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特許7610808発現促進剤及びメンタルヘルス増進用機能食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】発現促進剤及びメンタルヘルス増進用機能食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/18 20160101AFI20241226BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20241226BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20241226BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20241226BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241226BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20241226BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
A23L33/18
A61K38/05
A61P25/20
A61K8/64
A61Q19/00
A61Q19/10
A61P25/28
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021154812
(22)【出願日】2021-09-22
(65)【公開番号】P2023046102
(43)【公開日】2023-04-03
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】594185352
【氏名又は名称】佳秀工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】清水 邦義
(72)【発明者】
【氏名】寺本 充寛
【審査官】楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-193865(JP,A)
【文献】特開2015-120667(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0005304(US,A1)
【文献】特開2016-169163(JP,A)
【文献】特開2020-037526(JP,A)
【文献】特開2020-196686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジペプチドを機能惹起のための主要成分として含有するメンタルヘルス関連遺伝子の発現促進剤であって、
前記ジペプチドは少なくともLeu-Proを含み、前記メンタルヘルス関連遺伝子は脳由来神経栄養因子遺伝子とアリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする発現促進剤。
【請求項2】
ペプチドを機能惹起のための主要成分として含有し、メンタルヘルス関連遺伝子の発現を促進するメンタルヘルス増進用機能食品であって、
前記ジペプチドは少なくともLeu-Proを含み、前記メンタルヘルス関連遺伝子は脳由来神経栄養因子遺伝子とアリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子であることを特徴とするメンタルヘルス増進用機能食品
【請求項3】
請求項1に記載の発現促進剤を含有する皮膚外用品。
【請求項4】
脳由来神経栄養因子遺伝子の発現促進に由来する認知症の予防や改善と、アリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現促進に由来する睡眠の改善と、を目的としたメンタルヘルス増進用機能食品における、Leu-Proで表されるジペプチドの前記予防又は改善のための主要成分原料としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発現促進剤及びメンタルヘルス増進用機能食品に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症は大きな社会問題であり、高齢化社会に直面している本邦では今後も増加傾向にあるため、その対応が喫緊の課題である。
【0003】
症状の発現度合いにもよるが、認知症は生活上での混乱や周囲とのトラブルの発生してしまう原因となる場合もあり、家族や知人などによる理解や介助が重要であることから、これらの者に負担を強いる側面もある。
【0004】
そこで従来、認知症に由来する生活上の不具合をできるだけ解消すべく、医療機関では投薬治療が行われている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】田平武,”アルツハイマー病の治療:現状と未来”,日本老年医学会雑誌,一般社団法人日本老年医学会,2012年,第49巻,p.402-418
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、認知症の予防や改善を図ることは、個々人の健康問題は勿論のこと、国の医療財政的側面からも極めて有意義である。
【0007】
特に、日々の食生活において認知症の予防や改善を図ることが可能であれば、医療機関によるサポートによらず長きに亘り生活の質を向上させることができ、認知症の発症による人的、財政的負担を軽減することが可能である。
【0008】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、メンタルヘルスの増進、特に認知症の改善が期待できるメンタルヘルス関連遺伝子の発現促進剤やメンタルヘルス増進用機能食品、皮膚外用品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る発現促進剤では、(1)ジペプチドを機能惹起のための主要成分として含有するメンタルヘルス関連遺伝子の発現促進剤であって、前記ジペプチドは少なくともLeu-Proを含み、前記メンタルヘルス関連遺伝子は脳由来神経栄養因子遺伝子とアリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子であることとした。
【0011】
また、本発明に係る増進用機能食品では、(2)ジペプチドを機能惹起のための主要成分として含有し、メンタルヘルス関連遺伝子の発現を促進するメンタルヘルス増進用機能食品であって、前記ジペプチドは少なくともLeu-Proを含み、前記メンタルヘルス関連遺伝子は脳由来神経栄養因子遺伝子とアリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子であることとした。
【0012】
また、本発明に係る皮膚外用品では、()上記(1)に記載の発現促進剤を含有することとした。
【0014】
また本発明では、()脳由来神経栄養因子遺伝子の発現促進に由来する認知症の予防や改善と、アリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現促進に由来する睡眠の改善と、を目的としたメンタルヘルス増進用機能食品において、Leu-Proで表されるジペプチドを前記予防又は改善のための主要成分原料として使用することとした。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る発現促進剤によれば、ジペプチドを機能惹起のための主要成分として含有するメンタルヘルス関連遺伝子の発現促進剤であって、前記ジペプチドは少なくともLeu-Proを含み、前記メンタルヘルス関連遺伝子は脳由来神経栄養因子遺伝子とアリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子であることとしたため、メンタルヘルスの増進、特に認知症の改善が期待できるメンタルヘルス関連遺伝子の発現促進剤を提供することができる。
【0017】
また、前記ジペプチドは少なくともLeu-Proを含み、前記メンタルヘルス関連遺伝子は脳由来神経栄養因子遺伝子とアリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子であることとすれば、認知症の改善と併せて睡眠の改善を図ることによるメンタルヘルスの増進が期待可能な発現促進剤を提供することができる。
【0018】
また、本発明に係るメンタルヘルス増進用機能食品によれば、ジペプチドを機能惹起のための主要成分として含有し、メンタルヘルス関連遺伝子の発現を促進するメンタルヘルス増進用機能食品であって、前記ジペプチドは少なくともLeu-Proを含み、前記メンタルヘルス関連遺伝子は脳由来神経栄養因子遺伝子とアリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子であることとしたため、メンタルヘルスの増進、特に認知症の改善が期待できるメンタルヘルス増進用機能食品を提供することができる。また、認知症の改善と併せて睡眠の改善を図ることによるメンタルヘルスの増進が期待可能な機能食品を提供することができる。
【0019】
また、本発明に係る皮膚外用品によれば、前述の発現促進剤を含有することとしたため、経皮的にメンタルヘルスの増進、特に認知症の改善が期待できる皮膚外用品を提供することができる。
【0021】
また本発明によれば、脳由来神経栄養因子遺伝子の発現促進に由来する認知症の予防や改善と、アリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現促進に由来する睡眠の改善と、を目的としたメンタルヘルス増進用機能食品において、Leu-Proで表されるジペプチドを前記予防又は改善のための主要成分原料として使用することとしたため、認知症の改善と併せて睡眠の改善を図ることによるメンタルヘルスの増進が期待可能な発現促進剤を提供でき、日々の食生活においてメンタルヘルスの増進を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、メンタルヘルス関連遺伝子の発現促進剤に関し、特にメンタルヘルスの増進、中でも認知症の改善が期待できるメンタルヘルス関連遺伝子の発現促進剤を提供するものである。
【0023】
ここでメンタルヘルスとは、心の健康や精神保健を意味するものであり、本明細書では認知症や睡眠に関する事項を含む概念である。
【0024】
また、本実施形態に係る発現促進剤の特徴としては、Gly-Pro及び/またはLeu-Proで表されるジペプチドを機能惹起のための主要成分として含有する点が挙げられる。
【0025】
Gly-Proは、グリシンとプロリンがペプチド結合したジペプチド(グリシルプロリン)であり、下記構造式(i)にて表される化合物である。
【化1】
【0026】
またLeu-Proは、ロイシンとプロリンがペプチド結合したジペプチド(ロイシルプロリン)であり、下記構造式(ii)にて表される化合物である。
【化2】
【0027】
追って実験結果を参照しつつ説明するが、これらのジペプチドは、メンタルヘルス関連遺伝子の発現を促進する作用を有しており、メンタルヘルスの増進、特に認知症の改善が期待できるメンタルヘルス関連遺伝子の発現促進剤を提供することが可能となる。
【0028】
また、このメンタルヘルス関連遺伝子は、脳由来神経栄養因子遺伝子とすることも可能である。
【0029】
脳由来神経栄養因子(BDNF; brain derived neurotrophic factor)遺伝子の発現促進は、腸管の活性化を介した脳機能制御機構に影響を及ぼし、神経系の成長や維持の増強、さらに脳機能制御機構により認知症を緩和・抑制することが期待できる。
【0030】
また、記憶力向上、気力の向上(うつ病の予防または改善)、食欲抑制(過食や肥満の抑制)などの面においてもメンタルヘルスの増進への寄与が期待される。
【0031】
また、ジペプチドは少なくともLeu-Proを含み、メンタルヘルス関連遺伝子は脳由来神経栄養因子遺伝子とアリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ(AANAT; arylalkylamine-N-acetyltransferase)遺伝子であることとしても良い。
【0032】
このような構成とすることにより、前述の脳由来神経栄養因子遺伝子の発現亢進に由来した作用に加え、アリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現亢進に由来する睡眠改善効果を期待することができる。
【0033】
すなわち、覚醒と睡眠を切り替えて自然な眠りを誘導する作用を有する物質としてメラトニンが知られているが、アリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼはメラトニン生合成の律速酵素であり、アリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現を促進することはメラトニン量を増やすことができるため、所定のタイミングでの使用により円滑な入眠など睡眠の改善を行うことが可能である。
【0034】
また本明細書では、Gly-Pro及び/またはLeu-Proで表されるジペプチドを機能惹起のための主要成分として含有するメンタルヘルス増進用機能食品についても提供する。
【0035】
すなわち、本実施形態に係るメンタルヘルス増進用機能食品は、Gly-Pro及び/またはLeu-Proで表されるジペプチドを含有しており、これらジペプチドに由来する上記作用に由来して、認知症の改善や睡眠の改善が期待できる。
【0036】
なお、「機能惹起のための主要成分として含有する」とは、医薬品に置き換えて表現するならば「有効成分として含有する」程度の意味である。すなわち、保健機能食品を想定すれば、機能性表示食品では機能性関与成分、栄養機能食品では栄養成分、特定保健用食品では関与成分など、表現は異なれど機能や効能を発揮させるための成分として上記ジペプチドを含有することを意味している。また、メンタルヘルス増進用機能食品には飲料も含まれる。
【0037】
また本明細書では、上述の発現促進剤を含有する皮膚外用品についても提供する。ここで皮膚外用品とは、皮膚や頭髪に対し塗着や噴霧等により使用されるトイレタリー用品等であり、医薬部外品や化粧品などを概念として含む。
【0038】
例えば、化粧品としては基礎化粧品(スキンケア化粧品)や仕上化粧品(メイクアップ化粧品)は勿論のこと、ハンドソープやシャンプー、ボディーソープなども含まれる。また医薬部外品としては、例えば、染毛剤やパーマネント・ウェーブ剤、浴用剤、口中清涼剤、育毛剤、除毛剤などを挙げることができる。
【0039】
そして、このような皮膚外用品によれば、ジペプチドを経皮的に摂取させることができ、経皮的にメンタルヘルスの増進、特に認知症の改善が期待できる皮膚外用品を提供することができる。すなわち、医薬部外品や化粧品など、経皮的にジペプチドを吸収させるような製品態様とすることも可能である。
【0040】
また本明細書では、メンタルヘルス増進用機能食品における、ジペプチドの主要成分原料としての使用方法についても提供する。
【0041】
具体的には、第1の態様として、脳由来神経栄養因子遺伝子の発現促進に由来する認知症の予防や改善を目的としたメンタルヘルス増進用機能食品において、Gly-Pro及び/またはLeu-Proで表されるジペプチドを前記改善のための主要成分原料として使用する方法について提供する。
【0042】
このような使用方法によれば、認知症の改善が期待できるメンタルヘルス増進用機能食品を提供でき、日々の食生活においてメンタルヘルスの増進を図ることができる。
【0043】
また第2の態様として、脳由来神経栄養因子遺伝子の発現促進に由来する認知症の予防や改善と、アリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現促進に由来する睡眠の改善と、を目的としたメンタルヘルス増進用機能食品において、Leu-Proで表されるジペプチドを前記予防又は改善のための主要成分原料として使用する方法も提供する。
【0044】
そして、このような使用方法によれば、認知症の改善と併せて睡眠の改善を図ることによるメンタルヘルスの増進が期待可能な発現促進剤を提供でき、日々の食生活においてメンタルヘルスの増進を図ることができる。
【0045】
以下、本実施形態に係る発現促進剤やメンタルヘルス増進用機能食品に関し、これら製剤や食品に添加されるジペプチドの作用確認試験について、試験結果を交えつつ更に説明する。
【0046】
〔1.脳由来神経栄養因子遺伝子の発現を指標とした抗認知症評価試験〕
本試験では、2種のジペプチド(Gly-Pro、Leu-Pro)を用い、脳由来神経栄養因子遺伝子の発現変動について検討した。
【0047】
まずヒト結腸癌由来細胞(Caco-2)の細胞培養を行った。Caco-2細胞はDulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)(高グルコース)(含1 %ペニシリン-ストレプトマイシンおよび10 %ウシ胎児血清(FBS))を用いて、コンフルエントになるまでφ10cmディッシュにて前培養した。
【0048】
その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、培地に再懸濁後、24穴プレートに1.0×105 cells/wellの濃度で播種し、CO2インキュベーター(37℃, 5% CO2)でオーバーナイト培養した。
【0049】
次に、オーバーナイト培養した細胞の培地を、いずれかのジペプチドを含有する無血清DMEM培地(含1 %ペニシリン-ストレプトマイシン)に交換し、CO2インキュベーターにて24時間培養した。なおジペプチドは、いずれも培地中での終濃度が400 μg/mLとなるように添加した。
【0050】
次に、リアルタイムPCRによる遺伝子の発現量の比較を行った。具体的には、ジペプチドを添加して培養した後のCaco-2細胞を回収し、PureLink RNA Mini kit (Invitrogen社製)を用いてtotal RNAを抽出した。
【0051】
次に、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover (TOYOBO社製)にて、抽出したtotal RNAからcDNAを合成した。
【0052】
次に、合成したcDNAを鋳型としてAriaMX リアルタイムPCR装置(アジレント・テクノロジー社製)でリアルタイムPCRを行った。
【0053】
リアルタイムPCR反応には、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix (TOYOBO社製)を用いた。脳由来神経栄養因子遺伝子用プライマーとして5’-GTCAAGTTGGGAGCCTGAAATAGTG-3’(配列番号1)および5’-AGGATGCTGGTCCAAGTGGTG-3’(配列番号2)を、内部標準GAPDH用プライマーとして5’-GCACCGTCAAGGCTGAGAAC-3’(配列番号3)および5’-ATGGTGGTGAAGACGCCAGT-3’(配列番号4)を使用した。リアルタイムPCR反応条件として、95℃、3分の初期変性後、95℃、3秒での変性、60℃、30秒のアニーリング/伸長という2ステップのPCR反応を40サイクル行った。その結果を表1に示す。
【表1】
【0054】
表1は、ジペプチド添加後のCaco-2細胞における脳由来神経栄養因子遺伝子の発現変動(n=3, 平均±SD., *p<0.05, **p<0.01)を示している。表1からも分かるように、脳由来神経栄養因子遺伝子はコントロール(水)と比較して、Gly-Pro添加時には約1.5倍、Leu-Pro添加時には約1.2倍とそれぞれ有意に発現が上昇することが確認された。
【0055】
これらの結果から、Gly-ProとLeu-Proには、脳由来神経栄養因子産生を増強し、産生された脳由来神経栄養因子が神経細胞の活性化を促すという腸管の活性化を介した脳機能制御機構により認知症を緩和・抑制することが期待できる。
【0056】
すなわち、本実施形態に係る発現促進剤やメンタルヘルス増進用機能食品は、Gly-Pro及び/またはLeu-Proで表されるジペプチドを含むことにより、認知症を緩和・抑制することが期待できることが示された。
【0057】
〔2.メラトニン生合成関連酵素遺伝子の発現を指標とした睡眠評価試験〕
本試験では、ジペプチドとしてLeu-Proを用い、アリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現変動について検討した。
【0058】
まず、ヒト神経芽細胞腫由来のSH-SY5Y細胞の培養を行った。SH-SY5Y細胞はDulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)(高グルコース)(含1 %ペニシリン-ストレプトマイシンおよび10 %ウシ胎児血清(FBS))を用いて、コンフルエントになるまでφ10cmディッシュにて前培養した。
【0059】
その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、培地に再懸濁後、24穴プレートに1.0×105 cells/wellの濃度で播種し、CO2インキュベーター(37℃, 5% CO2)でオーバーナイト培養した。
【0060】
次に、オーバーナイト培養した細胞の培地を、ジペプチドを含有する無血清DMEM培地(含1 %ペニシリン-ストレプトマイシン)に交換し、CO2インキュベーターにて24時間培養した。なおジペプチドは、培地中での終濃度が400μg/mLとなるように添加した。
【0061】
次に、リアルタイムPCRによる遺伝子の発現量の比較を行った。具体的には、ジペプチドを添加して培養した後のSH-SY5Y細胞を回収し、PureLink RNA Mini kit (Invitrogen社製)を用いてtotal RNAを抽出した。
【0062】
次に、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover (TOYOBO社製)にて、抽出したtotal RNAからcDNAを合成した。
【0063】
次に、合成したcDNAを鋳型としてAriaMX リアルタイムPCR装置(アジレント・テクノロジー社製)でリアルタイムPCRを行った。
【0064】
リアルタイムPCR反応には、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix (TOYOBO社製)を用いた。アリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子用プライマーとして5’-TCCTGTGGAGATACCTTCACCA-3’(配列番号5)および5’-CACAGTTCAGAAGGCAAGAGGT-3’(配列番号6)を、内部標準GAPDH用プライマーとして5’-GCACCGTCAAGGCTGAGAAC-3’(配列番号3)および5’-ATGGTGGTGAAGACGCCAGT-3’(配列番号4)を使用した。リアルタイムPCR反応条件として、95℃、3分の初期変性後、95℃、3秒での変性、60℃、30秒のアニーリング/伸長という2ステップのPCR反応を40サイクル行った。その結果を表2に示す。
【表2】
【0065】
表2は、ジペプチド添加後のSH-SY5Y細胞におけるアリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現変動(n=3, 平均±SD., *p<0.05, **p<0.01)を示している。表2からも分かるように、Leu-Pro添加時には、アリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現が、コントロール(水)と比較して約1.2倍と有意に上昇することが確認された。
【0066】
これらの結果から、Leu-Proには、メラトニン生合成の律速酵素であるアリルアルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現を促進させることでメラトニン量を増加させ、睡眠を改善することが期待できる。
【0067】
すなわち、本実施形態に係る発現促進剤やメンタルヘルス増進用機能食品は、Leu-Proで表されるジペプチドを含むことにより、睡眠の改善が期待できることが示された。
【0068】
上述してきたように、本実施形態に係る発現促進剤によれば、メンタルヘルス関連遺伝子の発現促進剤であって、Gly-Pro及び/またはLeu-Proで表されるジペプチドを機能惹起のための主要成分として含有することとしたため、メンタルヘルスの増進、特に認知症の改善が期待できるメンタルヘルス関連遺伝子の発現促進剤を提供することができる。
【0069】
また、本発明に係るメンタルヘルス増進用機能食品によれば、Gly-Pro及び/またはLeu-Proで表されるジペプチドを機能惹起のための主要成分として含有することとしたため、メンタルヘルスの増進、特に認知症の改善が期待できるメンタルヘルス増進用機能食品を提供することができる。
【0070】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【配列表】
0007610808000001.app