(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】美容用形状補正部材
(51)【国際特許分類】
A45D 44/22 20060101AFI20241227BHJP
【FI】
A45D44/22 Z
(21)【出願番号】P 2020176241
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-08-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【氏名又は名称】津田 英直
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 知子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 瞳
(72)【発明者】
【氏名】名越 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】光村 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】島倉 瞳
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-171417(JP,U)
【文献】国際公開第2015/111748(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/143169(WO,A1)
【文献】特開2005-137739(JP,A)
【文献】国際公開第2009/041121(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/179610(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 44/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
美容用形状補正部材であって、
鼻根部の凹部に適用して、該凹部の凹みを減少させる膜形状を有し、
エラストマーで構成されており、かつ、
鼻根部に対応する位置に最大膜厚部を有し、周縁部が薄くなって
おり、
鼻根部から鼻背部までの間のみに適用される、又は鼻根部のみに適用される、
部材。
【請求項2】
前記凹みを減少させる膜形状が、鞍型の膜形状である、請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記エラストマーが、シリコーンゴムである、請求項1又は2に記載の部材。
【請求項4】
前記エラストマー中に、顔料、染料及び着色繊維から選択される少なくとも一種をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の部材。
【請求項5】
JIS K7361-1に従って測定される、前記部材の最大膜厚部の全光線透過率が、50%以上、90%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の部材。
【請求項6】
前記部材の鼻根部に適用される側の表面に対して反対側の表面に、肌のキメ状の模様を有する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の部材。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の部材を有している、美容キット。
【請求項8】
密着剤をさらに有している、請求項
7に記載の美容キット。
【請求項9】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の部材を、少なくとも鼻根部の凹部に対して貼り付ける、美容用形状補正部材の使用方法。
【請求項10】
前記部材を貼り付ける箇所に対して密着剤を適用し、該密着剤の適用部位に対して前記部材を貼り付ける、請求項
9に記載の使用方法。
【請求項11】
前記部材の鼻根部に適用される側の表面に対して密着剤を適用した後に、該部材を貼り付ける、請求項
9に記載の使用方法。
【請求項12】
化粧を施した後に、又は化粧を施して密着剤を適用した後に、前記部材を貼り付ける、請求項
9~
11のいずれか一項に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、皮膚に装着して使用する美容用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の見た目の改善を目的とする技術として、例えば、美容整形外科手術、或いは、事故などで失った人体の欠損部に対し、その欠損部の形状を模したエピテーゼなどと呼ばれる部材を適用する技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、生体適合性及び柔軟性を有する材料、並びに生理学的に許容される懸濁化剤を含んでなる皮膚充填材として使用される注射用アロプラスト懸濁液を含んでなる組成物であって、該生体適合性及び柔軟性を有する材料が、フェニルエチルアクリレート及びフェニルエチルメタクリレートのコポリマーである、組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、(a)一般式:A-(B-A)n(ここで、Aはモノビニル置換芳香族炭化水素の重合体ブロック、Bは共役ジエンのエラストマー性重合体ブロックであり、nは1~5の整数である。)で表わされるブロック共重合体の水素添加誘導体100重量部、(b)非芳香族系ゴム用軟化剤100~200重量部、及び(c)オレフィン系樹脂20~200重量部を配合した組成物で少なくとも一部が構成された、エピテーゼが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2013-525036号公報
【文献】特開昭61-253066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
美容目的で顔面の形状を補正して見た目の改善を図る場合、美容整形外科手術を行うのが一般的であり、例えば日本では、鼻に対して美容整形外科手術を行う頻度が高い。そして、この美容整形外科手術としては、例えば、特許文献1に記載されるような生体適合性の材料を注射で鼻に注入する方法、或いは、シリコーン製の部材を鼻の内部に直接埋め込む方法などが行われている。しかしながら、このような美容整形外科手術はいずれも、体への負担が大きく、また、費用も高額となる。
【0007】
特許文献2に記載されるようなエピテーゼは、事故或いは病気などによって失った人体の欠損部に対して適用される、オーダーメードの高価な部材であり、美容目的で使用される部材ではない。
【0008】
したがって、本開示の主題は、体への負担が少なく、装着しても違和感を受けにくく、顔全体の印象を向上させ得、かつ量産が可能な美容用形状補正部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〈態様1〉
美容用形状補正部材であって、
鼻根部の凹部に適用して、凹みを減少させる膜形状を有し、
エラストマーで構成されており、かつ、
周縁部が薄くなっている、
部材。
〈態様2〉
前記凹みを減少させる膜形状が、鞍型の膜形状である、態様1に記載の部材。
〈態様3〉
前記エラストマーが、シリコーンゴムである、態様1又は2に記載の部材。
〈態様4〉
前記エラストマー中に、顔料、染料及び着色繊維から選択される少なくとも一種をさらに含む、態様1~3のいずれかに記載の部材。
〈態様5〉
JIS K7361-1に従って測定される、前記部材の最大膜厚部の全光線透過率が、50%以上、90%以下である、態様1~4のいずれかに記載の部材。
〈態様6〉
鼻根部から鼻背部までの間に適用される、態様1~5のいずれかに記載の部材。
〈態様7〉
鼻根部のみに適用される、態様1~5のいずれかに記載の部材。
〈態様8〉
前記部材の鼻根部に適用される側の表面に対して反対側の表面に、肌のキメ状の模様を有する、態様1~7のいずれかに記載の部材。
〈態様9〉
態様1~8のいずれかに記載の部材を有している、美容キット。
〈態様10〉
密着剤をさらに有している、態様9に記載の美容キット。
〈態様11〉
態様1~8のいずれかに記載の部材を、少なくとも鼻根部の凹部に対して貼り付ける、美容用形状補正部材の使用方法。
〈態様12〉
前記部材を貼り付ける箇所に対して密着剤を適用し、該密着剤の適用部位に対して前記部材を貼り付ける、態様11に記載の使用方法。
〈態様13〉
前記部材の鼻根部に適用される側の表面に対して密着剤を適用した後に、該部材を貼り付ける、態様11に記載の使用方法。
〈態様14〉
化粧を施した後に、又は化粧を施して密着剤を適用した後に、前記部材を貼り付ける、態様11~13のいずれかに記載の使用方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、体への負担が少なく、装着しても違和感を受けにくく、顔全体の印象を向上させ得、かつ量産が可能な美容用形状補正部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の美容用形状補正部材の斜視図である。
【
図2】
図1における美容用形状補正部材のC-C’線断面図である。
【
図3】(a)は、本開示の美容用形状補正部材を適用する前の横顔の模式図であり、(b)は、本開示の美容用形状補正部材を適用した後の横顔の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0013】
本開示の美容用形状補正部材(以下単に「補正部材」と称する場合がある。)は、鼻根部の凹部に適用して、凹みを減少させる膜形状を有し、エラストマーで構成されており、かつ、周縁部が薄くなっている。
【0014】
原理によって限定されるものではないが、本開示の補正部材が、体への負担が少なく、装着しても違和感を受けにくく、顔全体の印象を向上させ得、かつ量産が可能である作用原理は以下のとおりであると考える。
【0015】
本開示の補正部材は、鼻の内部に注入又は埋め込むための部材ではなく、鼻の鼻根部に対して貼り合わせるようにして使用される装脱着可能な部材である。したがって、鼻にメスをいれる必要がなく、また皮膚への融着或いは拒絶反応も受けにくいため、美容整形外科手術に比べて体への負担を大幅に低減することができると考えられる。
【0016】
一般に、顔は体の中で他人から最も視認される部分である。したがって、そのような部分に対して外的に貼付部材を適用した場合には、違和感を受けやすく、顔全体の印象を低下させることが予想される。しかしながら、本開示の補正部材は、顔に対して適用しても違和感を受けにくく、かつ、顔全体の印象を向上させることができる。これは、顔の中でも鼻根部に適用した場合に発揮される予想外の効果であると考えられる。
【0017】
例えば仮装用のつけ鼻又はエピテーゼのような部材は、一般に、鼻全体に対して適用されるため、特に近距離において見た目の違和感を受けやすい。一方、本開示の補正部材は、鼻全体ではなく、鼻の一部、すなわち、動きの少ない鼻根部に対して部分的に使用されるため、近距離でも目立たず、違和感を受けにくいと考えられる。
【0018】
鼻の鼻根部は、顔の中でも比較的動きの少ない部分である。本開示の補正部材は、柔軟なエラストマーで構成されており、鼻根部における動き程度に対しては十分に追従することができるため、また、補正部材の周縁部が薄くなっているため、剥がれにくく、かつ、装着後の見た目の違和感を受けにくいと考えられる。また、補正部材によって鼻根部の凹部形状の凹みが減少して顔全体のバランスがよくなり、鼻の先端から額の方まで鼻筋が通った印象を受けやすいため、顔全体の印象を向上させ得ると考えられる。
【0019】
鼻の形状は、概ね、直線状、凹型状、凸型状、波型状などに分類されるが、いずれの場合も鼻根部の凹部形状に関してはそれほど大きく変動しないため、凹部形状のパターンは、過度に多数にはならず、例えば、数種類程度で済むと考えられる。その結果、本開示の補正部材は、オーダーメードを要するエピテーゼとは異なり、量産化することができる。
【0020】
本開示における用語の定義は以下のとおりである。
【0021】
本開示において「鼻根部」とは、両眼の間にある鼻の付け根の部分を意味し、本開示において「鼻尖」とは、鼻の先端部を意味し、本開示において「鼻筋」とは、眉間から鼻尖までの線を意味し、本開示において「鼻背」とは、鼻筋上における鼻根部から下方の鼻尖までの部分を意味する。
【0022】
本開示において「美容」とは、顔全体の印象を美しく整えて美化することを意味する。したがって、本開示の美容用形状補正部材を使用する方法は、人間を手術、治療又は診断する方法とは相違する。
【0023】
《美容用形状補正部材》
本開示の美容用形状補正部材は、
図1及び
図2に例示されるような、鼻根部の凹部に適用して、凹みを減少させる膜形状を有し、かつ、周縁部が薄くなった構成をしている。
〈膜形状〉
本開示の補正部材の膜形状としては、鼻根部の凹部に適用して、凹みを減少させるような形状であれば特に制限はない。膜形状として、例えば、
図1に例示されるような鞍型の膜形状を挙げることができる。なお、鞍型の膜形状は、双曲放物面型の膜形状と称することもできる。
【0024】
〈膜厚〉
本開示の補正部材は、
図2に例示されるように、例えば、補正部材の略中央部付近において鼻根部の凹部の凹み減少させるような厚さの厚い部分を有する一方で、見た目の違和感を低減するため、或いは剥がれを防止するために、かかる補正部材の周縁部の厚さは中央部よりも薄く構成されている。補正部材の周縁部及び周縁部以外の部分の厚さとしては特に制限はなく、適用する鼻根部の凹部の大きさ、見た目の違和感の低減効果、及び耐剥離性等を考慮して適宜調整することができる。
【0025】
補正部材の周縁部以外の部分に位置する最大膜厚部の厚さとしては、例えば、300μm以上、500μm以上、700μm以上、又は1mm以上とすることができ、5mm以下、3mm以下、又は2mm以下とすることができる。
【0026】
また、補正部材の周縁部における最小膜厚部の厚さとしては、例えば、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、又は30μm以上とすることができ、100μm以下、80μm以下、60μm以下、又は50μm以下とすることができる。
【0027】
ここで、厚さとは、精密厚み測定機(株式会社尾崎製作所製のPEACOCKダイヤルシックネスゲージ0.01mmタイプ)を使用し、補正部材の最大膜厚部又は最小膜厚部における厚さを5回測定して算出した平均値を意図する。また、補正部材が、使用前に除去される剥離シートを備える場合には、この厚さは、かかる剥離シートの厚さを除いた状態の厚さを意図している。
【0028】
〈全光線透過率〉
本開示の補正部材は、それを鼻根部に装着するだけで、顔全体の印象を向上させることができる。本開示の補正部材は、遠距離(例えば2m以上又は3m以上)からであれば、見た目の違和感を受けることは少ない。本開示の補正部材は、エピテーゼのように不透明であってもよいが、近距離での見た目の違和感も低減させたい場合には、透明又は半透明であることが好ましい。補正部材が、透明又は半透明である場合には、下地の色、例えば、肌又はファンデーションの色を利用することができるため、着色して不透明にした補正部材に比べて見た目の違和感、特に、日焼けなどによって肌の色味が変わった場合の見た目の違和感を低減することができる。
【0029】
中でも、補正部材は、半透明であることがより好ましい。補正部材が透明である場合には、例えば、最厚部などの箇所において白っぽく見えてしまう場合がある。一方、例えば、肌又はファンデーションの色などに合わせて色味を多少調整して半透明にした補正部材は、見た目の違和感が少なく、このような白っぽく見える現象を低減することができる。見た目の違和感を解消する場合、一般には、肌の色に近づけるように部材を着色して不透明にしたり、或いは、肌の色を直接視認できるように部材の透明性を上げようと試みるかもしれない。しかしながら、本開示の補正部材の場合は、半透明である方が見た目の違和感をより低減することができ、これは予想外の効果である。
【0030】
補正部材の透明又は半透明の特性は、全光線透過率によって評価することができる。例えば、補正部材が透明である場合には、かかる部材の最大膜厚部の全光線透過率は、90%超、93%以上、又は95%以上とすることができ、100%以下、100%未満、又は98%以下とすることができる。ここで、全光線透過率は、JIS K7361-1に準拠して求めることができる。
【0031】
補正部材が半透明である場合には、かかる部材の最大膜厚部の全光線透過率は、例えば、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、又は70%以上とすることができ、90%以下、85%以下、又は80%以下とすることができる。補正部材がこのような範囲の全光線透過率を有する場合には、補正部材を鼻根部へ装着することで顔全体の印象をより向上させることができるとともに、遠距離からだけではなく近距離からでも、補正部材の装着に伴う見た目の違和感をより低減させることができる。
【0032】
〈ゴム硬度〉
本開示の補正部材は、エラストマーで構成され、柔軟性を有している。かかる柔軟性は、例えば、JIS K6253に準拠したデュロメータータイプA硬度計によるゴム硬度によって評価することができる。かかるゴム硬度としては、例えば、皮膚への追従性、強度等の観点から、例えば、20以下、15以下、又は10以下とすることができ、1以上、2以上、又は3以上とすることができる。ここで、かかるゴム硬度とは、補正部材を構成する材料を用いて調製した厚さ6.0mm以上の試験片、又は、補正部材を積層して調製した厚さ6.0mm以上の試験片におけるゴム硬度を意図することができる。
【0033】
〈材料〉
本開示の補正部材は、エラストマーで構成されていれば特に制限はない。エラストマーとしては、熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。熱硬化性エラストマーとしては、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴムなどを挙げることができ、熱可塑性エラストマーとしては、オレフィンゴム、アクリルゴムなどを挙げることができる。中でも、肌への安全性、耐久性等の観点から、シリコーンゴムが好ましい。これらの材料は、単独で又は複数組み合わせて使用することができる。また、補正部材は、これらの材料の単一層又は積層構造であってもよい。
【0034】
好ましい材料であるシリコーンゴムとしては、次のものに限定されないが、例えば、加熱によって短時間で成形できる等の観点から、付加(ヒドロシリル化)反応硬化型のシリコーンゴム組成物又は有機過酸化物硬化型のシリコーンゴム組成物を硬化して得られた硬化物が好ましい。
【0035】
付加反応硬化型のシリコーンゴム組成物としては、公知の組成のものを使用することができる。例えば、ビニル基に代表されるアルケニル基を1分子中に2個以上有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、SiH基を2個以上、好ましくは3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(通常、アルケニル基に対するSiH基のモル比が0.5~4となる量)と、白金又は白金化合物に代表される白金族金属系付加反応触媒(通常、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンに対し1~1000ppm)とを含有する組成物などを使用することができる。
【0036】
また、有機過酸化物硬化型のシリコーンゴム組成物としても、公知の組成のものを使用することができる。例えば、アルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンに対し、硬化剤として有機過酸化物を硬化有効量(通常、上記オルガノポリシロキサン100質量部に対し1~10質量部)配合した組成物などを使用することができる。
【0037】
上記シリコーンゴム組成物としては、市販品を使用することができる。例えば、付加反応硬化型のシリコーンゴム組成物である、信越化学工業株式会社製のLIMS(商標)(液状シリコーンゴム射出成形システム)、中でも、KE-1950-10A/B、KE-1950-20A/B、KE-2004-3A/B、KE-2004-5A/Bなどを挙げることができる。
【0038】
(任意の成分)
本開示の補正部材を構成するエラストマーは、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、顔料、染料、着色繊維、充填剤、安定化剤、保湿剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、滑剤等の各種の成分を含むことができる。これらの成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。ここで、本開示において「エラストマー」とは、上述したエラストマー成分のみからなる構成に加え、上述したエラストマー成分とこれら任意成分とを含む組成物の構成も包含する。
【0039】
例えば、エラストマー中に顔料及び/又は染料を適宜配合することによって、肌の色合い又は所望のファンデーションの色合いに補正部材を適宜調整することができる。一般的なファンデーションは、数μmの厚さで効果を発揮させる必要があるため、顔料を高度に配合する必要がある。一方、本開示の補正部材の場合、その最大膜厚部の厚さは、ファンデーションの厚さに比べて数百倍以上厚いため、配合する顔料の量をファンデーションに比べて数百倍以上低減することができる。
【0040】
エラストマー中に着色繊維を配合すると、補正部材に対して毛細血管のような風合いを発現させることができる。着色繊維としては特に制限はないが、例えば、黒色繊維、灰色繊維、赤色繊維、青色繊維、緑色繊維などを使用することができる。着色繊維は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。着色繊維の繊度、繊維長及び配合量としては特に制限はなく、所望の風合いが発現されるように適宜調整することができる。
【0041】
着色繊維の繊度としては、例えば、0.5dtex以上、1.0dtex以上、1.5dtex以上、又は2.0dtex以上とすることができ、また、15dtex以下、10dtex以下、5.0dtex以下、4.0dtex以下、3.5dtex以下、又は3.0dtex以下とすることができる。ここで、着色繊維の繊度は、JIS L1015(2010) 8.5.1に準拠して求めることができる。
【0042】
着色繊維の平均繊維長としては、例えば、0.3mm以上、0.5mm以上、又は0.8mm以上とすることができ、また、6.0mm以下、5.5mm以下、5.0mm以下、4.5mm以下、4.0mm以下、3.5mm以下、3.0mm以下、2.5mm以下、2.0mm以下、又は1.5mm以下とすることができる。着色繊維の平均繊維長の好ましい範囲は、0.5~5.0mmである。ここで、着色繊維の平均繊維長は、JIS L 1081 A法(エレクトロニックマシン)に準拠して求めることができる。
【0043】
着色繊維の配合量としては、例えば、エラストマー全体に対して、0.001質量%以上、0.002質量%以上、又は0.003質量%以上とすることができ、また、0.010質量%以下、0.008質量%以下、又は0.006質量%以下とすることができる。
【0044】
〈任意の構成〉
本開示の補正部材は、補正部材の鼻根部に適用される側の表面に対して反対側の表面に、例えば、肌のキメ状の模様を形成することができる。補正部材の視認側表面に対し、このようなキメ模様を形成することによって、周囲の肌との一体性が発揮されるため、装着後の違和感をより受けにくくすることができる。このような模様は、例えば、模様を付した成形型によって形成することができ、或いは、レーザー加工等によって補正部材表面に直接形成することもできる。
【0045】
また、本開示の補正部材は、任意に、粘着剤層、接着剤層、剥離シート等の追加の層を適宜有していてもよい。特に、本開示の補正部材は、周縁部が薄くなっているため、保護又は取り扱い性等の観点から、補正部材の片面又は両面に、使用前に除去される剥離シートを備えることが好ましい。
【0046】
かかる剥離シートの材料としては、特に限定されるものではないが、取扱い性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、紙等を挙げることができ、また、剥離シートの表面にはシリコーン等の剥離処理が施されていてもよい。このような剥離シートは、補正部材に対し、静電的作用により密着させることができる。
【0047】
また、粘着剤層及び接着剤層は、後述する密着剤と異なり、皮膚への負担又は違和感を生じさせやすく、また、貼り付け時の取り扱い性を悪化させるおそれがある。したがって、補正部材は、これらの層を備えないことが好ましい。
【0048】
〈補正部材の適用部位〉
本開示の補正部材は、
図3(a)の点線部で示されるような鼻の鼻根部に対して適用して使用する。かかる位置に補正部材を適用すると、鼻根部の凹部の凹みを減少させる盛り上げ効果により、
図3(b)に示されるように鼻筋が通るように補正される。その結果、補正部材自体は目立たないにも関わらず、顔全体の印象を向上させることができる。
【0049】
本開示の補正部材は、顔の中でも動きの少ない鼻の鼻根部に対して適用すればよく、そこから鼻筋のどこの部位まで適用するかは、顔全体の印象などを考慮して適宜調整することができる。
【0050】
例えば、補正部材を鼻根部から鼻背部までの間に適用した場合には、鼻根部に対する盛り上げ効果に加え、鼻尖の周辺位置から鼻根部までの鼻の高さも緩やかに違和感なく高めることができるため、装着後の顔全体の印象をより向上させることができる。
【0051】
例えば、補正部材を鼻根部のみに適用した場合には、装着後の顔全体の印象を向上させることができるとともに、鼻背部まで適用した場合に比べ、補正部材の装着に伴う見た目の違和感をより一層受けにくくすることができる。
【0052】
《美容キット》
本開示の補正部材は、かかる補正部材を有する美容キットとして提供することができる。美容キットには、補正部材以外に、例えば、補正部材を皮膚へ貼り付けやすくしたり、化粧を施すための任意の追加部材を有していてもよい。
【0053】
このような任意の追加部材としては、例えば、密着剤、カッター、ハサミ、ファンデーション、鏡等を挙げることができる。中でも、皮膚表面に塗布して使用する密着剤は、補正部材の皮膚への密着性を向上させることができるため、粘着剤層又は接着剤層を有さない補正部材を使用する場合には特に好ましい。
【0054】
〈密着剤〉
このような密着剤としては、皮膚への負担が少なく、補正部材の皮膚への密着性を向上させ得る剤であれば特に制限はない。かかる密着剤として、例えば、ポリブテン及びポリイソブテンから選ばれる少なくとも一種を使用することができる。
【0055】
密着性、耐久性等の観点から、ポリブテンの数平均分子量としては、1,000以上又は1,500以上とすることができ、また、5,000以下又は4,000以下とすることができ、ポリイソブテンの数平均分子量としては、8,000以上、9,000以上、又は10,000以上とすることができ、また、30,000以下、25,000以下、又は22,000以下とすることができる。ここで、数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ測定における、ポリスチレン換算の数平均分子量を意図する。
【0056】
密着剤としては、市販品を用いることができる。例えば、ポリブテンとしては、脱臭ポリブテン-P200SH(日興リカ株式会社製)などを用いることができ、ポリイソブテンとしては、Oppanol(商標)B12SFN/12N、Oppanol(商標)B13SFN、Oppanol(商標)B14SFN/14N、Oppanol(商標)B15SFN/15N(以上、BASF社製)などを用いることができる。
【0057】
密着剤には、保湿成分が含まれていてもよい。かかる保湿成分としては、通常化粧料に用いられているものを一種以上使用することができ、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ムコイチン硫酸、カロニン酸、アテロコラーゲン、乳酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸、短鎖可溶性コラーゲン等が挙げられる。
【0058】
保湿成分の配合割合は、密着剤全量に対し、0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.1質量%以上とすることができ、また、10質量%以下、9質量%以下、又は8質量%以下とすることができる。
【0059】
《補正部材の製造方法》
本開示の補正部材は、公知の方法により製造することができる。かかる方法として、例えば、注入成型法、射出成型法、圧縮成型法、コンプレッション成型法、3D印刷法(積層造形法)などを挙げることができる。
【0060】
得られた補正部材は、そのまま使用してもよく、或いは、例えば、使用者が任意の形状及び大きさに適宜カットして使用することができる。任意形状の加工に関しては、補正部材単体に対して実施してもよく、或いは、剥離シートを片面又は両面に備えた状態の補正部材に対して実施してもよい。
【0061】
補正部材の視認側表面に対し、肌のキメ模様などの模様を付与する場合には、例えば、このような模様を付与した成形型を用いて実施すればよく、或いは、型から取り出した補正部材に対し、レーザー加工等によってその表面に模様を直接形成してもよい。ここで、成形型の模様の付与は、例えば、やすり、カッター等で型の表面を削って付与してもよく、或いは、皮膚のキメ模様を有する転写フィルムを型に転写して付与してもよい。
【0062】
《補正部材の使用方法》
本開示の補正部材は、剥離シートが存在する場合には、該シートを適宜除去した後に、少なくとも鼻根部の凹部に対して貼り付けて使用することができる。本開示の補正部材は、そのまま皮膚に適用することができるが、皮膚との密着性をより向上させるために、密着剤を使用することが好ましい。
【0063】
密着剤を使用する場合には、補正部材を貼り付ける箇所の皮膚に対して密着剤を適用し、この密着剤の適用部位に対して補正部材を貼り付けてもよく、或いは、皮膚に適用される側の補正部材表面に対して密着剤を適用した後に、この密着剤適用面を介して補正部材を皮膚へ貼り付けてもよい。
【0064】
化粧を適用する場合には、補正部材を皮膚に貼り付けた後に実施してもよいが、補正部材を貼り付ける前に実施することが好ましい。本開示の補正部材は、エラストマーで構成されているため、補正部材と肌との化粧の適用状態(一般に「化粧のノリ」と称する場合がある。)が相違する場合がある。したがって、補正部材を適用した後に肌と同様にして化粧を施すと、化粧ムラが生じやすいため、補正部材を適用した部位と肌に対する化粧のやり方を変更する手間が生じるおそれがある。一方、本開示の補正部材は、透明又は半透明にすることができ、肌に対して通常通りに化粧を施してから補正部材を皮膚に貼り付けたとしても、下地の化粧の色合いを反映させることができるため、化粧のやり方を変更する手間を省略することができる。
【0065】
化粧を施した後の顔に対して密着剤を適用する場合には、補正部材を貼り付ける化粧適用箇所に対して密着剤を適用し、この密着剤の適用部位に対して補正部材を貼り付けてもよく、或いは、適用される側の補正部材表面に対して密着剤を適用した後に、補正部材をこの密着剤適用面を介して化粧を施した皮膚へ貼り付けてもよい。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
《実施例1~11》
実施例1~11に記載される処方及び製造方法により得た補正部材について、以下に示す各試験を実施し、その結果を表1にまとめる。
【0068】
なお、補正部材を貼り付ける場合には、ポリブテン(数平均分子量2650)及びポリイソブテン(数平均分子量16000)を含む密着剤を鼻根部に塗布した直後に、補正部材を貼り付けた。
【0069】
〈補正部材の評価〉
(全光線透過率試験)
補正部材の全光線透過率を、JIS K7361-1に準拠し、村上色彩技術研究所社製のReflectance-Transmittance Meter HR-100を用いて測定した。
【0070】
(顔全体の印象試験)
30~50代のパネラーの鼻根部に補正部材を貼り付け、顔全体の印象を、3名の観察者がパネラーから2m離れた位置で目視観察して評価した。評価項目は以下のとおりである。この結果から、C以上の評価が得られていれば合格レベルと評価することができる。
【0071】
A:補正部材を装着する前に比べ、顔全体の印象が向上したと回答した観察者が3名。
B:補正部材を装着する前に比べ、顔全体の印象が向上したと回答した観察者が2名。
C:補正部材を装着する前に比べ、顔全体の印象が向上したと回答した観察者が1名。
D:補正部材を装着する前に比べ、顔全体の印象が向上したと回答した観察者が0名。
【0072】
(見た目の印象試験1:遠距離)
30~50代のパネラーの鼻根部に補正部材を貼り付け、補正部材の状態を3名の観察者が、パネラーから2m離れた位置で目視観察した。評価項目は以下のとおりである。この結果から、C以上の評価が得られていれば合格レベルと評価することができる。
【0073】
A:貼付箇所が識別可能と回答した観察者が0名。
B:貼付箇所が識別可能と回答した観察者が1名。
C:貼付箇所が識別可能と回答した観察者が2名。
D:貼付箇所が識別可能と回答した観察者が3名。
【0074】
(見た目の印象試験2:近距離)
30~50代のパネラーの鼻根部に補正部材を貼り付け、補正部材の状態を3名の観察者が、パネラーから50cm離れた位置で目視観察した。評価項目は以下のとおりである。この結果から、C以上の評価が得られていれば合格レベルと評価することができる。
【0075】
A: 貼付箇所が識別可能と回答した観察者が0名。
B: 貼付箇所が識別可能と回答した観察者が1名。
C: 貼付箇所が識別可能と回答した観察者が2名。
D: 貼付箇所が識別可能と回答した観察者が3名。
【0076】
〈実施例1〉
図1に示されるような鞍型膜形状の補正部材を調製できる成形型を用意し、かかる成形型に対し、表1に記載される配合割合のエラストマーを投入した。次いで、この成形型を100~130℃の雰囲気のオーブン内に1時間静置後、冷却した。成形型から補正部材を取り出して、実施例1の補正部材を得た。
【0077】
〈実施例2~11〉
表1に記載される配合割合のエラストマーを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~11の補正部材を作製した。
【0078】
【0079】
〈結果〉
表1の結果から分かるように、実施例1~11の補正部材はいずれも、顔全体の印象試験及び見た目の印象試験(遠距離)において合格基準を満たしていた。
【0080】
中でも、全光線透過率が50~90%程度の範囲にある実施例1~4の半透明の補正部材は、近距離での見た目の印象試験においても合格基準を満たしており、他の補正部材に比べてより自然な感じを呈し、顔全体の見た目の印象をより向上させ得ることが分かった。
【0081】
また、黒色繊維1を含む実施例1の補正部材は、黒色繊維2又は3を含む実施例10又は11の補正部材に比べ、毛細血管のような風合いがより忠実に表現されており、近距離でも全く違和感なく自然な感じを呈し、顔全体の見た目の印象をより向上させ得ることが分かった。