IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東急建設株式会社の特許一覧 ▶ フジモリ産業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-コンクリート養生シート 図1
  • 特許-コンクリート養生シート 図2
  • 特許-コンクリート養生シート 図3
  • 特許-コンクリート養生シート 図4
  • 特許-コンクリート養生シート 図5
  • 特許-コンクリート養生シート 図6
  • 特許-コンクリート養生シート 図7
  • 特許-コンクリート養生シート 図8
  • 特許-コンクリート養生シート 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】コンクリート養生シート
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20241226BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20241226BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
E04G21/02 104
B32B5/02
B32B5/18
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020211926
(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公開番号】P2021099020
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2019231963
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 三十義
(72)【発明者】
【氏名】藤井 顕吾
(72)【発明者】
【氏名】早川 健司
(72)【発明者】
【氏名】扇畑 邦史
(72)【発明者】
【氏名】細田 優介
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-163785(JP,A)
【文献】特開2017-166279(JP,A)
【文献】特開平03-144065(JP,A)
【文献】特開平06-081458(JP,A)
【文献】特開平07-034660(JP,A)
【文献】特開2017-106319(JP,A)
【文献】特開2019-162815(JP,A)
【文献】特開2018-035657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/00-21/10
B32B 5/02
B32B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート打設用の型枠におけるコンクリート打設空間を画成する内面に設けられるコンクリート養生シートであって、
前記コンクリート打設空間に面する透水層と、
前記内面に面する不透水性の遮水層と、
自己吸水性を有して、前記透水層と遮水層の間に挟まれた保水層と、
を備え、前記透水層が、厚さ方向に通水を許容する透孔を有し、かつ前記厚さ方向と直交する面内方向には通水を阻止又は制限しており、当該コンクリート養生シートの上端部が、前記型枠の上端面から突出されて前記透水層が上へ向けられ前記遮水層が前記上端面と対面されるよう折り曲げられて前記上端面に被せられることで、散水を受ける散水受け部を構成していることを特徴とするコンクリート養生シート。
【請求項2】
前記透水層が、熱可塑性樹脂の織布又は多孔シートによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート養生シート。
【請求項3】
前記透水層と前記保水層の間又は前記保水層と前記遮水層との間には、面内方向に通水可能な排水層が介在されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート養生シート。
【請求項4】
当該コンクリート養生シートの下端部が、前記型枠の底面に沿って折り曲げられて水の排出路を構成しており、前記排出路の端面が前記型枠の外部に臨んでいることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のコンクリート養生シート。
【請求項5】
前記透水層が、前記コンクリート打設空間に打設されたコンクリートとの密着状態を前記型枠の脱型時及び脱型後も維持可能かつ前記脱型後のコンクリートから剥離可能であることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のコンクリート養生シート。
【請求項6】
前記保水層が厚さ0.1mm~3.0mm、目付50g/m~500g/m、密度0.1g/cm~1.0g/cmであり、前記遮水層の厚さが1.0mm以下であり、当該コンクリート養生シートの総厚が10mm以下であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載のコンクリート養生シート。
【請求項7】
前記遮水層が、耐候剤を含有する熱可塑性樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載のコンクリート養生シート。
【請求項8】
前記保水層が、吸水性繊維又は吸水性ポリマーを含むことを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載のコンクリート養生シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打設したコンクリートの養生に用いられる養生シートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、打設後の一定期間、湿潤状態に保持されるように養生する必要がある。乾燥すると、セメントの水和反応が進まず、品質を確保できない。そこで、養生中のコンクリートに保水層を含む養生シートを張設することが知られている(特許文献1参照)。養生シートによってコンクリートの表面が湿潤状態に保たれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-071283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲特許文献の養生シートは、打設したコンクリートが硬化して脱型した段階で貼り付けられるために、打設から脱型までの間のコンクリートの品質向上には寄与しない。例えば、打設時のフレッシュなコンクリート中の余剰水を排出するものではない。また、養生完了後、養生シートをコンクリートから剥がす際に、養生シート由来の繊維などがコンクリートの表面に残ると見栄えが悪くなる。
本発明は、かかる事情に鑑み、硬化したコンクリートの養生だけでなく、硬化前の余剰水排出などによってコンクリートの品質向上に寄与できる養生シートを提供することを主目的又は第1の目的とする。さらに最終的に剥がした後に繊維などがコンクリートの表面に残らない養生シートを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、コンクリート打設用の型枠におけるコンクリート打設空間を画成する内面に設けられるコンクリート養生シートであって、
前記コンクリート打設空間に面する透水層と、
前記内面に面する不透水性の遮水層と、
自己吸水性を有して、前記透水層と遮水層の間に挟まれた保水層と、
を備え、前記透水層が、厚さ方向に通水を許容する透孔を有し、かつ前記厚さ方向と直交する面内方向には通水を阻止又は制限することを特徴とする。
【0006】
当該コンクリート養生シートをコンクリート打設型枠の内面に張設して、コンクリート打設空間にコンクリートを打設すると、該コンクリートの余剰水が、透水層を厚さ方向へ透過し得る。かつ前記余剰水が透水層内を面内方向へ流れるのが阻止又は制限される。このため、余剰水は透水層の厚さ方向へほぼ一様に流れる。
これによって、打設時~打設直後のフレッシュなコンクリートから余剰水を確実に排出でき、コンクリートの硬化を促進できるとともに、コンクリートが緻密化され品質が高まる。透水層を透過した余剰水は、保水層に吸収されて保水される。前記面内方向への流れが阻止又は制限されることで、保水層の全域にほぼ均等に保水させることができる。保水層は自己吸水性を有しているから安定的に保水できる。更に、遮水層によって、水分の放散が防止される。
コンクリートの硬化後は、保水層に溜めた水によってコンクリートが湿潤養生される。
この結果、コンクリートの品質を向上でき、前記主目的又は第1の目的を達成できる。
【0007】
前記透水層が、熱可塑性樹脂の織布又は多孔シートによって構成されていることが好ましい。
これによって、透水層が、厚さ方向に通水を確実に許容し、かつ面内方向には通水を阻止又は制限するようにできる。さらに養生シートを剥がした後に繊維などがコンクリートの表面に残らないようにでき、前記第2の目的を達成できる。
【0008】
前記透水層と前記保水層の間又は前記保水層と前記遮水層との間には、面内方向に通水可能な排水層が介在されていることが好ましい。
これによって、前記余剰水が多過ぎて保水層が保水しきれなかった分の水は、排水層を面内方向に流れることで排出できる。
【0009】
前記コンクリート養生シートの端部が、前記型枠から突出されて、散水を受ける散水受け部を構成していることが好ましい。
コンクリートの硬化後の養生中、散水受け部に散水する。散水した水が、保水層に吸収されることで、保水層を確実に保水状態に保つことができ、コンクリートを確実に湿潤養生できる。養生シートが排水層を含む場合は、水が排水層を面内方向へ流れることによって、湛水養生並みの養生を行うことができ、コンクリートの品質を一層向上できる。
【0010】
前記透水層ひいてはコンクリート養生シートが、前記コンクリート打設空間に打設されたコンクリートとの密着状態を前記型枠の脱型時及び脱型後も維持可能かつ前記脱型後のコンクリートから剥離可能であることが好ましい。
これによって、コンクリート養生工程の途中で型枠を脱型できる。脱型時には、コンクリート養生シートと型枠とを剥離する一方で、コンクリート養生シートは、コンクリートの表面にそのまま存置できる。したがって、脱型後もコンクリート養生シートによってコンクリートを引き続き養生できる。見方を変えると、脱型を早期に行うことで工期を短縮できる。その後、任意のタイミングで、好ましくはコンクリート養生シートだけによる所要養生期間の終了後、コンクリート養生シートをコンクリートから剥離して撤去できる。
【0011】
前記保水層が厚さ0.1mm~3.0mm、目付50g/m~500g/m、密度0.1g/cm~1.0g/cmであることが好ましい。
前記遮水層の厚さが1.0mm以下であることが好ましい。
前記コンクリート養生シートの総厚が10mm以下であることが好ましい。
【0012】
前記遮水層が、耐候剤を含有する熱可塑性樹脂フィルムであることが好ましい。これによって、養生期間中の日光等によって遮水層が劣化したり変質したりするのを防止できる。
【0013】
前記保水層が、吸水性繊維又は吸水性ポリマーを含むことが好ましい。これによって、保水層の保水性を確保でき、更には吸放湿性を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、硬化前のコンクリートから万遍なく余剰水を排出でき、かつ硬化したコンクリートを万遍なく湿潤養生でき、コンクリートの品質を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るコンクリート養生シートを設けた型枠にコンクリートが打設されて養生中のコンクリート打設現場の断面図である。
図2図2は、前記コンクリート養生シートの拡大断面図である。
図3図3は、図1の円部IIIの拡大断面図である。
図4図4(a)は、前記コンクリート養生シートの透水層の一態様を示す拡大平面図である。図4(b)は、前記コンクリート養生シートの透水層の他の態様を示す拡大平面図である。
図5図5は、脱型後のコンクリート養生シートのみによる養生工程を示すコンクリート打設現場の断面図である。
図6図6は、本発明の第2実施形態に係るコンクリート養生シートの拡大断面図である。
図7図7は、前記第2実施形態に係るコンクリート養生シートを設けた型枠にコンクリートが打設されて養生中のコンクリート打設現場の断面図である。
図8図8は、図7の円部VIIIの拡大断面図である。
図9図9は、実施例2及び比較例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
<第1実施形態(図1図5)>
図1は、コンクリート打設現場を模式的に示したものである。コンクリート打設現場は、特に限定は無く、橋台、橋脚、擁壁、トンネル、ダム、ビル、その他種々のコンクリート構造物の構築現場が挙げられる。コンクリート打設現場にコンクリート打設型枠1が設置されている。該型枠1の内面1aによってコンクリート打設空間1cが画成されている。打設空間1cにコンクリート2が打設されている。
【0017】
図1に示すように、前記型枠1の内面1aには、コンクリート養生シート10が設けられている。
図2に示すように、コンクリート養生シート10は、透水層11と、保水層12と、遮水層13を含む。コンクリート打設空間1cの側から透水層11、保水層12、遮水層13の順に積層されている。各層11,12,13の厚さ方向が、層11,12,13どうしの積層方向に沿っている。透水層11と保水層12、保水層12と遮水層13は、それぞれ接着剤による接着又は融着などによって接合されている。
【0018】
図3に示すように、透水層11が、コンクリート打設空間1cに面し、コンクリート2と接している。
透水層11は、厚さ方向の通水(水の透過)を許容し、かつセメント、骨材などの固体の透過を阻止する。更に透水層11は、厚さ方向(積層方向)と直交する面内方向には通水を阻止又は制限する。すなわち、水が透水層11の内部を面内方向に流れることは殆どできない。
【0019】
具体的には、図4(a)に示すように、透水層11は、熱可塑性樹脂の繊維21からなる織布20によって構成されている。織布20の網目が、厚さ方向への通水を許容する透孔23となっている。網目すなわち透孔23の大きさは、水の透過を許容し、かつコンクリート粒子の透過を阻止する大きさであることが好ましい。
前記熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが挙げられる。
【0020】
図4(b)に示すように、透水層11が、多孔シート30によって構成されていてもよい。多孔シート30は、PP、PETなどの熱可塑性樹脂からなり、多数の小孔からなる透孔33が厚さ方向に貫通するように形成されている。透孔33が厚さ方向への通水路となる。透孔33の大きさは、水の透過を許容し、かつコンクリート粒子の透過を阻止する大きさであることが好ましい。
打設空間1cにコンクリート2が打設されることによって、透水層11がコンクリート2と密着して接合される。透水層11ひいては養生シート10は、コンクリート2との密着状態を型枠1の脱型時及び脱型後も維持可能であり(図5)、かつ脱型後のコンクリート2から強制的に剥離可能である。
【0021】
図2に示す遮水層13は、不透水性の樹脂やゴムによって構成されている。例えば、遮水層13はポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの熱可塑性樹脂フィルムによって構成されている。好ましくは、遮水層13を構成する熱可塑性樹脂フィルムは、耐候剤を含有する。より好ましくは、透水層13の材質は、耐候剤を含有する直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)である。耐候剤としては、公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤などが挙げられる。
好ましくは、遮水層13の厚さは、1.0mm以下である。遮水層13の厚さが1.0mmを越えると、コストがかかり不経済になる。
【0022】
図3に示すように、遮水層13が型枠1の内面1aに接している。
遮水層13における型枠1側の面には、型枠1に貼り付けられるための粘着層が設けられていてもよい。該粘着層は、型枠1に対して剥離可能であることが好ましい。
【0023】
図2に示すように、透水層11と遮水層13の間に保水層12が挟まれている。保水層12は、透水層11及び遮水層13より厚肉である。
保水層12は、自己吸水性を有している。自己吸水性を有するとは、保水層が水を当該保水層自身の内部に取り込む能力を有することで吸水性を発現することを言う。
保水層12としては、吸水性ポリマーが担持された不織布や、天然繊維からなる不織布が挙げられる。
吸水性ポリマーとしては、アクリル系樹脂が挙げられる。吸水性ポリマーは粒状であってもよい。
吸水性ポリマーが担持される不織布の材質としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等の化学繊維が挙げられる。
担持方法としては、2枚の不織布の間に粒状の吸水性ポリマーを挟む方法、不織布などで出来た袋に粒状の吸水性ポリマーを収容する方法、不織布などの繊維に粒状の吸水性ポリマーを融着、接着などで固定する方法などが挙げられる。
天然繊維としては綿、絹、パルプ、麻、羊毛などが挙げられる。
保水層12が、SAFなどの吸水性繊維を含んでいてもよい。
【0024】
好ましくは、保水層12の厚さは0.1mm~3.0mm、目付は50g/m~500g/m、密度は0.1g/cm~1.0g/cmである。
保水層12の厚さが0.1mm未満の場合、保水層12の吸水量が足りず保水能力が不足する。保水層12の厚さが3.0mmを越えると、コストがかかり不経済になる。
保水層12の目付が50g/m未満であると、コンクリートの打設圧で保水層12が潰れてしまい、均一な保水能力の再現ができない。また養生シート10を垂直に設置した際の保水力(保持力)が足りず保水能力が不足する。保水層12の目付が500g/mを超えると、施工性が悪くなり、型枠1の脱型後に自重で剥がれるおそれもある。
保水層12の密度が0.1g/cm未満であると、コンクリートの打設圧で保水層12が潰れてしまい、均一な保水能力の再現ができない。また養生シート10を垂直に設置した際の保水力(保持力)が足りず保水能力が不足する。保水層12の密度が1.0g/cmを越えると、ロール成形ができず生産性に劣る。
【0025】
好ましくは、コンクリート養生シート10の総厚は、10mm以下である。総厚が10mmを超えると、コンクリート構造物の形状、寸法に与える影響が大きい。
【0026】
図1に示すように、型枠1に設置された養生シート10の例えば上端部は、型枠1から突出され、散水受け部10dを構成している。好ましくは、散水受け部10dは、折り曲げられて型枠1の上端面に被せられ、ステープルや釘等の止着具(図示省略)で型枠1に止められている。散水受け部10dにおける透水層11が、散水受け部10dの外面(上面)を構成している。散水受け部10dにおける遮水層13が、型枠1の上端面と対面されている。
さらに、養生シート10の下端部が、型枠1の底面に沿って折り曲げられて、排出路10eを構成している。排出路10eの端面は型枠1の外部に臨んでいる。
【0027】
コンクリート養生シート10は次のように使用される。
型枠1の内面1aに養生シート10を貼り付け、型枠1を組み立てる。
養生シート10の上端部は、散水受け部10dとする。養生シート10の下端部は、排出路10eとする。
【0028】
次に、型枠1内の空間1cにコンクリート2を打設する。打設時のコンクリート2の水の量は、硬化に必要な量よりも多めにしておく。これによって、コンクリート2の流動性を高め、打設施工性を良好にできる。
空間1c内のコンクリート2に透水層11が接する。前記必要量を上回る余剰水は、コンクリート2から透水層11に浸み出し、透水層11を厚さ方向へ透過する。透水層11が透孔23,33を有する織布20又は多孔シート30によって構成されているために、厚さ方向の通水性を確実に確保できる。一方、透水層11内における面内方向への通水は阻止又は制限されるため、水は透水層11の厚さ方向へほぼ一様に流れる。
これによって、打設時~打設直後のフレッシュなコンクリート2から余剰水を確実に排出でき、コンクリート2の硬化を促進できるとともに、水セメント比W/Cの低下によってコンクリートが緻密化され品質が高まる。
コンクリート2におけるセメントや骨材などの固体成分は透水層11を透過できず、流出を阻止できる。
【0029】
透水層11を厚さ方向に透過した余剰水は、保水層12に吸収されて保水される。透水層11における面内方向への水の流れは阻止又は制限されるから、保水層12の全域に万遍なく保水させることができる。例えば型枠1及び養生シート10が鉛直に配置されている場合、余剰水が重力で透水層11内を下降するように流れるのを阻止できる。このため、保水層12の下側部分に保水が集中するのを防止でき、保水層12の上側部分における保水量が不足しないようにできる。
しかも、保水層12は自己吸水性を有しているから安定的に保水できる。例えば保水層12の上側部分で吸収した水が重力などで下降することが無い。したがって、保水層12の上側部分でも下側部分でも均等に保水できる。更に、遮水層13によって、水分の放散を防止できる。
【0030】
コンクリート2の硬化後、更に一定期間、品質確保のため養生を行う。
養生期間中、保水層12の水分が透水層11を厚さ方向に透過してコンクリート2に供給され得る。これによって、コンクリート2を湿潤状態に保つことができ、品質を向上できる。保水層12の全域で均等に保水されているから、コンクリート2を偏り無く湿潤養生できる。
さらに養生期間中、型枠1上の散水受け部10dに散水してもよい(第2実施形態参照)。
【0031】
前記コンクリート2の硬化後、養生期間の途中で型枠1を脱型してもよい。このとき、散水受け部10dと型枠1との前記止着具(図示省略)を外し、養生シート10と型枠1とを剥離して、型枠1を撤去する一方、図5に示すように、養生シート10は、コンクリート2の表面にそのまま存置する。これによって、脱型後もコンクリート2を引き続き養生できる。見方を変えると、脱型を早期に行うことができる。ひいては、前述した余剰水排出による硬化促進と相俟って、工期を短縮することができる。
脱型後においても、保水層12の保水によってコンクリート2を湿潤養生できる。この結果、コンクリート2の品質を十分に向上させることができる。
【0032】
その後、任意のタイミングで、好ましくは養生シート10だけによる所要養生期間の終了後、養生シート10をコンクリート2から剥がす。養生シート10におけるコンクリート2との接触面が、熱可塑性樹脂繊維製織布又は多孔樹脂シートからなる透水層11によって構成されているために、きれいに剥がすことができる。例えば、コンクリート2の表面に養生シート由来の繊維が残るのを防止できる。したがって、コンクリート2の表面をきれいに仕上げることができる。
【0033】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては図面に同一符号を付して説明を省略する。
<第2実施形態(図6図8)>
図6に示すように、第2実施形態に係るコンクリート養生シート10Bにおいては、透水層11と保水層12の間に排水層14が介在されている。
排水層14は、例えば不織布やスポンジ状の連続気孔の多孔質樹脂によって構成されている。排水層14は、面内方向(層11~14どうしの積層方向と直交する方向)に通水可能である。すなわち、排水層14は、水が当該排水層12の内部を面内方向に流れるのを許容する。少なくとも排水層14は、透水層11よりも面内方向への通水性が高い。
排水層14の厚さは、透水層11及び遮水層13より大きい。
【0034】
第2実施形態においては、コンクリート2の打設時の余剰水が多過ぎて保水層12が保水しきれなかった分の水は、排水層14を面内方向に伝って、例えば排出路10eから外部へ排出できる。
さらに、図7に示すように、コンクリート2の硬化後の養生中、継続して又は適宜、散水受け部10dに散水する。具体的には、例えば散水ノズル3をコンクリート打設型枠1の上方に設置する。該散水ノズル3から水wを散水受け部10dに供給する。
散水は、継続して行ってもよく、断続して定期的又は不定期に行ってもよい。
【0035】
図8の矢印付き太線に示すように、散水ノズル3からの水wは、散水受け部10dから排水層14内を面内方向に伝わることで、養生シート10Bの広範囲に行きわたりながら、一部Waが透水層11を介してコンクリート2に供給される。また、水wの他の一部Wbは、保水層12に吸収されることで、保水層12が保水状態に保たれる。これによって、コンクリート2を安定的に湿潤養生できる。更には湛水養生並みの養生を行うことができる。この結果、コンクリート2を確実に高品質にすることができる。
前記散水した水Wのうち、保水層12などに吸収されなかった水は、排出路10e(図7)から排水される。
【0036】
脱型後においても、養生シート10Bを存置して更に養生する。養生シート10Bだけによる養生期間中、保水層12の保水によってコンクリート2を湿潤養生できる。更には脱型後も、適宜、散水受け部10dに散水する。そうすることで、脱型後においても、コンクリート2を確実に湿潤養生でき、更には湛水養生に近い状態で養生できる。
この結果、コンクリート2の品質を十分に向上させることができる。
【0037】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、散水受け部10d又は排出路10eを省いてもよい。
排水層14が、透水層11と保水層12の間に代えて、保水層12と遮水層13との間に設けられていてもよい。排水層14が、透水層11と保水層12の間、及び保水層12と遮水層13との間に設けられていてもよい。
本発明は場所打ちコンクリートに限らず、プレキャストコンクリートの生産にも適用できる。
【実施例1】
【0038】
実施例を説明する。本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1として、養生シートの保水層のサンプルを複数作成した。保水層における高吸水性繊維(SAF)の含有量は、母材繊維(PE/PET)に対する重量比で、サンプルごとに0%、10%、15%、50%であった。
各サンプルの幅(短手側寸法)は、200mmであった。
各サンプルの長さ(長手側寸法)は、100mmであった。
各サンプルの厚みは、0.8mm~2.0mmであった。
各サンプルを2枚の透明アクリル板で挟んでクランプした。各サンプルの幅方向の両端部にはパッキンを設けて止水した。
各サンプルの長手方向を鉛直に立てて設置し、かつ上端部からサンプル内に給水を行った。
【0039】
SAF0%、10%、15%の各サンプルは、給水期間中、水がサンプルの下端まで達して漏れ出ており、保水層の全域に水が行き渡ったことが確認された。
SAF50%のサンプルは、上下方向の中間部まで吸水したが、そこから下側へは吸水が進まなかった。膨潤によって止水されたものと考えられた。
給水終了時から一定時間経過後のサンプルの水分保持率は、SAFの含有量に概ね対応していた。
【実施例2】
【0040】
実施例2として、第1実施形態(図2)と実質的に同様の構造のコンクリート養生シートのサンプルを複数用意した。
保水層における高吸水性繊維(SAF)の含有量は、母材繊維(PE/PET)に対する重量比で、サンプルごとに0%、15%であった。
以下、SAF0%のサンプルの実施例を「実施例2A」とし、SAF15%のサンプルの実施例を「実施例2B」とする。
各サンプルの透水層としては、フジモリ産業株式会社製の透水性樹脂シート(商品名「フィルターシートタフ」)の透水層を用いた。
これらサンプルをそれぞれ型枠1の内面1aに張り、コンクリート打設空間1cにコンクリート2を打設した。そして、コンクリート2が硬化するまで養生した。
【0041】
更に、養生シート無し(型枠のみ)の場合を比較例Aとし、前記透水性樹脂シート「フィルターシートタフ」からなる透水層のみを養生シートとした場合を比較例Bとして、それぞれ前記実施例2A,2Bの実行と併行して、前記実施例2A,2Bと同じ組成のコンクリートを打設し、同一条件で養生を行った。
【0042】
実施例2A,2B及び比較例A,Bの養生日数は、7日であった。
実施例2A,2B及び比較例A,B共に、養生期間中のコンクリートへの給水及び養生シートへの散水(第2実施形態参照)は行わなかった。
【0043】
養生後の各コンクリートについて、表層透気試験(トレント法)により表層透気係数を測定した。測定結果を図9に示す。同図から明らかな通り、実施例2A,2Bによれば、表層透気係数を比較例A,Bよりも低くでき、具体的には0.01×10-16以下にすることができた。したがって、本発明によれば、コンクリート表面を緻密化でき、良好なコンクリートが得られることが確認された。養生シートがSAFその他の保水層を有することで、養生効果が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、例えば橋脚、擁壁、トンネル、ビルなどのコンクリート構造物におけるコンクリートの養生施工に適用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 コンクリート打設型枠(型枠)
1a 内面
1c コンクリート打設空間
2 コンクリート
3 散水ノズル
10,10B コンクリート養生シート
10d 散水受け部
10e 排出路
11 透水層
12 保水層
13 遮水層
14 排水層
20 織布
23 網目(透孔)
30 多孔シート
33 透孔
w 水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9