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  • 特許-潤滑油組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20241226BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20241226BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20241226BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20241226BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20241226BHJP
   C10N 40/12 20060101ALN20241226BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20241226BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20241226BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20241226BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20241226BHJP
   C10M 105/04 20060101ALN20241226BHJP
   C10M 145/26 20060101ALN20241226BHJP
   C10M 129/16 20060101ALN20241226BHJP
   C10M 129/68 20060101ALN20241226BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20241226BHJP
【FI】
C10M169/04
C10N30:00 Z
C10N40:00 A
C10N40:08
C10N40:04
C10N40:12
C10N40:25
C10N40:30
C10M101/02
C10M107/02
C10M105/04
C10M145/26
C10M129/16
C10M129/68
C10N20:02
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020203745
(22)【出願日】2020-12-08
(65)【公開番号】P2022091048
(43)【公開日】2022-06-20
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】517436615
【氏名又は名称】シェルルブリカンツジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 建吾
(72)【発明者】
【氏名】阿部 国敏
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-023596(JP,A)
【文献】特開2015-010138(JP,A)
【文献】特開昭62-032188(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0194332(US,A1)
【文献】米国特許第05485895(US,A)
【文献】特表2015-516006(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0119303(US,A1)
【文献】特開2017-119748(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0263105(US,A1)
【文献】特表2016-518508(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0060561(US,A1)
【文献】特開2015-081287(JP,A)
【文献】化粧品・医薬品用 製品カタログ,2015年5月,日本,日油株式会社
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)鉱油、PAO及びGTL(ガストゥリキッド)基油の中から選択される少なくとも1種以上を含む潤滑油基油と、
(B)アルコールにプロピレンオキサイドを単独で付加重合した構造、或いは、アルコールにプロピレンオキサイドとエチレンオキサイド及び/又はブチレンオキサイドとを組み合わせて付加重合した構造を有し、酸素/炭素重比が0.35以上0.45未満であるポリアルキレングリコール(PAG)及び/又は当該ポリアルキレングリコール(PAG)の末端水酸基の一方又は両方を、C、N、O、S及びHから選択される少なくとも1種類以上からなる分子量200以下の置換基で封鎖した化合物と、
(C)酸素/炭素重比が0.05~0.35である脂肪酸エステルと、
を含み、
前記脂肪酸エステルの40℃動粘度が16mm /s以上であり、
分離温度が40~100℃の範囲内であることを特徴とする、潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
潤滑油は、通常、温度上昇に伴い粘度が低くなる。そのため、一般に低温では粘度が高く、高温では粘度が低い。使用される環境(特に温度)に応じて使われる潤滑油の種類も異なる。低温環境と高温環境の両者において用いられる潤滑油は、低粘度のものだと、高温では粘度が低すぎるために油膜切れを起こし、逆に高粘度のものだと、低温では粘度が高すぎて、撹拌損失が増大したり、ポンプ給油ができず焼付きや摩耗を起こしたりすることがある。
【0002】
作動開始時(停止状態から動作状態になるとき、すなわち、低温時)には、低粘度であることが重要である。この作動開始時に高粘度だと、停止状態から動作状態にするまでの初期作動力が必要となるからである。他方、一旦機械が動き出したら、それほど粘度は関係なくなる。機械が作動し続けると、機械は熱を有し、その温度が上昇する(例えば、100℃程度)。高温になった際には前記の通り粘度が下がり過ぎて、油膜切れを起こす可能性がある。
【0003】
このように、一つの潤滑油だけでは広範囲の温度条件において必要な粘度を担保することが難しい。そこで、特許文献1では、低粘度の潤滑油と、高粘度の潤滑油を組み合わせることによって、低温では低粘度の潤滑油の特性のみを利用し、高温では高粘度の潤滑油が低粘度の潤滑油と混和することで粘度が上がるという特性を利用し、低温でも高温でも機能する潤滑油を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第96/11244号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された潤滑油組成物では、十分な省燃費性が得られない場合があった。
【0006】
そこで本発明は、優れた省燃費性を奏することが可能な、新規な潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記先行技術文献においては、組成物の分離温度についての検討はされている。しかしながら、本発明者らは、省燃費性を向上させるためには、組成物の分離温度の制御だけでは不十分な場合があり、組成物の分離速度の制御が重要であることを見出した。より具体的には、組成物の分離温度を下回った際に、素早く高粘度成分と低粘度成分との分離が生じ、低粘度成分による潤滑状態に戻ることが、省燃費性の向上に重要であることを見出した。
【0008】
さらに、上記観点のもと、潤滑油組成物の成分として、所定の基油及び添加剤を使用することによって上記課題を解決可能なことを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は以下の通りである。
【0009】
本発明は、
(A)鉱油、PAO及びGTL(ガストゥリキッド)基油の中から選択される少なくとも1種以上を含む潤滑油基油と、
(B)アルコールにプロピレンオキサイドを単独で付加重合した構造、或いは、アルコールにプロピレンオキサイドとエチレンオキサイド及び/又はブチレンオキサイドとを組み合わせて付加重合した構造を有し、酸素/炭素重比が0.35以上0.45未満であるポリアルキレングリコール(PAG)及び/又は当該ポリアルキレングリコール(PAG)の末端水酸基の一方又は両方を、C、N、O、S及びHから選択される少なくとも1種類以上からなる分子量200以下の置換基で封鎖した化合物と、
(C)酸素/炭素重比が0.05~0.35である脂肪酸エステルと、
を含むことを特徴とする、潤滑油組成物である。
前記脂肪酸エステルの40℃動粘度が16mm/s以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
優れた省燃費性を奏することが可能な、新規な潤滑油組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】潤滑油組成物の二層系の模式図(一例)を示す。
図2】潤滑油組成物の分離温度測定の一態様を示す。
図3】潤滑油組成物の分離速度を測定する際に使用する実験器具の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る潤滑油組成物の、成分、物性/性質、製造方法、用途等について説明する。
【0013】
以下において、ある数値範囲の上限値と下限値とが別々に記載されている場合、それらを組み合わせた全ての数値範囲が開示されているものとする。また、以下において、「数値A~数値B」とは、「数値A以上数値B以下」であることを示す。更に、以下において、「以上」、「以下」と記載されている数値範囲を、各々、「超」、「未満」に読み替えることができる。
【0014】
本発明における動粘度は、JIS K2283:2000に準じて測定された値である。
【0015】
本発明における酸素/炭素重比は、成分中における炭素重量に対する酸素重量の割合を表し、この値は主に化合物の密度及び極性などの物性に影響する。例えば、極性については、エーテル基、エステル基、水酸基、カルボキシル基といった官能基の種類にも影響されるが、酸素原子は電気陰性度が高いことから、一般に酸素/炭素重比が大きいほど極性が高くなる傾向にある。密度については、酸素が炭素よりも重いことから、一般に酸素/炭素重比が大きい化合物の方が高密度の傾向にある。酸素/炭素重比の測定は、JPI-5S-65(石油製品-炭素分、水素分及び窒素分試験方法)及びJPI-5S-68(石油製品-酸素分試験方法)に従って行うことができる。
【0016】
<<<成分>>>
潤滑油組成物は、(A)成分:低粘度成分と、(B)成分:高粘度成分と、(C)成分:コントロール成分とを混合してなる潤滑油組成物である。換言すれば、潤滑油組成物は、(A)低粘度成分と、(B)高粘度成分と、(C)コントロール成分とを少なくとも含む潤滑油組成物である。潤滑油組成物は、その他の成分を含んでいてもよい。以下、それぞれの成分について説明する。
【0017】
<<(A)低粘度成分>>
(A)低粘度成分は、鉱油、PAO及びGTL(ガストゥリキッド)基油の中から選択される少なくとも1種以上を含む潤滑油基油である。
【0018】
鉱油の種類は特に規定されるものではないが、好ましい例として、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの1種もしくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系又はナフテン系などの鉱油を挙げることができる。
【0019】
PAO(ポリα-オレフィン)とは、α-オレフィンの単重合体又は共重合体である。α-オレフィンとしては、例えば、C-C二重結合が末端にある化合物であり、ブテン、ブタジエン、ヘキセン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセン、テトラデセン、ヘキサデセン、オクタデセン、エイコセンなどが例示される。これらの化合物は単独でも、また二種類以上の混合物としても用いることができる。また、これらの化合物はC-C二重結合が末端にある限り、とり得る異性体構造のどのような構造を有していてもよく、分枝構造でも直鎖構造でもよい。これらの構造異性体や二重結合の位置異性体の二種類以上を併用することもできる。これらのオレフィンのうち、炭素数5以下では引火点が低く、また炭素数31以上では粘度が高く実用性が低いため、炭素数6~30の直鎖オレフィンの使用がより好ましい。
【0020】
GTL基油とは、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成された基油である。GTL基油は、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、基油として好適に用いることができる。
【0021】
(A)低粘度成分は、1種もしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
(A)低粘度成分の40℃における動粘度は、好ましくは10mm/s以上100mm/s未満、より好ましくは15~80mm/s、さらに好ましくは25~70mm/sである。
(A)低粘度成分の100℃における動粘度は、好ましくは1~50mm/s、より好ましくは3~30mm/s、さらに好ましくは4mm/s超20mm/s未満である。
(A)低粘度成分の20℃における密度は、好ましくは0.700~1.000g/cmであり、より好ましくは0.750~0.950g/cmであり、さらに好ましくは0.800~0.880g/cmである。
【0023】
(A)低粘度成分は、潤滑油組成物の全重量(100重量%)に対して、好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上含有させることができる。
【0024】
<<(B)高粘度成分>>
(B)高粘度成分は、アルコールにアルキレンオキサイドを付加重合することで得られるポリアルキレングリコール(PAG)である。なお、上記ポリアルキレングリコール(PAG)は、基本的な性質を維持可能な範囲で、末端水酸基が従来公知の化合物によって変性(封鎖)された化合物であってもよい。より詳細には、(B)高粘度成分は、上記ポリアルキレングリコール(PAG)の末端水酸基の一方又は両方を、C、N、O、S及びHから選択される少なくとも1種類以上からなる分子量200以下の置換基(以下、封鎖基とする。)で封鎖した化合物であってもよい。この場合、封鎖基は、従来公知の置換基とすることが可能でありエステル結合やエーテル結合等を有していてもよいが、アルキル基(例えばC1~C10であり、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。)であることが好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。以下、封鎖基によって末端水酸基が封鎖された化合物を、単にポリアルキレングリコール誘導体とする場合がある。
【0025】
ポリアルキレングリコール及びポリアルキレングリコール誘導体としては、例えば、下記式で示されるものが挙げられる。
【0026】
【化1】
【0027】
式中、Rはそれぞれ独立してC2~C10、好ましくはC2~8、より好ましくはC2~6の直鎖又は分枝鎖炭化水素基を表し、mは2~500、好ましくは2~400、より好ましくは2~300の整数を表す。なお、Rのいずれについても、単独のアルキレンである必要は無く、異なったアルキレンの組み合わせであってもよい。具体例としては、上記の(RO)が二種類のアルキレンオキサイドのブロック共重合体の場合、上記の(RO)は(RO)m1(RO)m2とも記載できる。
【0028】
(B)成分は、式(2)~(4)で示す化合物であることが好ましい。
【0029】
ポリアルキレングリコールを構成するアルキレンオキサイドは、一種類でも二種類以上でもよいが、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドを単独で、又はこれらの二種以上を組み合わせて用いたもの(例えば、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)を挙げることができる。ポリアルキレングリコールとしては、アルコールにプロピレンオキサイドを単独で付加重合した構造、或いは、アルコールにプロピレンオキサイドとエチレンオキサイド及び/又はブチレンオキサイドとを組み合わせて付加重合した構造を有することがさらに好ましい。
【0030】
(B)高粘度成分は、1種もしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
(B)高粘度成分は、酸素/炭素重比が、0.35以上、0.36以上、0.37以上、又は、0.38以上であることが好ましく、また、0.45未満、0.42未満、又は、0.40未満であることが好ましい。
より具体的には、(B)高粘度成分の酸素/炭素重比は、0.35以上0.45未満であることが好ましく、0.38以上0.45未満であることがより好ましい。
なお、(B)高粘度成分が、ポリアルキレングリコール(PAG)の末端水酸基の一方又は両方を封鎖基で封鎖した化合物である場合、末端に配された当該封鎖基については、酸素/炭素重比の算出に計上しないものとする。
【0032】
(B)高粘度成分の40℃における動粘度は、好ましくは100mm/s以上、より好ましくは150mm/s以上、さらに好ましくは200mm/s以上である。
(B)高粘度成分の100℃における動粘度は、好ましくは20~5000mm/s、より好ましくは30~3000mm/s、さらに好ましくは40~1000mm/sである。
(B)高粘度成分の20℃における密度は、好ましくは0.950超1.050g/cm以下であり、より好ましくは0.960~1.030g/cmであり、さらに好ましくは0.970~1.010g/cmである。
【0033】
(B)高粘度成分は、潤滑油組成物の全重量(100重量%)に対して、好ましくは3~50重量%、より好ましくは5~40重量%、さらに好ましくは7~30重量%含有させることができる。
【0034】
このような高粘度成分は、低粘度成分と併用された場合、低温では低粘度成分と実質的に混じり合わず、高温で混じり合う。
【0035】
<<(C)コントロール成分>>
(C)コントロール成分は、脂肪酸エステルである。
【0036】
脂肪酸エステルは、1分子中のエステル結合数が、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。
【0037】
脂肪酸エステルは、1価又は多価のカルボン酸と、1価又は多価のアルコールとのエステルである。これらは、飽和であっても不飽和であってもよく、また、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0038】
より具体的には、脂肪酸エステルとしては、
(1)1価カルボン酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ぺラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ヘキサデシル酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸など)と1価アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノールなどの直鎖又は分枝鎖の1価アルコール)とのエステルであるモノエステル;
(2)ジカルボン酸(例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの、直鎖又は分枝鎖ジカルボン酸)と1価アルコール(例えば、前記の1価アルコール)とのエステルや、1価カルボン酸(例えば、前記の1価カルボン酸)と2価アルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチレングリコール、ヘキシレングリコールなどの直鎖又は分枝鎖の2価アルコール)とのエステルであるジエステル;
(3)1価カルボン酸(例えば、前記の1価カルボン酸)と3価アルコール(例えば、グリセリン、ブタントリオール、トリメチロールプロパン)とのエステルや、3価カルボン酸(例えば、クエン酸、イソクエン酸)と1価アルコール(例えば、前記の1価アルコール)とのエステルであるトリエステル;などが挙げられる。
【0039】
なお、1分子中のエステル結合数が4以上の脂肪酸エステルとしては、4価以上のカルボン酸(例えば、エタンテトラカルボン酸、プロパンテトラカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸)と1価アルコール(例えば、前記の1価アルコール)とのエステルや、1価カルボン酸(例えば、前記の1価カルボン酸)と4価以上のアルコール(例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール及びこれらの誘導体)とのエステル等が挙げられる。
【0040】
脂肪酸エステルは、多価のアルコールとカルボン酸とのエステル又は多価のカルボン酸とアルコールとのエステルである場合、分子中の水酸基及びカルボニル基が全て又は1部が反応したものであってもよい。
【0041】
(C)コントロール成分は、1種もしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
(C)コントロール成分は、酸素/炭素重比が、0.045以上、0.055以上、0.065以上又は0.075以上であることが好ましく、また、0.35以下、0.33以下、0.31以下又は0.30以下であることが好ましい。
より具体的には、(C)コントロール成分の酸素/炭素重比は、0.055~0.35であることが好ましく、0.075~0.35であることがより好ましい。
【0043】
(C)コントロール成分の40℃における動粘度は、好ましくは15~80mm/sであり、より好ましくは16~60mm/sであり、さらに好ましくは17~50mm/sある。
(C)コントロール成分の100℃における動粘度は、好ましくは1~30mm/sであり、より好ましくは1.5~20mm/sであり、さらに好ましくは2~10mm/sである。
(C)コントロール成分の20℃における密度は、好ましくは0.800~1.000g/cmであり、より好ましくは0.825~0.980g/cmであり、さらに好ましくは0.850~0.960g/cmである。
【0044】
(C)コントロール成分は、潤滑油組成物の全重量(100重量%)に対して、好ましくは1~65重量%、より好ましくは2~60重量%、さらに好ましくは3~55重量%含有させることができる。
【0045】
<<その他の成分>>
潤滑油組成物は、使用目的に応じて上述した成分以外の公知の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、流動点降下剤、消泡剤、清浄剤、分散剤、耐摩耗剤、金属不活性剤、酸化防止剤などの添加剤が挙げられる。
【0046】
その他の成分は、潤滑油組成物全量基準において、例えば、1重量%以上、3重量%以上、又は、5重量%以上とすることができ、また、25重量%以下、20重量%以下、又は、15重量%以下とすることができる。
【0047】
<使用態様例>
潤滑油組成物の機械使用開始時の態様例について図1を参照して説明する。図1(上図)は、潤滑油組成物の一態様であり、低温状態である二層状態10を表す。低粘度成分20が低密度の潤滑油であることから上層に位置し、高粘度成分22が高密度の潤滑油であることから下層に位置する。図1(下図左)は、被潤滑物である機械1を用いる態様であり、機械が潤滑油組成物の上層に浸漬している。始動時(低温)では低粘度の上層20が潤滑に主に寄与し、高粘度の下層22は潤滑にはほとんど寄与しない。低温では低粘度の潤滑油は潤滑に十分な性能(粘度)を有するので、低粘度成分のみでも潤滑性能に支障をきたさない。図1(下図右)は、使用を持続した結果高温になった一層状態12を表す。ここでは、温度上昇によって、低粘度成分20と、高粘度成分22が混和し、均一な潤滑油組成物24となっている。低粘度成分20のみの時よりも、高粘度成分22が混じり合うことで低粘度成分20の温度上昇に伴う粘度低下を高粘度成分22が補うことで、高温になっても油膜切れなどの支障をきたさない。分離温度以上の温度で均一な一層系となることで、低粘度成分の粘度低下を高粘度成分が補うこととなる。
【0048】
本発明によれば、低温では通常上層にある、低粘度の潤滑油が機械の潤滑に寄与し、高温では高粘度の潤滑油と低粘度の潤滑油との混合物が寄与するように分離温度を任意温度に制御しながらも、非常に優れた分離速度とすることができる。
【0049】
<<製造方法>>
潤滑油組成物は、公知の方法に従って製造することができ、各成分を適宜混合すればよく、その混合順序は特に限定されるものではない。添加剤は、複数種が混合されたパッケージ品として添加されてもよい。
【0050】
<<物性/性質>>
<分離温度>
潤滑油組成物の分離温度は、40~100℃の範囲内であることが好ましい。
分離温度とは、潤滑油組成物の一層状態と二層状態とが遷移する温度であり、二層状態にある潤滑油組成物を加熱して一層状態にした後、冷却した際に曇り(析出物)が見られる温度をいう。
分離温度は、以下の方法によって測定することができる。
【0051】
(分離温度の測定方法)
ヒーターとしてCORNING PC-420Dを用いて測定を行う。
(1)300mlビーカーに試料100gを採取し、撹拌子100を入れる。
(2)図2のように実験器具を組み、温度計101を接続した油温計測用に熱電対102を油中に差し込む。
(3)ホットスターラー103の撹拌速度を600rpmに設定する。
(4)プレート温度を120℃に設定し、油温が105℃になるまで加熱する。
(5)油温が105℃に達したら加熱及び攪拌をやめ、試料を室温で冷却する。
(6)冷却中のビーカー内のサンプルの状況を観察する。
(7)ビーカー内のサンプルが曇りを生じたら(析出物が見えたら)油温を記録し、分離温度とする。分離温度の決定は、アニリン点の測定(JIS K 2256)を参考として、目視にて行う。
【0052】
<分離速度>
潤滑油組成物は、分離速度Aが10%/min超であることが好ましく、分離速度Aが10%/min超であり、且つ、分離速度Bが、30%/min超であることがより好ましい。分離速度A及び分離速度Bは、以下の方法によって測定される。
【0053】
(分離速度A、Bの測定方法)
音叉振動式粘度計SV-10を用いて行なう。
(1)300mlビーカーに試料100gを採取し、撹拌子100を入れる。
(2)図3のように実験器具を組み、振動粘度計の端子を油中に設置する。
(3)ホットスターラー103の撹拌速度を600rpmに設定する。
(4)プレート温度を120℃に設定し、油温が105℃になるまで加熱する。
(5)油温が105℃に達したら加熱及び攪拌をやめ、試料を室温で冷却する。
(6)油温が100℃に達してから、80分後、300分後、振動粘度計を用いて粘度及び湯温を測定する。また、動粘度の算出のため試料を70℃で加熱攪拌を行い一層状態にした後、70℃密度の測定を行った。各温度における密度の換算についてはJIS2249に基づいて行なった。
(7)高粘度基油を試料から除いた際の動粘度と実測値の動粘度を比較計算することで低粘度基油中に残存している高粘度基油量を算出して式1)より分離率を算出した。残存量の算出にはJISK2283附属1動粘度及び混合比の推定方法を用いた。
(8)油温が100℃に達してから、80分後における分離速度を分離速度A、300分後における分離速度を分離速度Bとする。
【0054】
<40℃動粘度>
潤滑油組成物の、40℃における動粘度は、好ましくは10~100mm/s、であり、より好ましくは15~80mm/sであり、さらに好ましくは20~60mm/sである。
ここで示す40℃における動粘度とは、潤滑油組成物が二層に分離した上層の40℃における動粘度を示す。
<100℃動粘度>
潤滑油組成物の、100℃における動粘度は、好ましくは1~30mm/s、であり、より好ましくは3~20mm/sであり、さらに好ましくは5~15mm/sである。
ここで示す100℃における動粘度とは、潤滑油組成物の上層と下層が混和した一層状態での100℃における動粘度を示す。
【0055】
<粘度指数>
潤滑油組成物の粘度指数(Viscosity Index;VI)は、好ましくは50以上であり、より好ましくは150以上であり、さらに好ましくは200以上である。
粘度指数とは、温度変化により起こる潤滑油の粘度変化の程度を示す便宜的な指数である。粘度指数が高いことは、温度変化に対する粘度の変化が小さいことを意味する。
ここで示す粘度指数は、潤滑油組成物が二層に分離した上層の40℃における動粘度と、潤滑油組成物の上層と下層が混和し一層状態になった場合の100℃における動粘度と、に基づき、JISK2283に規定される粘度指数算出方法にもとづいて算出することができる。
【0056】
<<用途>>
潤滑油組成物の用途は特に限定されず、各種機械の潤滑油として用いることができる。例えば、各種車両や産業機械の回転部材や摺動部材の潤滑に適用される。特に、低温(例えば、-40℃)から高温(例えば、120℃)の領域において用いられる、自動車用エンジン(ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなど)、変速機(歯車装置、CVT、AT、MT、DCT、Diffなど)、工業用(建設機械、農耕機、工業機械、歯車装置など)、軸受(タービン、スピンドル、工作機械など)、油圧装置(油圧シリンダー、ドアチェックなど)、圧縮機(コンプレッサー、ポンプなど)などの潤滑油として用いることができる。
【実施例
【0057】
次に、本発明を実施例及び比較例により、更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0058】
<<潤滑油組成物>>
表に示すように各原料を混合し、各実施例及び比較例に係る潤滑油組成物を製造した。
【0059】
<<評価>>
潤滑油組成物の動粘度(40℃、100℃)、分離温度、分離速度について評価を行った。各評価結果を表に示す。なお、各評価項目の評価方法は、前述の通りである。
【0060】
【表1】
【0061】
本実施例に係る潤滑油組成物によれば、所定の分離温度を有し、且つ、優れた分離速度を有するため、温度変化に対応した優れた潤滑性能を発揮し、その結果優れた省燃費性を発揮できることが確かめられた。

図1
図2
図3