構成を示す分解斜視図である。
【
図9】第1の実施形態に係る移植物装填治具の構成を示す分解斜視図である。
【
図10】第1の実施形態に係る装填押圧体の構成を示す分解斜視図である。
【
図11】第1の実施形態に係る移植用注射器の移植物装填治具への載置固定状態を示す説明図である。
【
図12】第1の実施形態に係る移植物装填治具の使用状態を示す模式的説明図である。
【
図13】第1の実施形態に係る移植物装填治具の使用状態を示す模式的説明図である。
【
図14】第1の実施形態に係る移植物装填治具の使用状態を示す模式的説明図である。
【
図15】第1の実施形態に係る移植用注射器の使用状態を示す模式的説明図である。
【
図16】第2の実施形態に係る移植用注射器の構成を示す側断面図である。
【
図17】第2の実施形態に係る移植用注射器の構成を示す部分拡大斜視図である。
【
図18】第2の実施形態に係る移植物装填治具の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の要旨は、中空筒状の針胴体部と、前記針胴体部の先端に延設され、先端尖鋭とした中空筒状の針本体部と、を備え、前記針胴体部と前記針本体部との筒軸を同軸上に配置して前記針本体部の筒孔と前記針胴体部の筒孔とを接続連通することにより連通筒孔を針管路とし、前記針本体部は、先端部を筒軸に対して一定方向に傾斜切削して切削面を刃面となし、前記針胴体部は、前記針本体部の周壁よりも肉厚の周壁を有し、前記針胴体部の周壁には、周面で開口する上方開口と前記針管路の一側で開口する下方開口とを有した移植物装填孔を前記針管路に連通するように貫通形成し、前記移植物装填孔を介して前記針管路へ軟質の固形移植物を装入可能としたことを特徴とする移植針を提供することにある。
【0051】
また、前記移植物装填孔の前記下方開口は、前記上方開口よりも縮径して形成したことを特徴とする。
【0052】
また、前記移植物装填孔は、前記針胴体部の先端近傍に形成したことに特徴を有する。針先端の開口近傍位置へ押込み位置づける際の軟質移植物の押込み移動距離をより短縮化できる効果がある。
【0053】
また、前記刃面は、前記針管路の先端開口の開口面積を前記針管路の横断面積に対して3.8倍~6倍となるように形成したことに特徴を有する。
【0054】
また、本発明では、前述の移植針を備えた固形移植物の移植に用いる注射器であって、前記移植針の前記針管路に連通するシリンジ孔を有し、先端部に前記移植針を着脱可能とする針取付部を形成した中空筒状のシリンジと、前記シリンジの基端側開口からシリンジ孔に挿入され、前記移植針の前記移植物装填孔から前記針管路に装入された前記固形移植物を前記移植針の先端開口から外方へ押し出すための押子と、を有することを特徴とする移植用注射器についても提供する。押子により移植針の移植物装填孔から針管路の中途部に介装配置した軟質移植物を針本体部、すなわち針先端開口に向かって押出移動させる押子の押出スライド操作を確実に行うことができる効果がある。また、施術後の注射器の洗浄作業や繰り返し使用により移植針が経年劣化した場合の交換作業を容易に行うことができ、施術コストを可及的低減化することができる効果がある。
【0055】
また、前記押子は、基端側に施術者が押圧操作するための操作部を有し、前記シリンジ孔に挿入される押出ロッドと、前記押出ロッドの先端から延出し、前記針管路に挿入されて前記押出ロッドの押圧操作に伴い前記針管路に装入された前記固形移植物に押圧作用する芯金と、を備えることに特徴を有する。押子の押出スライド操作を精密に行うことができる。すなわち、操作部により施術者の手指を介した押子の押込み力加減を調整しやすくし、押子の進出位置、すなわち押出ロッドとその先端の芯金の進出位置を微調整でき、押子の押出スライド操作による押出応力を芯金を介して軟質移植物に均一に作用させて、施術前の移植物装填作業や施術時の移植物留置作業を安定して行うことができる効果がある。
【0056】
また、前記シリンジ孔内には前記押子を基端側へ付勢するための弾性体を介設すると共に、前記押出ロッドと前記シリンジとには前記弾性体の付勢力により前記シリンジから前記押子が外れることを防止するための規制手段を設けたことに特徴を有する。押子を押出スライド操作して施術前の移植物装填作業や施術時の移植物留置作業を実施する際には、手指により操作部を介して押出ロッドを弾性体の付勢力に抗して押圧することにより芯金からの押出応力を軟質移植物に伝達作用させることができる。すなわち、手指による操作部を介した押子の押込み力加減を弾性体の付勢力により段階的に細かく調節することができ、押子の進出位置をより正確に微調整することができる効果がある。また、施術前の移植物装填作業や施術時の移植物留置作業が完了した後は、弾性体の付勢力により押子を退去位置にスライド復帰させると共に規制手段によりシリンジ内での押子の挿嵌状態、すなわち極細の芯金の移植針の針管路内での挿嵌設置状態を保持することができ、押子のシリンジ内への挿嵌作業を省略することができる効果がある。
【0057】
また、本発明では、前述の移植用注射器に固形移植物を装填する際に使用される移植物装填治具であって、前記移植物装填孔の前記上方開口を上方に臨ませた前記移植用注射器の横臥状態で前記移植用注射器を載置固定して前後左右の動きを規制する注射器固定部を有する支持フレームと、前記支持フレームに連設され、前記移植物装填孔に設置した前記固形移植物に対して前記針管路に装入する下方押圧力を前記移植物装填孔の上方から付与するための装填押圧体と、を備えることを特徴とする移植物装填治具についても提供する。
【0058】
また、前記支持フレームは、前記移植針の前記針管路に装入された前記固形移植物を前記針本体部の先端開口近傍に位置づけるように前記押子の進入位置を規制する押子ストッパーを備えることに特徴を有する。
【0059】
また、前記注射器固定部は、前記移植用注射器の前記移植針を載置固定するための針固定用シャフトと、前記針固定用シャフトと平行に配置され、前記移植用注射器の前記シリンジの外周壁に嵌着対応して前記シリンジを載置固定するためのシリンジ固定用シャフトと、で構成したことに特徴を有する。
【0060】
また、前記装填押圧体は、前記支持フレームに対して水平方向に回動可能に支持され、先端部に鉛直方向に貫通した貫通孔を有する回動アームと、前記回動アームの前記貫通孔に遊嵌されると共に弾性体を介して下方付勢され、前記移植針の前記移植物装填孔に嵌入対応する押圧ピンと、前記押圧ピンを前記回動アームに支持すると共に前記弾性体の下方付勢力に抗して前記押圧ピンを上方に引き上げ可能とするためのピン支持体と、を備えることに特徴を有する。
【0061】
また、前記押圧ピンの先端角部はテーパー部とし、前記押圧ピンが前記移植物装填孔に嵌入された状態で前記同テーパー部の少なくとも一部が前記移植針の前記針管路内に突出するようにしたことに特徴を有する。
【0062】
以下、本発明について、[1]本発明に係る移植針を備えた移植用注射器及び移植物装填治具の全体概要、[2]第1の実施形態に係る移植用注射器の構成、[3]第1の実施形態に係る移植針の構成、[4]第1の実施形態に係る移植物装填治具の構成、[5]本発明に係る移植物装填治具の使用説明、[6]第2の実施形態に係る移植針、移植用注射器、及び移植物装填治具の構成、の順番に説明する。なお、以下の説明において、移植針を基準に、針管路の軸方向に沿って針本体部のある側を「先端側」「前側」、針胴体部のある側を「基端側」「後側」、移植物装填孔の軸方向に沿って移植物装填孔の上方開口のある側を「上側」「平面側」、下方開口のある側を反対側を「下側」「底面側」、移植針の針管路の軸方向に直交すると共に移植物装填孔の軸方向に直交する側を「左右側」とする。
【0063】
[1]本発明に係る移植針を備えた移植用注射器、移植物装填治具の全体概要
以下、本発明に係る移植針、移植針を備えた移植用注射器、移植物装填治具の実施例について、図面を参照しながら説明する。
図1(a)及び
図1(b)は移植用注射器と移植物装填治具の着脱状態を示す外観斜視図、
図2は移植用注射器の構成を示す分解斜視図、
図12~
図15は移植物装填治具の使用状態を示す模式的説明図である。
【0064】
移植針A1と注射器本体B10とは
図1(a)及び
図2に示すように互いに嵌着して移植用注射器B1を構成し、移植用注射器B1は移植物装填治具C1に
図1(a)及び
図1(b)に示すように着脱可能に構成している。
【0065】
移植用注射器B1の先端に装着される移植針A1は針管路3に連通する移植物装填孔30を備えており、同移植物装填孔30に内挿設置した軟質移植物を移植物装填治具C1の装填押圧体9により移植用注射器B1の移植針A1内へ装填可能としている。
【0066】
移植用注射器B1に装填される軟質移植物Gは、
図12~
図15に示すように極小サイズの微細片であって、例えば腫瘍細胞や腫瘍組織などの生体組織塊の他、剤徐放性カプセル、個体識別用のICチップなどの硬質の固形移植物を生体吸収ポリマーなどの軟質材料で被包形成したものも含む。
【0067】
また、軟質移植物Gの形状は、移植物装填孔30を介して移植針A1の針管路内に装填可能であれば特に限定されることはないが、略球形や略方形状のものが好ましい。
【0068】
また、軟質移植物Gのサイズは、移植物装填孔30を介して移植針A1の針管路内に装填可能な外径を有していればよく、例えば外径約0.1~5mmであり、生体組織塊であれば解剖用ハサミ等により外径約1mm~2mm画の所定形状にカットされ調製される。
【0069】
また、本注射器B1が用いられる被移植体Hは、その移植目的に応じたマウス、犬などの実験動物やヒトなどの生体である。すなわち、被移植体H(本実施形態ではマウス)は、
図15に示すようにインジェクション式の施術方式にて本注射器B1により皮下組織へ軟質移植物Gを注入され移植される。
【0070】
施術者は、移植用注射器B1内への軟質移植物Gの移植施術前の移植物装填作業をするにあたり、
図1(a)~
図2、に示すように移植物装填孔30を備えた移植針A1を注射器本体B10のシリンジ4先端に装着して組み立てた移植用注射器B1を移植物装填治具C1に載置固定する。
【0071】
そして、
図12(a)に示すように移植物装填治具C1に載置固定した移植用注射器B1の移植物装填孔30に軟質移植物Gをピンセット等で内挿し、次いで、
図12(b)及び
図13に示すように同軟質移植物Gを移植物装填治具C1の装填押圧体9を介して移植針A1の針管路3内部へ押込み介挿し、次いで、
図14(a)及び
図14(b)に示すように移植用注射器B1の後端側の押子5を前側に押込む押出スライド操作をすることにより軟質移植物Gを移植針A1の針先端開口10の近傍位置に位置づける。
【0072】
このように、本発明に係る移植針A1、移植用注射器B1、移植物装填治具C1は、これまでのインジェクション式の移植施術にとって煩雑且つ困難であった軟質移植物Gの移植施術前の移植物装填作業について、整順且つ簡易にした新たな装填方式を提供するものである。
【0073】
すなわち、本発明に係る移植針A1、移植用注射器B1、及び移植物装填治具C1はそれぞれ、施術前の移植物装填作業を誰でも簡単に行うことができる特別な対応関係で構築されたユニット構造を有し、医療業界にとって待望且つ画期的な移植施術用キットであると言える。
【0074】
[2]第1の実施形態に係る移植用注射器の構成
次に、第1の実施形態に係る移植用注射器の構成について図面を参照しながら詳説する。
図3は移植用注射器の構成を示す側断面図、
図4(a)及び
図4(b)はそれぞれシリンジの構成を示す側面図及び側断面図、
図5(a)~
図5(c)はそれぞれ押出ロッドの構成を示す側面図、側断面図及び底面図、
図6(a)~
図6(c)はそれぞれ指掛用フランジの構成を示す側面図、正面図及び側断面図である。
【0075】
移植用注射器B1は、
図2及び
図3に示すように、後述する移植針A1の針管路3に連通するシリンジ孔6を有し、先端部に移植針A1を着脱可能とする針取付部40を形成した中空筒状のシリンジ4と、シリンジ4の基端側開口4bからシリンジ孔6内に挿入され、移植針A1の移植物装填孔30から針管路3に装入された軟質移植物Gを移植針A1の先端開口から外方へ押し出すための押子5と、で注射器本体B10を構成している。
【0076】
押子5は、移植用注射器B1の軸方向において、最基端側に位置する最退去位置では先端部を移植針A1の移植物装填孔30位置よりも基端側に配置し、最先端側に位置する最進出位置では先端部を移植針A1の針先端開口10から外方に露出させるように構成している。
【0077】
押子5は、
図2及び
図3に示すように、基端側に施術者が押圧操作するための操作部51を有し、シリンジ孔6に挿入される押出ロッド50と、押出ロッド50の先端から延出し、針管路3に挿入されて押出ロッド50の押圧操作に伴い針管路3に装入された軟質移植物Gに押圧作用する芯金52と、で構成している。
【0078】
押出ロッド50は、
図5(a)~
図5(c)に示すように、側断面視略T字状の略棒状であって、T字縦辺に相当する胴体部分をシリンジ孔6に挿通するロッド胴部50aとし、T字横辺に相当する基端部分をロッド胴部50aの基端部を径方向外方に向けて突出する拡径環体により操作部51に形成している。
【0079】
押出ロッド50基端の操作部51は、拡径環体の前後面51aF、51aBを押出ロッド50の軸方向に直交する平坦面に形成している。また、押出ロッド50の先端面50cは、軸方向に直交する平坦面とし、中央に芯金52の基端部を挿入して固定するための芯金固定孔50bを形成している。
【0080】
芯金52は、
図2及び
図3に示すように所定長さを有する金属製の細長棒であって、移植針A1の針管路3内径と略同じ外径に形成しており、押出ロッド50の芯金固定孔50bを介して押出ロッド50と同軸上に配置している。
【0081】
押出ロッド50の先端面からの芯金52の延出長さは、
図15で示したように押出ロッド50を最進出位置まで押し込んだ状態で、芯金52の先端部が少なくとも移植針A1の針先端開口10から外方に露出する長さとしている。
【0082】
シリンジ4は、
図4(a)及び
図4(b)に示すように肉厚の周壁を有する細長の円筒体であって、筒内部空間をシリンジ4の伸延方向に沿った筒軸を有するシリンジ孔6とし、例えば金属筒で形成している。
【0083】
シリンジ4の基端部は、
図2及び
図4(a)及び
図4(b)に示すように、外周面を周廻りに沿って径方向内側に切り欠くことにより指掛用フランジ41を外嵌固定するためのフランジ取付部42に形成している。フランジ取付部42は、シリンジ4の胴部外周の外径よりも縮径した肉薄周壁に形成している。
【0084】
指掛用フランジ41は、
図6(a)及び(b)に示すように所定厚みを有した正面視略楕円環体であって、中央部にフランジ取付部42に外嵌対応する嵌着孔41aを形成している。
【0085】
また、指掛用フランジ41の下部中央には、
図6(c)に示すように後述するロッドガイドピン54bを挿通するための係止ピン孔41bを貫通形成しており、係止ピン孔41bは嵌着孔41aに連通している。
【0086】
また、シリンジ4の基端側半部の外周下部には、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、後述する移植物装填治具C1のシリンジ固定用シャフト81に嵌合対応するシャフト嵌着凹部43を形成している。
【0087】
シャフト嵌着凹部43は、シリンジ4の外周底面をシリンジの接線方向に沿って略半円筒形状に切削することにより底面43aを接線方向に平行の平坦面にして形成している。
【0088】
また、シリンジ孔6は、
図4(b)に示すよようにシリンジ内空間について長手基端側半部の略中央を仕切る仕切段部60を境に、基端側孔をロッド挿入孔61とし、先端側孔をシリンジ4の先端で針取付部40をなす針嵌着孔62とし、仕切段部60の中央に貫通形成した芯金挿通孔63を介してロッド挿入孔61と針嵌着孔62とを連通することにより形成している。
【0089】
すなわち、シリンジ孔6は、ロッド挿入孔61と芯金挿通孔63と針嵌着孔62とを、シリンジ4の基端側から先端側にかけて順番に配置すると共にそれぞれの軸心を同軸上に配置してシリンジ4の筒軸に一致させて連通することにより形成している。
【0090】
ロッド挿入孔61は、シリンジ孔6の大部分に相当し、仕切段部60の後側面とシリンジ4の基端側の内周面とにより囲まれた基端側開放の長尺孔である。ロッド挿入孔61は、内部で押出ロッド50を摺動可能とする内径を有している。
【0091】
ロッド挿入孔61の基端側開口4bは、
図4(a)及び
図4(b)に示すように押出ロッド50の挿入口として機能し、開口内縁部を軸方向の先端側から基端側へ向けて漸次拡開するテーパー部に形成することにより、押出ロッド50のロッド挿入孔61への挿嵌作業を容易にしている。
【0092】
また、針嵌着孔62は、シリンジ孔6の先端部分に相当し、仕切段部60の前側面とシリンジ4の先端部の内周面とにより囲まれた先端側開放の短尺孔である。針嵌着孔62は、後述する移植針A1の針胴体部2の基部を挿嵌可能とする内径を有しており、針取付部40を構成する。
【0093】
針嵌着孔62の先端側開口4aは、移植針A1基部の嵌着口として機能し、開口内縁部を軸方向の基端側から先端側へ向けて漸次拡開するテーパー部に形成することにより、移植針A1の基部の針嵌着孔62への挿嵌作業を容易にしている。
【0094】
また、仕切段部60は、所定厚みを有した扁平板体であって、シリンジ孔6内において、前後側面をシリンジ4の軸方向に直交する平坦面に形成しており、ロッド挿入孔61と針嵌着孔62の間に介在している。
【0095】
仕切段部60の基端側面(前側面)は、押出ロッド50の先端面が当接して押子5の最大進出位置を規制するための規制面として機能する。また仕切段部60の先端側面(後側面)は、移植針A1の針胴体部2基端面が面当接して針嵌着孔62に嵌着した移植針A1の嵌合状態を安定させる嵌着底面として機能する。
【0096】
芯金挿通孔63は、仕切段部60の板面の中央部を貫通することにより形成しており、軸心を針取付部40に取り付けられた移植針A1の針管路3の軸心と同一軸上に配置して同針管路3に連通する。なお、芯金挿通孔63の内径は、芯金52を挿通可能とする内径であればよく芯金52の外径以上としている。
【0097】
また、シリンジ孔6内には、
図3に示すように押子5を基端側へ付勢するための弾性体53を介設すると共に、押出ロッド50とシリンジ4とには弾性体53の付勢力によりシリンジ4から押子5が外れることを防止するための規制手段54を設けている。
【0098】
弾性体53は、いわゆる圧縮コイルバネであり、
図3に示すようにロッド挿入孔61に挿嵌されて、仕切段部60と押出ロッド50との間に配置され、押出ロッド50をシリンジ4の基端側外方へ常時付勢する。
【0099】
また、規制手段54は、
図3~
図5(c)に示すようにシリンジ4の基端部(フランジ取付部42)の下部周壁に貫通形成され、ロッド挿入孔61に連通するロッドガイドピン孔54aと、ロッドガイドピン孔54aに挿入された状態でピン先端部をロッド挿入孔61内で露出させるロッドガイドピン54bと、押出ロッド50の下部に長手方向に沿って伸延形成され、ロッドガイドピン54bのピン先端部が嵌まり込むロッドガイド溝54cと、で構成している。
【0100】
ロッドガイドピン孔54aは、
図4(b)に示すようにシリンジ4の外周壁に開口すると共にシリンジ4の軸方向に直交伸延してシリンジ4の周壁を貫通することにより、ロッド挿入孔61に対して一側方から直交して連通している。
【0101】
また、ロッドガイドピン54bは、
図3に示すように押出ロッド50をロッド挿入孔61に挿入してロッドガイドピン孔54aに挿入した状態で、ロッドガイドピン孔54aからロッド挿入孔61内で露出したピン先端部を押出ロッド50の外周面に非接触とする長さに形成している。なお、本実施形態のロッドガイドピン54bは、ローレットネジを採用している。
【0102】
ロッドガイドピン54bは、
図3に示すようにロッドガイドピン孔54aを介してシリンジ4に固定され、シリンジ孔6に挿嵌した押子5の最進出位置又は最退去位置を規定する押子規制機能を果たすと共に指掛用フランジ41をシリンジ4のフランジ取付部42に固定するフランジ固定機能を果たす。
【0103】
具体的には、ロッドガイドピン54bは、指掛用フランジ41の係止ピン孔41bとフランジ取付部42のロッドガイドピン孔54aとを同軸上に配置した連通孔に挿通され、ロッド挿入孔61内でピン先端部を露出させる共に同ピン先端面が押出ロッド50に干渉しない長さとなるように形成している。すなわち、ロッドガイド溝54cは、溝天面54cUとロッド挿入孔61内で露出したピン先端部との間に一定の隙間を形成する深さを有する。
【0104】
ロッドガイド溝54cは、
図5(a)~
図5(c)に示すように押出ロッド50のロッド胴部50aの外周底面を、軸方向に沿って略細長直方形状に上側に凹ませて形成している。
【0105】
具体的には、ロッドガイド溝54cは、
図5(b)に示すように側面視で軸方向に平行な平坦状の溝天面54cUと、
図5(c)に示すように平面視で軸方向に平行な長尺直線状の左右側壁54cL、54cRと、ロッドガイドピン54bのピン先端部の外周に沿う半円弧状の前後端側壁54cF、54cBと、により囲まれた略直方形溝空間であって、ロッドガイドピン孔54aからシリンジ孔6内で上方突出するロッドガイドピン54bのピン先端部を収納可能に形成している。
【0106】
これにより、押子5の押出スライド操作に伴い押出ロッド50のロッドガイド溝54cの左右側壁54cL、54cRがピン先端部の左右外周側に摺動し、押子5の不用意な軸回りの回転を規制して押子5の押出スライド操作を安定させる。
【0107】
また、弾性体53の付勢力により基端側に復帰した押子5の最退去位置では、押出ロッド50のロッドガイド溝54cの後端側壁54cBがピン先端部の外周前側に突き当り当接係合し、芯金52の先端部52aを移植針A1の針管路3内で移植物装填孔30の下方開口32位置よりも後方側に位置づけると共に下方開口32を開放した状態となる。
【0108】
一方、弾性体53の付勢力に抗して先端側に押込んだ押子5の最進出位置では、押出ロッド50のロッドガイド溝54cの前端側壁54cFがピン先端部の外周後側に突き当り当接係合、又は押出ロッド50の前端面が収縮した弾性体53を介して仕切段部60の後側面に当接係合し、芯金52の先端部52aを移植針A1の針管路3内で移植物装填孔30の下方開口32位置よりも前方側に位置づけると共に下方開口32を閉塞し、芯金52の先端部52aを移植針A1の針先端開口10から外方に突出させた状態となる。
【0109】
換言すれば、ロッドガイド溝54cの軸方向長さ(軸方向において、前端側壁54cFと後端側壁54cBとの間の距離)は押子5の移動距離(押出ロッド50の前端面から収縮状態の弾性体53の後側面と間の距離)以上となるよう形成している。
【0110】
すなわち、押出ロッド50における前端側壁54cFと後端側壁54cBの形成位置は、移植用注射器B1の軸方向における移植針A1の移植物装填孔30(下方開口32)位置と押子5の進出退去変位に伴う先端部52aの移動位置との相対的位置関係により決定している。
【0111】
また、シリンジ4の先端部の周壁下部には、
図3~
図4(b)に示すように針嵌着孔62に嵌着した移植針A1の基部外周を押圧して移植針A1を注射器本体B10に固定する針係止ピン40bに挿通対応する針係止ピン孔40aを貫通形成している。
【0112】
針係止ピン孔40aは、
図4(b)に示すようにシリンジ4周壁に開口すると共にシリンジ4の軸方向に直交伸延してシリンジ4周壁を貫通することにより、針嵌着孔62に対して一側方から直交して連通している。
【0113】
これにより、
図3に示すように針嵌着孔62に移植針A1を嵌着した状態で針係止ピン孔40aに針係止ピン40bを挿入することにより、移植針A1の基部外周の一部に針係止ピン40bのピン先端部が係合すると共に針胴体部2を軸方向に直交する方向へ押圧し、同押圧部分と反対側の針胴体部2の外周面をシリンジ4の内周面に圧着させてシリンジ4に移植針A1を係合可能としている。
【0114】
なお、本実施形態の針係止ピン40bは、ローレットネジを採用しているが、針嵌着孔62内で固定されてピン先端部で移植針Aの針胴体部2を押圧し、シリンジ4の内周面と針胴体部2の外周面との圧着係合状態を実現できるものであればよく、例えば、針嵌着孔62の内径よりもやや大きい外径を有して同孔内に挿嵌固定される圧入ピンであってもよい。
【0115】
このように、針取付部40は、移植針A1の基部に嵌着対応する針嵌着孔62と、針嵌着孔62の一側方から針嵌着孔62の軸心に直交伸延して針嵌着孔62に連通する針係止ピン孔40aと、針係止ピン孔40aに挿入され、同針嵌着孔62に嵌着状態の移植針A1の基部外周の一部と係合する針係止ピン40bと、で構成している。これにより、注射器本体B10に移植針A1を一体的に装着係合して移植用注射器B1に組み立て可能としている。
【0116】
また、針係止ピン孔40aは、シリンジ4の周壁において、ロッドガイドピン孔54aが形成された周廻り位置と同じ周廻り位置に形成している。換言すれば、針係止ピン孔40aとロッドガイドピン孔54aとシャフト嵌着凹部43とは、シリンジ4の軸方向視において、それぞれ軸心を中心に周廻りの同位相に配置している。
【0117】
具体的には、針係止ピン孔40aとロッドガイドピン孔54aとシャフト嵌着凹部43とは、シリンジ4の周壁において、
図3に示すようにシリンジ4の軸心に沿った一側(下側)にそれぞれシリンジ4の軸心に沿った所定位置で形成している。
【0118】
これにより、後述する移植物装填治具C1のシリンジ固定用シャフト81にシャフト嵌着凹部43を嵌着して移植用注射器B1を固定した場合には、針係止ピン孔40aとロッドガイドピン孔54aにそれぞれ挿通した針係止ピン40bとロッドガイドピン54bの頭部が下側に配置されて移植物装填作業時の不用意な干渉を防止可能とする。
【0119】
また、移植用注射器B1は、軸方向の先端側に重心を偏心させている。具体的には、シリンジ4先端側の針嵌着孔62の周壁の厚みはシリンジ4基端側のロッド挿入孔61の周壁の厚みよりも肉厚に形成すると共に、針嵌着孔62とロッド挿入孔61とを区画する長手基端側半部の略中央に設けた仕切段部60により、シリンジ4の先端側に偏心させている。
【0120】
これにより、施術者が移植用注射器B1をシリンジ4の基端側胴部外周を把持した際には、先端側に重心があるため必然的にその先端の移植針A1が下方を向くこととなる。したがって、移植用注射器B1の把持姿勢を安定化させ、移植針A1の先端方向の操作性を向上させると共に誤刺事故の防止を可能とする。
【0121】
なお、シリンジ4を重量材質で形成すると共に押子5をシリンジ4も軽い軽量材質で形成することにより、移植用注射器B1の重心を軸方向の先端側に偏心させることしてもよい。重量材質としては例えば鋼製とし、軽量材質としては例えば樹脂製である。さらに、シリンジ4の先端に装着される移植針A1をシリンジ4同様に重量材質、例えば鋼製にて形成することにより移植用注射器B1の先端側への偏心を堅実とすることができる。
【0122】
[3]第1の実施形態に係る移植針の構成
次に、第1の実施形態に係る移植針A1の具体的構成について説明する。
図7(a)~
図7(d)は、それぞれ移植針の構成を示す平面図、側面図、側断面図、及び底面図である。
【0123】
移植針Aは、
図2、
図3、及び
図7(a)~
図7(d)に示すように中空筒状の針胴体部2と、針胴体部2の先端に延設され、先端尖鋭とした中空筒状の針本体部1と、を備える。
【0124】
針胴体部2と針本体部1とは、
図7(b)及び
図7(c)に示すように、それぞれの筒軸を同軸上に配置して針本体部1の筒孔と針胴体部2の筒孔とを接続連通することにより形成した直線状の連通筒孔を、芯金52や軟質移植物Gが配置され移動するための針管路3としている。
【0125】
なお、針管路3の内径(針胴体部2と針本体部1の内径)は一定で、押子5(芯金52)を内挿可能で且つ軟質移植物Gを介装可能な大きさであれば特に限定されることはなく、移植目的とする軟質移植物Gの大きさに合わせて適宜変更可能であり、例えば0.7~1.5mmである。
【0126】
また、針管路3の長さ、すなわち移植針A1の長さ(針胴体部2の長さと針本体部1の長さの総和)は、針管路3内で軟質移植物Gの移動した際に軟質移植物Gが管周壁から受ける摩擦力の影響を可及的低減化するべく、例えば約42~58mである。
【0127】
針本体部1は、肉薄の周壁を有すると共に先端尖鋭状に形成した略細筒管であって、被移植体Hの皮下組織を切り裂きながら移植位置に針先端開口10を位置づけ刺入し、針先端開口10から軟質移植物Gを吐出する移植針A1としての本質的な刺入移植機能を果たす部分である。
【0128】
針本体部1の寸法は、移植位置に針先端開口10を位置づけ可能であれば特に限定されることはないが、例えば、外径1.1~1.9mm、長さ23mm~31mm、周壁の厚み0.2~0.6mmにすることにより刺入される被移植体への侵襲度を可及的低減化することができる。
【0129】
また、針本体部1は、
図7(a)~
図7(c)に示すように針先端部を筒軸に対して一定方向に傾斜切削して切削面を刃面11とすることにより先端尖鋭状にしいる。針先端部の刃面11は、針先端の開口縁面に相当し、内側に針管路3を開口させる針先端開口10を有する。
【0130】
なお、傾斜切削における一定方向とは、側面視において、針先端開口10を形成する開口縁部の最上部が基端側に配置されると共に開口縁部の最下部が先端側に配置されていれてば、直線状、多角状であってもよい。すなわち、針先端部は、軸線(基底面)を基準に0°~90°の範囲内で傾斜角を段階的につけて切削形成されていてもよい。
【0131】
例えば、刃面11は、切削方向について、筒軸に対する回転角や針管路の基底面に対する傾斜角を段階的に変更することにより複数の傾斜面を有するように形成して、皮下組織の切り裂き作用を向上することもできる。
【0132】
この場合、例えば、針本体部1の針先端部を、針本体部1の基端側から最先端側にかけて順番に3段階カットし、1カット目を傾斜角11°~13°・回転角0°、2カット目を傾斜角15°~16°・回転角45°、3カット目を傾斜角15°~16°・回転角270°、とした3つの傾斜面を有した刃面11を有して形成できる。
【0133】
また、刃面11は、針管路3の針先端開口10の開口面積を針管路3の横断面積に対して3.8倍~6倍となるように形成しており、施術時の針先端開口側を視認することを容易とすると共に押子5による軟質移植物のスムーズな押出しを可能としている。
【0134】
また、針本体部1の基部は、
図7(c)に示すように先端側から基端側にかけて周壁を漸次肉厚にして擂鉢状に形成しており、針胴体部2の先端に一体に連結している。
【0135】
具体的には、針本体部1の基部は、内径をそのままに、外経を先端側から基端側にかけて漸次拡経させて外周面を緩やかな湾曲外周面に形成した拡径肉厚部とし、同拡径肉厚部の基端縁部を針胴体部2の先端縁部に連なるように針胴体部2に一体に接続しており、接続部分の剛性を向上させている。つまり、針本体部1の基端縁外径は、針胴体部2の外径に等しい。
【0136】
針胴体部2は、針本体部1の周壁よりも肉厚の周壁を有した太筒管であって、移植針A1の針管路3に軟質移植物Gを挿入するための移植物装填孔30を周壁に有して移植物導入機能を果たすと共に注射器本体B10に移植針A1を固定する針固定機能を果たす部分である。
【0137】
針胴体部2の寸法は、例えば、外径5.5~6.5mm、長さ19mm~27mm、周壁の厚み2.1~2.9mmにすることにより、周壁に移植物導入機能を果たすことのできる移植物装填孔30を形成できると共に針固定機能を果たすこができる。つまり、針胴体部2の周壁の厚みは、針本体部1の周壁の厚みの約0.1~15倍、好ましくは5~7倍である。
【0138】
かかる針胴体部2の周壁には、外周面で開口形成した上方開口31と針管路3の内周面で開口形成した下方開口32とを有し、外部と針管路3とを連通する移植物装填孔30を貫通形成している。
【0139】
具体的には、移植物装填孔30は、略円柱状の細長孔であり、
図3及び
図7(c)に示すように針胴体部2の軸方向に直交して針胴体部2の周壁を貫通することにより、針胴体部2の外周面に移植物の上方開口31を開口形成すると共に針胴体部2の筒孔内周面、すなわち針管路3の一側方に下方開口32を開口形成し、針管路3の中途部で針管路3に対して直交方向から合流して連通している。
【0140】
また、移植物装填孔30は、針胴体部2の先端近傍、すなわち針本体部1基部との接続部分の近傍位置に形成している。
【0141】
より具体的には、移植物装填孔30は、
図7(a)に示すように平面視でその開口を針本体部1の針先端開口10の露出開放側と同じ側(上側)に臨ませて針胴体部2の先端近傍の周壁に貫通形成しており、後述する移植物装填治具C1への設置方向を一定にしている。
【0142】
この移植物装填孔30は、軟質移植物Gを針管路3に介装設置する際の導入路となる孔であり、孔を形成する周壁により軟質移植物Gを孔内部に内挿保持できるだけの十分な一定深さを有している。
【0143】
換言すれば、移植物装填孔30は、軟質移植物Gを移植針A1の針管路3の中途部への導入機能を果たすと共に、導入前に孔内部で軟質移植物Gを挿入した状態を保持して軟質移植物を移植針A1に仮載置する仮載置機能をも果たす。
【0144】
移植物装填孔30の寸法は、所望とする軟質移植物Gの大きさによるが、軟質移植物Gの導入機能や孔内への仮載置機能を果たすべく、さらに施術者の軟質移植物の移植物装填孔30への設置作業の利便性観点から、例えば内径2.0mm~4.0mm、長さ(深さ)2.1~2.9mmである。
【0145】
すなわち、移植物装填孔30は、内径を針管路3の内径よりも大きくすると共に長さを針胴体部2の周壁の肉厚と略同じに形成している。なお、本実施形態では、移植物装填孔30の内径は、針管路3の内径の約3倍~6倍である。
【0146】
また、移植物装填孔30の上方開口31は、移植物装填孔30の導入口として機能し、
図7(a)に示すように平面視で略円形状に開口している。移植物装填孔30の開口縁部は、
図7(b)に示すように側面視で針胴体部2の外周上面を円弧状に下方切欠している。
【0147】
これにより、移植物装填孔30を針胴体部2の外周面で大きく開口させて開口面積を可及的拡大させ、施術者による視認性や移植物装填孔30への軟質移植物Gの内挿作業性を向上させている。なお、上方開口31の内径は、例えば2.0mm~4.0mmである。
【0148】
また、移植物装填孔30の下方開口32は、移植物装填孔30から針管路3に連通する連通口として機能し、針管路3の中途部一側に開口形成している。下方開口32は、
図7(a)に示すように平面視で上方開口31よりも小さい開口面積を有する略楕円形状に形成している。
【0149】
具体的には、下方開口32は、平面視で楕円の長軸を針管路3の軸心の上方で同位相に配置すると共に楕円の短軸を針管路3の軸心の上方で直交方向に配置した楕円孔に形成している。
【0150】
なお、下方開口32の内径は、例えば長径1.0mm~2.0mm、短径0.7~1.5mmである。なお、移植物装填孔30において、下方開口32の開口面積は、上方開口31の開口面積の約0.04~0.5倍である。
【0151】
また、下方開口32の開口縁部は、
図7(c)及び
図13に示すように針管路3に向かって漸次縮径するように傾斜するテーパー部33に形成している。具体的には、テーパー部33は、移植物装填孔30の内周壁下部について、上方から下方にかけて横断面形状を円形から楕円形に近づけると共に断面積を縮小するように形成している。
【0152】
これにより、移植物装填孔30内に挿入設置された軟質移植物Gを同孔内のテーパー部33上に掛止して仮載置することを可能とする。また、下方開口32を介して針胴体部2の針管路3内に軟質移植物Gを押し出した場合には、同軟質移植物Gは下方開口32により針管路3の伸延方向に沿う楕円形状に仮成型された状態で押し出されることとなり、針管路3の伸延方向に沿った移動が容易となる。
【0153】
また、針胴体部2の基部、具体的には針胴体部2の基端側略半部は、前述の如くシリンジ4先端の針取付部40の針嵌着孔62に内嵌される嵌着部としている。
【0154】
また、針胴体部2の基端側略半部の外周面の所定位置には、
図7(b)~
図7(d)に示すように針係止ピン40bのピン先端部が嵌まり込み係合するためのピン係合溝20を側面視半円弧状に切り欠いて形成している。
【0155】
具体的には、ピン係合溝20は、針胴体部2の長手方向において、シリンジ4先端の針取付部40の針嵌着孔62に移植針A1の針胴体部2を挿嵌した状態で、シリンジ4の針係止ピン孔40aに対応位置する針胴体部2の外周底面に形成している。
【0156】
また、ピン係合溝20は、針胴体部2の周壁において、
図7(b)及び
図7(c)に示すように移植物装填孔30が形成された周廻り位置とは反対側の周廻り位置に形成している。
【0157】
換言すれば、ピン係合溝20と移植物装填孔30とはそれぞれ、針胴体部2の軸方向視において、軸心を中心に周廻り逆位相に配置している。具体的には、針胴体部2の周壁において、側面視で移植針A1の針管路3の軸心を境に一側(上側)に移植物装填孔30を、同一側に対向する他側(下側)にピン係合溝20を、それぞれ軸心に沿った所定位置で形成している。
【0158】
また、針胴体部2の基端側の開口縁部21aは、
図7(c)に示すように針管路3の基端側開口21を軸方向に沿って先端側から基端側に向けて漸次拡開させるテーパー部に形成しており、シリンジ4先端での移植針A1の装着状態でシリンジ孔6内を移動してきた押子5(芯金52)の先端の受け口を広くして、接続部分での押子5への不用意な干渉を防止している。
【0159】
[4]第1の実施形態に係る移植物装填治具の構成
次に、第1の実施形態に係る移植物装填治具の構成について図面を参照しながら詳説する。
図8及び
図9は移植物装填治具の構成を示す分解斜視図、
図10は装填押圧体の構成を示す分解斜視図、
図11(a)及び
図11(b)はそれぞれ移植用注射器の移植物装填治具への載置固定状態を示す平面図及び模式的側断面図である。
【0160】
移植物装填治具C1は、
図1(a)及び
図1(b)で示したように、移植物装填孔30の上方開口31を上方に臨ませた移植用注射器B1の横臥状態で移植用注射器B1を載置固定して前後左右の動きを規制する注射器固定部8を有する支持フレーム7と、支持フレーム7に連設され、移植物装填孔30に設置した軟質移植物Gに対して針管路3に装入する下方押圧力を移植物装填孔30の上方から付与するための装填押圧体9と、を備える。
【0161】
支持フレーム7は、平面視方形枠体であって移植用注射器B1の載置固定台として機能し、
図8に示すように所定厚みを有する長尺略帯板状の左右側フレーム部70L、70Rと、所定厚みを有する短尺略帯板状の前後側フレーム部71F、71Bと、を備えている。かかる支持フレーム7の内側には、注射器固定部8を設けている。
【0162】
具体的には、支持フレーム7は、左右側フレーム部70L、70Rは互いの帯板面を面対向させて一定間隔を隔てて平行に配置すると共に、前後側フレーム部71F、71Bは左右側フレーム部70L、70Rの前後端部同士の間で互いの帯板面を面対向させて平行に配置し、それぞれボルト75を介して固定することにより構成している。
【0163】
支持フレーム7の長さ、すなわち前後側フレーム部71F、71B同士の間隔幅は、移植用注射器B1のシリンジ4の長さと移植針A1の長さの総和よりも長くなるように形成している。
【0164】
また、支持フレーム7の幅、すなわち左右側フレーム部70L、70R同士の間隔幅は、移植用注射器B1の最大幅である指掛用フランジ41の幅よりも長くなるようにしている。
【0165】
すなわち、
図11(a)及び
図11(b)に示すように、支持フレーム7は、移植用注射器B1をフレームの長手方向に沿ってフレーム内部の注射器固定部8に横臥状態で載置固定した場合に、移植針A1の針先端部分を前側フレーム部71Fに位置づけると共に、最退去位置にある押子5の基端部(操作部51)を後側フレーム部71Bよりも外方に位置づけるように構成している。
【0166】
注射器固定部8は、
図8~
図9、及び
図11に示すように移植用注射器B1の移植針Aを載置固定するための針固定用シャフト80と、針固定用シャフト80と平行に配置され、移植用注射器B1のシリンジ4の外周底面に嵌着対応してシリンジ4を載置固定するためのシリンジ固定用シャフト81と、で構成している。
【0167】
すなわち、注射器固定部8は、
図9に示すように、右側フレーム部70L、70Rの前半部で針固定用シャフト80を左右側フレーム部70L、70R間に横架すると共に、右側フレーム部70L、70Rの後半部でシリンジ固定用シャフト81を左右側フレーム部70L、70R間に横架して構成している。
【0168】
針固定用シャフト80は、所定長さを有する太棒状であって、長手中央部に移植用注射器B1の移植針A1の針胴体部2を内嵌して載置するための針嵌着凹部80aを形成している。
【0169】
針嵌着凹部80aは、シリンジ固定用シャフト81の長手中央部の外周上面を、同シャフトの伸延方向に直交して略半円柱状に切欠形成した上方開放の凹溝であり、水平状の凹状底面80bを有する。
【0170】
また、シリンジ固定用シャフト81は、針固定用シャフト80と同様所定長さを有する太棒状であって、長手方向の中央部に移植用注射器B1のシリンジ4の外周底面に形成したシャフト嵌着凹部43に嵌合対応するシャフト嵌着凸部81aを形成している。
【0171】
シャフト嵌着凸部81aは、シリンジ固定用シャフト81の長手中央部の前後側外周部をそれぞれ略半円柱状に鉛直方向へ切欠形成した前後切欠部によって、シャフトの軸線上で伸延すると共に前後鉛直面を有した所定厚みの扁平板部に形成している。
【0172】
また、針固定用シャフト80及びシリンジ固定用シャフト81の各両端部はそれぞれ、
図9に示すように外周上面を平坦状に切削し、左右側フレーム部70L、70Rの長手前半部及び長手後半部の所定位置にそれぞれ設けた前後側シャフト嵌着孔70aL、70aR、70bL、70bRに嵌着対応するシャフト固定部80aL、80aR、81bL、81bRに形成している。
【0173】
また、左右側フレーム部70L、70Rは、上面から前後側シャフト嵌着孔70aL、70aR、70bL、70bRへそれぞれ連通するボルト挿通孔70cL、70cR、70dL、70dRを鉛直方向に貫設している。
【0174】
すなわち、支持フレーム7は、
図8に示すように前後側シャフト嵌着孔70aL、70aR、70bL、70bRにシャフト固定部80aL、80aR、81bL、81bRをそれぞれ嵌着してボルト挿通孔70cL、70cR、70dL、70dRにボルト75を螺入することにより、左右側フレーム部70L、70R間に各シャフト80、81を固定して注射器固定部8を構成している。
【0175】
なお、前側嵌着孔70aL、70aRは、左右側フレーム部70L、70Rの上下方向略中央に貫通形成している。また、後側嵌着孔70bL、70bRは、左右側フレーム部70L、70Rの上下方向略中央よりも下方位置に貫通形成している。すなわち、シリンジ固定用シャフト81は、針固定用シャフト80の高さ位置よりも相対的に低い位置に設けている。
【0176】
これにより、移植用注射器B1は、移植物装填治具C1に載置した場合に、針固定用シャフト80の針嵌着凹部80aに移植針A1の針胴体部2を載置すると共にシリンジ固定用シャフト81のシャフト嵌着凸部81aのシリンジ4のシャフト嵌着凹部43を嵌着することにより、左右前後の動きを規制される。
【0177】
このようにして、移植用注射器B1は、移植物装填治具C1に対して、支持フレーム7の注射器固定部8を介して下方支持され、軸心を略水平姿勢にすると共に支持フレーム7の幅方向中央で伸延する仮想中心線(
図11中、一点鎖線で示す。)上に軸線を配置して移植針Aの移植物装填孔30の上方開口31を上方に臨ませた横臥姿勢で載置固定される。
【0178】
また、支持フレーム7は、移植針Aの針管路3に装入された軟質移植物Gを針本体部1の先端開口近傍に位置づけるように押子5の進入位置を規制する押子ストッパー73を備えている。
【0179】
押子ストッパー73は、
図8に示すように上面を凹状に切り欠き形成したロッド挿通凹部73aを有する後側フレーム部71Bにより構成している。
【0180】
ロッド挿通凹部73aは、
図11(b)に示すように後側フレーム部71Bの上面の長手中央を、幅方向(前後方向)に沿って正面視略U字状に下方に切欠形成した前後開放且つ上方開放の凹溝であり、凹部内側に押出ロッド50のロッド胴部50aを上方から内挿可能としている。
【0181】
なお、ロッド挿通凹部73aの切り欠き深さ(後側フレーム部上面から凹部最底面までの長さ)は、凹部最底面位置を後側フレーム部71Bの上下方向の中央位置よりも下方に位置させる深さとしている。
【0182】
また、ロッド挿通凹部73aの幅は、押出ロッド50のロッド胴部50aの外径よりも幅広としている。すなわち、ロッド挿通凹部73aの幅は、凹部内側に押出ロッド50の胴部を位置づけた際に押出ロッド50のロッド胴部50a外周面がロッド挿通凹部73aの内周面に干渉しないように、押出ロッド50のロッド胴部50a外周面とロッド挿通凹部73aの内周面との間に一定のクリアランスを形成する長さとしている。
【0183】
移植用注射器B1の移植物装填治具C1への定位置への載置固定状態において、移植用注射器B1は、
図11(a)及び
図11(b)に示すように押子5の胴部(押出ロッド50のロッド胴部50a)を後側フレーム部71Bのロッド挿通凹部73a内側に位置づけると共に、押子5の基端部(押出ロッド50の操作部51)を後側フレーム部71Bよりも外方へ位置づける。
【0184】
このような状態で、押子5を押出スライド操作した場合、
図14(a)に示すように押出ロッド50のロッド胴部50aが進出方向に移動するに伴い押出ロッド50の操作部51が後側フレーム部71Bの外側面に突き当たり、それ以上の押子5の進出方向への移動規制される。
【0185】
さらに、押出ロッド50先端に延出した芯金52の先端の進出位置が針本体部1の針管路3の中途部に移動規制されて、軟質移植物が移植針A1の針先端開口10の近傍位置に位置づけられる。
【0186】
換言すれば、押子ストッパー73による押子5の停止位置は押子5の先端部により押圧作用される軟質移植物Gを針先端開口10近傍位置に停止させる位置に等しく、このような相対的位置関係で移植物装填治具C1は注射器固定部8と押子ストッパー73(後側フレーム部71B)とを支持フレーム7に配設している。
【0187】
また、支持フレーム7は、
図8、
図11(a)及び
図11(b)に示すように注射器固定部8を介して横臥状態に載置固定された移植用注射器B1の移植針A1の針先端部分、すなわち針本体部1の刃面11や針先端開口10を外周側から囲う針先端ガード74を備えている。
【0188】
針先端ガード74は、先端ガード凹部74aを上面に切り欠き形成した前側フレーム部71Fにより構成している。先端ガード凹部74aは、前側フレーム部71Fの長手中央部の上面を幅方向(前後方向)に沿って正面視略U字状に下方に切り欠くことにより前後開放且つ上方開放の溝として形成しており、同U字内方に移植針A1の針先端を配置可能としている。
【0189】
なお、先端ガード凹部74aとロッド挿通凹部73aとは、略同じ切り欠き深さや幅を有し、それぞれ前後側フレーム部71F、71Bに支持フレーム7の仮想中心線(
図11中、一点鎖線で示す。)上に位置した部分に形成され、互いに対向している。
【0190】
また、支持フレーム7の一側、すなわち左右側フレーム部70L、70Rのうちいずれか一方(本実施形態では右側フレーム部70R)の上面には、
図1(a)、
図1(b)、及び
図8に示すように装填押圧体9を設けている。
【0191】
装填押圧体9は、
図10及び
図11(a)に示すように支持フレーム7に対して水平方向に回動可能に支持され、先端部に鉛直方向に貫通した貫通孔90aを有する回動アーム90と、回動アーム90の貫通孔90aに遊嵌されると共に弾性体91を介して下方付勢され、移植針A1の移植物装填孔30に嵌入対応する押圧ピン92と、押圧ピン92を回動アーム90の上方位置で回動アーム90に支持すると共に弾性体91の下方付勢力に抗して押圧ピン92を上方に引き上げ可能とするためのピン支持体93と、を備える。
【0192】
回動アーム90は、
図10に示すように所定厚みを有する平面視角丸長方形状の帯板であって、先端部に押圧ピン92を遊嵌するための貫通孔90aを鉛直方向に貫通形成すると共に、基端部に支持フレーム7上に立設した枢軸部94aを挿入するための枢軸孔90bを鉛直方向に貫通形成している。
【0193】
回動アーム90の長さは、
図11(a)に示すように平面視において、基端部で枢軸部94aを介して回動自由端部(先端部)が回動した場合、同先端部の貫通孔90aに内嵌した押圧ピン92が、移植物装填治具C1に載置固定された移植用注射器1の移植針A1の移植物装填孔30の上方開口31の上方位置に位置づけられる回動半径を有するように形成している。
【0194】
すなわち、回動アーム90は、平面視において、
図11(a)に示すように基端部の枢軸部94aを中心に回動変位して先端側の貫通孔90aの中心が水平回動して描く回動軌跡(
図11(a)中、二点鎖線で示す。)上に、移植針Aの移植物装填孔30の上方開口31位置が同位相に位置づけられる長さを有する。
【0195】
換言すれば、回動アーム90の長さは、回動変位して貫通孔90aの中心が移植物装填孔30の上方位置に配置される基端側の枢軸孔90bの中心から先端側の貫通孔90aの中心までの長さで決定される。
【0196】
なお、本実施形態の回動アーム90の長さは支持フレーム7の左右方向の半分の長さ(注射器固定部8の針固定用シャフト80の半分の長さ)と略同じとし、
図11(a)に示すように回動アーム90の回動軌跡(
図11(a)中、二点鎖線で示す。)の接線と支持フレーム7の仮想中心線(
図11(a)中、一点鎖線で示す。)とを一致させ、同仮想中心線上に配置した移植物装填孔30の上方位置に装填押圧体9を位置づけ可能としている。
【0197】
また、支持フレーム7の右側フレーム部70Rの前半部上面の針固定用シャフト80が設けられる位置には、
図8及び
図10に示すように回動アーム90を上部で回動可能に支持するアーム支持座94を立設している。
【0198】
アーム支持座94は、縦断面視凸状の円柱棒状であって、
図10に示すように下半部を支持フレーム7上面に立設固定する固定部94bとし、上半部を下半部よりも縮径した円柱状にしてアームを枢軸する枢軸部94aとし、固定部94bと枢軸部94aとの間に回動アーム90を載置する水平状の上面を有する嵌着段部94cを形成している。
【0199】
すなわち、回動アーム90は、下面を嵌着段部94cの上面に面当接して、アーム支持座94の嵌着段部94cに載置されると共に基端部の枢軸孔90bでアーム支持座94の枢軸部94aに水平回転可能に枢支される。
【0200】
なお、回動アーム90は、アーム支持座94に対して、基端側の枢軸孔90bをアーム支持座94の枢軸部94aに外嵌した状態で、
図10に示すようにワッシャ95aを介してアーム支持座94の軸方向に螺入する固定ボルト95により取り付けられる。
【0201】
また、回動アーム90の基端近傍には、
図11(a)に示すように回動アーム90基端側の平面視円弧状の外周面に摺接して回動アーム90の回動位置を規制する回動ストッパー96をアーム支持座94に隣接して設けている。
【0202】
回動ストッパー96は、
図10に示すようにアーム支持座94と略同じ高さを有した略方形角柱状であって、支持フレーム7の中央側寄りでアーム支持座94に隣接して支持フレーム7上に立設しており、上部の一側面をアーム支持座94に回動アーム90の基端側外周面の一部に当接摺動させる規制面に形成している。
【0203】
これにより、回動アーム90が枢軸部94aを介して先端部を支持フレーム7の内方側へ回動変位させた際には、
図11に示すようにその回動奇跡は、平面視で回動ストッパー96の規制面と面一に伸延する仮想直線に平行な直径を有する仮想半円を描く。
【0204】
すなわち、回動アーム90の回動変位に伴い回動アーム90基端側の平面視円弧状の外周面が回動ストッパー96の規制面に点接触状態で摺動し、平面視円弧状の外周面の左右端部から直線状に伸延する外側面が回動ストッパー96の規制面に面接触して係合することにより回動アーム90の回動位置を規制する。
【0205】
押圧ピン92は、有底略円筒状であって、
図10に示すように回動アーム90の貫通孔90aに遊嵌されて上下昇降する昇降胴部92aと、昇降胴部92aの下部外周から径方向外方に突出し、回動アーム90の下底面との間で弾性体91を下方から支持するフランジ部92bと、昇降胴部92aの下端から軸方向下方に突出し、移植用注射器B1の横臥状態で上方開口31を上方に臨ませた移植針A1の移植物装填孔30に挿入されるピン本体部92cと、で構成している。
【0206】
弾性体91は、内径を押圧ピン92の昇降胴部92aの外径と略同じとする圧縮コイルバネであり、
図11(b)に示すように昇降胴部92aに外嵌されて上下端部をそれぞれ回動アーム90の下面と押圧ピン92のフランジ部92b上面とに係合して回動アーム90と押圧ピン92との間に介在している。
【0207】
ピン支持体93は、
図10に示すうように幅広の操作用頭部93aを有したローレットネジであって、回動アーム90の貫通孔90aに挿嵌された押圧ピン92を回動アーム90の上方から支持する。
【0208】
具体的には、ピン支持体93は、押圧ピン92を回動アーム90の貫通孔90aに挿嵌した状態で押圧ピン92の昇降胴部92aの上端面から螺入され、操作用頭部93aの下面を回動アーム90の貫通孔90aの周縁上面に当接係合することにより回動アーム90の先端部に押圧ピン92を垂下させた状態で上方支持する。
【0209】
換言すれば、押圧ピン92は、回動アーム90の先端部で、弾性体91により下方付勢されると共にピン支持体93によりピン本体部92cの先端を下方に向けて垂下支持され、ピン支持体93により弾性体91の付勢力に抗して引き上げらた最昇降位置ではピン本体部92cの先端を少なくとも横臥状態の移植針A1の外周上面位置より上方に位置づけ、弾性体91により引き下げられた最降下位置ではピン本体部92cの先端を横臥状態の移植針A1の外周上面位置より下方に位置づけるように構成してしている。
【0210】
なお、本実施形態の押圧ピン92は、ピン支持体93により弾性体91の付勢力に抗して引き上げらた最昇降位置について、ピン本体部92cの先端を左右側フレーム部70L、70Rの上面位置より上方に位置づけるように構成している。
【0211】
ピン本体部92cは、移植物装填孔30に嵌入対応する略円柱状の突起であり、押圧ピン92の先端部分に相当して弾性体91の下方付勢に伴い移植物装填孔30内部に仮載置された軟質移植物Gを先端で針管路3内部へ向けて下方へ押し出す押子機能を果たす部分である。
【0212】
ピン本体部92cの寸法は、外径を移植物装填孔30の内径と略同じとし、長さを移植物装填孔30の孔長さよりもやや長くなるようにしている。ピン本体部92cは、
図10に示すように軸心を昇降胴部92aの軸心と同軸上に、すなわち回動アーム90先端の貫通孔90aの中心と同じ位置に配置している。
【0213】
また、押圧ピン92の先端角部はテーパー部97とし、
図13に示すように押圧ピン92が移植物装填孔30に嵌入された状態でテーパー部97の少なくとも一部が移植針A1の針管路3内に突出するように形成している。
【0214】
テーパー部97は、
図13に示すように押圧ピン92におけるピン本体部92cの先端角部を切削して面取り加工することにより形成しており、移植物装填孔30の下方開口32の開口縁部に形成したテーパー部33に面接触して係合する。
【0215】
換言すれば、押圧ピン92は、先端を移植物装填孔30の下方開口32の内径よりも幅狭とする部分を含んで先端尖鋭状とし、尖鋭外周部について移植物装填孔30の下方開口32の開口縁部に係合するテーパー部97に形成すると共に、尖鋭頂部について頂部面を略平坦面にして移植物装填孔30の下方開口32から露出させ、針管路3内に突出する突出部98に形成している。
【0216】
これにより、押圧ピン92はテーパー部を介して移植物装填孔30の下方開口32の開口縁部に係合することとなり、押圧ピン92先端が不用意に針管路3へ侵入して針管路3を閉塞して押子5の進出移動を不用意に規制することを防止可能としている。なお、突出部98の下方開口32からの突出長さ、すなわち、針管路3内への侵入深さは約0.1~0.2mmとしている。
【0217】
特に、針管路3で突出した突出部98が、
図13に示すように押圧ピン92が移植物装填孔30にテーパー部97を介して嵌入係合した状態で対向する針管路3の内周面と間に軟質移植物Gを挟持することを可能とする。
【0218】
すなわち、押圧ピン92の突出部98と針管路3の内周面との間で挟持された軟質移植物Gは、その軟質不定形性により、突出部98による下方押圧応力により対向する針管路3の内周面に押し付けられ、同押圧部分を中心に針管路3の伸延方向前後に沿って広がるように膨出変形することとなる。
【0219】
具体的には、装填押圧体9による下方押圧応力(
図13中、下方向矢印で示す。)を受けた軟質移植物Gは、
図13に示すように、その軟質不定形性により膨出変形して、下方押圧応力を押圧作用部を中心に前後方向外方に向けた引張膨出する引張膨出応力(
図13中、略左右方向矢印で示す。)に分解する。
【0220】
すなわち、軟質移植物Gの膨出変形部分には、押圧ピン92による押圧部分を中心に外方に向かう引張膨出応力が常時加圧された状態となる。そして、この膨出変形部分の引張膨出応力に対向した進出方向の押出応力を押子5により作用させることにより、軟質移植物Gを進出方向へ移動する。
【0221】
軟質移植物Gは、押子5により進出方向から押出応力を受けた際には進出方向に直交する方向、すなわち移植物装填孔30の伸延方向へ膨出変形しようとするが、移植物装填孔30の下方開口32からは押圧ピン92により下方押圧応力が常時作用しているために同膨出変形が抑制され、押子5の進出方向への押出応力を不用意に散逸することがない。なお、装填押圧体9による下方押圧応力は、押子による進出方向への押圧応力よりも大きい。
【0222】
このようにして、装填押圧体9により軟質移植物Gに対して押子5の進出方向と直交する方向の押圧応力を常時作用させて軟質移植物Gの膨出変形に伴う進出方向からの押圧応力の不用意な分散をコントロールしつつ、押子5により軟質移植物に対し進出方向への押出応力を確実に作用させ、針管路3内での軟質移植物Gのスムーズな移動を可能としている。
【0223】
なお、押子5の押出スライド操作時に押子先端が押圧ピン92先端に突き当たっても、同先端はテーパー部97としているために押子5が摺接滑動することでき、押子5の移動をスムーズに行うことができる。
【0224】
[5]本発明に係る移植物装填治具の使用説明
次に、本発明に係る移植物装填治具の使用方法を説明する。移植物装填治具C1は、実験台等の水平面に載置され、
図1(a)に示すように平面視において、装填押圧体9を支持フレーム7外側に配置してフレーム内側空間を上方開放状態にしている。
【0225】
フレーム内側空間を上方開放状態とした移植物装填治具C1に、
図1(b)及び
図11(a)に示すように移植針A1を備えた移植用注射器B1を嵌着設置する。
【0226】
具体的には、移植用注射器B1は、移植物装填治具C1の支持フレーム7のフレーム内側で前後所定位置に架設したシリンジ固定用シャフト81と針固定用シャフト80とにそれぞれ嵌着対応するシリンジ4と移植針A1とを固定して載置する。
【0227】
このような状態で、移植用注射器B1は、移植針A1の移植物装填孔30の上方開口31を上方に臨ませた横臥状態で移植物装填治具C1にセットされる。
【0228】
次いで、
図12(a)に示すようにピンセット等により予め細切片状に調製された軟質移植物Gを移植針Aの移植物装填孔30内部に挿入する。この際、ピンセット等の先端で軟質移植物Gを移植物装填孔30内に押込み、上方開口31からはみ出さないようにセットする。
【0229】
次いで、
図11(a)~
図12(b)に示すように装填押圧体9を支持フレーム7内側に配置する。
【0230】
具体的には、
図11(a)に示すように装填押圧体9の回動アーム90を基部の枢軸部94aを介して支持フレーム7内側空間を閉塞するように内側へ水平回動し、回動アーム90の先端に連設した押圧ピン92を移植針A1の移植物装填孔30の上方開口31の上方位置に位置付ける。
【0231】
この回動アーム90のフレーム内側への回動変位の際に、回動アーム90との間に介在した弾性体91により下方押圧付勢された降下位置にある押圧ピン92を、ピン支持体93を手指で摘んで下方付勢力に抗して上方へ引き上げることにより、ピン先端部が支持フレーム7の上面及び移植針A1の外周上面に干渉しない上方位置に上昇変位させる。
【0232】
次いで、手指をピン支持体93から離すと、
図12(b)及び
図13に示すように回動アーム90先端の押圧ピン92が弾性体91に降下して移植物装填孔30に内嵌され、同孔内部にセットされた軟質移植物Gに下方応力を付与する。これに伴い、軟質移植物Gは、移植物装填孔30の内部から平面視楕円状の下方開口32を経て針管路3内部へと移動する。
【0233】
移植物装填孔30を介して針管路3に移動した軟質移植物Gは、移植物装填孔30と針管路3との合流部分、すなわち移植針A1の針胴体部2の先端部近傍の筒孔内で、装填押圧体9からの押圧応力により下方加圧状態で配置される。
【0234】
このような装填押圧体9からの加圧状態において、
図13に示すように針管路3内の軟質移植物Gは前述の通り加圧部分を中心に針管路3の前後方向に沿って膨出変形し、軟質移植物Gの膨出部分には前述の通り針管路3の軸方向に向かう引張膨出応力が生じている。
【0235】
次いで、移植用注射器B1の退去位置にある押子5を進出方向へ押出スライド操作することにより、加圧状態にある軟質移植物Gに進出方向の押圧応力を作用させて針先端開口10の近傍位置に移動する。
【0236】
具体的には、
図14(a)に示すようにシリンジ4と押出ロッド50との間の弾性体53の弾性力に抗して、操作部51を介して押出ロッド50を退去位置から進出方向に押込み、芯金52を進出方向へ移動する。
【0237】
この芯金52の進出方向への移動に伴い、芯金52の先端部52aが針管路3内部で装填押圧体9により加圧状態で静置された軟質移植物Gに作用し、軟質移植物Gが針先端開口10に向かって移動する。
【0238】
さらに、押子5を進出方向へ押し込むと、押出ロッド50基端の操作部51(操作部51の前側面)が押子ストッパー73(後側フレーム部71Bの後方外側面)に突き当たり、それ以上の押子5の進出移動が規制される。
【0239】
このような押子ストッパー73による押子5の規制状態において、芯金52の先端部52aは軟質移植物Gを針先端開口10の近傍位置に位置づけて止まる。
【0240】
次いで、
図14(b)に示すように押子5の操作部51から手指を離して弾性体53により押子5を退去位置に復帰させることにより施術前の移植用注射器B1への軟質移植物Gの移植物装填作業を完了する。
【0241】
そして、最終的に、軟質移植物Gが装填された移植用注射器B1を移植物装填治具C1からはずして、
図15で示したように被移植体Hの皮下組織へ移植用注射器B1の移植針A1を刺入し、押子5を最後まで押込み、針先端開口10から軟質移植物Gを移植位置へ押出し留置することにより移植物留置作業を完了する。
【0242】
[6]第2の実施形態に係る移植針、移植用注射器、及び移植物装填治具の構成
次に、第2の実施形態に係る移植針A2、移植用注射器B2、移植物装填治具C2の構成について図面を参照しながら説明する。
図16は移植用注射器の構成を示す側断面図、
図17は移植用注射器の構成を示す部分拡大斜視図、
図18は移植物装填治具の構成を示す斜視図である。なお、以下において、第1の実施形態と構成を同じくする箇所は同じ符号を用いて説明を省略する。
【0243】
移植用注射器B2は、
図17に示すようにシリンジ4の先端の針取付部40に移植針A2を嵌着する際に、シリンジ4の針係止ピン孔40aと移植針A2のピン係合溝200、及び移植物装填孔30との相対的位置関係を表示する針位置決め手段44を設けている。
【0244】
すなわち、シリンジ4の先端の外周上面には、
図17に示すように針位置決め手段44としてシリンジ4の軸方向に沿う断面視V字状の細溝44aを先端側に向けて切削形成している。
【0245】
かかる針位置決め手段44は、
図16に示すようにシリンジ4先端の周壁において、針係止ピン孔40aが形成された周廻り位置と反対側の周廻り位置に形成している。
【0246】
換言すれば、針係止ピン孔40aと針位置決め手段44とはそれぞれ、シリンジ4の軸方向視において、軸心を中心に周廻り逆位相に配置している。
【0247】
具体的には、シリンジ4の周壁において、側面視でシリンジ4の軸心を境に一側(上側)に針位置決め手段44を、同一側に対向する他側(下側)に針係止ピン孔40aを、それぞれ軸心に沿った所定位置に形成している。
【0248】
これにより、シリンジ4の針位置決め手段44を目印に、同針位置決め手段44から先端側に軸方向に沿って伸延する仮想位置決め線上に移植針A2の移植物装填孔30を配置してシリンジ4の先端の針取付部40に移植針A2を挿嵌することにより、シリンジ4の針係止ピン孔40a位置と移植針A2のピン係合溝200の位置とが一致した相対的正位置とし、同針係止ピン孔40aへの針係止ピン400bの挿通作業を簡略化してシリンジ4への移植針A2の装着作業の容易とすることを可能としている。
【0249】
なお、本実施形態の針位置決め手段44は、細溝44aとしているが、針係止ピン孔40aとピン係合溝200と移植物装填孔30とのそれぞれの相対的正位置が指標として視認できるものであればこれに限定されることはなく、例えば矢印をインク表示して構成することもできる。
【0250】
また、移植針A2のピン係合溝200は、
図16に示すように側面視で針胴体部2の基端側略半部の外周底面を径方向内方に向けて方形状に凹ませて形成すると共に凹状底面201を針胴体部2(シリンジ4)の軸方向(周面接線方向)に平行な平坦面にして形成している。
【0251】
また、シリンジ4の針係止ピン孔40aに挿入される針係止ピン400bは、
図16及び
図17に示すように先端面401bをシリンジ4(針胴体部2)の軸方向(周面接線方向)に平行な平坦面にして形成している。
【0252】
すなわち、移植針A2のピン係合溝200とシリンジ4の針係止ピン400bとは、それぞれの凹状底面201と先端面401bとを互いに面当接する平坦面に形成し、互い面当接して係合するように構成している。
【0253】
これにより、針嵌着孔62に移植針A2を嵌着して針係止ピン孔40aに針係止ピン400bを挿入することにより、移植針A2のピン係合溝200がシリンジ4の針係止ピン孔40a位置から周方向に多少のズレていても、ピン係合溝200の凹状底面201と針係止ピン400bの先端面401bとが面当接することにより移植針A2のピン係合溝200位置を針係止ピン孔40a位置に一致させるように移植針A2を強制的に周方向に回動修正することを可能としている。
【0254】
また、針係止ピン400bからの押圧応力を移植針A2の針胴体部2に可及的作用させることができ、移植針A2とシリンジ4との圧着係合状態をより堅実にすることを可能とする。
【0255】
また、移植物装填治具C2は、
図18に示すように、支持フレーム7の厚み、具体的には左右側フレーム部700L、700Rの厚みを増すことにより機械的強度を向上している。
【0256】
さらに、移植物装填治具C2の装填押圧体9において、押圧ピン92を回動アーム90先端部の上方位置で支持するピン支持体930の操作用頭部930aを上方伸延することにより、把手性を向上させると共に押圧ピン92の引上げ操作時の操作性を向上させている。
【0257】
なお、上述してきた第1の実施形態と第2の実施形態とは、互いに構成を入れ替えても実施可能であり、同一の作用・効果を有することは勿論である。
【0258】
以上、説明してきたように、本発明によれば、本発明に係る移植針、移植用注射器、及び移植物装填治具は、注射器に取り扱いの難しい軟質移植物を迅速且つ簡易に装填可能とするように、それぞれ定められた配置関係で組立可能なユニット構造を有しているため、これまでインジェクション式の移植施術にとって煩雑で困難であった移植施術前の移植物装填作業を誰でも簡単に行うことができる
【0259】
すなわち、本発明によれば、軟質の固形移植物を移植施術前に移植針の先端開口近傍位置に位置付ける移植物装填作業と移植施術時に被移植体の所望とする皮下組織へ設置する移植物留置作業を誰でも簡単且つ安定して短時間で行うことができ、施術コストを可及的低減化しつつ軟質の固形移植物の無用なロスをなくして移植施術の再現性を高めることができる、移植針、同移植針を備えた移植用注射器、及び移植物装填治具を提供することができる。
【0260】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはなく、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0261】
A1 移植針、1 針本体部、10 針先端開口、11 刃面、2 針胴体部、20 ピン係合溝、21 基端側開口、21a 開口縁部、3 針管路、30 移植物装填孔、31 上方開口、32 下方開口、33 テーパー部、B1 移植用注射器、4 シリンジ、40 針取付部、40a 針係止ピン孔、40b 針係止ピン、41 指掛用フランジ、41a 嵌着孔、41b 係止ピン孔、42 フランジ取付部、43 シャフト嵌着凹部、43a 底面、44 針位置決め手段、44a 細溝、5 押子、50 押出ロッド、50a ロッド胴部、50b 芯金固定孔、50c 先端面、51 操作部、51aF、51aB 前後面、52 芯金、52a 先端部、53 弾性体、54 規制手段、54a ロッドガイドピン孔、54b ロッドガイドピン、54c ロッドガイド溝、54cF、54cB 前後端側壁、54cL、54cR 左右側壁、溝天面 54cU、6 シリンジ孔、60 仕切段部、61 ロッド挿入孔、62 針嵌着孔、63 芯金挿通孔、C1 移植物装填治具、7 支持フレーム、70L、70R 左右側フレーム部、70aL、70aR、70bL、70bR 前後側シャフト嵌着孔、70cL、70cR、70dL、70dR ボルト挿通孔、71F、71B 前後側フレーム部、73 押子ストッパー、73a ロッド挿通凹部、74 針先端ガード、74a 先端ガード凹部、75 ボルト、8 注射器固定部、80 針固定用シャフト、80a 針嵌着凹部、81 シリンジ固定用シャフト、81a シャフト嵌着凸部、80aL、80aR、81bL、81bR シャフト固定部、9 装填押圧体、90 回動アーム、90a 貫通孔、90b 枢軸孔、91 弾性体、92 押圧ピン、92a 昇降胴部、92b フランジ部、92c ピン本体部、93 ピン支持体、93a 操作用頭部、94a 枢軸部、94b 固定部、94c 嵌着段部、95 固定ボルト、95a ワッシャ、96 回動ストッパー、97 テーパー部、98 突出部、G 軟質移植物、H 被移植体