(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】車両データ演算方法及び車両データ演算システム
(51)【国際特許分類】
G06F 9/50 20060101AFI20241227BHJP
【FI】
G06F9/50 150Z
(21)【出願番号】P 2020188659
(22)【出願日】2020-11-12
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中根 裕介
【審査官】田中 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-120526(JP,A)
【文献】特開2004-38766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両において収集されるデータに基づいて車載コンピュータにより所定の演算処理を実行する車両データ演算方法であって、
前記車両の状態に応じて前記車載コンピュータが実行すべき前記演算処理を、現在求められている前記車両の機能を実現するために要求される第1演算種別と、前記第1演算種別以外の第2演算種別と、に分類する演算種分類工程と、
前記車両の状態が前記演算処理に係る演算量の大きい高演算負荷状態である場合に実行する高演算負荷時工程と、
前記車両の状態が前記演算処理に係る演算量の小さい低演算負荷状態である場合に実行する低演算負荷時工程と、を含み、
前記高演算負荷時工程では、前記第1演算種別に含まれる第1演算を実行するとともに前記第2演算種別に含まれる第2演算の実行に用いる演算データを所定の記憶領域に記憶させ、
前記低演算負荷時工程では、前記記憶領域に記憶された前記演算データに基づいて前記第2演算を実行
し、
前記高演算負荷時工程では、
該高演算負荷時工程の後の前記低演算負荷時工程において前記第2演算を実行する条件としての第2演算実行条件を満たすか否かを判定し、
前記低演算負荷時工程では、
前記第2演算実行条件が満たされると判断された場合に前記第2演算を実行する、
車両データ演算方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両データ演算方法であって、
前記演算種分類工程では、
予め定められた前記第1演算種別及び前記第2演算種別の項目を参照することで、実行すべき前記演算処理が前記第1演算及び前記第2演算の何れに該当するかを判断する、
車両データ演算方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両データ演算方法であって、
前記車両のシステムが稼働している場合に、前記車両の状態が前記高演算負荷状態であると判断し、
前記車両のシステムが休止している場合に、前記車両の状態が前記低演算負荷状態であると判断する、
車両データ演算方法。
【請求項4】
請求項
1~3の何れか1項に記載の車両データ演算方法であって、
前記第2演算実行条件は、前記低演算負荷状態中の演算の実行による消費電力量が、前記低演算負荷状態中に前記車両で確保可能な電力量を下回ることを含む、
車両データ演算方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の車両データ演算方法であって、
前記車両で確保可能な電力量を、
前記低演算負荷状態が開始されるタイミングの車載バッテリの充電電力量の推定値に基づいて定める、
車両データ演算方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の車両データ演算方法であって、
前記充電電力量の推定値を、
前記高演算負荷状態から後の前記低演算負荷状態に至るまでの前記車両の消費電力量、及び前記車両に搭載された発電装置により生成可能な発電電力量に基づいて演算する、
車両データ演算方法。
【請求項7】
請求項
1~6の何れか1項に記載の車両データ演算方法であって、
前記第2演算実行条件は、前記低演算負荷状態中の演算の実行に必要な時間が、前記低演算負荷状態の継続時間を下回ることを含む、
車両データ演算方法。
【請求項8】
請求項
1~7の何れか1項に記載の車両データ演算方法であって、
前記低演算負荷状態において前記第2演算を開始する第2演算開始タイミングを定める第2演算開始タイミング設定処理をさらに含み、
前記第2演算開始タイミング設定処理では、
前記低演算負荷状態中の演算による前記車載コンピュータの発熱に伴う最大温度上昇幅を推定し、
前記低演算負荷状態中の前記車載コンピュータの温度が、前記最大温度上昇幅を考慮しても所定の上限温度に到達しないように前記第2演算開始タイミングを演算し、
前記低演算負荷時工程では、
前記第2演算開始タイミングに到達すると前記第2演算を開始する、
車両データ演算方法。
【請求項9】
請求項
1~8の何れか1項に記載の車両データ演算方法であって、
前記低演算負荷時工程では、
前記車両のシステムの休止解除指令を検知すると、実行中の前記第2演算を中断して中断時点までの演算結果を記憶し、
次回以降の前記低演算負荷状態において、前記演算結果を参照して中断した前記第2演算を再開する、
車両データ演算方法。
【請求項10】
車両に搭載されて各種データを検出するセンサと、検出された各種データに基づいて所定の演算処理を実行する車載コンピュータと、を備えた車両データ演算システムであって、
前記車載コンピュータは、
前記車両の状態に応じて前記車載コンピュータが実行すべき前記演算処理を、現在求められている前記車両の機能を実現するために要求される第1演算種別と、前記第1演算種別以外の第2演算種別と、に分類し、
前記車両の状態が前記演算処理に係る演算量の大きい高演算負荷状態である場合に高演算負荷時工程を実行し、
前記車両の状態が前記演算処理に係る演算量の小さい低演算負荷状態である場合に低演算負荷時工程を実行し、
前記高演算負荷時工程では、前記第1演算種別に含まれる第1演算を実行するとともに前記第2演算種別に含まれる第2演算の実行に用いる演算データを所定の記憶領域に記憶させ、
前記低演算負荷時工程では、前記記憶領域に記憶された前記演算データに基づいて前記第2演算を実行
し、
前記高演算負荷時工程では、
該高演算負荷時工程の後の前記低演算負荷時工程において前記第2演算を実行する条件としての第2演算実行条件を満たすか否かを判定し、
前記低演算負荷時工程では、
前記第2演算実行条件が満たされると判断された場合に前記第2演算を実行する、
車両データ演算システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両データ演算方法及び車両データ演算システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両からプローブ情報をデータ収集センターに送信するモビリティデータ収集システムが提案されている。このモビリティデータ収集システムでは、プローブ情報の送信に当たり、データ送信量及びデータ収集センター側のデータ保存容量を抑制する観点から、収集された情報の必要性を機械学習モデルに基づいて判定する。特に、この機械学習モデルの構築は、車両においてプローブ情報の収集と並列して実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のモビリティデータ収集システムでは、車両においてプローブ情報の収集と機械学習モデルの構築を並列に実行するため、車載の演算装置に対する負荷が高くなる。その結果、車両により処理能力の高い演算装置を搭載する必要が生じる。
【0005】
このような事情に鑑み、本発明の目的は、車載コンピュータに対する演算負荷を低減することのできる車両データ演算方法及び車両データ演算システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、車両において収集されるデータに基づいて車載コンピュータにより所定の演算処理を実行する車両データ演算方法が提供される。この車両データ演算方法は、車両の状態に応じて車載コンピュータが実行すべき演算処理を、現在求められている車両の機能を実現するために要求される第1演算種別と、第1演算種別以外の第2演算種別と、に分類する演算種分類工程と、車両の状態が演算処理に係る演算量の大きい高演算負荷状態である場合に実行する高演算負荷時工程と、車両の状態が演算処理に係る演算量の小さい低演算負荷状態である場合に実行する低演算負荷時工程と、を含む。そして、高演算負荷時工程では、第1演算種別に含まれる第1演算を実行するとともに第2演算種別に含まれる第2演算の実行に用いる演算データを所定の記憶領域に記憶させ、低演算負荷時工程では、記憶領域に記憶された演算データに基づいて第2演算を実行する。そして、高演算負荷時工程では、該高演算負荷時工程の後の低演算負荷時工程において第2演算を実行する条件としての第2演算実行条件を満たすか否かを判定し、低演算負荷時工程では、第2演算実行条件が満たされると判断された場合に第2演算を実行する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車載コンピュータに対する演算負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、各実施形態に共通する車両データ収集システムの前提構成を説明する図である。
【
図2】
図2は、各実施形態に共通する車両データ収集システムの各構成の詳細を説明するブロック図である。
【
図3】
図3は、車載端末の記憶部に記憶された演算種分類データの一態様を示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の車両データ演算方法を説明するフローチャートである。
【
図5】
図5は、システム稼働時処理の詳細を説明するフローチャートである。
【
図6】
図6は、システム休止時処理の詳細を説明するフローチャートである。
【
図7】
図7は、第2実施形態のシステム稼働時処理の詳細を説明するフローチャートである。
【
図8】
図8は、同実施形態のシステム休止時処理の詳細を説明するフローチャートである。
【
図9】
図9は、第3実施形態のシステム稼働時処理の詳細を説明するフローチャートである。
【
図10】
図10は、第4実施形態のシステム稼働時処理の詳細を説明するフローチャートである。
【
図11】
図11は、同実施形態の第2演算開始タイミング設定の詳細を説明するフローチャートである。
【
図12】
図12は、同実施形態のシステム休止時処理の詳細を説明するフローチャートである。
【
図13】
図13は、第5実施形態の車両データ演算方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の各実施形態について説明する。
【0010】
[各実施形態に共通する構成]
図1は、各実施形態に共通する車両データ収集システム10の全体構成を説明する図である。
図2は、車両データ収集システム10に含まれる各構成の詳細を説明するためのブロック図である。
【0011】
図示のように、車両データ収集システム10は、車両V(特に車両Vに搭載される車載コンピュータ20)と、車両Vに所定のネットワーク100を介して通信可能に接続されたサーバ40と、を備える。
【0012】
なお、車両データ収集システム10を構成する車載コンピュータ20及びサーバ40は、それぞれ、CPU(Central processing Unit)等の演算/制御装置、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)、又はハードディスク(磁気記憶装置)等の各種記憶装置、及びキーボード、マウス、タッチパネル、ディスプレイ、プリンタ、及びI/Oポート等の各種入出力装置を備えたコンピュータで構成される。そして、車載コンピュータ20及びサーバ40は、後述する各処理を上記各ハードウェア、及び記憶装置に記憶される所定のプログラム(ソフトウェア)により実行する。
【0013】
車両Vは、走行駆動源として電動モータを搭載する自動車であって、内部に発電装置を持たず外部充電手段を用いて車載バッテリに電力を供給可能な自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)、又は内部に発電装置を備え当該発電装置若しくは当該発電装置及び外部充電手段の双方により車載バッテリに電力を供給可能な自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)により構成することができる。車両Vは、上述の車載コンピュータ20と、センサ30と、出力先装置32と、を備える。
【0014】
(車載コンピュータ20)
車載コンピュータ20は、車両Vの走行動作(例えば、駆動、制動、又は操舵)、及び車室内における種々の出力機能(例えば、ディスプレイの表示機能、又はオーディオ機器の音声出力機能)などの車両Vに要求される各機能を実現するための種々の処理を行うコンピュータである。具体的に、車載コンピュータ20は、CPU(Central processing Unit)等の演算/制御装置、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)、又はハードディスク(磁気記憶装置)等の各種記憶装置、及び各種操作ボタン、タッチパネル、ディスプレイ、又はI/Oポート等の各種入出力装置を備えたコンピュータで構成される。
【0015】
より詳細に、車載コンピュータ20の機能は、車両Vに搭載されるADAS(Advanced Driver Assistance Systems)コントローラ、モータコントローラ、ECU(Engine Control Unit)、又は車両コントローラ等の任意のコンピュータにより実現することができる。また、車載コンピュータ20の機能は、一台のハードウェアに各処理を実行するためのプログラムを実装することで実現しても良いし、複数台のハードウェアに各処理を実行するためのプログラムを分散処理させることで実現しても良い。
【0016】
特に、
図2に示すように、車載コンピュータ20は、演算部21と、記憶部22と、通信部23と、を有する。
【0017】
演算部21は、センサ30から受信する車両データDに基づいて、車両Vに要求される各機能を実現するための演算処理を行う。そして、演算部21は、当該演算処理を行って得られる演算結果を、所定の出力先装置32に出力する。なお、出力先装置32は、走行アクチュエータ、車室内のディスプレイ、及びオーディオ機器等の車両Vに搭載される各種装置である。特に、演算部21は、サーバ40で求められるプローブ情報Dpを得る観点から、車両データDに対して所定の一次処理演算を行い、その演算結果を通信部23に出力する。
【0018】
記憶部22は、車載コンピュータ20において実行されることが想定される各種演算処理を、予め定められた第1演算種別及び第2演算種別の項目に紐づけてなる演算種別データを記憶する。ここで、第1演算種別とは、演算結果にリアルタイム性が求められる演算処理を意味する。より詳細には、第1演算種別とは、現在車両Vに求められている機能を実現するための演算結果を得ることが必須となる演算の種別である。一方、第2演算種別とは、第1演算種別以外の演算(第1演算種別に該当しない演算)の種別である。すなわち、第2演算種別は、現在車両Vに求められている機能を実現するために演算結果を得ることが必須とまでは言えない演算の種別と言える。言い換えると、第2演算種別とは、当該演算結果を直ちに得ずとも、現在車両Vに求められている機能自体の実現には支障を与えない演算の種別である。記憶部22の演算種別データについてより詳細に説明する。
【0019】
図3は、車載コンピュータ20の記憶部22に記憶された演算種分類データの一態様を示す図である。図示のように、記憶部22には、第1演算種別として、カーナビゲーション機能を実現するためのナビゲーション関連演算、車両Vに要求される走行状態を実現するための走行関連演算、空調システムの作動制御に関する演算としてのHVAC(Heating, Ventilation, and Air Conditioning)作動演算、乗員による入力(スイッチ、アクセルペダル、及びステアリング等に対する入力、車室内のディスプレイへの入力、並びにナビシステムへの音声入力など)に関するHMI(Human Machine Interface)関連演算、車内エンターテインメントを目的としたカーオーディオや各種プレーヤーなどによる音声若しくは表示に関するIVI(In-Vehicle Infotainment)関連演算、外部充電器による車載バッテリへの充電に関する充電関連演算、並びに車両Vと所定の電力網(特にスマートグリッド)との間における電気エネルギーの送受に関するV2G(Vehicle to Grid)関連演算などが挙げられる。
【0020】
一方、第2演算種別として、主に学習モデルの生成又は変更(以下、これらを包括して「生成」と称する)を行うための学習モデル関連演算、及び上述した車両データDの一次処理演算などが挙げられる。
【0021】
より具体的に、学習モデル関連演算には、走行履歴に応じた所定の目的地までの適切な走行ルートを予測するための車両運行予測学習モデルを生成する演算、ドライバの操作履歴などに基づいてドライバの性質を把握するためのドライバ性質学習モデルを生成する演算、走行データの履歴等から走行特性及び安全性などの観点からより適切な車両動作の制御を定めるための車両制御最適化学習モデルを生成する演算、走行データの履歴やセンサ30により直接検出される一次情報(例えば加速度センサで検出される加速度)等から車速及び走行エネルギーなどの二次情報をより高精度に推定するための学習モデルを生成する演算、自動運転時の履歴からより適切な自動運転の制御ロジックを定めるための自動運転学習モデルを生成する演算、センサ30(車載カメラ等)により得られる画像データからより高精度に画像認識を実行するための画像認識学習モデルを生成する演算、車両Vの乗員の趣向(エアコンの温度設定、音楽、及び映像など)をより適切に把握するための乗員趣向学習モデルを生成する演算、及び乗員をより適切に識別するための乗員識別学習モデル(顔認証に関する学習モデルなど)を生成する演算が含まれる。
【0022】
また、上述した車両データDの一次処理演算には、センサ30により検出される一次情報としての車両データDを、サーバ40で取り扱う観点から適切な二次情報としてのプローブ情報Dpに変換するための演算が含まれる。
【0023】
図2に戻り、通信部23は、車載コンピュータ20とネットワーク100の間の通信を可能とするV2N(Vehicle to Network)などの広域通信インターフェースにより実現される。通信部23は、サーバ40から車両Vにおいて必要となる各種データ(例えば、道路交通情報及び各種サービスに関する情報)を受信する一方、演算部21から受け取ったプローブ情報D
pをサーバ40に送信する。
【0024】
(センサ30)
センサ30は、車両Vにおいて上述の車両データDを収集するための各情報を検出するセンサ類である。例えば、センサ30は、車両Vの周辺状況を検出する各種検出器(車載カメラ、レーダー、及びライダーなど)と、車両Vの走行状態に応じた内部情報を検出する各種検出機器(アクセルペダルセンサ、車速センサ、加速度センサ、操舵角センサ、及びヨーレートセンサなど)と、を含む。
【0025】
(サーバ40)
サーバ40は、例えば、所定のデータセンターに設置されるサーバ用途のコンピュータ、又はいわゆるクラウドなどのネットワーク100を介して相互に通信可能な複数の地点に分散させたハードウェア及びソフトウェアにより構成される。具体的に、サーバ40は、気象情報、道路交通情報、地図情報、及びその他の車両Vの機能又は乗員の希望に応じたコンテンツを提供する装置として構成される。特に、サーバ40は、
図2に示すように、演算部41と、記憶部42と、通信部43と、を有する。
【0026】
演算部41は、車載コンピュータ20から受信する演算結果を適宜加工する。また、演算部41は、車載コンピュータ20から要求に応じて又は自発的に当該車両Vの機能の実現或いは向上のために必要な各種データを記憶部42から抽出して通信部43に出力する。
【0027】
記憶部42は、加工された演算結果を、車両Vの識別情報などの必要な情報と関連付けて記憶する。
【0028】
通信部43は、車載コンピュータ20から演算結果を受信する一方、演算部41から受け取った上述の各種データを車載コンピュータ20に送信する。
【0029】
(ネットワーク100)
ネットワーク100は、車載コンピュータ20及びサーバ40の間における相互通信(特に広域の相互通信)を可能とする各種ハードウェア及び通信プロトコル(移動体回線網、及びLAN等)により構成される。
【0030】
以下では、上記構成を備える車両データ収集システム10において実行される各実施形態の車両データ演算方法について説明する。
【0031】
[第1実施形態]
図4は、第1実施形態の車両データ演算方法を説明するフローチャートである。なお、車載コンピュータ20は、以下に説明する処理を所定の制御周期ごとに繰り返し実行する。
【0032】
先ず、ステップS100において、車載コンピュータ20は、現在実行すべき演算処理を検知する。具体的に、車載コンピュータ20は、車両Vの走行制御、エアコンの温度設定、オーディオ機器の出力調節、車室ディスプレイの表示、及び各種学習モデルの生成など、現在の制御周期において車両Vに要求される機能を実現するために必須となる各演算、及び必須ではないものの、現在の制御周期以降において実行することが求められる各演算を検知する。なお、以下では、説明の便宜のため、このステップS100で検知した各演算処理をまとめて「指令演算群」と称する。
【0033】
ステップS200において、車載コンピュータ20は、検知した指令演算群に含まれる各演算を、上述した第1演算種別に属する第1演算及び第2演算種別に属する第2演算に分類する。特に、車載コンピュータ20は、指令演算群に含まれる各演算を記憶部22に予め記憶された演算種分類データ(
図3)に規定された項目と照合して、それぞれ第1演算及び第2演算に分類する。なお、第1演算及び第2演算はそれぞれ、車両Vの状態に応じて一種又は複数種の演算項目を含む。
【0034】
ステップS300において、車載コンピュータ20は、車両Vのシステムが稼働中であるか否かを判定する。この判定は、車両Vの状態が、指令演算群に含まれる各演算の総演算量が相対的に大きい高演算負荷状態であるのか、相対的に小さい低演算負荷状態であるのかを判断するためのものである。
【0035】
なお、以下では、車両Vのシステムが稼働することを単に「システム稼働」と称し、稼働している状態を適宜、「システム稼働中」、「システム稼働時」、又は「システム稼働状態」などと称する。また、車両Vのシステムが休止することを単に「システム休止」と称し、休止している状態を適宜、「システム休止中」、「システム休止時」又は「システム休止状態」などと称する。さらに、本実施形態において、車両Vのシステムとは、当該車両Vの各種機能(走行を目的とする機能及びその他の補助的機能を含む車両Vで実現可能な任意の機能)を実現するための各構成(ハードウェア構成及びソフトウェア構成の結合)を意味する。そして、本明細書においてシステム稼働状態とは、これらの各構成のほぼ全てがその機能にしたがい動作しているか、或いは動作可能である状態を意味する。一方、システム休止状態とは、上記各構成の大部分(特に車両Vの走行機能を実現する構成を含む)が動作しておらず、動作できない状態を意味する。
【0036】
したがって、システム稼働中は当該システムの稼働に応じて車載コンピュータ20で実行すべき演算量が相対的に多くなるところ、このシーンを車両Vの状態が高演算負荷状態であるとみなしている。一方、上述のように、システム休止中は車両Vの機能の内のごく一部(例えば、外部充電器が接続された場合における通信処理や停車中におけるセキュリティのためのカメラの作動など)を除いて、大部分が制限されるところ、このシーンを車両Vの状態が低演算負荷状態であるとみなしている。
【0037】
特に、本実施形態においては、車載コンピュータ20は、始動スイッチがオン状態であることを検出すると車両Vの状態がシステム稼働中と判断し、始動スイッチがオフ状態であることを検出すると車両Vのシステム休止中と判断する。
【0038】
そして、車載コンピュータ20は、車両Vの状態がシステム稼働中であると判断すると、ステップS400に進みシステム稼働時処理を実行する。一方、車載コンピュータ20は、車両Vの状態がシステム休止中であると判断すると、ステップS500に進みシステム休止時処理を実行する。以下では、先ず、システム稼働時処理について説明する。
【0039】
図5は、システム稼働時処理の詳細を説明するフローチャートである。
【0040】
図示のようにシステム稼働時処理では、ステップS410において、車載コンピュータ20は、ステップS200で得られた指令演算群の内の第1演算を実行する。
【0041】
ステップS420において、車載コンピュータ20は、ステップS200で得られた指令演算群の内の第2演算を記憶部22に記憶させる。より詳細には、車載コンピュータ20は、第2演算をその実行に必要な車両データD(特にセンサ30で得られるリアルタイムの検出値)と紐づけて成る「予定第2演算データ」として記憶部22に記憶させる。
【0042】
すなわち、車載コンピュータ20の演算負荷が大きいシステム稼働時においても、実行すべき指令演算群の内、現在車両Vに要求されている機能を実現するために必須となる第1演算を実行しつつ、必須とまでは言えない第2演算の実行を保留することができる。このため、車載コンピュータ20に対して、第2演算の演算量相当の演算負荷軽減を図ることができる。次に、システム休止時処理について説明する。
【0043】
図6は、システム休止時処理の詳細を説明するフローチャートである。
【0044】
図示のように、ステップS510において、車載コンピュータ20は、ステップS200で得られた指令演算群の内の第1演算を実行する。なお、上述のように、システム休止中は車両Vの機能の大部分が制限されている状態なので、車両Vの機能を確保するために必要な第1演算の種類及び演算量は、システム稼働中のそれと比べて大幅に少なくなる。したがって、システム休止中は第1演算の実行により車載コンピュータ20に与え得る演算負荷もシステム稼働中と比べて大幅に小さくなる。
【0045】
ステップS520において、車載コンピュータ20は、ステップS420に記憶部22記憶させた予定第2演算データを読み出す。すなわち、車載コンピュータ20は、システム稼働時に保留していた第2演算を実行すべく、その実行に必要な予定第2演算データを取得する。
【0046】
ステップS430において、車載コンピュータ20は、ステップS520において読み出した予定第2演算データに基づいて、当該予定第2演算データで規定される第2演算を実行する。すなわち、システム稼働中において演算負荷軽減の観点から保留されていた第2演算が、相対的に演算負荷の少ないシステム休止中において実行されることとなる。したがって、車載コンピュータ20に対する演算負荷のピークを低減しつつも、要求されている演算機能(第1演算及び第2演算の双方の実行)を可能とすることができる。
【0047】
以上説明した本実施形態において提供される各構成及びそれによる作用効果について説明する。
【0048】
本実施形態によれば、車両Vにおいて収集されるデータに基づいて車載コンピュータ20により所定の演算処理を実行する車両データ演算方法が提供される。この車両データ演算方法は、車両Vの状態に応じて車載コンピュータ20が実行すべき演算処理(指令演算群)を、現在求められている車両Vの機能を実現する観点から要求される第1演算種別と、第1演算種別以外の第2演算種別と、に分類する演算種分類工程(ステップS200)と、車両Vの状態が演算処理に係る演算量の大きい高演算負荷状態(システム稼働中)である場合(ステップS300のYes)に実行する高演算負荷時工程としてのシステム稼働時処理(ステップS400)と、車両Vの状態が演算処理に係る演算量の小さい低演算負荷状態(システム休止中)である場合(ステップS300のNo)に実行する低演算負荷時工程としてのシステム休止時処理(ステップS500)と、含む。
【0049】
そして、システム稼働時処理では、第1演算種別に含まれる第1演算を実行するとともに第2演算種別に含まれる第2演算の実行に用いる演算データ(予定第2演算データ)を所定の記憶領域(記憶部22)に記憶させる(ステップS410及びステップS420)。一方、システム休止時処理では、記憶部22に記憶された予定第2演算データに基づいて第2演算を実行する(ステップS520及びステップS4300)。
【0050】
これによれば、車載コンピュータ20の演算負荷が相対的に高いシーンにおいては、当該車両Vにリアルタイムに要求される機能を実現するための第1演算のみを実行させ、それ以外の第2演算を保留することにより、車載コンピュータ20の演算負担が軽減される。その一方で、保留された第2演算については、車載コンピュータ20の演算負荷が相対的に低いシーンにおいて実行することで、必要な第2演算の実行も確保される。したがって、車載コンピュータ20に求められる第1演算及び第2演算の双方の実行という機能を満たしつつ、演算負荷が高いシーンにおいて演算量を削減して演算負荷のピークを低下させることができる。このため、車載コンピュータ20に演算による発熱の抑制及び製造コストの低減を図ることができる。
【0051】
なお、
図1に示す車両データ収集システム10の構成に本実施形態の車両データ演算方法を適用した場合、第2演算として車両データDの一次処理演算は、その演算の指令が発せられた以降の任意のシステム休止時に実行されることとなる。すなわち、車載コンピュータ20が車両データDの一次処理演算を実行することになるため、当該一次処理演算をサーバ40に負わせることによるサーバ側の処理負担の増大及びデータ通信量の増大を抑制することができる。言い換えると、車載コンピュータ20の演算負担を軽減する観点のみから、単に車載コンピュータ20において第2演算を実行しない構成を採用した場合と比べて、車両データ収集システム10の全体における演算及び通信の負荷を低減することができる。
【0052】
また、本実施形態の車両データ演算方法において、演算種分類工程では、予め定められた第1演算種別及び第2演算種別の項目(
図3)を参照することで、実行すべき演算処理が第1演算及び第2演算の何れに該当するかを判断する(ステップS200)。
【0053】
これにより、特殊な演算アルゴリズムや学習モデルの構築を要しない簡素な制御ロジックによって、車載コンピュータ20に対して実行すべき演算処理が第1演算及び第2演算の何れであるかを判断させることができる。このため、車載コンピュータ20に複雑なプログラムを実装することによるコストアップを回避することができる。
【0054】
さらに、本実施形態の車両データ演算方法では、車両Vのシステムが稼働している場合に(特に始動スイッチがオンであることを検出すると)、車両Vの状態が高演算負荷時であると判断する(ステップS300のYes)。一方、車両Vのシステムが休止している場合(特に始動スイッチがオフであることを検出すると)に、車載コンピュータ20が低演算負荷状態であると判断する(ステップS300のNo)。
【0055】
これにより、車両Vが車載コンピュータ20に高い演算負荷が作用する状態にあるのか、低い演算負荷が作用する状態にあるのかという判断を行うための具体的な基準が提供されることとなる。特に、始動スイッチのオン/オフに基づいてその判断を行う態様であれば、当該始動スイッチの信号を監視するという簡素なロジックで上記演算負荷の高低の状態を判別することができる。したがって、車載コンピュータ20の制御構成のさらなる簡素化が図られるので、より一層の演算負荷の軽減及び低コスト化に資することとなる。
【0056】
さらに、本実施形態によれば、上記車両データ演算方法を実行するための車両データ演算システムが提供される。
【0057】
この車両データ演算システムは、車両Vに搭載されて各種データ(車両データD)を検出するセンサ30と、検出された車両データDに基づいて所定の演算処理を実行する車載コンピュータ20と、を備える(
図1)。
【0058】
車載コンピュータ20は、車両Vの状態に応じて車載コンピュータ20が実行すべき演算処理(指令演算群)を、現在求められている車両Vの機能を実現する観点から要求される第1演算種別と、第1演算種別以外の第2演算種別と、に分類し(ステップS200)、車両Vの状態が演算処理に係る演算量の大きい高演算負荷状態(システム稼働中)である場合(ステップS300のYes)に高演算負荷時工程としてのシステム稼働時処理を実行し(ステップS400)、車両Vの状態が演算処理に係る演算量の小さい低演算負荷状態(システム休止中)である場合(ステップS300のNo)に低演算負荷時工程としてのシステム休止時処理(ステップS500)を実行する。
【0059】
そして、車載コンピュータ20は、システム稼働時処理では、第1演算種別に含まれる第1演算を実行するとともに第2演算種別に含まれる第2演算の実行に用いる演算データ(予定第2演算データ)を所定の記憶領域(記憶部22)に記憶させる(ステップS410及びステップS420)。さらに、車載コンピュータ20は、システム休止時処理では、記憶部22に記憶された予定第2演算データに基づいて第2演算を実行する(ステップS520及びステップS4300)。
【0060】
これにより、上記車両データ演算方法を実行するために好適なシステム構成が実現される。
【0061】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態の車両データ演算方法は、特に、本実施形態の車両データ演算方法は、上記第2演算を実行するための第2演算実行条件を設定し、システム休止中且つ当該第2演算実行条件を満たす場合に、これを実行する制御ロジックを備える。
【0062】
図7は、本実施形態のシステム稼働時処理の詳細を説明するフローチャートである。
【0063】
図示のように、車載コンピュータ20は、
図5で説明したステップS410及びステップS420の処理を経て、ステップS430の処理を実行する。
【0064】
ステップS430では、車載コンピュータ20は、次にシステム休止時に移行するタイミングを推定する処理を実行する。具体的に、車載コンピュータ20は、現在までの走行履歴(走行距離など)、設定された目的地、及び停車予定地などの情報を参照して次に車両Vのシステムが休止するタイミングを推定する。なお、以下では、便宜上、この次に車両Vのシステムが休止するタイミングを単に「推定システム休止タイミングtst」とも称する。
【0065】
次に、ステップS431において、車載コンピュータ20は、上記推定システム休止タイミングにおいて車両Vの内部で確保可能な電力量(以下、単に「推定確保電力量Wch」とも称する)を演算する。具体的に、車載コンピュータ20は、推定確保電力量Wchとして、上記推定システム休止タイミングtstにおける車載バッテリの保有電力量の推定値(以下、単に「推定充電電力量Wsoc」とも称する)を求める。より具体的に、車載コンピュータ20は、この推定充電電力量Wsocを、現在の車載バッテリの充電電力量に対して推定システム休止タイミングtstに至るまでに車両Vにおいて走行などで消費される電力量の推定値を減算して求める。
【0066】
次に、ステップS432において、車載コンピュータ20は、システム休止中の演算に応じた消費電力量(以下、単に「演算消費電力量Wco」とも称する)が、推定充電電力量Wsocを下回るか否かを判定する。すなわち、車載コンピュータ20は、下記の式(1)を満たすか否かを判定する。
【0067】
【数1】
特に、演算消費電力量W
coは以下の式(2)に基づいて演算することができる。
【0068】
【数2】
式(2)中の「C
am」は次のシステム休止中に実行すべき演算の処理総量(以下、「演算処理総量C
am」とも称する)を表す。すなわち、演算処理総量C
amはシステム休止中に実行する第1演算及び第2演算の双方の演算量の合計に相当する。車載コンピュータ20は、この演算処理総量C
amを、記憶部22に蓄積された予定第2演算データ、及び前回のシステム稼働の維持時間及び/又は当該システム稼働中の車両Vの走行距離などに基づいて推定する。
【0069】
さらに、式(2)中の「ps」は車載コンピュータ20による単位時間当たりの演算処理量(以下、単に「単位演算処理量ps」とも称する)を意味する。この単位演算処理量psは、当該車載コンピュータ20の演算処理能力及び対象となる演算内容(演算アルゴリズム)に応じて適切な値に定められる。そして、式(2)中の「Pc」は車載コンピュータ20が演算を実行する場合の単位時間当たりの電力消費量(以下、単に「単位演算電力消費量Pc」とも称する)を意味する。なお、単位演算処理量ps及び単位演算電力消費量Pcは、車載コンピュータ20の仕様や演算内容に応じて適宜定めることができる。
【0070】
そして、車載コンピュータ20は、上記式(1)を満たすと判断すると、ステップS440に進み、次のシステム休止中における第2演算の実行を許可する第2演算許可フラグを設定する。一方、車載コンピュータ20は、式(1)を満たさない(演算のための電力を確保できない)と判断すると、第2演算許可フラグをクリアして本ルーチンを終了する。次に、システム休止時処理について説明する。
【0071】
図8は、本実施形態のシステム休止時処理の詳細を説明するフローチャートである。
【0072】
図示のように、車載コンピュータ20は、
図6で説明したステップS510の処理を経て、ステップS511の処理に移行する。
【0073】
ステップS511において、車載コンピュータ20は、上記第2演算許可フラグがセットされているか否かを判定する。そして、車載コンピュータ20は、上記第2演算許可フラグがセットされていると判断すると(すなわち、システム休止中の演算のための電力が確保されていると判断されると)、ステップS520及びステップS530の処理を実行する。一方、車載コンピュータ20は、上記第2演算許可フラグがセットされていないと判断すると(すなわち、すなわち、システム休止中の演算のための電力が確保されていないと判断されると)、第2演算を実行することなく本ルーチンを終了する。
【0074】
以上説明した本実施形態において提供される各構成及びそれによる作用効果について説明する。
【0075】
本実施形態の車両データ演算方法では、システム稼働時処理(ステップS400)では、該高演算負荷時工程の後のシステム休止時処理(ステップS500)において第2演算種別を実行する条件としての第2演算実行条件(式(1))を満たすか否かを判定する(ステップS432)。そして、低演算負荷時工程では、第2演算実行条件が満たされると判断された場合に第2演算を実行する(ステップS432のYes、ステップS520、及びステップS530)。
【0076】
これにより、システム稼働時において次回以降(特に次回)のシステム休止中に第2演算の実行が可能となる条件を確認した上で、当該条件を満たす適切な場合に第2演算を実行することができる。
【0077】
特に、第2演算実行条件は、システム休止中の演算の実行による消費電力量(演算消費電力量Wco)が、システム休止中に車両Vで確保可能な電力量(推定確保電力量Wch)を下回ること(式(1))を含む。
【0078】
これにより、システム休止中において、演算実行に必要となる電力が確保されていることを確認した上で第2演算を実行することを可能とする具体的な制御ロジックが提供される。特に、移動体である車両Vはシステム休止中に外部電源を確保できないことが想定される。また、システム休止中には基本的に、発電機として機能し得る装置(走行駆動源としてのモータ、及び発電装置としてのエンジン又は燃料電池など)の作動も停止している。このため、システム休止中は、基本的に車両Vに電力が補充されない(車載バッテリの保有電力量が増えない)。このような状況に対して、本実施形態の構成であれば、事前に、システム休止中の演算を実行するための電力が確保されるシーンを好適に把握した上で、第2演算を実行することができる。
【0079】
さらに、本実施形態では、推定確保電力量Wchを、低演算負荷状態が開始されるタイミング(推定システム休止タイミングtst)の車載バッテリの充電電力量の推定値(推定充電電力量Wsoc)に基づいて定める。
【0080】
これにより、システム休止中において基本的に電力が補充されない(車載バッテリの充電電力量が増加しない)という車両Vの特有の事情が考慮された高精度な推定確保電力量Wchの演算ロジックを実現することができる。
【0081】
(変形例)
以下、第2実施形態の変形例について説明する。本変形例において、車載コンピュータ20は、上記推定システム休止タイミングtstにおける推定充電電力量Wsocを、システム稼働中からシステム休止に至るまでに走行や各種演算などで消費される電力量(以下、「システム稼働時消費電力量Wγ」とも称する)と、車両Vに搭載される所定の発電装置(エンジン又は燃料電池を発電源とする装置)による発電によって得られる電力量(以下、「発電電力量Wg」とも称する)を加味して演算する。
【0082】
具体的に車載コンピュータ20は、以下の式(3)に基づいて推定充電電力量Wsocを演算する。
【0083】
【数3】
なお、式(3)中の「W
soc_
b」は、推定充電電力量W
socの演算を実行する時点における車載バッテリの充電電力量を表す。以下、これを「基本充電電力量W
soc_
b」とも称する。
【0084】
以上のように、本変形例の車両データ演算方法では、推定充電電力量Wsocを、システム稼働状態からの後のシステム休止状態に至るまでの車両Vの消費電力量(システム稼働時消費電力量Wγ)、及び車両Vに搭載された発電装置により生成可能な発電電力量Wgに基づいて演算する。
【0085】
これによれば、システム休止に遷移したタイミングにおける推定充電電力量Wsoc(すなわち、推定確保電力量Wch)を、システム稼働中の車両Vの消費電力だけでなく、当該車両Vの内部の発電装置による発電電力を加味した上で求めることができる。このため、エンジン又は燃料電池等の動力源を用いて発電した電力を車載バッテリに充電するタイプのハイブリッド車両(シリーズハイブリッド車両など)においても、高精度に推定充電電力量Wsocを定めることができる。
【0086】
なお、予めシステム休止中に演算を実行するための電力を確保する観点(上記式(1)を満たすようにする観点)から、式(3)で定まる推定充電電力量Wsocを調節するように発電電力量Wgを定め、事前にこの発電電力量Wgを得られるように発電装置による発電を実行する制御構成を採用しても良い。
【0087】
[第3実施形態]
以下、第3実施形態について説明する。なお、第1又は第2実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。特に、本実施形態の車両データ演算方法は、上記第2演算実行条件として、第2演算の実行に必要な処理時間が後のシステム休止継続時間を下回る条件を設定する。
【0088】
図9は、本実施形態のシステム稼働時処理(ステップS400)の詳細を説明するフローチャートである。
【0089】
図示のように、車載コンピュータ20は、
図5で説明したステップS410及びステップS420の処理を経て、ステップS433の処理を実行する。
【0090】
ステップS433において、車載コンピュータ20は、次に移行するシステム休止の継続時間(以下、単に「推定システム休止時間Δtst」とも称する)を推定する処理を実行する。
【0091】
具体的に、車載コンピュータ20は、現在までの走行履歴(走行距離など)、設定された目的地、停車予定地、及びドライバの車両Vの使用傾向(使用する曜日や停車時間などのデータを学習することで得られる傾向データ)などの情報を参照して推定システム休止時間Δtstを定める。
【0092】
次に、ステップS434において、車載コンピュータ20は、システム休止中の演算(第1演算及び第2演算)の演算量に応じた演算時間の推定値(以下、単に「推定演算時間Δtc」とも称する)を求める。具体的に、車載コンピュータ20は、下記の式(4)に基づいて推定演算時間Δtcを求める。
【0093】
【数4】
なお、式(4)中の「C
am」及び「p
s」の定義は式(2)における定義と同様である。すなわち、「C
am」は次のシステム休止中に実行すべき演算の処理総量であり、「p
s」は車載コンピュータ20による単位時間当たりの演算処理量である。
【0094】
次に、ステップS435において、車載コンピュータ20は、推定演算時間Δtcが推定システム休止時間Δtstを下回るか否かを判定する。すなわち、この判定は、次のシステム休止中に第1演算及び第2演算に係る演算を完了させることができるか否かの判定に相当する。
【0095】
車載コンピュータ20は、推定演算時間Δtcが推定システム休止時間Δtstを下回ると判断すると、第2演算許可フラグを設定する。一方、車載コンピュータ20は、推定演算時間Δtcが推定システム休止時間Δtstを下回らない(演算に必要な時間が確保できない)と判断すると、第2演算許可フラグをクリアして本ルーチンを終了する。
【0096】
そして、車載コンピュータ20は、低演算負荷時工程において、第2実施形態(
図8参照)と同様に、上記第2演算許可フラグがセットされている場合に第2演算を実行する一方、そうでない場合に第2演算を実行せずに当該低演算負荷時工程に係るルーチンを終了する。
【0097】
以上説明した本実施形態において提供される各構成及びそれによる作用効果について説明する。
【0098】
本実施形態の車両データ演算方法では、第2演算実行条件は、システム休止中の演算(第1演算及び第2演算)の実行に必要な処理時間(推定演算時間Δtc)が、当該システム休止の継続時間(推定システム休止時間Δtst)を下回ることを含む(ステップS435)。
【0099】
これにより、システム休止中においては、実行すべき演算時間が確保されていることを確認した上で第2演算を実行することができる。特に、本実施形態においては、実行すべき演算時間が確保されていない場合には、システム休止中の車両Vの機能を実現するために要求される第1演算のみを実行する一方(ステップS510)、第2演算は実行されない(ステップS511)。したがって、本実施形態の車両データ演算方法のように、システム稼働中に保留していた第2演算をシステム休止中に実行する制御態様を採用した場合であっても、システム休止中に求められる車両Vの機能(外部充電器との通信など)を実現するための第1演算の実行を阻害することなく、適切に第2演算を実行することのできる制御ロジックが実現されることとなる。
【0100】
[第4実施形態]
以下、第4実施形態について説明する。なお、第1~第3実施形態の何れかと同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。特に、本実施形態においては、システム休止中の演算を実行することに起因する車載コンピュータ20(より詳細には車載コンピュータ20の演算装置)の温度上昇を考慮して第2演算を開始するタイミングを定める制御が提供される。
【0101】
図10は、本実施形態のシステム稼働時処理(ステップS400)の詳細を説明するフローチャートである。図示のように、車載コンピュータ20は、
図5で説明したステップS410及びステップS420の処理を経て、ステップS460の第2演算開始タイミング設定処理を実行する。第2演算開始タイミング設定処理では、車載コンピュータ20は、次のシステム休止中において第2演算の実行を開始するタイミング(以下、単に「第2演算開始タイミングt
c」とも称する)を設定する。
【0102】
図11は、第2演算開始タイミング設定処理の詳細を説明するフローチャートである。
【0103】
先ず、ステップS461において、車載コンピュータ20は、次のシステム休止時において定められた演算を実行することによる当該車載コンピュータ20の発熱に伴う最大温度上昇幅ΔTmaxを推定する。具体的に、車載コンピュータ20は、下記の式(5)に基づいて最大温度上昇幅ΔTmaxを求める。
【0104】
【数5】
式(5)中の「K」は最大温度上昇幅ΔT
maxを熱量の次元に変換する観点から適宜定められる係数である。また、「Q
c」は演算による単位時間当たりの発熱量であり、車載コンピュータ20の処理速度などの仕様に応じて適宜定めることができる。なお、式(5)中の「C
am」及び「p
s」の定義は式(2)における定義と同様である。すなわち、「C
am」は次のシステム休止中に実行すべき演算の処理総量であり、「p
s」は車載コンピュータ20による単位時間当たりの演算処理量である。
【0105】
ステップS462において、車載コンピュータ20は、上限温度Tlimを取得する。ここで、上限温度Tlimとは、車載コンピュータ20の耐熱性能を考慮して定められる当該車載コンピュータ20の演算装置(CPU等)の温度(以下、単に「演算装置温度T」とも称する)の上限値である。上限温度Tlimは、例えば、車載コンピュータ20は、所定の記憶領域に予め保存される。
【0106】
ステップS463において、車載コンピュータ20は、次のシステム休止中における演算装置温度Tが、ステップS461で求めた最大温度上昇幅ΔTmaxを考慮しても上限温度Tlimに到達しないように第2演算開始タイミングtcを演算する。具体的に、車載コンピュータ20は、以下の式(6)を満たす時刻tを第2演算開始タイミングtcとして求める。
【0107】
【数6】
ここで、式(6)中の「T(t)」は、演算による発熱を考慮しない前提における演算装置温度Tをシステム休止中の時刻tの関数として表したものである。以下、これを「演算装置温度関数T(t)」とも称する。ここで、車両Vの停車直後(走行完了直後)など、システム休止中であっても走行駆動源の停止タイミングから時間があまり経過していないシーンにおいては、走行駆動源の周辺の雰囲気温度(空気の温度)が比較的高い状態となる。したがって、この場合に第2演算を開始すると、演算装置温度Tが上限温度T
limに到達してしまう恐れがある。特に、上記シーンにおいては、走行駆動源の放熱によって車両Vの周辺の雰囲気温度が全体的に高くなることが想定される。このため、車載コンピュータ20の温度は、当該車載コンピュータ20の車両V上の搭載位置に関わらず、高くなる傾向にある。一方で、走行駆動源の停止タイミングから時間が経つほど(システム休止状態が継続するほど)、自然放熱又は所定の冷却機構による冷却により車載コンピュータ20の周辺の雰囲気温度が低下し、これに伴い、演算装置温度Tも低下する。したがって、本実施形態ではこの点を考慮して、式(6)を満たす時刻tを第2演算開始タイミングt
cとする。
【0108】
上記式(6)を満たす時刻tを第2演算開始タイミングtcとすることで、システム休止中に演算を実行した場合において、演算装置温度Tを上限温度Tlim以下に抑えることができる。特に、演算装置温度Tが上限温度Tlimに以下に維持されつつ、システム休止中に実行される演算量(特に第2演算の処理量)をできるだけ高くする観点から、式(6)の等号が成り立つ時刻t又はこれに対して若干のマージンを与えた時刻tを第2演算開始タイミングtcとして設定することが好ましい。
【0109】
そして、車載コンピュータ20は、ステップS460の第2演算開始タイミング設定処理を終了すると、システム休止時処理(ステップS500)に移行する。
【0110】
図12は、本実施形態のシステム休止時処理の詳細を説明するフローチャートである。
【0111】
図示のように、車載コンピュータ20は、
図6で説明したステップS510の処理を経て、ステップS512の処理に移行する。
【0112】
ステップS512において、車載コンピュータ20は、第2演算開始タイミングtcに到達したか否かを判定する。そして、車載コンピュータ20は、第2演算開始タイミングtcに到達したと判断すると、ステップS520以降の処理(すなわち、第2演算)を実行して本ルーチンを終了する。一方、車載コンピュータ20は、第2演算開始タイミングtcに到達していないと判断すると、第2演算開始タイミングtcに到達するまで第2演算を実行することなく待機する。
【0113】
以上説明した本実施形態において提供される各構成及びそれによる作用効果について説明する。
【0114】
本実施形態の車両データ演算方法は、システム休止中において第2演算を開始する第2演算開始タイミングtcを定める第2演算開始タイミング設定処理(ステップS460)をさらに含む。そして、第2演算開始タイミング設定処理では、システム休止中の演算による車載コンピュータ20の発熱に伴う最大温度上昇幅ΔTmaxを推定し(ステップS461)、システム休止中の車載コンピュータ20の温度(特に演算装置の温度)である演算装置温度Tが、最大温度上昇幅ΔTmaxを考慮しても所定の上限温度Tlimに到達しないように第2演算開始タイミングtcを演算する(ステップS463)。そして、システム休止時処理では、第2演算開始タイミングtcに到達すると第2演算を開始する(ステップS512)。
【0115】
これにより、システム休止中において演算装置温度Tの過度な上昇が抑えられる範囲で第2演算を実行する具体的な制御ロジックが実現される。特に、システム休止中は、当該車両Vが通常搭載する冷却手段(エアコン、走行動力源を冷却するための冷却水循環システム、及びブロアなど)の稼働も停止している。また、システム休止中は、通常、車両Vが走行していないため、走行風による冷却機能も利用できない。このため、システム休止中においては、システム稼働中と比べて車載コンピュータ20の演算による発熱に抗する冷却機能の確保が難しいところ、車両Vの機能を維持するための第1演算に加えて第2演算も実行することで演算装置温度Tが上昇し易くなることが想定される。このような状況に対して、本実施形態の構成であれば、冷却機能が十分ではないシステム休止中において演算装置温度Tの過度な上昇を抑制しながら、一定量の第2演算を実行することのできる好適な制御ロジックが実現されることとなる。
【0116】
[第5実施形態]
以下、第5実施形態について説明する。なお、第1~第4実施形態の何れかと同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。特に、本実施形態においては、システム休止中において第2演算が実行されている場合に、車両Vの乗員の操作(始動スイッチのオン操作など)に起因して想定よりも早くシステム休止状態が終了するシーン(システム稼働中に復帰するシーン)において適用される制御の一例が提供される。
【0117】
図13は、本実施形態のシステム休止時処理(ステップS500)の詳細を説明するフローチャートである。
【0118】
図示のように、車載コンピュータ20は、
図6で説明したステップS510~ステップS530の処理を経て、ステップS531の処理に移行する。
【0119】
ステップS511において、車載コンピュータ20は、車両Vのシステム休止解除指令の検知を判定する。具体的に、車載コンピュータ20は、車両Vの乗員によるシステム始動スイッチ(いわゆるイグニッションスイッチなど)に対する操作の検出、又は上位コントローラによるシステム始動指令(例えば、自動運転コントローラによる指令)の受信を、車両Vのシステム休止解除指令の検知とみなす。そして、車載コンピュータ20は、車両Vのシステム休止解除指令を検知すると、ステップS532に移行する。
【0120】
ステップS532において、車載コンピュータ20は、第2演算の中断及び保存に関する処理を行う。具体的に、車載コンピュータ20は、実行中の第2演算を中断して当該中断時点までの演算結果を次回のシステム休止時に実行すべきものとして、記憶部22の予定第2演算データを更新する。
【0121】
そして、車載コンピュータ20は、次回のシステム休止時(次のシステム稼働状態を経た後の演算周期において再びシステム休止中と判定される場合)において、ステップS520及びステップS530で規定されたロジックにしたがい、記憶部22の予定第2演算データを参照し、これに含まれる中断時点からの第2演算を再開する(ステップS530)。
【0122】
以上説明した本実施形態において提供される各構成及びそれによる作用効果について説明する。
【0123】
本実施形態の車両データ演算方法において、システム休止時処理(ステップS500)では、車両Vのシステム休止解除指令を検知すると、実行中の第2演算を中断して当該中断時点までの演算結果を記憶し、次回以降のシステム休止時において、中断した第2演算を再開する。
【0124】
これにより、例えば乗員の操作に基づいて車両Vのシステム稼働指令が発せられた場合などの予定よりも早くシステム休止状態を解除するシーンにおいて、第2演算が完了せずに中断する場合であっても、当該第2演算を次回以降のシステム休止時に再開することができる。すなわち、予定外のシステム休止状態の解除が起こっても規定の第2演算を途中で終わらせることなく完遂させることができる。
【0125】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0126】
例えば、上記実施形態において、第2演算実行条件(演算のための電力又は時間が確保されていること)を満たすか否かの判定(
図7のステップS432、又は
図9のステップS435)、及び第2演算開始タイミング設定処理(
図11)を、事前(特に、システム稼働時)に必要な各パラメータ(推定確保電力量W
chなど)を取得して実行する例について説明した。しかしながら、これに代えて、第2演算実行条件を満たすか否かの判定及び/又は第2演算開始タイミング設定処理を、システム休止中において必要なパラメータをリアルタイムに取得して実行する構成を採用しても良い。特に、システム休止中に外部充電器による充電が行われる場合を想定し、例えば車両Vの所定の差し込み口に充電プラグが挿入されたことをトリガとして外部充電器による充電電力量を検出又は推定し、充電電力量を加味して推定充電電力量W
socを演算し、演算された推定充電電力量W
socに基づいて演算のための電力が確保されているか否かの判定(ステップS432相当の判定)を実行する構成を採用しても良い。
【0127】
また、上記実施形態では、車載コンピュータ20が実行すべき演算処理に係る演算量の大きい高演算負荷状態が車両Vのシステム稼働状態であり、当該演算量の小さい低演算負荷状態が車両Vのシステム休止状態である例について説明した。しかしながら、これに限られず、車両Vにおいて、車載コンピュータ20に課す演算量に関して相対的な大小関係が観念できる2つのシーン(例えば、モータとの走行駆動源の動作中と非動作中など)をそれぞれ、高演算負荷状態及び低演算負荷状態として、若干の修正を加えつつ上記実施形態で説明した車両データ演算方法を適用することも可能である。
【0128】
なお、上記各実施形態で説明した車両データ演算方法を車載コンピュータ20に実行させるための車両データ演算プログラム、及び当該車両データ演算プログラムを記憶した記憶媒体も、本出願における出願時の明細書等に記載された事項の範囲内に含まれる。
【0129】
上記各実施形態の構成は、論理的に矛盾しない範囲で相互に組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0130】
10 車両データ収集システム
20 車載コンピュータ
21 演算部
22 記憶部
23 通信部
30 プローブセンサ
32 出力先装置
40 サーバ
41 演算部
42 記憶部
43 通信部
100 ネットワーク