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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】香味吸引物品
(51)【国際特許分類】
   A24D 1/20 20200101AFI20241226BHJP
   A24F 40/40 20200101ALI20241226BHJP
【FI】
A24D1/20
A24F40/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023531294
(86)(22)【出願日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2021024957
(87)【国際公開番号】W WO2023276111
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】本溜 哲也
【審査官】中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-506713(JP,A)
【文献】特表2021-514181(JP,A)
【文献】特表2019-525726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24D 1/20
A24F 40/00-47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非燃焼で加熱されるとともに香味原料を充填することにより形成される香味要素と、気流経路を形成する管状要素とを備えた香味吸引物品であって、
前記管状要素は、
円筒状をなす中空の紙管と、
前記紙管の軸線方向に亘って前記紙管内に配置される紙製のライナーと
を備え、
前記紙管の管径方向における前記ライナーの断面長の合計は、前記紙管の内径よりも大きく、
前記管状要素は、前記香味要素に隣接して配置され、
前記ライナーは、前記香味原料に接触し得る位置に位置付けられるとともに、香味成分を含む添加剤が収着され、
前記管状要素は、前記香味要素又は前記ライナーで揮発した香味成分を冷却してエアロゾル化する冷却セグメントとして機能するとともに、前記香味要素に充填された前記香味原料が零れ落ちないように支持する支持セグメントとして機能する、香味吸引物品。
【請求項2】
前記紙管の内周面に接触し得る前記ライナーの部位は、前記ライナーの前記軸線方向に亘って前記紙管の前記内周面に接着されている、請求項に記載の香味吸引物品。
【請求項3】
前記ライナーの紙厚は0.05mm~1mmである、請求項1又は2に記載の香味吸引物品。
【請求項4】
前記ライナーの坪量は80gsm~120gsmである、請求項1からの何れか一項に記載の香味吸引物品。
【請求項5】
前記管径方向における前記ライナーの断面長の合計は、前記紙管の内径の2倍以上である、請求項1からの何れか一項に記載の香味吸引物品。
【請求項6】
前記管径方向における前記ライナーの断面はS字形状をなす、請求項1からの何れか一項に記載の香味吸引物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味吸引物品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、非燃焼加熱型のエアロゾル発生物品が開示されている。このエアロゾル発生物品、換言すると香味吸引物品は、互いに隣接した香味要素とフィルタ要素とを備える。香味要素は例えばたばこ原料を充填することにより形成される。フィルタ要素はフィルタ材料を充填することにより形成され、その径方向中央には中空部が形成されている。中空部の内周面には香味成分が収着されている。デバイス(香味吸引器)のヒータで香味要素を加熱することにより、揮発した香味成分がフィルタ要素で冷却され、これにより香味成分のエアロゾルが発生し、このエアロゾルをユーザが吸引する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2020-508075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非燃焼加熱型の香味吸引物品は、燃焼加熱型の物品と比較して香味要素の加熱温度が低温となる。このため、香味要素から揮発する香味成分が減少し、発生する香味成分のエアロゾルも減少する。特許文献1に記載のフィルタ要素は、中空部が形成され、さらに中空部の内周面に香味成分が収着される。しかし、中空部の外周には濾過体としてのフィルタ材料が存在するため、香味要素で揮発した香味成分の一部は中空部で冷却されてエアロゾル化されるものの、残りの香味成分はフィルタ材料でエアロゾル化される前に濾過され得る。従って、ユーザに供給される香味成分がさらに減少するおそれがある。
【0005】
そこで、香味要素から揮発された香味成分を濾過前にエアロゾル化してユーザに供給するために、香味要素に隣接する冷却セグメントをフィルタ要素ではなく、紙管などの管状要素にすることが考えられる。しかし、単なる紙管は、揮発した香味成分が気流とともに通過するだけとなるため、エアロゾルが発生し難く、非燃焼加熱型の香味吸引物品に好適な冷却セグメントを提供することはできない。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、香味要素の香味成分を極力減じることなくユーザに供給可能であるとともに、フィルタ要素に代わる冷却セグメント機能を有する香味吸引物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するべく、一態様に係る香味吸引物品は、非燃焼で加熱されるとともに香味原料を充填することにより形成される香味要素と、気流経路を形成する管状要素とを備えた香味吸引物品であって、管状要素は、円筒状をなす中空の紙管と、紙管の軸線方向に亘って紙管内に配置される紙製のライナーとを備え、紙管の管径方向におけるライナーの断面長の合計は、紙管の内径よりも大きく、管状要素は、香味要素に隣接して配置され、ライナーは、香味原料に接触し得る位置に位置付けられるとともに、香味成分を含む添加剤が収着され、管状要素は、香味要素又はライナーで揮発した香味成分を冷却してエアロゾル化する冷却セグメントとして機能するとともに、香味要素に充填された香味原料が零れ落ちないように支持する支持セグメントとして機能する。
【発明の効果】
【0008】
香味要素の香味成分を極力減じることなくユーザに供給可能であるとともに、フィルタ要素に代わる冷却セグメント機能を有する香味吸引物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】香味吸引物品の横断面図である。
図2】別形態に係る香味吸引物品の横断面図である。
図3】管状要素の縦断面図である。
図4】紙管を管径方向に展開したときの断面図である。
図5図3の別形態に係る管状要素の縦断面図である。
図6図3のさらに別形態に係る管状要素の縦断面図である。
図7図3の紙管を管径方向に展開したときの断面図である。
図8】形態の異なる管状要素(ライナー縦断面がジグザグ形状)の模式図である。
図9】形態の異なる管状要素(ライナー縦断面が別形態のジグザグ形状)の模式図である。
図10】形態の異なる管状要素(ライナー縦断面がさらに別の形態のジグザグ形状)の模式図である。
図11】形態の異なる管状要素(ライナー縦断面がスター形状)の模式図である。
図12】形態の異なる管状要素(縦断面が円形状をなす独立した3つのライナー)の模式図である。
図13】管状要素の製造装置の概略図である。
図14】管状要素の製造方法を説明するフローチャートである。
図15】ローターチューブの横断面図である。
図16】香味要素から零れ落ちる香味原料の割合を示すグラフである。
図17図16の結果を得た試験装置の概略図である。
図18】管状要素をその軸線方向に押圧したときに座屈するまでの最大荷重を示すグラフである。
図19図18の結果を得た試験装置の概略図である。
図20】ライナーをその軸線方向に押圧したときに座屈するまでの最大荷重を示すグラフである。
図21図20の結果を得た試験装置の概略図である。
図22】物品の温度測定試験の試験装置の概略図である。
図23図22の測定点P1、P2、P3の時系列的な温度変化を示すグラフである。
図24】香味成分送達試験の比較例及び実施例に用いる各物品の横断面図である。
図25図24の各物品におけるパフ回数毎の香味成分の送達量を時系列で示すグラフである。
図26図24の実施例2の管状要素のイメージ図である。
図27図23の比較例1の香味要素のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<香味吸引物品>
以下、図1及び図2を参照して、香味吸引物品1について説明する。図1は、香味吸引物品1の横断面図を示す。香味吸引物品1(以下、物品ともいう)は、非燃焼加熱型であって、図1で見て左側から順に、香味要素2、管状要素4、及び第1フィルタ要素6、及び第2フィルタ要素8から構成されている。香味要素2は、香味原料10を充填することにより形成されている。
【0011】
香味要素2を加熱するために使用するデバイス(香味吸引器)は、例えばニードル形状のヒータ12を備えている。図1にはデバイスのヒータ12のみが示される。デバイスに物品1をセットし、香味要素2にヒータ12を差し込んで加熱する。これにより、香味要素2の香味原料10に含浸される、又は顆粒として含まれる香味成分が揮発して気化する。香味要素2は、香味原料10としてたばこ原料を含むたばこロッドであっても良い。たばこ原料は、例えば、刻たばこや細断したたばこシートから構成される。
【0012】
第1フィルタ要素6は、アセテートトウや不織布シートなどのフィルタ原料14を充填した濾過体であり、径方向中央に中空部16が形成されている。第2フィルタ要素8は、第1フィルタ要素6と同様の、或いは第1フィルタ要素6と異なるフィルタ原料14を充填した濾過体である。香味要素2と第1及び第2フィルタ要素6、8との各周面は、それぞれ巻紙18で巻き上げられる。
【0013】
各要素2、4、6、8は、同軸に並べて突き合せて配置され、各要素2、4、6、8から構成される連続体の周面にチップペーパ20を巻き付けることにより互いに接続される。管状要素4及びチップペーパ20には、物品1の吸引時に物品1内に空気を取り込むための通気孔22が形成される。通気孔22を介して外部から物品1内に取り込まれた空気により、香味要素2の香味成分や後述する添加剤の揮発成分が冷却され、これらの成分のエアロゾル化が促進される。なお、濾過体としてのフィルタ要素の構成は、第1及び第2フィルタ要素6、8を備えるものに限定されない。
【0014】
図2は、別形態に係る物品1の横断面図を示す。物品1は、香味要素2の管状要素4と反対側の隣接位置に第3フィルタ要素24を備える。第3フィルタ要素24は、第1及び第2フィルタ要素6、8と同様の、或いは第1及び第2フィルタ要素6、8と異なるフィルタ原料14を充填して形成される。第3フィルタ要素24は、香味要素2の香味原料10に接触する位置、或いは接触し得る位置に位置付けられ、チップペーパ20により香味要素2に接続される。
【0015】
香味要素2に、第3フィルタ要素24を貫通させてヒータ12を差し込んだとき、第3フィルタ要素24は、香味要素2から香味原料10がヒータ12の根元側に零れ落ちることを抑制する。すなわち、第3フィルタ要素24は、物品1において、香味要素2に充填された香味原料10がヒータ12側に零れ落ちないように支持する支持セグメントとして機能する。これにより、零れ落ちた香味原料10によってデバイスのヒータ12の根元周辺が汚れることを抑制可能である。
【0016】
管状要素4は、物品1の先端側とは反対側において香味要素2に隣接して配置され、物品1において気流経路を形成する。管状要素4は、円筒状をなす中空の紙管26と、紙管26の軸線方向Xに亘って紙管26内に配置される紙製のライナー28とを備えている。
【0017】
<管状要素>
以下、図3から図11を参照して、物品1の管状要素4について詳しく説明する。図3は、管状要素4の縦断面図を示す。ライナー28は一重のペーパウエブを紙管26の内径dの方向、すなわち管径方向YにS字形状に湾曲して形成され、管径方向Yにおけるライナー28の断面、すなわちライナー28の縦断面はS字形状をなしている。
【0018】
ライナー28は、0.05mm~1mm、好ましくは0.08mm~0.5mm、さらに好ましくは0.1mm~0.15mmの紙厚を有するとともに、80gsm(grams per square meter)~120gsmの坪量を有する。紙管26は、内側ペーパウエブ30と外側ペーパウエブ32とを接着部34を介して重ねて接着した二重ペーパウエブから形成されている。なお、ライナー28を二重ペーパウエブから形成しても良い。
【0019】
管状要素4は、ヒータ12の熱により香味要素2で揮発した香味成分を冷却してエアロゾル化する。香味成分の冷却及びエアロゾル化は、揮発した香味成分が紙管26内に確保された空間においてライナー28の表面に接触することにより効率的に行われる。また、ライナー28に隣接するヒータ12によって、ライナー28は迅速に加熱される。従って、ライナー28に添加剤の一種として香味剤を収着させる場合、ライナー28から揮発した香味成分は、紙管26内に確保された空間において効率的に冷却されてエアロゾルとなる。
【0020】
紙管26の管径方向Yにおけるライナー28の断面長の合計は、紙管26の内径dよりも大きい。より好ましくは、紙管26の管径方向Yにおけるライナー28の断面長の合計は、紙管26の内径dの2倍以上である。これにより、ライナー28の表面積が大きくなるため、香味成分の冷却及びエアロゾル化がさらに効率的に行われる。このように、物品1において、管状要素4は、香味要素2又はライナー28で揮発した香味成分を即座に冷却してエアロゾル化する冷却セグメントとして機能する。
【0021】
管状要素4は、冷却セグメントとして機能して、第1及び第2フィルタ要素6、8に到達する前に香味成分のエアロゾル化を促進する。このため、エアロゾル化される前の香味成分が第1及び第2フィルタ要素6、8の繊維に吸着して濾過されることを抑制する。従って、非燃焼加熱型の物品1において、香味要素2の加熱温度が比較的低温となる場合であっても、第1及び第2フィルタ要素6、8における香味成分の濾過量を低減することができ、香味要素2の香味成分は、極力減じられることなくユーザに供給される。
【0022】
香味要素2に隣接する管状要素4がライナー28を備えることにより、ライナー28は香味要素2の香味原料10に接触する位置、或いは接触し得る位置に位置付けられる。香味要素2にヒータ12を差し込んだとき、ライナー28は、香味要素2から香味原料10が管状要素4側に零れ落ちることを抑制する。すなわち、物品1において、管状要素4は、香味要素2に充填された香味原料10が零れ落ちないように支持する支持セグメントとして機能する。
【0023】
ライナー28には添加剤が収着される。添加剤は、例えば、香味成分、活性炭、及びエアロゾル増量剤などを含む。ライナー28は紙製であるため、香味要素2の香味原料10に添加剤を収着させる場合と比較して、ライナー28における添加剤の収着領域及び収着面積を容易に変更可能である。このため、添加剤の収着量の調整及び添加剤の成分の放出量、ひいては添加剤の成分のユーザへの送達量の調整を容易に行うことができる。すなわち、物品1において、管状要素4は、ユーザへの添加剤の送達、例えば香味成分送達を容易に制御可能とする香味成分送達セグメントとして機能する。
【0024】
ライナー28の管径方向Yにおける両端部は、紙管26の内周面26aに接着部36で接着される。接着部36は、ライナー28の両端部の1mm~2mm程度の幅にライナー28の軸線方向Xに亘って糊を塗布し、硬化することにより形成される。これにより、ライナー28が紙管26に固定されるため、ライナー28の脱落が防止されるとともに、管状要素4の座屈強度が強化され、管状要素4の支持セグメントとしての機能が強化される。なお、接着部36は、ライナー28の管径方向Yにおける一端部のみに形成しても良い。
【0025】
図4は、紙管26を管径方向Yに展開したときの断面図を示す。内側ペーパウエブ30及び外側ペーパウエブ32は、二重ペーパウエブ27を構成する。内側ペーパウエブ30及び外側ペーパウエブ32は、展開された幅方向Zにおいて略同一の幅を有するストリップ状をなし、例えばライナー28と同範囲の紙厚及び坪量を有する。
【0026】
内側ペーパウエブ30及び外側ペーパウエブ32は、幅方向Zにおいて互いに位置ずれして配置され、紙管26の状態のときの外側ペーパウエブ32の内周面32aと、紙管の状態のときの内側ペーパウエブ30の外周面30aとは、互いに部分的に重なり合う重なり部38を形成する。
【0027】
外側ペーパウエブ32の内周面32aの重なり部38以外の領域である内周縁部32bには糊が塗布される。糊が塗布された内周縁部32bと、内側ペーパウエブ30の外周面30aの重なり部38以外の領域である外周縁部30bとを重ね合わせ、糊が硬化することにより継ぎ目接着部40が形成される(図3参照)。
【0028】
このように、内側ペーパウエブ30と外側ペーパウエブ32とを幅方向Zにおいて位置をずらして配置し、重なり部38、内周縁部32b、及び外周縁部30bが形成された二重ペーパウエブ27を湾曲して継ぎ目接着部40で接着する。これにより、図3に示すように、紙管26は、内側ペーパウエブ30と外側ペーパウエブ32とが継ぎ目接着部40において凹凸無く接着されて形成される。
【0029】
従って、紙管26の外周面26bが凹凸の無い滑らかな面となり、管状要素4の品質が向上する。また、紙管26が二重ペーパウエブ27から形成されるため、一重のペーパウエブから形成する場合に比して、管状要素4の座屈強度が強化されるとともに、管状要素4の支持セグメントとしての機能が強化される。
【0030】
図5は、図3の別形態に係る管状要素4の縦断面図を示す。ライナー28の管径方向Y(幅方向Z)の幅を大き目に形成した場合、図5に示すように、接着部36をライナー28の端部ではなく、ライナー28のS字形状を形作る湾曲部の近傍に形成しても良い。すなわち、紙管26の内周面26aに接触し得るライナー28の部位にライナー28の軸線方向Xに亘って糊を塗布すれば良い。
【0031】
図6は、図3の別形態に係る管状要素4の縦断面図を示し、図7は、図6の紙管26を管径方向Yに展開したときの断面図を示す。図6に示すように、紙管26は一重ペーパウエブ29から形成しても良い。一重ペーパウエブ29は、図7に示すように、糊を塗布した内周縁部29aと、糊を塗布していない外周縁部29bとを重ね合わせることにより、図6に示すように、重なり部38及び継ぎ目接着部40が形成される。継ぎ目接着部40において段差が生じるが、少なくともライナー28が紙管26に固定される。従って、ライナー28の脱落が防止されるとともに、管状要素4の座屈強度が強化され、管状要素4の支持セグメントとしての機能が強化される。
【0032】
図8から図12は、図3に示した形態とは異なる形態のライナー28を有する管状要素4の縦断面を模式的に示す。なお、各図は、紙管26が一重のペーパウエブから形成される形態を模式的に示している。図8は、縦断面がジグザグ形状をなすライナー28を有する管状要素4を示す。このライナー28は、ジグザグ形状が管径方向Yにおいて略同一幅で形成され、ジグザグ形状の凸条部28aは紙管26の内周面26aに非接触である。
【0033】
図9は、別形態のジグザグ形状をなすライナー28を有する管状要素4の縦断面図を示す。このライナー28は、ジグザグ形状を形成する全ての凸条部28aが紙管26の内周面26aに接触する位置、或いは接触可能な位置まで延設される。図10は、さらに別形態のジグザグ形状をなすライナー28を有する管状要素4の縦断面図を示す。
【0034】
このライナー28は、ジグザグ形状の中央に位置する隣り合うライナー部分同士が接触する。このライナー部分同士の接触部を中心に他のライナー部分が管径方向Yに沿って扇形に拡開され、中心位置のライナー部分及び拡開されたライナー部分に形成された凸条部28aが紙管26の内周面26aに接触する位置、或いは接触可能な位置まで延設される。
【0035】
図11は、縦断面がスター形状をなすライナー28を有する管状要素4の縦断面図を示す。このライナー28は、スター形状を形成する全ての凸条部28aが紙管26の内周面26aに接触するか、或いは接触可能である。図12は、縦断面が円形状をなす独立した3つのライナー28A、28B、28Cから構成されたライナー28を有する管状要素の縦断面図を示す。各ライナー28A、28B、28Cは、互いに離間しているものの、何れも紙管26の内周面26aに接触するか、或いは接触可能である。
【0036】
図8から図12の何れのライナー28も、図3に示した形態と同様に、紙管26の管径方向Yにおけるライナー28の断面長の合計は、紙管26の内径dよりも大きく、より好ましくは、紙管26の内径dの2倍以上の大きさである。従って、図8から図12に示したライナー28の場合であっても、前述したS字形状のライナー28と同様の作用効果を奏する。
【0037】
<管状要素の製造装置及び製造方法>
以下、図13及び図14を参照して、管状要素4の製造装置50と、この製造装置50を用いた管状要素4の製造方法とについて説明する。図13は、管状要素4の製造装置50の概略図を示し、図14は、管状要素4の製造方法を説明するフローチャートを示す。
【0038】
製造装置50は、第1ペーパウエブ供給セクション52、第1ペーパウエブ裁断セクション54、横方向搬送セクション56、糊付けセクション58、位置ずらしセクション60、加熱セクション62、管成形セクション64、第2ペーパウエブ供給セクション66、第2ペーパウエブ裁断セクション68、ライナー成形セクション70、切断セクション72などを備えている。
【0039】
管状要素4の製造が開始されると、第1ペーパウエブ供給セクション52において、ペーパロールがセットされた図示しないボビンから第1ペーパウエブ74が引き出される。第1ペーパウエブ74は、各ローラー76を介して誘導されながら第1搬送経路78を搬送される(S1:第1ペーパウエブ供給ステップ)。次に、第1ペーパウエブ裁断セクション54において、第1ペーパウエブ74は、長手方向に亘って、何れもストリップ状の内側ペーパウエブ30と外側ペーパウエブ32とに裁断される(S2:第1ペーパウエブ裁断ステップ)。
【0040】
次に、横方向搬送セクション56において、裁断された内側ペーパウエブ30と外側ペーパウエブ32とが互いに分離され、第1搬送経路78から分岐した第1搬送経路78a、第1搬送経路78bにそれぞれ搬送される(S3:横方向搬送ステップ)。次に、糊付けセクション58において、外側ペーパウエブ32の重なり部38及び内周縁部32bとなる領域が糊付けされる(S4:糊付けステップ)。
【0041】
次に、内側ペーパウエブ30及び外側ペーパウエブ32は、一対の引張りローラー80において合流して、再び合流した第1搬送経路78を搬送される。次に、位置ずらしセクション60において、外側ペーパウエブ32に対し内側ペーパウエブ30がその搬送方向に対して交差する幅方向に位置ずれされる(S5:位置ずらしステップ)。内側ペーパウエブ30及び外側ペーパウエブ32は、位置ずれした状態で重ね合わされて重なり部38が形成される。
【0042】
次に、加熱セクション62において、重なり部38に塗布された糊がヒータの熱により硬化されて接着部34が形成される(S6:加熱ステップ)。なお、糊の硬化を確実に行うために、加熱セクション62を通過した後に図示しない冷却セクションを通過させる冷却ステップを行っても良い。また、糊の硬化が確実に行われるのであれば、加熱セクション62又は冷却セクションを通過させなくとも良い。
【0043】
内側ペーパウエブ30及び外側ペーパウエブ32は、重なり部38が接着部34において接着されて一体化した平坦な二重ペーパウエブ27に成形され、二重ペーパウエブ27は管成形セクション64に搬送される。製造装置50は、継ぎ目糊付けセクション82をさらに備えている。継ぎ目糊付けセクション82は、加熱セクション62と管成形セクション64との間に設けられる。内周縁部32bの糊付けは、糊付けセクション58で行なわず、継ぎ目糊付けセクション82で行っても良い。
【0044】
管状要素4の製造が開始されると、前述したステップS1からS6と並行し、以下のステップS10からS12が行われる。先ず、第2ペーパウエブ供給セクション66において、ペーパロールがセットされた図示しないボビンから第2ペーパウエブ88が引き出される。第2ペーパウエブ88は、各ローラー76を介して誘導されながら第2搬送経路90を搬送される(S10:第2ペーパウエブ供給ステップ)。
【0045】
次に、第2ペーパウエブ裁断セクション68において、第2ペーパウエブ88は、長手方向に亘って、ストリップ状のストリップペーパウエブ92に裁断される(S11:第2ペーパウエブ裁断ステップ)。第2ペーパウエブ裁断ステップでは、第2ペーパウエブ66を紙管26の管径方向Yにおける断面長の合計が紙管26の内径dよりも大きなストリップペーパウエブ92に裁断し、より好ましくは、当該断面長の合計が紙管26の内径dの2倍以上のストリップペーパウエブ92に裁断する。
【0046】
次に、ライナー成形セクション70において、ストリップペーパウエブ92の管径方向Yにおける両端縁に摩擦力を作用させることにより、ストリップペーパウエブ92を長手方向に亘って縦断面がS字形状をなすライナー28に連続的に成形する(S12:ライナー成形ステップ)。より詳しくは、ライナー成形セクション70は、図15に示すローターチューブ94を備えている。
【0047】
図15は、ローターチューブ94の横断面図を示す。ローターチューブ94は、支持部材96にベアリング98を介して回転自在に支持され、回転しながらストリップペーパウエブ92を受け入れる。ローターチューブ94は、ストリップペーパウエブ92を受け入れる入口部94aと、成形したライナー28を管成形セクション64に向けて排出する出口部94bと、入口部94aから出口部94bに向けて徐々に縮径された内周面94cとを有する。
【0048】
ライナー成形セクション70では、ストリップペーパウエブ92を受け入れるに際して、入口部94aの内周面94cにストリップペーパウエブ92の両端縁が接触する。これにより、ストリップペーパウエブ92の両端縁に摩擦力が作用し、ストリップペーパウエブ92がS字形状に湾曲されて湾曲部が形成され、縦断面がS字形状となるライナー28に成形される。
【0049】
また、入口部94aは、ストリップペーパウエブ92の紙幅の30%~80%の開口径Dとなる開口縁94dを有する。開口縁94dは内周面94cに含まれる領域である。これにより、ストリップペーパウエブ92を受け入れの初期において、開口縁94dにストリップペーパウエブ92の両端縁を接触させ、当該両対円に摩擦力を確実に作用させることができる。従って、ストリップペーパウエブ92をS字形状のライナー28に確実に成形可能である。
【0050】
また、ローターチューブ94の内周面94cは、算術平均粗さRaで5μm~30μmに表面処理される。これにより、ストリップペーパウエブ92の両端縁が入口部94aの内周面94c(開口縁94dを含む)に接触したとき、当該両端縁に摩擦力をさらに効果的に作用させることができる。従って、ストリップペーパウエブ92をS字形状のライナー28に確実に成形可能である。
【0051】
ライナー成形セクション70は、ライナー28に添加剤を添加する添加器100を備える。添加剤は、香味成分、活性炭、及びエアロゾル増量剤などを含んでいても良い。添加器100は、ライナー28の所定の収着領域及び収着面積に添加剤を添加し、ライナー28に添加剤を収着させる(P1:添加プロセス)。なお、添加剤は、ライナー28に成形される前のストリップペーパウエブ92又は第2ペーパウエブ88に予め添加しても良い。
【0052】
管成形セクション64においては、第2搬送経路90が第1搬送経路78に合流し、ライナー成形セクション70で成形されたライナー28の受け入れが行われる。次に、管成形セクション64は、第1ペーパウエブ74を重ねて成形した二重ペーパウエブ27で、ライナー28を連続的に包み込みつつ、二重ペーパウエブ27を円筒状をなす中空の紙管26に連続的に成形する。これにより、紙管26の軸線方向Xに亘って紙管26内にライナー28を配置した管状ロッド102が形成される(S7:管成形ステップ)。
【0053】
具体的には、管成形セクション64は、成形ベッド104を備える。成形ベッド104は、第1搬送経路78に沿って配置され、成形ベッド104上には無端状のガニチャーベルト106の往路部分が配置されている。成形ベッド104上から外れたガニチャーベルト106の復路部分は、各ローラー76により誘導され、駆動ドラム108に巻き付けられる。駆動ドラム108は図示しない電動モータの駆動力により回転される。駆動ドラム108の回転は、ガニチャーベルト106の往路部分を第1搬送方向78に沿って走行させる。
【0054】
二重ペーパウエブ27は、ガニチャーベルト106の往路部分の上に導かれ、ガニチャーベルト106に重ね合わされる。成形ベッド104の始端部の上側には、押圧部材110が設けられている。押圧部材110は二重ペーパウエブ27を成形ベッド104に形成された成形溝の溝底に押し付ける。これにより、二重ペーパウエブ27は、ガニチャーベルト106との摩擦力によりガニチャーベルト106と一体に走行し、二重ペーパウエブ27がU字形に連続的に成形され、最終的にライナー28を包んだ紙管26に成形される。
【0055】
管成形セクション64は、ライナー28に糊を塗布する塗布器112を備える。塗布器は112、少なくとも管状ロッド102が形成される前に、ライナー28の管径方向Yにおける両端部に糊付けする(P2:糊付けプロセス)。なお、塗布器112は、ライナー28の管径方向Yにおける一端部のみに糊を塗布しても良い。また、塗布器112をライナー成形セクション70に配置し、ライナー28の成形過程にてライナー28に糊付けしても良い。また、糊は、ライナー28の両端部、或いは一端部に限らず、紙管26の内周面26aに接触し得るライナー28の部位にライナー28の軸線方向Xに亘って塗布すれば良い。
【0056】
管成形セクション64は、ライナー28に塗布された糊を加熱するヒータ114を備える。ヒータ114は、ライナー28に塗布された糊を加熱により硬化して接着部34及び継ぎ目接着部40を形成する(P3:加熱プロセス)。なお、糊の硬化を確実に行うために、ヒータ114を通過した後に図示しない冷却器を通過させても良い。また、糊の硬化が確実に行われるのであれば、ヒータ114又は冷却器を設けなくとも良い。
【0057】
こうして、ライナー28が紙管26の内周面26aに接着されることにより、紙管26とライナー28とが一体化した管状ロッド102が形成される。次に、切断セクション72において、管状ロッド102が所定長さに切断され、管状要素4が成形される(S8:切断ステップ)。これにより、管状要素4の製造が終了する。
【0058】
<支持セグメント機能試験>
図16のグラフは、香味要素2から零れ落ちる香味原料10の割合を示す。実施例1では、香味要素2と、紙管26及びライナー28から構成された管状要素4とを接続した物品1を用いる。比較例1では、香味要素2と、紙管26のみから構成された管状要素4とを接続した物品1を用いる。実施例1及び比較例1の管状要素4に使用するペーパウエブの坪量は何れも82gsmである。実施例1及び比較例1の香味要素2に充填する香味原料10の充填量は何れも260mgか、それ以上である。
【0059】
図17は、図16の結果を得た試験装置の概略図を示す。試験装置は、ピン状のヒータ12を備えたデバイスであり、ヒータ12の直径D1は2mmであり、ヒータ12の長さLは18mmである。本試験では、この試験装置を用いて、ヒータ12に実施例1及び比較例1の香味要素2を矢印方向に差し込んだとき、香味要素2に充填された香味原料10のうち、香味要素2から零れ落ちる香味原料10の割合(零れ割合)を測定する。
【0060】
図16に示すように、実施例1の零れ割合は約4%であり、比較例1の零れ割合は約28%である。実施例1のライナー28を有する管状要素4は、比較例1のライナー28を有さない管状要素4に比して、香味原料10が管状要素4側に零れ落ちないように支持する支持セグメント機能が約7倍に強化される。これらの結果から、ライナー28を有する管状要素4は、ヒータ12を香味要素2に差し込んだときの香味原料10の零れ落ちを抑制する支持セグメントとして有効に機能することが判明した。
【0061】
<管状要素の座屈強度試験>
図18のグラフは、管状要素4をその軸線方向に押圧したときに座屈するまでの最大荷重を示す。実施例1では、紙管26及びライナー28から構成された管状要素4(ライナー28の接着部36無し)を用いる。実施例2では、紙管26及びライナー28から構成された管状要素4(ライナー28の接着部36有り)を用いる。比較例1では、紙管26のみから構成された管状要素4(一重ペーパウエブ)を用いる。比較例2では、紙管26のみから構成された管状要素4(二重ペーパウエブ)を用いる。各実施例及び各比較例の管状要素4に使用するペーパウエブの紙厚は0.1mm~013mmであり、坪量は82gsm~100gsmである。以降の各試験においても同様である。
【0062】
図19は、図18の結果を得た試験装置の概略図である。試験装置は、円柱状のプッシャー116を備え、プッシャー116の直径D2は、管状要素4の直径よりも大となる15mmである。本試験では、この試験装置を用いて、プッシャー116を矢印方向に降下させ、軸線方向Xに立設した管状要素4の一端を押圧し、このときに管状要素4が座屈するまでの最大荷重を測定する。これにより、管状要素4全体の座屈強度が測定される。なお、プッシャー116の降下速度は20mm/minであり、プッシャー116の管状要素4の一端からの降下距離は2mmである。
【0063】
図18に示すように、実施例1の最大荷重は約68Nであり、実施例2の最大荷重は約61Nである。一方、比較例1の最大荷重は約23Nであり、比較例2の最大荷重は約38Nである。実施例1、2の結果から明らかなように、管状要素4の座屈強度は紙管26の内周面26aにライナー28を接着しない方が若干大きくなる。紙管26にライナー28を接着しないと、押圧されたときに紙管26に対するライナー28の変位が許容され、紙管26とライナー28とが個別に押圧力に抗する反力を発生させ、結果として押圧力が分散されるからである。
【0064】
比較例1、2の結果から明らかなように、紙管26を内側及び外側ペーパウエブ30、32を重ねた二重ペーパウエブ27から構成することにより、管状要素4の座屈強度は約1.7倍に強化される。実施例1のライナー28を有する管状要素4は、比較例1の紙管26のみから構成される管状要素4に比して、管状要素4の座屈強度が約3倍に強化される。また、実施例1のライナー28を有する管状要素4は、比較例2の二重ペーパウエブ27の紙管26のみからなる管状要素4に比して、管状要素4の座屈強度が約1.8倍に強化される。
【0065】
香味要素2をデバイスのヒータ12に差し込んだときの挿入抵抗によって物品1が管状要素4において座屈することが懸念される。しかし、前述した結果から、管状要素4に湾曲部を有するライナー28を設けることにより、管状要素4の座屈強度が大幅に強化されることが判明した。また、紙管26を二重ペーパウエブ27から構成することにより、管状要素4の座屈強度がさらに強化されることが判明した。
【0066】
<ライナーの座屈強度試験>
図20のグラフは、ライナー28をその軸線方向Xに押圧したときに座屈するまでの最大荷重を示す。実施例1では、紙管26と、接着部36無しのライナー28とから構成された管状要素4を用いる。実施例2では、紙管26と、接着部36有りのライナー28とから構成された管状要素4を用いる。比較例1では、紙管26と、湾曲しないストリップ形状のライナー28とから構成された管状要素4を用いる。実施例3では、紙管26と、二重ペーパウエブからなるライナー28とから構成された管状要素4を用いる。
【0067】
図21は、図20の結果を得た試験装置の概略図である。試験装置は、円柱状のプッシャー116を備え、プッシャー116の直径D3は、管状要素4の直径よりも小となる5mmである。本試験では、この試験装置を用いて、プッシャー116を矢印方向に降下させ、軸線方向Xに立設した管状要素4の一端を押圧し、このときに管状要素4が座屈するまでの最大荷重(座屈強度)を測定する。なお、プッシャー116の降下速度は20mm/minであり、プッシャー116の管状要素4の一端からの降下距離は2mmである。
【0068】
図20に示すように、実施例1の最大荷重は約4.6Nであり、実施例2の最大荷重は約4.9Nであり、実施例3の最大荷重は約8.2Nである。一方、比較例1の最大荷重は約0.8Nである。実施例1、2の結果から明らかなように、紙管26の内周面26aにライナー28を接着した方がライナー28の座屈強度が大きくなる。紙管26にライナー28を接着すると、ライナー28に付与される押圧力が紙管26にも分散されるからである。
【0069】
実施例1、2と比較例1との結果から明らかなように、ライナー28をS字形状に形成することにより、ライナー28を湾曲部のないストリップ形状とした場合に比して、ライナー28の座屈強度は約5.7倍~約6.1倍に強化される。実施例3の二重ペーパウエブ27からなるライナー28は、実施例1の一重ペーパウエブからなるライナー28に比して、ライナー28の座屈強度が約1.8倍に強化される。
【0070】
香味要素2をデバイスのヒータ12に差し込んだときの挿入抵抗によって物品1が管状要素4のライナー28において座屈することが懸念される。しかし、前述した結果から、管状要素4に湾曲部を有するライナー28を設けることにより、ライナー28の座屈強度が大幅に強化されることが判明した。また、ライナー28に接着部36を形成し、さらにライナー28を二重ペーパウエブから構成することにより、ライナー28の座屈強度がさらに強化されることが判明した。
【0071】
<物品の温度測定試験>
図22は、物品1の温度測定試験の試験装置の概略図を示し、図23のグラフは、図22の測定点P1、P2、P3の時系列的な温度変化を示す。試験装置は、図1に示す物品1の香味要素2の周面をヒータ118で加熱し、管状要素4において香味要素2の近傍に位置する測定点P1、管状要素4の軸線方向中央に位置する測定点P2、管状要素4において第1フィルタ要素6の近傍に位置する測定点P3の温度をそれぞれ測定する。
【0072】
図23に示すように、試験開始から約40秒後に、測定点P1は約145℃、測定点P2は約90℃、測定点P3は約50℃となる。試験開始から約180秒後に、測定点P1は約145℃、測定点P2は約65℃、測定点P3は約42℃となる。試験開始から約240秒後に、測定点P1は約140℃、測定点P2は約60℃、測定点P3は約40℃となる。
【0073】
測定点P1は、ヒータ118に最も近いことから、測定点P2、P3に比して、初期に温度が急上昇し、全体として長時間に亘って高温に維持される。各測定点P1~P3の温度はハンチングするが、測定点P1のハンチングは測定点P2、P3に比して滑らかである。これらの結果から、管状要素4のライナー28に添加剤を収着させるとき、ヒータ118に極力近い位置、すなわち香味要素2に隣接するライナー28の香味要素2の近傍位置に添加剤の収着領域を形成すれば、当該収着領域が初期段階から比較的高温に維持されるため、添加剤の揮発、ひいてはエアロゾル化が継続して促進され得ることが判明した。
【0074】
<香味成分送達試験>
図24は、香味成分送達試験の比較例及び実施例に用いる各物品1の横断面図を示す。本試験は、異なる形態の各物品1の香味要素2の周面をヒータ118で加熱しながら、第1フィルタ要素6又は第2フィルタ要素8の端面を吸引(パフ)し、当該端面から物品1の外部に送達される香味成分量を測定する。
【0075】
比較例1の物品1は、香味成分を含む香味要素2(たばこロッド)、紙管26のみから構成される管状要素4、第1フィルタ要素6、及び香味成分を収着した第2フィルタ要素8から構成される。比較例2の物品1は、香味要素2(たばこロッド)、紙管26のみから構成される管状要素4、第1フィルタ要素6、及び香味成分を収着した第2フィルタ要素8から構成される。
【0076】
比較例3の物品1は、香味要素2(たばこロッド)、紙管26のみから構成される管状要素4、及び香味成分を収着した第1フィルタ要素6から構成される。実施例1の物品1は、香味要素2(たばこロッド)、紙管26と折込形状であって香味成分を収着したライナー28とから構成される管状要素4、及び香味成分を収着した第1フィルタ要素6から構成される。実施例2の物品1は、香味要素2(たばこロッド)、紙管26とS字形状であって香味成分を収着したライナー28とから構成される管状要素4、及び香味成分を収着した第1フィルタ要素6から構成される。なお、収着する香味成分はメントールを使用している。
【0077】
図25のグラフは、図24の各物品1におけるパフ回数毎の香味成分の送達量を時系列で示す。図25に示すグラフの上部に位置する折れ線は、ヒータ118の温度を示し、グラフの右側の縦軸に温度目盛りを示す。実施例2の物品1は、1パフ目において最も多い約0.57mg/stkの香味成分を送達する。なお、単位を構成する「stk」は、物品1の吸引動作の1ストローク、つまり1パフのことを意味する。
【0078】
また、実施例2の物品1は、パフ初期からパフ終期に亘って少なくとも0.1mg/stk以上の香味成分を送達する。実施例1の物品1は、1パフ目における香味成分送達量が実施例2の物品1よりも若干少ないものの、パフ回数増加に伴う香味成分送達量の変化は実施例2の物品1とほぼ同じである。
【0079】
図26は、実施例2の管状要素4のイメージ図を示す。実施例2において、図示するように、香味成分120をライナー28の香味要素2の近傍位置に収着させた場合、香味要素2を加熱するヒータ118の熱が香味成分120に伝達され易い。このため、図26に示すように、香味成分120が早期に揮発してエアロゾル122となり、初期のパフ段階で大量の香味成分120をユーザに供給可能である。
【0080】
また、実施例2のライナー28は簡素なS字形状であるため、実施例1の折込形状のライナー28に比して、紙管26内により広いスペースが確保され、紙管26の通気性が高まる。紙管26の通気性の高まりにより、揮発した香味成分120の揮発及びエアロゾル化が促進されるため、1パフ目の香味成分送達量は、実施例1よりも実施例2の方が若干多くなる。
【0081】
図27は、比較例1の香味要素2のイメージ図を示す。比較例1の香味要素2は、香味成分120の周囲に充填されたたばこ原料124が存在して密状態となり、香味要素2内の通気性が低下する。比較例1においては、通気性低下により香味成分120の揮発及びエアロゾル化がパフの初期段階で遅延し、1パフ目における香味成分送達量は実施例2の約60%となる約0.35mg/stkである。
【0082】
しかし、比較例1においては、時間経過及びパフ回数の増加とともに、香味要素2がヒータ118により加熱されて徐々に温度上昇し、香味要素2における香味成分120の揮発及びエアロゾル化が徐々に促進される。また、加熱された気流により、第2フィルタ要素8に収着される香味成分の揮発及びエアロゾル化も促進される。従って、8パフ目から11パフ目あたりにおける香味成分送達量は、実施例1、2の場合よりも多くなる。
【0083】
比較例2、3は、香味要素2から離間した第1フィルタ要素6や第2フィルタ要素8のみに香味成分が含まれる。このため、ヒータ118によって気流が加熱されるまでは時間を要する。また、第1フィルタ要素6や第2フィルタ要素8において香味成分が濾過されるという弊害もある。従って、比較例2、3の場合、香味成分の揮発量自体が少なく、時間経過及びパフ回数の増加によっても香味成分の送達量は少ないままである。
【0084】
これらの結果から、香味成分は、ヒータ118の直接の加熱対象である香味要素2のみに添加、収着させるよりも、香味要素2に隣接した管状要素4のライナー28にも添加、収着させるのが好ましい。また、香味要素2から離間した第1フィルタ要素6又は第2フィルタ要素8のみに添加、収着させるよりも、香味要素2に隣接した管状要素4のライナー28にも添加、収着させるのが好ましい。これにより、香味成分をより多く、より効率的にユーザに供給することができる。
【0085】
以上のように、実施形態の物品1は、非燃焼で加熱される香味要素2と、気流経路を形成する管状要素4とを備え、管状要素4は、円筒状をなす中空の紙管26と、紙管26の軸線方向Xに亘って紙管26内に配置される紙製のライナー28とを備え、ライナー28の断面長の合計は、紙管26の内径dよりも大きい。
【0086】
これにより、濾過機能がないライナー28によって、香味要素2で揮発した香味成分を極力減じることなくユーザに提供することができる。また、ライナー28の断面長の合計が紙管26の内径dよりも大きいことにより、ライナー28に湾曲部が形成され、ライナー28の表面積を大きく確保することができる。従って、香味要素2で揮発した香味成分をライナー28の表面において即座に冷却してエアロゾル化する、冷却セグメント機能を実現することができる。
【0087】
また、管状要素4を香味要素2に隣接して配置する場合、香味要素2に充填された香味原料10の零れ落ちをライナー28で抑制する、支持セグメント機能を実現することができる。また、ライナー28には、添加剤、具体的には、香味成分、活性炭、及びエアロゾル増量剤などが収着される場合がある。この場合、ライナー28への添加剤の収着は容易であり、ライナー28における添加剤の収着領域及び収着面積を変更することにより、ユーザへの添加剤の送達、例えば香味成分送達を容易に制御可能とする香味成分送達セグメント機能を実現することができる。
【0088】
また、紙管26の内周面26aに接触し得るライナー28の部位は、ライナー28の軸線方向Xに亘って紙管26の内周面26aに接着される。これにより、ライナー28が紙管26に固定されるため、ライナー28の脱落が防止されるとともに、管状要素4の座屈強度が強化され、管状要素4の支持セグメントとしての機能が強化される。
【0089】
また、ライナー28の紙厚は0.05mm~1mmであり、ライナー28の坪量は80gsm~120gsmである。これにより、ライナー28の座屈強度が強化され、ライナー28、ひいては管状要素4の支持セグメントとしての機能が強化される。なお、ライナー28を二重ペーパウエブから形成することにより、上記紙厚及び坪量を実現しても良い。
【0090】
また、管径方向Yにおけるライナー28の断面長の合計は、紙管26の内径dの2倍以上の大きさである。これにより、ライナー28の表面積がさらに増大するため、前述した冷却セグメント、支持セグメント、及び香味成分送達セグメントの機能をさらに強化することができる。
【0091】
また、ライナー28の管径方向Yにおける断面が連続したS字形状をなすことにより、簡素な形状であるためライナー28の製造が容易となる。また、簡素な形状であるため、紙管26内における気流経路を香味成分などの揮発及びエアロゾル化のスペースとして十分に利用可能としつつ、前述した種々の作用効果を得ることができる。
【0092】
以上で実施形態についての説明を終えるが、上記実施形態は、限定的ではなく、趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができるものである。例えば、ライナー成形ステップにおいて、ストリップペーパウエブ92の両端縁に摩擦力を作用させる手段は、前述したローターチューブ94を用いる形態に限定されない。
【0093】
また、物品1の構成、及び物品1における管状要素4の位置は前述した各形態に限定されない。但し、前述したように、加熱対象である香味要素2の隣接位置に管状要素4を配置するのが好ましい。また、物品1は必ずしもフィルタ要素を備えるとは限らないし、香味要素2にたばこ原料を含まなくとも良い。また、ライナー28の形状は、前述した条件を満たすのであれば、S字形状及び図示した各形状に限定されない。
【0094】
また、<管状要素の座屈強度試験>及び<ライナーの座屈強度試験>の結果から明らかなように、管状要素4の座屈強度を強化したい場合、管状要素4の紙管26を二重ペーパウエブ27から形成し、ライナー28を二重ペーパウエブから形成しても良い。また、<香味成分送達試験>の結果から明らかなように、香味剤などの香味成分を含む添加剤は、加熱対象である香味要素2に隣接した管状要素4のライナー28に添加、収着させるのが好ましい。しかし、管状要素4は必ずしも香味要素2に隣接配置されていなくとも良く、比較的近い位置に配置されていれば良い。
【0095】
また、<物品の温度測定試験>の結果から判明したように、添加剤の揮発、ひいてはエアロゾル化を促進するために、ライナー28に添加剤を収着させる領域は、加熱対象であり香味要素2に極力近く高温となる位置、すなわち、香味要素2側、或いは香味要素2に接触し得るライナー28の一端部であるのが好ましい。しかし、これに限らず、ライナー28における添加剤の収着領域及び収着面積は、物品1の仕様に応じて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 香味吸引物品
2 香味要素
4 管状要素
26 紙管
26a 内周面
28 ライナー
d 内径
X 軸線方向
Y 管径方向

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27