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特許7611627ノズル部材及びこのノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】ノズル部材及びこのノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置
(51)【国際特許分類】
   B24C 5/02 20060101AFI20241227BHJP
   B24C 1/02 20060101ALI20241227BHJP
   B24C 3/12 20060101ALI20241227BHJP
   B24C 5/04 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
B24C5/02 B
B24C1/02
B24C3/12
B24C5/04 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024157808
(22)【出願日】2024-09-11
【審査請求日】2024-09-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591205732
【氏名又は名称】マコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】大倉 弘至
(72)【発明者】
【氏名】丸山 貴之
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-127981(JP,A)
【文献】特開2004-017241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 5/02
B24C 1/02
B24C 3/12
B24C 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理部材に対して液体と砥粒との混合物であるスラリを噴射するノズル部材であって、
前記ノズル部材は、直線状に延びるスリット状の噴射口を有する一対のノズル体を有し、
前記一対のノズル体は、前記噴射口の前記スリットが直線状に延びる方向と直交する断面において、前記噴射口から噴射される前記スラリの噴射方向の延長線が互いに交差するとともに、前記被処理部材に対して同時に前記スラリを噴射するように、それぞれの前記噴射口の前記スリットの延設方向が互いに平行となるように対向配置されていることを特徴とするノズル部材。
【請求項2】
請求項1に記載のノズル部材において、
前記一対のノズル体は、前記噴射口の延設方向と直交する断面において、前記噴射口から噴射される前記スラリの噴射角度が鉛直方向に対してそれぞれ1~50°傾いていることを特徴とするノズル部材。
【請求項3】
請求項2に記載のノズル部材において、
前記一対のノズル体の噴射角度の角度差は、5°以内であることを特徴とするノズル部材。
【請求項4】
請求項2に記載のノズル部材において、
前記一対のノズル体は、前記噴射角度を変更可能な角度調整手段を備えることを特徴とするノズル部材。
【請求項5】
請求項1に記載のノズル部材において、
前記一対のノズル体からそれぞれ噴射された前記スラリが前記被処理部材に噴射される位置の前記一対のノズル体の対向方向に沿った長さは、変更可能であることを特徴とするノズル部材。
【請求項6】
請求項1に記載のノズル部材において、
前記ノズル部材は、前記噴射口の該スリットが直線状に延びる方向と直交する方向に移動可能な移動手段を備えることを特徴とするノズル部材。
【請求項7】
請求項1に記載のノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置であって、
前記ノズル部材は、2セット以上有し、それぞれの前記ノズル部材は、前記噴射口の延設方向が交差するように配置されることを特徴とするウェットブラスト処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥粒と水などの液体とが混合されたスラリをワーク等に対して噴射してワーク表面を処理するノズル部材及びこのノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、切削工具で使用される切削チップの刃部の耐久性を向上させることを目的として、また、ワークの表面の汚れやバリなどを除去するために、ワークに対して砥粒と水などの液体とが混合されたスラリを圧搾空気によって噴射するウェットブラスト処理が行われている。このようなウェットブラスト処理は、スラリを噴射するノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置が使用されており、このようなノズル部材及びウェットブラスト処理装置は、種々の形態が知られている。
【0003】
例えば、従来のウェットブラスト処理装置に用いられるノズル部材は、特許文献1に記載されているように、ワークである被処理部材に対して液体と砥粒との混合物であるスラリを圧縮空気とともに噴射するためのウェットブラスト処理装置に設けられるノズル部材であって、被処理部材の対向上方位置に設けられる本体部には、複数のノズル体が設けられ、このノズル体は、スラリが圧縮空気とともに被処理部材の所定の被処理部位へ対向側から下方へ傾斜噴射されるように設けられている。
【0004】
このようなノズル部材によれば、処理能力が高く、ひいてはウェットブラスト処理の処理コストを低減し得るという効果を奏する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-202587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のノズル部材は、ワーク一つに対してウェットブラスト処理を行う場合には、処理の均一性が良好であり、ワークに対して対向側から傾斜噴射されることによってスラリの噴射に伴うワークのズレ(以下、「ワーク飛び」ともいう)に対し非常に優位性があるが、ワーク一つに対して処理を行う必要があることから、生産性が低いという問題があった。また、生産性を高めるために、トレイにワークを複数載置してウェットブラスト処理を行うことも考えられるが、このような処理方法では、確実性が低くなり、処理の均一性の悪化、ワーク飛びの発生及び搬送の複雑化といった問題が生じる。
【0007】
詳述すると、特許文献1に記載されたノズル部材は、スポット状にスラリを噴射するノズル体を8つ所定の円周上に配置し、それぞれのノズル体から被処理部位へ対向側から下方へ傾斜噴射されるように設けられている。このようなノズル部材を備えたウェットブラスト処理では、ノズル部材をワークの水平方向に沿って往復移動させることでワークの表面全体を処理している。
【0008】
しかし、8つのノズル体のそれぞれから噴射されるスラリが互いに干渉すると、スラリに含まれる砥粒が衝突することで砥粒が消耗したり、バッファにより処理効率が低下してしまう。これを防止するために、8つのノズル体から噴射されるスラリが互いに干渉しないように噴射パターンがワークの載置面上にドーナツ状に配置する必要がある。
【0009】
このようにドーナツ状にスラリを噴射すると、トレイに載置した複数のワークに対して処理を行う場合、スラリの噴射が複数のワークに対して広がってしまい、ワークへの噴射の偏りが発生し、ワーク飛びやワークの回転といった位置ズレが発生しやすい構造であった。また、位置ズレが生じることで、ワークに対するスラリの噴射により偏りが生じ、処理の均一性や生産性に悪影響を与える可能性があった。なお、このような位置ズレを防止するために、トレイをワークごとに専用形状にするなどの方法が考えられるが、このようなトレイは多品種のワークに対して汎用性がなくなるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、トレイにワークを複数載置してウェットブラスト処理を行う場合であっても、生産性を更に向上させると共に、処理の均一性、ワーク飛びの抑制及び搬送の簡素化といった従来有していた種々の課題を解決することができるノズル部材及びこのノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明に係るノズル部材は、被処理部材に対して液体と砥粒との混合物であるスラリを噴射するノズル部材であって、前記ノズル部材は、直線状に延びるスリット状の噴射口を有する一対のノズル体を有し、前記一対のノズル体は、前記噴射口の前記スリットが直線状に延びる方向と直交する断面において、前記噴射口から噴射される前記スラリの噴射方向の延長線が互いに交差するとともに、前記被処理部材に対して同時に前記スラリを噴射するように、それぞれの前記噴射口の前記スリットの延設方向が互いに平行となるように対向配置されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るノズル部材において、前記一対のノズル体は、前記噴射口の延設方向と直交する断面において、前記噴射口から噴射される前記スラリの噴射角度が鉛直方向に対してそれぞれ1~50°傾いていると好適である。
【0013】
また、本発明に係るノズル部材において、前記一対のノズル体の噴射角度の角度差は、5°以内であると好適である。
【0014】
また、本発明に係るノズル部材において、前記一対のノズル体は、前記噴射角度を変更可能な角度調整手段を備えると好適である。
【0015】
また、本発明に係るノズル部材において、前記一対のノズル体からそれぞれ噴射された前記スラリが前記被処理部材に噴射される位置の前記一対のノズル体の対向方向に沿った長さは、変更可能であると好適である。
【0016】
また、本発明に係るノズル部材において、前記ノズル部材は、前記噴射口の該スリットが直線状に延びる方向と直交する方向に移動可能な移動手段を備えると好適である。
【0017】
また、本発明に係るウェットブラスト処理装置は、上述したノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置であって、前記ノズル部材は、2セット以上有し、それぞれの前記ノズル部材は、前記噴射口の延設方向が交差するように配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るノズル部材及びこのノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置によれば、一対のノズル体が噴射口の延設方向と直交する断面において、噴射口から噴射されるスラリが互いに任意の点で衝突するように対向配置されているので、所定の被処理部材(以下、「ワーク」ともいう)のみに互いに対向する方向からスラリが噴射されるので、ワーク飛びやワークの回転といったワークの位置ズレが発生しづらく、生産性の向上と処理の均一性を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係るノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置の概要図。
図2】本発明の実施形態に係るノズル部材の平面図。
図3】本発明の実施形態に係るノズル部材のノズル体を示す斜視図。
図4】本発明の実施形態に係るノズル部材の動作を示す図。
図5】本発明の実施形態に係るノズル部材の角度調整手段を示す図。
図6】本発明の実施形態に係るノズル部材のワークまでの距離の調整方法を説明する図。
図7】本発明の実施形態に係るノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置の搬送手段を説明する図。
図8】本発明の実施形態に係るノズル部材によるウェットブラスト処理を説明する図。
図9】本発明の実施形態に係るノズル部材によるウェットブラスト処理を説明する図。
図10】本発明の実施形態に係るノズル部材によるウェットブラスト処理を説明する図。
図11】本発明の実施形態に係るノズル部材によるスラリの最大対向噴射幅を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係るノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置の概要図であり、図2は、本発明の実施形態に係るノズル部材の平面図であり、図3は、本発明の実施形態に係るノズル部材のノズル体を示す斜視図であり、図4は、本発明の実施形態に係るノズル部材の動作を示す図であり、図5は、本発明の実施形態に係るノズル部材の角度調整手段を示す図であり、図6は、本発明の実施形態に係るノズル部材のワークまでの距離の調整方法を説明する図であり、図7は、本発明の実施形態に係るノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置の搬送手段を説明する図であり、図8から図10は、本発明の実施形態に係るノズル部材によるウェットブラスト処理を説明する図であり、図11は、本発明の実施形態に係るノズル部材によるスラリの最大対向噴射幅を説明する図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係るノズル部材10は、ウェットブラスト処理装置1に好適に取り付けられ、ノズル部材10は、噴射材Sを搬送手段によって搬送されるワークWの表面に対して噴射して噴射材Sを衝突させて表面処理を施す。なお、噴射された噴射材Sは搬送手段2の下方に配置されたスラリ回収部9で回収されて、異物の除去などを行い再利用される。
【0023】
なお、本実施形態では、ウェットブラスト処理が施されるワークWは、切削工具で使用される概略矩形状の切削チップ(図11参照)として説明を行うが、本実施形態に係るノズル部材10によって処理されるワークWの形状は、これに限られず、従来周知の種々の被処理部材に適用することが可能である。
【0024】
噴射材Sは、液体と砥粒とを混合した混合物であるスラリを圧縮空気と共に噴射すると好適である。スラリに含まれる液体は、後述する砥粒を被加工物の表面に運ぶ役割を果たすものである。したがってこの役割を果たすことが可能であれば、引火性のある物質を除き、いかなる液体をも用いることができる。具体的には、環境面への配慮やコストの関係から水を用いることが好ましい。
【0025】
砥粒は、上記液体によって被加工物表面に運ばれ、被加工物表面に対し所望の加工を施す役割を果たすものである。したがってこの役割を果たすことが可能であればいかなる砥粒をも用いることができる。
【0026】
具体的には、砥粒の材質としては、セラミックス、樹脂、および金属などを挙げることができ、より具体的には、アルミナ、ガラス、ジルコニア、およびステンレスなどを挙げることができる。また、砥粒の形状としては、多角形状、球形状、真球形状などを挙げることができる。また、砥粒の大きさとしては、1μm程度から500μm程度のものを適宜選択して用いることができる。
【0027】
砥粒のスラリ全体に対する含有割合についても特に限定されることはなく、被加工物の材質や加工面積、さらには所望する加工の程度などに応じて適宜設計可能である。
【0028】
また、スラリは、上記液体および砥粒の他に、種々の機能を有する混合材を用いることができ、例えば、防錆剤を含有することも可能である。ウェットブラスト処理方法において用いられるスラリ中に防錆剤を含有することにより、被加工物の表面に従来通りのウェットブラスト処理を施すと同時に、防錆効果をも付与することが可能となる。また、防錆剤に変えて、各成分の作用効果を阻害しない程度において、各種添加剤を添加してもよい。
【0029】
本実施形態に係るノズル部材10を備えたウェットブラスト処理装置1は、処理方向に延びる搬送手段2と、搬送手段2の基端側に位置するローダ2a、当該ローダ2aから搬送手段2の延設方向に沿ってそれぞれ配置される第1の処理部3a、第2の処理部3b、及びアンローダ6とを備えている。
【0030】
搬送手段2は、図7に示すように、長手方向に一連に延設されており、幅方向に所定の間隔を隔てて配置された一対のプロファイル付きベルト7,7が搬送手段2の長手方向のアンローダ6側の端部に配置された駆動部8に掛け回されている。
【0031】
また、ワークWは、載置部材T上に所定の間隔で長手方向および幅方向に沿って縦横に並んで配置されていると好適であり、当該載置部材Tは、プロファイル付きベルト7の間に架け渡されるように搬送される。このため、後述する第1の処理部3a及び第2の処理部3bによってワークWの上方から噴射材Sが噴射された場合に、従来のように載置部材Tの下に搬送ベルトが設けられた方式では、ウェットブラスト処理された後の噴射材Sが搬送ベルトに当たって反射し、ワークWが載置部材Tから飛び出したり、回転する現象が発生しやすいが、本実施形態に係る搬送手段2の構造によれば、載置部材Tの下に噴射材Sが反射するベルト等が存在しないため、ベルト等に起因するワークWの飛びや回転といった問題が発生しない。
【0032】
また、プロファイル付きベルト7によって載置部材Tを搬送しているので、載置部材Tの下に搬送ベルトが設けられた方式では、ベルトが分割され、分割部分で載置部材Tが次のベルトに乗り移る際に、スリップが発生しやすいが、本実施形態に係る搬送手段2の構造によれば、搬送手段2上で載置部材Tがスリップすることを防止することができ、ウェットブラスト処理の均一性の低下が発生することなく、簡便な搬送手段2の構造を実現することができる。
【0033】
駆動部8は、プロファイル付きベルト7のアンローダ6側に配置されたプーリで構成され、ローダ2a側は、ベルトテンション機構が配置されると好適であり、少なくともアンローダ6側のプーリは図示しないモータ等によって駆動力を付与されている。なお、駆動力を付与する構造としては、モータの回転軸をプーリと同軸に組み付けても構わないし、モータとプーリとを駆動ベルトなど介して駆動しても構わない。
【0034】
ローダ2a及びアンローダ6は、搬送手段2の搬送方向の基端部及び先端部にそれぞれ配置されており、処理を行う前のワークWを載置した載置部材Tの投入や、処理後のワークWを搭載した載置部材Tの取出しを行う。
【0035】
第1の処理部3a及び第2の処理部3bは、本実施形態に係るノズル部材10がそれぞれ所定の方向に移動可能に配置されている。第1の処理部3aは、後述するノズル部材10のスリット状噴射口22が搬送手段2の搬送方向に沿うように配置され、搬送手段2の幅方向(一対のプロファイル付きベルト7の対向する方向)に沿って往復移動する。これに対し、第2の処理部3bは、ノズル部材10のスリット状噴射口22が搬送手段2の幅方向に沿うように配置され、搬送手段2の搬送方向に沿うように往復移動する。
【0036】
また、ノズル部材10は、第1の処理部3a及び第2の処理部3bでそれぞれ同一の部材を使用するため、以降の説明においては、第1の処理部3aについて説明を行い、第2の処理部3bについての詳細な説明は省略する。
【0037】
図2に示すように、ノズル部材10は、一対のノズル体20がスリット状噴射口22の開口の延設方向が互いに平行となるように配置されており、スリット状噴射口22の両端側に配置された一対の角度調整手段11に挟持されている。また、ノズル部材10の上方には、角度調整手段11が取り付けられる移動手段12を備えている。移動手段12は、ノズル部材10を、スリット状噴射口22の延設方向と直交する方向(第1の処理部3aの場合は幅方向、第2の処理部3bの場合は搬送方向)に往復移動可能に保持している。移動手段12は、ノズル部材10を幅方向又は搬送方向に沿って移動することができればどのような構成を用いても構わないが、例えば、直線案内装置やボールねじなどの従来周知の種々のアクチュエータやタイミングベルトを用いた従来周知の移動機構を用いることができる。なお、移動手段12は、往復移動のみならず、上下方向に移動可能な上下移動機構15を備えていると好適である。
【0038】
図3に示すようにノズル体20は、直線状に延びるスリット状噴射口22から噴射材Sを帯状に噴射する。ノズル体20は、スラリを導入するスラリ導入口23及び圧縮空気を導入するエア導入口24が形成されたノズル体本体21と、ノズル体本体21から垂設されたスリット状噴射口22とを備えている。スラリ導入口23及びエア導入口24から導入されたスラリ及び圧縮空気は、ノズル体本体21内部のスラリ貯留室及びエア貯留室に貯留され、スラリ貯留室及びエア貯留室に連絡する内部通路で混合され、噴射材Sとしてスリット状噴射口22から噴射される。
【0039】
角度調整手段11は、一対のノズル体20の側面に配置された板状の部材であって、円弧状に形成されたガイド溝13が形成されている。ガイド溝13は、後述するノズル体20の噴射角度が所定の角度に調整可能となるように、所定の間隔で切欠き13a、13bが形成されている。本実施形態に係るノズル部材10では、切欠き13a、13bの位置を、1°、10°、20°、40°、45°及び50°に調整できるように片側に合計6カ所切欠き13a、13bが形成されている。
【0040】
図4に示すように、一対のノズル体20は、角度調整手段11に取り付けられることで、スリット状噴射口22の延設方向と直交する断面において、スリット状噴射口22から噴射されるスラリが互いに任意の点で衝突するように対向配置されている。
【0041】
なお、角度調整手段11へのノズル体20の固定は、図5に示すように、固定ピン14aを緩め、ガイド溝13の任意の切欠き13aに固定ピン14aを、切欠き13bに固定ピン14bをそれぞれ差し込み、固定ピン14aを締め込むことでノズル体20を固定させる。このとき、一対のノズル体20は、鉛直方向に対して対称となる位置に形成された切欠き13a、13bにそれぞれ固定される。
【0042】
このように、ノズル体20を固定孔25a,25bに固定ピン14a,14bを用いて2箇所で固定することで、ノズル体20を所望の角度にズレなく固定することが可能となる。
【0043】
また、ノズル体20に形成された固定孔25a、25bは、図5及び図6に示すようにノズル体20の先端側(スリット状噴射口22側)と基端側(スラリ導入口23側)の2箇所に形成されており、先端側及び基端側のいずれかの固定孔25a、25bを選択して固定ピン14a,14bを挿通することで、スリット状噴射口22からワークWまでの距離を調整することが可能に構成されている。なお、固定孔25a、25bの形成される位置は、先端側、基端側に限らず、3箇所以上形成しても構わない。なお、本実施形態に係るノズル部材10では、ノズル角度が20°に相当する位置に先端側の固定孔25bに対応する固定ピン14bを挿入した場合について説明したが、説明のために、角度調整手段11に形成される固定ピン14bの挿入孔については、20°以外のその他の角度に相当する位置に形成される挿入孔については図示を省略する。
【0044】
このように本実施形態に係るノズル部材10は、スリット状噴射口22からワークWまでの噴射距離を調整することが可能であるので、ウェットブラスト処理の際のスラリがワークWに衝突する力を調整することが可能となる。
【0045】
さらに、ノズル体20の角度調整手段11への固定は、ガイド溝13に形成された切欠き13a,13bを形成せずに、円弧上の任意の位置に固定しても構わない。この場合、一対のノズル体20の噴射角度の角度差は、5°以内に設定されると好適である。噴射角度が5°を超えた角度差となると、後述するワークの飛びや回転の抑制を十分に図ることが難しくなる。
【0046】
また、ノズル体20の噴射角度の調整範囲は、上述したように1°から50°に設定されると好適である。噴射角度が50°を超えると載置部材Tに形成したワークWの保持のための壁部に噴射されたスラリSが干渉してしまい、処理効率が低下する。また、50°を超えた場合には、後述するワークWを抑える力よりワークWを浮き上がらせる力が大きくなるため、ワークWの抑えを確実に行う事が難しくなる。
【0047】
また、本実施形態に係るノズル部材10は、一対のノズル体20からそれぞれ噴射されたスラリがワークWに噴射される位置の一対のノズル体20の対向方向に沿った長さ(以下、本明細書において「対向噴射幅」という)は、変更可能である。具体的には、角度調整手段11のガイド溝13に形成された任意の切欠き13a,13bにノズル体20を組み付けることで、対向噴射幅を調整することができる。
【0048】
対向噴射幅Lの調整範囲は、図11に示すように、5mmからワークWの最大内接円Cの直径まで調整可能であると好適である。このような範囲に対向噴射幅Lを調整可能であるので、後述するワークWの飛びや回転の抑制を十分に行う事が可能となる。この対向噴射幅Lの調整幅は、5mm以下の場合には、バッファにより処理効率が低下すると共に、噴射されたスラリS同士が衝突することによる研磨材の摩耗が進行しやすくなり、最大内接円Cを超えた対向噴射幅Lとすると、ワークWの飛びや回転を抑える力が有効に作用しない。
【0049】
対向噴射幅Lの調整は、上述した上下移動機構15によってノズル部材10自体を上下させることで対向噴射幅Lを自由に可変することが可能となる。具体的には、上下移動機構15を数値制御で上下可能とすることでワークWの形状に応じた自由な対向噴射幅Lの設定が可能となる。
【0050】
次に、図7から10を参照して、本実施形態に係るノズル部材10の作用について説明を行う。
【0051】
まず、図7に示すように、第1の処理部3aにおいて載置部材Tに載置した複数のワークWに対してスラリを噴射してウェットブラスト処理を行う。第1の処理部3aでは、ノズル部材10は、スリット状噴射口22が搬送手段2の搬送方向と平行に配置され、幅方向に移動しながら、ウェットブラスト処理を行う。
【0052】
このとき、本実施形態に係るノズル部材10は、図8に示すように、ワークWの移動方向の上流側に位置するノズル体20(迎え処理側)は、ワークWの上面にスラリを噴射し、ワークWの下流側に位置するノズル体20(送り処理側)は、ワークWの切削面をウェットブラスト処理する。
【0053】
送り処理側のノズル体20によるスラリの噴射によってワークWを迎え処理側に吹き飛ばす力が発生すると同時に、噴射されたスラリがワークWの下面に入り込みワークWを浮き上がらせる力も生じる。この吹き飛ばす力と浮き上がらせる力によって、送り処理側のノズル体20によって、ワークWを吹き飛ばしたり、回転させたりするが、迎え処理側のノズル体20がワークWの上面に噴射することで当該ワークWの飛びや回転といった力を抑えている。
【0054】
また、本実施形態に係るノズル部材10を更に移動させると、図9に示すように、迎え処理側のノズル体20がワークWの切削面をウェットブラスト処理し、送り処理側のノズル体20がワークWの上面を抑えることで、ワークWの飛びや回転を抑えたまま切削面のウェットブラスト処理を行う事が可能となる。
【0055】
さらに、図10に示すように、本実施形態に係るノズル部材10によれば、載置部材Tに載置した複数のワークWに対してウェットブラスト処理を行うことができ、スラリSの噴射方向に配列されたワークWのみに噴射することができるため、任意のワークWに対して偏った不均一なウェットブラスト処理を行う事がなく、コントロール性の良い噴射を実現することができ、ひいては複数のワークWに対して均一なウェットブラスト処理を行うことができる。
【0056】
また、本実施形態に係るノズル部材10は、角度調整手段11によってスラリSの噴射角度を調整可能であるので、ワークWの上面のみならずワークWの側面の切削面へのウェットブラスト処理をワークWの形状によらずに処理を行う事が可能である。
【0057】
なお、本実施形態に係るノズル部材10は、移動方向に沿って往復移動が可能であるので、図8及び図9に記載される処理を複数繰り返しても、ワークWの飛びや回転を起こすことなく、所望の状態まで切削面のウェットブラスト処理を行うことができるので、処理性能を向上させることができる。
【0058】
また、第2の処理部3bでは、スリット状噴射口22が搬送手段2の幅方向と平行に配置され、搬送方向に移動しながら、ウェットブラスト処理を行うので、上記第1の処理部3aで処理できなかった切削面(図10における上下方向の切削面)に対してウェットブラスト処理を行うことができるので、ワークWの全周に渡って切削面のウェットブラスト処理を行う事が可能となる。
【0059】
なお、ワークWの厚み方向に対しては、本実施形態に係るノズル部材10は鉛直方向に移動可能に構成することでワークWの厚みの変化に対応させることが可能である。この場合、本実施形態に係るノズル部材10の鉛直方向への移動機構は上述した上下移動機構15を用いることができる。
【0060】
また、本実施形態に係るノズル部材10は、第1の処理部3aと第2の処理部3bとで互いに直交する向きに配置した場合について説明を行ったが、ノズル部材10の数は2つに限られず、1つでも3以上配置しても構わない。また、本実施形態に係るノズル部材10は、搬送手段2によって搬送されるワークWに対してウェットブラスト処理を行う場合について説明を行ったが、テーブル等に載置されたワークWに対してノズル部材10自体を移動させてウェットブラスト処理を行っても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0061】
1 ウェットブラスト処理装置, 2 搬送手段, 2a ローダ, 3a 第1の処理部, 3b 第2の処理部, 6 アンローダ, 7 プロファイル付きベルト, 8 駆動部, 9 スラリ回収部, 10 ノズル部材, 11 角度調整手段, 12 移動手段, 13 ガイド溝, 13a,13b 切欠き, 14a,14b 固定ピン, 20 ノズル体, 21 ノズル体本体, 22 スリット状噴射口, 23 スラリ導入口, 24 エア導入口, 25a,25b 固定孔, C 最大内接円, L 対向噴射幅, S スラリ, T 載置部材。
【要約】
【課題】トレイにワークを複数載置してウェットブラスト処理を行う場合であっても、生産性を更に向上させると共に、処理の均一性、ワーク飛びの抑制及び搬送の簡素化といった従来有していた種々の課題を解決する。
【解決手段】被処理部材に対して液体と砥粒との混合物であるスラリを噴射するノズル部材であって、ノズル部材は、直線状に延びるスリット状の噴射口を有する一対のノズル体を有し、一対のノズル体は、噴射口の延設方向と直交する断面において、噴射口から噴射されるスラリが互いに任意の点で衝突するように対向配置されている。
【選択図】図2
図1
図2
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図8
図9
図10
図11