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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023103146
(22)【出願日】2023-06-23
(65)【公開番号】P2024007400
(43)【公開日】2024-01-18
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】10-2022-0080633
(32)【優先日】2022-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523061191
【氏名又は名称】エスケーマイクロワークス 株式会社
【氏名又は名称原語表記】SK microworks Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】84, Jangan-ro 309beon-gil, Jangan-gu, Suwon-si,Gyeonggi-do, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】イム、ビョンジェ
(72)【発明者】
【氏名】ホ、ヨンミン
(72)【発明者】
【氏名】キム、チョルキュ
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-196833(JP,A)
【文献】特開平03-197180(JP,A)
【文献】国際公開第2021/066363(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂を含むフィルムであって、
前記ポリエステル樹脂は、シクロヘキサン骨格を有する繰り返し単位、及びベンゼン環を有する繰り返し単位を含み、
静電印加剤をさらに含み、
前記静電印加剤は、マグネシウム系化合物又はカリウム系化合物を含み、
前記静電印加剤は、前記ポリエステル樹脂100重量部を基準として、金属又は金属イオンの含量を300~1000ppmで含み、
フーリエ変換赤外分光分析器(Fourier transform infrared spectroscopy;FT-IR)を用いて測定したスペクトルにおいて、前記ベンゼン環の変角振動に関連するピークである基準ピーク、及びC-O伸縮振動に関連するピークである第1ピークを有し、
前記基準ピークは、波数788cm-1~798cm-1におけるピークであり、
前記第1ピークは、波数1129cm-1~1139cm-1におけるピークであり、
前記基準ピークと前記第1ピークとの強度の差が-0.05~+0.05である、ポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記スペクトルにおいて、前記第1ピークと区別され、C-O伸縮振動に関連するピークである第2ピークを有し、
前記第2ピークは、波数810cm-1~820cm-1におけるピークであり、
前記基準ピークと前記第2ピークとの強度の差が-0.05~+0.05である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記スペクトルにおいて、C=O-O伸縮振動に関連するピークである第3ピークを有し、
前記第3ピークは、波数850cm-1~860cm-1におけるピークであり、
前記基準ピークと前記第3ピークとの強度の差が-0.05~+0.05である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記スペクトルにおいて、C=O-O伸縮振動に関連するピークである第4ピークを有し、
前記第4ピークは、波数966cm-1~976cm-1におけるピークであり、
前記基準ピークと前記第4ピークとの強度の差が-0.05~+0.05である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
250℃で30分間放置した後に測定した引張強度が7Kgf/mm以上である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
250℃で30分間放置した後に測定した伸び率が100%以上である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
250℃で30分間放置した後に測定したヘイズ値が15%以下である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項8】
250℃で30分間放置した後に測定した黄色度の値が3以下である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
前記ベンゼン環を有する繰り返し単位は、ジカルボン酸系繰り返し単位を含み、
前記ジカルボン酸系繰り返し単位は、テレフタル酸系繰り返し単位、及びイソフタル酸系繰り返し単位を含む、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項10】
前記ポリエステル樹脂は、重量平均分子量が30,000g/mol~50,000g/molである、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項11】
ポリエステル樹脂組成物を押出してシートを設ける押出ステップと、前記シートを延伸して、熱処理前のフィルムを設ける延伸ステップと、前記熱処理前のフィルムを熱固定処理してポリエステルフィルムを設ける熱固定ステップとを含み、
前記ポリエステルフィルムはポリエステル樹脂を含み、
前記ポリエステル樹脂は、シクロヘキサン骨格を有する繰り返し単位、及びベンゼン環を有する繰り返し単位を含み、
前記ポリエステルフィルムは、フーリエ変換赤外分光分析器(Fourier transform infrared spectroscopy;FT-IR)を用いて測定したスペクトルにおいて、前記ベンゼン環の変角振動に関連するピークである基準ピーク、及びC-O伸縮振動に関連するピークである第1ピークを有し、
前記基準ピークは、波数788cm-1~798cm-1におけるピークであり、
前記第1ピークは、波数1129cm-1~1139cm-1におけるピークであり、
前記ポリエステルフィルムは、前記基準ピークと前記第1ピークとの強度の差が-0.05~+0.05であり、
前記押出ステップ、延伸ステップ及び熱固定ステップのうちの少なくともいずれか1つ以上のステップは、フーリエ変換赤外分光分析器を用いて確認した前記ポリエステルフィルムのスペクトルに基づいて、前記ポリエステルフィルムの結晶化特性の調節のための工程条件がセッティングされ
前記延伸ステップは、前記シートを縦方向に延伸して縦方向延伸シートを設ける縦方向延伸過程、及び前記縦方向延伸シートを横方向に延伸して熱処理前のフィルムを製造する横方向延伸過程を含み、
前記延伸ステップにおいて、フーリエ変換赤外分光分析器を用いて確認した前記ポリエステルフィルムのスペクトルに基づいて、前記ポリエステルフィルムの結晶化特性の調節のための、前記縦方向延伸過程の延伸比及び前記横方向延伸過程の延伸比を設定し、
前記縦方向延伸過程の延伸比は2倍~4倍であり、前記横方向延伸過程の延伸比は3倍~5倍であり、
前記熱固定ステップにおいて、フーリエ変換赤外分光分析器を用いて確認した前記ポリエステルフィルムのスペクトルに基づいて、前記ポリエステルフィルムの結晶化特性の調節のための熱固定温度を設定し、
前記熱固定温度は200℃~250℃である、ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記縦方向延伸過程の延伸温度は、75℃~110℃であり、前記横方向延伸過程の延伸温度は、85℃~140℃であり、
前記縦方向延伸過程の延伸比は2.8倍~3.3倍であり、前記横方向延伸過程の延伸比は3.5倍~4.5倍である、請求項11に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項13】
前記熱固定温度は220℃~240℃である、請求項11に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
具現例は、ポリエステルフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、耐熱性、機械的強度、透明性などにおいて安定した性質を有する。これにより、容器、包装材、フィルム、ケーブルなどの様々な分野で幅広く用いられている。特に、PCT(Polycyclohexylenedimethylene Terephthalate)は、他の樹脂に比べて優れた耐熱性、耐湿性などを有し、高耐熱性が要求される分野、特に電気車分野、電気部品分野で活用度が益々増加している。
【0003】
PCT樹脂は、シクロヘキサンジメタノールとテレフタル酸を縮合重合して生成することができる、シクロヘキサン骨格を有するポリエステル樹脂である。
【0004】
PCT樹脂は、速い結晶化の特性を有する。この特性は、通常、厚い厚さを有する射出成形品の製造において、加工性及び生産効率性の向上に役立ち得る。但し、シートやフィルムの製造工程のように製造工程に押出及び/又は延伸工程が適用される場合、高分子の結晶化特性を良好に制御しなければ、製品品質の低下又は生産収率の低下を起こしやすい。
【0005】
前述した背景技術は、発明者が本発明の導出のために保有していた、または本発明の導出過程で習得した技術情報であって、必ずしも本発明の出願前に一般公衆に公開された公知技術であるとは限らない。
【0006】
関連する先行技術として、日本公開特許第2002-146166号、大韓民国登録特許第10-1572408号がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
具現例の目的は、高分子の結晶化度の制御が難しい樹脂を活用して製造されたポリエステルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、一具現例に係るポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂を含むフィルムである。
【0009】
前記ポリエステル樹脂は、シクロヘキサン骨格を有する繰り返し単位、及びベンゼン環を有する繰り返し単位を含む。
【0010】
フーリエ変換赤外分光分析器(Fourier transform infrared spectroscopy;FT-IR)を用いて測定したスペクトルにおいて、前記ベンゼン環の変角振動に関連するピークである基準ピーク、及びC-O伸縮振動に関連するピークである第1ピークを有する。
【0011】
前記基準ピークは、波数788cm-1~798cm-1におけるピークである。
【0012】
前記第1ピークは、波数1129cm-1~1139cm-1におけるピークである。
【0013】
前記基準ピークと前記第1ピークとの強度の差が-0.05~+0.05である。
【0014】
前記ポリエステルフィルムは、前記スペクトルにおいて、前記第1ピークと区別され、C-O伸縮振動に関連するピークである第2ピークを有することができる。
【0015】
前記第2ピークは、波数810cm-1~820cm-1におけるピークであり得る。
【0016】
前記基準ピークと前記第2ピークとの強度の差が-0.05~+0.05であり得る。
【0017】
前記ポリエステルフィルムは、前記スペクトルにおいて、C=O-O伸縮振動に関連するピークである第3ピークを有することができる。
【0018】
前記第3ピークは、波数850cm-1~860cm-1におけるピークであり得る。
【0019】
前記基準ピークと前記第3ピークとの強度の差が-0.05~+0.05であり得る。
【0020】
前記ポリエステルフィルムは、前記スペクトルにおいて、C=O-O伸縮振動に関連するピークである第4ピークを有することができる。
【0021】
前記第4ピークは、波数966cm-1~976cm-1におけるピークであり得る。
【0022】
前記基準ピークと前記第4ピークとの強度の差が-0.05~+0.05であり得る。
【0023】
前記ポリエステルフィルムは、250℃で30分間放置した後に測定した引張強度が7Kgf/mm以上であり得る。
【0024】
前記ポリエステルフィルムは、250℃で30分間放置した後に測定した伸び率が100%以上であり得る。
【0025】
前記ポリエステルフィルムは、250℃で30分間放置した後に測定したヘイズ値が15%以下であり得る。
【0026】
前記ポリエステルフィルムは、250℃で30分間放置した後に測定した黄色度の値が3以下であり得る。
【0027】
前記ベンゼン環を有する繰り返し単位は、ジカルボン酸系繰り返し単位を含むことができる。
【0028】
前記ジカルボン酸系繰り返し単位は、テレフタル酸系繰り返し単位、及びイソフタル酸系繰り返し単位を含むことができる。
【0029】
前記ポリエステル樹脂は、重量平均分子量が30,000g/mol~50,000g/molであり得る。
【0030】
他の具現例に係るポリエステルフィルムの製造方法は、ポリエステル樹脂組成物を押出してシートを設ける押出ステップと、前記シートを延伸して、熱処理前のフィルムを設ける延伸ステップと、前記熱処理前のフィルムを熱固定処理してポリエステルフィルムを設ける熱固定ステップとを含む。
【0031】
前記ポリエステルフィルムはポリエステル樹脂を含む。
【0032】
前記ポリエステル樹脂は、シクロヘキサン骨格を有する繰り返し単位、及びベンゼン環を有する繰り返し単位を含む。
【0033】
前記ポリエステルフィルムは、フーリエ変換赤外分光分析器(Fourier transform infrared spectroscopy;FT-IR)を用いて測定したスペクトルにおいて、前記ベンゼン環の変角振動に関連するピークである基準ピーク、及びC-O伸縮振動に関連するピークである第1ピークを有する。
【0034】
前記基準ピークは、波数788cm-1~798cm-1におけるピークである。
【0035】
前記第1ピークは、波数1129cm-1~1139cm-1におけるピークである。
【0036】
前記ポリエステルフィルムは、前記基準ピークと前記第1ピークとの強度の差が-0.05~+0.05である。
【0037】
前記押出ステップ、延伸ステップ及び熱固定ステップのうちの少なくともいずれか1つ以上のステップは、フーリエ変換赤外分光分析器を用いて確認した前記ポリエステルフィルムのスペクトルに基づいて、前記ポリエステルフィルムの結晶化特性の調節のための工程条件がセッティングされる。
【0038】
前記延伸ステップは、前記シートを縦方向に延伸して縦方向延伸シートを設ける縦方向延伸過程、及び前記縦方向延伸シートを横方向に延伸して熱処理前のフィルムを製造する横方向延伸過程を含むことができる。
【0039】
前記延伸ステップにおいて、フーリエ変換赤外分光分析器を用いて確認した前記ポリエステルフィルムのスペクトルに基づいて、前記ポリエステルフィルムの結晶化特性の調節のための、前記縦方向延伸過程の延伸比及び前記横方向延伸過程の延伸比を設定することができる。
【0040】
前記縦方向延伸過程の延伸比は2倍~4倍であり、前記横方向延伸過程の延伸比は3倍~5倍であり得る。
【0041】
前記熱固定ステップにおいて、フーリエ変換赤外分光分析器を用いて確認した前記ポリエステルフィルムのスペクトルに基づいて、前記ポリエステルフィルムの結晶化特性の調節のための熱固定温度を設定することができる。
【0042】
前記熱固定温度は200℃~250℃であり得る。
【発明の効果】
【0043】
具現例のポリエステルフィルムは、樹脂の結晶化度が制御されることで、耐熱性及び機械的物性などに優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は、様々な異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。
【0045】
本明細書で使用される程度の用語「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有の製造及び物質の許容誤差が提示されるとき、その数値で又はその数値に近接した意味で使用され、具現例の理解を助けるために正確又は絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使用される。
【0046】
本明細書全体において、マーカッシュ形式の表現に含まれた「これらの組み合わせ」という用語は、マーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群から選択される1つ以上の混合又は組み合わせを意味するものであって、前記構成要素からなる群から選択される1つ以上を含むことを意味する。
【0047】
本明細書全体において、「A及び/又はB」の記載は、「A、B、または、A及びB」を意味する。
【0048】
本明細書全体において、「第1」、「第2」又は「A」、「B」のような用語は、特に説明がない限り、同一の用語を互いに区別するために使用される。
【0049】
本明細書において、A上にBが位置するという意味は、A上にBが位置したり、それらの間に別の層が位置しながらA上にBが位置したりすることができることを意味し、Aの表面に当接してBが位置することに限定されて解釈されない。
【0050】
本明細書において、単数の表現は、特に説明がなければ、文脈上解釈される単数又は複数を含む意味で解釈される。
【0051】
本明細書において、常温は、20℃~25℃のいずれかの温度を意味する。
【0052】
本明細書に記載された樹脂は、樹脂それ自体及びその樹脂に由来した化合物を含む意味として解釈される。例示的に、本明細書に記載されたポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂、及び前記ポリエステル樹脂の誘導体(derivative)を含む意味として解釈される。
【0053】
本明細書に記載された「~系繰り返し単位」は、単量体として適用された化合物に由来した繰り返し単位を意味する。例示的に、ジオール系繰り返し単位は、ジオール系化合物に由来した繰り返し単位を意味する。
【0054】
本明細書が提示する確認方法は、分析機器の結果を活用するもので、機器自体や種類の相違、機器に搭載されたプログラムの相違により、後述する特徴的な波数及びその強度に対して微差が発生し得る。但し、これによって本明細書に提示された発明を限定して解釈しない。
【0055】
以下、具現例をより詳細に説明する。
【0056】
高分子樹脂のフィルム化過程は、溶融(又は軟化)、シート化、昇温、延伸、熱固定などの多段のステップを経る。高分子樹脂の結晶化の程度は、製造収率に影響を及ぼし、製造されたフィルムの機械的特性、光学的特性など製品の物性にも影響を及ぼす。
【0057】
各ステップで高分子樹脂の結晶化の程度を調節することは、収率の向上、製造された物品の品質コントロールの観点で重要である。そのために、各過程で高分子樹脂の結晶化の程度を確認又は予測することが必要である。特に、結晶化の程度が速く進行する高分子樹脂の場合においてさらに必要性が大きい。
【0058】
発明者らは、シクロヘキサン骨格を有する繰り返し単位を含むポリエステルフィルムの結晶化度をさらに容易に確認又は予測するための方法として様々な方法を適用してみた結果、樹脂の特異性をよく反映するものと判断される具現例のフーリエ変換赤外分光分析器を活用した方法を提示する。
【0059】
高分子の結晶化度の確認方法I
前記目的を達成するために、具現例の一実施例に係る高分子の結晶化度の確認方法は、準備ステップ、測定ステップ、選択ステップ、検索ステップ、及び出力ステップを含む。
【0060】
前記準備ステップは、確認対象である高分子含有試料を準備するステップである。
【0061】
前記試料はポリエステル樹脂を含み、前記ポリエステル樹脂は、シクロヘキサン骨格を有する繰り返し単位を含む。
【0062】
前記ポリエステル樹脂は、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートを含むことができる。
【0063】
前記ポリエステル樹脂は、例えば、エチレングリコール残基を有するポリエステル樹脂などと比較して結晶化速度が非常に速いため、結晶化度の調節が容易ではない。
【0064】
前記試料は、延伸フィルムを含むことができる。
【0065】
前記試料は、一軸延伸フィルムを含むことができる。
【0066】
前記試料は、二軸延伸フィルムを含むことができる。
【0067】
前記試料は、逐次二軸延伸フィルムを含むことができる。
【0068】
延伸フィルムに含まれた高分子樹脂には、熱によって促進される結晶化が反映されていてもよい。また、延伸フィルムに含まれた高分子樹脂には、延伸(二軸延伸フィルムの場合、機械方向の延伸及び幅方向の延伸)によって促進される結晶化が反映され得る。
【0069】
前記準備ステップは、確認対象である高分子含有試料を準備するステップであって、必要に応じて、分光分析器で測定可能な大きさに調節された試料を準備することができる。
【0070】
試料は、通常、四角形の形状に切断して準備されることが便利であるが、これに限定されるものではない。
【0071】
試料は、必要に応じて、延伸方向と平行又は垂直な面を有するように準備されてもよい。例示的に、延伸フィルムの機械方向と試料の一面が平行となるように切断して準備することができる。また、延伸フィルムの幅方向と試料の一面が平行となるように切断して準備することができる。このように延伸フィルムの機械方向又は幅方向と一面が平行となるように準備された試料は、後述する延伸によって促進された結晶化度を確認するのにさらに有利である。
【0072】
試料は、縦、横それぞれ5~6cm程度の四角形の形状で準備されてもよいが、これに限定されない。
【0073】
測定ステップは、分光分析器を活用して、前記試料の結晶化特徴を示す波数における吸光度の強度情報を含むスペクトル情報を取得するステップである。
【0074】
前記分光分析器は、フーリエ変換赤外分光分析器(Fourier transform infrared spectroscopy;FT-IR)が適用され得る。
【0075】
FT-IR機器は、Variant社で製造したUMA 600製品が適用されてもよいが、この機器に限定されない。FT-IR機器の設定に対する具体的な方法は、後述する実験実施例に記載された内容に従い、例示的にDiamond and Ge single bounce ATRを適用して、MCT detector、resolution 4、#32 scansの条件で測定することができる。
【0076】
測定の波数範囲は、機器が提供する波数全体を測定することができ、約800~約1200cm-1の範囲を測定した結果が活用され得、後述する第1波数、第2波数、第3波数及び第4波数から選択的に1以上の波数が選択されて測定されてもよい。
【0077】
前記スペクトル情報から得ようとする結晶化度の情報が、熱による前記高分子樹脂の結晶化程度の情報である場合、前記スペクトル情報は、試料を約90°回転させながら2回測定した結果を平均して適用可能である。具体的に、前記試料は、第1方向に置かれた前記試料で測定した第1測定値、及び第2方向に置かれた前記試料で測定した第2測定値を有し、前記第1方向と前記第2方向は実質的に垂直であり、前記スペクトル情報又は前記特徴は、前記第1測定値と前記第2測定値の平均値に対応する。
【0078】
前記スペクトル情報から得ようとする結晶化度の情報が、機械方向の延伸及び/又は幅方向の延伸による結晶化の程度である場合、前記スペクトル情報は、偏光板を適用して得られる。具体的に、前記分光分析器の光線は、偏光板を通過して前記試料に入射され、前記光線の波長の方向は前記試料の面と平行であり、前記光線の進行方向は前記試料に対して垂直となる。前記偏光板は、90°に設定されたものが適用される。試料として、延伸フィルムの機械方向に対して前記試料の少なくとも一辺が平行となるように裁断されたものが適用されてもよい。または、前記試料として、延伸フィルムの幅方向に対して前記試料の少なくとも一辺が平行となるように裁断されたものが適用されてもよい。試料の方向を変えて測定することによって、確認される結晶化度の情報は、それぞれ長手方向の配向結晶化の程度及び幅方向の配向結晶化の程度を示し、前記情報は、互いに異なる結果を示すことができる。
【0079】
選択ステップは、前記スペクトル情報から検索キーとして使用する特徴を選択するステップである。スペクトル情報は、通常、波数に対する吸収スペクトル強度が提示される表またはグラフ(波数がX軸、吸収スペクトル強度がY軸であるグラフ)であり得る。具現例では、高分子含有試料の結晶化度に対応する検索キーとして活用されるスペクトル情報、後述する第1強度~第4強度の4つの強度のうちの少なくとも1つ以上を提示する。
【0080】
例示的に、試料の熱による結晶化の程度を確認しようとする場合、検索キーは、第1波数におけるスペクトル強度であり、例示的に第1波数に位置するピークのスペクトル強度である。前記第1波数は、約1129cm-1~約1139cm-1に位置してもよく、または約1132cm-1~約1136cm-1に位置してもよい。具体的に、第1波数は約1134cm-1付近であり得る。前記第1波数におけるピーク強度を第1強度という。
【0081】
前記ピークは、C-O伸縮(Stretching)に関連するピークと考えられ、シクロヘキサン骨格を有する繰り返し単位に熱によって誘導される結晶化で変化が発生するピークと考えられる。前記第1ピークの位置は、測定条件、データ処理条件、試料の状態などに応じて一般に測定時に発生し得るピークの位置移動(shift)などが生じ得るという点を考慮して、当該波数付近と表現する。波数に対する表現は、付近という表現が記載されていなくても、これを含んでいるものと解釈する(以下、同様)。
【0082】
試料の熱による結晶化の程度の予測値は、前記第1波数におけるスペクトル強度を入力値として、スペクトルデータベースから、前記入力値と予め定められた値以上の同等性条件を有するスペクトル強度値に対応する結晶化度情報を検索した結果である。
【0083】
また、試料の熱による結晶化の程度の予測値は、同じ試料内の基準波数におけるピーク強度を基準とする相対強度値で確認することができる。
【0084】
例示的に、基準波数は、約793cm-1に位置してもよく、または約788cm-1~798cm-1に位置してもよい。この基準波数は、780cm-1~800cm-1に現れるベンゼン環の変角振動(bending vibration)に起因するもので、熱や配向によって変化が大きくないため、スペクトルの相対的な強度を評価する際に基準として適用可能であると判断される(以下、同様に適用される)。
【0085】
試料の熱による結晶化の程度の予測値は、前記基準波数におけるピーク(基準ピークと略称する)に対する前記第1強度の相対値が一定の範囲内の値を有することができる。例示的に、基準強度に対する前記第1強度の値は-0.05~+0.05の範囲内に位置することができ、具体的に-0.02~+0.02の範囲内に位置することができる。この場合に、フィルムの形態に前記樹脂を加工するのに適切な熱結晶化範囲内であるものと判断可能である。
【0086】
例示的に、試料の熱による結晶化の程度を確認しようとする場合、検索キーは、第2波数におけるスペクトル強度であり、例示的に第2波数に位置するピークのスペクトル強度である。前記第2波数は、810cm-1~820cm-1に位置してもよく、または812cm-1~817cm-1に位置してもよい。具体的に、第2波数は約815cm-1付近であり得る。前記第2波数におけるピーク強度を第2強度という。
【0087】
前記ピークは、C-O伸縮(Stretching)振動に関連するピークと考えられ、シクロヘキサン骨格を有する繰り返し単位に熱によって誘導される結晶化で変化が発生するピークと考えられる。
【0088】
試料の熱による結晶化の程度の予測値は、前記第2波数におけるスペクトル強度を入力値として、スペクトルデータベースから、前記入力値と予め定められた値以上の同等性条件を有するスペクトル強度値に対応する結晶化度情報を検索した結果である。
【0089】
また、試料の熱による結晶化の程度の予測値は、同じ試料内の基準波数における強度を基準とする相対強度値で確認することができる。
【0090】
基準波数または基準強度は、例示的に、上述したピークまたは強度が適用され得る。
【0091】
試料の熱による結晶化の程度の予測値は、前記基準強度に対する前記第2強度の相対値が一定の範囲内の値を有することができる。例示的に、基準強度を基準として前記第2強度の差が-0.05~+0.05の範囲内に位置することができ、具体的に-0.02~+0.02の範囲内に位置することができる。この場合に、フィルムとして適切な熱結晶化範囲内に位置するものと判断可能である。
【0092】
試料の配向による結晶化は延伸工程と関連し得る。高分子の鎖が高分子フィルム内でどれだけ揃って配列されているかによってフィルムの物性が変わり得、これは、配向による結晶化の程度と関連する。また、配向による結晶化の程度は延伸工程の影響を受け、これを通じて制御できるが、延伸工程によってのみ制御できるものと限定して解釈してはならない。
【0093】
例示的に、試料の配向による結晶化の程度を確認しようとする場合、検索キーは、第3波数におけるスペクトル強度であり、例示的に、第3波数に位置するピークのスペクトル強度であり得る。前記第3波数は、850cm-1~860cm-1に位置してもよく、または853cm-1~857cm-1に位置してもよい。具体的に、第3波数は約855cm-1付近であり得る。前記第3波数におけるピーク強度を第3強度という。
【0094】
例示的に、試料の配向による結晶化の程度を確認しようとする場合、検索キーは、第4波数におけるスペクトル強度であり、例示的に、第4波数に位置するピークのスペクトル強度であり得る。前記第4波数は、966cm-1~976cm-1に位置してもよく、または969cm-1~973cm-1に位置してもよい。具体的に、第4波数は約971cm-1付近であり得る。前記第4波数におけるピーク強度を第4強度という。
【0095】
前記第3波数及び前記第4波数は、それぞれC=O-O伸縮(Stretching)振動に関連する波数と考えられる。前記波数において高分子樹脂の配向による振動の変化が確認されるものと考えられる。
【0096】
例示的に、試料の配向による結晶化の程度の予測値は、前記第3波数及び/又は第4波数におけるスペクトル強度を入力値として、スペクトルデータベースから、それぞれ前記第3波数又は前記第4波数におけるスペクトル強度の入力値と予め定められた値以上の同等性条件を有するスペクトル強度値に対応する結晶化度情報を検索した結果である。
【0097】
また、試料の配向による結晶化の程度の予測値は、同じ試料内の基準ピークの強度を基準とする相対強度値で確認することができる。
【0098】
基準ピークについての説明は、上述の説明と重複するので、その記載を省略する。
【0099】
試料の配向による結晶化の程度の予測値は、前記基準ピークに対する前記第3波数及び/又は第4波数の強度の相対値が一定の範囲内の値を有することができる。例示的に、基準ピークに対する前記第3波数及び/又は第4波数における強度値は、それぞれ-0.05~+0.05の範囲内に位置することができ、具体的に、それぞれ-0.02~+0.02の範囲内に位置することができる。この場合に、フィルムとして適切な熱結晶化範囲内に位置するものと判断可能である。
【0100】
配向による結晶化の程度の確認に活用されるスペクトルデータベースは、測定時に、試料に入射される光が偏光板を通過するようにして測定した結果を基準とし、測定の便宜性のため、試料に含まれた延伸フィルムの機械方向又は幅方向に対して前記試料の少なくとも一辺が平行となるように裁断されたものが適用され得る。
【0101】
偏光板を通過した光が延伸フィルムの機械方向と平行であるか、幅方向と平行であるかによって、予測値が機械方向の配向結晶化の程度であるか、幅方向の配向結晶化の程度であるかが区別可能である。
【0102】
具体的に、前記分光分析器の光線は、偏光板を通過して前記試料に入射される。前記偏光板は、IR sourceと試料との間に装着され、約90°に設定された後、インターフェログラムシグナル(interferogram signal)が最大となるように位置を調整する。装備の設定が多い場合、面配向の測定と同一であるため、一般に、偏光板が90°であるとき、光線の波長はサンプルの面と平行な方向であり、サンプルを通過した光線は、進行方向に垂直なフィルムの機械方向の結晶特性を確認可能である。また、偏光板を調節して光線の波長がサンプルの厚さと平行な方向であると、サンプルを通過した光線は、進行方向に垂直なフィルムの幅方向の結晶特性を確認可能である。
【0103】
検索ステップは、スペクトルデータベースから、前記検索キーに対して予め定められた値以上の同等性条件を満たす結晶化度情報を検索するステップである。
【0104】
スペクトルデータベースは、高分子樹脂の結晶化度、及びその結晶化度に対応するスペクトル特徴が記録されたものを指す。
【0105】
熱による結晶化の程度の確認に活用されるスペクトルデータベースは、試料を約90°に回転させながら2回測定した値を平均した値のデータベースが適用され得る。
【0106】
配向による結晶化の程度の確認に活用されるスペクトルデータベースは、試料の一面が機械方向(又は幅方向)と平行となるように切断し、偏光板を適用して機械方向の測定値と幅方向の測定値を区分して記録したスペクトルデータベースであり得る。
【0107】
スペクトルデータベースは、当該波数で特定の吸収スペクトル強度を有すれば、どの程度の結晶化レベルであるという、互いに対応するデータを有しており、これに基づいて、予め定められた値以上の同等性条件を満たす結晶化度情報を検索することができる。
【0108】
このとき、配向による結晶化の程度の確認に活用されるスペクトルデータベースは、熱による結晶化の程度の確認に活用されるスペクトルデータベースと区分されて構築され得る。また、配向による結晶化の程度の確認のための検索キーは、検索キーとして使用する特徴に、特徴波数における吸光スペクトル強度と、機械方向であるか幅方向であるかを共に選択可能である。
【0109】
予め定められた値以上の同等性条件は、例示的に、検索キーである当該波数における吸光スペクトル強度が、スペクトルデータベースの当該波数における吸光スペクトル強度と誤差範囲10%以内、誤差範囲5%以内、または誤差範囲1%以内であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0110】
予め定められた値以上の同等性条件は、例示的に、スペクトルデータベースに記録された趨勢線(スペクトル強度による結晶化度の趨勢線)によって導出されたものであり得、この場合に、同等性条件は、趨勢線のRが0.9以上、0.95以上、または0.98以上であってもよい。
【0111】
出力ステップは、前記結晶化度情報を出力するステップである。結晶化度情報は、前記スペクトルデータベースから同等性条件を満たす結晶化情報値が出力されるもので、一般に適用される画面上の出力または出力物上の出力などが適用されてもよく、これに限定されるものではない。
【0112】
前記出力は、結晶化情報と共に、熱による結晶化度情報であるか、延伸による結晶化度情報であるかも共に出力され得る。また、延伸による結晶化度情報の場合、機械方向であるか幅方向であるかも共に出力可能である。
【0113】
具現例の高分子の結晶化度の確認方法は、サンプルのフーリエ変換赤外分光分析器を適用して、そのスペクトル情報から特定の波数の吸光スペクトル強度を活用して、試料の熱結晶、配向結晶の程度を確認又は予測することができる。これは、シートまたはフィルムの形態の高分子製品を製造する過程において、結晶性の程度を制御するための基礎情報を提供することができ、これを活用して、より効率的に、より一層結晶性が制御された製品を製造することができる。
【0114】
高分子の結晶化度の確認方法II及びIII
他の一具現例に係るフィルムの高分子の結晶化度の確認方法は、準備ステップ、測定ステップ、選択ステップ、及び確認ステップを含む。
【0115】
前記準備ステップは、ポリエステル樹脂を含有するフィルム形態の試料を準備するステップである。
【0116】
前記ポリエステル樹脂は、シクロヘキサン骨格を有する繰り返し単位、及びベンゼン環を有する繰り返し単位を含むことができる。
【0117】
前記ポリエステル樹脂はポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートを含むことができる。前記ポリエステル樹脂はポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートであり得る。
【0118】
前記測定ステップは、分光分析器で前記試料を測定してスペクトル情報を取得するステップである。
【0119】
前記分光分析器としては、フーリエ変換赤外分光分析器(Fourier transform infrared spectroscopy;FT-IR)が適用され得る。
【0120】
前記試料の準備、前記分光分析器のセッティングなどは、上述の内容と重複するので、その記載を省略する。
【0121】
前記選択ステップは、前記スペクトル情報から、基準波数として適用される特徴及び結晶化情報を確認する検索波数を選択するステップである。
【0122】
一般に、スペクトル情報は、波数情報がx軸に、スペクトル強度がy軸に提示される。特定の波数でピークが観察され、当該ピークに該当する高分子の特性を解析可能である。
【0123】
具現例は、この特性とフィルムの結晶化特性を関連付け、フィルム内の高分子樹脂の結晶化の程度を確認又は予測する。
【0124】
前記基準波数は、ベンゼン環の変角振動に関連するピークであり得る。
【0125】
前記基準波数は、約788cm-1~798cm-1に位置するピークであり得る。
【0126】
前記基準波数についてのより詳細な説明は、前記で説明したものと重複するので、その記載を省略する。
【0127】
前記検索波数は、C-O伸縮振動に関連するピーク、またはC=O-O伸縮振動に関連するピークであってもよい。
【0128】
前記検索波数は、1129cm-1~1139cm-1に位置する第1波数、810cm-1~820cm-1に位置する第2波数、850cm-1~860cm-1に位置する第3波数、または966cm-1~976cm-1に位置する第4波数であってもよい。
【0129】
C-O伸縮振動に関連するピークは、1129cm-1~1139cm-1に位置する第1波数、及び/又は810cm-1~820cm-1に位置する第2波数であり得る。
【0130】
C=O-O伸縮振動に関連するピークは、850cm-1~860cm-1に位置する第3波数、及び/又は966cm-1~976cm-1に位置する第4波数であり得る。
【0131】
基準波数及び検索波数のそれぞれにおけるピーク強度を基準強度及び検索強度と称するなど、より具体的な内容は、前記で説明したものと同一であるので、詳細な記載を省略する。
【0132】
前記確認ステップは、前記基準波数のピーク強度を基準とする前記検索波数におけるピーク強度の差が-0.05~+0.05であるか、-0.02~+0.02であるかを確認するステップである。
【0133】
前記差が前記で説明した範囲以内である場合、フィルムの形態に加工される高分子樹脂の結晶化の程度を制御するのに適し、機械的物性などがより向上したフィルムの提供も可能である。
【0134】
具現例は、フィルムの形態に加工される高分子樹脂の結晶化の程度を制御するのに役立つ情報を提供することができる。
【0135】
ポリエステルフィルム
具現例の他の一実施例に係るポリエステルフィルムはポリエステル樹脂を含む。
【0136】
前記ポリエステル樹脂は、シクロヘキサン骨格を有する繰り返し単位、及びベンゼン環を有する繰り返し単位を含む。
【0137】
ポリエステルフィルムは、フーリエ変換赤外分光分析器(Fourier transform infrared spectroscopy;FT-IR)を用いて測定したスペクトルにおいて、前記ベンゼン環の変角振動に関連するピークである基準ピーク、及びC-O伸縮振動に関連するピークである第1ピークを有する。
【0138】
前記基準ピークは、波数788cm-1~798cm-1におけるピークである。前記基準ピークは、波数793cm-1におけるピークであってもよい。
【0139】
前記第1ピークは、波数1129cm-1~1139cm-1におけるピークである。前記第1ピークは、波数1132cm-1~約1136cm-1におけるピークであってもよい。前記第1ピークは、波数1134cm-1におけるピークであってもよい。
【0140】
前記基準ピークと前記第1ピークとの強度の差が-0.05~+0.05である。前記強度の差は-0.02~+0.02であってもよい。
【0141】
ポリエステルフィルムがこのような特徴を有する場合、前記フィルムに適用された樹脂は、フィルムの形態に加工するのに適した熱結晶化特性を有することができる。前記樹脂は、ポリエステルフィルムに優れた耐熱性及び機械的物性などを付与するのに寄与することができる。
【0142】
ポリエステルフィルムは、前記スペクトルにおいて、前記第1ピークと区別され、C-O伸縮振動に関連するピークである第2ピークを有することができる。
【0143】
第2ピークは、波数810cm-1~820cm-1におけるピークであってもよい。前記第2ピークは、波数812cm-1~817cm-1におけるピークであってもよい。前記第2ピークは、815cm-1におけるピークであってもよい。
【0144】
前記基準ピークと前記第2ピークとの強度の差が-0.05~+0.05であってもよい。前記強度の差が-0.02~+0.02であってもよい。
【0145】
このような場合、熱処理によるポリエステル樹脂の過度の結晶化が抑制され、ポリエステルフィルムが優れた耐熱性と機械的物性を同時に確保することができる。
【0146】
ポリエステルフィルムは、前記スペクトルにおいて、C=O-O伸縮振動に関連するピークである第3ピークを有することができる。
【0147】
第3ピークは、波数850cm-1~860cm-1におけるピークであってもよい。前記第3ピークは、853cm-1~857cm-1におけるピークであってもよい。前記第3ピークは、855cm-1におけるピークであってもよい。
【0148】
前記基準ピークと前記第3ピークとの強度の差が-0.05~+0.05であってもよい。前記強度の差が-0.02~+0.02であってもよい。
【0149】
このような特徴を有するポリエステルフィルムは、樹脂の配向の程度が適切に調節され、優れた機械的物性を有することができる。
【0150】
ポリエステルフィルムは、前記スペクトルにおいて、C=O-O伸縮振動に関連するピークである第4ピークを有することができる。
【0151】
第4ピークは、波数966cm-1~976cm-1におけるピークであってもよい。前記第4ピークは、969cm-1~973cm-1におけるピークであってもよい。前記第4ピークは、971cm-1におけるピークであってもよい。
【0152】
前記基準ピークと前記第4ピークとの強度の差が-0.05~+0.05であってもよい。前記強度の差が-0.02~+0.02であってもよい。
【0153】
このような特徴を有するポリエステルフィルムは、モジュラスなどのような機械的物性がさらに改善され得る。
【0154】
フーリエ変換赤外分光分析器(Fourier transform infrared spectroscopy;FT-IR)を用いてポリエステルフィルムのスペクトルを測定する方法、基準ピーク、第1ピーク、第2ピーク、第3ピーク及び第4ピークなどについての説明は、前述の内容と重複するので省略する。
【0155】
ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸系繰り返し単位、及びジオール系繰り返し単位を含む。
【0156】
前記ジカルボン酸系繰り返し単位は、テレフタル酸系繰り返し単位、及びイソフタル酸系繰り返し単位を含むことができる。
【0157】
前記ジカルボン酸系繰り返し単位は、テレフタル酸残基、及びイソフタル酸残基を含むことができる。
【0158】
前記ジオール系繰り返し単位は、シクロヘキサン骨格を有する繰り返し単位を含む。
【0159】
前記シクロヘキサン骨格を有する繰り返し単位はシクロヘキサンジメタノール残基であってもよい。
【0160】
前記ジカルボン酸系繰り返し単位は、全体100モル%を基準として、テレフタル酸残基を80モル%以上又は90モル%以上、100モル%以下含むことができ、イソフタル酸残基を20モル%以下、15モル%以下、12モル%以下、10モル%以下、8モル%以下、6モル%以下、または4モル%以下含むことができる。ポリエステル樹脂は、前記イソフタル酸残基を0モル%超、1モル%以上、または2モル%以上含むことができる。
【0161】
前記ジカルボン酸系繰り返し単位として、テレフタル酸残基及びイソフタル酸残基が前記のような含量で含まれる場合、相対的に高い融点特性及び低い結晶化特性を有することができる。また、このような含量でイソフタル酸残基を含む場合、ポリエステルフィルムの長期耐久性を向上させるのに寄与することができる。
【0162】
前記ジオール系繰り返し単位は、前記シクロヘキサンジメタノール以外の次のジオール系繰り返し単位をさらに含むことができる。例示的に、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-オクタンジオール、1,3-オクタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,1-ジメチル-1,5-ペンタンジオール及びこれらの由来残基などを含むことができる。
【0163】
前記ジオール系繰り返し単位は、全体100モル%を基準として、シクロヘキサンジメタノール残基を70モル%以上、80モル%以上又は90モル%以上、100モル%以下含むことができる。
【0164】
前記ポリエステル樹脂はポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂であってもよい。
【0165】
前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂は、重量平均分子量(Mw)が30,000g/mol~50,000g/molであってもよく、または30,000g/mol~40,000g/molであってもよい。
【0166】
前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂は、融点が280℃以上であるものであってもよい。これは、ポリエステルフィルムに適用される一般的なポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂と比較して高い融点であって、ポリエステルフィルムに優れた耐熱性を付与することができる。
【0167】
ポリエステルフィルムは、必要に応じて無機粒子をさらに含むことができる。無機粒子は、前記ポリエステル樹脂と混合されてポリエステルフィルムに含まれ得る。
【0168】
無機粒子は、例示的に、シリカ(silica)、タルク(talc、滑石)、酸化チタン(TiO)、炭酸カルシウム(CaCO)、硫酸バリウム(BaSO)及びこれらの組み合わせからなる群から選択されたいずれか1つが含まれてもよい。
【0169】
前記無機粒子を適用すれば、前記ポリエステルフィルムの機械的強度を高めるのに役立ち得る。
【0170】
ポリエステルフィルムは酸化防止剤を含むことができる。
【0171】
酸化防止剤は、ポリエステル樹脂の合成過程で高温に曝される樹脂の老化を防止するために適用され得るが、具現例では、樹脂の合成過程ではなく、樹脂をフィルム化する過程で適用する。また、このような酸化防止剤は、3種以上混合して適用することができる。具体的に、酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤を含むことができる。
【0172】
前記フェノール系酸化防止剤は、例示的に、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン;オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;ベンゼンプロパン酸,3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ,アルキルエステル(アルキルは、炭素数7又は9);トリエチレングリコール-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート;トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート;1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン;またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0173】
前記リン系酸化防止剤は、例示的に、3,9-ビス(2,4-ジクミルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン[3,9-Bis(2,4-dicumylphenoxy)-2,4,8,10-tetraoxa-3,9-diphosphaspiro[5.5]undecane];ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト;ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト;テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)4,4'-ビフェニレンジホスホナイト;またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0174】
前記硫黄系酸化防止剤は、ジラウリル-3,3'-チオジプロピオン酸エステル;ジミリスチル-3,3'-チオジプロピオン酸エステル;ジステアリル-3,3'-チオジプロピオン酸エステル;ラウリルステアリル-3,3'-チオジプロピオン酸エステル;ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオンエステル);またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0175】
前記フェノール系酸化防止剤は、前記ポリエステル樹脂100重量部を基準として0.01~1重量部含まれてもよい。
【0176】
前記リン系酸化防止剤は、前記ポリエステル樹脂100重量部を基準として0.01~1重量部含まれてもよい。
【0177】
前記硫黄系酸化防止剤は、前記ポリエステル樹脂100重量部を基準として0.01~1重量部含まれてもよい。
【0178】
前記硫黄系酸化防止剤は、前記フェノール系酸化防止剤100重量部を基準として30重量部以上適用される。
【0179】
前記リン系酸化防止剤と前記硫黄系酸化防止剤は1:0.1~4の重量比で適用されてもよく、1:0.4~2.2の重量比で適用されてもよく、または1:0.8~1.2の重量比で適用されてもよい。
【0180】
前記リン系酸化防止剤と前記フェノール系酸化防止剤は1:0.1~4の重量比で適用されてもよく、または0.3~1.2の重量比で適用されてもよい。
【0181】
ポリエステルフィルムは、前記ポリエステル樹脂100重量部を基準として前記酸化防止剤を800ppm以上含んでもよく、1,000ppm以上含んでもよく、1,200ppm以上含んでもよく、1,800ppm以上含んでもよく、2,000ppm以上含んでもよく、または2,200ppm以上含んでもよい。前記酸化防止剤は5,000ppm以下含んでもよく、または4,000ppm以下含んでもよい。このような範囲で前記酸化防止剤を適用する場合、フィルムの長期耐久性の向上に寄与することができ、優れた機械的物性を長期間保持するフィルムを提供することができる。
【0182】
発明者らは、酸化防止剤の長期耐久性の向上のための適用量が、樹脂の単量体含量と関連し得るという点を確認した。例示的に、前記ポリエステル樹脂がポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂であり、前記樹脂内に含まれたイソフタル酸残基の含量が変化する場合、必要な酸化防止剤の含量に差が発生することを確認した。
【0183】
IPAは、前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂内の、前記ジカルボン酸繰り返し単位全体を基準とした前記イソフタル酸残基の含量(mol%)であり、COAは、前記ポリエステルフィルムに含有された酸化防止剤の含量をppm単位(重量基準)で表した値であるとき、長期信頼性指数(単位:ppm/mol%)は、COA/(CIPA+5)で算出される。
【0184】
ポリエステルフィルムは、前記長期信頼性指数が120~400ppm/mol%であってもよく、130~350ppm/mol%であってもよく、または180~300ppm/mol%であってもよい。長期信頼性指数が大きすぎる場合、酸化防止剤が浪費されたり、過剰使用による物性の変化が懸念され、小さすぎる場合、長期信頼性が低下することがある。
【0185】
ポリエステルフィルムは、印加剤(静電印加剤)をさらに含むことができる。
【0186】
印加剤は、アルカリ金属の塩またはアルカリ土金属の塩が適用され得、フィルムの製造工程において押出樹脂のシート化に寄与する。例示的に、前記印加剤は、マグネシウム系化合物やカリウム系化合物が適用されてもよく、具体的に、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、またはこれらの混合物が適用されてもよい。
【0187】
印加剤は、前記ポリエステル樹脂100重量部を基準として、印加剤に含まれた金属又は金属イオンの含量が300~1000ppmになるように適用され得る。
【0188】
印加剤は、酢酸マグネシウムと酢酸カリウムの混合物が適用されてもよい。前記混合物は、マグネシウムとカリウムを1:1~10の含量比(モル比)で含むことができ、または1:5~10の含量比(モル比)で含むことができる。このような範囲で、印加剤の機能は十分に行いながら、他の添加剤との相互作用が実質的に抑制されることで、耐久性がさらに向上したフィルムを提供することができる。
【0189】
ポリエステルフィルムは、厚さが100μm以下、90μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、または50μm以下であってもよい。前記ポリエステルフィルムは、厚さが1μm以上、2μm以上、5μm以上、または10μm以上であってもよい。
【0190】
ポリエステルフィルムは、優れた長期耐久性特性を有する。
【0191】
前記ポリエステルフィルムを250℃で30分間放置した後に測定した引張強度(tensile strength)が7Kgf/mm以上であってもよく、9Kgf/mm以上であってもよく、または10Kgf/mm以上であってもよい。前記引張強度は13Kgf/mm以下であってもよく、または11Kgf/mm以下であってもよい。このような引張強度は、長期耐久性の評価のための苛酷評価後の値であって、評価前に比べては多少劣る値であるかも知れないが、長期耐久性が優れるという点を示す結果であり、特に、一般のポリエチレンテレフタレート樹脂と比較して、優れた結果である。
【0192】
前記ポリエステルフィルムは、前記苛酷評価(250℃で30分間放置)の前に測定した引張強度(tensile strength)が10Kgf/mm以上であってもよく、13Kgf/mm以上であってもよく、または15Kgf/mm以上であってもよい。前記引張強度は18Kgf/mm以下であってもよい。
【0193】
前記ポリエステルフィルムは、250℃で30分間放置した後に測定した伸び率(elongation)が100%以上であってもよく、または110%以上であってもよい。前記伸び率は140%以下であってもよく、または135%以下であってもよい。これは、機械的物性のうちの伸び率の観点で優れた長期耐久性を有するということを意味する。
【0194】
一般のポリエチレンテレフタレート樹脂の場合、250℃で30分間放置する苛酷条件後に伸び率が著しく低下し、機械的強度が比較的優れたPEN(Polyethylene Naphthalate)フィルムの場合も、250℃で30分間放置する苛酷条件後に伸び率が大幅に減少するものと判断されるが、具現例のポリエステルフィルムは、これと比較して優れた結果であると判断される。
【0195】
前記ポリエステルフィルムは、250℃で30分間放置する前後のモジュラス(modulus、弾性係数)の変化率が10%以内と僅かであるという特徴を有することができる。これは、長期耐久性の評価後にもモジュラス値が良好に維持されるということを意味する。
【0196】
前記ポリエステルフィルムのモジュラスは200Kgf/mm以上であってもよく、210Kgf/mm以上であってもよく、または220Kgf/mm以上であってもよい。前記モジュラスは400Kgf/mm以下であってもよく、300Kgf/mm以下であってもよく、または280Kgf/mm以下であってもよい。
【0197】
前記ポリエステルフィルムは、250℃で30分間放置後に測定したヘイズ値が15%以下であってもよく、12%以下であってもよく、10%以下であってもよく、または8%以下であってもよい。前記放置後に測定したヘイズ値は1%以上であってもよい。
【0198】
前記ポリエステルフィルムのヘイズ値は8%以下であってもよく、または6%以下であってもよい。前記ヘイズ値は1%以上であってもよい。
【0199】
耐熱性に優れると知られているPENフィルムや、一般のポリエチレンテレフタレート樹脂の場合と比較して、具現例のポリエステルフィルムは、優れたヘイズ値特性を有することができる。
【0200】
前記ポリエステルフィルムは、250℃で30分間放置した後に測定した黄色度(Yellow Index)が3以下であってもよく、または2以下であってもよい。前記黄色度は0.1以上であってもよい。
【0201】
前記ポリエステルフィルムは、黄色度(Yellow Index)が0.1以上であってもよく又は0.3以上であってもよく、1以下であってもよい。
【0202】
前記ポリエステルフィルムは、250℃で30分間放置する前後の固有粘度(I.V.、intrinsic viscosity)の変化率が10%以内であってもよい。高分子材料の固有粘度は、耐候性を評価する基準の一つとなり得、通常、フィルムの老化が進行すると、固有粘度値が低くなる。具現例のポリエステルフィルムは、250℃で30分間放置する苛酷試験後にも、固有粘度の変化の程度が10%以内と僅かであるという特性を有することができる。そして、これは、優れた長期耐久性を有するということを意味する。
【0203】
上述した機械的強度、黄色度、ヘイズ、固有粘度などの物性の測定は、後述する実施例において測定に適用した方式を基準とする。
【0204】
前記ポリエステルフィルムは、150℃の温度の熱風を加えながら30分間放置する熱風条件で長手方向(機械方向、MD)の収縮率が1.2%~2.05%であってもよく、または1.5%~2%であってもよい。前記ポリエステルフィルムは、前記熱風条件で幅方向(TD)の収縮率が0.1%~0.7%であってもよく、または0.2%~0.6%であってもよい。前記ポリエステルフィルムは、このような長手方向及び幅方向の収縮率を有することによって、高温でフィルムの劣化や脱落を最小化することができる。
【0205】
前記収縮率は、下記のように計算できる。
【0206】
[式1]
収縮率(%)={(元の長さ-収縮後の長さ)/(元の長さ)}×100
【0207】
ジオール系繰り返し単位にシクロヘキサン骨格を有する繰り返し単位を含み、ジカルボン酸系繰り返し単位にイソフタル酸残基を有する繰り返し単位を含むポリエステルフィルムは、耐湿性及び耐熱性に優れるので、熱と水分に繰り返して曝される環境への適用が有望視されている。具現例のポリエステルフィルムは、延伸などの過程を通じて機械的強度を向上させ、単量体の比率の調節、酸化防止剤などの添加剤の適用などの様々な技術的手段を適用して、機械的物性を向上させ、かつ、これを長期間維持されるようにして、その活用度を高めることができる。
【0208】
前記のような特徴を有するポリエステルフィルムは、熱及び/又は配向による結晶化の程度がフィルムとして適用するのに適するように制御されることで、優れた機械的物性を有するポリエステルフィルムを製造可能であり、フィルムの製造過程で作業性もまた向上することができる。特に、延伸過程で高分子鎖の配向性が変更され、その過程で熱が加えられる過程が繰り返されながら、高分子樹脂の結晶性は変化し得る。特に、この結晶性の変化が急激な高分子樹脂の場合、フィルムの形態への加工が難しく、制御が難しいという特性を有するが、具現例は、この加工過程で高分子の制御を助けることができる。
【0209】
ポリエステルフィルムの製造方法
具現例の更に他の実施例に係るポリエステルフィルムの製造方法は、ポリエステル樹脂組成物を押出してシートを設ける押出ステップと、前記シートを延伸して、熱処理前のフィルムを設ける延伸ステップと、前記熱処理前のフィルムを熱固定処理してポリエステルフィルムを設ける熱固定ステップとを含む。
【0210】
前記押出ステップ、前記延伸ステップ及び前記熱固定ステップのうちの少なくともいずれか1つ以上のステップは、フーリエ変換赤外分光分析器を用いて確認した前記ポリエステルフィルムの結晶化度に基づいて、前記ポリエステルフィルムの結晶化度の調節のための工程条件がセッティングされる。
【0211】
ポリエステルフィルムはポリエステル樹脂を含む。
【0212】
ポリエステル樹脂は、シクロヘキサン骨格を有する繰り返し単位、及びベンゼン環を有する繰り返し単位を含む。
【0213】
フーリエ変換赤外分光分析器(Fourier transform infrared spectroscopy;FT-IR)を用いて測定したスペクトルにおいて、前記ベンゼン環の変角振動に関連するピークである基準ピーク、及びC-O伸縮振動に関連するピークである第1ピークを有する。
【0214】
前記基準ピークは、波数788cm-1~798cm-1におけるピークである。
【0215】
前記第1ピークは、波数1129cm-1~1139cm-1におけるピークである。
【0216】
前記基準ピークと前記第1ピークとの強度の差が-0.05~+0.05である。
【0217】
具現例の製造方法は、押出ステップ、延伸ステップ及び熱固定ステップの工程条件を制御して、ポリエステルフィルムのFT-IRスペクトル特性を調節することができる。これを通じて、ポリエステルフィルムの熱結晶化特性及び配向結晶化特性を同時に制御して、優れた耐熱性を有しながらも、安定した柔軟性及び機械的物性を有するフィルムを提供することができる。
【0218】
ポリエステル樹脂組成物はポリエステル樹脂を含むことができる。ポリエステル樹脂についての説明は、前述の内容と重複するので省略する。
【0219】
ポリエステル樹脂は、ジオール系化合物とジカルボン酸系化合物を縮合重合して得ることができるが、これに制限されない。
【0220】
ポリエステル樹脂組成物は、無機粒子、酸化防止剤、印加剤などをはじめとする添加剤をさらに含むことができる。前記添加剤についての説明は、前述の内容と重複するので省略する。
【0221】
押出ステップにおいて、ポリエステル樹脂組成物は、押出機を通じて溶融押出され得る。押出機は一軸押出機であってもよい。押出機は二軸押出機であってもよい。
【0222】
押出ステップにおいて、溶融押出温度は270℃~330℃であり得る。前記溶融押出温度は275℃以上であってもよい。前記溶融押出温度は280℃以上であってもよい。前記溶融押出温度は320℃以下であってもよい。前記溶融押出温度は310℃以下であってもよい。このような場合、高温による樹脂の劣化を抑制しながら、押出された樹脂組成物に一定レベル以上の配向性を付与することができる。
【0223】
押出された樹脂組成物を冷却し、成形してシートを設けることができる。具体的に、樹脂組成物を通常のTダイを介して溶融押出し、冷却ロールに密着させてシートを設けることができる。
【0224】
冷却ロールの冷却温度は10℃~30℃であり得る。前記冷却温度は12℃以上であってもよい。前記冷却温度は15℃以上であってもよい。前記冷却温度は27℃以下であってもよい。前記冷却温度は25℃以下であってもよい。このような場合、未延伸シート内の樹脂の結晶化が過度に進行することを効果的に抑制することができる。
【0225】
延伸ステップは、前記シートを縦方向に延伸して縦方向延伸シートを形成する縦方向延伸過程、及び前記縦方向延伸シートを横方向に延伸して熱処理前のフィルムを製造する横方向延伸過程を含むことができる。
【0226】
縦方向延伸過程において、未延伸シートを70℃~85℃に予熱し、予熱された未延伸シートを10m/min~50m/minの速度で移送しながら縦方向に延伸することができる。
【0227】
縦方向延伸過程で延伸温度を調節することができる。延伸温度は、延伸ロールの温度である。
【0228】
縦方向延伸過程の延伸温度は75℃~110℃であり得る。前記延伸温度は80℃以上であってもよい。前記延伸温度は100℃以下であってもよい。このような場合、延伸過程で発生する熱によってポリエステル樹脂の結晶化速度が過度に高くなることを抑制すると共に、ポリエステル樹脂の縦方向の配向性をさらに向上させることができる。
【0229】
横方向延伸過程において、縦方向延伸シートを80℃~120℃の温度に予熱し、85℃~140℃の温度で前記シートを横方向に延伸して熱処理前のフィルムを形成することができる。
【0230】
具現例は、延伸ステップにおいて、フーリエ変換赤外分光分析器を用いて確認した前記ポリエステルフィルムのスペクトルに基づいて、前記ポリエステルフィルムの結晶化特性の調節のための、前記縦方向延伸過程の延伸比及び前記横方向延伸過程の延伸比を設定することができる。すなわち、縦方向延伸過程の延伸比及び横方向延伸過程の延伸比は、製造されるポリエステルフィルムが前述したFT-IRスペクトル分布特性を有するように設定され得る。ポリエステルフィルムのFT-IRスペクトル分布特性についての説明は、前述の内容と重複するので省略する。
【0231】
これを通じて、製造されるポリエステルフィルムの配向結晶性をさらに精巧に制御することができる。
【0232】
縦方向の延伸時に適用される延伸比は2倍~4倍であり得る。前記延伸比は2.5倍以上であってもよい。前記延伸比は2.8倍以上であってもよい。前記延伸比は3.5倍以下であってもよい。前記延伸比は3.3倍以下であってもよい。
【0233】
横方向の延伸時に適用される延伸比は3倍~5倍であり得る。前記延伸比は3.5倍以上であってもよい。前記延伸比は4.5倍以下であってもよい。
【0234】
このような場合、製造されるフィルムの配向結晶性を適切なレベルに制御して、フィルムに安定した柔軟性及び機械的強度を付与することができる。
【0235】
具現例は、熱固定ステップにおいて、フーリエ変換赤外分光分析器を用いて確認した前記ポリエステルフィルムのスペクトルに基づいて、前記ポリエステルフィルムの結晶化特性の調節のための熱固定温度を設定することができる。すなわち、熱固定温度は、製造されるポリエステルフィルムが前述したFT-IRスペクトル分布特性を有するように設定され得る。ポリエステルフィルムのFT-IRスペクトル分布特性についての説明は、前述の内容と重複するので省略する。
【0236】
これを通じて、具現例は、製造されるフィルムが過度に高い温度で熱結晶化されることをさらに安定的に抑制すると共に、前記フィルムに優れた寸法安定性を付与することができる。
【0237】
熱固定ステップにおいて、熱固定温度は200℃~250℃であり得る。前記熱固定温度は210℃以上であってもよい。前記熱固定温度は220℃以上であってもよい。前記熱固定温度は245℃以下であってもよい。前記熱固定温度は240℃以下であってもよい。このような場合、熱によってポリエステルフィルムが過度に結晶化されることを抑制すると共に、前記フィルムの寸法安定性を効果的に高めることができる。
【0238】
具現例の製造方法を通じて製造されたポリエステルフィルムは、前述したポリエステルフィルムと同じ特性を有することができる。具現例の製造方法を通じて製造されたポリエステルフィルムについての説明は、前述の内容と重複するので省略する。
【0239】
ポリエステルフィルムが、具現例で予め設定した範囲のFT-IRスペクトル特性を有する場合、前記フィルムの結晶化特性がさらに精巧に制御され得る。このようなフィルムは、熱に強い特性を有すると共に、柔軟性と強い機械的強度を同時に得ることができる。
【0240】
以下、具体的な実施例を通じてより具体的に説明する。下記実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【0241】
1.ポリエステル樹脂及び逐次二軸延伸フィルムの製造
ジオール系化合物としてシクロヘキサンジメタノール(cyclohexanedimethanol、CHDM)100モル%、及びジカルボン酸系化合物としてテレフタル酸(terephthalic acid、TPA)96モル%とイソフタル酸(isophthalic acid、IPA)4モル%の単量体混合物を撹拌機に投入し、チタン触媒を前記混合物100重量部を基準として1ppm投入した後、275℃でエステル交換反応を行った。
【0242】
エステル交換反応された物質を、真空設備が備えられた別途の反応器に移送した後、285℃で160分間重合してポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)樹脂を得た。
【0243】
前記PCT樹脂をチップ状に加工しながら、PCT樹脂100重量部を基準として、印加剤は、Mg系印加剤とK系印加剤を金属の重量を基準として9:1の比率で混合して印加剤+高分子チップ、フィラーとして3.8μmサイズの塊状シリカを混合してフィラー+高分子チップ、そして、酸化防止剤としてIrganox 1010(BASF社製)、Irgafos 168(BASF社製)、AO-412S(ADEKA社製)を4:2:4の重量比率で混合して酸化防止剤+高分子チップをそれぞれ製造した。
【0244】
フィルム全体を基準として、前記印加剤が300ppm(重量基準)となり、前記フィラーが375ppm(重量基準)となり、前記酸化防止剤が2000ppm(重量基準)となるようにチップを混合し、約140℃で乾燥させた後、押出機に投入して280~300℃で溶融して、シート状に成形した。その後、シートを80~95℃の温度で機械方向の延伸及び90~130℃で幅方向の延伸を行い、200~240℃で熱固定を行って、逐次二軸延伸フィルムを製造した。各フィルムサンプルの延伸比及び熱固定温度は、下記表1に示した。未延伸シートの場合も、以下で結晶化の程度を評価した。
【0245】
2.試料の準備
(1)熱結晶化程度測定用試料
それぞれのフィルムサンプルを、各角が直角になるように裁断した。一辺の長さは、およそ5~6cmになるようにした。
(2)配向結晶化程度測定用試料
前記の(1)と同一に準備するが、角の直角がそれぞれ機械方向及び幅方向と正確に平行になるように5~6cmに裁断した。
【0246】
3.スペクトルの測定
(1)面配向度の測定
サンプルの準備は、サンプルの角が直角になるようにし、縦横5~6cmに裁断して準備した。
FT-IR機器は、Variant社で製造したUMA 600製品が適用された。この機器をResolution proソフトウェアの設定をcollect-rapid scanとして適用し、ビーム補正(Beam calibration)後、バックグラウンド(background)を測定した。Diamond and Ge single bounce ATRを適用して、MCT detector、resolution 4、#32 scansの条件を適用した。約800~約1200cm-1の範囲の波数を測定した。ベンチモード(Bench mode)の場合、IRビーム(beam)が試料に垂直に入射するものではないため、試料の方向に応じて、同じ波数に対するスペクトル強度値が互いに異なって測定された。したがって、互いに垂直な2つの方向に測定した後、平均して適用した。
【0247】
(2)方向配向度の測定
サンプルの準備は、サンプルの角からつながる2つの辺が、それぞれMD及びTD方向に対して平行になるように縦横5~6cmに裁断した。
前記と同一の機器及びセッティングを適用するが、光源とサンプルとの間に偏光板(polarizer)を装着し、90°に設定した後、インターフェログラムシグナル(interferogram signal)が最大となるように位置を調整した。偏光板が90°であるとき、光線の波長はサンプルの面と平行な方向であり、サンプルを通過した光線は、進行方向に垂直なフィルムの機械方向の結晶特性を確認可能であった。また、偏光板を調節して光線の波長がサンプルの厚さと平行な方向であると、サンプルを通過した光線は、進行方向に垂直なフィルムの幅方向の結晶特性を確認可能であった。Sensitivityは8を適用した。
【0248】
測定結果は、下記の表1に示した。
【0249】
(3)XRD及びDSCによる結晶化度の測定
XRDの場合、Rigaku社のUltima IV装備を適用し、X-rayを試料に照射した後、回折されたx-rayの回折角度を測定して、結晶化度に対するデータを得た。測定条件は、管電圧(Tube Voltage)を20~60kV、管電流(Tube Current)を2~60mA、2θ測定範囲(measuring range)を-3~162°、そして、最小ステップサイズ(Minimum Step Size)を0.0001°を適用した。
DSCの場合、TA社のQ2000/Q1000装備を適用した。測定条件は、温度範囲(Temperature range)を-180~725℃、Temperature accuracyは±0.1℃、走査速度(Scanning rate)は<+200℃/min / <-100℃/min、max.sensitivityは0.2μWを適用して、Modulated DSC及びauto-samplerを活用して測定した。
【0250】
測定した後、評価された結晶化度を下記の表1に提示した。
【0251】
(4)基準強度に対する検索強度の差
FT-IR機器を用いて測定したスペクトルのピークにおいて、基準波数である793cm-1のピーク強度を基準として、第1波数~第4波数におけるピーク強度の差が-0.05~+0.05の範囲内である場合を○、-0.02~+0.02の範囲内である場合を◎と示した。前記範囲を外れた場合に×と表示した。評価結果は表2に示した。
【0252】
【0253】
【0254】
サンプル1は、未延伸シートに対する測定結果であり、サンプル2及びサンプル3は、他の条件は同一であるが、熱固定温度として200℃及び230℃を適用したサンプルの測定結果である。
【0255】
サンプル2及びサンプル3の結果を参考にすると、DSCやXRDの場合、熱固定温度に応じて有意に変わる結果を示していないが、FT-IRの結果の場合、それぞれ第1波数である1134cm-1における強度、第2波数である815cm-1における強度、そして、第3波数である855cm-1における強度が、それぞれ熱固定温度の差によって有意に値が変わり、傾向性を示すという点を確認した。前記の例示としては、2つの結果のみを代表的に提示するが、様々な温度で繰り返して評価して再現性を確認した(以下、同様)。
【0256】
サンプル3~7の結果は、熱固定温度は維持しながら、延伸比率を異ならせて測定した結果である。サンプル3~7は、配向結晶化程度測定用試料を適用して測定した。サンプル3~7の結果を参考にすると、それぞれ第1波数である1134cm-1における強度及び第2波数である815cm-1における強度はほとんど一定に示されるので、熱固定温度を一定に適用したものと対応し、熱による結晶化の程度を確認する特徴として信頼度が高いという点を確認することができる。反面、DSCやXRDの場合、値が変動され、傾向性が明確でないため、結晶化の程度を確認する特徴として活用するのに適していないと判断された。
【0257】
第3波数である855cm-1における強度測定結果は、機械方向(MD、machine-direction)及び幅方向(TD、transverse-direction)の延伸の程度に応じてFT-IRスペクトル強度が傾向性を示しながら変化するという点が確認された。例えば、機械方向の延伸が3に固定されているとき、幅方向の延伸比が3.5から3.9に大きくなるにつれ、MD方向の強度が大きくなり、TD方向の強度が小さくなる傾向性を示した。また、機械方向の延伸が3.2に固定されている場合にも同様の傾向性を示した。反対に、TD方向の延伸比を3.5に固定した状態で、MD方向の延伸比が3から3.2に大きくなるにつれ、TD方向の強度は大きくなり、MD方向の強度は小さくなる特性を示した。これは、配向結晶性の傾向を、第3波数のFT-IR測定結果のスペクトル強度から確認できるということを示す。
【0258】
このような特徴を活用して、高分子の結晶化度を効果的に確認又は予測できると考えられる。
【0259】
反面、DSC(differential scanning calorimetry)で測定した結晶化度は、熱結晶化や配向結晶化による傾向性を確認することが難しく、XRD(X-ray diffraction)で測定した結晶化度も、同様に傾向性を確認することが難しかった。
【0260】
このような方式で製造されたポリエステルフィルムは、結晶化度が良好に制御されるため、二軸延伸フィルムとして良好に製造可能であり、製造されたフィルムを活用して測定したスペクトル特性も、図2に確認して提示した。
【0261】
以上、本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲は、これに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲で定義している本発明の基本概念を利用した当業者の様々な変形及び改良形態もまた本発明の権利範囲に属する。