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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-25
(45)【発行日】2025-01-09
(54)【発明の名称】車両用ヒップレスト
(51)【国際特許分類】
   B61D 33/00 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
B61D33/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024023800
(22)【出願日】2024-02-20
【審査請求日】2024-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125737
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 昭博
(72)【発明者】
【氏名】山口 陽子
(72)【発明者】
【氏名】中垣 望
(72)【発明者】
【氏名】西村 匡
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-141762(JP,A)
【文献】特開2021-075070(JP,A)
【文献】特開2019-171951(JP,A)
【文献】特開2016-068737(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0042790(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第113978323(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 33/00
B61D 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室を形成する車室内壁に沿って上下に並んだ2本の手すりに取り付けられ、乗客の臀部を支持可能な車両用ヒップレストであって、
弾性のあるクッション部と、
一方側に前記クッション部が位置する板状の支持フレームと、
前記支持フレームの上部に位置し、前記2本の手すりのうち上側の手すりに、着脱可能に引っ掛かるフック溝を有する上側フック部と、
前記支持フレームにおいて、前記上側フック部よりも下方に位置し、前記上側フック部が前記上側の手すりに引っ掛かった状態で前記2本の手すりのうち下側の手すりに着脱可能に係合する下側係合部と、を備え、
前記上側フック部は、
前記支持フレームの上端部裏面側において、後方に延びる延設部と該延設部の裏面の遠位端部から下方に延びる指かけ部とによって形成された前記フック溝が、前記上側の手すりに対して回転可能に引っ掛けられる、
ことを特徴とする車両用ヒップレスト。
【請求項2】
車室を形成する車室内壁に沿って上下に並んだ2本の手すりに取り付けられ、乗客の臀部を支持可能な車両用ヒップレストであって、
弾性のあるクッション部と、
一方側に前記クッション部が位置する板状の支持フレームと、
前記支持フレームの上部に位置し、前記2本の手すりのうち上側の手すりに、着脱可能に引っ掛かるフック溝を有する上側フック部と、
前記支持フレームにおいて、前記上側フック部よりも下方に位置し、前記上側フック部が前記上側の手すりに引っ掛かった状態で前記2本の手すりのうち下側の手すりに着脱可能に係合する下側係合部と、を備え、
前記上側フック部は、
前記上側の手すりを前記支持フレームにおける前記一方側と反対の他方側から前記フック溝に挿入することで、前記上側の手すりを中心として回転可能に引っ掛かる形状であり、
前記支持フレームにおける左右方向の両端において、前記他方側で延びる側壁部を備え、
前記側壁部よりも左右方向の内側で、前記側壁部に沿って高さ方向に延設し、弾性のある弾性詰物を備える、
ことを特徴とする車両用ヒップレスト。
【請求項3】
前記上側フック部における、前記フック溝を構成する端部は、前記クッション部により覆われている、請求項1又は請求項2に記載の車両用ヒップレスト。
【請求項4】
前記側壁部は、高さ方向において前記上側フック部に向く端部が、前記上側フック部の先端よりも高さ方向に所定距離だけ離間して位置しており、
前記弾性詰物は、前記側壁部の前記上側フック部に向く端部よりも突出することで抜け止め部を形成していることを特徴とする請求項2に記載の車両用ヒップレスト。
【請求項5】
前記下側係合部は、
前記支持フレームから延びる板ばね部を有し、
前記上側フック部が引っ掛けられた前記上側の手すりを中心に前記車両用ヒップレストを回転させることで、前記板ばね部を前記下側の手すりの上方又は下方から当接させて、前記下側の手すりに係合する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用ヒップレスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内に取り付けられ、乗客の臀部を支持可能な車両用ヒップレストに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車室内で不審者に遭遇した場合に座フレームからシートクッションを取り外すことで、乗客の身を守る盾として使用することが可能な鉄道車両用シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-59284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明では、車室内にシートが設けられていることを前提としており、例えば、多目的スペースといったシートが設けられていない車室においては適用することができない。
【0005】
本発明は、上記課題を解決すべく、車室内に装着され、緊急時には乗客や乗務員の身を守る盾として用いることが可能な車両用ヒップレストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本実施形態に係る車両用ヒップレストは、車室を形成する車室内壁に沿って上下に並んだ2本の手すりに取り付けられ、乗客の臀部を支持可能な車両用ヒップレストである。車両用ヒップレストは、弾性のあるクッション部と、一方側にクッション部が位置する板状の支持フレームと、支持フレームの上部に位置し、2本の手すりのうち上側の手すりに、着脱可能に引っ掛かるフック溝を有する上側フック部と、支持フレームにおいて、上側フック部よりも下方に位置し、上側フック部が上側の手すりに引っ掛かった状態で2本の手すりのうち下側の手すりに着脱可能に係合する下側係合部と、を備えている。上側フック部は、上側の手すりを、支持フレームにおける一方側と反対の他方側からフック溝に挿入することで、上側の手すりを中心として回転可能に引っ掛かる形状である。
【0007】
本発明者は、車室内に装着され、乗客の臀部を支持するヒップレストを盾として使用することを想到した。車両用ヒップレストでは、上側の手すりを反対側から上側フック部のフック溝に挿入することで、この上側の手すりに引っ掛けた状態で回転させ、下側の手すりを下側係合部に係合させることで、車室内の2本の手すりに装着させて、乗客の臀部を支持するヒップレストとして使用することができる。一方、車両用ヒップレストを盾として使用する場合、乗客は、下側係合部による下側手すりの係合を解除し、上側フック部における上側の手すりへの引っ掛かりを解除した後、上側フック部のフック溝に指をかけるなどして、車両用ヒップレストを自身の前方に保持する。そのため、乗客又は乗務員は、クッション部や支持フレームを自身の前方に保持した状態で車両用ヒップレストを盾として用いることができる。これにより、平常時は、車両用ヒップレストを、2本の手すりを介して車室内に装着させることができ、緊急時には、2本の手すりから取り外すことで乗客や乗務員を守る盾として使用することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、平常時には2本の手すりを介して車室内に装着でき、緊急時には2本の手すりから取り外すことで、乗客や乗務員の身を守る盾として使用することができる車両用ヒップレストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ヒップレストが取り付けられた多目的スペースを説明する図である。
図2】ヒップレストの六面図である。
図3図2(b)のA-A‘線での断面図である。
図4】支持フレームの斜視図である。
図5】ヒップレストの2本の手すりへの取り付けを説明する図である。
図6】盾として使用されるヒップレストを説明する図である。
図7】第2実施形態に係るヒップレストの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
本実施形態に係る車両用ヒップレストの実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、ヒップレスト10が取り付けられる多目的スペースを説明する図である。図2は、ヒップレスト10の六面図である。図2(a)は、ヒップレスト10の平面図であり、図2(b)は、ヒップレスト10の正面図である。図2(c)は、ヒップレスト10を右側から見た右側面図であり、図2(d)は、ヒップレスト10の底面図である。図2(e)は、ヒップレスト10の背面図である。なお、ヒップレスト10は、右側から見た外観と左側から見た外観が実質的に同じ(鏡像)であるため、図2において、ヒップレスト10を左側から見た左側面図を省略している。図3は、図2(b)で示す正面図における、A-A‘線での断面図である。
【0011】
図1に示すように、ヒップレスト10は、鉄道車両の車室のうち、多目的スペースTMに設置され、乗客の臀部を支持することが可能な装置である。ここで、多目的スペースTMは、鉄道車両の車室のうち、車椅子やベビーカー等を使用する乗客の利用を目的としたスペースであり、例えば、車両の前後方向の端部に設けられている。以下では、ヒップレスト10が多目的スペースTM内に取り付けられた状態、即ち、取り付け状態での上下の方向を高さ方向D1とし、左右の方向を左右方向D2とし、前後の方向を前後方向D3と記載する。
【0012】
多目的スペースTM内において、ヒップレスト10は車室内壁NHに沿って上下に並んで配置された2本の手すり91、92に装着されている。2本の手すり91、92は、断面が円形のパイプであり、車室内壁NHに沿って略水平に延設して取り付けられている。以下では、高さ方向D1に並んだ2本の手すりのうち、上側に位置する手すりを「上側手すり」91と称し、下側に位置する手すりを「下側手すり」92と称す。
【0013】
図2(a)~(e)に示すように、ヒップレスト10は、乗客の臀部を支持するクッション部40と、支持フレーム11とを主に備えている。図3図4に示すように、支持フレーム11は、ヒップレスト10の正面視において略矩形状の板状部材であり、クッション部40が位置する前面16と、この前面16よりも反対側に向く裏面17とを有している。本実施形態では、支持フレーム11における「前面16側」が一方側の一例であり、「裏面17側」が他方側の一例である。
【0014】
支持フレーム11は、例えば、スチール、ステンレス、アルミ等の金属により形成されている。これに代えて、支持フレーム11は、強化プラスチックといった硬質の樹脂や、炭素繊維に樹脂を複合させた材料により形成されていてもよい。更には、支持フレーム11は、金属、樹脂、炭素繊維を複合して形成されていてもよい。
【0015】
図4は、支持フレーム11を裏面17側から見た斜視図である。支持フレーム11は、その上部に上側手すり91に着脱可能に引っ掛かる上側フック部12と、上側フック部12よりも下方に位置し、下側手すり92に着脱可能に係合する下側係合部13と、を備えている。本実施形態では、上側フック部12は、クッション部40(厳密には、後述する表皮41)に覆われており、その一部で、上側手すり91と上側フック部12との間にクッション部40とが介在した状態で、上側手すり91に引っ掛かっている。そのため、「上側フック部12が上側手すり91に引っ掛かる」とは、クッション部40が介在した状態で、上側フック部12が上側手すり91に引っ掛かっていることを含む概念である。
【0016】
上側フック部12は、上側の手すり91に着脱可能に引っ掛かるフック溝22を有している。上側フック部12は、上側手すり91を裏面17側からフック溝22に挿入することで、この上側手すり91に対して回転可能に引っ掛かることが可能な形状である。具体的には、上側フック部12は、裏面17側で前後方向D3に延びる延設部20と、延設部20の裏面17から遠位の端部から高さ方向D1において下方に延びる指かけ部21とを有しており、延設部20と指かけ部21とが支持フレーム11の上端部とともにフック溝22を形成している。本実施形態では、延設部20と指かけ部21とのそれぞれの左右方向D2での寸法は、支持フレーム11の左右方向D2での寸法と略同一となっている。これ以外にも、延設部20と指かけ部21とのそれぞれの左右方向D2での寸法は、支持フレーム11の左右方向D2での寸法よりも短くともよい。
【0017】
支持フレーム11の左右方向D2における両端には、裏面17側で前後方向D3に所定長さだけ延設する2つの側壁部14が設けられている。側壁部14は、厚みの薄い薄板形状の部位である。側壁部14における、支持フレーム11からの前後方向D3に延びる先端は、上側フック部12の前後方向D3での先端よりも出ている。
【0018】
側壁部14における上側フック部12側の先端(言い換えると、高さ方向D1において上側フック部12側の先端)は、高さ方向D1で、上側フック部12の先端(即ち、指かけ部21の下端)から離間して位置しており、上側手すり91をフック溝22に挿入する場合でも、上側手すり91に干渉しない位置となっている。側壁部14は、上側フック部12側の先端が、前後方向D3で支持フレーム11の裏面17に近づくほど、高さ方向D1で上側に傾斜する傾斜部23を有している。言い換えると、傾斜部23は、前後方向D3において、先端から支持フレーム11の裏面17に向けて近づくに従い、フック溝22に近づくよう傾斜している。これにより、後述するように、上側手すり91を側壁部14の傾斜部23に沿ってフック溝22に誘導することで、上側手すり91をフック溝22に挿入させ易くすることができる。
【0019】
側壁部14の下方には、下側手すり92が挿入可能な挿入切り欠き24が設けられている。挿入切り欠き24は、側壁部14における前後方向D3での延設部20の裏面17から遠位の端部で開口しており、下側手すり92の断面の直径に応じた上下方向D1の幅を有し、延設部20の裏面17側の端部は下側手すり92の断面の直径に応じた内径を有する半円形状である。
【0020】
支持フレーム11の下端には、裏面17側で前後方向D3に延設する底壁部15が設けられている。底壁部15の前後方向D3での延設寸法は、側壁部14の前後方向D3での寸法と略同寸となっている。なお、支持フレーム11の下端に、底壁部15が設けられていなくともよい。
【0021】
本実施形態では、支持フレーム11の元となる平板状の基材を曲げ加工することで、上側フック部12、側壁部14、及び底壁部15が形成されている。なお、支持フレーム11に対して、上側フック部12、側壁部14、底壁部15のそれぞれを溶接等により接合するものであってもよい。支持フレーム11を強化プラスチック等の硬質の樹脂により形成する場合、支持フレーム11を含む各部12、14、15は一体成形されればよい。
【0022】
支持フレーム11の裏面17において、上側フック部12よりも高さ方向D1で下側には、下側手すり92と係合する下側係合部13が取り付けられている。本実施形態では、2つの下側係合部13が、左右方向D2に並んで裏面17に取り付けられている。下側係合部13は、支持フレーム11との螺合に用いられるねじが貫通する取付台座25と、取付台座25から交差する向きに延び、下側手すり92に対して弾性押圧力を与える板ばね部26とを有している。板ばね部26は、側面視において、下側手すり92の断面形状に応じて下方に湾曲する湾曲形状となった板ばねである。
【0023】
下側係合部13は、支持フレーム11の裏面17において、側壁部14の挿入切り欠き24を貫通する下側手すり92を板ばね部26により下方から当接できる位置に取り付けられている。これにより、下側係合部13は、板ばね部26により、挿入切り欠き24を貫通する下側手すり92に対して上方向での押圧力を与えることで、下側手すり92に係合することができる。
【0024】
図4に示すように、支持フレーム11において、2つの側壁部14よりも左右方向D2で内側には弾性詰物30が取り付けられている。弾性詰物30は、例えば、直方体形状であり、その長手辺を高さ方向D1において側壁部14に沿って配置されている。弾性詰物30は、ポリウレタン等の弾性のある材料で形成されている。
【0025】
弾性詰物30における上側フック部12側の端は、側壁部14の傾斜部23よりも高さ方向D1で突き出ることで抜け止め部31を形成している。本実施形態では、抜け止め部31の高さ方向D1での端部は、指かけ部21の下端から所定距離だけ離間した位置となっている。後述するように、上側手すり91を裏面17側から指かけ部21と傾斜部23との隙間に挿入して、フック溝22に挿入する場合に、抜け止め部31が弾性変形することで、上側手すり91をフック溝22に向けて挿入させることができる。なお、弾性詰物30の下部には、側壁部14の挿入切り欠き24の形状に応じた切り欠き32が設けられており、この切り欠き32に下側手すり92を挿入可能となっている。
【0026】
図3に戻り、支持フレーム11の前面16側には、クッション部40が取り付けられている。クッション部40は、表皮41(後述する41A、41B、41C、41D)と、パッド42とを有している。表皮41は、生地や織物等のファブリックで形成されており、支持フレーム11における前面16側の全域を覆っている。具体的には、表皮41は、中央表皮41Aと、この中央表皮41Aの周辺に設けられた上部表皮41B、側部表皮41C、下部表皮41Dを有している。なお、各図において、表皮41の全体を示す場合は「41」を付し、表皮41の各部を示す場合は、符号の末尾に「A、B、C、D」を付している。
【0027】
中央表皮41Aは、クッション部40において、乗客の臀部及び背中を支持する部位であり、パッド42の形状に応じた形状となっている。パッド42は、表皮41の内側でクッション部40における外形(後述する、第1凸部40A、第2凸部40B)を形づくる部位である。図3に示すように、パッド42は、表皮41と支持フレーム11との間で、前面16の全域を覆うと共に、その上端部が、上側フック部12における延設部20の上面部を覆い、指かけ部21先端まで及んでいる。更に、パッド42の下端部は、底壁部15の下面を覆い、底壁部15の支持フレーム11とは反対側の端部まで及んでいる。パッド42は、例えば、弾性のあるポリウレタン等により形成されている。
【0028】
図2(a)、(c)、図3に示すように、パッド42により形成されるクッション部40の形状のうち、第1凸部40Aは、クッション部40の上部において、支持フレーム11の前面16側で突出する凸形状である。第2凸部40Bは、第1凸部40Aよりも下方において、前面16側で突出する凸形状である。これにより、図2(c)に示すように、クッション部40は、側面視において、下側が上側よりも突出する湾曲形状となっている。なお、クッション部40の形状は、第1凸部40A及び第2凸部40Bを有する形状に限らず、3個以上の凸部を備えることで側面視において湾曲する形状や、1個の凸部のみを備える形状であってもよい。
【0029】
上部表皮41Bは、上側フック部12を覆うことが可能な部位である。具体的には、上部表皮41Bは、上側フック部12のうち、指かけ部21の先端までを覆っている(例えば、図3で示す)。側部表皮41Cは、側壁部14を覆うことが可能な部位である。本実施形態では、側部表皮41Cは、側壁部14に加え弾性詰物30を覆っている。下部表皮41Dは、底壁部15を覆うことが可能な部位である。表皮41における、各表皮41B~41Dには、面ファスナーといった接合部材が取り付けられている。表皮41は、パッド42を挿入した状態で、面ファスナーを、支持フレーム11や各部12、14、15に取り付けられた面ファスナーに接合させることで、支持フレーム11の前面16側を覆った状態で、支持フレーム11に固定される。
【0030】
次に、ヒップレスト10を、多目的スペースTMの手すり91、92に取り付けて使用する方法を、図5を用いて説明する。まず、図5(a)で示すように、作業者は、ヒップレスト10を、支持フレーム11の裏面17側が車室内壁NHに向いた状態で、表皮41で覆われた上側フック部12の開口に、上側手すり91を挿入して、フック溝22に挿入する。このとき、表皮41に覆われた抜け止め部31は、上側手すり91に当接することで弾性変形し、上側手すり91をフック溝22に挿入し易くなる。上側手すり91がフック溝22に挿入されることで、上側フック部12は上側手すり91を中心として回転可能に係合される。
【0031】
次に、作業者は、フック溝22に挿入された上側手すり91を中心に、ヒップレスト10を、支持フレーム11の裏面17が車室内壁NHに近づくように回転させていく。図5(b)では、ヒップレスト10を、上側手すり91を中心に反時計周りに回転させている。ヒップレスト10の回転により、下側手すり92が下側係合部13の板ばね部26に当接し、この板ばね部26を下方に向けて押し下げる。ヒップレスト10の回転に伴い、下側手すり92が板ばね部26の湾曲する凹部まで達すると、板ばね部26はその弾性力により復元し、下側手すり92に対して上方向での弾性押圧力を加える。板ばね部26により加えられる上方向の弾性押圧力により、ヒップレスト10の上側手すり91を中心とした回転が規制され、ヒップレスト10が上下の手すり91、92に装着される。
【0032】
次に、乗客が、ヒップレスト10を多目的スペースTMから取り外し、盾として使用する方法を説明する。例えば、乗客は、多目的スペースTMにおいて不審者に遭遇した場合、ヒップレスト10と車室内壁NHとの隙間に手を入れ、ヒップレスト10の下部を、手前に向けて引き上げる。これにより、ヒップレスト10は、フック溝22に挿入された上側手すり91を中心に回転し、下側手すり92に対する下側係合部13との係合を解除する。乗客は、ヒップレスト10と車室内壁NHとの隙間に手をいれた際、側壁部14と共に表皮41に覆われた弾性詰物30を把持することができるため、ヒップレスト10を保持し易くなり、ヒップレストを手前に引き出し易い。
【0033】
次に、乗客は、ヒップレスト10を手前に引き上げながら、上側手すり91に対する上側フック部12の引っ掛かりを解除する。乗客が、ヒップレスト10を手前に引き上げることで、抜け止め部31が上側手すり91と当接することで弾性変形し、上側手すり91を上側フック部12の開口から排出させ易くする。また、抜け止め部31よりも固い傾斜部23の傾斜に沿ってヒップレスト10を手前に引きあげることで、上側手すり91が傾斜部23にガイドされ、上側手すり91に対する上側フック部12の引っ掛かりを解除させ易くすることができる。
【0034】
乗客は、図6に示すように、各手すり91、92との装着が解除されたヒップレスト10を、そのクッション部40が自身と反対側に向けた状態で保持する。このとき、乗客は、上側フック部12のフック溝22に手の指を差し込んだ状態で指かけ部21に指をかけるなどして、ヒップレスト10を自身の前方に保持する。これにより、乗客は、クッション部40と支持フレーム11の前面16とを自身の前方に位置させた状態で、ヒップレスト10を保持することができ、前方からの攻撃に対して防御することができる。
【0035】
これにより、座席が配置されていない多目的スペースTMにおいても、乗客は、ヒップレスト10を2本の手すり91、92から取り外して盾として用いることが可能となる。また、ヒップレスト10は、座席のクッションシートよりも小柄であるため、子供や老人といった力の弱い乗客でも、ヒップレスト10を自身の身を守る盾として用いることができる。更には、ヒップレスト10は、平常時において、2本の手すり91、92に装着されることで、座席のクッションシートよりも高い位置に配置されており、乗客がヒップレスト10を取り外す際に、腰をかがめるなどして低い姿勢を取る必要がない。
【0036】
また、支持フレーム11に対して、側壁部14が左右方向D2の両端で延びているため、乗客がフック溝22に手を差し込んで指かけ部21に指をかけた状態でも、乗客の腕は表皮41に覆われた側壁部14と干渉しない。なお、図6では、側壁部14に代えてこの側壁部14を覆う側部表皮41Cを示している。これにより、例えば、乗客がヒップレスト10の裏に身を隠すようにヒップレスト10を自身に近づける場合でも、ヒップレスト10を保持し易い。
【0037】
以上説明した本実施形態では以下の効果を奏することができる。
ヒップレスト10を盾として使用する場合、乗客は、2本の手すり91、92に対するヒップレスト10の装着を解除した後、裏面17側にある上側フック部12のフック溝22に指をかけることで、ヒップレスト10を自身の前方に保持する。これにより、乗客は、クッション部40や支持フレーム11を自身の前方に位置させた状態でヒップレスト10を使用することができ、攻撃から身を守ることができる。
【0038】
上側フック部12の先端を形成する指かけ部21は、クッション部40により覆われている。これにより、クッション部40により覆われた指かけ部21に指をかけることができ、ヒップレスト10を自身の前方に保持し易くなる。
【0039】
ヒップレスト10を盾として使用する場合に、乗客に対して横からの攻撃が加えられても側壁部14により身を守ることができる。また、乗客がフック溝22に指をかけてヒップレスト10を保持する場合でも、表皮41に覆われた側壁部14が乗客の腕に干渉せず、ヒップレスト10を保持し易い。
【0040】
ヒップレスト10は、側壁部14よりも左右方向D2の内側で、側壁部14に沿って高さ方向D1に延設し、弾性のある弾性詰物30を備える。乗客は、2本の手すり91、92からヒップレスト10を取り外す際に、表皮41に覆われた弾性詰物30を把持しながら、ヒップレスト10を手前に引き出すことができ、ヒップレスト10を2本の手すり91、92から取り外し易くなる。
【0041】
ヒップレスト10は、側壁部14の上側フック部12に向く端部よりも上方に突出し、かつ弾性を有する抜け止め部31を備える。これにより、上側手すり91に上側フック部12を引っ掛ける場合に、上側手すり91を抜け止め部31に押し当てることで抜け止め部31が弾性変形し、上側手すり91をフック溝22に向けて挿入し易くすることができる。その後、抜け止め部31は弾性変形により復元することで指かけ部21との隙間を狭めることができ、上側手すり91を上側フック部12から外れにくくすることができる。
【0042】
下側係合部13は、支持フレーム11の裏面17側で前後方向D3に延びる板ばね部26を有し、上側手すり91を中心にヒップレスト10を回転させることで、板ばね部26を下側手すり92の下方から当接させて係合する。これにより、ヒップレスト10を下側手すり92に確実に係合させることができる。
【0043】
(第2実施形態)
第2実施形態では、第1実施形態と同様の構成について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。図7は、第2実施形態に係るヒップレスト10の側面図である。本実施形態では、ヒップレスト10は、支持フレーム11の裏面17であって上側フック部12の下方に、補助持ち手50が設けられている。補助持ち手50は、左右方向D2に延び乗客が握ることができる握り部51と、一対の脚部52とを有している。一対の脚部52は、握り部51の両端から裏面17に向けて延びており、握り部51を裏面17から前後方向D3に所定距離だけ離間させて支持している。
【0044】
上記構成のヒップレスト10では、2本の手すり91、92への装着時には、補助持ち手50が支持フレーム11により隠れることとなるため、外部から目に付きにくく、ヒップレスト10の美観を損ねない。本実施形態では、補助持ち手50は、支持フレーム11に対して、下側係合部13よりも下方(挿入切欠き24と底壁部15との上下方向D1の略中間位置)に取り付けられており、ヒップレスト10を各手すり91、92へ装着する際に、補助持ち手50が、下側係合部13と下側手すり92との係合を阻害しないようになっている。これに限らず、補助持ち手50は、支持フレームに対して、上側フック部12と下側係合部13との間に取り付けられていてもよい。
【0045】
本実施形態に係るヒップレスト10における、多目的スペースTMへの装着及び脱着は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。一方、ヒップレスト10を盾として使用する場合、乗客は、一方の手をヒップレスト10のフック溝22に挿入して指を指かけ部21にかけると共に、他方の手で補助持ち手50を把持することで、ヒップレスト10を自身の前方で保持することができる。
【0046】
以上、本実施形態に係るヒップレスト10について説明したが、ヒップレスト10の実施形態は、これに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
上述の実施形態では、ヒップレスト10は、鉄道車両の多目的スペースTMに取り付けられていた。これに代えて、ヒップレスト10が取り付けられる車両は、バス等の乗客運送に用いられる大型車両のうち、座席が設けられていない多目的スペースTMを有する車両であればどのような車両であってもよい。この場合においても、ヒップレスト10は、多目的スペースTMに設置された2本の手すりに対して着脱可能に装着されることとなる。
【0047】
上側フック部12の形状は、上側手すり91を、支持フレーム11における裏面17前側からフック溝22に挿入することで、この上側手すり91を中心として回転可能に引っ掛かる形状であれば、上述の延設部20と指かけ部21とを有する構成に限定されない。例えば、上側フック部12は、2本の手すり91、92への取り付け状態において、側面視で支持フレーム11から上凸状に湾曲すると共に、裏面17側で開口するフック溝22を有する形状であってもよい。
【0048】
下側係合部13は、下側手すり92に対して下方から当接する板ばね部に代えて、上方から当接する板ばね部を有していてもよい。これ以外にも、下側係合部13は、下側手すり92に対して、上下の位置で当接する板ばね部を有することで下側手すり92に係合してもよい。
【0049】
支持フレーム11は、前面16と裏面17とを有する平板形状に限らず、クッション部40を受けることができ、かつ乗客の身を隠すことができる大きさであればどのような形状であってもよい。ヒップレスト10は、側壁部14を備えていなくともよい。
【0050】
上述の実施形態では、乗客がヒップレスト10を盾として使用する場合を例に説明を行ったが、乗客に代えて乗務員がヒップレスト10を盾として使用する場合も同様である。
【符号の説明】
【0051】
10…ヒップレスト、11…支持フレーム、12…上側フック部、13…下側係合部、14…側壁部、16…前面、17…裏面、22…係合溝、40…クッション部、NH…車室内壁、TM…多目的スペース


【要約】
【課題】車室内に装着され、緊急時には乗客や乗務員の身を守る盾として用いることが可能な車両用ヒップレストを提供することを目的とする。
【解決手段】ヒップレスト10は、クッション部40を受ける前面16と、前面16と反対側に向く裏面17とを有する支持フレーム11と、支持フレームの上部で上側手すり91に着脱可能に引っ掛かる上側フック部12と、下側手すり92に着脱可能に係合する下側係合部13と、を備えている。ヒップレスト10の上側フック部12は、フック溝22に挿入された上側手すり91を中心として回転可能に引っ掛かる。
【選択図】図3

図1
図2
図3
図4
図5
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図7