(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤およびポリアセタール樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 59/00 20060101AFI20241227BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20241227BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20241227BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20241227BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20241227BHJP
C08F 279/02 20060101ALI20241227BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
C08L59/00
C08L33/00
C08K3/08
C08K5/098
C08F265/06
C08F279/02
C08L51/04
(21)【出願番号】P 2020182970
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2019199009
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】松岡 佳明
(72)【発明者】
【氏名】園山 亜里紗
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-535658(JP,A)
【文献】特開平07-316393(JP,A)
【文献】特開2007-211120(JP,A)
【文献】特開平06-100759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F251/00 -283/00
C08F283/02 -289/00
C08F291/00 -297/08
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体(D)を含むポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)であって、
さらにアルカリ金属成分(C)を含み、
前記アルカリ金属成分(C)は、
(i)構成単位として、グリシジル基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウムおよび(メタ)アクリル酸からなる群から選択される1つ以上の化合物に由来する構成単位を有する重合体を、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いてけん化して得られる物質、並びに
(ii)炭素数10~24の脂肪族カルボン酸とアルカリ金属との塩、
からなる群から選択される1つ以上であり、
前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、さらに、リン元素を0.010重量%~0.300重量%、および、アルカリ金属元素を0.010重量%~0.300重量%含有し、
前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)25重量部と脱イオン水75重量部とからなる混合物のpHが7.0以上11.0以下である、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)。
【請求項2】
前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、当該ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、前記アルカリ金属元素を0.010重量%~0.150重量%含有する、請求項1に記載のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)。
【請求項3】
前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)におけるアルカリ土類金属元素の含有量は、当該ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、0.100重量%未満である、請求項1
または2に記載のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)。
【請求項4】
前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)における塩素元素の含有量は、当該ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、0.040重量%未満である、請求項1~
3の何れか1項に記載のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)。
【請求項5】
前記弾性体は、ブタジエンゴム、スチレン/ブタジエン共重合体ゴム、アクリレート系ゴムおよびシリコーンゴムからなる群より選択される1種以上を含む、請求項1~
4の何れか1項に記載のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)。
【請求項6】
請求項1~
5の何れか1項に記載のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)およびポリアセタール樹脂(A)を含む、ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項7】
リン成分を含むpH調整剤(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体と、アルカリ金属成分(C)とを混合する工程を含み、
前記アルカリ金属成分(C)は、
(i)グリシジル基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウムおよび(メタ)アクリル酸からなる群から選択される1つ以上を重合して得られた重合体を、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いてけん化して得られる物質、並びに
(ii)炭素数10~24の脂肪族カルボン酸とアルカリ金属との塩、
からなる群から選択される1つ以上である、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)の製造方法。
【請求項8】
前記リン成分を含むpH調整剤(B)は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムとリン酸との混合物、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムおよびリン酸三カリウムからなる群から選択される1つ以上である、請求項
7に記載のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤およびポリアセタール樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は結晶性のエンジニアリングプラスチックであり、その結晶性の高さから強度、摺動性および寸法安定性に優れている。そのためポリアセタール樹脂は、筐体だけでなく、樹脂ギア、ドアノブ、クリップなど、電気電子部品および自動車部品などの用途に広く使用されている。これらの樹脂部品には高耐衝撃性、低摩耗性、低騒音性などが求められ、その中でも高耐衝撃性が重要視される。
【0003】
また近年、自動車用部品には、VOC(揮発性有機化合物)の発生が少ない樹脂部品が求められており、それ故に、VOCの発生が少ない樹脂組成物が求められている。
【0004】
ポリアセタール用耐衝撃改質剤として、様々な改質剤が開発されている。例えば特許文献1には、ゴム状ポリマーのコアとガラス状ポリマーのシェルを有し、ノニオン性界面活性剤及び発生するラジカルが中性である重合開始剤を用い乳化重合して得られるコアシェルポリマーが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ゴム質重合体にビニル単量体成分がグラフト重合されたグラフト共重合体であって、カルシウムを0.1~0.5質量%含有することを特徴とするグラフト共重合体からなる、ポリアセタール樹脂用耐衝撃性改質剤が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、ポリブタジエンを含むゴム弾性コア、硬質グラフトシェル、及び、ヒンダードフェノール、ホスファイト、スルフィド及びpH緩衝系の少なくとも一つから構成される安定剤配合物から形成される安定化MBSコアシェルグラフトコポリマーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-100759号
【文献】特許5269302号
【文献】特開平7-316393号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のような従来技術は、VOC発生量の観点からは十分なものでなく、さらなる改善の余地があった。
【0009】
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、VOC発生量の少ないポリアセタール樹脂組成物を提供し得る、新規のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決する為に鋭意検討した結果、ゴム含有グラフト重合体、リン元素およびアルカリ金属元素を含むポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤は、VOC発生量が少ない、という新規知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体(D)を含むポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)であって、さらにアルカリ金属成分(C)を含み、前記アルカリ金属成分(C)は、(i)構成単位として、グリシジル基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウムおよび(メタ)アクリル酸からなる群から選択される1つ以上の化合物に由来する構成単位を有する重合体を、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いてけん化して得られる物質、並びに(ii)炭素数10~24の脂肪族カルボン酸とアルカリ金属との塩、からなる群から選択される1つ以上であり、前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、さらに、リン元素を0.010重量%~0.300重量%、および、アルカリ金属元素を0.010重量%~0.300重量%含有し、前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)25重量部と脱イオン水75重量部とからなる混合物のpHが7.0以上11.0以下である、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)。
〔2〕前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、当該ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、前記アルカリ金属元素を0.010重量%~0.150重量%含有する、〔1〕に記載のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)。
〔3〕弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体(D)を含むポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)であって、前記ゴム含有グラフト共重合体(D)はさらにアルカリ金属元素を含み、前記アルカリ金属元素の含有量は、前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、0.010重量%~0.300重量%であり、前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、さらに、リン元素を0.010重量%~0.300重量%含有し、前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)25重量部と脱イオン水75重量部とからなる混合物のpHが7.0以上11.0以下である、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)。
〔4〕前記アルカリ金属元素の含有量は、前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、0.010重量%~0.150重量%である、〔3〕に記載のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)。
〔5〕前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)におけるアルカリ土類金属元素の含有量は、当該ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、0.100重量%未満である、〔1〕~〔4〕の何れか1つに記載のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)。
〔6〕前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)における塩素元素の含有量は、当該ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、0.040重量%未満である、〔1〕~〔5〕の何れか1つに記載のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)。
〔7〕前記弾性体は、ブタジエンゴム、スチレン/ブタジエン共重合体ゴム、アクリレート系ゴムおよびシリコーンゴムからなる群より選択される1種以上を含む、〔1〕~〔6〕の何れか1つに記載のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)。
〔8〕〔1〕~〔7〕の何れか1つに記載のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)およびポリアセタール樹脂(A)を含む、ポリアセタール樹脂組成物。
〔9〕リン成分を含むpH調整剤(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体と、アルカリ金属成分(C)とを混合する工程を含み、前記アルカリ金属成分(C)は、(i)グリシジル基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウムおよび(メタ)アクリル酸からなる群から選択される1つ以上を重合して得られた重合体を、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いてけん化して得られる物質、並びに(ii)炭素数10~24の脂肪族カルボン酸とアルカリ金属との塩、からなる群から選択される1つ以上である、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)の製造方法。
〔10〕前記リン成分を含むpH調整剤(B)は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムとリン酸との混合物、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムおよびリン酸三カリウムからなる群から選択される1つ以上である、〔9〕に記載のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、VOC発生量の少ないポリアセタール樹脂組成物を提供し得る、新規のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤を提供できる、という効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0014】
また、本明細書において特記しない限り、構成単位として、X1単量体に由来する構成単位と、X2単量体に由来する構成単位と、・・・およびXn単量体(nは2以上の整数)とを含む共重合体を、X1/X2/・・・/Xn共重合体とも称する。X1/X2/・・・/Xn共重合体としては、明示されている場合を除き、重合様式は特に限定されず、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、グラフト共重合体であってもよい。また、本明細書において特記しない限り、構成単位として、X1単量体に由来する構成単位と、X2単量体に由来する構成単位と、・・・およびXn単量体(nは2以上の整数)とを含むエラストマーを、X1/X2/・・・/Xnゴムとも称する。
【0015】
〔1.本発明の一実施形態の技術的思想〕
上述したVOCの一つとしてホルムアルデヒドが挙げられる。ドイツの自動車規格の一つであるVDA275では、樹脂部品(成形体)から放出するホルムアルデヒドを測定する方法が記載されている。近年、これらの規格に基づく統一化された測定方法でのVOC発生量が議論されている。
【0016】
ポリアセタール樹脂は、添加物のpHや残存イオン量に敏感であり、pHや残存イオン量によってはポリアセタール樹脂の加工中にポリアセタールが分解し、人体に有毒なホルムアルデヒドが発生する場合がある。それらpHや残存イオンはポリアセタール樹脂の成形体の中にも残存するため、密閉空間ではポリアセタール樹脂の成形体から放出されたホルムアルデヒドが問題になる。一方ポリアセタールは耐衝撃性が必要とされる用途が存在し、耐衝撃改良剤が必要とされる。アニオン性の乳化剤と凝固剤とを用いて製造された耐衝撃改良剤をポリアセタール樹脂に添加した場合、ポリアセタール樹脂組成物またはその成形体からのホルムアルデヒドの発生量が多く、特に自動車用途のホルムアルデヒド量としては許容されない。そのため、耐衝撃改良剤を改良する必要があった。
【0017】
上述した特許文献1~3の耐衝撃改良剤では、ポリアセタール樹脂に配合した場合、ポリアセタール樹脂組成物を成形する際に発生するVOC量を十分に低減できなかった。
【0018】
本発明の一実施形態は、上述した目的に加えて、さらに以下の(a)、(b)および/または(c)を、達成されることが好ましい追加の目的とする:(a)ポリアセタール樹脂の高い耐衝撃性およびホルムアルデヒドの低い発生量をより高いレベルで両立するのに有用なポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤を提供すること;(b)ポリアセタール樹脂組成物の成形中および成形後に発生するホルムアルデヒドを低減させ、さらに耐衝撃性を付与しうるポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤およびこれを含むポリアセタール樹脂組成物を提供すること;並びに(c)色調に優れる成形体を提供し得る、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤およびこれを含むポリアセタール樹脂組成物を提供すること。
【0019】
本発明者らは、上述した課題を解決する為に鋭意検討した結果、特定のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤を用いることによって、ポリアセタール樹脂組成物の高い耐衝撃性と、成形中および成形後のVOC量の低減と、をより高いレベルで両立できることを見出した。また本発明者らは、(a)ポリアセタール樹脂組成物に高い耐衝撃性と成形中および成形後のVOC量の低減とをより高いレベルで両立できる、特定のゴム含有グラフト共重合体を用いたポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤、(b)当該ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤を含むポリアセタール樹脂組成物、並びに(c)色調に優れる成形体を提供し得る、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤およびこれを含むポリアセタール樹脂組成物、を提供できることを見出した。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、(a)ポリアセタール樹脂の耐衝撃性とホルムアルデヒド発生量の低減とをより高いレベルで両立するのに有用な、ゴム含有グラフト共重合体を含むポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤、(b)ポリアセタール樹脂組成物の成形中および成形後に発生するホルムアルデヒド発生量を低減させ、さらに耐衝撃性を付与しうるポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤およびこれを含むポリアセタール樹脂組成物、並びに(c)色調に優れる成形体を提供し得る、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤およびこれを含むポリアセタール樹脂組成物を提供することができる。
【0021】
〔2.ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)〕
本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体(D)を含むポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)である。本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、さらにアルカリ金属成分(C)を含む。当該アルカリ金属成分(C)は、(i)構成単位として、グリシジル基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウムおよび(メタ)アクリル酸からなる群から選択される1つ以上の化合物に由来する構成単位を有する重合体を、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いてけん化して得られる物質、並びに(ii)炭素数10~24の脂肪族カルボン酸とアルカリ金属との塩、からなる群から選択される1つ以上である。本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、当該ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、さらに、リン元素を0.010重量%~0.300重量%、および、アルカリ金属元素を0.010重量%~0.300重量%含有する。本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、当該ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)25重量部と脱イオン水75重量部とからなる混合物のpHが7.0以上11.0以下である。
【0022】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「メタクリレート」および/または「アクリレート」を意図し、「(メタ)アクリル酸」は「メタクリル酸」および/または「アクリル酸」を意図する。
【0023】
「ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)」を、以下「改質剤(X)」と称する場合もある。「本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)」を、以下「本改質剤(X)」と称する場合もある。本改質剤(X)は、後述するポリアセタール樹脂(A)と混合されるとポリアセタール樹脂組成物となる。
【0024】
本改質剤(X)は、前記構成を有するため、VOC発生量が少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できるという利点を有する。具体的には、本改質剤(X)は、ポリアセタール樹脂組成物の成形中および成形後のVOC発生量が少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。また、本改質剤(X)は、耐衝撃性に優れる成形体を提供し得るポリアセタール樹脂組成物を提供できるという利点も有する。また、本改質剤(X)は、(a)ポリアセタール樹脂組成物の成形体の高い耐衝撃性と、(b)ポリアセタール樹脂組成物の成形中および成形後のVOC発生量の低減とを、高いレベルで両立できる、という利点も有する。また、本改質剤(X)は、色調に優れる成形体を提供し得るポリアセタール樹脂組成物を提供することもできる。なお、本明細書において、成形体の黄色味が小さいほど、当該成形体は「色調に優れる」という。
【0025】
(2-1.ゴム含有グラフト共重合体(D))
本改質剤(X)に含まれるゴム含有グラフト共重合体(D)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有する。
【0026】
(弾性体)
弾性体としては、天然ゴム、ジエン系ゴム、アクリレート系ゴムおよびポリオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含む弾性体が挙げられる。弾性体は、ジエン系ゴム、アクリレート系ゴムおよびポリオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0027】
(ジエン系ゴム)
ジエン系ゴムは、構成単位として、ジエン系単量体に由来する構成単位を含む弾性体である。得られる弾性体のガラス転移温度(以下、Tgとも称する。)を低くできること、得られるポリアセタール樹脂組成物の成形体に対する耐衝撃性の改善効果が高いこと、および原料コストが安価であることから、弾性体は、ジエン系ゴムを含む弾性体であることがより好ましく、ジエン系ゴムであることがより好ましい。
【0028】
ジエン系単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2-クロロ-1,3-ブタジエンなどが挙げられる。これらのジエン系単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ジエン系ゴムは、構成単位として、さらに、ジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0030】
ジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体(以下、ビニル系単量体A、とも称する。)としては、例えば、(a)スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどの芳香族ビニル系単量体;(b)アクリル酸、メタクリル酸などのビニルカルボン酸類;(c)エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;(d)2-ヒドロキシエチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、などのヒドロキシル基含有ビニル単量体;(e)グリシジルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルなどのグリシジル基含有ビニル単量体;(f)アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル系単量体;(g)塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;(h)酢酸ビニル;(i)エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのアルケン類、などが挙げられる。上述したビニル系単量体Aは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
ジエン系ゴムおける、ビニル系単量体Aに由来する構成単位の含有量は、特に限定されない。ジエン系ゴムは、構成単位100重量%中、ジエン系単量体に由来する構成単位を50~100重量%、およびビニル系単量体Aに由来する構成単位を0~50重量%、含むことが好ましい。
【0032】
ジエン系ゴムは、構成単位として、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性単量体に由来する構成単位をさらに含んでいてもよい。すなわち、ジエン系ゴムの重合においてこれらの多官能性単量体を使用してもよい。
【0033】
ジエン系ゴムとしては、ブタジエンゴム(ポリブタジエンゴム)、スチレン/ブタジエン共重合体ゴム(ポリ(スチレン/ブタジエン)ゴム)、ポリ(アクリロニトリル/ブタジエン)ゴム、ブタジエン/アクリル酸エステル共重合体などが好適に挙げられる。ブタジエンゴムは、構成単位100重量%中、1,3-ブタジエンに由来する構成単位を50~100重量%含む弾性体である。
【0034】
ジエン系ゴムは、1,3-ブタジエンに由来する構成単位を50~100重量%、およびビニル系単量体Aに由来する構成単位を0~50重量%、含むブタジエンゴムであることが好ましく、1,3-ブタジエンに由来する構成単位を100重量%含む1,3-ブタジエン単独重合体であることがより好ましい。
【0035】
得られる弾性体のガラス転移温度(以下、Tgとも称する。)を低くできること、得られるポリアセタール樹脂組成物の成形体に対する耐衝撃性の改善効果が高いこと、および原料コストが安価であることから、弾性体は、ブタジエンゴムを含むことがさらに好ましく、ブタジエンゴムであることが特に好ましい。
【0036】
(アクリレート系ゴム)
アクリレート系ゴムは、構成単位として、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を含む弾性体である。
【0037】
(メタ)アクリレート系単量体としては、例えば、(a)メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどの、炭素数が1~22のアルキル基を有するアルキルエステル(メタ)アクリレート類;(b)フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環含有(メタ)アクリレート類;(c)2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;(d)グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレートなどのグリシジル(メタ)アクリレート類;(e)アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらの(メタ)アクリレート系単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
アクリレート系ゴムは、構成単位として、さらに、(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体としては、(a)上述したジエン系単量体、および(b)ビニル系単量体Aのうち(メタ)アクリレート系単量体以外の単量体、などが挙げられる。
【0039】
アクリレート系ゴムは、さらに、架橋剤および/またはグラフト交叉剤に由来する構成単位を含んでいてもよい。換言すれば、アクリレート系ゴムの製造過程において、架橋剤および/またはグラフト交叉剤を使用してもよい。架橋剤およびグラフト交叉剤としては、(a)アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレートなどのアリルアルキル(メタ)アクリレート類;(b)モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート類;(c)ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性単量体などが挙げられる。これらの架橋剤およびグラフト交叉剤は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
アクリレート系ゴムとしては、ポリブチルアクリレートゴムおよびブチルアクリレート/2-エチルヘキシルアクリルレート共重合体などのアクリレート系ゴムが好適に挙げられる。ポリブチルアクリレートゴムは、構成単位100重量%中、ブチルアクリレートに由来する構成単位を50~100重量%含む弾性体である。
【0041】
ポリオルガノシロキサン系ゴムとしては、シリコーンゴムおよびシリコーン/アクリレート系ゴムなどが好適に挙げられる。
【0042】
シリコーンゴムとしては、ポリメチルシリコーンゴムおよびポリメチルフェニルシリコーンゴムなどが挙げられる。シリコーン/アクリレート系ゴムとしては、ポリオルガノシロキサン/ブチルアクリレート共重合体などが挙げられる。
【0043】
本発明の一実施形態において、弾性体は、ブタジエンゴム、スチレン/ブタジエン共重合体ゴム、アクリレート系ゴムおよびシリコーンゴムからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0044】
(弾性体のガラス転移温度)
弾性体のガラス転移温度は、0℃以下が好ましい。当該構成によると、得られる改質剤(X)を含むポリアセタール樹脂組成物が、優れた靱性を有する成形体を提供できるという利点を有する。
【0045】
(弾性体の体積平均粒子径)
弾性体の体積平均粒子径は、得られるゴム含有グラフト共重合体(D)が、ポリアセタール樹脂中で良好な分散性を呈することから、10nm~1μmが好ましく、20nm~800nmがより好ましく、40nm~700nmがさらに好ましい。弾性体の体積平均粒子径は、弾性体を含む水性ラテックスを試料として、動的光散乱式粒子径分布測定装置などを用いて、測定することができる。弾性体の体積平均粒子径の測定方法については、下記実施例にて詳述する。
【0046】
ゴム含有グラフト共重合体(D)の「弾性体」は、構成単位の組成が同一である1種類の弾性体、のみからなってもよい。ゴム含有グラフト共重合体(D)の「弾性体」は、構成単位の組成がそれぞれ異なる複数種の弾性体からなってもよい。換言すれば、ゴム含有グラフト共重合体(D)の「弾性体」は、それぞれ別々に重合された複数の弾性体の複合体を含んでいてもよく、それぞれ順に重合して得られる1つの弾性体を含んでいてもよい。このように、複数の弾性体(重合体)をそれぞれ順に重合することを、多段重合とも称する。複数種の弾性体を多段重合して得られる1つの弾性体を、多段重合弾性体とも称する。多段重合弾性体において、複数の弾性体のそれぞれが、層構造を形成していてもよい。複数の弾性体のそれぞれが層構造を形成している多段重合弾性体は、多層弾性体ともいえる。すなわち、本発明の一実施形態において、ゴム含有グラフト共重合体(D)の「弾性体」は、複数種の弾性体の複合体、多段重合弾性体および/または多層弾性体を含んでいてもよい。
【0047】
(グラフト部)
グラフト部は、構成単位として、(a)ビニル系単量体に由来する構成単位のみを含んでいてもよく、(b)ビニル系単量体に由来する構成単位、および、ビニル系単量体と共重合可能なビニル系単量体以外の単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0048】
前記ビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、不飽和カルボン酸および不飽和カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0049】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロムスチレン、ジブロムスチレンなどが好適に挙げられる。
【0050】
シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが好適に挙げられる。
【0051】
不飽和カルボン酸および不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸、メタクリル酸、炭素数1~12のアルキルエステルを有するアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルなどが好適に挙げられる。
【0052】
前記ビニル系単量体としては、さらに、(a)2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の炭素数が1~22のアルキル基を有し、ヒドロキシル基を有するエステル(メタ)アクリレート類;(b)メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等の炭素数が1~22のアルキル基を有し、アルコキシル基を有するエステル(メタ)アクリレート類、なども好適に挙げられる。
【0053】
グラフト部の重合において、用いる単量体を選択するときには、得られたゴム含有グラフト共重合体(D)を配合し改質するポリアセタール樹脂(A)の種類を考慮することが好ましい。例えば、グラフト部の重合における単量体の選択において、(a)ポリアセタール樹脂(A)と得られたゴム含有グラフト共重合体(D)との相溶性、(b)ゴム含有グラフト共重合体(D)をポリアセタール樹脂(A)に配合して得られるポリアセタール樹脂組成物の屈折率、などを考慮して、1種の単量体を選択するか、または任意の混合比でまたは2種以上の単量体を組み合わせて使用することが好ましい。
【0054】
グラフト部における、好ましいビニル系単量体は、(メタ)アクリレート系単量体から選ばれる1種以上である。(メタ)アクリレート系単量体としては、(a)メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート等の炭素数が1~22のアルキル基を有するアルキルエステルアクリレート類;(b)メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート等の炭素数が1~22のアルキル基を有するアルキルエステルメタクリレート類等のアルキル(メタ)アクリレート単量体が挙げられる。なお、これらは単独で用いても良く、2種以上組み合わせても良い。
【0055】
ゴム含有グラフト共重合体(D)の「グラフト部」は、構成単位の組成が同一である1種類のグラフト部、のみからなってもよい。ゴム含有グラフト共重合体(D)の「グラフト部」は、構成単位の組成がそれぞれ異なる複数種のグラフト部からなってもよい。換言すれば、ゴム含有グラフト共重合体(D)の「グラフト部」は、それぞれ別々に重合された複数のグラフト部の複合体を含んでいてもよく、それぞれ順に重合して得られる1つの重合体を含んでいてもよい。複数種のグラフト部を多段重合して得られる重合体を、多段重合グラフト部とも称する。多段重合グラフト部において、複数のグラフト部のそれぞれが、層構造を形成していてもよい。複数のグラフト部のそれぞれが層構造を形成している多段重合グラフト部は、多層グラフト部ともいえる。すなわち、本発明の一実施形態において、ゴム含有グラフト共重合体(D)の「グラフト部」は、複数種のグラフト部の混合物、多段重合グラフト部および/または多層グラフト部を含んでいてもよい。
【0056】
ゴム含有グラフト共重合体(D)における、グラフト部の量は特に限定されない。ゴム含有グラフト共重合体(D)におけるグラフト部の量は、ゴム含有グラフト共重合体(D)とポリアセタール樹脂(A)との相溶性、および、樹脂組成物の成形体の耐衝撃性の観点から、弾性体100重量部に対して、11重量部以上67重量部未満が好ましく、18重量部以上54重量部以下がより好ましく、25重量部以上43重量部以下がさらに好ましい。ゴム含有グラフト共重合体(D)におけるグラフト部の量が、弾性体100重量部に対して11重量部未満の場合、樹脂組成物において、ポリアセタール樹脂(A)中でのゴムグラフト共重合体の分散が良好となり、その結果、当該樹脂組成物は耐衝撃性に優れる成形体を提供できる。ゴム含有グラフト共重合体(D)におけるグラフト部の量が、弾性体100重量部に対して67重量部未満の場合、得られるゴム含有グラフト共重合体(D)中の弾性体の量が適切な量であるため、得られる改質剤(X)を含む樹脂組成物は耐衝撃性に優れる成形体を提供できる。
【0057】
ゴム含有グラフト共重合体(D)の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合のいずれを採用してもよいが、乳化重合、すなわち、乳化グラフト重合が好ましい。具体的には、攪拌機を備えた反応容器に、水および界面活性剤を加え、さらにビニル系単量体、重合開始剤、水を加え、必要に応じて連鎖移動剤および/または酸化還元剤を仕込み、加熱攪拌して重合すればよい。
【0058】
ここで使用する重合開始剤、連鎖移動剤および酸化還元剤の種類には特に制限がなく、公知のものが使用できる。また、各原料の反応容器への添加方法についても特に制限がなく、重合開始前に一度にまとめて添加する他、分割して添加してもよい。また、グラフト部の重合は、一段または二段以上で行われ、各段の単量体組成が同一であっても異なっていてもよい。グラフト部の重合において、グラフト部を形成する単量体を短時間に一度にまとめて添加してもよく、一定の時間をかけて一定量ずつ連続的に添加してもよく、あるいはこれらを組み合わせてもよい。
【0059】
ゴム含有グラフト共重合体(D)の製造方法として乳化重合法を採用する場合、公知の重合開始剤、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の公知の熱分解型重合開始剤を用いることができる。
【0060】
ゴム含有グラフト共重合体(D)の製造には、レドックス型開始剤を使用することもできる。前記レドックス型開始剤は、(a)有機過酸化物および無機過酸化物などの過酸化物と、(b)必要に応じてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコースなどの還元剤、および必要に応じて硫酸鉄(II)などの遷移金属塩、さらに必要に応じてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどのキレート剤、さらに必要に応じてピロリン酸ナトリウムなどのリン含有化合物などと、を併用した開始剤である。有機過酸化物としては、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ヘキシルパーオキサイドなどが挙げられる。無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0061】
(2-2.リン成分を含むpH調整剤(B))
本改質剤(X)は、リン成分を含むpH調整剤(B)を含むことが好ましい。「リン成分を含むpH調整剤(B)」を、以下「成分(B)」とも称する。本改質剤(X)が成分(B)を含む場合、当該改質剤(X)に含まれるリン元素の含有量を後述する所望の含有量に調整することが容易となる、という利点を有する。それ故に、当該改質剤(X)は、pHが中性または弱塩基性であるポリアセタール樹脂組成物を提供でき、その結果、VOCの発生量がより少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。
【0062】
成分(B)は、リン元素を含み、かつ、pHを変化させ得る物質もしくは混合物であればその他の構成は特に限定されない。ただし、本明細書において、改質剤(X)の製造過程で用いられる界面活性剤、および当該界面活性剤と凝固剤との反応生成物(例えば、塩)は、たとえリン元素を含み、かつpHを変化させ得る物質であっても、成分(B)には含めない。
【0063】
成分(B)単体のpHは、7.0~11.0の範囲内であることが好ましく、7.0~10.0以下であることがより好ましい。
【0064】
成分(B)としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムなどが挙げられる。成分(B)としては、また、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムとリン酸との混合物も、挙げられる。
【0065】
成分(B)は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムとリン酸との混合物、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムおよびリン酸三カリウムからなる群から選択される1つ以上であることが好ましい。当該構成を有する成分(B)は、ポリアセタール樹脂組成物などのpHを容易に調整し、pHを、容易に、中性または弱塩基性、例えば7.0~11.0にすることができる。それゆえ、本改質剤(X)が当該構成を有する成分(B)を含む場合、当該改質剤(X)はVOCの発生量がさらに少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。また、上述された群に含まれる成分(B)は、水溶性が高く、水溶液を容易に得ることができる。そのため、上述された群に含まれる成分(B)は、本改質剤(X)の製造方法において、水溶液としてゴム含有グラフト共重合体(D)に配合できるため、濃度に偏りなくゴム含有グラフト共重合体(D)に均一に付着させることができる。
【0066】
本改質剤(X)における成分(B)の含有量は特に限定されない。本改質剤(X)において、ゴム含有グラフト共重合体(D)100重量部に対する成分(B)の含有量は、0.01重量部以上0.40重量部未満が好ましく、0.05重量部以上0.35重量部以下がより好ましい。成分(B)の前記含有量が0.01重量部以上である場合、得られる改質剤(X)は、pHが中性または弱塩基性であるポリアセタール樹脂組成物を提供でき、その結果、VOCの発生量がより少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。成分(B)の前記含有量が0.40重量部未満である場合、得られる改質剤(X)は、残イオン成分量が少ないため分解され難いポリアセタール樹脂組成物を提供でき、その結果、VOCの発生量がより少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。
【0067】
本改質剤(X)は、改質剤(X)100重量%中、リン元素を0.010重量%~0.300重量%含むものであり、0.010重量%~0.250重量%含むことが好ましく、0.010重量%~0.200重量%含むことがより好ましく、0.010重量%~0.150重量%含むことがさらに好ましい。改質剤(X)におけるリン元素の含有量が、改質剤(X)100重量%中0.010重量%以上である場合、得られる改質剤(X)は、pHが中性または弱塩基性であるポリアセタール樹脂組成物を提供でき、その結果、VOCの発生量がより少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。
【0068】
改質剤(X)におけるリン元素の効果について、より具体的に説明する。後述するアルカリ金属成分(C)もまた、得られる改質剤(X)のpHを中性または弱塩基性側にシフトさせることができる。しかしながら、アルカリ金属成分(C)は塩基性を示し得るため、改質剤(X)が多量にアルカリ金属成分(C)を含む場合、改質剤(X)を含むポリアセタール樹脂組成物の分解が増加し得る。本発明の一実施形態では、改質剤(X)が0.010重量%以上のリン元素を含むことにより、改質剤(X)のpH調整の大部分をリン元素で行うことができる。これにより、pH調整のために使用するアルカリ金属成分(C)の量を抑えることができる。また、改質剤(X)が0.010重量%以上のリン元素を含むことにより、アルカリ金属成分(C)による塩基性の度合いの上昇を抑えることができる。従って、本改質剤(X)は、pHが中性または弱塩基性であるポリアセタール樹脂組成物を提供できる。
【0069】
改質剤(X)におけるリン元素の含有量が、改質剤(X)100重量%中0.300重量%以下である場合、得られる改質剤(X)は、分解され難いポリアセタール樹脂組成物を提供できる。すなわち、改質剤(X)におけるリン元素の含有量が、上記範囲内である場合、得られる改質剤(X)は、VOCの発生量がより少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。
【0070】
(2-3.アルカリ金属成分(C))
アルカリ金属成分(C)は、(a)アルカリ金属元素を含む化合物、または、(b)アルカリ金属元素を含む化合物を含む混合物、であればその他の構成は特に限定されない。ただし、本明細書において、リン元素とアルカリ金属元素とを有し、かつ、pHを変化させ得る物質もしくは混合物は、上述した成分(B)とみなし、アルカリ金属成分(C)には含めない。
【0071】
(a)ポリアセタール樹脂組成物の成形中、例えばポリアセタール樹脂組成物を押出、さらに成形加工するとき、および/または(b)ポリアセタール樹脂組成物の成形後、に発生し得るホルムアルデヒドは、さらに酸化してギ酸になり得る。ギ酸は、ポリアセタール樹脂組成物の分解、すなわちホルムアルデヒドの発生をさらに促進する。アルカリ金属成分(C)は、ギ酸捕捉剤であることが好ましい。本明細書において、「ギ酸捕捉剤」とは、「ギ酸と反応してpH7.0~8.5の中性域のpHを示す塩に変化する物質」を意図する。
【0072】
本改質剤(X)が、ギ酸捕捉剤であるアルカリ金属成分(C)を含む場合、当該改質剤(X)は、ホルムアルデヒドの酸化により発生するギ酸によるポリアセタール樹脂組成物の分解が非常に少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。それ故に、当該改質剤(X)は、ホルムアルデヒドの発生量が低減されたポリアセタール樹脂組成物を提供できる。すなわち、ギ酸捕捉剤であるアルカリ金属成分(C)を含む改質剤(X)は、VOCの発生量がより少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。
【0073】
アルカリ金属成分(C)は、官能基として、カルボン酸金属塩基、エポキシ基、アミド基、アミノ基、イソシアネート基などを含む化合物、または当該化合物を含む混合物であることが好ましい。当該構成を有するアルカリ金属成分(C)は、ギ酸捕捉剤である。それゆえ、本改質剤(X)が当該構成を有するアルカリ金属成分(C)を含む場合、当該改質剤(X)は、ポリアセタール樹脂組成物を押出、さらに成形加工するときに発生するVOCの発生量がさらに少ない、ポリアセタール樹脂組成物を提供できる。
【0074】
アルカリ金属成分(C)としては、構成単位として、グリシジル基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウムおよび(メタ)アクリル酸からなる群から選択される1つ以上の化合物に由来する構成単位を有する重合体(以下、重合体Aとも称する。)を、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いてけん化して得られる物質が挙げられる。重合体Aとしては、(a)ゴム含有グラフト共重合体(D)とは別に製造された重合体であってもよく、(b)ゴム含有グラフト共重合体(D)のグラフト部を重合中に発生する重合体であり、グラフト部と構成単位の組成が同じであり、かつ弾性体にグラフト結合していないグラフト部であってもよい。重合体Aは、ギ酸捕捉剤としても機能できる。
【0075】
アルカリ金属成分(C)としては、また、脂肪族カルボン酸とアルカリ金属との塩も挙げられ、具体的には、脂肪族カルボン酸と水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムとの塩が挙げられる。これらのアルカリ金属成分(C)は、ギ酸捕捉剤でもある。
【0076】
脂肪族カルボン酸とアルカリ金属との塩は、加工温度においてもポリアセタール樹脂組成物に混練および保持する必要があるため、炭素数10~24の脂肪族カルボン酸とアルカリ金属との塩であることが好ましい。
【0077】
脂肪族カルボン酸としては、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸およびステアリン酸などが挙げられる。脂肪族カルボン酸は、置換基を有していてもよく、エポキシ基を有していてもよい。換言すれば、脂肪族カルボン酸は、炭化水素基の一部がエポキシ基により置換された脂肪族カルボン酸、であってもよい。
【0078】
アルカリ金属成分(C)は、(i)構成単位として、グリシジル基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウムおよび(メタ)アクリル酸からなる群から選択される1つ以上の化合物に由来する構成単位を有する重合体を、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いてけん化して得られる物質、並びに(ii)炭素数10~24の脂肪族カルボン酸とアルカリ金属との塩、からなる群から選択される1つ以上であることがより好ましい。アルカリ金属成分(C)は、(i)構成単位として、グリシジル基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウムおよび(メタ)アクリル酸からなる群から選択される1つ以上の化合物に由来する構成単位を有する重合体を、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いてけん化して得られる物質、(ii)炭素数10~24の置換基を有さない脂肪族カルボン酸とアルカリ金属との塩、並びに(iii)炭素数10~24のエポキシ基を有する脂肪族カルボン酸とアルカリ金属との塩、からなる群から選択される1つ以上であることがさらに好ましい。これらの構成を有するアルカリ金属成分(C)は、ギ酸捕捉剤である。それゆえ、本改質剤(X)がこれらの構成を有するアルカリ金属成分(C)を含む場合、当該改質剤(X)は、ポリアセタール樹脂組成物を押出、さらに成形加工するときに発生するVOCの発生量がよりさらに少ない、ポリアセタール樹脂組成物を提供できる。
【0079】
本改質剤(X)におけるアルカリ金属成分(C)の含有量は特に限定されない。本改質剤(X)において、ゴム含有グラフト共重合体(D)100重量部に対するアルカリ金属成分(C)の含有量は、0.01重量部以上0.90重量部未満が好ましく、0.05重量部以上0.80重量部以下がより好ましく、0.05重量部以上0.70重量部以下がさらに好ましく、0.03重量部以上0.70重量部以下が特に好ましい。アルカリ金属成分(C)の前記含有量が0.01重量部以上である場合、得られる改質剤(X)は、VOCの発生量がより少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。アルカリ金属成分(C)の前記含有量が0.90重量部未満である場合、得られる改質剤(X)は、色調に優れる成形体を提供し得るポリアセタール樹脂組成物を提供できる。アルカリ金属成分(C)の前記含有量が0.90重量部未満である場合、得られる改質剤(X)は、残イオン成分量が少ないため分解され難いポリアセタール樹脂組成物も提供でき、すなわちVOCの発生量がより少ないポリアセタール樹脂組成物も提供できる。
【0080】
本改質剤(X)は、改質剤(X)100重量%中、アルカリ金属元素を0.010重量%~0.300重量%含むものであり、0.010重量%~0.250重量%含むことが好ましく、0.010重量%~0.200重量%含むことがより好ましく、0.010重量%~0.150重量%含むことがより好ましく、0.020重量%~0.100重量%含むことがより好ましく、0.020重量%~0.080重量%含むことがより好ましく、0.020重量%~0.065重量%含むことがより好ましく、0.020重量%~0.045重量%含むことがより好ましく、0.020重量%~0.040重量%含むことがさらに好ましく、0.020重量%~0.035重量%含むことが特に好ましい。改質剤(X)におけるアルカリ金属元素の含有量が、改質剤(X)100重量%中0.010重量%以上である場合、得られる改質剤(X)は、発生し得るギ酸を効率的に中和できるポリアセタール樹脂組成物を提供できる。改質剤(X)におけるアルカリ金属元素の含有量が、改質剤(X)100重量%中0.300重量%以下である場合、得られる改質剤(X)は、分解され難いポリアセタール樹脂組成物を提供できる。すなわち、改質剤(X)におけるアルカリ金属元素の含有量が、上記範囲内である場合、得られる改質剤(X)は、VOCの発生量がより少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。また、改質剤(X)におけるアルカリ金属元素の含有量が、改質剤(X)100重量%中0.300重量%以下である場合、得られる改質剤(X)は、色調に優れる成形体を提供し得るポリアセタール樹脂組成物も提供できる。
【0081】
本発明者らは、驚くべきことに、以下の知見を独自に見出した:(a)カリウム元素含有量が改質剤(X)100重量%中0.010重量%以上である場合、カリウム元素含有量が増えるほど、改質剤(X)はVOCの発生量が減少すること、および(b)カリウム元素含有量が改質剤(X)100重量%中0.010重量%~0.020重量%の範囲に近づくほど、当該改質剤(X)を含むポリアセタール樹脂組成物の成形体の引張破断伸びが優れること。本改質剤(X)は、改質剤(X)100重量%中、カリウム元素を0.010重量%~0.300重量%含むことが好ましく、0.010重量%~0.250重量%含むことが好ましく、0.010重量%~0.200重量%含むことがより好ましく、0.010重量%~0.150重量%含むことがより好ましく、0.020重量%~0.100重量%含むことがより好ましく、0.020重量%~0.080重量%含むことがより好ましく、0.020重量%~0.065重量%含むことがより好ましく、0.020重量%~0.045重量%含むことがより好ましく、0.020重量%~0.040重量%含むことがさらに好ましく、0.020重量%~0.035重量%含むことが特に好ましい。改質剤(X)中のカリウム元素含有量が前記範囲内である場合、(a)当該改質剤(X)はVOCの発生量がより少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できるという利点と、また(b)当該改質剤(X)を含むポリアセタール樹脂組成物は、色調に優れ、かつ引張破断伸びに優れる成形体を提供できるという利点とを、バランスよく両方有することができる。
【0082】
(2-4.その他の任意成分)
本改質剤(X)は、本発明の一実施形態に係る効果を損なわない範囲において、前述した成分以外の、その他の任意成分を含有してもよい。その他の任意成分としては、ブロッキング防止剤、並びに、後述する酸化防止剤および後述する(4-3.その他添加剤)の項で説明する各種成分を挙げることができる。
【0083】
その他の任意成分は、本改質剤(X)の製造方法における任意の工程中で適宜添加することができる。例えば、その他の任意成分は、ゴム含有グラフト共重合体(D)が、凝集する前もしくは凝集した後の水懸濁液(水性ラテックス)中へ添加することができる。その他の任意成分は、また、改質剤(X)へ添加することができる。
【0084】
(2-5.アルカリ土類金属元素の含有量)
本改質剤(X)におけるアルカリ土類金属元素の含有量は、当該ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、0.100重量%未満であることが好ましく、0.090重量%以下であることがより好ましく、0.080重量%以下であることがより好ましく、0.070重量%以下であることがさらに好ましく、0.060重量%以下であることが特に好ましい。当該構成によると、得られる改質剤(X)は、VOCの発生量がより少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。
【0085】
(2-5.その他の元素の含有量)
本発明者らは、以下の知見を独自に見出した:驚くべきことに、改質剤(X)中の塩素元素含有量が少ないほど、(a)pHが中性および弱酸性(約7.0~11.0)に近づくこと、(b)そのため、当該改質剤(X)を含むポリアセタール樹脂組成物の分解が非常に少なくなること、および(c)その結果、当該ポリアセタール樹脂組成物はVOCの発生量が少なく、かつ当該ポリアセタール樹脂組成物の成形体は引張破断伸びに優れること。本改質剤(X)における塩素元素の含有量は、当該改質剤(X)100重量%中、0.100重量%未満であることが好ましく、0.080重量%以下であることがより好ましく、0.060重量%以下であることがより好ましく、0.040重量%以下であることがさらに好ましく、0.040重量%未満であることがさらに好ましく、0.020重量%以下であることがよりさらに好ましく、0.010重量%以下であることが特に好ましい。改質剤(X)中の塩素元素含有量が前記範囲内である場合、(a)当該改質剤(X)のpHを中性または弱アルカリ性(具体的にはpH7.0以上)にすることができるため、当該改質剤(X)はVOCの発生量がより少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できるという利点を有し、また(b)当該改質剤(X)を含むポリアセタール樹脂組成物は、引張破断伸びなどの機械物性に優れる成形体を提供できるという利点を有する。
【0086】
VOCの発生量がより少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できることから、本改質剤(X)における硫黄元素含有量、および、硫黄元素と塩素元素との合計含有量は少ないほど好ましい。本改質剤(X)における硫黄元素含有量、および、硫黄元素と塩素元素との合計含有量は、それぞれ、当該改質剤(X)100重量%中、0.100重量%未満であることが好ましく、0.080重量%以下であることがより好ましく、0.060重量%以下であることがより好ましく、0.040重量%以下であることがさらに好ましく、0.020重量%以下であることがよりさらに好ましく、0.010重量%以下であることが特に好ましい。
【0087】
(2-7.pH)
本改質剤(X)は、中性または弱アルカリ性であることが好ましい。具体的には、本改質剤(X)25重量部と脱イオン水75重量部とからなる混合物のpHは7.0以上11.0以下であり、7.0以上10.5以下が好ましく、7.0以上10.0以下がより好ましい。当該構成によると、得られる改質剤(X)は、分解され難いポリアセタール樹脂組成物を提供でき、すなわち、VOCの発生量がより少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。当該混合物のpHは、7.5以上であってもよく、8.0以上であってもよく、8.0より高くてもよい。当該混合物のpHは、9.5以下であってもよく、9.0以下であってもよい。
【0088】
〔3.ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)の製造方法〕
本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)の製造方法は、リン成分を含むpH調整剤(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体と、アルカリ金属成分(C)とを混合する工程を含み、前記アルカリ金属成分(C)は、(i)グリシジル基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウムおよび(メタ)アクリル酸からなる群から選択される1つ以上を重合して得られた重合体を、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いてけん化して得られる物質、並びに(ii)炭素数10~24の脂肪族カルボン酸とアルカリ金属との塩、からなる群から選択される1つ以上である。
【0089】
「本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)の製造方法」を、以下「本製造方法」と称する場合もある。
【0090】
従来、ゴム含有重合体を含むが、リン成分を含むpH調整剤および/またはアルカリ金属成分を含まない改質剤(以下、従来型改質剤、とも称する。)が知られている。前記従来型改質剤とポリアセタール樹脂とリン成分を含むpH調整剤および/またはアルカリ金属成分とを混合することにより、ゴム含有重合体とリン成分を含むpH調整剤とアルカリ金属成分とを含有するポリアセタール樹脂組成物を得ることができる。しかしながら、本発明者は、従来型改質剤を用いてこのような方法で得られるポリアセタール樹脂組成物では、リン成分を含むpH調整剤とアルカリ金属成分とを、ポリアセタール樹脂中で均一に分散させることができない、という知見を独自に得た。ここで、本製造方法にて得られる改質剤(X)は、ゴム含有グラフト共重合体(D)に加えて、成分(B)およびアルカリ金属成分(C)を含有する。そのため、当該改質剤(X)を後述するポリアセタール樹脂(A)と混合することにより、ゴム含有グラフト共重合体(D)と成分(B)とアルカリ金属成分(C)とが、ポリアセタール樹脂(A)中で均一に分散したポリアセタール樹脂組成物を提供することができる。
【0091】
すなわち、本製造方法は、前記構成を有するため、VOC発生量が少ないポリアセタール樹脂組成物を提供し得る改質剤(X)を提供できるという利点を有する。具体的には、本製造方法にて得られる改質剤(X)は、ポリアセタール樹脂組成物の成形中および成形後のVOC発生量が少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。また、本製造方法にて得られる改質剤(X)は、耐衝撃性に優れる成形体を提供し得るポリアセタール樹脂組成物を提供できるという利点も有する。また、本製造方法にて得られる改質剤(X)は、(a)ポリアセタール樹脂組成物の成形体の高い耐衝撃性と、(b)ポリアセタール樹脂組成物の成形中および成形後のVOC発生量の低減とを、高いレベルで両立できる、という利点も有する。
【0092】
以下、本製造方法の各態様について詳説するが、以下に説明する以外の事項(例えば、ゴム含有グラフト共重合体(D)、成分(B)およびアルカリ金属成分(C)などの各態様)は特に限定されず、上述の〔2.ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)〕の項の説明を適宜援用する。
【0093】
本製造方法の具体的な態様としては、特に限定されないが、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体を調製する調製工程A、並びに、調製工程Aにて得られた凝集体とアルカリ金属成分(C)とを混合する混合工程B、を含むことが好ましい。
【0094】
調製工程Aの具体的な態様としては、特に限定されないが、ゴム含有グラフト共重合体(D)を調製する調製工程A-1、ゴム含有グラフト共重合体(D)に成分(B)を添加する添加工程A-2、並びに、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体を調製する調製工程A-3、をさらに含むことが好ましい。
【0095】
調製工程A-1の具体的な態様としては、特に限定されないが、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法によりゴム含有グラフト共重合体(D)を調製することができる。調製工程A-1では、乳化重合によりゴム含有グラフト共重合体(D)を調製することが好ましい。当該乳化重合により、ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスとして、ゴム含有グラフト共重合体(D)を得ることができる。
【0096】
ゴム含有グラフト共重合体(D)の乳化重合で用いられる界面活性剤としては、特に限定されない。当該界面活性剤としては、(a)以下に例示するような酸類、当該酸類のアルカリ金属塩、または当該酸類のアンモニウム塩などのアニオン性界面活性剤、(b)非イオン性界面活性剤、(c)ポリビニルアルコール、アルキル置換セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸誘導体などが挙げられる。前記酸類としては、(a1)アルキルもしくはアリールスルホン酸、またはアルキルもしくはアリールエーテルスルホン酸、(a2)アルキルもしくはアリール硫酸、またはアルキルもしくはアリールエーテル硫酸、(a3)アルキルもしくはアリール置換リン酸、またはアルキルもしくはアリールエーテル置換リン酸、(a4)N-アルキルもしくはアリールザルコシン酸、(a5)アルキルもしくはアリールカルボン酸、またはアルキルもしくはアリールエーテルカルボン酸、などが挙げられる。界面活性剤の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、およびポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどが挙げられる。ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸と水酸化ナトリウムとを組み合わせて使用することにより、生成されたポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムを界面活性剤として使用してもよい。
【0097】
本明細書において、「リン元素を含む界面活性剤」を、「リン含有界面活性剤」と称する場合もある。調製工程A-1で好適に用いられる、リン含有界面活性剤としては、(a)アルキルもしくはアリール置換リン酸、(b)アルキルもしくはアリールエーテル置換リン酸、(c)アルキルもしくはアリール置換リン酸のアルカリ金属塩、(d)アルキルもしくはアリールエーテル置換リン酸のアルカリ金属塩、(e)アルキルもしくはアリール置換リン酸のアンモニウム塩、および(f)アルキルもしくはアリールエーテル置換リン酸のアンモニウム塩、などを挙げることができる。調製工程A-1では、リン含有界面活性剤を使用する乳化重合により、ゴム含有グラフト共重合体(D)を調製することが好ましい。具体的には、調製工程A-1において、(i)弾性体の重合(調製)またはグラフト部の形成の何れかの工程で、界面活性剤としてリン含有界面活性剤を使用することが好ましく、(ii)弾性体の重合(調製)およびグラフト部の形成の両方の工程で、界面活性剤としてリン含有界面活性剤を使用することがより好ましい。当該構成によると、凝固剤の添加で生じる塩の水溶性は高く、それ故に、当該塩は、水および/または溶剤による洗浄により、製造過程で容易に除去できるという利点を有する。それゆえ、アルカリ土類金属(例えばカルシウム元素)の少ない改質剤(X)を得ることができ、色調に優れる成形体を提供できるポリアセタール樹脂組成物を得ることができる。調製工程A-1で用いられた界面活性剤に含まれるリン元素は、得られる改質剤(X)に含まれるリン元素の由来となり得る。
【0098】
リン含有界面活性剤としては、重合時の安定性が確保できることから、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、および/または、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、および/または、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩がより好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩がさらに好ましい。
【0099】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩のアルキル基は、例えば炭素数1~20のアルキル基であり、炭素数5~18のアルキル基が好ましく、炭素数7~16のアルキル基がより好ましく、炭素数10~16のアルキル基がさらに好ましい。
【0100】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩のオキシエチレン単位のユニット数は、例えば2~14であり、2~10が好ましく、2~8がより好ましく、2~6がさらに好ましい。
【0101】
界面活性剤の使用量としては、特に限定されない。界面活性剤の使用量は、ゴム含有グラフト共重合体(D)100重量部に対して、0.1重量部~5.0重量部が好ましく、0.3重量部~3.0重量部がより好ましく、0.5重量部~2.0重量部がさらに好ましい。
【0102】
調製工程A-1で使用される溶媒としては、乳化重合を安定に進行させるものであればよく、例えば、水等を好適に使用することができる。
【0103】
調製工程A-1において乳化重合が実施される場合、乳化重合時の温度は、重合乳化剤が溶媒に均一に溶解すれば、特に限定されない。乳化重合時の温度は、例えば40~75℃であり、45~70℃が好ましい。
【0104】
添加工程A-2の具体的な態様としては、特に限定されない。調製工程A-1において、乳化重合によりゴム含有グラフト共重合体(D)が調製される場合、添加工程A-2は、ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスに対して成分(B)を添加する工程ともいえる。成分(B)の添加方法としては特に限定されない。例えば、ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスに対して、(a)成分(B)を直接、粉末および/または固体の状態で添加してもよく、(b)成分(B)を含む溶液(例えば水溶液)を別途調製した後、当該溶液を添加してもよい。添加工程A-2は、成分(B)を含む溶液(例えば水溶液)を別途調製した後、ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスに対して、当該水溶液を添加する工程であることが好ましい。当該構成によると、ゴム含有グラフト共重合体(D)に対して、成分(B)を濃度に偏りなく均一に付着させることができる。
【0105】
調製工程A-3の具体的な態様としては、特に限定されないが、例えば、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスを用いて、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体を調製する工程が好適に挙げられる。
【0106】
成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックス中の、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を共に凝集させる方法としては特に限定されず、公知の方法を採用できる。当該方法としては、例えば、化学的方法および物理的方法が挙げられる。化学的方法としては、凝固剤を用いる方法、溶媒を用いる方法、などが挙げられる。物理的方法としては、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスを噴霧する方法などが挙げられる。
【0107】
前記凝固剤としては、無機塩の水溶液、無機酸の水溶液、有機塩の水溶液、有機酸の水溶液、および高分子凝固剤などが挙げられる。無機塩の水溶液としては、アルカリ金属塩の水溶液およびアルカリ土類金属塩の水溶液、などが挙げられる。アルカリ金属塩の水溶液としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、カリウムミョウバンなどが挙げられる。アルカリ土類金属塩の水溶液としては、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、硫酸マグネシウム、酢酸カルシウムなどが挙げられる。凝固剤としては、塩化アルミニウムなど三価価以上の金属塩も使用できる。凝固剤としては、経済的に安価に入手でき、さらに取扱いやすい点から、塩化カルシウム、および塩化マグネシウムが好ましい。凝固剤としては、硫酸マグネシウム、酸化カルシウムおよび酢酸マグネシウムも好ましい。凝固剤として硫酸マグネシウム、酸化カルシウムおよび/または酢酸マグネシウムを使用する場合、得られる改質剤(X)に含まれるハロゲン量を限りなく少なくすることができ、環境負荷の小さい改質剤(X)を得ることができる。
【0108】
本明細書において、水性ラテックス中の成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を共に凝集させて得られる、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体と水性溶媒とを含む混合物を、スラリーとも称する。
【0109】
得られる改質剤(X)の耐ブロッキング性が良好となるため、水性ラテックス中の成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)の凝集は、ブロッキング防止剤の存在下で行われることが好ましい。
【0110】
上述したように、ゴム含有グラフト共重合体(D)に対して成分(B)を添加する時期(タイミング)としては、添加工程A-2を例に挙げて説明した。しかしながら、本製造方法において、ゴム含有グラフト共重合体(D)に対して成分(B)を添加する時期(タイミング)は特に限定されない。成分(B)は、(a)ゴム含有グラフト共重合体(D)の乳化重合中(すなわち調製工程A-1中)に、反応液中に添加されてもよく、(b)凝固剤が添加される前の、ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスに添加されてもよく(すなわち添加工程A-2)、(c)ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスに対して、凝固剤と一緒に添加されてもよく、または(d)凝固剤が添加された後の、ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスに添加されてもよい。
【0111】
調製工程A-3では、溶媒を用いて、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を凝集させることもできる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、アセトン等の水溶性有機溶剤を、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスに添加することにより、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を凝集(析出)させることができる。また、次のような方法により、分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を凝集させることもできる:成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスに、メチルエチルケトン等の若干の水溶性を有する有機溶剤を加えることにより、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を有機溶剤層に抽出し、その後有機溶剤層を分離し、分離した有機溶剤層と水などとを混合して、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を凝集(析出)させる方法。
【0112】
上述したように、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体を得る方法として、調製工程A-1、添加工程A-2および調製工程A-3を例に挙げて説明した。しかしながら、本製造方法において、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体を得る方法は、以下のような工程を順に含む態様であってもよい:ゴム含有グラフト共重合体(D)のみを含む水性ラテックスを用いて、水性ラテックス中のゴム含有グラフト共重合体(D)を凝集させる凝集工程A’-1;得られたゴム含有グラフト共重合体(D)の凝集体と成分(B)とを混合する混合工程A’-2。凝集工程A’-1は、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスに代えて、ゴム含有グラフト共重合体(D)のみを含む水性ラテックスを用いることを除き、好ましい態様を含み、上述した調製工程A-3と同じ態様であってもよい。また、混合工程A’-2において、ゴム含有グラフト共重合体(D)の凝集体と成分(B)とを混合する方法としては、特に限定されない。当該方法としては、例えば、自転公転ミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーなど用いた機械的な混合方法などを挙げることができる。
【0113】
調製工程Aは、スラリーから、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体を回収する回収工程A-4、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体を洗浄する洗浄工程A-5、および/または、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体を脱水する脱水工程A-6をさらに含むことが好ましい。以下、特に言及する場合を除き、「成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体」を、単に「凝集体」とも称する。
【0114】
回収工程A-4としては、スラリーの水性溶媒と凝集体とを分離することができる限り、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。回収工程A-4としては、例えば、スラリーを濾過する方法、スラリーを遠心脱水する方法などが挙げられる。
【0115】
洗浄工程A-5では、凝集体を水で洗浄することがより好ましく、脱イオン水または純水で洗浄することがさらに好ましい。
【0116】
洗浄工程A-5は、凝集体を洗浄する工程であればよく、具体的な方法について特に限定されない。洗浄工程A-5の具体的な方法としては、例えば、凝集体と水とを混合して攪拌機により撹拌する方法、凝集体と水とをニーダーを用いて混練する方法、凝集体と水とを自転公転ミキサーで混合する方法、水を凝集体に噴霧する方法、加圧ろ過機によりケーキ洗浄する方法、などを挙げることができる。ニーダーとしては、バッチ式ニーダー、連続式ニーダー、押出式ニーダー、押出機など、各種利用できる。
【0117】
洗浄の時間は特に限定されず、例えば、1秒間~60分間を挙げることができる。洗浄の時間は、1秒間~45分間であることが好ましく、1秒間~30分間であることがより好ましく、1分間~30分間であることがより好ましく、3分間~30分間であることがさらに好ましく、5分間~30分間であることが特に好ましく、10分間~30分間であることが特に好ましい。
【0118】
洗浄の回数は特に限定されず、複数回実施してもよい。洗浄水の量は特に限定されず、例えば、凝集体1重量部に対して、3重量部以上であることが好ましい。また、ニーダーを用いた凝集体と水との混練により洗浄する場合、洗浄水を少なくできるため、より好ましい。
【0119】
洗浄工程A-5において、洗浄した水を除く方法も限定されず、例えば、洗浄水の払い出し、減圧濾過、油水分離、フィルタープレス、遠心分離、ベルトプレス、スクリュープレス、膜分離、圧搾脱水などの方法を挙げることができる。
【0120】
洗浄する対象物としては、凝集体中に含まれる不純物全般を意図し、特に限定されない。例えば、界面活性剤(例えば、リン系界面活性剤、スルホン酸系界面活性剤)由来の夾雑物のほか、凝固剤を使用する場合には凝固剤由来の夾雑物などを挙げることができる。本製造方法が洗浄工程A-5を有する場合、得られる改質剤(X)は、アルカリ土類金属元素の含有量が非常に少なくなり、その結果、VOC発生量の少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。また、得られる改質剤(X)を含む樹脂組成物は、色調に優れる成形体を提供できる。
【0121】
脱水工程A-5において、凝集体の脱水方法は特に限定されず、減圧濾過、油水分離、フィルタープレス、遠心分離、ベルトプレス、スクリュープレス、膜分離、圧搾脱水などの方法を挙げることができる。
【0122】
混合工程Bにおいて、調製工程Aにて得られた凝集体とアルカリ金属成分(C)とを混合する方法としては、特に限定されない。当該方法としては、例えば、自転公転ミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーなど用いた機械的な混合方法などを挙げることができる。
【0123】
混合工程Bにおいて、凝集体と混合するアルカリ金属成分(C)の状態としては特に限定されず、粉末および/または固体のアルカリ金属成分(C)と凝集体とを混合してもよく、予め調製されたアルカリ金属成分(C)を含む溶液(例えば水溶液)と凝集体とを混合してもよい。混合工程Bでは、予め調製されたアルカリ金属成分(C)を含む水溶液と凝集体とを混合することが好ましい。当該構成によると、凝集体とアルカリ金属成分(C)とを均一に混合することができ、その結果、複数の凝集体間において、凝集体に含まれるアルカリ金属成分(C)の量を均一にすることができる。混合工程Bでは、成分(B)とアルカリ金属成分(C)とゴム含有グラフト共重合体(D)とを含む凝集体、すなわち改質剤(X)を得ることができる。
【0124】
混合工程Bでは、洗浄工程A-5を含む調製工程Aにて得られた凝集体と、アルカリ金属成分(C)とを混合することが好ましい。洗浄工程A-5を含む調製工程Aにて得られた凝集体は、調製工程A-3で使用された凝固剤の含有量が少ない。そのため、凝固剤とアルカリ金属成分(C)との反応を防ぐことができ、その結果、得られる改質剤(X)においてアルカリ金属成分(C)に由来する効果(例えばギ酸捕捉剤としての効果)を十分に享受できる。
【0125】
調製工程Aにおいて得られる凝集体は、水分を含むことが好ましい。当該凝集体の含水率は、凝集体の総重量(100重量%)に対して、3%~70%が好ましく、10%~50%がより好ましく、10%~40%が特に好ましい。混合工程Bでは、上述した範囲内の含水率を有する凝集体とアルカリ金属成分(C)とを混合することが好ましく、上述した範囲内の含水率を有する凝集体と、予め調製されたアルカリ金属成分(C)を含む水溶液とを混合することが特に好ましい。当該構成によると、凝集体とアルカリ金属成分(C)とをより均一に混合することができ、その結果、複数の凝集体間において、凝集体に含まれるアルカリ金属成分(C)の量をより均一にすることができる。なお、凝集体の含水率は、得られた凝集体を、120℃のオーブンにて1時間乾燥させ、乾燥前後の重量を比較することにより、測定できる。
【0126】
本製造方法は、混合工程Bにて得られた、成分(B)とアルカリ金属成分(C)とゴム含有グラフト共重合体(D)とを含む凝集体を乾燥する工程をさらに有していてもよい。下記の乾燥工程の説明において、「凝集体」は、「リン成分を含むpH調整剤(B)とアルカリ金属成分(C)とゴム含有グラフト共重合体(D)とを含む凝集体」を意図する。
【0127】
乾燥工程の具体的な態様としては、特に限定されず、乾燥機を用いて凝集体を乾燥する方法、容器内に凝集体を仕込み当該容器内を加熱減圧する方法、容器内に凝集体を仕込み当該容器内で乾燥ガスと凝集体とを向流接触させる方法、などが挙げられる。
【0128】
乾燥工程における乾燥温度、例えば乾燥機内の温度、または乾燥ガスの温度、としては特に限定されない。乾燥工程における乾燥温度は、例えば、90℃未満が好ましく、80℃未満がより好ましく、70℃未満がより好ましく、60℃未満がより好ましく、50℃未満がより好ましく、40℃未満がさらに好ましい。
【0129】
本発明の他の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体(D)を含むポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)であり、前記ゴム含有グラフト共重合体(D)はさらにアルカリ金属元素を含む。当該アルカリ金属元素の含有量は、本発明の他の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、0.010重量%~0.300重量%である。本発明の他の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、当該ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、さらに、リン元素を0.010重量%~0.300重量%含有する。本発明の他の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、当該ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)25重量部と脱イオン水75重量部とからなる混合物のpHが7.0以上11.0以下である。
【0130】
本発明の他の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、前記構成を有するため、VOC発生量が少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できるという利点を有する。具体的には、本発明の他の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、ポリアセタール樹脂組成物の成形中および成形後のVOC発生量が少ないポリアセタール樹脂組成物を提供できる。また、本発明の他の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、耐衝撃性に優れる成形体を提供し得るポリアセタール樹脂組成物を提供できるという利点も有する。また、本発明の他の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、(a)ポリアセタール樹脂組成物の成形体の高い耐衝撃性と、(b)ポリアセタール樹脂組成物の成形中および成形後のVOC発生量の低減とを、高いレベルで両立できる、という利点も有する。また、本発明の他の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、色調に優れる成形体を提供し得るポリアセタール樹脂組成物を提供することもできる。
【0131】
本発明の他の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、アルカリ金属成分(C)の代わりに、ゴム含有グラフト共重合体(D)がアルカリ金属元素を含むこと以外は、上述した本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)と同じ構成を有する。
【0132】
本発明の他の一実施形態において、アルカリ金属元素を含むゴム含有グラフト共重合体(D)の製造方法としては特に限定されない。例えば、上述した調製工程A-1に基づき製造されたゴム含有グラフト共重合体(D)を、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いてけん化することにより、アルカリ金属元素を含むゴム含有グラフト共重合体(D)を得ることができる。
【0133】
上述した以外の、本発明の他の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)に関する態様は特に限定されず、上述した本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)に関する説明を適宜援用する。
【0134】
上述した本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)の構成と、本発明の他の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)の構成とを、組み合わせて得られる構成もまた、本発明の一実施形態である。例えば、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体(D)を含むポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)であって、さらにアルカリ金属成分(C)を含み、前記アルカリ金属成分(C)は、(i)構成単位として、グリシジル基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウムおよび(メタ)アクリル酸からなる群から選択される1つ以上の化合物に由来する構成単位を有する重合体を、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いてけん化して得られる物質、並びに(ii)炭素数10~24の脂肪族カルボン酸とアルカリ金属との塩、からなる群から選択される1つ以上であり、前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)100重量%中、さらに、リン元素を0.010重量%~0.300重量%、および、アルカリ金属元素を0.010重量%~0.300重量%含有し、前記ゴム含有グラフト共重合体(D)はさらにアルカリ金属元素を含み、前記ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)25重量部と脱イオン水75重量部とからなる混合物のpHが7.0以上11.0以下である、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)、もまた本発明の一実施形態である。
【0135】
〔4.ポリアセタール樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物は、〔2.ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)〕に記載のポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)およびポリアセタール樹脂(A)を含む。
【0136】
「ポリアセタール樹脂組成物」を、以下「樹脂組成物」と称する場合もある。「本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物」を、以下「本樹脂組成物」と称する場合もある。本樹脂組成物を成形(例えば射出成形)することにより、ポリアセタール樹脂の成形体を製造できる。
【0137】
本樹脂組成物は、前記構成を有するため、VOC発生量が少ないという利点を有する。より具体的には、本樹脂組成物は、前記構成を有するため、当該樹脂組成物の成形中および成形後に発生するVOCの発生量が少ない、という利点を有する。また、本樹脂組成物は、前記構成を有するため、得られる成形体の靱性と得られる成形体の弾性と樹脂組成物の成形性とのバランスに優れるものである。
【0138】
(4-1.ポリアセタール樹脂(A))
ポリアセタール樹脂(A)とは、オキシメチレン基(-CH2O-)を主たる構成単位(例えば、全構成単位100モル%中、50モル%以上を占める構成単位)とする高分子化合物である。本発明の一実施形態に用いられるポリアセタール樹脂(A)としては特に限定されない。ポリアセタール樹脂(A)は、(a)2価のオキシメチレン基のみを構成単位として含む単独重合体であってもよく、(b)2価のオキシメチレン基と、炭素数が2以上の2価のオキシアルキレン基とを構成単位として含む共重合体であってもよい。
【0139】
2価のオキシアルキレン基は、炭素数が2~6であることが好ましい。炭素数が2~6のオキシアルキレン基としては、例えばオキシエチレン基、オキシプロピレン基、および、オキシブチレン基などが挙げられる。
【0140】
ポリアセタール樹脂(A)が共重合体である場合、ポリアセタール樹脂(A)における、炭素数2~6のオキシアルキレン基の割合は特に限定されない。ポリアセタール樹脂(A)においては、当該ポリアセタール樹脂(A)におけるオキシメチレン基および炭素数2~6のオキシアルキレン基の総モル数100モル%中、炭素数2~6のオキシアルキレン基のモル数が0.5モル%~10.0モル%であることが好ましい。
【0141】
ポリアセタール樹脂(A)としては、市販品も使用できる。ポリアセタール樹脂(A)の市販品としては、例えば、(a)単独重合体の市販品である、商品名「デルリン」(米国デュポン社製)および商品名「テナック4010」(旭化成株式会社製)など;並びに(b)オキシメチレン基とオキシメチレン基以外の他のコモノマーに由来する構成単位とを有するポリアセタール樹脂(ポリアセタール共重合体)の市販品である商品名「ホスタフォーム」(Ticona社製)、「ユピタール」(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)、および商品名「ジュラコン」(ポリプラスチックス株式会社製)などを挙げることができる。
【0142】
ポリアセタール樹脂組成物中の、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)とポリアセタール樹脂(A)との重量比は特に限定されない。ポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)とポリアセタール樹脂(A)と合計量を100重量%として、(i)ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)3重量%~40重量%およびポリアセタール樹脂(A)60重量%~97重量%含むことが好ましく、(ii)ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)5重量%~30重量%およびポリアセタール樹脂(A)70重量%~95重量%含むことがより好ましく、(iii)ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)10重量%~30重量%およびポリアセタール樹脂(A)70重量%~90重量%含むことがより好ましく、(iv)ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)15重量%~30重量%およびポリアセタール樹脂(A)70重量%~85重量%含むことがさらに好ましく、(v)ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)20重量%~30重量%およびポリアセタール樹脂(A)70重量%~80重量%含むことが特に好ましい。
【0143】
ポリアセタール樹脂組成物中における、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)に含まれるゴム含有グラフト共重合体(D)とポリアセタール樹脂(A)との重量比(ゴム含有グラフト共重合体(D)/ポリアセタール樹脂(A))は、3/100以上が好ましく、4/100以上がより好ましく、5/100以上がさらに好ましい。前記重量比の上限は、例えば40/100以下が好ましく、30/100以下がより好ましく、25/100以下がさらに好ましい。前記重量比が3/100以上である場合、得られるポリアセタール樹脂組成物は、優れた耐衝撃性を有する成形体を提供できる。前記重量比が40/100以下である場合、得られるポリアセタール樹脂組成物の押出が容易になるという利点を有する。
【0144】
(4-2.酸化防止剤)
本樹脂組成物は、本発明の一実施形態に係る効果を損なわない範囲において、酸化防止剤を含有することができる。酸化防止剤としてはヒンダートフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤などが挙げられる。
【0145】
ヒンダートフェノール系酸化防止剤としては、例えば、n-オクタデシル-3-(3',5'-ジ-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3'-メチル-5'-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-テトラデシル-3-(3',5'-ジ-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、1,6-ヘキサンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、1,4-ブタンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[メチレン-3-(3',5'-ジ-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、などが挙げられる。
【0146】
ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、例えば、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、メチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-N-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、N,N‘-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-N,N’-ジホルミルヘキサメチレンジアミン、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン-2,4-ビス[N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ]-6-クロロ-1,3,5-トリアジン縮合物、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミン)・N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミン重縮合物、オレフィン(C20-C24)・無水マレイン酸-4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン共重合物、などが挙げられる。
【0147】
本樹脂組成物は、上述した酸化防止剤の中から一種のみを単独で含んでいてもよく、二種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0148】
(4-3.その他添加剤)
本樹脂組成物は、必要に応じて、前述した成分以外の、その他添加剤をさらに含有してもよい。その他添加剤としては、染料、顔料、安定剤、補強剤、充填剤、難燃剤、発泡剤、滑剤、可塑剤などのその他添加剤を含んでいてもよい。換言すれば、本樹脂組成物に対して、必要に応じて、上述したその他添加剤を配合してもよい。
【0149】
(4-4.ポリアセタール樹脂組成物の製造方法)
本樹脂組成物の製造方法は、特に限定されない。例えば、本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)と、ポリアセタール樹脂(A)と、必要に応じて酸化防止剤およびその他添加剤とを混合し、得られた混合物を溶融混練することにより、本樹脂組成物を得ることができる。
【0150】
本樹脂組成物の製造方法において、原料の混合には、ヘンシェルミキサーやタンブラーミキサーなどが利用でき、得られた混合物の溶融混練には、単軸または二軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、ミキシングロールなどの混練機を利用することができる。
【0151】
(4-5.用途)
本樹脂組成物は、電気・電子用途、車輌用途、産業機器用途など、各種用途に好適に利用することができる。本樹脂組成物は、例えば、AV機器の駆動部のメカ部品、食器洗い乾燥機のハンドル、スピーカーグリル、洗濯槽撹拌用のプロペラ、OA機器のスイッチ、ギア類、自動車のワイパーモーターシステムギア、レギュレーターハンドル、インナードアハンドル、ドアロックサイドカバー、シフトレバー、ヒーターファン、パイプホルダー、パワーウインドレギュレーター、シートベルト、パワーシートギア、サンルーフ、クリップ、ファスナ、産業機器の搬送機のスクリュー、ベルトコンベア、チェーン、トルクリミッター、などに好適に利用することができる。
【実施例】
【0152】
以下、実施例および比較例によって本発明の一実施形態をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の一実施形態は、前記または後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することが可能であり、それら変更された実施形態はいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお下記実施例および比較例において「部」および「%」とあるのは、それぞれ、「重量部」または「重量%」を意味する。
【0153】
<成分>
各製造例、実施例および比較例において使用した各成分は、以下の通りである。
・ゴム含有グラフト共重合体(D)
以下に示す製造例で得られたゴム含有グラフト共重合体(D)を使用した。
・リン成分を含むpH調整剤(B)
(B-1):リン酸水素2ナトリウム
(B-2):リン酸と水酸化ナトリウムとの、モル比(リン酸:水酸化ナトリウム)が1:3.5の混合物
・凝固剤
(D-1)塩化カルシウム
(D-2)塩化マグネシウム
(D-3)酢酸カルシウム
・アルカリ金属成分(C)
(C-1)パルミチン酸カリウム
(C-2)オレイン酸ナトリウム
・ポリアセタール樹脂(A)
ホスタフォルムC9021(セラニーズ社製)。
【0154】
<測定方法>
先ず、実施例および比較例における測定方法について、以下説明する。
【0155】
(体積平均粒子径の測定方法)
水性ラテックスに分散している弾性体またはゴム含有グラフト共重合体(D)の体積平均粒子径(Mv)は、Nanotrac WaveII-EX150(マイクロトラックベル株式会社製)を用いて測定した。脱イオン水で水性ラテックスを希釈したものを測定試料として用いた。測定は、水、および、各製造例で得られた弾性体または重合体微粒子(A)の屈折率を入力し、計測時間120秒、ローディングインデックス1~10の範囲内になるように試料濃度を調整して行った。
【0156】
(凝集体の含水率の測定方法)
凝集体を120℃のオーブンにて1時間乾燥させ、乾燥前後の凝集体の重量を測定し、その結果から凝集体の含水量を測定した。得られた含水量を用い、凝集体の総重量(100重量%)を基準として凝集体の含水率を算出した。
【0157】
(改質剤(X)の元素含有量の測定方法)
(リン、カリウム、マグネシウム、塩素および硫黄について)
各実施例および比較例にて得られた改質剤(X)を4.0g量り取った。当該改質剤(X)について、理学電機工業株式会社製のエネルギー分散型蛍光X線装置「SPECTRO XEPOS」にて、リン元素、カリウム元素、マグネシウム元素、塩素元素の量を測定した。得られた結果は、改質剤(X)100重量%に対する各元素の重量%で表示した。また、0.001%未満の量の元素含有量については、結果に示していない。改質剤(X)における元素含有量が0.001%未満である元素は、本発明の一実施形態に係る効果に影響を与えないといえる。
【0158】
(ナトリウムおよびカルシウムについて)
各実施例および比較例にて得られた改質剤(X)0.1gを分解容器に量り取り、当該容器に硫酸を入れ、マイクロウエーブ(湿式分解)を使用して、容器内の改質剤(X)を分解した。分解した改質剤(X)の冷却後、前記容器に硝酸を入れ、再度、容器内の改質剤(X)をマイクロウエーブで処理した。その後、容器内の溶液を、蒸留水で50mlにメスアップし、得られた50mlの溶液を検液とした。当該検液について、ICP発光分析装置(ICPS-7510:島津社製)を用いて、カルシウム元素及びナトリウム元素の量を定量し、改質剤(X)100重量%に対する重量%で結果を表示した。
【0159】
(改質剤(X)と脱イオン水との混合物pHの測定方法)
各実施例および比較例にて得られた改質剤(X)25部と、脱イオン水75部とを混合し、得られた混合液を30分間、撹拌した。得られた混合液のpHを、25℃において、pH計を使用して測定した。
【0160】
(耐衝撃性の測定方法)
得られた1/8インチの成形体を用いて、ISO 179に準じて、23℃の1/8インチノッチ付きシャルピー衝撃強度を測定した。なお、成形体のシャルピー衝撃強度(Charpy(r.t.))の値が大きいほど、当該成形体が耐衝撃性に優れることを意味する。
【0161】
(引張破断伸びの測定方法)
ISO 527-2/1Аで規定される形状の成形体を使用して、ISO 527-2/1Аに準じて、23℃の引張破断伸び(%)を測定した。なお、成形体の引張破断伸び(%)の値が大きいほど、当該成形体が引張破断伸びに優れることを意味する。
【0162】
(平板試験片の作製方法)
実施例12~25および比較例5~10で得られたポリアセタール樹脂組成物のペレットを90℃にて、5時間乾燥した。その後、三菱重工社製の射出成形機160MSP-10を用い、シリンダー温度205℃および金型温度70℃にて、乾燥後のペレットを射出成形し、100mm×40mm×2mmの平板試験片(成形体)を作製した。
【0163】
(ホルムアルデヒド発生量の測定方法)
得られた平板試験片(成形体)を23℃および50%RHにて、7日間養生した。その後、当該平板試験片について、ドイツ自動車工業組合規格VDA275(自動車室内部品-改訂フラスコ法によるホルムアルデヒド放出量の定量)に記載された方法に準拠して、下記の方法によりホルムアルデヒド発生量(mg/kg)を測定した。
(i)ポリエチレン容器中に蒸留水50mlを入れ、かつ前記平板試験片を空中に吊るした状態で当該ポリエチレン容器中に入れ、ポリエチレン容器の蓋を閉めた。その後、当該ポリエチレン容器を密閉状態で60℃にて3時間加熱した。
(ii)続いて室温で60分間、ポリエチレン容器を放置した後、ポリエチレン容器から平板試験片を取り出した。
(iii)ポリエチレン容器内の蒸留水中に吸収されたホルムアルデヒド量を、当該蒸留水を試料してUVスペクトロメーターにより、アセチルアセトン比色法で測定した。得られたホルムアルデヒド量を平板試験片中のポリアセタール樹脂(A)の重量で除した値をホルムアルデヒド発生量(VDA275)とした。
【0164】
(色調)
得られた平板試験片(成形体)について、JIS K8722規格に準じ、日本電色工業社製の色差計(型式:SE-2000)を用いて、色調(YI)を測定した。なお、成形体の色調(YI)の値が小さいほど、当該成形体は黄色味が抑えられていることを意味し、すなわち色調に優れることを意味する。
【0165】
次に、各製造方法、並びに、各実施例および各比較例について、以下説明する。
【0166】
<ゴム含有グラフト共重合体(D)の調製>
[合成例1]ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスの合成
(製造例1a;弾性体(1a)の調製)
撹拌機を備えた耐圧重合器中に、脱イオン水200部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩(EDTA)0.010部、硫酸第一鉄0.0012部、および、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム0.03部を投入した。
【0167】
次に、投入した原料を撹拌しつつ、耐圧重合器内部の気体を窒素置換することにより、耐圧重合器内部から酸素を十分に除いた。その後、ブタジエン(Bd)100部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.05部およびパラメンタンハイドロパーオキサイド(PHP)0.2部を耐圧重合器内に添加した。その後、界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム1.4部を、耐圧重合器内に6時間かけて滴下した。その後、耐圧重合器内の反応溶液を、pH6.5~7.5において、50℃で24時間保持して、重合を行い、ブタジエンゴムの弾性体(1a)を得た。単量体成分の重合転化率は98重量%であった。得られた弾性体(1a)の体積平均粒子径は140nmであった。
【0168】
(製造例1b;ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックス(A-1)の調製)
ガラス製反応器に、ブタジエンゴムの弾性体(1a)の固形分78部および脱イオン水150部を投入した。ここで、前記ガラス製反応器は、温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、および単量体の添加装置を有していた。ガラス製反応器中の気体を窒素で置換しながら、投入した原料を60℃にて撹拌した。次に、単量体成分として、メチルメタクリレート(MMA)19.8部およびブチルアクリレート(BA)2.2部の混合物を、1時間にわたってガラス製反応器内に添加した。前記単量体成分(すなわちMMAおよびBA)の添加と同時に、t-ブチルハイドロパーオキサイド(BHP)0.07部およびSFS0.1部のガラス製反応器内への添加を開始した。ここで、BHPおよびSFSの添加について、ガラス製反応器内の反応溶液の温度を約60℃に保ちながら2時間かけてBHPおよびSFSの全量を添加した。さらに、ガラス製反応器内の反応溶液を、約60℃で1時間保持して、重合を行い、ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックス(A-1)を得た。得られた水性ラテックスに含まれるゴム含有グラフト共重合体(D)の体積平均粒子径は150nmであった。
【0169】
[合成例2]ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスの合成
(製造例2a;弾性体(2a)を含む水性ラテックスの調製)
撹拌機を備えた耐圧重合器中に、窒素を吹き込みながら、脱イオン水100部、および、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム0.014部を投入した。次に、投入した原料を撹拌しつつ、耐圧重合器内部の気体を窒素置換することにより、耐圧重合器内部から酸素を十分に除いた。その後、耐圧容器内の溶液の温度を50℃まで昇温した。その後、BA8.5部、アリルメタクリレート0.04部およびBHP0.002部を、耐圧容器内に一度に添加した。その後、EDTA0.002部、硫酸第一鉄0.0012部、およびナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートSFS0.05部を、耐圧容器内に添加した。その後、1時間かけて重合を行った。その後、界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム0.68部、BA64.5部、アリルメタクリレート0.32部およびBHP0.02部の混合物を、耐圧容器内に210分かけて添加した。その後、耐圧重合器内の反応溶液を、50℃で45分間保持して、重合を行い、弾性体(2a)を含む水性ラテックスを得た。単量体成分の重合転化率は98重量%であった。得られた水性ラテックスに含まれる弾性体の体積平均粒子径は180nmであった。
【0170】
(製造例2b;ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックス(A-2)の調製)
ガラス製反応器に、弾性体(2a)の固形分73部および脱イオン水150部を投入した。ここで、前記ガラス製反応器は、温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、および単量体の添加装置を有していた。ガラス製反応器中の気体を窒素で置換しながら、投入した原料を50℃にて撹拌した。次に、単量体成分として、MMA25.3部およびBA1.7部の混合物を、1時間にわたってガラス製反応器内に添加した。前記単量体成分(すなわちMMAおよびBA)の添加と同時に、BHP0.0125部のガラス製反応器内への添加を開始した。BHPの添加終了後、ガラス製反応器内の反応溶液の温度を50℃で1時間保持して、重合を行い、ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックス(A-2)を得た。得られた水性ラテックスに含まれるゴム含有グラフト共重合体(D)の体積平均粒子径は200nmであった。
【0171】
[合成例3]ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックス(A-3)の合成
(製造例3a;弾性体(3a)の調製)
ガラス製反応器に、脱イオン水155部、および界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム0.022部を投入した。ここで、前記ガラス製反応器は、温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、および単量体の添加装置を有していた。ガラス製反応器中の気体を窒素で置換しながら、投入した原料を50℃にて撹拌した。次に、単量体成分として、BA8.5部およびアリルメタクリレート0.0425部の混合物と、BHP0.0017部と、をガラス製反応器内へ添加した。ガラス製反応器内の混合物を10分撹拌後、EDTA0.0056部、硫酸第一鉄0.0014部、およびSFS0.2部をガラス製反応器内に添加して重合反応を開始し、1時間かけて重合を行った。
【0172】
その後、BA64.5部、アリルメタクリレート0.32部、およびBHP0.02部の混合物を、ガラス製反応器内へ180分かけて添加した。当該混合物を添加しながら、ラテックスの安定性を確保するために、界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウムを随時適量ガラス製反応器内に添加した。当該混合物の添加終了時点から15分後、BHP0.015部をガラス製反応器内に添加した。BHPの添加終了時点から更に30分間重合を行い、弾性体(3a)を得た。
【0173】
(製造例3b;ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックス(A-3)の調製)
その後、弾性体(3a)を含む前記ガラス製反応器内に、MMA25.3部、BA1.7部、BHP0.0125部の混合物を、95分かけて添加した。当該混合物を添加しながら、ラテックスの安定性を確保するために、界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウムを随時適量ガラス製反応器内に添加した。当該混合物の添加終了時点から15分後、BHP0.015部をガラス製反応器内に添加した。BHPの添加終了時点から15分後、BHP0.015部をガラス製反応器内に添加した。BHPの添加終了時点から30分間重合することで、ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックス(A-3)を得た。単量体成分の重合転化率は100重量%であった。得られた水性ラテックスに含まれるゴム含有グラフト共重合体(D)の体積平均粒子径は260nmであった。
【0174】
<ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)の調製>
(実施例1)
ゴム含有グラフト共重合体(D)の固形分100部を含む水性ラテックス(A-1)に対して、(a)フェノール系の抗酸化剤であるIRGANOX-1076〔n-オクタデシル-3-(3’,5’,ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕3部、および(b)成分(B)としてリン酸水素2ナトリウム(B-1)0.05部を添加した。その後、凝固剤として塩化カルシウムの水溶液を用いて、凝析を行い、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体を含むスラリーを得た。得られたスラリーから凝集体を回収し、凝集体の固形分100部に対し2000部の脱イオン水を使用して凝集体を水洗し、さらに凝集体を脱水した。かかる操作により、凝集体の総重量(100重量%)に対して含水率が33%である、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体を得た。その後、得られた凝集体の固形分100部に対して、アルカリ金属成分(C)としてパルミチン酸カリウム(C-1)0.25部を、凝集体に添加し、混合した。アルカリ金属成分(C)であるパルミチン酸カリウムは、水溶液の状態で使用した。得られた凝集体を乾燥し、成分(B)、アルカリ金属成分(C)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含むポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)(実施例1)を得た。得られた改質剤(X)について、元素含有量およびpHを測定し、その結果を表1に示した。
【0175】
(実施例2~11および比較例1~3)
実施例2~11および比較例1~3では、ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックス、成分(B)、凝固剤およびアルカリ金属成分(C)を、表1および2に記載の通り変更した以外は、全て実施例1と同じ操作により、凝集体の総重量(100重量%)に対して含水率が33%である、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)を調製した。得られた各改質剤(X)について、元素含有量およびpHを測定し、その結果を表1および2に示した。
【0176】
(比較例4)
比較例4では、得られた凝集体を洗浄しないこと以外は全て比較例3と同じ操作により、凝集体の総重量(100重量%)に対して含水率が33%である、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)を調製した。得られた改質剤(X)について、元素含有量およびpHを測定し、その結果を表2に示した。
【0177】
【0178】
【0179】
<ポリアセタール樹脂組成物および成形体の調製>
(実施例12~25および比較例5~10)
実施例1~11および比較例1~4にて得られた、各改質剤(X)とポリアセタール樹脂(A)とを、表3および表4に示す配合比でドライブレンドした。得られたブレンド物を、スクリュー径25mmの2軸押出機(テクノベル社製、KZW25TW)を用いて加工温度200℃でペレット化し、ペレット状のポリアセタール樹脂組成物を得た。
【0180】
続いて、得られたペレット(ポリアセタール樹脂組成物)を、90℃にて5時間乾燥した。その後、ファナック社製射出成形機100Bを用い、シリンダー温度200℃かつ金型温度70℃にて、乾燥後のポリアセタール樹脂組成物のペレットを射出成形し、1/8インチの成形体を作製した。得られた1/8インチの成形体を使用して耐衝撃性を測定した。また、得られたペレット(ポリアセタール樹脂組成物)を用いて、上述した方法で平板試験片を作製し、当該平板試験片を使用してホルムアルデヒド発生量および色調を測定した。これらの結果を表3および4に示す。
【0181】
【0182】
【0183】
表3および表4に示すように本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、当該改質剤(X)とポリアセタール樹脂(A)とを混合することにより、(a)VOC発生量(ホルムアルデヒド発生量)が少なく、(b)耐衝撃性および色調が良好である成形体を提供できる、ポリアセタール樹脂組成物を提供できる、ことが分かる。
【0184】
<ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)の調製>
(実施例26)
ゴム含有グラフト共重合体(D)の固形分100部を含む水性ラテックス(A-1)に対して、(a)フェノール系の抗酸化剤であるIRGANOX-1076〔n-オクタデシル-3-(3’,5’,ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕3部、および(b)成分(B)としてリン酸水素2ナトリウム(B-1)0.05部を添加した。その後、凝固剤として塩化カルシウムの水溶液を用いて、凝析を行い、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体を含むスラリーを得た。得られたスラリーから凝集体を回収し、凝集体の固形分100部に対し2000部の脱イオン水を使用して凝集体を水洗し、さらに凝集体を脱水した。かかる操作により、凝集体の総重量(100重量%)に対して含水率が33%である、成分(B)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含む凝集体を得た。その後、得られた凝集体の固形分100部に対して、アルカリ金属成分(C)としてパルミチン酸カリウム(C-1)0.25部を、凝集体に添加し、混合した。アルカリ金属成分(C)であるパルミチン酸カリウムは、水溶液の状態で使用した。得られた凝集体を乾燥し、成分(B)、アルカリ金属成分(C)およびゴム含有グラフト共重合体(D)を含むポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)(実施例26)を得た。得られた改質剤(X)について、元素含有量およびpHを測定し、その結果を表5に示した。
【0185】
(実施例27~29)
実施例27~29では、アルカリ金属成分(C)を表5に記載の通り変更した以外は、全て実施例26と同じ操作により、凝集体の総重量(100重量%)に対して含水率が33%である、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)を調製した。得られた各改質剤(X)について、元素含有量およびpHを測定し、その結果を表5に示した。
【0186】
(比較例11)
比較例11では、凝集体の固形分100部に対し500部の脱イオン水を使用して凝集体を水洗したこと以外は全て実施例26と同じ操作により、凝集体の総重量(100重量%)に対して含水率が33%である、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)を調製した。得られた改質剤(X)について、元素含有量およびpHを測定し、その結果を表5に示した。
【0187】
(実施例30および比較例12)
実施例30および比較例12では、ゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックスおよびアルカリ金属成分(C)を、表5に記載の通り変更した以外は、全て実施例26と同じ操作により、凝集体の総重量(100重量%)に対して含水率が33%である、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)を調製した。得られた各改質剤(X)について、元素含有量およびpHを測定し、その結果を表5に示した。
【0188】
(比較例13)
比較例13では、(a)アルカリ金属成分(C)を表5に記載の通り変更し、かつ(b)凝集体の固形分100部に対し500部の脱イオン水を使用して凝集体を水洗したこと以外は全て実施例26と同じ操作により、凝集体の総重量(100重量%)に対して含水率が33%である、ポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)を調製した。得られた改質剤(X)について、元素含有量およびpHを測定し、その結果を表5に示した。
【0189】
【0190】
<ポリアセタール樹脂組成物および成形体の調製>
(実施例31~35および比較例14~16)
実施例26~30および比較例11~13にて得られた、各改質剤(X)とポリアセタール樹脂(A)とを、表6に示す配合比でドライブレンドした。得られたブレンド物を、スクリュー径25mmの2軸押出機(テクノベル社製、KZW25TW)を用いて加工温度200℃でペレット化し、ペレット状のポリアセタール樹脂組成物を得た。
【0191】
続いて、得られたペレット(ポリアセタール樹脂組成物)を、90℃にて5時間乾燥した。その後、ファナック社製射出成形機100Bを用い、シリンダー温度200℃かつ金型温度70℃にて、乾燥後のポリアセタール樹脂組成物のペレットを射出成形し、1/8インチの成形体を作製した。得られた成形体を使用し、耐衝撃性を測定した。また、得られたペレット(ポリアセタール樹脂組成物)を用いてISO 527-2/1Аで規定される形状の成形体を作製し、得られた成形体使用して引張破断伸びを測定した。さらに、得られたペレット(ポリアセタール樹脂組成物)を用いて、上述した方法で平板試験片を作製し、当該平板試験片を使用してホルムアルデヒド発生量および色調を測定した。これらの結果を表6に示す。
【0192】
【0193】
表5および6に示すように本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)は、当該改質剤(X)とポリアセタール樹脂(A)とを混合することにより、(a)VOC発生量(ホルムアルデヒド発生量)が少なく、(b)耐衝撃性および色調が良好である成形体を提供できる、ポリアセタール樹脂組成物を提供できる、ことが分かる。
【0194】
実施例31~34(実施例26~29)を各々比較し、かつ比較例14および16(比較例11および13)を比較する。これらの比較から、以下(a)および(b)が分かる:(a)カリウム元素含有量が改質剤(X)100重量%中0.010重量%以上である場合、カリウム元素含有量が増えるほど、成形体のVOCの発生量が減少すること、および(b)カリウム元素含有量が改質剤(X)100重量%中0.010重量%~0.020重量%の範囲に近づくほど、成形体の引張破断伸びが優れること。
【0195】
また、実施例31(実施例26)と比較例14(比較例11)とを比較する。実施例26の改質剤(X)と比較例11の改質剤(X)とは、それぞれアルカリ金属成分(C)を同量使用して得られた改質剤(X)であり、カリウム元素含有量がほぼ同じであるが、塩素元素含有量が大きく異なる。塩素元素含有量が相対的に多い比較例11の改質剤(X)は、塩素元素含有量が相対的に少ない実施例26の改質剤(X)よりも、pHが低く、弱酸性である。その結果、比較例14のポリアセタール樹脂組成物の成形体は、実施例31のポリアセタール樹脂組成物の成形体よりも、VOC発生量が著しく多く、引張破断伸びが劣り、かつ色調も劣る。
【0196】
また、実施例35(実施例30)と比較例15(比較例12)とを比較する。実施例30の改質剤(X)と比較例12の改質剤(X)とは、どちらもゴム含有グラフト共重合体(D)を含む水性ラテックス(A-3)を用いて得られた改質剤である。すなわち、どちらの改質剤(X)に含まれているゴム含有グラフト共重合体(D)も、アクリル樹脂の弾性体(コア層)を有する。実施例30の改質剤(X)はアルカリ金属成分(C)を使用して得られた改質剤であるが、比較例12の改質剤(X)はアルカリ金属成分(C)を使用することなく得られた改質剤である。その結果、実施例35のポリアセタール樹脂組成物の成形体は、比較例15のポリアセタール樹脂組成物の成形体よりも、VOC発生量が著しく低い。
【産業上の利用可能性】
【0197】
本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)を用いたポリアセタール樹脂組成物は、電気電子用途、自動車部品用途、産業機器用途に好適に利用することができる。本発明の一実施形態に係るポリアセタール樹脂用耐衝撃改質剤(X)を用いたポリアセタール樹脂組成物は、例えば、AV機器の駆動部メカ部品、食器洗い乾燥機ハンドル、スピーカーグリル、洗濯槽撹拌用プロペラ、OA機器スイッチ、ギア類、自動車のワイパーモーターシステムギア、レギュレーターハンドル、インナードアハンドル、ドアロックサイドカバー、シフトレバー、ヒーターファン、パイプホルダー、パワーウインドレギュレーター、シートベルト、パワーシートギア、サンルーフ、クリップ、ファスナ、産業機器の搬送機スクリュー、ベルトコンベア、チェーン、トルクリミッター等に好適に利用することができる。