IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー・ティスクランドの特許一覧

特許7611299改良されたピストン冷却手段を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関
<>
  • 特許-改良されたピストン冷却手段を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関 図1
  • 特許-改良されたピストン冷却手段を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関 図2
  • 特許-改良されたピストン冷却手段を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関 図3
  • 特許-改良されたピストン冷却手段を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関 図4
  • 特許-改良されたピストン冷却手段を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関 図5
  • 特許-改良されたピストン冷却手段を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関 図6
  • 特許-改良されたピストン冷却手段を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関 図7
  • 特許-改良されたピストン冷却手段を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関 図8
  • 特許-改良されたピストン冷却手段を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関 図9
  • 特許-改良されたピストン冷却手段を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関 図10
  • 特許-改良されたピストン冷却手段を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】改良されたピストン冷却手段を有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F01P 3/10 20060101AFI20241226BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20241226BHJP
   F16K 15/04 20060101ALN20241226BHJP
【FI】
F01P3/10 B
F01M1/06 Z
F01M1/06 B
F01M1/06 C
F16K15/04 Z
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023092024
(22)【出願日】2023-06-05
(65)【公開番号】P2023181120
(43)【公開日】2023-12-21
【審査請求日】2024-05-08
(31)【優先権主張番号】PA202270305
(32)【優先日】2022-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】モレノ ブラスケス ハビエル
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-176616(JP,U)
【文献】特開2011-069318(JP,A)
【文献】特開2011-012639(JP,A)
【文献】特開2013-238223(JP,A)
【文献】特開2000-291489(JP,A)
【文献】特開昭60-023620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 3/10
F01M 1/08
F02B 25/00
F16C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロスヘッド型の大型ターボ過給式2ストロークユニフロー内燃機関であって、
下端部に掃気ポートを有すると共に上端部に排気弁を有する少なくとも1つのシリンダライナと;
前記少なくとも1つのシリンダライナ内の往復ピストンであって、ピストンロッドによって往復クロスヘッドに連結される往復ピストンと;
加圧された冷却・潤滑媒体の供給源と;
前記供給源を前記往復クロスヘッドの入口ポートに流体的に接続する伸縮管と;
前記入口ポートから前記往復ピストンへと延設される導管と
前記供給源から前記伸縮管へと前記冷却・潤滑媒体が流れることを許容し、前記伸縮管から前記供給源へと前記冷却・潤滑媒体が流れることを阻止又は制限するように構成されるバルブと;
を備え、
前記バルブは、第1弁座上の閉位置又は制限位置と第2弁座上の開位置との間を移動しうるように配される可動弁部材を有し、
前記可動弁部材は重力のみによって、前記開位置の方へ付勢される、
機関。
【請求項2】
前記少なくとも1つのシリンダライナはシリンダフレームによって支持され、
前記伸縮管は、前記シリンダフレームに物理的に結合される固定管と、前記往復クロスヘッドに物理的に結合される可動管とを備える
請求項1に記載の機関。
【請求項3】
前記バルブは、前記固定管の上流側又は前記固定管の入口に配される、請求項2に記載の機関。
【請求項4】
前記可動弁部材は、前記バルブの胴体内の空洞に受容される、請求項1から3のいずれかに記載の機関。
【請求項5】
前記バルブは逆止弁である、請求項1から3のいずれかに記載の機関。
【請求項6】
前記導管は、前記往復クロスヘッド及び前記ピストンロッドを通る、請求項1から3のいずれかに記載の機関。
【請求項7】
前記少なくとも1つのシリンダライナはシリンダフレームによって支持され、
前記伸縮管は、前記シリンダフレームに物理的に結合される固定管と、前記往復クロスヘッドに物理的に結合される可動管とを備え、
前記可動管は、前記往復クロスヘッドのガイドシューに物理的に結合される、
請求項1に記載の機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の開示事項は、クロスヘッドを有する大型ターボ過給式2ストローク内燃機関であって、往復ピストンを受容する少なくとも1つのシリンダを有し、前記往復ピストンが、シリンダフレームをクロスヘッドに接続する伸縮管を通じて供給される冷却媒体の流れによって冷却される、機関に関する。
【背景】
【0002】
大型ターボ過給式2ストローク内燃機関は、大型船舶の推進システムや、発電プラントの原動機としてしばしば用いられる。その大きさや重量、出力は、このタイプの圧縮内燃機関を他の燃焼機関からかけ離れたものとしており、このタイプの圧縮内燃機関を独特の分類に位置づけている。これらの機関は、高さが増すことがあまり問題にならないので、ピストンに側圧がかからないようにクロスヘッドを用いて構成される。通常、このような機関は天然ガスや石油ガス、メタノール、エタン、燃料油で運転される。
【0003】
大型ターボ過給式2ストローク内燃機関は、圧縮着火、すなわちディーゼル原理により動作させられる場合と、ピストンの下死点(BDC)から上死点(TDC)までのストローク中に掃気ガスを燃料と混合させる予混合機関として、すなわちオットー原理により、動作させられる場合とがある。
【0004】
ピストンは通常、燃焼室内の高温に耐えられるように、耐熱鋼で作られている。また、機関の運転中にピストンが過熱しないように、ピストンは冷却媒体、例えば潤滑油で冷却される。
【0005】
機関潤滑システムは、機関の様々な構成部品に潤滑媒体を供給する。潤滑媒体は、ピストンを冷却するためにも使用される。一般的に、使用される媒体は潤滑油である。
【0006】
潤滑システムの分岐の1つは伸縮管によってクロスヘッドに接続される。そこから潤滑・冷却媒体は、ピストンロッドを上行してピストンを冷却し、次いで下行して、クロスヘッド軸受を潤滑し、また垂直ガイドプレート間でクロスヘッドを案内するガイドシューを潤滑するなどの、いくつかの機能を果たす。伸縮管の一部分はクロスヘッドに接続され、伸縮管の別の部分はシリンダフレームを横断してシリンダフレーム又はインレットマニホールドに接続される。そして伸縮管の内腔は、シリンダフレームの接続点からクロスヘッド及びピストンロッド内の導管を経てピストンへと冷却媒体を輸送するために用いられる。伸縮管は、外管と、外管の内腔に少なくとも部分的に受容された内管とを有する。内管は、シリンダフレームに対するクロスヘッドの往復運動に追従して並進移動することができる。
【0007】
実開昭57-176616号公報は、冷却・潤滑液の供給源とクロスヘッドの入口ポートとを流体的に接続する伸縮管を備え、バルブが供給源から伸縮管への冷却・潤滑液の流れは許容し、伸縮管から冷却・潤滑液供給源に向かう冷却・潤滑液の流れは阻止する、クロスヘッド式大型ターボ過給式2ストロークユニフロー内燃機関を開示している。このバルブは、弁部材を弁座に向かって付勢するバネを有している。
【摘要】
【0008】
本発明の目的は、ピストン冷却を改善したクロスヘッド式の大型ターボ過給式2ストロークユニフロー内燃機関を提供することである。
【0009】
本願の発明者が行った試験とシミュレーションにより、ピストンの冷却は機関サイクル中に大きく変動し、冷却の大部分は機関サイクルの比較的小さな部分で発生することが判明した。発明者は、更なる試験とシミュレーションを通じて、この変動は、ピストンへの冷却媒体の圧力と流量の変動によって引き起こされるとの洞察に到達した。更に、解析と洞察により、これらの圧力及び流量の変動は、機関サイクル中の伸縮管の伸縮によって引き起こされることが判明した。
【0010】
第1の捉え方によれば、次のような、クロスヘッド式大型ターボ過給式2ストロークユニフロー内燃機関が提供される。この機関は、
下端部に掃気ポートを有すると共に上端部に排気弁を有する少なくとも1つのシリンダライナと;
前記少なくとも1つのシリンダライナ内の往復ピストンであって、ピストンロッドによって往復クロスヘッドに連結される往復ピストンと;
加圧された冷却・潤滑媒体の供給源と;
前記供給源を前記クロスヘッドの入口ポートに流体的に接続する伸縮管と;
前記入口ポートから前記ピストンへと延設される導管であって、好ましくは前記クロスヘッド及び前記ピストンロッドを通る導管と;
前記供給源から前記伸縮管へと前記冷却・潤滑媒体が流れることを許容し、前記伸縮管から前記供給源へと前記冷却・潤滑媒体が流れることを阻止又は制限するように構成されるバルブ(弁)と;
を備え、
前記バルブは、第1弁座上の閉位置又は制限位置と第2弁座上の開位置との間を移動しうるように構成される可動弁部材を有し、
前記可動弁部材は重力のみによって、前記開位置の方へ付勢される。
【0011】
伸縮管の上流又は伸縮管の入口に、逆止弁又は逆止弁のように機能するバルブを設けることにより、ピストンの圧縮ストローク(BDCからTDCへのストローク)のときの、すなわち伸縮管が収縮するときの、冷却媒体の逆流を回避又は少なくとも低減できる。それによって、機関サイクルを通じてピストンへの冷却媒体の流れをより一定とする。本発明者は、伸縮管から供給源への戻り流が阻止又は制限されていれば、伸縮管が収縮しているとき(即ちピストンの圧縮ストロークの間)、伸縮管が容積式ポンプとして機能するので、逆止弁の閉鎖又は弁の制限によって、冷却媒体の流量が増加するという洞察に到達した。その結果、機関サイクル全体を通して冷却媒体の流れが実質的に増加し、活発に冷却する時間が延長されることにより、冷却能力の増加が図られピストン冷却が改善される。前記バルブは、第1弁座上の閉位置又は制限位置と第2弁座上の開位置との間を移動しうるように配される可動弁部材を有し、前記可動弁部材は重力のみによって、前記開位置の方へ付勢される。
【0012】
ピストン冷却の改善により、ピストン温度の低下が得られ、ピストンに耐熱性の低い鋼種を使用することで低コスト化を実現しうる。またピストン冷却の改善は、ピストン燃焼のマージンの増大を実現するために役立つことができる。更に、燃料弁アトマイザーのレイアウトの自由度(特にピストン方向の自由度)を高めるために役立つことができる。
【0013】
バルブ部材の閉位置に関連する第1弁座とバルブ部材の開位置に関連する第2弁座を有するバルブとを使用することと、バルブ部材が重力によってのみ第2弁座即ち開位置に向かって付勢されることにより、バネにより付勢される先行技術の故障しやすいバルブ部材と比較して、著しく信頼性の高いバルブが得られる。
【0014】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記少なくとも1つのシリンダライナはシリンダフレームによって支持され、前記伸縮管は、前記シリンダフレームに物理的に結合される固定管と、前記クロスヘッドに物理的に結合される可動管とを備える。前記可動管は、好ましくは前記クロスヘッドのガイドシューに物理的に結合される。
【0015】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記伸縮管は、前記往復クロスヘッドの動きに追従して伸縮するように構成される。
【0016】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記バルブは、前記固定管の上流側又は前記固定管の入口に配される。
【0017】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記可動弁部材は、前記バルブの胴体の空洞に受容され、前記可動弁部材の形状は、前記空洞の形状との組み合わせにより、前記可動弁部材の第1弁座及び/又は第2弁座への移動に対して減衰を提供する。
【0018】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記バルブは電子制御バルブであり、コントローラー(電子制御装置)からの信号に応じて開閉や制限を行う。
【0019】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記コントローラは前記可動管の位置を知らされると共に、前記可動管の位置の関数として、前記電子制御バルブの開閉又は制限のタイミングを調整するように構成される。前記コントローラは、好ましくは、前記伸縮管が収縮するとき(ピストンがBDCからTDCに移動するとき)に前記電子制御バルブを閉じるか制限し、前記伸縮管が伸長するときに前記電子制御バルブを開くように構成される。
【0020】
または、前記コントローラは伸縮管内の圧力を知らされると共に、前記圧力が閾値以上の場合に前記電子制御バルブを閉じるか制限し、前記圧力が閾値未満の場合に前記電子制御バルブを開くように構成される。
【0021】
または、前記コントローラは伸縮管内の圧力と、前記供給源から供給される圧力とを知らされると共に、前記伸縮管内の圧力が前記供給源から供給される圧力と同等又は高い場合に前記電子制御バルブを閉じるか制限し、前記伸縮管内の圧力が前記供給源から供給される圧力より低い場合に前記電子制御バルブを開くように構成される。
【0022】
前記コントローラは、可動管の位置を直接(例えば位置センサを使用して)知ることができる。または前記コントローラは、クランク軸の角度位置を知る手段により(例えばクランクシャフト用の角度位置センサを使用して)、可動管の位置を知ることができる。
【0023】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記バルブは逆止弁である。
【0024】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記入口ポートは、前記クロスヘッドのガイドシュー上に配置され、前記導管の少なくとも一部は、前記入口ポートから前記ガイドシューを通り、前記ガイドシューから前記ピストンロッドに、好ましくはクロスヘッドピンを通るように延設される。
【0025】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記可動管は前記固定管の内腔に少なくとも部分的に封止されており、又は、前記固定管が前記可動管の内腔に少なくとも部分的に封止されている。
【0026】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記可動管は、前記クロスヘッドの往復運動に追従して、前記固定管に対して並進移動可能である。
【0027】
前記第1の側面の実装形態の一例において、伸縮管を通じて前記ピストンに供給される冷却・潤滑媒体の流れにより、前記ピストンは冷却される。
【0028】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記伸縮管の内腔は、前記シリンダフレーム又は前記インレットマニホールドの連結部から、前記クロスヘッド、そして前記ピストンロッド内の導管を経由して、前記ピストンに前記冷却・潤滑媒体を輸送するために使用される。
【0029】
この目的や他の目的が、本願の開示事項の特徴により達成される。可能な様々な実装形態が、明細書及び図面から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
以下、図面に示される例示的な実施形態を参照しつつ、様々な捉え方や実施形態、実装例を詳細に説明する。
図1】ある例示的実施形態に従う、複数のターボ過給機を備える大型2ストローク内燃機関を正面方向から俯瞰した図である。
図2図1の大型2ストローク内燃機関を背面方向から俯瞰した図である。
図3図1の大型2ストローク内燃機関の略図表現である。
図4図1の機関の機関フレーム、シリンダフレーム、シリンダライナの上部を通る断面図であり、クロスヘッドとピストンへの冷却・潤滑媒体の供給を示す図である。
図5】冷却・潤滑媒体供給における逆止弁の一実施形態を示す断面図である。可動弁部材が閉位置にある。
図6図5の逆止弁において、可動弁部材が開位置にあるときの断面図である。
図7図5の逆止弁のハウジングの内側を示す断面図である。
図8図5の逆止弁の上面図である、
図9】冷却・潤滑油供給部に配置される逆止弁の他の実施形態を示す断面図であり、弁部材が開位置にある状態を示している。
図10図9の逆止弁において、可動弁部材が閉位置にある状態の断面図である。
図11】逆止弁が電子制御式一方向弁である他の実施形態の略図表現である。
【詳細説明】
【0031】
図1図3は、ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関100を描いている。この機関は、クランクシャフト8及びクロスヘッド9を有する。図3は、ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関を、その吸気システム及び排気システムと共に略図により表現したものである。この実施形態100において、機関は直列に6本のシリンダを有する。各シリンダはシリンダライナ1から形成される。ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関は通常、直列に配される4本から14本のシリンダを有する。これらのシリンダはシリンダフレーム29に担持される。シリンダフレーム23は機関フレーム23に担持される。機関100は、例えば、船舶の主機関や、発電所において発電機を動かすための固定型のエンジンとして用いられることができる。機関100の全出力は、例えば、1000kWから110000kWでありうる。
【0032】
この実施形態における機関100は、2ストロークユニフロー式圧縮着火型機関であり、各シリンダライナ1には、その下部領域に掃気ポート18が設けられ、その頂部中央には排気弁が配される。しかし、機関100は必ずしも圧縮着火式(ディーゼル原理)である必要はなく、実施形態によっては予混合機関(オットー原理)であってもよい。ここで紹介する実施形態において、機関100の圧縮圧力は圧縮着火を行うために十分高い。しかし機関100は、それより低い圧縮圧力で動作し、火花又は同様の手段で点火される予混合機関であってもよい。
【0033】
掃気は、吸気系を通じてシリンダ1に導入される。吸気系は、掃気ポート18を介してシリンダ1に接続される掃気受け2を備える。
【0034】
シリンダで生成された排気は排気系を通じて排気される。排気系は、排気弁4を介してシリンダ1に接続される排気受け3を備える。
【0035】
機関1の吸気系は掃気受け2を備える。排気再循環(EGR)が使用される場合、掃気受けは掃気空気と排気ガスの混合物を受け取る。掃気空気は、掃気受け2を通じて、各シリンダ1の掃気ポート18へと導かれる。ピストン10は、シリンダライナ1中で下死点(BDC)と上死点(TDC)の間を往復し、掃気空気を圧縮する。燃料は、シリンダカバー28に配される燃料弁55から噴射される。その後に燃焼が続き、排ガスが生成される。あるいは、燃料弁55はシリンダライナに配置され、燃料はBDCからTDCまでのピストンストローク中に導入される。掃気空気と燃料の混合物はピストン10により圧縮され、ピストン10がTDC又はその近くにあるときに点火が誘発され、燃焼が続き、排気ガスが生成される。
【0036】
シリンダカバー28の中央開口部には、中央排気弁4が配置される。またシリンダカバー28には、中央開口部又は中央排気弁4の周囲において複数(好ましくは3つか4つ)の燃料弁55が配置される。排気弁4は、電気油圧式排気弁作動システム(図示されていない)によって作動し、コントローラ(電子制御ユニット)50によって制御される。燃料弁55には、燃料供給系(図示されていない)によって燃料が供給される。
【0037】
排気弁4が開かれると、排気ガスは、シリンダカバー28の中央開口部から、(各シリンダ1に設けられる)排気ダクトを有する排気系を通って排気受け3に流入し、第1排気管路19を通ってターボ過給機5のタービン8に向かう。そこから排気ガスは、第2排気管路を通り、エコノマイザ20を経由して出口21へと向かい、大気中に放出される。機関100は1つ又は複数のターボ過給機5を備える。
【0038】
ターボ過給機5のタービン8は、ターボ過給機5シャフトを介してコンプレッサ7を駆動する。コンプレッサ7には、空気取り入れ口12を通じて外気が供給される。コンプレッサ7は、圧縮された掃気空気を、掃気受け2に繋がる掃気管13へと送り込む。掃気管13の掃気は、掃気空気の冷却と水滴の除去のために、インタークーラー14及びウォーターミストキャッチャー63を通過する。
【0039】
機関は、加圧された潤滑媒体を機関の様々な構成要素に供給する潤滑システムを備えている。潤滑媒体は、ピストン10を含む機関構成部品を冷却するためにも使用される。したがって、潤滑媒体は冷却及び潤滑媒体(本明細書中では冷却・潤滑媒体とも表記されている)であり、潤滑システムは加圧された冷却・潤滑媒体の供給源40を形成する。
【0040】
次に図4に参照すると、供給源40は、供給管41を介して伸縮管32の固定管31に接続されている。固定管31は、シリンダフレーム29に物理的に連結されており、好ましくは、固定管31の上端がシリンダフレーム29の天板28に固定され、その下端は機関フレームの天板24に固定される。伸縮管32は可動管32を備える。図示される実施形態では、可動管32は固定管31の内腔に少なくとも部分的に封止されている。(しかし実施形態によっては、固定管31が可動管32の内腔に少なくとも部分的に封止されることも同様にあり得る。)そして可動管32は、クロスヘッド9の往復運動に追従して、固定管31に対して並進移動することができ、可動管32はクロスヘッド9と一緒に移動する。。本実施形態では、可動管32は、その下端部がクロスヘッド9のガイドシュー27に固定され、そこでクロスヘッド9の入口ポートに流体的に接続されている。クランクケースフレーム23には、クロスヘッド9に作用する横力を受ける垂直ガイド面26が設けられており、ガイドシュー27は垂直ガイド板26に案内される。クロスヘッド9は更にクロスヘッドピン16を備える。クロスヘッドピン16は、クランク軸8に連結する大端部にガイドシュー27を連結する
【0041】
伸縮管30は、冷却及び潤滑媒体の供給源(これはコモンレール40により形成されるうる)から発し、シリンダフレーム29内を下降し、クランクケースフレーム23内に進み、その下端はクロスヘッド9に取り付けられる。伸縮管30は、コモンレール40に連結される固定管31と、クロスヘッド9に連結される可動管32とからなる。可動管32は固定管31に同心状に配されている。クロスヘッド9内には導管36が設けられる。導管36はピストンロッド15を通ってピストン10内に達し、再びピストンロッド15に戻っていく。伸縮管30は、ピストン10を冷却すべく、この導管36に冷却媒体・潤滑媒体を届ける。機関100のこの実施形態では、各シリンダは1つの伸縮管30を備えるが、冗長性の理由から、各シリンダに対して複数の伸縮管30を設けてもよい。
【0042】
この実施形態では、導管36は、ガイドシュー27の上側に配置されている入口ポートを起点とし、ガイドシュー27を通り、クロスヘッドピン16を通ってピストンロッド15に入る。
【0043】
伸縮管30と供給源40との間の流路には、逆止弁33が設置されている。本実施形態では、逆止弁33は、固定管31の上端、すなわち固定管31の入口に配置されている。しかし逆止弁33は、クロスヘッド9内、又はクロスヘッド9と供給源40との間の任意の場所に配置することができることに留意する必要がある。逆止弁30は、シリンダフレーム29のトッププレート28によって、又はインテーク・マニホールドによって、支持されることができる。逆止弁30は、供給源40から伸縮管30への流れを許容し、伸縮管30から供給源40への流れを阻止するように構成される。戻り流を阻止することにより、冷却・潤滑媒体のピストン10への流れが実質的に増加することが保証され、それによってピストン10の冷却が改善される。特に、ピストンへの冷却媒体の流れは、先行技術に比べて、クランク軸8の回転のずっと大きな部分の間、生じる。すなわち、先行技術の機関では、クランク軸の回転中のかなりの期間、ピストン10への冷却媒体の流れがないかほとんどない。戻り流を阻止することによって、クランク軸8の回転中ほとんどずっと、冷却媒体がピストン10を流れ、それによってピストン10への冷却媒体の平均流速が増加し、ピストン10の冷却が改善される。
【0044】
図5図8は、逆止弁33の実施形態を示す種々の概略図である。図5及び図6は逆止弁33のある実施形態の断面図であり、それぞれ、弁部材35が閉位置、開位置にある状態を示している。この実施形態において、逆止弁33は、逆止弁33のハウジングの空洞に受容されるボール(球体)の形態の可動弁部材35を有している。本実施形態において、逆止弁33のハウジングは、外側ハウジング部39と、外側ハウジング部39に挿入される内側ハウジング部37とによって形成されている。図示のように、弁ハウジングはシリンダフレーム23のトッププレート28に取り付けられているが、逆止弁33は、他の方法で機関100に固定されてもよい。本実施形態では、固定管31の上端がトッププレート28の反対側に固定され、供給管41が直接逆止弁33に接続しているが、逆止弁33を他の方法で冷却・潤滑液源40や伸縮管30に接続できることも理解されたい。
【0045】
逆止弁33の胴体内の空洞は、可動弁部材35が、弁部材35が第1の弁座に着座する図5に示す閉位置と、弁部材35が第2の弁座に着座する図6に示す開位置との間で動くことを可能にする。従って、機関に搭載された状態や使用時には、重力が弁部材35に作用して第2弁座側に付勢する。本実施形態では、第1弁座と第2弁座は、空洞の対向する端部に配置され、第1弁座は地球の重力場に対して上側の弁座であり、第2弁座は地球の重力場に対して下側の弁座である。第1弁座は逆止弁の入口ポートに関連し、第2弁座は逆止弁の出口ポートに関連する。空洞はまた、可動弁部材35の周りに流体接続を確立する1つ以上の横側通路36を有する。横側通路36は、冷却及び潤滑液が入口ポートから出口ポートへと流れるために、可動弁部材35の周りを通過することを可能にする。第1弁座は、可動弁部材35が第1弁座に着座したときに可動弁部材35と共に気密シールを形成して、出口から入口への方向への冷却・潤滑媒体の流れを阻止するように形成されている。第2弁座は、図6に示すように、可動弁部材35が第2弁座に着座したときに可動弁部材35と第2弁座との間を冷却・潤滑媒体が通過しうるように、第2弁座と可動弁部材35との間に1つ又は複数の隙間が形成される形状を有する。この実施形態では、これらの隙間は、内側ハウジング部分37に設けられる、軸方向を向き周方向に分布する複数のボアと、これらのボアと会合する、同じく内側ハウジング部分によって形成される実質的に円錐形の第2弁座とによって形成される。
【0046】
本実施形態では、地球の重力場が可動弁部材35を第2弁座・開位置の方へ引き寄せる以外に、可動弁部材35を開位置又は閉位置に付勢する手段は存在しない。機関100の運転中、可動弁部材35の位置は、逆止弁33の入口側と出口側に印加される圧力の差によって決まる。このため、重力の影響により可動弁部材35にかかる力の何倍もの力が可動弁部材35にかかり、重力は、機関運転中の可動弁部材35の移動には僅かな影響しか与えない。逆止弁33の入口における圧力すなわち供給管41内の圧力が、逆止弁33の出口における圧力(すなわち固定管31内の圧力)よりも高いとき、可動弁部材35は、図6に示すように、可動弁部材35に作用する圧力差によって開弁方向へ移動するように働きかけられ、冷却・潤滑媒体は、逆止弁33の入口から逆止弁33の出口へと流れることが可能となる。また、逆止弁33の入口の圧力が逆止弁の出口の圧力より低い場合には、可動弁部材35に作用する圧力差により可動弁部材35が閉弁側に移動するように働きかけられ、逆止弁33の出口から逆止弁33の入口に向かって冷却・潤滑媒体が流れることが阻止される。
【0047】
図9及び図10は、逆止弁33の別の実施形態を示している。この実施形態において、既に説明又は図示した構成や特徴と同様の構成及び特徴については、以前に使用したものと同じ符号を付している。本実施形態では、可動弁部材35は、直径が段階的に変化する円筒体であり、空洞は、それに適合するように形成されている。逆止弁33は、図9において可動弁部材35が開位置にあり、図10において可動弁部材35が閉位置にある状態で描かれている。重力場は可動弁部材35を図9の開位置に付勢する。
【0048】
直径の段階的な変化は、可動弁部材35と空洞との間の相互作用を生じさせ、可動弁部材35の第1弁座への移動及び第2弁座への移動に対する減衰手段を形成する。それよって、可動弁部材35が各弁座へ穏やかに着座することを可能にする。第1の減衰室38は、可動弁部材35が第1弁座部に向かって移動するときに冷却・潤滑媒体を捕捉し、捕捉した冷却・潤滑媒体を、可動弁部材35とバルブハウジングの面(空洞を形成している面)との間のクリアランスを通じて第1の減衰室38から絞り出すようにする。第2の減衰室39は、可動弁部材35が第2弁座部に向かって移動するときに冷却・潤滑媒体を捕捉し、捕捉した冷却・潤滑媒体を、可動弁部材35とバルブハウジングの面(空洞を形成している面)との間のクリアランスを通じて第2の減衰室39から絞り出すようにする。この実施形態では、横側通路36の先端が逆止弁33の出口ポートを形成している。減衰機能以外、本実施形態による逆止弁33の動作は、図5図8の実施形態に係るものと同じである。この減衰機能により、逆止弁33の要素にかかる機械的ストレスが軽減されるため、信頼性が更に向上する。
【0049】
上記及び下記の実施形態の変形例では、閉位置が完全に閉じてはいないが、ほとんど閉じているため、冷却・潤滑媒体の流れに制限を与えることになる。
【0050】
図11は、逆止弁33の別の実施形態を示している。この実施形態において、既に説明又は図示した構成や特徴と同様の構成及び特徴については、以前に使用したものと同じ符号を付している。本実施形態において、逆止弁33は、電子制御式2/2バルブである。この実施形態では、電子制御式2/2は、機械的に開位置に付勢され、電気アクチュエータによって閉位置又は制限位置に移動可能である。他のタイプの電子制御式2/2弁も、逆止弁33として同様に適していることが理解されたい。電子制御式逆止弁33は、コントローラ50(電子制御ユニット)からの信号により制御される。実施形態によっては、コントローラ50は、可動管32の位置を知らされると共に、可動管32の位置の関数として、電子制御バルブ33の開閉又は制限のタイミングを調整するように構成される。すなわちコントローラ50は、伸縮管30が収縮するときに電子制御バルブ33を閉じるか制限し、伸縮管30が伸長するときに電子制御バルブ33を開くように構成される。実施形態によっては、可動管32の位置は、可動管32に関連する位置センサ(図示せず)により決定され、コントローラ50に送信される。あるいは、可動管の位置は、位置センサ77を通じてクランク軸8の回転位置から間接的に決定され、コントローラ50には、位置センサ77からの信号が送信される。別の実施形態では、コントローラ50は、伸縮管内の圧力を、例えば圧力センサから知らされると共に、コントローラ50は、その圧力が閾値以上の場合に電子制御バルブ33を閉じるか制限し、閾値未満の場合に電子制御バルブ33を開くように構成される。別の実施形態では、コントローラ50は、伸縮管内の圧力を、例えば圧力センサから知らされると共に、供給源40から供給される圧力を、例えば供給管41内の圧力を測定する別の圧力センサから知らされる。そしてコントローラ50は、伸縮管内の圧力が供給源から供給される圧力と同等又は高い場合に電子制御バルブ33を閉じるか制限し、伸縮管内の圧力が供給管41内の圧力より低い場合に電子制御式逆止弁33を開けるように構成される。従って、運転中、伸縮管30から供給源40に向かう冷却・潤滑液の戻り流が阻止又は低減される。
【0051】
全ての実施形態について、伸縮管30は、収縮すると容積式ポンプとして機能し、同時に、伸縮管30から供給源に向かう戻り流が阻止又は制限される。このため、ピストン10への冷却・潤滑媒体の流れの変動が小さくなり、それによって、ピストン10の冷却能力の向上が実現される。
【0052】
様々な実施例を用いて機関を説明してきた。しかし、本願の明細書や図面、特許請求の範囲を検討すれば、当業者は、特許請求の範囲に記載される発明を実施するにおいて、説明された実施例に加えて多くのバリエーションが存在することを理解し、また具現化することができるであろう。特許請求の範囲に記載される「備える」「有する」「含む」との語句は、記載されていない要素やステップが存在することを排除しない。特許請求の範囲において記載される要素の数が複数であると明示されていなくとも、当該要素が複数存在することを除外しない。特許請求の範囲に記載されるいくつかの要素の機能は、単一のコントローラやその他のユニットによって遂行されてもよい。いくつかの事項が別々の従属請求項に記載されていても、これらを組み合わせて実施することを排除するものではなく、組み合わせて実施して利益を得ることができる。
【0053】
特許請求の範囲で使用されている符号は発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。特に言及されない限り、図面は明細書と共に読まれることが意図されており、本願による開示の全体の一部である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11