(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】大便器
(51)【国際特許分類】
E03D 11/08 20060101AFI20241227BHJP
E03D 11/13 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
E03D11/08
E03D11/13
(21)【出願番号】P 2020181291
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒木 悠
【審査官】河本 明彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-135041(JP,A)
【文献】特開2014-037723(JP,A)
【文献】特開2020-051050(JP,A)
【文献】特開2019-173305(JP,A)
【文献】特開2017-066828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/00 - 7/00
E03D 11/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
便鉢部と、前記便鉢部に形成された流入口から後方に延びた排水トラップ部とを具備し、
前記便鉢部は、リム部、鉢部、及び凹部を備え、
前記リム部は、前記便鉢部の上端周縁を形成し、
前記鉢部は、前記リム部の下縁から内側下方に延び、
前記凹部は、前記鉢部の下縁から下方に延びた立ち壁部と、前記流入口が後部に形成された底部とを有し、
前記リム部には、前記便鉢部を上方から見た平面視において、時計回り及び反時計回りのうちいずれかの旋回流を形成するように吐水する吐水口が設けられ、
前記吐水口は、前記便鉢部を上方から見た平面視において、前記便鉢部の左右両側のうち前記旋回流が前方に流れる第1側の後部から、前記便鉢部の左右両側のうち前記第1側とは反対側の第2側の前部までの領域に配置され、
前記凹部の溜水面を上方から見た平面視において、前記溜水面の左右方向の中心を通る線を仮想の縦線、前記溜水面の前後方向の中心を通る線を仮想の横線、前記仮想の縦線と前記仮想の横線とが交差する点を中心点、前記仮想の縦線及び前記仮想の横線に対して45度の角度をなして前記中心点を通る2本の線を仮想の斜め線とし、
前記溜水面を前記仮想の斜め線によって4つに区画したときの前側の領域を前側領域、後側の領域を後側領域、左右の領域のうち前記第1側に位置する領域を第1領域、左右の領域のうち前記第2側に位置する領域を第2領域としたとき、前記吐水口から吐水される洗浄水の吐水量の半分以上は、前記第1領域に流入
し、前記立ち壁部に沿って太い流れを形成して前記凹部の前部から前記流入口に向けて流れ、前記洗浄水の一部は、前記第2領域に流入し、前記流入口に向けて流れる大便器。
【請求項2】
サイフォン式便器であって、前記吐水口の吐水開始からサイフォン起動までの間の前記洗浄水の吐水量の半分以上は、前記第1領域に流入する請求項1に記載の大便器。
【請求項3】
前記溜水面を前記仮想の縦線、前記仮想の横線、及び2本の前記仮想の斜め線によって8つに区画したときの前記第1領域の前側の領域を第1前方領域、後側の領域を第1後方領域とするとき、
前記8つの領域にそれぞれ流入する前記洗浄水の吐水量のうち、前記第1前方領域に流入する前記洗浄水の吐水量は、最も多い請求項1から請求項2までの何れか一項に記載の大便器。
【請求項4】
前記洗浄水は、前記便鉢部の後部を通過して前記第1領域に流入する請求項1から請求項3までの何れか一項に記載の大便器。
【請求項5】
前記吐水口は、前記便鉢部を上方から見た平面視において、前記リム部を前記仮想の斜め線によって区画した4つの領域のうち前記第1側に位置する領域に設けられている請求項1から請求項4までの何れか一項に記載の大便器。
【請求項6】
前記前側領域、前記後側領域、前記第1領域及び前記第2領域にそれぞれ流入する前記洗浄水の吐水量のうち、前記前側領域に流入する前記洗浄水の吐水量は、最も少ない請求項1から請求項5までの何れか一項に記載の大便器。
【請求項7】
前記吐水口は、第1吐水口であり、
前記洗浄水は、第1洗浄水であり、
前記リム部には、前記第1吐水口から吐水される旋回流と同じ向きの旋回流を形成するように第2洗浄水を吐水する第2吐水口が設けられ、
前記第2吐水口は、前記便鉢部を上方から見た平面視において、前記リム部を前記仮想の縦線及び横線によって区画した4つの領域のうち前記第1吐水口が配置された領域と異なる領域に配置されている請求項1から請求項6までの何れか一項に記載の大便器。
【請求項8】
前記第1洗浄水の吐水量及び第2洗浄水の吐水量を合わせた吐水量の半分以上は、前記第1領域に流入する請求項7に記載の大便器。
【請求項9】
前記第1洗浄水の吐水量よりも前記第2洗浄水の吐水量は少ない請求項7から請求項8までの何れか一項に記載の大便器。
【請求項10】
前記第2洗浄水は、前記第1洗浄水と合流し、前記第2吐水口の内側に到達する請求項7から請求項9までの何れか一項に記載の大便器。
【請求項11】
前記第1洗浄水と前記第2洗浄水とが合流した合流水は、前記便鉢部を1周する請求項7から請求項10までの何れか一項に記載の大便器。
【請求項12】
前記第2洗浄水の流速よりも前記第1洗浄水と前記第2洗浄水とが合流した合流水の流速の方が速い請求項7から請求項11までの何れか一項に記載の大便器。
【請求項13】
前記立ち壁部は、前記鉢部よりも垂直に近い角度で傾斜している請求項1から請求項12までの何れか一項に記載の大便器。
【請求項14】
前側の前記立ち壁部の高さ寸法は、後側の前記立ち壁部の高さ寸法よりも小さく、前記立ち壁部の上縁は、前から後側に向かって上がっている請求項1から請求項13までの何れか一項に記載の大便器。
【請求項15】
前記洗浄水は、前方向に向かって前記第1領域に流入する請求項1から請求項14までの何れか一項に記載の大便器。
【請求項16】
前記洗浄水は、後方向に向かって前記第2領域に流入する請求項1から請求項15までの何れか一項に記載の大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吐水口から吐水された洗浄水が便鉢部の内部を旋回し、汚物を排出トラップ部に排出する水洗大便器が知られている。例えば下記特許文献1には、吐水口から吐水された洗浄水が、汚物受け面を流れて壺部に流入し、壺部の排水口から排水トラップ管路へ排出される大便器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような大便器は、壺部に汚物が残存することを防ぐべく、排出性能を高めたいという要望がある。
【0005】
本開示は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、汚物の排出性能を高めることができる大便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の大便器は、便鉢部と、前記便鉢部に形成された流入口から後方に延びた排水トラップ部とを具備し、前記便鉢部は、リム部、鉢部、及び凹部を備え、前記リム部は、前記便鉢部の上端周縁を形成し、前記鉢部は、前記リム部の下縁から内側下方に延び、前記凹部は、前記鉢部の下縁から下方に延びた立ち壁部と、前記流入口が後部に形成された底部とを有し、前記リム部には、前記便鉢部を上方から見た平面視において、時計回り及び反時計回りのうちいずれかの旋回流を形成するように吐水する吐水口が設けられ、前記吐水口は、前記便鉢部を上方から見た平面視において、前記便鉢部の左右両側のうち前記旋回流が前方に流れる第1側の後部から、前記便鉢部の左右両側のうち前記第1側とは反対側の第2側の前部までの領域に配置され、前記凹部の溜水面を上方から見た平面視において、前記溜水面の左右方向の中心を通る線を仮想の縦線、前記溜水面の前後方向の中心を通る線を仮想の横線、前記仮想の縦線と前記仮想の横線とが交差する点を中心点、前記仮想の縦線及び前記仮想の横線に対して45度の角度をなして前記中心点を通る2本の線を仮想の斜め線とし、前記溜水面を前記仮想の斜め線によって4つに区画したときの前側の領域を前側領域、後側の領域を後側領域、左右の領域のうち前記第1側に位置する領域を第1領域、左右の領域のうち前記第2側に位置する領域を第2領域としたとき、前記吐水口から吐水される洗浄水の吐水量の半分以上は、前記第1領域に流入する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】洗浄水の流れを概略的に説明する第1の概略平面図
【
図5】洗浄水の流れを概略的に説明する第2の概略平面図
【
図6】洗浄水の流れを概略的に説明する第3の概略平面図
【
図7】洗浄水の流れを概略的に説明する第4の概略平面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
<実施形態>
大便器10は、サイフォン式便器である。大便器10は、
図1に示すように、便鉢部11と、排水トラップ部12と、周壁部13と、支持壁部14とを具備する。以下、各構成部材において、
図1のX軸の正方向側(大便器10に通常の姿勢で座る人の向きを基準としたときの前側)を前側、
図1のX軸の負方向側を後側、
図1のY軸の正方向側を上側、
図1のY軸の負方向側を下側、
図2のZ軸の正方向側(大便器10を前側から見たときの右側)を右側、
図2のZ軸の負方向側(大便器10を前側から見たときの左側)を左側として説明する。
【0009】
便鉢部11は、
図1に示すように、リム部15、鉢部16、及び凹部17を備えている。リム部15は、便鉢部11の上端周縁を形成する。リム部15には、
図3に示すように、第1吐水口18及び第2吐水口19が設けられている。第1吐水口18及び第2吐水口19は、便鉢部11を上方から見た平面視において、反時計回りに旋回流を形成するように洗浄水を吐水する。第1吐水口18から吐水された洗浄水(第1洗浄水71と称する。)及び第2吐水口19から吐水された洗浄水(第2洗浄水72と称する。)は、便鉢部11の左側では前方に流れ、便鉢部11の右側では後方に流れる。便鉢部11の左側は第1側に相当する。便鉢部11の右側は第2側に相当する。
【0010】
第1吐水口18は、
図3に示すように、便鉢部11を上方から見た平面視において、便鉢部11の左側の後部から、右側の前部までの領域に配置されている。具体的には、第1吐水口18は、便鉢部11の左側の前後方向における中央部に配置されている。第1吐水口18は、後述する第1領域42と左右方向に重なる位置に配置されている。言い換えると、第1吐水口18は、リム部15のうち後述する第1領域42の前端よりも後側、かつ第1領域42の後端よりも前側の範囲内に配置されている。第1吐水口18は、前方に向けて開口している。第1洗浄水71は、第1吐水口18から前方に向かって吐水される。
【0011】
第2吐水口19は、
図3に示すように、便鉢部11の後部の右側に寄った位置に配置されている。第2吐水口19は、左方に向けて開口している。第2洗浄水72は、第2吐水口19から左方に向かって吐水される。第2洗浄水72の流速は、第1洗浄水71の流速よりも遅い。一度の洗浄における第2洗浄水72の吐水量は、第1洗浄水71の吐水量よりも少ない。具体的には、第1洗浄水71の吐水量と第2洗浄水72の吐水量との比は、6.5:3.5~7.0:3.0の範囲である。
【0012】
リム部15には、
図3に示すように、衝突壁21が設けられている。衝突壁21は、便鉢部11の後部の左側に配置されている。衝突壁21は、第2吐水口19と対向している。便鉢部11の後部を通過した第1洗浄水71及び第2洗浄水72は衝突壁21に衝突し、流れの方向を内側(前側)に変える。
【0013】
図3に示すように、リム部15の立面22の前部23は、上方から見た平面視において、曲率の変化が少なく湾曲している。これによって、第1洗浄水71及び第2洗浄水72は、便鉢部11を周方向にスムーズに流れる。リム部15の立面22の前部23は、リム部15の前面から左右両面の前後方向中央部までである。リム部15の立面22の前部23の曲率半径は、立面22の後部の曲率半径よりも大きい。リム部15の立面22の前部23の曲率半径は、概ね等しい。
【0014】
鉢部16は、
図2に示すように、リム部15の立面22の下縁から内側下方に延びている。鉢部16は、リム部15の立面22よりも水平に近い角度で傾斜している。
【0015】
凹部17は、
図1及び
図2に示すように、立ち壁部24と、底部25とを有している。立ち壁部24は、鉢部16の下縁から下方に延びている。立ち壁部24は、鉢部16よりも垂直に近い角度で傾斜している。前側の立ち壁部24の高さ寸法は、後側の立ち壁部24の高さ寸法よりも小さい。立ち壁部24の上縁は、後側に向かって上がっている。左右の立壁部の高さ寸法は同等である(
図2参照)。
【0016】
底部25は、
図1に示すように、立ち壁部24よりも水平に近い角度で傾斜している。底部25の後部には、排水トラップ部12への流入口26が形成されている。流入口26は上側に開口している。流入口26は、底部25の左右方向中央部に設けられている。
【0017】
排水トラップ部12は、
図1に示すように、流入口26から後方に延びている。排水トラップ部12は、下降路27と上昇路28とを有している。下降路27は、流入口26から後側下方に延びている。上昇路28は、下降路27の下流端から後側上方に延びている。
【0018】
凹部17の下部及び排水トラップ部12には、
図1に示すように、溜水29が貯留される。待機状態の溜水29の上面(溜水面31と称する。)は、排水トラップ部12の下面の最上点32の高さによって決まる。溜水面31を平面視すると、
図3に示すように、前後方向の寸法が大きい略楕円形である。
【0019】
図3に示すように、溜水面31を、仮想の縦線L1、仮想の横線L2、及び2本の仮想の斜め線L3によって複数の領域に分割し、第1洗浄水71及び第2洗浄水72の流れを説明する。仮想の縦線L1、仮想の横線L2及び仮想の斜め線L3は、溜水面31に平行である。
【0020】
仮想の縦線L1は、溜水面31を上方から見た平面視において、溜水面31の左右方向の中心を通る。仮想の横線L2は、溜水面31を上方から見た平面視において、溜水面31の前後方向の中心を通る。仮想の縦線L1と仮想の横線L2とは、直交する。仮想の斜め線L3は、溜水面31を上方から見た平面視において、仮想の横線L2及び仮想の縦線L1に対して45度の角度をなす。仮想の斜め線L3は、仮想の縦線L1と仮想の横線L2との交点(中心点Dと称する。)を通る。
【0021】
溜水面31は、
図3に示すように、仮想の斜め線L3によって4つの領域に区画される。4つの領域は、前側領域40、後側領域41、第1領域42及び第2領域43である。前側領域40は、溜水面31の前側の領域である。後側領域41は、溜水面31の後側の領域である。第1領域42は、溜水面31の左側の領域である。第2領域43は、溜水面31の右側の領域である。
【0022】
溜水面31は、
図3に示すように、仮想の縦線L1、仮想の横線L2、及び2本の仮想の斜め線L3によって8つの領域に区画される。8つの領域は、前側領域40、後側領域41、第1領域42及び第2領域43をそれぞれ2分割したものである。8つの領域は、前側左方領域40A、前側右方領域40B、後側左方領域41A、後側右方領域41B、第1前方領域42A、第1後方領域42B、第2前方領域43A及び第2後方領域43Bである。
【0023】
前側左方領域40Aは、前側領域40の左側の領域である。前側右方領域40Bは、前側領域40の右側の領域である。後側左方領域41Aは、後側領域41の左側の領域である。後側右方領域41Bは、後側領域41の右側の領域である。第1前方領域42Aは、第1領域42の前側の領域である。第1後方領域42Bは、第1領域42の後側の領域である。第2前方領域43Aは、第2領域43の前側の領域である。第2後方領域43Bは、第2領域43の後側の領域である。
【0024】
リム部15は、
図3に示すように、仮想の斜め線L3によって、4つの領域に区画される。4つの領域は、リム部前側領域15A、リム部後側領域15B、リム部第1領域15C及びリム部第2領域15Dである。リム部前側領域15Aは、リム部15の前側の領域である。リム部後側領域15Bは、リム部15の後側の領域である。リム部第1領域15Cは、リム部15の左側の領域である。リム部第2領域15Dは、リム部15の右側の領域である。第1吐水口18は、リム部第1領域15Cに設けられている。
【0025】
鉢部16は、
図3に示すように、仮想の斜め線L3によって、4つの領域に区画される。4つの領域は、鉢部前側領域60、鉢部後側領域61、鉢部第1領域62及び鉢部第2領域63である。鉢部前側領域60は、鉢部16の前側の領域である。鉢部後側領域61は、鉢部16の後側の領域である。鉢部第1領域62は、鉢部16の左側の領域である。鉢部第2領域63は、鉢部16の右側の領域である。
【0026】
第1洗浄水71及び第2洗浄水72の流れを説明する。
図3に示すように、第1洗浄水71は、第1吐水口18から吐水を開始する。第1洗浄水71は、第1吐水口18から前方に吐水される。第2洗浄水72は、第2吐水口19から吐水を開始する。第2洗浄水72は、第2吐水口19から左方に吐水される。第1洗浄水71は、第1水流73を形成する。第1水流73は、鉢部第1領域62、鉢部前側領域60、鉢部第2領域63を通過して、鉢部後側領域61に到達し、第2洗浄水72に合流する。
【0027】
第2洗浄水72は、
図4に示すように、第2水流75と、第3水流76とを形成する。第2水流75は、溜水面31の第1領域42に流入する。第2水流75の多くは、第1前方領域42Aに流入する。第3水流76は、鉢部第1領域62、鉢部前側領域60を通過し、
図5に示すように、鉢部前側領域60の右方において勢いを失い、溜水面31の前側領域40に流入する。第3水流76の多くは、溜水面31の前側右方領域40Bに流入する。
【0028】
第1洗浄水71と第2洗浄水72とが合流してなる合流水74は、
図5に示すように、第4水流77と、第5水流78とを形成する。第4水流77は、鉢部後側領域61から鉢部第1領域62に到達して第1領域42に流入する。第4水流77の多くは、第1前方領域42Aに流入する。第5水流78は、第1水流73の内側を流れて便鉢部11を1周する。具体的には、第5水流78は、
図6に示すように、鉢部後側領域61から鉢部第1領域62、鉢部前側領域60、鉢部第2領域63を通過し、鉢部後側領域61に到達し、第2吐水口19の下方(内側)に至る。第5水流78の流速(合流水74の流速)は、第2洗浄水72の流速よりも速い。第5水流78は、
図7に示すように、第2洗浄水72と合流し、溜水面31の第1領域42に流入する。第5水流78の多くは、第1前方領域42Aに流入する。第5水流78の一部は、
図6及び
図7に示すように、分岐して第6水流78Aを形成する。第6水流78Aは、第2領域43に流入する。第6水流78Aの多くは、第2後方領域43Bに流入する。第6水流78Aの第2領域43への流入量は、第2水流75、第4水流77及び第5水流78の第1領域42への流入量より少ない。しかしながら、第6水流78Aの第2領域43への流入は、凹部17の汚物を排水トラップ部12に押し流す効果を有する。
【0029】
第2水流75、第4水流77及び第5水流78からなる大量の洗浄水は、
図7に示すように、凹部17の左方から斜め右前方に向かって、凹部17に勢いよく流れ込む。第6水流78Aからなる洗浄水は、凹部17の右方から斜め左後方に向かって、凹部17に勢いよく流れ込む。凹部17に流れ込んだ大量の洗浄水は、凹部17の立ち壁部24に沿って太い流れ79を形成し、凹部17の前部から後方に向かう渦流となる。第1洗浄水71及び第2洗浄水72が溜水面31に流入することによって、溜水29の水位は溜水面31から上昇し、サイフォンが起動する。凹部17の汚物は、大量の洗浄水によって形成された太い流れ79とサイフォン作用とによって、流入口26から排水トラップ部12に押し流される。溜水29の水位は下がり、排水トラップ部12の上面の最下点33より下になると空気が入って破封する。その後、溜水29の水位は溜水面31に戻る。
【0030】
吐水開始からサイフォン起動までの間の第1洗浄水71の吐水量の半分以上は、第4水流77及び第5水流78を形成して第1領域42に流入する。第1洗浄水71の吐水量のうち第4水流77及び第5水流78を形成して第1前方領域42Aに流入する吐水量は、他の7つの領域にそれぞれ流入する第1洗浄水71の吐水量よりも多い。第1洗浄水71の吐水量及び第2洗浄水72の吐水量を合わせた吐水量の半分以上は、第2水流75、第4水流77及び第5水流78を形成して第1領域42に流入する。第1洗浄水71の吐水量は、前側領域40、後側領域41、第1領域42及び第2領域43のうち前側領域40から流入する吐水量が最も少ない。
【0031】
上記のように構成された実施形態の作用および効果について説明する。
【0032】
大便器10は、便鉢部11と、排水トラップ部12とを具備する。排水トラップ部12は、便鉢部11に形成された流入口26から後方に延びる。便鉢部11は、リム部15、鉢部16、及び凹部17を備える。リム部15には、第1吐水口18が設けられる。第1吐水口18は、便鉢部11を上方から見た平面視において、反時計回りに旋回流を形成するように吐水する。第1吐水口18は、便鉢部11を上方から見た平面視において、便鉢部11の左側の後部から、便鉢部11の右側の前部までの領域に配置される。便鉢部11の左側において旋回流は前方に流れる。凹部17の溜水面31を上方から見た平面視において、溜水面31を仮想の斜め線L3によって4つに区画したときの前側領域40、後側領域41、第1領域42及び第2領域43のうち、第1吐水口18から吐水される第1洗浄水71の吐水量の半分以上は、第1領域42に流入する。
【0033】
この構成によれば、大量の洗浄水が溜水面31の第1領域42に流れ込み、凹部17に太い流れが形成される。汚物は、太い流れによって凹部17から排水トラップ部12に排出される。したがって、汚物の排出性能を高めることができる。
【0034】
大便器10は、サイフォン式便器である。第1吐水口18の吐水開始からサイフォン起動までの間の第1洗浄水71の吐水量の半分以上は、第1領域42に流入する。この構成によれば、大量の洗浄水によって形成された太い流れと、サイフォン作用とによって、汚物は、凹部17から排水トラップ部12に排出される。したがって、汚物の排出性能をより高めることができる。
【0035】
溜水面31を仮想の縦線L1、仮想の横線L2、及び2本の仮想の斜め線L3によって区画した8つの領域にそれぞれ流入する第1洗浄水71の吐水量のうち、第1前方領域42Aに流入する第1洗浄水71の吐水量は、最も多い。この構成によれば、第1領域42の第1前方領域42Aに大量の洗浄水が流入し、凹部17に太い流れが形成される。汚物は、太い流れによって凹部17から排水トラップ部12に排出される。したがって、汚物の排出性能をより高めることができる。
【0036】
第1洗浄水71は、便鉢部11の後部を通過して第1領域42に流入する。この構成によれば、便鉢部11の後部に汚物が残存することを抑制できる。
【0037】
前側領域40、後側領域41、第1領域42及び第2領域43にそれぞれ流入する第1洗浄水71の吐水量のうち、前側領域40に流入する第1洗浄水71の吐水量は、最も少ない。この構成によれば、第1洗浄水71の多くは、便鉢部11の前部を通過するから、便鉢部11の前部に汚物が残存することを抑制できる。
【0038】
第2洗浄水72は、第1洗浄水71と合流し、第2吐水口19の内側に到達する。第2吐水口19の内側は、便鉢部11を上側から見た平面視において、第2吐水口19の中心点Dに寄った位置である。この構成によれば、第2洗浄水72は便鉢部11を1周するから、便鉢部11に汚物が残存することを抑制できる。
【0039】
第1洗浄水71と第2洗浄水72とが合流した合流水74は、便鉢部11を1周する。この構成によれば、便鉢部11に汚物が残存することを抑制できる。
【0040】
第2洗浄水72の流速よりも合流水74の流速の方が速い。この構成によれば、第2洗浄水72は、合流水74と合流して、太い流れを形成し、便鉢部11を洗浄することができる。
【0041】
<他の実施形態>
本開示は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本開示の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態において大便器10は、サイフォン式便器である。これに限らず、大便器は、洗い落とし式便器であってもよい。
(2)上記実施形態において第1吐水口18及び第2吐水口19は、反時計回りに旋回流を形成するように吐水する。これに限らず、第1吐水口及び第2吐水口の位置及び吐水方向を変更し、時計回りに旋回流を形成するように吐水してもよい。
(3)上記実施形態において第1領域42は、溜水面31の左側の領域であり、第2領域43は、溜水面31の右側の領域である。これに限らず、便鉢部の旋回流が時計回りに流れる場合、第1領域は、溜水面の右側の領域であり、第2領域は、溜水面の左側の領域である。
(4)上記実施形態において第1吐水口18は、便鉢部11の左側の前後方向中央部に配置されている。これに限らず、第1吐水口の位置は適宜変えてもよい。旋回流が反時計回りに流れる場合、第1吐水口は、例えば便鉢部の右側に配置してもよいし、便鉢部の前部や後部に配置してもよい。
(5)上記実施形態において第1吐水口18は、第1領域42と左右方向に重なる位置に配置されている。これに限らず、第1吐水口は、第1領域と左右方向に重ならない位置に配置してもよい。
(6)上記実施形態においてリム部15には、第2吐水口19が設けられている。これに限らず、リム部に第2吐水口を設けなくても良い。
(7)上記実施形態においてリム部15には、2つの吐水口(第1吐水口18及び第2吐水口19)が設けられている。これに限らず、リム部に3つ以上の吐水口を設けても良い。
【符号の説明】
【0042】
D…中心点、L1…仮想の縦線、L2…仮想の横線、L3…仮想の斜め線、10…大便器、11…便鉢部、12…排水トラップ部、15…リム部、16…鉢部、17…凹部、18…第1吐水口、19…第2吐水口、24…立ち壁部、25…底部、26…流入口、31…溜水面、40…前側領域、41…後側領域、42…第1領域、42A…第1前方領域、42B…第1後方領域、43…第2領域、15C…リム部第1領域(第1側に位置する領域)、71…第1洗浄水、72…第2洗浄水、74…合流水