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特許7611348マクロカプセル化治療用細胞、デバイス、およびその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】マクロカプセル化治療用細胞、デバイス、およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/52 20060101AFI20241226BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20241226BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20241226BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20241226BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20241226BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20241226BHJP
   A61K 35/39 20150101ALI20241226BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20241226BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20241226BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20241226BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20241226BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20241226BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20241226BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
A61K9/52
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/34
A61K35/12
A61K35/39
A61P3/10
A61L27/20
A61L27/18
A61L27/16
A61L27/38
A61L27/40
A61L27/54
【請求項の数】 35
(21)【出願番号】P 2023198977
(22)【出願日】2023-11-24
(62)【分割の表示】P 2020545290の分割
【原出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2024026164
(43)【公開日】2024-02-28
【審査請求日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】62/637,085
(32)【優先日】2018-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514326487
【氏名又は名称】セラクシス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラスト,ウィリアム エル
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-533340(JP,A)
【文献】特表平8-507747(JP,A)
【文献】特開平5-154195(JP,A)
【文献】特表2016-512022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 35/00-35/768
A61P 1/00-43/00
A61L 27/00-27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の外科用メッシュ、および複数の治療用細胞を包含する複数のマクロカプセルを含むデバイスであって、
前記マクロカプセルが、第1のバリア、前記第1のバリアを包含する第2のバリア、および前記第2のバリアを包含するコーティングを含み、
前記第1のバリアが、
(a)硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナン、または
(b)アルギン酸ナトリウム、を含み、
前記第2のバリアが、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(pDADMAC)と重合された硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナンを含み、
前記コーティングが、ポリメチレン-コ-グアニジン(PMCG)を含み、
前記マクロカプセルが、円筒形状および少なくとも1.5mmの直径を有し、
前記マクロカプセルが、1枚の外科用メッシュに取り付けられ、
前記マクロカプセルが、少なくとも20kDaの分子量を有する分子の受動拡散を可能にし、70kDaの分子量を有する分子の透過を阻害する、デバイス。
【請求項2】
前記外科用メッシュが、ナイロンである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記外科用メッシュが、円形である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記外科用メッシュが、長円形である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記外科用メッシュが、前記デバイスを宿主内の適切な部位に取り付けるためのタブを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記マクロカプセルが、前記メッシュの周りに放射状に配置される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記マクロカプセルが、前記メッシュに沿って並置される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記マクロカプセルが、前記メッシュの反対側へ延びるように配置される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記第1のバリアが、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(pDADMAC)と重合された硫酸セルロースを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記第1のバリアが、アルギン酸ナトリウムを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記アルギン酸ナトリウムが、二価カチオンであるバリウム(BaCl)またはカルシウム(CaCl)と重合されている、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
それを必要とする対象において糖尿病を治療するための請求項1~11のいずれか一項に記載のデバイスであって、前記治療用細胞がインスリン産生細胞である、デバイス。
【請求項13】
糖尿病の対象の大網内または腹腔内に移植される、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか一項に記載のデバイスを含む、糖尿病の治療のための医薬品であって、前記治療用細胞がインスリン産生細胞である、医薬品。
【請求項15】
複数のインスリン産生治療用細胞を包含する円筒状であるマクロカプセルを含む組成物であって、前記マクロカプセルが、第1のバリア、前記第1のバリアを包含する第2のバリア、および前記第2のバリアを包含するコーティングを含み、
前記第1のバリアが、
(a)硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナン、または
(b)アルギン酸ナトリウム、を含み、
前記第2のバリアが、pDADMACと重合された硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナンを含み、
前記コーティングが、PMCGを含み、
前記マクロカプセルが、少なくとも1つの他のマクロカプセルも取り付けられる1枚の外科用メッシュに取り付けられ、
前記マクロカプセルの直径が、少なくとも1.5mmであり、前記マクロカプセルが、少なくとも20kDaの分子量を有する分子の受動拡散を可能にし、70kDaの分子量を有する分子の透過を阻害する、組成物。
【請求項16】
前記第2のバリアが、グルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含まない、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記マクロカプセルの前記直径が、少なくとも2.0mmである、請求項15または16に記載の組成物。
【請求項18】
前記アルギン酸ナトリウムが、二価カチオンであるバリウム(BaCl)またはカルシウム(CaCl)と重合される、請求項15~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記第1のバリアが、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(pDADMAC)と重合された硫酸セルロースを含む、請求項15~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記マクロカプセルが、少なくとも約11cmの長さである、請求項15~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記マクロカプセルが、1cm当たり少なくとも約50,000個の細胞を含む、請求項15~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
複数のインスリン産生治療用細胞を包含する複数のマクロカプセルを含む組成物であって、各マクロカプセルが、少なくとも第1のバリア、第2のバリア、および前記第2のバリアを包含するコーティングを含み、前記第1のバリアが、前記第2のバリア内に包含され、各マクロカプセルが、少なくとも1.5mmの直径を有し、前記複数のマクロカプセルの各マクロカプセルが、1枚の外科用メッシュに取り付けられ、
前記第1のバリアが、(a)硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナン、または(b)アルギン酸ナトリウムを含み、
前記第2のバリアが、pDADMACと重合された硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナンを含み、
前記コーティングが、PMCGを含み、
前記マクロカプセルが、少なくとも20kDaの分子量を有する分子の受動拡散を可能にし、70kDaの分子量を有する分子の透過を阻害する、組成物。
【請求項23】
前記マクロカプセルの直径が、少なくとも2.0mmである、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記第1および第2のバリアの両方が、硫酸セルロースおよび硫酸グルコマンナンを含む、請求項22または23に記載の組成物。
【請求項25】
前記第1のバリアが、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(pDADMAC)と重合された硫酸セルロースを含む、請求項22~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記第1のバリアが、アルギン酸ナトリウムを含む、請求項22または23に記載の組成物。
【請求項27】
前記アルギン酸ナトリウムが、二価カチオンであるバリウム(BaCl)またはカルシウム(CaCl)と重合されている、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
各マクロカプセルが、少なくとも約11cmの長さである、請求項22~27のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
各マクロカプセルが、1cm当たり少なくとも約50,000個の細胞を含む、請求項22~28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
各マクロカプセルが、円筒状である、請求項22~29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
1cm当たり少なくとも約50,000個のインスリン産生治療用細胞を包含するマクロカプセルを含む組成物であって、前記マクロカプセルが、円筒形状、少なくとも約11cmの長さ、および少なくとも1.5mmの直径を含み、前記マクロカプセルが、少なくとも1つの他のマクロカプセルも取り付けられる1枚の外科用メッシュに取り付けられ、 前記マクロカプセルが、少なくとも第1のバリア、第2のバリア、および前記第2のバリアを包含するコーティングを含み、前記第1のバリアが、前記第2のバリア内に包含され、
前記第1のバリアが、
(a)硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナン、または
(b)アルギン酸ナトリウム、を含み、
前記第2のバリアが、pDADMACと重合された硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナンを含み、
前記コーティングが、PMCGを含み、
前記マクロカプセルが、少なくとも20kDaの分子量を有する分子の受動拡散を可能にし、70kDaの分子量を有する分子の透過を阻害する、組成物。
【請求項32】
前記第1および第2のバリアの両方が、硫酸セルロースおよび硫酸グルコマンナンを含む、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記第1のバリアが、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(pDADMAC)と重合された硫酸セルロースを含む、請求項31または32に記載の組成物。
【請求項34】
前記第1のバリアが、アルギン酸ナトリウムを含む、請求項31または32に記載の組成物。
【請求項35】
前記アルギン酸ナトリウムが、二価カチオンであるバリウム(BaCl)またはカルシウム(CaCl)と重合されている、請求項34に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年3月1日に出願された米国仮出願第62/637,085号に対する35U.S.C.§119(e)に基づく優先権を主張し、これらの全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して、治療用細胞の細胞移植およびカプセル化の分野に関する。治療用細胞をカプセル化するためのマクロカプセル、治療用細胞をカプセル化するためのプロセス、および糖尿病などの疾患を治療するための関連する使用方法を記載する。
【背景技術】
【0003】
以下の議論は、読者が本開示を理解するのを助けるために提供されるものであり、それに対する先行技術を記述したり、構成したりすることは認めるものではない。
【0004】
糖尿病およびインスリン
真性糖尿病(すなわち、糖尿病)は、ホルモンインスリンを産生するまたはホルモンインスリンに応答する身体の能力が損なわれ、その結果炭水化物の代謝異常ならびに血中および尿中のグルコースレベルの上昇が起こる疾患である。疾患は、いくつかのサブタイプに細分され、1型糖尿病、インスリン依存性糖尿病(IDDM)、若年者の成人発症型糖尿病(MODY)、成人潜在性糖尿病(LADA)、不安定型糖尿病、痩せ型糖尿病、1.5型、2型、3型、肥満関連糖尿病、妊娠糖尿病、および当分野によって受け入れられる他の命名法として、代替的に記載される。
【0005】
一般に、インスリン依存性糖尿病を有する対象は、血糖を十分に低下させるために外因性インスリンを投与することが必要である。非インスリン依存性対象は、インスリンに対する感受性を高める薬物の種類、またはグルコースの排泄を含む医薬品介入で十分に血糖を低下させ得る。インスリン依存性糖尿病を有する対象は、その疾患が1型、MODY、LADA、不安定型、痩せ型、1.5型、2型、3型、肥満関連糖尿病またはこれらの任意の組み合わせとして標識されているかどうかにかかわらず、インスリン産生細胞が対象に移植される細胞補充療法から利益を得ることができる。
【0006】
I型糖尿病は、通常、子供および若年成人で診断され、以前は、若年性糖尿病として知られていた。糖尿病の人のうち、この形態の疾患を有する人はわずか5~10%しかいない。成人発症型糖尿病はこの疾患の最も一般的な形態であり、インスリン産生β細胞の障害または破壊、インスリン抵抗性の発達、またはインスリン産生β細胞の障害とインスリン抵抗性の発達の両方に起因する。遺伝的要因と環境的要因との組み合わせにより、非肥満成人および子供に糖尿病が発生することがある。肥満の成人および子供では、膵臓は血糖をコントロールするために余分なインスリンの作製を試み得るが、時間が経つにつれて血糖値を正常に継続して維持することができなくなる。また、生成されるインスリンに対する身体の感受性が低くなる場合もある。インスリン分泌β細胞の長期間の過剰活動は、β細胞の機能障害および死につながり得る。
【0007】
糖尿病の症状は、対象の血糖がどの程度変動するかによって異なる。一部の人々、特に前糖尿病または非インスリン依存性糖尿病の人々は、最初は症状を経験しない場合がある。I型糖尿病では、症状がすぐに現れやすい傾向があり、より重症化する。
【0008】
I型およびII型糖尿病の兆候および症状のいくつかには、限定するものではないが、渇きの増加、頻尿、極端な空腹感、原因不明の体重減少、尿中にケトンが存在する(ケトンは、利用可能なインスリンが十分でないときに起こる筋肉および脂肪の分解の副産物である)、疲労、過敏性、霧視、治癒の遅い傷、歯茎または皮膚感染症および膣感染症などの頻繁な感染症が含まれる。
【0009】
カプセル化細胞
外来細胞が免疫受容能力のあるヒト宿主内で生存することを可能にする半透過性バリア内に細胞をカプセル化するためのシステムを作成することは、生体医学研究の長い間の目標である(Weir,Diabetologia,56(7):1458-61(2013))。この目標を達成するためには、カプセル化するバリアは、ガス、栄養素、および廃棄物の通過を可能にしなければならないが、バリアはまた、免疫破壊のために細胞を標的とする免疫細胞およびそのエフェクター分子に対して不透過性でなければならない。バリアはまた、異物に対する炎症、線維症または他の宿主防御を刺激することを避けなければならない。
【0010】
出版された科学文献に報告される最も主要なバリア材料は、炭水化物ポリマーアルギン酸ナトリウムおよび硫酸セルロースである(例えば、Tuch et al.,Diabetes Care,32(10):1887-9(2009)、Basta et al.,Diabetes Care,34(11):2406-9(2011)、Lohr et al.,Pharmaceutics,6(3):447-66(2014)を参照されたい)。
【0011】
アルギン酸ナトリウムは、カルシウムまたはバリウムなどの二価カチオンの存在下でゲル様マトリックスを形成する。アルギン酸ナトリウムマトリックスは、多くの場合、多孔性を低減するためにポリ-L-リジンまたはポリ-L-オルニチンの層によって補充される。
【0012】
硫酸セルロースは、コポリマーポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(pDADMAC)と複合体化して膜を形成することができる。アルギン酸ナトリウムおよび硫酸セルロースも組み合わせて使用され、アルギン酸および硫酸ナトリウムと混合されたバリアを形成している(Wang et al.,Transplantation,85(3):331-7(2008)、Weber et al.,J.BioTechnol.114(3):315-26(2004))。
【0013】
細胞生存率
これらのバリアが、免疫適切な宿主の体内で長期間(すなわち、少なくとも6ヶ月間、Tuch,Basta,Lohr,Ma(Designing a retrievable and scalable cell encapsulation device for potential treatment of type 1 diabetes,PNAS|Published online December 26,2017を参照)外来細胞の生存および機能させることを可能にする報告はほとんどない。カプセル化細胞が限られた時間を超えて機能することの一般的な失敗は、バリアを横切る酸素の拡散が悪く、バリアの周囲の細胞機能の死または障害、または線維組織の蓄積につながることに少なくとも部分的に起因する。この問題に対処するために、1つのグループは、アルギン酸塩への宿主マクロファージの付着を減少させると主張するトリアゾール類似体を含む共有結合化学基によって修飾されたアルギン酸塩の形態を生成した(Vegas et al.,Nat.Biotechnol.,34(3):345-52(2016)を参照されたい)。
このグループは、胚性幹細胞に由来するヒト、インスリン分泌細胞が、腹腔へのインプラント後6ヶ月まで糖尿病性マウスにおいて血糖を低下させることを可能にする修飾アルギン酸塩のマイクロカプセルを生成した(Vegas et al.,Nat.Med.,22(3):306-11(2016)を参照されたい)。
【0014】
回収可能性
マイクロカプセルの大きな欠点は、移植されたデバイスが患者にとって安全上のリスクになる、またはデバイスが機能を停止し、交換する必要がある場合に、宿主から完全に回収することができないことである。ヒト治療用途を意図したデバイスは、治療にとって安全かつ実用的であると考えられるように回収可能であるべきであるということは、当該分野で一般的に受け入れられている。
【0015】
実用的治療用量
別個のグループは、織ったナイロン糸の表面に付着して長い管状構造を作成するアルギン酸塩からなるデバイスを記載した(Ma(Designing a retrievable and scalable cell encapsulation device for potential treatment of type 1 diabetes.PNAS|2017年12月26日オンライン公開を参照されたい)。この形状は、アルギン酸塩の一部が織った糸から脱離しない限り、腹腔への移植後に回収可能であると報告されている。別のグループは、回収可能な皮下インプラントの平面状マクロカプセル化デバイスを報告した(D’AMOUR 2015,STEM CELLS TRANSLATIONALMEDICINE 2015;4:1-9を参照されたい)。しかしながら、これらのデバイスは、治療用細胞を含有するための限られた体積を有することに妥協される。記載のデバイスを使用してヒト患者に治療用量を送達することは現実的ではないであろう。例えば、60kgの体重があるインスリン依存性糖尿病患者を治療するための細胞の治療用量は、6億個の細胞である(Bruni 2015 Bruni A,et al.Diabetes Metab Syndr Obes.2014 Jun 23;7:211-23)。記載の管状デバイスは、その治療用量を含有するために60メートルの長さが必要であろう。60kgの糖尿病患者は、治療用量を受けるために記載された平面状マクロカプセル化デバイスの40個が必要であろう。
【0016】
インスリン放出動態
膵臓は、インスリンおよび他の膵臓ホルモンの迅速な全身分布を実現する高度に血管形成される臓器である。膵臓内の各島は、血液微小血管に近接している。膵臓の循環は、膵臓ホルモンの主な作用部位である肝臓にもつながっている。したがって、健康な膵臓は、血糖変動の数分以内に正常な血糖値を回復することができる。腹腔に移植されるデバイスは、宿主血管系に近接していないため、循環へのインスリンの放出が遅くなり、高血糖が長期間続く(Ma(Designing a retrievable and scalable cell encapsulation device for potential treatment of type 1 diabetes.PNAS|2017年12月26日オンライン公開を参照されたい)。人間の皮膚は血管新生が不十分であり、肝臓にも近接していない。その結果、皮下インプラントは膵臓ホルモンの迅速な全身循環を可能にすることができず、高血糖の期間に至ることが予想される。周期性高血糖症は糖尿病の発症の主な要因である。
【0017】
したがって、当該技術分野において、移植細胞の長期生存を支持することができ、回収可能であり、一般的に、特に糖尿病の治療の両方に分泌ホルモンの迅速な分布を提供することができるカプセル化バリアが、依然として必要である。本開示は、それらのニーズを満たす。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【文献】Weir,Diabetologia,56(7):1458-61(2013)
【文献】Tuch et al.,Diabetes Care,32(10):1887-9(2009)
【文献】Basta et al.,Diabetes Care,34(11):2406-9(2011)
【文献】Lohr et al.,Pharmaceutics,6(3):447-66(2014)
【文献】Wang et al.,Transplantation,85(3):331-7(2008)
【文献】Weber et al.,J.BioTechnol.114(3):315-26(2004)
【文献】Ma,Designing a retrievable and scalable cell encapsulation device for potential treatment of type 1 diabetes,PNAS|Published online December 26,2017
【文献】Vegas et al.,Nat.Biotechnol.,34(3):345-52(2016)
【文献】Vegas et al.,Nat.Med.,22(3):306-11(2016)
【文献】D’AMOUR 2015,STEM CELLS TRANSLATIONALMEDICINE 2015;4:1-9
【文献】Bruni 2015 Bruni A,et al.Diabetes Metab Syndr Obes.2014 Jun 23;7:211-23
【発明の概要】
【0019】
本明細書に記載されるのは、治療用細胞インプラントを調製するために使用できるマクロカプセル化バリアおよびデバイス、治療用細胞をカプセル化する方法、および疾患の治療におけるカプセル化細胞を使用する方法である。マクロカプセル化細胞およびデバイスは、宿主から回収可能であり、治療用量の細胞を実用的な体積で含有することができ、分泌ホルモンの迅速な分布を可能にする。
【0020】
一態様では、本開示は、複数の治療用細胞を包含する少なくとも2つのマクロカプセルを含むデバイスを提供し、マクロカプセルは、円筒形状および少なくとも1.5mmの直径を含む。いくつかの実施形態では、マクロカプセルは少なくとも1つのバリアを含み、バリアは、(a)硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナン(glucomannan sulfate)、または(b)アルギン酸ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、マクロカプセルは、糖尿病を治療することができる単一のデバイスに複数のマクロカプセルを接続するために、外科用メッシュなどの基材に取り付けられる。
【0021】
いくつかの実施形態では、マクロカプセルは1枚の外科用メッシュに取り付けられる。外科用メッシュはデバイスを宿主の網または別の部位に取り付けるための縫合点として機能する。いくつかの実施形態では、複数のマクロカプセルが、同じ外科用メッシュ片に取り付けられる。いくつかの実施形態では、外科用メッシュはナイロンである。
【0022】
いくつかの実施形態では、外科用メッシュは円形である。いくつかの実施形態では、外科用メッシュは長円形(oblong)である。いくつかの実施形態では、外科用メッシュは、デバイスを宿主内の網または別の適切な部位に取り付けるための縫合点として有用なタブを含有する。
【0023】
いくつかの実施形態では、マクロカプセルはメッシュの周りに放射状に配置される。いくつかの実施形態では、マクロカプセルはメッシュに沿って並置される。いくつかの実施形態では、マクロカプセルはメッシュの反対側を延びるように配置される。
【0024】
別の態様では、本開示は、複数の治療用細胞を包含するマクロカプセルを含む組成物を提供し、マクロカプセルは、少なくとも1つのバリアを含み、バリアは、(a)硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナン、または(b)アルギン酸ナトリウムを含み、マクロカプセルは、少なくとも1つの他のマクロカプセルも取り付けられる1枚の外科用メッシュに取り付けられる。
【0025】
いくつかの実施形態では、組成物は第2のバリアをさらに含む。いくつかの実施形態では、第2のバリアは硫酸セルロースおよびグルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含む。いくつかの実施形態では、第2のバリアはグルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含まない。
【0026】
別の態様では、本開示は、複数の治療用細胞を包含するマクロカプセルを含む組成物を提供し、このマクロカプセルは、少なくとも第1のバリアおよび第2のバリアを含み、第1のバリアは、第2のバリア内に包含され、このマクロカプセルは、少なくとも1.5mmの直径を有し、このマクロカプセルは、少なくとも1つの他のマクロカプセルも取り付けられる1枚の外科用メッシュに取り付けられる。
【0027】
いくつかの実施形態では、治療用細胞はインスリン産生細胞である。
【0028】
いくつかの実施形態では、第2のバリアは硫酸セルロースおよびグルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含む。いくつかの実施形態では、第1および第2のバリアの両方は硫酸セルロースおよび硫酸グルコマンナンを含む。いくつかの実施形態では、第2のバリアはグルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含まない。いくつかの実施形態では、第1のバリアはアルギン酸ナトリウムを含む。
【0029】
別の態様では、本開示は、複数の治療用細胞を包含するマクロカプセルを含む組成物を提供し、このマクロカプセルは、円筒形状および少なくとも1.5mmの直径を含み、このマクロカプセルは、少なくとも1つの他のマクロカプセルも取り付けられる1枚の外科用メッシュに取り付けられる。
【0030】
いくつかの実施形態では、マクロカプセルは少なくとも第1のバリアおよび第2のバリアを含み、第1のバリアは第2のバリア内に包含される。
【0031】
いくつかの実施形態では、第1のバリアは、(a)硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナン、または(b)アルギン酸ナトリウムを含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、第2のバリアは硫酸セルロースおよびグルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、治療用細胞は、島細胞などのインスリン産生細胞である。
【0034】
いくつかの実施形態では、第1のバリアは硫酸セルロースおよびグルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含み得、いくつかの実施形態では、第1のバリアはアルギン酸ナトリウムを含み得る。いくつかの実施形態では、アルギン酸ナトリウムは二価カチオンであるバリウム(BaCl)またはカルシウム(CaCl)と重合される。
【0035】
いくつかの実施形態では、組成物は第2のバリアをさらに含んでよい。例えば、いくつかの実施形態では、第2のバリアは、硫酸セルロースおよびグルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含んでよい。いくつかの実施形態では、第2のバリアはグルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含まない。いくつかの実施形態では、第1および第2のバリアの両方は硫酸セルロースおよびグルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含む。
【0036】
前述の態様のいくつかの実施形態では、マクロカプセルの直径は、少なくとも約1.5mm、少なくとも約1.6mm、少なくとも約1.7mm、少なくとも約1.8mm、少なくとも約1.9mm、少なくとも約2.0mm、少なくとも約2.1mm、少なくとも約2.2mm、少なくとも約2.3mm、少なくとも約2.4mm、または少なくとも約2.5mmである。
【0037】
前述の態様のいくつかの実施形態では、硫酸セルロースをポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(pDADMAC)と重合した。例えば、いくつかの実施形態では、pDADMACと重合後、マクロカプセルをポリメチレン-コ-グアニジン(PMCG)で洗浄した。
【0038】
前述の態様のいくつかの実施形態では、マクロカプセルは円筒状である。
【0039】
前述の態様のいくつかの実施形態では、複数の円筒状マクロカプセルが一端で連結される。
【0040】
別の態様において、本開示は、糖尿病を、それを必要とする対象において行う治療する方法であって、糖尿病の対象に前述のデバイスまたは組成物のいずれかを移植することを含む方法を提供する。
【0041】
開示される方法のいくつかの実施形態では、対象は成人であり、いくつかの実施形態では、対象は子供である。開示される方法のいくつかの実施形態では、対象はI型糖尿病を有し、いくつかの実施形態では、対象はII型糖尿病を有する。
【0042】
開示される方法のいくつかの実施形態では、組成物は対象の大網または腹腔に移植される。例えば、組成物は、網に固定されてもよく、または網ポーチに移植されてもよい。
【0043】
前述の態様のいくつかの実施形態では、各マクロカプセルは、少なくとも約10cmの長さ、少なくとも約11cmの長さ、少なくとも12cmの長さ、少なくとも13cmの長さ、少なくとも14cmの長さ、少なくとも15cmの長さ、少なくとも16cmの長さ、少なくとも17cmの長さ、少なくとも18cmの長さ、少なくとも19cmの長さ、または少なくとも20cmの長さである。
【0044】
前述の態様のいくつかの実施形態では、マクロカプセルは、1cm当たり少なくとも約50,000個の細胞、1cm当たり少なくとも約60,000個の細胞、1cm当たり少なくとも約70,000個の細胞、1cm当たり少なくとも約80,000個の細胞、1cm当たり少なくとも約90,000個の細胞、1cm当たり少なくとも約1,000,000個の細胞を含む。
【0045】
本明細書に開示されるマクロカプセル組成物の全ては、より大きなスケール構造を形成するために、外科用メッシュまたは他の基材に結合される2つ以上のマクロカプセルを含むデバイスを調製するのに適している。例えば、いくつかの実施形態では、そのようなデバイスに組み込まれるマクロカプセルは、少なくとも1つのバリアを含み得、バリアは、(a)硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナン、または(b)アルギン酸ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、マクロカプセルは少なくとも第1のバリアおよび第2のバリアを含み得、第1のバリアは第2のバリア内に包含される。
【0046】
糖尿病の治療を、それを必要とする対象において行うことに使用するための、前述の態様または実施形態のいずれか1つに記載の組成物またはデバイス。
【0047】
糖尿病治療のための医薬品の製造における、前述の態様または実施形態のいずれか1つに記載の組成物またはデバイスの使用。
【0048】
以下の詳細な説明は、例示的かつ説明的であり、本発明のさらなる説明を提供することを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1-1】マクロカプセルを示す。(A)硫酸セルロースとコンニャクグルコマンナンとで構成される球状マクロカプセルの明視野像。内部カプセルには治療用細胞の複数のクラスターが含まれる。原画像100倍の倍率。(B)40倍の倍率で移植3週間後に正常なラットから取り出されたヒト抗原染色マクロカプセルの免疫蛍光。マクロカプセルの表面には、付着した宿主細胞も、炎症もしくは線維症の証拠もない。(C)硫酸コンニャクグルコマンナン(konjac glucomannan sulfate)で形成されていないが、それ以外は、24倍の倍率で(B)に示されるマクロカプセルと同一であるマクロカプセル。硫酸コンニャクグルコマンナンなしで形成されたマクロカプセルは、マクロカプセル周辺の宿主細胞の過剰増殖を有し、マクロカプセル内にヒト生細胞は存在しない。(D)円筒状マクロカプセルの明視野像。内部カプセルはアルギン酸ヒドロゲルで構成され、治療用細胞の複数のクラスターを含有する。外部カプセルは内部カプセルに密着しており、硫酸セルロースとコンニャクグルコマンナンとで構成されている。
図1-2】図1-1の続きである。
図2】アルギン酸ナトリウムから形成された内部カプセルと、硫酸セルロースおよび硫酸コンニャクグルコマンナンから形成された外部カプセルから構成される二層マクロカプセルを示す。このマクロカプセルは非球状の形状を有する。
図3】マクロカプセルの20kDaデキストラン粒子への透過性を示す。コンニャクグルコマンナンまたは硫酸コンニャクグルコマンナンを硫酸セルロースの膜に組み込むことで、膜の透過性を高めることができる。硫酸コンニャクグルコマンナンなしで形成されたマクロカプセルは、20kDaの蛍光ナノ粒子がマクロカプセルの内部に通過することを許容しない(A)。マクロカプセルの内部はすすいだ後、蛍光性でない。硫酸コンニャクグルコマンナンで形成されたマクロカプセルは、20kDaの蛍光ナノ粒子がマクロカプセルの内部に通過することを可能にする(B)。マクロカプセルの内部はすすいだ後、蛍光性である。
図4】糖尿病ラットにおける血糖の調節を示す。正常なスプラーグドーリーラットを0日目にストレプトゾトシンの注射によって糖尿病にし、血糖濃度の急速な上昇をもたらした。動物の健康を維持するために、13日目に皮膚の下に徐放性インスリンペレットを移植した。67日目に、インスリンペレットを除去し、インスリン産生細胞を含有するマクロカプセルを網に外科的に移植した。血糖濃度は制御されたままであった。
図5】げっ歯類からのマクロカプセルの外植片を示す。糖尿病ラットへの移植3週間後、マクロカプセルを含有する網ポーチ(omental pouch)を取り出した。(A)ポーチが良好に血管形成されたことを示す。(B)および(C)は、外植片内のマクロカプセルがインスリン発現細胞を含有することを示す免疫蛍光分析を示す。(B)および(C)は、マクロカプセルの表面が、宿主細胞付着または炎症および線維症の証拠を含まないことを示す。
図6】げっ歯類からのマクロカプセルの外植片を示す。(A)網から形成されたポーチ内の球状マクロカプセルを、移植3週間後に糖尿病ラットに外植した。マクロカプセルは透明な網の膜内の球体として見える。膜は、マクロカプセルに極めて近くで微小血管の密度の高いネットワークを示す。(B、C)円筒状マクロカプセルを、移植3週間後に糖尿病マウスに移植した。マクロカプセルを宿主の網に付着させた。網からの血管系は、マクロカプセルに極めて近くで明らかである。
図7】マクロカプセルが、移植された異種細胞の生存を可能にすることを示す。治療用ヒト細胞のクラスターを、生(緑色)細胞および死(赤色)細胞の蛍光指標で染色することによって、細胞生存率について評価した。細胞のクラスターは、正常の免疫適性マウスへの移植9日後(B)および47日後(C)と同様に、移植前(A)に生存可能である。
図8】移植6ヶ月後の外植されたマクロカプセルの周囲の、網に由来する膜を示す。(A)膜は薄く、細胞化され、コラーゲンを含有する。原倍率は400倍である。(B)マクロカプセルは、移植6ヶ月後にインスリン発現細胞を含む。
図9-1】円筒状マクロカプセルで形成されたデバイスの構造を示す。(A)宿主組織のアンカーポイントとして有用な外科用メッシュ(y)に取り付けられた単一のマクロカプセル(x)。(B)複数のマクロカプセルが、外科用メッシュのストリップに並列で取り付けられる。メッシュは、デバイスを網などの宿主の組織に取り付けるのに有用な1つ以上のタブ(z)を有するように形成される。2つのタブを有するデバイスが示されている。(C)マクロカプセル(x)は、メッシュの反対側の外科用メッシュ(y)のストリップに取り付けられる。メッシュは、デバイスを網などの宿主の組織に取り付けるのに有用な1つ以上のタブ(z)を有するように形成される。2つのタブを有するデバイスが示されている。(D)マクロカプセル(x)は、中心から放射状に外側に外科用メッシュ(y)の円形片に取り付けられる。メッシュは、デバイスを網などの宿主の組織に取り付けるのに有用な1つまたは2つのタブ(z)を有するように形成される。2つのタブを有するデバイスが示されている。(E)マクロカプセル(x)は、外科用メッシュ(y)のストリップに取り付けられ、メッシュは、デバイスを宿主の組織に取り付けるのに有用なタブ(z)に形成することができる。(F)マクロカプセル(x)は、スパイラルパターンで外科用メッシュ(y)のストリップに取り付けられ、メッシュは、デバイスを宿主の組織に取り付けるのに有用なタブ(z)に形成することができる。
図9-2】図9-1の続きである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
治療用細胞移植に使用することができるマクロカプセル化組成物およびデバイス、カプセル化治療用細胞の調製方法、ならびに治療を必要とする対象における疾患の治療などの関連する使用方法が、本明細書に記載される。
【0051】
カプセル化細胞の生存率は、バリア膜の免疫保護および膜を横切る生物学的分子の拡散特性によって影響される。インプラントの長期的な有効性は、デバイスの物理的完全性およびデバイスの生体適合性、または宿主の炎症、線維化、および他の異物応答の低刺激、ならびに酸素拡散、カプセル化細胞の密度、ならびに宿主内の生着の位置に依存する。細胞の治療用量を実質的に送達する能力は、治療用細胞の積載密度に依存する。分泌因子を迅速に分布させる能力は、宿主内の生着の位置および宿主血管系への近位接続を形成する能力に依存する。
【0052】
本開示は、細胞を免疫適格性の宿主に移植した後、6ヶ月超にわたってカプセル化細胞の生存および機能を可能にする、硫酸セルロースから形成される新規のマクロカプセル組成物を記載する。本開示は、生きている宿主からのカプセル回収を容易にする新規のマクロカプセル形状をさらに説明する。開示されるカプセル化バリアは、硫酸セルロースに加えて、炭水化物ポリマーコンニャクグルコマンナンまたは硫酸コンニャクグルコマナン(glucommanan)を含むことができ、これらは、バリアの多孔性を制御し、線維症を制限するのに役立つ。本開示はまた、高密度の治療用細胞の移植および生着を可能にする、1.5mm超の直径を有する新規のマクロカプセル二重バリア膜設計を提供する。本開示はまた、非球状マクロカプセルの形成を提供する。本開示はまた、より大きな治療用量のためにデバイスのサイズを拡大するために、複数のマクロカプセルを一緒に取り付けることを提供する。さらに、開示されるマクロカプセルを調製するためのプロセスは、膜の機械的特性を改善するためにポリメチレン-コ-グアニジン(PMCG)を含む逐次重合ステップを含んでもよい。開示される材料および技術を使用して形成されるマクロカプセルは、カプセル化細胞を対象に移植することによって、例えば、大網に取り付けることによって、または大網またはそのような細胞ベースの治療に一般的に使用される他の移植部位から外科的に形成されるポーチに移植することによって、完全に免疫適格な対象における糖尿病を治療するために使用することができる。
【0053】
I.定義
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、当業者によって理解され、それが使用される文脈に応じてある程度変化する。用語が使用される文脈を踏まえて当業者には明確でない用語の使用がある場合、「約」は、特定の用語のプラスまたはマイナス10%までを意味する。
【0054】
本明細書で使用される場合、「マクロカプセル」は、治療用細胞をカプセル化するためのポリマー系組成物を指す。マクロカプセルの正確なサイズおよび形状は特に限定されず、マクロカプセルを作製するために使用される方法および材料によって決定され得る。さらに、開示されるマクロカプセルは、治療用細胞をカプセル化するポリマーの1つ超の層(すなわち、バリアまたは膜)を含んでよい。
【0055】
本明細書で使用される場合、「バリア」または「膜」という用語は、少なくとも1つのポリマーからなるマクロカプセルの層を指す。「バリア」および「膜」という用語は、本開示を通じて互換的に使用され得る。
【0056】
本明細書で使用される場合、「ヒドロゲル」という用語は、カルシウムまたはバリウムなどの二価カチオンとのイオン結合によって一緒に結合されたアルギン酸塩などの炭水化物ポリマーの凝集体によって作製された多孔質マトリックスを指す。
【0057】
本明細書で使用される場合、「長期的」は、細胞ベースの治療法/移植で使用される外来の治療用細胞の生存および機能に関連して使用される場合、少なくとも6ヶ月以上の期間を意味する。
【0058】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」という語句は、細胞が移植される特定の薬理学的効果を提供する、すなわち、インスリンを産生し、血糖を調節する、対象に移植されるカプセル化細胞の量を意味する。治療有効量のカプセル化細胞は、そのような濃度が当業者によって治療有効量であるとみなされても、所与の対象における糖尿病の治療に必ずしも有効ではないことが強調される。単に便宜上のため、例示的な量を以下に提供する。
【0059】
当業者は、特定の対象を治療するために必要に応じて標準的な技法に従ってそのような量を調整することができる。治療有効量は、移植部位、対象の年齢および体重、ならびに/または、対象の疾患の重症度、対象の食事、および/または対象の全体的な健康状態を含む、対象の状態に基づいて変化し得る
【0060】
糖尿病に関して本明細書で使用される場合、「治療」または「治療すること」という用語は、高血糖および低血糖、心臓病、腎臓病、肝疾患、網膜症、神経障害、非治癒性潰瘍、歯周病などの糖尿病の1つ以上の症状または併存症を軽減、改善または排除すること、血糖を調節するための外因性インスリンへの対象の依存性を低減すること、外因性インスリンを使用せずに対象の血糖を調節すること、対象のグリコシル化ヘモグロビン、またはHbA1Cレベルの割合を低減すること、および/またはインスリン感受性改善薬、グルコース排泄促進剤、および当技術分野で知られている他の治療法など、他の薬剤介入への対象の依存を低減すること、のうちの1つ以上を指す。
【0061】
「個体」、「対象」、および「患者」という用語は、本明細書において互換的に使用され、任意の個々の哺乳動物対象、例えば、ウシ、イヌ、ネコ、ウマ、またはヒトを指す。
【0062】
II.新規のマクロカプセルおよびバリア
膵島細胞または他のインスリン産生細胞などの治療用細胞をカプセル化するための新規のマクロカプセルおよびバリアおよびデバイスが本明細書に開示される。開示されるバリアは、従来のカプセル化技術と比較してカプセルの構造的完全性を向上させ、カプセル化細胞への分子の受動拡散を増加させるために従来のカプセル化技術と比較して透過性を向上させ、線維化の発生を低減させ、カプセルの製造を容易にする、材料の新規な組み合わせを含み、そして開示されたマクロカプセルは、カプセル化細胞の生存を向上させ、線維化の発生を低減させ、デバイスへの宿主血管系の動員(recruitment)を容易にし、宿主への移植および宿主からの回収を容易にし、大型哺乳動物への治療用量を送達するデバイスのスケーリングを可能にする、ユニークな構造的特徴を有する。
【0063】
細胞(インスリン産生細胞など)をカプセル化する従来の手段は、概してアルギン酸塩カプセル、硫酸セルロースカプセル、またはヒドロゲルを含み、それぞれ本明細書で簡単に説明する。
【0064】
インスリン産生細胞をカプセル化するために使用されてきた従来のアルギン酸塩カプセルは、カルシウムまたはバリウムなどの二価カチオンの存在下で、インスリン産生細胞の周りにアルギン酸ナトリウムを重合することによって形成される。これは、インスリン産生細胞が所定の位置に固定されたヒドロゲルを形成する。これらのヒドロゲルカプセルの性能を向上させる試みとしては、細胞付着を低減するためのアルギン酸塩の修飾、透過性を低減するためのポリ-L-リジンまたはポリ-L-オルニチンなどの合成ポリマーでカプセルをコーティングすること、生体適合性を向上させるためにマンヌロンまたはグルロンモノマー残基の比率を調節すること、およびカプセルの中心を液化するためにクエン酸ナトリウムですすぐことが挙げられる。
【0065】
インスリン産生細胞をカプセル化するために使用されてきた従来の硫酸セルロースカプセルは、硫酸セルロースとポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(pDADMAC)の重合によって形成される。これらのカプセルは、中空コアを囲む可撓性膜で構成される点で、アルギン酸ヒドロゲルとは異なる。これらのカプセルは、容易な圧縮性のため、アルギン酸ヒドロゲルよりも壊れやすい。新しく作られたカプセルの表面にある未反応のpDADMACが、接触する可能性のある他のカプセルと不可逆的に重合するため、これらのカプセルは製造が困難である。
【0066】
従来のアルギン酸ヒドロゲルおよび硫酸セルロースカプセルは、一般に直径600マイクロメートル以下のマイクロカプセルである。表面対体積比がより大きく、ガスおよび分子のより迅速な拡散を可能にするため、より大きなカプセルよりもより小さなカプセルが好ましいと、一般的に認められている。
【0067】
これらの従来のマイクロカプセルが動物宿主内に移植された後、マクロファージおよび線維芽細胞を含む宿主細胞がカプセルの表面に付着する。これらの細胞は、数週間にわたって、外来カプセルの周りに線維化プラークを構成する細胞外マトリックスタンパク質を沈着する。これらの線維化物は、カプセル内の細胞へのおよび細胞からの拡散を阻害し、機能喪失および細胞死を引き起こす。
【0068】
従来のマイクロカプセルとは対照的に、開示されているマクロカプセルは、宿主マクロファージおよび線維芽細胞の動員および付着を劇的に低減させ、したがって線維性プラークの沈着が低減したことを示す。この性質は、硫酸セルロース/pDADMAC、コンニャクグルコマンナンまたは硫酸コンニャクグルコマンナンの高い生体適合性、およびマクロカプセルの大きさおよび形状のユニークな組み合わせの結果である。したがって、これらのカプセル内の細胞は、長期、または少なくとも6ヶ月生存および機能することができる。
【0069】
従来のマイクロカプセルとは対照的に、開示されているマクロカプセルは、大網に取り付けることができる。大網への取り付けは、この網からマクロカプセルへの宿主血管系の動員を促進する。網の血管系に近接していることにより、分泌因子の迅速な全身分布が可能になる。
【0070】
本開示のマクロカプセルは、pDADMACとの重合前に、抗炎症性および抗凝固性特性を有する炭水化物重合体を硫酸セルロースと混合することによって形成される少なくとも1つのバリアを含むことができる。抗炎症抗凝固剤の存在は、宿主細胞の動員および付着ならびに線維化物の形成を低減する。このプロセスはまた、バリア膜の透過性を増加させて、本質的な生体分子への膜の拡散を可能にする。コンニャクグルコマンナンまたは硫酸コンニャクグルコマンナンは、そのような炭水化物ポリマーの非限定的な例である。他の例としては、ヘパリン硫酸および硫酸コンドロイチンが挙げられる。
【0071】
グルコマンナン(すなわちコンニャクグルコマンナン)は、コンニャク植物の根(Amorphophallus konjac)から採取された中性多糖類である。硫酸グルコマンナンは、グルコースモノマーの遊離ヒドロキシル基に硫酸基を化学的に添加することによって形成することができる。このプロセスは、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、またはイオン溶媒のクラスの1つなどの好適な溶媒中の硫酸ピリジンの存在下でエステル化することによって達成することができる。硫酸グルコマンナンポリマーは、硫酸セルロースと同様の粘度を有し、低濃度では、硫酸セルロース/pDADMACマクロカプセルの形成を阻害しない。グルコマンナンの修飾型は当該技術分野で既知であり(例えば、Reddy et al.,Asian-AustralasJ.Anim.Sci.,17(2):259-62(2004)、Chen et al.,Immunol Invest.,38(7):561-71(2009)を参照されたい)、したがって、本開示の目的のために、「グルコマンナン」は、修飾または非修飾グルコマンナンを指すことができる。
【0072】
さらに、グルコマンナンおよび硫酸グルコマンナンは抗凝固特性を有する。本明細書に示されるように、グルコマンナンを細胞カプセル化マクロカプセルに組み込むことは、繊維化物の沈着を減少させる。これは、マクロカプセルの硫酸セルロース膜と混合されると、グルコマンナンが繊維化物形成を低減する初めての実証である。さらに、グルコマンナンは、硫酸セルロース/pDADMAC膜の孔隙率を増加させる追加の利点を提供し、少なくとも20kDaの分子をマクロカプセルバリアを介して受動的に拡散させることを可能にする。
【0073】
したがって、いくつかの実施形態では、開示されるマクロカプセルは、硫酸セルロースおよびグルコマンナンを含む少なくとも1つのバリア層を含む。いくつかの実施形態では、開示されるマクロカプセルは、硫酸セルロースおよびグルコマンナンを含む少なくとも2つのバリア層を含む。
【0074】
さらに、高密度の細胞の周りにマクロカプセルを形成することは困難であることが当該技術分野で認識される。高密度では、細胞および細胞クラスターが膜を通過し、バリアの完全性が損なわれる。治療量の細胞を小さな体積で移植することを可能にするために、高密度の細胞が好ましい。高密度の細胞は、カプセル化ポリマー溶液1ミリリットル当たり200万個を超える細胞である。
【0075】
例えば、従来の硫酸セルロースカプセルは、600μm以下の直径を有し、pDADMACによって重合された硫酸セルロースの単一膜で形成される(例えば、Stiegler et al.,Transplant Proc.,38(9):3026-30(2006)を参照されたい)。細胞密度が増加するにつれて、重合ステップ中に細胞が重合膜内に留まる確率も増加する。これが発生すると、それは膜に欠陥を作成し、免疫保護バリアの機能不全を引き起こす。
【0076】
従来のカプセルは、細胞と液体硫酸セルロースまたは液体アルギン酸との混合物を重合浴に滴下することによって形成される。細胞は液滴を介して均一に分布する。したがって、より高い密度は、細胞がカプセルの表面に露出する確率を増加させる。本明細書に記載する円筒形状は、浸した平滑末端シリンジ針を介して、細胞と液体アルギン酸塩との混合物を重合浴に排出することによって形成される。シリンジ針を通って流れる流体のダイナミクスは、細胞が形成される円筒の中心に向かって集中することを決定づける。したがって、高密度の細胞は、カプセルの表面で細胞が露出する確率が低く、この形状内にカプセル化することができる。これらの固定細胞の周りに形成される第2のバリアは、カプセルの表面で細胞が露出する可能性を事実上排除する。
【0077】
開示されるマクロカプセルは、二重バリア構造を含み、少なくとも約1.5mmの直径を有する。この設計は、マクロカプセルの機械的完全性を確保し、インビボでのマクロカプセルの長期的な安定性の向上に貢献する。さらに、マクロカプセルの大きさは、高密度の治療用細胞のカプセル化を可能にする。
【0078】
高密度の治療用細胞は、直径1.5mm以上のマクロカプセル内にカプセル化され得る。いくつかの実施形態では、開示されるマクロカプセルは、アルギン酸塩を含む第1のバリアから構成され得る。いくつかの実施形態では、開示されるマクロカプセルは、pDADMACと重合した硫酸セルロースを含む第1のバリアから構成され得る。第1のバリアは、ポリメチレン-コ-グアニジン(PMCG)ですすぐことができる。続いて、硫酸セルロースおよび任意選択でグルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含む第2のバリアは、第1のバリアの周りに形成され得、任意選択で、その後にPMCGですすぎ、したがって、二重バリアマクロカプセルを形成することができる。第1のバリアは、第2のバリアが細胞および/または細胞残屑からの干渉なしに形成され得るように、治療用細胞を直接包含する。さらに、第2のバリアは、マクロカプセルが移植された後に宿主に直接接触する唯一のバリアである。
【0079】
いくつかの実施形態では、開示されるマクロカプセルは少なくとも1個、少なくとも2個、または少なくとも3個のバリアを含む。マクロカプセルを構成するバリアは、同じまたは異なる材料を含んでよい。例えば、バリアは、硫酸セルロースから、硫酸セルロースおよびグルコマンナンから、硫酸セルロースおよび硫酸グルコマンナンから、アルギン酸ナトリウムから、硫酸セルロースおよびアルギン酸ナトリウムから、アルギン酸ナトリウムおよび硫酸グルコマンナンから、ならびに/または硫酸セルロース、アルギン酸ナトリウムおよび硫酸グルコマンナンから形成され得る。いくつかの実施形態では、マクロカプセルのこの層のみが移植後に宿主と直接相互作用するため、外部バリアのみがグルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含む。グルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンの代わりに使用することができる他のポリマーは、ヘパリン硫酸および硫酸コンドロイチンである。
【0080】
いくつかの実施形態では、開示されるマクロカプセルは、少なくとも直径1.5mmである。例えば、開示されるマクロカプセルは、約1.5mm、約1.6mm、約1.7mm、約1.8mm、約1.9mm、約2.0mm、約2.1mm、約2.2mm、約2.3mm、または約2.4mmの直径を有し得る。1.5mm以上の直径は、宿主への移植後の線維化物形成の低下をもたらす。
【0081】
いくつかの実施形態では、開示されるマクロカプセルは少なくとも10cmの長さである。例えば、開示されるマクロカプセルは、少なくとも約10cm、少なくとも約11cm、少なくとも約12cm、少なくとも約13cm、少なくとも約14cm、少なくとも約15cm、少なくとも約16cm、少なくとも約17cm、少なくとも約18cm、少なくとも約19cm、少なくとも約20cm、またはそれ以上の長さを有し得る。十分な長さのマクロカプセルを有することで、マクロカプセルが取り出される必要がある場合、マクロカプセルが対象から容易に回収できる(すなわち、回収可能性を増加させる)。
【0082】
開示されるマクロカプセルのサイズおよび構造はまた、マクロカプセルが治療上有用な数の細胞を包含することを可能にする。例えば、開示されるマクロカプセルは、1cm当たり少なくとも約50,000個の細胞、1cm当たり少なくとも約60,000個の細胞、1cm当たり少なくとも約70,000個の細胞、1cm当たり少なくとも約80,000個の細胞、1cm当たり少なくとも約90,000個の細胞、または1cm以上当たり少なくとも約1,000,000個の細胞を含み得る。
【0083】
より多くの細胞が必要とされるいくつかの例では、開示されるマクロカプセルは、端から端まで連結され得るか、または一緒に織り込まれ得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、開示されるマクロカプセルは球状ではない。好ましい形状は円筒管である。円筒管の直径は少なくとも1mmであり、長さに限定されない。円筒管は、生きている宿主からのカプセルの回収を容易にしながら、十分な拡散を可能にするために高い表面対体積比を有する。大量の球状マクロカプセルよりも、少量のチューブの方が容易に取り出せる。硫酸セルロースもしくは硫酸セルロースおよび硫酸グルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナンからなる第2のバリア膜は、円筒管の物理的完全性を高め、したがって回収可能性を向上させる。
【0085】
球状カプセルは、細胞と液体硫酸セルロースまたは液体アルギン酸との混合物を重合浴に滴下することによって形成される。細胞は液滴を介して均一に分布する。したがって、より高い密度は、細胞がカプセルの表面に露出する確率を増加させる。本明細書に記載する円筒形状は、浸した平滑末端シリンジ針を介して、細胞と液体アルギン酸塩との混合物を重合浴に排出することによって形成される。シリンジ針を通って流れる流体のダイナミクスは、細胞が形成される円筒の中心に向かって集中することを決定づける。したがって、高密度の細胞は、カプセルの表面で細胞が露出する確率が低く、この形状内にカプセル化することができる。これらの固定細胞の周りに形成される第2のバリアは、カプセルの表面で細胞が露出する可能性を事実上排除する。
【0086】
いくつかの実施形態では、円筒状マクロカプセルは基材に取り付けられる。基材は、デバイスを宿主の大網に取り付けることを可能にする。大網への取り付けは、大網の血管系のデバイスへの動員を容易にする。大網への取り付けは、デバイスの回収を容易にする。いくつかの実施形態では、基材は1枚の外科用メッシュである。
【0087】
いくつかの実施形態では、開示される複数の管状マクロカプセルは、共通の基材に連結される。2つ以上の連結された管状マクロカプセルの構造により、デバイスは、任意のサイズの治療用量に対応するように見積もることが可能になる。いくつかの実施形態では、基材は1枚の外科用メッシュである。
【0088】
いくつかの実施形態では、基材は、複数の管状マクロカプセルを並置して、またはストリップの反対側に取り付けることを可能にする長方形のストリップの形状を有する。いくつかの実施形態では、基材は、取り付けの中心点から放射状に複数の管状マクロカプセルの取り付けを可能にする、円形である。いくつかの実施形態では、基材の形状は、基材を宿主の組織に取り付けるために縫合糸を通すのに有用なタブを有する。いくつかの実施形態では、基材は、基材を宿主の組織に取り付けるための2つ以上のタブを有する。
【0089】
III.開示されるマクロカプセルの調製プロセス
インスリン産生細胞などの治療用細胞をカプセル化するためのマクロカプセルをより効率的に形成するためのプロセスが本明細書に開示される。
【0090】
一定量の治療用細胞を硫酸セルロースの溶液中に懸濁して、1ミリリットル当たり200万個の細胞の密度にする。硫酸セルロース/細胞混合物を、重合剤pDADMACを含有する緩衝溶液中に滴下する。液滴の大きさ、ひいてはマクロカプセルの大きさは、液滴発生器を使用して慎重に制御することができる。このカプセルは内部カプセルを示す。このプロセスは、球状カプセルを生成し得る。
【0091】
いくつかの実施形態では、治療用細胞を、アルギン酸ナトリウムの溶液中に懸濁して1mL当たり200万個の細胞の密度にし、カルシウムまたはバリウムなどの二価カチオンを含有する緩衝重合浴中に滴下する。このプロセスは、球状ヒドロゲルを生成し得る。
【0092】
いくつかの実施形態では、治療用細胞を、アルギン酸ナトリウムの溶液中に懸濁して、1mL当たり200万個の細胞の密度にし、平滑末端のシリンジまたは内径1.5mmの医療用グレードチューブ内に充填する。針またはチューブの先端を、カルシウムまたはバリウムなどの二価カチオンを含有する緩衝重合浴に浸した。アルギン酸塩/治療用細胞混合物を重合浴に注入して、円筒管形態のヒドロゲルを産生する。注入速度は、シリンジポンプを使用して慎重に制御することができる。
【0093】
硫酸セルロースを含む球状内部カプセル、アルギン酸ナトリウムを含む球状内部カプセル、またはアルギン酸ナトリウムを含む円筒管をpDADMACの溶液に浸漬し、蒸留水で簡単にすすぐ。次いで、内部カプセルを硫酸セルロースとグルコマンナンとの溶液に浸して、外部カプセルを形成する。
【0094】
あるいは、硫酸セルロースを含む球状内部カプセル、アルギン酸ナトリウムを含む球状内部ヒドロゲル、またはアルギン酸ナトリウムを含む円筒管を、硫酸セルロースとグルコマンナンとの溶液に浸漬する。内部カプセルまたは管をpDADMACの溶液中に入れて、外部カプセルを形成する。
【0095】
pDADMACと重合した硫酸セルロースを含むマクロカプセルは、pDADMACを含有する重合緩衝液を洗い流した後に接触させる場合、互いに強く付着する既知の傾向を有する。これにより、分離すると物理的に損傷するマクロカプセルの凝集体またはマクロカプセルが生成される。
【0096】
本明細書に開示されるように、この凝集は、各マクロカプセルバリアの重合後にポリメチレン-コ-グアニジン(PMCG)を用いた順次洗浄ステップを追加することによって最小化または排除することができる。例えば、硫酸セルロースをpDADMACと重合させた後、PMCGで順次洗浄すると、マクロカプセル間の付着がなくなり、したがって物理的に無傷の個々のマクロカプセルが生成される。PMCG重合はさらに、マクロカプセルバリアの破裂強度を増加させる利点を提供する。
【0097】
PMCGは、以前は膜の形成中に一体型ポリマーとしてのみ使用されてきた(Wang et al.,Transplantation,85(3):331-7(2008))。対照的に、本明細書に記載のマクロカプセル設計は、膜の不可欠な部分としてPMCGを採用せず、代わりに、硫酸セルロースの露出した非結合硫酸基に結合して占有するコーティング材料として採用する。
【0098】
したがって、いくつかの実施形態では、硫酸セルロースを含むマクロカプセルを調製するプロセスは、pDADMACと重合した後にPMCGでマクロカプセルを洗浄するステップを含む。2つ以上のバリアを含むマクロカプセルを調製するとき、プロセスは、各後続のバリアの重合後の順次PMCG洗浄ステップを含むことができる。
【0099】
カプセルが完全に調製された後、マクロカプセルをすすぎ、細胞培養培地に戻すことができる。
【0100】
マクロカプセルは、マクロカプセルを外科用メッシュと接触させて配置することによって、1枚の外科用メッシュに接着させることができる。マクロカプセルと外科用メッシュが接触している部分を覆うように、一定量の硫酸セルロースが添加される。あるいは、マクロカプセルと外科用メッシュが接触している部分を覆うように、一定量の硫酸セルロースおよびグルコマンナンを添加する。pDADMACの重合溶液を添加して、マクロカプセルおよび外科用メッシュを結合させる。
【0101】
IV.開示されたマクロカプセルを備えるデバイス
本明細書に記載のマクロカプセルは、それを必要とする対象により多くの治療用細胞(例えば、島細胞またはインスリン産生細胞)を提供することができるより大きな構造(すなわち、デバイス)に取り付けるか、または組み合わせることができる。例えば、複数の開示されるマクロカプセルを含む治療用細胞ベースのデバイスは、複数のマクロカプセルを端と端を合わせて連結することによって、またはマクロカプセルを外科用メッシュなどの治療上好適な基材に取り付けることによって調製できる。
【0102】
一般に、開示されるデバイスは、2つ以上のマクロカプセルを含む。例えば、デバイスは、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、少なくとも21、少なくとも22、少なくとも23、少なくとも24、少なくとも25、少なくとも26、少なくとも27、少なくとも28、少なくとも29、または少なくとも30個以上の開示されたマクロカプセルを含んでもよい。
【0103】
デバイスは、マクロカプセルが取り付けられる治療上好適な基材を含んでもよい。いくつかの実施形態では、基材は、ナイロンメッシュなどの外科用メッシュであってもよいが、基材は、対象の免疫系と概ね無反応である限り特に限定されない。
【0104】
外科用メッシュまたは同様の材料を基材に使用する場合、マクロカプセルは、様々な方法で取り付けられ得る。例えば、マクロカプセルは、メッシュの周りに放射状に配置されてもよく、メッシュに沿って並置されてもよく、またはメッシュの反対側を延びるように配置されてもよい。図9は、いくつかの例示的な配置を提供する。
【0105】
加えて、外科用メッシュまたは同様の材料が基材に使用されるとき、特定の移植部位に適合するのに有用であり得る様々な形状に製造され得る。例えば、外科用メッシュまたは同様の基材は、円形または長円形、または当業者が移植に適していると判断する別の形状であってもよい。
【0106】
いくつかの実施形態では、基材(例えば、外科用メッシュ)は、対象内の移植部位へのデバイスの容易な取り付けおよび取り外しを可能にする縫合点として機能するタブを含んでよい。いくつかの実施形態では、基材(例えば、外科用メッシュ)は、直接縫合されてもよく、またはそれ以外の場合では、対象内の移植部位に固定されてもよい。
【0107】
開示されるデバイスの移植部位には、限定されないが、大網、網ポーチ、および/または腹腔が含まれ得る。
【0108】
V.治療方法
上述のように、本明細書に記載のマクロカプセルは、治療用細胞(例えば、島細胞またはインスリン産生細胞)をカプセル化することができ、したがって、開示されるマクロカプセルおよびデバイスは、糖尿病の治療を、それを必要とする対象において行う方法において有用である。いくつかの実施形態では、対象はインスリン依存性糖尿病のヒト対象である。
【0109】
本方法は、一般に、治療有効量の、本明細書に開示されるマクロカプセルにカプセル化されたインスリン産生細胞を、それを必要とする対象に移植することを含む。したがって、いくつかの実施形態では、本方法は、治療有効量の、少なくとも2つのバリアを含み、直径が少なくとも1.5mmを有するマクロカプセルにカプセル化されたインスリン産生細胞を、それを必要とする個体に移植することを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、治療有効量の、少なくとも1つのバリアを含むマクロカプセルにカプセル化されたインスリン産生細胞をそれを必要とする個体に移植することを含み、外部バリアが(i)硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナン、または(ii)アルギン酸ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、方法は、治療有効量の、アルギン酸塩の内部カプセルおよび硫酸セルロースおよび硫酸グルコマンナンの外部カプセルを含む円筒管の形状で形成されるマクロカプセルにカプセル化されたインスリン産生細胞を、それを必要とする個体に移植することを含む。いくつかの実施形態では、開示される方法は、本明細書に記載されるマクロカプセルのうちの少なくとも2つを含む開示されるデバイスのうちの少なくとも1つを、それを必要とする対象に移植することを含む。
【0110】
いくつかの実施形態では、本方法は、治療有効量の開示されたマクロカプセルまたはデバイスにカプセル化されたインスリン産生細胞を、それを必要とする個体に、約1年に1回、2年に1回、3年に1回、4年に1回、5年、またはそれ以上ごとに1回移植することを含む。いくつかの実施形態では、移植細胞は移植後少なくとも6ヶ月間生存する。したがって、いくつかの実施形態では、対象は1つのインプラントのみを必要とし得る。いくつかの実施形態では、インプラントは、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、13ヶ月、14ヶ月、15ヶ月、16ヶ月、17ヶ月、もしくは18ヶ月、またはそれ以上ごとに1回、1年、2年、3年、4年、もしくは5年またはそれ以上ごとに1回、あるいは対象が再発性高血糖症になるまで、あるいは糖尿病状態に戻るまで、交換する必要があってもよい。
【0111】
いくつかの実施形態では、カプセル化細胞またはデバイスは、対象の大網に移植される。大網(greater omentum)(大網(great omentum)、大網(omentum majus)、胃結腸網(gastrocolic omentum)、エピプロン(epiploon)、または、大網膜(caul)としても知られる)は、胃から垂れ下がり、胃の大きな湾曲から横方向の結腸まで上昇して伸びてから後腹壁に到達する、内臓腹膜の大きなエプロン状のひだである。したがって、カプセル化された細胞またはデバイスは、この網から外科的に形成されるポーチに移植され得る。
【0112】
いくつかの実施形態では、カプセル化細胞またはデバイスは、対象の網に取り付けられる。1枚の外科用メッシュを含むデバイスは、縫合糸をメッシュおよび網に通すことによって、網の縁部に縫合することができる。したがって、カプセル化細胞は、網からポーチを形成することなく網に移植され得る。
【0113】
いくつかの実施形態では、カプセル化細胞またはデバイスは腹腔に移植される。いくつかの実施形態では、カプセル化細胞またはデバイスは腹腔に移植され、網に固定される。いくつかの実施形態では、カプセル化細胞またはデバイスは、網のポーチに移植される。いくつかの実施形態では、マクロカプセルは円筒管であり、いくつかの実施形態では、カプセル化細胞は、円筒管の一端が網に固定された状態で腹腔に移植される。
【0114】
カプセル化細胞の例示的な用量は、治療される個体のサイズおよび健康状態に応じて変化し得る。例えば、いくつかの実施形態では、開示されるマクロカプセルにカプセル化された細胞の例示的なインプラントは、体重1kg当たり500万個の細胞~1000万個の細胞を含んでよい。開示されるマクロカプセルおよびデバイスは、治療有効量の細胞、例えば、1cm当たり少なくとも約50,000個の細胞、1cm当たり少なくとも約60,000個の細胞、1cm当たり少なくとも約70,000個の細胞、1cm当たり少なくとも約80,000個の細胞、1cm当たり少なくとも約90,000個の細胞、または1cm以上当たり少なくとも約1,000,000個の細胞をカプセル化することができる。
【0115】
さらに、開示される治療方法は、カプセル化された治療用細胞に加えて、第2の治療薬の投与をさらに含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、追加の治療用化合物は、限定されないが、インスリン注射、メトホルミン、スルホニル尿素、メグリチニド、チアゾリジンジオン、DPP-4阻害剤、GLP-1受容体アゴニスト、およびSGLT2阻害剤を含むことができる。
【0116】
開示されるマクロカプセルを移植することを含む特定の治療レジメンは、それらが所与の患者の転帰を改善するかどうかに従って評価されてもよく、これは、対象の血糖値の安定化または正常化するのに役立ち、または糖尿病に関連する症状もしくは併存症のリスクもしくは発生を低減するのに役立つことを意味し、この糖尿病に関連する症状もしくは併存症には、低血糖のエピソード、グリコシル化ヘモグロビンのレベルの上昇(HbA1Cレベル)、心臓病、網膜症、神経障害、腎臓病、肝臓病、歯周病、および非治癒潰瘍が含まれるが、これらに限定されない。
【0117】
したがって、本開示の目的のために、対象は、所望の臨床結果を含む1つ以上の有益なまたは所望の結果が得られる場合に治療される。例えば、有益または所望の臨床結果として、限定されないが、以下のうちの1つ以上が挙げられる:糖尿病に起因する1つ以上の症状を軽減させること、糖尿病に罹患している人の生活の質を高めること、糖尿病を治療するために必要とされる他の薬物の用量を減少させること、糖尿病に関連する合併症を遅延または予防すること、および/または個体の生存期間を延長すること。
【0118】
さらに、本方法の対象は概して糖尿病を有する対象であるが、患者の年齢は限定されない。開示される方法は、全ての年齢層およびコホートにわたる糖尿病の治療に有用である。したがって、いくつかの実施形態では、対象は小児対象であってもよく、他の実施形態では、対象は成人対象であってもよい。
【0119】
当業者であれば、本開示は、目的を実行し、言及される目的および利点、ならびにその固有の目的および利点を得るために十分に適合されていることを容易に理解するであろう。その中の改変および他の用途が、当業者に生じるであろう。これらの改変は、本開示の趣旨の範囲内に包含される。以下の実施例は、本発明を例示するために示される。しかしながら、本発明は、これらの実施例の特定の条件または詳細に限定されないことを理解されたい。
【実施例
【0120】
実施例1-マクロカプセル化細胞の形成および試験
セルロースの硫酸化:セルロースは、Zhang et al.,Cellulose,17:427-435(2010)により使用された方法と同様に硫酸化された。手短に説明すると、セルロースを無水ジメチルホルムアミド(DMF)中に懸濁し、DMF/無水酢酸/クロロスルホン酸の溶液とゆっくり混合し、50℃で5時間撹拌した。その後、混合物をエタノール中の無水酢酸ナトリウムの飽和溶液に注いだ。沈殿物を遠心分離し、エタノール中の4%酢酸ナトリウムで洗浄した。沈殿物を収集し、1Mのエタノール水酸化ナトリウムと室温で15時間混合した。酢酸/エタノールの50/50混合物でpHを8に調整した。沈殿物をエタノールで洗浄し、脱イオン水(DI water)に溶解した。この溶液を0.45umフィルターを通して濾過し、脱イオン水中で透析し、凍結乾燥した。
【0121】
グルコマナンの硫酸化:グルコマンナンをジメチルスルホキシドの溶液中に懸濁した。硫酸ピリジンをグルコマンナン溶液に滴下添加し、反応物を2時間60℃に高めた。反応物を室温に冷却し、水酸化ナトリウムの溶液でpHを8に調整した。硫酸グルコマンナンをエタノールで沈殿させ、水に再懸濁した。この溶液を蒸留水に対して48時間透析し、45μmフィルターを通して濾過した。
【0122】
グルコース感知、インスリン発現細胞の分化:ゲルトレックス(geltrex)(Life Technology)でコーティングされた組織培養皿上でE8培地(Life Technology)で培養した幹細胞株(SR1423)を、0.5mMのEDTAに曝露することによって基材から取り外し、10nMのRhoキナーゼ阻害剤(Y-27632、Sigma)を補充したE8培地中の懸濁培養皿に移した。培養皿を、加湿組織培養インキュベータ中で70~90RPMで回転する軌道シェーカー上に37℃および6%COで一晩置いた。形成されたクラスターを軌道シェーカーから取り出し、収集し、0.2%ヒト血清アルブミン、0.5倍N2サプリメント(Life Technology)、0.5倍B27サプリメント(Life Technology)、1倍ペニシリン/ストレプトマイシン(VWR)、アクチビンA(100ng/mL)およびワートマニン(1nM)を含有するDMEM中に再懸濁した。3日または4日間培養培地を毎日交換した。クラスターを収集し、0.2%ヒト血清アルブミン、0.5倍B27サプリメント、0.5倍インスリントランスフェリンセレンサプリメント(VWR)、1倍ペニシリン/ストレプトマイシン(VWR)、レチノイン酸(2uM)、KGF(50ng/ml)、ノギン(50ng/ml)、およびシクロパミン(250nM)を含有するRPMI/F12の50/50溶液中に再懸濁した。4日間、毎日培地を交換した。クラスターを収集し、8mMまでグルコースを補充したDMEM低グルコース、0.5%ヒト血清アルブミン、0.5倍インスリントランスフェリンセレンサプリメント、1倍N2サプリメント、1倍ペニシリン/ストレプトマイシン、KGF(50ng/ml)、ノギン(50ng/ml)、およびEGF(50ng/ml)中に再懸濁した。4日間、1日おきに培地を交換した。クラスターを収集し、8mMまでグルコースを補充したDMEM低グルコース、0.5%ヒト血清アルブミン、0.5倍インスリントランスフェリンセレンサプリメント、1倍N2サプリメント、1倍ペニシリン/ストレプトマイシン、ノギン(50ng/ml)、EGF(50ng/ml)、GSiXXI(1uM)、Alk5i(10uM)、およびT3(1uM)中に再懸濁した。4日間、1日おきに培地を交換した。クラスターを収集し、8mMまでグルコースを補充したDMEM低グルコース、0.5%ヒト血清アルブミン、0.5倍インスリントランスフェリンセレンサプリメント、1倍N2サプリメント、1倍ペニシリン/ストレプトマイシン、ベータセルリン(20ng/ml)、レチノイン酸(100nM)、Alk5i(10uM)、およびT3(1uM)中に再懸濁した。4日間、1日おきに培地を交換した。クラスターを収集し、8mMまでグルコースを補充したCMRL1066、0.5%ヒト血清アルブミン、0.5倍インスリントランスフェリンセレンサプリメント、1倍N2サプリメント、1倍ペニシリン/ストレプトマイシン、1倍グルタマックス(ライフテクノロジー)、ニコチンアミド(10mM)BMP4(10ng/ml)、Alk5i(10uM)、およびT3(1uM)中に再懸濁した。
【0123】
細胞カプセル化:100,000個以上のグルコース感知インスリン発現細胞からなる細胞集団を、130mMのNaCl、10mMの3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、pH7.4中の1.8%の硫酸セルロース/0.1%のグルコマンナンの体積で懸濁し、1ml当たり200万個の細胞の密度を達成した。硫酸セルロース/グルコマンナン/細胞混合物をポリエチレンからなる非粘着性表面に移し、1%ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(pDADMAC)、130mMのNaCl、10mMの3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、pH7.4の攪拌溶液に滴下させた。接触すると、硫酸セルロースは、pDADMACと重合して、直径2mm超の球状マクロカプセルの形態で細胞の周りに膜を形成する。マクロカプセルをワイドボアピペットで収集し、0.3%ポリ(メチレンコ-グアニジン)(pMCG)、pH7.4を含有するpDADMAC、130mMのNaCl、10mMのMOPSの溶液に移した。マクロカプセルを収集し、130mMのNaCl、10mMのMOPS、pH7.4中で2回すすいだ。マクロカプセルを収集し、pDADMACの1%溶液と混合し、2分間撹拌した。マクロカプセルを収集し、蒸留水で簡単にすすいだ。次いで、マクロカプセルを、130mMのNaCl、10mMのMOPS、pH7.4中の1.8%の硫酸セルロース/0.1%のグルコマナンの溶液に2分間浸した。マクロカプセルを収集し、130mMのNaCl、10mMのMOPS、および0.3%のポリ(メチレンコ-グアニジン)(pMCG)、pH7.4の溶液に移した。最後に、マクロカプセルを130mMのNaCl、10mMのMOPS、pH7.4の溶液中で4回すすぎ、培養培地に移し、加湿インキュベータ中37℃および6%のCOでインキュベートした。
【0124】
このプロセスにより、インスリン発現細胞を含有する内膜および内膜と密接に関連する外膜から構成されるマクロカプセルを形成した(図1A)。グルコマンナンで形成される膜は、宿主細胞の表面への蓄積を制限し、それによって線維症を抑制する(図1)。
【0125】
別の例では、1,000,000個以上のグルコース感知インスリン発現細胞からなる細胞集団を、130mMのNaCl、10mMの3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、pH7.4中の2%のアルギン酸ナトリウムの体積中に懸濁して、1mL当たり200万個の細胞の密度を達成した。アルギン酸塩/細胞混合物を、内側ボアサイズが1mmのシリンジに移し、20mMのBaCl、10mMのMOPS、100mMのマンニトール、pH7.4の浴に分配して、円筒管の形態のヒドロゲルを作製した。管状マクロカプセルをワイドボアピペットで収集し、130mMのNaCl、10mMのMOPS、pH7.4中で2回すすいだ。マクロカプセルを収集し、pDADMACの1%溶液と混合し、2分間撹拌した。マクロカプセルを収集し、蒸留水で簡単にすすいだ。次いで、マクロカプセルを、130mMのNaCl、10mMのMOPS、pH7.4中の1.8%の硫酸セルロース/0.1%の硫酸グルコマナンの溶液に2分間浸した。最後に、マクロカプセルを130mMのNaCl、10mMのMOPS、pH7.4の溶液中で4回すすぎ、培養培地に移し、加湿インキュベータ中37℃および6%のCOでインキュベートした(図1および2)。
【0126】
カプセルの透過性。定義された分子量のFITC結合デキストランポリマーの存在下で1時間インキュベートすることによって、マクロカプセルの透過性を決定した。1時間後、デキストラン溶液をマクロカプセルの外側からすすいだ。カプセル膜を横切って受動的に拡散することができたFITC-デキストランは、すすぎおよび蛍光発光中にカプセル内に残存する。グルコマンナンを含まない硫酸セルロースから形成された二層マクロカプセルは、20kDaのデキストランを透過しなかった。硫酸セルロースとグルコマンナンとの混合物から形成された二層マクロカプセルは、20kDaのFITC-デキストランに対して透過性であったが、70kDaのデキストランに対しては透過性がなかった(図3)。
【0127】
デバイスの形成:1枚のナイロン外科用メッシュの片を切断して、長さ2cm、幅1cm、側面から単一のタブが延びる長方形の形状を形成した(図9)。4つのマクロカプセルをペトリ皿に並列に並べた。メッシュをマクロカプセルの端部を覆うように配置した。130mMのNaCl、10mMのMOPS、pH7.4の硫酸セルロース溶液中の1.8%の硫酸セルロース/0.1%の硫酸グルコマナンの滴下を添加して、接触しているマクロカプセルおよび外科用メッシュの部分を覆った。1%pDADMAC、130mMのNaCl、10mMのMOPSの重合溶液を添加して、マクロカプセルと外科用メッシュとを一緒に結合させた。重合を2分間進めてから、130mMのNaCl、10mMのMOPS中で4回すすぎ、細胞培養培地に戻した。
【0128】
インスリン依存性糖尿病のラットモデル:少なくとも8週齢および少なくとも200gの体重の免疫適格性のスプラ-グドーリーラットを2~6時間絶食させ、60~65mg/kgのストレプトゾトシンを尾静脈に静脈内投与した。動物は、3日連続で>300mg/dlの非絶食時グルコースレベルを示した場合、糖尿病とみなされた。インスリン徐放性ペレット(リンプラント;Linshin,Scarborough,Canada)の皮下移植によって、高血糖を確認した後、グルコースレベルが安定化した。尾穿刺または外側伏在静脈を介して血液の一滴を採取することによってグルコースを監視し、携帯用グルコース計に適用した。
【0129】
ラットへのカプセル/細胞の生着。上腹部に腹側正中皮膚切開を行った。腹壁をテントし(tent)、腹直筋の正中線で鋭く切開した。腹部にアクセスし、網を分離して体外に出した。球状マクロカプセルを2枚の薄いゲルフォームのシート間に置き、網の中心に配置した。網の分離部分の角を移植片上に折り畳んでポーチを作り、次にそれを縫合で閉じた。腹腔内に網のポーチを戻し、腹部切開部を縫合した後、手術用ステープルを使用して皮膚を縫合した。
【0130】
ラットの腹膜への非球状の管状カプセルの生着。真皮および腹壁を通って腹部切開を行った。管状のマクロカプセルをワイドボアピペットに導入した。ピペットを腹腔に導入し、マクロカプセルをゆっくりと排出した。腹壁および真皮を縫合で閉じた。
【0131】
ラットの網に固定された非球状の管状カプセルの生着。真皮および腹壁を通って腹部切開を行った。網の一部を外に出した。マクロカプセルに取り付けられた外科用メッシュ片を網に置いた。縫合糸でメッシュを網に連結した。管状のマクロカプセルおよび網の外に出した部分を腹膜に戻し入れた。腹壁および真皮を縫合で閉じた。
【0132】
血糖調節:インスリン発現細胞を含有するマクロカプセルの網移植後、ストレプトゾトシンでの処置により糖尿病になった免疫適格性のラットが正常血糖を回復した(図4)。
【0133】
マクロカプセルの外植:ラットをケタミンによる鎮静およびその後の塩化カリウムの心臓内注射により安楽死させた。マクロカプセルを含む網ポーチを切除した。あるいは、円筒状マクロカプセルデバイスの網膜への取り付けをハサミで切断し、デバイスを取り外した。外植片の形態および血管形成の証拠を撮影した(図6)。外植片をPBS中ですすぎ、生/死細胞染色キット(Biovision)を使用し、製造業者の説明書に従って、生存細胞および死亡細胞について染色した(図7)。外植されたデバイスを4%ホルマリン中で保存した。デバイスを最適切削温度コンパウンド(OCT)に埋め込み、凍結し、クライオトーム(cryotome)で10μmの厚さに切断した。切片を顕微鏡スライドに適用し、標準的な免疫組織化学技術を使用してインスリンおよびコラーゲン1の発現を染色した。マクロカプセルは、マクロカプセルの表面に付着した薄膜のみを示した(図8A)。マクロカプセルは、生存可能なインスリン発現細胞のクラスターを含有した(図8B図5も参照されたい)。
【0134】
実施例2-開示されるカプセル化細胞での糖尿病の治療
この実施例は、本明細書に記載のマクロカプセル化細胞を使用して、ヒト成人におけるI型糖尿病を治療する方法を例示する。
【0135】
インスリン依存性糖尿病の成人ヒト対象は、開示されたマクロカプセル化島細胞を含む治療有効量の組成物を含む移植片を、網に固定された対象の網ポーチ内に、、または腹腔内に受ける。
対象は血糖値について評価される。対象は、対象の血糖値が安定していることを確認するため、治療上有効な数のマクロカプセル化細胞の移植後に監視される。対象をさらに、経時的にグリコシル化ヘモグロビン、および糖尿病の併存症についてスクリーニングする。
本発明の実施形態として例えば以下を挙げることができる。
[実施形態1]
複数の治療用細胞を包含する少なくとも2つのマクロカプセルを含むデバイスであって、前記マクロカプセルが、円筒形状および少なくとも1.5mmの直径を含む、デバイス。
[実施形態2]
前記マクロカプセルが、少なくとも1つのバリアを含み、前記バリアが、
(a)硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナン、または
(b)アルギン酸ナトリウム、を含む、実施形態1に記載のデバイス。
[実施形態3]
前記マクロカプセルが、第2のバリアをさらに含み、前記第1のバリアが、前記第2のバリア内に包含される、実施形態1または実施形態2に記載のデバイス。
[実施形態4]
前記マクロカプセルが、1枚の外科用メッシュに取り付けられる、実施形態1~3のいずれかに記載のデバイス。
[実施形態5]
前記外科用メッシュが、ナイロンである、実施形態4に記載のデバイス。
[実施形態6]
前記外科用メッシュが、円形である、実施形態4に記載のデバイス。
[実施形態7]
前記外科用メッシュが、長円形である、実施形態4に記載のデバイス。
[実施形態8]
前記外科用メッシュが、前記デバイスを宿主内の適切な部位に取り付けるためのタブを含む、実施形態4に記載のデバイス。
[実施形態9]
複数のマクロカプセルが、前記外科用メッシュに取り付けられる、実施形態4~8のいずれかに記載のデバイス。
[実施形態10]
前記マクロカプセルが、前記メッシュの周りに放射状に配置される、実施形態9に記載のデバイス。
[実施形態11]
前記マクロカプセルが、前記メッシュに沿って並置される、実施形態9に記載のデバイス。
[実施形態12]
前記マクロカプセルが、前記メッシュの反対側を延びるように配置される、実施形態9に記載のデバイス。
[実施形態13]
糖尿病の治療を、それを必要とする対象において行う方法であって、糖尿病の対象に、実施形態1~12のいずれかに記載のデバイスを移植することを含み、前記デバイスが、前記対象の大網内または腹腔内に移植される、方法。
[実施形態14]
糖尿病の治療を、それを必要とする対象において行うことに使用するための、実施形態1~12のいずれかに記載のデバイス。
[実施形態15]
糖尿病の治療のための医薬品の製造における実施形態1~12のいずれかに記載のデバイスの使用。
[実施形態16]
複数の治療用細胞を包含するマクロカプセルを含む組成物であって、前記マクロカプセルが少なくとも1つのバリアを含み、前記バリアが、
(a)硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナン、または
(b)アルギン酸ナトリウム、を含み、
前記マクロカプセルが、少なくとも1つの他のマクロカプセルも取り付けられる1枚の外科用メッシュに取り付けられる、組成物。
[実施形態17]
前記治療用細胞が、インスリン産生細胞である、実施形態16に記載の組成物。
[実施形態18]
第2のバリアをさらに含む、実施形態16または実施形態17に記載の組成物。
[実施形態19]
前記第2のバリアが、硫酸セルロースおよびグルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含む、実施形態18に記載の組成物。
[実施形態20]
前記第2のバリアが、グルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含まない、実施形態18に記載の組成物。
[実施形態21]
前記マクロカプセルの直径が、少なくとも1.5mmである、実施形態16~20のいずれかに記載の組成物。
[実施形態22]
前記マクロカプセルの前記直径が、少なくとも2.0mmである、実施形態16~21のいずれかに記載の組成物。
[実施形態23]
前記アルギン酸ナトリウムが、二価カチオンであるバリウム(BaCl2)またはカルシウム(CaCl2)と重合される、実施形態16~22のいずれかに記載の組成物。
[実施形態24]
前記硫酸セルロースが、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(pDADMAC)と重合された、実施形態16~22のいずれかに記載の組成物。
[実施形態25]
前記マクロカプセルが、pDADMACとの重合後、ポリメチレン-コ-グアニジン(PMCG)で洗浄された、実施形態24のいずれかに記載の組成物。
[実施形態26]
前記マクロカプセルが、少なくとも約11cmの長さである、実施形態16~25のいずれかに記載の組成物。
[実施形態27]
前記マクロカプセルが、1cm当たり少なくとも約50,000個の細胞を含む、実施形態16~26のいずれかに記載の組成物。
[実施形態28]
前記マクロカプセルが、円筒状である、実施形態16~27のいずれかに記載の組成物。
[実施形態29]
複数の治療用細胞を包含するマクロカプセルを含む組成物であって、前記マクロカプセルが、少なくとも第1のバリアおよび第2のバリアを含み、前記第1のバリアが、前記第2のバリア内に包含され、前記マクロカプセルが、少なくとも1.5mmの直径を有し、前記マクロカプセルが、少なくとも1つの他のマクロカプセルも取り付けられる1枚の外科用メッシュに取り付けられる、組成物。
[実施形態30]
前記マクロカプセルの直径が、少なくとも2.0mmである、実施形態29に記載の組成物。
[実施形態31]
前記治療用細胞が、インスリン産生細胞である、実施形態29または実施形態30に記載の組成物。
[実施形態32]
前記第2のバリアが、硫酸セルロースおよびグルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含む、実施形態29~31のいずれかに記載の組成物。
[実施形態33]
前記第1および第2のバリアの両方が、硫酸セルロースおよび硫酸グルコマンナンを含む、実施形態29~32のいずれかに記載の組成物。
[実施形態34]
前記硫酸セルロースが、pDADMACと重合された、実施形態32~33のいずれかに記載の組成物。
[実施形態35]
前記マクロカプセルが、pDADMACとの重合後にPMCGで洗浄された、実施形態34に記載の組成物。
[実施形態36]
前記第2のバリアが、グルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含まない、実施形態29~31のいずれかに記載の組成物。
[実施形態37]
前記第1のバリアが、アルギン酸ナトリウムを含む、実施形態29~32のいずれかに記載の組成物。
[実施形態38]
前記アルギン酸ナトリウムが、二価カチオンであるバリウム(BaCl2)またはカルシウム(CaCl2)と重合される、実施形態37に記載の組成物。
[実施形態39]
前記マクロカプセルが、少なくとも約11cmの長さである、実施形態29~38のいずれかに記載の組成物。
[実施形態40]
前記マクロカプセルが、1cm当たり少なくとも約50,000個の細胞を含む、実施形態29~39のいずれかに記載の組成物。
[実施形態41]
前記マクロカプセルが、円筒状である、実施形態29~40のいずれかに記載の組成物。
[実施形態42]
複数の治療用細胞を包含するマクロカプセルを含む組成物であって、前記マクロカプセルが、円筒形状および少なくとも1.5mmの直径を含み、前記マクロカプセルが、少なくとも1つの他のマクロカプセルも取り付けられる1枚の外科用メッシュに取り付けられる、組成物。
[実施形態43]
前記マクロカプセルが、少なくとも第1のバリアおよび第2のバリアを含み、前記第1のバリアが、前記第2のバリア内に包含される、実施形態42に記載の組成物。
[実施形態44]
前記第1のバリアが、
(a)硫酸セルロースおよびグルコマンナンもしくは硫酸グルコマンナン、または
(b)アルギン酸ナトリウム、を含む、実施形態43に記載の組成物。
[実施形態45]
前記第2のバリアが、硫酸セルロースおよびグルコマンナンまたは硫酸グルコマンナンを含む、実施形態43または実施形態44に記載の組成物。
[実施形態46]
前記治療用細胞が、インスリン産生細胞である、実施形態42~45のいずれかに記載の組成物。
[実施形態47]
前記マクロカプセルが、少なくとも約11cmの長さである、実施形態42~46のいずれかに記載の組成物。
[実施形態48]
前記マクロカプセルが、1cm当たり少なくとも約50,000個の細胞を含む、実施形態42~47のいずれかに記載の組成物。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】