IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

特許7610934炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法
<>
  • 特許-炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法 図1
  • 特許-炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法 図2
  • 特許-炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法 図3
  • 特許-炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法 図4
  • 特許-炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20241226BHJP
   C23C 16/02 20060101ALI20241226BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20241226BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20241226BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20241226BHJP
   H01L 21/302 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/02
C23C16/42
C30B25/20
C30B29/36 A
H01L21/302 201A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020124320
(22)【出願日】2020-07-21
(65)【公開番号】P2022020995
(43)【公開日】2022-02-02
【審査請求日】2022-08-30
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】酒井 雅
(72)【発明者】
【氏名】溝部 卓真
(72)【発明者】
【氏名】中村 卓誉
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】三浦 みちる
【審判官】綿引 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-014469(JP,A)
【文献】特開2019-216166(JP,A)
【文献】国際公開第2016/079984(WO,A1)
【文献】特開2018-039714(JP,A)
【文献】国際公開第2014/125550(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/101016(WO,A1)
【文献】特開2018-067736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/02
C23C 16/42
C30B 25/20
C30B 29/36
H01L 21/302
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
を含むエッチングガスを用いて炭化珪素基板の表面を第1の温度でエッチングするエッチング工程と、
前記エッチング工程でエッチングされた前記表面を、Hガスと第1のSi供給ガスと第1のC供給ガスとを含むガスを用いて第2の温度で平坦化する平坦化処理工程と、
前記平坦化処理工程で平坦化された前記表面上に、第2のSi供給ガスと第2のC供給ガスとを含むガスを用いて第3の温度でエピタキシャル成長を行うエピタキシャル層成長工程と、
を備え、
前記第1の温度T、前記第2の温度T、前記第3の温度TはT>T>Tを満たし、
前記平坦化処理工程では、前記エッチング工程前に前記炭化珪素基板に含まれていた潜傷またはインクルージョンが前記エッチング工程でエッチングされてできた窪みを、平坦化し、
前記エピタキシャル層成長工程の後、処理温度を上げて別のエピタキシャル成長を行う別のエピタキシャル層成長工程をさらに備える、
炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法であって、
前記第1のSi供給ガスと前記第2のSi供給ガスは同じSi供給ガスであり、
前記第1のC供給ガスと前記第2のC供給ガスは同じC供給ガスである、
炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法であって、
前記第1のSi供給ガスはSiHガスであり、
前記第1のC供給ガスはCガスである、
炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法であって、
前記第1の温度は1650℃以上1750℃以下、前記第2の温度は1550℃以上1680℃以下、前記第3の温度は1450℃以上1600℃以下である、
炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法であって、
前記第2の温度Tと平坦化処理工程の処理時間tとが、T≧-34.1ln(t)+1687を満たす、
炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法であって、
三角欠陥密度が0.1ヶ/cm以下の炭化珪素エピタキシャルウエハを製造する、
炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法であって、
前記窪みの深さは0.05μm以上0.5μm以下である、
炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素は、珪素に比べてバンドギャップが大きく、また絶縁破壊電界強度、飽和電子速度及び熱伝導度などの物性値が珪素に比べて優れており、半導体装置の材料として優れた性質を有する。特に、炭化珪素を用いた半導体装置においては、電力損失の大幅な低減、半導体装置の小型化等が可能となり、電源電力変換時の省エネルギー化が実現できる。そのため、炭化珪素は、電気自動車の高性能化、太陽電池システム等の高機能化等、低炭素社会実現のための半導体材料として注目されている。
【0003】
炭化珪素が用いられた半導体装置を製造するためには、まず炭化珪素基板上に、不純物濃度が高精度に制御された膜を、炭化珪素エピタキシャル成長装置を用いて、熱化学気相堆積法(CVD法:Chemical Vapor Deposition法)等により、エピタキシャル成長させる。炭化珪素エピタキシャル層は、例えばエピタキシャル成長ガスに窒素を添加することによって、n型とすることができる。炭化珪素基板上に炭化珪素エピタキシャル層を形成したウエハを、炭化珪素エピタキシャルウエハと呼ぶ。炭化珪素エピタキシャルウエハにさらに素子領域を形成し、またはさらに様々な加工を施したものを炭化珪素半導体装置と呼ぶ。
【0004】
特許文献1には、炭化珪素半導体装置の製造方法が開示されている。特許文献1には、特許文献1に記載の方法により、炭化珪素エピタキシャル層にステップバンチング等の表面欠陥が発生することを抑制することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6012841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炭化珪素エピタキシャル層に発生する欠陥の1つに三角欠陥がある。特許文献1の方法は、表面欠陥については抑制できるものの、三角欠陥の発生の抑制については特に考慮されているものではなかった。
【0007】
本開示はこのような問題を解決するためのものであり、三角欠陥の発生の抑制に適した炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法は、Hを含むエッチングガスを用いて炭化珪素基板の表面を第1の温度でエッチングするエッチング工程と、エッチング工程でエッチングされた表面を、Hガスと第1のSi供給ガスと第1のC供給ガスとを含むガスを用いて第2の温度で平坦化する平坦化処理工程と、平坦化処理工程で平坦化された表面上に、第2のSi供給ガスと第2のC供給ガスとを含むガスを用いて第3の温度でエピタキシャル成長を行うエピタキシャル層成長工程と、を備え、第1の温度T、第2の温度T、第3の温度TはT>T>Tを満たし、平坦化処理工程では、エッチング工程前に炭化珪素基板に含まれていた潜傷またはインクルージョンがエッチング工程でエッチングされてできた窪みを、平坦化し、エピタキシャル層成長工程の後、処理温度を上げて別のエピタキシャル成長を行う別のエピタキシャル層成長工程をさらに備える、炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法、である。
【発明の効果】
【0009】
本開示の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法は、Hを含むエッチングガスを用いて炭化珪素基板の表面を第1の温度でエッチングするエッチング工程と、エッチング工程でエッチングされた表面を、Hガスと第1のSi供給ガスと第1のC供給ガスとを含むガスを用いて第2の温度で平坦化する平坦化処理工程と、平坦化処理工程で平坦化された表面上に、第2のSi供給ガスと第2のC供給ガスとを含むガスを用いて第3の温度でエピタキシャル成長を行うエピタキシャル層成長工程と、を備え、第1の温度T、第2の温度T、第3の温度TはT>T>Tを満たし、平坦化処理工程では、エッチング工程前に炭化珪素基板に含まれていた潜傷またはインクルージョンがエッチング工程でエッチングされてできた窪みを、平坦化し、エピタキシャル層成長工程の後、処理温度を上げて別のエピタキシャル成長を行う別のエピタキシャル層成長工程をさらに備える、炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法、である。これにより、本開示の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法は、三角欠陥の発生の抑制に適した炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法である。

【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態の炭化珪素エピタキシャル成長装置の模式図である。
図2】炭化珪素エピタキシャルウエハの模式的な断面図である。
図3】実施の形態の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法のフローチャートである。
図4】実施の形態と比較例1で製造された炭化珪素エピタキシャルウエハの三角欠陥密度をそれぞれ示す図である。
図5】平坦化処理時間と平坦化処理温度を変えた場合の平坦化処理の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<A.実施の形態>
<A-1.炭化珪素エピタキシャル成長装置の構成>
まず、本実施の形態に係る炭化珪素エピタキシャル成長装置である炭化珪素エピタキシャル成長装置100の構成について説明する。
【0012】
図1は、実施の形態にかかる炭化珪素エピタキシャル成長装置がその主要部として備える成長炉10の概略断面図である。以下では、成長炉10について説明する。
【0013】
成長炉10は、サセプター5と、ウエハホルダー3と、回転台2と、誘導加熱コイル4と、を備える。
【0014】
成長ガス、キャリアガス、エッチングガス等のガスは図1に示される矢印Aのようにサセプター5に供給され、また排気される。そのため、サセプター5内は常に新しい成長ガス、キャリアガス、エッチングガス等で満たされる。
【0015】
炭化珪素基板1上にエピタキシャル成長層を成膜する際、成長ガスとしては、例えばシリコン原子を含むSiHガス、炭素原子を含むCガスを用いられ、キャリアガスとしては例えばHを含むものが用いられる。炭化珪素エピタキシャル成長装置100は、例えば、成長温度を1450℃以上1700℃以下の範囲に、成長圧力を1×10Pa以上5×10Pa以下の範囲に設定可能である。必要に応じて、N型用ドーピング用の窒素ガスを成長ガスと同時に供給してもよい。また、P型用ドーピング用として、Al、B、Beを含む有機金属材料を供給してもよい。さらに、成長速度を高速化するために、HCl、ジクロロシランなどを用いることができる。
【0016】
ウエハホルダー3は、円盤状である。ウエハホルダー3の表面には、炭化珪素基板1を載置できるように、ウエハポケット31が複数個形成されている。複数個のウエハポケット31は、ウエハホルダー3の表面に複数のざぐり加工を施すことにより形成される。ウエハホルダー3は、回転台2上に載置され、炭化珪素基板1上にエピタキシャル成長層を成膜する際には、回転台2と共に例えば一定速度で回転する。
【0017】
誘導加熱コイル4はサセプター5の外周に巻き回されている。ウエハホルダー3とサセプター5と回転台2とは、誘導加熱コイル4に電力を供給することにより誘導加熱される。ウエハホルダー3とサセプター5と回転台2とが誘導加熱されると、熱伝導及び熱輻射によってサセプター5の内部全体が加熱される。
【0018】
本実施の形態では、ウエハホルダー3、回転台2およびサセプター5は、炭化珪素でコーティングされたグラファイトが用いられる。炭化珪素基板1上にエピタキシャル成長層を成膜する際に、炭化珪素基板1を例えば約1450℃以上に加熱するため、それに耐え得る必要があるからである。
【0019】
ここで、ウエハホルダー3、回転台2及びサセプター5をグラファイトだけで構成することを考える。この場合、エピタキシャル成長層の成膜中に、グラファイトが発塵する可能性がある。発塵したグラファイトの微粒子が炭化珪素基板1に載った状態でエピタキシャル成長層を成膜すると、微粒子が載った箇所を起点として結晶が異常成長し、エピタキシャル成長層に結晶欠陥が生じる。そのため、グラファイトの発塵が抑制されるよう、グラファイトを炭化珪素でコーティングすることが望ましい。
【0020】
炭化珪素でコーティングされたグラファイトは、炭化珪素の膜によってグラファイトの発塵が抑制される。また、グラファイトから金属不純物が拡散することも抑制される。金属不純物は、エピタキシャル成長層に結晶欠陥を生じさせるということ以外にも、半導体装置の電気特性に影響を与えるため、拡散しないことが好ましい。したがって、ウエハホルダー3、回転台2及びサセプター5には、炭化珪素でコーティングされたグラファイトを用いることが好ましい。炭化珪素でのコーティングには、CVD法や焼結法で作製される炭化珪素材を用いても良い。グラファイトのコーティングは、炭化珪素の代わりにTaC(炭化タンタル)を用いて行われていてもよい。また、グラファイトにはCVDによるカーボンコーティングがなされていてもよい。
【0021】
<A-2.炭化珪素エピタキシャルウエハの構成>
図2は、本実施の形態に係る炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法によって製造される炭化珪素エピタキシャルウエハ20の模式的な断面図である。
【0022】
本実施の形態で製造される炭化珪素エピタキシャルウエハ20は、炭化珪素基板1と、この炭化珪素基板1上に形成された炭化珪素エピタキシャル層12とを備える。
【0023】
炭化珪素基板1は、N型の低抵抗の炭化珪素基板である。炭化珪素エピタキシャル層12は、炭化珪素基板1と同じ導電型であり、具体的には、N型である。炭化珪素基板1は、(0001)面から<11-20>方向に5度程度より小さな角度で傾けた、オフ角を有する炭化珪素基板1である。
【0024】
炭化珪素エピタキシャルウエハ20の望ましい構成について説明する。
【0025】
炭化珪素エピタキシャルウエハ20に対して様々な加工を施して作製された炭化珪素半導体装置を炭化珪素半導体装置21とする。炭化珪素基板1および炭化珪素エピタキシャル層12の成長時の不具合に起因する炭化珪素エピタキシャルウエハ20の欠陥があると、炭化珪素半導体装置21に局所的に高電圧が保持できない箇所ができ、炭化珪素半導体装置21の中にリーク電流が発生する。炭化珪素半導体装置21の中にリーク電流が発生するとその炭化珪素半導体装置21は不良品になる可能性が高いので、このような高電圧を保持できない箇所の密度が増加すると、炭化珪素半導体装置21の製造時の良品率が低下する。良品率を低下させる欠陥の典型例は、炭化珪素エピタキシャルウエハ20の結晶学的な均一性の欠如、たとえば、結晶における原子配列の周期性が結晶成長方向に沿って局所的に不完全になることによる欠陥である。このような積層欠陥を伴いリーク電流を引き起こす欠陥の一つとして、炭化珪素エピタキシャル成長により発生するキャロット欠陥、及び三角欠陥が知られている。
【0026】
炭化珪素結晶には、SiとCが1:1と同じ化学量論比的組成で結晶格子が六方最密充填構造であっても、c軸に沿った原子配列の周期性が異なる結晶型(ポリタイプ)があり、その周期性によって物性が規定される。現在デバイス応用の観点から最も注目を集めているのは、4H型と呼ばれるタイプである。同じ結晶型をエピタキシャル成長させるために、炭化珪素基板の表面は、通常、結晶のある面方位から傾斜させた面に設定され、(0001)面からたとえば<11-20>方向に8°または4°傾斜させた表面を持つように加工される。
【0027】
炭化珪素基板1は、炭化珪素のインゴットを基にスライシング、ラッピングによりウエハ形状に加工されたあと、多段階の機械研磨、ケミカルメカニカルポリシング(Chemical Mechanical Polishing、CMP)、Hエッチングなどによって、炭化珪素基板1の表面の加工ダメージ層の除去が行われる。
【0028】
炭化珪素基板1の表面に加工ダメージ層が残っていると、炭化珪素エピタキシャル層を形成したときに三角欠陥を主とする表面欠陥が多発すると同時に、ステップフロー成長が阻害されるためステップバンチングが発生しやすく表面荒れが増大する。また、炭化珪素基板1の表面がナノオーダーで平坦であっても、炭化珪素基板1の表面近傍に潜傷とよばれる加工ダメージが存在することがある。潜傷は基本的に表面凹凸を伴わないか、もしくは凹凸があっても非常に小さいため、光学顕微鏡では確認できないが、炭化珪素基板1の表面近傍に潜傷があると、エピタキシャル成長において三角欠陥を主とする表面欠陥やステップバンチングが発生する起点になる。
【0029】
また、炭化珪素のインゴットの製造プロセスにおいて、結晶成長の条件が所望の条件からずれると、インクルージョンとよばれる粒子がインゴット内部に取り込まれる。インクルージョンが炭化珪素基板1の表面に存在すると、エピタキシャル成長においてそこを起点に三角欠陥を主とする表面欠陥が発生するためデバイス歩留まりの低下につながる。
【0030】
このように、潜傷やインクルージョンは三角欠陥につながるため、本実施の形態の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法では、後述のように、Hエッチングにより潜傷やインクルージョンを取り除く。完全に除去することが望ましい。潜傷やインクルージョンが含まれる炭化珪素基板1をHガス等でエッチングすると、結晶構造の乱れが生じている潜傷やインクルージョンはエッチングが進みやすいため窪みが形成され、当該窪みが光学顕微鏡で確認できるようになる。この窪みのある表面上に直接後述の<A-3-3.エピタキシャル層成長工程>を行うと、窪みを起点とした三角欠陥が発生する。本実施の形態の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法では、窪みを起点とした三角欠陥を減らすために、後述の<A-3-2.平坦化処理工程>で説明する平坦化処理を行ってから<A-3-3.エピタキシャル層成長工程>で説明するエピタキシャル層成長工程を行い、炭化珪素エピタキシャル層12を形成する。
【0031】
<A-3.炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法>
本実施の形態に係る炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法について説明する。
【0032】
本実施の形態に係る炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法では、炭化珪素エピタキシャル成長装置100を用いる。図3は、本実施の形態に係る炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法のフローチャートである。
【0033】
まず、炭化珪素基板1を準備し、サセプター5の外で、ウエハホルダー3のウエハポケット31に炭化珪素基板1を載置する。そして、炭化珪素基板1が載置されたウエハホルダー3を、サセプター5内に設けられた回転台2上に載置する(炭化珪素基板搬入工程、ステップS1)。
【0034】
ステップS1の後、Hガスエッチング工程(ステップS2)、平坦化処理工程(ステップS3)、エピタキシャル層成長工程(ステップS4)を順に行う。その後、ステップS4のエピタキシャル層成長工程で炭化珪素基板1上に炭化珪素エピタキシャル層12が形成された炭化珪素エピタキシャルウエハ20をサセプター5から搬出する(炭化珪素エピタキシャルウエハ搬出工程、ステップS5)。
【0035】
ガスエッチング工程(ステップS2)、平坦化処理工程(ステップS3)、エピタキシャル層成長工程(ステップS4)はそれぞれ以下で個別に詳しく説明する。
【0036】
<A-3-1.Hガスエッチング工程>
ステップS2のHガスエッチング工程では、ステップS1の後、サセプター5内を所望の圧力まで減圧した後、炭化珪素基板1を加熱する。加熱は、サセプター5の外周に巻き回されている誘導加熱コイル4に電力を供給して行う。誘導加熱コイル4に電力を供給することにより、サセプター5、回転台2、およびウエハホルダー3は誘導加熱される。そして、炭化珪素基板1は、サセプター5の内壁等(回転台2がU字型のような形状の場合は、回転台2の側部も含む。)からの輻射熱及びウエハホルダー3からの伝導熱から加熱される。炭化珪素基板1が目的とする温度になったら、サセプター5内にHガスを供給しHガスエッチングを行う。
【0037】
ガスエッチングでは、成長炉10内にHガスを含むガス、望ましくはHガスのみを流して、例えば、成長炉10の圧力を5×10Pa以上5×10Pa以下に調圧し、炭化珪素基板1の温度を1650℃以上1750℃以下とする。本実施の形態では、9×10Pa、1670℃でHガスエッチングを実施した。
【0038】
エピタキシャル成長時に発生する三角欠陥等の表面欠陥を低減するには、潜傷やインクルージョンは完全に除去することが望ましい。エッチングの温度を1650℃以上とすることで、エッチング速度が向上し、潜傷やインクルージョンを除去するのに必要な時間が短くなり、生産性の観点からより好ましい。また、エッチングの温度が1750℃以下の場合、成長炉10の炉壁に付着した炭化珪素生成物のエッチングが進行して炭化珪素の粒子が炭化珪素基板1の上に落下する頻度が低い。
【0039】
炭化珪素基板1表面に存在する潜傷やインクルージョンは、結晶構造の乱れを伴い脆いため、加熱されたHガスによってエッチングされ易い。炭化珪素基板1の表面の潜傷やインクルージョンが存在した場所には、エッチング後に窪みが残る。窪みの深さは例えば0.05μm以上0.5μm以下程度であるが、潜傷やインクルージョンの大きさ、またはエッチング条件に左右される。
【0040】
エッチング処理時間は、9×10Pa、1670℃の条件を用いた場合においては例えば5分以上30分以下である。エッチング時間が5分より長い場合、大きな潜傷やインクルージョンについても、より良く除去できる。また、エッチング時間が長すぎないことで、必要以上にエッチングを行うことが防げ、生産性を上げられる。
【0041】
好ましいHガスエッチング条件、特に、好ましいエッチング処理時間や圧力は、炭化珪素基板1の結晶状態や表面凹凸状態などによって異なる。潜傷やインクルージョンを目的とする数まで減らすことができれば、Hガスエッチング条件は、本実施の形態に記載した範囲に限定されるものではない。
【0042】
<A-3-2.平坦化処理工程>
前述したように、炭化珪素基板1に存在する潜傷やインクルージョンを、<A-3-1.Hガスエッチング>で説明したHガスエッチング工程によって取り除き、望ましくは無くすことができる。しかし、潜傷やインクルージョンは他の領域よりエッチングされ易いため、潜傷やインクルージョンがあった場所には表面に局所的に窪みが残る。Hガスエッチング工程でエッチングされ窪みのある表面に炭化珪素エピタキシャル層を形成すると、窪みの部分がエピタキシャル成長で埋まらず残った場合、窪みを起点にして異常成長が起こり三角欠陥に変化する。ステップS3の平坦化処理工程で窪みを平坦化する処理を行った後にステップS4のエピタキシャル層成長工程を行うことで、三角欠陥の発生を抑制できる。ステップS3の平坦化処理工程は、本実施の形態ではステップS4のエピタキシャル層成長工程と処理温度や処理時間を除けば同じ処理条件であり、単に窪みが平坦化されるだけでなくエピタキシャル成長も起こり、炭化珪素エピタキシャル層12はステップS3の平坦化処理工程で形成された領域も含むとみなせる。ただし、以下に述べるようにステップS4のエピタキシャル層成長工程と比べ窪みを平坦化する目的で行うため、平坦化処理と呼ぶ。
【0043】
ステップS3の平坦化処理は、例えば、キャリアガスであるHガスと、Si供給ガスであるSiHガスと、C供給ガスであるCガスと、ドーパントとしての窒素原子を供給するNガスと、を成長炉10内に供給して、成長炉10の圧力を1×10Pa以上5×10Pa以下に調圧し、1550℃以上1680℃以下で炭化珪素基板1を加熱する条件で行う。好ましい処理時間は、例えば5分以上50分以下である。本実施の形態では、1×10Pa、1600℃の処理条件で平坦化処理を30分間実施した。
【0044】
ステップS3の平坦化処理の処理温度がステップS2のHガスエッチング工程の処理温度より低いことで、Hガスが窪みをエッチングする効果が抑制される。
【0045】
平坦化処理の処理温度を上げると、炭化珪素基板に到達した材料ガスの原子に与えられるエネルギーが大きくなり、分解された材料ガスの原子のマイグレーション、つまり分解された材料ガスの炭化珪素基板1の表面での移動が、活発化する。マイグレーションの活発化により炭化珪素基板1表面の窪みの部分にも材料ガスの原子が行き届くようになって窪みの平坦化効果が高くなるため、より短い時間で平坦化処理を行うことができ、生産性が高くなる。そのため、ステップS3の平坦化処理の処理温度をステップS4のエピタキシャル層成長工程の成長処理温度より高く、また、より望ましくは1550℃以上とする。
【0046】
温度が上がると、マイグレーションが活発化する一方、キャリアガスであるHガスによるエッチングも活発化されるため、温度を上げすぎると、平坦化処理の温度を上げることにより窪みがより平坦化されやすくなるということはなくなっていく。そのため、ステップS3の平坦化処理の処理温度を好ましくは1680℃以下とする。
【0047】
ステップS3の平坦化処理工程を行ってからステップS4のエピタキシャル層成長工程を行うことで、平坦化処理をせずにエピタキシャル層成長工程を行った場合と比べ、窪みを起点とした三角欠陥を抑制できる(<B.比較例1>および<E.評価結果>を参照)。
【0048】
本実施の形態で記載したステップS3の平坦化処理工程において好ましい平坦化処理条件は、Hガスエッチングの条件、または炭化珪素基板1の結晶状態、表面凹凸状態などによって異なる可能性があり、また、平坦化処理条件は、本実施の形態に記載した範囲に限定されるものではない。
【0049】
<A-3-3.エピタキシャル層成長工程>
次に、処理温度や処理時間を除きステップS3の平坦化処理工程と同じガス条件でステップS4のエピタキシャル層成長工程を行う。つまり、ステップS3の平坦化処理工程で平坦化された表面上に、ステップS3の平坦化処理工程と同じ種類のガスを用い同じ圧力でエピタキシャル成長を行い、炭化珪素エピタキシャル層12を形成する。
【0050】
ステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理温度は窪みの平坦化を目的とするステップS3の平坦化処理工程の処理温度より低くする。
【0051】
ステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理温度は、1450℃以上1600℃以下であることが望ましい。
【0052】
ステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理温度を下げると、エピタキシャル層の成長処理が速すぎないため、炭化珪素基板1の窪み平坦化後に残っている欠陥や凹凸などを炭化珪素エピタキシャル層12の表面に引き継ぎにくく、また、平坦化後に残っている欠陥や凹凸を起因とする三角欠陥の発生を抑制できやすい。そのため、ステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理温度はステップS3の平坦化処理工程の処理温度より低く、より望ましくは1600℃以下とする。平坦化後に残っている凹凸は、例えば、ステップバンチングのように、Hガスエッチング工程で潜傷やインクルージョンの跡にできる窪みとは異なり、広がって形成されているものを指す。
【0053】
材料ガスの熱分解効率を上げ、また、エピタキシャル成長の速度及び炭化珪素エピタキシャル層12のキャリア濃度の面内ばらつきを改善するためには、温度を上げることが望ましい。そのため、ステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理温度は好ましくは1450℃以上とする。
【0054】
本実施の形態では、ステップS4のエピタキシャル層成長工程を1500℃で3時間実施した。
【0055】
本実施の形態では、ステップS4のエピタキシャル層成長の条件として処理温度以外は平坦化処理と同じガス条件を用いることで連続性を維持し、成長炉10内のガス流変動を出来る限り抑制することで発塵への影響を最低限に抑えることに主眼をおいた。しかし、ステップS4のエピタキシャル層成長の条件は、本実施の形態に例示した範囲に限定されず、ステップS3の平坦化処理工程の処理温度TとステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理温度TがT>Tであることにより、三角欠陥を抑制できる。
【0056】
以上説明したように、本実施の形態の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法は、Hを含むエッチングガスを用いて炭化珪素基板の表面をエッチングするステップS2のHエッチング工程と、ステップS2のエッチング工程でエッチングされた表面を、HガスとSi供給ガスであるSiHガスとC供給ガスであるCガスとを含むガスを用いて平坦化するステップS3の平坦化処理工程と、ステップS3の平坦化処理工程で平坦化された表面上に、Si供給ガスであるSiHガスとC供給ガスであるCガスとを含むガスを用いてエピタキシャル成長を行うステップS4のエピタキシャル層成長工程と、を備える。また、ステップS2のHエッチング工程の処理温度T、ステップS3の平坦化処理工程の処理温度T、ステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理温度TはT>T>Tを満たす。T>Tであることにより、ステップS2のHエッチング工程で効率良く潜傷やインクルージョンを取り除いて潜傷やインクルージョン起因の三角欠陥を抑制でき、かつ、ステップS3の平坦化処理工程で窪みを平坦化し窪み起因の三角欠陥を抑制できる。また、T>Tであることにより、窪みを起因とする三角欠陥および平坦化後に残っている欠陥や凹凸を起因とする三角欠陥を抑制できる。このように、本実施の形態の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法は、三角欠陥の発生の抑制に適した炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法である。
【0057】
ステップS3の平坦化処理工程で窪みが平坦化される度合いは材料ガスの原子のマイグレーションの度合いに依存し、マイグレーションの度合いは温度に依存する。本実施の形態ではステップS3の平坦化処理工程で用いるSi供給ガス(第1のSi供給ガス)およびC供給ガス(第1のC供給ガス)と、ステップS4のエピタキシャル層成長工程で用いるSi供給ガス(第2のSi供給ガス)およびC供給ガス(第2のC供給ガス)と、は同じSi供給ガスおよびC供給ガスとしたが、異なるSi供給ガスおよびC供給ガスを用いてもよい。この場合も、T>Tとすることによりマイグレーションの度合いを制御し、窪み起因の三角欠陥および平坦化後に残っている欠陥や凹凸を起因とする三角欠陥、およびステップバンチング等を抑制できる。第1のSi供給ガスと第2のSi供給ガスを同じSi供給ガスとし、第1のC供給ガスと第2のC供給ガスを同じC供給ガスとすることで、ステップS3の平坦化処理工程からステップS4のエピタキシャル層成長工程に移る際の成長炉10内のガス流変動を抑制し、成長炉10内の発塵を抑えることができる。
【0058】
Si供給ガスは例えばSiHCl、SiHCl、SiClのいずれかであってもよい。C供給ガスはC以外にも例えばCなどの炭化水素ガスを用いることができる。
【0059】
<A-4.効果>
ステップS2のHエッチング工程の処理温度T、ステップS3の平坦化処理工程の処理温度T、ステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理温度TはT>T>Tを満たす。これにより、本実施の形態の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法は、三角欠陥の発生の抑制に適した炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法である。
【0060】
第1のSi供給ガスと第2のSi供給ガスは同じSi供給ガスであり、第1のC供給ガスと第2のC供給ガスは同じC供給ガスである。これにより、ステップS3の平坦化処理工程からステップS4のエピタキシャル層成長工程に移る際の成長炉10内のガス流変動を抑制し、成長炉10内の発塵を抑えることができる。
【0061】
本実施の形態の炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法において、ステップS2のHエッチング工程の処理温度Tは1650℃以上1750℃以下、ステップS3の平坦化処理工程の処理温度Tは1550℃以上1680℃以下、ステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理温度Tの処理温度は1450℃以上1600℃以下である。この条件により、より効率的に三角欠陥の抑制された炭化珪素エピタキシャルウエハを製造できる。
【0062】
<A-5.変形例>
ステップS4のエピタキシャル層成長工程までの処理で炭化珪素エピタキシャル層12を形成したあと、処理温度を上げて別のエピタキシャル成長を行い、炭化珪素エピタキシャル層12の表面上に別のエピタキシャル層(炭化珪素エピタキシャル層13とする)を形成してもよい。つまり、炭化珪素エピタキシャル層13を形成することにより、または、炭化珪素エピタキシャル層13の上にさらに別のエピタキシャル成長を行うことにより、炭化珪素基板1の上に複数のエピタキシャル層が形成された炭化珪素エピタキシャルウエハを形成してもよい。
【0063】
ステップS4のエピタキシャル層成長工程では、成長速度の観点から望ましい温度よりも低い温度でエピタキシャル層成長を行うことで、ステップS3での平坦化処理工程での窪みの平坦化後に残っている欠陥や凹凸などをエピタキシャル成長で引き継ぎにくくなる。しかし、ステップS4のエピタキシャル層成長工程はエピタキシャル層の成長速度の観点からは望ましくないため、ステップS4のエピタキシャル層成長工程の後、処理温度を上げて成長速度を高めることが、生産性の観点から望ましい。
【0064】
つまり、ステップS3の平坦化処理工程で窪みを平坦化し、窪み平坦化後に残っている欠陥や凹凸などをステップS4のエピタキシャル層成長工程で低減させ、その後速い成長速度でステップS4のエピタキシャル層成長工程とは別のエピタキシャル成長を行うことで、三角欠陥や凹凸なども低減された炭化珪素エピタキシャルウエハを、効率的に製造できる。
【0065】
<B.比較例1>
比較例1では、実施の形態の<A-3.炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法>で説明した図3のフローチャートの処理のうち、ステップS3の平坦化処理工程を行わずに、ステップS1、ステップS2、ステップS4、ステップS5をこの順に行い、炭化珪素エピタキシャルウエハを製造した。本比較例のステップS2のHガスエッチング工程、ステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理条件はそれぞれ、実施の形態での処理条件と同じである。
【0066】
<C.比較例2>
比較例2では、実施の形態の<A-3.炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法>で説明した図3のフローチャートの処理を、ステップS2のHガスエッチング工程の処理温度を、ステップS3の平坦化処理工程の温度と同じ1600℃に変えて行い、炭化珪素エピタキシャルウエハを製造した。ステップS2のHガスエッチング工程の条件のうち、処理温度以外のガス流量や圧力などその他の条件は、実施の形態のステップS2のHガスエッチング工程と同じとした。本比較例のステップS3の平坦化処理工程およびステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理条件はそれぞれ、実施の形態での処理条件と同じである。
【0067】
<D.比較例3>
比較例3では、実施の形態の<A-3.炭化珪素エピタキシャルウエハの製造方法>で説明した図3のフローチャートの処理を、ステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理温度をステップS3平坦化処理工程の処理温度と同じ1600℃に変えて行い、炭化珪素エピタキシャルウエハを製造した。ステップS4のエピタキシャル層成長工程の条件のうち、処理温度以外のガス流量や圧力などその他の条件は、実施の形態と同じとした。本比較例のステップS2のHガスエッチング工程およびステップS3の平坦化処理工程の処理条件はそれぞれ、実施の形態での処理条件と同じである。

【0068】
<E.評価結果>
実施の形態および比較例1から3でそれぞれ作製された炭化珪素エピタキシャルウエハを成長炉10から取り出し、炭化珪素エピタキシャルウエハのエピタキシャル成長層の表面(エピタキシャル成長層の、炭化珪素基板1と逆側の主面)の三角欠陥の個数を、光学的表面欠陥評価装置を用いて評価した。
【0069】
図4は、実施の形態と比較例1の、エピタキシャル成長層の表面の三角欠陥の個数を比較する図である。実施の形態と比較例1それぞれについて、複数個の炭化珪素エピタキシャルウエハを製造し、当該複数個の炭化珪素エピタキシャルウエハそれぞれの結果を、図4で点としてプロットしてある。また、図4では、実施の形態で製造された当該複数個の炭化珪素エピタキシャルウエハのエピタキシャル成長層の表面の三角欠陥の個数の平均と、比較例1で製造された当該複数個の炭化珪素エピタキシャルウエハのエピタキシャル成長層の表面の三角欠陥の個数の平均と、が、それぞれ横棒で示されている。縦軸は、実施の形態で製造された当該複数個の炭化珪素エピタキシャルウエハのエピタキシャル成長層の表面の三角欠陥の個数の平均を1とするようにスケールして示されている。
【0070】
図4に示されるように、実施の形態では、平坦化処理を実施することにより三角欠陥の個数が比較例1と比べ明確に減少した。実施の形態では、三角欠陥密度が0.1ヶ/cm以下となる低欠陥密度の炭化珪素エピタキシャルウエハが得られた。
【0071】
また、実施の形態は、比較例2と3と比較して三角欠陥が少なかった。
【0072】
比較例2ではステップS2のHガスエッチングの処理温度がステップS3の平坦化処理工程の処理温度と同じ1600℃だったのに対し、実施の形態ではステップS2のHガスエッチングの処理温度がステップS3の平坦化処理工程の1600℃より高かった。そのため、実施の形態では比較例2と比べ、炭化珪素基板1の表面に存在する潜傷およびインクルージョンをより効率的に除去でき、潜傷およびインクルージョンに起因した三角欠陥が減少した、と考えられる。
【0073】
比較例3ではステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理温度がステップS3の平坦化処理工程の処理温度と同じだったのに対し、実施の形態ではステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理温度がステップS3の平坦化処理工程の処理温度より低かった。そのため、実施の形態では比較例3と比べステップS3の平坦化処理工程で窪みを平坦化した後に残っている他の欠陥や凹凸をエピタキシャル成長でより引き継ぎにくく、当該他の欠陥や凹凸を起因とする三角欠陥が減少した、と考えられる。つまり、ステップS3の平坦化処理工程の処理温度TとステップS4のエピタキシャル層成長工程の処理温度TがT>Tであることにより、窪み起因の三角欠陥を効率的に低減でき、かつ、窪み以外を起因とする三角欠陥も低減することができる。
【0074】
図5は、平坦化処理時間と平坦化処理温度を変化させたときの、平坦化処理工程の三角欠陥の低減効果の傾向を表す図である。三角欠陥の低減効果は、平坦化処理工程を行う場合に行わない場合と比べ三角欠陥が低減される度合いを表す。但し、平坦化処理工程を行う場合も行わない場合も、Hエッチング工程とエピタキシャル層成長工程とは同じ条件で行い、T>T>Tである。
【0075】
図5は、平坦化処理の温度Tが高いほど、平坦化処理の処理時間は短くて済み、逆に、平坦化処理の温度が低い場合は、平坦化処理の処理時間を延ばす必要があることを示している。これは、温度が高い方が材料ガスの原子のマイグレーションが活発であるためと考えられる。実験結果から、平坦化の処理温度T[℃]、処理時間t[分]が、T≧-34.1ln(t)+1687を満たす処理時間において、より高い三角欠陥の低減効果が得られることが分かる。<A-3-2.平坦化処理工程>で好ましいとした平坦化処理温度1550℃以上1680℃以下の範囲の外の温度Tに対しても、T≧-34.1ln(t)+1687を満たす処理時間tは存在する。しかし、<A-3-2.平坦化処理工程>で説明したように、Tは1550℃以上1680℃以下であることがより好ましい。
【0076】
なお、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 炭化珪素基板、2 回転台、3 ウエハホルダー、4 誘導加熱コイル、5 サセプター、10 成長炉、12 炭化珪素エピタキシャル層、20 炭化珪素エピタキシャルウエハ、21 炭化珪素半導体装置、31 ウエハポケット、100 炭化珪素エピタキシャル成長装置。
図1
図2
図3
図4
図5