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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B62K 5/10 20130101AFI20241226BHJP
   B62J 45/415 20200101ALI20241226BHJP
   B62J 45/412 20200101ALI20241226BHJP
【FI】
B62K5/10
B62J45/415
B62J45/412
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023555973
(86)(22)【出願日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2021039774
(87)【国際公開番号】W WO2023073855
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2024-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】521462417
【氏名又は名称】株式会社ストリーモ
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】森 庸太朗
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-188955(JP,A)
【文献】特開2020-104640(JP,A)
【文献】特開2016-165986(JP,A)
【文献】特開2005-323431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 5/10
B62K 13/00- 19/48
A63C 17/12
B62M 6/40
B62J 45/415
B62J 45/412
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪および後輪と、
前記前輪の上方に配置された操舵部と、
員の足が載置される載置部と、
前記前輪を回転可能に、かつ、前記操舵部によって操舵可能に支持する第1部材と、
前記第1部材の後方に配置され、前記後輪を回転可能に支持する第2部材と、
前後方向に延在する軸線を中心にして前記第2部材に対し前記第1部材を左右方向に揺動可能に連結する連結部と、
前記前輪および前記後輪の少なくとも一方を駆動する走行用アクチュエータと、
加速指令を含む走行指令が入力される入力部と、
前記入力部により入力された走行指令に応じた駆動力を発生するように前記走行用アクチュエータを制御する制御部と、
前記操舵部の左右方向の操舵角を検出する操舵角検出部と、
前記第2部材に対する前記第1部材の左右方向の揺動角を検出する揺動角検出部と、を備え、
前記制御部は、前記操舵角検出部により検出された操舵角と前記揺動角検出部により検出された揺動角とに応じて、前記入力部により入力された加速指令に応じた駆動力よりも低減された駆動力を発生するように前記走行用アクチュエータを制御することを特徴とする車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両において、
前記制御部は、前記操舵角検出部および前記揺動角検出部の検出値により求められる前記操舵部の操舵方向と前記第1部材の揺動方向とが同一方向でないとき、前記操舵方向と前記揺動方向とが同一方向であるときよりも、同一の加速指令に対する駆動力が低減されるように前記走行用アクチュエータを制御することを特徴とする車両。
【請求項3】
請求項2に記載の車両において、
前記制御部は、前記操舵角検出部により検出された操舵角が大きいほど、加速指令に対する駆動力の低減割合を大きくすることを特徴とする車両。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の車両において、
車速を検出する車速検出部をさらに備え、
前記制御部は、さらに前記車速検出部により検出された車速に応じて、前記入力部により入力された加速指令に応じた駆動力よりも低減された駆動力を発生するように前記走行用アクチュエータを制御することを特徴とする車両。
【請求項5】
請求項4に記載の車両において、
前記制御部は、前記車速検出部により検出された車速が遅いほど、加速指令に対する駆動力の低減割合を大きくすることを特徴とする車両。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の車両において、
前記揺動角検出部は、重力方向に延在する基準線からの揺動角を検出するように構成されることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪と後輪とを有する車両に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両として、従来、揺動機構を介して左右方向に揺動可能に構成された車両が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の車両では、さらにハンドルの操作により前輪が左右方向に転舵可能に設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6935610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、転舵した状態かつ不適切な姿勢で加減速操作した場合に、車両の姿勢が不安定になるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、前輪および後輪と、前輪の上方に配置された操舵部と、乗員の足が載置される載置部と、前輪を回転可能に、かつ、操舵部によって操舵可能に支持する第1部材と、第1部材の後方に配置され、後輪を回転可能に支持する第2部材と、前後方向に延在する軸線を中心にして第2部材に対し第1部材を左右方向に揺動可能に連結する連結部と、前輪および後輪の少なくとも一方を駆動する走行用アクチュエータと、加速指令を含む走行指令が入力される入力部と、入力部により入力された走行指令に応じた駆動力を発生するように走行用アクチュエータを制御する制御部と、操舵部の左右方向の操舵角を検出する操舵角検出部と、第2部材に対する第1部材の左右方向の揺動角を検出する揺動角検出部と、を備える。制御部は、操舵角検出部により検出された操舵角と揺動角検出部により検出された揺動角とに応じて、入力部により入力された加速指令に応じた駆動力よりも低減された駆動力を発生するように走行用アクチュエータを制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、転舵した状態における、不適切な操作の影響を抑制し、車両の安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る車両の全体構成を示す斜視図であり、車両を左斜め前方から見た図。
図2】本発明の実施形態に係る車両の全体構成を示す正面図。
図3】本発明の実施形態に係る車両の連結部に設けられるナイトハルトゴムばねの概略構成を示す断面図。
図4】本発明の実施形態に係る車両の走行駆動系の制御構成を示すブロック図。
図5A図4でモータ指令値を算出する際に用いられる、操舵角が0°以上のときの操舵角と揺動角と第1補正係数との関係を示す図。
図5B図4でモータ指令値を算出する際に用いられる、舵角が0°以下のときの操舵角と揺動角と第1補正係数との関係を示す図。
図6図4でモータ指令値を算出する際に用いられる、車速と第2補正係数との関係を示す図。
図7図4でモータ指令値を算出する際に用いられる、車速の増加に伴う補正係数の変化の一例を示す図。
図8】車両が傾斜地に位置するときの重力方向の基準線からの揺動角の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1図8を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る車両は、単一の前輪と左右一対の後輪とを有する三輪車両であり、ユーザが立位姿勢で乗車可能に構成される。
【0009】
図1は、本発明の実施形態に係る車両100の全体構成を示す斜視図であり、図2は、正面図である。以下では、図示のように互いに直交する3軸方向を、車両100の前後方向(長さ方向)、左右方向(幅方向)および上下方向(高さ方向)と定義し、この定義に従い各部の構成を説明する。図1は、車両100を左斜め前方から見た図であり、図2は、車両100を前方から見た図である。
【0010】
図1図2に示すように、車両100は、前輪1および後輪2と、車両100の骨格を構成するフレームFLとを有し、車両100の左右方向の中心を通る中心線CL1を基準にして全体が左右対称に構成される。より詳しくは、前輪1は、中心線CL1に沿って配置され、左右の後輪2は中心線CL1を挟んで左右対称位置に配置される。前輪1は後輪2と同径である。なお、前輪1は後輪2よりも小径または大径であってもよい。中心線CL1は、後述する連結部30の揺動中心であり、後方にかけて下り勾配で傾斜して延在する。なお、中心線CL1は、後方にかけて水平に延在してもよく、後方にかけて上り勾配で延在してもよい。フレームFLは、前輪1から後輪2にかけて延在するメインフレーム10と前輪1の上方に立設された縦フレーム20とを有する。
【0011】
メインフレーム10は、前輪1の上方から後方に延在する前フレーム11と、前フレーム11に連なり後輪2にかけて延在する後フレーム12とを有する。前フレーム11は、前方にかけて上り勾配(前上がり)で傾斜して構成される。前フレーム11の前端部11aは、前輪1の上方に位置し、後端部11bは、略水平に延在する。
【0012】
縦フレーム20は、上端部が下端部よりも後方に位置するように、重力方向よりも所定角度だけ後方に傾斜した軸線CL2に沿って延在する略円柱ないし円筒形状のシャフト21を有する。シャフト21は前フレーム11の前端部11aを貫通し、軸線CL2を中心に前フレーム11に回転可能に支持される。シャフト21の上端部には、ハンドル22が設けられ、下端部には、左右一対のフロントフォーク23が固定される。なお、縦フレーム20が、前フレーム11の前端部11aから上方に延在する縦パイプと、縦パイプの内部を貫通するシャフトと、により構成されてもよい。この場合、縦パイプを前フレーム11に一体に設けるとともに、縦パイプ内に軸線CL2を中心としてシャフトを回転可能に設ければよい。
【0013】
前輪1の回転軸1aは、左右一対のフロントフォーク23により回転可能に支持される。前輪1は、ハンドル22の軸線CL2を中心とした回動操作(操舵)により転舵される。ハンドル22は左右方向に略直線状に延在するバーハンドルであり、ハンドル22の左右両端部には、ユーザによって把持される樹脂製ないしゴム製のグリップ22aが設けられる。グリップ22aの前方にはブレーキレバー22bが設けられる。
【0014】
詳細な図示は省略するが、前輪1の内側には、走行モータ4(インホイールモータ)と、ブレーキユニット5とが収納される。例えば左側に走行モータ4が、右側にブレーキユニット5がそれぞれ配置される。車両100は、走行モータ4の駆動により走行する電動車両として構成される。ハンドル22には、グリップ22aないしその近傍に、スロットルレバー24が設けられる。スロットルレバー24は、乗員がグリップ22aを把持しながら操作可能に構成され、スロットルレバー24の操作により車両100の加速指令を含む走行指令が入力される。スロットルレバー24は、操作量を調整可能に設けられ、スロットルレバー24の操作量が大きいほど、走行モータ4の駆動力を大きくするような指令値が入力される。
【0015】
ブレーキユニット5は、例えばドラムブレーキを構成するドラムブレーキユニットとして構成される。なお、後輪2にも同様にブレーキユニット5が設けられる。これらブレーキユニット5は、ブレーキレバー22bの操作により作動し、前輪1および後輪2に制動力が付与される。なお、電動機としての走行モータ4は前輪1でなく後輪2内、または前輪1と後輪2の双方に設けられてもよい。これにより、車両100の牽引能力や登坂能力を向上することができる。
【0016】
縦フレーム20の後面には、ホルダを介して縦長形状のバッテリ6が支持される。バッテリ6は、走行モータ4に供給される電力が蓄えられるリチウムイオン電池などの二次電池である。バッテリ6は、縦フレーム20内を通る電力線を介して走行モータ4に接続される。バッテリ6から走行モータ4に供給される電力は、不図示の電力制御ユニットにより制御される。なお、バッテリ6は縦フレーム20の内部に配置されてもよく、メインフレーム10等、他の構造部材の周辺に配置されてもよい。
【0017】
図示は省略するが、ハンドル22には、メイン電源のオンオフを指令するスタータスイッチや右左折を報知するウィンカースイッチ、走行指令を入力するアクセルレバーなどが、ユーザにより操作可能に設けられる。バッテリ残容量や設定車速等の車両情報を表示する表示部を設けることもできる。また、図示は省略するが、ハンドル22の下方には、ウィンカースイッチの操作により点滅する左右一対のウィンカーランプが設けられ、縦フレーム20の上端部には前照灯が設けられる。
【0018】
後フレーム12は、左右の後輪2の内側を通り後方に延在する。図示は省略するが、後フレーム12の左右両側には、後輪2よりも前方において、左右方向に延在する支持フレーム(例えば前後一対の支持フレーム)が接合される。後フレーム12の後部(例えば後端部)には、左右方向に延在する後輪支持部が接合され、後輪支持部により後輪2の回転軸2aが回転可能に支持される。
【0019】
前後一対の支持フレームの上面には、後フレーム12から左右の後輪2の間にかけて前後方向に、かつ、左右の後輪2間の長さの範囲内で左右方向に延在する平面視略矩形状の板材であるステップ(足置き)25が搭載される。ステップ25は溶接などにより支持フレームに固定され、これによりステップ25の前後方向両端部が、支持フレームを介して後フレーム12から支持される。ステップ25は、立位姿勢のユーザ(乗員)が両足を載せる載置部を構成し、ステップ25の上面(載置面)は、路面101と平行な水平面として構成される。ステップ25は、ユーザの足の所定部分、例えば踵から母指球までが載置可能なようにその前後方向の長さと左右方向の幅とが規定される。
【0020】
メインフレーム10の前フレーム11と後フレーム12とは、連結部30を介して連結される。すなわち、前フレーム11は、連結部30を介して後フレーム12に、前後方向に延在する中心線CL1を中心にして左右方向揺動可能に連結される。連結部30は、前フレーム11の平板部の底面に固定されたナイトハルトゴムばね31を有する。
【0021】
図3は、連結部30に設けられるナイトハルトゴムばね31の概略構成を示す断面図である。図に示すように、ナイトハルトゴムばね31は、前フレーム11の後端部11bに固定された断面略矩形枠状のケース311に内蔵される。ケース311内には、後フレーム12の前端部に固定され、中心線CL1に沿って前後方向に延在する断面略円形状のシャフト312が配置される。なお、後フレーム12の前端部を断面略円形状に構成し、これをシャフト312として用いてもよい。ナイトハルトゴムばね31は、シャフト312と一体に回転可能なようにシャフト312にスプライン結合された略菱形のカムブロック313と、カムブロック313の凹状に形成された各面に対向して配置されたゴムローラ314とを有する。
【0022】
図3は、前フレーム11が揺動していない初期状態であり、このとき図2の実線に示すように縦フレーム20は左右方向に傾斜せず、車両100は基準姿勢である。この初期状態からケース311にトルクが作用して、ケース311が中心線CL1を中心に回動すると、ケース311とカムブロック313との間でゴムローラ314が押圧されて弾性変形し、ゴムローラ314が楕円になる。このとき、前フレーム11が縦フレーム20とともに揺動し、車両100は図2の二点鎖線で示すように傾斜姿勢となる。この場合、ケース311の回転角が大きくなるに従い、ケース311への回転抵抗は大きくなる。ケース311に作用するトルクが0になると、ゴムローラ314は、弾性力により元の形状に復帰し、前フレーム11は基準姿勢に戻る。
【0023】
このようにメインフレーム10の前フレーム11を、連結部30を介して揺動可能に設けることで、立位姿勢で車両100に乗車するユーザは、車両100を左右方向に容易に旋回することができる。例えば、ユーザは車両100を左右方向に旋回するとき、膝および足首を軽く曲げて上半身を左右に傾ける。これにより、後フレーム12と一体のステップ25が水平に保たれたまま、ステップ25に両足を載せた安定した姿勢で、前フレーム11と一体に縦フレーム20を揺動させ、前輪1を左右に傾斜させることができる。その結果、車両100をスムーズに旋回させることができ、旋回性が向上する。
【0024】
また、連結部30にナイトハルトゴムばね31が設けられることで、基準姿勢から前フレーム11を左右方向に揺動させた際に、前フレーム11に復元力が作用し、前フレーム11の揺動を良好に抑えることができる。なお、カムブロック313は四角形状ではなく、他の多角形状(例えば三角形状)に形成されてもよい。カムブロック313の全ての面が凹状に形成されるのではなく、例えば2つの面が凹状に形成され、これら凹状の面に対向してゴムローラ314が配置されてもよい。一例を挙げると、三角形のカムブロックに形成した2つの面に配置されてもよい。ナイトハルトゴムばね31ではなく、コイルばね等の弾性部材により、前フレーム11に復元力を作用させるようにしてもよい。すなわち、復元力付与部の構成はナイトハルトゴムばね31に限らない。
【0025】
図示は省略するが、立位姿勢のユーザの自重によりステップ25に作用する荷重点(足裏から作用する荷重の中心点)は、平面視で前輪1の接地点と左右一対の後輪2のそれぞれの接地点とを結ぶ三角形の領域内に位置する。これにより、走行中および停車中のいずれにおいても、ユーザは車両100に安定した姿勢で乗車することができる。
【0026】
縦フレーム20は、前フレーム11の前端部11aの上方の回動機構201を介して後方(図1の矢印A方向)に回動可能に設けられる。これにより車両100を図1の走行姿勢から折り畳み姿勢にすることができる。折り畳み姿勢では、縦フレーム20が左右の後輪2の間に、後フレーム12と略平行に配置される。折り畳み姿勢の車両100を、後輪2を支点にして起立させ、前輪1を上方に配置して後輪2を転がすことで、車両100を容易に運搬できる。なお、前フレーム11の前端部には、車両100の運搬時に把持される取っ手14が設けられる。
【0027】
ところで、本実施形態では、ハンドル22が軸線CL2を中心にして左右方向に操舵可能かつ縦フレーム20が中心線CL1を中心にして左右方向に揺動可能に設けられる。このため、車両100の発進時や旋回時に、操舵角と揺動角の関係が適切でない状態で、スロットルレバー24が操作(スロットル操作)された場合に、車両100の安定性が低下するおそれがある。具体的には、ハンドル22が左方に操舵され、縦フレーム20が右方に揺動された状態で、スロットルの操作が行われると、車両100の遠心力の変化が大きくなり、車両100の安定性が低下するおそれがある。そこで、操舵角と揺動角との関係が適切でない状態での車両100の安定性の低下を抑えるため、本実施形態は以下のように構成する。
【0028】
以下では、図1に示すように、前後方向に延在する軸線L1からのハンドル22の操作量を操舵角θsと定義するとともに、ハンドル22が左方へ操作されたときの操舵角θsをプラスの操舵角、右方へ操作されたときの操舵角θsをマイナスの操舵角と定義する。また、図2に示すように、上下方向に延在する軸線L2からの縦フレーム20の揺動量を揺動角θrと定義するとともに、縦フレーム20が左方へ揺動されたときの揺動角θrをプラスの揺動角、右方へ揺動されたときの揺動角θrをマイナスの揺動角と定義する。
【0029】
図4は、走行モータ4の駆動を制御する電力制御ユニットに設けられるコントローラ40の構成を概略的に示すブロック図である。コントローラ40は、CPU等の演算部と、ROM,RAM等の記憶部と、その他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。図4に示すように、コントローラ40には、スロットルセンサ41と、操舵角センサ42と、揺動角センサ43と、車速センサ44とからの信号が入力される。
【0030】
スロットルセンサ41は、スロットルレバー24に設けられ、スロットルレバー24の操作量に応じた指令値(スロットル指令値Th)を検出する。操舵角センサ42は、例えばシャフト21に設けられ、ハンドル22の操作によるシャフト21の回動量、すなわち操舵角θsを検出する。揺動角センサ43は、連結部30に設けられ、揺動角θrを検出する。車速センサ44は、前輪1の回転軸1aまたは走行モータ4に設けられ、回転軸1aまたは走行モータ4の回転速度から車速vを検出する。
【0031】
コントローラ40は、これらセンサ41~44からの入力信号に応じて所定の処理を実行し、走行モータ4の駆動を制御する。走行モータ4は、例えばロータとロータの周囲に配置されたステータとを有する埋込磁石同期モータであり、コントローラ40を介してバッテリ6からステータのコイルに供給される電力により駆動する。なお、磁石を有しない同期リラクタンスモータやスイッチドリラクタンスモータ等を走行モータ4として用いることもできる。
【0032】
コントローラ40は、センサ42~44により検出された操舵角θsと揺動角θrと車速vとに基づいて、スロットル指令値Thを補正するための補正係数γを算出する。具体的には、操舵角θsと揺動角θrとをパラメータとした関数f(θs,θr)を用いて、演算部40Aで第1補正係数αを算出し、車速vをパラメータとした関数g(v)を用いて、演算部40Bで第2補正係数βを算出する。さらに、演算部40Cで、αのβ乗を補正係数γとして算出する。さらに演算部40Cは、この補正係数γを、スロットル指令値Thに乗算した補正後のスロットル指令値Th'(モータ指令値と呼ぶ)を算出し、これをモータ出力部40Dに出力する。モータ出力部40Dは、モータ指令値Th'に応じた駆動トルクを走行モータ4が出力するように走行モータ4を制御する。
【0033】
図5A図5Bは、操舵角θsと揺動角θrと第1補正係数αとの関係を表す特性の一例を示す図である。特に、図5Aは、操舵角θsが0°以上のとき(左方に操舵されたとき)の特性であり、図5Bは、操舵角θsが0°以下のとき(右方に操舵されたとき)の特性である。具体的には、図5Aの特性f10(実線),f11(点線),f12(一点鎖線),f13(二点鎖線)は、それぞれ操舵角θsが0°,10°,20°,30°のときの揺動角θrとαとの関係を示し、図5Bの特性f20(実線),f21(点線),f22(一点鎖線),f23(二点鎖線)は、それぞれ操舵角θsが0°,―10°,-20°,-30°のときの揺動角θrとαとの関係を示す。これらの特性は予めメモリに記憶されている。
【0034】
第1補正係数αは、0より大きく、かつ、1以下の範囲で算出され、第1補正係数αが大きいほど、補正係数γおよびモータ指令値Th'は大きくなる。図5A図5Bに示すように、操舵角θsが0°のとき(特性f10,f20)、揺動角θrが小さい領域では、αは1ないしほぼ1であり、揺動角θrの大きさ(絶対値)の増加に伴い、αは徐々に減少する。したがって、揺動角θrの大きさが所定値以上になると、モータ指令値Th'は小さくなり、モータ出力が抑制される。
【0035】
操舵角θsと揺動角θrの符号が互いに同一であるとき、すなわち、図5Aでは揺動角θrがプラスのとき、図5Bでは揺動角θrがマイナスのとき、各特性f11~f13,f21~f23とも、特性f10,f20と同様、揺動角θrが小さい領域では、αはほぼ一定であり、揺動角θrの大きさの増加に伴い、αは徐々に減少する。但し、同一の揺動角θrで比較すると、操舵角θsの増加に伴いαは小さくなる。換言すると、操舵角θsの増加に伴いαの減少割合は大きくなる。その結果、操舵角θsの大きさの増加に伴い補正係数γおよびモータ指令値Th'が小さくなり、モータ出力が抑制される。
【0036】
一方、操舵角θsと揺動角θrの符号が互いに異なるとき、すなわち、図5Aでは揺動角θrがマイナスのとき、図5Bでは揺動角θrがプラスのとき、各特性f11~f13,f21~f23とも、揺動角θrの大きさの増加に伴い、αの一定区間がほとんどなく、例えば下に凸の放物線ないし反比例のグラフにより近似される曲線に沿って、αが急激に減少する。この減少割合は、操舵角θsと揺動角θrの符号が互いに同一であるときの減少割合よりも大きい。なお、同一の揺動角θrで比較すると、操舵角θsの増加に伴いαは小さくなる。このように操舵角θsと揺動角θrの符号が互いに異なるとき、揺動角θrの大きさの増加に伴いαが急激に減少するため、操舵角θsと揺動角θrの符号が同一であるときに比べモータ出力が大きく抑制される。
【0037】
図6は、車速vと第2補正係数βとの関係を表す特性の一例を示す図である。この特性は、予めメモリに記憶されている。第2補正係数βは0以上かつ1以下の範囲で設定される。図6に示すように、第2補正係数βは、車速vが低い領域では1ないしほぼ1であり、車速vの増加に伴い徐々に減少する。より詳しくは、車速vが低い領域ではβはほぼ一定であり、車速vが所定値以上になると、車速vの増加に伴いβが急激に減少する。
【0038】
図7は、操舵角θsが所定角(例えば-30°)のときの揺動角θrと車速vと補正係数γ(=α^β)との関係を示す特性の一例を示す図である。図7の特性h0(実線),h1(点線),h2(一点鎖線),h3(二点鎖線)は、それぞれ車速が0km/h,10km/h、20km/h,25km/hのときの揺動角とγとの関係を示す。この特性は、第1補正係数αの特性(図5A図5B)および第2補正係数βの特性(図6)より得られる。図7に示すように、車速vの増加に伴い、補正係数γは大きくなる。これにより、車速vの増加に伴いモータ指令値Th’が増加し、モータ出力の抑制の程度が小さくなる。
【0039】
このように本実施形態では、ハンドル22の操舵方向と縦フレーム20の揺動方向とが異なるとき、操舵方向と揺動方向とが同一であるときよりも、スロットルレバー24の操作時のモータ指令値Th'が小さくなり、モータ出力が抑制される。例えばハンドル22が左方に操舵され、縦フレーム20が右方に揺動された状態で、急なスロットル操作が行われたとき、モータ出力が抑制される。これにより、車両100の遠心力の変化が小さくなり、車両100の安定性の低下を防ぐことができる。
【0040】
また、車速vの増加に伴い、モータ出力の抑制の程度が小さくなるため、ユーザは違和感なく車両100を加速できる。すなわち、車速vが増加すると、スロットル指令値Thの変化に対する車速vの変化は小さくなるため、モータ出力を抑制すると、ユーザがスロットル操作を行っているにも拘わらず、車速が上昇しにくくなり、ユーザは違和感を抱きやすい。この点、本実施形態では車速vが増加するに伴いモータ出力の抑制の割合を小さくするので、ユーザの違和感が抑えられる。なお、車速vが速いと、スロットルレバー24の操作時の遠心力の変化は小さいので、モータ出力の抑制の程度を小さくしても、車両100の安定性への影響は少なく問題とならない。
【0041】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態に係る車両100は、前輪1および後輪2と、前輪1の上方に配置されたハンドル22と、乗員(ユーザ)の足が載置されるステップ25と、前輪1を回転可能に、かつ、ハンドル22によって操舵可能に支持する前フレーム11、縦フレーム20と、前フレーム11の後方に配置され、後輪2を回転可能に支持する後フレーム12と、前後方向に延在する中心線CL1を中心にして後フレーム12に対し前フレーム11および縦フレーム20を左右方向に揺動可能に連結する連結部30と、前輪1を駆動する走行モータ4と、乗員の操作により加速指令を含む走行指令が入力されるスロットルレバー24と、スロットルレバー24により入力された走行指令(スロットル指令値Th)に応じた駆動力を発生するように走行モータ4を制御するコントローラ40と、ハンドル22の左右方向の操舵角θsを検出する操舵角センサ42と、縦フレーム20の左右方向の揺動角θrを検出する揺動角センサ43と、を備える(図1,4)。コントローラ40は、操舵角センサ42により検出された操舵角θsと揺動角センサ43により検出された揺動角θrとに応じて、スロットルレバー24により入力されたスロットル指令値Thに応じた駆動力よりも低減された駆動力を発生するように走行モータ4を制御する(図4)。
【0042】
この構成により、縦フレーム20が揺動可能かつ前輪1が転舵可能に設けられた車両100において、旋回走行時などに揺動方向と転舵方向とが一致しない状態でスロットルレバー24が急操作されたとき、車速の増減に伴い遠心力が大きく変化することを抑制できる。その結果、操舵角と揺動角に対する車速の関係が不適切となるような加減速操作を抑制し、車両100の姿勢が不安定となることを抑制できる。
【0043】
(2)コントローラ40は、操舵角センサ42および揺動角センサ43の検出値により求められるハンドル22の操舵方向と縦フレーム20の揺動方向とが同一方向でないとき、操舵方向と揺動方向とが同一方向であるときよりも、同一の加速指令に対する駆動力が低減されるように走行モータ4を制御する(図5A図5B)。これにより、例えばハンドル22が左方に操舵され、縦フレーム20が右方に揺動された状態で、スロットル操作が行われた場合に、車速の増減が抑制されることから遠心力の変化は小さく、車両100の姿勢が不安定となることを抑制できる。
【0044】
(3)コントローラ40は、操舵角センサ42により検出された操舵角θsが大きいほど、スロットル指令値Thに対する駆動力の低減割合を大きくする(図5A図5B)。操舵角θsが大きいほど車速の増減に対し車両姿勢が不安定になりやすいが、モータ出力が大きく抑制されることで、操舵角θsが大きい場合の車両姿勢を安定化できる。
【0045】
(4)車両100は、車速vを検出する車速センサ44をさらに備える(図4)。コントローラ40は、さらに車速センサ44により検出された車速vに応じて、スロットルレバー24により入力された加速指令に応じた駆動力よりも低減された駆動力を発生するように、すなわちモータ出力を抑制するように、走行モータ4を制御する(図4図6)。このように操舵角θsと揺動角θrとに加え車速vを考慮して走行モータ4を制御することで、スロットルレバー24が急操作された場合に車両姿勢が不安定になることを適切に防止できる。
【0046】
(5)コントローラ40は、車速センサ44により検出された車速vが遅いほど、加速指令に対する駆動力の低減割合を大きくする(図6図7)。これにより車両100の加速を必要以上に抑えることなく、車両姿勢が不安定になることを防止できる。
【0047】
なお、上記実施形態では、操舵角θsと揺動角θrと車速vとに基づいて制御部としてのコントローラ40がスロットル指令値Thの補正係数γを算出するようにしたが、車速vを考慮せずに操舵角θsと揺動角θrとに基づいて補正係数γを算出するようにしてもよい。操舵角θsと揺動角θrと車速vとに基づいて、あるいは操舵角θsと揺動角θrとに基づいて補正係数γを算出する場合に、重力方向を考慮した揺動角(θrgで表す)を用いてもよい。以下、この点について説明する。
【0048】
図8は、水平線に対する路面のなす角(傾斜角)がθgである傾斜地に位置する車両100の正面図である。図8では、車両100の左右方向が路面(傾斜面)の傾斜方向に一致している。この状態では、重力方向に沿って延びる基準線L3からの縦フレーム20の角度が揺動角θrgとして定義される。この揺動角θrgは、路面の傾斜角θgを検出する傾斜センサ(不図示)の値を用いることで算出できる。すなわち、傾斜センサの検出値(θg)と揺動角センサ43の検出値(θr)とにより、重力方向に対する縦フレーム20の揺動角θrgを算出できる。なお、傾斜センサは、例えば後フレーム12に設けられた振り子式やフロート式のものを用いることができる。ジャイロセンサや重力式のバンク角センサを用いて、揺動角θrgを算出してもよい。すなわち、基準線L3からの揺動角θrgを検出する揺動角検出部の構成はいかなるものでもよい。
【0049】
このように重力方向に延在する基準線L3からの揺動角θrgを検出(算出)するように構成することで、車両100が左右方向に傾斜した路面を走行する場合に、傾斜角θgに応じてモータ出力を良好に抑制することができる。例えば上り傾斜側に縦フレーム20が揺動している場合の揺動角θrgの大きさは、非傾斜地を走行しているときの揺動角θrの大きさよりも小さくなり、走行モータ4の出力を抑制しすぎることを防止できる。
【0050】
上記実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、いくつかの変形例について説明する。上記実施形態では、操舵部としてのハンドル22をバー状に構成したが、操舵部の構成はこれに限らない。上記実施形態では、一枚の板材によりステップ25(載置部)を構成したが、載置部を左右に分割して設けてもよい。上記実施形態では、前フレーム11と縦フレーム20とにより、前輪1を回転可能に、かつ、ハンドル22によって操作可能に支持するようにしたが、第1部材の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、後フレーム12により後輪2を回転可能に支持するようにしたが、第2部材の構成はこれに限らない。
【0051】
上記実施形態では、ナイトハルトゴムばね31が設けられた連結部30により、中心線CL1(軸線)を中心にして第2部材(後フレーム12)に対し第1部材(前フレーム11)を揺動可能に連結するようにしたが、ナイトハルトゴムばね以外の付勢部材を用いてもよく、連結部の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、前輪1に走行用アクチュエータとして走行モータ4を設けたが、前輪1および後輪2の少なくとも一方を駆動するように設けられるのであれば、走行用アクチュエータの構成は上述したものに限らない、ブレーキ(ブレーキユニット5)も車両の走行動作に寄与するものであり、走行用アクチュエータに含まれる。したがって、コントローラ40が走行モータ4に加え、あるいは走行モータ4に代えて、ブレーキを制御するようにしてもよい。走行モータ4に代えて原動機を、走行用アクチュエータとして用いてもよい。
【0052】
上記実施形態では、ハンドル22に設けられたスロットルレバー24の操作により加速指令を含む走行指令を入力するようにしたが、ペダルの足踏み操作により走行指令を入力するようにしてもよく、入力部の構成は上述したものに限らない。走行指令に加速指令だけでなく減速指令が含まれてもよい。上記実施形態では、操舵角センサ42により操舵角θsを検出するようにしたが、操舵角検出部の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、揺動角センサ43により揺動角θrを検出するようにしたが、揺動角検出部の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、車速センサ44により車速vを検出するようにしたが、車速検出部の構成は上述したものに限らない。
【0053】
上記実施形態では、操舵角θsと揺動角θrとをパラメータとして図5A図5Bの特性に基づき第1補正係数αを算出したが、αを他の特性に基づいて算出してもよい。上記実施形態では、車速vをパラメータとして図6の特性に基づき第2補正係数βを算出したが、βを他の特性に基づいて算出してもよい。上記実施形態では、第1補正係数αと第2補正係数βとを用いてスロットル指令値Thの補正係数γを算出するようにしたが、モータ指令値Th'を算出するための補正係数の算出式は上述したものに限らない。第1補正係数αと第2補正係数βとに分けずに、補正係数γを算出してもよい。算出式を用いずにマップ等を用いて補正係数γを算出するようにしてもよい。したがって、制御部の構成は上述したものに限らない。
【0054】
本実施形態において、車両姿勢を不安定化するものは、車速の増減に対し、操舵角および揺動角が不適切な状態であることに起因する。そこで、車両姿勢の安定性を高めるために、操舵角の回動中心である軸部または揺動角の回動中心である軸部もしくはその両方に対し、不図示のアクチュエータによりトルクを付与し、操舵角と揺動角が不適切な状態とならないよう補助するようにしてもよい。すなわち、例えば揺動角が不十分な場合は、揺動角が大きくなる方向にトルクを付与する一方、操舵角が大きすぎる場合は操舵角を減少させる方向にトルクを付与し、操縦を補助するようにしてもよい。これにより、操舵角と揺動角が適切な状態に近づけば、上述の制御によるスロットル操作に対する出力抑制量は少なくなる。
【0055】
上記実施形態では、単一の前輪1と左右一対の後輪2とを有するように車両100を構成したが、単一の前輪と単一の後輪、あるいは一対の前輪と単一の後輪とを有するように車両を構成することもできる。なお、単一の前輪には、例えば1か所に設けられた一対の前輪、すなわちペア前輪も含まれる。
【0056】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 前輪、2 後輪、11 前フレーム、12 後フレーム、20 縦フレーム、22 ハンドル、24 スロットルレバー、25 ステップ、30 連結部、40 コントローラ、42 操舵角センサ、43 揺動角センサ、44 車速センサ、100 車両
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8