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特許7611090撹拌機、溶融塩電解装置及び、金属箔の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】撹拌機、溶融塩電解装置及び、金属箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/00 20060101AFI20241226BHJP
   C25C 3/00 20060101ALI20241226BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C25C7/00 302
C25C3/00
C25C7/06 302
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021125443
(22)【出願日】2021-07-30
(65)【公開番号】P2023020195
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金子 拓実
(72)【発明者】
【氏名】中條 雄太
(72)【発明者】
【氏名】山本 仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/048022(WO,A1)
【文献】特開2010-222598(JP,A)
【文献】特開2022-183912(JP,A)
【文献】特開平7-48687(JP,A)
【文献】特開2000-292593(JP,A)
【文献】米国特許第6245201(US,B1)
【文献】実開昭51-133311(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00- 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽内で電極を浸漬させた溶融塩浴の撹拌に使用される撹拌機であって、
回転方向に間隔をおいて設けた複数枚の羽根部を有し、溶融塩浴中に浸漬させるインペラーと、
溶融塩浴の外部の駆動源から前記インペラーに回転駆動力を伝達する回転軸部と、
回転軸部の周囲を取り囲む軸スリーブと、
内部にインペラーが収容されたインペラーケースと、
インペラーケースに回転軸部の軸方向の外側から接続され、溶融塩浴の溶融塩をインペラーケース内に導く吸引筒部と、
インペラーの外周側でインペラーケースに接続され、インペラーケース内から溶融塩を排出させる排出筒部と
を備え、
前記吸引筒部が、電解槽内で前記電極の電極間スペースに向けて開口する吸引開口部を有する撹拌機。
【請求項2】
前記排出筒部が排出開口部を有し、
前記吸引開口部が、前記電極の一端部側に位置し、前記排出開口部が、前記電極の前記一端部と前記電極間スペースを隔てて反対側である他端部側に位置する請求項1に記載の撹拌機。
【請求項3】
前記排出開口部が、前記電極の前記他端部側で前記電極間スペースに向けて開口してなる請求項2に記載の撹拌機。
【請求項4】
電極が籠状容器を含み、
前記排出開口部が、前記電極の前記他端部側で前記籠状容器の側壁部に向けて開口してなる請求項2に記載の撹拌機。
【請求項5】
前記吸引筒部が、前記吸引開口部と前記インペラーケースとを連結する吸引本体部を有し、
前記吸引開口部の少なくとも一部が、前記吸引本体部の内径よりも大きな内径を有する請求項1~4のいずれか一項に記載の撹拌機。
【請求項6】
前記吸引開口部の少なくとも一部が、前記電極間スペース側の開口端面に向かうに従って漸増する内径を有する請求項1~5のいずれか一項に記載の撹拌機。
【請求項7】
前記軸スリーブの、前記インペラーケースに連結されるスリーブ端部に、前記回転軸部を回転可能に保持する軸受部が設けられるとともに、前記軸受部の周囲で当該軸受部よりも軸方向の内側に延びる少なくとも一箇所の貫通孔が形成されてなる請求項1~6のいずれか一項に記載の撹拌機。
【請求項8】
内部に溶融塩を貯留させて溶融塩浴とする電解槽と、電解槽内で溶融塩浴に浸漬されて配置される電極と、請求項1~7のいずれか一項に記載の撹拌機とを備える溶融塩電解装置。
【請求項9】
前記電極が、陽極、及び、前記陽極に対向して位置して回転軸周りに回転可能なドラム型の陰極を有する請求項8に記載の溶融塩電解装置。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の溶融塩電解装置を用いて、電極上に金属を析出させることを含む、金属箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電解槽内で電極を浸漬させた溶融塩浴の撹拌に使用される撹拌機、溶融塩電解装置及び、金属箔の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周期表の第四族元素に属する金属としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等がある。なかでもチタンは、高強度や耐食性等の優れた特性の故に、様々な分野の製品に使用される。
【0003】
そのような金属を製造するには、箔状のものを比較的低コストで得るため、溶融塩電解が採用されることがある。溶融塩電解では、電解槽内で溶融塩浴に浸漬させた電極に電圧を印加し、溶融塩浴中の金属イオンを電極上に箔状に析出させる。これを電極から剥離させることで、箔状の当該金属を製造することができる。
【0004】
溶融塩電解に関連して、特許文献1には、「槽内に低温部と高温部とが設けられ、電解浴が上記各部に於て夫々閉ループを形成して還流を生ずるようになされると共に、更に上記電解浴が上記低温部及び高温部間を循環するようになされて連続的に電解が継続されるようにした電解槽」が提案されている。この特許文献1では、「攪拌手段としては、2個以上の例えばプロペラスクリユウ、ヘリカルスクリユウの如き回転翼機構」を用いることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭51-38242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電解槽内の溶融塩浴では、金属イオン濃度が不均一になる場合があることが新たにわかった。溶融塩浴の金属イオン濃度が不均一な状態で溶融塩電解を行うと、溶融塩浴中にて電極の表面に析出する金属の平滑性が損なわれたり、電極に電着した金属を当該電極から剥離させることが困難になったりすることが懸念される。特許文献1では、溶融塩浴の全体を撹拌しようとするものであると思われ、上記のような電極上での金属の析出形態の問題に対して何ら着目されていない。
【0007】
この発明の目的は、溶融塩浴中に浸漬させた電極に金属を良好に析出させることができる撹拌機、溶融塩電解装置及び、金属箔の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は鋭意検討の結果、溶融塩浴に浸漬させた電極の電極間スペースでの金属イオン濃度を均一にすることが、電極への金属の良好な析出に有効であることを着想するに至った。その上で、発明者は、溶融塩浴の撹拌に使用する撹拌機で溶融塩をインペラーケース内に導く吸引筒部に、電極間スペースに向けて開口する吸引開口部を設けることを案出した。これにより、電極間スペースの溶融塩を吸引すると、適切な浴流れが生じて電極間スペースの金属イオン濃度が均一になると思われ、電極に金属を良好に析出させることができる。
【0009】
この発明の撹拌機は、電解槽内で電極を浸漬させた溶融塩浴の撹拌に使用されるものであって、回転方向に間隔をおいて設けた複数枚の羽根部を有し、溶融塩浴中に浸漬させるインペラーと、溶融塩浴の外部の駆動源から前記インペラーに回転駆動力を伝達する回転軸部と、回転軸部の周囲を取り囲む軸スリーブと、内部にインペラーが収容されたインペラーケースと、インペラーケースに回転軸部の軸方向の外側から接続され、溶融塩浴の溶融塩をインペラーケース内に導く吸引筒部と、インペラーの外周側でインペラーケースに接続され、インペラーケース内から溶融塩を排出させる排出筒部とを備え、前記吸引筒部が、電解槽内で前記電極の電極間スペースに向けて開口する吸引開口部を有するものである。
【0010】
上記の撹拌機は、前記排出筒部が排出開口部を有し、前記吸引開口部が、前記電極の一端部側に位置し、前記排出開口部が、前記電極の前記一端部と前記電極間スペースを隔てて反対側である他端部側に位置することが好ましい。
【0011】
この場合、前記排出開口部が、前記電極の前記他端部側で前記電極間スペースに向けて開口していることが好ましい。
【0012】
また、電極が籠状容器を含む場合、前記排出開口部が、前記電極の前記他端部側で前記籠状容器の側壁部に向けて開口していることが好ましい。
【0013】
上記の撹拌機では、前記吸引筒部が、前記吸引開口部と前記インペラーケースとを連結する吸引本体部を有し、前記吸引開口部の少なくとも一部が、前記吸引本体部の内径よりも大きな内径を有することが好ましい。
【0014】
また、前記吸引開口部の少なくとも一部が、前記電極間スペース側の開口端面に向かうに従って漸増する内径を有することが好ましい。
【0015】
上記の撹拌機は、前記軸スリーブの、前記インペラーケースに連結されるスリーブ端部に、前記回転軸部を回転可能に保持する軸受部が設けられるとともに、前記軸受部の周囲で当該軸受部よりも軸方向の内側に延びる少なくとも一箇所の貫通孔が形成されたものとすることができる。
【0016】
この発明の溶融塩電解装置は、内部に溶融塩を貯留させて溶融塩浴とする電解槽と、電解槽内で溶融塩浴に浸漬されて配置される電極と、上記のいずれかの撹拌機とを備えるものである。
【0017】
上記の溶融塩電解装置では、前記電極が、陽極、及び、前記陽極に対向して位置して回転軸周りに回転可能なドラム型の陰極を有する場合がある。
【0018】
この発明の金属箔の製造方法は、上記のいずれかの溶融塩電解装置を用いて、電極上に金属を析出させることを含むものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明の撹拌機、溶融塩電解装置、金属箔の製造方法によれば、溶融塩浴中に浸漬させた電極に金属を良好に析出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の一の実施形態の撹拌機を、溶融塩電解装置とともに示す断面図である。
図2図1の撹拌機を示す、回転軸部の軸方向に沿う断面図である。
図3】他の実施形態の撹拌機を、電極とともに示す断面図である。
図4】さらに他の実施形態の撹拌機を、電極の他の例とともに示す断面図である。
図5】電極のさらに他の例を模式的に示す斜視図である。
図6図1の撹拌機が備えるインペラーを示す底面図(図6(a))及び、その底面図(図6(a))におけるVI-VI線に沿う断面図(図6(b))である。
図7図1の撹拌機が備える軸スリーブのスリーブ端部を示す、軸方向に沿う断面図(図7(a))及び、その断面図(図7(a))におけるVII-VII線に沿う断面図(図7(b))である。
図8図1の撹拌機が備えるインペラーケースを示す、軸方向に沿う断面図(図8(a))及び、その断面図(図8(a))におけるVIII-VIII線に沿う断面図(図8(b))である。
図9】剥離試験を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。図面では、発明に含まれる実施形態等の理解を容易にするために概略的に示した箇所もあり、図示の各部材の大きさや相互の位置関係等については必ずしも正確でない場合がある。
【0022】
図1に一例として示す撹拌機1は、たとえば図示のような溶融塩電解装置51にて、溶融塩浴Bmの撹拌に使用されるものである。この溶融塩浴Bmには、電源に接続された陽極54a及び陰極54bを含む電極54が浸漬されて配置されている。なお、電極54の浸漬は一部であっても構わない。すなわち、電極54は金属の析出が可能であるように配置されればよい。
【0023】
溶融塩電解装置51は、より詳細には、溶融塩浴Bmを貯留させる容器状の電解槽52と、電解槽52の周囲に配置されたヒータ53と、電解槽52内の溶融塩浴Bm中に浸漬させる陽極54a及び陰極54bを含む電極54とを備える。溶融塩電解装置51はさらに、図示は省略するが、電解槽52の上方側の開口部を覆うように配置することができる蓋体を備えることがある。また、溶融塩浴Bmの浴面の上側にアルゴンガス等の不活性ガスの導入口や排気口を備えることがある。
【0024】
溶融塩電解装置51を用いた溶融塩電解では、電解条件を適切に制御し、第四族元素(チタン、ジルコニウム、ハフニウム)から選択される少なくとも一種の金属を陰極54b上に箔状に電析させることができる。具体的には、溶融塩浴Bmの温度を、たとえば450℃以上に維持し、溶融塩浴Bm中に浸漬させた電極54間に電圧を印加して、電気分解を行う。それにより、陰極54b上に、第四族元素から選択される少なくとも一種を含む金属が析出する。チタンイオンを含む溶融塩浴Bmでは、陰極54bの表面に、チタン又はチタン合金等のチタンを含む金属が析出する。その結果、溶融塩浴Bmで電極54を用いた電気分解により、第四族元素から選択される少なくとも一種を含む金属箔を製造することができる。なお、溶融塩浴Bmの温度は、溶融塩浴に含まれる成分の融点や共晶点等を参考として適宜設定すればよい。
【0025】
溶融塩浴Bmには、ハロゲン化アルカリ金属及び/又はハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化アルミニウムを含ませることがある。なかでも、溶融塩浴Bmは、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、フッ化マグネシウム(MgF2)、及びフッ化カルシウム(CaF2)、からなる群から選択される少なくとも一種等を含むことが好ましい。
【0026】
溶融塩電解の間、溶融塩浴Bmは、継続的に又は任意の時期に断続的に撹拌することが望ましい。但し、溶融塩浴Bmには、一般的な撹拌機を用いることが困難である。その理由は次のとおりである。溶融塩浴Bmは、比較的高温に維持されるが、溶融塩の融点や共晶点に近い温度では粘度が高くなる。これにより、撹拌機の羽根部は、溶融塩から大きな抵抗力が作用し得る。また、溶融塩浴Bmを塩化物やフッ化物を使用して形成した場合、溶融塩は腐食性が強いことがある。その上、溶融塩浴Bmの溶融塩は、高温時に濡れ性が高く溶融塩が撹拌機の種々の部位に浸入し、また温度が低下すると固体になって体積が変化する。
【0027】
このような溶融塩浴Bmを有効に撹拌するため、この実施形態の撹拌機1は、図1図2図6~8に示すように、回転方向に間隔をおいて設けた複数枚の羽根部2aを有するインペラー2と、溶融塩浴Bmの外部の図示しない駆動源からインペラー2に回転駆動力を伝達する回転軸部3と、回転軸部3の周囲を取り囲む軸スリーブ4と、内部にインペラー2が収容されたインペラーケース5と、インペラーケース5に回転軸部3の軸方向の外側(図1では下方側)から接続され、溶融塩浴Bmの溶融塩をインペラーケース5内に導く吸引筒部6と、インペラー2の外周側でインペラーケース5に接続され、インペラーケース5内から溶融塩を排出させる排出筒部7とを備えるものとしている。なおここで、回転軸部3の軸方向の外側とは、回転軸部3の軸方向の中央部に対して軸方向に離れた側を意味し、回転軸部3の軸方向の内側とは、軸方向で回転軸部3の当該中央部に近づく側を意味する。吸引筒部6は、インペラーケース5に、軸方向で回転軸部3の当該中央部から離れた側(軸スリーブ4とは反対側)から接続されている。
【0028】
この撹拌機1は、溶融塩浴Bm中に、少なくともインペラー2が浸漬するように配置される。なお、図1に示すように、さらに軸スリーブ4の一部が溶融塩浴Bm中に浸漬するように配置してもよい。軸スリーブ4内でモータ等の駆動源により回転する回転軸部3がインペラー2を回転させることで、溶融塩浴Bmの溶融塩が吸引筒部6内に吸引され、吸引筒部6と接続されたインペラーケース5内に流入する。インペラーケース5内に流入した溶融塩は、インペラーケース5に接続された排出筒部7を経て、そこから溶融塩浴Bm中に排出される。このような撹拌機1内への溶融塩の流入及び、撹拌機1からの溶融塩の流出が繰り返され、溶融塩浴Bmが撹拌される。
【0029】
ここで、電解槽52内の溶融塩浴Bmは、金属イオン濃度が不均一になることがある。たとえばチタンイオンを含む溶融塩浴Bmでは、Ti2+とTi3+が生じる不均化反応が絶えず起こっていると推測され、その反応でTiが生成されていると考えられる。微粉状等をなすこのTiは自重などにより沈降し、それにより溶融塩浴Bm中のチタンイオン濃度が不均一になる可能性がある。溶融塩浴Bm中の金属イオン濃度が不均一である場合、溶融塩電解による金属箔の製造では、陰極54bの表面に凹凸のある金属が析出することや、陰極54b上に析出した金属が物理的な剥離が困難になること等により、陰極54bに良好な形態の金属が析出されなくなるおそれがある。
【0030】
これに対し、発明者は、溶融塩浴Bm中にて特に電極54、より詳細には互いに対向する陽極54aと陰極54bとの間の電極間スペース54cにおける金属イオン濃度が、陰極54b上への金属の析出に大きな影響を及ぼすとの知見を得るに至った。かかる知見の下、電極間スペース54cに存在する溶融塩を撹拌機1で吸引すれば、適切な浴流れが発生し、そこでの金属イオン濃度が均一化されて、陰極54b上に金属を良好に析出可能であると考えた。
【0031】
具体的には、この実施形態の撹拌機1では、吸引筒部6に、電解槽52内で電極間スペース54cに向けて開口する吸引開口部6aが設けられている。電極54間への電圧の印加により、陽極54aから溶融塩浴Bmへの金属イオンの供給並びに、陰極54bでの金属イオンの消費及び金属の析出が連続的に起こる。ここで、吸引開口部6aを上述したように設けた場合は、電極間スペース54cに存在する溶融塩が、吸引開口部6aから吸引筒部6を経てインペラーケース5内に吸引され、溶融塩浴Bm中にそのような溶融塩の流れが生じる。その結果として、電極間スペース54cでの金属イオン濃度を均一に維持することができると思われる。
【0032】
また、溶融塩電解をある程度の期間にわたって継続して行ったときは、スラッジが溶融塩浴Bmに発生して電解槽52の底部側に堆積することがある。溶融塩電解では、水溶液を用いる電気分解とは異なり、電析を停止してスラッジを除去することが困難であることから、電解槽52の底部側でのスラッジの堆積量が増大する傾向がある。そのようなスラッジが陰極54b上に析出する金属に混入した場合は、溶融塩電解で製造しようとする金属の純度が低下する。
【0033】
これに対し、撹拌機1の吸引筒部6に、上述したように電極間スペース54cに向けて開口する吸引開口部6aを設けると、吸引開口部6aは、電解槽52の底部側を向かないか又は底部から離れた浅いところに位置させやすくなるので、底部側に堆積するスラッジの吸引が抑制される。これにより、陰極54b上に析出する金属の純度を高めることができる。また、スラッジの吸引による撹拌機1内での詰まりの発生を抑制することもできる。
【0034】
撹拌機1の溶融塩浴Bm中に浸漬させる部分及び、電極54はいずれも、電解槽52の底部から離して浴面近傍に配置することが好適である。それにより、撹拌機1のインペラー2に比較的短い回転軸部3で、駆動源から駆動力を伝達させることができる。また、電極54の導電線は、できる限り溶融塩浴Bmに浸漬させずに位置させることが望ましい。
【0035】
吸引開口部6aの向きに関し、「電極間スペース54cに向けて開口する」とは、吸引開口部6aが陽極54aと陰極54bとの間である電極間スペース54c側を向いており、かつ、吸引開口部6aの開口端面6bが、陽極54aと陰極54bとが対向する方向(図1では左右方向)と直交する方向(図1では上下方向)に対し、傾斜する向き又は垂直な向きであること(すなわち、陽極54aと陰極54bとが対向する方向に直交する方向と平行な向きではないこと)を意味する。
【0036】
この実施形態では、吸引筒部6は、上記の吸引開口部6aと、その吸引開口部6aから、たとえば二箇所等の複数箇所で屈曲ないし湾曲してインペラーケース5まで延びて、吸引開口部6aとインペラーケース5とを連結する吸引本体部6cとを有するものとしている。この場合、吸引開口部6aの少なくとも一部、特に開口端面6bの近傍の部分は、吸引本体部6cよりも大きな内径を有することが好ましい。それにより、電極間スペース54cにある溶融塩の多くを吸引開口部6aで吸引できて、金属イオン濃度をさらに均一にすることができる。
【0037】
また、吸引開口部6aはその少なくとも一部が、図示の実施形態のように、電極間スペース54c側に位置する開口端面6bに向かうに従って漸増する内径を有することが好ましい。このようにすれば、電極間スペース54cの溶融塩をより一層吸引しやすくなる。またそれに伴い、排出筒部7からの溶融塩の排出流量が増加することがある。
なお、上記した吸引筒部6の吸引本体部6cと吸引開口部6aとの連結態様は、任意に選択可能である。当該連結態様としては、例えば、吸引本体部6c及び吸引開口部6aを構成する部材を一体に形成することや、各部材間を溶接等で接合すること、各部材間を螺合や嵌合により固定すること等が挙げられる。
【0038】
吸引筒部6から吸引された溶融塩をインペラーケース5の通過後に排出させる排出筒部7は、排出開口部7aを有するものである。ここで、陽極54aと陰極54bとが対向する方向と直交する方向にて、上述した吸引筒部6の吸引開口部6aを電極54の一端部側(図1では下端側)に位置させた場合、排出筒部7の排出開口部7aは、その電極54の一端部と電極間スペース54cを隔てて反対側である他端部側(図1では上端部側)に位置させることが好適である。この場合、電極54の一端部側で電極間スペース54cから吸引開口部6aへ吸引されてインペラーケース5に流入した溶融塩は、電極54の他端部側で排出開口部7aから排出される。そして、溶融塩は、電極54の他端部側から再び電極間スペース54cに入り込みやすくなり、電極間スペース54c及び撹拌機1内を循環し得る。その結果、電極間スペース54cでの金属イオン濃度がさらに安定して均一になり、陰極54b上に析出する金属の形態がより一層良好なものになる。
【0039】
ところで、陽極54aは、ニッケル製、ニッケル合金製、ハステロイ製等であって溶融塩が通過できる多数の孔が設けられた籠状容器、及び、籠状容器内に配置したチタン製等の原料を含むことがある。チタン製の原料としては、たとえば、スポンジチタン、チタンスクラップ、チタン棒及び/又はチタン板等がある。スポンジチタンは、塩化マグネシウムを比較的多く含むものを使用してもよい。塩化マグネシウムを比較的多く含むスポンジチタンやチタンスクラップは材料の有効利用の観点から望ましく、ブリケット状にして籠状容器内に配置してもよい。スポンジチタンを使用する場合、塩素含有量が比較的多いものを用いたとしても、溶融塩電解によりそのような不純物が少ないチタン箔を製造することができる。溶融塩電解の実施に当たり、ニッケル製の籠状容器に通電すると、ニッケルはチタンよりもイオン化傾向が小さいことから、籠状容器のニッケルの溶出は抑制され、原料のチタンが溶出する。但し、陽極54aは、籠状容器を含まず、ブリケット状のスポンジチタンやチタンスクラップ、チタン棒及び/又はチタン板等に直接的に導電線をつないだものとしてもよい。なお、陰極54bは、たとえば板状、円柱状又は棒状等の形状とすることができる。
【0040】
電極54の陽極54a等が多数の孔が設けられた籠状容器を含む場合、排出筒部7の排出開口部7aは、図1に示すように、電極54の他端部側でその籠状容器の周囲にて該籠状容器の側壁部に向けて開口するように配置することが好ましい。排出開口部7aから電極54の籠状容器の側壁部に向けて排出された溶融塩は、籠状容器の側壁部を通過して電極間スペース54cに至り、電極間スペース54cでの金属イオン濃度の均一化をもたらす。
【0041】
あるいは、電極54が籠状容器を含むか否かに関わらず、排出筒部7の排出開口部7aは、図3に示す実施形態のように、電極54の他端部側で電極間スペース54cに向けて開口させてもよい。このようにすると、溶融塩が電極間スペース54cと撹拌機1内とをさらに循環しやすくなる。
【0042】
図4に、他の実施形態の撹拌機1を電極54とともに示す。この電極54は、少なくとも一部が溶融塩浴Bmに浸漬するように配置され、回転軸54dにより回転駆動されるドラム型の陰極54bと、溶融塩浴Bm中でドラム型の陰極54bに対向して配置され、たとえばドラム型の陰極54bの外周面に倣って湾曲する板状もしくはブロック状等の形状を有する陽極54aとを有するものである。溶融塩浴Bm中にて陰極54bと、陰極54bに対向する陽極54aとの間に、電極間スペース54cが区画される。なお、この例では、陰極54bを回転させる回転軸54dを水平方向と平行に延びる向きとしているが、回転軸54dの延びる向きは、水平方向に対して傾斜する方向又は、鉛直方向としてもよい。
【0043】
図4では、撹拌機1の吸引筒部6は、インペラーケース5に連結され、溶融塩浴Bm中の陽極54aよりも深い位置で電極54の他端部側(図4では左側)から一端部側(図4では右側)に向けて二箇所で折れ曲がって延びる吸引本体部6cと、吸引本体部6cに連結され、電極54の一端部側で電極間スペース54cに開口する吸引開口部6aとを含んで構成されている。また、図4に例示する撹拌機1では、排出筒部7は直線状に延びて、電極54の他端部側で電極間スペース54cに向けて開口する排出開口部7aが設けられている。この撹拌機1では、溶融塩は、撹拌機1の排出筒部7の排出開口部7aから排出され、電極間スペース54cを通り、吸引筒部6の吸引開口部6aから撹拌機1に吸引されて流れて、電極間スペース54c及び撹拌機1内を循環する。
【0044】
図4の撹拌機1でも、吸引筒部6の少なくとも一部が、吸引本体部6cの内径よりも大きな内径を有するとともに、電極間スペース54c側の開口端面に向かうに従って漸増する内径を有する。その他の構成については、図1に示すものと実質的に同様である。
【0045】
図4に示す電極54では、回転軸54dで回転駆動されるドラム型の陰極54bと陽極54aとの間に電圧を印加することにより、陰極54bの回転に伴い、その外周面に全周にわたって金属が析出する。あるいは、図5に示すように、ドラム型の陰極54bの外周面上に、導電性を有するベルト54eを巻き掛けて配置してもよい。この場合、陰極54bの回転によりベルト54eが搬送され、その際に電極54間に電圧を印加することで、ベルト54e上に金属を連続的に析出させることができる。なお、図4、5に示すいずれの電極54でも、陽極54aは、板状やブロック状ではなく、先述した籠状容器を含むものとすることも可能である。
【0046】
なお、実施形態の撹拌機1は、図7に示すように、軸スリーブ4の、インペラーケース5に連結されるスリーブ端部4aに、回転軸部3を回転可能に保持する軸受部8が設けられている。このことによれば、軸方向長さが長い回転軸部3であっても、インペラー2の近傍のスリーブ端部4aで軸受部8によって保持されつつ回転するので、インペラー2が安定して回転し、溶融塩浴Bmを良好に撹拌することができる。また、回転軸部3及びインペラー2の回転が安定することから、仮に回転軸部3の軸方向長さを長くしても、撹拌機1の振動の発生が抑制される。その上、回転しているインペラー2に溶融塩から大きな抵抗力が作用したとしても、回転軸部3が軸受部8で保持されているので、回転軸部3の変形ないし破損を抑制することができる。
【0047】
具体的には、軸受部8は、たとえば、スリーブ端部4aの内側に配置された環状の軸受保持部4b上に配置して設けることができる。また軸受部8に挿入される回転軸部3の周囲には、筒状部材9を設けることが可能であり、この筒状部材9を軸受部8に接触させて回転軸部3を配置することができる。回転軸部3が筒状部材9で軸受部8に支持されることにより、インペラー2が適切な軸方向(高さ方向)の位置に配置され、インペラー2とインペラーケース5との接触が抑制される。但し、軸受部8及びその周囲の構造は、軸受部8で回転軸部3を回転可能に保持できれば、図示のものに限らない。
【0048】
図示は省略するが、軸スリーブ4のスリーブ端部4aとは反対側の、駆動源側の端部にも、軸受部を設けることができる。これにより、回転軸部3及びインペラー2の回転をさらに安定させることができる。
【0049】
軸受部8の材質は、セラミックス、なかでも窒化珪素又は炭化珪素とすることが好ましい。窒化珪素や炭化珪素は、耐熱性、溶融塩に対する耐腐食性、撹拌機1の他の部材との間での耐摩耗性に優れ、また熱衝撃に強いからである。
なお、撹拌機1の他の部材の材質は、炭素鋼もしくはステンレス鋼(SUS304、SUS316等)その他の鋼、ニッケル、ニッケル基合金、タングステン、モリブデン、タンタル又はニオブとすることが好ましい。特に好ましくはニッケル又は炭素鋼である。ニッケルや炭素鋼は、溶融塩に対して比較的腐食しにくく、コストが比較的低廉だからである。さらには、溶融塩電解で溶出しにくい(より貴な金属である)ニッケルが好ましい。
【0050】
スリーブ端部4aに軸受部8を設けると、インペラーケース5内の溶融塩は、回転軸部3とインペラーケース5との間や、軸受部8と回転軸部3との間等から軸スリーブ4内に浸入し、軸受部8上に溜まることがある。軸受部8上に溜まった溶融塩は、撹拌機1を溶融塩浴Bmから引き揚げた際に固化して、そこに付着するとともに残留し得る。そのような溶融塩の固化物を完全に除去することは容易ではなく、メンテナンス性が低下する。また、軸受部8付近の溶融塩の固化物は、その後の撹拌機1の使用に際して回転軸部3の円滑な回転を阻害し、撹拌機1の破損を招くことも懸念される。
【0051】
軸スリーブ4内で軸受部8上に入り込んだ溶融塩を容易に排出させるため、図示の実施形態では、スリーブ端部4aに、軸受部8の周囲で当該軸受部8よりも軸方向の内側(図2では上方側)に延びる少なくとも一箇所の貫通孔10を設けている。それにより、軸スリーブ4内の溶融塩は、撹拌機1を溶融塩浴Bmから引き揚げる際に、スリーブ端部4aの貫通孔10から軸スリーブ4の外側に流れて排出されるので、軸受部8付近での上記の固化物の発生を抑制することができる。その結果として、撹拌機1のメンテナンス性を向上させることができるとともに、撹拌機1を長期間にわたって繰り返し使用可能になり、撹拌機1の寿命が長くなる。
【0052】
貫通孔10は、図7に示すように、スリーブ端部4aの周方向に互いに間隔をおいて複数箇所形成することが好ましい。周方向に複数箇所の貫通孔10があることで、軸受部8付近の溶融塩が軸スリーブ4の外部に排出されやすくなるからである。この実施形態では、周方向に等間隔に離れた四箇所の貫通孔10を形成しているが、貫通孔10の個数は適宜変更され得る。貫通孔10は、軸受部8よりも軸方向の内側に延びて軸スリーブ4を厚み方向に貫通するものであれば、その形状については特に問わない。図示の例では、各貫通孔10はその正面視で、長方形の軸方向内側の短辺を丸めた形状としている。
【0053】
ところで、インペラー2の各羽根部2aは、回転軸部3の周囲で、半径方向に直線状に延びる形状とすることも可能であるが、図6(a)に示すように、半径方向に湾曲して延びる形状を有することが好ましい。各羽根部2aが、半径方向に延びる途中の少なくとも一部で回転方向に突出するように湾曲する形状とし、その突出する方向(図6(a)では時計回りの方向)にインペラー2を回転させることにより、遠心力の作用に起因して溶融塩がより一層排出されやすくなる。
【0054】
なお、この実施形態では、図6(b)に示すように、回転軸部3から半径方向の外側に向かうに従い、羽根部2aの高さ(図6(b)の上下方向の長さ)が漸減する形状としている。但し、羽根部2aの形状はこれに限らず、適宜変更することができる。
【0055】
インペラーケース5から溶融塩浴Bmに排出される溶融塩が通過する排出筒部7は、図8に示すように、インペラーケース5に、半径方向に対して傾斜する向きで接続することが好適である。この実施形態では、図8(b)から解かるように、回転軸部3の半径方向と排出筒部7の中心軸線とが傾斜する向きで、排出筒部7がインペラーケース5に接続されている。これにより、溶融塩がインペラーケース5から排出されやすくなり、溶融塩浴Bmの撹拌がより良好に行われる。
【0056】
図示の撹拌機1では、吸引筒部6の内径を、インペラーケース5の内径よりも小さくしている。この場合、溶融塩の吸引量をより多くすることができる。また、排出筒部7の内径は、吸引筒部6の内径よりも小さくしてもよい。排出筒部7から排出される溶融塩の流速を増大させることができる。この流速の増大により、溶融塩浴Bmの撹拌効率が向上しうる。
【0057】
インペラーケース5との接続箇所における吸引筒部6の中心軸線と排出筒部7の中心軸線とがなす角度は、この例ではほぼ直角としているが、これに限らず、鋭角又は鈍角としてもよい。また、吸引筒部6及び/又は排出筒部7は、複数本設けることもできる。
【0058】
なお図示の例では、スリーブ端部4aの端面及び、インペラーケース5の軸スリーブ4側の端面にそれぞれ、軸スリーブ4よりも外周側に突き出るフランジ状の円板部材4c及び5aを設けている。撹拌機1を組み立てた状態で、それらの円板部材4c及び5aは互いに重なり合って位置し、回転軸部3が、円板部材4c及び5aのそれぞれの中央に形成された貫通する孔部を通過して配置される。
【実施例
【0059】
次に、この発明の撹拌機を試作し、その性能を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は、単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0060】
実施例1では、図1に示すような溶融塩電解装置を用いた。陽極としては、多数の貫通孔を備えるニッケル製の籠状容器にスポンジチタンを配置したものを使用した。なお、この籠状容器はその外形が円筒状であり、円筒状の陰極が陽極の内側に配置されている。実施例2は、図4に示すような電極及び撹拌機を用いたことを除いて実施例1とほぼ同様とした。実施例3は、図5に示すような電極を用いたことを除いて実施例2とほぼ同様とした。実施例2及び3では、陽極としてチタン鋳片を使用した。
【0061】
比較例1は、溶融塩浴に露出する剥き出しのプロペラを、電解槽の底部側と浴面側に設けた撹拌機を用いて、溶融塩浴の全体を撹拌したことを除いて、実施例1とほぼ同様とした。
【0062】
いずれの実施例1~3及び比較例1でも、溶融塩浴はNaCl-KCl-MgCl2-TiCl2の四元系溶融塩浴を用い、溶融塩浴の温度は500℃とした。電解条件として、平均電流密度は0.1A/cm2とし、電析時間は1.5hとした。なお、パルス電流でもよく、また途中に通電停止や陽極、陰極を反転させる逆電圧の印加を含めてもかまわないが、ここでは定電流を上記の電析時間流した。
【0063】
溶融塩電解が終了した後、陰極からの金属箔の物理的な剥離後のシワの発生の有無、金属箔中のスラッジの混入の有無を確認した。それらの結果も表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1中、剥離後のシワの発生の有無は、剥離試験により、「〇」又は「△」のいずれであるかを判定した。「〇」は剥離後において目視でシワが確認されなかったことを意味し、「△」は剥離後において目視でシワが確認されたことを意味する。〇評価は合格であり、△評価は不合格である。
【0066】
剥離試験は、図9に示すようにして行った。はじめに、陰極及び陰極に析出した金属箔から70mm×10mmの試料103を、カッター等により切断して採取する。次に、90°剥離試験機のステージ111上に試料103を載置し、試料103の一端部にて陰極102から金属箔101を10mm剥がし、その剥がした部分の金属箔101をチャックで挟む。次に、ステージ111上の試料103の一端部の陰極102及び、その一端部とは反対側に位置する試料103の他端部をそれぞれ固定治具112で固定する。そして、図9に矢印で示すように、チャックを鉛直方向の上方側に20mm/secで上昇させ、ステージ111を水平方向に20mm/secで移動させる。なお、金属箔101を剥離する方向と陰極102の表面とのなす角度は、陰極の表面から測って90°とした。剥離試験機としては、株式会社イマダ製デジタルフォースゲージZTS-200Nおよび90度剥離試験用スライドテーブルP90-200Nを用いた。
【0067】
金属箔中のスラッジの混入の有無の確認は、次のようにして行った。実施例1~3及び比較例1のそれぞれで得られた金属箔について、0.05M HCl水溶液及び水の順で洗浄、乾燥し、ICP発光分析によりNa、K及びMgの分析を実施した。溶融塩浴の成分は上記の洗浄で液中に十分に溶解するが、スラッジは溶融塩浴が微量の空気や水分と反応して生じると考えられ、Na、K及びMgの三つの成分が上記の洗浄で除去されずに残留する。そのため、それらの三つの元素の合計含有量が0.06mass%よりも多かった場合にスラッジを巻き込んだとみなし、「スラッジ有」と判断した。
【0068】
表1より、実施例1~3では、所定の撹拌機を用いたことにより、陰極から金属箔を物理的に剥離できかつ剥離後の表面においてシワが確認されず、また金属箔中にスラッジが混入していなかった。これは、当該撹拌機の吸引筒部で溶融塩が吸引されたことで適切な浴流れが生じ、電極間スペースの金属イオン濃度が均一になるとともに底部側のスラッジの吸引が抑制されたことによるものと推測される。一方、比較例1では、陰極からの金属箔の剥離後においてシワが確認され、また金属箔中にスラッジが混入していた。
【0069】
以上より、この発明によれば、溶融塩浴中に浸漬させた電極に金属を良好に析出することがわかった。
【符号の説明】
【0070】
1 撹拌機
2 インペラー
2a 羽根部
3 回転軸部
4 軸スリーブ
4a スリーブ端部
4b 軸受保持部
4c、5a 円板部材
5 インペラーケース
6 吸引筒部
6a 吸引開口部
6b 開口端面
6c 吸引本体部
7 排出筒部
7a 排出開口部
8 軸受部
9 筒状部材
10 貫通孔
51 溶融塩電解装置
52 電解槽
53 ヒータ
54 電極
54a 陽極
54b 陰極
54c 電極間スペース
54d 回転軸
54e ベルト
Bm 溶融塩浴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9