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▶ ジ・インジウム・コーポレーション・オブ・アメリカの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】保護シェルを有する過冷却液体金属液滴
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/08 20220101AFI20241226BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241226BHJP
   B22F 1/105 20220101ALI20241226BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20241226BHJP
   C22C 45/00 20230101ALI20241226BHJP
   B23K 35/26 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B22F1/08
B22F1/00 R
B22F1/105
B22F1/16
C22C45/00
B23K35/26 310A
B23K35/26 310C
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023505413
(86)(22)【出願日】2021-07-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-22
(86)【国際出願番号】 US2021043042
(87)【国際公開番号】W WO2022020762
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】63/056,448
(32)【優先日】2020-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/383,150
(32)【優先日】2021-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】524184714
【氏名又は名称】ジ・インジウム・コーポレーション・オブ・アメリカ
(74)【代理人】
【識別番号】100137969
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 憲昭
(74)【代理人】
【識別番号】100104824
【弁理士】
【氏名又は名称】穐場 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100121463
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】スオ,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】テビス,イアン
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-529018(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0146142(US,A1)
【文献】JOEL Cutinho et al.,Autonomous Thermal-Oxidative Composition Inversion and Texture Tuning of Liqiud Metal Surfaces,ACS Nano ,米国,2018年12月,4744-4753
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,1/08,1/105,1/16,
7/08
B23K 35/22
C22C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
はんだ材料であって、
多量の第1の金属元素及び少量の第2の元素を含む合金を含むコアであって、前記合金の固相線温度未満で液体状態にある、コアと
前記コアを完全に囲み、多量の前記第2の元素及び少量の前記第1の金属元素を含む外面を含むシェルであって、前記合金の前記固相線温度未満で固体状態にある、シェルと、を含む、はんだ材料
【請求項2】
前記第2の元素が金属である、請求項1に記載のはんだ材料
【請求項3】
前記第2の元素がメタロイドである、請求項1に記載のはんだ材料
【請求項4】
前記シェルが、優勢的な濃度の前記第1の金属元素を有する最内層と、優勢的な濃度の前記第2の元素を有する最外層と、を含む、請求項1に記載のはんだ材料
【請求項5】
前記最内層が、前記最外層よりも大きいEoを有する、請求項4に記載のはんだ材料
【請求項6】
前記最内層が、前記最外層よりも低いEoを有する、請求項4に記載のはんだ材料
【請求項7】
前記最内層及び前記最外層が、前記第1の金属元素の酸化物及び前記第2の元素の酸化物を含む、請求項4に記載のはんだ材料
【請求項8】
前記外面上にリガンドコーティングを更に含む、請求項1に記載のはんだ材料
【請求項9】
はんだ材料を形成する方法であって、
第1の元素、第2の元素及び第3の元素を含む合金から前記はんだ材料の液体コアを形成することと、
前記液体コアの周りに、前記液体コアを完全に囲む固体シェルを形成することであって、前記固体シェルが、優勢的な濃度の、前記第1の元素、前記第2の元素、又は前記第3の元素のうちの1つを有する最内層と、優勢的な濃度の、前記第1の元素、前記第2の元素、又は前記第3の元素のうちの異なる1つを有する最外層と、を含む、形成することと、
前記液体コアを液体状態に維持しながら、前記液体コア及び前記固体シェルを前記合金の固相線温度未満に冷却することと、を含む、方法。
【請求項10】
前記固体シェルが、3つの層を含み、前記最内層が、優勢的な濃度の前記第1の元素を有し、中間層が、優勢的な濃度の前記第2の元素を有し、前記最外層が、優勢的な濃度の前記第3の元素を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記固体シェルが、酸化環境で形成される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記酸化環境が、前記酸化環境における酸素の分圧を変化させることによって制御される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記最内層が、前記中間層よりも大きいEoを有し、前記中間層が、前記最外層よりも大きいEoを有する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記固体シェルの前記3つの層のうちの1つ以上の厚さが、前記酸化環境への曝露時間によって決定される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記固体シェルが、還元環境で形成される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記最内層が前記中間層よりも低いEoを有し、前記中間層が前記最外層よりも低いEoを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記固体シェルの前記3つの層のうちの1つ以上の厚さが、前記還元環境への曝露時間によって決定される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記固体シェルを1つ以上のキレート剤に曝露して、前記最外層の少なくとも一部を除去することを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記1つ以上のキレート剤が、カルボキシレート、アミド、アルコキシド、アミン、チオール、又はホスフェートのうちの少なくとも1つを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記固体シェルの内層を研磨するエッチングプロセスを更に含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年7月22日に出願された「UNDERCOOLED LIQUID METALLIC DROPLETS HAVING A PROTECTIVE SHELL」という題名の米国非仮特許出願第17/383,150号に対する優先権を主張し、2020年7月24日に出願された「UNDERCOOLED LIQUID METALLIC DROPLETS HAVING A PROTECTIVE SHELL」という題名の米国仮特許出願第63/056,448号に対する利益及び優先権を主張する。各々の前述の出願の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
現在、はんだ付けに必要とされる高い処理温度に起因して、はんだ付け接続の形成に好適ではない低温材料を含む様々な電子デバイスが存在する。低温材料を有する電子デバイスのために、新しい低温はんだ付け材料及びプロセスが必要とされる。
【発明の概要】
【0003】
本開示のいくつかの実施形態は、コア材料の固相線温度未満でコアを液体状態に維持する保護シェルによって取り囲まれた過冷却液体金属液滴に関する。保護シェルは、核形成部位を比較的含まないものとすることができ、コアの固相線温度未満でコアが固体に転移するのを防止する熱力学的障壁を組み付けることができる。シェルは、各元素の還元電位に従って配置された1つ以上の層を含むことができる。シェルは、シェルの外部を酸化及び劣化から保護する流体中でコーティングすることができる。いくつかの実施形態では、液体金属液滴は、液滴の固相線温度未満の温度で材料をはんだ付けするために使用することができる。
【0004】
いくつかの実施形態では、液滴は、多量の第1の金属元素及び少量の第2の元素を含むコアを含み、コアは、第1の金属元素の固相線温度未満で液体状態にある。シェルは、コアを取り囲むように配置され、多量の第2の元素及び少量の第1の金属元素を含む外面を含み、シェルは、第1の金属元素の固相線温度未満で固体状態にある。様々な実施形態では、第2の元素は金属である。いくつかの実施形態では、第2の元素は、メタロイドである。様々な実施形態では、シェルは、シェルの内面における第2の元素の第1の濃度から外面における第2の濃度に転移する濃度勾配を含み、第1の濃度は第2の濃度よりも低い。
【0005】
いくつかの実施形態では、液滴は、外面上に置かれた流体を更に含む。様々な実施形態では、シェルの外部は、第1の金属元素及び第2の元素の濃度よりも低い濃度を有する第3の元素を含む。いくつかの実施形態では、シェルは、コアが固体状態に転移することを防止する、少なくとも第1の金属元素及び第2の元素の濃度勾配を含む。様々な実施形態では、外面における第1の金属元素及び第2の元素は、第1の金属元素の酸化物及び第2の元素の酸化物である。いくつかの実施形態では、第1の金属元素は、第2の元素よりも低いEを有する。様々な実施形態では、第2の元素は、第1の金属元素よりも高いEを有する。
【0006】
いくつかの実施形態では、液滴は、液相中に少なくとも1つの金属元素を含むコアと、固相中にあり、コアを完全に囲むように配置されたシェルと、を含む。シェルは、シェルの厚さを通して変化する少なくとも1つの金属元素の濃度勾配を含み、シェルは、少なくとも1つの金属元素の固相線温度未満の温度で金属元素が固相に転移するのを防止する。様々な実施形態では、シェルは、少なくとも2つの層状領域を有し、少なくとも2つの層状領域の各々は、各層状領域内で優勢的な濃度を有する固有の元素によって定義される。
【0007】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの金属元素は第1の金属元素であり、コアは、第1の金属元素よりも低い濃度を有する第2の金属元素を含む。様々な実施形態では、第1の金属元素は、シェルの内部領域の優勢的な割合を形成し、第2の金属元素は、シェルの外部領域の優勢的な割合を形成する。いくつかの実施形態では、第1の金属元素の濃度は、シェルの内部領域からシェルの外部領域に向かって減少し、第2の金属元素の濃度は、シェルの内部領域から外部領域に向かって増加する。
【0008】
いくつかの実施形態では、第1及び第2の金属元素の濃度の変化は、コアが液相から固相に転移するための活性化エネルギの熱力学的シフトを発生させる。様々な実施形態では、シェルの内部領域は、第1の金属元素の酸化物及び亜酸化物を含み、シェルの外部領域は、第2の金属元素の酸化物及び亜酸化物を含む。いくつかの実施形態では、第2の金属元素は、第1の金属元素よりも低いEを有する。
【0009】
いくつかの実施形態では、液滴は、第1の元素、第2の元素及び第3の元素を含む過冷却液体コアを含み、第1の元素は、第2及び第3の元素よりも高い濃度である。固体シェルは、液体コアを包含し、第1、第2及び第3の元素の濃度勾配を含む。様々な実施形態では、第1、第2及び第3の元素は、シェルを形成するために層状に配置される。
【0010】
いくつかの実施形態では、液滴を形成する方法は、第1の元素、第2の元素及び第3の元素を含む合金から液滴の液体コアを形成することと、液体コアの周りに固体シェルを形成することと、を含む。固体シェルは、優勢的な濃度の、第1、第2又は第3の元素のうちの1つを有する最内層と、優勢的な濃度の、第1、第2又は第3の元素のうちの異なる1つを有する最外層と、を含む。本方法は、コアを液体状態に維持しながら、液体コア及び固体シェルを合金の固相線温度未満に冷却することを更に含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、固体シェルは、3つの層を含み、最内層は、優勢的な濃度の第1の元素を有し、中間層は、優勢的な濃度の第2の元素を有し、最外層は、優勢的な濃度の第3の元素を有する。様々な実施形態では、シェルは、酸化環境で形成される。いくつかの実施形態では、酸化環境は、酸化環境中の酸素の分圧を変化させることによって制御される。様々な実施形態では、最内層は、中間層よりも大きいEを有し、中間層は、最外層よりも大きいEを有する。いくつかの実施形態では、固体シェルの3つの層のうちの1つ以上の厚さは、酸化環境への曝露時間によって決定される。
【0012】
いくつかの実施形態では、シェルは、還元環境で形成される。様々な実施形態では、最内層は、中間層よりも低いEを有し、中間層は、最外層よりも低いEを有する。いくつかの実施形態では、固体シェルの3つの層のうちの1つ以上の厚さは、還元環境への曝露時間によって決定される。様々な実施形態では、本方法は、固体シェルを1つ以上のキレート剤に曝露して、最外層の少なくとも一部を除去することを更に含む。様々な実施形態では、1つ以上のキレート剤は、活性化、液滴パッキング、及び液滴の流れを改善することができるシェルの外面を研磨するために使用することができ、これらはすべて、はんだペースト材料(例えば、液滴及びフラックスの組み合わせ)中の液滴の性能を改善することができる特性である。いくつかの実施形態では、1つ以上のキレート剤は、カルボキシレート、アミド、アルコキシド、アミン、チオール、又はホスフェートのうちの少なくとも1つを含む。様々な実施形態では、本方法は、固体シェルの内層を研磨するエッチングプロセスを更に含む。
【0013】
本発明によって、従来の技術に対して多くの利点が達成される。例えば、本発明の実施形態は、コア元素の固相線温度未満の温度で材料をはんだ付けする能力を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の実施形態による、固体金属シェルによって囲まれた過冷却液体金属コアを有する液滴の簡略化された部分断面図を描写している。
図2A】本開示の実施形態による、酸化環境で形成された2層シェルを有する液滴の一例の部分断面図を例示している。
図2B図2Aに例示される液滴の断面に対する各元素及びその酸化物(例えば、Sn及びBi)の相対濃度の一例の濃度勾配グラフを例示している。
図2C】本開示の実施形態による、酸化環境において形成された3層シェルを有する液滴の一例の部分断面図を例示している。
図2D図2Cに例示される液滴の断面に対する各元素及びその酸化物(例えば、Bi、Sn及びIn)の相対濃度の一例の濃度勾配グラフを例示している。
図3】本開示の実施形態による、少なくとも2つの層を含む固体シェルによって囲まれた液体金属コアを含む過冷却液滴を形成する方法に関連するステップを例示している。
図4】本開示の実施形態による、液体金属コアとは異なる組成を有する外面を含む固体シェルによって囲まれた液体金属コアを含む過冷却液滴を形成する方法に関連するステップを例示している。
図5A】本開示の実施形態による、還元環境において形成された2層シェルを有する液滴の一例の部分断面図を例示している。
図5B図5Aに例示される液滴の断面に対する各元素及びその酸化物(例えば、Sn及びBi)の相対濃度の一例の濃度勾配グラフを例示している。
図5C】本開示の実施形態による、還元環境において形成された3層シェルを有する液滴の一例の部分断面図を例示している。
図5D図5Cに例示される液滴の断面に対する各元素及びその酸化物(例えば、Bi、Sn及びIn)の相対濃度の一例の濃度勾配グラフを例示している。
図6A】本開示の実施形態による、酸化還元指示類似体と重ね合わされて比較されたDarken-Gurryプロットを例示している。
図6B】本開示の実施形態による、E°及び蒸気圧を導入した図6Aのプロットである。
図7A】本開示の実施形態による、コアシェル金属粒子の凝固の表面調整可能な妨げの概略図である。
図7B】本開示の実施形態による、シェルの高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡画像である。
図8】本開示の実施形態による、過冷却フィールドメタル粒子の安定性を示す。
図9A】本開示の実施形態による、シェルの酸化物厚さを強調する、金属粒子のSobelフィルタ処理されたHAADF STEM画像を例示している。
図9B図9Aに示される金属粒子のシェルの酸化物厚さの分析を例示している。
図9C図9Aに示す金属粒子のSEM像を例示している。
図9D】本開示の実施形態による、加熱サイクルの数に対する過冷却の変化を示すチャートを例示している。
図9E】本開示の実施形態による、過冷却に対する表面積対体積比の変化を示すチャートを例示している。
図10】本開示の実施形態による、様々な合金についての収率の変化に対するΔTの変化のチャートを示す。
図11A】本開示の実施形態による、調査された様々な特性の有機リガンドの表を示す。
図11B】本開示の実施形態による、酸化物シェルの性質の変動の表を示す。
図12A】本開示の実施形態による、成分の変化と過冷却との間の相関を示す。
図12B】本開示の実施形態による、エンタルピの変化と過冷却との間の相関を示す。
図13】本開示の実施形態による、評価された様々な合金及びその結果の表を示す。
図14A】本開示の実施形態による、過冷却SAC305粒子のDSCトレースを示す。
図14B】本開示の実施形態による、表面仕事の理論量対粒子半径を示す。
図15】本開示の実施形態による、合成されたままの粒子の粒径分布を示す。
図16】本開示の実施形態による、いくつかの実施形態で使用される元素の定数を含む表を示す。
図17】本開示のいくつかの実施形態による様々な合金について、リフロー前後の過冷却レベル及び収率を表にした表を示す。
図18】本開示の実施形態による、フィールドメタルの仮想表面酸化物アーキテクチャの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書に開示される技術は、概して、固体シェルによって囲まれた過冷却液体金属液滴に関する。より具体的には、本明細書に開示される技術は、固相線温度未満で安定した液体状態にあり、1つ以上の固体金属層及び/又は有機層を有するシェルに包まれた金属の液滴に関する。いくつかの実施形態では、シェルは、以下でより詳細に説明されるように、液滴の液体から固体への相転移を妨げる(例えば、防止する)ように設計することができる。方法、プロセス、システム、構成などを含む様々な発明の実施形態が本明細書に記載されている。
【0016】
例えば、いくつかの実施形態では、2つ以上の層を有するシェルによって囲まれた液滴が形成され、各層は、濃度勾配を含み、優勢的な元素によって定義される。別の例では、コアの優勢的な元素とは優勢的に異なる元素である外部組成を有するシェルによって囲まれた液滴が形成される。いくつかの実施形態では、液滴は、特定の外層の形成又は層の配置を促進するために酸化雰囲気中で形成され得、一方、他の実施形態では、液滴は、異なる特定の外層の形成又は層の配置を促進するために還元雰囲気中で形成され得る。
【0017】
本開示による固体金属シェルによって囲まれた過冷却液体金属液滴の特徴及び態様をより良く理解するために、本開示の実施形態による過冷却金属液滴のいくつかの特定の構成を論じることによって、本開示の更なる文脈が以下のセクションで提供される。これらの実施形態は単なる例であり、他の実施形態は、異なる元素、流体材料、ガス、層機構などを使用する他の構成を有することができる。
【0018】
図1は、本開示の実施形態による、固体金属シェル110によって囲まれた過冷却液体金属コア105を有する液滴100の簡略化された部分断面図を描写する。いくつかの実施形態では、シェル110は、以下でより詳細に説明されるように、核形成部位を含まない内面を提供することによって、及び/又は液相から固相への変換が起こるエネルギ閾値を増加させる「熱力学的張力」を生成することによって、液滴100が液体金属コアの固相線温度未満の温度に曝露されたときに過冷却液体金属コア105が固体に転移するのを防止することができる。図1に描写しているように、シェル110は、以下でより詳細に記載されるように、それぞれ異なる組成を有することができる2つの層115、120を含む。いくつかの実施形態では、シェル110は、1つ、2つ、3つ、又はそれ以上の層から作製されることができ、各層は、優勢的な濃度の異なる元素によって定義することができる。更なる実施形態では、シェル110は、以下により詳細に記載されるように、リガンド125又は他の液体で終端され得る。
【0019】
より具体的には、本明細書で定義されるように、層(例えば、115、125)は、優勢的な濃度の特定の元素を有するシェル110の領域である。各層のおおよその境界(例えば、最内開始点及び最外終了点)は、その特定の元素がもはや優勢的ではなく、別の元素が優勢的な濃度を有する位置で定義される。したがって、各層は濃縮領域と呼ぶこともでき、各濃縮領域は特定の元素の優勢度によって定義することができ、各濃縮領域は2つ以上の元素の濃度勾配を有することができる。いくつかの実施形態では、濃度勾配は、以下でより詳細に記載されるように、コアの相変態を妨げる熱力学的張力を発生させるように設計することができる。
【0020】
複数の層を有するいくつかの実施形態では、各層は、他の層における優勢的な元素の還元電位に対する、その層内の優勢的な元素の還元電位Eに従って配置することができる。より具体的には、いくつかの実施形態では、最も低いEを有する元素(例えば、酸化環境内で酸化物を形成する傾向が最も大きい)は、シェルの最外層を形成することができ、最も高いEを有する元素(例えば、酸化物を形成する傾向が最も小さい)は、シェルの最内層を形成することができる。逆に、還元条件内で形成される場合、逆のシェル順序を形成することができる。更なる実施形態では、各層の配置は、液滴が形成されるガス又は流体と反応する各元素の傾向などの他の要因に依存し得る。いくつかの実施形態では、シェル110は、以下により詳細に記載されるように、シェルの安定性を改善するリガンド又は他の組成物である可能性がある流体中で少なくとも部分的に終端することができる。
【0021】
酸化環境における2層シェル
図2Aは、本開示の実施形態による、酸化環境において形成された2層シェルを有する液滴の一例の部分断面図を例示している。図2Aに示すように、液滴200の液体金属コア205は、優勢的にビスマス元素(Bi)であり、残りはスズ元素(Sn)である。図2Aに描写されている実施形態では、コア205は、58重量パーセントのBi及び42重量パーセントのSnを含むが、他の実施形態では、これらの元素は、任意の他の好適な比率を有することができる。例えば、一実施形態では、コア205は、95重量パーセントのBi及び5重量パーセントのSnを含む。いくつかの実施形態では、液体金属コア205は単一の金属元素であるが、他の実施形態では、以下で更に詳細に記載されるように、複数の金属元素の合金、又は金属元素、半金属元素、メタロイド元素、及び/若しくは非金属元素の組み合わせであることができる。図2Aに更に示されるように、コア205は、層1(215)が最内層であり、層2(220)が最外層である2つの層を有するシェル210を含む。図2Aに示される例において、層1(225)は優勢的に酸化ビスマス(Bi、式中a及びbは任意の有理数である)から構成され、層2(220)は優勢的に酸化スズ(Sn、式中c及びdは任意の有理数である)から構成される。いくつかの実施形態では、各層215、220は、複数の金属酸化物の濃度勾配を有することができ、優勢的な金属酸化物によって定義することができる(例えば、以下で詳細に記載されるように、層1(215)は優勢的に酸化ビスマスであり、層2(220)は優勢的に酸化スズである)。
【0022】
層1(215)の内面225は、核形成部位のない比較的滑らかな表面を有することができ、液体金属コア205の核形成及び成長(すなわち、相変態)がコアの固相線温度未満の温度で固体に転移するのを防止する(例えば、共晶58Bi42Snの場合は138℃未満)。いくつかの実施形態では、シェル210内の濃度勾配は、液体から固体への相変態を起こさせるための増加したエネルギ障壁を発生させる熱力学的張力を生成することができ、それによって、その固相線温度よりも更に低い液体状態内の液体金属コア205の安定性を増加させる。
【0023】
図2Bは、図2Aに例示される液滴200の断面に関する各元素及びその酸化物(例えば、Sn及びBi)の相対濃度の一例の濃度勾配グラフを例示している。これらの濃度勾配は単なる例であり、他の実施形態は異なる元素及び/又は異なる濃度勾配を有することができる。図2Bの濃度グラフ245に示されるように、液体コア205内のグラフの左側部分から開始して、元素Snの濃度は、42%付近で比較的一定であり、元素Biの濃度も58%付近で比較的一定である。
【0024】
最初に層1(215)に進むと(すなわち、図2Bの場合、濃度グラフ245の右に向かって)、元素Sn及びBiは、酸化物(例えば、Bi及びSn)として存在し、両方の元素(例えば、その酸化物)の濃度は急速に変化し、層1(215)の中間部分において、酸化ビスマスは約90%に増加し、酸化スズは約10%に減少する。層1(215)と層2(220)との間の界面において酸化スズ及び酸化ビスマスの濃度が等しくなるように、層1(215)の右側に向かって、酸化ビスマスの濃度は減少し、酸化スズの濃度は増加する。したがって、層1内では、Biの濃度はSnよりも大きいので、層1(215)は、多量のBi及び少量のSnを有すると特定することができる。
【0025】
ここで、層2(220)に進むと、酸化ビスマスの組成は約10%まで減少し続け、酸化スズの濃度は約90%で最大に達する。したがって、シェル210の外面235において、酸化スズは、酸化ビスマスよりも高い濃度を有する。いくつかの実施形態では、シェル210の形成中、環境は、酸化物(例えば、酸化スズ及び酸化ビスマス)の形成を促進する1つ以上の形態の酸素を含む、いわゆる「酸化環境」であり得る。いくつかの実施形態では、外面235は、以下で詳細に記載されるように、外面を酸化及び/又は劣化から安定化させる流体230で覆われ得る。
【0026】
シェル210内の濃度勾配は、液体コア205の固体への相変態を妨げる熱力学的張力を生成することができる。より具体的には、濃度勾配は、比較的大きなラプラス圧力ジャンプ条件を生成する比較的大きな表面双極子を発生させることができ、これは、コアがそのような大きな圧力ジャンプ条件を保持するために比較的高圧であることを示唆する。凝固するために、臨界核剤サイズが必要とされ、これは、この張力から離れた拡散が存在し、液滴200全体の自由エネルギを更に増加させることを意味する。しかしながら、液滴200の自由エネルギは、これが自発的プロセスであるために減少しているはずである。この状況は、凝固に対する障壁を増大させる。この条件の証拠として、高融点合金が冷却されると、それらは、通常の条件下で金属が好む結晶構造とは対照的に、ガラス状(例えば、非晶質)構造を形成する。非晶質構造へのこの変化は、液体から固体への転移が、妨げられた過共晶-又は亜共晶組成物から起こっている可能性が高いことを示す。
【0027】
図2A及び図2Bに示す例では、液体金属コア205は優勢的に元素Biであり、シェル210は、外面が優勢的に金属コアとは異なる金属酸化物(例えば、Sn)である2つの層を含む。より具体的には、コア205は、優勢的にBiから構成され、液滴の外面は、主にSnから構成される。
【0028】
いくつかの実施形態では、コア205は、例えば、外面で支配的な元素を含み得る他の元素を比較的少ない割合で含み得る。本明細書に記載されるように、少ない割合は、比較対象の多い割合未満であり得る。更なる実施形態では、外面は、例えば、コアで支配的な元素を含み得る他の元素を比較的小さい割合(例えば、50パーセント未満、10パーセント未満、1パーセント未満)で含み得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、シェル210は、シェルの外面の優勢的な元素がコアの優勢的な元素と異なる1つの層を有し得る。例えば、一実施形態では、液体金属コアの優勢的な元素はスズであり、シェルの優勢的な元素はインジウムである。すなわち、コアは、少量のインジウムを有して優勢的にスズであリ得、シェルの外面は、少量のスズ(例えば、酸化スズ)を有して優勢的にインジウム(例えば、酸化インジウム)であり得る。
【0030】
本明細書で使用される場合、酸化物(例えば、酸化スズ)という用語及び化学的表現(例えば、Sn)は、c及びdが有理数であるスズのすべての可能な酸化物を表す。更に、特定の酸化物(例えば、有理数c及びd)は、酸化スズの1つの形態が層1(215)内に存在し得、別の形態が層2(220)内に存在し得る特定の液滴全体にわたって変化し得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、流体230は、シェル210の物理-化学吸着に対する物理的障壁を提示することができる。一実施形態では、流体は、これらに限定されないが、アンモニア基の溶液、硫黄基の溶液、カルボン酸、任意の有機酸、任意の無機酸、リンタングステン酸、ヘキサフルオロリン酸、トリクロロ酢酸、トリブロモ酢酸、クロロ酢酸、両性イオン種(例えば、グルタミン酸、セリンなど)、ジカルボン酸(例えば、グルタル酸、マロン酸、フマル酸、シュウ酸、ピメリン酸など)、無水物、ジカルボキシレート、アセタール、ケタール、ヘミアセタールなどの反応種にその場で変換するアルデヒド又は他の官能基などのリガンド又は他の溶液である。本開示の恩恵を受ける当業者は、流体の上記リストが網羅的ではなく、他の有機及び非有機流体を使用することができ、本開示の範囲内であることを理解するであろう。更なる実施形態では、形成後、シェル210の外面は、シェル210の酸化及び/又は劣化を防止するために、例えば、窒素などのガスと接触し得る。なお更なる実施形態では、シェル210の外面は、例えば、金、銀、ニッケル又は白金などの比較的不活性な金属で終端させることができる。一実施形態では、外面は、流体、ガス、又は終端なしで安定し得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、シェル210の形成中、プロセスは、酸化環境で実行され得る。一実施形態では、1つ以上の形態の酸素(例えば、O、O、Oなど)を、液滴200が形成される溶液中にガス形態で注入して、シェル210の迅速な酸化物形成及び成長を促進することができる。いくつかの実施形態では、この変化は、酸素の分圧の変化と称することができる。更に、酸化環境は、シェルの形成の順序及びシェル層の順序を促進することができ、すなわち、酸化物形成の可能性が最も高い元素がシェルで支配的になり、シェルの外面を形成することができる。酸化環境への曝露時間及び/又は酸素濃度は、シェルの1つ以上の層の厚さを変化させることができる。同様に、酸素及び他の酸化性ガスの除去によって酸化が防止される還元雰囲気への環境の変化は、シェルの層の順序を変化させ得る。還元雰囲気は、水素、一酸化炭素などの還元ガス、及び存在する酸素によって酸化される硫化水素などのガスを介して形成され得る。
【0033】
酸化環境における3層シェル
図2Cは、本開示の実施形態による、酸化環境において形成された3層シェルを有する液滴の一例の部分断面図を例示している。図2Cに示すように、液滴250の液体金属コア255は、優勢的にビスマス元素(Bi)であり、インジウム元素(In)及びスズ元素(Sn)の量が少ない。図2Cに示す実施形態では、コア255は、57重量パーセントのBi、25重量パーセントのIn、及び17重量パーセントのSnを含むが、他の実施形態では、これらの元素は、任意の他の好適な比率を有することができる。いくつかの実施形態では、液体金属コア255は単一の金属元素であるが、他の実施形態では、以下で更に詳細に記載されるように、複数の金属元素の合金、又は金属元素、半金属元素、メタロイド元素、及び/若しくは非金属元素の組み合わせであってもよい。図2Cに更に示されるように、コア255は、層1(265)が最内層であり、層2(270)が中間層であり、層3(275)が最外層である3つの層を有するシェル260を含む。図2Cに示される例では、層1(265)は優勢的に酸化ビスマス(Bi、式中、a及びbは任意の有理数である)から構成され、層2(270)は優勢的に酸化スズ(Sn、式中、c及びdは任意の有理数である)から構成され、層3(275)は優勢的に酸化インジウム(In、式中、e及びfは任意の有理数である)から構成される。いくつかの実施形態では、各層265、270、275は、複数の金属酸化物の濃度勾配を有することができ、優勢的な金属酸化物によって定義することができる(例えば、以下でより詳細に記載されるように、層1(265)は優勢的に酸化ビスマスであり、層2(270)は優勢的に酸化スズであり、層3(275)は優勢的に酸化インジウムである)。
【0034】
層1(265)の内面285は、核形成部位のない比較的滑らかな表面を有することができ、液体金属コア255の核形成及び成長(すなわち、相変態)がコアの固相線温度未満の温度で固体に転移するのを防止する(例えば、57Bi26In17Snの場合は62℃未満)。いくつかの実施形態では、シェル260内の濃度勾配は、液相から固相への変換が起こるための増加したエネルギ障壁を発生させる熱力学的張力を生成することができ、それによって、その固相線温度よりも更に低い液体状態内の液体金属コア255の安定性を増加させる。
【0035】
図2Dは、図2Cに例示される液滴250の断面に関する各元素及びその酸化物(例えば、Bi、Sn及びIn)の相対濃度の例示的な濃度勾配グラフを例示する。これらの濃度勾配は単なる例であり、他の実施形態は異なる元素及び/又は異なる濃度勾配を有することができる。図2Dの濃度グラフ290に示されるように、液体コア285内のグラフの左側部分から開始して、元素Biの濃度も57%付近で比較的一定であり、元素Inの濃度は、26%付近で比較的一定であり、元素Snの濃度も17%付近で比較的一定である。
【0036】
最初に層1(265)に進むと(すなわち、図2Dの場合の濃度グラフ290の右に向かって)、元素Bi、Sn及びInが酸化物(例えば、Bi、Sn及びIn)として存在し、各元素(例えば、それらの酸化物)の濃度は、酸化ビスマスが増加して支配的になり、酸化スズがより遅い速度で増加し、酸化インジウムが減少するところで変化する。層1(265)の右側に向かって、酸化ビスマスの濃度は、酸化スズ及び酸化インジウムの濃度よりも大きく、したがって、層1(265)は、多量のBiを有すると特定することができる。
【0037】
ここで層2(270)に進むと、酸化ビスマスの組成は減少するが、酸化スズの濃度は増加して層2で支配的になる。したがって、層2(270)は、多量のスズを有すると特定することができる。ここで、層3(275)に進むと、酸化スズ及び酸化ビスマスの組成は減少するが、インジウムは増加し続け、層3で支配的になる。したがって、層3(275)は、多量のインジウムを有すると特定することができる。したがって、シェル260の外面293において、酸化インジウムは、酸化ビスマス又は酸化スズよりも高い濃度を有する。いくつかの実施形態では、シェル210の形成中、環境は、酸化物(例えば、酸化インジウム、酸化スズ及び酸化ビスマス)の形成を促進する1つ以上の形態の酸素を含む、いわゆる「酸化環境」であってもよい。いくつかの実施形態では、外面293は、以下で詳細に記載されるように、外面を酸化及び/又は劣化から安定化させる流体280で覆われ得る。
【0038】
シェル260内の濃度勾配は、液体コア255の固体への相変態を妨げる熱力学的張力を生成することができる。図2C及び図2Dに示す例では、液体金属コア255は優勢的に元素Biであり、シェル260は3つの層を含み、外面293は優勢的に金属コアとは異なる金属酸化物(例えば、In)である。より具体的には、コア255は優勢的にBiから構成され、液滴の外面は主にInから構成される。
【0039】
いくつかの実施形態では、コア255は、例えば外面で支配的な元素を含み得る他の元素を比較的少ない割合で含み得る。本明細書に記載されるように、少ない割合は、比較対象の多い割合未満であり得る。更なる実施形態では、外面は、例えば、コアで支配的な元素を含み得る他の元素を比較的小さい割合(例えば、50パーセント未満、10パーセント未満、1パーセント未満)で含み得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、シェル260は、シェルの外面の優勢的な元素がコアの優勢的な元素と異なる外層を有してもよい。例えば、一実施形態では、液体金属コアの優勢的な元素はビスマスであり、シェルの優勢的な元素はインジウムである。すなわち、いくつかの実施形態では、コアは優勢的にビスマスであり、少量のインジウムを有してもよく、シェルの外面は優勢的にインジウム(例えば、酸化インジウム)であり、少量のビスマス(例えば、酸化ビスマス)を有してもよい。
【0041】
いくつかの実施形態では、以下に更に詳細に記載されるように、流体230は、シェル260の物理-及び化学-吸着に対する物理的障壁を提示することができる。更に別の実施形態では、シェル260の外面293は、例えば、金、銀、ニッケル又は白金などの比較的不活性な金属で終端させることができる。一実施形態では、外面は、流体、ガス、又は終端なしで安定し得る。
【0042】
いくつかの実施形態では、シェル210の形成中、プロセスは、酸化環境で実行され得る。一実施形態では、1つ以上の形態の酸素(例えば、O、O、Oなど)を、液滴250が形成される溶液中にガス形態で注入して、シェル260の迅速な酸化物形成及び成長を促進することができる。更に、酸化環境は、シェルの形成の順序及びシェル層の順序を促進することができ、すなわち、酸化物形成の可能性が最も高い元素がシェルで支配的になり、シェルの外面を形成することができる。したがって、酸素及び他の酸化性ガスの除去によって酸化が防止される還元雰囲気への環境の変化は、シェルの層の順序を変化させ得る。還元雰囲気は、水素、一酸化炭素などの還元ガス、及び存在する酸素によって酸化される硫化水素などのガスを介して形成され得る。同様に、環境中の還元ガスへの曝露時間及び/又は還元ガスの濃度を変化させることにより、シェルの1つ以上の層の厚さを変化させ得る。更なる実施形態では、環境は、特定の順序で特定のシェル層の形成を促進するために、シェルの成長中に還元環境と酸化環境との間で動的に変化し得る。
【0043】
図2A図2Dに示されるSn、In、Bi及び関連酸化物の相対濃度は、用例にすぎない。本開示の利益を有する当業者は、他の実施形態が異なる相対濃度及び/又は異なる元素を有し得ることを理解するであろう。
【0044】
製造プロセス
図3は、本開示の実施形態による、少なくとも2つの層を含む固体シェルによって囲まれた液体金属コアを含む過冷却液滴を形成する方法300に関連するステップを例示している。図3に記載されているように、ステップ305において、多量の元素A及び少量の元素Bを含む溶融溶液が調製される。いくつかの実施形態では、溶融溶液は、元素Aを加熱し、元素Bを添加することによって形成することができる。他の実施形態では、元素A及び元素Bはあらかじめ混合され得るが、単に加熱して溶融溶液を形成することができる固体として存在し得る。
【0045】
ステップ310では、ステップ305からの溶融溶液を流体に浸漬する。いくつかの実施形態では、流体は、共役酸塩基対を含み、酸成分は、シェルをその場で研磨するように構成され、塩基は、物理吸着及び化学吸着に対してシェルを安定化するように構成される。より具体的には、一実施形態では、酸成分はシェルの内面を平滑化して、固相線温度未満に冷却されたときに液体金属コアを凝固させ得る核形成部位を最小限にする。他の実施形態では、他のタイプの流体を使用することができる。更なる実施形態では、限定はしないが、酸化物の形成を促進するための酸素、又は酸化物の形成を遅らせるための還元ガスなどの1つ以上のガスを流体に添加することができる。例示的ガスは、本明細書で詳細に記載され、シェルの1つ以上の層の形成の特定の順序を促進するために使用され得る。
【0046】
ステップ315において、溶融溶液は、流体及び/又はガスに浸漬されている間に液滴に分離することができる。いくつかの実施形態では、溶融溶液は、流体中に浸漬された高速ブレードなどの機械的せん断装置を使用して分離することができる。せん断中、各液滴は、流体及び/又は流体に導入することができるガスによって取り囲まれる。流体及び/又はガスは、液滴が形成される際にシェルの特性及び/又はシェル層の順序を設計するために、せん断プロセス中に選択及び/又は変更することができる。すなわち、シェルの形成は、特定のシェル組成物を形成するように最適化することができる、化学的に動的な(例えば、ガス流量、ガス組成、ガス分圧、温度、流体組成を変化させる)及び機械的に動的な(例えば、せん断速度、せん断応力などを変化させる)環境において実行することができる。
【0047】
ステップ320において、各液滴の周りにシェルを形成することができる。いくつかの実施形態では、シェルは、2つ以上の層を含むことができ、各層は、優勢的な濃度の異なる元素によって定義することができる。シェルの形成中、バルク中に分散された元素は、酸化される可能性及び/又は流体に対するより強い親和性のために、コアの表面上で安定化させることができる。コア内の元素の内部移動及び拡散は、それらを表面にもたらし、表面での反応及び安定化は、以下でより詳細に論じられるように、それらを表面に留まらせてシェルを構築する。
【0048】
一実施形態では、流体及び1つ以上の元素は、1つ以上の元素が酸化物を形成しなければならない傾向よりも高い結合の傾向を有するものを選択することができる。すなわち、流体及び元素は、優先的に反応するように設計することができる。したがって、流体と反応する最も高い傾向を有する元素が最外層を形成し、流体と反応する次に高い傾向を有する元素が中間層を形成し、流体と反応する次に高い傾向を有する元素が最内層を形成する。一例では、転移金属と優先的に反応するようにアンモニア系流体を選択することができる。別の例では、硫黄系の流体は金と優先的に反応するように選択することができ、カルボン酸系の流体はインジウムと優先的に反応するように選択することができ、リン酸塩はガリウムと指示的に反応するように選択することができる。
【0049】
様々な実施形態では、固体シェルを、最外層の少なくとも一部を除去するために、1つ以上のキレート剤に曝露することができる。いくつかの実施形態では、1つ以上のキレート剤は、カルボキシレート、アミド、アルコキシド、アミン、チオール、又はホスフェートのうちの少なくとも1つを含むが、他の好適なキレート剤を使用することができる。
【0050】
別の実施形態では、1つ以上の元素は、流体と反応する元素の傾向よりも酸化物を形成する傾向が高いものを選択することができる。したがって、各層は、他の層における優勢的な元素の還元電位に対する、その層内の優勢的な元素の還元電位Eに従って配置することができる。より具体的には、凝集エネルギ密度及び部分混和性を使用して、より低いE元素を「選択」することができ、次いで、これをコアの表面に押し付けて、処理中にシェルを形成する。このより低いE元素は、コア内及びシェル内のこの元素の所望の最終濃度に応じて、コアのバルクから完全に除去するか、コアのバルクから実質的に除去するか、又はコアのバルクから部分的に除去することができる。これは、流体特性、酸化剤濃度、分圧及び/又は温度、時間などの処理パラメータを選択することによって制御することができる。
【0051】
更なる実施形態では、シェルは、1つ以上の元素の還元電位と流体との反応電位との間の競合を使用して形成され、シェル層及び層組成の特定の配置を有する多層シェルを設計することができる。より具体的には、反応の最も高いポテンシャルは、元素Aが流体と反応することであり得、次に高い反応ポテンシャルは、元素Bが酸素と反応して酸化物を形成することであり得、次に高い反応ポテンシャルは、元素Cが流体などと反応することであり得る。したがって、適切な元素、流体及び/又はガスを選択することによって、シェル内の層の機構及び組成を設計することができる。
【0052】
いくつかの実施形態では、特定の量の元素(例えば、元素B)を、シェルの一部を優先的に形成して、各液滴の液体コアには元素Bが全く又はほとんど残らず、コアが実質的に100%元素Aである、溶融溶液(例えば、溶融溶液が元素A及び元素Bを含む場合)に含めることができる。いくつかの実施形態では、元素は混和性であり得る(例えば、互いに溶解する)が、他の実施形態では、元素の1つ以上は非混和性であり、母材金属と溶解しない格子間物質を形成し得る。非混和性元素を有する実施形態では、コアから非混和性元素のすべて又はほとんどすべてを除去すること(すなわち、コアからそれを移動させてシェルを形成すること)は、特定の元素が溶液からコアに沈殿する可能性がある実施形態では、コアの核形成とその後の凝固を引き起こす過冷却の量を増加させ得る。コアから元素Bを除去してシェルを形成するためには、シェルが優先的に元素Bから形成されるように、流体及び/又はガスは、元素Bとの反応の可能性が高く、元素Aとの反応の可能性が低くなるように選択することができる。更なる実施形態では、シェル形成中に時間及び温度を調整して、元素Bの大部分又はすべてをシェルに拡散させることができる。更なる実施形態では、元素Bの一部又は実質的にすべてをバルクから浸出させることができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、混和性及び還元電位は、これらの動的処理条件下で、最も高い酸化/還元電位を有する元素がシェルの外面を濃縮することを可能にする合金を構成するために活用される。この成分が他の合金成分(例えば、Sn中のIn対Ge、又はIn中のBi対Ge)と比較して高度に可溶性でない場合、表面上に存在する傾向を増加させることができる。いくつかの実施形態では、修正されたDarken-Gurryプロット及び/又はHume-Rothery規則を使用して、バルク中の溶解度を予測し、表面に分配する確率によってこれらの溶解度パラメータを補正して、最終合金組成を予測することができる。
【0054】
更なる実施形態では、形成される特定の化合物は、シェル形成中の時間及び温度を制御することによって制御することができる。例えば、酸化スズを形成する場合、比較的短い時間及び/又は低い温度を使用すると、2+酸化スズが優先的に形成され、比較的長い時間及び/又は高い温度を使用すると、4+酸化スズが優先的に形成される。
【0055】
ステップ325において、各々がシェルを含む液滴は、コア材料の固相線温度未満に冷却される。すなわち、コアの組成は、シェルの形成後、特定の固相線温度を有し、シェルの内面に核形成部位がないこと、及び/又はシェルの濃度勾配に起因して、液体金属コアは、コアを固体状態に転移させることなく、固相線温度未満に冷却することができる。いくつかの実施形態では、液滴は、シェルを劣化から保護する流体中でコーティングされる。様々な実施形態では、液滴は、直径約1ミクロンであるが、他の実施形態では直径0.5ミクロン~10ミクロンであり、別の実施形態では直径0.25ミクロン~100ミクロンである。
【0056】
方法300は例示的なものであり、変形及び修正が可能であることが理解されよう。順次的なものとして記載されたステップは、並行して実行され得、ステップの順序は変更され得、ステップは、変更、結合、追加、又は省略され得る。
【0057】
図4は、本開示の実施形態による、液体金属コアとは異なる組成を有する外面を含む固体シェルによって囲まれた液体金属コアを含む過冷却液滴を形成する方法400に関連するステップを例示する。図4に記載されているように、ステップ405において、多量の元素A及び少量の元素Bを含む溶融溶液が調製される。いくつかの実施形態では、元素Aを加熱し、元素Bを添加することによって溶融溶液を形成することができる。他の実施形態では、元素Aと元素Bはあらかじめ混合され得るが、単純に加熱して溶融溶液を形成することができる固体として存在し得る。
【0058】
ステップ410において、ステップ505からの溶融溶液を流体に浸漬する。いくつかの実施形態では、流体は、共役酸塩基対を含み、酸成分は、シェルをその場で研磨するように構成され、塩基は、物理及び化学吸着に対してシェルを安定化するように構成される。より具体的には、一実施形態では、酸成分はシェルの内面を平滑化して、固相線温度未満に冷却されたときに液体金属コアを凝固させ得る核形成部位を最小限にする。他の実施形態では、他のタイプの流体を使用することができる。更なる実施形態では、限定されないが、酸素などの1つ以上のガスを流体に添加することができる。
【0059】
ステップ415において、溶融溶液は、流体及び/又はガスに浸漬されている間に液滴に分離することができる。いくつかの実施形態では、溶融溶液は、流体中に浸漬された高速ブレードなどの機械的せん断装置を使用して分離することができる。せん断中、各液滴は、流体及び/又はガスによって取り囲まれる。流体及び/又はガスは、以下により詳細に説明されるように、シェル及び/又は液滴の特性を設計するように選択することができる。
【0060】
ステップ420において、各液滴の周りにシェルを形成することができる。いくつかの実施形態では、シェルは、2つ以上の層を含むことができ、各層は、優勢的な濃度の異なる元素によって定義することができる。いくつかの実施形態では、液体金属コアは、多量の元素A及び少量の元素Bを含み、シェルの外面は、多量の元素B及び少量の元素Aを含む。ステップ320で上述したように、様々な方法を使用して、各層の組成及び配置を選択的に設計することができる。
【0061】
ステップ425において、各々がシェルを含む液滴は、コア材料の固相線温度未満に冷却される。すなわち、シェルの形成後のコアの組成は、シェルの内面に核形成部位がないこと、及び/又はシェルの濃度勾配に起因して、特定の固相線温度を有し、液体金属コアは、コアを固体状態に転移させることなく、その固相線温度未満に冷却することができる。いくつかの実施形態では、液滴は、シェルを劣化から保護する流体中でコーティングされる。様々な実施形態では、液滴は、直径約1ミクロンであるが、他の実施形態では直径0.5ミクロン~10ミクロンであり、別の実施形態では直径0.25ミクロン~100ミクロンである。
【0062】
一実施形態では、スズ、銀及び銅を含むSAC305として知られるはんだ合金は、液滴のコアが実質的にSAC305であり、シェルの外側が優勢的にゲルマニウムであるように、ゲルマニウムでドープされる。別の実施形態では、ビスマス及びスズの合金は、ゲルマニウムでドープされ、シェルの外側は優勢的にゲルマニウムである。
【0063】
更なる実施形態では、液滴が形成された後、それらは、以下により詳細に記載されるように、それらが耐えることができる過冷却の量を増加させるための温度に供することができる。
【0064】
方法400は例示的なものであり、変形及び修正が可能であることが理解されよう。順次的なものとして記載されたステップは、並行して実行され得、ステップの順序は変更され得、ステップは、修正、結合、追加、又は省略され得る。
【0065】
還元環境における2層シェル
図5Aは、本開示の実施形態による、還元環境において形成された2層シェルを有する液滴の一例の部分断面図を例示する。図5Aの液滴500は、コアが同様の濃度で同じ構成元素を含む図2Aの液滴200と同様であるが、液滴500は還元環境で形成されるので、液滴200のように外面に酸化ビスマスを形成する代わりに、液滴500は、外面に酸化スズを形成する。
【0066】
図5Aに示すように、液滴500の液体金属コア505は、優勢的にビスマス元素(Bi)であり、残りはスズ元素(Sn)である。図5Aに描写されている実施形態では、コア505は、58重量パーセントのBi及び42重量パーセントのSnを含むが、他の実施形態では、これらの元素は、任意の他の好適な比率を有することができる。例えば、一実施形態では、コア505は、95重量パーセントのBi及び5重量パーセントのSnを含む。いくつかの実施形態では、液体金属コア505は単一の金属元素であるが、他の実施形態では、以下に更に詳細に記載されるように、複数の金属元素の合金、又は金属、半金属、メタロイド及び/若しくは非金属元素の組み合わせであってもよい。図5Aに更に示されるように、コア505は、層1(515)が最内層であり、層2(520)が最外層である、2つの層を有するシェル510を含む。図5Aに示す例では、層1(525)は、優勢的に酸化スズ(Sn、式中、c及びdは任意の有理数)から構成され、層2(220)は、優勢的に酸化ビスマス(BiOb、式中、a及びbは任意の有理数)から構成されている。いくつかの実施形態では、各層515、520は、以下に詳細に記載されるように、複数の金属酸化物の濃度勾配を有することができ、優勢的な金属酸化物によって定義することができる(例えば、層1(515)は、優勢的に酸化スズであり、層2(520)は、優勢的に酸化ビスマスである。
【0067】
層1(515)の内面525は、核形成部位のない比較的滑らかな表面を有することができ、液体金属コア505の核形成及び成長(すなわち、相変態)がコアの固相線温度未満の温度で固体に転移するのを防止する(例えば、共晶58Bi42Snの場合は138℃未満)。いくつかの実施形態では、シェル510内の濃度勾配は、液相から固相への変換が起こるための増大したエネルギ障壁を発生させる熱力学的張力を生成し、それにより、液体金属コア505の安定性を、その固相線温度より更に低い液体状態で増加させることができる。
【0068】
図5Bは、図5Aに例示される液滴500の断面に関する各元素及びその酸化物(例えば、Sn及びBi)の相対濃度の一例の濃度勾配グラフを例示している。これらの濃度勾配は単なる例であり、他の実施形態は、異なる元素及び/又は異なる濃度勾配を有することができる。図5Bの濃度グラフ545に示されるように、液体コア505内のグラフの左側部分から開始して、元素Snの濃度は、42%付近で比較的一定であり、元素Biの濃度も58%付近で比較的一定である。
【0069】
最初に層1(515)に進むと(すなわち、図5Bの濃度グラフ545の右に向かって)、元素Sn及びBiが酸化物(例えば、Sn及びBi)として存在し、両方の元素(例えば、それらの酸化物)の濃度は、層1(515)の中間部分で、酸化スズが約90%に増加し、酸化ビスマスが約10%に減少するところで急速に変化する。したがって、層1(515)内では、Snの濃度はBiよりも高く、したがって、層1は、多量のSn及び少量のBiを有するものとして特定することができる。
【0070】
ここで、層2(520)に進むと、酸化スズの組成は、約10%まで減少し続け、酸化ビスマスの濃度は、約90%で最大に達する。したがって、シェル510の外面535において、酸化ビスマスは、酸化スズよりも高い濃度を有する。いくつかの実施形態では、シェル510の形成中、環境は、外面535上で酸化ビスマスの形成を促進する、いわゆる「還元環境」であり得、例えば、水素、一酸化炭素、及び存在する酸素によって酸化される硫化水素などのガスなどの還元ガスの1つ以上の形態を含み得る。いくつかの実施形態では、外面535は、本明細書で詳細に記載されるように、外面を酸化及び/又は劣化から安定化させる流体530で覆われ得る。
【0071】
シェル510内の濃度勾配は、液体コア505の固体への相変態を妨げる熱力学的張力を生成することができる。いくつかの実施形態では、コア505は、例えば、外面で支配的な元素を含み得る他の元素を比較的少ない割合で含み得る。本明細書に記載されるように、少ない割合は、比較対象の多い割合未満であり得る。更なる実施形態では、外面は、例えば、コアで支配的な元素を含み得る他の元素を比較的小さい割合(例えば、50パーセント未満、10パーセント未満、1パーセント未満)で含み得る。
【0072】
いくつかの実施形態では、流体530は、シェル510の物理及び化学吸着に対する物理的障壁を提示することができる。なお更なる実施形態では、シェル510の外面は、例えば、金、銀、ニッケル又は白金などの比較的不活性な金属で終端させることができる。一実施形態では、外面は、流体、ガス、又は終端なしで安定し得る。
【0073】
酸化環境における3層シェル
図5Cは、本開示の実施形態による、還元環境において形成された3層シェルを有する液滴の一例の部分断面図を例示している。図5Cの液滴550は、図2Cの液滴250と同様であり、コアが同様の濃度で同じ構成元素を含むが、液滴550は還元環境で形成されるため、液滴250のように外面に酸化インジウムを形成する代わりに、液滴550は、外面に酸化ビスマスを形成する。
【0074】
図5Cに示すように、液滴550の液体金属コア555は、優勢的にビスマス元素(Bi)であり、インジウム元素(In)及びスズ元素(Sn)の量が少ない。図5Cに示す実施形態では、コア555は、57重量パーセントのBi、26重量パーセントのIn、及び17重量パーセントのSnを含むが、他の実施形態では、これらの元素は、任意の他の好適な比率を有することができる。いくつかの実施形態では、液体金属コア555は単一の金属元素であるが、他の実施形態では、以下で更に詳細に記載されるように、複数の金属元素の合金、又は金属元素、半金属元素、メタロイド元素、及び/若しくは非金属元素の組み合わせであることができる。図5Cに更に示されるように、コア555は、層1(565)が最内層であり、層2(570)が中間層であり、層3(575)が最外層である3つの層を有するシェル560を含む。図5Cに示す例では、層1(565)は、優勢的に酸化インジウム(In、式中、a及びbは任意の有理数)から構成され、層2(570)は、優勢的に酸化スズ(Sn、式中、c及びdは任意の有理数)から構成され、層3(575)は、優勢的に酸化ビスマス(Bi、式中、e及びfは任意の有理数)で構成されている。いくつかの実施形態では、各層565、570、575は、複数の金属酸化物の濃度勾配を有することができ、優勢的な金属酸化物によって定義することができる(例えば、以下でより詳細に記載されるように、層1(565)は優勢的に酸化インジウムであり、層2(570)は優勢的に酸化スズであり、層3(575)は優勢的に酸化ビスマスである。
【0075】
層1(565)の内面585は、核形成部位のない比較的滑らかな表面を有することができ、液体金属コア555の核形成及び成長(すなわち、相変態)がコアの固相線温度未満の温度で固体に転移するのを防止する(例えば、57Bi26In17Snの場合は62℃未満)。いくつかの実施形態では、シェル560内の濃度勾配は、液相から固相への変換が起こるための増大したエネルギ障壁を発生させる熱力学的張力を生成し、それにより、液体金属コア555の安定性を、その固相線温度より更に低い液体状態内で増加させることができる。
【0076】
図5Dは、図5Cに示される液滴550の断面に関する各元素及びその酸化物(例えば、Bi、Sn及びIn)の相対濃度の一例の濃度勾配グラフを例示する。これらの濃度勾配は単なる例であり、他の実施形態は異なる元素及び/又は異なる濃度勾配を有することができる。図5Dの濃度グラフ590に示すように、液体コア55内のグラフの左側部分から開始して、元素Biの濃度は57%付近で比較的一定であり、元素Inの濃度は26%付近で比較的一定であり、元素Snの濃度も17%付近で比較的一定である。
【0077】
最初に層1(565)に進むと(すなわち、図5Dの場合、濃度グラフ590の右に向かって)、元素Bi、Sn及びInが酸化物として存在し(例えば、In、Sn及びBi)、各元素(例えば、その酸化物)の濃度が変化し、酸化インジウムが増加して支配的になり、酸化スズがより遅い速度で増加し、酸化ビスマスが減少する。層1(565)の右側に向かって、酸化インジウムの濃度は、酸化スズ及び酸化インジウムの濃度よりも大きく、したがって、層1(565)は、多量のInを有すると特定することができる。
【0078】
ここで層2(570)に進むと、酸化インジウムの組成は減少するが、酸化スズの濃度は増加して層2で支配的になる。したがって、層2(570)は、多量のスズを有すると特定することができる。ここで、層3(575)に進むと、酸化スズ及び酸化インジウムの組成は減少するが、ビスマスは増加し続け、層3で支配的になる。したがって、層3(575)は、多量のビスマスを有すると特定することができる。したがって、シェル560の外面593において、酸化ビスマスは、酸化インジウム又は酸化スズよりも高い濃度を有する。いくつかの実施形態では、シェル510の形成中、環境は、外面593上の酸化ビスマスの形成を促進する、いわゆる「還元環境」であり得、例えば、水素、一酸化炭素、及び任意の存在する酸素によって酸化される硫化水素などのガスなどの還元ガスの1つ以上の形態を含み得る。いくつかの実施形態では、外面593は、本明細書で詳細に記載されるように、外面を酸化及び/又は劣化から安定化させる流体580で覆われ得る。
【0079】
シェル560内の濃度勾配は、液体コア555の固体への相変態を妨げる熱力学的張力を生成することができる。いくつかの実施形態では、コア555は、例えば、外面で支配的な元素を含み得る他の元素を比較的少ない割合で含み得る。本明細書に記載されるように、少ない割合は、比較対象の多い割合未満であり得る。更なる実施形態では、外面は、例えば、コアで支配的な元素を含み得る他の元素を比較的小さい割合(例えば、50パーセント未満、10パーセント未満、1パーセント未満)で含み得る。
【0080】
いくつかの実施形態では、以下に更に詳細に記載されるように、流体580は、シェル560の物理及び化学吸着に対する物理的障壁を提示することができる。なお更なる実施形態では、シェル560の外面593は、例えば、金、銀、ニッケル又は白金などの比較的不活性な金属で終端させることができる。一実施形態では、外面は、流体、ガス、又は終端なしで安定し得る。
【0081】
図5A図5Dに示されるSn、In、Bi及び関連酸化物の相対濃度は、用例にすぎない。本開示の利益を有する当業者は、他の実施形態が異なる相対濃度及び/又は異なる元素を有し得ることを理解するであろう。
【0082】
表面非対称性による相転移の妨げ
金属における表面種分化及び自律分化は、混和性、反応性、及び環境によって影響され得る。非反応性環境下では、表面種分化は、フラックス、凝集エネルギ密度及び表面エネルギ最小化によって影響を受ける可能性がある。酸化(例えば周囲)条件下では、還元電位、曲率、及び表面可塑性がある役割を果たし、表面組織及び化学量論に影響を与える。この種分化は、表面仕事非対称性によって材料のエネルギランドスケープを改変させる可能性がある。この複雑な表面アーキテクチャは、表面構造における非対称性と、液体-固体転移を妨げるために利用することができる溶解度に対するその誘導効果とに基づく活性プラットフォームを提起する。誘導された界面秩序は、Cahn-Hilliard型拡散を好ましくないものにし、したがって、均質な核形成を妨げる。その場形成表面不動態化酸化物は、付随するサイズ減少と共に、(酸化物がバルクからの連続体であるので)「無容器」状態で溶融金属を捕える一方で、不均質核剤に対する物理的障壁を確立する。金属粒子及びその表面にわたる成分の分布を設計することは、過冷却の程度に影響を及ぼし、過冷却を妨げるための一般化されたアプローチを提供することができる。
【0083】
均質な材料混合は、規律特有の規則から理解することができる。金属(エントロピ支配的)において、固溶体は、2次元Darken-Gurryプロット(図6A)においてしばしば捕捉されるHume-Rothery規則を介して理解され得る。金属において、固溶体への焦点は、これらの材料の構造的使用によって駆動することができるが、多くの場合、処理を容易にするために溶融液相が必要とされる。この必要性は、ほとんどの基板が100℃を超える温度に適合しないので、低温であっても、可撓性、ウェアラブル、及びバイオエレクトロニクスの進歩によって悪化する。液体-固体(L-S)相転移は、特にハイブリッド/混合材料系における金属の新しい用途を可能にする際に考慮され得る。しかしながら、この転移は、基礎となる動力学及び熱力学に依存する。動力学的に、拡散は核形成及び成長にとって重要であり得、したがって、ガラス又は過冷却液体のような準安定状態を形成するために、急速冷却がしばしば使用される。
【0084】
熱力学的に、核剤(外因性又は均質)は、L-S相変態を助ける活性化障壁を低下させる。核形成障壁が高いか、又はCahn-Hilliard型拡散が好ましくない場合、L-S転移を熱力学的に妨げることができる。不均質(外因性源)核形成は、無容器手法を介して、又は不動態化酸化物のような表面障壁を介して排除することができる。高いエントロピは液相に有利に働き、均質な核形成の確率を有意に減少させる。高いエントロピは、組成を通して、又は合金の成分によって占められるミクロ状態の分布における双マージェンス(di-mergence)を介して達成され得る。例えば、ナノ粒子における高い表面積対体積比は、限定された均質な核形成につなげることができる。表面組織化及び不動態化酸化物にわたる種分化に結合された寸法の巧みな選択は、合金成分が占有することができるエネルギ状態(ミクロ状態)の密度の発散を誘導することができる。エネルギ状態におけるこの発散は、バルクのエネルギランドスケープ(ナノ粒子に類似する)の摂動につながる可能性があり、したがって、拡散及び平衡状態を調整するために使用することができる。酸化プロセスは、周囲温度で調製された金属粉末の混和性及びL-S相転移を理解する際に不可欠な構成要素であり得る。
【0085】
酸化環境におけるDarken-Gurryプロットを再定義することは、原子価を標準還元電位(E)及び凝集エネルギ密度(cohesive energy density、CED)で置換することを伴い得る。説明目的のみのために、Bi、In、Snの例を考慮すると、Darken-Gurryプロット(図6A)が重ねられ、酸化還元指示類似体(redox-dictated analog)(図6B)と比較される。図6Bでは、(CEDの代わりに)E°及び蒸気圧を導入することにより、表面種分化の予測が可能になる。修正されたDarken-Gurryプロットでは、いわゆる優先的相互作用パラメータ(preferential interaction parameter、PIP)は、重複領域が溶解性を暗示する3次元プロット中の領域によって定義される。E成分は、表面で支配的になる。一例では、フィールドメタル(BiInSn)において、優勢的にInシェルが形成されるはずであるが、Sn亜酸化物が有意に組み込まれているため、界面Biは酸化物シェルの下に偏析するはずである。しかしながら、この偏析したBiは、混合物を共晶から押し出す際にバルク中に溶解するのにエネルギ的にコストがかかるため、捕らわれた状態を占有する。Teのような不混和性であるが有意に低いE元素を導入することは、TeOシェルをもたらし、共晶組成へのわずかな摂動を伴う可能性が高いが、誘導された表面種分化を伴う(図6A)。この種分化は、熱力学的応力の増加をもたらし、したがって、L-S相転移を妨げる可能性が高くなる。
【0086】
これに反して、Auのような高E成分の導入(図6B)は、それをバルクに閉じ込め、Eの大きな差は、均質な核形成を助ける金属間化合物の形成、したがって不十分な過冷却をもたらす可能性が高い。L-S転移の表面駆動熱力学的調整は、i)溶融金属の表面上に滑らかな不動態化酸化物シェルを確立すること、ii)合金組成、(厚さを制御するための)処理温度、及び表面リガンドの巧みな選択を通してこの酸化物シェルを設計することによって、及びiii)金属が過熱され、機械的応力下にある間にこの組織化を達成し、次いで合金の融点近くまで急速に冷却し、続いて周囲冷却すること、によって達成することができる。処理条件の巧みな選択及び緩和エネルギランドスケープの管理は、凝固の妨げにつながり得る。同様に、活性化エネルギを低下させて、表面ミクロ状態分布の発散(非対称性)に基づく調整可能な凝固をもたらすことができる。
【0087】
図7Aは、コア-シェル金属粒子700の凝固の表面調整可能な妨げの概略図である。図7Bは、シェル710の酸化物厚さに対する高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡法(high-angle annular dark-field scanning transmission electron microscopy、HAADF-STEM)Sobelフィルタ分析である。表面特性は動的ではない場合があるので、作り出された準安定状態は、長期間にわたって安定であるべきであり、酸化物層が破壊されない場合、様々な取扱い条件に対して弾力的であるべきである。図8は、このアプローチによって調製された過冷却フィールドメタル粒子(約2年間の貯蔵及び50回の熱サイクルの条件下)の安定性を示す。図8は、異なる条件下でのフィールドメタル粒子の示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry、DSC)トレースを例示している。
【0088】
背景
過冷却液体は、妨げられた液体-固体転移に起因して準安定相である。L-S相転移中の自由エネルギ変化は、次式によって定義することができる、
【0089】
【数1】

式中、ΔHfは融解エンタルピ、Tmは溶融温度、ΔTは融点と凝固点との温度差(ΔT/Tmは過冷却度)、Cpは熱容量、Γiは界面過剰であり、μiは、表面成分iの化学ポテンシャルである。この式の前半(古典的形式)は、相転移の駆動力としてバルクエンタルピ-エントロピバランスを捕捉する。式の後半(表面異方性の補正)は、ギブス-デュエムの式に類似しているが、金属合金中の不動態化酸化物が、組成的に異方性であり、(酸化還元、凝集エネルギ密度、及び原子半径に起因して)フラックス分化/種分化された(flux-differentiated/speciated)集合体を構成することを考慮して、表面仕事を捕捉している。したがって、材料の全エネルギにおけるこの自己選別界面層の寄与は、化学ポテンシャルΔμの変化に対する薄い(約0.7~4nm)酸化物層内の各成分の寄与の全表面にわたる総和として捕捉することができる。最近まで、表面のエントロピ限界(バルクに対して薄すぎる)は、典型的には、表面が無視できることを示唆していた。しかしながら、エネルギ的には、界面準安定性は、相変化中に克服することができる有意な張力を誘導することによって、材料のエネルギランドスケープを決定することができる。このΔμは、しかしながら、材料が相転移点に近づくにつれて温度と共に変化する。周囲温度では、酸化物層の組成は、温度と共に不可逆変化を受け、相転移点への接近を非対称にする(例えば、総エネルギは、L-S転移の方向に依存する)。全表面仕事の有意な増加(例えば、急峻な濃度勾配によるは、ギブス自由エネルギ(ΔGLS)を正に変化させ、したがって、L-S転移に関連付けられるエネルギ障壁を調整する。
【0090】
液滴では、ラプラス圧力ジャンプ条件(ΔP=2γ/r、式中、γ=表面張力であり、r=半径である)は、機械的平衡を引き起こすことができるが、この酸化物界面の下の化学ポテンシャルにおける非対称性を誘導することができる。定義によると、表面張力の項(γ)は、界面過剰(Γ)と化学ポテンシャルの差との積である。
【0091】
【数2】
【0092】
しかしながら、液体金属及び関連する酸化物は不揮発性であり、したがって、
【0093】
【数3】

である。液体メタル上の約1~4nmの複合酸化物を考慮すると、急な濃度勾配は、表面項を、バルク液体メタルの圧力ジャンプ条件及び関連する熱力学ポテンシャルに対する重要な寄与因子にする。界面過剰及び基礎となるΔμのこの複雑さは、これらの表面が、処理条件及び合金組成の明確な選択の下でバルクPV仕事を設計するために使用され得ることを示唆する。溶融金属液滴の表面アーキテクチャを調整し、同時にバルク組成を変化させることによって、固-液相転移は、i)自己組織化表面酸化物を「容器」として活用して、不均質な核形成を排除すること、及びii)もたらされた複合酸化物構造に起因する化学ポテンシャル勾配を活用して、界面駆動の非対称エネルギ張力を生成することにより、均質な核形成を妨げることによって、妨げることができる。この張力は、臨界核成長のために克服されるべきである。エントロピと同様に、この表面駆動張力は、全体の自由エネルギを増加させ、したがって凝固を更に妨げる(式1参照)。表面酸化物の組成及び寸法が時間、刺激、温度、及び拡散率と共に進展することを考慮すると、表面項は、処理条件及び合金組成(例えば、成分反応性)に基づいて進展する。潜在的に多数の処理条件下では、したがって、ΔGLSに及ぼす表面の影響は、
【0094】
【数4】

として取得することができる。
【0095】
その結果、表面及び界面の複雑さが増すにつれて、均質な核形成を妨げる能力も増す(例えば、高い活性化エネルギ、ΔE)。準安定界面は、相転移動力学を摂動させることができ、エネルギランドスケープ反転相転移理論(landscape inversion phase transition、LIPT)の基礎となり得る。ここでは、同様の全体的なエネルギランドスケープ反転を使用して、準安定過冷却液体金属液滴を合成し、安定化する。
【0096】
結果
過冷却コアシェル金属粒子は、SLICE(液体せん断による複合粒子化、Shearing Liquid into Complex Particles)法を使用して合成した。この研究の大部分では、フィールドメタル(32.5%Bi、16.5%Sn及び51%In、Tm≒335K)及び共晶ビスマス-スズ(58%Bi、42%Sn、Tm≒411K)がベース合金として使用されたが、この方法は他の合金にも使用することができる。溶融インゴットを共役酸-塩基対の存在下でせん断して、直径約1μmの過冷却コア-シェル粒子を形成した。酸-塩基対は、その場で薄い酸化物シェル(約4nm、図9A図9B)を研磨し(酸)、安定化する(塩基)。図9Aは、シェル910の酸化物厚さを強調する金属粒子のSobelフィルタ処理されたHAADF STEM画像を例示している。図9Bは、図9Aに示される金属粒子のシェル910の酸化物厚さの分析を例示している。合成されたままの粒子を、DSCを使用して分析し、過冷却度、収率、及び純度を分析した。他の顕微鏡法及び分光法(例えば、図9CのSEM)を使用して、粒子900を特徴付けた。フィールドメタルについては、過冷却粒子の収率は(>98%)であったが、過冷却度は、新たに作製された粒子についてΔT/Tm≒0.34であった(図8)。
【0097】
合成された過冷却粒子の安定性を評価するために、加速及び周囲エージング実験を過冷却フィールドメタル粒子に対して実行した。サンプル(15g)を酢酸エチル中で周囲条件下(ベンチトップ)で>2年間保存したところ、過冷却粒子の合計損失は8ヶ月で43%となり、2年で57%となった。図9Dは、加熱サイクル数に対する過冷却の変化を示すチャートを例示している。図9Eは、過冷却に対する表面積対体積比の変化を示すチャートを例示している。ΔT/Tmは、2年で0.34から0.14に変化したが、収率の損失はなかった。ΔT/Tmの変化は、酸化物シェルの継続的な成長及び/又は保護リガンドの損失による可能性が高い。このデータは、過冷却された金属粒子が長期間にわたって偶発的な周囲摂動に対して安定であることを示唆している。これを更に補足するために、第2のサンプルを、70サイクルにわたる毎週の熱サイクル(200K~373K)を介した加速エージングに供した。加速エージングサンプルでは、ΔT/Tmに有意な変化が観察される(図9E)。これらの過冷却された粒子の凝固点は徐々に上昇するが、指数関数的減衰傾き(最大値Δ(ΔT/Tm)=0.15、図9E)を有する約273Kで漸近線に近づく。酸化物シェルにおける熱駆動成長、表面リガンドの損失、及び繰り返される膨張及び収縮による表面形態の関連する変化は、ΔT/Tmの低下を助長する。粒子を473Kに加熱すると(過冷却の完全な喪失が観察される)、粒径の元の約1μmからの徐々の増加が観察された。この変化はまたΔT/Tmに直接影響を与える。粉末X線回折により、温度による全体的な結晶化度の変化が確認される。非晶質過冷却材料は、それを473Kに加熱した後に完全な結晶状態に変わり、凝固を明示する。これは、結合されたTGA-IR-MSによって更に確認され、ここで、表面リガンドの損失が475K~573Kで観察され、その後、酸化及び焼結が高まるにつれて質量が徐々に増加する。
【0098】
有機層の保存は、これらのコアシェル金属粒子の安定性を維持する際の重要な因子である可能性がある。有機リガンドは、薄い表面酸化物シェルのための物理的障壁(制限された物理及び化学吸着)として作用し得る。加熱サイクルを繰り返した後に表面形態の変化が観察されたが、対照サンプル(周囲温度に維持)は球状で滑らかなままであった。表面欠陥は、単位体積当たりの界面化学ポテンシャル勾配(Δμ張力)を減少させ、最終的にΔT/Tmを減少させる、更なる酸化物成長への前駆体である可能性がある。より低い温度における遅い酸素拡散プロセスは、凝固点の変化の傾きを正当化する。ΔT/Tm(図9D)の漸近線は、酸化物が臨界厚さに達したときに起こり、したがって、著しく遅い酸素拡散が起こる。この研究から、粒子の表面は過冷却において役割を果たすことができる。滑らかな、リガンド安定化された表面を維持することは、安定した過冷却のための重要な因子である可能性があるが、他の因子もまた重要な役割を果たし得る。図10は、様々な合金の収率の変化に対するΔTの変化のチャートを示すが、このチャートは例示のみを意図しており、記載された合金又は他の合金のいずれもがコアシェル金属粒子を作製するのに好適であり得る。
【0099】
様々な合金の界面駆動過冷却
式1から、界面駆動化学ポテンシャル変化は、L-S相転移の動力学を改変することができる。観察された安定化を超える表面の役割を線引きするために、支配的な表面成分の化学的特性の役割を調査した。最初に、酢酸の類似体及び不動態化酸化物へのより良好な結合を有する他の(合計4つの)部分の両方で、様々な特性の有機リガンドを調査した(図11)。表面酸化物の効果を理解するために、様々なより低い及びより高い標準還元電位(E)成分をBiSnベース合金に導入した。
【0100】
酸化物シェル及び界面特性の効果
図12Aは、成分の変化と過冷却との間の相関を示し、図12Bは、エンタルピの変化と過冷却との間の相関を示す。各合金についての更なる詳細を図17の表1700に示す。このデータは、題名「Stabilization of Undercooled Metals via Passivating Oxide Layers」Angew.Chem.Int.Ed.2021年、60巻、5928~5935頁の刊行物、及びAndrew MartinらによってAngewandte Chemieに刊行された、関連する補足情報、題名「Stabilization of Undercooled Metals via Passivating Oxide Layersに更に詳細に記載されており、あらゆる目的のために参照によってそれらの全体が本明細書に組み込まれる。図13は、共晶(eut.)相を形成する、又は単に少量を添加する(imp.)、異なる添加剤を有するBiSnベースの合金の過冷却度及び収率の変化を記載する表を示す。
【0101】
フィールドメタル(共晶BiInSn合金)は、有意な過冷却(ΔT/Tm=0.34)で、優勢的に酸化インジウムの表面(最も低いE)を形成する。過冷却に対する酸化物シェルの役割を評価するために、共晶BiSnから粒子を調製した(収率=89%、ΔT/Tm=0.36、図12A及び図13)。二元BiSnは、三元BiInSnと比較して、過冷却粒子のわずかに低い収率ではあるが、わずかに高いΔT/Tmを与えた。(3、4、又は5成分共晶合金を形成するか、又は少量の「不純物」を添加することによる)BiSnベース合金への添加剤の効果を評価した。まず、収率の変化が組成エントロピ(合金を作り上げている成分の数のみに基づく)の変化の結果ではないことを確認するために、他の非インジウム含有三元合金を評価した。In(フィールドメタルでの)をPb(E=-0.13V、ローズメタル、BiSnPb)で置換した場合、過冷却度T/Tm=0.30がわずかに低下したが、定量的収率(100%)が得られた、図12B)。BiSnPbCd(ウッドメタル、Cd E=-0.4V)に対する組成エントロピの増加は、収率(95%)及び過冷却T/Tm=0.21の両方の低下につながった図13)。BiSnPbCdIn合金を作製するためのInの再導入(E=-0.34V)は、定量的収率(100%)の回復につながったが、過冷却における付随する損失T/Tm=0.13)を伴った。これらのデータをまとめると、組成エントロピの増加は、準安定性の増加と必ずしも相関しないことを示唆している(図13)。形成された合金は、典型的にはより高い収率をもたらすが、ΔT/Tmは、一定のままであるか、又は成分の増加と共に減少する。これらの合金を形成する添加成分の大部分は、Snと比較して低いEを有する(E=-0.14V)(BiSn粒子中の酸化物シェル中の支配的な成分)。したがって、より低いE成分の添加は、表面アーキテクチャの再構築及び過冷却挙動の改変において役割を果たす可能性が高い。これをより良く理解するために、ガリウム(E=-0.51V)含有ホモログ(BiSnGa)を定量的に過冷却した(収率=73.4%、ΔT/Tm=0.29、図13)。Gaの添加は、強いGa-Sn相互作用に起因して表面挙動及びバルク挙動の両方を改変させ、熱挙動の著しいシフトをもたらす(サーモグラムにおける凝固ピーク及び融解ピークの大幅な拡大によって捕捉される)。
【0102】
酸化物シェルに対する支配的な成分の役割(Eの観点から)、したがって化学ポテンシャル勾配を確認するために、Sn(E=-0.14V)よりも高い又は低いEを有する少量(例えば、≦1%)の「不純物」を共晶BiSnに導入した。図13は、過冷却された合金の各サンプルからのDSCトレースに基づく結果を要約している。一般に、より高いE不純物の添加は、表面亜酸化物及びバルク凝集エネルギ密度の摂動を伴うが、酸化物シェル中の支配的な成分を改変させない。後者は、より好ましい場合、重要な核剤を形成する高い傾向に起因して準安定性の減少につながる。Geの添加(E=0.1V、1%)は、収率がわずかに低い同様のΔT/Tmにつながった。Geの量を増加させると(約15%)、ΔT/Tmの減少につながる。より低いE不純物については、酸化物シェルが添加剤が支配的である可能性が高い。少量のSb(E=-0.51V、1%)及びTe(E=-0.90V、1%)を添加すると、それぞれΔT/Tm=0.31(収率63%)及びΔT/Tm=0.35(81%収率)につながった。両方の添加剤は、過冷却度及び収率の低下をもたらし、これらは両方とも表面を改変させるので、この系において予想される。
【0103】
表面酸化物及び凝集エネルギ密度の変化に加えて、核剤の形成は、フラックスに依存することができる。粘性媒体又は固体中のフラックスは、原子半径に比例することができる。Ho(E=-2.33V)及びAu(E=1.83V)などのより大きな原子の添加は、ΔT/Tm(0.26及び0.33)及び収率(それぞれ82.3%及び65.11%)の両方において比較的有意な変化につながった。これらのデータからΔT/Tmは、酸化物シェル構造の変化又は凝集エネルギ密度の変化のいずれかと共に減少する。特定の調製方法は、いくつかの粒子中の少量成分の統計的濃縮につながり、収率及び過冷却度を改変させ得る。Darken-Gurry及びTC-YMプロットは、原子サイズが同等である場合であっても、ポーリング電気陰性度の差が>0.4である場合、固溶度が制限される可能性があることを示す。
【0104】
組成エントロピの理解
収率と過冷却度との不一致の原因を評価するために、成分の数、ΔT、及びBiSnのすべての調製されたホモログについてのΔT/Tmの間の相関を評価した。共晶合金を形成する成分の数の増加は、概して、Tm及びΔT/Tmの低下につながることが観察されたが、他の添加剤は異なる効果を有し得る。比較的多量の不純物(図13のGe参照)を添加すると、同様の低下をもたらす。したがって、合金中の成分の数及び量の増加は、冷却による金属間化合物の形成に起因し得る凝固を妨げる能力と干渉し得ることになる。好ましい相互作用の増加は、系のエンタルピと相関させることができる。したがって、組成エントロピは増加するが、凝集エネルギ密度の増加は、凝固を妨げるエントロピの利点を減少させる。例えば、Gaの添加は、この挙動を確認する。理論的にはGaが酸化物で支配的になるが、Snとの強い相互作用がバルク緩和を助ける。この推論を確認するためにΔHfと転移点との相関を評価した。3つのパラメータ(Tm、ΔT及びΔT/Tm)は、異なる速度ではあるが、融解エンタルピの増加と共に減少する。したがって、より強いバルク相互作用を有する合金は、過冷却することが困難であり得る。
【0105】
図14Aは、過冷却SAC305粒子のDSCトレースを示す。図14Bは、表面仕事の理論量対粒子半径を示す。Darken-Gurryプロットに類似して、溶解度パラメータに対して相関させた場合、中程度のサイズ及びEの差を有する不純物元素は、最も高いΔT/Tmを与える傾向がある。この仮説を試験するために、3成分合金(SAC305はんだ)を過冷却したところ、ΔT/Tm=0.3(収率95.2%、図14B)がもたらされた。SAC305は、BiSnベースの合金のいずれかと比較して、有意により高いΔHfを有し、したがって、同等の過冷却度を達成するために大量の表面仕事を必要とする。
【0106】
過冷却挙動の予測分析及び簡略化
いくつかの実施形態では、様々な合金について蓄積されたデータに基づいて、最大過冷却は、中程度のΔHfで、2-3成分合金内で達成可能であり得る。平均最小過冷却と各添加剤からのΔHfは、約3成分合金における臨界点を明示する。ΔHf及び合金中の成分の数をΔT/Tmと比較すると、全体の表面マップが発生する。このプロットの傾きから、いくつかの実施形態では、最大値は、中程度のΔHfを有する2成分合金及び3成分合金のウィンドウ内に見出される。これは、エンタルピ-エントロピバランスが、表面仕事を調整することによって高い過冷却レベルを達成する際に重要であり得ることを物語っている。式1に基づいて、系におけるエンタルピ及びエントロピの寄与のバランスがとれている場合、2つの項は、排除され、以下のような関連する自由エネルギの簡略化された記述につながる、
【0107】
【数5】
【0108】
式3は、ΔHf≒0の場合、ΔGが表面仕事に依存することを明示している。したがって、液体金属コア-シェル粒子における表面組成は、L-S相転移を明示する。この簡略化された式はまた、SAC305などの高いΔHfを有する合金が、BiSnと同じ過冷却に達するためにより多くの仕事を必要とし得ることを示唆している。表面仕事の理論量は、曲率(ラプラス圧力ジャンプの増加)に基づいて強化することができ、したがって、予想されるように、過冷却の程度は、粒径の減少と共に増加するはずである。粒径分布はSLICEを使用して調整可能であるため、合成された粒子の過冷却挙動を予測することができる。
【0109】
この研究は、金属コア-シェル粒子の界面張力を調整することによってL-S相転移を妨げる新たな方法を実証している。
i.過冷却粒子は、有機コア-シェルアーキテクチャを使用して安定化され得る。有機リガンドは、滑らかな不動態化酸化物上の化学吸着及び物理吸着を制限し、安定性を改善する。周囲条件では、粒子の大部分は>2年の貯蔵の間、過冷却されたままである。
ii.合金成分の巧みな選択は、エンタルピ-組成エントロピバランスを強化させ、これは、表面仕事、したがって過冷却を最大化するのに重要であり得る。表面とバルクとの間の混和性及び分配のバランスをとることにより、調整可能な過冷却及び安定性が可能になる。
iv.表面反応に起因して調整された混和性を捕捉する優先的相互作用パラメータ(PIP)を導入することによって、溶解度を再定義した。このパラメータは、溶解度を予測することに加えて、表面の種分化を予測し、したがって、界面張力における関連する発散を予測する。表面への低混和性成分の同時分離を伴う好ましい液体混和性は、過冷却(準安定性)を改善したと断定することになる。
【0110】
実験方法
ビスマススズ合金化:スズインゴットを溶融し、次いでるつぼに移した。るつぼ中のスズの質量は、全合金重量の42%として記録され、58重量パーセントのビスマスショットは、共晶組成を達成するためにスズの質量に基づいて計算された。異なる組成割合の他の金属を溶融スズプールに堆積させ、完全に溶解するまで混合した。その後、ビスマスショットを混合物に添加し、完全に溶解するまで混合した。
【0111】
BiSnベースの合金粒子の合成:ビスマススズベースの合金を有する様々な過冷却金属粒子を以下の方法で合成した。1グラムのトリクロロ酢酸をビーカー中の200mLのジエチレングリコールに混合した。重量約5gの金属ペレットを溶液に添加し、ホットプレート上で撹拌しながら433Kまで加熱した。高速回転ブレードをせん断プロセスに使用し、可変加熱テープを装置の周りに巻き付け、せん断プロセス中の熱放散を制限するためにアラミドブランケットを使用して装置を密封した。ジエチレングリコール溶液を装置に移し、次いで、約10°の角度を生成するように一方を持ち上げたせん断刃で、約27,000rpmで4分間せん断した。終了したら、溶液を抽出し、周囲条件で冷却しながらエタノール及び酢酸エチルを使用して洗浄した。溶液を、Whatman GF/Fペーパーフィルタを備えたBuchnerフィルタを使用して濾過した。濾過した粒子を洗浄し、回収し、酢酸エチル中で保存した。
【0112】
SAC305粒子の合成:0.5mlのパラフィン油、0.2gのトリクロロ酢酸、0.2gのポリ(アクリル酸)及び0.5gのSAC305合金を、油浴で加熱した約5mLのビーカーに入れた。溶液を533Kまで加熱し、その温度に維持して金属を液体形態に保った。回転ブレードを使用して、約27,000rpmで6分間粒子をせん断した。次いで、粒子を抽出し、エタノール浴中でクエンチし、次いで室温まで冷却した。室温になったら、粒子をデカントし、酢酸エチルを使用して洗浄して微量の油含有物を除去した。
【0113】
示差走査熱量測定(DSC)分析:過冷却のレベルを測定するために、液体窒素冷却ユニットを備えたDSC(モデルQ2000、TA Instruments)を採用した。酢酸エチル溶液中に保存された粒子をアルミニウムパンに移し、酢酸エチル含有物を周囲条件で蒸発させた後、サンプルをアルミニウム蓋で密封した。サンプルを、10K/分の加熱速度で313Kの待機温度から573K(異なる合金によって変更される)まで加熱し、次いで同じ速度で203Kまで冷却した。いくつかの合金は、リフロー及びリサイクル性挙動を示すために、加熱及び冷却サイクルを通して循環された。データ分析は、TA TRIOSソフトウェアを用いて実行された。
【0114】
走査電子顕微鏡法(Scanning Electron Microscopy、SEM)特徴付け:酢酸エチル溶液中に保存された金属粒子を、ピペットを使用してシリコンウェハ上に移し、次いで走査電子顕微鏡法(FEI Quanta 250 FEI-SEM)によって特徴付けた。サンプルを、銅テープで接着した標準SEMマウント(Ted Pella Inc.)上に取り付けた。SEMは、高真空下、電圧10~15kV、スポットサイズ3、作動距離10mmで動作させた。Everhart-Thorley二次電子検出器及び後方散乱検出器を使用して、様々な倍率で顕微鏡写真を撮影した。
【0115】
高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡法(HAADF-STEM)特徴付け:合成された金属粒子を銅TEMグリッド(Ted Pella Inc.)上にドロップキャストし、二重傾斜TEMサンプルホルダ上に取り付けた。200kVで動作するプローブ補正TEMを備えた収差補正FEI Titan Themis300を使用して画像を取得した。EDS分析は、Super-X EDX検出器を使用して同じ機器で実行した。より高い強度がより明るい色(白色)に対応し、強度の低下が酸化物層(黒色)に対応する、描かれた線に沿ったピクセルコントラスト強度計算を可能にするJ.Sobelフィルタ内の「Find edges」関数を使用して、酸化物シェル厚さ近似を行った。
【0116】
熱重量分析(Thermogravimetric Analysis、TGA)-赤外(Infrared、IR)-質量分析(Mass Spectrometry、MS)分析:結合されたTGA-IR-MS機器(Netzsch STA449F1)を使用して、質量変化及び粒子の熱処理中に放出された発生ガスを分析した。サンプルを、適合する参照るつぼと共にアルミナるつぼ内に堆積させ、乾燥させた。模擬乾燥空気(80%酸素20%窒素)をパージガスとして使用した。次いで、サンプルを装填し、10℃/分での加熱ランプステップに通した。得られたデータを、Proteus及びOpusソフトウェアを使用して分析した。
【0117】
自由エネルギ及び対称性
ギブス自由エネルギ(G)は、一定の温度及び圧力が与えられた場合に、起こっている事象が好ましいかどうかを決定するためのツールとして使用することができる熱力学的ポテンシャルである。熱力学系は、一方の状態から他方の状態へのG(ΔG)の変化が、より低いエネルギ状態(すなわち、ΔG<0)をもたらす場合、好ましい転移を受ける。ギブス自由エネルギ方程式の主成分は、エンタルピ(H)とエントロピ(S)との間のバランスを伴い、以下のように読み取られる:G=H-TS。エンタルピは、系内の内部エネルギ及びPV仕事が入る状態関数であり(H=U+PV)、式中、Uは、U=TdS-PdV+δw’として更に拡張することができる系の内部エネルギである(δw’は、系に対する非pv又は非機械的仕事である)。G項がより一般的な導関数形式に展開される場合、結局、よく知られた、ΔG=ΔH-TΔS+δw’に行きつく。いくつかの計算では、δw’は、系上で行われる非pv仕事がないと仮定することによって無視される。次に、方程式は、プロセスがエンタルピ支配的(次数の増加)であるかエントロピ支配的(対称性の増加)であるかの間の競合に変わり、これは、例えば、それぞれ、凝固(低温、原子の秩序化、発熱、エンタルピ支配的)又は融解(高温、原子の無秩序化、吸熱、エントロピ支配的)のプロセスによって描くことができる。
【0118】
ランダウの相転移理論は、熱力学的ポテンシャルを秩序パラメータ(θ)の関数として表現し、相転移の事象に対して全く新しい視点を与える。ランダウの理論では、秩序化事象は、0に近づくθをもたらし、ここで、最も近い隣接相互作用が秩序を1つの方向に強制し、したがってUが支配的になる(エンタルピ支配的事象又は凝固と同じ原理であるが、この場合の秩序化は磁気秩序、Mに対処する)。反対の端では、無秩序又は大きなエントロピは、1に近づくθをもたらす。ランダウを拡張すると、イジング理論は、J交換定数(最近傍相互作用を直接扱うパラメータ)、配位数(q)、及びボルツマン定数(K)の形態の対称性における次数間のバランスのためのより良い定量化パラメータを与える。イジングの理論では、次数-対称性バランスは、
【0119】
【数6】

又はJq=KTで臨界点に達する。これは、エンタルピとエントロピとの間のバランスと考えることができ、もう一度ギブスの自由エネルギに戻る。
【0120】
ギブス、ランダウ及びイジングによって仮定された熱力学的ポテンシャル間の相関は、相転移、特に過冷却に重要な液体-固体相転移を制御するためのツールを提供する。
【0121】
核形成
過冷却は、凝固又は核形成としても知られる、液体-固体転移ウィンドウ内で起こるプロセスである。凝固は、系のエネルギ最小化に起因して起こる核形成から開始される事象であり、液体状態と固体状態との間の自由エネルギ差が負(ΔGls<0)である場合に好ましい。この現象を説明するために、異なる自由エネルギ項を使用することができるが、一定の温度及び圧力を仮定するギブスの自由エネルギ(ΔG)を、この事象を説明するために使用することができる。複数の核形成開始機構が存在し、これは、2つの主要な分類、均質及び不均質に分類することができる。均質核形成は、次のように記述することができる、
【0122】
【数7】
【0123】
式中、ΔGは、粒子/液滴の自由エネルギに対応する。ΔGは、半径(r)、体積自由エネルギ(Δg)及び界面エネルギ(γ)に基づく体積項及び界面項によって決定される。これらの体積項及び界面項の割合に起因して、界面項が支配的である場合(低r)と体積項が支配的である場合(高r)との分割が存在する。特定の半径において、これらの2つの領域の間の転移点は、核臨界サイズ(r)としてマークされる最大値によって明示される。この臨界サイズに到達するための活性化エネルギは、凝固プロセスの開始を定義するために使用することができる、ΔG=16πγ/3Δgによって定義される。したがって、高い活性化エネルギの達成を利用して、高い過冷却を達成することができる。
【0124】
均質核形成の定義は、主に固有のプロセス及び特性によって管掌される。一方、不均質核形成は、系の境界内に存在する核形成シードに依存する外因性プロセスである。不均質な核剤の形成は、界面張力平衡方程式を用いることによって説明することができる、
【0125】
【数8】
【0126】
式中γls,γsv及びγlvは、それぞれ、液体-固体、固体-蒸気及び液体-蒸気界面張力であり、θは濡れ角である。この関係を考慮すると、不均質核剤がrに到達する体積は、均質核形成の体積よりもはるかに小さく、濡れ角に依存する。体積減少の比率は、以下の式によって説明することができる:f(θ)=1/4(2-3cosθ+COSθ)。式中、f(θ)は、臨界不均質核形成エネルギと臨界均質核生成エネルギとの間の比である
【0127】
【数9】

複数の不均質核形成モードが存在し、この関係から、不均質核形成の臨界エネルギは均質核形成よりも低いことが分かる。このため、不均質核形成は、様々な過冷却研究において無容器アプローチを使用することによって排除することができ、したがって、任意の表面接触を除去する。これに対する別のアプローチは、完全な非濡れ性を達成することによる。高い活性化エネルギ障壁を導入することによって両方の核形成モードを防止することは、最終的に、金属系において高度の過冷却につながる。
【0128】
過冷却熱力学
一定の温度及び圧力下での熱力学系の自由エネルギは、ギブス自由エネルギによって定義することができ、これは一般にΔG=ΔH-TΔSと表される。式中、H及びSはそれぞれ系のエンタルピ及びエントロピである。系の自由エネルギは、これら2つの項のバランスに依存し、相転移は、エンタルピ力又はエントロピ力のいずれかによって駆動することができる。ΔG<0である場合、したがって過冷却(液体-固体転移)G-G<0の場合、プロセスは好ましいとみなされる。自由エネルギ項は、比熱(C)の項として更に導出することができ、ここで
【0129】
【数10】

及びΔH=TΔSである。これは、本文において式1として示される関係を与える。
【0130】
【数11】
【0131】
ΔHは融解のエンタルピであり、Tは溶融温度であり、ΔTは融点と凝固点との間の温度差であり、項ΔT/Tは、系内の過冷却度を決定するために使用される。ΔGの増加につながる異なる仮定の下でCの増加を評価するために、様々な研究が実行されてきた。この変化は、最終的に過冷却の程度を増大させる。いくつかのモデルは、最大過冷却限界として知られるものを導入する。液体-固体転移の研究は、エンタルピ項及びエントロピ項(PVに基づく)に焦点を当てており、多くの場合、核形成理論において以前に議論された界面項及び表面項の存在を、それが多くの場合、系全体に対してわずかな影響又は無視できる影響を有することに起因して、無視している。しかしながら、高い界面張力をバルクに向かわせる異なる処理条件が与えられると、表面項がバルクで支配的になる可能性がある。
【0132】
図15は、この実施形態では0.1~1.5ミクロンの範囲である合成されたままの粒子の粒径分布を示すが、他の実施形態は異なる範囲の粒径を有し得る。
【0133】
様々なBiSnベース合金の過冷却
図16は、いくつかの実施形態で使用される元素の定数を含む表を示す。図17は、本開示のいくつかの実施形態による様々な合金について、リフロー前後の過冷却レベル及び収率を表にした表1700を示す。ΔTは、TからTを減算することによって計算した。収率は、溶融曲線及び凝固曲線の下の面積の比をとることによって計算した。
【0134】
【数12】
【0135】
ΔT及び収率の計算は、合成されたままのサンプル及びリフローされたサンプルに対して実行された。真の収率は、リフロープロセスが合成プロセス中に出現する任意の固相線含量を除去するので、リフローされたサンプルから報告された。
【0136】
有機リガンドの影響
有機シェルの誘導特性が正反対である場合のΔT/Tの比較は、正又は負の誘導性表面部分の下での変化にわたる推定表面化学ポテンシャル勾配を示す。これは、結合部分にわたる電子密度が摂動される場合、誘導効果に起因し得るか、又はリガンド-酸化物結合の性質に起因し得る。この誘導効果をSAC305粒子合成に導入すると、これらの粒子のΔT/Tを0.21から0.3に強化することができ、凝固点を<100℃に押し上げる。これらの粒子は、過冷却において大きなシフトを経験することなく複数の熱サイクルに耐えることができたので、有機リガンドの存在に起因するこれらの粒子の安定化も確認された。
【0137】
図17は、BiSn粒子合成に対する異なるリガンドの効果を示す表にされたデータを例示している。コア-シェル粒子を合成するために使用される有機リガンドの影響は、様々な酸を使用することによって調査され、したがって、当該リガンドからの電気陰性特性の変化に起因して誘導効果を改変させる。この研究で行われる最も一般的な実験は、高度に電子求引性(すなわち、高い電気陰性度)であるトリクロロ酢酸を使用して行われる。この挙動は、これらのリガンドが付着する表面上に負の誘導効果を誘導し、界面上に電子的な張力(負の双極子モーメント)を生成する。反対の電気陰性挙動を有する酸(例えば、リンタングステン酸)が使用されるとき、正の誘導効果が印加され、したがって、電子圧縮が生成される。負及び正の両方の誘導効果は、様々な収率を伴うが、高度の過冷却(例えば、>0.34)を作り出すことができる。
【0138】
誘導効果の効果を調査するために、より低い電気陰性度を有するリガンドが使用される(トリブロモ酢酸及びクロロ酢酸)。使用された両方の酸は、より低い過冷却度及びより低い収率をもたらす。この結果は更に、有機シェル自体からの表面誘導効果の効果が、コアシェル粒子に対する過冷却挙動の駆動に役割を果たしていることを示唆している。
【0139】
液体金属表面酸化物
本開示のこの部分は、液体金属粒子の不動態化酸化物における機会を説明する。表面下の複雑さ及び秩序は、均質な核形成を妨げ、過冷却の強化を可能にする機会を提示する。基礎となる液体金属表面の可塑性は、自律的に修復する表面下を提示し、したがって、化学量論的に制限されない限り、最も低いE成分が表面で支配的になる。この可塑性は、その場で高アスペクト比のナノ材料に自己組織化する有機金属ポリマーを合成する機会を提供する。誘導された表面種分化は、適切な酸化剤張力下で、酸化物の厚さ及び組成を調整して、温度依存性組成反転及びいわゆるカメレオン金属をもたらすことができることを示唆する。
【0140】
図18は、フィールドメタルの仮想表面酸化物アーキテクチャの拡大図である。この場合、表面は質量も体積も有さないと仮定される(例えば、ギブス分割面(Gibbs Dividing plane、GDP))。他の場合には、表面は、そのような領域を占有する成分(ギブス-デュエム界面(Gibbs-Duhem Interface、GDI))の数密度によってのみ異なるバルクの連続体を構成する。熱力学的に、表面は、任意の系の質量、エネルギ、散逸境界水平域を含むことができる。したがって、質量分布のみで表面を定義することは、不十分であり得る。エネルギ分布を考慮すると、GDPは、1つの相から他の相への転移が、エネルギの2つの値が実現可能である空間内の点を構成し、エネルギの瞬間的なジャンプがあるという点で、二重性を必要とする。このシナリオは、平衡の類似性を否定するものであり、ありそうもない。一方、減少する濃度勾配を有するGDIは、低い又は高い凝集エネルギ密度(蒸気圧)材料系を記述することができる。結晶材料では、格子面が明確に定義され、したがって、GDPがそのようなシナリオにおいて適切であると主張することができる。平坦な結晶金属系(圧力ジャンプ=0、蒸気圧≒0)を考慮し、金属結合の性質を考慮すると、「電子の海」が表面を占有するはずである。電子の二重性と不確定性原理を考慮すると、表面の軌跡を定義することは、表面の電子の流れ(速度)が打ち消され、逆もまた同様である。平衡混合材料の表面付近のエネルギ勾配(GDI)を仮定すると、自律種分化は、Lowengrub-ボイトモデル又は熱酸化組成反転における曲率によって駆動されている可能性が高い。
【0141】
いくつかの実施形態では、以下の管掌規則が種分化を駆動する。成分を反応させるために、結合の優先的形成は、炭化水素自己組織化単分子層におけるように、比較的短い距離(1~2nm)にわたる秩序及び組織化につながり得る。より確率的な系では、金属合金上の不動態化酸化物の形成のように、酸化還元駆動分化が数ナノメートルにわたって起こり得る。したがって、材料の表面は、そのサイズ(nm)エネルギプロファイル組成、構造、及び反応性に起因して複雑な部分である可能性があるということになる。
【0142】
液体金属粒子:
ほとんどの金属は空気中で急速に酸化して酸化物の薄層を形成する。薄い不動態化酸化物層が粒子表面を構成するが、酸化物は金属ではなく、熱力学的には異なる成分であると述べることができる。この点において、表面を定義することは、考慮中のオブジェクトの一部ではない一組の成分を探すことである。類似していないが、不動態化酸化物及びエネルギ的に異なる界面金属層が表面を構成する。
【0143】
不動態化酸化物は、硬貨金属上の自己組織化単分子層(self-assembled monolayer、SAM)と同様でなくてもよく、有機物と金属とは明らかに異なる実体である。例えば、Au-S結合において決定的な結合点を有する単分子層系とは異なり、不動態化酸化物は、バルクから出現する動的連続体であり、平衡系の結果である。この関係は、SAMのスカラー性質とは対照的に、表面張力のテンソル性質につながる。その確立のための管掌規則は、環境(温度、反応種、圧力など)、合金の成分の反応性、凝集エネルギ密度(合金成分が互いにどれだけよく似ているか)、拡散率(したがって原子半径)、及びバルクの熱力学的状態に依存することができる。金属及び酸化物の両方の高い蒸気圧は、濃度勾配の可能性を排除することができ、これは次に、金属-酸化物界面においてエネルギの二重性を組み込み、面を横切るエネルギジャンプ(GDP)の存在を示唆している。金属酸化物層が界面の酸化物側又は金属側から接近するにつれて、組成又はエネルギ状態にいくらかの勾配が存在し得ることになる。したがって、表面は、採用された定義にかかわらず、そのエネルギ状態が表面の各点にわたるエネルギ状態の発散からのみ平均化することができる材料の準安定領域である。周囲では、種分化された表面材料(σ)の拡散層は、系とその周囲との間のエネルギ勾配を反映し、この勾配は動的であり、小さな摂動の影響を受けやすい場合がある。基礎となる成分の標準的還元電位、フラックスに対するそれらの傾向、及び他の合金成分との相互作用に基づいて、平衡状態が確立される。図19は、BiInSn(フィールドメタル)に対するこの挙動を例示している。したがって、この表面を理解することは、他の特性の中でも、観察長さスケール、時間、及びその複雑さに依存する。不動態化酸化物は、典型的に、ほとんどのSAMよりも大きい(例えば、共晶ガリウムインジウムの酸化物≒2nm、一方、デカンチオールSAM≒1nm)。
【0144】
類推法
SAMは、金属表面上の薄い(ナノメートル)層の1つの特定の例であり、とりわけ、仕事関数、トライボロジ/濡れ性、導電性、及びプラズモン活性を含む材料の特性を著しく改変させる。SAMは、熱力学的に駆動される自己組織化プロセスを介して形成することができ、非常に秩序立った構造をもたらす。堆積された材料の薄層は、より基本的な領域、最も顕著には構造-特性関係及び界面現象において大きな機会を提起する。SAM系は、バルク(炭化水素であることが多い)の周りの2つの界面としてモデル化することができ、ここで、これらの3つの成分の各々は、基本構築ブロック、分子を調整することによって別々に調査することができる。分子のサイズが小さく、分子の向きに依存しているため、表面のわずかな変化が系全体を改変させる可能性がある。しかしながら、十分に制御された条件下では、SAMを分析することができる。SAMの応用は2つのタイプに分けることができ、いくつかの応用はSAM分子の構造-特性関係を直接利用する。例えば、SAMの単分子的性質は、分子エレクトロニクスにおけるそれらの使用、並びに調整可能な疎水性コーティングにおける候補につながる。一方、SAMの高度に調整可能な性質は、それを、金属表面上に他の成分を構築/固定するための大きな候補プラットフォームにする。
【0145】
液体金属粒子の不動態化酸化物層に関する研究は、特徴付け技術における課題に部分的に起因して、非常に限定されてきた。この困難さは、主に、非常に短い距離にわたる基礎となる金属酸化物界面内の組成の複雑さから生じる。しかしながら、この不動態化酸化物層は、適切に形成及び/又は設計されると、材料に様々な利点を提供する。非反応性液滴では、マイクロからナノサイズの粒子の曲面は、界面過剰、Γi、及びラプラス圧力ジャンプ条件によって大部分が捕捉される急峻なエネルギ及び組成勾配を与える(ΔP=2γ/r、式中、γは表面張力及びrは粒子の半径である)。定義によれば、この急峻な勾配は、粒子と周囲との間のエネルギ平衡及び機械平衡の両方を確立する目的に役立つ。しかしながら、金属液滴の場合、周囲条件への曝露は、不動態化酸化物層の急速な形成をもたらす。金属合金において、酸化還元電位及び拡散率の差は、空気への曝露の時間t=0において、競合的酸化が続いて起こり、最も豊富で最も拡散性の成分が形成された酸化物の表面で支配的になり、最も低い標準還元電位(E)をもたらすことを示唆する。しかしながら、時間と共に、動力学的に分解された自己選別種分化及びがしばしば起こり、金属合金の表面上に単元金属酸化物の提示をもたらす。この選別/組織化は、E、化学量論、原子サイズ、凝集エネルギ密度、原子フラックス、酸化剤拡散率、温度及び圧力によって支配されるが、これらに限定されない。ある厚さに達すると、酸化は無限に遅くなり、平衡が確立される。
【0146】
酸化環境において、合金内のすべての元素は、t=0で酸化する等しい確率を有する。これは、それらの化学量論及び表面を占有する傾向によってのみ摂動される。動力学的に、これは、酸化物層の外面で支配的な最も「好ましい」元素との競争になる。EGaInでは、この元素はガリウムである。時間が経つにつれて、酸化剤フラックスがゆっくりと減少するにつれて、酸化物はd_c^pに達し、完全に酸化するために動力学的に制限された反応性の低い成分に由来する、基礎となる亜酸化物の形成につながる。共晶の場合、合金成分の一部の選択的な枯渇は、エネルギ的に好ましくない亜共晶を生成し、これは、酸化物シェルを横切るものを反映する金属酸化物界面における未反応成分の濃縮をもたらす。しかしながら、急峻な組成勾配は、大きな化学ポテンシャル勾配(Δμ)を有する界面、したがって準安定表面を提示する。ΔPに結合されたΔμは、粒子のサイズに比例する応力の発散を提示する。このような勾配は、粒子の特性に影響を及ぼす。
【0147】
表面酸化物全体にわたる非対称エネルギ分布に基づいて、バルクエネルギ散逸を摂動させ、表面応力を調整することによって緩和を誘導することが可能であり得る。溶融金属が高い対称性(すなわち、ランダウの相変態理論において定義されるような秩序がない)を有することを考慮すると、不動態化酸化物の形成、及び平衡(例えば、共晶組成)を維持するための基礎となる濃縮は、自由拡散にいくらかの圧力を導入するはずである。核剤の成長は、表面張力を克服すべきである。核剤シードが形成された後であっても、成長(バルクエネルギの減少)と収縮(表面エネルギの増加)との間の競合が続いて起こり、プロセスはサイズの増加と共に前者に偏る。核形成速度の大きさは界面エネルギの値に敏感であり、わずかなパーセンテージのσls(固液界面自由エネルギ)の変動が予測速度を数桁改変させる可能性があると述べることができる。また、第2の非動的固液界面、並びに関連する秩序及び自由エネルギ転換が、不動態化酸化物層の下に存在し、核形成成長を成功させるために克服しなければならない2つの固体-液体界面自由エネルギ摂動、すなわち、核剤界面及び酸化物界面につながると述べることもできる。
【0148】
核剤の収縮が成長と共に克服される動的核剤シード界面とは異なり、不動態化酸化物の構造は固定され、成長を通じて摂動することができない。したがって、バルク(液体)成分の混和性に対して表面酸化物を設計することによって、特に小さい(<10μm)粒子の核剤の成長に有意に影響を及ぼすことができる。したがって、不動態化酸化物は、液体-固体相変態の有意な妨げにつながり、したがって過冷却を強化するはずである。従来、過冷却は、例えば、無容器アプローチを通じて不均質な核剤を除去することによって達成されてきた。しかしながら、無容器アプローチは、液体中の構造変動から生じるプロセスである均質な核剤を除去せず、したがって、非動的な表面酸化物界面張力を活用しない。
【0149】
粒子が小さいほど、過冷却の可能性が高くなる。このサイズ効果は、均質な核形成を制限する大きな表面積対体積比に起因している。ギブスの自由エネルギ(ΔG)が以下のように表されることを考慮すると、ΔG=ΔH-TΔS+δw’(式中、ΔH及びΔSは、それぞれエンタルピ及びエントロピの変化であり、T=温度であり、δw’=非PV仕事である)正しいエンタルピ-エントロピ補償条件下では、表面仕事(δw’)がΔGで支配的になることができる。前述の方法は、バルクエンタルピとエントロピのバランスを崩して相転移を操作することに大きく依拠しているが、δw’及び表面の寄与は、エントロピの制限に起因して、無視できると想定されることが多い。しかし、定義上、曲面は準安定であり、したがって材料全体のエネルギランドスケープを改変させることができる自由エネルギ応力源である。したがって、表面酸化物を設計することにより、これらのサイズ依存(表面積対体積比)をナノスケールからマイクロスケールへの拡張につなげることができる。
【0150】
表面仕事項は、単位面積当たりの表面を維持するのに必要なエネルギの量、δw^’=γdAを捕捉する。定義によれば、表面張力は、界面過剰と化学ポテンシャル差との積、
【0151】
【数13】

である。上で実証された複合組成勾配は、大きな曲率依存Δμ勾配を生成し、したがって、大きな表面積を有する小さな粒子において、δw’の量は、これらの摂動が小さい場合であっても、エンタルピ-エントロピバランスを克服し、液体-固体相転移(ΔGLS>0)を妨げることができる。酸化物の構造的複雑さは、適切に調整される場合、そのような調製された粒子の長期安定性によって実証されるように十分である可能性がある。
【0152】
自由エネルギに対する効果に加えて、均一で滑らかな不動態化酸化物層の形成は、不均質な核剤に対する物理的障壁を形成し、したがって、過冷却状態の安定性を高める。この理解は、安定した過冷却液体メタルコア-シェル(undercooled liquid metal core-shell、ULMCS)粒子の合成を可能にし、熱フリーはんだ及び多数の他の周囲温度又は低温金属加工を可能にした。表面が準安定性の主な駆動力であるので、酸化物シェルの破壊は、瞬間的な流動、合体、及び凝固をもたらす。最近の開発により、市販の無鉛はんだSAC305の過冷却が可能になり、低温表面実装及び電子パッケージングが可能になった。この低温焼結は、そうでなければ温度に敏感な基板(すなわち、有機物及びポリマー)上への導電性トレース又は回路の統合を可能にした。表面酸化物を理解することは、Braess型パラドックスを提示する。表面種分化は、液体金属上に逆組織化を誘導し得る。
【0153】
液滴100(図1参照)は、1つの特定の組成物及び構造物として説明及び図示されているが、本開示の実施形態は、多数の組成物及び構造物と共に使用するのに好適である。任意の元素及びそれらの組み合わせをコア及びシェルに使用することができる。シェルは、無機及び/又は有機である任意の数の層を有することができる。
【0154】
前述の明細書において、本開示の実施形態は、実装ごとに変更することができる多数の特定の詳細を参照して説明されている。したがって、本明細書及び図面は、限定的ではなく例示的であるとみなさなければならない。本開示の範囲の唯一かつ排他的な指標、及び出願人が開示の範囲であると意図するものは、その後の修正を含む、そのような特許請求の範囲が発行される特定の形式にある、この出願から発行される一連の特許請求の範囲の文字通りの同等の範囲である。特定の実施形態の具体的な詳細は、本開示の実施形態の趣旨及び範囲から逸脱することなく、任意の好適な方法で組み合わせることができる。
【0155】
付加的に、「底部又は「上部」などの空間的に相対的な用語は、例えば、図に例示されているように、要素及び/又は特徴の別の要素及び/又は特徴に対する関係を説明するために使用されることができる。空間的に相対的な用語は、図に描写されている向きに加えて、使用及び/又は動作中のデバイスの異なる向きを包含することが意図されることが理解されるであろう。例えば、図中のデバイスが裏返される場合、「底部」表面として説明される要素は、次いで、他の要素又は特徴の「上」に配向することができる。デバイスは、別様に配向されることができ(例えば、90度又は他の向きで回転される)、本明細書で使用される空間的に相対的な記述子は、それに応じて解釈される。
【0156】
本明細書で使用される「及び」、「又は」、及び「1つの/又は」という用語は、そのような用語が使用される文脈に少なくとも部分的に依存することも予想される様々な意味を含み得る。典型的には、「又は」は、A、B、又はCなどのリストを関連付けるために使用される場合、本明細書では包括的な意味で使用されるA、B、及びC、並びに本明細書では排他的な意味で使用されるA、B、又はCを意味することが意図される。更に、本明細書で使用される「1つ以上」という用語は、単数形の任意の特徴、構造、又は特性を説明するために使用され得るか、又は特徴、構造、又は特性の何らかの組み合わせを説明するために使用され得る。しかしながら、これは用例にすぎず、特許請求される主題はこの例に限定されないことに留意されたい。更に、「のうちの少なくとも1つ」という用語は、A、B、又はCなどのリストを関連付けるために使用される場合、A、B、C、AB、AC、BC、AA、AAB、ABC、AABBCCCなどのA、B、及び/又はCの任意の組み合わせを意味すると解釈することができる。
【0157】
本明細書全体にわたる「一例」、「例」、「特定の例」、又は「例示的な実装形態」への参照は、特徴及び/又は例に関連して説明される特定の特徴、構造、又は特性が、特許請求される主題の少なくとも1つの特徴及び/又は例に含まれ得ることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な場所での「一例では」、「ある例」、「特定の例では」、「特定の例では」、「特定の実装形態では」という句、又は他の同様の句の出現は、必ずしもすべてが同じ特徴、例、及び/又は限定を参照するとは限らない。更に、特定の特徴、構造、又は特性は、1つ以上の例及び/又は特徴において組み合わされ得る。
【0158】
いくつかの実装形態では、動作又は処理は、物理量の物理的操作を伴い得る。典型的には、必須ではないが、そのような量は、保存され、移され、結合され、比較され、又は他の方法で操作されることが可能な電気信号又は磁気信号の形態をとることができる。そのような信号を、ビット、データ、値、要素、記号、文字、用語、数、数字などと参照することが、主に一般的な用法という理由で、時に便利であることが証明されている。しかしながら、これら又は同様の用語のすべては、適切な物理量に関連付けられるべきであり、単に便利なラベルであることを理解されたい。特に述べられていない限り、本明細書の説明から明らかなように、本明細書を通じて、「処理」、「コンピューティング」、「計算」、「決定」などの用語を利用する説明は、専用コンピュータ、専用コンピューティング装置又は同様の専用電子コンピューティングデバイスなどの特定の装置の動作又はプロセスを指すことを理解されたい。したがって、本明細書の文脈において、専用コンピュータ又は同様の専用電子コンピューティングデバイスは、専用コンピュータ又は同様の専用電子コンピューティングデバイスのメモリ、レジスタ、又は他の情報記憶デバイス、送信デバイス、又は表示デバイス内の物理的な電子量又は磁気量として典型的に表される信号を操作又は変換することができる。
【0159】
前述の詳細な説明では、特許請求される主題の完全な理解を提供するために、多数の特定の詳細が記載されている。しかしながら、特許請求される主題がこれらの具体的な詳細を伴わずに実践され得ることが当業者によって理解されるであろう。他の実例では、特許請求される主題を不明瞭にしないように、当業者によって知られているであろう方法及び装置は詳細に説明されていない。したがって、特許請求される主題は、開示された特定の例に限定されず、そのような特許請求される主題はまた、添付の特許請求の範囲内に入るすべての態様、及びそれらの均等物を含み得ることが意図される。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17
図18