(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】クリープ試験機及びクリープ試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20241227BHJP
【FI】
G01N3/00 R
(21)【出願番号】P 2020184743
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110814
【氏名又は名称】高島 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】旭吉 雅健
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-043281(JP,A)
【文献】実開平06-080159(JP,U)
【文献】実開昭63-120143(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片に荷重を付加して前記試験片の変形量を計測するクリープ試験機において、
基台上に立設されたレバーと、
このレバーを前記基台に揺動自在に取り付ける第一の支持軸と、
前記第一の支持軸から離間した位置で前記レバーに設けられ、前記試験片を把持する把持部を支持する第二の支持軸と、前記第一の支持軸及び前記第二の支持軸から離間した位置で前記レバーに設けられ、前記試験片に荷重を付加する荷重部に連結された連結部材を支持する第三の支持軸とを備え、前記第一の支持軸、第二の支持軸及び前記第三の支持軸の少なくとも一つが、前記レバーの軸線方向に進退移動な可動支持軸として構成されているとともに、前記可動支持軸を前記軸線方向に予め設定した距離だけ移動させる移動手段とを備えた
荷重調整ユニットと、
を有し、
一対の前記荷重
調整ユニットが前記試験片の両端に配置され、
前記移動手段は、一対の前記荷重調整ユニットのそれぞれの前記可動支持軸を同期して移動させる同期移動部を備えること、
を特徴とするクリープ試験機。
【請求項2】
前記可動支持軸が前記第三の支持軸であることを特徴とする請求項1に記載のクリープ試験機。
【請求項3】
前記可動支持軸が、レバーに形成されたガイド
孔と、このガイド孔に沿って移動するスライダとによって支持され、前記移動手段が、前記可動支持軸又は前記スライダに螺合された螺旋軸を備え、この螺旋軸の回転によって前記可動支持軸を移動させることを特徴とする請求項1又は2に記載のクリープ試験機。
【請求項4】
前記移動手段が、駆動体とこの駆動体の駆動を制御する制御手段とを備えることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のクリープ試験機。
【請求項5】
前記荷重部を支持する昇降自在な荷重支持台と、一対の前記荷重
調整ユニットにおいて対となる前記荷重支持台を同期して昇降させる昇降駆動手段とをさらに有すること、
を特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のクリープ試験機。
【請求項6】
基台上に立設されたレバーと、このレバーを前記基台に揺動自在に取り付ける第一の支持軸と、前記第一の支持軸から離間した位置で前記レバーに設けられ、試験片を把持する把持部を支持する第二の支持軸と、前記第一の支持軸及び前記第二の支持軸から離間した位置で前記レバーに設けられ、前記試験片に荷重を付加する荷重部に連結された連結部材を支持する第三の支持軸とを有し、前記第一の支持軸、第二の支持軸及び前記第三の支持軸の少なくとも一つが、前記レバーの軸線方向に進退移動な可動支持軸として構成され、前記可動支持軸を前記軸線方向に予め設定した距離だけ移動させる移動手段を備えた荷重調整ユニットを有するクリープ試験機を準備し、
前記試験片の両端に配置された一対の前記荷重調整ユニットにおいて、前記可動支持軸を同期させながら移動させることで、前記試験片に付与する荷重を変化させつつクリープ試験を行うこと、
を特徴とするクリープ試験方法。
【請求項7】
前記試験片に第一の荷重を付加しつつクリープ試験を行った後、一対の前記荷重調整ユニットの前記可動支持軸を同期させながら移動させて所定位置に位置決めし、前記試験片に第二の荷重を付加しつつクリープ試験を行うこと、を特徴とする請求項
6に記載のクリープ試験方法。
【請求項8】
一対の前記荷重調整ユニットの前記可動支持軸を同期させながら連続的に移動させ、前記試験片に付与する荷重を変化させながらクリープ試験を行うことを特徴とする請求項
6に記載のクリープ試験方法。
【請求項9】
前記荷重部を支持する昇降自在な荷重支持台と、一対の前記荷重
調整ユニットにおいて対となる前記荷重支持台を同期して昇降させる昇降駆動手段とを準備し、
前記クリープ試験の途中で前記荷重支持台を同期して昇降させることで、前記試験片に付与する荷重を一時的に0にすること、
を特徴とする請求項
6~
8のいずれかに記載のクリープ試験
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験片に荷重を付加して前記試験片の変形量を計測するクリープ試験機及びこのクリープ試験機を用いたクリープ試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電設備、原子力発電設備等のプラント、ジェットエンジンやロケットエンジン等の部品の寿命を確認するためや、各種の新素材や複合材料の強度を測定するための試験として、一定荷重下で試験片の歪量と荷重付与時間とを測定して解析を行うクリープ試験が知られている(例えば特許文献1参照)。
また、このようなクリープ試験においては、所定歪量または所定時間ごとに荷重を一定量ずつ増加又は減少させて、荷重と歪量の時間変化を測定することも行われていて、例えば、前記試験片の歪量が予め設定された第1の歪量に達するまでの時間をひとつのデータとして採取し、次いで、予め設定された量だけ荷重を増加又は減少させて試験片の歪量が第2の歪量に達するまでの時間を次のデータとして採取し、この作業を繰り返すことで連続的なデータを求めて解析を行なうようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-43281 号公報
【文献】実開平6-80159号公報
【文献】特表平2007-510151 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような荷重を増減させて行うクリープ試験において高精度な試験結果を得るには、荷重の増減は連続的に、かつ、試験片に衝撃を加えないように静的に行わなければならないうえ、試験片の両側に付加させる荷重の増減は同量かつ同時に行わなければならない。
しかし、特許文献1に記載されたクリープ試験機では、試験片を両側から引っ張って前記試験片に負荷荷重を付与する一対の錘40の数を増減することで、荷重を増減させることはできるが、上記の要件を全て満たしつつ荷重の増減を行うことは極めて困難であるという問題がある。
【0005】
また、特許文献2に記載のてこ式定荷重試験機では、てこ2に沿って移動できる移動式重錘3が設けられていて、ハンドル9によってねじ棒4を回すことで移動式重錘3がてこ2に沿って移動することで、力点の位置を変えることができるようにしていて、荷重の増減は静的かつ連続的に行うことができるものの、試験片の両側に付加させる荷重の増減は同量かつ同時に行うことは難しいという問題がある。また、特許文献2に記載のてこ式定荷重試験機では、移動式重錘3の重量に対応した分しか荷重の増減を行うことができないうえ、てこ2の長さが長くなるとてこ式定荷重試験機が大型化するという問題がある。
【0006】
さらに、特許文献3に記載の多軸万能試験機では、錘の代わりにモータで試験片に負荷を掛けるようにしていて、対となる二つのモータの駆動を同期させることで、試験片の両側で同時に荷重を増減させることができるものの、モータによる荷重の大きさには限界があり、金属などの試験片のクリープ試験を行うには大出力のモータが必要となって装置を大型化させるという問題がある。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたもので、荷重を増減させて行うクリープ試験において、荷重の増減を連続的、かつ、静的に行うことができるとともに試験片の両側での荷重の増減を同量かつ同時に行うことができるクリープ試験機であって、装置構成を簡素かつコンパクトにすることができるクリープ試験機及びクリープ試験方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために請求項1に記載のクリープ試験機は、試験片に荷重を付加して前記試験片の変形量を計測するクリープ試験機において、基台上に立設されたレバーと、このレバーを前記基台に揺動自在に取り付ける第一の支持軸と、前記第一の支持軸から離間した位置で前記レバーに設けられ、前記試験片を把持する把持部を支持する第二の支持軸と、前記第一の支持軸及び前記第二の支持軸から離間した位置で前記レバーに設けられ、前記試験片に荷重を付加する荷重部に連結された連結部材を支持する第三の支持軸とを備え、前記第一の支持軸、第二の支持軸及び前記第三の支持軸の少なくとも一つが、前記レバーの軸線方向に進退移動な可動支持軸として構成されているとともに、前記可動支持軸を前記軸線方向に予め設定した距離だけ移動させる移動手段とを備えた荷重調整ユニットとを有し、一対の前記荷重調整ユニットが前記試験片の両端に配置され、前記移動手段は、一対の前記荷重調整ユニットのそれぞれの前記可動支持軸を同期して移動させる同期移動部を備える構成としてある。
【0009】
前記可動支持軸は、前記第一の支持軸、第二の支持軸及び前記第三の支持軸のいずれであってもよく、また、二つ以上の支持軸を可動支持軸としてもよいが、請求項2に記載するように前記第三の支持軸とするのが好ましい。
前記可動支持軸は、請求項3に記載するように、レバーに形成されたガイド部と、このガイド孔に沿って移動するスライダとによって支持されるように構成するとよく、また、前記可動支持軸又は前記スライダに螺合された螺旋軸を備え、この螺旋軸の回転によって前記可動支持軸を移動させるように前記移動手段を構成してもよい。
【0010】
また、前記移動手段は手動によるものであってもよいが、請求項4に記載するように、 サーボモータなどの駆動体と、この駆動体の駆動を制御する制御手段とを備える構成とし てもよい。
請求項5に記載するように、前記荷重部を支持する昇降自在な荷重支持台と、一対の前 記荷重調整ユニットにおいて対となる前記荷重支持台を同期して昇降させる昇降駆動手段とを さらに設けてもよい。
【0011】
本発明のクリープ試験方法は、請求項6に記載するように、基台上に立設されたレバーと、このレバーを前記基台に揺動自在に取り付ける第一の支持軸と、前記第一の支持軸から離間した位置で前記レバーに設けられ、試験片を把持する把持部を支持する第二の支持軸と、前記第一の支持軸及び前記第二の支持軸から離間した位置で前記レバーに設けられ、前記試験片に荷重を付加する荷重部に連結された連結部材を支持する第三の支持軸とを有するクリープ試験機を準備し、前記第一の支持軸、第二の支持軸及び前記第三の支持軸の少なくとも一つを、前記レバーの軸線方向に進退移動な可動支持軸とするし、前記可動支持軸を移動させることで、前記試験片に付与する荷重を変化させつつクリープ試験を行う方法である。
【0012】
荷重を変化させてクリープ試験を行う方法としては、クリープ試験ごとに付与する荷重を変化させて行うものとしてもよいし、一回のクリープ試験の中で段階的に、又は、連続的に付与する荷重を変化させて行うようにしてもよい。例えば請求項7に記載するように、前記試験片に第一の荷重を付加しつつクリープ試験を行った後、一対の前記荷重調整ユニットの前記可動支持軸を同期させながら移動させて所定位置に位置決めし、前記試験片に第二の荷重を付加しつつクリープ試験を行うようにしてもよいし、また、例えば請求項8に記載するように、一対の前記荷重調整ユニットの前記可動支持軸を同期させながら連続的に移動させ、前記試験片に付与する荷重を変化させながらクリープ試験を行うようにしてもよい。
【0013】
請求項9に記載するように、前記荷重部を支持する昇降自在な荷重支持台と、一対の前 記荷重調整ユニットにおいて対となる前記荷重支持台を同期して昇降させる昇降駆動手段とを 準備し、前記クリープ試験の途中で前記荷重支持台を同期して昇降させることで、前記試 験片に付与する荷重を一時的に0になるようにしてもよい
【発明の効果】
【0014】
本発明は上記のように構成されているので、前記可動支持軸を移動させることで前記試験片に付与する荷重を大きく増減させることができるうえ、荷重の増減も連続的かつ静的に行うことが可能である。また、レバーが基台上に立設された構成であるので、対となる二つの荷重調整ユニットを近接させることができ、装置構成をコンパクトにすることができるほか、人手によって荷重の増減を行う場合も、対となる二つの荷重調整ユニットの移動手段の操作を同時かつ同量だけ行うことが容易になる。
【0015】
特に、移動手段としてサーボモータ等の駆動体を用い、制御手段によって駆動制御を行うようにすれば、対となる二つの荷重調整ユニットの移動手段の操作を高精度に行うことができるようになる。なお、このような駆動体をレバーの内部に収容することで、装置構成を大型化することもない。
また、本発明によれば、クリープ試験中に試験片Tに対して段階的に荷重の大きさを変えて付加することが容易になるほか、クリープ試験中に連続的に荷重の大きさを変えるなど、多様なクリープ試験が可能になる。途中で一時的に荷重を0とすることも可能である。
【0016】
そのため、本発明では、従来の試験機や試験方法では直接的に測定できなかった試験片の応力変動時の変形特性や硬化特性を測定することが可能となり、例えば前記試験片の変形特性やクリープ特性を数式表現する際の硬化変数を決定することが容易になる。そして、クリープ試験で得られた適切な硬化変数や硬化モデルを用いることで、数値シミュレーションの精度が向上し、これによって長期使用時の変形予測を高精度化することが可能となり、より安全性の高い機器や設備の設計に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のクリープ試験機の好適な実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のクリープ試験機の一実施形態にかかり、その全体構成を説明する側面図、
図2は、
図1のクリープ試験機の平面図、
図3は、荷重調整ユニットの詳細を説明する拡大図で(a)はその側面図、(b)は(a)のI-I断面図、
図4は、
図3の荷重調整ユニットの変形例を示す部分図、
図5は、本発明のクリープ試験機を用いたクリープ試験の一例の概略説明図で、(a)は時間と負荷との関係を示すグラフ、(b)は時間と試験片のひずみとの関係を示すグラフ、
図6は、この実施形態のクリープ試験機に用いられる試験片を説明する図で、(a)はその平面図、(b)は(a)のII-II方向断面図である。
【0018】
[試験片]
この実施形態のクリープ試験機1を用いてクリープ試験を行う試験片Tは、
図8に示すような十字形のもので、その形態は特許文献1の
図4などにも記載されているように公知のものである。例えば発電所や工場などの圧力容器や圧力配管、ジェットエンジンのタービンブレード等においてその正確な強度を求めるに当たっては、材料の二軸応力下の応力-ひずみ特性が必要になる。
図8に示すような十字形の試験片Tは、このような二軸応力下の応力-ひずみ特性を求める際に用いられるものである。
試験片Tは鋼材や超耐熱合金材から形成することができるが、実際の圧力容器や圧力配管などから採取した既損傷材料で形成することも可能である。また、試験片Tは非鉄金属の応力-ひずみ特性を求めるためにも用いることができ、例えば強化繊維を含有するエンジニアリングプラスチック等の異方性材料で試験片Tを形成してもよい。
【0019】
この実施形態において試験片Tは、
図8に示すように、クリープ試験の試験対象となる試験片本体部Taが中央に形成され、この試験片本体部Taから直交する四方向に延びる被把持部Tbを有するもので、一辺の長さlが50mm程度、被把持部Tbの幅sが8.4mm程度のものを使用することができる。
被把持部Tbは、後述する荷重調整ユニット10の把持部106(
図3参照)に把持させるためのもので、この被把持部Tbには、荷重付与方向に対して、X、Y方向の変形が互いを拘束しないように、複数本のスリットTcが平行に形成されている。
【0020】
なお、本発明のクリープ試験機1では、上記したような二軸応力下でクリープ試験を行う十字形の試験片Tに限らず、一軸応力下でクリープ試験を行う一文字形の試験片にも適用が可能である。また、本発明のクリープ試験機1では、荷重調整ユニット10の数を増やすことで、例えば試験片本体部Taから八方向に延びる八つの被把持部Tbを有する試験片を用いた多軸応力下でのクリープ試験も可能になる。
【0021】
[クリープ試験機の全体構成]
図1及び
図2に示すようにこの実施形態のクリープ試験機1は、水平な床面やテーブルなどの上に載置又は固定される架台12と、この架台12の基台122に支持される複数(この実施形態では四つ)の荷重調整ユニット10と、複数の荷重調整ユニット10の中央に配置された試験片Tに荷重を付与するための重錘128aと、荷重調整ユニット10と重錘128aとを連結するワイヤ126とを有している。
また、荷重調整ユニット10の中央には、試験片Tを収容してクリープ試験の際に試験片Tを予め設定された温度に加熱する加熱炉13が設けられる。
【0022】
[架台の構成]
図2に示すように、この実施形態において架台12の基台122には、対となる荷重調整ユニット10が二組、すなわち、四つの荷重調整ユニット10が、直交するX軸線上及びY軸線上に相対向して均等間隔で配置される。
架台12は、水平な床面やテーブルなどの上に載置又は固定される支持台120と、この支持台120の上に立設される複数本の脚121とを有していて、基台122は脚121の上端に設けられる。
【0023】
基台122は、
図2に示すように十字状に形成されていて、十字を形成する四つの突出部のそれぞれに、四つの荷重調整ユニット10が配置されている。前記突出部の先端部分は、上方に屈曲させてアーム123として形成されていて、アーム123の上端には滑車124が回転自在に支持されている。そして、荷重調整ユニット10に連結されたワイヤ126がこの滑車124から垂下され、その先端にロッド127を介して一つ又は複数個の重錘128aが吊り下げられる。ロッド127及び重錘128aが、試験片Tに対して荷重を付与する荷重部128を構成する。
【0024】
また、基台122には、四つの荷重調整ユニット10の配置位置に合わせて貫通孔122aが形成され、荷重調整ユニット10の各々は貫通孔122aに挿通させた状態で基台122に支持される。
【0025】
符号125は重錘128aを支持する荷重支持台としての重錘支持台で、重錘128aを載置した状態で昇降可能な昇降テーブル125aを備えている。対向する一対の荷重調整ユニット10の重錘支持台125においては、例えば
図1に示すように二つの昇降テーブル125aを連結部バー125bで連結し、一つの油圧ジャッキで二つの昇降テーブル125aが同期して昇降するようにするとよい。クリープ試験前の初期状態では、一対の荷重調整ユニット10の二つの昇降テーブル125aは上昇していて重錘128aを載置し、対となる二つの荷重調整ユニット10に荷重がかからないようにしているが、二つの荷重調整ユニット10に試験片Tを取り付けてクリープ試験を開始する際には、前記油圧ジャッキを駆動させて二つの昇降テーブル125aを同時にゆっくりと下降させることで、試験片Tの両側から同時に同量の荷重を静的に付与することができる。また、二つの昇降テーブル125aを同時に上昇させ、二つの昇降テーブル125aのそれぞれに同時に重錘128aを載せることで、クリープ試験の終了時だけでなくクリープ試験の途中であっても、試験片Tに作用する負荷を0とすることができる。
【0026】
[荷重調整ユニットの構成]
荷重調整ユニット10は、基台122にボルトなどで固定された台座110に、第一の支持軸108によって揺動自在に立設されたレバー100を有している。レバー100の下端側は、基台122の貫通孔122aを挿通して基台122の下方に延び、その一端には、無負荷状態において支持軸108を支点として、レバー100を垂直姿勢に保つためのバランサ112が取り付けられている。
第一の支持軸108から距離L2だけ離間した上方には、第一の支持軸108と平行かつ同方向に第二の支持軸107が設けられ、この第二の支持軸107を介して、第二の支持軸107から水平方向に対向する他方の荷重調整ユニット10に向けて延びる取付アーム105が、レバー100に揺動自在に取り付けられる。取付アーム105の先端の先端には、連結ピン106aを介して把持部106が取り付けられ、この把持部106の先端に試験片Tの被把持部Tbが把持される。
【0027】
なお、取付アーム105は、ハンドル105aによって軸線方向に進退移動が可能で、対向する二つの荷重調整ユニット10の把持部106,106間の間隔を長短調整することでき、試験片Tを取り付ける際に試験片Tを取り付け易くするとともに、その長さに応じた適切な間隔に調整することができるようになっている。
【0028】
第二の支持軸107から距離L1だけ離間した上方には、第一の支持軸108及び第二の支持軸107と平行かつ同方向に第三の支持軸109が設けられている。この第三の支持軸109から水平方向かつ取付アーム105とは反対方向に連結部材102が延設され、第三の支持軸109を介してレバー100に揺動自在に取り付けられている。連結部材102の先端にはワイヤ連結孔102aが形成され、このワイヤ連結孔102aにワイヤ126の一端が連結される。
【0029】
レバー100の上部には、上下方向に長軸を有する長孔状のガイド孔103が貫通形成され、このガイド孔103に沿って昇降するスライダ115がガイド孔103内に挿入されている。第三の支持軸109は、このスライダ115に支持されていて、スライダ115とともにガイド孔103に沿って、
図3に示す上限位置(i)と下限位置(ii)との間で昇降可能である。この実施形態では、第三の支持軸109が可動支持軸である。
レバー100の上端には、ガイド孔103の上端開放部分を閉塞するように上端部材104が取り付けられている。この上端部材104には、ガイド孔103まで貫通する貫通孔104aが形成され、この貫通孔104aを挿通して螺旋軸101がガイド孔103内まで延びている。
【0030】
螺旋軸101の上端には軸頭部101aが形成され、上端部材104の上方に位置している。軸頭部101aと上端部材104との間には、軸頭部101aを回転自在に支持しつつ螺旋軸101が貫通孔104aからガイド孔103に落下しないようにするための軸受101bが設けられている。螺旋軸101は、第三の支持軸109の中央に貫通形成された螺旋孔109aに螺入されていて、軸頭部101aを介して螺旋軸101を回転させることで、第三の支持軸109がガイド孔103に沿って昇降させる。
【0031】
以上の構成により、スパナなどの工具やハンドルを軸頭部101aに係合させて軸頭部101aを図中C方向に回転させると、螺旋軸101が回転し、この螺旋軸101に螺合する第三の支持軸109がガイド孔103に沿って昇降する。これにより、第二の支持軸107と第三の支持軸109との間の距離L1を長短変化させることができる。
なお、長短変化させる距離L1の大きさを視認できるようにするために、ガイド孔103に沿って目盛りを付するとよい。
【0032】
この実施形態では、第三の支持軸109に形成された螺旋孔109aと螺旋軸101とが、可動支持軸を移動させる移動手段Pを構成する。また、この実施形態では、第一の支持軸108を支点とし、第二の支持軸107を作用点とし、第三の支持軸109を力点とするレバー100が、てこの作用により、荷重部128の荷重を距離L1,L2に応じた比で増幅して、試験片Tに伝達する。
上記構成の荷重調整ユニット10は、試験片Tの両端側に対をなして二つが基台122に配置される。この実施形態では、十字状の試験片Tのクリープ試験を行うことができるように、二対(四つ)の荷重調整ユニット10が基台122に配置される。
【0033】
[荷重調整ユニットの別の実施形態]
図4に、荷重調整ユニットの別の実施形態を示す。
図3の荷重調整ユニット10は、スパナ等の工具やハンドルを用いて手動により螺旋軸101を回転させるものである。本発明のクリープ試験機1は、レバー100を立設させた構成であるので、対となる二つの荷重調整ユニット10を近接して配置することができる。この実施形態では、一辺の長さlが50mm程度の小さな試験片Tを用いることで、対となる荷重調整ユニット10の間隔を40cm前後とすることができ、装置の大きさも一辺の長さH(
図2参照)も60cm程度の範囲内に収めることができる。そのため、一人の作業者が両手で同時に二つの荷重調整ユニット10の螺旋軸101を操作することが容易になり、二つの荷重調整ユニット10の螺旋軸101の回転角度を同じにすることも容易である。
しかし、より精密に二つの荷重調整ユニット10の第三の支持軸109を昇降させるには、サーボモータ等の駆動体を用いて螺旋軸101を回転させるのが好ましい。
【0034】
図4に示す実施形態の荷重調整ユニット10′では、螺旋軸101′をサーボモータ等の駆動体Mの回転軸に連結し、駆動体Mの駆動により螺旋軸101′を回転させるようにしている。駆動体Mの駆動は、荷重調整ユニット10′の外に設けられた図示しない制御部によって制御することが可能で、例えば予め設定された時間経過ごとや予め設定された歪み量に到達した後に、螺旋軸101′を予め設定された回転角度だけ回転させる指令を駆動体Mに出力することで、対となる二つの荷重調整ユニット10′において同期させて同量だけ第三の支持軸109を昇降させることができる。
【0035】
このように、第三の支持軸109の昇降をサーボモータ等の駆動体Mにより行うことで、対となる荷重調整ユニット10′における二つの第三の支持軸109の昇降を高精度に同期させ、かつ、昇降量を精密に一致させることが可能になる。
なお、
図4の例のように、レバー100の内部に空洞部を形成し、駆動体Mをレバー100内に収容することで、駆動体Mや螺旋軸101′が荷重調整ユニット10′の外側に突出せず、荷重調整ユニット10′を先の実施形態の荷重調整ユニット10と同じ大きさ(高さ)内に収めることができる。
【0036】
[クリープ試験方法の説明]
次に、上記構成のクリープ試験機1を用いた本発明のクリープ試験方法を、上記構成のクリープ試験機1の作用とともに説明する。
まず、クリープ試験開始前の初期状態において、重錘支持台125の昇降テーブル125aを上昇させて重錘128aを載置し、対となる荷重調整ユニット10(10′)に荷重が掛からないようにしておく。また、この初期状態では、二つの荷重調整ユニット10(10′)における第二の支持軸107と第三の支持軸109との間の距離L1が同じになるように、支持軸移動手段P(P′)によりそれぞれの第三の支持軸109の位置を一致させておく。
次いで、
図8に示す試験片Tを準備し、四つの被把持部Tbのそれぞれを、2対四つの荷重調整ユニット10(10′)の把持部106に把持させる。
把持完了後、クリープ試験を開始するに際し、各荷重調整ユニット10(10′)の重錘支持台125の昇降テーブル125aを同期して下降させ、試験片Tに四方向から同時に荷重を付与する。
【0037】
試験片Tに付与する荷重Fの大きさは、一つ又は複数の重錘128aの重重(W)と、支点である第一の支持軸108から作用点である第二の支持軸107までの距離L2と、第一の支持軸108から力点である第三の支持軸109までの距離L1+L2とによって決定され、L2×F=(L1+L2)×Wなる関係が成立する。仮に距離L1とL2の比が9:1(L1:L2=9:1)である場合は、一つ又は複数の重錘128aの重量(W)の十倍の荷重が試験片Tに付与されることになる。
【0038】
この状態で予め設定された一定時間経過後又は予め設定された歪み量に達したときに、第三の支持軸109を予め設定された長さαだけ移動させる。本発明のクリープ試験機1では、対となる二つの荷重調整ユニット10の螺旋軸101を同期させて同時に同量だけ回転させることが容易であるし、サーボモータ等の駆動体Mを用いた荷重調整ユニット10′においては、予め設定された条件で自動的に駆動体Mを駆動させて、二つの荷重調整ユニット10の螺旋軸101を同期回転させることができるとともに、より高精度に第三の支持軸109を予め設定された長さαだけ移動させることが可能である。
【0039】
連結部材102を、例えば長さαだけ上昇させて距離L1をL1+αにしたとすると、上記の式はL2×F=((L1+α)+L2)×Wとなる。仮に、移動させる長さαを距離L1の1割強として、距離L1+αと距離L2との比を10:1にしたとすると、一つ又は複数の重錘128の重量(W)とほぼ同じ分だけ、試験片Tに付与する荷重を増大させることができる。
図5は、この実施形態のクリープ試験方法による応力(負荷)と時間との概略的な関係を示すグラフである。
このグラフに示すように、t1,t2,t3・・・と時間が経過するごとに段階的に荷重を変化させ、試験片Tに作用する負荷σを段階的に変化(このグラフの場合は増大)させることで、各負荷σ1,σ2,σ3・・・における試験片Tのひずみ(変形)を観測することができる。
なお、段階的に負荷σを変化させる際には、一時的に負荷σを0としてもよい。この場合は、対となる重錘支持台125の昇降テーブル125aを同期させて上昇させ、昇降テーブル125aの上に重錘128aを載せるようにする。
【0040】
[クリープ試験方法の別の実施形態]
本発明のクリープ試験方法の別の実施形態では、クリープ試験を開始してから、可動支持軸である第三の支持軸109を、対となる荷重調整ユニット10,10′において同期させて、一定の速度で連続的に移動させる。前記速度は、クリープ試験の開始から終了まで等速としてもよいし途中可変(速度0を含む)としてもよい。
図6は、この実施形態のクリープ試験方法による応力(負荷)と時間との概略的な関係を示すグラフである。
このグラフに示すように、試験開始から時間t4まで直線的に荷重を変化させ、試験片Tに作用する負荷σをσ4からσ5まで変化(このグラフでは負荷σを増大させる場合を示しているが、σ4からσ5まで負荷σを減少させることも可能)させることで、直線的な負荷の変化下における試験片Tのひずみ(変形)を観測することができる。
【0041】
[クリープ試験方法のさらに別の実施形態]
本発明のクリープ試験方法のさらに別の実施形態では、クリープ試験を開始してから、可動支持軸である第三の支持軸109を、対となる荷重調整ユニット10,10′において同期させて、
図7のグラフに示すように、試験開始から時間t5までの間に負荷σを最大値σ8と最小値σ6との間で不定形的(
図7の例では波形)に変化するように移動させる。最小負荷σ6は0でもよく、この場合は、対となる重錘支持台125の昇降テーブル125aを同期させて上昇させ、昇降テーブル125aの上に重錘128aを一時的に載せるようにする。負荷σを変化させる速度は、クリープ試験の開始から終了まで等速としてもよいし途中可変(速度0を含む)としてもよい。
【0042】
このように本発明では、支持軸のうちの少なくとも一つ(上記の実施形態では第三の支持軸109)を可動支持軸とし、螺旋軸やサーボモータ等の駆動体Mを用いて、対となる荷重調整ユニット10,10′の前記可動支持軸(上記の実施形態においては第三の支持軸109)を同期移動させることで、装置構成を複雑かつ大型化することなく大きな荷重増減効果を得ることができるだけでなく、荷重の増減も試験片Tの両側で同期させて同量だけ、かつ、連続的・静的に行うことが可能になる。また、クリープ試験中に試験片Tに対して段階的に荷重の大きさを変えて付加することが容易になるほか、クリープ試験中に連続的に荷重の大きさを変えるなど、多様なクリープ試験が可能になる。
【0043】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、上記の説明では可動支持軸を第三の支持軸109として説明したが、本発明では第一の支持軸108や第二の支持軸107を可動支持軸とすることが可能であるし、これら三つの支持軸のうち二つ又は全部を可動支持軸とすることも可能である。
また、レバー100の下端側から順に支点である第一の支持軸108、作用点である第二の支持軸107及び力点である第三の支持軸109を配置しているが、てこの作用を奏するのであればこれら支点、力点、作用点の配置はこの限りではない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明のクリープ試験機の一実施形態にかかり、その全体構成を説明する側面図である。
【
図3】荷重調整ユニットの詳細を説明する拡大図で(a)はその側面図、(b)は(a)のI-I断面図である。
【
図4】
図3の荷重調整ユニットの変形例を示す部分図である。
【
図5】この実施形態のクリープ試験方法による応力(負荷)と時間との概略的な関係を示すグラフである。
【
図6】別の実施形態のクリープ試験方法による応力(負荷)と時間との概略的な関係を示すグラフである。
【
図7】さらに別の実施形態のクリープ試験方法による応力(負荷)と時間との概略的な関係を示すグラフである。
【
図8】この実施形態のクリープ試験機に用いられる試験片を説明する図で、(a)はその平面図、(b)は(a)のII-II方向断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 クリープ試験機
10,10′ 荷重調整ユニット
100 レバー
101 螺旋軸
101a 軸頭部
102 連結部材
103 ガイド孔
104 上端部材
104a 貫通孔
105 取付アーム
105a ハンドル
106 把持部
106a 連結ピン
107 第二の支持軸
108 第一の支持軸
109 第三の支持軸
110 台座
112 バランサ
115 スライダ
12 架台
120 支持台
121 脚
122 基台
122a 貫通孔
123 アーム
124 滑車
125 重錘支持台(荷重支持台)
125a 昇降テーブル
125b 連結バー
126 ワイヤ
127 ロッド
128 荷重部
128a 重錘
13 加熱炉