(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】通信ケーブルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 11/02 20060101AFI20241226BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20241226BHJP
H01B 13/26 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
H01B11/02
H01B7/18 C
H01B13/26 Z
(21)【出願番号】P 2021125845
(22)【出願日】2021-07-30
【審査請求日】2022-05-25
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000238049
【氏名又は名称】冨士電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】河田 正義
(72)【発明者】
【氏名】小川 宏
【合議体】
【審判長】吉田 美彦
【審判官】須田 勝巳
【審判官】脇岡 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-180548(JP,A)
【文献】特開2017-21928(JP,A)
【文献】特開2014-93203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B11/02
H01B 7/18
H01B13/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を絶縁体で被覆した2本の絶縁電線を撚り合わせ、複数対の当該対撚線で構成したケーブル芯と、
前記ケーブル芯に横巻きされる押巻きと、
前記押巻きに横巻される遮蔽テープとを備え、
前記押巻きがポリエステル不織布テープから構成され、
前記押巻きの坪量が95~105g/m
2であ
り、
前記ポリエステル不織布テープの厚さが0.35mmであり、
前記押巻きの厚さが0.6mmであり、
前記押巻きの実測厚さのバラツキが2.0~4.9%であることを特徴とする通信ケーブル。
【請求項2】
導体を絶縁体で被覆した2本の絶縁電線を撚り合わせ、複数対の当該対撚線で構成したケーブル芯を準備する工程と、
押巻きを前記ケーブル芯に横巻きする工程であって、前記押巻き
を構成するテープとして、
厚さが0.35mmのポリエステル不織布テープを選択し、かつ、前記押巻きの坪量を95~105g/m
2
、前記押巻きの厚さを0.6mm、かつ前記押巻きの実測厚さのバラツキを2.0~4.9%に設定する工程と、
遮蔽テープを前記押巻きに横巻きする工程と、
を有することを特徴とする通信ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通信ケーブルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LAN(Local Area Network)ケーブルなどの通信ケーブルは、サーバ同士の間やサーバとスイッチとの間、サーバとパーソナルコンピュータとの間など、様々な機器の接続に使用されており、近年では高速データ通信に適する通信ケーブルが求められている。
【0003】
このような通信ケーブルが特許文献1に開示されている。
特許文献1の技術では特に、隣接および対角関係にある対撚線同士の撚り角度を一定に制御し、近端漏話減衰量(NEXT)がCat.6規格値を上回る通信ケーブルを提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年の高速データ通信に適する通信ケーブルには、NEXT以外の電気特性を満足することも求められる。
一方で、可とう性に優れる通信ケーブルを提供することは永続的な課題であり、取り扱い性を改善することは常に求められる。特許文献1の技術では、ケーブル芯の周囲を不織布で抑え巻きしており(段落0007参照)、一定の可とう性は担保されていると推定されるものの、具体的にどういった不織布を使用すれば電気特性を満足しながら可とう性を飛躍的に向上させられるのか、という部分にまで検討は進められていない。
【0006】
本発明の主な目的は、一定の電気特性を満足しながら可とう性を飛躍的に向上させることができる通信ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明によれば、
導体を絶縁体で被覆した2本の絶縁電線を撚り合わせ、複数対の当該対撚線で構成したケーブル芯と、
前記ケーブル芯に横巻きされる押巻きと、
前記押巻きに横巻される遮蔽テープとを備え、
前記押巻きがポリエステル不織布テープから構成され、
前記押巻きの坪量が95~105g/m2であり、
前記ポリエステル不織布テープの厚さが0.35mmであり、
前記押巻きの厚さが0.6mmであり、
前記押巻きの実測厚さのバラツキが2.0~4.9%であることを特徴とする通信ケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一定の電気特性を満足しながら可とう性を飛躍的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
本明細書において数値範囲を示す「~」には上限値および下限値が当該数値範囲に含まれる。
【0011】
本発明の好ましい実施形態にかかる通信ケーブルは、いわゆるLAN用ツイストペアケーブルとして非常に有用である。
図1に示すとおり、通信ケーブル1では、ケーブル芯10が、複数対(ここでは4対)の対撚線8と、当該複数の対撚線8を互いに離隔するための十字介在9と、から構成されている。
各対撚線8は、導体2が絶縁体4で被覆された絶縁電線6が、2本撚り合わせられた構成を有している。通常、導体2は軟銅線から構成され、絶縁体4はポリエチレン樹脂から構成されている。導体2は単線でもよいし、複数の素線を撚り合わせた撚線であってもよい。導体2の太さ、すなわち長さ方向に垂直な断面の直径は特に制限されず、通信ケーブル1の用途や種類などに応じて適宜選択される。
【0012】
十字介在9は対撚線8同士を互いに隔離しこれらが接触しないように分離するための部材であり、通信ケーブル1の長さ方向に延在している。十字介在9は、複数の対撚線8を隔離可能であれば、その形状は特に制限されない。十字介在9は、ポリエチレン樹脂から構成されている。
【0013】
十字介在9は通信ケーブル1の長さ方向に沿って撚られており、それに伴い対撚線8同士も十字介在9に分離されながら撚られている。
【0014】
ケーブル芯10の周囲には、押巻き20が横巻きされている。
押巻き20は、ケーブル芯10中の導体2と遮蔽テープ30との距離を一定に保持するための部材である。本明細書において「横巻き」とは、長尺なテープを被巻き体の長さ方向に沿ってらせん状に巻き付ける意であって、テープの側縁部を先に巻き付けたテープに重ねながら巻き付ける、という意である。
押巻き20はポリエステル、ポリプロピレン、アラミド繊維、ナイロン、アクリル繊維またはガラス繊維のいずれか1種または2種以上を組み合わせた不織布テープから構成されており、好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET;Poly ethylene terephthalate)の不織布テープから構成されている。不織布テープの枚数は、本実施形態の目的および効果を損なわない範囲であれば特に制限されない。
押巻き20を構成する不織布テープの坪量は90~110g/m2であり、好ましくは95~105g/m2である。
押巻き20を構成する不織布テープの実測厚さのバラツキは1.5~5.5%である。「実測厚さのバラツキ」とは、通信ケーブル1を1m切り出したときに、その切り出し片を長さ方向に沿う20か所で厚さを実測し、その平均値(m)に対し最大のずれ量と最小のずれ量との差をそれぞれ算出し、当該算出値を平均値で除した値(%)である。
【0015】
押巻き20の周囲には、遮蔽テープ30が横巻きされている。
遮蔽テープ30はアルミニウム箔(Al)をポリエチレンテレフタレート(PET)テープ上に接着した、いわゆるAl/PETテープから構成されている。アルミニウム箔部分には導通を遮断するためのスリットが形成されている。遮蔽テープ30はケーブル芯10の長さ方向に沿って横巻きされ、押巻き20の外周を被覆している。
【0016】
遮蔽テープ30の外周には、外被40が形成されている。
外被40はポリ塩化ビニル樹脂またはポリオレフィン樹脂から構成されている。外被40はいわゆるシースであって、遮蔽テープ30の外周を被覆して通信ケーブル1の最外層を形成している。
【0017】
次に通信ケーブル1の製造方法について説明する。
【0018】
まず、導体2として、軟銅線の単線を準備する。その後、導体2を長さ方向に搬送しながらポリエチレン樹脂を押出機のダイスから押し出し、導体2を絶縁体4で被覆して、絶縁電線6を形成する。続いて、2本の絶縁電線6を撚り合わせ対撚線8を形成し、4対の対撚線8を十字介在9に沿わせてケーブル芯10を構成する。
その後、ケーブル芯10を所定のピッチで撚り、押巻き20をケーブル芯10に横巻きする。
【0019】
その後、押巻き20をケーブル芯10の周囲に横巻きする。
かかる工程では、押巻き20としてポリエステル、ポリプロピレン、アラミド繊維、ナイロン、アクリル繊維またはガラス繊維のいずれか1種または2種以上を組み合わせた不織布テープを選択し、かつ、押巻き20の坪量を90~110g/m2に設定する。押巻き20の実測厚さのバラツキも1.5~5.5%に設定する。
【0020】
その後、遮蔽テープ30を押巻き20の周囲に横巻きする。
最後に、押巻き20および遮蔽テープ30を巻き付けたケーブル芯10を長さ方向に搬送しながら、ポリ塩化ビニル樹脂を押出機のダイスから押し出し、遮蔽テープ30を外被40で被覆する。これにより、通信ケーブル1が製造される。
【0021】
以上の実施形態によれば、一定の電気特性を満足しながら可とう性を飛躍的に向上させた通信ケーブル1を提供することができる(実施例参照)。
【0022】
なお、本実施形態によれば、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際標である持続可能な開発目標(SDGs)の目標4「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」に貢献することにもつながる。
【実施例】
【0023】
(1)サンプルの作製
(1.1)サンプル1
導体として、外径0.565mmの軟銅線(単線)を準備した。
絶縁体の樹脂として高密度ポリエチレンを準備し、これを押出機のダイスから押し出して導体を絶縁体で被覆した。
その後、外形1mmの絶縁電線を2本撚り合わせ、外径2mm程度の対撚線を形成した。続いて、長さ5.0mm×厚さ0.75mmの十字介在を準備し、4対の対撚線を十字介在に沿わせてケーブル芯を構成し、当該ケーブル芯をピッチ100mmで撚った。
【0024】
その後、2枚の押巻き(高密度ポリエチレンテープ、厚さ0.15mm、厚さ0.10mm)を準備し、ケーブル芯に横巻きした。
その後、遮蔽テープとして、一定のスリットを有するAl/PETテープ(アルミニウム:厚さ9μm、PET:厚さ43μm、幅22mm)を準備し、これを押巻きの周囲に横巻きした。このとき、7.3mm(1/3ラップ)ずつ重ねて巻き付けた。
その後、外被の樹脂としてポリ塩化ビニルを準備し、これを押出機のダイスから押し出して遮蔽テープを外被(厚さ0.35mm)で被覆し、外径7.5mm程度の通信ケーブルを製造した。
【0025】
(1.2)サンプル2-4
サンプル1において押巻きを表1のとおりに変更した。
それ以外はサンプル1と同様に通信ケーブルを製造した。
なお、表1中、押巻きの実測厚さのバラツキは、各サンプルを1m切り出し、各切り出し片を長さ方向に沿う20か所で厚さを実測し、その平均値(m)に対し最大のずれ量と最小のずれ量との差をそれぞれ算出し、当該算出値を平均値で除した値(%)である。
【0026】
【0027】
(2)サンプルの評価
各サンプルを100m切り出し、各切出し片について静電容量、挿入損失(IL:Insertion Loss)、近端漏話減衰量(NEXT:Near End crosstalk)および可とう性を測定した。測定結果を表2に示す。
静電容量、挿入損失および近端漏話減衰量の測定については、汎用の測定装置を用いた。近端漏話減衰量の評価については、Cat.6A規格(ANSI/TIA-568.2-D規格)を満たす場合を「○」と、満たさない場合を「×」と、評価した。
可とう性の測定については、各サンプルを50cm切り出し、各切出し片の基部(長さ30cm)をテーブルに固定しかつ端部(長さ20cm)を空間に開放し自由端とする。当該自由端に対し50gの荷重を課して、当該自由端の垂直方向における撓み量(水平面から当該自由端の先端までの距離)を測定した。
【0028】
【0029】
サンプル1は現在市場において一般的に市販されている汎用品であって、Cat.6A規格を十分に満足しうるものであるところ、表2に示すとおり、サンプル2-4はサンプル1に対し電気特性(特に静電容量)および可とう性の評価が優れており、押巻きの秤量を90~110g/m2に制御することが有用であることがわかる。
サンプル2-4では、押巻きをケーブル芯に横巻きした場合に、不織布テープに空気層が形成されるため、導体と遮蔽テープとの間の距離が一定に保持され、結果的に静電容量が低くなり、挿入損失も含めた電気特性が安定している。
サンプル2-4ではさらに、押巻きが秤量を一定に設定した不織布テープであることに起因し、可とう性も飛躍的に向上している。
【符号の説明】
【0030】
1 通信ケーブル
2 導体
4 絶縁体
6 絶縁電線
8 対撚線
9 十字介在
10 ケーブル芯
20 押巻き
30 遮蔽テープ
40 外被