(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】コンクリート打設方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20241226BHJP
C04B 7/02 20060101ALI20241226BHJP
C04B 28/04 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
E04G21/02 101
C04B7/02
C04B28/04
(21)【出願番号】P 2021060355
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2024-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105843
【氏名又は名称】神保 泰三
(72)【発明者】
【氏名】有馬 冬樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 尚子
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-218588(JP,A)
【文献】特開2015-058684(JP,A)
【文献】特開平11-217934(JP,A)
【文献】特開2011-213513(JP,A)
【文献】特開2019-065512(JP,A)
【文献】特開2007-107186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
C04B 7/02
C04B 28/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床となる打設工区に、フレッシュコンクリートを複数回に分けて打設するコンクリート打設方法であって、フレッシュコンクリートの普通ポルトランドセメントと早強ポルトランドセメントの配合における早強ポルトランドセメントの配合割合を、後に打設するフレッシュコンクリートほど多くすることを特徴とするコンクリート打設方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート打設方法において、最初に打設するフレッシュコンクリートを普通ポルトランドセメントのみとすることを特徴とするコンクリート打設方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のコンクリート打設方法において、最後に打設するフレッシュコンクリートを早強ポルトランドセメントのみとすることを特徴とするコンクリート打設方法。
【請求項4】
請求項1に記載のコンクリート打設方法において、打設する全てのフレッシュコンクリートに早強ポルトランドセメントを配合することを特徴とするコンクリート打設方法。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のコンクリート打設方法において、第1の気温で複数回打設するフレッシュコンクリートの早強ポルトランドセメントの配合割合の上昇率よりも、第1の気温よりも低い第2の気温では、早強ポルトランドセメントの配合割合の上昇率を高くすることを特徴とするコンクリート打設方法。
【請求項6】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のコンクリート打設方法において、第1の気温で複数回打設するフレッシュコンクリートの早強ポルトランドセメントの配合割合の上昇率と、第1の気温よりも低い第2の気温で複数回打設するフレッシュコンクリートの早強ポルトランドセメントの配合割合の上昇率と、を同じとし、上記第2の気温での最初の早強ポルトランドセメントの配合割合を上記第1の気温での最初の早強ポルトランドセメントの配合割合よりも高くすることを特徴とするコンクリート打設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、異なる性状のセメントを配合して生成されたフレッシュコンクリートを用いるコンクリート打設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土間コンクリート等の作製には、普通ポルトランドセメントを配合したコンクリートが用いられている。また、普通ポルトランドセメントよりも早期に強度を発現できる早強ポルトランドセメントが使用されることもある。
【0003】
なお、特許文献1には、普通セメントと早強セメントとを配合したセメントを主成分とする配合材料に水を加えて混練する第一工程と、混練後の配合材料を賦型してグリーンシートを成形する第二工程と、グリーンシートを養生硬化する第三工程とを有するセメント成形品の製造方法であって、グリーンシートの温度が低くなると、第一工程の配合材料において、普通セメントに対して早強セメントの配合割合を多くし、グリーンシートの温度が高くなると、普通セメントに対して早強セメントの配合割合を少なくするセメント成形品の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、セメントと軽量骨材と水とが混練されてなり、上記セメントが普通ポルトランドセメントと早強ポルトランドセメントとから構成されるセメント混練物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-588684号公報
【文献】特許第6579444号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、普通ポルトランドセメントを使用したコンクリートの場合、冬期では、床の仕上げ完了が深夜になることがある。この場合、職人方を休ませるために、次回の打設まで、最低、中1日開けることが行われる。一方、連日の打設が求められる場合、隊を複数班に分けて対応する方法が考えられるが、打設工区が広ければ(例えば、1000平米規模)、人数的な制約から複数班を構成できなくなり、連日の打設は行えなくなる。
【0007】
一方、冬期における仕上げ時間の短縮のためには、早強ポルトランドセメントが有用であるが、価格が割高であり、材料コストが上昇する欠点がある。また、硬化に伴う水和熱の上昇幅も高いため、気温との差が顕著となり、温度応力に起因する温度ひび割れを発生するリスクが増大する欠点もある。なお、コンクリートの硬化を早める混和材料として早強性膨張材があるが、これも材料が高価であり、また、添加量が設定されていて硬化時間の調整が困難であり、また、フレッシュコンクリート工場に常備されていない混和材料のため、使い勝手が良くない。
【0008】
この発明は、冬期のコンクリートの仕上げ完了を、使用するセメント材料のコスト上昇を抑えつつ、早めることができ、温度ひび割れの発生リスクを抑えることができるコンクリート打設方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のコンクリート打設方法は、打設工区に、フレッシュコンクリートを複数回に分けて打設するコンクリート打設方法であって、フレッシュコンクリートの普通ポルトランドセメントと早強ポルトランドセメントの配合における早強ポルトランドセメントの配合割合を、後に打設するフレッシュコンクリートほど多くすることを特徴とする。
【0010】
上記の方法であれば、後に打設するフレッシュコンクリートほど、打設時点からの仕上げ時期が早まることになり、最初に打設されたフレッシュコンクリートの仕上げ時期に、後に打設されたフレッシュコンクリートの仕上げ時期を近づけることができる。これにより、全てのフレッシュコンクリートを早強ポルトランドセメントとすることによる材料コストの上昇を抑えつつ、冬期において仕上げ作業が深夜に及ばないようにして、連日の打設を可能にすることができる。
【0011】
上記コンクリート打設方法において、最初に打設するフレッシュコンクリートを普通ポルトランドセメントのみとしてもよい。また、上記コンクリート打設方法において、最後に打設するフレッシュコンクリートを早強ポルトランドセメントのみとしてもよい。
【0012】
また、上記コンクリート打設方法において、打設する全てのフレッシュコンクリートに早強ポルトランドセメントが配合されていてもよい。
【0013】
また、上記コンクリート打設方法において、第1の気温で複数回打設するフレッシュコンクリートの早強ポルトランドセメントの配合割合の上昇率よりも、第1の気温よりも低い第2の気温では、早強ポルトランドセメントの配合割合の上昇率を高くしてもよい。
【0014】
また、上記コンクリート打設方法において、第1の気温で複数回打設するフレッシュコンクリートの早強ポルトランドセメントの配合割合の上昇率と、第1の気温よりも低い第2の気温で複数回打設するフレッシュコンクリートの早強ポルトランドセメントの配合割合の上昇率と、を同じとし、上記第2の気温での最初の早強ポルトランドセメントの配合割合を上記第1の気温での最初の早強ポルトランドセメントの配合割合よりも高くしてもよい。
【0015】
また、コンクリート打設方法は、打設工区に、フレッシュコンクリートを複数回に分けて打設するコンクリート打設方法であって、フレッシュコンクリートの普通ポルトランドセメントと早強ポルトランドセメントの配合における早強ポルトランドセメントの配合割合を、一定とすることを特徴とする。これによれば、硬化に伴う水和熱の上昇幅を低くでき、温度ひび割れを発生するリスクを抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明であれば、全てのフレッシュコンクリートを早強ポルトランドセメントとすることによる材料コストの上昇を抑えつつ、冬期において仕上げ作業が深夜に及ばないようにして、連日の打設を可能にできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態にかかるコンクリート打設方法を示した説明図である。
【
図2】他の実施形態にかかるコンクリート打設方法を示した説明図である。
【
図3】実施形態を示すグラフであって、異なる配合割合の各フレッシュコンクリートについて、注水からの時間経過に対する貫入抵抗値の変化を示したグラフである。
【
図4】実施形態にかかるコンクリート打設方法であって、打設現場の気温に合わせて早強ポルトランドセメントの配合割合の上昇率を変化させることを示したグラフである。
【
図5】実施形態にかかるコンクリート打設方法であって、早強ポルトランドセメントの配合割合の上昇率を変えずに、打設現場の気温が低い場合において最初のフレッシュコンクリートの早強ポルトランドの配合割合を増やすことを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の一態様に係る実施形態を添付図面に基づいて説明する。
実施形態にかかるコンクリート打設方法は、
図1に示すように、打設工区1(例えば、広さ1200m
2)に、フレッシュコンクリート2を、複数回(例えば、3回)に分けて打設する。そして、フレッシュコンクリート2の普通ポルトランドセメント(N)と早強ポルトランドセメント(H)の配合における早強ポルトランドセメント(H)の配合割合を、後に打設するフレッシュコンクリート2ほど多くする。
図1に示す例では、朝に打設する部位(400m
2)の普通ポルトランドセメント(N)と早強ポルトランドセメント(H)の配合比(重量比)を、N:H=10:0とし、昼に打設する部位(400m
2)の普通ポルトランドセメント(N)と早強ポルトランドセメント(H)の配合比を、N:H=5:5とし、昼過ぎに打設する部位(400m
2)の普通ポルトランドセメント(N)と早強ポルトランドセメント(H)の配合比を、N:H=0:10とした。
【0019】
上記の方法であれば、後に打設するフレッシュコンクリート2ほど、打設時点からの仕上げ時期が早まることになり、最初に打設されたフレッシュコンクリート2の仕上げ時期に、後に打設されたフレッシュコンクリート2の仕上げ時期を近づけることができる。これにより、全てのフレッシュコンクリート2を早強ポルトランドセメント(H)とすることによる材料コスト上昇を抑えつつ、冬期において仕上げ作業が深夜に及ばないようにして、連日の打設を可能にすることができる。また、仕上げ作業で用いるトローウェル等の作業機器類による深夜騒音の対策になり、また、燃料節約も可能になる。なお、上記方法であれば、最初に打設するフレッシュコンクリート2は、普通ポルトランドセメント(N)のみとなり、最後に打設するフレッシュコンクリート2は、早強ポルトランドセメント(H)のみとなる。全ての打設で早強ポルトランドセメント(H)を100%とする場合に比べて、早強ポルトランドセメント(H)の量は1/2となる。
【0020】
複数回打設するフレッシュコンクリート2の早強ポルトランドセメント(H)の配合比は、上記の配合比に限らない。
図2に示すように、打設工区1(例えば、広さ1200m
2)に、フレッシュコンクリート2を、複数回(例えば、3回)に分けて打設することにおいて、朝に打設する部位(400m
2)の普通ポルトランドセメント(N)と早強ポルトランドセメント(H)の配合比(重量比)を、N:H=7:3とし、昼に打設する部位(400m
2)の普通ポルトランドセメント(N)と早強ポルトランドセメント(H)の配合比を、N:H=5:5とし、昼過ぎに打設する部位(400m
2)の普通ポルトランドセメント(N)と早強ポルトランドセメント(H)の配合比をN:H=3:7としてもよい。
【0021】
図2に示した配合変化例では、打設する全てのフレッシュコンクリート2に早強ポルトランドセメント(H)が配合される。このようにすると、打設部位間での普通ポルトランドセメント(N)に対する早強ポルトランドセメント(H)の配合割合の変化量が小さくなり、打設部位間でのコンクリートの性質の変化も小さくなりうる。
【0022】
図3は、異なる5種の配合割合のフレッシュコンクリートの各々について、注水からの時間経過に対する貫入抵抗値(N/mm
2)の変化を示したグラフである(JIS A 1147:2019 コンクリートの凝結時間試験方法による試験結果である)。この時の気温(室温)は、20℃であった。上記5種は、普通ポルトランドセメント(N)と早強ポルトランドセメント(H)の配合比がN:H=10:0と、普通ポルトランドセメント(N)と早強ポルトランドセメント(H)の配合比がN:H=7:3と、普通ポルトランドセメント(N)と早強ポルトランドセメント(H)の配合比がN:H=5:5と、普通ポルトランドセメント(N)と早強ポルトランドセメント(H)の配合比がN:H=3:7と、普通ポルトランドセメント(N)と早強ポルトランドセメント(H)の配合比がN:H=0:10である。
【0023】
図3から分かるように、上記5種の配合割合のフレッシュコンクリートについて、凝結の始発(3.5N/mm
2)および終結(28.0N/mm
2)について配合割合順に従った差異がみられた。すなわち、本発明であれば、後に打設するフレッシュコンクリート2ほど、打設時点からの仕上げ時期を早め、最初に打設されたフレッシュコンクリート2の仕上げ時期に、後に打設されたフレッシュコンクリート2の仕上げ時期を近づけることができる。
【0024】
また、上記コンクリート打設方法において、第1の気温で複数回打設するフレッシュコンクリート2の早強ポルトランドセメント(H)の配合割合の上昇率よりも、第1の気温(打設現場気温)よりも低い第2の気温(打設現場気温)では、早強ポルトランドセメント(H)の配合割合の上昇率を高くしてもよい。例えば、
図4に示すように、第1の気温では、早強ポルトランドセメント(H)の配合割合を、朝の打設において0%、昼の打設において35%、昼過ぎの打設において70%のように上昇させる一方、第2の気温では、早強ポルトランドセメント(H)の配合割合を、朝の打設において0%、昼の打設において50%、昼過ぎの打設において100%のように上昇させる。
【0025】
また、上記コンクリート打設方法において、第1の気温で複数回打設するフレッシュコンクリート2の早強ポルトランドセメント(H)の配合割合の上昇率と、第1の気温よりも低い第2の気温で複数回打設するフレッシュコンクリートの早強ポルトランドセメント(H)の配合割合の上昇率と、を同じとし、上記第2の気温での最初の早強ポルトランドセメント(H)の配合割合を、上記第1の気温での最初の早強ポルトランドセメント(H)の配合割合よりも高くしてもよい。例えば、
図5に示すように、第1の気温では、早強ポルトランドセメント(H)の配合割合を、朝の打設において0%、昼の打設において20%、昼過ぎの打設において70%のように上昇させる。一方、第2の気温では、早強ポルトランドセメント(H)の配合割合を、朝の打設において30%、昼の打設において50%、昼過ぎの打設において100%のように上昇させる。
【0026】
上記コンクリート打設方法における普通ポルトランドセメント(N)と早強ポルトランドセメント(H)の配合比、およびこの配合比を変化させることは、上記の現場気温に基づく方法に限らず、打設工区の任意の部位におけるフレッシュコンクリート温度を測定し、この温度に基づいて行ってもよいし、コンクリートの貫入抵抗値を測定し、この測定結果基づいて行ってもよいし、時間当たりのコンクリート打設数量、打設隊の人員数を考慮して行ってもよい。
【0027】
また、フレッシュコンクリートには、適宜、混和材料(例えば、水和熱抑制型膨張材)が添加されてもよい。また、富調合の普通ポルトランドセメント(N)の一部あるいは全部を、中庸熱ポルトランドセメント(M)や低熱ポルトランドセメント(L)としてもよい。また、早強ポルトランドセメント(H)には、早強ポルトランドセメント(低アルカリ形)(HL)、超早強ポルトランドセメント(UH)および超早強ポルトランドセメント(低アルカリ形)(UHL)が含まれる。
【0028】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 :打設工区
2 :フレッシュコンクリート