特許 7610964 座屈拘束ブレース

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2024-12-25

(45)【発行日】2025-01-09

(54)【発明の名称】座屈拘束ブレース

(51)【国際特許分類】

   E04B 1/58 20060101AFI20241226BHJP

   E04H 9/02 20060101ALI20241226BHJP

   F16F 7/00 20060101ALI20241226BHJP

   F16F 7/12 20060101ALI20241226BHJP

   F16F 15/02 20060101ALI20241226BHJP

【ＦＩ】

E04B1/58 D

E04H9/02 311

F16F7/00 C

F16F7/12

F16F15/02 Z

【請求項の数】 4

(21)【出願番号】P 2020206631

(22)【出願日】2020-12-14

(65)【公開番号】P2022093904

(43)【公開日】2022-06-24

【審査請求日】2023-11-30

(73)【特許権者】

【識別番号】390037154

【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100105843

【弁理士】

【氏名又は名称】神保 泰三

(72)【発明者】

【氏名】西 拓馬

(72)【発明者】

【氏名】吉田 文久

(72)【発明者】

【氏名】薮田 智裕

【審査官】土屋 保光

(56)【参考文献】

【文献】特開２００６－３２８６８８（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１６－１１７９９５（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２００５－２３２９１０（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２００２－１７３９８１（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｅ０４Ｂ １／５８

Ｅ０４Ｈ ９／０２

Ｆ１６Ｆ １５／０２

Ｆ１６Ｆ ７／００，７／１２

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

板状部の両端に他部材との接合のための接合部を有した芯材と、上記板状部の弱軸方向に直交する各面である平面領域に対向して配置された拘束材と、上記平面領域と拘束材との間に配置されるアンボンド材と、を備える座屈拘束ブレースであって、上記アンボンド材の一枚貼りが可能である上記平面領域に複数のアンボンド材が、当該平面領域の短辺方向に互いに隙間を有して貼付されることを特徴とする座屈拘束ブレース。

【請求項2】

請求項１に記載の座屈拘束ブレースにおいて、上記アンボンド材が、上記芯材の短辺方向の端側に位置することを特徴とする座屈拘束ブレース。

【請求項3】

請求項１または請求項２に記載の座屈拘束ブレースにおいて、上記アンボンド材が、上記拘束材の短辺方向の有効幅に対して、２０％以上で９５％以下の領域を占めて貼付されることを特徴とする座屈拘束ブレース。

【請求項4】

請求項１～請求項３のいずれか１項に記載の座屈拘束ブレースにおいて、上記芯材と上記拘束材との間に内挿板が配置されており、上記内挿板と上記芯材との間に上記アンボンド材が位置することを特徴とする座屈拘束ブレース。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

この発明は、構造物に組み込まれ、地震などの際に振動エネルギーを吸収して振動を減衰させる座屈拘束ブレースに関する。

【背景技術】

【0002】

特許文献１には、板状部の両端に他部材との接合のための接合部を有した芯材と、上記板状部の弱軸方向に直交する各面に対向して配置された拘束材とを備える座屈拘束ブレースにおいて、上記板状部と上記拘束材との間に、当該拘束材に接触して内挿板が設けられ、上記内挿板と上記芯材との間にアンボンド材を位置させた座屈拘束ブレースが開示されている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【文献】特開２０１６-１１７９９５号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

ところで、このような座屈拘束ブレースにおいて、上記アンボンド材を例えば上記芯材に設ける工程では、上記芯材よりも幅が狭い複数本のアンボンド材を貼り合わせる作業を行っている。

【0005】

しかしながら、上記複数本のアンボンド材を貼り合わせる際に、当該複数本のアンボンド材同士の一部が重なり合うと、この重なり箇所でのアンボンド材の厚さが他の箇所と異なり、作製された座屈拘束ブレースにおいて、設計通りの性能が発揮されないおそれがある。ここに、上記アンボンド材は、座屈拘束ブレースに衝撃が加わった際に、上記芯材に波状の変形を可能にするクリアランスとして機能するとともに、この変形の際の拘束材との摩擦を低減する機能を有する。

【0006】

この発明は、上記の事情に鑑み、アンボンド材の厚みが設計上の厚みと異なる箇所が生じるのを回避し、座屈拘束ブレースに設計通りの制振作用を発揮させることを課題とする。

【課題を解決するための手段】

【0007】

この発明の座屈拘束ブレースは、板状部の両端に他部材との接合のための接合部を有した芯材と、上記板状部の弱軸方向に直交する各面に対向して配置された拘束材と、上記芯材と拘束材との間に配置されるアンボンド材と、を備える座屈拘束ブレースであって、上記アンボンド材が複数のアンボンド材からなり、上記複数のアンボンド材が、上記芯材の短辺方向に互いに隙間を有して貼付されることを特徴とする。

【0008】

上記の構成であれば、上記アンボンド材を例えば上記芯材に貼り付ける工程において、上記アンボンド材を直線性良く貼れずに多少の歪みが生じたとしても、上記芯材の短辺方向に互いに隙間があけられて貼付されるので、上記アンボンド材同士の重なりを回避できる。これにより、上記アンボンド材の厚みが設計上の厚みと異なる箇所が生じるのを回避し、座屈拘束ブレースに設計通りの制振作用を発揮させることができる。

【0009】

また、上記アンボンド材は、上記隙間が有っても、座屈拘束ブレースに衝撃が加わった際に、上記芯材に波状の変形を可能にするクリアランスとして機能できるため、隙間がない構成とそん色ない性能を発揮することができる。また、上記衝撃によって上記芯材に波状の変形が生じるときに、上記アンボンド材が上記芯材の波状変形の頂部箇所で押されて上記隙間側に一部押し出されるので、上記隙間箇所での部材同士の摩擦が軽減されて上記芯材の変形を促すことができる。

【0010】

上記アンボンド材が、上記芯材の短辺方向の端側に位置してもよい。ここで、上記アンボンド材が、例えば、上記芯材の中央側にのみ貼り付けられた場合、その後工程として、例えば、上記アンボンド材上に上記拘束材を置く場合、この置かれた上記拘束材が天秤のように不安定になり、上記アンボンド材で確保しようとするクリアランスが設計通りの数値にならないおそれがある。これに対し、上記アンボンド材が、上記芯材の短辺方向の端側に位置することで、このようなクリアランスの問題を回避することができる。

【0011】

上記アンボンド材が、上記拘束材の短辺方向の有効幅に対して、２０％以上で９５％以下の領域を占めて貼付されてもよい。上記アンボンド材が、上記拘束材の短辺方向の有効幅に対して占める割合を少なくすれば、当該アンボンド材の使用量が減るので、低コスト化できる。

【0012】

上記芯材と上記拘束材との間に内挿板が配置されており、上記内挿板と上記芯材との間に上記アンボンド材が位置してもよい。

【発明の効果】

【0013】

本発明であれば、アンボンド材の厚みが設計上の厚みと異なる箇所が生じるのを回避し、座屈拘束ブレースに設計通りの制振作用を発揮させることができるという効果を奏する。

【図面の簡単な説明】

【0014】

【図1】実施形態の座屈拘束ブレースを示した概略の縦断面図であって、同図（Ａ）は完成状態を示し、同図（Ｂ）は分解状態を示している。

【図2】同図（Ａ）は、図１の座屈拘束ブレースを示した斜視図であり、同図（Ｂ）は芯材を示した斜視図である。

【図3】同図（Ａ）は図１の座屈拘束ブレースにおいて芯材の補剛力を拘束材および内挿板が受けとめることを示した説明図であり、同図（Ｂ）は芯材の弱軸方向の変形と補剛力との関係を示した説明図である。

【図4】テープ状のアンボンド材の拘束材への有効貼り付け長さを示す説明図である。

【図5】内挿板を備える実施形態の座屈拘束ブレースを示した分解状態の概略の縦断面図である。

【発明を実施するための形態】

【0015】

以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図１（Ａ）、図１（Ｂ）、図２（Ａ）、および図２（Ｂ）に示すように、この実施形態の座屈拘束ブレース１は、芯材１１と、拘束材１２と、アンボンド材１４、１４と、幅方向補剛材１５と、補強板１６とを備える。この実施形態では、アンボンド材１４はテープ状であるが、シート状或いは板状のアンボンド材を用いることができる。

【0016】

芯材１１は、例えば、鋼板からなり、板状部１１ａの両端に接合部１１ｂを有している。板状部１１ａは一定幅であり、これよりも両端の接合部１１ｂの方が広がった形状とされている。接合部１１ｂは、板状部１１ａの長手方向に直交する面の断面が略Ｈ形状に作製されており、この接合部１１ｂに添板を配置して他部材に接合することができる。接合部１１ｂにおけるフランジ部となる箇所およびウェブ部となる箇所には、上記接合のためのボルトが挿通される孔が形成されている。また、板状部１１ａから接合部１１ｂに至る境界領域では、板状部１１ａの幅が徐々に曲線状に広がって接合部１１ｂのウェブ部をなすように形状が変化している。

【0017】

拘束材１２は、断面が長方形の角形鋼管からなる。この角形鋼管は、上記長方形の長辺側となる第１面部と、短辺側となる第２面部とを有する。拘束材１２は、第１面部が芯材１１の板状部１１ａの弱軸方向（芯材１１の板厚方向）に直交する各面に対向して配置されている。拘束材１２の長手方向の両端部は、上記曲線状の広がり部分を越えて接合部１１ｂにおける上記ウェブ部分に至っている。また、上記角形鋼管は、その各面部の交差箇所にアール領域（曲線領域）を有する角部を有している。

【0018】

また、芯材１１の長辺方向の中央側であって短辺方向の中央側には、芯材１１の両面に突出するピン状のずれ止め突起１１ｃが設けられている。このずれ止め突起１１ｃは、拘束材１２の内側となる上記第１面部に設けられた孔に、当該座屈拘束ブレース１の組み立て時に挿入される。上記ずれ止め突起１１ｃは、鋼棒などの鋼材からなり、例えば、芯材１１に設けられた孔内に挿入して接合される。

【0019】

幅方向補剛材１５は、鋼板からなり、芯材１１の幅方向（構面内）の変形を拘束する。この幅方向補剛材１５は、拘束材１２、１２の上記第２面部間に掛け渡されており、溶接部１５ａによって拘束材１２、１２に固定されている。また、幅方向補剛材１５の端部には、当該端部側に開口を有するＵ字状のカット部１５ｂが形成されており、このカット部１５ｂ内に板状部１１ａの板状部１１ａの幅が徐々に曲線状に広がる領域が位置している。

【0020】

補強板１６は、鋼板からなり、芯材１１における接合部１１ｂのフランジ部間に渡され、当該フランジ部に溶接固定されている。補強板１６は無補剛区間（上記カット部１５ｂ）に重なるように設けられている。

【0021】

図３（Ａ）および図３（Ｂ）にも示すように、テープ状のアンボンド材１４は、芯材１１における板状部１１ａと拘束材１２との間に設けられており、このアンボンド材１４の厚みをクリアランスとして板状部１１ａが圧縮力を受けたときに波状の変形が生じるようになっている。アンボンド材１４は、例えばブチルゴムなどからなる。この実施形態では、２本のテープ状のアンボンド材１４が配置されている。テープ状のアンボンド材１４は、板状部１１ａの幅が徐々に曲線状に広がる箇所の手前位置までの長さを有すればよい。

【0022】

上記２本のテープ状のアンボンド材１４、１４は、芯材１１の短辺方向に互いに隙間Ｇを有して貼付される。また、テープ状のアンボンド材１４は、芯材１１の短辺方向の端側に位置する。

【0023】

テープ状のアンボンド材１４を例えば拘束材１２に貼り付ける場合、図４に示すように、拘束材１２の角のアール領域（水平長さＲ）に当該テープ状のアンボンド材１４の一部がかかるように貼り付けてもよい。ただし、貼り付けの有効幅は、アール領域が省かれた平板部上のＸ長さ部分となる。ここで、上記アール領域にかかるアンボンド材１４は貼り付けの有効長さに含めないため、幅Ａの拘束材１２の有効幅（平板部分の長さ（Ａ―２Ｒ））に対する２枚のアンボンド材１４の貼付幅比は、２Ｘ／（Ａ―２Ｒ）のように表される。また、テープ状のアンボンド材１４が芯材１１側に貼り付けられてもよい。この場合も、芯材１１の端から幾分離れる上記Ｘ長さ部分がアンボンド材１４の有効長さとなる。なお、片面に離型紙が貼付されたテープ状のアンボンド材１４を、他の面側で貼り付け、上記離型紙を付けたままにしておいてもよい。

【0024】

上記座屈拘束ブレース１においては、テープ状のアンボンド材１４は、拘束材１２の短辺方向の有効幅に対して、２０％以上で９５％以下の領域を占めて貼付される。すなわち、２０％≦２Ｘ／（Ａ―２Ｒ）≦９５％とされる。なお、テープ状のアンボンド材１４を３本以上としてもよく、このような構成では、隙間Ｇが２以上形成される。テープ状のアンボンド材１４が３本の場合は、上記「２Ｘ」を「３Ｘ」とする。なお、３本のテープ状のアンボンド材１４の貼り付けの有効幅が全て同じとすることに限定されるものではない。

【0025】

上記の構成であれば、テープ状のアンボンド材１４を芯材１１または拘束材１２に貼り付ける工程において、テープ状のアンボンド材１４を直線性良く貼れずに多少の歪みが生じたとしても、テープ状のアンボンド材１４は芯材１１の短辺方向に互いに隙間Ｇがあけられて貼付されるので、テープ状のアンボンド材１４同士の重なりを回避できる。これにより、アンボンド領域の厚みが設計上の厚みと異なる箇所が生じるのを回避し、座屈拘束ブレース１に設計通りの制振作用を発揮させることができる。

【0026】

テープ状のアンボンド材１４は、上記隙間Ｇが有っても、座屈拘束ブレース１に衝撃が加わった際に、芯材１１に波状の変形を可能にするクリアランスとして機能できるため、隙間Ｇがない構成とそん色ない性能を発揮することができる。なお、２枚のテープ状のアンボンド材１４を芯材１１の端側に位置させるとともにこれらの間に隙間Ｇを形成させて、２Ｘ／（Ａ―２Ｒ）＝２０％として試験をした結果、隙間Ｇがない構成とそん色ない性能（履歴曲線）が確認されており、２０％＜２Ｘ／（Ａ―２Ｒ）でも、隙間Ｇがない構成とそん色ない性能が在ると推測できる。

【0027】

また、上記衝撃によって芯材１１に波状の変形が生じるときに、テープ状のアンボンド材１４が芯材１１の波状変形の頂部箇所で押されて上記隙間Ｇ側に一部押し出されるので、上記隙間Ｇ箇所での部材同士の摩擦が軽減されて芯材１１の変形を促すことができる。なお、テープ状のアンボンド材１４の上記隙間Ｇ側への押し出しについても、試験によって確認された。

【0028】

ここで、テープ状のアンボンド材１４が、例えば、芯材１１の中央側にのみ貼り付けられた場合、その後工程として、例えば、テープ状のアンボンド材１４上に拘束材１２を置く場合、この置かれた拘束材１２が天秤のように不安定になり、アンボンド材１４で確保しようとしていたクリアランスが設計通りの数値にならないおそれがある。これに対し、テープ状のアンボンド材１４が、芯材１１の短辺方向の端側に位置すると、このような問題を回避することができる。なお、テープ状のアンボンド材１４が芯材１１の中央側にのみ貼り付けられる構造でも、芯材１１の端側に取り外し可能なスペーサを介在させて拘束材１２と幅方向補剛材１５とを溶接すれば、設計通りのクリアランスを確保することが可能である。

【0029】

また、上記のように、テープ状のアンボンド材１４は、拘束材１２の短辺方向の有効幅に対して、２０％まで削減可能であり、座屈拘束ブレース１の低コスト化が図れる。

【0030】

テープ状のアンボンド材１４は、芯材１１と拘束材１２との間に必ずしも配置されなくてもよい。図５に示す他の実施形態の座屈拘束ブレース１Ａにおいては、芯材１１と拘束材１２との間に内挿板１３が配置されており、内挿板１３と芯材１１との間にテープ状のアンボンド材１４が位置する。テープ状のアンボンド材１４は、芯材１１または内挿板１３の上記芯材１１に対向する面に貼付される。なお、内挿板１３は拘束材１２に溶接固定される。

【0031】

また、拘束材１２は鋼管に限らず、例えば、モルタル或いはコンクリートが充填された溝形鋼材等を用いることができる。また、芯材１１の接合部１１ｂは、Ｈ形に限らず、十字形等でもよい。

【0032】

以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。

【符号の説明】

【0033】

１ ：座屈拘束ブレース
１Ａ ：座屈拘束ブレース
１１ ：芯材
１１ａ ：板状部
１１ｂ ：接合部
１１ｃ ：ずれ止め突起
１２ ：拘束材
１３ ：内挿板
１４ ：アンボンド材
１５ ：幅方向補剛材
１５ａ ：溶接部
１５ｂ ：カット部
１６ ：補強板
Ｇ ：隙間

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】