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特許7611682情報処理装置、情報処理方法およびプログラム
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  • 特許-情報処理装置、情報処理方法およびプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04N 21/439 20110101AFI20241227BHJP
   H04S 7/00 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
H04N21/439
H04S7/00 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020199145
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086876
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大築 ともえ
(72)【発明者】
【氏名】渡部 浩行
(72)【発明者】
【氏名】塩津 真一
(72)【発明者】
【氏名】小島 幹
(72)【発明者】
【氏名】前畑 実
(72)【発明者】
【氏名】一津屋 美岐
(72)【発明者】
【氏名】原田 晴夫
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-514005(JP,A)
【文献】特開2018-126185(JP,A)
【文献】特開2017-183855(JP,A)
【文献】特開2000-339490(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188229(WO,A1)
【文献】特開2018-157319(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0236836(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109478345(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 21/00 - 21/858
H04S 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想空間体験を含むデジタルコンテンツのユーザに関する内外の状況を取得
得された状況に基づいて、前記ユーザの酔い状況を推定
定された前記ユーザの酔い状況に応じて、前記デジタルコンテンツの音声に関する酔いの抑制処理を実行し、
前記抑制処理において、前記デジタルコンテンツの音声における音量変化速度の低下処理を実行する、
コントローラを備える情報処理装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記抑制処理において、前記デジタルコンテンツの音声における音像定位感の低下処理を実行する
求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記抑制処理において、前記デジタルコンテンツの音声における音量変化幅の減縮処理を実行する
求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記デジタルコンテンツの音源データは、少なくとも音像定位感、定位移動距離または音量変化幅が異なる複数の音源パターンからなり、
前記コントローラは、
前記抑制処理において、前記音源パターンを切り替える切り替え処理を実行する
求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
仮想空間体験を含むデジタルコンテンツのユーザに関する内外の状況を取得
得された状況に基づいて、前記ユーザの酔い状況を推定
定された前記ユーザの酔い状況に応じて、前記デジタルコンテンツの音声に関する酔いの抑制処理を実行し、
前記抑制処理において、前記デジタルコンテンツの音声における音量変化速度の低下処理を実行する、
コントローラが実行する情報処理方法。
【請求項6】
仮想空間体験を含むデジタルコンテンツのユーザに関する内外の状況を取得することと、
得された状況に基づいて、前記ユーザの酔い状況を推定することと、
定された前記ユーザの酔い状況に応じて、前記デジタルコンテンツの音声に関する酔いの抑制処理を実行すること
前記抑制処理において、前記デジタルコンテンツの音声における音量変化速度の低下処理を実行することと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、情報処理装置、情報処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HMD(Head Mounted Display)等を用いてユーザに対し、VR(Virtual Reality)やMR(Mixed Reality)といった、仮想空間体験を含むデジタルコンテンツを提供する技術が知られている。
【0003】
また、かかる技術において、たとえば車両等の移動体に搭載され、かかる移動体をモーション・プラットフォームとして利用可能なVRシステムも提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-102401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術は、仮想空間体験を含むデジタルコンテンツによるユーザの酔いを抑止するうえで、更なる改善の余地がある。
【0006】
たとえば、VRコンテンツの提供を受けるユーザには、乗り物酔いに似た「VR酔い」が起こりうることが知られている。VR酔いは、音声と映像の同期ズレや、音声および映像の変動が大きく脳の処理が追いつかないといった原因により生じうる動揺病の一つである。特に、車両に搭載されるVRシステムの場合、通常の乗り物酔いも加わるため、ユーザの酔いは更に酷くなる傾向にある。
【0007】
実施形態の一態様は、上記に鑑みてなされたものであって、仮想空間体験を含むデジタルコンテンツによるユーザの酔いを抑止することができる情報処理装置、情報処理方法、プログラムおよびデータ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の一態様に係る情報処理装置は、コントローラを備える。前記コントローラは、仮想空間体験を含むデジタルコンテンツのユーザに関する内外の状況を取得する。また、前記コントローラは、取得された状況に基づいて、前記ユーザの酔い状況を推定する。また、前記コントローラ、推定された前記ユーザの酔い状況に応じて、前記デジタルコンテンツの音声に関する酔いの抑制処理を実行する。また、前記コントローラは、前記抑制処理において、前記デジタルコンテンツの音声における音量変化速度の低下処理を実行する。
【発明の効果】
【0009】
実施形態の一態様によれば、仮想空間体験を含むデジタルコンテンツによるユーザの酔いを抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係る情報処理システムの概略構成を示す図である。
図2図2は、VR酔いの説明図である。
図3図3は、実施形態に係る情報処理方法の概要説明図である。
図4図4は、実施形態に係る情報処理システムの構成例を示すブロック図である。
図5図5は、抑制処理の処理内容を示す図である。
図6図6は、抑制処理情報の一例を示す図である。
図7図7は、実施形態に係る情報処理装置が実行する処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する情報処理装置、情報処理方法、プログラムおよびデータ構造の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
また、以下では、実施形態に係る情報処理システム1が、車両に搭載される車載システムである場合を例に挙げて説明する。また、以下では、実施形態に係る情報処理システム1は、ユーザに対し、仮想空間体験を含むデジタルコンテンツとしてVRコンテンツを提供するVRシステムであるものとする。
【0013】
まず、実施形態に係る情報処理方法の概要について、図1図3を用いて説明する。図1は、実施形態に係る情報処理システム1の概略構成を示す図である。また、図2は、VR酔いの説明図である。また、図3は、実施形態に係る情報処理方法の概要説明図である。
【0014】
図1に示すように、実施形態に係る情報処理システム1は、HMD3と、情報処理装置10とを含む。
【0015】
HMD3は、ユーザUに対し、情報処理装置10から提供されるVRコンテンツを提示し、ユーザにVR体験を享受させるための情報処理端末である。HMD3は、ユーザUの頭部に装着されて利用されるウェアラブルコンピュータ(wearable computer)であり、図1の例ではゴーグル型である。なお、HMD3は眼鏡型であってもよいし、帽子型であってもよい。
【0016】
HMD3は、表示部31と、スピーカ32と、センサ部33とを備える。表示部31は、ユーザUの眼前に配置されるように設けられ、情報処理装置10から提供されるVRコンテンツに含まれる映像を表示する。
【0017】
なお、図1の例では、表示部31は、ユーザUの左右それぞれの眼前に1つずつ設けられている例を示しているが、1つだけであってもよい。また、表示部31は、視界を完全に覆う非透過型であってもよいし、ビデオ透過型や光学透過型であってもよい。本実施形態では、非透過型であるものとする。
【0018】
スピーカ32は、たとえば図1に示すようにヘッドフォン型に設けられ、ユーザUの耳に装着される。スピーカ32は、情報処理装置10から提供されるVRコンテンツに含まれる音声を出力する。
【0019】
センサ部33は、ユーザUの内外の状況の変化を検知するデバイスであって、たとえばカメラやモーションセンサ等を含む。
【0020】
情報処理装置10は、たとえばコンピュータであり、車両に搭載される車載装置であって、有線または無線でHMD3と接続され、HMD3に対し、VRコンテンツを提供する。また、情報処理装置10は、センサ部33によって検知された状況の変化を随時取得し、かかる状況の変化をVRコンテンツに反映させる。
【0021】
たとえば、情報処理装置10は、センサ部33によって検知されたユーザUの頭部や視線の変化に応じて、VRコンテンツの仮想空間における視界の向きを変化させることが可能である。
【0022】
ところで、このようなHMD3を用いたVRコンテンツの提供にあたっては、ユーザUに、乗り物酔いに似た「VR酔い」が起こりうることが知られている。
【0023】
図2に示すように、VR酔いは、音声と映像の同期ズレや、音声および映像の変動が大きく脳の処理が追いつかないといった原因等により生じうる。また、VR酔いは、HMD3を用いて享受しているVR体験による感覚と、周囲環境の変化によるユーザU自身の生身の感覚とのズレによっても生じうる。
【0024】
そこで、実施形態に係る情報処理方法では、ユーザUに関する内外の状況を取得し、取得した状況に基づいてユーザUのVR酔い状況を推定し、推定したVR酔い状況に応じて音声に関するVR酔いの抑制処理を実行することとした。
【0025】
具体的には、図3に示すように、実施形態に係る情報処理方法では、情報処理装置10が随時、ユーザUに関する内外の状況を取得し、ユーザUのVR酔い状況を推定する(ステップS1)。情報処理装置10は、たとえばユーザUの身体的状況の変化を検知することによってVR酔い状況を推定する。
【0026】
また、情報処理装置10は、たとえば提供中のVRコンテンツの種別や映像の状況、音声の状況といった、VRコンテンツの使用状況に基づいてVR酔い状況を推定する。
【0027】
また、情報処理装置10は、たとえば道路状況や車両の状況、操作状況といった、車両の走行状況に基づいてVR酔い状況を推定する。また、情報処理装置10は、たとえばユーザごとの酔いやすさ等を示す各種のパラメータ等を含むユーザ情報に基づいてVR酔い状況を推定する。
【0028】
なお、情報処理装置10は、かかるVR酔い状況の推定処理においては、たとえば機械学習のアルゴリズムを用いて生成された推定モデルを用いることができる。かかる推定モデルは、実際のVR酔い状況の推定結果に基づいて適宜強化学習される。強化学習の結果、たとえばVR酔い状況を推定するための判定閾値等が適宜更新される。
【0029】
そして、情報処理装置10は、ステップS1での推定結果に応じて、VRコンテンツの音声に関するVR酔いの抑制処理を実行する(ステップS2)。音声に関するVR酔いの抑制処理は、概略的にはVRコンテンツの音声に関する刺激を弱めるものであって、たとえば音像定位感の低下処理である。
【0030】
また、音声に関するVR酔いの抑制処理は、たとえば音量変化速度の低下処理である。また、音声に関するVR酔いの抑制処理は、たとえば音量変化幅の減縮処理である。なお、これら音声に関するVR酔いの抑制処理の詳細については、図5等を用いた説明で後述する。
【0031】
このように、VRコンテンツの音声に関する刺激を弱めることによって、少なくともVRコンテンツの音声によって喚起される酔いやすさを緩和することができる。すなわち、VRコンテンツによるユーザUのVR酔いを抑止するのに資することができる。
【0032】
なお、図3の説明では音声に関するVR酔いの抑制処理を実行することとしたが、映像に関するVR酔いの抑制処理を併用することとしてもよい。映像に関するVR酔いの抑制処理は、概略的にはVRコンテンツの映像に関する刺激を弱めるものであって、たとえばコントラストや色味等の低下処理である。
【0033】
上述したように、実施形態に係る情報処理方法は、ユーザUに関する内外の状況を取得し、取得した状況に基づいてユーザUのVR酔い状況を推定し、推定したVR酔い状況に応じて音声に関するVR酔いの抑制処理を実行する。
【0034】
したがって、実施形態に係る情報処理方法によれば、VRコンテンツによるユーザUのVR酔いを抑止することができる。以下、実施形態に係る情報処理方法を適用した情報処理システム1の構成例について、より具体的に説明する。
【0035】
図4は、実施形態に係る情報処理システム1の構成例を示すブロック図である。なお、図4では、実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素のみを表しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0036】
換言すれば、図4に図示される各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。例えば、各ブロックの分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
【0037】
また、図4を用いた説明では、既に説明済みの構成要素については、説明を簡略するか、省略する場合がある。
【0038】
図4に示すように、実施形態に係る情報処理システム1は、HMD3と、情報処理装置10とを含む。
【0039】
HMD3については図1を用いて説明済みのため、ここでの説明は省略する。情報処理装置10は、記憶部11と、制御部12とを備える。また、情報処理装置10は、各種センサ5が接続される。
【0040】
各種センサ5は、車両の内外の状況をセンシングするセンサ群であって、たとえばカメラ5aや、バイタルセンサ5b、加速度センサ5c、舵角センサ5d等を含む。
【0041】
カメラ5aは、車両に搭載されるフロントカメラ、リアカメラ、サイドカメラ、室内カメラ等であって、車両の内外を撮影する。室内カメラは、たとえばユーザUの状態を撮影する。
【0042】
バイタルセンサ5bは、ユーザUの身体的状況を検知するセンサであって、たとえばユーザUに装着され、ユーザUの心拍や脳波、血中酸素濃度、発汗等のバイタルデータを測定する。
【0043】
加速度センサ5cは、車両に加わる加速度や車速を測定する。舵角センサ5dは、車両の舵角を測定する。なお、各種センサ5には無論、図4に示す各センサ5a~5d以外のセンサが含まれてよい。
【0044】
記憶部11は、たとえば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)等の半導体メモリ素子等によって実現され、図4の例では、VRコンテンツDB(データベース)11aと、ユーザ情報11bと、推定モデル11cと、抑制処理情報11dとを記憶する。
【0045】
VRコンテンツDB11aは、HMD3へ提供されるVRコンテンツ群が格納されたデータベースである。ユーザ情報11bは、HMD3を利用するユーザに関する情報であって、上述したユーザごとの酔いやすさ等を示す各種のパラメータ等を含む。ユーザ情報11bは、ユーザUの過去のVR酔い状況の推定結果に基づいて適宜更新される。
【0046】
推定モデル11cは、上述した機械学習のアルゴリズムを用いて生成された推定モデルである。推定モデル11cはたとえば、後述する取得部12bによって取得されたユーザUの内外の各種の状況を示すデータが入力されることによって、ユーザUのVR酔い状況を示す値(たとえば、VR酔いの度合いを示すレベル値)を出力する。
【0047】
抑制処理情報11dは、ユーザUのVR酔いの度合いに応じて実行すべきVR酔いの抑制処理が定義付けられた情報である。抑制処理情報11dの具体例については、図6を用いた説明で後述する。
【0048】
制御部12は、コントローラ(controller)であり、たとえば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等によって、記憶部11に記憶されている図示略の各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。また、制御部12は、たとえば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現することができる。
【0049】
制御部12は、提供部12aと、取得部12bと、推定部12cと、抑制処理部12dとを有し、以下に説明する情報処理の機能や作用を実現または実行する。
【0050】
提供部12aは、VRコンテンツDB11aに格納されたVRコンテンツをHMD3に対し提供する。また、提供部12aは、HMD3のセンサ部33によって検知された状況の変化を随時取得し、かかる状況の変化をVRコンテンツに反映させる。
【0051】
取得部12bは、各種センサ5からのセンシングデータを随時取得する。また、取得部12bは、提供部12aから、提供中であるVRコンテンツの種別や映像の状況、音声の状況といったVRコンテンツの使用状況を随時取得する。また、取得部12bは、取得した各種のデータを推定部12cへ出力する。
【0052】
推定部12cは、取得部12bによって取得された各種のデータに基づき、推定モデル11cを用いてユーザUのVR酔い状況を推定する。また、推定部12cは、推定した推定結果を抑制処理部12dへ出力する。
【0053】
抑制処理部12dは、推定部12cの推定結果に応じて、VRコンテンツの音声に関するVR酔いの抑制処理を実行する。
【0054】
ここで、抑制処理部12dが実行する抑制処理の内容について、より具体的に図5および図6を用いて説明する。図5は、抑制処理の処理内容を示す図である。また、図6は、抑制処理情報11dの一例を示す図である。
【0055】
図5に示すように、VRコンテンツの音声に関するVR酔いの抑制処理は、たとえば「音像定位感の低下処理」である。音像定位感の低下処理では、抑制処理部12dはたとえば、無定位音(モノラル音)を混合する。抑制処理部12dは、かかる無定位音を混合する場合、定位音と無定位音との混合割合を、VR酔い状況に応じて調整する。
【0056】
たとえば抑制処理部12dは、VR酔いの度合いが大きいほど、無定位音の混合割合を大きくする。なお、定位音と無定位音との混合割合は、徐々に変更することが効果的である。また、抑制処理部12dは、無定位音としてランダムノイズを混合してもよい。
【0057】
また、音像定位感の低下処理では、抑制処理部12dはたとえば、定位性が映像と無相関の音声を混合する。かかる音声は、たとえばヒーリング音や環境音(風の音や、焚き火の音等)である。抑制処理部12dは、かかる無相関音を混合する場合、定位音と無相関音との混合割合を、VR酔い状況に応じて調整する。
【0058】
たとえば抑制処理部12dは、VR酔いの度合いが大きいほど、無相関音の混合割合を大きくする。
【0059】
また、音像定位感の低下処理では、抑制処理部12dはたとえば、定位音処理を行うが、その移動処理を禁止する。なお、このとき、抑制処理部12dは、2点間の瞬時移動は可とするが、徐々に移動することは禁止とする。
【0060】
また、音像定位感の低下処理では、抑制処理部12dはたとえば、定位移動距離を短縮する。なお、このとき、抑制処理部12dは、定位移動時間については変更しない。
【0061】
また、音像定位感の低下処理では、抑制処理部12dはたとえば、左右の音を逆位相に出力する。これにより、たとえばステレオ効果はモノラルに近くなる。
【0062】
また、音像定位感の低下処理では、抑制処理部12dはたとえば、重低音を強調して合成する。また、音像定位感の低下処理では、抑制処理部12dはたとえば、ヒーリング音や環境音(風の音や、焚き火の音等)を出力する。これは、VRコンテンツの音声と混合しない場合である。
【0063】
また、音像定位感の低下処理では、抑制処理部12dはたとえば、BGM(すなわち、常時混合音)の音声を大きく合成する。抑制処理部12dは、かかるBGMの音声を大きく合成する場合、合成する割合を、VR酔い状況に応じて調整する。
【0064】
また、音像定位感の低下処理では、抑制処理部12dはたとえば、感音源を切り替える。かかる場合、抑制処理部12dは感音源を、たとえばHMD3のスピーカ32から、図示略の骨伝導スピーカやボディソニック等へ切り替える。
【0065】
また、抑制処理部12dは、これまで説明した音像定位感の低下処理を適宜組み合わせてもよい。
【0066】
また、同図に示すように、VRコンテンツの音声に関するVR酔いの抑制処理は、たとえば「音量変化速度の低下処理」である。また、同図に示すように、たとえば「音量変化幅の減縮処理」である。
【0067】
なお、音像定位感は、音源自体に定位感を持たせることと、音源からの音声を加工することにより、発生させる方法があるが、前者は、マルチトラックの各音声信号に対しレベル調整、時間・位相調整等を行って各種混合等を行うことにより定位感を強弱させることができる。また、後者は、音声加工の各パラメータを調整することにより定位感を強弱させることができる。また、一つのVRコンテンツの音源自体が、音像定位感、定位移動距離、音量変化幅等が異なる複数の音源パターンからなるデータ構造を有して予め記録されており、VR酔い状況に応じてこれらの音源パターンを切り替えることによって、VR酔いの抑制効果レベルを切り替えるようにしてもよい。
【0068】
また、図6に示すように、抑制処理情報11dには、VR酔いの度合いに応じて抑制処理部12dが実行すべきVR酔いの抑制処理が定義付けられている。なお、同図に示すように、抑制処理情報11dには、さらにコンテンツ種別が関連付けられてもよい。
【0069】
同図の例では、酔いの度合いは、L1からL3にかけて次第に大きくなることを示している。また、コンテンツ種別は、A~Cにかけて次第に酔いやすくなることを示している。酔いやすい種別とは、たとえばアクション系やホラー系等である。
【0070】
また、同図の例では、音声に関する抑制処理である処理a,b,cは、処理aから処理cにかけて次第に抑制処理の強度が強くなることを示している。かかる図6の例の場合、酔いの度合いがL1であれば、抑制処理部12dは、コンテンツ種別がCの場合にのみ処理aを実行することとなる。
【0071】
また、酔いの度合いがL2であれば、抑制処理部12dは、コンテンツ種別がBの場合には処理aを、コンテンツ種別がCの場合には処理aより強度の強い処理bをそれぞれ実行することとなる。
【0072】
また、酔いの度合いがL3であれば、抑制処理部12dは、コンテンツ種別がAの場合には処理aを、コンテンツ種別がBの場合には処理bを、コンテンツ種別がCの場合には処理a,bより強度の強い処理cをそれぞれ実行することとなる。
【0073】
なお、図6には、映像に関するVR酔いの抑制処理も併せて定義された例を示しているが、これは音声に関するVR酔いの抑制処理と併用できることを示すものである。ちなみに、処理l,m,n,oは、上述した処理a,b,cと同様に、処理lから処理oにかけて次第に抑制処理の強度が強くなることを示している。
【0074】
図4の説明に戻る。抑制処理部12dは、図5および図6を用いて説明した抑制処理を推定部12cの推定結果および抑制処理情報11dに基づいて実行し、かかる実行結果を提供部12aがHMD3へ向けて提供するVRコンテンツに反映させる。
【0075】
次に、実施形態に係る情報処理装置10が実行する処理手順について、図7を用いて説明する。図7は、実施形態に係る情報処理装置10が実行する処理手順を示すフローチャートである。なお、図7に示す処理手順は、提供部12aがHMD3へVRコンテンツを提供している間、随時繰り返される。
【0076】
図7に示すように、まず取得部12bが、ユーザUに関する内外の状況を取得する(ステップS101)。そして、推定部12cが、取得された状況に基づいてユーザUのVR酔い状況を推定する(ステップS102)。
【0077】
そして、抑制処理部12dが、推定された推定結果に応じて音声に関するVR酔いの抑制処理を決定する(ステップS103)。そして、抑制処理部12dは、決定した抑制処理を実行し(ステップS104)、処理を終了する。
【0078】
上述してきたように、実施形態に係る情報処理装置10は、取得部12bと、推定部12cと、抑制処理部12dとを備える。取得部12bは、VRコンテンツ(「仮想空間体験を含むデジタルコンテンツ」の一例に相当)のユーザUに関する内外の状況を取得する。推定部12cは、取得部12bによって取得された状況に基づいて、ユーザUのVR酔い(「酔い」の一例に相当)状況を推定する。抑制処理部12dは、推定部12cによって推定されたユーザUのVR酔い状況に応じて、VRコンテンツの音声に関するVR酔いの抑制処理を実行する。
【0079】
したがって、実施形態に係る情報処理装置10によれば、VRコンテンツによるユーザUのVR酔いを抑止することができる。特に、音声と映像の同期ズレや、音声および映像の変動が大きく脳の処理が追いつかないといった原因により生じうるVR酔いを抑止することができる。
【0080】
また、抑制処理部12dは、上記抑制処理として、VRコンテンツの音声における音像定位感の低下処理を実行する。
【0081】
したがって、実施形態に係る情報処理装置10によれば、映像処理を伴わない音像定位感の低下処理によって、処理負荷を嵩ませることなく、VRコンテンツによるユーザUのVR酔いを抑止することができる。
【0082】
また、抑制処理部12dは、上記抑制処理として、VRコンテンツの音声における音量変化速度の低下処理を実行する。
【0083】
したがって、実施形態に係る情報処理装置10によれば、映像処理を伴わない音量変化速度の低下処理によって、処理負荷を嵩ませることなく、VRコンテンツによるユーザUのVR酔いを抑止することができる。
【0084】
また、抑制処理部12dは、上記抑制処理として、VRコンテンツの音声における音量変化幅の減縮処理を実行する。
【0085】
したがって、実施形態に係る情報処理装置10によれば、映像処理を伴わない音量変化幅の減縮処理によって、処理負荷を嵩ませることなく、VRコンテンツによるユーザUのVR酔いを抑止することができる。
【0086】
また、VRコンテンツの音源データは、少なくとも音像定位感、定位移動距離または音量変化幅が異なる複数の音源パターンを有しており、抑制処理部12dは、上記抑制処理として、上記音源パターンを切り替える切り替え処理を実行する。
【0087】
したがって、実施形態に係る情報処理装置10によれば、予め記録された音源パターンを切り替えることによって、たとえばVR酔いの抑制効果レベルを切り替えることが可能となる。
【0088】
なお、上述した実施形態では、HMD3と情報処理装置10とが分離した構成である場合を例に挙げたが、これに限られるものではなく、HMD3と情報処理装置10とが一体である構成であってもよい。
【0089】
また、上述した実施形態では、ユーザUに対し、情報処理装置10から提供されるVRコンテンツを提示する提示デバイスとしてHMD3を例に挙げたが、提示デバイスはこれに限られるものではなく、上述した骨伝導スピーカを含むものであってもよいし、ボディソニックのように振動を提示する振動提示デバイスを含むものであってもよい。
【0090】
また、提示デバイスは、ウェアラブルコンピュータに限らず、たとえば車両であれば、フロントウィンドウやサイドウィンドウ等をディスプレイで構成し、かかるディスプレイに対し映像出力を行ってもよい。また、音声出力は、車載スピーカに対し行ってもよい。車載スピーカは通常、前後左右を含む多方向に複数個を適宜配置可能であるので、3D再生には好適である。なお、車両でなければ、VRコンテンツの提供空間の壁をディスプレイで構成し、かかる空間に複数個のスピーカを車載スピーカと同様に配置することとなる。
【0091】
また、上述した実施形態では、情報処理装置10がVRコンテンツを提供する例を挙げたが、仮想空間体験を含むデジタルコンテンツであればよく、AR(Augmented Reality)コンテンツやMRコンテンツであってもよい。
【0092】
また、上述した実施形態では、情報処理装置10が車両に搭載される車載装置である例を挙げたが、これに限られるものではなく、仮想空間体験を含むデジタルコンテンツを提供するゲーム機等のコンピュータであってもよい。
【0093】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 情報処理システム
3 HMD
5 各種センサ
10 情報処理装置
11 記憶部
11a VRコンテンツDB
11b ユーザ情報
11c 推定モデル
11d 抑制処理情報
12 制御部
12a 提供部
12b 取得部
12c 推定部
12d 抑制処理部
31 表示部
32 スピーカ
33 センサ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7