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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】レーザービトレオライシス用の装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/008 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
A61F9/008 130
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022521535
(86)(22)【出願日】2020-09-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2020075072
(87)【国際公開番号】W WO2021069168
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-07-26
(31)【優先権主張番号】102019007147.6
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】502303382
【氏名又は名称】カール ツアイス メディテック アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ハッカー、マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ディック、マンフレート
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0326003(US,A1)
【文献】特表2010-538704(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0147087(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0028354(US,A1)
【文献】米国特許第05984916(US,A)
【文献】特開2016-154790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/008
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼のためのレーザービトレオライシス装置であって、OCDRシステムと、偏向ユニットを有するレーザーシステムと、OCDRと前記レーザーシステムを結合するための光学要素と、ディスプレイユニットと、中央制御および処理ユニットとを備え、前記OCDRシステムは、浮遊物の位置を特定するように設計されており、前記レーザーシステムは、レーザーパルスによって浮遊物を破壊するように設計されており、前記中央制御および処理ユニットは、前記レーザーシステムの焦点位置に対する、かつ眼の組織に対する1つまたは複数の浮遊物の固定位置に基づいて前記レーザーシステムを起動するように設計されている装置において、前記中央制御および処理ユニットは、治療中に局所的な浮遊物に最も近い眼の組織の変化を決定して、治療の中止基準を導出するようにさらに設計されていることを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記中央制御および処理ユニットは、治療のために導出された除外基準と、生成されるか、または選択される用途固有の照射パターンとを考慮して、浮遊物の検出後10ミリ秒未満の期間内に前記レーザーシステムを自動的にトリガするように設計されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記OCDRシステム、偏向ユニットを有する前記レーザーシステム、OCDRと前記レーザーシステムを結合するための前記光学要素、前記ディスプレイユニット、および前記中央制御および処理ユニットが、細隙灯に組み込まれていることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記OCDRシステムは、スペクトル領域法または掃引光源法に基づくことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記レーザーシステムが、μsレーザー、nsレーザー、psレーザーまたはfsレーザーに基づくことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記OCDRシステムと前記レーザーシステムとの波長の差が50nm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記OCDRシステムは、眼に設定可能な使用レーザーシステムの最小レイリー長よりも優れた軸方向分解能を有することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
請求項1に記載の装置を使用して、ビトレオライシス用レーザーを制御する方法であって、浮遊物がOCDRによって眼の硝子体液中で検出され、浮遊物が検出された場合、レーザーが浮遊物に焦点が合わせられ、少なくとも1つのレーザーパルスが浮遊物に向かって照射される、方法。
【請求項9】
求項1に記載のビトレオライシス用レーザーを制御する方法であって、レーザー焦点が眼の硝子体液を通して誘導され、OCDRによってレーザー焦点内に浮遊物が位置するかどうかの適時の検出が行われ、浮遊物が検出された場合、少なくとも1つのレーザーパルスがトリガされる、方法。
【請求項10】
オペレータが、眼の組織からの距離に基づいて、レーザー処理が起動可能である処理領域を定義または変更することができることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
レーザーエネルギー、OCDRに対するレーザー焦点シフト、レーザー波長、またはレーザーパルス数などのレーザーパラメータが、共通の合焦ユニットによって変更される焦点位置に応じて、かつ/または眼の組織からの距離に応じて変更されることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
OCDRは、レーザーと比較してより小さな開口数を有することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝子体混濁をレーザーにより治療するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
硝子体液は、水晶体と網膜の間の眼球内部にある、通常は透明なゲル状の物質からなる。若年者では、硝子体液は完全に透明であり、かつ網膜と接触している。硝子体液は一生涯の間に液化して、網膜から次第に剥がれていく。これは、後部硝子体剥離と呼ばれる。これは通常50歳以降に発生する正常な加齢現象である。剥離した硝子体液成分は眼球内部に集まり、異なる速度で液化する骨格物質と、硝子体液の塊とが患者に対して可視状態となる。また、それらは眼球運動の結果として視野を横切って移動することもあるため、飛蚊症とも呼ばれる。飛蚊症の原因として、硝子体液剥離後の硝子体液の後側にも膜様構造物が存在することが多く、硝子体液剥離時に網膜に損傷が発生した場合は、血液の残骸が残っていることさえもある。まれに、代謝障害がある場合、硝子体液内に浮遊物が結晶様の沈殿物として存在することもある。
【0003】
飛蚊症の原因が通常は病的なものでなくても、飛蚊症は、影響を受ける当事者の生活の質および作業の生産性を損なう可能性があり、場合によっては著しく損なう可能性があるため、一般的に考えられているほど無害ではない。
【0004】
この混濁は、例えば、コンピュータで作業しているとき、読書をしているとき、または青い空や雪を見ているときなど、明るい背景に対して特に認識され、視覚機能を妨げる。特に、読書時の読書の動きの結果として中心視野に出入りする浮遊物は厄介である。
【0005】
これらは、しばしば「飛翔ブヨ」の形で認識されることが多いため、仏語に由来する専門用語「飛行ハエ(mouches volantes)」を使用して説明される。しかしながら、混濁は、例えば、枝状、リング状、星状など様々な形状をとり得るか、または、点群として存在する場合もある。以下の説明では、治療対象となる硝子体液混濁の種類または形態に関係なく、「浮遊物」という用語を治療対象となる硝子体液混濁に対して使用する。
【0006】
一般に、浮遊物は、免疫系がこれらを異常であると認識せず、従って、これらを破壊しないため、治療なしでは消失しない。しかしながら、影響を受ける当事者は、それらを無視したり見過ごしたりすることはほとんどできない。網膜出血後の残留血液によって引き起こされるなどの、特定の種類の浮遊物は、たとえ数週間または数か月かかったとしても、再び体内に部分的に吸収される。
【0007】
硝子体切除術として知られているものでは、切削工具を使用して眼を切開した後に、硝子体液が部分的に(コア硝子体切除術)または完全に粉砕され、吸引され、除去される。このような手術は、網膜剥離または網膜上膜剥離の場合に日常的に実施されるが、通常、局所的な硝子体液混濁を除去するためには不釣り合いな治療法であると考えられている。さらに、硝子体切除術は侵襲的であり、診療所に入院する必要があり、外科的手術に関連するリスク、特に、白内障を頻繁に引き起こし、まれに網膜剥離、ごくまれに眼内炎を引き起こす可能性がある。
【0008】
所謂レーザービトレオライシス(独語:Laser-Vitreolyse、英語:laser vitreolysis)は、現在、低リスクの代替治療法として提供されている。レーザービトレオライシスは、眼を切開することなく、硝子体液混濁を霧状化または蒸発させることができる、穏当で、低リスクおよび無痛のレーザー治療である。
【0009】
レーザービトレオライシスでは、焦点領域における高いレーザー強度により、硝子体液混濁での光学的破壊または光切断を得るために、硝子体液混濁に短いレーザー光パルスが照射される。浮遊物およびその周囲の硝子体液はレーザーエネルギーを吸収し、切断および/または膨張レーザープラズマが形成され、その結果、浮遊物は気化および/または粉砕され、その結果、よりよく溶解するか、または、少なくとも中央視野から除去することができる。治療はほとんど痛みを引き起こさず、感染のリスクがない。レーザービトレオライシスは、重要で敏感な眼の組織、例えば、水晶体嚢、水晶体、または網膜領域(特に、黄斑)がレーザーによって損傷を受けないことを保証することが可能である場合、煩わしい硝子体液混濁の穏当な治療のための安全な方法を提供する。
【0010】
しかしながら、治療の成功は浮遊物の種類によって異なる。視神経乳頭の周囲の硝子体液の剥離によって形成され、中心視野に分裂的に移動することもある、所謂ワイスリングまたは浮遊リングの場合に、治療は、特に成功する。組織束を切断し、邪魔な影の原因となる組織塊を視覚領域から根絶するか、または取り除くことができる。
【0011】
過去30年以上の間(ブラッセ(Brasse)、ケイ.ヴァルケンバーグ(K.、Schmitz-Valckenberg)、エス.ユーネマン エイ.(S.Juenemann,A.)他、Ophthalmologe(2019)116:73.https://doi.org/10.1007/s00347-018-0782-1)、飛蚊症は、YAGレーザー(例えば、1064nmのNd:YAG)で治療されてきたが、このレーザー治療は、IOL裏面の細胞増殖を除去するための既知のレーザー白内障後治療、または、または例えば、糖尿病性網膜症の場合、または剥離網膜領域の締め付け固定または網膜穴(孔)の位置の確保の場合に、周波数増倍YAGレーザー(532nm)による網膜部位の局所凝固のための網膜治療よりも大幅に普及していない。網膜治療には、緑色のレーザーバージョンに加えて、網膜への所望の浸透深度に応じて、赤色および黄色のレーザーを使用することもできる(VISULAS Trion)(表面付近の治療には緑色、より深い網膜層または色素沈着網膜層には黄色および赤色、脈絡膜にはIR)。レーザービトレオライシスの使用があまり普及していないのは、主に、治療用レーザーによる網膜、水晶体、または水晶体嚢の損傷の可能性に関する不確実性、および非常に時間のかかる手動治療自体に起因する可能性がある。このため、レーザービトレオライシスは、従来、この点を専門とする非常に経験豊富な眼科医によって主に実施されてきた。
【0012】
レーザービトレオライシスに使用されるレーザーシステムの例としては、メリディアン社(MERIDIAN)のMicroruptor II、レーザーエックス社(Laserex)のLQP4106レーザー、エレックス社(Ellex)のUltra-Q-Reflexが含まれる。
【0013】
既知の先行技術によれば、眼の組織、特に、硝子体液に対してレーザー手術を実施するための多数の解決策が既に存在する。
従って、特許文献1は、組織、特に、眼の硝子体液に対するフェムト秒レーザー手術の装置および方法を説明している。この装置は、パルス長が約10fs~1ps、特に、300fsの程度、パルスエネルギーが約5nJ~5μJ、特に、約1~2μJ、パルス繰り返し周波数が約10kHz~10MHz、特に、500kHzの超短パルスレーザーで構成されている。レーザーシステムは、三次元での焦点位置の空間的変化を可能にするスキャンシステムに結合されている。この治療用レーザースキャナ光学システムに加えて、装置はさらに、それに結合されたナビゲーションシステムを備える。
【0014】
特許文献2は、様々な深さで眼の組織に切断を生成するためのシステムおよび方法を説明している。システムおよび方法は、眼の組織内の異なる深さに位置する異なる焦点に光を集束させる(場合によってはパターンで)。セグメント化されたレンズを使用して、複数の焦点を同時に作成することができる。最適な切断は、光が異なる深さに連続的または同時に集束され、拡張されたプラズマカラムと拡大されたウエストを備えたビームが生成されることによって得ることができる。この事例で説明する技術は、とりわけ、新たな眼科的方法を実行するために、または後極部における組織(例えば、浮遊物、膜、および網膜)の解剖を含む既存の方法を改善するために使用することもできる。
【0015】
特許文献3はまた、レーザービームを生成するためのレーザーユニットおよび標的組織の画像を生成するための検出器を含む、眼の硝子体液内の標的組織を治療するためのシステムおよびその方法を説明している。このシステムには、標的組織を乳化するための焦点経路を規定するコンピュータも含まれている。コンピュータに接続されたコンパレータが、レーザービームの焦点を移動させるためにレーザーユニットを制御する。この焦点の移動は、規定の焦点経路からの焦点のずれを最小限に抑えながら、標的組織を治療するために実行される。
【0016】
特許文献4は、同様に、眼の硝子体液の部分硝子体切除を実施するための、コンピュータ制御レーザーシステムを使用するシステムおよび方法に関する。外科的には、硝子体液を通る光路が最初に形成される。次に、光路内の硝子体状の懸濁した堆積物(浮遊物)がアブレーションされ、場合によっては、光路から除去される(例えば、吸引される)。場合によっては、アブレーションされた物質を置換するために、透明な液体を光路に導入して、妨げのない透明性を光路に確立することができる。一般に、本発明は、眼科用レーザー手術のためのシステムおよび方法に関する。特に、本発明は、飛蚊症として知られているものを除去するためにパルスレーザービームを使用するためのシステムおよび方法に関する。
【0017】
特許文献5は、同様に、眼への眼科的介入のための方法およびシステムを説明している。望ましくない特徴は、眼の少なくとも一部の画像に基づいて識別される。
硝子体液腔内の望ましくない特徴は、例えば、浮遊物などの視力の障害となる硝子体混濁の症例であると考えられる。浮遊物が識別されてその位置が特定されると、医師が浮遊物を目視で確認し、手動でレーザーパルスを「照射」する。レーザーエネルギーは、硝子体様混濁の少なくとも一部を蒸発させる。この手順は、硝子体液の混濁が除去されるまで繰り返される。硝子体液の液体が十分に透明であると見なされるまで、硝子体液の混濁の各症例について、全手順が繰り返される。
【0018】
エレックス社(ELLEX)(エレックス・メディカル・ピーティーワイ・リミテッド(Ellex Medical Pty Ltd.)による製品パンフレット「タンゴ レフレックス-レーザー飛蚊症治療(Tango Reflex-Laser Floater Treatment)」、PB0025B、2018(http://www.ellex.com))によって説明されている方法は、硝子体液混濁を分解するか、またはガスへの変換によって硝子体液混濁を完全に除去するために、パルスナノ秒レーザー(YAG)の使用を提供する。パイロットレーザービームを使用して標的領域(浮遊物)に照準が合わせられ、その後、1つまたは複数の治療用レーザーパルスを使用して標的領域が「照射」される。この場合、パイロットレーザービームと治療用レーザーパルスの両方がユーザによって手動でトリガされる。このような手動のレーザー治療は、通常、2つの個別の治療からなり、それぞれの治療時間は20~60分である。
【0019】
レーザービトレオライシスの範囲内でのレーザーエネルギーの使用は非侵襲的であり、外科的介入の不利な点を回避するが、不利な点およびリスクも伴う。
従って、レーザーの照準合わせは困難であり得る。医師はビーム経路に沿って硝子体液を観察するため、網膜の位置の深さ、硝子体液の混濁の深さ、またはその他の関連する特徴を決定するのが困難な場合がある。結果として、硝子体液の混濁が見落とされたり、かつ/または眼が損傷したりするリスクがある。
【0020】
特に、位置が変化して認識が困難であるが、位相物体として網膜上に厄介な影を生成することが可能な、大部分が透明な浮遊物の処理は困難であることが分かった。
レーザーエネルギーの印加により、硝子体液の混濁がさらに進行して、治療がさらに困難になる可能性がある。その結果、レーザーエネルギーを印加するたびに、医師がレーザーを再調整する。これには多くの時間を要し得る。従って、レーザーエネルギーによる治療は複雑であり、患者と医師の両方にストレスを引き起こす。
【0021】
さらに可能性のある問題は、不完全な硝子体液剥離に関連しており、これは、網膜剥離に至るまで局所硝子体牽引につながり得る。硝子体液内のレーザー治療は、当該治療の結果として伝播する衝撃波のために硝子体液内の力のバランスの変化をもたらす可能性があり、それによって、例えば、網膜に張力を生じさせる。
【0022】
最後に、敏感な眼の組織の近くに位置する浮遊物の治療も特に困難であることが分かった。この場合、レーザー照射は、網膜(特に、黄斑)、水晶体、または水晶体嚢に損傷を与える可能性がある。敏感な領域は、同様に硝子体牽引の周囲であり得る。即ち、完全に剥離していない硝子体液が網膜を引っ張る領域であり、機械的負荷の場合、網膜剥離のリスクがある。一例として、OCTでは、網膜層の局所的な尖った隆起によって、そのようなゾーンを識別することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】独国特許出願公開第102011103181号明細書
【文献】米国特許出願公開第2006/195076号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/257257号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/342782号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/028354号明細書
【発明の概要】
【0024】
本発明は、既知の技術的解決策の欠点を修正する、硝子体液混濁のレーザー治療のための解決策を開発するという目的に基づく。この解決策は、レーザービトレオライシスによる厄介な硝子体液混濁のより簡単で、より迅速で、特により安全な治療を可能にする。さらに、この解決策は、実装が簡単で経済的に費用対効果が高く、理想的には現在のレーザー治療からの再調整をほとんど必要としない。
【0025】
この目的は、OCDRシステム、合焦ユニットを有するレーザーシステム、OCDRとレーザーシステムを結合するための光学要素、ディスプレイユニット、中央制御および処理ユニットを備える提案されたレーザービトレオライシス装置を使用して、OCDRシステムが、OCDRシステムの光軸に沿って浮遊物の相対位置を特定するように設計されており、レーザーシステムが、レーザーパルスによって浮遊物を破壊するように設計されており、中央制御および処理ユニットが、レーザーシステムを浮遊物の相対位置に焦点を合わせ、特にレーザー焦点と浮遊物の相対位置とが十分に対応している場合、レーザーシステムを起動するように設計されていることによって達成される。
【0026】
本発明によれば、目的は、独立請求項の特徴によって達成される。好ましい展開および実施形態は、従属請求項の主題である。
この場合、OCDR(=光コヒーレンス領域反射率測定(optical coherence domain reflectometry))という用語は、干渉測定によって眼内の散乱構造の相対位置または間隔を決定するための方法の全体を指す。
【0027】
この場合、OFDR(光周波数領域反射率測定)法、特に、独国特許出願公開第1028080632252号明細書に記載されているような所謂掃引光源OFDR法が特に優先され、その内容全体が本明細書で参照される。分光計ベースのSD-OCDRまたはTD-OCDRとしての実施形態は可能であるが、好ましくない。
【0028】
この場合、OCDRシステムのレーザービームと測定ビームが同一直線上に重ねられ、同一のまたは実質的に同一の波長を有し、同一または実質的に同一に焦点が合わせられると、特に有利である。OCDRシステムの他の波長、例えば、約780~840nmまたは1320nmを使用する場合、1064nmのYAGレーザー波長と比較して、YAGレーザーの焦点位置に対する、特に、網膜および水晶体後嚢膜の相対位置に対するOCDRシステムの測定信号の較正が必要であり、かつ意図される。この較正は、人工試験眼を使用して事前に実行することができる。
【0029】
好ましくは、OCDRシステムは1060nmの波長で動作し、かつ少なくとも100Hz、より好ましくは1~10kHzの周波数で、少なくとも眼球全長のAスキャン(理想的には組織内で40mmのうち30mmまで)を生成することが可能であり、軸方向の測定分解能が組織内で好ましくは20μm、より好ましくは10μmまたは5μmである。
【0030】
さらに好ましくは、システムは、ほぼ同じ周波数でそのようなAスキャンを評価し、数ミリ秒の程度の低いレイテンシ(100ミリ秒未満、理想的には20ミリ秒未満、10ミリ秒未満、または5ミリ秒未満)で眼の組織(角膜、水晶体、網膜)と可能性のある浮遊物の相対位置を決定し、安全基準が満たされたときにレーザーをトリガする。例として、この安全基準は、敏感な眼の組織からの最小距離とすることができる。これらの距離は、眼の組織の種類に依存し、例えば、感度の低いまたは重要度の低い網膜周辺領域よりも感度の高い黄斑の方が大きくなり得る。特に、最小距離は、切断、気化または霧化プラズマ効果、音響衝撃波、および熱組織凝固が組織を変化させないように、または許容できる範囲でのみ組織を変化させるように設計する必要がある。1064nmのYAGレーザーの場合、レーザー焦点の例示的な最小距離は、黄斑から約2~3mm、水晶体嚢および網膜周辺領域から1.5~2mmとすることができる。また、この処置により、眼球運動によって浮遊物を敏感な領域(黄斑の前方)から例えば網膜周辺部の前方領域に一時的に移動させて、本発明による高速レーザービトレオライシスによってその場所で浮遊物を霧状にすることが可能となる。
【0031】
この場合、最小距離は、使用するレーザーエネルギー、パルス数(バースト)、網膜の色素状態、水晶体(天然水晶体またはIOL)の状態、または調整可能な焦点距離に依存し得る。
【0032】
特に、医師自身が、例えば、OCDR表示のカーソル線によって、例えば、経験に基づく手動の定義によって、除外ゾーンおよび処理ゾーンを定義することも可能である。
さらに、本発明によれば、検出された浮遊物にレーザー焦点を設定することができるか、またはレーザー焦点で浮遊物を掃引することができる合焦ユニットが提供される。この焦点合わせは、本発明による解決策の結果として、迅速に(例えば、スキャン方式または追跡方式で)、即ち、数10ミリ秒から100ミリ秒以内に、または手動でゆっくりと実施することができ、同時に、浮遊物をレーザーで処理する際に高い精度を維持することができる。
【0033】
さらなる構成によれば、中央制御および処理ユニットは、治療のために導出された除外基準を考慮に入れて、50ミリ秒未満、より良好には20ミリ秒未満、好ましくは10ミリ秒未満、特に好ましくは5秒未満の期間内に自動的にトリガするように設計される。
【0034】
有利な構成は、特に、当該浮遊物の相対位置に加えて、眼の組織からの局所的な浮遊物の距離を決定し、治療のための除外基準を導出するように設計された中央制御および処理ユニットに関連する。
【0035】
有利なことに、中央制御および処理ユニットは、治療中に局所的な浮遊物に最も近い眼の組織の変化を決定し、治療の中止基準を導出することが可能である。例示的な中止基準は、網膜出血の発症の検出であり得、これは、Aスキャンにおいて、網膜の前方に新たに生じた、有意に散乱するが吸収もする構造(「影」が突然、後部組織のOCDR信号を減衰させる)として表されるか、または、硝子体牽引の場合に治療中の網膜剥離の増加、または眼圧の増加の結果としての軸長(角膜から網膜まで)の増加として表される。
【0036】
本発明は、硝子体液混濁の穏当で、低リスクで、無痛のレーザー治療のために提供される装置に関する。部分的または完全に自動化された治療装置(システム)が提案され、治療の範囲内で浮遊物を特定し、OCDRによって浮遊物が検出された場合に、レーザーが浮遊物に十分に焦点を合わせていれば、実質的に自動的にトリガされる少なくとも1つのレーザーパルスによって治療を支援するために、ナビゲーションおよび治療制御に関してOCDRシステムが使用される。この場合、この焦点合わせは、焦点追跡(相対的な焦点位置と相対的な浮遊物位置との間の軸方向距離の反復的な減少、即ち「追跡」)によって、または相対的な浮遊物位置を掃引する周期的な焦点スキャンによって、あるいは、手動で浮遊物に焦点を合わせることによって実施することができる。浮遊物上でのレーザーの十分に良好な焦点合わせは、このずれの場合に知覚できるほどの不良な浮遊物処理(霧化および/または気化)がないことを意味するものと理解され、これは、一般的に、相対的な位置ずれがこの方向のレーザー焦点寸法よりも小さい場合であり、特に、ずれがレーザー焦点寸法の75%未満、50%未満、25%未満、または10%未満の場合である。
【0037】
本発明はまた、ビトレオライシス用レーザーを制御する方法に関し、浮遊物がOCDRによって眼の硝子体液中で検出され、浮遊物が検出された場合、レーザーが浮遊物に焦点が合わせられ、少なくとも1つのレーザーパルスが浮遊物に向かって照射される。
【0038】
ビトレオライシス用レーザーを制御する別の方法では、レーザーの焦点が眼の硝子体液を通して誘導され、同時に、OCDRを使用して、浮遊物が時間依存のレーザー焦点位置に位置するかどうかが検出され、浮遊物がその位置で検出された場合、レーザーの焦点が浮遊物の位置に達した時点で、少なくとも1つのレーザーパルスがトリガされる。
【0039】
以前の解決策は、硝子体液の(多かれ少なかれ)完全な画像を取得し、医師(ELLEX Tango Reflex)によって、または自動化された方法で浮遊物の位置を特定し、その後、治療用レーザーをその位置に位置合わせし、レーザー照射をトリガすることを提供してきた。人間の反応時間または自動レーザーアライメントに必要な時間の結果として、また画像の記録および浮遊物の自動的な位置特定に必要な時間の結果として、レーザーがトリガされたときに、浮遊物は依然として疑わしい位置にあり、従って、レーザーの焦点内にあることは保証されない。一般的な眼球運動が1mm/sの場合、浮遊物は、20ミリ秒以内に約20μm既に移動し、従って、例えば、10μmのレーザー焦点から外れる可能性がある。さらに、浮遊物(その呼称の通り)は、通常、眼球構造(虹彩などの「ランドマーク」、視神経乳頭、黄斑、血管などの網膜組織)に関連して動くため、眼球運動を追跡する装置(アイトラッカー)は、この場合、しばしば失敗することがある。
【0040】
好ましくは、システムは、最大三次元での自動ビーム偏向(スキャン)のための電気機械偏向ユニット(ガルバノスキャナ)、電気光学偏向ユニット(音響光学変調器)またはモータ駆動(レンズ変位)偏向ユニットを有する。
【0041】
レーザーシステムが焦点を合わせるとき、標的位置と局所的な浮遊物との間のプログラムされた焦点のずれを考慮することが望ましい。
レーザービームによって生成される音響衝撃波も利用するためには、浮遊物に対する前方位置が好ましく、かつ中央制御および処理ユニットのユーザ設定で設定される。
【0042】
中央制御および処理ユニットによって決定される、局所的な浮遊物と眼の組織との間の距離は、レーザー処理のための除外基準を導出するのに役立つ。即ち、局所的な浮遊物と網膜、中心窩、水晶体などとの間の距離が小さすぎる場合、レーザー治療が結果として出血、網膜病変、または網膜剥離を引き起こす可能性がある。
【0043】
さらに、処理ゾーンと除外ゾーンは、局所的な浮遊物の座標から決定することができる。
第一に、これらは処理レーザー焦点の位置決めの自動最適化を実現するのに役立つ。第二に、処理は、処理レーザーの焦点が除外ゾーンの外側または処理ゾーン内にある場合にのみ許可される。
【0044】
予想される光学的および音響的な波の負荷に関しては、除外ゾーンとしては、1.5mmを超える距離で十分であるが、眼の敏感な領域に関しては、2~3mmを超える距離を適用する必要がある。
【0045】
処理レーザーの焦点が除外ゾーンに近づくと、ユーザに(音響的および/または光学的に)警告することができる。さらに、敏感な組織への接近を認識し、これを表示または音響的に報告することも可能である。しかしながら、レーザーが除外領域にある限り、レーザー処理を中止したり、レーザーを動作停止することもできる。
【0046】
硝子体液混濁には様々な形態があり、様々な治療法で治療することができる。
所謂ワイスリング浮遊物は比較的大きく、繊維状のリング状の浮遊物であり、通常、眼の水晶体および網膜から安全な距離に位置している。結果として、これらの飛蚊症はレーザービトレオライシスによって安全かつ効果的に治療することができる。
【0047】
繊維状ストランドの形の浮遊物は、比較的若年者に頻繁に発生し、点の集まりまたは糸状の繊維として認識される。大きさおよび位置によっては、これらの飛蚊症はレーザービトレオライシスによって治療することもできる。
【0048】
対照的に、拡散(雲のような)浮遊物は自然老化に起因するものである。この種の飛蚊症はレーザービトレオライシスによっても治療できるが、満足のいく結果を得るためには、多くの治療が必要になる。
【0049】
好ましい構成に従って、中央制御および処理ユニットは、レーザー治療の前に、局所的な浮遊物の種類(例えば、ワイスリングまたは血液残留物)を判定し、治療基準、例えば、適切なレーザーエネルギー、適切なレーザー波長、または適切なレーザーパルス数を導出するように設計されている。浮遊物の種類は、OCDR信号強度(即ち、後方散乱能力)、吸収(例えば、凝血塊の背後にある後部組織からの信号のより有意な減少を決定することによって)、大きさ(特に、軸方向の範囲)、位置(例えば、視神経乳頭の近傍)、移動度、またはレーザー治療に対する反応によって決定することができる。
【0050】
好ましい構成に従って、中央制御および処理ユニットは、治療中に局所的な浮遊物に最も近い眼の組織の変化または位置の変化を判定し、治療の中止基準を導出するように設計されている。例として、最も近い組織は、水晶体嚢または硝子体網膜界面であり得る。
【0051】
本発明によれば、治療中に中止するか継続するかの決定が導き出される。
この点で、好ましい基準としては、
・網膜層の相対位置の変化の限界を超えること(例えば、網膜領域の前方向への局所的な移動)、または
・レーザー効果の結果としての眼圧変化のしきい値を超えること、
・治療中に発症する中止基準としての出血、が挙げられる。
【0052】
特に好ましくは、敏感な眼の組織に対する浮遊物の位置は、OCDRの結果から自動的に検出される。この目的のために、水晶体後嚢と網膜組織との間の距離は、OCDRシステムによって決定され、かつOCDRによって追跡されるべき最も近い敏感な組織に関してそれぞれの決定を行うために使用される。
【0053】
治療を継続する場合は、OCDRを使用して、治療を継続できるか、中止する必要があるかについて治療の経過を追跡する。
特に、中止基準を導出することにより、硝子体処理の結果として硝子体網膜界面での力の機械的バランスが不利に展開して、その後の網膜病変または網膜剥離さえも起こり易くなることが防止される。
【0054】
局所的な浮遊物が処理レーザーの焦点領域から移動するのを防止するために、本発明に従ってレーザーの焦点が浮遊物に重ねられた後、10ミリ秒未満の期間内に処理レーザーがトリガされる。
【0055】
本発明によれば、OCDRとレーザーシステムを結合するための光学要素は、ダイクロイックまたは偏光感受性光学部品(例えば、波長感受性スプリッタ、偏光スプリッタキューブ、または波長非依存スプリッタ(これらは、例えば、OCDR測定光の30%を眼に、70%を処理レーザーにステアリングする)に基づくか、または幾何学的組み合わせ(瞳分割)を使用する。後者の場合、OCDRと処理レーザービームの間の小さな角度は、例えば、小さすぎない浮遊物を処理することを意図し、少なくとも処理ゾーン内で2つのビーム間の十分な重なりが達成される場合、許容され得る。
【0056】
好ましくは、眼におけるOCDRビームの開口数が処理レーザーの開口数よりも小さくなるように、重ね合わせる前にOCDRおよびレーザーのビーム断面積が選択される。この設定の利点は、軸方向の焦点位置の場合、他の開口数の構成の場合よりも、OCDR信号における信号強度の変化が顕著に変化しないことである。
【0057】
好ましくはないが、例えば、透過窓を有する高速回転ミラーを使用して、処理レーザーとOCDRビームを非常に迅速に切り替えることができるように、ビーム経路にミラーを非常に短時間に導入することも可能である。
【0058】
ダイクロイック光学部品による結合は、例えば、狭帯域Nd:YAG処理レーザーを透過し、より広帯域のOCDRビームを反射するノッチフィルタによって実施されることが好ましい。
【0059】
ディスプレイユニットとして、オーバーレイディスプレイ付き接眼レンズ、ヘッドマウントディスプレイ、および/またはセパレートディスプレイ(ビジュアルディスプレイユニット)を使用することができる。
【0060】
さらに好ましい構成によれば、OCDRシステム、偏向ユニットを有するレーザーシステム、OCDRとレーザーシステムを結合するための光学要素、ディスプレイユニット、および中央制御および処理ユニットは、細隙灯に組み込まれている。
【0061】
この利点は、ユーザが細隙灯を使用して眼の後部を観察し、硝子体液の混濁を事前に特定できること、および、例えば、治療の除外基準を表すことができる、存在する可能性のある他の病理(例えば、末梢網膜剥離)を検出することができることである。
【0062】
本発明を、例示的な実施形態に基づいて以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】細隙灯に組み込まれたOCDR支援レーザービトレオライシスのための本発明による装置を象徴的に示す図である。
図2】本発明の好ましい実施形態の変形例を示す概略図である。
図3】除外ゾーンと処理ゾーンを有するAスキャンを示す図である。
図4】コンタクトレンズを装着した眼の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
この点に関して、図1は、OCDR支援レーザービトレオライシスのための本発明による装置が組み込まれた細隙灯の象徴的な表現を示す。
さらに、細隙灯1(単にボックスで表されている)には、OCDRシステム2、レーザーシステム3、OCDRシステムとレーザーシステムを結合するためのビームマージャ4(ここではダイクロイック光学素子として具体化されている)、ビジュアルディスプレイユニット5、および中央制御および処理ユニット6、ならびに偏向ユニットを有する合焦ユニット14が組み込まれている。
【0065】
細隙灯1は、ジョイスティック8を介して眼9に対して2軸または3軸に位置決めすることができるベースユニット7上に配置されることは既知である。
水晶体10に加えて、局所的な浮遊物11およびレーザー焦点12が眼9内に描かれている。この場合の網膜は、局所的な浮遊物11に最も近い眼9の組織であるため、少なくともこの領域(位置番号13によって示される)は、治療中にOCDRによってより詳細に検査される。
【0066】
局所的な浮遊物11に加えて、用途固有の照射パターン、治療のための除外基準または中止基準、あるいは例えば、定義された処理ゾーンおよび除外ゾーンを、ビジュアルディスプレイユニット5上にオペレータのために表示することができる。
【0067】
本発明の好ましい実施形態の変形例は、図2でより詳細に説明されている。この場合、図示は、レーザー3とOCDRシステム2との間の本発明による相互作用に集中している。図2aは、レーザー焦点12に浮遊物11がない場合の時間t1での状態を示している。この場合、F(t)は、時間の関数としてのレーザーの焦点位置を表す。OCDRシステム2の測定ビーム15は、ビームマージャ4によって、レーザー3の(この場合は非アクティブな)レーザービーム16と一緒にされて、眼9に向けられる。ビームマージの上流のビーム断面は、眼におけるOCDR信号の開口数がレーザーの開口数よりも小さくなるように選択された。OCDRシステム2は、100Hz、好ましくは1kHz以上またはそれ以上の速度で眼9の完全なAスキャンを測定することができる。図2aには、このようなAスキャン17が例示的に示されている。それ自体既知の方法で、Aスキャン17は、角膜、水晶体前面、水晶体後面18および網膜19からの反射を含む。さらに、Aスキャンは、浮遊物11からの反射20を含み、結果的に、浮遊物11の眼内の相対位置が検出される。レーザー焦点12は浮遊物11の領域に位置していないので、レーザーはトリガされない。合焦システム14を使用して、レーザー焦点12は、浮遊物11の領域に移動される(図2b、時間t2)。レーザー焦点12と浮遊物11の相対位置が一致する(反射20とレーザー焦点12が実質的に対応する)場合、レーザーパルス(概略的に制御パルス21によって表される)は、好ましくは、5ミリ秒未満の時間内にトリガされる。浮遊物11の相対位置は、いずれの場合もAスキャンによって10ミリ秒未満で更新されるので、当該浮遊物がこの短い時間内にレーザー焦点12から移動できないことが保証される。
【0068】
位置測定システムを備えたリニアスライドに見られる機械的に変位可能なレンズに加えて、特に、10~15ミリ秒未満で標的焦点を設定することができるEL-10-30-Cまたは-Ci(オプトチューン・スイス・アーゲー、ベルンシュトラーセ 388,CH-8953、ディーティコン(Optotune Switzerland AG|Bernstrasse 388、CH-8953 Dietikon))などの電気的に調整可能なレンズは、合焦ユニット14によってレーザー焦点12を迅速に焦点合わせするために好適である。代替的に、従来のレンズは、固定焦点距離の場合に焦点位置を変化させるために、磁気駆動共振器によって眼の方向に前後に軸方向に周期的に変位させることができる。この場合、レンズの位置はリニアエンコーダによって検出することもでき、OCDR信号に関連して簡単に較正することができる。焦点設定を変更する目的で、細隙灯全体を眼の方向に手動によりまたはその他の方法でモータにより移動させることは可能であるが、好ましくない。
【0069】
OCDRに関連する相対焦点位置の較正は、様々な方法で実行することができる。1つの変形例は、OCDRおよびレーザー焦点の共通の焦点設定によりスキャンすること、およびOCDR信号が組織に焦点を合わせたときに最大になるため、角膜、水晶体、水晶体嚢、硝子体液散乱、または網膜組織の相対的な焦点位置依存性信号の増加を検出することである。代替的に、固定焦点設定の場合、例えば、スクリーンまたはビームプロファイラによってビームウエストの軸方向位置を決定し、OCDRによってスクリーンまたはビームプロファイラの相対位置を決定し、任意選択的に、液体で充填された試験眼でも決定することによって、OCDRに対する相対焦点位置で較正を達成することができる。
【0070】
この装置により、飛蚊症を治療する方法を実現することが可能であり、方法は、
- Aスキャンを測定するステップと、
- Aスキャンにおいて浮遊物(存在する場合)の反射を検出するステップと、
- 任意選択的に、Aスキャンにおいて水晶体後面/水晶体後嚢面と網膜を検出するステップと、
- 任意選択的に、浮遊物の位置でのレーザー治療の許容性を検証するステップと、
- 任意選択的に、浮遊物の特徴(浮遊物の種類)に応じてレーザー治療の許容性を検証するステップと、
- レーザー焦点を浮遊物上に移動させるステップと、
- 任意選択的に、浮遊物がまだこの場所に存在しているかどうかを確認するステップと、
- 浮遊物に向けられるレーザーパルスをトリガするステップと、を特徴とする。
【0071】
この方法は、例えば、レーザー焦点の調整が、適切な特性を有する電気的に調整可能なレンズを使用して、ミリ秒または数分の1秒の程度で実現できる場合には特に好適であるが、原理的には、低速の場合、任意選択的に、手動焦点合わせの場合にも機能する。ただし、この場合、焦点合わせの間に浮遊物が逃げる確率が増加し、即ち、除外ゾーンおよび治療ゾーンの利点が維持されていても、治療効率が低下する。
【0072】
さらに、偏向ユニット(例えば、ガルバノスキャナ)によるレーザー焦点の横方向の変位、すなわち、眼内の一定の深さでの浮遊物スキャン処理も可能である。
別の方法では、レーザー焦点をAスキャンに沿って移動させて、レーザー焦点の領域で浮遊物が検出された場合(Aスキャンの評価によって)、レーザーパルスが数ミリ秒以内にトリガされる。この目的には、比較的低速の合焦ユニット(例えば、数Hzから数10Hz)が適している。
【0073】
さらなる飛蚊症の治療のための眼軸に対するAスキャンの変位は、この場合、手動(ジョイスティック8を使用して)、またはモータ駆動方式の両方で実施することができる。手動型では、医師が浮遊物/複数の浮遊物を確認して治療を開始することができる。OCDRシステムがAスキャンで浮遊物を検出し、レーザー焦点が浮遊物に向けられている場合にのみ、レーザーパルスがトリガされる(さらなる相互作用なしで)。従って、治療の成功は、もはや医師の技量および反応速度に依存するものではない。
【0074】
モータ制御型では、OCTシステムを用いてそれ自体が既知の方法で硝子体液の全体画像を最初に作成し、浮遊物の相対位置を近似的に検出することができる。次に、これらの相対位置座標に連続的に接近して、浮遊物の実際の相対位置がOCDRシステムによって検証され、実際に検出された浮遊物の方向にのみ1つ(または複数)のレーザーパルスが照射される。
【0075】
レーザー治療の許容性の検証は、様々な方法で行うことができる。最初に、レーザー治療は、水晶体後面/水晶体後嚢面または網膜/黄斑などの敏感な眼の組織に近接しすぎることが実施されないようにする必要がある。Aスキャンを適切に評価することにより、許容範囲(水晶体後嚢面から1.5mmを超え、網膜から2~3mm未満)を定義することができる。図3は、除外ゾーンおよび処理ゾーンの間に境界があるAスキャンの対応する例を示している。前方除外ゾーンは、処理領域の前方境界22の前方側に位置し、後方除外ゾーンは、処理領域の後方境界23の後方側に位置する。特に、水晶体後面18は、前方除外ゾーン内で十分に深く、網膜19は、後方除外ゾーン内で十分に深いので、これらの組織からの所望の最小距離がレーザー処理によって実現される。
【0076】
レーザー治療は、境界22、23で囲まれた処理領域でのみ許可される。
さらに、治療中にさらなるパラメータを確認することができる。この場合、眼圧モニタリングが好ましい。眼圧モニタリングは、様々な方法で実施することができる。
【0077】
1.Aスキャンに沿った眼の長さの変化を確認することによって実施することができる。この目的に対応するデータは、Aスキャンを評価することによって入手可能である。この場合、伸長が発生した場合、これを中止基準として使用することができる(例えば、圧力上昇を2mmHgに制限するための4.5μmの眼の長さの増加については、レイドルト(Leydolt)他、「眼圧の変化の軸方向の眼の長さおよび水晶体位置に対する影響(Effects of change in intraocular pressure on axial eye length and lens position)」、Eye(2008)22、657-661を参照)。
【0078】
2.適切に装備されたコンタクトレンズを使用して眼圧の変化を測定することによって実施することができる(これについては、図4を参照して以下に詳細に説明する)。
3.内容が本明細書で参照される欧州特許出願公開3173013号明細書でより詳細に説明されているように、超音波に基づいて実施することができる。
【0079】
眼圧の差が例えば、2mmHg、5mmHg、または10mmHgを超えた場合、眼への損傷を避けるために、それ以上の治療は中止される。圧力に関する中止基準の選択は、患者の可能性のある病状に応じて行うことができる。例えば、緑内障患者の場合、圧力の上昇に関してより注意を払う必要がある。
【0080】
提案された装置は、スペクトル領域法、または好ましくは掃引光源法に基づくOCDRシステムの使用を提供する。2~3mmの制限されたスキャン深度範囲にわたって数百Hzの繰り返し周波数を有する時間領域システムを使用することも可能である。
【0081】
ここで、本発明によれば、軸方向分解能が100μm未満、好ましくは、組織内のFWHMが5μmの場合で、1mmを超える軸方向スキャン深度、好ましくは組織内で4mm、および、840nmの重心波長が、10~100kHzのAスキャンレートとともにスペクトル領域システムに対して提供される。好ましくは、システムは、眼のどの組織が局所的な浮遊物に近いかに応じて網膜または水晶体嚢をz追跡することを含む。スキャン深度が小さいため、複数の平行な基準アームの使用が可能であり、単一のスキャン深度の外側にある関連する眼の組織および硝子体液後部領域を共に検出することができる。このアプローチは、時間領域システムでも考えられる。しかしながら、時間領域システムには感度に関連する欠点がある(通常は85dB)。対照的に、スペクトル領域システムは、数10kHzの繰り返し周波数で90dBの感度を維持することができる。その結果、非干渉性の通常の硝子体液組織でさえも検出することができる。対照的に、感度が100dBまたは110dBを超えるkHz範囲の掃引光源システムでは、白内障を通過する測定を可能にする感度が確保されている。
【0082】
掃引光源システムの場合、1000~1070nmの範囲の重心波長(特に、1050nmまたは1060nm)、1kHz~100MHzのスキャンレート(例えば、フーリエ領域モードロック(FDML)レーザーまたはVCSELレーザーによる)、および処理ゾーンにおける少なくとも90dBの感度が好ましい。このシステムは、Nd:YAGレーザーまたはfsレーザー、ノッチ層システムフィルタと組み合わされ、処理の際に、OCDRスキャン深度で眼全体をカバーする。SS-OCDRの軸方向分解能は、処理レーザーのレイリー長に対応するように選択されるか、またはレイリー長の2倍~3倍を超えるように選択されることが好ましい。より高い軸方向分解能は可能であるが、それはより良好な飛蚊症治療を可能にすることはほとんどない。圧力変化を決定するために軸方向長さの変化が検出される場合、30μm未満、好ましくは10μm未満、または5μmの程度の軸方向分解能が有利である。
【0083】
本発明によれば、スキャン基準アームを備えた時間領域システムも適用可能である。Aスキャンレートとは別に、好ましいパラメータはSD-OCTのパラメータに対応している。この場合、Aスキャンレートは数kHzの程度、特に2~4kHzである。
【0084】
全てのOCDRの変形例について空気中および眼内の個々の経路成分を考慮する必要があり、対応する位置決定補正と、任意選択的に群速度分散補正とが必要になる場合がある。
【0085】
浮遊物を良好に検出することができるようにするために、本発明によるシステムは、Aスキャンの少なくとも一部において、85dBの感度、好ましくは、少なくとも90dBの感度を有する。さらに好ましい変形例では、Aスキャンは、少なくとも90dBの感度を有し、さらに好ましくは、全スキャン深度にわたって100dBを超える感度を有する。約90dBを超えると、硝子体液および水晶体の通常の散乱が浮遊物のない領域でも検出可能となり、かつ水晶体および硝子体液組織を、液体が充填されたポケットまたは眼の領域と区別することができるようになる。
【0086】
上記の変形例とは別に、OCDRシステムは、二次元的または三次元的スキャンシステムとして具体化されるOCTシステムの一部とすることができる。重要なことは、浮遊物が可変焦点設定に関連して存在していること、およびレーザーパルスが(画像情報に基づいてではなく)Aスキャンの評価に基づいてトリガされることである。
【0087】
眼内の(患者の眼の座標系における)浮遊物の位置は、一次元OCDRスキャン(Aスキャン)によって決定することができ、網膜または他の界面からの当該浮遊物の距離を算出することができ、これは、非常にタイムリーに、かつわずかな労力で実行することが可能である。従って、これは、飛蚊症を手動で治療する場合に、ナビゲーションを支援し、安全性を高めるのに役立つ。全ての非干渉撮像手法の中でもOCDRの感度が非常に高い可能性があるため、浮遊物の検出および視覚化は、実質的により信頼性の高い形式で実現することが可能である。特に、NIRスペクトル範囲において干渉法を適用することにより、VIS光ベースの方法に比べて露光量を大幅に低減すことができる。これには、薬剤によって十分な拡張が行われなかった場合に付随するまぶしさまたは瞳孔収縮の大幅な減少が含まれる。
【0088】
さらに、許可される処理の範囲を区切る処理ゾーンを実現することにより、ユーザに対して距離感のある表示が可能になる。治療レーザーが除外ゾーン内で起動されると、ユーザに警告が発せられ、かつ/または治療用放射線の出力が遮断される。
【0089】
本発明によれば、OCDRシステムは、少なくともAスキャンの一部で、90dBの感度を有する。
提案された装置は、μs~nsのYAGレーザー、psレーザーまたはfsレーザーに基づくレーザーシステムの使用を提供する。
【0090】
本発明によれば、YAGレーザーには1~5nsのパルス持続時間が好ましいが、これらの持続時間は、psレーザーの場合は1~1000psであり、fsレーザーの場合は50~1000fsである。
【0091】
1064nm、946nm、1320nmの波長のNd:YAGレーザーなどのYAGレーザーの代わりに、例えば、1047~1053nmのNd:YLFレーザーなどおよびそれ以外にYAGレーザーと同様のパラメータを有する類似のレーザーを検討することができる。周波数増倍レーザーを使用することも原理的には可能であるが、特に、血管内の血液による吸収が不都合に増幅されることを考慮する必要がある。
【0092】
1つのさらなる有利な構成によれば、レーザーシステムは、治療ビームに加えて、治療ビームの焦点と標的領域との対応関係を監視するための少なくとも1つのパイロットビームを含む。この目的のためには、VISのレーザーダイオードが適しており、例えば、635nmにおける赤色のスペクトル範囲のレーザーダイオードが適している。
【0093】
特に、パイロットビームは連続的または準連続的とすることができる。ユーザが視覚的なモニタリングを実施する必要がある場合は、可視スペクトル範囲のパイロットビームを使用することが有利である。
【0094】
さらに、検出システムが浮遊物で発生する散乱放射線を捕捉して表示できるようにするために、可視スペクトル範囲または赤外線スペクトル範囲のパイロットビームを使用することも可能である。
【0095】
さらに有利な構成によれば、OCDRとレーザーシステムの波長の差は50nm未満、好ましくは5nm未満であり、その結果、治療装置において共通のビーム誘導および合焦要素を使用することができるが、角膜および水晶体の屈折による両方のシステムの光の眼への屈折が互いに実質的に異ならないようにする。
【0096】
さらに、本発明によれば、患者の眼の有利なまたは意図的な位置決めを達成するために、装置が患者のための追加の固定マークを含んでいると有利である。
さらに、患者用の変更可能な固定マークは、固定マークによって眼球運動を刺激しながら処理するオプションを提供する。例として、これは、浮遊物を処理のためにアクセス可能な領域に持ち込むためにも必要となり得る。さらに、移動標的マークは、浮遊物を領域内または領域外に移動させるために、患者に眼を動かすように促すことができる。一例として、浮遊物が中心視覚範囲(例えば、黄斑の手前)に移動した後、例えば、網膜周辺部の手前などのレーザー治療にとってあまり重要ではない領域に移動し、そこでレーザー治療を受けることによって、浮遊物による主観的な干渉の程度をチェックすることができる。
【0097】
さらに有利な構成によれば、眼のさらなる固定のための追加の真空コンタクトレンズの使用が提供される。この場合、任意選択で、真空供給と治療中の治療用レーザーとの結合が提供される。これは、焦点径が20μm、10μm、さらには5μm未満のfsレーザーによる飛蚊症の高精度レーザー治療に特に有利である。より高い横方向分解能のために、瞳孔の拡大、および任意選択的に、適応光学系(例えば、変形可能なミラーまたは液晶SLMなど)によるビーム整形も有利である。
【0098】
この場合、コンタクトレンズは、レーザー治療中の眼圧またはその変化を測定するための装置を装備することができる。このようなコンタクトレンズ24は、図4に示されている。この場合、レーザーパルスの効果による気泡の発生が眼圧の変化の原因となり得る。これらが特定のレベルを超えると、眼に損傷を与える可能性がある。制御線25を経由して、測定された眼圧が制御ユニット6(図4には示されていない)に送信され、この制御ユニット6は、例えば、眼圧差が例えば、2mmHg、5mmHgまたは10mmHgを超えると、さらなるレーザー治療を中断する。コンタクトレンズを使用して眼圧を測定するための基礎は、例えば、レオナルディ(Leonardi)他、「センシングコンタクトレンズによる非侵襲的眼圧モニタリングへの第一歩(First Steps toward Noninvasive Intraocular Pressure Monitoring with a Sensing Contact Lens)」、眼科・視覚科学研究会(Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.)、2004年、45(9)、3113-3117、doi:10.1167/iovs.04-0015に提示されている。
【0099】
本発明による解決策は、既知の技術的解決策の欠点を修正する、硝子体液混濁のOCDR支援レーザー治療のための装置を提供する。
この装置は、レーザービトレオライシスによる厄介な硝子体液混濁のより簡単で、より迅速で、特により安全な治療を可能にする。さらに、この解決策は、簡単に実施することができ、経済的な費用対効果が高い。
【0100】
本発明は、ほとんど無痛の硝子体液混濁の穏当で低リスクのレーザー治療のために提供される装置に関する。治療の範囲内で浮遊物を特定し、それによって治療を支援するためにナビゲーション目的でOCDRシステムが使用される、部分的または完全に自動化された治療装置(システム)が提案されている。
【0101】
また、提案された装置は、治療用レーザービームを位置決めする手間を減らすことができ、可視標的レーザービームはもはや必須ではないので、認識するのが困難で、大部分が透明な位置が変化する浮遊物のより安全な治療を可能にする。
【0102】
不正確な焦点位置またはレーザー焦点と敏感な眼の組織との間の距離が小さすぎる結果として網膜が損傷するリスクは、治療の除外基準を決定することによって取り除くことができる。
【0103】
さらに、網膜への局所的な張力増加の結果としての不完全な硝子体液剥離が発生した場合の網膜の損傷のリスクは、導出された中止基準に基づいて調整または中止される治療によって減少する可能性がある。
図1
【図(2a)】
【図(2b)】
図3
図4