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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】胃内留置検出器
(51)【国際特許分類】
   A61J 15/00 20060101AFI20241227BHJP
【FI】
A61J15/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021110309
(22)【出願日】2021-07-01
(65)【公開番号】P2023007207
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】524424366
【氏名又は名称】株式会社シルクローダ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木阪 智彦
(72)【発明者】
【氏名】松浦 康之
(72)【発明者】
【氏名】米倉 ▲海▼晴
(72)【発明者】
【氏名】西川 弘晃
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】特許第4605159(JP,B2)
【文献】特開2013-066503(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0028133(KR,A)
【文献】特開2009-207514(JP,A)
【文献】特開2016-077450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体外から挿入されたチューブの遠位部が胃内に留置されていることを検出する胃内留置検出器において、
体外から鼻または口を介して胃へ挿入される前記チューブの内部に収容される管状体と、
前記管状体の近位部に接続され、当該管状体の内部に負圧を作用させる吸引部とを備え、
前記管状体の遠位部には、胃液の接触によって溶解する溶解部材で閉じられた遠位開口部が設けられている胃内留置検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の胃内留置検出器において、
前記管状体の内部には、流動体が収容されている胃内留置検出器。
【請求項3】
請求項2に記載の胃内留置検出器において、
前記流動体は、胃液の接触によって色変化を起こすものである胃内留置検出器。
【請求項4】
請求項2または3に記載の胃内留置検出器において、
前記吸引部は、手動式の吸引器具で構成されており、前記管状体の内部に負圧を作用させた状態を保持する保持機構を備えている胃内留置検出器。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1つに記載の胃内留置検出器において、
前記管状体の近位部には、前記流動体の収容が可能な収容部が設けられており、
前記収容部は透光性を有する部材で構成されている胃内留置検出器。
【請求項6】
請求項2から5のいずれか1つに記載の胃内留置検出器において、
前記管状体の遠位部には、前記流動体を前記管状体の内部に流入させるための流入用開口部と、当該流入用開口部を開閉する蓋体とが設けられている胃内留置検出器。
【請求項7】
請求項2から6のいずれか1つに記載の胃内留置検出器において、
前記管状体の内部には、前記遠位開口部側に位置する空間を近位部側の空間から区画するための膜が、前記負圧によって前記管状体の内面から離脱または裂けるように設けられ、当該膜よりも遠位部に前記流動体が収容されている胃内留置検出器。
【請求項8】
請求項2から6のいずれか1つに記載の胃内留置検出器において、
前記管状体の内部には、前記遠位開口部側に位置する空間を近位部側の空間から区画するための膜が、外部からの操作によって裂けるように設けられ、当該膜よりも遠位部に前記流動体が収容されている胃内留置検出器。
【請求項9】
請求項3に記載の胃内留置検出器において、
前記管状体の遠位部には、水素イオンを透過させる透過膜が設けられ、
前記流動体は、水素イオンとの接触によって色変化を起こす胃内留置検出器。
【請求項10】
請求項9に記載の胃内留置検出器において、
前記溶解部材は、水素イオンが前記透過膜を透過した後に溶解するように構成されている胃内留置検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外から挿入されたチューブの遠位部が胃内に留置されていることを検出するために用いられる胃内留置検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば通常の食事が困難な患者に対しては、栄養チューブなどを鼻または口から食道へ挿入して胃内に留置させ、その後、体外から栄養チューブ内へ流動的な栄養剤を供給し、当該栄養剤を胃へ送ることが栄養投与の方法の一つとして確立している。
【0003】
この方法では、栄養チューブの遠位部を胃内まで挿入する手技が適切に行われているか否かが重要である。すなわち、栄養チューブの遠位部は体内に挿入されてしまうと目視できなくなるので、術者は、手技の途中に食道ではなく、気道に挿入されてしまったとしても、目視による確認は不可能である。仮に、気道に挿入された状態で栄養剤を供給してしまうと、栄養剤が肺に流入して危険な状態になるので、栄養剤の供給を開始する前段階で、遠位部が胃内に留置されているか否かを体外から確認する必要がある。
【0004】
確認方法としては、例えば術者が体外からの栄養チューブの挿入が完了したことを感覚的に判断した後、栄養チューブの近位部から空気を送り込む方法が知られている。栄養チューブに送り込まれた空気は、当該栄養チューブ内を流通して胃内で放出されるとボコボコといった音を出し、その音は体外からでも聞くことができるので、聴覚によって確認することができる。ここで、栄養チューブの遠位部が誤って気管や肺に挿入されていた場合を想定すると、気管や肺に空気が送り込まれるだけなので、特に問題とはならないが、胃内に空気を放出した場合と類似した音が発生するため、胃内に確実に留置されていることの確認手段としては改善の余地があった。
【0005】
また、別の確認方法として胃液を吸引する方法もある。この方法では、術者が体外からの栄養チューブの挿入が完了したことを感覚的に判断した後、栄養チューブの近位部からシリンジなどで胃液を吸引する。胃液を栄養チューブの近位部で目視できれば、栄養チューブの遠位部を胃内に留置されていると判断できるのであるが、栄養チューブの遠位部が気管や肺に挿入されていた場合には痰を吸引することがあり、痰と胃液とが視覚的に似ていることがあるため、気管や肺に挿入されているにも関わらず、胃内に留置されていると誤判定するおそれがある。
【0006】
また、例えば栄養チューブの遠位部にX線不透過材を設けておき、X線撮影によって栄養チューブの遠位部の位置を特定する方法がある。この方法によれば栄養チューブの遠位部が胃内に留置されているか否かを正確に判定することができる。
【0007】
また、特許文献1には、胃液との接触によって色変化を起こすインジケータを有するカテーテル位置確認用部材が開示されている。インジケータはカテーテルの近位部に設けられており、カテーテルの遠位部から吸引された液を近位部まで流通させ、インジケータに接触させることによって吸引された液が胃液であるか否かを判定できるようになっている。
【0008】
また、特許文献2には、胃液を電解液として起電力を得る胃液反応器と、胃液反応器から得られた起電力により作動する報知器とを備えた胃内到達確認具が開示されている。胃液反応器は、胃液を電解液としてボルタ電池を構成する一対の電極を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4605159号公報
【文献】特開2015-196040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、栄養チューブの遠位部が胃内に留置されているか否かを判定する方法として、上述した空気を送り込む方法、胃液を吸引する方法では、栄養チューブの遠位部が気管や肺に誤って挿入されていることを完全に防止し得るものではないので、X線撮影装置を利用して正確な判定が行えるようにすることが考えられる。ところが、X線撮影装置は大かがりな装置であり、適用可能な施設は限定される。また、患者をX線撮影室まで移動させなければならず、患者自身への負担が大きいといった問題や、患者がX線被爆するという問題もある。
【0011】
そこで、例えば特許文献1のようにカテーテルの近位部に設けたインジケータを使用すれば、X線撮影に起因する各種問題は解消される。しかしながら、例えば気管や肺へ誤って挿入されていて痰を吸引してしまった場合には、そのカテーテル位置確認用部材は使用できず、鼻または口から取り出した後、新たなカテーテル位置確認用部材を鼻または口から挿入する必要があり、患者にとって負担になるとともに施術時間が長時間化し、さらに、カテーテル位置確認用部材が無駄になってしまう。
【0012】
また、特許文献2の器具を使用することによっても、X線撮影に起因する各種問題は解消されるが、胃液の量や、電極の胃液との接触状態によって起電力が変化し、正確な判定が困難になるおそれがある。また、胃液反応器で得られた起電力が報知器の作動電力未満であれば報知器が作動しないことになるが、その原因として、胃液反応器が胃内に設置できているのに起電力が不足して報知器が作動しないのか、それとも、胃液反応器が胃内に設置されておらず起電力がそもそも発生していないのかが判断できないという問題があり、正確性に欠ける面がある。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、チューブの遠位部が胃内に留置されているか否かを、患者への負担を抑えつつ、正確にかつ短時間で判定可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本開示の第1の側面では、体外から挿入されたチューブの遠位部が胃内に留置されていることを検出する胃内留置検出器を前提とすることができる。胃内留置検出器は、体外から鼻または口を介して胃へ挿入される前記チューブの内部に収容される管状体と、前記管状体の近位部に接続され、当該管状体の内部に負圧を作用させる吸引部とを備えている。前記管状体の遠位部には、胃液の接触によって溶解する溶解部材で閉じられた遠位開口部が設けられているものである。
【0015】
この構成によれば、管状体を鼻または口から胃へ挿入する際、遠位部が誤って気管や肺へ挿入されてしまうことが考えられる。この場合、気管や肺には胃液が無いので、管状体の遠位部の溶解部材は溶解することなく、遠位開口部は閉じられたままである。よって、管状体の内部に吸引部によって負圧を作用させたとしても、痰等が遠位開口部から管状体の内部に流入することはなく、同じ胃内留置検出器を用いて遠位部を胃へ挿入する処置を引き続き行うことができる。よって、患者への負担が抑えられるとともに、処置時間を短縮できる。
【0016】
そして、管状体の遠位部が胃内に挿入されると、胃内には胃液が存在しているので、胃液が溶解部材に接触する。胃液が接触した溶解部材は溶解するので、遠位開口部が開かれる。このとき、管状体の内部に吸引部によって負圧を作用させると、胃液が遠位開口部から管状体の内部に流入する場合がある。管状体の内部に胃液が流入した場合には、その流入した胃液は、負圧によって管状体の近位部まで流動するので、術者の目視による確認が可能になる。
【0017】
また、後述するように、流動体が管状体の内部に収容されている場合には、流動体が負圧によって管状体の近位部まで流動するので、流動体を術者が目視によって確認できる。この場合には、胃液が管状体の近位部まで流動しないことがある。
【0018】
すなわち、管状体の遠位部が胃内に留置されなければ近位部まで胃液または流動体が流動してくることはないので、術者が管状体の近位部で何らかの液体を目視したということは、管状体の遠位部が胃内に留置されていて、胃液または流動体が管状体の近位部まで流動してきたということである。よって、チューブの遠位部が胃内に留置されているか否かを正確に判定できる。
【0019】
本開示の第2の側面では、流動体が前記管状体の内部に収容されているものである。この場合、流動体は、例えば墨汁や水であってもよい。
【0020】
本開示の第3の側面では、流動体が胃液の接触によって色変化を起こすものである。
【0021】
この構成によれば、例えば胃液が遠位開口部から管状体の内部に流入すると、流動体に接触し、流動体が色変化を起こす。この色変化を起こした流動体は、管状体の内部の負圧によって近位部まで流動するので、術者の目視による確認が可能になり、胃液が管状体の内部に流入したことが分かり易くなる。
【0022】
本開示の第4の側面では、前記吸引部は、手動式の吸引器具で構成されており、前記管状体の内部に負圧を作用させた状態を保持する保持機構を備えているものである。
【0023】
この構成によれば、術者が手動式の吸引器具を操作して管状体の内部に負圧を作用させることができる。負圧を作用させた状態を保持機構によって保持することができるので、管状体の内部に常時負圧を作用させた状態にしておくことができる。よって、溶解部材が溶解したらすぐに胃液を近位部へ流動させることができ、チューブの遠位部が胃内に留置されたことを素早く知らせることができる。
【0024】
本開示の第5の側面では、前記管状体の近位部には、前記色変化する流動体の収容が可能な収容部が設けられており、前記収容部は透光性を有する部材で構成されている。
【0025】
この構成によれば、流動体が管状体の内部の負圧によって近位部まで流動すると収容部に収容される。収容部が透光性を有しているので、流動体が収容部に収容されたことや、流動体が色変化を起こしていることが目視で容易に分かるようになる。
【0026】
本開示の第6の側面では、前記管状体の遠位部には、前記色変化する流動体を前記管状体の内部に流入させるための流入用開口部と、当該流入用開口部を開閉する蓋体とが設けられている。
【0027】
この構成によれば、流入用開口部を開けると流動体を管状体の内部に流入させることができる。流動体を管状体の内部に流入させた後、蓋体によって流入用開口部を閉じることで、流動体を管状体の内部に収容した状態で保持できる。
【0028】
本開示の第7の側面では、前記管状体の内部には、前記遠位開口部側に位置する空間を近位部側の空間から区画するための膜が、前記負圧によって前記管状体の内面から離脱または裂けるように設けられており、当該膜よりも遠位部に前記流動体が収容されているものである。
【0029】
この構成によれば、膜よりも遠位部に流動体を収容することで、胃液の流入前に流動体が近位部まで流れてしまうのを抑制できる。これにより、流動体を製造段階から使用直前までの間、遠位部に留めておくことができる。そして、吸引部による負圧が作用した場合には、膜が管状体の内面から離脱または裂けるので、流動体や胃液の近位部への流動を阻害することはない。
【0030】
本開示の第8の側面では、前記管状体の内部には、前記遠位開口部側に位置する空間を近位部側の空間から区画するための膜が、外部からの操作によって裂けるように設けられ、当該膜よりも遠位部に前記流動体が収容されているものである。
【0031】
この構成によれば、流動体を製造段階から使用直前までの間、遠位部に留めておくことができ、使用開始直前に膜を裂くことで、流動体や胃液の近位部への流動を阻害することはない。
【0032】
本開示の第9の側面では、前記管状体の遠位部には、水素イオンを透過させる透過膜が設けられている。前記流動体は、水素イオンとの接触によって色変化を起こすものである。
【0033】
この構成によれば、胃液の水素イオンが透過膜を透過して管状体の内部に入る。管状体の内部の流動体は、水素イオンとの接触によって色変化を起こすことになる。
【0034】
本開示の第10の側面では、前記溶解部材は、水素イオンが前記透過膜を透過した後に溶解するように構成することができる。
【0035】
本開示の第11の側面では、体外から挿入されたチューブの遠位部が胃内に留置されていることを検出する胃内留置検出器を前提とすることができる。胃内留置検出器は、体外から鼻または口を介して胃へ挿入される検出回路部と、前記検出回路部が有する導線部へ電流を供給する電流供給部と、前記検出回路部の前記導線部に導通状態で接続されて体外に配置され、当該検出回路部に電流の流れが生じる場合には第1の状態になる一方、当該検出回路部に電流の流れが生じない場合には第2の状態になる報知部とを備えている。前記検出回路部の前記導線部は、体内の液体の接触によって断線するように構成されている。また、前記導線部は、体内の液体の接触によって溶解する被覆材で覆われていてもよい。
【0036】
この構成によれば、チューブの遠位部が胃内に挿入されると検出回路部に胃液等の体内の液体が接触する。検出回路部の導線部が被覆材で覆われている場合には、この被覆材は体内の液体の接触によって溶解するので、導線部が露出する。また、導線部自体が胃液でなくても水で濡れたり、化学反応による不活性で断線する場合には、胃まで挿入するまでに導線部を体内の液体に触れさせないために被覆材が必要になる。露出した導線部は体内の液体に接触すると断線するので検出回路部に電流の流れが生じなくなる。一方、チューブの遠位部が気管や肺に挿入されると、被覆部は導線部を覆ったままとなり、検出回路部に電流の流れが生じる。よって、同じ胃内留置検出器を用いて遠位部を胃へ挿入する処置を引き続き行うことができるので、患者への負担が抑えられるとともに、処置時間を短縮できる。
【0037】
すなわち、検出回路部が胃外から胃内に挿入されると、検出回路部に電流の流れが生じていた状態から検出回路部に電流の流れが生じない状態に切り替わる。この電流の流れの切り替わりにより、報知部が第1の状態から第2の状態に切り替わる。報知部が例えば電球の場合、検出回路部に電流の流れが生じている場合には電球が点灯した状態(第1の状態)であり、検出回路部に電流の流れが生じなくなると、電球が消灯した状態(第2の状態)になるので、チューブの遠位部が胃内に留置されたことを体外から正確に判定することができる。
【0038】
本開示の第12の側面では、前記検出回路部は、可撓性を有する基材を備えている。また、前記導線部は、前記基材の一部の面に設けられているものである。基材は、例えばシート状であってもよいし、球状等であってもよい。
【0039】
この構成によれば、導線部を設けた基材が可撓性を有しているので、例えば広い基材であっても湾曲させた状態でチューブに収容して胃内へ挿入できる。胃内へ挿入した後、基材をチューブから出して広げることで、胃内の広い範囲に基材を配置することができる。これにより、胃内の一部にのみ体内の液体が存在している場合であっても、その体内の液体によって導線部を断線させることができる。
【0040】
本開示の第13の側面では、前記導線部は、前記基材の一方の面から他方の面まで連続して設けられている。
【0041】
この構成によれば、基材の一方の面と他方の面のいずれかにのみ体内の液体が存在している場合であっても、その体内の液体によって導線部を断線させることができる。
【0042】
本開示の第14の側面では、前記導線部は、互いに間隔をあけて設けられた第1の導線部と第2の導線部とを含み、前記報知部は、第1の報知部と第2の報知部とを含んでいる。前記第1の報知部は、前記第1の導線部に接続され、前記第2の報知部は、前記第2の導線部に接続されている。
【0043】
例えば胃内の一部にのみ体内の液体が存在している場合には、第1の導線部と第2の導線部の一方のみが断線し、他方が断線しないことも考えられるが、本構成では、一方のみが断線しても報知部で報知することができるので、チューブの遠位部が胃内に留置されたことを体外から正確に判定することができる。
【0044】
本開示の第15の側面では、前記導線部は、多数の導電性粒子が前記基材に対して接着されることによって構成されるものである。接着剤を用いて接着することも可能であり、その場合、接着剤は、体内の液体の接触によって溶解するものである。
【0045】
この構成によれば、体内の液体が接着剤に接触すると接着剤が溶解するので、導電性粒子が基材から離脱し、これにより導線部が確実に断線する。
【0046】
本開示の第16の側面では、前記導線部は、体内の液体と反応して不活性になる多数の導電性粒子が前記基材に付着することによって構成されている。
【0047】
この構成によれば、体内の液体が導電性粒子に接触すると、導電性粒子が体内の液体と化学反応を起こして不活性になる。これにより、導線部が断線した状態になる。
【発明の効果】
【0048】
以上説明したように、チューブの遠位部が胃内に留置されているか否かを、患者への負担を抑えつつ、正確にかつ短時間で判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明の実施形態1に係る胃内留置検出器の分解図である。
図2】栄養チューブを使用して栄養剤を体外から胃へ直接送る栄養投与法の一例を示す図である。
図3】栄養チューブの一例を示す図である。
図4】栄養チューブに胃内留置検出器をセットした状態を示す図である。
図5A】管状体の遠位部及びその近傍を拡大して示す図である。
図5B】管状体の遠位部及びその近傍の分解斜視図である。
図6】別の例に係る図5B相当図である。
図7】管状体の近位部、収容部及び吸引部を拡大して示す図である。
図8】管状体の近位部、収容部及び吸引部の分解斜視図である。
図9】本発明の実施形態2に係る胃内留置検出器を示す斜視図である。
図10図9のIX-IX線断面図である。
図11】基材、導線部及び接続線を示す斜視図である。
図12】検出回路部を栄養チューブの遠位部の外周面に取り付けた状態を示す斜視図である。
図13】検出回路部を栄養チューブの遠位部の内部に収容した状態を示す斜視図である。
図14】本発明の実施形態2の変形例に係る図8相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0051】
図1は、本発明の実施形態に係る胃内留置検出器1を示すものである。胃内留置検出器1は、患者(図2に示す)200の体外から挿入された栄養チューブ100の遠位部101が胃201内に留置されていることを検出するための器具である。栄養チューブ100は、患者200の鼻202の孔から鼻腔203を経た後、咽喉204、食道205を順に通って胃201内に達するようにして留置される。また、栄養チューブ100は、患者200の口から咽喉204、食道205を順に通って胃201内に達するようにして留置することも可能である。
【0052】
栄養チューブ100の遠位部101(図3に示す)を胃201内に留置した状態で、栄養チューブ100の近位部102(図3に示す)は、患者200の鼻202(または口)から体外へ突出している。この患者200は、通常の食事が困難な者であり、このような患者200に対しては、体外から栄養チューブ100内へ流動的な栄養剤を供給し、当該栄養剤を胃201へ直接送る方法によって栄養を投与することが行われる。栄養チューブ100を挿入する処理は、医療従事者が行い、この者を術者と呼ぶことにする。
【0053】
この栄養投与の際に用いられる栄養チューブ100は、図3にも示すように、従来から周知の部材であり、カテーテル等と呼ばれることもある。栄養チューブ100を構成している材料は、例えば透光性を有する柔軟な樹脂材等である。栄養チューブ100の遠位部101が胃201に到達した状態で、近位部102が鼻202(または口)から体外へ突出するように、栄養チューブ100の長さが設定されている。栄養チューブ100の近位部102には、栄養剤を供給する供給チューブ(図示せず)と接続されるコネクタ102aが設けられている。コネクタ102aは、例えば筒状をなしており、栄養チューブ100の本体部分を構成する材料よりも硬質な樹脂材からなるものである。コネクタ102aの内孔が栄養チューブ100の本体部分の内孔と連通している。
【0054】
尚、この明細書において、「遠位部」とは術者から見て遠い部分、遠い側であり、反対に「近位部」とは術者から見て近い部分、近い側である。遠位部を先端部と呼ぶことや、近位部を基端部と呼ぶこともできる。
【0055】
(胃内留置検出器1の構成)
図1に示すように、胃内留置検出器1は、体外から鼻202(または口)を介して胃へ挿入される管状体10と、後述する流動体15を収容するための収容部20と、管状体10の内部に負圧を作用させるための吸引部30とを備えている。管状体10は、上記栄養チューブ100を構成する材料と同様な材料で構成されており、柔軟性を有するとともに可撓性も有していて容易に湾曲可能になっている。管状体10を構成する材料は、無色透明または有色透明であってもよいし、乳白色であってもよいが、所定の透光性を有している。所定の透光性とは、管状体10の内部に物が存在している場合に、その物の色やおよその形状を外部から目視で把握可能な程度の透光性である。また、栄養チューブ100と、胃内留置検出器1とは別であることを術者に認識させるため、管状体10が栄養チューブ100とは異なる色に着色されていてもよい。栄養チューブ100の留置確認が完了したら、胃内留置検出器1は抜去する。
【0056】
図4に示すように、管状体10は、栄養チューブ100を体内へ挿入する前の段階で、当該栄養チューブ100の内部に収容される部材であり、栄養チューブ100と同様に、遠位部11と近位部12とを有している。管状体10の外径は、栄養チューブ100の内径よりも小さく設定されていて、管状体10を栄養チューブ100の内部へ容易に収容することが可能になっている。管状体10を栄養チューブ100に収容する際には、管状体10の遠位部11を栄養チューブ100の近位部102から当該栄養チューブ100の内部に差し込むようにすればよい。管状体10を栄養チューブ100に収容した状態で、管状体10の外周面と栄養チューブ100の内周面との間には、周方向の一部に隙間が形成されていてもよい。これにより、管状体10の外周面と栄養チューブ100の内周面とが密着してしまうのを回避することができ、後に、管状体10を栄養チューブ100から容易に抜くことができる。
【0057】
管状体10の長さは、栄養チューブ100の長さよりも長く設定されている。具体的には、管状体10を栄養チューブ100に収容した状態で、管状体10の遠位部11の少なくとも一部が栄養チューブ100の遠位部101から突出しないようになっており、また、管状体10の近位部12の少なくとも一部が栄養チューブ100の近位部102から突出するように、管状体10と栄養チューブ100の相対的な長さが設定されている。管状体10の遠位部11が栄養チューブ100の遠位部101から突出しないようになっているので、胃酸が胃より上部の食道のあたりまで逆流する疾患・症状の場合であっても、その逆流した胃酸に管状体10の遠位部11が接触しないようにすることができ、誤判定を防止することができる。尚、管状体10の長さは、栄養チューブ100の長さと同じであってもよい。
【0058】
図1に破線で示すように、管状体10の内部には、体内の液体の一例である胃液の接触、即ち水素イオンとの接触によって色変化を起こす流動体15が収容されている。流動体15は、接触した液体の水素イオン濃度(pH)に応じて色が変化する液体である。色変化とは、例えば色調が変化すること、色彩が変化すること、色調及び色彩の両方が変化することである。この色変化を明確に起こさせるため、胃液と接触する前の流動体15はアルカリ性に調整されている。流動体15は、接触した液体のpHが5.0以下、または4.0以下のときに顕著な色変化を起こす液体で構成することができる。流動体15がアルカリ性の場合、その後pH1の胃酸と反応し、中性、酸性と順に変化するに従い、変色が顕著になる点で好ましい。また、流動体15は中性であってもよい。また、pHの差分が小さくても色変化が視覚で認識できればよい。流動体15は、pHに依存した化学構造の変化に起因して色変化が起こるものであってもよいし、pHに依存した化学構造の変質や分解に起因して色変化が起こるものであってもよい。
【0059】
このような流動体15は、例えばアントシアニン等を含むものを挙げることができる。食用色素を水等に添加することによっても流動体15を得ることができ、これにより、流動体15が管状体10から漏出しても患者200に対して問題とならない。
【0060】
流動体15は、例えば墨汁や水であってもよい。この場合は、胃液との接触前後で色の変化は起こらないが、後述するように管状体10の近位部12まで流動したことは識別可能である。
【0061】
図5A及び図5Bに示すように、管状体10の遠位部11には、流動体15を管状体10の内部に流入させるための流入用開口部11aと、当該流入用開口部11aを開閉する蓋体13とが設けられている。流入用開口部11aは、管状体10の遠位部11の先端面に開口し、管状体10の内部に連通している。流入用開口部11aの内周面には、ネジ溝11cが形成されている。
【0062】
蓋体13は、閉塞板部13aと雄ネジ部13bとを有しており、例えば硬質樹脂材等で構成されている。閉塞板部13aは、流入用開口部11aを閉塞するための部分であり、流入用開口部11aよりも大きな円板状をなしている。雄ネジ部13bは、閉塞板部13aの裏面から突出する円柱状をなしており、その外周面には、ネジ溝11cに螺合するネジ山が形成されている。したがって、雄ネジ部13bをその先端部から流入用開口部11aに差し込んでネジ溝11cに螺合させて締め込むことにより、流入用開口部11aを蓋体13によって閉塞することができる。一方、雄ネジ部13bを緩み方向に回転させることにより、蓋体13を取り外して流入用開口部11aを開放することができる。この例では、流入用開口部11aを開放した状態で、流動体15を流入用開口部11aから管状体10に入れ、その後、流入用開口部11aを蓋体13によって閉塞するようにしている。尚、蓋体13は、ネジ込み式としなくてもよく、例えば流入用開口部11aに圧入するようにしてもよい。
【0063】
また、図6に示す例のように、蓋体13の脱落防止構造を設けてもよい。この例では、管状体10の遠位部11の内面に、径方向内方へ延出する係止部11dが設けられている。一方、蓋体13には、管状体10の遠位部11へ差し込まれる差し込み部13cが設けられている。差し込み部13cは、蓋体13を取り外した状態であっても係止部11dよりも近位側まで挿入可能な長さを有している。差し込み部13cの先端部13dは、係止部11dよりも近位側まで挿入された状態で、当該係止部11dに対してその近位側から接触して係止するように形成されている。差し込み部13cの先端部13dの形状としては、例えば差し込み部13cの基端部に比べて大径な形状とすることができる。これにより、蓋体13が管状体10から脱落することはない。
【0064】
管状体10の遠位部11には、遠位開口部11bが設けられている。遠位開口部11bは、管状体10の外周面に開口している。この実施形態では2つの遠位開口部11b、11bが管状体10の周方向に互いに間隔をあけて設けられている。遠位開口部11bの数は、例えば3つ以上にすることができる。また、遠位開口部11bは1つだけ設けてもよく、その数は特に限定されない。複数の遠位開口部11bが、管状体10の軸線方向に互いに間隔をあけて設けられていてもよい。遠位開口部11bは、円形状や長円形状であってもよいし、矩形状であってよく、その形状は特に限定されない。遠位開口部11bは、管状体10の軸線方向に長い楕円形状やスリット形状であってもよい。
【0065】
2つの遠位開口部11b、11bのうち、一方の遠位開口部11bは、胃液の接触によって溶解する溶解部材14で閉じられている。溶解部材14は、胃液のような強い酸性の液体と接触することで溶解する材料で構成されている。溶解部材14が胃液と接触してから溶解するのに要する時間は、溶解部材14の厚みや溶解部材14の材料の選択によって設定可能である。この実施形態では、溶解部材14が胃液と接触してから溶解するのに要する時間は、例えば数秒から数十秒程度に設定されている。
【0066】
このような溶解部材14は、例えばヒプロメロース、マクロゴール及び酸化チタンで合成される膜状部材、ヒプロメロース、マクロゴール及びタルクで合成される膜状部材、オブラート等で構成することができる。溶解部材14は、人体に悪影響を与えないので、胃201内で溶解したとしても患者200に対して問題とならない。
【0067】
また、この実施形態では、管状体10の遠位部11に、水素イオンを透過させる透過膜17が設けられている。すなわち、2つの遠位開口部11b、11bのうち、他方の遠位開口部11bは透過膜17で覆われている。このような透過膜17は、例えばカチオン性のイオン交換膜を挙げることができる。カチオン性のイオン交換膜を用いることで、胃酸側から管状体10の内部に水素イオンを移動させることができる。水素イオンの濃度勾配を利用することで、胃酸側から管状体10の内部に水素イオンを移動させることができればよく、そのような条件を満たすように流動体15の種類を選択すればよい。尚、透過膜17は省略してもよく、この場合、他方の遠位開口部11bは溶解部材14で閉じておくことができる。また、流動体15は透過膜17を通過しないようになっている。
【0068】
溶解部材14と透過膜17との両方が設けられている場合には、溶解部材14は、水素イオンが透過膜17を透過した後に溶解するように構成されている。すなわち、溶解部材14は、胃液と接触してもすぐには溶解せずに、所定時間経過後に溶解するように、厚みや材料が選択されている。これにより、流動体15を水素イオンと確実に反応させることができ、流動体15の色変化が明確に起こる。
【0069】
図1に示すように、管状体10の内部には、遠位開口部11b側に位置する空間を近位部12側の空間から区画するための膜16が設けられている。膜16は、管状体10の中間部よりも遠位部11寄りの部分に位置しており、この膜16により管状体10の内部空間が少なくとも2つに仕切られることになる。膜16の厚みは、管状体10の周壁の厚みよりも薄く設定されており、後述する吸引部30で発生する負圧によって管状体10の内面から離脱または裂けるように設けられている。具体的には、膜16の周縁部に薄肉な脆弱部を設けておくことで、吸引部30で発生する負圧が管状体10の内部に作用した時に当該脆弱部を破断させて膜16を管状体10の内面から離脱させることができる。また、膜16自体に薄肉な脆弱部を設けておくことで、吸引部30で発生する負圧が管状体10の内部に作用した時に膜16が裂けるようにすることができる。
【0070】
また、膜16は外部からの操作によって裂けるように設けることができる。例えば、管状体10を捻ると膜16が裂けるように、当該膜16に脆弱部を設けることができる。また、管状体10の外部にボタンのようなものを設けておき、そのボタンに作用する押圧力によって膜16が裂けるようにすることもできる。
【0071】
流動体15は、膜16よりも遠位部11側に収容されている。膜16が設けられていることで、胃内留置検出器1の使用前に流動体15が近位部12側へ流動するのを抑制することができる。
【0072】
図7に示すように、管状体10の近位部12には、流動体15の収容が可能な収容部20が設けられている。収容部20は透光性を有する部材で構成されている。また、収容部20には、手動式の吸引器具で構成された吸引部30が取り付けられるようになっている。図8に示すように、収容部20は容器で構成されており、その内部空間Rが流動体15の収容空間となっている。内部空間Rは、管状体10の内部と連通している。
【0073】
収容部20を構成する材料としては、例えば所定の透光性を有する樹脂材等を挙げることができる。収容部20が所定の透光性を有しているので、流動体15が内部空間Rに収容されているか否か、及び流動体15が内部空間Rに収容されている場合にその流動体15の色を外部から目視で把握することができる。収容部20の容積は、流動体15の体積と同じであってもよいし、流動体15の体積よりも大きくても、小さくてもよいが、収容部20に収容された流動体15の色を確認できる程度の容積とするのが好ましい。
【0074】
収容部20には、管状体10の近位部12に接続される接続筒部21が設けられている。この接続筒部21は、先端へ行くほど外径が小さくなる円筒状に形成されている。一方、管状体10の近位部12には、収容部20が接続される筒状のコネクタ12aが設けられている。コネクタ12aの内周面12bは、収容部20の接続筒部21の外周面が嵌合するようにテーパ状に形成されている。収容部20の接続筒部21をコネクタ12aに差し込むと、接続筒部21の外周面がコネクタ12aの内周面12bに対して全周に渡って密着し、液密性及び気密性が確保されるようになっている。尚、収容部20とコネクタ12aとの間には、図示しないシール材が設けられていてもよい。
【0075】
吸引部30は、例えばシリンジ等を利用したものであり、シリンダ31と、ピストン32と、操作用ロッド33とを備えている。シリンダ31の先端部には、収容部20に接続される接続筒部31aが設けられている。この接続筒部31aは、先端へ行くほど外径が小さくなる円筒状に形成されている。一方、収容部20における接続筒部21と反対側には、シリンダ31が接続される接続孔22が形成されている。接続孔22の内周面は、シリンダ31の接続筒部31aの外周面が嵌合するようにテーパ状に形成されている。シリンダ31の接続筒部31aを接続孔22に差し込むと、接続筒部31aの外周面が接続孔22の内周面に対して全周に渡って密着し、液密性及び気密性が確保されるようになっている。尚、シリンダ31と接続孔22との間には、図示しないシール材が設けられていてもよい。
【0076】
ピストン32は、シリンダ31内に配設されている。シリンダ31内におけるピストン32よりも先端側の空間Sは、収容部20の内部空間Rと連通している。操作用ロッド33は、ピストン32に連結されており、ピストン32を操作するための部材である。シリンダ31を収容部20に接続し、収容部20を管状体10に接続した状態で、操作用ロッド33によりピストン32を基端側へ引くと、空間Sに負圧が発生し、空間Sに発生した負圧は収容部20の内部空間R、及び管状体10の内部空間にも作用する。
【0077】
吸引部30は、管状体10の内部に負圧を作用させた状態を保持する保持機構34を備えている。保持機構34は、操作用ロッド33を所定位置でシリンダ31に固定しておくことを可能にする機構であり、例えばクランプ機構等で構成することができる。この場合、上記負圧が発生するまで後退させた操作用ロッド33をクランプしてシリンダ31に対する移動を阻止することで管状体10の内部に負圧を作用させたままにすることができる。保持機構34は、他の機構であってもよい。
【0078】
(検出方法)
次に、上記のように構成された実施形態1に係る胃内留置検出器1を使用して、栄養チューブ100の遠位部101が胃201内に留置されていることを検出する検出方法について説明する。はじめに、流動体15が管状体10に収容された胃内留置検出器1を用意する。流入用開口部11aは蓋体13によって閉塞しておく。
【0079】
その後、図4に示すように、胃内留置検出器1の管状体10を栄養チューブ100に収容する。このとき、管状体10の長さを栄養チューブ100よりも長くしておくことで、管状体10に設けられている溶解部材14及び透過膜17を、栄養チューブ100の遠位部101から外部へ突出するように配置しておくことができる。また、収容部20を管状体10に接続し、吸引部30を収容部20に接続する。収容部20及び吸引部30は、栄養チューブ100の近位部102から外部へ突出した状態になる。これにより、収容部20の視認性が高まるとともに、吸引部30の操作性が良好になる。
【0080】
収容部20及び吸引部30の接続後、吸引部30の操作用ロッド33を引いてシリンダ31内の空間Sに負圧を発生させ、保持機構34によって操作用ロッド33を固定しておく。この時、管状体10の内部に負圧が作用することになるが、遠位開口部11b、11bがそれぞれ溶解部材14及び透過膜17で閉ざされ、また流入用開口部11aも閉塞されているので、管状体10の内部の負圧は維持される。つまり、溶解部材14及び透過膜17が破れないように、かつ、膜16が離脱したり裂けないように負圧力を設定しておく。
【0081】
そして、栄養チューブ100の遠位部101を胃内留置検出器1の管状体10と共に、患者200の鼻202から鼻腔203を経て咽喉204に差し込む。咽喉204から食道205を経て胃201に到達すると、胃201内の胃液が管状体10に設けられている溶解部材14及び透過膜17に接触する。このとき、栄養チューブ100の遠位部101を胃内留置検出器1の管状体10と共に、患者の口から胃201に差し込んでもよい。胃液内の水素イオンは、透過膜17を透過して流動体15に接触する。流動体15は、水素イオンとの接触によって色変化する。
【0082】
また、溶解部材14にも胃液が接触する。水素イオンが透過膜17を透過した後に、溶解部材14が溶解する。溶解部材14が溶解すると、遠位開口部11bが開かれるので、上記負圧によって胃液が遠位開口部11bから管状体10の内部に流入して流動体15に接触する。このことによっても流動体15が色変化する。遠位開口部11bが開かれると、胃液だけでなく、胃201内の空気が遠位開口部11bから管状体10の内部に流入することもある。
【0083】
負圧を作用させる段階で膜16が離脱または裂けるように当該膜16を構成することができる。これにより、遠位部11側に収容されている流動体15が近位部12側へ向けて流動可能になる。近位部12側へ流動した流動体15は、収容部20の内部空間Rに収容される。この収容部20に収容された流動体15は色変化が起こっており、この色を外部から術者が視認できる。
【0084】
一方、栄養チューブ100の遠位部101を胃内留置検出器1の管状体10と共に挿入する際、咽喉204から気道206へ誤って挿入した場合、気道206内や肺には胃液のような酸性の液体が存在しないので、透過膜17を透過する水素イオンが無く、また溶解部材14が溶解することはない。これにより、流動体15の色変化が起こることはない。また、溶解部材14が溶解しないので、流動体15が近位部12へ向けて流動することもなく、遠位部11側に留まったままになる。
【0085】
すなわち、管状体10の遠位部11が胃201内に留置されなければ近位部12まで流動体15が流動してくることはないので、術者が管状体10の近位部12で流動体15を目視したということは、管状体15の遠位部11が胃201内に留置されていて、流動体15が管状体10の近位部12まで流動してきたということである。よって、栄養チューブ100の遠位部101が胃201内に留置されているか否かを正確に判定できる。
【0086】
尚、流動体15が管状体10に収容されていない形態であってもよい。この場合、溶解部材14が胃液に接触して溶解すると、胃液が管状体10の近位部12まで流動して収容部20に収容されるので、術者が管状体10の近位部12で胃液を目視することができる。管状体10の近位部12で胃液を目視したということは、管状体15の遠位部11が胃201内に留置されていて、胃液によって溶解部材14が溶解したということである。よって、この形態であっても、栄養チューブ100の遠位部101が胃201内に留置されているか否かを正確に判定できる。
【0087】
(実施形態2)
図9図10は、本発明の実施形態2に係る胃内留置検出器40を示すものである。この実施形態2では、体外から挿入された栄養チューブ100の遠位部101が胃201内に留置されていることを、電気回路を利用して検出可能にしている点で実施形態1のものとは相違している。以下、実施形態2に係る胃内留置検出器40について詳細に説明する。
【0088】
胃内留置検出器40は、検出回路部41と、電流供給部42と、報知部43とを備えている。検出回路部41は、体外から鼻202(または口)を介して胃201へ挿入されるものであり、図10に示すように基材44と導線部45と、これらを覆う被覆材46とを備えている。被覆材46は必須なものではなく、省略してもよい。例えば、導線部45自体が胃液でなくても水で濡れたり、化学反応による不活性で断線するものであってもよく、この場合には、胃まで挿入するまでに導線部45を体内の液体に触れさせないために被覆材46が必要になる。
【0089】
基材44は、可撓性を有するシート状をなしており、例えば柔軟な樹脂材等で構成されている。基材44の形状は、シート状に限られるものではなく、例えば球状等であってもい。この基材44を構成する樹脂材は絶縁性を持っている。基材44の形状は特に限定されるものではないが、例えば矩形状、円形状、長円形状等であってもよい。基材44の大きさは、胃201内に配置することが可能な大きさであればよく、特に限定されないが、例えば縦及び横の寸法がそれぞれ20mm以上、または30mm以上に設定することができる。
【0090】
導線部45は、電気を通す材料(導電性材料)で構成されており、図9図11に示す例では基材44の一方の面に設けられている。導線部45は、湾曲させても断線しないように、柔軟性、可撓性を有している。導線部45のパターン(形状)は、特に限られるものではないが、例えば図11に示すように、屈曲した部分45aと、直線状に延びる部分45bとが組み合わされた形状にすることができる。屈曲した部分45aを設けることで、導線部45の基材44上における形成範囲を広くすることができる。また、複数の屈曲した部分45aが1つの基材44上に存在していることで、導線部45の存在が疎となる領域が基材44上で無くなり、導線部45を基材44上である程度密に形成できる。導線部45の形成範囲が広い方が好ましい理由、及び導線部45を密に形成した方が好ましい理由は後述する。
【0091】
導線部45は、胃液の接触によって断線するように構成されている。断線とは、導線部45が物理的に分断して電気が通らなくなった状態を含む他、導線部45としては存在しているが導線部45を構成している導電性材料が不活性化して電気が通らなくなった状態も含む。導線部45の一形態として、多数の導電性粒子が基材44に対して接着剤により接着されることによって構成することができ、例えば導電性インクを基材44に付着させて乾燥させると、導線部45を得ることができる。また、接着剤を用いることなく、多数の導電性粒子を基材44に対して圧着してもよい。
【0092】
導電性インクの場合、例えば銅や銀の微細粒子(ナノ粒子)のような導電性の物質を含有したインクを用いることができる。この導電性インクを塗布した部分が乾燥後に回路として機能する。導電性インクを塗布してできた回路を濡らすと、電気回路としては不活性になる。また、導電性インクに含有されている金属がHClに酸化される程イオン化傾向の大きい金属であれば、酸化されて粒子が電気を流さなくなることで回路を崩壊させることができる。導電性インクに含有する微細粒子を構成する金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、コバルト、亜鉛、ニッケル、リチウム、鉄、ルビジウム、クロム、ストロンチウム、マンガン等を挙げることができ、これら金属のうち、任意の1種または任意の複数種を組み合わせて使用することもできる。これら金属の使用量は微量であるため、人体への影響は殆ど問題とならない。
【0093】
多数の導電性粒子を、上記パターンを形成するように配列して接着剤によって基材44の一方の面に接着することで、図11に示すようなパターンの導線部45を得ることができる。この場合、接着剤としては、胃液の接触によって溶解する剤を使用することができる。このような接着剤を用いることで、導線部45に胃液が接触すると、接着剤が溶解し、これにより、導電性粒子の少なくとも一部が基材44から離脱し、導線部45が物理的に分断して電気が通らなくなる。胃液と接触して例えば2~3秒もしくは10秒以内で導線部45が物理的に分断するように、接着剤の組成を調整したり、導線部45の幅や径を設定することができる。上記接着剤としては、例えば人体に無害な各種接着剤等を用いることができる。
【0094】
また、例えば線状の導電体を基材44の一方の面に対して上記接着剤を用いて接着することによっても、導線部45を構成することができる。また、線状の導電体と、導電性粒子とを組み合わせて導線部45を構成することもできる。
【0095】
また、導線部45は、胃液と反応して不活性になる多数の導電性粒子が基材44に付着することによって構成されていてもよい。このような導電性粒子は、例えば銅で構成することができる。銅は、胃酸と反応することで不活性になるので、導線部45としては存在しているが、導線部45に電気が通らなくなる。胃液と接触して例えば2~3秒もしくは10秒以内で導線部45の少なくとも一部が不活性化して電気を通さなくなるように、導線部45の幅や径を設定することができる。
【0096】
被覆部46は、少なくとも基材44の導線部45が設けられている面と、当該導線部45とを覆う部分であればよいが、この実施形態では、導線部45の全体と基材44の全体を覆うように形成されている。被覆部46の材料は、実施形態1の溶解部材14の材料と同じものを用いることができ、柔軟性、可撓性を有している。また、被覆部46は、絶縁性を有している。被覆部46が胃液と接触してから溶解するのに要する時間、即ち導線部45の少なくとも一部が露出するのに要する時間は、例えば数秒から数十秒程度に設定されている。
【0097】
図9に示す電流供給部42は、検出回路部41が有する導線部45へ電流を供給するための部分である。この図では、商用電源から導線部45へ電流を供給可能に構成されており、コンセントに接続されるプラグ42aと、耐酸性を有する絶縁材で被覆された導線47、47とを備えている。導線47、47は、胃液に接触しても断線しないようになっており、また、上記絶縁材は胃液に接触しても溶解したり、分解しないようになっている。電流供給部42には、供給電圧を所定電圧とするための電圧調整部やON/OFFの切替スイッチ等が設けられていてもよい。また、電流供給部42は、電池(一次電池、二次電池を含む)を電源として構成されていてもよい。導線47、47は、栄養チューブ100の周壁部に埋め込んでもよい。
【0098】
報知部43は、例えば電球等で構成することができる。報知部43と、検出回路部41とは、導線47、47を用いて直列接続されており、電源からの電流が報知部43及び検出回路部41に供給されるようになっている。つまり、報知部43は、検出回路部41の導線部45に導通状態で接続されている。
【0099】
導線47、47の長さ及び報知部43の導線47に対する接続位置により、報知部43と検出回路部41との離間距離を任意に設定することができる。この実施形態では、検出回路部41が胃201内に留置された状態で、報知部43を体外に配置することができるように、導線47、47の長さ及び報知部43の導線47に対する接続位置が設定されている。
【0100】
例えば、図12に示すように、検出回路部41を栄養チューブ100の遠位部101の外周面に取り付けておくことができる。検出回路部41は可撓性を有しているので、栄養チューブ100の外周面に沿うように湾曲させることができる。この場合、導線47、47は、栄養チューブ100の外周面に固定するとともに、近位部102まで延ばし、その導線47の先端近傍に報知部43を設けることで、報知部43を鼻202(または口)から体外へ出しておくことができる。これにより、報知部43を術者が見ることができる。
【0101】
また、図13に示すように、検出回路部41を栄養チューブ100の遠位部101の内部に収容してもよい。この場合、検出回路部41を湾曲させた状態にして栄養チューブ100の内部に収容することで、栄養チューブ100の内径よりも大きな検出回路部41を収容することが可能になる。導線47、47は、栄養チューブ100内を通して近位部102まで延ばし、その導線47の先端近傍に報知部43を設ければよい。使用方法については後述する。
【0102】
導線部45が断線していなければ、検出回路部41に電流の流れが生じる一方、導線部45が断線していれば、検出回路部41に電流の流れが生じない。検出回路部41に電流の流れが生じる場合には、報知部43が点灯状態(第1の状態)になる一方、検出回路部41に電流の流れが生じない場合には、報知部43が消灯状態(第2の状態)になる。
【0103】
(検出方法)
次に、上記のように構成された実施形態1に係る胃内留置検出器1を使用して、栄養チューブ100の遠位部101が胃201内に留置されていることを検出する検出方法について説明する。図12に示すように、検出回路部41を栄養チューブ100の遠位部101の外周面に取り付けた後、栄養チューブ100の遠位部101を患者200の鼻202から鼻腔203を経て咽喉204に差し込む。または、口から胃201に差し込む。胃201に到達するまでは、被覆部46によって導線部45が保護されているので、途中で導線部45が断線することはなく、報知部43は点灯状態のままである。咽喉204から食道205を経て胃201に到達すると、胃201内の胃液が被覆部46に接触し、被覆部46が溶解する。
【0104】
被覆部46が溶解すると、導線部45が露出するので、導線部45に胃液が接触する。これにより導線部45が断線し、報知部43が消灯状態に切り替わる。この報知部43が消灯状態に切り替わったことは、体外で視認できるので、栄養チューブ100の遠位部101が胃201内に留置されたことを体外から正確に判定することができる。
【0105】
また、胃201内の胃液は均一に分布しているとは限らないので、胃液が十分にある領域とそうでない領域とが存在している場合がある。このような場合を前提としたとき、導線部45の形成範囲が広い方が、胃液が十分にある領域に導線部45が達する確率を高くすることができる。同様に、導線部45を密に形成した方が、胃液が十分にある領域に導線部45が達する確率を高くすることができる。
【0106】
図13に示す例では、検出回路部41を栄養チューブ100の遠位部101に収容しているので、挿入時の手技が容易に行えるようになる。また、栄養チューブ100の遠位部101が胃201内に到達したと予測される段階で、導線47を外部から送り込むことで、検出回路部41を栄養チューブ100から外部へ出すことができる。これにより、検出回路部41が広がるので、検出回路部41を胃201内の広い範囲に存在させることができ、胃液が十分にある領域に導線部45が達する確率を高くすることができる。
【0107】
図14は、実施形態2の変形例を示すものである。この変形例では、導線部が、互いに間隔をあけて設けられた第1の導線部45A、第2の導線部45B、第3の導線部45C、第4の導線部45D及び第5の導線部45Eを含んでいる。これに対応して、報知部は、第1の報知部43A、第2の報知部43B、第3の報知部43C、第4の報知部43D及び第5の報知部43Eを含んでいる。
【0108】
第1の導線部45Aは、基材44の一方の面から他方の面まで連続して設けられており、具体的には、基材44の一方の面に沿って延びた後、基材44の端部を経て当該基材44の他方の面まで延び、当該他方の面に沿って延びている。第2の導線部45B~第5の導線部45Eも同様に基材44の一方の面から他方の面まで連続して設けられている。このように、1つの基材44に複数の導線部45A~45Eを設けることで、導線部45A~45Eの形成範囲が広くなるとともに、導線部45A~45Eを密に形成することができる。尚、導線部の数は、5つに限られるものではなく、4つ以下、または6つ以上であってもよいし、1つであってもよい。また、導線部は、基材44の一方の面にのみ設けられていてもよい。
【0109】
電流供給部42は、第1~第5導線部45A~45Eに個別に電流を供給するための部分である。この電流供給部42は、第1の導線部45A及び第1の報知部43Aに接続される第1の導線47A、47A、第2の導線部45B及び第2の報知部43Bに接続される第2の導線47B、47B、第3の導線部45C及び第3の報知部43Cに接続される第3の導線47C、47C、第4の導線部45D及び第4の報知部43Dに接続される第4の導線47D、47D及び第5の導線部45E及び第5の報知部43Eに接続される第5の導線47E、47Eを含んでいる。尚、図14では、プラグ42aと各導線47A~47Eとの接続を模式的に示しているが、図9に示すように各導線部45A~45E、報知部43A~43Eに電流供給可能に接続されている。
【0110】
変形例の場合、胃201内において例えば第1の導線部45Aが断線すると、第1の報知部43Aのみが消灯状態になり、他の報知部43B~43Eは点灯状態のままになる。このことで栄養チューブ100の遠位部101が胃201内に留置されたことを体外から判定できるが、判定の正確性をより一層高めるために、例えば2以上の報知部が消灯状態にならなければ、栄養チューブ100の遠位部101が胃201内に留置されたと判定しないという、判定基準を設けることもできる。
【0111】
上記実施形態2では、報知部が電球である場合について説明したが、これに限らず、例えば、発光ダイオードのような電流の供給によって発光する発光体や、スピーカのような電流の供給によって音を発する部材であってもよい。また、例えば液晶表示パネルや有機ELパネルのような部材を報知部として用いることもでき、この場合、電流が供給されている状態と供給されていない状態とで異なる画面表示形態とすることで、術者は、栄養チューブ100の遠位部101が胃201内に留置されたか否かを判定することができる。
【0112】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0113】
以上説明したように、本発明に係る胃内留置検出器は、例えば体外から挿入された栄養チューブの遠位部が胃内に留置されているか否かを検出する場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 胃内留置検出器
10 管状体
11a 流入用開口部
11b 遠位開口部
13 蓋体
14 溶解部材
15 流動体
16 膜
17 透過膜
20 収容部
30 吸引部
34 保持機構
40 胃内留置検出器
41 検出回路部
42 電流供給部
43 報知部
43A 第1の報知部
43B 第2の報知部
44 基材
45 導線部
45A 第1の導線部
45B 第2の導線部
46 被覆部
100 栄養チューブ
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14