(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】窒化ホウ素粒子及びその製造方法、並びに、該窒化ホウ素粒子を含む樹脂組成物及び収容体
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20241226BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20241226BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C01B21/064 G
C08K3/38
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2022510629
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012391
(87)【国際公開番号】W WO2021193765
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2020055896
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】宮田 建治
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】久保渕 啓
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 智成
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-180066(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102976294(CN,A)
【文献】TANG, C. et al.,Advanced Functional Materials,2008年10月30日,Vol.18,pp.3653-3661,<DOI: 10.1002/adfm.200800493>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C08K 3/38
C08L 101/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ酸エステルとアンモニアとを750~1400℃で
30秒間以内で反応させて窒化ホウ素粒子の前駆体を得る第1の工程と、
窒素ガス及びアンモニアガスを導入しながら、前記前駆体を1000~1600℃で加熱して窒化ホウ素粒子を得る第2の工程と、を備え、
前記第2の工程の後に前記窒化ホウ素粒子を1800℃以上で加熱する工程を備えない、窒化ホウ素粒子の製造方法。
【請求項2】
複数の窒化ホウ素結晶子を含む窒化ホウ素粒子であって、
透過型電子顕微鏡により100,000倍の視野で観察したときに円形の平面形状を呈
し、
透過型電子顕微鏡により400,000倍の視野で観察したときに、前記窒化ホウ素粒子の最表面に前記窒化ホウ素結晶子で構成される凹凸を呈し、
前記凹凸が前記400,000倍の視野における10nm×10nmの範囲内に少なくとも一つずつの凹部及び凸部を有する、窒化ホウ素粒子。
【請求項3】
前記窒化ホウ素粒子の平均粒子径が1μm以下である、請求項2に記載の窒化ホウ素粒子。
【請求項4】
前記窒化ホウ素粒子の平均円形度が0.8以上である、請求項2又は3に記載の窒化ホウ素粒子。
【請求項5】
樹脂と、請求項2~4のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粒子と、を含有する樹脂組成物。
【請求項6】
請求項2~4のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粒子と、前記窒化ホウ素粒子を収容する容器と、を備える収容体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ホウ素粒子及びその製造方法、並びに、該窒化ホウ素粒子を含む樹脂組成物及び収容体に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU等の電子部品においては、使用時に発生する熱を効率的に放熱するための放熱部材が用いられる。放熱部材は、例えば、熱伝導率が高いセラミックス粒子を含有する。セラミックス粒子としては、高熱伝導率、高絶縁性、低比誘電率等の特性を有している窒化ホウ素粒子が注目されている。
【0003】
例えば、窒化ホウ素粒子が電子部品を一次封止する際の充填材として用いられる場合、電子部品周辺の狭い隙間にも窒化ホウ素粒子が入り込めるように、比較的小さな粒子径を有する窒化ホウ素粒子が好適である。例えば特許文献1には、平均粒子径0.01~1.0μm、配向性指数1~15、窒化ホウ素純度98.0質量%以上、及び平均円形度0.80以上であることを特徴とする球状窒化ホウ素微粒子、及びその製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献1に開示された製造方法は、アンモニア/ホウ酸アルコキシドのモル比が1~10のホウ酸アルコキシドとアンモニアを不活性ガス気流中、750℃以上、30秒以内で反応させた後、アンモニアガス、又は、アンモニアガスと不活性ガスの混合ガスの雰囲気下、1,000~1,600℃、1時間以上で熱処理後、さらに、不活性ガス雰囲気下、1,800~2,200℃、0.5時間以上で焼成する製造方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
窒化ホウ素粒子が、上述したように電子部品を一次封止する際の充填材に利用される場合、通常、樹脂と共に混合されて樹脂組成物の形態で用いられるが、取扱い性の観点から、当該樹脂組成物の粘度をできる限り低くすることが望ましい。
【0007】
そこで、本発明の一側面は、低粘度の樹脂組成物を形成可能な窒化ホウ素粒子を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述したように、特許文献1に記載されている製造方法では、条件を変えながら少なくとも三段階に分けて加熱が行われるが、本発明者らが鋭意検討したところ、三段階目の加熱工程を省略することにより、驚くべきことに、低粘度の樹脂組成物を形成可能な窒化ホウ素粒子が得られることを見出した。
【0009】
本発明の一側面は、ホウ酸エステルとアンモニアとを750~1400℃で反応させて窒化ホウ素粒子の前駆体を得る第1の工程と、前駆体を1000~1600℃で加熱して窒化ホウ素粒子を得る第2の工程と、を備え、第2の工程の後に窒化ホウ素粒子を1800℃以上で加熱する工程を備えない、窒化ホウ素粒子の製造方法である。
【0010】
また、本発明者らの検討によれば、上記の製造方法により得られる窒化ホウ素粒子が低粘度の樹脂組成物を形成可能である理由は、当該窒化ホウ素粒子が球形に極めて近い形状を有しているためであると推察される。
【0011】
すなわち、本発明の他の一側面は、複数の窒化ホウ素結晶子を含む窒化ホウ素粒子であって、透過型電子顕微鏡により100,000倍の視野で観察したときに円形の平面形状を呈する、窒化ホウ素粒子である。
【0012】
窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、1μm以下であってよい。窒化ホウ素粒子の平均円形度は、0.8以上であってよい。
【0013】
本発明の他の一側面は、樹脂と、上記の窒化ホウ素粒子と、を含有する樹脂組成物である。
【0014】
本発明の他の一側面は、上記の窒化ホウ素粒子と、窒化ホウ素粒子を収容する容器と、を備える収容体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一側面によれば、低粘度の樹脂組成物を形成可能な窒化ホウ素粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例の窒化ホウ素粒子全体のTEM像である。
【
図2】
図1における窒化ホウ素粒子を拡大したTEM像である。
【
図3】
図2における窒化ホウ素粒子の領域S1についてFFT解析を行った結果を示す図及びグラフである。
【
図4】
図1における窒化ホウ素粒子の周囲部Sの領域S2~S5についてFFT解析を行った結果を示す図である。
【
図5】
図1における窒化ホウ素粒子の周囲部Sの領域S2~S5についてFFT解析を行った結果を示すグラフである。
【
図6】
図1における窒化ホウ素粒子の中心部Cの領域C1~C4についてFFT解析を行った結果を示す図である。
【
図7】
図1における窒化ホウ素粒子の中心部Cの領域C1~C4についてFFT解析を行った結果を示すグラフである。
【
図8】比較例の窒化ホウ素粒子を観察したTEM像である。
【
図9】実施例及び比較例における粘度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明の一実施形態は、ホウ酸エステルとアンモニアとを750~1400℃で反応させて窒化ホウ素粒子の前駆体を得る第1の工程と、前駆体を1000~1600℃で加熱して窒化ホウ素粒子を得る第2の工程と、を備える窒化ホウ素粒子の製造方法である。
【0019】
第1の工程では、例えば、抵抗加熱炉内に設置された反応管(例えば石英管)を加熱して、750~1500℃まで昇温する。一方、不活性ガスを液状のホウ酸エステルに通した上で反応管に導入することにより、ホウ酸エステルが反応管に導入される。他方、アンモニアガスを反応管に直接導入する。不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガス、及び窒素ガスが挙げられる。ホウ酸エステルは、例えばアルキルホウ酸エステルであってよく、好ましくはホウ酸トリメチルである。
【0020】
ホウ酸エステルの導入量に対するアンモニアの導入量のモル比(アンモニア/ホウ酸エステル)は、例えば、1以上であってよく、10以下であってよい。
【0021】
導入されたホウ酸エステル及びアンモニアは、加熱された反応管内で反応し、窒化ホウ素粒子の前駆体を生成する。この前駆体は、例えば、非結晶性又は低結晶性の窒化ホウ素を含んでおり、白色の粉末であってよい。生成した前駆体の一部は反応管内に付着するが、前駆体の多くは、不活性ガスや未反応のアンモニアガスにより、反応管の先に取り付けられた回収容器に送られて回収される。
【0022】
第1の工程においてホウ酸エステルとアンモニアとを反応させる時間(反応時間)は、好ましくは、30秒間以内である。反応時間は、ホウ酸エステル及びアンモニアが、反応管のうち750~1400℃に加熱された部分(加熱部分)にとどまる時間であり、ホウ酸エステル及びアンモニアを導入する際のガス流量と、抵抗加熱炉内に設置された反応管の長さ(反応管の加熱部分の長さ)とによって、調整することができる。
【0023】
第2の工程では、第1の工程で得られた前駆体を、抵抗加熱炉内に設置された別の反応管(例えばアルミナ管)に入れ、窒素ガス及びアンモニアガスをそれぞれ別々に反応管内に導入する。このとき導入するガスは、アンモニアガスのみであってもよい。窒素ガス及びアンモニアガスの流量は、それぞれ、反応時間が所望の値となるように適宜調整されればよい。例えば、アンモニアガスの流量が多いほど、反応時間が短くなる。
【0024】
続いて、反応管を1000~1600℃に加熱する。加熱する時間は、例えば、1時間以上であってよく、10時間以下であってよい。これにより、前駆体中の窒化ホウ素の結晶化を進行させ、窒化ホウ素粒子を得る。ただし、前駆体中のすべての窒化ホウ素は結晶化されずに、低結晶性の窒化ホウ素が窒化ホウ素粒子の内部に残留する。
【0025】
この製造方法は、第2の工程の後に、第2の工程で得られた窒化ホウ素粒子を1800℃以上で加熱する工程を備えていない。すなわち、この製造方法では、上述した特許文献1に開示されているような三段階目の加熱を行わずに、目的とする窒化ホウ素粒子が得られる。この製造方法は、第2の工程の後に、第2の工程で得られた窒化ホウ素粒子を、1700℃以上、1600℃以上、1500℃以上、1400℃以上、1300℃以上、1200℃以上、1100℃以上、1000℃以上、900℃以上、800℃以上、700℃以上、600℃以上、500℃以上、400℃以上、300℃以上、200℃以上、100℃以上、50℃以上、40℃以上、又は30℃以上で加熱する工程を備えていなくてもよい。
【0026】
以上説明した製造方法により得られる窒化ホウ素粒子は、従来に比べてより球形に近い形状を有している。本発明の他の一実施形態は、透過型電子顕微鏡により100,000倍の視野で観察したときに円形の平面形状を呈する、窒化ホウ素粒子である。当該観察は、透過型電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社製「JEM-2100」)を用い、以下の条件で行われる。
対物レンズ絞り:φ120μm
集束レンズ絞り:φ150μm
記録媒体:AMETEK社製「OrisusSC1000A1」
Bining:2
露光時間:0.5秒間
【0027】
窒化ホウ素粒子がこのような形状を有するのは、上述した製造方法が、第2の工程の後に、第2の工程で得られた窒化ホウ素粒子を1800℃以上で加熱する工程を備えていないことに起因すると考えられる。なお、後述する比較例で示されるように、第2の工程で得られた窒化ホウ素粒子を1800℃以上で加熱する工程を備える従来の方法では、上記の条件で観察したときに円形の平面形状を呈さない窒化ホウ素粒子が得られる。
【0028】
この窒化ホウ素粒子は、例えば、低結晶性の窒化ホウ素を含む中心部と、中心部の周りを囲うように配置された、高結晶性の窒化ホウ素を含む周囲部と、を備えている。このような中心部及び周囲部において生じ得る結晶性の違いは、上述した製造方法が、第2の工程の後に、第2の工程で得られた窒化ホウ素粒子を1800℃以上で加熱する工程を備えていないことに起因すると考えられる。
【0029】
本明細書において、「高結晶性」とは、以下の方法により取得される窒化ホウ素粒子のFFT像において、逆格子空間上の1~4nm-1の範囲で、h-BN(0002)面由来の周期性による輝点(ピーク)が存在する状態を意味し、「低結晶性」とは、当該輝点(ピーク)が存在しない状態を意味する。輝点(ピーク)が存在するとは、上記逆格子空間上の1~4nm-1の範囲において、B-スプライン法にてバックグラウンドを差し引いた後の強度Sがノイズ強度Nに対して15倍以上となる点が存在することを意味する。ここで、ノイズ強度Nは、B-スプライン法にてバックグラウンド処理を行った後、上記逆格子空間上の4nm-1を超え6nm-1以下の範囲における標準偏差の値と定義される。また、輝点(ピーク)には、波数方向又は円周方向に揺らぎをもつものも含むこととする。高結晶性の窒化ホウ素を含む周囲部では、上記逆格子空間上の1~4nm-1の範囲において、上記強度Sが上記ノイズ強度Nに対して、好ましくは20倍以上、より好ましくは23倍以上、更に好ましくは25倍以上となる点が存在してよい。
【0030】
(FFT像の取得方法)
まず、透過型電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社製「JEM-2100」)を用いて、以下の条件にて、窒化ホウ素粒子の400,000倍のTEM像を取得する。
対物レンズ絞り:φ120μm
集束レンズ絞り:φ150μm
記録媒体:AMETEK社製「OrisusSC1000A1」
Bining:2
露光時間:0.5秒間
また、TEM観察及び後述するFFT解析のために、画像解析ソフト(例えば、AMETEC社製「GMS3」)を用いる。
続いて、得られたTEM像における8.556nm角の領域に対してFFT解析を行い、256×256ピクセルのFFT像を取得する。
【0031】
周囲部に含まれる高結晶性の窒化ホウ素は、窒化ホウ素結晶子を構成している。窒化ホウ素結晶子とは、透過型電子顕微鏡により400,000倍の視野で観察したときに見られる、窒化ホウ素の結晶の最小単位を意味する。当該観察は、上記「FFT像の取得方法」と同様の透過型電子顕微鏡及び条件によって行われる。窒化ホウ素結晶子は、例えば板状を呈している。板状の窒化ホウ素結晶子は、平板状であってよく、曲板状であってもよい。周囲部では、例えば、板状の窒化ホウ素結晶子が短手方向に積層するように配置されていてよい。
【0032】
窒化ホウ素粒子の最表面(周囲部の最表面)には、透過型電子顕微鏡により400,000倍の視野で観察したときに、窒化ホウ素結晶子で構成される凹凸が形成されていてよい。当該観察は、上記「FFT像の取得方法」と同様の透過型電子顕微鏡及び条件によって行われる。より具体的には、窒化ホウ素粒子を当該視野で観察したときに、窒化ホウ素粒子の最表面(周囲部の最表面)が複数の板状窒化ホウ素結晶子で構成されており、かつ、当該複数の板状窒化ホウ素結晶子が互いに異なる方向に延びるように配置されていることにより、窒化ホウ素粒子の最表面(周囲部の最表面)が凹凸状となっていてよい。この凹凸は、上記視野における10nm×10nmの範囲内に収まっていてよい。言い換えれば、凹凸は、上記視野における10nm×10nmの範囲内に少なくとも一つずつの凹部及び凸部を有していてよい。このような窒化ホウ素粒子の最表面(周囲部の最表面)に生じ得る凹凸は、上述した製造方法が、第2の工程の後に、第2の工程で得られた窒化ホウ素粒子を1800℃以上で加熱する工程を備えていないことに起因すると考えられる。
【0033】
窒化ホウ素粒子中の中心部の径は、窒化ホウ素粒子の粒子径をdとしたときに、例えば、0.1d以上、0.15d以上、又は0.2d以上であってよく、0.6d以下、0.5以下、0.4d以下、0.35d以下、又は0.3d以下であってよい。窒化ホウ素粒子中の中心部の径は、例えば、1nm以上、5nm以上、10nm以上、20nm以上、又は30nm以上であってよく、400nm以下、300nm以下、200nm以下、又は100nm以下であってよい。窒化ホウ素粒子中の中心部の径は、上述したとおり定義される「高結晶性」の部分、すなわち、上記逆格子空間上の1~4nm-1の範囲で、h-BN(0002)面由来の周期性による輝点(ピーク)が存在する部分の径を意味する。
【0034】
窒化ホウ素粒子中の周囲部の厚さは、窒化ホウ素粒子の粒子径をdとしたときに、例えば、0.3d以上、0.33d以上、又は0.35d以上であってよく、0.45d以下、0.43d以下、又は0.4d以下であってよい。窒化ホウ素粒子中の中心部の径は、例えば、5nm以上、10nm以上、20nm以上、40nm以上、又は60nm以上であってよく、450nm以下、300nm以下、200nm以下、又は100nm以下であってよい。窒化ホウ素粒子中の周囲部の厚さは、上述したとおり定義される「低結晶性」の部分、すなわち、上記逆格子空間上の1~4nm-1の範囲で、h-BN(0002)面由来の周期性による輝点(ピーク)が存在しない部分の厚さを意味する。
【0035】
窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、窒化ホウ素粒子と樹脂とを混合した際の粘度増加を更に抑制できる観点から、好ましくは、0.01μm以上、0.05μm以上、0.1μm以上、又は0.15μm以上であり、窒化ホウ素粒子を含む放熱部材(以下、単に「放熱部材」ともいう)の絶縁破壊特性を向上させる観点から、1μm以下、0.8μm以下、0.6μm以下、又は0.4μm以下であってよい。
【0036】
窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、以下の手順により測定される。
窒化ホウ素粒子を分散させる分散媒として蒸留水を用い、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを用い、0.125質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を調製する。この水溶液中に0.1g/80mLの比率で窒化ホウ素粒子を加え、超音波ホモジナイザー(例えば、日本精機製作所製、商品名:US-300E)により、AMPLITUDE(振幅)80%にて超音波分散を1分30秒間で1回行うことで、窒化ホウ素粒子の分散液を調製する。この分散液を60rpmで撹拌しながら分取し、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(例えば、ベックマンコールター社製、商品名:LS-13 320)により体積基準の粒度分布を測定する。このとき、水の屈折率として1.33を用い、窒化ホウ素粒子の屈折率として1.7を用いる。測定結果から、累積粒度分布の累積値50%の粒径(メジアン径、d50)として平均粒子径を算出する。なお、このように測定される平均粒子径は、窒化ホウ素粒子の一次粒子に加えて、当該一次粒子同士が凝集した粒子(二次粒子)も含む窒化ホウ素粒子の平均粒子径であると考えられる。
【0037】
窒化ホウ素粒子の平均円形度は、放熱部材を作製する際の充填性を向上させ、放熱部材の特性(熱伝導性、誘電率など)を等方的にする観点から、好ましくは、0.8以上、0.82以上、0.84以上、0.86以上、0.88以上、0.90以上、0.91以上、0.92以上、0.93以上、又は0.94以上であってよい。
【0038】
窒化ホウ素粒子の平均円形度は、以下の手順で測定される。
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した窒化ホウ素粒子の像(倍率:10,000倍、画像解像度:1280×1024ピクセル)について、画像解析ソフト(例えば、マウンテック社製、商品名:MacView)を用いた画像解析により、窒化ホウ素粒子の投影面積(S)及び周囲長(L)を算出する。投影面積(S)及び周囲長(L)を用いて、以下に式:
円形度=4πS/L2
に従って円形度を求める。任意に選ばれた100個の窒化ホウ素粒子について求めた円形度の平均値を平均円形度と定義する。
【0039】
上述した窒化ホウ素粒子は、例えば、放熱部材に好適に用いられる。窒化ホウ素粒子は、放熱部材に用いられる場合、例えば樹脂と共に混合された樹脂組成物の形態で用いられる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、樹脂と、上記の窒化ホウ素粒子とを含有する樹脂組成物である。この樹脂組成物は、従来に比べて低粘度化が可能となっており、放熱部材として好適に用いられる。
【0040】
上記の窒化ホウ素粒子の含有量は、樹脂組成物の全体積を基準として、樹脂組成物の熱伝導率を向上させ、優れた放熱性能が得られやすい観点から、好ましくは30体積%以上、より好ましくは40体積%以上であり、更に好ましくは50体積%以上であり、成形時に空隙の発生、並びに、絶縁性及び機械強度の低下を抑制できる観点から、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下、更に好ましくは70体積%以下である。
【0041】
樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、及びAES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂が挙げられる。
【0042】
樹脂の含有量は、樹脂組成物の全体積を基準として、15体積%以上、20体積%以上、又は30体積%以上であってよく、70体積%以下、60体積%以下、又は50体積%以下であってよい。
【0043】
樹脂組成物は、樹脂を硬化させる硬化剤を更に含有していてよい。硬化剤は、樹脂の種類によって適宜選択される。例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合、硬化剤としては、フェノールノボラック化合物、酸無水物、アミノ化合物、及びイミダゾール化合物が挙げられる。硬化剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、例えば、0.5質量部以上又は1.0質量部以上であってよく、15質量部以下又は10質量部以下であってよい。
【0044】
上述した窒化ホウ素粒子は、例えば、容器に収容された形態で流通し得る。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上記の窒化ホウ素粒子と、窒化ホウ素粒子を収容する容器と、を備える収容体である。容器は、窒化ホウ素粒子を収容できる形状を有していればよく、例えば、袋、箱、瓶、缶等であってよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
(窒化ホウ素粒子の作製)
まず、第1の工程では、抵抗加熱炉内に設置された反応管(石英管)を加熱して、1150℃まで昇温した。一方、窒素ガスをホウ酸トリメチルに通した上で反応管に導入することにより、ホウ酸トリメチルを反応管に導入した。他方、アンモニアガスを反応管に直接導入した。ホウ酸トリメチルの導入量に対するアンモニアの導入量のモル比(アンモニア/ホウ酸トリメチル)は、4.5とした。これにより、ホウ酸トリメチルとアンモニアとを反応させて、窒化ホウ素粒子の前駆体(白色粉末)を得た。なお、反応時間は10秒間であった。
【0047】
続いて、第2の工程では、第1の工程で得られた前駆体を、抵抗加熱炉内に設置された別の反応管(アルミナ管)に入れ、窒素ガス10L/分、及びアンモニアガス15L/分の流量でそれぞれ別々に反応管内に導入した。そして、反応管を1500℃で2.5時間加熱した。これにより、窒化ホウ素粒子を得た。
【0048】
(窒化ホウ素粒子の観察及び結晶性の評価)
透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子株式会社製「JEM-2100」)を用いて、以下の条件にて得られた窒化ホウ素粒子を観察した。
対物レンズ絞り:φ120μm
集束レンズ絞り:φ150μm
記録媒体:AMETEK社製「OrisusSC1000A1」
Bining:2
露光時間:0.5秒間
また、TEM観察及び後述するFFT解析のための画像解析ソフトとして、AMETEK社製「GMS3」を用いた。
【0049】
得られた窒化ホウ素粒子全体のTEM明視野像(倍率:100,000倍)を
図1に示す。また、
図1に示される窒化ホウ素粒子のうち一粒子を拡大した像を
図2(a)に、
図2(a)に示される窒化ホウ素粒子の周囲部Sについて、400,000倍で観察したTEM暗視野像を
図2(b)にそれぞれ示す。
【0050】
図1から分かるとおり、窒化ホウ素粒子は円形の平面形状を呈していた。また、
図2(b)から分かるとおり、窒化ホウ素粒子の最表面(周囲部の最表面)は複数の板状窒化ホウ素結晶子で構成されており、かつ、当該複数の板状窒化ホウ素結晶子が互いに異なる方向に延びるように配置されていることにより、窒化ホウ素粒子の最表面(周囲部の最表面)が凹凸状となっていた。この凹凸は、10nm×10nmの範囲内に収まっていた。
【0051】
続いて、
図2(b)における8.556nm角の領域S1に対してFFT解析を行い、256×256ピクセルのFFT像を取得した。得られたFFT図形について、
図3(a),(b)に示すように、逆格子空間上の1~4nm
-1の範囲で、h-BN(0002)面由来の周期性による輝点(ピーク)が確認された。つまり、窒化ホウ素粒子の周囲部Sにおける領域S1は、高結晶性の窒化ホウ素で構成されていることが確認された。
【0052】
また、
図4に示すように、窒化ホウ素粒子の周囲部Sにおける他の領域S2~S5についても、領域S1と同様にしてFFT解析を行った。その結果、
図4及び
図5に示すように、逆格子空間上の1~4nm
-1の範囲で、h-BN(0002)面由来の周期性による輝点(ピーク)が確認された。つまり、窒化ホウ素粒子の周囲部Sにおける領域S2~S5も、高結晶性の窒化ホウ素で構成されていることが確認された。
【0053】
また、
図1に示される窒化ホウ素粒子の中心部Cについて、400,000倍で観察したTEM暗視野像を
図6に示す。
図6に示すように、窒化ホウ素粒子の中心部Cにおける他の領域C1~C4についても、領域S1と同様にしてFFT解析を行った。その結果、
図6及び
図7に示すように、逆格子空間上の1~4nm
-1の範囲で、h-BN(0002)面由来の周期性による輝点(ピーク)が確認されなかった。つまり、窒化ホウ素粒子の中心部Cにおける領域C1~C4は、低結晶性の窒化ホウ素で構成されていることが確認された。
【0054】
なお、
図3(b)、
図5及び
図7に示すグラフは、B-スプライン法にてバックグラウンドを差し引いた後の強度を示すグラフである。また、
図3(b)
図5及び
図7に示すグラフより、領域S1~S5及びC1~C4の各領域について、逆格子空間上の1~4nm
-1の範囲における最大強度(相対強度)Smaxと、ノイズ強度(逆格子空間上の4nm
-1を超え6nm
-1以下の範囲における標準偏差)Nと、これらの比(Smax/N)とを求めた。結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
以上のとおり、得られた窒化ホウ素粒子の周囲部には高結晶性の窒化ホウ素が含まれており(上述した輝点(ピーク)が確認できる領域が支配的であり)、中心部には低結晶性の窒化ホウ素が含まれている(上述した輝点(ピーク)が確認できない領域が支配的である)ことが分かった。また、中心部の径は約40nmであり、周囲部の厚さは約50nmであった。
【0057】
(平均円形度の測定)
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した窒化ホウ素粒子の像(倍率:10,000倍、画像解像度:1280×1024ピクセル)について、画像解析ソフト(例えば、マウンテック社製、商品名:MacView)を用いた画像解析により、窒化ホウ素粒子の投影面積(S)及び周囲長(L)を算出した。次に、投影面積(S)及び周囲長(L)を用いて、以下に式:
円形度=4πS/L2
に従って円形度を求めた。任意に選ばれた100個の窒化ホウ素粒子について求めた円形度の平均値を平均円形度として算出した。得られた窒化ホウ素粒子の平均円形度は、0.94であった。
【0058】
(平均粒子径の測定)
窒化ホウ素粒子を分散させる分散媒として蒸留水を用い、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを用い、0.125質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を調製した。この水溶液中に0.1g/80mLの比率で窒化ホウ素粒子を加え、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製、商品名:US-300Eを使用)により、AMPLITUDE(振幅)80%にて超音波分散を1分30秒間で1回行うことで、窒化ホウ素粒子の分散液を調製した。この分散液を60rpmで撹拌しながら分取し、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製、商品名:LS-13 320)により体積基準の粒度分布を測定した。このとき、水の屈折率として1.33を用い、窒化ホウ素粒子の屈折率として1.7を用いた。測定結果から、累積粒度分布の累積値50%の粒径(メジアン径、d50)として平均粒子径を算出した。得られた窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、510nmであった。
【0059】
[比較例1]
実施例1の第2の工程の後に、窒化ホウ素粒子を窒化ホウ素製ルツボに入れ、誘導加熱炉において、窒素雰囲気下にて2000℃で5時間加熱した以外は、実施例1と同様にして、比較用窒化ホウ素粒子を得た。
【0060】
得られた比較用窒化ホウ素粒子について、実施例1と同じ装置及び条件により得られたTEM像を
図8に示す。
図8(a)は、100,000倍で観察した比較用窒化ホウ素粒子全体のTEM像であり、
図8(b)は、400,000倍で観察した比較用窒化ホウ素粒子の周囲部のTEM像である。
【0061】
図8(a)から分かるとおり、窒化ホウ素粒子は多角形の平面形状を呈していた。また、
図8(b)から分かるとおり、窒化ホウ素粒子の最表面(周囲部の最表面)は略平面状となっていた(10nm×10nmの範囲内に収まるような凹凸は観察されなかった)。
【0062】
<粘度の測定>
実施例1で得られた窒化ホウ素粒子、及び比較例1で得られた比較用窒化ホウ素粒子について、以下の手順で樹脂組成物としたときの粘度を測定した。
エポキシ樹脂(DIC社製、商品名「HP-4032D」)86体積部と、窒化ホウ素粒子14体積部とを混合して樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物について、レオメータ(アントンパール社製「MCR92」にて、上部治具としてφ25mmのパラレルプレートを用い、温度:40℃、せん断速度:0.01~100s
-1の条件で粘度を測定した。得られた結果を
図9に示す。